(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20240416BHJP
F25B 5/04 20060101ALI20240416BHJP
F25B 43/00 20060101ALI20240416BHJP
B60H 1/22 20060101ALI20240416BHJP
B60H 1/00 20060101ALI20240416BHJP
F25B 27/02 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
F25B1/00 361A
F25B1/00 371N
F25B1/00 371C
F25B5/04 B
F25B1/00 371F
F25B1/00 399Y
F25B1/00 371J
F25B1/00 321A
F25B1/00 304B
F25B1/00 304H
F25B43/00 R
B60H1/22 651C
B60H1/00 101C
F25B27/02 Z
(21)【出願番号】P 2020164846
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 徹
(72)【発明者】
【氏名】榎本 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】加見 祐一
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 祐司
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-184902(JP,A)
【文献】特開2003-042573(JP,A)
【文献】特開2014-000948(JP,A)
【文献】特開2012-032091(JP,A)
【文献】特開昭57-117757(JP,A)
【文献】特開2016-061519(JP,A)
【文献】特開2020-023224(JP,A)
【文献】特開2018-185104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
F25B 5/04
F25B 43/00
B60H 1/22
B60H 1/00
F25B 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を吸入して圧縮し吐出する圧縮機(11)と、
前記圧縮機から吐出された前記冷媒を空調対象空間に送風される空気に放熱させる放熱部(12、40、42、27)と、
前記放熱部で放熱された前記冷媒を減圧させる減圧部(14a、14c)と、
前記減圧部で減圧された前記冷媒に吸熱させて前記冷媒を蒸発させる蒸発部(16)と、
前記空気または前記空調対象空間内の人体を、前記冷媒とは異なる熱源を利用して加熱する加熱部(43)と、
前記圧縮機を制御する制御部(60)とを備え、
前記圧縮機の単位時間当たりの消費エネルギーに対する前記放熱部での放熱能力の変化の割合である第1変化割合と、前記加熱部の単位時間当たりの消費エネルギーに対する前記加熱部での加熱能力の変化の割合である第2変化割合とを同一の単位時間当たりの消費エネルギーで比較したとき、前記第1変化割合は、単位時間当たりの消費エネルギーが上限値(Pe_limit)を下回っているとき前記第2変化割合を上回り、単位時間当たりの消費エネルギーが前記上限値を上回っているとき前記第2変化割合を下回るという特性を有しており、
前記制御部は、前記圧縮機の単位時間当たりの消費エネルギーが前記上限値以下と
なって前記放熱部の放熱効率が前記加熱部での加熱効率以上になるように前記圧縮機を制御する冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記圧縮機が吐出する前記冷媒の流量が上限流量(Gr_limit)以下となるように前記圧縮機を制御することによって、前記圧縮機の単位時間当たりの消費エネルギーを前記上限値以下とする請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記蒸発部は、外気から前記冷媒に吸熱させる第1蒸発部であ
る請求項2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
さらに、廃熱発生機器(80)が発生する廃熱を前記減圧部で減圧された前記冷媒に吸熱させて前記冷媒を蒸発させる第2蒸発部(19)と、
前記第2蒸発部に前記冷媒が流れる廃熱回収暖房モードと、前記第2蒸発部に前記冷媒が流れない暖房モードとを切り替える切替部(14c、15b)とを備え、
前記制御部は、前記廃熱回収暖房モードでは、前記暖房モードよりも前記上限流量を大きくする請求項
2または3に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記廃熱回収暖房モードにおいて前記暖房モードよりも前記上限流量を大きくする量(ΔGr_limit)を、前記第2蒸発部での前記廃熱の吸熱量(Qw)が大きいほど大きくする請求項
4に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記圧縮機の回転数が上限回転数(Nc_limit)以下となるように前記圧縮機を制御することによって、前記圧縮機が吐出する前記冷媒の流量を前記上限流量以下とし、
前記上限回転数を、前記圧縮機が吸入する前記冷媒の圧力(Ps)に基づいて決定する請求項
2ないし5のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記放熱部で加熱された前記空気の温度が上限温度(TAO_HP)以下となるように前記圧縮機を制御することによって、前記圧縮機が吐出する前記冷媒の流量を前記上限流量以下とし、
前記上限温度を、前記圧縮機が吸入する前記冷媒の圧力(Ps)に基づいて決定する請求項
2ないし5のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項8】
さらに、廃熱発生機器(80)が発生する廃熱を前記減圧部で減圧された前記冷媒に吸熱させて前記冷媒を蒸発させる第2蒸発部(19)と、
前記第2蒸発部に前記冷媒が流れる廃熱回収暖房モードと、前記第2蒸発部に前記冷媒が流れない暖房モードとを切り替える切替部(14c、15b)とを備え、
前記制御部は、前記廃熱回収暖房モードでは、前記圧縮機が吸入する前記冷媒の圧力を、外気の温度(Tam)と前記第2蒸発部での前記廃熱の吸熱量とに基づいて算出する請求項
6または7に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項9】
前記第2蒸発部は、前記廃熱を熱媒体を介して前記冷媒に吸熱させるようになっており、
前記制御部は、前記第2蒸発部における前記熱媒体の温度(TWL)と前記冷媒の飽和温度(Ts)との差に基づいて、前記第2蒸発部での前記廃熱の吸熱量を算出する請求項
5または8に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項10】
前記放熱部の冷媒流れ下流側かつ前記減圧部の冷媒流れ上流側に配置され、余剰の前記冷媒を貯える貯液部(25)と、
前記放熱部の冷媒流れ下流側かつ前記貯液部の冷媒流れ上流側に配置され、前記冷媒を減圧させて前記冷媒に過冷却度をもたせる過冷却用減圧部(26a、26b)とを備える請求項
2ないし9のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項11】
前記過冷却用減圧部は、絞り開度が固定された固定絞りである請求項
10に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項12】
前記過冷却用減圧部は、絞り開度を変化させることが可能な可変絞りであり、
前記制御部は、前記過冷却用減圧部の冷媒流れ下流側かつ前記貯液部の冷媒流れ上流側における前記冷媒の温度に基づいて前記過冷却用減圧部の絞り開度を制御する請求項
10に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項13】
前記圧縮機は、電力を供給されることによって前記冷媒を吸入して圧縮し吐出し、
前記加熱部は、電力を供給されることによって前記空気または前記空調対象空間内の人体を加熱し、
前記第1変化割合は、前記圧縮機の消費電力に対する前記放熱部での放熱能力の変化の割合であり、
前記第2変化割合は、前記加熱部の消費電力に対する前記加熱部での加熱能力の変化の割合である請求項
1ないし12のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項14】
前記制御部は、
前記圧縮機の消費電力が上限電力(Pe_limit)以下となるように前記圧縮機を制御することによって、前記圧縮機の単位時間当たりの消費エネルギーを前記上限値以下とする請求項
13に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項15】
前記加熱部は、前記放熱部で加熱された前記空気を加熱する請求項
13または14に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項16】
前記加熱部は、前記空調対象空間内の人体を熱伝導または輻射によって加熱する請求項
13または14に記載の冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプサイクルによる暖房を行うことのできる冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、ヒートポンプサイクルによる暖房を行う車両用空調装置が記載されている。この従来技術では、ヒートポンプサイクルによる暖房運転時の暖房用熱交換器目標温度が目標吹出温度になるよう、コンプレッサを制御すると共に、目標吹出温度が制限値より高い時は、暖房用熱交換器目標温度を、目標吹出温度より低くなるよう設定して、コンプレッサ制御する。
【0003】
これにより、ユーザーの誤操作などにより目標吹出温度が高くなりすぎているときに省電力運転が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、サイクルの低圧圧力が変化するとサイクル効率が変化するが、サイクルの低圧圧力に応じた制御の仕方について何ら言及されていないので、サイクル効率の向上に限界がある。
【0006】
本発明は、上記点に鑑みて、暖房効率を極力最大化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の冷凍サイクル装置は、
冷媒を吸入して圧縮し吐出する圧縮機(11)と、
圧縮機から吐出された冷媒を空調対象空間に送風される空気に放熱させる放熱部(12、40、42、27)と、
放熱部で放熱された冷媒を減圧させる減圧部(14a、14c)と、
減圧部で減圧された冷媒に吸熱させて冷媒を蒸発させる蒸発部(16)と、
空気または空調対象空間内の人体を、冷媒とは異なる熱源を利用して加熱する加熱部(43)と、
圧縮機を制御する制御部(60)とを備え、
圧縮機の単位時間当たりの消費エネルギーに対する放熱部での放熱能力の変化の割合である第1変化割合と、加熱部の単位時間当たりの消費エネルギーに対する加熱部での加熱能力の変化の割合である第2変化割合とを同一の単位時間当たりの消費エネルギーで比較したとき、第1変化割合は、単位時間当たりの消費エネルギーが上限値(Pe_limit)を下回っているとき第2変化割合を上回り、単位時間当たりの消費エネルギーが上限値を上回っているとき第2変化割合を下回るという特性を有しており、
制御部は、圧縮機の単位時間当たりの消費エネルギーが上限値以下となって放熱部の放熱効率が加熱部での加熱効率以上になるように圧縮機を制御する。
【0008】
これによると、放熱部の放熱効率を加熱部での加熱効率以上にできるので、暖房効率を極力最大化できる。
【0009】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態における冷凍サイクル装置の全体構成を示す図であり、冷房モードの作動状態を示している。
【
図2】第1実施形態における冷凍サイクル装置の電気制御部を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態における圧縮機の上限消費電力を説明するグラフである。
【
図4】第1実施形態における上限流量を算出するための特性図である。
【
図5】第1実施形態において吸入冷媒密度を算出するために用いられる特性図である。
【
図6】第1実施形態における冷凍サイクル装置の全体構成を示す図であり、暖房モードの作動状態を示している。
【
図7】第1実施形態において廃熱回収量を算出するために用いられる特性図である。
【
図8】第1実施形態における冷凍サイクル装置の全体構成を示す図であり、廃熱回収暖房モードの作動状態を示している。
【
図9】第1実施形態の冷凍サイクル装置の暖房モードにおける冷媒の状態の変化を示すモリエル線図である。
【
図10】第2実施形態において上限温度を算出するために用いられる特性図である。
【
図11】第2実施形態において吐出冷媒温度と吐出冷媒流量との関係を示すグラフである。
【
図12】第3実施形態において上限電力を算出するために用いられる特性図である。
【
図13】第3実施形態において圧縮機の消費電力と吐出冷媒流量との関係を示すグラフである。
【
図14】第4実施形態における冷凍サイクル装置の全体構成を示す図である。
【
図15】第5実施形態における冷凍サイクル装置の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1~
図9を用いて、第1実施形態を説明する。冷凍サイクル装置10は、電動モータから走行用の駆動力を得る電気自動車に搭載された車両用空調装置1に適用されている。車両用空調装置1は、バッテリ温度調整機能付きの空調装置である。車両用空調装置1は、空調対象空間である車室内の空調を行うとともに、バッテリ80の温度を調整する。
【0012】
バッテリ80は、電動モータ等の車載機器へ供給される電力を蓄える二次電池である。本実施形態のバッテリ80は、リチウムイオン電池である。バッテリ80は、複数の電池セルを積層配置し、これらの電池セルを電気的に直列あるいは並列に接続することによって形成された、いわゆる組電池である。バッテリ80は、作動に伴って廃熱を発生する廃熱発生機器である。
【0013】
この種のバッテリは、低温になると出力が低下しやすく、高温になると劣化が進行しやすい。このため、バッテリの温度は、バッテリの充放電容量を充分に活用することができる適切な温度範囲内(本実施形態では、15℃以上、かつ、55℃以下)に維持されている必要がある。
【0014】
そこで、車両用空調装置1では、冷凍サイクル装置10によって生成された冷熱によってバッテリ80を冷却することができるようになっている。本実施形態の冷凍サイクル装置10における冷却対象物は、空気およびバッテリ80である。
【0015】
車両用空調装置1は、
図1の全体構成図に示すように、冷凍サイクル装置10、室内空調ユニット30、高温側熱媒体回路40、低温側熱媒体回路50等を備えている。
【0016】
冷凍サイクル装置10は、車室内の空調を行うために、車室内へ送風される空気を冷却し、高温側熱媒体回路40を循環する高温側熱媒体を加熱する。冷凍サイクル装置10は、バッテリ80を冷却するために、低温側熱媒体回路50を循環する低温側熱媒体を冷却する。
【0017】
冷凍サイクル装置10は、車室内の空調を行うために、様々な運転モード用の冷媒回路を切替可能である。例えば、冷房モードの冷媒回路、暖房モードの冷媒回路等を切替可能である。冷凍サイクル装置10は、空調用の各運転モードにおいて、バッテリ80を冷却する運転モードとバッテリ80の冷却を行わない運転モードとを切替可能である。
【0018】
冷凍サイクル装置10では、冷媒としてHFO系冷媒(具体的には、R1234yf)を採用しており、圧縮機11から吐出された吐出冷媒の圧力が冷媒の臨界圧力を超えない蒸気圧縮式の亜臨界冷凍サイクルを構成している。冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されている。冷凍機油の一部は、冷媒とともにサイクルを循環している。
【0019】
冷凍サイクル装置10の構成機器のうち、圧縮機11は、冷凍サイクル装置10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出する。圧縮機11は、車室の前方に区画された駆動装置室内に配置されている。駆動装置室には、車両走行用の電動モータ等が収容されている。
【0020】
圧縮機11は、吐出容量が固定された固定容量型の圧縮機構を電動モータにて回転駆動する電動圧縮機である。圧縮機11は、
図2に示す制御装置60から出力される制御信号によって、回転数(すなわち、冷媒吐出能力)が制御される。
【0021】
図1に示すように、圧縮機11の吐出口には、冷媒熱媒体熱交換器12の冷媒通路の入口側が接続されている。冷媒熱媒体熱交換器12は、圧縮機11から吐出された高圧冷媒を流通させる冷媒通路と、高温側熱媒体回路40を循環する高温側熱媒体を流通させる熱媒体通路とを有している。冷媒熱媒体熱交換器12は、冷媒通路を流通する高圧冷媒と、熱媒体通路を流通する高温側熱媒体とを熱交換させて、高温側熱媒体を加熱する加熱用の熱交換器である。
【0022】
冷媒熱媒体熱交換器12の冷媒通路の出口には、互いに連通する3つの流入出口を有する第1三方継手13aの流入口側が接続されている。このような三方継手としては、複数の配管を接合して形成されたものや、金属ブロックや樹脂ブロックに複数の冷媒通路を設けることによって形成されたものを採用することができる。
【0023】
冷凍サイクル装置10は、第2~第8三方継手13b~13hを備えている。これらの第2~第8三方継手13b~13hの基本的構成は、第1三方継手13aと同様である。
【0024】
第1三方継手13aの一方の流出口には、バイパス通路22aを介して、第2三方継手13bの一方の流入口側が接続されている。バイパス通路22aには、除湿用開閉弁15aおよび第1固定絞り26aが配置されている。
【0025】
除湿用開閉弁15aは、バイパス通路22aを開閉する電磁弁である。冷凍サイクル装置10は、暖房用開閉弁15bおよび冷房用開閉弁15dを備えている。暖房用開閉弁15bおよび冷房用開閉弁15dの基本的構成は、除湿用開閉弁15aと同様である。
【0026】
除湿用開閉弁15a、暖房用開閉弁15bおよび冷房用開閉弁15dは、冷媒通路を開閉することで、各運転モードの冷媒回路を切り替えることができる。除湿用開閉弁15a、暖房用開閉弁15bおよび冷房用開閉弁15dは、サイクルの冷媒回路を切り替える冷媒回路切替部である。除湿用開閉弁15a、暖房用開閉弁15bおよび冷房用開閉弁15dは、制御装置60から出力される制御電圧によって制御される。
【0027】
第1固定絞り26aは、冷媒を減圧させる減圧部であり、具体的には、オリフィスやキャピラリーチューブ等である。
【0028】
第1三方継手13aの他方の流出口には、冷房用開閉弁15dを介して、第7三方継手13gの一方の流入口側が接続されている。第7三方継手13gの流出口には、暖房用膨張弁14aの入口側が接続されている。
【0029】
暖房用膨張弁14aは、少なくとも車室内の暖房を行う運転モード時に、冷媒熱媒体熱交換器12の冷媒通路から流出した高圧冷媒を減圧させるとともに、下流側へ流出させる冷媒の流量(質量流量)を調整する暖房用減圧部である。暖房用膨張弁14aは、絞り開度を変更可能に構成された弁体と、この弁体の開度を変化させる電動アクチュエータ(換言すれば電気的機構)とを有して構成される電気式の可変絞り機構(換言すれば、電気式膨張弁)である。
【0030】
冷凍サイクル装置10は、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cを備えている。冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cの基本的構成は、暖房用膨張弁14aと同様である。
【0031】
暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cは、弁開度を全開にすることで流量調整作用および冷媒減圧作用を殆ど発揮することなく単なる冷媒通路として機能する全開機能、および弁開度を全閉にすることで冷媒通路を閉塞する全閉機能を有している。
【0032】
この全開機能および全閉機能によって、暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cは、各運転モードの冷媒回路を切り替えることができる。暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cは、冷媒回路切替部として機能する。暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cは、制御装置60から出力される制御信号(制御パルス)によって制御される。
【0033】
暖房用膨張弁14aの出口には、室外熱交換器16の冷媒入口側が接続されている。室外熱交換器16は、暖房用膨張弁14aから流出した冷媒と図示しない冷却ファンにより送風された外気とを熱交換させる熱交換器である。室外熱交換器16は、駆動装置室内の前方側に配置されている。このため、車両走行時には、室外熱交換器16に走行風を当てることができる。
【0034】
室外熱交換器16の冷媒出口には、第3三方継手13cの流入口側が接続されている。第3三方継手13cの一方の流出口には、暖房用通路22bを介して、第4三方継手13dの一方の流入口側が接続されている。暖房用通路22bには、この冷媒通路を開閉する暖房用開閉弁15bが配置されている。
【0035】
暖房用通路22bにおいて、暖房用開閉弁15bと第4三方継手13dとの間には、第1逆止弁17aが配置されている。第1逆止弁17aは、暖房用開閉弁15b側から第4三方継手13d側へ冷媒が流れることを許容し、第4三方継手13d側から暖房用開閉弁15b側へ冷媒が流れることを禁止する。
【0036】
第3三方継手13cの他方の流出口には、第2三方継手13bの他方の流入口側が接続されている。第3三方継手13cの他方の流出口側と第2三方継手13bの他方の流入口側とを接続する冷媒通路には、第2逆止弁17bが配置されている。第2逆止弁17bは、第3三方継手13c側から第2三方継手13b側へ冷媒が流れることを許容し、第2三方継手13b側から第3三方継手13c側へ冷媒が流れることを禁止する。
【0037】
第3三方継手13cの他方の流出口側と第2三方継手13bの他方の流入口側とを接続する冷媒通路において、第2逆止弁17bと第2三方継手13bの他方の流入口との間には、第2固定絞り26bが配置されている。第2固定絞り26bは、冷媒を減圧させる減圧部であり、具体的には、オリフィスやキャピラリーチューブ等である。
【0038】
第2三方継手13bの流出口には、レシーバ25の入口側が接続されている。レシーバ25は、気液分離機能を有する貯液部である。レシーバ25は、冷媒熱媒体熱交換器12または室外熱交換器16(すなわち、冷凍サイクル装置10において冷媒を凝縮させる凝縮器として機能する熱交換部)から流出した冷媒の気液を分離する。レシーバ25は、分離された液相冷媒の一部を下流側に流出させ、残余の液相冷媒をサイクル内の余剰冷媒として貯える。
【0039】
レシーバ25の冷媒出口には、第8三方継手13hの流入口側が接続されている。第6三方継手13fの一方の流出口には、出口側通路22dを介して第7三方継手13gの他方の流入口側が接続されている。出口側通路22dには、第3逆止弁17cが配置されている。第3逆止弁17cは、第8三方継手13h側から第7三方継手13g側へ冷媒が流れることを許容し、第7三方継手13g側から第8三方継手13h側へ冷媒が流れることを禁止する。
【0040】
第8三方継手13hの他方の流出口には、第5三方継手13eの流入口側が接続されている。第5三方継手13eの一方の流出口には、冷房用膨張弁14bの入口側が接続されている。第5三方継手13eの他方の流出口には、冷却用膨張弁14cの入口側が接続されている。
【0041】
冷房用膨張弁14bは、少なくとも車室内の冷房を行う運転モード時に、室外熱交換器16から流出した冷媒を減圧させるとともに、下流側へ流出させる冷媒の流量を調整する空調用減圧部である。冷房用膨張弁14bは第1減圧部である。
【0042】
冷房用膨張弁14bの出口には、室内蒸発器18の冷媒入口側が接続されている。室内蒸発器18は、室内空調ユニット30の空調ケース31内に配置されている。室内蒸発器18は、冷房用膨張弁14bにて減圧された低圧冷媒と送風機32から送風された空気とを熱交換させて低圧冷媒を蒸発させ、低圧冷媒に吸熱作用を発揮させることによって空気を冷却する空調用蒸発部である。室内蒸発器18は第1蒸発部である。室内蒸発器18の冷媒出口には、蒸発圧力調整弁20の入口側が接続されている。
【0043】
蒸発圧力調整弁20は、室内蒸発器18の着霜を抑制するために、室内蒸発器18における冷媒蒸発圧力を、予め定めた基準圧力以上に維持する。蒸発圧力調整弁20は、室内蒸発器18の出口側冷媒の圧力の上昇に伴って、弁開度を増加させる機械式の可変絞り機構である。これにより、蒸発圧力調整弁20は、室内蒸発器18における冷媒蒸発温度を、室内蒸発器18の着霜を抑制可能な着霜抑制温度(本実施形態では、1℃)以上に維持している。蒸発圧力調整弁20の出口には、第6三方継手13fの一方の流入口側が接続されている。
【0044】
冷却用膨張弁14cは、少なくともバッテリ80の冷却を行う運転モード時に、室外熱交換器16から流出した冷媒を減圧させるとともに、下流側へ流出させる冷媒の流量を調整する電池用減圧部である。
【0045】
冷却用膨張弁14cの出口には、チラー19の冷媒通路の入口側が接続されている。チラー19は、冷却用膨張弁14cにて減圧された低圧冷媒を流通させる冷媒通路と、低温側熱媒体回路50を循環する低温側熱媒体を流通させる熱媒体通路とを有している。チラー19は、冷媒通路を流通する低圧冷媒と、熱媒体通路を流通する低温側熱媒体とを熱交換させて、低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる第2蒸発部である。
【0046】
チラー19の冷媒通路の出口には、第6三方継手13fの他方の流入口側が接続されている。第6三方継手13fの流出口には、第4三方継手13dの他方の流入口側が接続されている。第4三方継手13dの流出口には、圧縮機11の吸入口側が接続されている。
【0047】
室内蒸発器18およびチラー19は、冷媒流れに対して互いに並列的に接続されている。バイパス通路22aは、冷媒熱媒体熱交換器12の冷媒通路から流出した冷媒を、レシーバ25の上流側へ導いている。暖房用通路22bは、室外熱交換器16から流出した冷媒を、圧縮機11の吸入口側へ導いている。
【0048】
高温側熱媒体回路40は、高温側熱媒体を循環させる熱媒体循環回路である。高温側熱媒体としては、エチレングリコール、ジメチルポリシロキサン、あるいはナノ流体等を含む溶液、不凍液等を採用することができる。高温側熱媒体回路40には、冷媒熱媒体熱交換器12の熱媒体通路、高温側熱媒体ポンプ41、ヒータコア42等が配置されている。
【0049】
高温側熱媒体ポンプ41は、高温側熱媒体を冷媒熱媒体熱交換器12の熱媒体通路の入口側へ圧送する水ポンプである。高温側熱媒体ポンプ41は、制御装置60から出力される制御電圧によって、回転数(すなわち、圧送能力)が制御される電動ポンプである。
【0050】
冷媒熱媒体熱交換器12の熱媒体通路の出口には、ヒータコア42の熱媒体入口側が接続されている。ヒータコア42は、冷媒熱媒体熱交換器12にて加熱された高温側熱媒体と室内蒸発器18を通過した空気とを熱交換させて、空気を加熱する熱交換器である。ヒータコア42は、室内空調ユニット30の空調ケース31内に配置されている。ヒータコア42の熱媒体出口には、高温側熱媒体ポンプ41の吸入口側が接続されている。
【0051】
従って、高温側熱媒体回路40では、高温側熱媒体ポンプ41が、ヒータコア42へ流入する高温側熱媒体の流量を調整することによって、ヒータコア42における高温側熱媒体の空気への放熱量(すなわち、ヒータコア42における空気の加熱量)を調整することができる。
【0052】
冷媒熱媒体熱交換器12および高温側熱媒体回路40の各構成機器は、圧縮機11から吐出された冷媒を熱源として、空気に放熱する放熱部である。
【0053】
低温側熱媒体回路50は、低温側熱媒体を循環させる熱媒体循環回路である。低温側熱媒体としては、高温側熱媒体と同様の流体を採用することができる。低温側熱媒体回路50には、チラー19の熱媒体通路、低温側熱媒体ポンプ51、冷却用熱交換部52等が配置されている。
【0054】
低温側熱媒体ポンプ51は、低温側熱媒体をチラー19の熱媒体通路の入口側へ圧送する水ポンプである。低温側熱媒体ポンプ51の基本的構成は、高温側熱媒体ポンプ41と同様である。
【0055】
チラー19の熱媒体通路の出口には、冷却用熱交換部52の入口側が接続されている。冷却用熱交換部52は、バッテリ80の複数の電池セルに接触するように配置された金属製の複数の熱媒体流路を有している。冷却用熱交換部52は、熱媒体流路を流通する低温側熱媒体と電池セルとを熱交換させることによって、バッテリ80を冷却する熱交換部である。
【0056】
冷却用熱交換部52は、積層配置された電池セル同士の間に熱媒体流路を配置することによって形成されている。冷却用熱交換部52は、バッテリ80に一体的に形成されていてもよい。例えば、積層配置された電池セルを収容する専用ケースに熱媒体流路を設けることによって、バッテリ80に一体的に形成されていてもよい。冷却用熱交換部52の出口には、低温側熱媒体ポンプ51の吸入口側が接続されている。
【0057】
低温側熱媒体回路50では、低温側熱媒体ポンプ51が、冷却用熱交換部52へ流入する低温側熱媒体の流量を調整することによって、冷却用熱交換部52における低温側熱媒体がバッテリ80から奪う吸熱量を調整することができる。チラー19および低温側熱媒体回路50の各構成機器は、冷却用膨張弁14cから流出した冷媒を蒸発させて、バッテリ80を冷却する電池冷却部である。
【0058】
室内空調ユニット30は、冷凍サイクル装置10によって温度調整された空気を車室内へ吹き出すためのものである。室内空調ユニット30は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されている。
【0059】
室内空調ユニット30は、その外殻を形成する空調ケース31内に形成された空気通路内に送風機32、室内蒸発器18、ヒータコア42等を収容したものである。空調ケース31は、車室内に送風される空気の空気通路を形成している。空調ケース31は、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。
【0060】
空調ケース31の空気流れ最上流側には、内外気切替装置33が配置されている。内外気切替装置33は、空調ケース31内へ内気(すなわち車室内空気)と外気(すなわち車室外空気)とを切替導入するものである。
【0061】
内外気切替装置33は、空調ケース31内へ内気を導入させる内気導入口および外気を導入させる外気導入口の開口面積を、内外気切替ドアによって連続的に調整して、内気の導入風量と外気の導入風量との導入割合を変化させる。内外気切替ドアは、内外気切替ドア用の電動アクチュエータによって駆動される。内外気切替ドア用の電動アクチュエータは、制御装置60から出力される制御信号によって制御される。
【0062】
内外気切替装置33の空気流れ下流側には、送風機32が配置されている。送風機32は、内外気切替装置33を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する。送風機32は、遠心多翼ファンを電動モータにて駆動する電動送風機である。送風機32は、制御装置60から出力される制御電圧によって、回転数(すなわち、送風能力)が制御される。
【0063】
送風機32の空気流れ下流側には、室内蒸発器18、ヒータコア42および電気ヒータ43が、空気流れに対して、この順に配置されている。室内蒸発器18は、ヒータコア42よりも、空気流れ上流側に配置されている。ヒータコア42は、電気ヒータ43よりも、空気流れ上流側に配置されている。
【0064】
電気ヒータ43は、空気を補助的に加熱する補助加熱部である。電気ヒータ43は、例えば、PTC素子(即ち、正特性サーミスタ)を有するPTCヒータである。電気ヒータ43は、制御装置60から出力される制御電圧によって、空気を加熱するための熱量を任意に調整することができる。電気ヒータ43は、空気を、冷媒とは異なる熱源を利用して加熱する加熱部である。
【0065】
空調ケース31内には、室内蒸発器18通過後の空気を、ヒータコア42および電気ヒータ43を迂回して流す冷風バイパス通路35が設けられている。空調ケース31内の室内蒸発器18の空気流れ下流側、かつヒータコア42の空気流れ上流側には、エアミックスドア34が配置されている。
【0066】
エアミックスドア34は、室内蒸発器18通過後の空気のうち、ヒータコア42および電気ヒータ43側を通過する空気の風量と冷風バイパス通路35を通過させる空気の風量との風量割合を調整する風量割合調整部である。エアミックスドア34は、エアミックスドア用の電動アクチュエータによって駆動される。この電動アクチュエータは、制御装置60から出力される制御信号によって制御される。
【0067】
空調ケース31内のヒータコア42、電気ヒータ43および冷風バイパス通路35の空気流れ下流側には、混合空間が配置されている。混合空間は、ヒータコア42および電気ヒータ43にて加熱された空気と冷風バイパス通路35を通過して加熱されていない空気とを混合させる空間である。
【0068】
空調ケース31の空気流れ下流部には、混合空間にて混合された空気(すなわち、空調風)を、空調対象空間である車室内へ吹き出すための開口穴が配置されている。
【0069】
この開口穴としては、フェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴(いずれも図示せず)が設けられている。フェイス開口穴は、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。フット開口穴は、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。デフロスタ開口穴は、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。
【0070】
これらのフェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴は、それぞれ空気通路を形成するダクトを介して、車室内に設けられたフェイス吹出口、フット吹出口およびデフロスタ吹出口(いずれも図示せず)に接続されている。
【0071】
エアミックスドア34が、ヒータコア42および電気ヒータ43を通過させる風量と冷風バイパス通路35を通過させる風量との風量割合を調整することによって、混合空間にて混合される空調風の温度が調整される。これにより、各吹出口から車室内へ吹き出される空気(空調風)の温度が調整される。
【0072】
フェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴の空気流れ上流側には、それぞれ、フェイスドア、フットドア、およびデフロスタドア(いずれも図示せず)が配置されている。フェイスドアは、フェイス開口穴の開口面積を調整するものである。フットドアは、フット開口穴の開口面積を調整するものである。デフロスタドアは、デフロスタ開口穴の開口面積を調整するものである。
【0073】
これらのフェイスドア、フットドア、デフロスタドアは、吹出口モードを切り替える吹出口モード切替装置を構成するものである。これらのドアは、リンク機構等を介して、吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータに連結されて連動して回転操作される。この電動アクチュエータも、制御装置60から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0074】
吹出口モード切替装置によって切り替えられる吹出口モードとしては、具体的に、フェイスモード、バイレベルモード、フットモード等がある。
【0075】
フェイスモードは、フェイス吹出口を全開としてフェイス吹出口から車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。バイレベルモードは、フェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内乗員の上半身と足元に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。フットモードは、フット吹出口を全開とするとともにデフロスタ吹出口を小開度だけ開口して、フット吹出口から主に空気を吹き出す吹出口モードである。
【0076】
乗員が、
図2に示す操作パネル70に設けられた吹出モード切替スイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタモードに切り替えることもできる。デフロスタモードは、デフロスタ吹出口を全開としてデフロスタ吹出口からフロント窓ガラス内面に空気を吹き出す吹出口モードである。
【0077】
次に、本実施形態の電気制御部の概要について説明する。制御装置60は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。そして、そのROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、その出力側に接続された各種制御対象機器11、14a~14c、15a、15b、15d、32、41、51等の作動を制御する。
【0078】
制御装置60の入力側には、
図2のブロック図に示すように、内気温センサ61、外気温センサ62、日射センサ63、第1~第5冷媒温度センサ64a~64e、蒸発器温度センサ64f、第1~第3冷媒圧力センサ65a~65c、高温側熱媒体温度センサ66a、低温側熱媒体温度センサ67a、空調風温度センサ68、バッテリ温度センサ69等が接続されている。そして、制御装置60には、これらのセンサ群の検出信号が入力される。
【0079】
内気温センサ61は、内気温Tr(すなわち車室内温度)を検出する内気温検出部である。外気温センサ62は、外気温Tam(すなわち車室外温度)を検出する外気温検出部である。日射センサ63は、車室内へ照射される日射量Asを検出する日射量検出部である。
【0080】
第1冷媒温度センサ64aは、圧縮機11から吐出された冷媒の温度T1を検出する吐出冷媒温度検出部である。第2冷媒温度センサ64bは、冷媒熱媒体熱交換器12の冷媒通路から流出した冷媒の温度T2を検出する第2冷媒温度検出部である。第3冷媒温度センサ64cは、室外熱交換器16から流出した冷媒の温度T3を検出する第3冷媒温度検出部である。
【0081】
第4冷媒温度センサ64dは、室内蒸発器18から流出した冷媒の温度T4を検出する第4冷媒温度検出部である。第5冷媒温度センサ64eは、チラー19の冷媒通路から流出した冷媒の温度T5を検出する第5冷媒温度検出部である。
【0082】
蒸発器温度センサ64fは、室内蒸発器18における冷媒蒸発温度である蒸発器温度Tefinを検出する蒸発器温度検出部である。本実施形態の蒸発器温度センサ64fは、室内蒸発器18の熱交換フィン温度を検出している。
【0083】
第1冷媒圧力センサ65aは、冷媒熱媒体熱交換器12の冷媒通路から流出した冷媒の圧力P1を検出する第1冷媒圧力検出部である。第2冷媒圧力センサ65bは、チラー19の冷媒通路から流出した冷媒の圧力P2を検出する第2冷媒圧力検出部である。第3冷媒圧力センサ65cは、暖房用通路22bの冷媒の圧力P3を検出する第3冷媒圧力検出部である。
【0084】
高温側熱媒体温度センサ66aは、冷媒熱媒体熱交換器12の熱媒体通路から流出した高温側熱媒体の温度である高温側熱媒体温度TWHを検出する高温側熱媒体温度検出部である。低温側熱媒体温度センサ67aは、チラー19の熱媒体通路における低温側熱媒体の温度である低温側熱媒体温度TWLを検出する低温側熱媒体温度検出部である。
【0085】
空調風温度センサ68は、混合空間から車室内へ送風される空気温度TAVを検出する空調風温度検出部である。
【0086】
バッテリ温度センサ69は、バッテリ温度TB(すなわち、バッテリ80の温度)を検出するバッテリ温度検出部である。本実施形態のバッテリ温度センサ69は、複数の温度センサを有し、バッテリ80の複数の箇所の温度を検出している。このため、制御装置60では、バッテリ80の各部の温度差を検出することもできる。バッテリ温度TBとしては、複数の温度センサの検出値の平均値を採用している。
【0087】
図2に示すように、制御装置60の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル70が接続され、この操作パネル70に設けられた各種操作スイッチからの操作信号が入力される。
【0088】
操作パネル70に設けられた各種操作スイッチとしては、具体的に、車両用空調装置の自動制御運転を設定あるいは解除するオートスイッチ、室内蒸発器18で空気の冷却を行うことを要求する前席側エアコンスイッチ、送風機32の風量をマニュアル設定する風量設定スイッチ、車室内の目標温度Tsetを設定する温度設定スイッチ、吹出モードをマニュアル設定する吹出モード切替スイッチ等がある。
【0089】
本実施形態の制御装置60は、その出力側に接続された各種制御対象機器を制御する制御部が一体に構成されたものである。制御装置60のうちそれぞれの制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)は、それぞれの制御対象機器の作動を制御する制御部である。
【0090】
例えば、制御装置60のうち、圧縮機11の冷媒吐出能力(具体的には、圧縮機11の回転数)を制御する構成は、圧縮機制御部60aである。また、暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cの作動を制御する構成は、膨張弁制御部60bである。除湿用開閉弁15a、暖房用開閉弁15bおよび冷房用開閉弁15dの作動を制御する構成は、冷媒回路切替制御部60cである。
【0091】
高温側熱媒体ポンプ41の高温側熱媒体の圧送能力を制御する構成は、高温側熱媒体ポンプ制御部60dである。低温側熱媒体ポンプ51の低温側熱媒体の圧送能力を制御する構成は、低温側熱媒体ポンプ制御部60eである。
【0092】
次に、上記構成における本実施形態の作動について説明する。本実施形態の車両用空調装置1は、車室内の空調を行うとともに、バッテリ80の温度を調整する。冷凍サイクル装置10では、冷媒回路を切り替えて、複数の運転モードでの運転を行うことができる。複数の運転モードとしては、例えば以下の3種類の運転モードがある。
【0093】
(1)冷房モード:冷房モードは、バッテリ80の冷却を行うことなく、空気を冷却して車室内へ吹き出すことによって車室内の冷房を行う運転モードである。
【0094】
(2)暖房モード:暖房モードは、バッテリ80の冷却を行うことなく、空気を加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の暖房を行う運転モードである。
【0095】
(3)廃熱回収暖房モード:廃熱回収暖房モードは、バッテリ80の廃熱を回収しながら、空気を加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の暖房を行う運転モードである。
【0096】
冷房モードと暖房モードの切り替えは、操作パネル70に設けられた各種操作スイッチが乗員による操作されることによって行われる。冷房モードと暖房モードの切り替えは、制御プログラムが実行されることによっても行われる。暖房モードと廃熱回収暖房モードの切り替えは、制御プログラムが実行されることによって行われる。
【0097】
例えば、目標吹出温度TAOが、予め定められた冷房基準温度を下回っていると判定された場合、冷房モードが選択される。
【0098】
目標吹出温度TAOは、車室内空間へ送風される空気の目標温度である。具体的には、目標吹出温度TAOは、以下数式F1によって算出される。
TAO=Kset×Tset-Kr×Tr-Kam×Tam-Ks×As+C…(F1)
この数式において、Tsetは温度設定スイッチによって設定された車室内設定温度である。Trは内気温センサ61によって検出された車室内温度である。Tamは外気温センサ62によって検出された車室外温度である。Asは日射センサ63によって検出された日射量である。Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
【0099】
例えば、目標吹出温度TAOが、予め定められた暖房基準温度を上回っており且つバッテリ80の冷却が必要でないと判定された場合、暖房モードが選択される。例えば、目標吹出温度TAOが、予め定められた暖房基準温度を上回っており且つバッテリ80の冷却が必要であると判定された場合、廃熱回収暖房モードが選択される。
【0100】
制御装置60は、上述した冷凍サイクル装置10の運転モードによらず、予め定めた各運転モード毎の基準圧送能力を発揮するように、高温側熱媒体ポンプ41の作動を制御する。
【0101】
従って、高温側熱媒体回路40では、冷媒熱媒体熱交換器12の熱媒体通路にて、高温側熱媒体が加熱されると、加熱された高温側熱媒体がヒータコア42へ圧送される。ヒータコア42へ流入した高温側熱媒体は、空気と熱交換する。これにより、空気が加熱される。ヒータコア42から流出した高温側熱媒体は、高温側熱媒体ポンプ41に吸入されて、冷媒熱媒体熱交換器12へ圧送される。
【0102】
制御装置60は、上述した冷凍サイクル装置10の運転モードによらず、予め定めた各運転モード毎の基準圧送能力を発揮するように、低温側熱媒体ポンプ51の作動を制御する。
【0103】
従って、低温側熱媒体回路50では、チラー19の熱媒体通路にて、低温側熱媒体が冷却されると、冷却された低温側熱媒体が冷却用熱交換部52へ圧送される。冷却用熱交換部52へ流入した低温側熱媒体は、バッテリ80から吸熱する。これにより、バッテリ80が冷却される。冷却用熱交換部52から流出した低温側熱媒体は、低温側熱媒体ポンプ51に吸入されて、チラー19へ圧送される。
【0104】
以下に、各運転モードにおける車両用空調装置1の作動について説明する。各運転モードでは、制御装置60が、各運転モードの制御フローを実行する。
【0105】
(1)冷房モード
冷房モードの制御フローでは、最初のステップで目標蒸発器温度TEOを決定する。目標蒸発器温度TEOは、目標吹出温度TAOに基づいて、制御装置60に記憶された制御マップを参照して決定される。本実施形態の制御マップでは、目標吹出温度TAOの上昇に伴って、目標蒸発器温度TEOが上昇するように決定される。
【0106】
次のステップでは、圧縮機11の回転数の増減量ΔIVOを決定する。増減量ΔIVOは、目標蒸発器温度TEOと蒸発器温度センサ64fによって検出された蒸発器温度Tefinとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、蒸発器温度Tefinが目標蒸発器温度TEOに近づくように決定される。
【0107】
次のステップでは、室内蒸発器18の出口側冷媒の目標過熱度SHEOを決定する。目標過熱度SHEOとしては、予め定めた定数(本実施形態では、5℃)を採用することができる。
【0108】
次のステップでは、冷房用膨張弁14bの絞り開度の増減量ΔEVCを決定する。増減量ΔEVCは、目標過熱度SHEOと室内蒸発器18の出口側冷媒の過熱度SHEとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、室内蒸発器18の出口側冷媒の過熱度SHEが目標過熱度SHEOに近づくように決定される。
【0109】
室内蒸発器18の出口側冷媒の過熱度SHEは、第4冷媒温度センサ64dによって検出された温度T4および蒸発器温度Tefinに基づいて算出される。
【0110】
次のステップでは、以下数式F2を用いて、エアミックスドア34の開度SWを算定する。
SW={TAO-(Tefin+C2)}/{TWH-(Tefin+C2)}…(F2)
この数式において、TWHは、高温側熱媒体温度センサ66aによって検出された高温側熱媒体温度である。C2は制御用の定数である。
【0111】
次のステップでは、冷凍サイクル装置10を冷房モードの冷媒回路に切り替えるために、除湿用開閉弁15aおよび暖房用開閉弁15bを閉じ、冷房用開閉弁15dを開き、暖房用膨張弁14aを全開状態とし、冷房用膨張弁14bを絞り状態とする。さらに、上述のステップで決定された制御状態が得られるように、各制御対象機器に対して制御信号あるいは制御電圧を出力して、最初のステップへ戻る。
【0112】
従って、冷房モードの冷凍サイクル装置10では、
図1の太実線に示すように、圧縮機11から吐出された冷媒が、冷媒熱媒体熱交換器12、暖房用膨張弁14a、室外熱交換器16、第2固定絞り26b、レシーバ25、冷房用膨張弁14b、室内蒸発器18、圧縮機11の吸入口の順に循環する。
【0113】
つまり、冷房モードの冷凍サイクル装置10では、冷媒熱媒体熱交換器12および室外熱交換器16が圧縮機11から吐出された冷媒を放熱させる放熱部として機能し、冷房用膨張弁14bが冷媒を減圧させる減圧部として機能し、室内蒸発器18が蒸発器として機能する蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
【0114】
これによれば、室内蒸発器18にて、空気を冷却することができるとともに、冷媒熱媒体熱交換器12にて、高温側熱媒体を加熱することができる。
【0115】
従って、冷房モードの車両用空調装置1では、エアミックスドア34の開度調整によって、室内蒸発器18にて冷却された空気の一部をヒータコア42にて再加熱し、目標吹出温度TAOに近づくように温度調整された空気を車室内へ吹き出すことによって、車室内の冷房を行うことができる。
【0116】
冷房モードにおいてバッテリ80を冷却する必要が生じた場合は、冷却用膨張弁14cを絞り状態とする。これにより、レシーバ25から流出した冷媒が冷却用膨張弁14cで減圧されてチラー19に流入するので、チラー19が蒸発器として機能してチラー19にて低圧側熱媒体を冷却することができる。そして、チラー19にて冷却された低温側熱媒体が冷却用熱交換部52に流入することによって、バッテリ80の冷却を行うことができる。
【0117】
(2)暖房モード
暖房モードの制御フローの最初のステップでは、圧縮機11の回転数の増減量ΔIVOを決定する。暖房モードでは、増減量ΔIVOは、目標吹出温度TAOと空調風温度センサ68が検出した空気温度TAVとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、空気温度TAVが目標吹出温度TAOに近づくように決定される。
【0118】
ただし、増減量ΔIVOで増減させた圧縮機11の回転数が上限回転数Nc_limitを上回る場合、圧縮機11の回転数は上限回転数Nc_limitに決定される。すなわち、圧縮機11の回転数は上限回転数Nc_limit以下で制御される。
【0119】
上限回転数Nc_limitは、圧縮機11から吐出される冷媒の流量(以下、吐出冷媒流量と言う。)が上限流量Gr_limitとなるような圧縮機11の回転数である。
【0120】
図3に示すように、上限流量Gr_limitは、圧縮機11の消費電力が上限電力Pe_limitであるときの圧縮機11の吐出冷媒流量である。
図3は、所定の条件下において、圧縮機11の消費電力に対するヒートポンプ暖房能力(換言すれば、冷媒熱媒体熱交換器12での放熱能力)と、電気ヒータ43の消費電力に対する暖房能力(換言すれば、電気ヒータ43の加熱能力)とを比較した例を示すグラフである。
【0121】
圧縮機11の消費電力に対するヒートポンプ暖房能力の変化割合を第1変化割合とし、電気ヒータ43の消費電力に対する暖房能力の変化割合を第2変化割合とする。すなわち、第1変化割合は、
図3のグラフにおけるヒートポンプ暖房能力の傾きであり、第2変化割合は、
図3のグラフにおける電気ヒータ暖房能力の傾きである。
【0122】
図3からわかるように、第1変化割合は、消費電力が大きくなるほど小さくなる特性を有している。第2変化割合は、消費電力に拘わらず一定となる特性を有している。
【0123】
図3に示す上限電力Pe_limitは、第1変化割合と第2変化割合とが一致するときの消費電力である。すなわち、上限電力Pe_limitは、
図3のグラフにおいて、ヒートポンプ暖房能力の傾きと電気ヒータ暖房能力の傾きとが一致するときの消費電力である。換言すれば、第1変化割合と第2変化割合との大小関係は、上限電力Pe_limitを境にして逆転する。
【0124】
上限流量Gr_limitは、冷凍サイクルの低圧圧力Psと相関関係があり、冷凍サイクルの低圧圧力Psに対してほぼ一定となる。そこで、上限流量Gr_limitは、冷凍サイクルの低圧圧力Psに基づいて、
図4に示すマップを用いて算出される。
【0125】
暖房モードでは、冷凍サイクルの低圧圧力Psは、外気温センサ62が検出した外気温Tamに基づいて、予め実験的に取得された制御マップを用いて算出される。この制御マップは、低圧圧力Psが外気温Tamにほぼ比例する制御マップであり、室外熱交換器16の特性により異なる。
【0126】
すなわち、暖房モードでは、室外熱交換器16で外気と熱交換して蒸発した冷媒が圧縮機11に吸入されるので、冷凍サイクルの低圧圧力Psは室外熱交換器16の出口側冷媒の飽和温度に比例する。室外熱交換器16の出口側冷媒の飽和温度は外気温Tamとほぼ同じであるので、冷凍サイクルの低圧圧力Psは外気温Tamにほぼ比例することとなる。したがって、冷凍サイクルの低圧圧力Psを外気温Tamに基づいて算出できる。
【0127】
上限回転数Nc_limitは、上限流量Gr_limitに基づいて以下の数式F3を用いて決定される。
Nc_limit=Gr_limit/(ρ×ηv×Vc×60)…(F3)
ρは圧縮機11に吸入される冷媒の密度(以下、吸入冷媒密度と言う。)であり、冷凍サイクルの低圧圧力Psに基づいて、
図5に示すマップを用いて算出される。ηvは圧縮機11の体積効率、Vcは圧縮機11の容量である。
【0128】
図5からわかるように、吸入冷媒密度ρは冷凍サイクルの低圧圧力Psが低いほど小さい値となる。したがって、上限回転数Nc_limitは、同一の上限流量Gr_limitで比較したとき、冷凍サイクルの低圧圧力Psが低いほど大きくなる。
【0129】
圧縮機11の回転数が上限回転数Nc_limitに決定された場合、制御装置60は電気ヒータ43を作動させる。電気ヒータ43の出力は、目標吹出温度TAOと空調風温度センサ68が検出した空気温度TAVとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、空気温度TAVが目標吹出温度TAOに近づくように決定される。
【0130】
次のステップでは、室外熱交換器16から流出した冷媒の目標過熱度SHDOを決定する。室外熱交換器16から流出した冷媒の目標過熱度SHDOとしては、予め定めた定数(本実施形態では、5℃)を採用することができる。
【0131】
次のステップでは、暖房用膨張弁14aの絞り開度の増減量ΔEVHを決定する。増減量ΔEVHは、目標過熱度SHDOと室外熱交換器16から流出した冷媒の過熱度SHDとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、室外熱交換器16から流出した冷媒の過熱度SHDが目標過熱度SHDOに近づくように決定される。
【0132】
室外熱交換器16から流出した冷媒の過熱度SHDは、第3冷媒温度センサ64cによって検出された温度T3および第1冷媒圧力センサ65aによって検出された圧力P1に基づいて算出される。
【0133】
次のステップでは、冷房モードと同様に、エアミックスドア34の開度SWを算定する。ここで、暖房モードでは、冷房モードよりも目標吹出温度TAOが高くなるので、エアミックスドア34の開度SWが100%に近づく。このため、暖房モードでは、室内蒸発器18通過後の空気のほぼ全流量がヒータコア42を通過するように、エアミックスドア34の開度が決定される。
【0134】
次のステップでは、冷凍サイクル装置10を暖房モードの冷媒回路に切り替えるために、除湿用開閉弁15aおよび暖房用開閉弁15bを開き、冷房用開閉弁15dを閉じ、暖房用膨張弁14aを絞り状態とし、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cを全閉状態とする。さらに、上述のステップで決定された制御状態が得られるように、各制御対象機器に対して制御信号あるいは制御電圧を出力して、最初のステップへ戻る。
【0135】
これにより、暖房モードの冷凍サイクル装置10では、
図6の太実線に示すように、圧縮機11から吐出された冷媒が、冷媒熱媒体熱交換器12、第1固定絞り26a、レシーバ25、暖房用膨張弁14a、室外熱交換器16、圧縮機11の吸入口の順に循環する。
【0136】
つまり、暖房モードの冷凍サイクル装置10では、冷媒熱媒体熱交換器12が圧縮機11から吐出された冷媒を放熱させる放熱部として機能し、暖房用膨張弁14aが減圧部として機能し、室外熱交換器16が蒸発部として機能する冷凍サイクルが構成される。
【0137】
これによれば、室外熱交換器16にて外気から吸熱し、冷媒熱媒体熱交換器12にて高温側熱媒体を加熱することができる。従って、暖房モードの車両用空調装置1では、ヒータコア42にて加熱された空気を車室内へ吹き出すことによって、車室内の暖房を行うことができる。
【0138】
(3)廃熱回収暖房モード
廃熱回収暖房モードの制御フローの最初のステップでは、暖房モードと同様に、高温側熱媒体の目標高温側熱媒体温度TWHO、圧縮機11の回転数の増減量ΔIVO、および暖房用膨張弁14aの絞り開度の増減量ΔEVHを決定する。
【0139】
暖房モードと同様に、増減量ΔIVOで増減させた圧縮機11の回転数が上限回転数Nc_limitを上回る場合、圧縮機11の回転数は上限回転数Nc_limitに決定される。
【0140】
上限回転数Nc_limitは、暖房モードと同様に、上限流量Gr_limitに基づいて決定される。ただし、廃熱回収暖房モードでは、上限流量Gr_limitが、暖房モードに対して、チラー19での廃熱の吸熱量Qw(以下、廃熱回収量Qwと言う。)に応じて引き上げられる。
【0141】
すなわち、廃熱回収暖房モード時は、上限流量Gr_limitが以下の数式F4を用いて決定される。
Gr_limit=Gr_limit0×(1+α×Qw)…(F4)
Gr_limit0は、暖房モード時の上限流量(すなわち、
図4に示すマップを用いて算出された上限流量)である。
【0142】
αは、実験的に決定された定数である。チラー19での廃熱回収量Qwは、チラー19における低温側熱媒体の温度TWLとチラー19の出口側冷媒の飽和温度Tsとの差に基づいて、
図7に示すマップを用いて算出される。
【0143】
チラー19に流入する低温側熱媒体の温度TWLは、低温側熱媒体温度センサ67aによって検出された低温側熱媒体の温度である。チラー19の出口側冷媒の飽和温度Tsは、第2冷媒圧力センサ65bによって検出された冷媒の圧力P2に基づいて算出される。
【0144】
このように、廃熱回収暖房モードでは、暖房モードに対して、上限流量Gr_limitが廃熱回収量Qwに比例して引き上げられる。数式F4からわかるように、廃熱回収暖房モード時の上限流量Gr_limitと暖房モード時の上限流量Gr_limit0との差は、廃熱回収量Qwが多いほど大きくなる。
【0145】
廃熱回収暖房モードでは、冷凍サイクルの低圧圧力Psは、外気温センサ62が検出した外気温Tamおよびチラー19での廃熱回収量Qwに基づいて、以下の数式F5を用いて算出される。
Ps=Ps0+ΔPs…(F5)
Ps0は、ベース低圧圧力であり、暖房モード時と同様の算出の仕方で算出された低圧圧力である。すなわち、ベース低圧圧力Ps0は、外気温Tamに基づいて、外気温Tamにほぼ比例する制御マップを用いて算出された低圧圧力である。
【0146】
ΔPsは、チラー19での廃熱回収量Qwに基づくベース低圧圧力Ps0の補正量である。補正量ΔPsは、チラー19での廃熱回収量Qwに基づいて、予め実験的に取得された制御マップを用いて算出される。この制御マップは、補正量ΔPsが廃熱回収量Qwにほぼ比例する制御マップであり、室外熱交換器16の特性により異なる。
【0147】
補正量ΔPsがこのように算出される理由を説明する。廃熱回収暖房モードでは、暖房モードと比べて、回収した廃熱の分、室外熱交換器16での吸熱量が減少することとなる。廃熱回収量Qwに比例して冷凍サイクルの低圧が上がってくるので、外気温Tamと室外熱交換器16での冷媒温度との差が小さくなるからである。したがって、暖房モード時の低圧圧力に相当するベース低圧圧力Ps0を、廃熱回収量Qwに応じた補正量ΔPsで補正することによって、廃熱回収暖房モード時の冷凍サイクルの低圧圧力Psを算出できる。
【0148】
次のステップでは、チラー19から流出した冷媒の目標過熱度SHCOを決定する。チラー19から流出した冷媒の目標過熱度SHCOとしては、予め定めた定数(本実施形態では、5℃)を採用することができる。
【0149】
次のステップでは、冷却用膨張弁14cの絞り開度の増減量ΔEVBを決定する。増減量ΔEVBは、目標過熱度SHCOとチラー19から流出した冷媒の過熱度SHCとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、チラー19から流出した冷媒の過熱度SHCが目標過熱度SHCOに近づくように決定される。チラー19から流出した冷媒の過熱度SHCは、第5冷媒温度センサ64eによって検出された温度T5および第2冷媒圧力センサ65bによって検出された圧力P2に基づいて算出される。
【0150】
次のステップでは、冷房モードと同様に、エアミックスドア34の開度SWを算定する。ここで、廃熱回収暖房モードでは、冷房モードよりも目標吹出温度TAOが高くなるので、エアミックスドア34の開度SWが100%に近づく。このため、暖房モードでは、室内蒸発器18通過後の空気のほぼ全流量がヒータコア42を通過するように、エアミックスドア34の開度が決定される。
【0151】
次のステップでは、冷凍サイクル装置10を廃熱回収暖房モードの冷媒回路に切り替えるために、除湿用開閉弁15aおよび暖房用開閉弁15bを開き、冷房用開閉弁15dを閉じ、暖房用膨張弁14aおよび冷却用膨張弁14cを絞り状態として、冷房用膨張弁14bを全閉状態とする。さらに、上述のステップで決定された制御状態が得られるように、各制御対象機器に対して制御信号あるいは制御電圧を出力して、最初のステップへ戻る。
【0152】
これにより、廃熱回収暖房モードの冷凍サイクル装置10では、
図8の太実線に示すように、圧縮機11から吐出された冷媒が、冷媒熱媒体熱交換器12、第1固定絞り26a、レシーバ25、暖房用膨張弁14a、室外熱交換器16、圧縮機11の吸入口の順に循環するとともに、冷媒熱媒体熱交換器12、第1固定絞り26a、レシーバ25、冷却用膨張弁14c、チラー19、圧縮機11の吸入口の順に循環する。
【0153】
つまり、廃熱回収暖房モードの冷凍サイクル装置10では、冷媒熱媒体熱交換器12が圧縮機11から吐出された冷媒を放熱させる放熱部として機能し、暖房用膨張弁14aおよび冷却用膨張弁14cが減圧部として機能し、室外熱交換器16およびチラー19が蒸発部として機能する冷凍サイクルが構成される。
【0154】
これによれば、室外熱交換器16にて外気から吸熱するとともにチラー19にて低温側熱媒体から吸熱し、冷媒熱媒体熱交換器12にて高温側熱媒体を加熱することができる。従って、廃熱回収暖房モードの車両用空調装置1では、ヒータコア42にて加熱された空気を車室内へ吹き出すことによって、車室内の暖房を行うことができる。
【0155】
以上の如く、本実施形態の冷凍サイクル装置10では、各種運転モードを切り替えることができる。これにより、車両用空調装置1では、バッテリ80の温度を適切に調整しつつ、車室内の快適な空調を実現することができる。
【0156】
暖房モード時および廃熱回収暖房モード時には、圧縮機11の回転数が上限回転数Nc_limit以下で制御されるので、圧縮機11の吐出冷媒流量が上限流量Gr_limitを上回ることがない。そのため、圧縮機11を極力、上限電力Pe_limitで効率良く運転させることができる。圧縮機11を上限電力Pe_limitで運転させた場合に不足する暖房能力を電気ヒータ43で効率良く補うので、冷凍サイクル装置10および電気ヒータ43を効率良く連携させて暖房することができる。
【0157】
さらに、本実施形態の冷凍サイクル装置10では、第1固定絞り26aおよび第2固定絞り26bを備えているので、サイクルの成績係数を向上させることができる。
【0158】
このことを
図9を用いて説明する。
図9は、暖房モード時の冷凍サイクル装置10における冷媒の状態を示すモリエル線図である。なお、暖房モードでは、冷媒熱媒体熱交換器12が、冷媒を凝縮させる熱交換部となる。さらに、室外熱交換器16が、冷媒を蒸発させる熱交換部となる。
【0159】
図9では、第1固定絞り26aを備える本実施形態の冷凍サイクル装置10における冷媒の状態の変化を太実線で示している。さらに、第1固定絞り26aを備えていない比較例の冷凍サイクル装置における冷媒の状態の変化を細破線で示している。
【0160】
図9では、本実施形態の冷凍サイクル装置10におけるレシーバ25内の冷媒の状態を点Lq1で示している。さらに、
図9では、比較例の冷凍サイクル装置におけるレシーバ25内の冷媒の状態を点Lqexで示している。
【0161】
本実施形態の冷凍サイクル装置10では、第1固定絞り26aを備えているので、レシーバ25内の冷媒の圧力が冷媒を凝縮させる熱交換部における高圧冷媒の圧力よりも低くなる。このため、
図9に示すように、本実施形態の冷凍サイクル装置10の点Lq1の冷媒の圧力は、比較例の冷凍サイクル装置の点Lqexの冷媒の圧力よりも低い圧力となる。
【0162】
モリエル線図の飽和液線の傾きに沿って、本実施形態の冷凍サイクル装置10の点Lq1の冷媒のエンタルピは、比較例の冷凍サイクル装置の点Lqexの冷媒のエンタルピよりも低い値となる。このため、本実施形態の冷凍サイクル装置10では、冷媒を凝縮させる熱交換部の出口側の冷媒が過冷却液相冷媒SC1となる。
【0163】
従って、本実施形態の冷凍サイクル装置10では、比較例の冷凍サイクル装置10よりも冷媒を蒸発させる熱交換部へ流入する冷媒のエンタルピを低下させることができる。その結果、冷媒を蒸発させる熱交換部における冷媒の吸熱量を増大させて、成績係数を向上させることができる。この効果は、他の運転モードでも得ることができる。すなわち、第1固定絞り26aおよび第2固定絞り26bは、冷媒に過冷却度をもたせる過冷却用減圧部である。
【0164】
第1固定絞り26aおよび第2固定絞り26bは、冷媒流量に応じて選定される必要がある。すなわち、第1固定絞り26aおよび第2固定絞り26bとしては、冷媒流量が大きいほど大開口の固定絞りが必要とされ、冷媒流量が小さいほど小開口の固定絞りが必要とされる。冷凍サイクル装置10の冷媒流量の変化の幅が大きい場合、第1固定絞り26aおよび第2固定絞り26bとして適切な固定絞りを選定することが困難となる。
【0165】
その点、本実施形態では、圧縮機11の吐出冷媒流量が上限流量Gr_limit以下に制限されるので、冷凍サイクル装置10の冷媒流量の変化の幅が比較的小さくなる。その結果、第1固定絞り26aおよび第2固定絞り26bとして適切な固定絞りを選定することが容易となる。
【0166】
本実施形態では、制御装置60は、暖房モードおよび廃熱回収暖房モードでは、圧縮機11の消費電力が上限電力Pe_limit以下となるように圧縮機11を制御する。これによると、冷媒熱媒体熱交換器12の放熱効率を電気ヒータ43での加熱効率以上にできるので、暖房効率を極力最大化できる。
【0167】
本実施形態では、制御装置60は、暖房モードおよび廃熱回収暖房モードでは、圧縮機11が吐出する冷媒の流量が上限流量Gr_limit以下となるように圧縮機11を制御することによって、圧縮機11の消費電力を上限電力Pe_limit以下とする。これにより、圧縮機11の消費電力を確実に上限電力Pe_limit以下にできる。
【0168】
本実施形態では、制御装置60は、廃熱回収暖房モードでは、暖房モードよりも上限流量Gr_limitを大きくする。これによると、暖房モードのみならず廃熱回収暖房モードにおいても圧縮機11の消費電力を適切に上限電力Pe_limit以下にできる。
【0169】
本実施形態では、制御装置60は、廃熱回収暖房モードにおいて暖房モードよりも上限流量Gr_limitを大きくする量ΔGr_limitを、チラー19での廃熱回収量Qwが大きいほど大きくする。これによると、廃熱回収暖房モードにおいて圧縮機11の消費電力を一層適切に上限電力Pe_limit以下にできる。
【0170】
本実施形態では、制御装置60は、圧縮機11の回転数が上限回転数Nc_limit以下となるように圧縮機11を制御することによって、圧縮機11が吐出する冷媒の流量を上限流量Gr_limit以下とし、上限回転数Nc_limitを、圧縮機11が吸入する冷媒の圧力に基づいて決定する。これによると、圧縮機11が吐出する冷媒の流量を簡易な手法で上限流量Gr_limit以下にできる。
【0171】
本実施形態では、制御装置60は、廃熱回収暖房モードでは、圧縮機11が吸入する冷媒の圧力Psを、外気の温度Tamとチラー19での廃熱回収量Qwとに基づいて算出する。これにより、圧縮機11が吸入する冷媒の圧力Ps(すなわち、冷凍サイクルの低圧圧力)を圧力センサを用いることなく取得できる。
【0172】
本実施形態では、制御装置60は、チラー19における低温側熱媒体の温度TWLと冷媒の飽和温度Tsとの差に基づいて、チラー19での廃熱回収量Qwを算出する。これにより、チラー19での廃熱回収量Qwを簡便に取得できる。
【0173】
本実施形態では、暖房モードおよび廃熱回収暖房モードにおける冷媒熱媒体熱交換器12の冷媒流れ下流側かつレシーバ25の冷媒流れ上流側に第1固定絞り26aが配置されており、第1固定絞り26aは、冷媒を減圧させて冷媒に過冷却度をもたせる。これによると、冷媒に過冷却度をもたせることによってサイクル成績係数を向上できる。固定絞りを用いて冷媒を減圧させるので、簡素な構成で冷媒に過冷却度をもたせることができる。
【0174】
(第2実施形態)
上述の第1実施形態では、暖房モード時および廃熱回収暖房モード時に圧縮機11の回転数が上限回転数Nc_limit以下に制限されることによって圧縮機11の吐出冷媒流量が上限流量Gr_limit以下に制限される。これに対して、本実施形態では、暖房モード時および廃熱回収暖房モード時に冷媒熱媒体熱交換器12による加熱温度(換言すれば、ヒートポンプ加熱温度)が上限温度TAO_HP以下に制限されることによって圧縮機11の吐出冷媒流量が上限流量Gr_limit以下に制限される。
【0175】
本実施形態では、上述の第1実施形態と同様に目標吹出温度TAOが算出される。暖房モードおよび廃熱回収暖房モードでは、上限温度TAO_HPが、冷凍サイクルの低圧圧力Psに基づいて、
図10に示すマップを用いて算出される。上限温度TAO_HPは、圧縮機11からの吐出冷媒流量が上限流量Gr_limitとなるような冷媒熱媒体熱交換器12による加熱温度(換言すれば、圧縮機11から吐出された冷媒の温度T1)の値である。
【0176】
圧縮機11から吐出された冷媒の温度T1と吐出冷媒流量Grは、
図11のグラフに示す関係を有している。上限温度TAO_HPは、吐出冷媒流量Grが一定の時、冷凍サイクルの低圧圧力Psが低いほど小さな値となる。したがって、上限温度TAO_HPを冷凍サイクルの低圧圧力Psに基づいて算出できる。
【0177】
上限温度TAO_HPが目標吹出温度TAOよりも小さい場合、圧縮機11の回転数は、上限温度TAO_HPと吐出冷媒温度T1との偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、吐出冷媒温度T1が上限温度TAO_HPに近づくように決定される。
【0178】
上限温度TAO_HPが目標吹出温度TAOよりも小さい場合、電気ヒータ43を作動させる。
【0179】
電気ヒータ43の出力は、目標吹出温度TAOと空調風温度センサ68が検出した空気温度TAVとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、空気温度TAVが目標吹出温度TAOに近づくように決定される。
【0180】
本実施形態においても、上述の第1実施形態と同様に、暖房モード時および廃熱回収暖房モード時には、圧縮機11の吐出冷媒流量が上限流量Gr_limitを上回ることがないので冷凍サイクル装置10を極力、上限電力Pe_limitで効率良く運転させることができる。そして、冷凍サイクル装置10を上限電力Pe_limitで運転させた場合に不足する暖房能力を電気ヒータ43で効率良く補うので、冷凍サイクル装置10および電気ヒータ43を効率良く連携させて暖房することができる。
【0181】
本実施形態では、制御装置60は、冷媒熱媒体熱交換器12で加熱された空気の温度が上限温度TAO_HP以下となるように圧縮機11を制御することによって、圧縮機11が吐出する冷媒の流量を上限流量Gr_limit以下とし、上限温度TAO_HPを、圧縮機11が吸入する冷媒の圧力Psに基づいて決定する。
【0182】
これによると、圧縮機11が吐出する冷媒の流量を簡易な手法で上限流量Gr_limit以下にできる。
【0183】
(第3実施形態)
上述の第1実施形態では、暖房モード時および廃熱回収暖房モード時に圧縮機11の回転数が上限回転数Nc_limit以下に制限されることによって圧縮機11の吐出冷媒流量が上限流量Gr_limit以下に制限される。これに対して、本実施形態では、暖房モード時および廃熱回収暖房モード時に圧縮機11の消費電力が上限電力Pe_limit以下に制限されることによって圧縮機11の吐出冷媒流量が上限流量Gr_limit以下に制限される。
【0184】
本実施形態では、上述の第1実施形態と同様に、圧縮機11の回転数の増減量ΔIVOが、目標吹出温度TAOと空調風温度センサ68が検出した空気温度TAVとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、空気温度TAVが目標吹出温度TAOに近づくように決定される。
【0185】
暖房モードおよび廃熱回収暖房モードでは、上限電力Pe_limitが、冷凍サイクルの低圧圧力Psに基づいて、
図12に示すマップを用いて算出される。上限電力Pe_limitは、圧縮機11からの吐出冷媒流量が上限流量Gr_limitとなるような圧縮機11の消費電力の値である。
【0186】
圧縮機11の消費電力Pe_compと吐出冷媒流量Grは、
図13のグラフに示す関係を有している。
図13のグラフは、冷凍
サイクルの低圧圧力Psが特定の値であるときの一例を示しているが、冷凍サイクルの低圧圧力Psの値にかかわらず圧縮機11の消費電力Pe_compと吐出冷媒流量Grとの関係は、概ね
図13のグラフに示すような傾向となる。したがって、
図12に示すように、上限電力Pe_limitは、冷凍サイクルの低圧圧力Psに対して概ね一定の値となる。
【0187】
暖房モードおよび廃熱回収暖房モードにおいて、圧縮機11の消費電力が上限電力Pe_limit以上となる場合、圧縮機11の消費電力が上限電力Pe_limitとなるように圧縮機11が制御される。すなわち、圧縮機11の回転数は上限回転数Nc_limit以下で制御される。
【0188】
例えば、圧縮機11の消費電力は、圧縮機11における電圧値および電流値に基づいて取得できる。
【0189】
電気ヒータ43の出力は、目標吹出温度TAOと空調風温度センサ68が検出した空気温度TAVとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、空気温度TAVが目標吹出温度TAOに近づくように決定される。
【0190】
本実施形態においても、上述の第1実施形態と同様に、暖房モード時および廃熱回収暖房モード時には、圧縮機11の吐出冷媒流量が上限流量Gr_limitを上回ることがないので冷凍サイクル装置10を極力、上限電力Pe_limitで効率良く運転させることができる。そして、冷凍サイクル装置10を上限電力Pe_limitで運転させた場合に不足する暖房能力を電気ヒータ43で効率良く補うので、冷凍サイクル装置10および電気ヒータ43を効率良く連携させて暖房することができる。
【0191】
(第4実施形態)
上述の実施形態では、冷凍サイクル装置10が冷媒熱媒体熱交換器12を備え、室内空調ユニット30がヒータコア42を備えているが、本実施形態では、
図14に示すように、冷媒熱媒体熱交換器12およびヒータコア42の代わりに室内凝縮器27を備えている。
【0192】
室内凝縮器27は、圧縮機11から吐出された高圧冷媒と、室内蒸発器18を通過した空気とを熱交換させて、空気を加熱する熱交換器である。
【0193】
本実施形態においても、上述の第1実施形態と同様に、冷房モード、暖房モードおよび廃熱回収暖房モードでの運転を行うことができる。したがって、本実施形態においても、上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0194】
(第5実施形態)
上述の実施形態では、廃熱回収暖房モード時に室外熱交換器16とチラー19とに冷媒が並列に流れるが、本実施形態では、廃熱回収暖房モード時に室外熱交換器16とチラー19とに冷媒が直列に流れる。
【0195】
具体的には、
図15に示すように、冷却用膨張弁14cおよびチラー19が、暖房用通路22bに配置されている。
【0196】
本実施形態では、暖房モード時に冷却用膨張弁14cを全開状態にする。これにより、暖房モード時に冷却用膨張弁14cおよびチラー19に冷媒が流れることとなるが、チラー19で熱交換が殆ど行われなくなる。
【0197】
本実施形態においても、上述の実施形態と同様に、冷房モード、暖房モードおよび廃熱回収暖房モードでの運転を行うことができる。したがって、本実施形態においても、上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0198】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0199】
(a)上述の実施形態では、複数の運転モードに切り替え可能な冷凍サイクル装置10について説明したが、冷凍サイクル装置10の運転モードの切り替えはこれに限定されない。少なくとも暖房モードまたは廃熱回収暖房モードを実行可能であればよい。
【0200】
(b)冷凍サイクル装置の構成機器は、上述の実施形態に開示されたものに限定されない。上述した効果を発揮できるように、複数のサイクル構成機器を一体化等を行ってもよい。例えば、第8三方継手13hと第5三方継手13eとを一体化させた四方継手構造のものを採用してもよい。また、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cとして、全閉機能を有しない電気式膨張弁と開閉弁とを直接的に接続したものを採用してもよい。
【0201】
また、上述の実施形態では、冷媒としてR1234yfを採用した例を説明したが、冷媒はこれに限定されない。例えば、R134a、R600a、R410A、R404A、R32、R407C、等を採用してもよい。または、これらの冷媒のうち複数種を混合させた混合冷媒等を採用してもよい。さらに、冷媒として二酸化炭素を採用して、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力以上となる超臨界冷凍サイクルを構成してもよい。
【0202】
(c)加熱部の構成は、上述の実施形態に開示されたものに限定されない。例えば、ハイブリッド車両のように内燃機関(エンジン)を備える車両では、高温側熱媒体回路40にエンジン冷却水を循環させるようにしてもよい。
【0203】
(d)電池冷却部の構成は、上述の実施形態に開示されたものに限定されない。例えば、電池冷却部として、第1実施形態で説明した低温側熱媒体回路50のチラー19を凝縮部とし、冷却用熱交換部52を蒸発部として機能させるサーモサイフォンを採用してもよい。これによれば、低温側熱媒体ポンプ51を廃止することができる。
【0204】
サーモサイフォンは、冷媒を蒸発させる蒸発部と冷媒を凝縮させる凝縮部とを有し、蒸発部と凝縮部とを閉ループ状に(すなわち、環状に)接続することによって構成されている。そして、蒸発部における冷媒の温度と凝縮部における冷媒の温度との温度差によって回路内の冷媒に比重差を生じさせ、重力の作用によって冷媒を自然循環させて、冷媒とともに熱を輸送する熱輸送回路である。
【0205】
また、上述の実施形態では、電池冷却部にて冷却される冷却対象物がバッテリ80である例を説明したが、冷却対象物はこれに限定されない。直流電流と交流電流とを変換するインバータ、バッテリ80に電力を充電する充電器、電力を供給されることによって走行用の駆動力を出力するとともに、減速時等には回生電力を発生させるモータジェネレータのように作動時に発熱を伴う電気機器であってもよい。
【0206】
(e)上述の第1実施形態では、暖房モードおよび廃熱回収暖房モード時に、目標吹出温度TAOと空気温度TAVとの偏差に基づいて圧縮機11の回転数が決定されるが、目標吹出温度TAOと第1冷媒温度センサ64aが検出した冷媒の温度T1(すなわち、圧縮機11から吐出された冷媒の温度)との偏差に基づいて圧縮機11の回転数が決定されてもよい。
【0207】
(f)上述の第2実施形態では、暖房モードおよび廃熱回収暖房モード時に上限温度TAO_HPが目標吹出温度TAOよりも小さい場合、上限温度TAO_HPと吐出冷媒温度T1(第1冷媒温度センサ64aが検出した冷媒の温度T1)との偏差に基づいて圧縮機11の回転数が決定される。
【0208】
これに対して、上限温度TAO_HPと高温側熱媒体温度センサ66aが検出した高温側熱媒体温度TWH(すなわち、冷媒熱媒体熱交換器12で加熱された高温側熱媒体の温度)との偏差に基づいて圧縮機11の回転数が決定されてもよい。上限温度TAO_HPとヒータコア42で加熱された空気の温度との偏差に基づいて圧縮機11の回転数が決定されてもよい。
【0209】
(g)上述の各実施形態では、冷凍サイクル装置10は、凝縮した冷媒に過冷却度をもたせる過冷却度生成部として第1固定絞り26aおよび第2固定絞り26bを備えるが、過冷却度生成部として、第1固定絞り26aおよび第2固定絞り26bの代わりに、絞り開度を変化させることが可能な可変絞りが配置されていてもよい。
【0210】
この構成では、制御装置60が、可変絞りの冷媒流れ下流側かつレシーバ25の冷媒流れ上流側における冷媒の温度に基づいて可変絞りの絞り開度を制御することによって、冷媒に適切な過冷却度をもたせてサイクル成績係数を確実に向上できる。
【0211】
(h)上述の各実施形態では、圧縮機11が電動圧縮機であるが、圧縮機11がエンジンの動力で駆動される圧縮機であってもよい。
【0212】
上述の各実施形態では、空気を補助的に加熱する補助加熱部が電気ヒータ43であるが、補助加熱部が、エンジンの廃熱を熱源とするヒータコアであってもよい。
【0213】
このように圧縮機11の動力源や補助加熱部の熱源が電力以外である場合、上限流量Gr_limitは、圧縮機11の単位時間当たりの消費エネルギーが上限値であるときの圧縮機11の吐出冷媒流量である。上限値は、圧縮機11の単位時間当たりの消費エネルギーに対する暖房能力の変化割合と電気ヒータ43の単位時間当たりの消費エネルギーに対する暖房能力の変化割合との大小関係が逆転するときの単位時間当たりの消費エネルギーの値である。
【0214】
補助加熱部としての電気ヒータは、乗員が着座する座席の表面を加熱するシートヒータであってもよい。補助加熱部は、乗員を加熱する輻射式電気ヒータであってもよい。すなわち、補助加熱部は、空気または空調対象空間内の人体を、冷媒とは異なる熱源を利用して熱伝導または輻射によって加熱する加熱部である。
【0215】
(i)上述の各実施形態では、本発明に係る冷凍サイクル装置10を車両用空調装置1に適用したが、冷凍サイクル装置10の適用はこれに限定されない。例えば、据置型バッテリの温度を適切に調整しつつ、室内の空調を行うバッテリ冷却機能付きの空調装置等に適用してもよい。
【符号の説明】
【0216】
11 圧縮機
12 冷媒熱媒体熱交換器(放熱部)
14a 暖房用膨張弁(減圧部)
14c 冷却用膨張弁(減圧部)
16 室外熱交換器(蒸発部、第1蒸発部)
18 室内蒸発器(第1蒸発部)
19 チラー(第2蒸発部)
40 高温側熱媒体回路(放熱部)
42 ヒータコア(放熱部)
43 電気ヒータ(加熱部)
60 制御装置(制御部)