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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】鋳造装置
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/24 20060101AFI20240416BHJP
   B22D 17/22 20060101ALI20240416BHJP
   B22C 9/06 20060101ALI20240416BHJP
   B22C 9/10 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B22C9/24 A
B22D17/22 C
B22C9/06 G
B22C9/10 S
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020168455
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060779
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大地
(72)【発明者】
【氏名】重里 政考
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-240818(JP,A)
【文献】特開平09-057421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/06
B22C 9/10
B22C 9/24
B22D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダブロックを鋳造する鋳造装置であって、
第1鋳抜きピンを備える第1側方金型と、
前記第1側方金型と対向して配置され、前記第1鋳抜きピンと同じ軸線上に沿って延びる第2鋳抜きピンを備える第2側方金型と、
型締め時に前記第1側方金型と前記第2側方金型と共にキャビティを形成するとともに、当該キャビティに溶湯を注入するための溶湯流入口が形成された第3金型と、
少なくとも一部が前記キャビティ内部に配置される埋金と
を備えており、
前記溶湯流入口は、該溶湯流入口から前記キャビティへの溶湯の流入方向と、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンの軸方向とが交差するように配置され、
前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンは、型締め時にそれらの先端部同士が突合されることによって前記シリンダブロックにおける潤滑油が流れる通路となるメインギャラリを形成するための中子を構成し、
前記埋金は、前記第1鋳抜きピンと前記第2鋳抜きピンとの突合わせ部と前記溶湯流入口との間であって、前記突合わせ部を前記溶湯の流入方向の上流側から覆い隠す位置に配置され
前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンのうちの少なくとも一方の基端部には、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンの軸方向に弾性変形が可能な第1バネおよび第2バネが直列に並べて配置され、
前記第1バネは、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンが突き合わされる前の状態では、あらかじめ所定量だけ撓められており、突き合わせ時において前記第1バネと前記第2バネとの間で荷重に差を持つようにされている、
ことを特徴とする鋳造装置。
【請求項2】
前記埋金は、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンの軸方向に対して交差する方向に延びるように配置されている、
請求項1に記載の鋳造装置。
【請求項3】
前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンは、水平方向に延び、
前記埋金は、垂直方向に延びるように配置されている、
請求項2に記載の鋳造装置。
【請求項4】
前記埋金は、シリンダヘッドからクランクケースへ潤滑油を戻すためのオイルリターン通路を前記シリンダブロックに形成する鋳抜き部材である、
請求項3記載の鋳造装置。
【請求項5】
前記埋金は、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンの軸方向に対して交差するように前記溶湯の流入方向の上流側から水平方向に延びるように配置され、
前記埋金の先端は、前記突合わせ部を前記溶湯の流入方向の上流側から覆い隠す位置に配置されている、
請求項1記載の鋳造装置。
【請求項6】
前記埋金は、除肉用または補器類取付け用の水平方向に延びる鋳抜き穴を形成する鋳抜き部材である、
請求項5記載の鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダブロックには、オイル通路用メインギャラリが形成された構造が知られている。メインギャラリは、エンジン内部のクランクシャフトやピストン裏面に向けられたオイルジェットに潤滑油を供給する気筒配列方向に沿って延びる長い通路である。直列の多気筒(例えば6気筒以上の)エンジンのような気筒配列方向に長いシリンダブロックの場合には、シリンダブロックを鋳造後にドリルなどによる機械加工によりメインギャラリを形成することが一般的に行われる。しかし、この場合、鋳造と別に機械加工を行うため製造コストがかかる。
【0003】
そこで鋳造時において鋳抜きピンを用いてメインギャラリを形成してコストアップを抑制することが考えられる。鋳造時には、メインギャラリは、互いに突き合わされた一対の射抜きピンによって形成される。しかし、その場合、溶湯注入時に溶湯が鋳抜きピンを直撃して鋳抜きピンが変形するおそれがある。そのため、金型内部のキャビティに溶湯を注入する溶湯流入口側とは離れた位置、具体的には、各シリンダライナを挟んで溶湯流入口とは反対側の位置に鋳抜きピンを配置することにより、鋳抜きピンへの溶湯の直撃を避けるようにしている。
【0004】
近年において、エンジンの燃費やエミッションの改善などの目的のために、運転状況に応じて使用されるメインギャラリの本数を変える技術が提案されている。このようなメインギャラリを2本以上備えたシリンダブロックの場合には、溶湯流入口側にもメインギャラリをさらに追加せざるを得ない。そのため、溶湯流入口側のメインギャラリを形成する射抜きピンは溶湯の直撃を避けられず、鋳抜きピンが変形するおそれがある。
【0005】
このような鋳抜きピンの変形を防止するための先行技術として、特許文献1には、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンの突合わせ部に溶湯流れ方向に互いに対向する傾斜面が形成され、これら傾斜面が当接することで鋳抜きピン同士の変形を抑制することが可能な金型が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-240818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の金型のように鋳抜きピン同士の突合わせ部に傾斜面が形成されている構造であっても、鋳抜きピンの長さが長くなったり、または鋳抜きピン同士の突合せ荷重を上げたりした場合には、様々な問題が生じると考えられる。例えば、鋳抜きピンの先端部の軸ズレが生じたり、または溶湯注入時の鋳抜きピンの熱膨張により、鋳抜きピンの変形や、傾斜面に溶湯が入り込むことによりバリが発生するおそれが高まるという問題がある。この場合、鋳造後に鋳抜き通路をドリルなどによって後加工する必要が生じる。特に溶湯の直撃に耐えうるように突合せ荷重に上げると、ますます鋳抜きピンが変形するおそれが高まる。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、エンジンのシリンダブロックを鋳造する鋳造装置において、溶湯流入口側に鋳抜きピンを用いてメインギャラリとなる鋳抜き通路を形成する際に鋳込み時の溶湯の衝撃による鋳抜きピンの変形を抑制すること、ひいては鋳抜き通路の変形を抑制することが可能な鋳造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の鋳造装置は、エンジンのシリンダブロックを鋳造する鋳造装置であって、第1鋳抜きピンを備える第1側方金型と、前記第1側方金型と対向して配置され、前記第1鋳抜きピンと同じ軸線上に沿って延びる第2鋳抜きピンを備える第2側方金型と、型締め時に前記第1側方金型と前記第2側方金型と共にキャビティを形成するとともに、当該キャビティに溶湯を注入するための溶湯流入口が形成された第3金型と、少なくとも一部が前記キャビティ内部に配置される埋金とを備えており、前記溶湯流入口は、該溶湯流入口から前記キャビティへの溶湯の流入方向と、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンの軸方向とが交差するように配置され、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンは、型締め時にそれらの先端部同士が突合されることによって前記シリンダブロックにおける潤滑油が流れる通路となるメインギャラリを形成するための中子を構成し、前記埋金は、前記第1鋳抜きピンと前記第2鋳抜きピンとの突合わせ部と前記溶湯流入口との間であって、前記突合わせ部を前記溶湯の流入方向の上流側から覆い隠す位置に配置され、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンのうちの少なくとも一方の基端部には、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンの軸方向に弾性変形が可能な第1バネおよび第2バネが直列に並べて配置され、前記第1バネは、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンが突き合わされる前の状態では、あらかじめ所定量だけ撓められており、突き合わせ時において前記第1バネと前記第2バネとの間で荷重に差を持つようにされている、ことを特徴とする。
【0010】
かかる構成では、シリンダブロックにおける溶湯流入口側の側部にメインギャラリが形成されたシリンダブロックを鋳造する際に、型締め時に第1側方金型、第2側方金型、および第3金型を組み合わせてキャビティを形成するとともに、キャビティ内部において、メインギャラリを構成するために第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンとが突き合される。キャビティ内部には、埋金は、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンとの突合わせ部と溶湯流入口との間であって、突合わせ部を溶湯の流入方向の上流側から覆い隠すことが可能な位置に配置されている。この状態では、突合わせ部は、溶湯の流入方向の上流側から埋金によって覆い隠されるので、溶湯流入口からキャビティ内部に溶湯が流入したときに突合わせ部が溶湯の直撃を受けることを回避できる。したがって、第1および第2鋳抜きピンの曲げ起点となる突合わせ部を溶湯の直撃から保護することにより、第1および第2鋳抜きピンの変形を抑制し、それにより第1および第2鋳抜きピンによって形成される鋳抜き通路であるメインギャラリの変形も抑制することが可能である。さらに、これらのピンの突合せを維持することで突合わせ部でのバリの発生を防止することが可能である。その結果、メインギャラリを形成するためにドリルなどによる機械加工が不要になる。
また、上記の構成によれば、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンとの突合わせ時には、直列に並べて配置された第1バネおよび第2バネのうち、第2バネのみを圧縮していき高いバネ定数で短いストロークにて適正な荷重にて第1鋳抜きピンおよび第2鋳抜きピンを突き合わせることが可能である。一方、鋳造によるシリンダブロック成形時では第1および第2鋳抜きピンの熱膨張による伸びを第1バネおよび第2バネを同時に圧縮していくことによって低いバネ定数でストローク量に対する荷重の変化を低減することが可能である。その結果、第1および第2鋳抜きピンの曲がりを抑制することが可能である。
【0011】
上記の鋳造装置において、前記埋金は、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンの軸方向に対して交差する方向に延びるように配置されているのが好ましい。
【0012】
かかる構成では、鋳抜き通路を形成する埋金は、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンの軸方向に対して交差する方向に延びることにより、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンとの突合わせ部を当該交差方向に延びる埋金で広範囲に覆うように第1鋳抜きピンおよび第2鋳抜きピンに対して溶湯流入口側に配置される。これにより、突合わせ部への溶湯の直撃を確実に回避することが可能である。
【0013】
上記の鋳造装置において、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンは、水平方向に延び、前記埋金は、垂直方向に延びるように配置されているのが好ましい。
【0014】
かかる構成では、埋金は、垂直方向に伸びる鋳抜き通路を形成する。埋金は、水平方向に延びる第1鋳抜きピンおよび第2鋳抜きピンと直交し、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンとの突合わせ部を当該垂直方向に延びる埋金で広範囲に覆うように、第1鋳抜きピンおよび第2鋳抜きピンに対して溶湯流入口側に配置される。これにより、突合わせ部への溶湯の直撃をより確実に回避することが可能である。
【0015】
上記の鋳造装置において、前記埋金は、シリンダヘッドからクランクケースへ潤滑油を戻すためのオイルリターン通路を前記シリンダブロックに形成する鋳抜き部材であるのが好ましい。
【0016】
かかる構成では、シリンダヘッドからクランクケースへ潤滑油を戻すためのオイルリターン通路をシリンダブロックに形成する鋳抜き部材を上記の埋金として利用することにより、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンとの突合わせ部を覆って突合わせ部への溶湯の直撃を回避することが可能である。そのため、オイルリターン通路用の鋳抜き部材とは別に突合わせ部への溶湯直撃を回避するための専用の埋金を設ける必要が無く、鋳造装置の部品点数の増大を回避することが可能である。
【0017】
上記の鋳造装置において、前記埋金は、前記第1鋳抜きピンおよび前記第2鋳抜きピンの軸方向に対して交差するように前記溶湯の流入方向の上流側から水平方向に延びるように配置され、前記埋金の先端は、前記突合わせ部を前記溶湯の流入方向の上流側から覆い隠す位置に配置されているのが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、埋金は、第1鋳抜きピンおよび第2鋳抜きピンの軸方向に対して交差するように、溶湯の流入方向の上流側から水平方向に延びており、埋金の先端は、突合わせ部に対して溶湯の流入方向の上流側に配置されている。この構成では、突合わせ部に向かう溶湯が埋金に沿って水平方向に流れることにより、埋金周囲における流動抵抗によって突合わせ部へ向かう溶湯の勢いを弱めることが可能である。さらに、突合わせ部は、溶湯の流入方向の上流側から埋金の先端によって覆い隠されるので、突合わせ部への溶湯の直撃を回避することが可能である。
【0019】
上記の鋳造装置において、前記埋金は、除肉用または補器類取付け用の水平方向に延びる鋳抜き穴を形成する鋳抜き部材であるのが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、除肉用または補器類取付け用の水平方向に延びる鋳抜き穴を形成する鋳抜き部材を上記の埋金として利用することにより、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンとの突合わせ部を覆って突合わせ部への溶湯の直撃を回避することが可能である。そのため、上記用途の鋳抜き部材とは別に突合わせ部への溶湯の直撃を回避するための専用の埋金を設ける必要が無く、鋳造装置の部品点数の増大を回避することが可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の鋳造装置によれば、溶湯流入口側に鋳抜きピンを用いて鋳抜き通路を形成する際に鋳込み時の溶湯の衝撃による鋳抜きピンの変形を抑制することができる。その結果、鋳抜きピンによって形成される鋳抜き通路の変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る鋳造装置の全体構成を示す斜視図である。
図2図1のキャビティ内部における第1~第4鋳抜きピンおよび下側埋金の配置を示す拡大斜視図である。
図3図1のキャビティ内部における第1~第4鋳抜きピンおよび下側埋金の配置を示す拡大平面図である。
図4図1の鋳造装置における第1~第3金型、第5金型、第1~第2鋳抜きピン、および下側埋金の平面配置を示す平面図である。
図5図4の第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンとの突合わせ部が下側埋金によって溶湯の上流方向から覆い隠された状態を示す説明図である。
図6図1の埋金付近の縦断面図である。
図7図1の鋳造装置の第1~第6金型によって形成されたキャビティに溶湯が流入される状態を示すキャビティ付近の縦断面図である。
図8図1の第1金型に内蔵された荷重調整部の断面説明図である。
図9図8の荷重調整部の荷重特性を示すグラフである。
図10】本発明の他の実施形態として、前側埋金が追加された鋳造装置を用いてシリンダブロックを鋳造することを説明する斜視説明図である。
図11図10の前側埋金が追加された鋳造装置におけるキャビティ付近の縦断面図である。
図12】エンジン内部の潤滑油の通路であって、2本のメインギャラリを備えた潤滑構造を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0026】
図1に示される鋳造装置1は、エンジン50(図12参照)のシリンダブロックB(図10参照)を鋳造する装置である。鋳造装置1によって鋳造されるシリンダブロックBの形状については本発明ではとくに限定しないが、例えば、直列多気筒(本実施形態では4気筒)エンジン用のシリンダブロックが鋳造装置1によって製造される。
【0027】
(金型2~7の説明)
図1~7に示されるように、鋳造装置1は、シリンダブロックBの形状に対応する空間部であるキャビティ9を形成するために、6個の金型、すなわち、第1側方金型2、第2側方金型3、下側金型4(本発明の第3金型に対応)、前側金型5、後側金型6、および上側金型7を備える。これら6個の金型2~7が型締め時に組み合わされることにより、密閉されたキャビティ9が形成される。なお、図1において、キャビティ9を視認可能にするために、前側金型5および上側金型7は2点鎖線を用いて簡略的に示されている。
【0028】
なお、第1側方金型2および第2側方金型3は、シリンダブロックBの気筒配列方向Xに互いに離間して対向して配置されている。下側金型4および上側金型7は、垂直方向Zに互いに離間して対向して配置されている。前側金型5および後側金型6は、気筒配列方向Xに直交する幅方向Yに互いに離間して対向して配置されている。前側金型5は、後述する溶湯流入口10の上側に配置されている。
【0029】
下側金型4には、キャビティ9に溶湯を圧入するための溶湯流入口10が形成されている。溶湯流入口10は、当該下側金型4を垂直方向Zに貫通する貫通孔である。溶湯流入口10は、流入ゲート16を通じてキャビティ9に連通している。流入ゲート16は、下側金型4と前側金型5との対向面によって形成され、斜め上方に延びる通路である。
【0030】
アルミ合金などの金属を溶かして形成された溶湯は、図6~7に示されるように、溶湯流入口10から流入ゲート16を介してキャビティ9に高温高圧の状態で圧入されることにより、キャビティ9の形状に対応するシリンダブロックBの鋳造(具体的には、ダイキャスト成形)が行われる。キャビティ9に流入した溶湯の残余分および空気は、ベント21~23を通してキャビティ9の外部に排出される。ベント21~23は、流入ゲート16から離れた場所、例えば、下側金型4と後側金型6との間、前側金型5と上側金型7との間、および後側金型6と上側金型7との間にそれぞれ形成されている。
【0031】
(鋳抜きピン11~14の説明)
鋳造装置1は、シリンダブロックBに2本の潤滑油通路として第1メインギャラリ25および第2メインギャラリ26(図7および図12参照)を形成するために、4本の鋳抜きピン、すなわち、第1鋳抜きピン11、第2鋳抜きピン12、第3鋳抜きピン13、および第4鋳抜きピン14をさらに備える。
【0032】
なお、第1メインギャラリ25は、流入ゲート16に近い側の潤滑油通路であり、主として高速運転時または高温状態のときにエンジン内部のピストンの裏面に潤滑油を噴射するオイルジェット(噴射部)などに潤滑油を供給する通路である。第2メインギャラリ26(図7および図12参照)は、流入ゲート16から遠い側の潤滑油通路であり、エンジン駆動中は常時、エンジン内部のクランクジャーナルや上記のオイルジェットに潤滑油を供給する通路である。第1メインギャラリ25および第2メインギャラリ26には、図12に示されるクランクケースCCに貯留された潤滑油がオイルフィルタ41によってろ過された後に第1供給通路42を介して供給される。それとともに潤滑油は、第2供給通路43を介してシリンダヘッドCHにおけるバルブ開閉機構用オイルギャラリ44にも供給される。
【0033】
図1~5に示される第1鋳抜きピン11は、流入ゲート16に近い第1メインギャラリ25(図7および図12参照)を形成するための中子の一方の部分であり、第1側方金型2におけるキャビティ9を向く面においてキャビティ9の内方であって気筒配列方向Xへ突出するように設けられている。
【0034】
図1~7に示される第2鋳抜きピン12は、上記の第1メインギャラリ25を形成するための中子の他方の部分であり、第2側方金型3におけるキャビティ9を向く面においてキャビティ9の内方であって気筒配列方向Xへ突出するように設けられている。第2鋳抜きピン12は、第1鋳抜きピン11と同じ軸線上(本実施形態では気筒配列方向Xに延びる軸線上)に沿って延びる。
【0035】
第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12は、型締め時にそれらの先端部同士が突合される(すなわち図2~3、図5の突合わせ部17が形成される)ことによってシリンダブロックBにおける潤滑油が流れる通路となる第1メインギャラリ25を形成するための中子を構成している。
【0036】
図1~5に示される第3鋳抜きピン13は、流入ゲート16から遠い第2メインギャラリ26(図7および図12参照)を形成するための中子の一方の部分であり、第1側方金型2におけるキャビティ9を向く面においてキャビティ9の内方であって気筒配列方向Xへ突出するように設けられている。
【0037】
図1~7に示される第4鋳抜きピン14は、上記の第2メインギャラリ26を形成するための中子の他方の部分であり、第2側方金型3におけるキャビティ9を向く面においてキャビティ9の内方であって気筒配列方向Xへ突出するように設けられている。第4鋳抜きピン14は、第3鋳抜きピン13と同じ軸線上(本実施形態では気筒配列方向Xに延びる軸線上)に沿って延びる。
【0038】
第3鋳抜きピン13および第4鋳抜きピン14は、型締め時にそれらの先端部同士が突合される(図2~3の突合わせ部18が形成される)ことによってシリンダブロックBにおける潤滑油が流れる通路となる第2メインギャラリ26を形成するための中子を構成している。
【0039】
第3鋳抜きピン13および第4鋳抜きピン14は、図2に示されるキャビティ9のシリンダ形成領域9aを挟んで第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の反対側に位置している。
【0040】
ここで、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12を基準にして上記の溶湯流入口10の位置を見た場合、図1~2および図4に示されるように、溶湯流入口10は、該溶湯流入口10からキャビティ9への溶湯の流入方向Mと、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の軸方向(気筒配列方向Xと同じ方向)とが交差(図1~2では直交)するように配置されている。
【0041】
(下側埋金15の説明)
図1~6に示されるように、本実施形態では、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12との突合わせ部17を溶湯流入口10からキャビティ9に流入する溶湯の直撃を回避するために、下側埋金15がキャビティ9の内部に配置されている。
【0042】
下側埋金15は、少なくとも一部がキャビティ9内部に配置されていればよい。本実施形態では、下側埋金15は、下側金型4に対して垂直方向Zに貫通するように設けられ、当該下側埋金15の上端付近の部分がキャビティ9の内部に突出している。
【0043】
下側埋金15は、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12との突合わせ部17と溶湯流入口10との間であって、突合わせ部17を溶湯の流入方向Mの上流側から覆い隠す位置に配置されている。具体的には、流入ゲート16を通ってキャビティ9に流入する溶湯の流入方向Mは、図2図4~6に示されるように、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の軸方向に直交し、かつ、斜め上方に向かっている。下側埋金15は、突合わせ部17における溶湯の流入方向Mの上流側の位置において、垂直方向Zに延びるように配置されているので、斜め上方に向かう溶湯(流入方向M参照)から突合わせ部17を覆い隠すことが可能である。
【0044】
本実施形態では、下側埋金15は、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の軸方向(気筒配列方向X)に対して交差する方向に延びるように配置されている。さらに具体的には、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12が水平方向に延びる構成において、下側埋金15は、垂直方向Zに延びるように配置されている。そのため、垂直方向Zに延びる下側埋金15によって突合わせ部17を覆い隠して流入ゲート16に沿って斜め上方に向かう溶湯(流入方向M参照)が突合わせ部17に直撃することを確実に回避することが可能である。
【0045】
本実施形態では、下側埋金15としては、図12に示されるエンジン50のシリンダヘッドCHから下方のクランクケースCCへ潤滑油を戻すためのオイルリターン通路(オイルリターン用鋳抜き通路)をシリンダブロックBに形成する鋳抜き部材が用いられる。なお、下側埋金15は、シリンダブロックBを形成するキャビティ9の全高に対して半分程度の高さまでしか延びていないが、下側埋金15の上方の通路部分は、鋳造後のシリンダブロックにドリルで垂直方向Zに穴を開けることによって形成される。これにより、シリンダヘッドCHから下方のクランクケースCC(図12参照)へ垂直方向Zに貫通するオイルリターン通路が形成される。
【0046】
図1~6に示される下側埋金15は、上方に尖った薄板の形状をしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の形状、例えば、柱状(円柱、角柱など)などの形状でもよい。
【0047】
(荷重調整部30の説明)
本実施形態では、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の突き合わせ時および鋳造中の熱膨張時において、これら第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12に作用する荷重を調整するために、図8に示されるような荷重調整部30が設けられている。
【0048】
荷重調整部30は、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12のうちの少なくとも一方の基端部に設けられる。図8の例では、荷重調整部30は、第1鋳抜きピン11の基端部11aに当接するように第1側方金型2の内部に設けられている。具体的には、第1鋳抜きピン11は、第1側方金型2における水平方向(具体的には気筒配列方向Xと同じ方向)に延びる挿入孔37に挿入されている。第1側方金型2の内部には、挿入孔37に連通して水平方向に延びる空間部38が形成されている。空間部38には、第1鋳抜きピン11の拡径された基端部11aおよび荷重調整部30が収容されている。基端部11aは、荷重調整部30から水平方向の荷重を受けながら空間部38の内部で水平方向に移動可能である。
【0049】
荷重調整部30は、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の軸方向に弾性変形が可能であるとともに互いに直列に並べて配置された第1バネ31および第2バネ32と、第1バネ31と第2バネ32との間に挟まれた中間部材33と、第1バネ31と第1鋳抜きピン11の基端部11aとの間に挟まれた前端部材34と、第2バネ32と空間部38の奥端との間に挟まれた後端部材35と、第1バネ31をあらかじめ所定量だけ撓めるための規制部材36とを備える。中間部材33、前端部材34、および規制部材36は、空間部38内部において水平方向に移動自在に配置されている。
【0050】
規制部材36は、第1バネ31の内部を通って前端部材34に対して所定のストローク量の範囲で水平方向に相対的に移動可能に接続されている。規制部材36と前端部材34との最大間隔は、第1バネ31の自由長よりも短くなるように設定されている。これにより、第1バネ31は、前端部材34と規制部材36との間であらかじめ所定量だけ撓められている。したがって、第1バネ31は、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12が突き合わされる前の状態では、あらかじめ所定量だけ撓められており、突き合わせ時において第1バネ31と第2バネ32との間で荷重に差を持つようになる。一方、第2バネ32は、自由長の状態または第1バネ31の初期の撓み量よりも小さいたわみ量で撓められた状態で中間部材33と後端部材35との間に収容されている。
【0051】
図9には、上記の構成の荷重調整部30の荷重特性を示すグラフが示されている。このグラフの横軸は荷重調整部30全体の変位量を示し、縦軸は荷重調整部30が第1鋳抜きピン11に作用する荷重を示す。
【0052】
図9に示される「組付け」の過程は、荷重調整部30を第1側方金型2の空間部38内部に組み付ける過程である。組付けの過程では、第1バネ31は、前端部材34と規制部材36との間であらかじめ所定量だけ撓められて固くなっている(すなわち、第1バネ31が初期荷重として図9の荷重F1に比例するたわみ量で撓められている)ので、この段階では第1バネ31はさらに圧縮されない。一方、第2バネ32は微量に撓められた状態で中間部材33と後端部材35との間に組み込まれる。このとき、第2バネ32のみが圧縮し、図9では、第2バネ32のみによるバネ定数の特性は、第1荷重特性直線L1によって示される。荷重調整部30の組付け後の状態では、荷重調整部30の変位量(縮んだ量)はX1であり、第1鋳抜きピン11に作用する荷重F0となる。
【0053】
つぎに、図9の「型締め」の過程では、上記の金型2~7を組み合わせてキャビティ9を形成するとともに、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12を突き合わせる。このとき、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12との突合わせの初期の状態では、直列に並べて配置された第1バネ31および第2バネ32のうち、第2バネ32のみが圧縮していく。このとき、図9に示される荷重特性において、第1荷重特性直線L1が荷重F1(すなわち、第1バネ31の所定のたわみ量に比例する荷重)に達したときには、変化点Pで折れ曲がり、第1荷重特性直線L1よりも緩やかな勾配の第2荷重特性直線L2へ移行する(すなわち、第1バネ31および第2バネ32の両方が圧縮される)。第2荷重特性直線L2は、第1バネ31および第2バネ32の合成されたバネ定数の特性を示す。
【0054】
第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12の突合わせから型締め完了までは、初めに第1荷重特性直線L1で示される第2バネ32のみのバネ定数に基づいて、荷重調整部30は、少ない変位量で第1鋳抜きピン11への荷重を上げる。そして、荷重F1の変化点Pに達したときには、第2荷重特性直線L2に移行して第1バネ31および第2バネ32の合成バネ定数(第2バネ32のみのバネ定数よりも低いバネ定数)に基づいて、荷重調整部30は、大きい変位量で型締め完了時の変位量X2で目標の型締め荷重F2となるように、第1鋳抜きピン11への荷重を調整する。
【0055】
さらに、図9の「鋳造時の熱膨張」の過程では、第2荷重特性直線L2は、鋳造時の第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12の熱膨張によって第1鋳抜きピン11の基端部11aが空間部38の奥(図8の左端)へ向かって後退しても、荷重調整部30の変位量に対して、座屈限界荷重F3を超えない荷重特性としている。すなわち、第1鋳抜きピン11の熱膨張による荷重調整部30の最大変位量X3と座屈限界荷重F3から、第2荷重特性直線L2の傾きが決定される。
【0056】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の鋳造装置1は、エンジン50のシリンダブロックBを鋳造する鋳造装置1であって、第1鋳抜きピン11を備える第1側方金型2と、第1側方金型2と対向して配置され、第1鋳抜きピン11と同じ軸線上に沿って延びる第2鋳抜きピン12を備える第2側方金型3と、型締め時に第1側方金型2と第2側方金型3と共にキャビティ9を形成するとともに、当該キャビティ9に溶湯を注入するための溶湯流入口10が形成された下側金型4(本発明の第3金型に対応)と、少なくとも一部がキャビティ9内部に配置される埋め金として、下側金型4に設けられた下側埋金15とを備えている。溶湯流入口10は、該溶湯流入口10からキャビティ9への溶湯の流入方向Mと、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の軸方向(気筒配列方向X)とが交差するように配置されている。第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12は、型締め時にそれらの先端部同士が突合されることによってシリンダブロックBにおける潤滑油が流れる通路となる第1メインギャラリ25を形成する中子を構成している。下側埋金15は、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12との突合わせ部17と溶湯流入口10との間であって、突合わせ部17を溶湯の流入方向Mの上流側から覆い隠す位置に配置されている。
【0057】
上記の構成では、シリンダブロックBにおける溶湯流入口10側の側部に第1メインギャラリ25が形成されたシリンダブロックBを鋳造する際に、型締め時に第1側方金型2、第2側方金型3、および下側金型4を組み合わせてキャビティ9を形成するとともに、キャビティ9内部において、第1メインギャラリ25を構成するために第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12とが突き合される。キャビティ9内部には、下側埋金15は、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12との突合わせ部17と溶湯流入口10との間であって、突合わせ部17を溶湯の流入方向Mの上流側から覆い隠すことが可能な位置に配置されている。この状態では、突合わせ部17は、溶湯の流入方向Mの上流側から下側埋金15によって覆い隠されるので、溶湯流入口10からキャビティ9内部に溶湯が流入したときに突合わせ部17が溶湯の直撃を受けることを回避できる。したがって、第1および第2鋳抜きピン11、12の曲げ起点となる突合わせ部17を溶湯の直撃から保護することにより、第1および第2鋳抜きピン11、12の変形を抑制し、それにより第1および第2鋳抜きピン11、12によって形成される鋳抜き通路である第1メインギャラリ25の変形も抑制することが可能である。さらに、これらのピンの突き合わせを維持することで突合わせ部17でのバリの発生を防止することが可能である。その結果、第1メインギャラリ25を形成するためにドリルなどによる機械加工が不要になる。
【0058】
(2)
本実施形態の鋳造装置1では、下側埋金15は、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の軸方向(気筒配列方向X)に対して交差する方向に延びるように配置されている。
【0059】
上記の構成では、鋳抜き通路を形成する下側埋金15は、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12の軸方向(気筒配列方向X)に対して交差する方向に延びることにより、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12との突合わせ部17を当該交差方向に延びる下側埋金15で広範囲に覆うように第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12に対して溶湯流入口10側に配置される。これにより、突合わせ部17への溶湯の直撃を確実に回避することが可能である。
【0060】
(3)
本実施形態の鋳造装置1では、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12は、水平方向に延び、下側埋金15は、垂直方向Zに延びるように配置されている。
【0061】
上記の構成では、下側埋金15は、垂直方向Zに伸びる鋳抜き通路を形成する。下側埋金15は、水平方向に延びる第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12と直交し、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12との突合わせ部17を当該垂直方向Zに延びる下側埋金15で広範囲に覆うように、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12に対して溶湯流入口10側に配置される。これにより、突合わせ部17への溶湯の直撃をより確実に回避することが可能である。
【0062】
(4)
本実施形態の鋳造装置1では、下側埋金15は、シリンダヘッドCHからクランクケースCCへ潤滑油を戻すためのオイルリターン通路をシリンダブロックBに形成する鋳抜き部材である。
【0063】
上記の構成では、シリンダヘッドCHからクランクケースCCへ潤滑油を戻すためのオイルリターン通路をシリンダブロックBに形成する鋳抜き部材を上記の下側埋金15として利用することにより、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12との突合わせ部17を覆って突合わせ部17への溶湯の直撃を回避することが可能である。そのため、オイルリターン通路用の鋳抜き部材とは別に突合わせ部17への溶湯直撃を回避するための専用の下側埋金15を設ける必要が無く、鋳造装置1の部品点数の増大を回避することが可能である。
【0064】
(5)
本実施形態の鋳造装置1では、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12のうちの少なくとも一方の基端部には、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の軸方向に弾性変形が可能な第1バネ31および第2バネ32が直列に並べて配置されている。第1バネ31は、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12が突き合わされる前の状態では、あらかじめ所定量だけ撓められており、突き合わせ時において第1バネ31と第2バネ32との間で荷重に差を持つようにされている。
【0065】
上記の構成によれば、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12との突合わせ時には、直列に並べて配置された第1バネ31および第2バネ32のうち、第2バネ32のみを圧縮していき高いバネ定数で短いストロークにて適正な荷重にて第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12を突き合せることが可能である。一方、鋳造によるシリンダブロックB成形時では第1および第2鋳抜きピン11、12の熱膨張による伸びを第1バネ31および第2バネ32を同時に圧縮していくことによって低いバネ定数でストローク量に対する荷重の変化を低減することが可能である。その結果、第1および第2鋳抜きピン11、12の曲がりを抑制することが可能である。
【0066】
(変形例)
(A)
上記の実施形態では、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12との突合わせ部17を溶湯の直撃から回避するための埋金の一例として、下側金型4に設けられた下側埋金15を一例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の埋金は、少なくとも一部がキャビティ9内部に配置され、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12との突合わせ部17と溶湯流入口10との間であって、突合わせ部17を溶湯の流入方向Mの上流側から覆い隠すことが可能な位置に配置されていればよい。
【0067】
したがって、本発明の鋳造装置の変形例として、埋金が図10~11に示される前側埋金39であってもよい。
【0068】
ここで、図10は、本発明の他の実施形態として、前側埋金39が追加された鋳造装置を用いてシリンダブロックBを鋳造することを説明する斜視説明図である。図11は、図10の前側埋金39が追加された鋳造装置におけるキャビティ9付近の縦断面図である。
【0069】
図10~11に示されるように、前側埋金39は、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の軸方向(気筒配列方向X)に対して交差するように溶湯の流入方向Mの上流側から水平方向、具体的には軸方向(気筒配列方向X)に直交するシリンダブロックBの幅方向Yに延びるように配置されている。
【0070】
前側埋金39は、前側金型5を前後方向(上記の幅方向Y)に貫通するように設けられ、当該前側埋金39の先端付近の部分がキャビティ9の内部に突出している。
【0071】
前側埋金39の先端は、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12の突合わせ部17を溶湯の流入方向Mの上流側から(すなわち幅方向Yにおける前側Y1から)覆い隠す位置に配置されている。
【0072】
前側埋金39は、除肉用または補器類取付け用の水平方向(具体的には、シリンダブロックBの幅方向Y)に延びる鋳抜き穴40を形成する鋳抜き部材である。
【0073】
図10~11に示される変形例の鋳造装置は、上記に記載された以外のその他の構成については、上記の実施形態に係る鋳造装置1(図1~8参照)と共通している。すなわち、図11に示される変形例の鋳造装置は、本発明の埋金として、2つの埋金、すなわち、前側埋金39だけでなく、上記実施形態の下側埋金15の両方を備えている。この構成では、流入ゲート16に沿って斜め上方に流れる溶湯(流入方向M参照)から突合わせ部17を下側埋金15および前側埋金39の両方によって覆い隠すことが可能であり、突合わせ部17への溶湯の直撃をより確実に回避することが可能である。
【0074】
以上のように、上記の図10~11に示される変形例の鋳造装置では、前側埋金39は、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の軸方向(気筒配列方向X)に対して交差するように溶湯の流入方向Mの上流側から水平方向に延びるように配置されている。下側埋金15の先端は、突合わせ部17を溶湯の流入方向Mの上流側から覆い隠すことが可能な位置に配置されている。
【0075】
上記の構成によれば、前側埋金39は、第1鋳抜きピン11および第2鋳抜きピン12の軸方向(気筒配列方向X)に対して交差するように、溶湯の流入方向Mの上流側から水平方向(幅方向Y)に延びており、前側埋金39の先端は、突合わせ部17に対して溶湯の流入方向Mの上流側に配置されている。この構成では、突合わせ部17に向かう溶湯が前側埋金39に沿って水平方向に流れることにより、前側埋金39周囲における流動抵抗によって突合わせ部17へ向かう溶湯の勢いを弱めることが可能である。さらに、突合わせ部17は、溶湯の流入方向Mの上流側から下側埋金15の先端によって覆い隠されるので、突合わせ部17への溶湯の直撃を回避することが可能である。
【0076】
さらに上記変形例の鋳造装置では、前側埋金39は、除肉用または補器類取付け用の水平方向に延びる鋳抜き穴40を形成する鋳抜き部材である。
【0077】
上記の構成によれば、除肉用または補器類取付け用の水平方向に延びる鋳抜き穴40を形成する鋳抜き部材を上記の前側埋金39として利用することにより、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12との突合わせ部17を覆って突合わせ部17への溶湯の直撃を回避することが可能である。そのため、上記用途の鋳抜き部材とは別に突合わせ部17への溶湯の直撃を回避するための専用の前側埋金39を設ける必要が無く、鋳造装置1の部品点数の増大を回避することが可能である。
【0078】
(B)
なお、本発明の埋金は、上記実施形態に示された下側金型4に設けられた下側埋金15または変形例に示された前側金型5に設けられた前側埋金だけでなく、溶湯流入口10と突合わせ部17との間に配置可能であれば、上側金型7に設けられた上側埋金、または後側金型6に設けられた後側埋金であってもよい。
【0079】
(C)
上記の実施形態では、下側金型4が本発明の第3金型に対応し、溶湯流入口10が下側金型4に形成された例が示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1側方金型2および第2側方金型3以外の金型であれば溶湯流入口10を形成することが可能である。したがって、溶湯流入口10は、前側金型5、後側金型6、および上側金型7のいずれかに形成されることが可能である(すなわち、前側金型5、後側金型6、および上側金型7も本発明の第3金型になり得る)。
【0080】
この場合も、第1鋳抜きピン11と第2鋳抜きピン12の突合わせ部17に対して溶湯の流入方向Mの上流側に埋金が配置された構造であれば、突合わせ部17への溶湯の直撃を回避することが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 鋳造装置
2 第1側方金型
3 第2側方金型
4 下側金型(第3金型)
5 前側金型
6 後側金型
7 上側金型
9 キャビティ
10 溶湯流入口
11 第1鋳抜きピン
12 第2鋳抜きピン
15 下側埋金(埋金)
16 流入ゲート
17 突合わせ部
25 第1メインギャラリ
26 第2メインギャラリ
30 荷重調整部
31 第1バネ
32 第2バネ
39 前側埋金(埋金)
40 除肉用または補器類取付け用の鋳抜き穴
50 エンジン
B シリンダブロック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12