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特許7472715床版仮受け装置、及び床版仮受け装置を用いた床版取替え工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】床版仮受け装置、及び床版仮受け装置を用いた床版取替え工法
(51)【国際特許分類】
   E01D 24/00 20060101AFI20240416BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20240416BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
E01D24/00
E01D19/12
E01D21/00 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020138419
(22)【出願日】2020-08-19
(65)【公開番号】P2022034635
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 重洋
(72)【発明者】
【氏名】仲田 宇史
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6323776(JP,B2)
【文献】特公平04-013490(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
E01C 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主桁上に設置された既設床版に、横断面を複数に分割する切断線を少なくとも1本以上設け、分割した断面分ごとに、前記既設床版をプレキャストコンクリート造の新設床版に取替える床版取替え工法に用いる床版仮受け装置であって、
前記切断線と交差するように配置されるとともに前記主桁に支持される仮横部材と、
前記切断線を挟んで対をなし、前記仮横部材上に間隔を設けて配置され、切断線が設けられた前記既設床版もしくは前記新設床版を支持する仮受け部材と、
該仮受け部材各々の上面側もしくは下面側に設けられる、上下方向に伸縮自在な高さ調整部材と、を備え、
前記仮横部材は、橋軸方向に間隔を設けて複数配置され、
前記仮受け部材は、橋軸方向の部材長が前記仮横部材の配置間隔に対応したモジュールに形成されていることを特徴とする床版仮受け装置。
【請求項2】
請求項1に記載の床版仮受け装置において、
前記仮横部材が、前記主桁に設けられた垂直補剛材に設置されていることを特徴とする床版仮受け装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の床版仮受け装置を用いて、横断面を分割した複数の断面分ごとに、既存床版をプレキャストコンクリート造の新設床版に取替える、床版取替え工法であって、
前記主桁上に位置する前記既設床版に前記切断線を設け、横断面を複数に分割するとともに、前記既設床版の下面側に前記仮受け部材もしくは前記高さ調整部材の上面を当接させ、
前記既設床版を前記主桁とともに仮支持することを特徴とする床版取替え工法。
【請求項4】
請求項3に記載の床版取替え工法であって、
前記既設床版を分割した断面分ごとに撤去したのち、これに対応する前記新設床版を前記主桁上に配置するとともに、該新設床版の下面側に前記仮受け部材もしくは前記高さ調整部材の上面を当接させ、
前記新設床版を前記主桁とともに仮支持することを特徴とする床版取替え工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路橋の既設床版を新設床版に取り替える更新工事に用いる床版仮受け装置、及び床版仮受け装置を用いた床版取替え工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、上り車線用の橋梁と下り車線用の橋梁とを備える大規模な道路橋において、橋梁の既設床版を新設床版に取替える際には一般に、道路橋の交通規制を行って床版の更新工事を行う。
【0003】
例えば、特許文献1では、上り車線用と下り車線用の道路橋のうち、いずれか一方の道路橋を全面通行止めとする交通規制を夜間に実施して更新工事を行い、翌朝には交通規制を解除して一般車両を通行可能とする。このような手順を工事期間にわたって繰り返し橋梁床版を取り替える、橋梁床版の施工方法が開示されている。
【0004】
上記の方法を採用する場合、いずれか一方の道路橋を全面通行止めとする夜間には、他方の道路橋を対面通行規制とすることが多く、工事期間が長期に及ぶと、対面通行規制を実施する期間も長期にわたる。すると、都市部等の重交通路や長大トンネルに挟まれた山間部等では夜間であっても、周辺地域の交通環境に悪影響を及ぼしかねない。
【0005】
このため、夜間に実施する更新工事を全面通行止めとすることなく実施し、昼間は全面交通解放する方法が望まれている。そのような方法の一つとして、夜間限定半断面床版取替え工法を取り入れる場合が考えられる。
【0006】
夜間限定半断面床版取替え工法は、上り車線用と下り車線用の道路橋のうち、いずれか一方の道路橋における既存床版について横断面を半分に分割する(橋軸方向に切断線を入れて分割する)。そして、夜間に車線規制を行って、分割した半断面分のうちの一方の既設床版上で交通を開放し、他方の半断面分の既存床版を撤去して新設床版に取替える作業を、交互に実施する。
【0007】
これにより、一方の道路橋は、夜間に全面通行止めを行うことなく更新工事を実施し、昼間に全面交通開放することができ、他方の道路橋は、常時全面交通開放した状態とすることができる。このような、夜間限定半断面床版取替え工法は、昼夜を問わず車線規制を行って、横断面を分割した半断面分のうちの一方の既設床版上で交通を開放し、他方の半断面分の既存床版を撤去して新設床版に取替える、半断面床版取替え工法を応用し、昼間の全面交通開放を可能にした工法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-82622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
道路橋の床版は、橋軸方向に延材し、複数が橋軸直交方向に間隔を設けて並列配置される主桁に支持されており、設計時において床版の主桁間は、その構造を連続版(連続部)として取り扱う。しかし、上記の夜間限定半断面床版取替え工法を採用する際、床版の横断面を半分に切断分割すると、床版の横断面中央部における主桁間は、連続版から片持版(片持部)へ構造が変更されることとなり、分割前に支持可能であった一般交通荷重を支持させることができない。
【0010】
このような事象は、夜間限定半断面床版取替え工法に限らず、上述した昼夜を問わず車線規制を行って既存床版を新設床版に取替える半断面床版取替え工法についても同様である。したがって、これらの工法を実施する場合には一般には、既設床版の下面側に、橋軸方向に延材する縦桁を切断線に沿うようにして設置し、この縦桁により分割された既設床版を仮支持する。このとき縦桁は、主桁のねじれを防ぐべく主桁間に設けられた複数の対傾構を利用して設置する場合が多い。
【0011】
ところが、対傾構は橋軸方向に数mの間隔を持って配置されているため、対傾構を利用して設置する縦桁の部材長も、数mに及ぶこととなる。すると、重量も大きくなることから、縦桁を取り扱う際には揚重機器が必須となる。しかし、縦桁を設置しようとする主桁間は、その上面に既設床版が敷設されている状態にあるため狭隘な空間となっており、揚重機器を使用した作業が煩雑となりやすい。
【0012】
また、縦桁に高さ調整機能を設けることも困難であり、既設床版の下面高さが一様でない場合には、縦桁を用いて精度よく既設床版を支持できない事態が生じやすい。さらに、、半断面分の既設床版を撤去して新設床版を配置したのちには、この新設床版も縦桁で仮支持する必要がある。しかし、既設床版と新設床版とでは部材厚が異なる場合が多く、新設床版を仮支持する際の高さ調整も煩雑な作業となっていた。
【0013】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、道路橋に設けられた既設床版を新設床版に取り替える更新工事の効率化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するため、本発明の床版仮受け装置は、主桁上に設置された既設床版に、横断面を複数に分割する切断線を少なくとも1本以上設け、分割した断面分ごとに、前記既設床版をプレキャストコンクリート造の新設床版に取替える床版取替え工法に用いる床版仮受け装置であって、前記切断線と交差するように配置されるとともに前記主桁に支持される仮横部材と、前記切断線を挟んで対をなし、前記仮横部材上に間隔を設けて配置され、切断線が設けられた前記既設床版もしくは前記新設床版を支持する仮受け部材と、該仮受け部材各々の上面側もしくは下面側に設けられる、上下方向に伸縮自在な高さ調整部材と、を備え、前記仮横部材は、橋軸方向に間隔を設けて複数配置され、前記仮受け部材は、橋軸方向の部材長が前記仮横部材の配置間隔に対応したモジュールに形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の床版仮受け装置によれば、仮受け部材が、橋軸方向の部材長を主桁に支持された仮横部材の配置間隔に対応したモジュールに形成される。これにより、仮横部材の配置間隔を適宜調整することで、従来のような対傾構を利用して主桁に設けた縦桁を採用する場合と比較して、部材長を大幅に短小化することができる。このため、仮受け部材に小断面の鋼材を採用すれば、これを人力で搬入することもでき、既設床版と主桁に囲まれた狭隘で揚重機器の使用が困難な空間であっても、仮受け部材の設置作業を効率よく実施することが可能となる。
【0016】
また、仮受け部材の上面側もしくは下面側に高さ調整部材が設けられる。これにより、既設床版の部材厚が不揃いであったり、既設床版と新設床版の部材厚が異なっていても、これらの下面に仮受け部材もしくは高さ調整部材の上面が当接するよう、その高さ位置を高さ調整部材を利用して容易に変更できる。これにより、安定して既設床版もしくは新設床版を支持することが可能となる。
【0017】
このように、床版仮受け装置を用いることで、既設床版を新設床版に取り替える更新工事全体の作業効率を向上することが可能となる。
【0018】
本発明の床版仮受け装置は、前記仮横部材が、前記主桁に設けられた垂直補剛材に設置されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の床版仮受け装置によれば、主桁にあらかじめ設けられている垂直補剛材を利用することで、主桁に設置する際に必要となる部材点数を低減できるとともに構成も簡略となるため、主桁に囲まれた狭隘な空間で作業性良く、床版仮受け装置の設置作業を実施することが可能となる。
【0020】
本発明の床版取替え工法は、本発明の床版仮受け装置を用いて、横断面を分割した複数の断面分ごとに、既存床版をプレキャストコンクリート造の新設床版に取替える、床版取替え工法であって、前記主桁上に位置する前記既設床版に前記切断線を設け、横断面を複数に分割するとともに、前記既設床版の下面側に前記仮受け部材もしくは前記高さ調整部材の上面を当接させ、前記既設床版を前記主桁とともに仮支持することを特徴とする。
【0021】
本発明の床版取替え工法によれば、既設床版を新設床版に取り替える床版の更新工事中において、切断線が設けられて横断面を複数に分割された状態の既設床版を、簡略な手順で容易かつ確実に支持することができ、更新工事の施工性を大幅に向上することが可能となる。
【0022】
また、本発明の床版取替え工法は、前記既設床版を分割した断面分ごとに撤去したのち、これに対応する前記新設床版を前記主桁上に配置するとともに、該新設床版の下面側に前記仮受け部材もしくは前記高さ調整部材の上面を当接させ、前記新設床版を前記主桁とともに仮支持することを特徴とする。
【0023】
本発明の床版取替え工法によれば、既設床版と新設床版の部材厚が異なる場合にも、高さ調整部材を伸縮させてその高さを適宜調整することにより、既設床版を撤去したのちに主桁に据え付けた新設床版を簡略な作業で支持することができ、更新工事の施工性をより向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、既設床版と主桁に囲まれた狭隘で揚重機器の使用が困難な空間であっても、仮受け部材を効率よく設けることができるとともに、これを利用して横断面を複数に分割された既設床版もしくは新設床版を容易に仮支持でき、既設床版を新設床版に取り替える更新工事の効率化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態における道路橋の概要を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における半断面床版取替え工法の手順を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における主桁に設けた床版仮受け装置を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における主桁の一般部における床版仮受け装置を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における主桁の一般部における床版仮受け装置の詳細を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における主桁の中間対傾構における床版仮受け装置を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における主桁の中間対傾構における床版仮受け装置の詳細を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における主桁の端部対傾構における床版仮受け装置を示す図である。
図9】本発明の実施の形態における主桁の端部対傾構における床版仮受け装置の詳細を示す図である。
図10】本発明の実施の形態における主桁に設けた床版仮受け装置の他の事例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、道路橋の床版取替え工法のなかでも、半断面床版取替え工法や夜間限定半断面床版取替え工法のような、主桁上に設置された既設床版の横断面を複数に分割し、分割した断面分ごとに既存床版を新設床版に取替える工法を採用した床版の更新工事に適したものであり、分割した既設床版及び新設床版を仮支持するものである。
【0027】
以下に、床版仮受け装置、及び床版仮受け装置を用いた床版取替え工法の詳細を、既設床版の横断面を半分に分割し、判断面分ごとに新設床版に取り替える半断面床版取替え工法を適用する場合を事例に挙げ、説明する。これに先立ち、まず、半断面床版取替え工法について、その概略を図1図2を参照しつつ説明する。
【0028】
≪≪床版取替え工法≫≫
道路橋の半断面床版取替え工法は、例えば、図1で示すような、上り2車線用の橋梁B1と下り2車線用の橋梁B2を備える道路橋Bにおいて、橋梁B2を全面交通開放したまま、橋梁B1を車線規制する。そして、橋梁B1の走行車線側と追い越し車線側の、いずれか一方の半断面分の既設床版1を新設床版に取替えたのち、他方側の半断面分の既設床版1も同様に新設床版に取替える方法である。
【0029】
具体的には、図2(a)で示すように、走行車線側と追い越し車線側の間に切断線Lを設け、走行車線側の半断面分の既設床版1を、プレキャストコンクリート造の新設床版3に取替える。次に、図2(b)で示すように、追い越し車線側の半断面分の既設床版1を、新設床版3に取替える。
【0030】
こののち、追い越し車線側の新設床版3と走行車線側の新設床版3との間に形成された縦目地部Jに対して、図2(c)で示すように、本設の間詰処理4を行うとともに本舗装8を行って、両者を接合し一体化する。
【0031】
このような手順による半断面床版取替え工法は、車線規制を行うことで、図2(a)で示すように、走行車線側で更新工事を実施している場合には、追い越し車線側で車両を通行させることができる。また、図2(b)で示すように、追い越し車線側で更新工事を実施している場合には、走行車線側で車両を通行させることができる。
【0032】
しかし、既設床版1に橋軸方向の切断線Lが形成されたのち、追い越し車線側及び走行車線側の各々に据え付けられた新設床版3の間に形成された縦目地部Jに、図2(c)で示すような本設の間詰処理4及び本舗装8が施工されるまでの期間中は、主桁2上に既設床版1及び新設床版3のいずれが配置されている場合にあっても、横断面中央部における主桁2間の構造が、片持版となっている。
【0033】
このため、車線規制を行って、走行車線側及び追い越し車線側のいずれか一方で更新工事を実施し、他方で交通開放をしようとしても、横断面が分割された状態の既設床版1及び新設床版3では、既設床版1に切断線Lを設ける前に支持可能であった一般交通荷重を支持させることができない。
【0034】
そこで、本実施の形態では、図2(a)で示すような、横断面中央部における主桁2間において構造上、片持版となっている既設床版1及び新設床版3を支持することの可能な床版仮受け装置100を主桁2に設置し、更新工事の期間中に車両の通行が可能な構造を確保する。以下に、床版仮受け装置100について、その詳細を図3図10を参照しつつ説明する。
【0035】
なお、本実施の形態では、上り2車線用の橋梁B1において、図3で示すような、既設床版1の走行車線と追い越し車線の間の所定位置に、橋軸方向に延在する切断線Lを設けた状態において、床版仮受け装置100で既設床版1を支持する場合を事例に挙げる。
【0036】
≪≪床版仮受け装置≫≫
床版仮受け装置100は、図3で示すように、主桁2に囲まれた空間であって既設床版1に設けた切断線Lの下方位置に設けられるものであり、一般部仮横部材110と、仮受け部材130と、高さ調整部材120と、中間対傾構仮横部材140と、端部対傾構仮横部材150と、を備えている。
【0037】
一般部仮横部材110、中間対傾構仮横部材140及び端部対傾構仮横部材150はいずれも、既設床版1の切断線Lに直交もしくは交差する方向に延在するように配置される弦材である。そして、これらの両端部はそれぞれ、隣り合う主桁2の垂直補剛材24に接合される。以下に、一般部仮横部材110、中間対傾構仮横部材140及び端部対傾構仮横部材150各々の詳細とともに、仮受け部材130及び高さ調整部材120について説明する。
【0038】
なお、主桁2はI形鋼によりなり、図4で示すように、ウェブ21を起立させるとともに上フランジ22及び下フランジ23を略水平とする姿勢で橋軸方向に延材するように配置され、複数が橋軸直交方向に間隔を設けて並列に配置されている。また、垂直補剛材24は、主桁2の、上フランジ22と下フランジ23とウェブ21とに接するとともに、ウェブ21と直交する起立姿勢で固定された鋼板よりなる。
【0039】
≪一般部仮横部材≫
一般部仮横部材110は、図3及び図4で示すように、主桁2に囲まれた空間において端部対傾構E及び中間対傾構Aのいずれも形成されていない、主桁2の一般部に位置する垂直補剛材24に設置されている。その形状は、図5(a)で示すように、一対の仮横部材本体110aとフィラープレート110bとにより構成されている。
【0040】
仮横部材本体110aは溝形鋼よりなり、図5(a)で示すように、ウェブ111を起立させるとともに上フランジ112及び下フランジ113を略水平とする姿勢で、一対が、ウェブ111を背中合わせにして配置されている。
【0041】
フィラープレート110bは、主桁2に設けられている垂直補剛材24の部材厚と同様の厚さに形成され、背中合わせに配置された一対の仮横部材本体110aの間に介装されている。これら一対の仮横部材本体110aとフィラープレート110bが、ボルト等の締結手段160により接合されることで、一般部仮横部材110が形成されている。
【0042】
ここで、フィラープレート110bは、図4で示すように、一般部仮横部材110の長手方向中間部にのみ配置されている。これにより、一般部仮横部材110において、背中合わせに接合された一対の仮横部材本体110aの間には、その両端部に垂直補剛材24の部材厚と同様の幅を有する隙間が形成される。
【0043】
したがって、一般部仮横部材110を主桁2の垂直補剛材24に設置する際には、図4及び図5(b)で示すように、一対の仮横部材本体110aの隙間に垂直補剛材24を挿入しこれを挟むようにして、一対の仮横部材本体110aを垂直補剛材24にボルト等の締結手段160を用いて締結することができる。
【0044】
こうして主桁2に設置された一般部仮横部材110の上面、具体的には、一対の仮横部材本体110a各々の上フランジ112に跨るようにして、図4及び図5(a)で示すような高さ調整部材120が対をなして設置されている。
【0045】
≪高さ調整部材≫
高さ調整部材120は、図4で示すように、既設床版1に設けた切断線Lを挟んだ両側に対をなして配置されている。これらは、上下方向に伸縮自在な装置であればいずれを採用してもよいが、本実施の形態では、ネジ式ジャッキを採用している。これら高さ調整部材120は、一般部仮横部材110だけでなく、中間対傾構仮横部材140及び端部対傾構仮横部材150の上面にも同様の態様で設置される。
【0046】
しかし、図3で示すように、中間対傾構仮横部材140は中間対傾構Aと干渉する位置に、また端部対傾構仮横部材150は端部対傾構Eと干渉する位置に設けられる。このため、各々の形状は一般部仮横部材110と異なっている。以下に、中間対傾構仮横部材140及び端部対傾構仮横部材150について説明する。
【0047】
≪中間対傾構仮横部材≫
中間対傾構仮横部材140は、図3及び図6で示すように、主桁2に囲まれた空間において中間対傾構Aが形成されている位置の垂直補剛材24に設置されるものであり、図7(a)(b)で示すように、一対の仮横部材本体110aにより構成されている。
【0048】
一対の仮横部材本体110aのうち一方は、図6で示すような長方体形状に形成されるが、他方は、図7(b)で示すように、中間対傾構Aを構成する斜材Adで挟まれた空間に収まるよう、その形状を台形形状に形成されている。これら一対の仮横部材本体110aは、一般部仮横部材110の場合と異なり、両者が直接接するようにしてウェブ111を背中合わせにして配置され、ボルト等の締結手段160により接合されて、中間対傾構仮横部材140を構成する。
【0049】
このような形状の中間対傾構仮横部材140は、中間対傾構Aが形成されている垂直補剛材24に設置する際、台形形状に成形された他方の仮横部材本体110aを中間対傾構Aを構成する一対の斜材Adの間に嵌め込むようにして配置する。そのうえで、図6で示すように、長方形状に成形された一方の仮横部材本体110aの両端部を垂直補剛材24にボルト等の締結手段160を用いて締結する。
【0050】
これにより、中間対傾構Aに位置する垂直補剛材24であっても、斜材Adに干渉することなく、中間対傾構仮横部材140を設置することができる。こうして主桁2に設置された中間対傾構仮横部材140の上面、つまり、一対の仮横部材本体110a各々の上フランジ112に跨って、前述した高さ調整部材120が対をなして設置されている。
【0051】
なお、中間対傾構仮横部材140では、図7(a)で示すように、一対の仮横部材本体110a各々における、ウェブ111と上フランジ112と下フランジ113とにより囲まれた領域であって高さ調整部材120の配置位置に、補強リブ114を設けておくとよい。
【0052】
また、本実施の形態では図6で示すように、高さ調整部材120を中間対傾構仮横部材140の上面に設けた際、その直上に位置する中間対傾構Aの上弦材Auを切断している。しかし必ずしもこれに限定されるものではなく、上弦材Auを残存させてもよい。
【0053】
≪端部対傾構仮横部材≫
端部対傾構仮横部材150は、図3及び図8で示すように、主桁2に囲まれた空間において端部対傾構Eが形成されている位置の垂直補剛材24に設置されるものであり、図9(a)(b)で示すように、仮横部材本体110a、と張出し支持板110cとにより構成されている。
【0054】
張出し支持板110cは、図9(a)で示すように、仮横部材本体110aの上フランジ112に対して延長面を形成するように設けられる板材であり、本実施の形態では帯状に形成された鋼板を採用している。これら張出し支持板110cは、仮横部材本体110aの上フランジ112に溶接等により固着されるが、その固着位置は、上フランジ112と同一平面を形成する高さであって、高さ調整部材120を配置する予定の範囲を含む平面位置に設けられる。
【0055】
そして、張出し支持板110cの下面には、図9(b)で示すように、仮横部材本体110aのウェブ111と上フランジ112と下フランジ113とにより囲まれた領域に連続する補強リブ114が溶接等により固着される。これにより、端部対傾構仮横部材150が形成される。
【0056】
このような形状の端部対傾構仮横部材150は、図8で示すように、端部対傾構Eが形成されている位置の垂直補剛材24に設置する際、仮横部材本体110aのウェブ111を端部対傾構Eを構成する斜材Edに当接させて、仮横部材本体110aの両端部を垂直補剛材24にボルト等の締結手段160を用いて締結する。
【0057】
これにより、端部対傾構Eが形成されている位置に、端部対傾構仮横部材150を設置することができる。こうして主桁2に設けられた端部対傾構仮横部材150の上面、つまり、仮横部材本体110aの上フランジ112と張出し支持板110cとに跨って、上述した高さ調整部材120が対をなして設置されている。
【0058】
このように、端部対傾構仮横部材150に張出し支持板110cを設けることで、図9(b)で示すように、端部対傾構Eを構成する上弦材Euに干渉することなく、高さ調整部材120を配置することができる。
【0059】
上記のように、垂直補剛材24が主桁2のいずれの位置に配置されていても、一般部仮横部材110、中間対傾構仮横部材140及び端部対傾構仮横部材150のいずれかを設置できる。そして、主桁2で囲まれた空間には、これらの上面に設置された複数の高さ調整部材120が、垂直補剛材24の配置間隔で、既設床版1に設けた切断線Lに沿って列をなす態様で配置される。
【0060】
また、このような複数の高さ調整部材120により形成される列は、切断線Lを挟んで2列形成されることとなる。そして、このように列をなす複数の高さ調整部材120に、図3で示すような仮受け部材130が、橋軸方向に延材するようにして複数配置されている。
【0061】
≪仮受け部材≫
仮受け部材130は、図5(a)で示すようなH形鋼により構成され、ウェブ131を起立させるとともに上フランジ132及び下フランジ133を略水平とし、上フランジ132を既設床版1の下面に対向させる姿勢で、図3で示すように、橋軸方向に隣り合う高さ調整部材120をかけ渡すように設置されている。
【0062】
その部材長は、高さ調整部材120における橋軸方向の配置間隔(つまり、一般部仮横部材110、中間対傾構仮横部材140及び端部対傾構仮横部材150の配置間隔)に対応したモジュールに形成されている。そして、本実施の形態では、これらの間隔を垂直補剛材24の配置間隔としていることから、隣り合う垂直補剛材24の距離が、仮受け部材130の部材長となっている。
【0063】
これにより、仮受け部材130は、短小な部材とすることができるため、小断面のH形鋼(例えば、H300×150程度)を採用すれば、人力で搬入することの可能なコンパクトな部材とすることができる。したがって、作業領域が、既設床版1と主桁2に囲まれた狭隘で揚重機器の使用が困難な空間であっても、効率よく仮受け部材130の設置作業を実施することが可能となる。
【0064】
このような構成の仮受け部材130は、例えばクランプ等の固定金具(図示せず)を利用して、高さ調整部材120に対して着脱自在に設置されている。その際の配置態様は、図5(a)及び図7(a)で示すように、高さ調整部材120が一般部仮横部材110もしくは中間対傾構仮横部材140に設置されている場合には、高さ調整部材120上で、隣り合う仮受け部材130の端面を当接させて、もしくは間隔を設けて対向させるようにして、複数の仮受け部材130を配置している。
【0065】
一方、図8で示すように、高さ調整部材120が端部対傾構仮横部材150に設置されている場合には、その上方に端部対傾構Eの上弦材Euが残存している。したがって、この場合には、図9(a)で示すように、仮受け部材130の端部を上弦材Euに対向させるようにして配置している。
【0066】
これにより、図3で示すように、主桁2で囲まれた空間には、橋軸方向に延材する複数の仮受け部材130よりなる列が、切断線Lを挟んで2列形成される。したがって、切断線Lにより半分に分割された状態の既設床版1における、走行車線側の半断面分1aを複数の仮受け部材130よりなる列の一方と主桁2により、仮支持することができる。同様に、追い越し車線側の半断面分1bも、複数の仮受け部材130よりなる列の他方と主桁2により、仮支持することができる。
【0067】
また、一般部仮横部材110、中間対傾構仮横部材140及び端部対傾構仮横部材150が、主桁2にあらかじめ設けられている垂直補剛材24を利用して設置可能な構成を有することで、これらを主桁2に設置するための部材点数を低減できるとともに、簡略な構成とすることができる。したがって、主桁2に囲まれた狭隘な空間で、作業性良く設置作業を実施することが可能となる。
【0068】
≪仮受け装置を用いた床版取替え工法≫
上述する床版仮受け装置100を利用して、図2(a)~(c)で示したような半断面床版取替え工法により橋梁B1の既設床版1を新設床版3に取り替える更新工事を実施する際には、例えば、以下の手順で実施すると良い。
【0069】
まず、橋梁B1に切断線を設ける前の時点で、図3で示すように、主桁2に上述した床版仮受け装置100を設置するとともに、高さ調整部材120を利用して、仮受け部材130の上面を既設床版1の下面に当接させる。その後、橋梁B1に切断線Lを設けるが、このとき、切断線Lを設ける範囲を全面通行止めとしておく。
【0070】
この状態で、車線規制を行って追い越し車線側を供用させつつ、既設床版1の走行車線側の半断面分1aを新設床版3に取替える。このとき、新設床版3の部材厚が既設床版より薄い場合には、高さ調整部材120を利用して仮受け部材130の上面高さを調整し、新設床版3の下面に当接させる。こののち、同様の手順で、既設床版1の追い越し車線側の半断面分1bを、新設床版3に取替える。
【0071】
このように、床版仮受け装置100を利用すると、既設床版1を新設床版3に取り替える床版の更新工事中において、切断線Lが設けられて横断面を半分に分割された状態の既設床版1を、簡略な手順で容易かつ確実に支持することができ、更新工事の施工性を大幅に向上することが可能となる。
【0072】
さらに、床版仮受け装置100が高さ調整部材120を備えるため、既設床版1の部材厚が不ぞろいであったり、既設床版1の半断面分を撤去して新設床版3を配置した際、両者の部材厚が異なっていても、これらを主桁2とともに安定して支持することが可能となる。なお、高さ調整部材120は、油圧ジャッキや高さ調整用板材等を適用してもよい。
【0073】
そして、横断面中央部における主桁2間において構造上、片持版となっている既設床版1及び新設床版3が、床版仮受け装置100と主桁2により仮支持された状態にある。したがって、更新工事期間中であっても、既設床版1に切断線Lを設ける前に支持可能であった一般交通荷重を支持させることができる。
【0074】
本発明の床版仮受け装置100は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0075】
例えば、本実施の形態では仮受け部材130の部材長を、一般部仮横部材110、中間対傾構仮横部材140及び端部対傾構仮横部材150を設けた垂直補剛材24の離間距離に対応させたが、これに限定するものではない。一般部仮横部材110、中間対傾構仮横部材140及び端部対傾構仮横部材150を設けた配置間隔に対応したモジュール、つまり、配置間隔の2倍や3倍等の部材長に設定してもよい。
【0076】
また、本実施の形態では、床版仮受け装置100を垂直補剛材24に設置したが、主桁2に支持させることの可能な態様であれば、例えば主桁2の下フランジ23を利用して設置する等いずれに設置してもよい。
【0077】
さらに、本実施の形態では、高さ調整部材120を仮受け部材130の下面側に配置したが、その配置位置は、これに限定されるものではなく、図10で示すように、仮受け部材130の上面側、つまり仮受け部材130と既設床版1との間に介装してもよい。なお、図10では、既設床版1を支持する場合を例示したが、新設床版3を仮支持する場合も同様である。
【0078】
こうすると、高さ調整部材120は、仮受け部材130の上面であればいずれの位置にも配置でき、その配置位置は、一般部仮横部材110、中間対傾構仮横部材140及び端部対傾構仮横部材150の直上に限定されることがない。したがって、既設床版1もしくは新設床版3の下面形状や施工状況等に応じて、高さ調整部材120を好適な位置に配置することが可能となる。
【0079】
また、本実施の形態では、既設床版1の横断面を半分に分割し、判断面分ごとに新設床版3に取り替える場合を事例に挙げたが、これに限定するものではない。既設床版1の横断面を3分割や4分割して新設床版3に取り替える場合も、適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 既設床版
1a 走行車線側の半断面分
1b 追い越し車線側の半断面分
2 主桁
21 ウェブ
22 上フランジ
23 下フランジ
24 垂直補剛材
3 新設床版
4 本設の間詰処理
5 本舗装
100 床版仮受け装置
110 一般部仮横部材
110a 仮横部材本体
111 ウェブ
112 上フランジ
113 下フランジ
110b フィラープレート
110c 張り出し支持板
120 高さ調整部材
130 仮受け部材
131 ウェブ
132 上フランジ
133 下フランジ
140 中間対傾構仮横部材
150 端部対傾構仮横部材
160 締結手段
A 中間対傾構
Au 上弦材
Ad 斜材
E 端部対傾構
Eu 上弦材
Ed 斜材
B 道路橋
B1 上り2車線用の橋梁
B2 下り2車線用の橋梁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10