(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20240416BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
(21)【出願番号】P 2020125233
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 秀男
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0346974(US,A1)
【文献】特開2010-274636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維及び熱可塑性樹脂を含み、第1面および前記第1面と反対側の第2面を有する板状
をなし、
前記第1面が突出するように折り曲げられた折り曲げ部を有し、
前記折り曲げ部の前記第1面に少なくとも一部が切り欠かれた切欠部が設けられ、
前記切欠部内に熱可塑性樹脂が充填されている基材
の製造方法であって、
前記繊維および前記熱可塑性樹脂を含むマットをプレス型によって熱プレスしてプレボードを成形するプレボード成形工程と、
前記プレボードの所定箇所に断続的な複数の直線状の切り込みを入れるカット工程と、
前記切り込みが断続的な複数の直線状のものから連続した一本の直線状となるよう、前記熱可塑性樹脂が溶融しない温度で、前記プレボードを前記切り込みに沿いかつ前記切り込みが形成された面が突出する形で折り曲げるように成形型の成形面によりプレスして、前記折り曲げ部および前記切り込みが開かれてなる前記切欠部を有する基材本体部を成形する基材本体部成形工程と、
前記切欠部に熱可塑性樹脂を充填する樹脂充填工程と、を順に実行する基材の製造方法。
【請求項2】
前記カット工程において、前記切り込みの深さ寸法を、少なくとも前記基材本体部成形工程において前記切り込みを開いた際に前記切欠部が前記基材の板面を貫通する寸法とする請求項1に記載の基材の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂充填工程において、前記第2面側から熱可塑性樹脂を射出することにより前記切欠部に熱可塑性樹脂を充填する
請求項1または請求項2に記載の基材の製造方法。
【請求項4】
前記第2面に、前記切欠部に充填された樹脂と同一の熱可塑性樹脂からなる成形体を射出成形する成形体成形工程を含み、
前記樹脂充填工程は、前記成形体成形工程と同時に実行される
請求項3に記載の基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、基材および基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材の製造方法として、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1には、樹脂繊維と植物系繊維とを配合したものをマット状に形成した熱成形用繊維板を加熱・冷却してプレボードを作製し、そのプレボードを樹脂が溶ける温度に再加熱した後、コールドプレス成形用上下型によりプレス成形することで、車両の内装用基材を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の基材の製造方法では、プレボード作製時と、基材成形時の2回にわたって加熱処理を行うため、加工費が増大したり、サイクルタイムが長くなり、製造コストが高くなる。また、加熱処理時には、プレボードから特有の臭いが発生したり、プレボード中の揮発性有機化合物が発生して、環境に好ましくないという問題がある。
【0005】
このような問題を解決するためには、加熱処理の回数を減らすことが考えられるが、基材の成形時にプレボードを再加熱する工程を省略した場合、プレボード(基材)が硬く延び難くなるため、折り曲げ部分の外周が裂けて基材に欠損が生じたり、折り曲げ後の形状が保持できないことが懸念される。
【0006】
本明細書に開示される技術は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、加熱処理の回数を減らすことが可能な基材および基材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、繊維及び熱可塑性樹脂を含み、第1面および前記第1面と反対側の第2面を有する板状の基材であって、前記第1面が突出するように折り曲げられた折り曲げ部を有し、前記折り曲げ部の前記第1面に少なくとも一部が切り欠かれた切欠部が設けられ、前記切欠部内に熱可塑性樹脂が充填されている。
【0008】
上記構成によれば、折り曲げ部の切欠部に熱可塑性樹脂が充填されているから、繊維及び熱可塑性樹脂からなるボードを単に折り曲げて形成された基材と比較して、折り曲げ部の剛性が高い。また、上記構成の基材を成形する際、プレボードが成形時(成形直前)に加熱されず、剛性が高い場合でも、折り曲げ部が突出する面である第1面に予め切欠部となる部分を設けておくことにより、プレボードの折り曲げ時に切欠部が所定の位置に形成され、プレボードが所定の位置以外で裂けたり割れたりすることが抑制される。また、切欠部内に熱可塑性樹脂が充填されていることにより、基材の折り曲げ形状が保持されている。すなわち、請求項1の基材によれば、折り曲げ部の剛性が高く、基材成形前の加熱処理を省略することができる。また、加熱処理を省略することにより、基材の成形時に、特有の臭いや、揮発性有機化合物が発生することを抑制することができる。
【0009】
前記折り曲げ部の前記第2面に、当該折り曲げ部に沿って延びるリブが設けられており、前記リブを構成する樹脂と前記切欠部内に充填された樹脂とは、同一の熱可塑性樹脂から構成されていてもよい。
【0010】
上記構成によれば、切欠部内に樹脂を充填する際に、第2面側から射出された溶融樹脂をリブの成形空間から基材(折り曲げ部)を通して切欠部内に流通させることができるから、充填すべき切欠部の外周に射出口の跡が形成されてしまうことがなく、外周を美しく成形することができる。
【0011】
前記第2面に熱可塑性樹脂により成形された成形体が設けられており、前記成形体は、前記切欠部内に充填された樹脂と同一の熱可塑性樹脂から構成されていてもよい。
【0012】
上記構成によれば、第2面に設けられる成形体の射出成形と同時に、切欠部内を充填することができる。
【0013】
前記折り曲げ部の前記第2面において、前記折り曲げ部を挟む一対の面を架け渡して前記折り曲げ部の折り曲げ形状を保持する形状保持部が設けられていてもよい。
【0014】
上記構成によれば、成形時に加熱されない場合でも、第2面に形状保持部を設けることにより、折り曲げ部の剛性がより高くなる。
【0015】
また、本明細書に開示される技術は、上記基材の製造方法であって、前記繊維および前記熱可塑性樹脂を含むマットをプレス型によって熱プレスしてプレボードを成形するプレボード成形工程と、前記プレボードの所定箇所に切り込みを入れるカット工程と、前記熱可塑性樹脂が溶融しない温度で、前記プレボードを前記切り込みに沿いかつ前記切り込みが形成された面が突出する形で折り曲げるように成形型の成形面によりプレスして、前記折り曲げ部および前記切り込みが開かれてなる前記切欠部を有する基材本体部を成形する基材本体部成形工程と、前記切欠部に熱可塑性樹脂を充填する樹脂充填工程と、を順に実行する基材の製造方法である。
【0016】
上記製造方法によれば、基材の成形前に加熱を行わなくても、カット工程において折り曲げ部の外周となる部分に予め切り込みを設けておくことにより、プレボードの折り曲げ時(基材本体部成形工程)において切欠部が所定の位置に形成され、プレボードが所定の位置以外で裂けたり割れたりすることが抑制される。また、形成された切欠部内に熱可塑性樹脂を充填する(樹脂充填工程)ことにより、基材の折り曲げ形状を保持することが可能となる。すなわち、基材成形前の加熱処理を省略することができる。
【0017】
前記樹脂充填工程において、前記第2面側から熱可塑性樹脂を射出することにより前記切欠部に熱可塑性樹脂を充填してもよい。
【0018】
上記製造方法によれば、切欠部の外周に射出口の跡が形成されてしまうことがなく、外周を美しく成形することができる。
【0019】
前記第2面に、前記切欠部に充填された樹脂と同一の熱可塑性樹脂からなる成形体を射出成形する成形体成形工程を含み、前記樹脂充填工程は、前記成形体成形工程と同時に実行されるようにしてもよい。
【0020】
このような製造方法によれば、第2面に設けられる成形体の射出成形と同時に切欠部を充填することができる。
【発明の効果】
【0021】
本明細書に開示される技術によれば、加熱処理の回数を減らすことが可能な基材および基材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態1のドアトリムの一部を表側から視た状態を示す斜視図。
【
図2】ドアトリムの一部を裏側から視た状態を示す斜視図
【
図3】プレボード成形工程を説明するための図であって、繊維マットをプレス型によってプレスしている最中の状態を示す断面図
【
図4】カット工程を説明するための図であって、プレボードに切り込みを入れた状態を示す斜視図
【
図5】成形装置およびプレボードを示す断面図(上型及び下型が型開き状態)
【
図6】トリムボード本体部成形工程を説明するための図であって、
図5に示す状態から成形装置において型閉じを行った状態を示す断面図
【
図8】樹脂部成形工程を説明するための図であって、
図6に示す状態から成形装置において樹脂を射出した後の状態を示す断面図
【
図9】
図8に示す状態から成形装置において上型及び下型が型開きされてドアトリムが完成した状態を示す断面図
【
図10】実施形態2のドアトリムの一部を表側から視た状態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0023】
<実施形態1>
実施形態1を
図1から
図9によって説明する。本実施形態の基材および基材の製造方法は、自動車等のドアトリムを構成するトリムボード11に採用されるものである。なお、各図面の一部にはX軸およびY軸及びZ軸を示しており、各軸方向が各図面で示した方向となるように描かれている。また、上下方向については
図1を基準とし、且つ同図上側を表側とするとともに同図下側を裏側とする。複数の同一部位については、一の部位に符号を付し、他の部位については符号を省略することがある。
【0024】
まず、ドアトリムについて説明する。ドアトリムは、自動車等の車両用ドアを構成するもので、
図2に示すように、略平板状のトリムボード11(基材の一例)を含んで構成され、トリムボード11の一方の面(車室外側の面であって裏面11B、第2面の一例)上には、射出成形によって一体に形成された取付ボス20(成形体の一例)および保持リブ26(形状保持部の一例)が配されている。
【0025】
トリムボード11は、繊維及び熱可塑性樹脂を含むものとされる。トリムボード11に含まれる繊維としては、例えば、ケナフ繊維が用いられるが、繊維の種類はこれに限定されない。トリムボードに用いられる繊維として、木質繊維、熱可塑性樹脂繊維、ガラス繊維や炭素繊維などを用いてもよい。また、トリムボード11において、繊維は、バインダーとしての熱可塑性樹脂により結着されている。トリムボード11に用いられるバインダーとしての熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリエステル系樹脂を例示することができる。
【0026】
本実施形態のトリムボード11は、
図1に示すように、対向する一対の端部(Y方向に延びる端部)が一方側(
図1の下方)に向けてそれぞれクランク状に屈曲され、全体としては平面視矩形の板状をなしている。詳細には、このトリムボード11は、X方向における中央部分が平坦な板状の平坦部12とされており、X方向における平坦部12の両端部が、それぞれ第1屈曲部13(折り曲げ部の一例)により下方に向けて屈曲され、すなわち、表面11A(車室内側の面、第1面の一例)が突出する方向に屈曲され、平坦部12に対して外側に向けて傾斜して延びる傾斜部14とされている。また、X方向における傾斜部14の両端部が、それぞれ第2屈曲部15により外側に向けて屈曲され、平坦部12と平行に延びるフランジ部16とされている。
【0027】
取付ボス20は、
図2に示すように、トリムボード11の裏面11Bから突出する形で、例えば、熱可塑性樹脂であるポリプロピレンによって形成されている。取付ボス20は、円筒状をなす円筒部21を有しており、円筒部21は、例えば、ドアトリムに取り付けられる部品(例えば、ドアポケット、オーナメント、アームレストなど)の取付部として機能するものである。また、取付ボス20は、円筒部21の基端(トリムボード11との接合部分付近)から放射状に延びる複数の補強リブ22を有している。補強リブ22は、トリムボード11に対する円筒部21の接合強度を高くする機能を担っている。
【0028】
また取付ボス20は、円筒部21の基端からそれぞれ反対方向に延びる一対の第1リブ23を有している。一対の第1リブ23はX方向に延びる直線状をなしており、円筒部21とは反対側の端部は、それぞれ、第1屈曲部13まで延びている。一対の第1リブ23は、後述するように、取付ボス20を成形する際に、溶融樹脂を流通するための第1ランナー63内に充填された溶融樹脂が冷却されることで形成されたもの(第1ランナー63の跡)である。
【0029】
上述した第1屈曲部13の裏面11B(角の内側)には、第1屈曲部13の全体にわたってY方向に沿って延びる第2リブ25(リブの一例)が形成されている。この第2リブ25も、後述するように、溶融樹脂を流通するための第2ランナー64内に充填された溶融樹脂が冷却されることで形成されたもの(第2ランナー64の跡)である。第2リブ25は、例えば、熱可塑性樹脂であるポリプロピレンによって形成されている。
【0030】
また、第1屈曲部13の裏面11Bには、複数の保持リブ26(形状保持部の一例)が設けられている。保持リブ26は、第1屈曲部13の延び方向(Y方向)と交差する方向(X-Z方向)に延びる略台形の板面を有しており、平坦部12および傾斜部14の各板面を架け渡すように配設されている。保持リブ26により、トリムボード11(第1屈曲部13)の開き変形が抑制される。保持リブ26の平坦部12からの高さ寸法は、フランジ部16の平坦部12からの高さ位置よりも下方(
図2の上方)に配されるように、すなわち、フランジ部16よりも下方(
図2の上方)に突出する高さ寸法に設定されている。また、保持リブ26の下端かつ外側の端部は、フランジ部16の裏面に及ぶように延びている。なお、上述した第2リブ25は、複数の保持リブ26同士を連結する形で形成されている。
【0031】
さらに本実施形態において、第1屈曲部13の表面11A(角の外側)には、第1屈曲部13の全体にわたってY方向に沿って延びる補填部28が設けられている(
図1参照)。補填部28は、第1屈曲部13の表面11A(角の外側)に形成されたV溝18(切欠部の一例)内に充填された、例えば、熱可塑性樹脂であるポリプロピレンによって形成されている。補填部28およびV溝18については、後に詳しく説明する。
【0032】
続いて、ドアトリムを構成するトリムボード11を製造するための製造装置について説明する。ドアトリムの製造装置は、大別すると、植物性繊維と熱可塑性樹脂とから作製された繊維マット11Fを加熱しつつ押圧するプレス型30,31と、プレス型30,31により製造されたプレボード11Pを製品形状にプレス成形する成形装置40と、を備えて構成される。
【0033】
図3に示す一対のプレス型30,31は、図示しない駆動装置(例えば、電動モータ、エアシリンダ、油圧シリンダなど)によって、互いに型閉じ及び型開きが可能な構成となっている。一対のプレス型30,31(プレス板、熱板)には、例えば、通電によって発熱するヒータなどの発熱手段が内蔵されている。これにより、プレス型30,31は、所定の温度に加熱可能な構成となっており、繊維マット11Fを加熱プレスすることができる。なお、このようなヒータは、プレス型30,31のうちいずれか一方のみに設けられていてもよい。
【0034】
成形装置40は、
図5に示すように、射出装置41と、成形型50(上型51及び下型61)とを備えている。射出装置41は、例えば、スクリュータイプのものとされ、本実施形態では下型61に設けられている。
【0035】
上型51は、図示しない駆動装置(例えば、電動モータ、エアシリンダ、油圧シリンダなど)によって、下型61(固定型)に対して移動が可能な可動型とされる。上型51を下型61に対して接近離間させることで上型51及び下型61の型閉じ及び型開きが可能な構成となっている。
【0036】
下型61は、上型51との対向面である成形面61Aが上型51に向かって突き出す形状をなしている。また、上型51は、下型61との対向面である成形面51Aが、下型61の形状に対応して凹む形状をなしている。上型51は、
図6に示すように、上型51及び下型61が型閉じされた閉状態では、下型61に対して、トリムボード11の板厚に等しい距離だけ離間して対向配置される。つまり、閉状態では上型51と下型61との間にはトリムボード11を成形するためのトリムボード成形空間S1が形成される。これにより、上型51及び下型61でプレボード11Pをプレスすると、プレボード11Pがトリムボード成形空間S1の形状に対応する形に圧縮され、トリムボード11(後述するトリムボード本体部11M)が成形される構成となっている。なお、トリムボード11の板厚、すなわち、閉状態における上型51および下型61の離間距離は、プレボード11Pの板厚よりも小さいものとされる。
【0037】
図5に示すように、下型61の成形面61Aには、外部へ開口する溝状の一対の第1ランナー63および一対の第2ランナー64が形成されている。第1ランナー63はX方向に延びており、第2ランナー64はY方向に延びている。また第2ランナー64は、下型61の成形面61Aにおいて、上述したトリムボード11の第1屈曲部13に対応する位置に延びている。第1ランナー63および第2ランナー64の交差点には、射出装置41からの樹脂が射出される射出口であるゲート65が設けられており、
図6に示す型閉じ状態において、ゲート65を通じて、射出装置41から第1ランナー63および第2ランナー64に対して溶融樹脂が射出可能とされている。すなわち、溶融樹脂はトリムボード11(トリムボード本体部11M)の裏面11B側から供給されるようになっている。
【0038】
また、下型61の成形面61Aには、取付ボス20を成形するための取付ボス成形空間S2(
図5参照)および保持リブ26を成形するための保持リブ成形空間(図示せず)が、外部へ開口するように凹設されている。そして、取付ボス成形空間S2には第1ランナー63が連通され、保持リブ成形空間には第2ランナー64が連通されている。これにより、閉状態において、射出装置41から射出された溶融樹脂は、第1ランナー63および第2ランナー64を通じて、取付ボス成形空間S2および保持リブ成形空間に射出されるようになっている(
図8参照)。
【0039】
次にドアトリムを構成するトリムボード11の製造方法の一例について説明する。本実施形態のトリムボードの製造方法は、プレボード11Pを成形するプレボード成形工程と、プレボード11Pを所定の寸法および形状にカットするとともに所定箇所に切り込み17を入れるカット工程と、カットされたプレボード11Pを加熱しない状態で上型51および下型61によってコールドプレス成形してトリムボード本体部11Mを成形するトリムボード本体部成形工程(基材本体部成形工程の一例)と、第1ランナー63および第2ランナー64内に溶融樹脂を射出することで、トリムボード本体部11Mと接合する形で取付ボス20、保持リブ26、および、補填部28を成形する、樹脂部成形工程(樹脂充填工程および成形体成形工程の一例)と、を備える。
【0040】
<プレボード成形工程>
プレボード成形工程では、
図3に示すように、繊維と熱可塑性樹脂とからなる繊維マット11Fを、一対の平坦なプレス型30,31によって加熱プレスする。これにより、繊維マット11Fが圧縮されると共に、繊維マット11Fに含まれる熱可塑性樹脂が溶融することで互いの接触面において混ざり合う。その後、繊維マット11Fに含まれる熱可塑性樹脂が冷却固化することで、プレボード11Pが成形される。
【0041】
<カット工程>
カット工程では、プレボード11Pを所定の寸法および形状に裁断機によりにカットする。また、成形後の第1屈曲部13に対応する箇所に、断続的に直線状の切り込み17を形成する(
図4参照)。切り込み17は、プレボード11Pの表面11A側から形成するものとする。また、その深さ寸法については、後述する通りの寸法とする。
【0042】
<トリムボード本体部成形工程>
トリムボード本体部成形工程(基材本体部成形工程の一例)では、冷却状態のプレボード11Pを、常温(加熱しない状態)で、上型51および下型61の間に配置する(
図5参照)。この時、プレボード11Pは、切り込み17が上面となる方向で配置する。続いて、
図6に示すように、上型51および下型61を型閉じすることで、プレボード11Pを上型51および下型61の各成形面51A,61Aによってプレス成形する。これにより、プレボード11Pがトリムボード成形空間S1の形状に倣う形状となる。
【0043】
この時、プレボード11Pは複数の切り込み17に沿って屈曲され、第1屈曲部13が形成される。本実施形態において、このプレス成形時にプレボード11Pは加熱されておらず、加熱された場合と比較して硬いため、第1屈曲部13が屈曲される過程において、複数の切り込み17の端部は屈曲方向に沿って裂けて、連続した一本の直線状となる。また、第1屈曲部13(切り込み17)の表面11A(角の外側)が開いて、断面楔形のV溝18(切欠部の一例)が形成される(
図7参照)。なお、このように補填部28を含まない状態のトリムボード11を、トリムボード本体部11Mと称することとする。
【0044】
第1屈曲部13が形成された状態(上型51および下型61が型閉じされた状態)において、V溝18と上型51の成形面51Aとの間には、断面三角形状の空間が形成される。この空間は、補填部28を成形するための補填部成形空間S3とされる。また、V溝18の底部(溝の深さが最も深い部分)は、トリムボード本体部11Mの裏面11Bに隣接しているか、トリムボード本体部11Mの裏面11Bにまで到達している。つまり、上述したカット工程において、切り込み17の深さ寸法を、屈曲時に形成されるV溝18の底部がトリムボード本体部11Mの裏面11Bに隣接するか、あるいは、裏面11Bにまで到達するように、予め設定しておく。あるいは、上述したカット工程において、切り込み17のうち所定の位置に、プレボード11Pを折り曲げる前の状態において裏面11Bまで貫通する貫通孔を設けておいてもよい。
【0045】
なお、この状態において、トリムボード本体部11Mと下型61との間には、取付ボス20を形成するための取付ボス成形空間S2(
図6参照)と、保持リブ26を形成するための保持リブ成形空間(図示せず)とが形成されている。また、取付ボス成形空間S2には第1ランナー63がゲート65から連通し、保持リブ成形空間には第2ランナー64がゲート65から連通した状態とされている。
【0046】
<樹脂部成形工程>
樹脂部成形工程(樹脂充填工程および成形体成形工程の一例)では、
図8に示すように、上型51の成形面51A及び下型61の成形面61Aによってトリムボード本体部11Mがプレスされた状態で、射出装置41によりゲート65から溶融樹脂を第1ランナー63および第2ランナー64内に射出する。第1ランナー63に射出された溶融樹脂は、取付ボス成形空間S2内に射出され、第2ランナー64に射出された溶融樹脂は、保持リブ成形空間内に射出される。これにより、第1ランナー63および取付ボス成形空間S2、第2ランナー64および保持リブ成形空間が、溶融樹脂により充填される。
【0047】
さらに本実施形態においては、第2ランナー64に射出された溶融樹脂は、第2ランナー64内からトリムボード本体部11Mに浸み込み、裏面11Bに隣接しているV溝18の底部から補填部成形空間S3内に流通されて、補填部成形空間S3内に充填される。あるいは、溶融樹脂は、トリムボード本体部11Mの裏面11Bに到達しているV溝18の底部、または、裏面11Bまで貫通した貫通孔から、補填部成形空間S3内に射出され、補填部成形空間S3内に充填される。
【0048】
その後、取付ボス成形空間S2、保持リブ成形空間、補填部成形空間S3、第1ランナー63、および、第2ランナー64内に充填された溶融樹脂が冷却されることで、トリムボード本体部11Mおよび補填部28から構成されたトリムボード11が完成するとともに、トリムボード11に取付ボス20、保持リブ26、第1リブ23、および、第2リブ25が接合されたドアトリムが完成する。ドアトリムに含まれる熱可塑性樹脂が冷却固化された後、上型51及び下型61を開き、ドアトリムを脱型する(
図9参照)。これにより、ドアトリムの製造が完了する。
【0049】
続いて、本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態は、ドアトリムを構成し、繊維及び熱可塑性樹脂を含む板状のトリムボード11であって、表面11Aが突出するように折り曲げられた第1屈曲部13を有し、第1屈曲部13の表面11Aには直線状のV溝18が設けられ、V溝18内は熱可塑性樹脂が充填された補填部28とされている。
【0050】
上記構成によれば、第1屈曲部13に補填部28が設けられている(V溝18が熱可塑性樹脂により充填されている)から、繊維及び熱可塑性樹脂からなるボードを単に折り曲げて形成したトリムボードと比較して、第1屈曲部13の剛性が高い。また、上記構成のトリムボード11を成形する際、プレボード11Pが成形時(成形直前)に加熱されず、硬い場合でも、第1屈曲部13が突出する表面11Aに予めV溝18となる切り込み17を設けておくことにより、プレボード11Pの折り曲げ時にV溝18が所定の位置に形成され、プレボード11Pが所定の位置以外で裂けたり割れたりすることが抑制される。また、V溝18内に補填部28が設けられていることにより、トリムボード11の折り曲げ形状が保持されている。すなわち、本実施形態のトリムボード11によれば、第1屈曲部13の剛性が高く、トリムボード成形前の加熱処理を省略することができる。また、加熱処理を省略することにより、成形時に特有の臭いや、揮発性有機化合物が発生することを抑制することができる。
【0051】
また、第1屈曲部13の裏面11Bには、当該第1屈曲部13に沿って延びる第2リブ25が設けられており、第2リブ25を構成する樹脂と補填部28を構成する樹脂とは、同一の熱可塑性樹脂から構成されている。
【0052】
上記構成によれば、V溝18内に樹脂を充填する際に、トリムボード本体部11Mの裏面11B側から射出された溶融樹脂を第2リブ25の成形空間(第2ランナー64)からトリムボード11(第1屈曲部13)を介してV溝18内に流通させることができる。従って、充填すべきV溝18の外周に射出口の跡が形成されてしまうことがなく、外周を美しく成形することができる。また、第2リブ25により、トリムボードの屈曲形状を安定的に保持することができる。
【0053】
また、トリムボード11の裏面11Bに、射出成形された熱可塑性樹脂からなる取付ボス20が設けられており、取付ボス20は、第2リブ25を構成する樹脂およびV溝18内に設けられた補填部28を構成する樹脂と同一の熱可塑性樹脂から構成されている。
【0054】
上記構成によれば、トリムボード11の裏面11Bに設けられる取付ボス20の射出成形と同時に、第2リブ25を形成するとともに、V溝18内を充填する(補填部28を形成する)ことができる。
【0055】
また、第1屈曲部の裏面11B(角の内側)において、第1屈曲部13を挟む一対の面(平坦部12および傾斜部14)を架け渡して第1屈曲部13の折り曲げ形状を保持する保持リブ26が設けられている。
【0056】
上記構成によれば、トリムボード11(プレボード11P)が成形時に加熱されない場合でも、第1屈曲部13の屈曲形状をより安定的に保持することが可能となる。また、第1屈曲部13の剛性も高くなる。
【0057】
また、本実施形態に開示される技術は、上述したトリムボード11の製造方法であって、繊維および熱可塑性樹脂を含む繊維マット11Fをプレス型30,31によって熱プレスしてプレボード11Pを成形するプレボード成形工程と、プレボード11Pの所定箇所に切り込み17を入れるカット工程と、熱可塑性樹脂が溶融しない温度で、プレボード11Pを切り込み17に沿いかつ切り込み17が形成された表面11Aが突出する形で折り曲げるように成形型50の成形面51A,61Aによりプレスして、第1屈曲部13および切り込み17が開かれてなるV溝18を有するトリムボード本体部11Mを成形するトリムボード本体部成形工程と、V溝18に熱可塑性樹脂を充填する樹脂部成形工程(樹脂充填工程)と、を順に実行するトリムボード11の製造方法である。
【0058】
このような製造方法によれば、トリムボード11の成形前に加熱を行わなくても、カット工程において第1屈曲部13の外周となる部分に予め切り込み17を設けておくことにより、トリムボード11の成形時(折り曲げ時、基材本体部成形工程)においてV溝18が所定の位置に形成され、トリムボード11が所定の位置以外で裂けたり割れたりすることを抑制することができる。また、形成されたV溝18内に熱可塑性樹脂を充填する(樹脂充填工程)ことにより、トリムボード11の折り曲げ形状を保持することが可能となる。すなわち、トリムボード成形前の加熱処理を省略することができる。
【0059】
また、樹脂部成形工程において、トリムボード本体部11Mの裏面11B側から熱可塑性樹脂を射出することにより、V溝18に熱可塑性樹脂を充填する。
【0060】
このような製造方法によれば、V溝18の外周にゲート(射出口)の跡が形成されてしまうことがなく、外周を美しく成形することができる。
【0061】
また、トリムボード11の裏面11Bに、V溝18に充填された樹脂と同一の熱可塑性樹脂からなる取付ボス20が設けられており、樹脂部成形工程において、補填部28と取付ボス20とを同時に成形している。
【0062】
このような製造方法によれば、取付ボス20と補填部28とが同時に成形されるから、製造工程が簡易化される。
【0063】
<実施形態2>
実施形態2を
図10および
図11によって説明する。なお、以下においては実施形態1と異なる構成についてのみ説明するものとし、実施形態1と同様の構成には実施形態1の符号に100を足した符号を用いて詳細な説明は省略する。
【0064】
上記実施形態では、断続的な直線状の切り込み17から、プレボード11Pを折り曲げ後に連続した直線状のV溝18が形成される形態を示したが、本実施形態は、
図10および
図11に示すように、プレボードの折り曲げ後に、トリムボード111の板面を貫通する多数の貫通孔118(切欠部の一例)が形成されるように、プレボードに切り込みを設ける形態である。
【0065】
多数の貫通孔118は、X方向において幅を有して(ずれて)並ぶように設定されている。このような構成により、トリムボード本体部成形工程において、成形型に対するプレボードのX方向の位置ずれを吸収することが可能となる。
【0066】
樹脂部成形工程では、上型の成形面及び下型の成形面によってトリムボード本体部111Mがプレスされた状態で、射出装置によりゲートから溶融樹脂を第1ランナーおよび第2ランナー内に射出する。第2ランナーに射出された溶融樹脂は、トリムボード本体部111Mの裏面111Bまで貫通している貫通孔118から、各貫通孔118内に充填される。
【0067】
このような構成によれば、上記実施形態1と同様の作用効果に加え、成形型に対するプレボードのX方向の位置ずれを吸収することが可能となる。
【0068】
<他の実施形態>
本明細書に開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も技術的範囲に含まれる。
【0069】
(1)上記実施形態1では、補填部28を、トリムボード本体部11Mの裏面11Bから溶融樹脂をV溝18内に流通させて成形する方法を示したが、補填部28は、トリムボード本体部11Mの表面11Aから溶融樹脂をV溝18内に直接射出して成形してもよい。つまり、上型51に樹脂射出用のゲートを設け、補填部成形空間S3内に溶融樹脂を直接射出することにより補填部28を成形してもよい。
【0070】
(2)上記実施形態1では、トリムボード11の裏面11Bに取付ボス20を一体的に射出成形する例を示したが、取付ボス20以外の成形体を一体に設けたり、取付けボス20等の成形体を設けない構成のトリムボードにも本明細書に開示される技術を適用することができる。
【0071】
(3)上記実施形態1では、第1屈曲部13の形状を保持するための保持リブ26を設ける形態を示したが、保持リブ26等の形状保持部は省略することもできる。
【0072】
(4)プレボードに形成する切り込み(切欠部)の形態は上記実施形態に限るものではなく、適宜変更することができる。例えば、上記実施形態1では、切り込み17は断続的な直線状とする例を示したが、切り込みは連続的な直線状とすることもできる。
【符号の説明】
【0073】
11、111:トリムボード(基材)、11A、111A:表面(第1面)、11B、111B:裏面(第2面)、11F:繊維マット(マット)、11P:プレボード、11M、111M:トリムボード本体部(基材本体部)、12,112:平坦部(折り曲げ部を挟む面)、13,113:第1屈曲部(折り曲げ部)、14,114:傾斜部(折り曲げ部を挟む面)、17:切り込み、18:V溝(切欠部)、20:取付ボス(成形体)、23:第1リブ、25,125:第2リブ(リブ)、26:保持リブ(形状保持部)、28,128:補填部、30,31:プレス型、40:成形装置、41:射出装置、50:成形型、51:上型、51A:上型の成形面、61:下型、61A:下型の成形面、63:第1ランナー、64:第2ランナー、118:貫通孔(切欠部)