(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】液体タンク、液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20240416BHJP
B41J 2/19 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B41J2/175 141
B41J2/19
B41J2/175 119
B41J2/175 171
(21)【出願番号】P 2020139956
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】工藤 聖真
(72)【発明者】
【氏名】平澤 雄輔
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-181712(JP,A)
【文献】特開2018-202655(JP,A)
【文献】特開2013-111967(JP,A)
【文献】米国特許第06394592(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第1814449(CN,A)
【文献】特開平11-320902(JP,A)
【文献】特開2009-226687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置に装着可能な液体タンクであって、
前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給部と、
前記液体供給部に供給する前記液体を収容可能な液体室と、
前記液体室と前記液体供給部とを接続し、前記液体室に収容された前記液体を前記液体
供給部に供給可能な液体連通流路であって、前記液体タンクが前記液体噴射装置に装着さ
れた装着状態において、上方に凸形状の流路を形成する液体連通流路と、
前記液体室と前記液体供給部とを接続し、前記液体室と前記液体供給部との間で空気を
流通可能な空気連通流路であって、前記装着状態において前記液体連通流路と前記液体室
との接続位置よりも高い位置で前記液体室に接続された空気連通流路と、を備え、
前記液体連通流路は、前記液体室から前記液体噴射ヘッドに向かう前記液体の流れ方向
において、
前記液体室に接続された上流端部と、
前記上流端部よりも下流側に位置し、前記装着状態において上方に延びる上昇流路と
、
前記上昇流路よりも下流側に位置し、前記装着状態において下方に延びる下降流路と
、
前記下降流路よりも下流側に位置し、前記液体供給部及び前記空気連通流路に接続さ
れた下流端部と、を有し、
前記液体連通流路の途中に、前記液体連通流路の断面積が小さくなる細部が形成され
、
前記細部は、前記下流端部よりも上流側に設けられるとともに、前記上流端部から前記
上昇流路の上方端に向かって徐々に前記断面積が小さくなり、前記下流端部から前記下降
流路の上方端に向かって徐々に前記断面積が小さくなる、液体タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体タンク及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給部と、液体供給部に供給する液体を収容する第1液体室と、第1液体室と液体供給部とを接続し、第1液体室の液体を液体供給部に供給可能な液体連通流路と、第1液体室と液体供給部とを接続し、第1液体室と液体供給部との間で空気を流通可能な空気連通流路と、を備えた液体タンクが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記液体タンクは、液体噴射装置の一例のプリンターが備えるメンテナンスユニットのポンプの駆動により、第1液体室から液体連通流路及び液体供給部を介して液体噴射ヘッド側に液体を排出可能に構成される。
ここで、複数の液体タンクに対して1つのポンプで液体の排出処理を行う場合、1つあたりの液体タンクにおける液体連通流路内の液体の流速が低下する。そのため、流速の低下に対応させて液体連通流路の断面積を小さく、すなわち、流路を細くする必要がある。
しかしながら、液体連通流路の断面積を一律に細くした場合、例えば、液体タンクを傾けたとき、液体連通流路内に進入した空気(気泡)が留まりやすい。また、印刷処理中に、意図しないタイミングで液体連通流路内の空気が液体供給部側に流出してしまう、という課題がある。
液体供給部に流出された気泡が液体噴射ヘッドに移動すると、液体噴射ヘッドから液体が噴射されない等の噴射不具合が発生してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
液体タンクは、液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置に装着可能な液体タンクであって、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給部と、前記液体供給部に供給する前記液体を収容可能な液体室と、前記液体室と前記液体供給部とを接続し、前記液体室に収容された前記液体を前記液体供給部に供給可能な液体連通流路であって、前記液体タンクが前記液体噴射装置に装着された装着状態において、上方に凸形状の流路を形成する液体連通流路と、前記液体室と前記液体供給部とを接続し、前記液体室と前記液体供給部との間で空気を流通可能な空気連通流路であって、前記装着状態において前記液体連通流路と前記液体室との接続位置よりも高い位置で前記液体室に接続された空気連通流路と、を備え、前記液体連通流路は、前記液体室から前記液体噴射ヘッドに向かう前記液体の流れ方向において、前記液体室に接続された上流端部と、前記上流端部よりも下流側に位置し、前記装着状態において上方に延びる上昇流路と、前記上昇流路よりも下流側に位置し、前記装着状態において下方に延びる下降流路と、前記下降流路よりも下流側に位置し、前記液体供給部及び前記空気連通流路に接続された下流端部と、を有し、前記液体連通流路の途中に、前記液体連通流路の断面積が小さくなる細部が形成される。
【0006】
液体噴射装置は、上記の液体タンクと、前記液体タンクから供給された液体を噴射する液体噴射ヘッドと、を備えた。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】液体タンクの流路構成を説明するための概念図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.液体噴射装置1の構成
図1は、液体タンク30を備える液体噴射装置1の外観図である。
図1には、互いに直交する3つの空間軸であるX軸、Y軸、Z軸が描かれている。液体噴射装置1は、X軸及びY軸に平行な面(XY平面)に設置されている。
【0009】
液体噴射装置1は、いわゆるインクジェットプリンターであり、用紙などの記録媒体20上に液体(例えば、インク)を噴射することで記録媒体20に対して印刷を行う。
【0010】
液体噴射装置1は、外表面を形成する外殻100を備える。外殻100は、略直方体形状であり、上面(第1面,第1壁)101と、下面(第2面,第2壁)102と、前面(第3面,第3壁)103と、背面(第4面,第4壁)104と、右側面(第5面,第5壁)105と、左側面(第6面,第6壁)106とを有する。上面101と下面102とはZ軸に沿った方向に対向する。前面103と背面104とはX軸に沿った方向に対向する。右側面105と左側面106とはY軸に沿った方向に対向する。前面103と背面104と右側面105と左側面106とは、それぞれ液体噴射装置1の設置面に対して略垂直な面である。上面101と下面102とは、それぞれ液体噴射装置1の設置面に対して略水平な面である。なお、本実施形態において「略垂直」や「略水平」とは、完全に「垂直」又は「水平」である意味に加え、概ね「垂直」又は「水平」である意味を含む。つまり、各面101~106は、完全な平面ではなく凹凸等を許容し、外観において概ね「垂直」又は概ね「水平」であればよい。
【0011】
液体噴射装置1は、さらに、前面カバー2と、排出口3と、操作部4と、上面カバー6とを備える。前面カバー2は、前面103の一部を構成し、下端部において軸支されており、上端部側を回動させることで開閉できる。
図1では、前面カバー2は開いた状態である。前面カバー2を開くことで、排出口3が露出する。
【0012】
排出口3は、記録媒体20が排出される部分である。なお、記録媒体20は、図示しない背面104側に設けられたトレイに配置されてもよい。トレイに配置された記録媒体20が外殻100の内部に搬送されつつ、液体が記録媒体20に噴射されることで、記録媒体20への印刷が実行される。
【0013】
操作部4は、利用者からの各種操作を受け付けるボタンである。各種操作としては、例えば、液体噴射装置1の印刷を開始させる操作や、後述する液体タンク内の流体を外部に排出させるための排出動作を実行させるための操作が挙げられる。
【0014】
上面カバー6は、上面101を構成する。上面カバー6は、背面104側の端部が軸支されており、前面103側を回動させることで開閉できる。上面カバー6が開かれることで、液体噴射装置1の内部の状態を確認したり、液体タンク30の着脱操作を行ったり、液体タンク30への液体の注入を行ったりすることができる。
【0015】
前面103のうちで、Y軸に沿った方向(後述するキャリッジ19の往復移動方向)において、キャリッジ19のホームポジションと重なる領域には、装置側窓部103aが形成されている。本実施形態では、装置側窓部103aは前面カバー2とは異なる位置であって、前面カバー2よりも-Y方向側に配置されている。装置側窓部103aは、ホームポジションに位置するキャリッジ19上に装着された液体タンク30の前面(視認面)404を、外部から利用者が視認するために設けられている。また、前面404には標識M1,M2が設けられている。装置側窓部103aは、例えば前面103を貫通する貫通孔であってもよいし、透明な部材であってもよい。標識M1,M2は、液体タンク30が収容する液体の水位についての基準を示すための要素であり、本実施形態では標識M1は上限の基準を示し、標識M2は下限の基準を示す。標識M1,M2の詳細は後述する。なお、ホームポジションにおける液体タンク30の前面404を外部から視認できれば、装置側窓部103aは前面103に設けられていなくてもよい。例えば、装置側窓部103aは、上面101に設けられていてもよい。この場合、利用者は前方上方側から装置側窓部103aを視認することで、液体タンク30の前面404を視認できる。
【0016】
図2は、液体噴射装置1の内部構成を示す模式図である。液体噴射装置1は、外殻100の内部に、制御部17と、液体噴射ヘッド12を備えたキャリッジ19と、を備える。キャリッジ19には、キャリッジ19に着脱可能に液体タンク30が搭載される。制御部17は、液体噴射装置1の各種動作(例えば、印刷動作)を制御する。制御部17は、例えば、CPUと、メモリーと、制御回路とを有する。CPUは演算処理装置である。メモリーは、CPUのプログラムを格納する領域または作業領域等を確保する記憶装置であり、RAM、EEPROM等の記憶素子を有する。
【0017】
キャリッジ19は、液体噴射ヘッド12上に配置された装着部11を有する。装着部11は、例えば+Z方向が開口する凹形状であり、液体タンク30が装着される装着空間を形成する。装着部11には、装着空間を区画する下面から+Z方向側に突出する液体導入針部122が突出する。液体導入針部122は、液体タンク30に接続される。液体導入針部122は中空状であり、先端側に内部と連通する連通孔が形成されている。液体導入針部122の内部には、液体導入針部122の連通孔を介して液体タンク30から供給される液体が流通する。液体噴射ヘッド12は、液体導入針部122と連通し、液体タンク30から供給された液体を記録媒体20に対して噴射する。
装着部11は、複数の液体タンク30を搭載可能に構成される。この場合、例えば、各液体タンク30には、異なる種類(例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックなどの色や、顔料や染料などの着色剤)の液体が収容される。
【0018】
また、装着部11は、標識M1,M2を含む前面(視認面)404を利用者が視認するための装着部側窓部11aを有する。装着部側窓部11aは、少なくとも液体タンク30の標識M1と対向する位置に設けられている。装着部側窓部11aは、例えば装着部11を形成する壁を貫通する貫通孔であってもよいし、透明な部材であってもよい。ホームポジションにキャリッジ19が位置する場合、装置側窓部103a(
図1)と装着部側窓部11aとを介して、利用者は標識M1,M2を有する前面(視認面)404を視認できる。
【0019】
液体噴射ヘッド12を搭載したキャリッジ19は、図示しない駆動機構によって駆動され、Y軸に沿った方向に沿って延びるガイドレール13によってガイドされながら記録媒体20上で往復移動を繰り返す。また、液体噴射装置1は、記録媒体20を排出口3(
図1)に向けて搬送するための搬送機構を有する。キャリッジ19が往復移動する動きと、記録媒体20が搬送される動きとに合わせて、液体噴射ヘッド12から液体が噴射されることによって、記録媒体20に画像などが印刷される。
【0020】
液体タンク30は、液体噴射ヘッド12に供給するための液体を収容する。液体タンク30は、液体導入針部122に着脱可能に接続される。液体タンク30が液体導入針部122に接続されることで、液体タンク30内の液体が液体導入針部122に流通可能となる。
【0021】
液体噴射装置1はさらに、液体噴射ヘッド12から流体(例えば、液体や空気)を定期的に吸い出すための動作(排出動作)を実行する排出部18を有する。
【0022】
排出部18は、外殻100の内部に配置されている。排出部18は、キャップ14と、吸引チューブ15と、吸引ポンプ16とを備える。液体噴射装置1が印刷動作を行っていない間は、キャリッジ19は、印刷動作における移動領域から外れた位置であるホームポジションに配置される。
【0023】
キャップ14は、ホームポジションの下方に配置された有底箱状の部材である。キャップ14は、図示しない昇降機構によってZ軸に沿った方向(上下方向)に移動可能である。キャップ14は、上昇することで、液体噴射ヘッド12の下面側に押し当てられる。これにより、キャップ14は、液体噴射ヘッド12の下面に形成されたノズル孔を覆うように閉空間を形成する(閉空間状態)。この閉空間によって、液体噴射ヘッド12(ノズル)内の液体が乾燥することを抑制できる。
【0024】
吸引チューブ15は、キャップ14(詳細にはキャップ14の底面に形成された貫通孔)と吸引ポンプ16とを連通させる。吸引ポンプ16は、閉空間状態において駆動することによって、吸引チューブ15を介して、液体噴射ヘッド12や液体タンク30の流体(液体や空気)を吸引する。これにより、液体噴射ヘッド12への液体の初期充填が行われたり、液体噴射ヘッド12内の劣化した液体(乾燥して増粘した液体)を吸い出したりすることができる。
【0025】
2.液体タンク30の概略説明
図3は、液体タンク30の主に流路構成を説明するための概念図である。ここで、以下に説明するときに用いる「上流側」、「下流側」は、液体タンク30から液体噴射ヘッド12に向かう液体の流れ方向を基準とする。なお、
図3において液体が存在する領域にはドットを付している。
【0026】
液体タンク30は、液体が流れる流路として、上流側から順に、第2液体室52と、接続流路54と、第1液体室51(液体室に相当)と、液体連通流路80と、液体供給部50と、を備える。また、液体タンク30は、空気が流れる流路として、空気連通流路70を備える。
【0027】
第2液体室52には、液体注入部42を通って外部から液体を注入することができる。また、第2液体室52は、一端である大気開放部44を含む大気連通部300によって大気と連通する。第2液体室52は、第1液体室51に供給する液体を収容可能である。
【0028】
接続流路54は、第1液体室51と第2液体室52とを接続し、第2液体室52の液体を第1液体室51に供給可能である。接続流路54は、上流側から順に、フィルター室542と、中間流路544と、弁配置室546とを有する。フィルター室542は、第2液体室52に接続されている。具体的には、フィルター室542は、第2液体室52内で開口する流入開口548を有する。つまり、流入開口548は第2液体室52に接続されている。フィルター室542は、フィルター室542を上流側と下流側とに区画するフィルター部材541を有する。フィルター部材541は、上流側から下流側へと流通する液体中の異物を捕捉して、異物が下流側へと流通することを抑制する。これにより、液体噴射ヘッド12に異物が流入する可能性を低減できるので、液体噴射ヘッド12の目詰まりや液体の噴射不良の発生を低減できる。また、弁配置室546より上流側にフィルター室542が配置されていることで、異物が弁配置室546に流入する可能性が低減される。これにより、異物による後述する弁機構60の開閉動作に不具合が生じる可能性を低減できる。フィルター部材541は、板状のステンレス鋼によって形成されたフィルターであり、液体を通過させ異物の通過を抑制できる複数の細孔を有する。なお、フィルター部材541は、液体を通過させ異物の通過を抑制できれば他の部材によって形成されていてもよい。
【0029】
中間流路544は、フィルター室542と弁配置室546とを連通させる流路である。弁配置室546は、第1液体室51に接続された入口開口部547を有する。つまり、入口開口部547は、接続流路54の一端(下流端)を形成する。入口開口部547は、流路断面が円形状の貫通孔を形成する。弁配置室546には、入口開口部547を開閉させて第2液体室52から第1液体室51への液体の流入を制御するための弁機構60の一部が配置されている。弁機構60が開状態となることで、第2液体室52と第1液体室51とが連通し、第2液体室52の液体が第1液体室51へと流入する。また弁機構60が閉状態となることで、第2液体室52と第1液体室51とは非連通状態となる。
【0030】
弁機構60は、弁体64と、ロッド67と、受圧板68と、第1付勢部材62と、第2付勢部材65とを備える。弁体64は、円板状の部材であり、弁配置室546内に配置されている。弁体64は、円環状のシール部材66を挟んで入口開口部547と対向する。シール部材66は、入口開口部547を取り囲むように入口開口部547の周縁部に配置されている。弁体64が、シール部材66に当接することで、弁配置室546と第1液体室51とは非連通状態となる。弁体64が、シール部材66から離れることで、弁配置室546と第1液体室51とは連通状態となる。ロッド67は、一端が弁体64に接続され、他端が受圧板68に接続された棒状部材である。ロッド67は、入口開口部547に挿通されている。受圧板68は、円板状の部材である。受圧板68は、第1付勢部材62および第2付勢部材65の付勢力によって第1液体室51を区画する可撓性を有する第1フィルム91に当接する。
【0031】
第1付勢部材62は、弁配置室546内に配置された圧縮コイルばねである。第1付勢部材62は、弁体64をシール部材66側に向けて付勢する。第2付勢部材65は、第1液体室51内に配置された圧縮コイルばねである。第2付勢部材65は、受圧板68を第1フィルム91側に向けて付勢する。第1液体室51内の液体が液体噴射ヘッド12によって供給されて消費されることで、第1液体室51内が負圧になったときに、第1付勢部材62および第2付勢部材65の付勢力に抗して、第1フィルム91によって受圧板68,ロッド67,弁体64がシール部材66および入口開口部547から離れる方向に付勢される。これにより、弁体64が、シール部材66から離れることで弁機構60が開状態となり、弁配置室546と第1液体室51とは連通状態となる。連通状態において、第2液体室52から第1液体室51に液体が供給され、第1液体室51内の圧力がある程度上昇したときに(例えば、負圧より大きくなったときに)、第1付勢部材62および第2付勢部材65の付勢力によって、弁体64がシール部材66側に移動してシール部材66に当接する。これにより弁機構60は閉状態となり、弁配置室546と第1液体室51とは非連通状態となる。上記のごとく、弁機構60は、少なくとも第1液体室51内が負圧になったときに開状態となるので、第1液体室51内の圧力を安定させることができる。つまり、弁体64の上流側と下流側との圧力差が所定値より大きくなった場合に開状態となる弁機構を用いた場合に比べ、液体噴射ヘッド12のノズル孔の高さ位置と、第2液体室52の液面高さ位置との差(水頭差)に応じて第1液体室51内の圧力が変動することを抑制できる。これにより、第2液体室52から第1液体室51への液体の供給を安定して行うことができる。
【0032】
第1液体室51は、液体供給部50に供給する液体を収容可能である。液体連通流路80は、第1液体室51と液体供給部50とを接続し、第1液体室51に収容された液体を液体供給部50に供給可能である。空気連通流路70は、第1液体室51と液体供給部50とを接続し、第1液体室51と液体供給部50との間で空気を流通可能である。
【0033】
液体供給部50は、下流端に液体供給口505を有する。液体供給口505は、液体導入針部122を受け入れる。液体供給部50は、液体噴射ヘッド12の液体導入針部122に着脱可能に接続される。具体的には、液体供給部50の液体供給口505を介して液体供給部50内に液体導入針部122が挿入されることで、液体供給部50は液体導入針部122と接続される。これにより、液体供給部50から液体導入針部122に液体が供給可能となる。
【0034】
液体供給部50の内部には、液体供給部50の流路を開閉するための供給部弁機構200が配置されている。供給部弁機構200は、下流側から順に、弁座202と、弁体203と、バネ204とを備える。
【0035】
弁座202は、略円環状の部材である。弁座202は、例えば、ゴムやエラストマー等の弾性体によって構成されている。弁座202は、液体供給部50の内部に圧入されている。弁体203は、略円柱状の部材である。弁体203は、液体タンク30がキャリッジ19上に搭載される前の状態(装着前状態)において、弁座202に形成された孔(弁孔)を塞ぐ。バネ204は、圧縮コイルバネである。バネ204は、弁体203を弁座202側に向かう方向に付勢する。液体タンク30がキャリッジ19上に搭載されて、液体供給部50が液体導入針部122に接続された液体タンク30の装着状態では、液体導入針部122が弁体203を上流側へと押すことで、弁体203が弁座202から離れる方向に移動する。これにより、供給部弁機構200が開状態となり、液体供給部50から液体導入針部122への液体の供給が可能となる。
【0036】
3.液体タンク30の詳細構成
図4は、液体タンク30の一部分解斜視図である。
図5は、タンク本体40の第1の斜視図である。
図6は、タンク本体40の第2の斜視図である。
図7は、タンク本体40の第3の斜視図である。
図8は、タンク本体40を+Y方向に見た第1の図である。
図9は、タンク本体40を+Y方向に見た第2の図である。
図10Aは、タンク本体40を-Y方向に見た図である。
図10Bは、フィルター室542の模式図である。なお、
図9では、弁機構60のうちロッド67を図示している。
【0037】
図4に示すように、液体タンク30は、タンク本体40と、第1フィルム91と、第2フィルム92と、第3フィルム93とを備える。液体タンク30は、略直方体形状である。液体タンク30において、X軸に沿った方向は長さ方向であり、Y軸に沿った方向は幅方向であり、Z軸に沿った方向は高さ方向である。
【0038】
液体タンク30は、上面(第1面,第1壁)401と、下面(第2面,第2壁)402と、背面(第3面,第3壁)403と、前面(第4面,第4壁)404と、左側面(第5面,第5壁)405と、右側面(第6面,第6壁)406とを有する。液体タンク30がキャリッジ19上に装着された装着状態において、上面401と下面402とはZ軸に沿った方向に対向する。装着状態において、背面403と前面404とはX軸に沿った方向に対向する。装着状態において、左側面405と右側面406とはY軸に沿った方向に対向する。左側面405は、第3フィルム93によって形成されている。右側面406は、第1フィルム91によって形成されている。上面401と下面402と背面403と前面404とはタンク本体40によって形成されている。背面403と前面404と左側面405と右側面406とは、それぞれ液体噴射装置1の設置面に対して略垂直な面である。上面401と下面402とは、それぞれ液体噴射装置1の設置面に対して略水平な面である。各面401~406は、完全な平面ではなく凹凸等を許容し、外観において概ね「垂直」又は概ね「水平」であればよい。また、前面404は、液体タンク30(詳細には、第2液体室52)内の液体の水位を外部から視認可能な視認面を構成する。例えば、前面404(視認面)は、透明または半透明な部材によって形成されている。前面404には、液体の水位(液面)の基準(例えば、上限や下限)に対応する標識(例えば、目盛りやマーク)が設けられていてもよい。本実施形態では、
図5に示すように、前面404には上限に対応する標識である上限標識M1と下限に対応する標識である下限標識M2が設けられている。例えば、液体注入部42から液体を注入する際に、液面が上限に対応する上限標識M1に達した場合に、利用者は液体の注入を停止する。また、例えば、液体タンク30(詳細には第2液体室52)の液面が下限標識M2に達した場合に、利用者は液体注入部42から液体を第2液体室52に注入する。
【0039】
背面403には、液体タンク30をキャリッジ19の装着部11(
図2)に着脱させるためのレバー59が設けられている。レバー59は、装着状態において、装着部11と係合することで液体タンク30が装着部11から外れることを抑制する。レバー59は、弾性変形可能である。利用者はレバー59を背面403側に押し付けることで、レバー59を背面403側に弾性変形させることによって装着部11との係合を解除する。この係合の解除によって、液体タンク30が装着部11から取り外し可能となる。
【0040】
タンク本体40は、略直方体形状であり、例えば、ポリプロピレンやポリスチレンなどの合成樹脂によって形成されている。第1フィルム91と第2フィルム92と第3フィルム93とはそれぞれ、タンク本体40の異なる部分に気密に貼り付けられることで、液体タンク30内における液体や空気が流通する流路などをタンク本体40と共に区画形成する。
【0041】
タンク本体40(
図6)は、+Y方向側が開口した凹形状である。タンク本体40は、凹形状のタンク本体40の底部を形成する一側壁408を有する。一側壁408は、第1液体室51と第2液体室52とを区画する壁である。
【0042】
一側壁408は、X軸に沿った方向とZ軸に沿った方向とに略平行である。
図5に示すように、一側壁408の一方の側(-Y方向側)には、第1液体室51と液体連通流路80と空気連通流路70とが形成されている。また、
図6に示すように、一側壁408の一方の側とは反対側の他方の側(+Y方向側)には、第2液体室52が形成されている。これにより、液体タンク30のスペースを効率良く利用して第1液体室51と液体連通流路80と空気連通流路70と第2液体室52とを配置できるので、液体タンク30の大型化を抑制できる。
【0043】
図4や
図8に示すように、一側壁408の-Y方向側には、空気連通流路70や液体連通流路80を区画形成する溝部や、第1液体室51を形成する凹部が形成されている。一側壁408の-Y方向側の端面に第1フィルム91が気密に貼り付けられることで、第1液体室51や空気連通流路70や液体連通流路80が区画形成される。また
図4および
図6に示すように、一側壁408と対向するタンク本体40の+Y方向側端面には、第3フィルム93が気密に貼り付けられることで、第2液体室52が区画形成される。
【0044】
タンク本体40(
図4)は、さらに液体注入部42を有する。液体注入部42は、上面401と前面404と右側面406とが交差するコーナー部48の底面49から+Z方向に延びる。液体注入部42は、筒状の部材であり、第1流路および第2流路を形成する。液体注入部42の内部には、仕切壁45が配置されている。この仕切壁45によって、第1流路と第2流路とに仕切られている。液体注入時には、第1流路が第2液体室52に液体を流入するための液体注入路、第2流路が第2液体室52から空気を排出するための空気排出路として機能する。液体注入部42は、液体タンク30の液体使用時には図示しないキャップが装着される。また、タンク本体40の上部には、大気連通部300の一端部である大気開放部44が形成されている。大気連通部300は、細い溝状の流路や、液体が逆流したときに収容可能なバッファー室を有する。大気連通部300の他端部は第2液体室52に接続されている。これにより、液体タンク30の使用時には、第2液体室52は大気に連通する。大気連通部300の詳細は後述する。
【0045】
図6に示すように、第2液体室52は、装着状態において底面を形成する第2液体室底面404faを有する。第2液体室底面404faは、下面402の内表面である。第2液体室底面404faには、装着状態において、鉛直下方向(-Z方向)に沿って貫通する流入開口548が形成されている。流入開口548は、下面402に形成されたフィルター室542の上流端である。
【0046】
フィルター室542(
図7)は、下面402から突出する枠状部材549と、枠状部材549の下端面に気密に貼り付けられる第2フィルム92(
図4)によって区画形成されている。フィルター室542は、装着状態において第2液体室52よりも下方(-Z方向)に位置する。枠状部材549の内側には、フィルター部材541が配置されている。本実施形態では、例えば、枠状部材549の内側に形成された枠状の配置部543(
図10B)に配置されている。フィルター部材541は、板状であり、装着状態において鉛直下方向(-Z方向)と直交する。また、フィルター部材541の周縁部には、中間流路544に連通する連通開口545が形成されている(
図7,
図10B)。第2液体室52の液体は、矢印Y1に示すように-Z方向に沿って流れることで、流入開口548、フィルター部材541を通過し、フィルター部材541を通過した液体は+Z方向に沿って流れることで連通開口545を通過する。連通開口545を通過した液体は中間流路544に流入する。以上のように、フィルター部材541(
図10B)は、装着状態において、フィルター室542を流入開口548を含む上側に位置する第1部分542Aと、第1部分542Aよりも下側に位置する第2部分542Bとに区画する。また、フィルター部材541は、装着状態において、流入開口548の下方に位置する。これにより、フィルター部材541に気泡が付着した場合でも、付着した気泡を流入開口548を介して第2液体室52に導くことができるので、第1液体室51および液体供給部50に気泡が流出する可能性を低減できる。
【0047】
さらに、
図7に示すように、フィルター室542には、フィルター部材541のY軸に沿った方向両脇に、第2液体室52に連通する連通孔5411が設けられている。すなわち、これらの連通孔5411は、キャリッジ19の移動方向に倣って配置されている。
ここで、液体タンク30をキャリッジ19に搭載した状態(装着状態)で、キャリッジ19をY軸に沿った方向に往復移動させた際、キャリッジ19の振動によりフィルター部材541に気泡が付着しやすくなる。しかしながら本実施形態によれば、フィルター部材541に付着した気泡は、キャリッジ19のY軸に沿った方向の往復移動によりY軸に沿った方向に移動する。そして、フィルター部材541のY軸に沿った方向の両脇に設けられたいずれかの連通孔5411を介して第2液体室52に導くことができる。従って、第1液体室51側に気泡が流出する可能性を低減させることができる。
【0048】
中間流路544および弁配置室546(
図6)は、第2液体室52内に形成されている。中間流路544および弁配置室546は、一側壁408と、一側壁408から凹形状のタンク本体40の開口側(+Y方向側)に向かって立ち上がる流路壁46と、流路壁46の+Y方向側の端面466に気密に貼り付けられたフィルム(図示せず)によって区画形成される。フィルムが貼り付けられる端面466には、シングルハッチングを付している。
【0049】
中間流路544(
図6)は、装着状態において、重力方向に沿った方向(Z軸に沿った方向)に延びる流路である。重力方向に沿った方向とは、水平方向に概ね垂直な方向であり、水平方向に対して80°以上100°以下の角度を形成する方向である。中間流路544が、装着状態において、重力方向に沿った方向に延びることで、重力方向に交差する方向に延びる場合と比べて、中間流路544の流路長を短くできる。ここで、液体タンク30内の液体が消費され、フィルター部材541の位置まで液面が低下する程度に液体が消費された場合、フィルター部材541よりも下流側の流路に気泡が流入する。よって、フィルター部材541の位置まで液面が低下した場合は、液体タンク30から液体噴射ヘッド12への液体の供給が停止される。本実施形態では、第1液体室51とフィルター室542とを接続する中間流路544の流路長を短くすることで、使用できずに中間流路544内に残る液体の量を低減できる。なお、他の実施形態では中間流路544は、水平方向成分と鉛直上方成分とを有する方向に延びるように形成されていてもよい。
【0050】
弁配置室546は、タンク本体40を-Y方向に見たときに略円形形状である。弁配置室546には、入口開口部547が形成されている。具体的には、入口開口部547は、一側壁408を貫通する貫通孔である。
【0051】
第1液体室51(
図8)は、一側壁408の-Y方向側に形成され、-Y方向側が開口する凹部と、凹部の-Y方向側端面に気密に貼り付けられた第1フィルム91(
図4)によって形成されている。第1液体室51は、空気連通流路70よりもY軸に沿った方向の寸法が大きい。つまり、第1液体室51は、空気連通流路70よりも深さが大きい。第1液体室51の容積(最大容積)は、第2液体室52(最大容積)よりも小さい。第1液体室51は、第1フィルム91と対向する側壁515と、装着状態において鉛直下方向側に位置する底壁517と、装着状態において底壁517から鉛直上方向に向かって延びる円弧状の周囲壁518と、最上部519と、を有する。側壁515には、入口開口部547が形成されている。周囲壁518は、底壁517と対向する部分を有する。最上部519は、周囲壁518の頂部から上方に突出する部分であり、装着状態において、第1液体室51のうちで最も高い位置に配置されている。
【0052】
最上部519は、一定の容積を有する空間である。また、最上部519は、上側、つまり空気連通流路70が接続されている空気側接続部72側に向かうにつれて流路断面積が小さくなるテーパー部530を有することが好ましい。本実施形態において、最上部519は、テーパー部530を有している。最上部519が、テーパー部530を有している場合には、テーパー部530を有していない場合と比べて、第1液体室51の大型化を抑制しつつ、最上部519の容積を大きくできる。これにより、最上部519に収容可能な空気の量(空気収容量)を増加させることができる。また、最上部519の容積を大きくできるので、液体タンク30が使用される環境(例えば温度や気圧)の変化により第1液体室51から空気連通流路70に液体や気泡が流入することを抑制できる。
【0053】
液体連通流路80(
図8)は、装着状態において、上方に凸形状の流路を形成する。本実施形態では、液体連通流路80は、装着状態において、逆U字形状の流路を形成する。液体連通流路80は、液体の流れ方向において、上流側から順に、上流端82を含む上流端部822と、上昇流路83と、液体中間流路86と、下降流路84と、下流端85を含む下流端部852と、を有する。
【0054】
上流端部822は、第1液体室51に接続される。上流端82は、第1液体室51の周囲壁518に形成された開口であり、第1液体室51に接続される。上昇流路83は、上流端部822の下流側に位置し、装着状態および流れ方向において上方に延びる。本実施形態では、上昇流路83は上流端部822から鉛直上方向に向かって延びる。なお、他の実施形態では、上昇流路83は、上方成分を有すれば斜めに延びていてもよい。ここで、装着状態において、入口開口部547は、上流端82より低い位置に配置されている。つまり、入口開口部547は上流端82よりも底壁517に近い位置に配置されている。
【0055】
ここで、例えば、液体が顔料粒子を含む場合、液体が気体に触れ、かつ、弁機構60の開閉による圧力変化を受けることで顔料粒子が凝集して異物となることがある。上記のごとく、装着状態において入口開口部547が上流端82よりも低い位置に配置されているので、入口開口部547よりも液体の水位が低くなることを抑制できる。よって、入口開口部547の周囲に気体が存在することを抑制できるので、入口開口部547の周囲に異物が発生する可能性を低減できる。これにより、異物が液体噴射ヘッド12に流入する可能性を低減できる。
【0056】
液体中間流路86は、上昇流路83と下降流路84とを接続する。液体中間流路86は、装着状態において、液体連通流路80のうちで最も高い位置である液体側最上部861を有する。つまり、液体連通流路80は、装着状態において、液体連通流路80の両端を形成する上流端82および下流端85よりも高い部分である。液体中間流路86は、液体の流れを上向きから下向きへと変更する流路であり、180度折れ曲がった流路である。また、液体中間流路86は、装着状態において、後述する空気連通流路70の最も高い部分(空気第2流路73の上流端)よりも低い位置に配置されている。
【0057】
下降流路84は、流れ方向において上昇流路83および液体中間流路86よりも下流側に位置し、装着状態において下方に延びる。本実施形態では、下降流路84は液体中間流路86から鉛直下方向に向かって延びる。なお、他の実施形態では、下降流路84は、下方成分を有すれば斜めに延びていてもよい。
【0058】
下流端部852は、流れ方向において、下降流路84よりも下流側に位置し、液体供給部50(液体入口809)及び空気連通流路70(供給側接続部75)に接続されている。下流端部852は、下降流路84と液体供給部50の後述する液体入口809とを接続する接続室として形成されている。この下流端部852は、液体入口809が接続された下流端85を含む。下流端部852は、装着状態において、液体供給部50に近づくにつれて、つまり下流端85に向かうにつれて、上方に向かうように水平方向に対して傾斜していることが好ましい。また、下流端部852の傾斜は、水平方向に対して、10°以上45°以下の角度を有した傾斜であることがより好ましい。本実施形態において、下流端部852の傾斜は、水平方向に対して、15°の角度を有している。ここで、下流端部852の傾斜の有する角度とは、下流端部852の底面と水平方向によって形成される角度(この角度は、鋭角)である。下流端部852が前述のように傾斜している場合には、液体供給部50内の残留する気泡が液体連通流路80に流入することを抑制できる。したがって、液体連通流路80が気泡によって閉塞することを抑制できる。
【0059】
次に、液体連通流路80の形態についてさらに詳細に説明する。
図8に示すように、液体連通流路80の途中に、液体連通流路80の断面積が小さくなる細部80Aが形成される。液体連通流路80の断面積とは、液体連通流路80内を流通する流体(液体)の流れる方向に対して垂直な平面で流路を切断した際の面積である。
【0060】
細部80Aは、液体連通流路80において下流端部852よりも上流側に設けられる。本実施形態では、細部80Aは、上昇流路83と下降流路84との間に配置される。すなわち、液体連通流路80のうちで最も高い位置である液体中間流路86の液体側最上部861に設けられる。
【0061】
また、細部80Aは、徐変により形成される。すなわち、液体連通流路80の断面積が徐々に小さくなるように形成される。
【0062】
ここで、本実施形態の液体噴射装置1では、キャリッジ19の装着部11に複数の液体タンク30が装着される。そして、排出部18の吸引ポンプ16を駆動させ、各液体タンク30の第1液体室51から液体連通流路80及び液体供給部50を介して液体噴射ヘッド12側に液体を排出させる構成である。このような構成の場合、1つ吸引ポンプ16で1つの液体タンク30に対して排出処理を行う場合に比べて、1つあたりの液体タンク30における液体連通流路80内の液体の流速が低下する。そのため、液体の流速の低下に対応させて液体連通流路80の断面積をより小さく、すなわち、流路をより細くする必要がある。本実施形態では、吸引ポンプ16の能力に合わせて、液体タンク30における液体連通流路80の断面積を細化し、液体の排出処理能力を確保している。
【0063】
なお、液体連通流路80の断面積を一律に細くした場合、例えば、液体タンク30を傾けたとき、液体連通流路80内に進入した空気(気泡)が留まりやすい。また、印刷処理中に、意図しないタイミングで液体連通流路80内の空気が液体供給部50側に流出する懸念が生じる。液体供給部50に流出された気泡が液体噴射ヘッド12に移動すると、液体噴射ヘッド12から液体が噴射されない等の噴射不具合が発生する。
そこで、本実施形態では、液体連通流路80全体の断面積を細化するとともに、液体連通流路80の一部に細部80Aを設けた。これにより、液体連通流路80全体の圧力損失を維持させ、液体の排出処理を容易に行うことできる。
また、例えば、液体タンク30を傾けて液体連通流路80内に空気(気泡)が侵入した場合であっても、侵入した空気を細部80Aで捕集させやすくなる。そして、液体噴射装置1の印刷処理中に、液体連通流路80内の空気は徐々に下流側に移動して、下流端85まで移動すると空気連通流路70に合流する。これにより、液体供給部50への空気の流出を抑制することができる。これに伴い、液体噴射ヘッド12への空気の移動が抑制され、液体噴射ヘッド12から液体が噴射されない等の噴射不具合を低減できる。
【0064】
また、細部80Aは徐変されるため、液体を円滑に流動させることができる。
また、細部80Aは、下流端部852よりも上流側に設けられる。例えば、細部80Aが下流端部852に設けられた場合、吸引ポンプ16を駆動させたときなどに、細部80Aで捕集された空気が容易に液体供給部50側に移動するおそれがある。このため、細部80Aを、下流端部852以外の部分に設けることで、液体供給部50側への空気の移動を抑制できる。
また、細部80Aが、液体側最上部861に配置されため、例えば、液体噴射装置1を傾けた際、液体タンク30が傾いた場合であっても、液体連通流路80に進入した空気の移動を抑制できる。するなち、液体連通流路80に進入した空気が容易に液体供給部50側に移動することを抑制できる。
【0065】
空気連通流路70(
図8)は、一端を形成する空気側接続部72と、上昇空気流路としての空気第1流路76と、傾斜空気流路としての空気第2流路73と、空気第3流路74と、他端を形成する供給側接続部75と、を有する。装着状態において、空気連通流路70は、液体連通流路80と第1液体室51との接続位置である上流端82よりも高い位置で第1液体室51に接続されている。
【0066】
空気側接続部72は、周囲壁518のうちで最上部519に形成された開口である。つまり、空気連通流路70は、装着状態において、第1液体室51の最上部519に接続されている。空気側接続部72は、装着状態において、液体連通流路80の液体側最上部861と同じ、もしくは、液体側最上部861よりも高い位置に形成されていることが好ましい。この場合には、第1液体室51は、空気側接続部72が液体側最上部861よりも低い位置に形成されている場合と比べて、最上部519の容積を大きくできる。本実施形態において、空気側接続部72は、液体側最上部861よりも高い位置に形成されている。
【0067】
空気第1流路76は、装着状態において、空気側接続部72を一端に有し、第1液体室51から上方に延びる。空気第2流路73は、空気第1流路76と空気第3流路74とを接続し、装着状態において水平方向成分(本実施形態では、X軸に沿った方向)を含む方向に延びる。空気第3流路74は、装着状態において、空気第2流路73から下方に延びる。空気第3流路74は、供給側接続部75を介して液体供給部50に接続されている。供給側接続部75は、空気第3流路74と液体入口809とを接続する接続室として形成されている。
【0068】
空気第2流路73は、装着状態において、水平方向に対し傾斜した方向に延びる流路であることが好ましい。空気第2流路73は、水平方向に対して10°以上45°以下の角度を有して傾斜していることがより好ましい。ここで、空気第2流路73が水平方向に対して有する角度は、空気第2流路73の底面と水平方向とによって形成される角度(この角度は鋭角)である。空気第2流路73が水平方向に対し傾斜した方向に延びることで、水平方向に沿って延びている場合と比べて、空気第2流路73に液体が流入した際に、流入した液体が空気第2流路73から空気第1流路76もしくは空気第3流路74へ流れやすい。このため、空気第2流路73内に流入した液体が空気第2流路73に留まることを抑制できる。したがって、空気第2流路73に流入した液体によって空気第2流路73が閉塞することを抑制できる。なお、空気第2流路73への液体の流入は、例えば、温度や気圧の変化、液体タンク30の倒置や振動、に起因して発生する。本実施形態において、空気第2流路73は、装着状態において、空気第3流路74に近づくにつれて下方に向かって流路全体が傾斜し、水平方向に対して15°の角度を有している。
【0069】
空気連通流路70の下流端である供給側接続部75は、装着状態において、液体供給部50の後述する液体入口809の真上に位置することが好ましい。真上に位置するとは、+Z方向に見た際に、供給側接続部75と液体入口809との少なくとも一部が重なるように配置されていることを意味する。供給側接続部75における流路断面の中心と液体入口809の流路断面の中心が概ね重なるように配置されていることがより好ましい。供給側接続部75が液体入口809の真上に位置する場合には、供給側接続部75が液体入口809の真上に位置しない場合に比べて、液体供給部50に残留する気泡が上昇することで空気連通流路70に流入しやすい。これにより、液体供給部50に残留する気泡の液体連通流路80への流入が抑制される。本実施形態において、供給側接続部75は、液体入口809の真上に位置している。
【0070】
液体供給部50(
図7)は、装着状態において、下流端85よりも下方に位置する。また、液体供給部50は、装着状態において、液体供給口505に向かって下方に延びる。本実施形態では、液体供給部50は、装着状態において、液体供給口505に向かって鉛直下方向に向かって延びているが、他の実施形態では、下方成分を有していれば斜めに延びていてもよい。
【0071】
液体供給部50(
図8)は、液体入口809と、第1供給部501と、第2供給部502とを有する。液体入口809は、液体の流れ方向において、液体供給部50の上流端を形成する。液体入口809は、装着状態において鉛直上方向に向かって開口している。第1供給部501は、内部に液体入口809に接続された流路を形成する。第1供給部501は、タンク本体40内に形成されている。第2供給部502は、第1供給部501に接続されている。第2供給部502は、装着状態において、下面402から鉛直下方に突出する部材によって形成されている。第2供給部502は、液体供給口505を有する。液体供給口505は、装着状態において、鉛直下方向に向かって開口している。
【0072】
図8に示すように、液体タンク30を+Y方向に見たときに、液体注入部42と液体供給口505とは対角の位置に配置されている。例えば、液体タンク30を+Y方向に見たときに、液体注入部42は、装着状態において第1液体室51よりも鉛直上方側、かつ、第1液体室51の入口開口部547よりも水平方向(例えば、X軸に沿った方向)の+X方向側に位置する。また、液体供給口505は、装着状態において第1液体室51よりも鉛直下方向側、かつ、第1液体室51の入口開口部547よりも水平方向(例えば、X軸に沿った方向)の-X方向側に位置する。これにより、液体注入部42から液体供給口505までの距離が短くなることを抑制できるので、液体注入部42から第2液体室52に液体を注入した際に気泡が発生した場合でも、液体供給口505に気泡が到達する可能性を低減できる。これにより、液体供給部50内のうちで液体供給口505の近傍に滞留する気泡を低減できるので、液体噴射ヘッド12に気泡が流入する可能性を低減できる。また、液体注入部42から液体供給口505までの液体が流通する流路を効率良く配置できるので、液体タンク30の大型化を抑制できる。
【0073】
次に、
図9および
図10Aを用いて、大気連通部300について説明する。大気連通部300の説明に用いる「上流側」「下流側」は、外部から第2液体室52に向かう流体(空気)の流れ方向を基準とする。
【0074】
大気連通部300は、上流側から順に、上流端としての大気開放部44と、第1大気流路302と、第2大気流路304、蛇行流路306と、気液分離室308と、バッファー室310と、大気中間流路372と、下流端としての大気導入部340とを備える。ここで、大気連通部300のうちで、一側壁408の一方の側(-Y方向側)に形成された各種流路は、タンク本体40と第1フィルム91(
図4)とによって区画され、一側壁408の他方の側(+Y方向側)に形成された各種流路は、タンク本体40と第3フィルム93(
図4)によって区画されている。バッファー室310は、上流側から順に、第1バッファー室312と、第2バッファー室314と、第3バッファー室316と、第4バッファー室318と、第5バッファー室319と、を備える。
【0075】
大気開放部44(
図9)は、上面401のうち背面403側の部分から+Z方向に延びる筒状の部材である。第1大気流路302(
図9)は、大気開放部44と第2大気流路304とを接続する流路である。第2大気流路304は、X軸に沿った方向に沿って延びる細長い流路である。蛇行流路306は、第2大気流路304と気液分離室308とを接続する流路である。蛇行流路306は、大気連通部300の流路長を長くするために細長く蛇行した流路である。これにより、第2液体室52の液体中の水分が蒸発することを抑制できる。気液分離室308の内周壁307には、図示しない気液分離膜が配置されている。気液分離膜は、気体の透過を許容すると共に液体の透過を許容しない素材で形成されている。気液分離室308の下流端は、一側壁408を貫通する貫通孔331である。貫通孔331によって、気液分離室308と第1バッファー室312(
図10A)とを接続する。第1バッファー室312は、第3フィルム93とタンク本体40の+Y方向側端面との隙間を介して第2バッファー室314と連通している。
【0076】
第2バッファー室314と第1中間接続流路341とは、一側壁408を貫通する貫通孔332によって連通している。第1中間接続流路341の下流端は一側壁408を貫通する貫通孔333である。貫通孔333によって、第1中間接続流路341と第3バッファー室316(
図10A)とは連通する。第3バッファー室316と第2中間接続流路344とは、一側壁408を貫通する貫通孔334によって連通する。第2中間接続流路344と第4バッファー室318とは、一側壁408を貫通する貫通孔335によって連通する。第4バッファー室318と第3中間接続流路371とは、一側壁408を貫通する貫通孔336によって連通する。第3中間接続流路371と第5バッファー室319とは、一側壁408を貫通する貫通孔337と、貫通孔337周囲に形成された切欠部338とによって連通する。第5バッファー室319の底面319aは、上流側である切欠部338から下流側である貫通孔339に向けて下方に位置するように傾斜している。これにより、貫通孔339から第5バッファー室319に液体が侵入した場合でも、切欠部338に液体が到達する可能性を低減できる。
【0077】
第5バッファー室319と大気中間流路372とは、一側壁408を貫通する貫通孔339によって連通する。大気中間流路372と第2液体室52とは、一側壁408を貫通する大気導入部340によって連通する。大気導入部340は、装着状態において、第2液体室52の上面近傍に配置されている。
【0078】
4.他の液体タンク30Aの構成
次に、他の液体タンク30Aの構成について説明する。詳細には、液体タンク30Aの液体連通流路801の構成について説明する。なお、液体連通流路801の構成以外の構成は、上記実施形態の構成と同様なので説明を省略する。
【0079】
図11は、他の液体タンク30Aの構成を示す模式図である。
図11に示すように、液体タンク30Aは、液体連通流路801を有する。液体連通流路801は、装着状態において、逆U字形状の流路を形成する。液体連通流路801は、液体の流れ方向において、上流側から順に、上流端82を含む上流端部822と、上昇流路83と、液体中間流路86と、下降流路84と、下流端85を含む下流端部852と、を有する。
【0080】
そして、液体連通流路801の途中に、液体連通流路801の断面積が小さくなる細部80Bが形成される。具体的には、細部80Bは、上流端部822から上昇流路83の上方端に向かって徐々に断面積が小さくなる。また、下流端部852から下降流路84の上方端に向かって徐々に断面積が小さくなる。すなわち、液体側最上部861において最も断面積が小さくなる。
このような構成であっても、液体連通流路801全体の圧力損失は維持され、上記実施形態同様の効果を得ることができる。
【0081】
5.その他の実施形態
上記実施形態の液体噴射装置1では、液体タンク30,30Aをキャリッジ19上に搭載するオンキャリッジタイプの構成を例に説明したが、この構成に限定されず、液体タンク30,30Aをキャリッジ19上に搭載しないオフキャリッジタイプの構成であってもよい。このようにしても上記同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0082】
1…液体噴射装置、12…液体噴射ヘッド、16…吸引ポンプ、18…排出部、19…キャリッジ、20…記録媒体、30,30A…液体タンク、50…液体供給部、51…第1液体室、52…第2液体室、54…接続流路、70…空気連通流路、80…液体連通流路、80A,80B…細部、82…上流端、83…上昇流路、84…下降流路、85…下流端、86…液体中間流路、801…液体連通流路、809…液体入口、822…上流端部、852…下流端部、861…液体側最上部。