(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】脈拍数測定装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0245 20060101AFI20240416BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
A61B5/0245 F
A61B5/0245 200
A61B5/02 310Z
A61B5/02 310A
A61B5/02 310J
(21)【出願番号】P 2020162667
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】304020498
【氏名又は名称】サクサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】望月 規之
(72)【発明者】
【氏名】小関 吉則
(72)【発明者】
【氏名】頴川 涼子
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-093630(JP,A)
【文献】特開2008-228987(JP,A)
【文献】特開2018-050969(JP,A)
【文献】国際公開第2019/116996(WO,A1)
【文献】特開2019-115464(JP,A)
【文献】国際公開第2016/056479(WO,A1)
【文献】特開2000-300529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脈拍数を測定する対象となる人の身体における複数の位置に装着された複数の脈波センサーから
それぞれの脈波センサーが出力した脈波信号を取得する信号取得部と、
前記複数の
脈波センサーが出力した前記脈波信号それぞれをフーリエ変換することにより、
前記脈波信号を
周波数領域データに変換する信号変換部と、
前記複数の脈波センサーそれぞれに対応する複数の前記周波数領域データから、所定の周波数範囲のレベル又は信号対雑音比が許容値以上の
、いずれかの前記脈波センサーに対応する前記周波数領域データを選択する選択部と、
前記選択部が選択した前記周波数領域データに基づいて脈拍数を特定する脈拍数特定部と、
を有
し、
前記信号変換部は、第1期間にわたる前記複数の脈波センサーそれぞれが出力した前記脈波信号をフーリエ変換することにより前記複数の周波数領域データを生成し、前記複数の周波数領域データの少なくとも一つの前記周波数領域データの品質が所定の条件を満たす場合に、前記複数の脈波センサーそれぞれが出力した前記脈波信号をフーリエ変換する対象とする期間を、前記第1期間よりも短い第2期間に決定する、脈拍数測定装置。
【請求項2】
前記信号変換部は、前記複数の周波数領域データのうち、前記選択部が選択した前記周波数領域データの品質が前記所定の条件を満たす場合に、フーリエ変換の対象とする期間を前記第2期間に決定する、
請求項
1に記載の脈拍数測定装置。
【請求項3】
前記選択部は、前記複数の周波数領域データにおける脈波成分及び所定の次数以内の前記脈波成分の高調波成分が含まれる前記所定の周波数範囲のレベル又は信号対雑音比が許容値以上の周波数領域データを選択する、
請求項1
又は2に記載の脈拍数測定装置。
【請求項4】
コンピュータを、
脈拍数を測定する対象となる人の身体における複数の位置に装着された複数の脈波センサーから
それぞれの脈波センサーが出力した脈波信号を取得する信号取得部と、
前記複数の
脈波センサーが出力した前記脈波信号それぞれをフーリエ変換することにより、
前記脈波信号を
周波数領域データに変換する信号変換部と、
前記複数の脈波センサーそれぞれに対応する複数の前記周波数領域データから、所定の周波数範囲のレベル又は信号対雑音比が許容値以上の
、いずれかの前記脈波センサーに対応する周波数領域データを選択する選択部と、
前記選択部が選択した前記周波数領域データに基づいて脈拍数を特定する脈拍数特定部と、
として機能させるためのプログラム
であって、
前記信号変換部は、第1期間にわたる前記複数の脈波センサーそれぞれが出力した前記
脈波信号をフーリエ変換することにより前記複数の周波数領域データを生成し、前記複数の周波数領域データの少なくとも一つの前記周波数領域データの品質が所定の条件を満たす場合に、前記複数の脈波センサーそれぞれが出力した前記脈波信号をフーリエ変換する対象とする期間を、前記第1期間よりも短い第2期間に決定する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の脈拍を測定するための脈拍数測定装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の脈波センサーを用いて心電信号を取得する技術が知られている。特許文献1には、複数の脈波センサーのうち、R波の振幅が最も大きい心電信号を出力した脈波センサーを使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術においては、測定された心電信号のR波の振幅に基づいて複数の脈波センサーから一つの脈波センサーが選択されていたが、R波はパルス状であるため減衰しやすい。したがって、脈波センサーの装着状態の影響を受けやすく、R波の振幅が最も大きい心電信号に基づいて脈拍数を測定することが最良とは言えず、脈拍数の測定精度が低下してしまう場合があるという問題が生じていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、脈拍数の測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の脈拍数測定装置は、脈拍数を測定する対象となる人の身体における複数の位置に装着された複数の脈波センサーから複数の脈波信号を取得する信号取得部と、前記複数の脈波信号それぞれをフーリエ変換することにより、前記複数の脈波信号を複数の周波数領域データに変換する信号変換部と、前記複数の周波数領域データから、所定の周波数範囲のレベル又は信号対雑音比が許容値以上の周波数領域データを選択する選択部と、前記選択部が選択した前記周波数領域データに基づいて脈拍数を特定する脈拍数特定部と、を有する。
【0007】
前記複数の脈波信号の少なくともいずれかの隣接する複数のピーク間の時間に基づいて、暫定的な脈拍周期を算出する算出部をさらに有し、前記信号変換部は、前記脈拍周期に基づいて、フーリエ変換の対象とする前記複数の脈波信号の期間を決定してもよい。
【0008】
前記信号変換部は、前記脈拍周期が長ければ長いほど、フーリエ変換する対象とする前記複数の脈波信号の期間を長くしてもよい。
【0009】
前記信号変換部は、第1期間にわたって前記複数の脈波信号をフーリエ変換することにより前記複数の周波数領域データを生成し、前記複数の周波数領域データの少なくとも一つの周波数領域データの品質が所定の条件を満たす場合に、前記複数の脈波信号をフーリエ変換する対象とする期間を、前記第1期間よりも短い第2期間に決定してもよい。
【0010】
前記信号変換部は、前記第1期間にわたって前記複数の脈波信号をフーリエ変換することにより生成した前記複数の周波数領域データのうち、前記選択部が選択した前記周波数領域データの品質が前記所定の条件を満たす場合に、フーリエ変換の対象とする期間を前記第2期間に決定してもよい。
【0011】
前記選択部は、前記複数の周波数領域データにおける脈波成分及び所定の次数以内の前記脈波成分の高調波成分が含まれる前記所定の周波数範囲のレベル又は信号対雑音比が許容値以上の周波数領域データを選択してもよい。
【0012】
本発明の第2の態様のプログラムは、コンピュータを、脈拍数を測定する対象となる人の身体における複数の位置に装着された複数の脈波センサーから複数の脈波信号を取得する信号取得部と、前記複数の脈波信号それぞれをフーリエ変換することにより、前記複数の脈波信号を複数の周波数領域データに変換する信号変換部と、前記複数の周波数領域データから、所定の周波数範囲のレベル又は信号対雑音比が許容値以上の周波数領域データを選択する選択部と、前記選択部が選択した前記周波数領域データに基づいて脈拍数を特定する脈拍数特定部と、として機能させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、脈拍数の測定精度が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】複数の脈波センサーが出力する脈波信号を模式的に示す図である。
【
図4】算出部の動作について説明するための図である。
【
図5】信号変換部が生成する周波数領域データの例を示す図である。
【
図6】複数の脈波センサーが出力した複数の脈波信号に対応する複数の周波数領域データを示す図である。
【
図7】脈拍数測定装置における処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】フーリエ変換の対象とする期間が異なる複数の周波数領域データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[脈拍数測定システムSの概要]
図1は、脈拍数測定システムSの概要を示す図である。脈拍数測定システムSは、脈拍数測定装置1と、複数の脈波センサー2(2A、2B、2C)と、を備える。脈拍数測定システムSは、人(以下、「ユーザ」という)の身体の複数の部位に装着された複数の脈波センサー2が検出した脈波信号の少なくとも1つの脈波信号に基づいて、ユーザの脈拍数を測定するためのシステムである。
【0016】
脈拍数測定装置1は、プロセッサを有する電子機器であり、例えばコンピュータ、タブレット又はスマートフォンである。脈波センサー2は、例えば圧電センサーであり、脈波センサー2が装着されたユーザの脈に同期して皮膚が動くことによる圧力の変化を示す電気信号である脈波信号を出力する。脈波センサー2は、光電式又は心電式のように、圧電式のセンサー以外のセンサーであってもよい。脈波センサー2が出力した脈波信号は、例えば無線チャネルW又はケーブルを介して脈拍数測定装置1へと送信される。
【0017】
複数の脈波センサー2は、例えばユーザの肘、手首、及び胸等のように、脈波を検出可能な複数の部位に装着される。複数の脈波センサー2は、頭部における複数の位置のように、同じ部位における複数の位置に装着されてもよい。
図1においては、脈拍数測定装置1の外部に複数の脈波センサー2が設けられている構成を例示しているが、脈拍数測定装置1が複数の脈波センサー2を内蔵しており、ユーザが脈拍数測定装置1を装着することにより、複数の脈波センサー2がユーザの複数の位置に接触するように構成されていてもよい。この場合、脈拍数測定装置1は、例えば頭部に装着されるヘッドギア型の装置である。
【0018】
図2は、複数の脈波センサー2が出力する脈波信号を模式的に示す図である。
図2に示す破線は、脈波信号を受信した脈拍数測定装置1が脈波信号を処理できる範囲の上限と下限を示している。
図2(a)は、脈波センサー2Aが出力した脈波信号を示しており、
図2(b)は、脈波センサー2Bが出力した脈波信号を示しており、
図2(c)は、脈波センサー2Cが出力した脈波信号を示している。
【0019】
脈波センサー2が出力する脈波信号は、脈波センサー2とユーザの皮膚との接触状態によって振幅や信号品質が異なる。
図2(a)は、適切な振幅の脈波信号を示している。
図2(b)は、過度に小さな振幅の脈波信号を示している。脈波センサー2とユーザの皮膚とが十分に接していない場合には、このように十分な振幅を得られない場合が想定される。
図2(c)は、過度に大きな振幅の脈波信号を示している。
【0020】
脈拍数測定装置1は、このように振幅や信号品質が異なる複数の脈波信号から、脈拍数の測定に適した脈波信号を選択し、選択した脈波信号に基づいて脈拍数を測定することを特徴としている。脈拍数測定装置1がこのように構成されていることで、複数の脈波センサー2の中に装着状態が悪い脈波センサー2があるとしても、脈拍数測定装置1は、装着状態が良い脈波センサー2が出力した脈波信号に基づいて高い精度で脈拍数を測定することができる。
【0021】
[脈拍数測定装置1の構成]
図3は、脈拍数測定装置1の構成を示す図である。脈拍数測定装置1は、通信部11と、表示部12と、記憶部13と、制御部14と、を有する。制御部14は、信号取得部141と、算出部142と、信号変換部143と、選択部144と、脈拍数特定部145と、を有する。
【0022】
通信部11は、複数の脈波センサー2から脈波信号を取得するための通信インターフェースを有する。通信部11は、例えば無線通信コントローラ又は有線通信コントローラを有する。通信部11は、複数の脈波センサー2から受信した脈波信号を信号取得部141に入力する。
表示部12は、例えばディスプレイであり、脈拍数特定部145が出力する脈拍数を表示する。
【0023】
記憶部13は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスク等の記憶媒体を有する。記憶部13は、制御部14が実行するプログラムを記憶している。また、記憶部13は、信号取得部141が取得した脈波信号を記憶する。記憶部13は、例えば、複数の脈波センサー2それぞれを識別するためのセンサー識別情報、及び信号取得部141が脈波信号を取得した日時に関連付けて脈波信号を記憶する。
【0024】
制御部14は、例えばCPU(Central Processing Unit)であり、記憶部13に記憶されたプログラムを実行することにより、信号取得部141、算出部142、信号変換部143、選択部144及び脈拍数特定部145として機能する。
【0025】
信号取得部141は、通信部11を介して、脈拍数を測定する対象となる人の身体における複数の位置に装着された複数の脈波センサー2から複数の脈波信号を取得する。信号取得部141は、取得した脈波信号を算出部142及び信号変換部143に入力する。信号取得部141は、取得した脈波信号を記憶部13に記憶させ、記憶部13を介して算出部142及び信号変換部143に脈波信号を通知してもよい。
【0026】
算出部142は、複数の脈波信号の少なくともいずれかの隣接する複数のピーク間の時間に基づいて、暫定的な脈拍周期を算出する。
図4は、算出部142の動作について説明するための図である。算出部142は、
図4に示す脈波信号におけるP1、P2、P3のように、定期的に波高値が極大化する複数のピークを特定し、特定した複数のピークのうち隣り合うピークの間の時間を暫定的な脈拍周期として算出する。算出部142は、複数のピーク間の時間を平均することにより暫定的な脈拍周期として算出してもよい。
【0027】
算出部142が算出した暫定的な脈拍周期は、信号変換部143に通知され、信号変換部143がフーリエ変換する際にフーリエ変換の対象とする脈波信号の期間を定めるために使用される。算出部142が複数のピークを検出する場合、ノイズをピークと誤って特定してしまうことがあるので、暫定的な脈拍周期には誤差が含まれている場合があるが、この誤差は、フーリエ変換の対象とする期間を定めるという目的には問題にならない大きさであると考えられる。なお、算出部142は、算出した暫定的な脈拍周期を脈拍数特定部145に通知してもよい。
【0028】
信号変換部143は、信号取得部141が取得した複数の脈波信号それぞれをフーリエ変換することにより、複数の脈波信号を複数の周波数領域データに変換する。この際、信号変換部143は、算出部142から通知された暫定的な脈拍周期に基づいて、フーリエ変換の対象とする複数の脈波信号の期間を決定してもよい。信号変換部143は、例えば、脈拍周期が長ければ長いほど、フーリエ変換の対象とする複数の脈波信号の期間を長くする。信号変換部143がこのように動作することで、フーリエ変換する対象となる脈波信号に含まれる周期の数を一定の範囲内にすることができるので、測定精度のばらつきを抑えることができる。
【0029】
図5は、信号変換部143が生成する周波数領域データの例を示す図である。
図5における周波数領域データは、信号変換部143が、40秒間にわたって脈波信号を200Hzでサンプリングして得た脈波信号の値をフーリエ変換することにより得られたデータである。
図5の横軸は周波数であり、縦軸は信号レベルである。
図5における実線は、脈拍数が約90/分の脈波信号をフーリエ変換して得られたデータを示しており、破線は、脈拍数が約70/分の脈波信号をフーリエ変換して得られたデータを示している。
図5における一点鎖線は、ノイズレベルを示している。
【0030】
実線で示す周波数領域データにおいては、約1.6Hz付近に第1ピークPa1があり、約3.2Hz付近に第2ピークPa2があり、約4.8Hz付近に第3ピークPa3がある。第1ピークPa1は、脈波信号の基本波成分であり、第2ピークPa2及び第3ピークPa3は脈波信号の高調波成分である。
【0031】
同様に、破線で示す周波数領域データにおいては、約1.2Hz付近に第1ピークPb1があり、約2.4Hz付近に第2ピークPb2があり、約3.6Hz付近に第3ピークPb3がある。第1ピークPb1は、脈波信号の基本波成分であり、第2ピークPb2及び第3ピークPb3は脈波信号の高調波成分である。このように、脈拍数の違いによって、周波数領域データのピークの周波数が異なるので、周波数領域データを用いて基本波の周波数を解析することにより脈拍数を特定できるということがわかる。
【0032】
図3に戻り、選択部144について説明する。選択部144は、複数の周波数領域データから、所定の周波数範囲のレベル又は信号対雑音比(以下、「S/N比」という)が許容値以上の周波数領域データを選択する。所定の周波数範囲は、脈波信号の主要な周波数成分が含まれる範囲であり、例えば1Hz以上18Hz以下である。選択部144は、ユーザの状態に応じて所定の周波数範囲を決定してもよい。選択部144は、例えばユーザの入力操作に基づいて、ユーザが運動した直後であると特定した場合には、所定の周波数範囲を2Hz以上にしてもよい。
【0033】
選択部144は、例えば、複数の周波数領域データのうち、基本波成分のレベルが許容値以上の周波数領域データを選択する。選択部144は、複数の周波数領域データそれぞれの基本波のS/N比を算出し、算出した信号対雑音比が許容値以上の周波数領域データを選択してもよい。選択部144は、複数の周波数領域データのうち、基本波成分のレベルが最大の周波数領域データ、又はS/N比が最大の周波数領域データを選択してもよい。この場合、選択部144は、周波数領域データにおけるノイズレベルに対する基本波成分のレベルを算出することによりS/N比を特定する。
【0034】
選択部144は、複数の周波数領域データにおける脈波成分及び所定の次数以内の脈波成分の高調波成分が含まれる所定の周波数範囲のレベル又はS/N比が許容値以上の周波数領域データを選択してもよい。この場合、選択部144は、例えば、所定の周波数範囲における単位周波数あたりのノイズレベルの平均値に対する、周波数領域データにおける脈波信号に基づく成分が含まれる周波数範囲の単位周波数あたりの信号レベルの平均値を算出することにより、S/N比を特定する。選択部144が、このような周波数範囲のレベル又はS/N比に基づいて周波数領域データを選択することにより、脈波信号に歪みがある場合であっても、総合的に品質が良好な脈波信号が選択されることになるので、測定精度が向上する。
【0035】
なお、選択部144は、選択条件を満たす周波数領域データがないと判定した場合、データを取得できない旨を示す情報を表示部12に表示してもよい。選択部144は、それぞれの脈波センサー2に関連付けて、脈波信号の品質と要求される品質との関係を表示部12に表示してもよい。選択部144がこのような情報を表示することで、ユーザが、どの脈波センサー2の装着状態を調整する必要があるかを判断することが可能になる。
【0036】
図6は、複数の脈波センサー2が出力した複数の脈波信号に対応する複数の周波数領域データを示す図である。
図6における実線は、脈波センサー2Aが出力した脈波信号に基づく周波数領域データであり、破線は、脈波センサー2Bが出力した脈波信号に基づく周波数領域データである。
図6に示すように、脈波センサー2と身体との密着度合いによって、複数の周波数領域データの信号レベルには差がある。
図6に示す例の場合、脈波センサー2Aに対応する周波数領域データのS/N比が、脈波センサー2Bに対応する周波数領域データのS/N比よりも大きいので、選択部144は、脈波センサー2Aの周波数領域データを選択する。選択部144は、脈波センサー2Aの周波数領域データを選択したことを脈拍数特定部145に通知する。
【0037】
脈拍数特定部145は、選択部144が選択した周波数領域データに基づいて脈拍数を特定する。脈拍数特定部145は、例えば、周波数領域データにおける基本波の周波数に基づいて脈拍数を特定してもよい。
図4の実線で示したように、基本波の周波数が1.6Hzである場合、脈拍数特定部145は、脈拍数が60×1.6=96回/秒であると特定する。
【0038】
脈拍数特定部145は、基本波の周波数を特定するために、算出部142が算出した暫定的な脈拍周期を用いてもよい。脈拍数特定部145は、例えば、暫定的な脈拍周期に対応する周波数を算出し、算出した周波数の近傍において信号レベルが極大になっている周波数を基本波の周波数とする。脈拍数特定部145は、暫定的な脈拍周期に対応する基本波の周波数の2倍の周波数未満(すなわち一次高調波の周波数未満)の範囲において信号レベルが極大になっている周波数を基本波の周波数としてもよい。脈拍数特定部145は、暫定的な脈拍周期に対応する周波数を基準とする所定の範囲内(例えば±10%の範囲内)において信号レベルが極大になっている周波数を基本波の周波数としてもよい。脈拍数特定部145がこのように動作することで、ノイズの周波数成分が存在する場合であっても、基本波の周波数を誤検出する確率を下げることができる。
【0039】
[脈拍数測定装置1における処理の流れ]
図7は、脈拍数測定装置1における処理の流れを示すフローチャートである。
図7に示すフローチャートは、脈拍数測定装置1の電源が投入された時点から開始している。
【0040】
脈拍数測定装置1の電源が投入されると、信号取得部141は、複数の脈波信号の取得を開始する(S11)。算出部142は、信号取得部141が取得した複数の脈波信号に基づいて、暫定的な脈拍周期を算出する(S12)。信号変換部143は、算出された暫定的な脈拍周期に基づいて、フーリエ変換の対象とする期間を決定し(S13)、決定した期間にわたる複数の脈波信号をフーリエ変換することにより、複数の周波数領域データを生成する(S14)。
【0041】
続いて、選択部144は、複数の周波数領域データそれぞれのS/N比を算出し(S15)、算出したS/N比が相対的に良好な周波数領域データを選択する(S16)。脈拍数特定部145は、選択部144が選択した周波数領域データに基づいて脈拍数を特定する(S17)。
【0042】
[変形例]
以上の説明においては、信号変換部143が、算出部142が算出した暫定的な脈拍周期に基づいてフーリエ変換の対象とする期間を決定する場合を例示したが、信号変換部143は、暫定的な脈拍周期を用いることなく、予め決定された期間をフーリエ変換の対象とする期間にしてもよい。
【0043】
また、信号変換部143は、周波数領域データの品質に基づいて、フーリエ変換の対象とする期間を更新してもよい。信号変換部143は、例えば、周波数領域データの品質が許容レベル以上の状態が所定の時間以上継続し、脈波信号が安定していると判定した場合に、フーリエ変換の対象とする期間を短くする。
【0044】
具体的には、信号変換部143は、第1期間にわたって複数の脈波信号をフーリエ変換することにより複数の周波数領域データを生成し、複数の周波数領域データの少なくとも一つの周波数領域データの品質が所定の条件を満たす場合に、複数の脈波信号をフーリエ変換する対象とする期間を、第1期間よりも短い第2期間に決定する。信号変換部143は、例えば、まず、第1期間である40秒にわたって所定の周波数(例えば200Hz)でサンプリングされた脈波信号をフーリエ変換することにより周波数領域データを生成する。信号変換部143は、生成した周波数領域データに基づいて算出されたS/N比が閾値以上である場合に、第1期間の半分の第2期間である20秒にわたって所定の周波数でサンプリングされた脈波信号をフーリエ変換することにより周波数領域データを生成する。
【0045】
図8は、フーリエ変換の対象とする期間が異なる複数の周波数領域データを示す図である。
図8における実線は、脈拍数が約90回/秒の脈波信号のフーリエ変換の対象とする期間を40秒とした場合の周波数領域データを示し、破線は、フーリエ変換の対象とする期間を20秒とした場合の周波数領域データを示す。このように、フーリエ変換の対象とする期間を短縮しても周波数領域データの品質に有意差がないと判定した場合、信号変換部143は、それ以降の処理において、フーリエ変換の対象とする期間を短縮した期間とする。信号変換部143がこのように動作することで、フーリエ変換に要する時間を短縮することができるので、脈拍数特定部145が脈拍数を特定するまでの時間を短縮することができる。
【0046】
信号変換部143は、第1期間にわたって複数の脈波信号をフーリエ変換することにより生成した複数の周波数領域データのうち、選択部144が選択した周波数領域データの品質が所定の条件を満たす場合に、複数の脈波信号をフーリエ変換する対象とする期間を第2期間に決定してもよい。信号変換部143がこのように動作することで、脈拍数特定部145が脈拍数の特定に用いる周波数領域データの品質に基づいて、フーリエ変換の対象とする期間を短縮することができるので、フーリエ変換の対象とする期間を短縮したことにより脈拍数の測定精度が低下することを防げる。
【0047】
[脈拍数測定装置1による効果]
以上説明したように、信号変換部143は、複数の脈波信号それぞれをフーリエ変換することにより複数の脈波信号を複数の周波数領域データに変換し、選択部144は、複数の周波数領域データから、所定の周波数範囲のレベル又は信号対雑音比が許容値以上の周波数領域データを選択する。そして、脈拍数特定部145は選択部144が選択した周波数領域データに基づいて脈拍数を特定する。脈拍数測定装置1がこのように構成されていることにより、脈拍数特定部145が、品質の高い脈波信号に対応する周波数領域データを用いて脈拍数を特定することができるので、脈拍数の測定精度が向上する。
【0048】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【0049】
例えば、
図1においては、脈拍数測定装置1が、無線チャネルWを介して複数の脈波センサー2から脈波信号を取得する場合を例示したが、複数の脈波センサー2と脈拍数測定装置1とが同一の筐体内に収容されていてもよい。また、上記の説明では、脈拍数測定装置1が表示部12を有しており、脈拍数測定装置1が、測定した脈拍数を表示部12に表示する場合を例示したが、脈拍数測定装置1は、測定した脈拍数を外部装置に送信してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 脈拍数測定装置
2 脈波センサー
11 通信部
12 表示部
13 記憶部
14 制御部
141 信号取得部
142 算出部
143 信号変換部
144 選択部
145 脈拍数特定部