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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】光学スキャナ
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/481 20060101AFI20240416BHJP
   G01S 7/497 20060101ALI20240416BHJP
   H04B 10/11 20130101ALI20240416BHJP
   H01Q 3/26 20060101ALI20240416BHJP
   H01Q 21/08 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G01S7/497
H04B10/11
H01Q3/26 Z
H01Q21/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020165997
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057636
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】豊田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】別府 太郎
(72)【発明者】
【氏名】守口 智博
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 光
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-31064(JP,A)
【文献】特表2020-510882(JP,A)
【文献】特表2019-527830(JP,A)
【文献】特表2017-530343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - 7/51
17/00 - 17/95
H04B 10/11
H01Q 3/26
H01Q 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源(2)と、
前記光源から供給される光を分岐した複数の分岐光の位相を、走査用位相量を用いて個別に制御して、複数のアンテナエレメントを有するアンテナアレイから放射することによって、光ビームによる走査を実現するように構成された光フェーズドアレイ(3)と、
前記光フェーズドアレイから放射された光を受光するように構成された監視用受光部(6)と、
前記監視用受光部での検出結果から前記光ビームの特性を検出し、前記特性の検出値が予め用意された設計値と一致するように前記走査用位相量を補正するための位相調整量を生成するように構成された信号処理部(7)と、
を備える光学スキャナ。
【請求項2】
請求項1に記載の光学スキャナであって、
前記信号処理部は、前記光ビームの特性として、ビームの広がり角及びビーム照射方向のずれ量のうち、少なくとも一つを用いる
光学スキャナ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光学スキャナであって、
前記監視用受光部は、前記光フェーズドアレイにより形成されるグレーティングローブを受光する位置に配置される
光学スキャナ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の光学スキャナであって、
前記監視用受光部は、前記光フェーズドアレイによる走査範囲の外側に配置される
光学スキャナ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の光学スキャナであって、
前記複数の分岐光の位相を個別に検出するように構成された位相モニタ(9)を更に備え、
前記信号処理部は、前記位相モニタでの検出結果から算出される、前記複数の分岐光をそれぞれ伝搬する導波路間の特性のばらつきを要因とする内的要因調整量に、前記監視用受光部での検出結果から算出される、アンテナエレメントが配置された面の歪みを要因とする外的要因調整量を加えた結果を、前記位相調整量として設定するように構成された
光学スキャナ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の光学スキャナであって、
前記信号処理部は、前記光ビームの特性に関する前記設計値に対する前記検出値の誤差から、予め用意されたルックアップテーブルを用いて前記位相調整量の更新に用いる修正量を算出するように構成された
光学スキャナ。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の光学スキャナであって、
前記光源と前記光フェーズドアレイとが同一基板上に実装された
光学スキャナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光フェーズドアレイを用いる光学スキャナに関する。
【背景技術】
【0002】
光フェーズドアレイ(以下、OPA)を用いて、ビーム形成及びビームステアリングを行う技術が知られている。OPAは、Optical Phased Arrayの略である。OPAでは、光を放射する複数のアンテナエレメントを有するアンテナアレイを用い、各アンテナエレメントに与える位相シフト量をそれぞれ制御する。
【0003】
ビームステアリングのために各アンテナエレメントに与える位相シフト量は、アンテナアレイの配置及び使用する光の波長によって理論的に一意に定まる。しかし、光源から各アンテナエレメントに到る導波路の特性が温度変化等によって変化すると、各アンテナエレメントに与えられる位相シフト量に誤差が発生し、ビームプロファイル及び出射角度等について必要な性能を得られなくなる。
【0004】
これに対して、下記特許文献1には、個々のアンテナエレメントに供給された光の位相を監視する位相モニタを設置し、モニタ値が目標値と一致するように、各アンテナエレメントに接続された導波路を通過する光の位相をフィードバック制御する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2020/0158839号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者の詳細な検討の結果、以下の課題が見出された。
すなわち、OPAは、PICと呼ばれる基板上に形成される。PICは、Photonic Integrated Circuitの略である。OPAを車載LiDARに適用した場合、周囲温度環境やその他実装部品の発熱により、PIC基板に歪み(例えば、基板の反り等)が生じることが想定される。LiDARは、Light Detection and Rangingの略である。基板の歪みが生じると、アンテナエレメントの配置が3次元的に変化することで、ビームプロファイルの崩れやビーム出射角度のずれが発生する。従来技術では、アンテナエレメントの3次元的な配置が一定であることを前提とした技術であるため、アンテナエレメントの3次元的な配置に影響を与える基板の歪みに起因した誤差に対処できない。
【0007】
本開示の1つの局面は、光フェーズドアレイを用いる光学スキャナにおいて、アンテナエレメントの配置の変化に基づく誤差を補正する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、光学スキャナであって、光源(2)と、光フェーズドアレイ(3)と、監視用受光部(6)と、信号処理部(7)と、を備える。光フェーズドアレイは、光源から供給される光を分岐した複数の分岐光の位相を、走査用位相量を用いて個別に制御して、複数のアンテナエレメントを有するアンテナアレイから放射することによって、光ビームによる走査を実現するように構成される。監視用受光部は、光フェーズドアレイから放射された光を受光するように構成される。信号処理部は、監視用受光部での検出結果から光ビームの特性を検出し、特性の検出値が予め用意された設計値と一致するように走
査用位相量を補正するための位相調整量を生成するように構成される。
【0009】
このような構成によれば、光フェーズドアレイから空間に放射された光ビームを直接検出することで、空間を伝搬する光の位相を、位相調整量の生成に直接的にフィードバックする。このため、光フェーズドアレイを構成する回路内の要因による誤差だけでなく、光フェーズドアレイを実装する基板の歪み等によって生じる回路外の要因による誤差も含めて、誤差を補償することができる。その結果、光ビームのビームプロファイル及び光ビームによる走査の最適化を精度よく実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の光学スキャナの構成を示すブロック図である。
図2】光フェーズドアレイの原理を示す説明図である。
図3】光フェーズドアレイの照射パターンを示すグラフである。
図4】基板の歪みがビームプロファイルに与える影響を示す説明図である。
図5】基板の歪み方とビームプロファイルとの関係を示す説明図である。
図6】第1実施形態における通常処理のフローチャートである。
図7】第1実施形態における補正処理のフローチャートである。
図8】第2実施形態の光学スキャナの構成を示すブロック図である。
図9】第2実施形態における通常処理のフローチャートである。
図10】第2実施形態における補正処理のフローチャートである。
図11】監視用受光部の他の配置方法を示す説明図である。
図12】監視用受光部がミラーを介して受光する場合の配置例を示す説明図である。
図13】監視用受光部がミラーを介して受光する場合の配置例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す光学スキャナ1は、光源2と、光フェーズドアレイ(即ち、OPA)3と、ディテクタ4と、位相コントローラ5と、監視用受光部6と、信号処理部7とを備える。
【0012】
光学スキャナ1は、筐体10に収納され、筐体10の前壁に形成された開口部11から光を照射する。開口部11は、OPA3から照射される光ビームによって走査が行なわれる角度範囲(すなわち、走査範囲)であるFOVを妨げることがない大きさを有する。FOVは、Field Of Viewの略である。
【0013】
光源2は、レーザ光を発生させるデバイスである。ここでは、FM変調された1.5μm帯又は1.3μm帯の波長を有する連続波が用いられる。
OPA3は、光の回折・干渉を利用して、光ビームの断面形状(すなわち、ビームプロファイル)や進行方向を制御するデバイスである。OPA3は、スプリッタ31と、位相シフタ32と、アンテナアレイ33とを備える。OPA3は、光源2と共に単一のPIC基板上に実装される。
【0014】
スプリッタ31は、光源2からの入射光を複数の導波路で構成された導波路アレイに分配する。また、スプリッタ31は、導波路アレイからの入射光を混合した混合光を生成する。この混合光は、光源2からの入射光とともに光をディテクタ4に入射される。
【0015】
位相シフタ32は、導波路アレイを構成する複数の導波路それぞれに設けられ、位相コントローラ5からの指示に従い、電気光学効果や熱光学効果等を利用して導波路の屈折率を変化させることで、各導波路を通過する光の位相を個別に変化させる。
【0016】
アンテナアレイ33は、一定間隔で配置されたK個(例えば、K=数百~数千程度)のアンテナエレメント(以下、エレメント)を有する。導波路アレイにおいてスプリッタ31との接続端とは反対側の端部を個々のエレメントとして用いてもよい。
【0017】
アンテナアレイ33は、導波路アレイから供給される光をFOVに向けて照射すると共に、FOVから到来する光を受光して、導波路アレイに供給する。なお、アンテナアレイ33は、光を回折・干渉させる回折格子を介して光の照射及び受光を行うように構成されてもよい。
【0018】
OPA3は、図2に示すように、識別子kで特定されるエレメントからの放射によるθ方向の電場Ekは、(1)式で表される。但し、E0は電場振幅、EF(θ)はエレメント単体の指向性(すなわち、照射パターン)を表すエレメントファクタである。λは波長、θは電波面進行/到来方向、dkはkで特定されるエレメントの基準エレメントからの距離、φkは位相シフタ32によってkで特定されるエレメントに与えられる位相である。なお、基準エレメントは、アンテナアレイ33の一端(例えば、図2では左端)に位置するエレメントでありk=0で表される。以下、基準エレメントに近いものから順にkの値が大きくなる。
【0019】
【数1】
【0020】
K個のエレメントを有するアンテナアレイ33全体で作られる合成電場Esum(θ)は、(2)式で表される。但し、AF(θ,λ)は、アンテナアレイ33全体の指向性を表すアレイファクタであり、(3)式で表される。
【0021】
【数2】
【0022】
(4)式は、(3)式から抽出される位相条件式であり、位相条件式を満たす方向θ0にメインローブが形成される。つまり、位相φkを適切な値にすることで、メインローブが形成される方向θ0を任意に設定できる。但し、mを0以外の整数として、(5)式を満たす場合、θgm方位にも強いピーク、すなわち、グレーティングローブが形成される。
【0023】
【数3】
従って、OPA3では、図3に示すような、照射パターンが得られる。FOVは、メインローブが形成される方向θ0を中心として、m=±1のグレーティングローブが形成される方向θgmを含まない範囲に設定されることが一般的であるが、グレーティングローブを利用し、FOVを広げる場合もあり、前記範囲に限らない。
【0024】
ディテクタ4は、フォトダイオード等の受光素子を用いて構成され、OPA3で受光及び混合されることで生成される光を電気信号に変換し、受光信号として信号処理部7に供給する。受光信号は、FMCW波の送信波(すなわち、参照波)と受信波の差の周波数成分を有したビート信号となる。
【0025】
位相コントローラ5は、OPA3による光ビームの照射方向θに応じて、位相シフタ32に与える走査位相量φ(θ)を変化させることで、光ビームによる走査を実現する。走査位相量φ(θ)は、アンテナアレイ33のエレメント毎に設定される位相シフト量φ1~φKを要素とするベクトルである。走査位相量φ(θ)は、エレメントの配置及びビームの照射方向θに応じて理論的に定まる値である。
【0026】
位相コントローラ5は、信号処理部7から供給される位相調整量ψで、走査位相量φ(θ)を補正した値を位相シフタ32に与える。位相調整量ψは、エレメント毎に設定される調整量ψ1~ψKを要素とするベクトルである。位相調整量ψは、OPA3が実装される基板の歪み等により、アンテナアレイ33の配置が3次元的に変化することによって生じる位相の誤差分を除去するための調整量である。
【0027】
監視用受光部6は、図1に示すように、OPA3により制御可能なビーム照射方向の範囲内であって、且つ、FOVの外側に配置される。具体的は、筐体10において、開口部11が形成された前壁の内壁面等に設置される。監視用受光部6には、例えば、複数のフォトダイオード(以下、PD)を1次元的又は2次元的に配列したPDアレイが用いられる。
【0028】
信号処理部7は、CPU71と、例えば、ROM又はRAM等の半導体メモリ(以下、メモリ)72と、を有するマイクロコンピュータを備える。信号処理部7は、通常処理及び補正処理を少なくとも実行する。メモリ72には、通常処理及び補正処理を実行するためのプログラムの他、補正処理に用いるビームプロファイルの設計値、及びルックアップテーブル(以下、LUT)が少なくとも記憶される。
【0029】
[1-2.ビームプロファイル]
ビームプロファイルは、OPA3によって形成される光ビームの特徴を表すものであり、ここでは、ビームの広がり角及びビーム照射方向のずれ量のうち、少なくとも一つが用いられる。ビームプロファイルは、OPA3を実装するPIC基板が熱等によって歪むことによって、本来の設計値に対する誤差Eが生じる。誤差Eは、歪み量や歪みの方向に応じて異なった傾向を有する。
【0030】
具体的には、図4に示すように、歪み量が大きくなるに従って、ビームの広がり角が大
きくなると共に、ビーム照射方向(すなわち、メインローブの中心方向)のずれ量も大きくなる傾向を有する。
また、図5に示すように、PIC基板の左端が設計値に相当する基準面からプラス方向に歪んだ場合、及びPIC基板の右端が基準面からマイナス方向に歪んだ場合、照射方向はいずれも右方向にずれる。PIC基板の右端が基準面からプラス方向に歪んだ場合、及びPIC基板の左端が基準面からマイナス方向に歪んだ場合、照射方向はいずれも左方向にずれる。
【0031】
LUTは、このビームプロファイルにおける誤差Eの傾向を利用して作成され、具体的には、誤差Eと位相調整量ψの更新に用いる修正量Δψとを対応づけた内容を有する。また、LUTは、照射方向がずれる方向(すなわち、右方向か左方向か)、及び歪み方(すなわち、プラス方向かマイナス方向か)の組み合わせで4種類の異なるLUTが用意される。
【0032】
[1-3.処理]
信号処理部7が実行する通常処理を、図6のフローチャートを用いて説明する。
通常処理は、予め設定された通常処理周期で、繰り返し実行される。
【0033】
S110では、信号処理部7は、位相調整量ψを位相コントローラ5に出力する。位相調整量ψは、補正処理によって最後に更新された値が用いられる。但し、直近の補正処理が行なわれてから、予め設定された許容時間以上経過している場合は、位相調整量ψは0に設定されてもよい。
【0034】
続くS120では、信号処理部7は、FOVの走査に必票な時間の間、光源2を発光させる。
このとき、位相コントローラ5は、走査位相量φ(θ)に位相調整量ψを加えた位相シフト量φ(θ)+ψを、走査位相量φ(θ)を順次変化させながら位相シフタ32に供給する。その結果、OPA3からFOVを走査する光ビームが照射される。
【0035】
続くS130では、信号処理部7は、ディテクタ4から受光信号を取得し、受光信号に基づきFMCWレーダにおける既知の手法を用いて測距処理を実行して、処理を終了する。
次に、信号処理部7が実行する補正処理を、図7のフローチャートを用いて説明する。
【0036】
補正処理は、通常処理が実行される毎に、通常処理の前又は後に実行される。これに限らず、補正処理は、通常処理周期より長く設定された補正処理周期毎、或いは光学スキャナ1が起動される毎に実行されてもよい。
【0037】
S210では、信号処理部7は、補正用の位相シフト量φ(θh+ψ)が位相シフタ32に供給されるように位相コントローラ5に指示を出す。θhは、OPA3の放射中心から見て監視用受光部6が位置する方位角度であり、光学スキャナ1の構造によって決まる固定値である。ψは、現在設定されている位相調整量である。
【0038】
続くS220では、信号処理部7は、光源2を発光させる。これにより、OPA3から監視用受光部6に向けて光ビームが照射される。
続くS230では、信号処理部7は、監視用受光部6から監視用受光信号を取得し、取得した監視用受光信号に基づいてOPA3から照射される光ビームのビームプロファイルを検出する。具体的には、ビームの広がり角、及びビーム照射方向のずれ量を検出する。
【0039】
続くS240では、信号処理部7は、S230でのビームプロファイルの設計値に対す
る検出値の誤差Eを算出する。誤差Eは、絶対値によってずれの大きさが表され、正負の符号によってずれの方向が表されるものとする。従って、誤差Eは、照射方向のずれ量をそのまま検出値として用いて算出してもよいし、ビームの広がり角に、ビーム照射方向のずれ量の符号(すなわち、ずれの方向)を組み合わせた値を検出値として用いて算出してもよい。
【0040】
続くS250では、S240で算出される誤差Eの絶対値|E|が、予め設定された閾値Ethより小さいか否かを判定し、|E|<Ethであれば処理を終了し、|E|≧Ethであれば、処理をS260に移行する。
【0041】
S260では、信号処理部7は、終了条件を充足しているか否かを判定する。終了条件は、例えば、処理の繰り返し回数が上限値に達しているか否かを用いることができる。信号処理部7は、終了条件を充足している場合は処理を終了し、終了条件を充足していない場合は、処理をS270に移行する。
【0042】
S270では、信号処理部7は、今回の補正周期におけるS210~S250の処理の繰り返し回数が1回目であるか否かを判定し、1回目であれば処理をS280に移行し、2回目以降であれば、処理をS290に移行する。
【0043】
S280では、信号処理部7は、誤差Eが生じる原因となるPIC基板の歪み方が、プラス側への歪みであるかマイナス側への歪みであるかを表す歪み設定値を初期化して、処理をS310に進める。歪み設定値の初期化では、前回の補正処理が起動されたときに最終的に設定された歪み設定値と同じ値とする。但し、前回の補正処理から予め設定された許容時間以上経過している場合は、どちらの値に設定してもよい。
【0044】
S290では、信号処理部7は、S240で算出された誤差|E|と、前回の繰り返しサイクルにおけるS240で算出された誤差|E|とを比較して、誤差|E|が増加しているか否かを判定する。信号処理部7は、誤差|E|が増加していれば、処理をS290に移行し、増加していなければ処理をS310に移行する。
【0045】
S300では、信号処理部7は、歪み設定値を反転させて、処理をS310に進める。
S310では、信号処理部7は、S240で算出された誤差Eをゼロに近づけるための修正量Δψを、歪み設定値に対応するLUTを用いて求め、求めた修正量Δψを位相調整量ψの現在値に加算することで、位相調整量ψを更新して、処理をS210に戻す。なお、位相調整量ψの更新は、LUTを用いる代わりに計算式等を用いて行ってもよい。
【0046】
ここで、S270~S310の処理の意味は以下の通りである。すなわち、図5に示したように、ビームプロファイルの誤差Eだけでは、歪み方を区別できない状況が存在するため、最初は、例えば、左端がプラス方向に歪んでいると仮定して、その状況に対応したLUTを用いて位相調整量ψを更新する。そして、S210~S250の処理を繰り返した結果、誤差|E|が減少していれば、歪み方の仮定が正しいと推定されるため、同じLUTを用いて位相調整量ψの更新を繰り返す。一方、誤差|E|が増加していれば、歪み方の仮定が誤っていると推定されるため、歪み方の仮定を反転させ、すなわち、右端がマイナス方向に歪んでいると仮定して、その状況に対応したLUTを用いて位相調整量ψを更新する。
【0047】
[1-3.効果]
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1a)光学スキャナ1では、OPA3からの照射光を監視用受光部6にて直接検出することで、空間を伝搬する光の位相を、OPA3の位相シフタ32に与える位相調整量ψ
に直接的にフィードバックする。このため、光源2からアンテナアレイ3に至る導波路間の特性のばらつき等によって生じるPIC基板に実装された回路内の要因による誤差だけでなく、PIC基板の歪み等によって生じる回路外の要因による誤差も一括して補償できる。その結果、光ビームのビームプロファイル及び光ビームによる走査の最適化を精度よく実現できる。
【0048】
(1b)光学スキャナ1では、PIC基板の歪み方に応じて異なるLUTを用意し、LUTを用いて算出された修正量Δψで位相調整量ψを更新した後の誤差|E|の増減によって、適切なLUTが選択されているか否か、すなわち、歪み方の推定が正しいか否かを判定している。従って、光学スキャナ1では、監視用受光信号から検出されるビームプロファイルでは特定することが困難なPIC基板の歪み方を推定できるため、位相調整量ψを的確に更新できる。
【0049】
[2.第2実施形態]
[2-1.第1実施形態との相違点]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0050】
第2実施形態では、位相調整量ψの算出方法が、第1実施形態とは異なる。
図8に示すように、本実施形態の光学スキャナ1aは、第1実施形態の光学スキャナ1の構成に加えて、位相モニタ8を備える。
【0051】
位相モニタ8は、アンテナアレイ33を形成する各エレメントに供給される光の位相を個別に検出する。
信号処理部7は、監視用受光部6からの検出信号に加えて、位相モニタ8からの検出信号を用いて、位相調整量ψを算出する。
【0052】
[2-2.処理]
第2実施形態の信号処理部7が、図6に示した通常処理に代えて実行する通常処理を、図9のフローチャートを用いて説明する。
【0053】
S115では、信号処理部7は、外的要因調整量ψaと内的要因調整量ψbの合計値を位相調整量ψとして位相コントローラ5に出力する。ψa,ψbは、通常処理又は補正処理によって最後に更新された値が用いられる。但し、外的要因調整量ψaについては、最後の更新が行なわれてから、予め設定された許容時間以上経過している場合は0に設定してもよい。
【0054】
続くS120~S130の処理は、第1実施形態の場合と同様であるため説明を省略する。
続くS140では、信号処理部7は、位相モニタ8からの検出信号を取得し、取得した検出信号に基づいて、各エレメント間に供給される光の位相差に設計値からのずれ(以下、位相ずれ)があるか否かを判定する。信号処理部7は、位相ずれがあると判定した場合は処理をS150に移行し、位相ずれがないと判定した場合は処理を終了する。
【0055】
S150では、信号処理部7は、各エレメント間に供給される光の位相差を設計値と一致させる(すなわち、位相ずれを0にする)ための修正量Δψbを算出し、現在の内的要因調整量ψbに加算することで、内的要因調整量ψbを更新して、処理を終了する。
【0056】
次に、第2実施形態の信号処理部7が、図7に示した補正処理に代えて実行する補正処
理を、図10のフローチャートを用いて説明する。
S215では、信号処理部7は、補正用位相シフト量φ(θh+ψ)が位相シフタ32に供給されるように位相コントローラ5に指示を出す。θhは、OPA3の放射中心から見て監視用受光部6が位置する方位角度であり、光学スキャナ1の構造によって決まる固定値である。ψは、外的要因調整量ψaと内的要因調整量ψbとの合計値である。
【0057】
続くS220~S240の処理は、第1実施形態の場合と同様であるため説明を省略する。
続くS242では、信号処理部7は、S140での処理と同様に、位相モニタ8からの検出信号を取得し、取得した検出信号に基づいて、位相ずれがあるか否かを判定する。信号処理部7は、位相ずれがあると判定した場合は処理をS244に移行し、位相ずれがないと判定した場合は処理をS250に移行する。
【0058】
S244では、信号処理部7は、S150での処理と同様に、修正量Δψbを算出し、修正量Δψbを用いて内的要因調整量ψ2を更新して、処理をS250に進める。
S250~S310の処理は、第1実施形態の場合と同様であるため、説明を省略する。但し、S250~S310の説明で使用される位相調整量ψは、外的要因調整量ψ1に読み替えるものとする。
【0059】
[2-3.効果]
以上詳述した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果(1a)(1b)を奏し、さらに、以下の効果を奏する。
【0060】
(2a)光学スキャナ1aでは、位相調整量ψを、外的要因調整量ψaと内的要因調整量ψbとに分離して算出している。従って、位相調整量ψをより精度よく算出でき、OPA3の制御精度を向上させることができる。
【0061】
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0062】
(3a)上記実施形態では、監視用受光部6を、筐体10において開口部11が形成された前壁の内壁面に設けられているが、図11に示すように、筐体10の側壁の内壁面に設けられてもよい。
【0063】
(3b)上記実施形態では、メインローブを向けることが可能な位置に、監視用受光部6を配置しているが、監視用受光部6の配置は、これに限定されるものではない。例えば、図11に示すように、メインローブが所定方向(例えば正面方向)にあるときに、グレーティングローブが照射される位置に、監視用受光部6を配置してもよい。この場合、補正処理用のビーム制御を不要とすることができる。
【0064】
(3c)上記実施形態では、OPE3からの照射光を直接受光する位置に監視用受光部6が配置されているが、OPE3からの照射光が当たる位置にミラー9を配置し、ミラー9で反射した反射光を受光する位置に監視用受光部6を配置してもよい。この場合、監視用受光部6は、図12に示すように、筐体10の側壁に配置してもよいし、図13に示すように、OPA3等が配置されているのと同じ壁面に配置してもよい。ミラー9を設けることによって、監視用受光部6の配置の自由度を向上させることができる。
【0065】
(3d)本開示に記載の信号処理部7及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメ
モリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の信号処理部7及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の信号処理部7及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。信号処理部7に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0066】
(3e)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0067】
(3f)本開示は、上述した光学スキャナの他、当該光学スキャナを構成要素とするシステム、当該光学スキャナの信号処理部としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、OPAの位相調整方法など、種々の形態で実現することもできる。
【符号の説明】
【0068】
1,1a…光学スキャナ、2…光源、3…光フェーズドアレイ、4…ディテクタ、5…位相コントローラ、6…監視用受光部、7…信号処理部、8…位相モニタ、9…ミラー、10…筐体、11…開口部、31…スプリッタ、32…位相シフタ、33…アンテナアレイ、71…CPU、72…メモリ。
図1
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