IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

特許7472700電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法
<>
  • 特許-電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法 図1
  • 特許-電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法 図2
  • 特許-電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法 図3
  • 特許-電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法 図4
  • 特許-電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法 図5
  • 特許-電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法 図6
  • 特許-電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法 図7
  • 特許-電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法 図8
  • 特許-電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法 図9
  • 特許-電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法 図10
  • 特許-電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法 図11
  • 特許-電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/60 20060101AFI20240416BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20240416BHJP
   C07C 63/333 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H01M4/60
H01G11/30
C07C63/333
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020124129
(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公開番号】P2022020888
(43)【公開日】2022-02-02
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
(72)【発明者】
【氏名】野崎 洋
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-212794(JP,A)
【文献】特開2020-53552(JP,A)
【文献】特開2018-166060(JP,A)
【文献】特開平7-69976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01G 11/00-11/86
C07C 63/333
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスに用いられる電極活物質であって、
複数の芳香環が直接又は炭素鎖を介して接続した構造を有する芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体であり、該層状構造体に対してX線回折測定を行い、数式(1)を用いて算出される302面に対して垂直方向の結晶子サイズD302が25nm以下である、
電極活物質。
【数1】
【請求項2】
前記結晶子サイズD302が20nm以下である、請求項1に記載の電極活物質。
【請求項3】
前記層状構造体に対してX線回折測定を行い、数式(1)を用いて算出される100面に対して垂直方向の結晶子サイズD100が45nm以下である、請求項1又は2に記載の電極活物質。
【請求項4】
前記結晶子サイズD100が40nm以下である、請求項3に記載の電極活物質。
【請求項5】
前記層状構造体に対してX線回折測定を行い、数式(2)を用いて算出される歪みεW-H×1000が1.35以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電極活物質。
【数2】
【請求項6】
前記歪みεW-H×1000が1.6以上である、請求項5に記載の電極活物質。
【請求項7】
前記層状構造体は、化学式(1)の構造を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の電極活物質。
【化1】
【請求項8】
正極と、
請求項1~7のいずれか1項に記載の電極活物質を含む電極合材を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【請求項9】
蓄電デバイスに用いる電極活物質を製造する製造方法であって、
複数の芳香環が直接又は炭素鎖を介して接続した構造を有する芳香族ジカルボン酸を事前乾燥する事前乾燥工程と、
事前乾燥した前記芳香族ジカルボン酸に対してモル比で1.9以上2.1以下のアルカリ金属イオンを加えた溶液を調製する調製工程と、
調整した前記溶液を噴霧乾燥することによって、複数の芳香環が直接又は炭素鎖を介して接続した構造を有する芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を作製する作製工程と、
を含む製造方法。
【請求項10】
前記事前乾燥工程では、100℃以上の減圧下で前記芳香族ジカルボン酸を乾燥する、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスとしては、芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体を負極活物質に用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この層状構造体は、芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属イオンとを溶解した調製溶液を噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥することにより得られたものであり、
充放電特性をより向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-166060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の蓄電デバイスでは、開回路電位を測定すると、熱力学的に分極の大きな高抵抗領域が大きい問題があった。このため、この電極活物質は、分極の小さな低抵抗領域をより増加するなど、などの充放電特性をより向上することが求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、充放電特性をより向上することができる新規な電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、より好適な結晶構造とすることによって、充放電特性をより向上することができる新規な電極活物質を作製することができることを見いだし、本開示を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する電極活物質は、
蓄電デバイスに用いられる電極活物質であって、
複数の芳香環が直接又は炭素鎖を介して接続した構造を有する芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体であり、該層状構造体に対してX線回折測定を行い、数式(1)を用いて算出される302面に対して垂直方向の結晶子サイズD302が25nm以下であるものである。
【0008】
【数1】
【0009】
本明細書で開示する蓄電デバイスは、
正極と、
上述した電極活物質を含む負極と、
正極と負極との間に介在し、キャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0010】
本明細書で開示する電極活物質の製造方法は、
蓄電デバイスに用いる電極活物質を製造する製造方法であって、
複数の芳香環が直接又は炭素鎖を介して接続した構造を有する芳香族ジカルボン酸を事前乾燥する事前乾燥工程と、
事前乾燥した前記芳香族ジカルボン酸に対してモル比で1.9以上2.1以下のアルカリ金属イオンを加えた溶液を調製する調製工程と、
調整した前記溶液を噴霧乾燥することによって、複数の芳香環が直接又は炭素鎖を介して接続した構造を有する芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を作製する作製工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本開示では、充放電特性をより向上することができる新規の電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように考えられる。例えば、所定の結晶面に垂直方向の結晶子サイズ、特に、302面に対して垂直方向の結晶子サイズD302が25nm以下であるものとすると、いわゆるアルカリ金属元素層がより薄い厚さとなり、キャリアであるアルカリ金属イオンの受入性をより向上することができるものと推察される。このため、この電極活物質は、開回路電位の低抵抗容量領域を拡大することができ、充放電特性をより向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】芳香族ジカルボン酸ジリチウムの層状構造体の化合物構造の説明図。
図2】蓄電デバイス20の一例を示す模式図。
図3】実施例1,比較例1,2のSEM写真。
図4】実施例1のXRDパターン。
図5】比較例1のXRDパターン。
図6】比較例2のXRDパターン。
図7】各試料の100面及び302面の回折スペクトル。
図8】実施例1の開回路電位の測定結果。
図9】比較例1の開回路電位の測定結果。
図10】比較例2の開回路電位の測定結果。
図11】結晶子サイズDと低抵抗容量領域の割合の関係図。
図12】Williamson-Hallプロットと歪みεW-Hの関係図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(電極活物質)
本明細書で開示する電極活物質は、蓄電デバイスに用いられる電極活物質である。電極活物質は、キャリアであるアルカリ金属イオンを吸蔵、放出することで電気エネルギーを貯蔵出力する。キャリアであるアルカリ金属イオンとしては、例えば、LiイオンやNaイオン、Kイオンなどのうち1以上が挙げられる。この電極活物質は、有機骨格層と、アルカリ金属元素層とを備える層状構造体である。有機骨格層は、複数の芳香環が直接又は炭素鎖を介して接続した構造を有する芳香族ジカルボン酸アニオンを含む構造を有する。アルカリ金属元素層は、有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成する。この層状構造体において、有機骨格層は、芳香属環が直接接続した構造としてもよいし、芳香族環が所定の炭素鎖を介して接続した構造としてもよい。所定の炭素鎖としては、例えば、炭素数1以上5以下のアルケンやアルキンなどが挙げられる。この有機骨格層は、芳香属環に1又は2以上のカルボキシアニオンが結合した構造を有するものとしてもよい。また、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属は、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができるが、Liが好ましい。なお、非水系電解液に含まれ、充放電により層状構造体に吸蔵・放出される金属イオンは、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素と異なるものとしてもよいし、同じものとしてもよく、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。また、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素は、層状構造体の骨格を形成することから、充放電に伴うイオン移動には関与しないもの、すなわち、充放電時に吸蔵放出されないものと推察される。
【0014】
この層状構造体は、芳香族化合物のπ電子相互作用により層状に形成され、空間群P21/cに帰属される単斜晶型の結晶構造を有するものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。この層状構造体は、次式(1)で示される芳香族環構造により構成される有機骨格層を有することが好ましい。また、この有機骨格層は、式(2)~(4)で示される構造を有することが好ましく、このうち、式(2)で示されるビフェニル構造を有することがより好ましい。この層状構造体では、単極での充放電において低抵抗容量領域と高抵抗容量領域を有する(後述図8~10参照)。また、層状構造体は、異なるジカルボン酸アニオンの酸素4つとアルカリ金属元素とが4配位を形成する式(5)の構造を備えているものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。但し、この式(5)において、Rは2以上の芳香族環構造を有し、芳香族環が複数ある場合は、そのうち2以上が同じであってもよいし、1以上が異なっていてもよい。また、Aはアルカリ金属元素である。なお、Rは上記式(1)や式(2)~(4)の芳香族環構造を含むものとしてもよい。この芳香族環構造は、その構造中に置換基、ヘテロ原子を有してもよい。具体的には、水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、芳香族環の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。エネルギー貯蔵メカニズムにおいては、層状構造体の有機骨格層はレドックス(e-)サイトとして機能する一方、アルカリ金属元素層はキャリアである金属イオンの吸蔵サイト(アルカリ金属イオン吸蔵サイト)として機能するものと考えられる。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
【化3】
【0018】
この電極活物質は、層状構造体に対してX線回折測定を行い、数式(1)を用いて算出される302面に対して垂直方向の結晶子サイズD302が25nm以下であるものである。X線回折測定は、例えば、試料をキャピラリーに充填し、BL5S2粉末X線回折ビームラインにて、光エネルギーE=20keV(λ=0.6195Å)、ビームサイズ0.5mm×0.5mm、露光時間15分、2θ=0°~30°の条件で測定するものとする。この結晶子サイズD302は、より小さいことが好ましく、20nm以下がより好ましく、16nm以下が更に好ましい。この結晶子サイズD302は、作製の困難性を考慮すると10nm以上であるものとしてもよい。
【0019】
【数1】
【0020】
この電極活物質は、層状構造体に対して上述したX線回折測定を行うと、数式(1)で表されるScherrerの式を用いて算出される100面に対して垂直方向の結晶子サイズD100が45nm以下であることが好ましい。この結晶子サイズD302は、より小さいことが好ましく、40nm以下であることがより好ましく、36nm以下であることが更に好ましい。所定の結晶面に垂直な方向の結晶子サイズDがより小さいと、キャリアイオンの受入性をより高めることができ、好ましい。
【0021】
また、電極活物質は、層状構造体に対して上述したX線回折測定を行うと、数式(2)で表されるWilliamson-Hall式を用いて算出される歪みεW-H×1000が1.35以上であることが好ましい。歪みεW-H×1000は、X線回折測定で得られるすべての回折ピークをWilliamson-Hall式に用い、2sinθに対するβcosθ値をプロットし、最小二乗法により求められる傾きから求められる。この歪みεW-H×1000の値は、結晶粒子全体の歪みを反映した値であり、より大きな値では、結晶粒子全体の歪みが大きいことを示す。この歪みεW-H×1000は、1.5以上であることが好ましく、1.6以上であることが更に好ましい。なお、歪みεW-H×1000は、結晶の保持を考慮すると、2.0以下であるものとしてもよい。
【0022】
【数2】
【0023】
(電極活物質の製造方法)
本開示の電極活物質の製造方法は、上述した蓄電デバイス用の電極活物質の製造方法である。この製造方法は、事前乾燥工程と、調製工程と、作製工程とを含むものとしてもよい。なお、作製工程のあと、得られた層状構造体を更に乾燥する事後乾燥工程を含むものとしてもよい。この製造方法では、上述した電極活物質で説明した物質などを用いることができる。
【0024】
事前乾燥工程では、複数の芳香環が直接又は炭素鎖を介して接続した構造を有する、原料としての芳香族ジカルボン酸を事前乾燥する処理を行う。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、式(1)の構造を有するものが挙げられ、式(2)~(4)で示したものが具体例として挙げられる。このうち、式(2)で示す構造を有するビフェニルジカルボン酸が好ましい。事前乾燥は、例えば、減圧下で行うことがより好ましい。減圧条件としては、例えば、マイナス0.1MPa以下が好ましく、マイナス0.09MPa以下がより好ましい。乾燥温度は、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、120℃以上が更に好ましい。この乾燥温度は、芳香族ジカルボン酸の分解温度以下とし、250℃以下としてもよい。乾燥時間は、例えば、6時間以上10時間以下の範囲が好ましい。
【0025】
溶液調製工程では、芳香族ジカルボン酸と、アルカリ金属イオンとを溶解した調製溶液を調製する。この工程では、事前乾燥した芳香族ジカルボン酸に対してモル比で1.9以上2.1以下のアルカリ金属イオンを加えた溶液を調製する。この調製溶液の溶媒は、特に限定されないが、水系溶媒としてもよいし、有機系溶媒としてもよいが、水であることが好ましい。有機溶媒としては、例えばメタノールやエタノールなどのアルコールなどが挙げられる。この工程では、芳香族ジカルボン酸アニオンの全体の濃度が0.1mol/L以上、より好ましくは0.2mol/L以上である調製溶液を調製することが好ましい。また、この工程では、芳香族ジカルボン酸アニオンの濃度が5mol/L以下である調製溶液を調製することが好ましい。このような濃度範囲では、次工程をより行いやすい。この工程では、リチウム、ナトリウム及びカリウムのうち1以上のアルカリ金属イオンを含む調製溶液を調製することが好ましい。この工程では、例えば、芳香族ジカルボン酸アニオンのモル数A(mol)に対するアルカリ金属イオンのモル数B(mol)であるモル比B/Aが1.9以上2.1以下の範囲の調製溶液を得ることが好ましく、B/Aが1.95以上2.05以下の範囲の調製溶液を得ることがより好ましい。このように、アルカリ金属イオンを理論量に近い範囲とすることによって、層状構造体の厚さ方向への結晶成長をより抑制し、蓄電デバイス用電極の開回路電位の低抵抗容量領域の拡大をより図ることができる。
【0026】
作製工程では、上記調製工程で調製した調製溶液を噴霧乾燥して層状構造体を作製する。この工程では、より短時間に層状構造体を析出させることができ、好ましい。噴霧乾燥は、スプレードライヤーにより行うものとしてもよい。噴霧乾燥条件は、例えば、装置の規模や作製する電極活物質の量によって適宜調整すればよい。この工程において、乾燥温度は、例えば、室温以上、例えば、40℃以上に加熱するものとすればよいが、溶媒の沸点以上が好ましく、100℃以上330℃以下の範囲とすることが好ましい。100℃以上では、溶媒を十分に除去することができ、330℃以下では、消費エネルギーをより低減でき好ましい。乾燥温度は、150℃以上がより好ましく、180℃以上がより好ましく、200℃以上としてもよい。
【0027】
事後乾燥工程では、噴霧乾燥した層状構造体を更に乾燥する。この工程では、例えば、上記事前乾燥と同様の条件で行うことができる。この事後乾燥処理は、上記事前乾燥処理と同じ条件としてもよいし、事前乾燥処理と異なる条件としてもよい。このようにして、本開示の電極活物質を製造することができる。
【0028】
(蓄電デバイス)
本明細書で開示する蓄電デバイスは、上述した電極活物質を含む負極と、正極と、正極と負極との間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。この蓄電デバイスは、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムイオン二次電池などとしてもよい。正極は、キャリアイオンを吸蔵放出する正極活物質を含むものとしてもよい。負極は、キャリアであるアルカリ金属イオンを吸蔵放出する上述した電極活物質を含むものとしてもよい。また、イオン伝導媒体は、キャリアイオン(カチオン及びアニオンのいずれか)を伝導するものである。ここでは、負極のキャリアをリチウムイオンとする蓄電デバイスを主として説明する。
【0029】
負極は、上述した電極活物質を含むものである。上述した電極活物質は、その電位がリチウム金属基準で1.0~1.5V程度であるため、負極活物質とすることが好ましい。負極は、上述した電極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。この負極において、上記電極活物質は、できるだけ多く含まれることが好ましく、例えば、負極合材中に60質量%以上95質量%以下の範囲で含まれるものとしてもよい。導電材は、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどを用いることができる。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0030】
正極は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている公知の正極を用いてもよい。正極は、例えば、正極活物質として炭素材料を含むものとしてもよい。炭素材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、正極では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着、脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入、脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0031】
あるいは、正極は、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる正極としてもよい。この場合、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0≦x≦1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)やLi(1-x)NiaCobMnc4(a+b+c=2)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV25などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、正極活物質は、リン酸鉄リチウムなどとしてもよい。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiV23などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。
【0032】
正極は、例えば上述した正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極に用いる導電材、結着材、溶剤、集電体は、例えば、負極で例示したものなどを適宜用いることができる。
【0033】
この蓄電デバイスにおいて、イオン伝導媒体は、例えば、支持塩と有機溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。支持塩としては、例えば、キャリアをリチウムイオンとした場合、公知のリチウム塩を含むものとしてもよい。このリチウム塩としては、例えば、LiPF6,LiBF4、LiClO4,LiAsF6,Li(CF3SO22N,LiN(C25SO22などが挙げられ、このうちLiPF6やLiBF4などが好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルカーボネートとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水系電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質などを用いてもよい。
【0034】
この蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0035】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図2は、蓄電デバイス20の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この蓄電デバイス20は、正極22と負極23との間の空間にイオン伝導媒体27が満たされている。また、この負極23は302面に対して垂直方向の結晶子サイズD302が25nm以下である層状構造体を負極活物質として有する。
【0036】
以上詳述した電極活物質、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法では、充放電特性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように考えられる。例えば、所定の結晶面に垂直方向の結晶子サイズ、特に、302面に対して垂直方向の結晶子サイズD302が25nm以下であるものとすると、いわゆるアルカリ金属元素層がより薄い厚さとなり、キャリアであるアルカリ金属イオンの受入性をより向上することができるものと推察される。このため、この電極活物質は、開回路電位の低抵抗容量領域を拡大することができ、充放電特性をより向上することができる。
【0037】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例
【0038】
以下には、電極活物質を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0039】
(活物質の合成)
[実施例1]
4,4’-ビフェニルジカルボン酸(Bph(COOH)2)を事前乾燥した。事前乾燥は、100gの4,4’-ビフェニルジカルボン酸を秤量し、120℃、マイナス0.09MPa以下の減圧下で6時間行った。この事前乾燥したサンプルを用いて0.20mol/Lの4,4’-ビフェニルジカルボン酸と、0.40mol/Lの水酸化リチウムとをイオン交換水に溶かした水溶液を原料とした。この水溶液は、4,4’-ビフェニルジカルボン酸のモル数A(mol)に対する水酸化リチウムのモル数B(mol)であるモル比B/Aが2.0であった。調製した水溶液を用いてスプレードライヤー(Mini Spray Dryer B-290、日本ビュッヒ製)を用いて噴霧乾燥させ、4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを析出させた。用いたスプレードライヤーのノズル直径は1.4mm、溶液の噴霧量は0.4L/時間、乾燥温度は200℃で行い、4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの層状構造体を合成した。得られた粉末を120℃、8時間、0.09MPa以下の減圧下で減圧乾燥した。得られた粉末を実施例1の電極活物質とした。
【0040】
得られた層状構造体について、走査型電子顕微鏡(日本FEI社製Quanta200FEG)を用い、1000~50000倍の条件で観察したところ、粒径が10μm以下の中空粒子であった。また、内部が露出している粒子を拡大視すると、この負極活物質は、数nmの厚さの層状構造体の剥片の集合を内包して形成される中空球状構造を有していた。また、この負極活物質は、層状構造体の剥片が中心から不規則に外周側へ向かう構造(剥片が外周側から不規則に中心へ向かう構造と同義)を有していた。この中空球状の構造体を解砕した剥片状の層状構造体を用いて電極を作製した。
【0041】
[比較例1]
事前乾燥した0.20mol/Lの4,4’-ビフェニルジカルボン酸と、0.44mol/Lの水酸化リチウムとをイオン交換水に溶かした水溶液を原料とした以外は実施例1と同様の工程を経て得られた粉末を比較例1とした。比較例1では、モル比B/Aが2.2であった。
【0042】
[比較例2]
事前乾燥しない0.20mol/Lの4,4’-ビフェニルジカルボン酸と、0.44mol/Lの水酸化リチウムとをイオン交換水に溶かした水溶液を原料とした以外は比較例1と同様の工程を経て得られた粉末を比較例2とした。比較例1では、モル比B/Aが2.2であった。
【0043】
(4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウム電極の作製)
上記手法で作製した4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを80質量部、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500)を20質量部、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(ダイセル、CMC-1120)を3質量部、ポリエチレンオキシド(PEO,分子量200万)を4質量部、スチレンブタジエン共重合体(JSR、TRD2001)を3質量部の割合で混合し、分散媒として水を適量添加、分散してスラリーとした。このスラリーを10μm厚の銅箔集電体に単位面積当たりの負極活物質が3mg/cm2となるように均一に塗布し、120℃で真空加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、10cm2の面積に打ち抜き、電極を準備した。
【0044】
(X線開設測定:XRD)
上記作製した電極から塗工部分の電極合材を剥ぎ取り、直径0.5mmのキャピラリーに充填し、あいちシンクロトロン光センターBL5S2(粉末回折)ビームラインにて、E=20keV(λ=0.6195Å)、露光時間15分、2θ=0°~30°の条件で測定した。
【0045】
(SEM観察)
上記作製した電極表面のSEM観察を行った。SEM観察は、走査型電子顕微鏡(日本FEI社製Quanta200FEG)を用い、1000~50000倍の条件で観察した。
【0046】
(蓄電デバイスの作製)
エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比で30:40:30の割合となるよう混合した非水溶媒に、六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記作製した電極を作用極とし、対極としてのリチウム金属(厚さ300μm)を上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を介して対向させてセルを組み、二極式評価セルとした。20℃の温度環境下で、10時間放電又は充電に相当する0.5mAで、0.5V(Li基準電位)まで還元したのち、0.5mA、1.5Vまで酸化した。
【0047】
(開回路電位測定)
上記作製した二極式評価セルを用いて、0.5Vから1.5Vの電位範囲において、0.5mAで30分電流を印可した。これは、理論容量に相当する2電子反応に対して、0.1電子に相当する電気容量であった。その後、電位の変化が1時間当たり4.5mV、あるいは100時間となるまで放置を行い、放置後の電位を開回路電位とした。
【0048】
(結果と考察)
実施例1、比較例1、2のモル比B/A、芳香族ジカルボン酸の事前乾燥の有無、Scherrerの式による302面及び100面に垂直方向の結晶子サイズ、Williamson-Hall式による歪みεW-H×1000、低抵抗容量領域の割合(-)を表1にまとめた。また、表1には、非特許文献1(Communs. Chem. 1, 65(2018))の結晶構造から予測した結晶子サイズ及び非特許文献2(Chem. Mater. 2020, 32, 3396-3404)の開放電圧を予測した予測値を付記した。図3は、実施例1,比較例1,2のSEM写真である。図4は、実施例1のXRDパターンである。図5は、比較例1のXRDパターンである。図6は、比較例2のXRDパターンである。図7は、各試料の100面及び302面の回折スペクトルである。図8は、実施例1の開回路電位の測定結果である。図9は、比較例1の開回路電位の測定結果である。図10は、比較例2の開回路電位の測定結果である。図11は、結晶子サイズDと低抵抗容量領域の割合の関係図である。図12は、Williamson-Hallプロットと歪みεW-Hの関係図である。
【0049】
図3に示すように、比較例2では、平板上の粒子の平板面の面積がより大きく、且つ厚さが厚い層状構造体であることがわかった。一方、原料である芳香族ジカルボン酸の事前乾燥を行った比較例1では、平板面の面積がより小さい細かな層状構造体の粒子が得られることがわかった。そして、原料のLiを過剰に入れずに理論値とし、事前乾燥した実施例1では、厚さがより薄い層状構造体の粒子が得られることがわかった。これは、過剰なLiが含まれる場合は、厚さ方向に結晶成長しやすいことと関連するものと予想された。図4~7に示すように、100面の回折ピーク及び302面の回折ピークは、比較例2、1、実施例1の順に小さくなることがわかった。また、この回折ピークの半値幅βとブラッグ角(rad)、波長λ(0.61992Å)、定数K(0.9)などを用い、数式(1)で示されるScherrerの式を用いて、(hkl)面に垂直方向の結晶子サイズを求めた。表1に示すように、この結晶子サイズD302、D100は、比較例2、1、実施例1の順に小さくなることがわかった。
【0050】
また、図8~10、表1に示すように、充放電の際に開回路電位が低抵抗容量を示す領域が、比較例2、1、実施例1の順により拡大されることがわかった。そして、各結晶子サイズに対する開回路電位の関係では、図11に示すように、実施例1、比較例1、2の間には、直線関係が得られ、例えば、結晶子サイズD302では、25nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、16nm以下が更に好ましいと推察された。また、結晶子サイズD100では、45nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましく、36nm以下が更に好ましいと推察された。
【0051】
また、この回折ピークの半値幅βとブラッグ角(rad)、波長λ(0.61992Å)、定数K(0.9)などを用い、数式(2)で示されるWilliamson-Hallの式を用いて、(hkl)面に垂直方向の歪みを考慮したεW-H×1000を求めた。図12、表1に示すように、この歪みεW-H×1000は、1.35以上であることが好ましく、1.6以上であることがより好ましいことがわかった。図1に示すように、(100)面はa軸方向の結晶子を示し、(302)面は充放電時のLiイオン供給面に対応していることから、各結晶子サイズの減少や結晶構造の欠陥が増加すると、Li受入面が増加するため、低抵抗容量領域が増加するものと推察された。本実施例では、芳香族ジカルボン酸を事前乾燥し、リチウム量を当量にして噴霧乾燥するものとしたが、特にこの製造方法に限定されず、結晶子サイズD302や結晶子サイズD100の値が所定値以下であることが重要であり、この結晶子サイズDが所定値以下であれば、低抵抗容量領域をより拡大することができるものと推察された。
【0052】
【表1】
【0053】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本開示は、電池産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
20 蓄電デバイス、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12