(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】パネル接合構造
(51)【国際特許分類】
F16B 11/00 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
F16B11/00 B
(21)【出願番号】P 2020177557
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】若林 充
(72)【発明者】
【氏名】宮本 康史
(72)【発明者】
【氏名】中前 隆行
(72)【発明者】
【氏名】河井 範之
(72)【発明者】
【氏名】大江 哲平
(72)【発明者】
【氏名】木村 大樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 研一
(72)【発明者】
【氏名】鍵元 皇樹
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-167797(JP,A)
【文献】特開2016-70370(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159770(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 11/00
F16B 5/00-5/12
F16B 9/00-11/00
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
B23K 11/11
B23K 20/12
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、
上記第1フランジ部に対向配置される第2パネル部材と、
上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とが接触した状態で、これら両者を接合する複数の接合部と、
上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とを上記複数の接合部間で接着する接着材と、を設け、
上記接着材は、上記パネル本体部が上記第2パネル部材から離間する方向に対する剛性が、上記第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側に向かう程、徐々に低くなり、上記第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部において最も剛性が低くなる剛性低下部を備え、
上記剛性低下部の第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部は、上記複数の接合部の角部側の端部同士を結ぶ第1仮想線と、当該複数の接合部の第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部同士を結ぶ第2仮想線との間の線間領域に設けられたことを特徴とする
パネル接合構造。
【請求項2】
上記剛性低下部は、第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側に向かう程、上記接着材の厚みが徐々に小さくなる
請求項1に記載のパネル接合構造。
【請求項3】
上記接着材は、上記角部側において上記第1フランジ部の長手方向に連続している
請求項1または2に記載のパネル接合構造。
【請求項4】
上記剛性低下部の第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部は、隣接する複数の上記接合部の中央部同士を結ぶ第3仮想線上に位置する
請求項1~3の何れか一項に記載のパネル接合構造。
【請求項5】
上記第2パネル部材は、第2パネル本体部から第2角部を介して延びる第2フランジ部を備え、
該第2フランジ部は上記第1フランジ部と対向配置され、
上記第2フランジ部が上記第1フランジ部に接触した状態で、これら両者を接合する複数の上記接合部と、
上記第1フランジ部と上記第2フランジ部とを複数の接合部間で接着する上記接着材を設け、
上記接着材は、剥離荷重に対する剛性が、上記第1および第2の各フランジ部の短手方向における末端側に向かう程、徐々に低くなり、上記各フランジ部の短手方向における末端側の端部において最も剛性が低くなる剛性低下部を備えた
請求項1~4の何れか一項に記載のパネル接合構造。
【請求項6】
上記剛性低下部は、隣接する複数の接合部間においてフランジ長手方向の寸法がフランジ末端側程、小さくなる
請求項1に記載のパネル接合構造。
【請求項7】
隣接する複数の上記接合部間において、上記第1フランジ部の上記線間領域と上記角部との間、並びに、上記第2フランジ部の上記線間領域と上記第2角部との間の少なくとも何れか一方には、
角部側が対向するパネル部材から離間し、線間領域側が対向するパネル部材に当接するテーパ面が形成された
請求項5に記載のパネル接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パネル接合構造に関し、詳しくは、パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、上記第1フランジ部と対向配置される第2パネル部材とを備え、上記第1パネル部材の第1フランジ部と上記第2パネル部材とを接合部および接着材により接合固定するようなパネル接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接着材による接着と、スポット溶接等による接合部とを併用するフランジ部の接合技術(例えば、ウエルドボンディング)において、接着材の接合強度を確実に保証するためには、特許文献1に開示されているように、接合部を設けつつ、接着材の厚みを確保できる接着材塗布空間を形成することが有効である。
【0003】
一方で、接着材の厚みを確保すると、当該接着材に対し、繰返し荷重に起因して剥離荷重が入力されると、該接着材に応力の集中部が発生し、亀裂の起点となるおそれがある。
接着材に亀裂が生じると、該接着材は亀裂の進展スピードが速く、接着材が強度に対して全く寄与しなくなり、スポット溶接による接合部(ナゲット)に応力が集中し、当該接合部が破断する。
【0004】
このようなパネル接合構造を自動車のパネル接合構造に採用すると、車両の通常走行時に、上記接着材に対して、繰返し荷重に起因して剥離荷重が入力されることになる。
そこで、上記接着材に対する亀裂の発生を抑制することが求められている。
【0005】
ところで、特許文献2には、一方の車室側フランジの角部に、その隆起面が該車室側フランジと平行な隆起部を設け、この車室側フランジと対向して当接する他方のフランジと、上記隆起部との間に接着材を充填する構造が開示されている。
しかしながら、該特許文献2に開示された構造では、上記接着材のフランジ角部側端部に対する剥離荷重を低減するという観点で、充分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-82136号公報
【文献】特開2006-213262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は、剥離荷重が入力された際の接着材のフランジ角部側の端部への応力集中を抑制することができるパネル接合構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によるパネル接合構造は、パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、上記第1フランジ部に対向配置される第2パネル部材と、上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とが接触した状態で、これら両者を接合する複数の接合部と、上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とを上記複数の接合部間で接着する接着材と、を設け、上記接着材は、上記パネル本体部が上記第2パネル部材から離間する方向に対する剛性が、上記第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側に向かう程、徐々に低くなり、上記第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部において最も剛性が低くなる剛性低下部を備え、上記剛性低下部の第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部は、上記複数の接合部の角部側の端部同士を結ぶ第1仮想線と、当該複数の接合部の第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部同士を結ぶ第2仮想線との間の線間領域に設けられたものである。
【0009】
上述のパネル本体部が上記第2パネル部材から離間する方向に対する剛性とは、剥離荷重に対する剛性を意味する。
上述のパネル部材は、金属部材および繊維強化プラスチックを含み、また、鋼板同士、アルミ板同士のような同材接合と、鋼板とアルミ板との接合のような異材接合と、を含む。
【0010】
また、上述の接合部は、機械接合、つまり、ボルト、ナット、リベット、セルフピアシング・リベット(self-piercing rivetいわゆるSPR)による接合や片側機械接合を含むうえ、抵抗溶接としてのスポット溶接、摩擦撹拌接合溶接およびレーザ溶接をも含むものである。
【0011】
さらに、上述の角部は、パネル本体部と第1フランジ部とが略直角に交わるものだけでなく、成形加工を可能とするために、パネル本体部と第1フランジ部とが湾曲形状部(いわゆるR部)を介して連結するものをも含む。
【0012】
加えて、上述の接着材としては、エポキシ系に代表される構造用接着材が用いられるが、エポキシ系に限らず、ウレタン系、アクリル系、変形シリコーン系等の構造用接着材を用いてもよく、車体接合に用いられる接着材であれば、種類は問わない。
【0013】
上記構成によれば、剛性低下部により接着材の剛性が第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側に向かう程、徐々に低くなっているので、接着材のフランジ角部側の端部への応力集中を抑制できる。
また、剛性低下部の剛性は、接合部近傍で最も低いので、接合部と接着材の角部側端部に入力される荷重を、接着材のフランジ末端側の端部(剛性が最も低い部分)に分散でき、これにより、接着材の角部側端部への応力集中を抑制することができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記剛性低下部は、第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側に向かう程、上記接着材の厚みが徐々に小さくなるものである。
上記構成によれば、剛性低下部はフランジ末端側程、接着材の厚みを小さくし、剛性を低減しているので、接着材のフランジ末端側端部に応力を分散することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記接着材は、上記角部側において上記第1フランジ部の長手方向に連続しているものである。
上記構成によれば、接着材がフランジ長手方向に連続しているので、接着材の角部側端部に局部的に荷重が入ることがなく、応力集中を抑制することができる。
【0016】
また、上記接合部を介しての剛性低下部への荷重伝達により、接着材の角部側端部への応力集中を抑制することができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、上記剛性低下部の第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部は、隣接する複数の上記接合部の中央部同士を結ぶ第3仮想線上に位置するものである。
上記構成によれば、接合部に入る荷重を剛性低下部に伝達して、荷重分散を図ることができ、これにより、接着材の角部側端部への応力集中を抑制することができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、上記第2パネル部材は、第2パネル本体部から第2角部を介して延びる第2フランジ部を備え、該第2フランジ部は上記第1フランジ部と対向配置され、上記第2フランジ部が上記第1フランジ部に接触した状態で、これら両者を接合する複数の上記接合部と、上記第1フランジ部と上記第2フランジ部とを複数の接合部間で接着する上記接着材を設け、上記接着材は、剥離荷重に対する剛性が、上記第1および第2の各フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側に向かう程、徐々に低くなり、上記各フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部において最も剛性が低くなる剛性低下部を備えたものである。
【0019】
上記構成によれば、簡単な構造でありながら、接着材の厚みをコントロールすることができる。
また、接着材の厚みが大きい部分(接着材の角部側)と、厚みが小さい部分(接着材のフランジ末端側)との差異を大きくすることができ、接着材のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の剛性低減をより確実に確保することができる。
【0020】
この発明の一実施態様においては、上記剛性低下部は、隣接する複数の接合部間においてフランジ長手方向の寸法がフランジ末端側程、小さくなるものである。
上記構成によれば、剛性低下部のフランジ長手方向寸法を、フランジ末端側程、小さくしたので、当該フランジ末端側程、第1フランジ部および第2パネル部材に対する接着面積が小さくなって、その剛性を低減することができる。よって、接着材のフランジ末端側の端部に応力を分散することができて、接着材の角部側端部への応力集中を抑制することができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、隣接する複数の上記接合部間において、上記第1フランジ部の上記線間領域と上記角部との間、並びに、上記第2フランジ部の上記線間領域と上記第2角部との間の少なくとも何れか一方には、角部側が対向するパネル部材から離間し、線間領域側が対向するパネル部材に当接するテーパ面が形成されたものである。
【0022】
上記構成によれば、上述のテーパ面により、接着材を介在させる内部空間を確保することができると共に、該テーパ面により接着材の剛性低下部を安定して確実に形成することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、剥離荷重が入力された際の接着材のフランジ角部側の端部への応力集中を抑制することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図3】(a)は
図2のA-A線矢視断面図、(b)は
図2のB-B線矢視断面図
【
図4】接着材の応力解析結果を求めるための実施例品1の斜視図
【
図5】(a)は
図4のC-C線矢視断面図、(b)は
図4のD-D線矢視断面図
【
図6】接着材の応力解析結果を求めるための比較例品1の斜視図
【
図7】(a)は
図6のE-E線矢視断面図、(b)は
図6のG-G線矢視断面図
【
図8】接着材の応力解析結果を求めるための比較例品2の斜視図
【
図9】(a)は
図8のH-H線矢視断面図、(b)は
図8のI-I線矢視断面図
【
図10】実施例品1、比較例品1、比較例品2のそれぞれの接着材の応力解析結果を示す特性図
【
図12】パネル接合構造のさらに他の実施例を示す斜視図
【
図13】パネル接合構造のさらに他の実施例を示す斜視図
【
図14】パネル接合構造を車両の前部車体構造に採用した実施例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0025】
剥離荷重が入力された際の接着材のフランジ角部側の端部への応力集中を抑制するという目的を、パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、上記第1フランジ部に対向配置される第2パネル部材と、上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とが接触した状態で、これら両者を接合する複数の接合部と、上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とを上記複数の接合部間で接着する接着材と、を設け、上記接着材は、上記パネル本体部が上記第2パネル部材から離間する方向に対する剛性が、上記第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側に向かう程、徐々に低くなり、上記第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部において最も剛性が低くなる剛性低下部を備え、上記剛性低下部の第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部は、上記複数の接合部の角部側の端部同士を結ぶ第1仮想線と、当該複数の接合部の第1フランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部同士を結ぶ第2仮想線との間の線間領域に設けられるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0026】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面はパネル接合構造を示し、
図1は当該パネル接合構造を示す斜視図、
図2は
図1の要部拡大斜視図、
図3の(a)は
図2のA-A線矢視断面図、
図3の(b)は
図2のB-B線矢視断面図である。
【0027】
なお、図中、矢印Xは第1フランジ部17,20の短手方向を示し、矢印Yは第1フランジ部17,20の長手方向を示し、矢印ZはX方向、Y方向の何れに対しても直角に直交する方向を示す。
図1に示すように、このパネル接合構造は、第1パネル部材10と第2パネル部材30とを備えている。
【0028】
第1パネル部材10は、XZ平面(座標面)による断面において、X方向に延びる第1側壁11と、この第1側壁11の一方側端部(図示の左側端部)および他方側端部(図示の右側端部)からZ方向に延びる第2側壁12および第3側壁13と、を備えている。第2側壁12と第3側壁13とは対向しており、上述の各側壁11,12,13によりパネル本体部14が形成されている。
【0029】
また、上述の第2側壁12の第1側壁11とは反対側の端部から角部15およびテーパ面16を介して外方に延びる第1フランジ部17を一体形成している。
同様に、上述の第3側壁13の第1側壁11とは反対側の端部から角部18およびテーパ面19を介して外方に延びる第1フランジ部20を一体形成している。そして、上述のパネル本体部14と、角部15,18と、テーパ面16,19と、第1フランジ部17,20とで、断面ハット形状部を構成している。
【0030】
上述の角部15は第2側壁12とテーパ面16とを連結するように湾曲形状に形成されている。また、上述の角部18も第3側壁13とテーパ面19とを連結するように湾曲形状に形成されている。
【0031】
図1~
図3に示すように、上述の第2パネル部材30は、XZ平面(座標面)による断面において、第1パネル部材10側の第1側壁11と対向してX方向に延びる第1側壁31と、この第1側壁31の一方側端部(図示の左側端部)および他方側端部(図示の右側端部)からZ方向に延びる第2側壁32および第3側壁33と、を備えている。上述の第2側壁32と第3側壁33とは対向しており、上述の各側壁31,32,33により第2パネル本体部34が形成されている。
【0032】
また、上述の第2側壁32の第1側壁31とは反対側の端部から第2角部35およびテーパ面36を介して外方に延びる第2フランジ部37を一体形成している。
同様に、上述の第3側壁33の第1側壁31とは反対側の端部から第2角部38およびテーパ面39を介して外方に延びる第2フランジ部40を一体形成している。そして、上述の第2パネル本体部34と第2角部35,38と、テーパ面36,39と、第2フランジ部37,40とで、断面逆ハット形状部を構成している。
【0033】
ここで、上述の各テーパ面16,19,36,39は、各フランジ部17,20,37,40の基端側つまり角部側に位置しており、これらの各テーパ面16,19,36,39は上記フランジ部17,20,37,40の一部を構成するものである。
【0034】
上述の第2角部35は第2側壁32とテーパ面36とを連結するように湾曲形状に形成されている。また、上述の第2角部38も第3側壁33とテーパ面39とを連結するように湾曲形状に形成されている。
【0035】
図1~
図3に示すように、第1パネル部材10の第1フランジ部17,20と、第2パネル部材30の第2フランジ部37,40とは対向配置されており、これら両者17,37、両者20,40は互いに接触している。
【0036】
また、第1パネル部材10側のテーパ面16,19と、第2パネル部材30側のテーパ面36,39とは、各フランジ部37,40のX方向におけるフランジ末端方向の端部において当接する一方で、角部側において離間しており、Z方向に対向するテーパ面16,36間、19,39間には、後述する接着材50介在用の内部空間51が形成されている。
【0037】
要するに、パネル本体部14と、このパネル本体部14から角部15,18およびテーパ面16,19を介して外方に延びる第1フランジ部17,20と、を備える第1パネル部材10と、第1フランジ部17,20に対向配置される第2パネル部材30と、を設け、これら第1パネル部材10および第2パネル部材30は第1フランジ部17,20の長手方向であるY方向に延びている。
【0038】
図1、
図2に示すように、上述の第1パネル部材10のテーパ面16には、当該テーパ面16から第2フランジ部37側へ凹む座面60が凹設形成されていて、該座面60の座面が第1フランジ部17と面一状に形成されている。上述の座面60は第1フランジ部17の長手方向に間隔を隔てて複数設けられている。図示しないがテーパ面19側においても同様の座面が複数形成されている。
【0039】
図3の(a)に示すように、第2パネル部材30のテーパ面36には、当該テーパ面36から第1フランジ部17側へ凹む座面70が凹設形成されていて、該座面70の座面が第2フランジ部37と面一状に形成されている。上述の座面70は第2フランジ部37の長手方向に間隔を隔てて複数設けられている。図示しないがテーパ面39側においても同様の座面が複数形成されている。
【0040】
図3の(a)に示すように、第1パネル部材10側の座面60の位置と、第2パネル部材30側の座面70の位置とは、一致しており、各座面60,70の座面は互いに当接している。また、これらの各座面60,70はZ方向から見て半円形状に形成されている。
【0041】
各フランジ部17,37の長手方向に間隔を隔てて設けられた座面60,70が互いに当接する位置において、第1フランジ部17と第2パネル部材30の第2フランジ部37と、が接触した状態で、これら両者17,37を接合する複数の接合部80を設けている。ここで、該接合部80は座面60を含む第1フランジ部17と、座面70を含む第2フランジ部37とを接合している。
【0042】
図示しないが他方側の第1フランジ部20と第2フランジ部40とが接触した状態で、これら両者20,40を、座面60,70を含んだ状態で接合する複数の接合部80が一方側と同様に形成されている。
【0043】
上述の接合部80は、
図1に示すように各フランジ部17,37および各フランジ部20,40の長手方向つまりY方向に所定間隔を隔てて複数設けられている。
この実施例では、第1パネル部材10および第2パネル部材30を共に鋼板により形成しているので、上述の接合部80は、スポット溶接によるナゲット(nugget、溶融凝固部)80n(
図3参照)にて形成している。
【0044】
図1~
図3に示すように、第1フランジ部17,20と、第2パネル部材30の第2フランジ部37,40とを、複数の接合部80,80間で接着する接着材50を設けている。
上述の接着材50には、エポキシ系に代表される構造用接着材が用いられるが、エポキシ系に限らず、ウレタン系、アクリル系、変性シリコーン系等の構造用接着材を用いてもよく、車体接合に用いられる接着材であれば、種類は問わない。
【0045】
図1~
図3に示すように、上述の接着材50は角部15,18側において第1フランジ部17,20の長手方向に連続して設けられている。この実施例では、接着材50は対向する角部15,35間および角部18,38間において各フランジ部17,37、20,40の長手方向に連続して設けられている。
【0046】
図3の(b)に示すように、上述の接着材50は、剥離荷重に対する剛性(パネル本体部14が第2パネル部材30から離間する方向に対する剛性)が、第1フランジ部17のX方向においてフランジ末端側に向かう程、徐々に低くなり、第1フランジ部17のX方向におけるフランジ末端側の端部50bにおいて最も剛性が低くなる剛性低下部50aを備えている。
【0047】
この実施例では、同図に示すように、接着材50は、剥離荷重に対する剛性が、各フランジ部17,37のX方向におけるフランジ末端側および各フランジ部20,40のX方向におけるフランジ末端側に向かう程、徐々に低くなり、各フランジ部17,37のX方向におけるフランジ末端側の端部50bおよび各フランジ部20,40のX方向におけるフランジ末端側の端部において最も剛性が低くなる剛性低下部50aを備えている。
すなわち、上記剛性低下部50aは、X方向におけるフランジ末端側に向かう程、接着材50の厚みが徐々に小さくなるものである。
【0048】
図3(a)(b)に示すように、剛性低下部50aのフランジ末端側の端部50bは、隣り合う2つの接合部80,80の角部側の端部80a,80a同士を結ぶ第1仮想線β1と、当該隣り合う2つの接合部80,80のX方向におけるフランジ末端側の端部80b,80b同士を結ぶ第2仮想線β2との間の線間領域α内に設けられている。
【0049】
特に、この実施例では、
図3に示すように、上述の剛性低下部50aのX方向におけるフランジ末端側端部50bは、隣り合う2つの接合部80,80の中央部80c,80c(いわゆるナゲット中心)同士を結ぶ第3仮想線β3上に位置するように構成されている。
【0050】
図3(b)で示したように、剛性低下部50aにより接着材50の剛性が第1フランジ部17のX方向の末端側に向かう程、徐々に低く成すことで、フランジ短手方向(X方向)において接着材50への応力集中を抑制できるように構成している。
【0051】
また、同図に示すように、剛性低下部50aの剛性を、接合部80近傍で最も低くすることで、接合部80と接着材50の角部側端部50cに入力される荷重(
図3に示す剥離荷重F1,F2の少なくとも一方の荷重)を、接着材50のX方向のフランジ末端側の端部50b(剛性が最も低い部分)に分散できる。これにより、接着材50の角部側端部50cへの応力集中を抑制するように構成している。
【0052】
さらに、
図3(b)に示すように、剛性低下部50aは、X方向におけるフランジ末端側程、接着材50の厚みを小さくし、剛性を低減することで、接着材50のX方向におけるフランジ末端側の端部50bに応力を分散するように構成している。
【0053】
さらにまた、
図1~
図3に示すように、接着材50がフランジ長手方向に連続していることにより、接着材50の角部側端部50cに局部的に荷重が入ることがなく、当該角部側端部50cへの応力集中を抑制すると共に、接合部80を介しての剛性低下部50bへの荷重伝達により、接着材50の角部側端部50cへの応力集中を抑制するように構成している。
【0054】
また、剛性低下部50aのX方向におけるフランジ末端側の端部50bが線間領域αのうち、特に、上記第3仮想線β3上に位置することで、接合部80に入る荷重を剛性低下部50aに伝達して、荷重分散を図り、これにより、接着材50の角部側端部50cへの応力集中を抑制するように構成している。
【0055】
さらに、上述の剛性低下部50aは第1パネル部材10側のみならず、
図3(b)に示すように第2パネル部材30側にも設けられている。この実施例では、
図3(b)に示すように、第1パネル部材10側の剛性低下部50aと第2パネル部材30側の剛性低下部50aとが一体的に形成されている。
【0056】
これにより、簡単な構造でありながら、接着材50の厚みを容易にコントロールすべく構成している。また、接着材50の厚みが大きい部分(接着材50の角部側)と、厚みが小さい部分(接着材50のフランジ末端側)との差異を大きくして、接着材50のフランジ末端側の剛性低減をより確実に確保するように構成している。
【0057】
加えて、
図1~
図3に示すように、隣接する複数の接合部80,80間において、第1フランジ部17の線間領域αと角部15との間、並びに、第2フランジ部37の線間領域αと第2角部35との間の少なくとも何れか一方(この実施例では双方)には、角部15,35側が対向するパネル部材30,10から離間し、線間領域α側が対向するパネル部材30,10に当接する上述のテーパ面16,36が形成されている。
【0058】
ここで、上述の第1パネル部材10側のテーパ面16は角部15から第1フランジ部17の角部側端部にかけて直線状に傾斜しており、上述の第2パネル部材30側のテーパ面36は第2角部35から第2フランジ部37の角部側端部にかけて直線状に傾斜している。
【0059】
図2、
図3では、一方側のテーパ面16,36のみを図示しているが、
図1に示すように、他方側においても同様のテーパ面19,39が形成されている。
上述のテーパ面16,36,19,39により、接着材50を介在させる内部空間51を確保することができ、かつ、当該テーパ面16,36により接着材50の剛性低下部50aを安定して確実に形成するように構成している。
【0060】
このように、
図1~
図3で示した実施例1のパネル接合構造は、パネル本体部14と、該パネル本体部14から角部15を介して延びる第1フランジ部17と、を備える第1パネル部材10と、上記第1フランジ部17に対向配置される第2パネル部材30と、上記第1フランジ部17と上記第2パネル部材30とが接触した状態で、これら両者を接合する複数の接合部80と、上記第1フランジ部17と上記第2パネル部材30とを上記複数の接合部80,80間で接着する接着材50と、を設け、上記接着材50は、上記パネル本体部14が上記第2パネル部材30から離間する方向に対する剛性が、上記第1フランジ部17のX方向のフランジ末端側に向かう程、徐々に低くなり、上記第1フランジ部17のX方向のフランジ末端側の端部において最も剛性が低くなる剛性低下部50aを備え、上記剛性低下部50aのフランジ末端側の端部50bは、上記複数の接合部80の角部側の端部80a同士を結ぶ第1仮想線β1と、当該複数の接合部80の第1フランジ部17のX方向のフランジ末端側の端部80b同士を結ぶ第2仮想線β2との間の線間領域αに設けられたものである(
図1~
図3参照)。
【0061】
この構成によれば、剛性低下部50aにより接着材50の剛性が第1フランジ部17のX方向の末端側に向かう程、徐々に低くなっているので、接着材50のフランジ角部側の端部への応力集中を抑制できる。
【0062】
また、剛性低下部50aの剛性は、接合部80近傍で最も低いので、接合部80と接着材50の角部側端部50cに入力される荷重を、接着材50のX方向におけるフランジ末端側の端部50b(剛性が最も低い部分)に分散でき、これにより、接着材50の角部側端部50cへの応力集中を抑制することができる。
【0063】
また、上記実施例1においては、上記剛性低下部50aは、第1フランジ部17のX方向におけるフランジ末端側に向かう程、上記接着材50の厚みが徐々に小さくなるものである(
図3参照)。
この構成によれば、剛性低下部50aはX方向のフランジ末端側程、接着材50の厚みを小さくし、剛性を低減しているので、接着材50のX方向におけるフランジ末端側の端部50bに応力を分散することができる。
【0064】
さらに、上記実施例1においては、上記接着材50は、上記角部15側において上記第1フランジ部17の長手方向(Y方向)に連続しているものである(
図2参照)。
この構成によれば、接着材50がフランジ長手方向に連続しているので、接着材50の角部側端部50cに局部的に荷重が入ることがなく、応力集中を抑制することができる。
また、上記接合部80を介しての剛性低下部50aへの荷重伝達により、接着材50の角部側端部50cへの応力集中を抑制することができる。
【0065】
さらに、上記実施例1においては、上記剛性低下部50aの第1フランジ部17のX方向におけるフランジ末端側の端部50bは、隣接する複数の上記接合部80の中央部80c同士を結ぶ第3仮想線β3上に位置するものである(
図3参照)。
この構成によれば、接合部80に入る荷重を剛性低下部50aに伝達して、荷重分散を図ることができ、これにより、接着材50の角部側端部50cへの応力集中を抑制することができる。
【0066】
さらにまた、上記実施例1においては、上記第2パネル部材30は、第2パネル本体部34から第2角部35を介して延びる第2フランジ部37を備え、該第2フランジ部37は上記第1フランジ部17と対向配置され、上記第2フランジ部37が上記第1フランジ部17に接触した状態で、これら両者を接合する複数の上記接合部80と、上記第1フランジ部17と上記第2フランジ部37とを複数の接合部80間で接着する上記接着材50を設け、上記接着材50は、剥離荷重に対する剛性が、上記第1および第2の各フランジ部17,37のX方向における末端側に向かう程、徐々に低くなり、上記各フランジ部17,37のX方向における末端側の端部50bにおいて最も剛性が低くなる剛性低下部50aを備えたものである。
【0067】
この構成によれば、簡単な構造でありながら、接着材50の厚みをコントロールすることができる。
また、接着材50の厚みが大きい部分(接着材50の角部側)と、厚みが小さい部分(接着材50のフランジ末端側)との差異を大きくすることができ、接着材50のX方向のフランジ末端側の剛性低減をより確実に確保することができる。
【0068】
加えて、上記実施例1においては、隣接する複数の上記接合部80間において、上記第1フランジ部17の上記線間領域αと上記角部15との間、並びに、上記第2フランジ部37の上記線間領域αと上記第2角部35との間の少なくとも何れか一方には、角部側が対向するパネル部材30,10から離間し、線間領域α側が対向するパネル部材30,10に当接するテーパ面(16,36の少なくとも何れか一方)が形成されたものである(
図2、
図3参照)。
【0069】
この構成によれば、上述のテーパ面16,36により、接着材50を介在させる内部空間51を確保することができると共に、該テーパ面16,36により接着材50の剛性低下部50aを安定して確実に形成することができる。
<解析結果について>
図4~
図10に実施例品1(
図4、
図5参照)と、比較例品1(
図6、
図7参照)と、比較例品2(
図8、
図9参照)との解析条件および解析結果(
図10参照)を示す。
図4は接着材50の応力解析結果を求めるための実施例品1の斜視図、
図5(a)は
図4のC-C線矢視断面図、
図5(b)は
図4のD-D線矢視断面図である。
【0070】
図6は接着材50の応力解析結果を求めるための比較例品1の斜視図、
図7(a)は
図6のE-E線矢視断面図、
図7(b)は
図6のG-G線矢視断面図である。
図8は接着材50の応力解析結果を求めるための比較例品2の斜視図、
図9(a)は
図8のH-H線矢視断面図、
図9(b)は
図8のI-I線矢視断面図である。
【0071】
また、
図10は実施例品1、比較例品1、比較例品2のそれぞれの接着材50における角部側端部50cの応力解析結果を示す特性図である。
なお、説明の便宜上、
図4~
図9において先の実施例1と同一の部分には同一符号を付している。
【0072】
図4、
図6、
図8に示すように実施例品1、比較例品1、比較例品2の各第2側壁12,32には、Z方向に延びる荷重付加片21と、拘束片22と、がそれぞれ一体形成されている。また、実施例品1、比較例品1、比較例品2は何れもフランジ長手方向(Y方向)に間隔を隔てて設けられた接合部80を3つのみ有する長手方向の長さをもった第1パネル部材10と第2パネル部材30とをウエルドボンディング(weld bonding)にて接着接合したものを示している。
【0073】
図4、
図5に示す実施例品1は、
図1~
図3で示した実施例1に相当するが、第2パネル部材30側にはテーパ面36が存在せず、第2側壁32に第2角部35を介して直接第2フランジ部37を連結している。この点については比較例品1、比較例品2についても同様である。
【0074】
図6、
図7に示す比較例品1は、特に、
図7(b)に示すように、接着材50のフランジ末端側の端部50bが、複数の接合部80の角部側の端部80a同士を結ぶ第1仮想線β1に至らない構造であって、上記接着材50のフランジ末端側端部50bが上記第1仮想線β1の手前側で収束しているものである。
【0075】
図8、
図9に示す比較例品2は、座面60により第1フランジ部17を形成している。また、
図9(b)に示すように、接着材50のフランジ末端側の端部50bが、複数の接合部80のフランジ末端側の端部80b同士を結ぶ第2仮想線β2を超過して、第2フランジ部37の末端部の位置までX方向に延びているものである。
【0076】
図4、
図6、
図8に示す実施例品1、比較例品1、比較例品2のそれぞれのパネル部材10,30の板厚を同一と成して、これらの各拘束片22を拘束し、各荷重付加片21に対して矢印方向(Z方向)に600ニュートンの荷重を付し、接着材50の角部側端部50cの最大主応力を解析した結果を
図10に示す。
【0077】
図10に示すように、比較例品1の最大主応力はP3であり、比較例品2の最大主応力はP2であり、実施例品1の最大主応力はP1(但し、P1<P2<P3)であった。
実施例品1の最大主応力P1は比較例品1の最大主応力P3に対して△P2=P3-P1だけ小さく、また、実施例品1の最大主応力P1は比較例品2の最大主応力P2に対しても△P1=P2-P1だけ小さい。
【0078】
すなわち、実施例品1においては、接着材50の応力がフランジ末端側の端部50bに向けて適切に分散され、当該接着材50の角部側端部50cに入力される応力が、低減されていることが上記解析の結果により判明した。
【実施例2】
【0079】
図11はパネル接合構造の他の実施例を示す斜視図である。
図11で示す実施例2のパネル接合構造は、第1パネル部材10については実施例1(
図1参照)と同様に断面ハット形状に形成されているが、第2パネル部材30は、第2パネル本体部34の一方側および他方側に角部35,38、テーパ面36,39を介して第2フランジ部37,40を連結している。
【0080】
そして、第2パネル本体部34の一方側の第2フランジ部37を、第1パネル部材10の第1フランジ部17と対向配置し、各フランジ部17,37が接触した状態で、これら両者17,37を接合する接合部80を設けている。
【0081】
また、第2パネル本体部34の他方側の第2フランジ部40を、第1パネル部材10の第1フランジ部20と対向配置し、各フランジ部20,40が接触した状態で、これら両者20,40を接合する接合部を設けている。
【0082】
この実施例2においても、剛性低下部50aのフランジ部17,37のX方向におけるフランジ末端側の端部50bが上記線間領域α(前図参照)内における第3仮想線β3(前図参照)上に位置するので、接着材50の角部側端部50cへの応力集中を抑制することができる。
【0083】
図11で示すこの実施例2においても、要部を含むその他の構成および作用、効果については、先の実施例1と同様であるから、
図11において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例3】
【0084】
図12はパネル接合構造のさらに他の実施例を示す斜視図である。
図12で示す実施例3のパネル接合構造は、第1パネル部材10については実施例1と同様に断面ハット形状に形成されているが、第2パネル部材30はフラットな板材から成るパネル本体部34を用いている。
【0085】
そして、第2パネル本体部34の一方側部(図示の左側部34a)および他方側部(図示の右側部34b)を、第1パネル部材10の各第1フランジ部17,20と対向配置し、第1フランジ部17,20と第2パネル部材30とが接触した状態で、これら両者を接合する接合部80を設けている。
すなわち、この実施例3においては、断面ハット形状の第1パネル部材10と、平板状の第2パネル部材30と、を接合するパネル接合構造である。
【0086】
この実施例3においても、剛性低下部50aのX方向のフランジ末端側の端部50bが上記線間領域α(前図参照)内における第3仮想線β3(前図参照)上に位置するので、接着材50の角部側端部50cへの応力集中を抑制することができる。
【0087】
図12で示す実施例3においても、要部を含むその他の構成および作用、効果については、先の実施例1と同様であるから、
図12において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例4】
【0088】
図13はパネル接合構造のさらに他の実施例を示す斜視図である。
図13に示す実施例4においては、
図1~
図3で示した実施例1の座面60,70に代えて、座面フランジ末端側のフランジ長手方向(Y方向)の長さが末広がり状に拡開する座面61を採用している。
図13ではテーパ面16側の座面61のみを示しているが、テーパ面36側の座面も上記座面61と同様にフランジ末端側のフランジ長手方向(Y方向)の長さが末広がり状に拡開するように形成されている。
【0089】
これにより、上記剛性低下部50aは、隣接する複数の接合部80,80間においてフランジ長手方向(Y方向)の寸法がフランジ末端側程、小さくなるように設定されている。
詳しくは、剛性低下部50aのフランジ角部側におけるフランジ長手方向寸法L2に対して、当該剛性低下部50aのフランジ末端側におけるフランジ長手方向寸法L1が小さくなるように形成されている。すなわち、L1<L2の関係式が成立するように形成されている。
【0090】
このように、
図13で示した実施例4においては、剛性低下部50aは、隣接する複数の接合部80,80間においてフランジ長手方向寸法(Y方向寸法)を、フランジ末端側程、小さくしたので、当該フランジ末端側程、第1フランジ部17および第2パネル部材30に対する接着面積が小さくなって、その剛性を低減することができる。よって、接着材50のX方向におけるフランジ末端側の端部50bに応力を分散することができて、接着材50の角部側端部50cへの応力集中を抑制することができる。
【0091】
図13で示すこの実施例4においても、その他の構成および作用、効果については、先の実施例1と同様であるから、
図13において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例5】
【0092】
図14はパネル接合構造を車両の前部車体構造に採用した実施例を示す斜視図である。
この実施例5において、第1パネル部材10はダッシュアッパパネルであり、第2パネル部材30はダッシュロアパネルである。
【0093】
エンジンルーム(電気自動車の場合は、モータルーム)と車室とを車両前後方向に仕切るダッシュロアパネル(第2パネル部材30)の上端部には、第2角部35およびテーパ面36を介して車両前方に延びる第2フランジ部37が形成されている。
一方、ダッシュアッパパネル(第1パネル部材10)のパネル本体部14の下端には、角部15およびテーパ面16を介して車両前方に延びる第1フランジ部17が形成されている。
【0094】
ダッシュロアパネル(第2パネル部材30)の第2フランジ部37の上部に、ダッシュアッパパネル(第1パネル部材10)の第1フランジ部17を接触させた状態で、座面60,70(座面70については前図参照)を含んで、これら両者17,37を接合する接合部80を設けている。
上述の接合部80は、各フランジ部17,37の長手方向、すなわち、車幅方向に間隔を隔てて複数設けられている。
【0095】
図14に示すように、ダッシュアッパパネル(第1パネル部材10)の角部15と、ダッシュロアパネル(第2パネル部材30)の第2角部35の長手方向に沿って連続して接着材50を設けている。
【0096】
また、該接着材50で第1フランジ部17と第2パネル部材30とを上述の複数の接合部80,80間で接着すべく構成している。詳しくは、該接着材50は第1フランジ部17と角部15との間において第1フランジ部17の一部を構成するテーパ面16と、第2フランジ部37と、第2角部35との間において第2フランジ部37の一部を構成するテーパ面36と、を接着している。
【0097】
この接着材50は、上記剥離荷重に対する剛性が、各フランジ部17,37の短手方向におけるフランジ末端側に向かう程、徐々に低くなり、短手方向におけるフランジ末端側の端部50bにおいて最も剛性が低くなる剛性低下部50aを備えている。
【0098】
しかも、該剛性低下部50aのフランジ部17,37の短手方向におけるフランジ末端側の端部50bは、隣り合う接合部80,80の角部側端部同士を結ぶ第1仮想線β1(
図3参照)と、隣り合う接合部80,80のフランジ末端側端部同士を結ぶ第2仮想線β2(
図3参照)との間の線間領域α(
図3参照)の範囲内に設けられている。
【0099】
これにより、
図14で示す実施例5においても、接着材50の角部側端部50cへの応力集中を抑制することができるものである。
図14で示す実施例5においても、その他の構成および作用、効果については、先の実施例1と略同様であるから、
図14において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。なお、
図14において、矢印Fは車両前方を示し、矢印UPは車両上方を示す。
【0100】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明の接合部80は、実施例のスポット溶接によるナゲット80nに対応するが、上記接合部80は、機械接合、つまり、ボルト、ナット、リベット、セルフピアシング・リベット(self-piercing rivet、いわゆるSPR)による接合や片側機械接合、さらには、摩擦撹拌接合溶接やレーザ溶接を含む。
【0101】
また、上記実施例においては、第1パネル部材10および第2パネル部材30を、スポット溶接が可能なように、共に鋼板製と成したが、パネル部材10,30は金属部材および繊維強化プラスチックを含み、また、鋼板同士、アルミ板同士のような同材接合と、鋼板とアルミ板との接合のような異材接合と、を含む。
【0102】
さらに、角部15は、パネル本体部14と第1フランジ部17とが直角に交わるものだけでなく、成形加工を可能とするために、パネル本体部14と第1フランジ部17とが湾曲形状部(いわゆるR部)を介して連結するものや、テーパ形状部を介して連結するものを含む。
【0103】
加えて、上述の接着材50には、エポキシ系に代表される構造用接着材が用いられるが、エポキシ系に限らず、ウレタン系、アクリル系、変性シリコーン系等の構造用接着材を用いてもよく、車体接合に用いられる接着材であれば、種類は問わない。
この発明は、上述の各実施例の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上説明したように、本発明は、パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、上記第1フランジ部と対向配置される第2パネル部材とを備え、上記第1パネル部材の第1フランジ部と上記第2パネル部材とを接合部および接着材により接合固定するようなパネル接合構造について有用である。
【符号の説明】
【0105】
10…第1パネル部材
14…パネル本体部
15…角部
16,36…テーパ面
17…第1フランジ部
30…第2パネル部材
34…第2パネル本体部
35…第2角部
37…第2フランジ部
50…接着材
50a…剛性低下部
50b…フランジ末端側の端部
50c…角部側端部
80…接合部
80a…角部側端部
80b…フランジ末端側の端部
80c…中央部
α…線間領域
β1…第1仮想線
β2…第2仮想線
β3…第3仮想線