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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/16 20060101AFI20240416BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20240416BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20240416BHJP
【FI】
B32B5/16
G02B5/00
B82Y20/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020179420
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2022070383
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】間宮 倫孝
(72)【発明者】
【氏名】小池 隆明
(72)【発明者】
【氏名】岸本 直樹
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-124625(JP,A)
【文献】特開2020-090578(JP,A)
【文献】特開2017-223915(JP,A)
【文献】特開2014-047231(JP,A)
【文献】特開2011-164469(JP,A)
【文献】特開2012-021124(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030443(WO,A1)
【文献】特開2017-062271(JP,A)
【文献】特開2015-093419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
G02B5/00- 5/136
5/20- 5/28
B82Y5/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、プライマー層と、コロイド結晶層と、が順に積層されてなる積層体であって、
前記コロイド結晶層が、コアシェル型樹脂微粒子及び無彩黒色微粒子を含有し、且つ空隙を有し、
前記コアシェル型樹脂微粒子が、コアの質量を基準としてシェルを、50質量%を超え150質量%以下の範囲で含有し、前記シェルのガラス転移点が、-60~40℃の範囲である、積層体。
【請求項2】
前記コアのガラス転移点が、50℃以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記コロイド結晶層が、コアシェル型樹脂微粒子の質量を基準として、前記無彩黒色微粒子を、0.3~3質量%の範囲で含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記プライマー層を形成する樹脂の酸価が、5~70mgKOH/gの範囲である、請求項1~3いずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記コアシェル型樹脂微粒子のコアが、前記コアの質量を基準として、芳香族系エチレン性不飽和単量体に由来する構成単位を、70~100質量%の範囲で含む、請求項1~4いずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記コアシェル型樹脂微粒子のシェルが、該シェルの質量を基準として、オクタノール/水分配係数が1~2.5の範囲であるエチレン性不飽和(s-1)に由来する構成単位を70~99.5質量%、及び、オクタノール/水分配係数が1未満であるエチレン性不飽和単量体(s-2)に由来する構成単位を0.5~15質量%、の範囲で含む、請求項1~5いずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記コアシェル型樹脂微粒子が、反応性界面活性剤に由来する構成単位を含む、請求項1~6いずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記コロイド結晶層上にオーバーコート層を有する、請求項1~7いずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイド結晶層を有する積層体に関し、詳細には、発色性、基材追従性、耐摩擦性、耐水摩擦性に優れるコロイド結晶層を有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニック結晶は、屈折率が異なる物質を光の波長と同程度の間隔で並べたナノ周期構造体である。フォトニック結晶内では、屈折率が周期的に変化し、ブラッグ反射として知られる特定波長の光の反射や、フォトニックバンドギャップを利用した光閉じ込め、高い分波作用等、様々な興味深い光学特性を発現するため、現在、活発に研究が行われている。フォトニック結晶の一種であるコロイド結晶は、サブミクロンオーダーの高分子ラテックス粒子やシリカ粒子が規則的に配列した構造を有し、比較的簡便に作製できるフォトニック結晶であるが、粒子の規則配列の形成とその固定化が困難であり、大量生産されるまでには至っていない。また、発色性と塗膜耐性を兼ね備えるコロイド結晶は開発されていない。
【0003】
このようなコロイド結晶を備えた積層体として、例えば特許文献1~3には、基材上に形成したプライマー層上に、コロイド結晶層を結着、固定化させたコロイド結晶の塗膜が開示されている。
また特許文献4、5には、コアシェル型樹脂微粒子のシェルを部分的に融着してコロイド結晶内の粒子同士を結着した塗膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-116781号公報
【文献】特開2008-246846号公報
【文献】特表2008-517543号公報
【文献】特開2001-329197号公報
【文献】特開2008-083545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のコロイド結晶層を構成する粒子はコアシェル構造ではないため、隣接する粒子同士の結着力が弱く、得られる積層体の塗膜耐性が著しく劣るという課題がある。
また、特許文献3に記載のコロイド結晶層は、粒子間隙を他の材料が完全に埋め尽くす構成であり空隙を有しないため、粒子と粒子間隙の屈折率差が極端に小さく得られる積層体の発色性が劣るという課題がある。
また、特許文献4、5に記載のコロイド結晶層は、シェル部分の流動性が不十分であるために、50℃以下の比較的低温で乾燥した際の塗膜耐性が劣る、という課題がある。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、発色性に優れ、さらに、50℃以下程度の比較的低温の条件で乾燥した場合においても、基材追従性、耐摩擦性及び耐水摩擦性に優れる、コロイド結晶層を有する積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材層と、プライマー層と、コロイド結晶層と、が順に積層されてなる積層体であって、前記コロイド結晶層が、コアシェル型樹脂微粒子及び無彩黒色微粒子を含有し、且つ空隙を有し、前記コアシェル型樹脂微粒子が、コアの質量を基準としてシェルを、50質量%を超え150質量%以下の範囲で含有し、前記シェルのガラス転移点が、-60~40℃の範囲である、積層体に関する。
【0007】
本発明は、前記コアのガラス転移点が、50℃以上である、上記積層体に関する。
【0008】
本発明は、前記コロイド結晶層が、コアシェル型樹脂微粒子の質量を基準として、前記無彩黒色微粒子を、0.3~3質量%の範囲で含む、上記積層体に関する。
【0009】
本発明は、前記プライマー層を形成する樹脂の酸価が、5~70mgKOH/gの範囲である、上記積層体に関する。
【0010】
本発明は、前記コアシェル型樹脂微粒子のコアが、前記コアの質量を基準として、芳香族系エチレン性不飽和単量体に由来する構成単位を、70~100質量%の範囲で含む、上記積層体に関する。
【0011】
本発明は、前記コアシェル型樹脂微粒子のシェルが、該シェルの質量を基準として、オクタノール/水分配係数が1~2.5の範囲であるエチレン性不飽和(s-1)に由来する構成単位を70~99.5質量%、及び、オクタノール/水分配係数が1未満であるエチレン性不飽和単量体(s-2)に由来する構成単位を0.5~15質量%、の範囲で含む、上記積層体に関する。
【0012】
本発明は、前記コアシェル型樹脂微粒子が、反応性界面活性剤に由来する構成単位を含む、上記積層体に関する。
【0013】
本発明は、前記コロイド結晶層上にオーバーコート層を有する、上記積層体に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、発色性に優れ、さらに、50℃以下程度の比較的低温の条件で乾燥した場合においても、基材追従性、耐摩擦性及び耐水摩擦性に優れる、コロイド結晶層を有する積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による積層体を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態によるオーバーコート層を有する積層体を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<積層体>
本発明の積層体は、基材層と、プライマー層と、コロイド結晶層と、が順に積層されてなる積層体であって、前記コロイド結晶層が、コアシェル型樹脂微粒子及び無彩黒色微粒子を含有し、且つ空隙を有し、前記コアシェル型樹脂微粒子が、コアの質量を基準としてシェルを、50質量%を超え150質量%以下の範囲で含有し、前記シェルのガラス転移点が、-60~40℃の範囲であることを特徴とする。
シェルの量が50質量%を超え150質量%以下の範囲であることで、基材を傷めない50℃以下の低温乾燥条件においても隣接するコアシェル型樹脂微粒子のシェル同士が融着して、優れた基材追従性、耐摩擦性及び耐水摩擦性を発揮できる。一方で、コロイド結晶層内の空隙は失われないため、粒子と粒子間隙の屈折率差が維持されて、優れた発色性を示す。
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0017】
[プライマー層]
本発明におけるプライマー層は、基材層とコロイド結晶層との間に設けられ、基材とコロイド結晶層との間の界面剥離を抑制する働きを担う。プライマー層を設けることで、コロイド結晶層との結着性が向上し、基材追従性、耐摩擦性、耐水性に優れる積層体を得ることができる。
【0018】
(プライマー層を形成する樹脂)
プライマー層を形成する樹脂は特に制限されず、好ましくは、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、及びこれらの樹脂からなる複合樹脂であり、より好ましくは、アクリル樹脂であり、特に好ましくはスチレンを構成単位に含むアクリル樹脂(以下、スチレンアクリル樹脂)である。アクリル樹脂を用いると、基材層やコロイド結晶層への密着性、プライマー層の基材追従性及び耐水性に優れ、積層体の基材追従性、耐摩擦性及び耐水摩擦性が良好となる。
これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0019】
プライマー層を形成する樹脂は、コロイド結晶層を構成するコアシェル型樹脂微粒子と親和性の高い有機溶剤等の含有率が低いことが好ましく、水性樹脂が好適に用いられる。ここで水性樹脂とは、水性媒体中に分散又は溶解し得る樹脂を表す。また水性媒体は、水性の分散媒又は水性の溶媒を表し、水の他に、水と混和し得る分散媒又は溶媒を含む。
【0020】
プライマー層を形成する樹脂が水性樹脂である場合、乳化重合のように水性媒体中でエチレン性不飽和単量体を重合する方法や、非水系にて重合を行った後、脱溶剤しながら水相に転相する転相乳化法のような任意の方法で調製することができる。中でも工程数が少なく、低粘度で高固形分化が可能である点、より高分子量の樹脂を得られる点から、好ましくは乳化重合法である。
【0021】
{アクリル樹脂}
プライマー層を形成する樹脂が、アクリル樹脂である場合、エチレン性不飽和単量体の乳化重合により、目的の樹脂を得ることができる。
【0022】
{エチレン性不飽和単量体}
上記エチレン性不飽和単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチル(メタ)アクリラート等の芳香族系エチレン性不飽和単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、又は、これらのアルキル若しくはアルケニルモノエステル、コハク酸β-(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸等のカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体;2-アクリルアミド2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸アンモニウム、ビニルスルホン酸等のスルホ基含有エチレン性不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N-メトキシメチル-N-(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコール等の水酸基含有エチレン性不飽和単量体;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリオキシエチレン基含有エチレン性不飽和単量体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン等が挙げられ、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メタクリル酸2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル、メタクリル酸1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル等のアミノ基含有エチレン性不飽和単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有エチレン性不飽和単量体;ジアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシ(メタ)アクリレート等のケトン基含有エチレン性不飽和単量体;アリル(メタ)アクリレート、1-メチルアリル(メタ)アクリレート、2-メチルアリル(メタ)アクリレート、1-ブテニル(メタ)アクリレート、2-ブテニル(メタ)アクリレート、3-ブテニル(メタ)アクリレート、1,3-メチル-3-ブテニル(メタ)アクリレート、2-クロルアリル(メタ)アクリレート、3-クロルアリル(メタ)アクリレート、o-アリルフェニル(メタ)アクリレート、2-(アリルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、アリルラクチル(メタ)アクリレート、シトロネリル(メタ)アクリレート、ゲラニル(メタ)アクリレート、ロジニル(メタ)アクリレート、シンナミル(メタ)アクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルイタコン酸、ビニル(メタ)アクリレート、クロトン酸ビニル、オレイン酸ビニル,リノレン酸ビニル、2-(2’-ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル、イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等の2個以上のエチレン性不飽和基を有するエチレン性不飽和単量体;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、3-アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アルキルエーテル化N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基含有エチレン性不飽和単量体;が挙げられる。
これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0023】
また、上記エチレン性不飽和単量体は、プライマー層内、及びプライマー層とコロイド結晶層との間に架橋を形成する目的で反応性基を有していてもよい。プライマー層内及びプライマー層とコロイド結晶層との間に架橋を形成することで、積層体の耐摩性、耐水摩擦性が良好になる。
プライマー層内及びプライマー層とコロイド結晶層との間の架橋は、プライマー層を形成する樹脂の反応性基同士を反応させる方法、プライマー層を形成する樹脂とコアシェル型樹脂微粒子の反応性基とを反応させる方法、多官能の架橋剤を介してプライマー層を形成する樹脂の反応性基同士を架橋させる方法、プライマー層を形成する樹脂の反応性基とコアシェル型樹脂微粒子の反応性基とを架橋させる方法、により導入することができる。
【0024】
エチレン性不飽和単量体が有していてもよい反応性基としては、エポキシ基、カルボキシ基、水酸基、ケトン基、ヒドラジド基等が挙げられ、より好ましくはケトン基である。特に、反応性基がケトン基であり、架橋剤がヒドラジド架橋剤である場合、ケトン・ヒドラジド架橋を形成することができる。ケトン・ヒドラジド架橋は、積層体の諸物性に悪影響を及ぼさず、水等の媒体の揮発により低温且つ短時間で架橋を形成できる点から好適に用いられ、加熱によりダメージを受けやすいフィルム基材を用いる場合に有効である。また、水性アクリル樹脂が、水性媒体中に分散可能な樹脂微粒子である場合、親水性が高いケトン基を有するエチレン性不飽和単量体を共重合組成に用いると、ケトン基は樹脂微粒子の外側、すなわち水媒体との界面付近に導入され、ヒドラジド架橋剤と効率的に架橋を形成できると考えられる。
【0025】
プライマー層を形成する樹脂がケトン基を有する場合、ケトン基の好ましい含有量は、プライマー層を形成する樹脂の質量を基準として、0.05~0.3mmol/gの範囲である。0.05~0.3mmol/gの範囲で導入することにより、プライマー層を形成する樹脂の造膜が阻害されず均一なプライマー層を形成することができるため、プライマー層とコロイド結晶層がより強固に結着する。従って、耐摩擦性、耐水摩擦性が一層良好な積層体が得られる。
【0026】
{ラジカル重合開始剤}
アクリル樹脂の製造に用いられるラジカル重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤としては、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリル等のアゾビス化合物;が挙げられる。
【0028】
乳化重合においては、水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、水溶性重合開始剤としては例えば、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)、過酸化水素、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドのような従来既知のものを好適に使用することができる。
【0029】
{界面活性剤}
アクリル樹脂を乳化重合で製造する場合、界面活性剤を用いることで、水性樹脂の安定性や単分散性を向上させることができる。界面活性剤としては、アニオン性又はノニオン性のものが挙げられ、好ましくはアニオン性界面活性剤である。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
{その他成分}
プライマー層を形成する樹脂の製造では、必要に応じて還元剤、緩衝材、連鎖移動剤、中和剤を使用することができる。
【0031】
{ウレタン樹脂}
プライマー層を形成する樹脂が水性ウレタン樹脂である場合、水性ウレタン樹脂としては特に制限されず、例えば、非水系にて任意のポリオールとポリイソシアネートとを重付加反応させ、得られたウレタン樹脂を、界面活性剤を用いて水中に分散させる方法、又は、ウレタン樹脂中にカルボキシ基等の親水基を導入して自己乳化させる方法、により得ることができる。
水性ウレタン樹脂は、末端イソシアネート基にジアミンやジヒドラジド化合物を反応させて、末端に官能基を導入してもよく、鎖延長により高分子量化を行ってもよい。また、水性ウレタン樹脂は、反応性基を介してアクリル樹脂骨格やオレフィン樹脂骨格をグラフトする等、異なる樹脂と複合化してもよい。
【0032】
ウレタン樹脂を構成するポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレン/プロピレン)グリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3’-ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、オクタンジオール、ブチルエチルペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスフェノールA等の二官能ポリオールや、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の三官能ポリオールと、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸、無水フタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸等の二塩基酸を反応させてなるポリエステルポリオール;前述の二官能ポリオールとジアルキルカーボネート、アルキレンカーボネート、ジアリールカーボネートとを反応させてなるポリカーボネートポリオール;水酸基含有ポリブタジエン、酸基含有水添ポリブタジエン、水酸基含有ポリイソプレン、水酸基含有水添ポリイソプレン、水酸基含有塩素化ポリプロピレン、水酸基含有塩素化ポリエチレン等のポリオレフィンポリオール;植物由来の油を原料としたひまし油ポリオール;が挙げられる。
【0033】
ウレタン樹脂を構成するポリイソシアネートといえば、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネート;が挙げられる。
【0034】
ウレタン樹脂合成において、ウレタン結合濃度調節や各種官能基導入を目的として、低分子ジオールを併用してもよい。低分子ジオールとしては分子量500以下のジオールが好ましく、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブチレンジオール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6-ブタントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)アニリン、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロールペンタン酸等のジメチロールアルカン酸や、ジヒドロキシコハク酸、ジヒドロキシプロピオン酸、ジヒドロキシ安息香酸が挙げられる。
【0035】
末端変性や鎖延長反応に使用できる化合物としては、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン及びその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン等のジアミン類、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジヒドラジド類が挙げられる。
【0036】
水性ウレタン樹脂の市販品としては、例えば、第一工業製薬製スーパーフレックスシリーズ(例えばSF-170、SF-210等)、三洋化成社製ユーコート、パーマリンシリーズ(例えば、UX-310、UX-3945等)、荒川化学製ユリアーノシリーズ(例えばW-600やW-321等)、ADEKA製アデカポンタイターシリーズ(例えばHUX-420A、HUX-386等)、宇部興産製UWシリーズ(例えば、UW-5002、UW-5020等)、大成ファインケミカル社製アクリットシリーズ(例えば、WBR2000U、WBR2101、WEM-200U等)が挙げられる。
【0037】
{オレフィン樹脂}
プライマー層を形成する樹脂が水性ポリオレフィン樹脂である場合、該水性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体のようなベース樹脂を、マレイン酸等で変性した酸変性ポリオレフィンを用いることができる。ポリオレフィン樹脂は、アクリル樹脂骨格をグラフトする等、異なる樹脂と複合化してもよい。
上記水性ポリオレフィン樹脂は、界面活性剤により水中に分散させる方法、又は、ポリオレフィン樹脂中に親水基を導入して自己乳化させる方法、により水分散体を得ることができる。
【0038】
水性ポリオレフィン樹脂の市販品としては、例えば、日本製紙社製スーパークロンシリーズやアウローレンシリーズ(例えば、E-480T、AE-301等)、ユニチカ製アローベースシリーズ(例えばSB-1230N、SB-1200等)、三菱化学製アプトロックシリーズ(例えば、BW-5550等)が挙げられる。
【0039】
{ポリエステル樹脂}
プライマー層を形成する樹脂が水性ポリエステル樹脂である場合、水性ポリエステル樹脂としては特に制限されず、例えば、水性ポリエステル樹脂は、二官能又は三官能ポリオールと二塩基酸とを反応させて得ることができる。二官能又は三官能ポリオール、及び二塩基酸としては、上述の{ウレタン樹脂}の項の記載を援用できる。
水性ポリエステル樹脂は、界面活性剤により水中に分散させる方法、又は、ポリエステル樹脂中に親水基を導入して自己乳化させる方法により、水分散体を得ることができる。
水性ポリエステル樹脂の市販品としては、例えば、互応化学製プラスコートシリーズ(例えば、Z-730、Z-760等)が挙げられる。
【0040】
(プライマー層形成する樹脂の性状)
プライマー層を形成する樹脂は、カルボキシ基を有していることが好ましく、好ましくは、酸価が5~70mgKOH/gの範囲である。酸価が上記の範囲であると、基材に対するプライマー層用組成物の塗工性がより向上し、基材とプライマー層の密着性が良好となる。また、プライマー層上に塗工するコロイド結晶層用組成物の塗工性が良好となり、プライマー層に対する濡れ性が良化するため、プライマー層とコロイド結晶層との結着も一層向上する。更にプライマー層が水分等で再分散してコロイド結晶の規則配列に悪影響を及ぼす可能性も無い。したがって、積層体の発色性、基材追従性、耐摩擦性、耐水摩擦性が優れる。
【0041】
プライマー層を形成する樹脂のガラス転移点(Tg)は、好ましくは-30~70℃の範囲であり、より好ましくは-25~40℃の範囲である。ガラス転移点が-30℃~70℃の範囲であると、コロイド結晶層の空隙部に対するプライマー成分の侵入を抑制できるため、積層体の長期間良好な構造発色を維持する事ができる。また、プライマー層と基材又はコアシェル型樹脂微粒子表面との濡れ性に優れ、プライマー層と基材層との間及びプライマー層とコロイド結晶層との間の密着性が良好になる。プライマー層とコアシェル型樹脂微粒子のシェル間との融着による高分子鎖の絡み合いも十分に促進され、結着部分の強度にも優れる。以上の事から、積層体の基材追従性、耐摩擦性、耐水摩擦性がより優れたものとなる。
本明細書におけるガラス転移点は、DSC(示差走査熱量計)を用いて求めた値である。
【0042】
(プライマー層の形成方法)
プライマー層の形成方法は特に制限されないが、例えば、プライマー層を形成する水性樹脂と水とを含有するプライマー層用組成物を、基材上に塗布し、必要に応じて乾燥することで形成することができる。
【0043】
(プライマー層用組成物)
プライマー層層用組成物は、積層体の諸物性に悪影響を及ぼさない範囲で、塗工性や積層体の発色性及び塗膜耐性を向上させる目的で、親水性溶剤、無彩黒色微粒子、架橋剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0044】
{親水性溶剤}
上記親水性溶剤としては、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールのような一価のアルコール溶剤;エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、のようなグリコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルのようなグリコールエーテル系溶剤;N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタムのようなラクタム系溶剤;ホルムアミド、N-メチルホルムアミドのようなアミド系溶剤;が挙げられる。
【0045】
{無彩黒色微粒子}
無彩黒色微粒子は、積層体内の散乱光を吸収して発色をより明瞭にする働きをする。無彩黒色微粒子としては、黒色の染料で着色した微粒子やカーボンブラック、グラファイト等を用いることができ、可視領域の反射スペクトル形状に与える影響が少なく、耐候性等の耐久性に優れるという観点から、好ましくはカーボンブラックである。カーボンブラックは、分散剤を用いて水中に分散した分散タイプ、又は自己分散タイプのいずれを用いてもよいが、分散剤による微粒子配列への影響が発生しない観点から自己分散タイプのカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0046】
{架橋剤}
プライマー層用組成物が含んでもよい架橋剤としては特に制限されず、例えば、活性カルボニル基と反応してケト-ヒドラジド架橋を形成するヒドラジド基を2つ以上有するヒドラジド化合物(ポリヒドラジド)、水酸基やアミノ基と反応してウレタン結合やウレア結合を形成するイソシアネート化合物、カルボキシ基やアミノ基等と反応するエポキシ化合物が挙げられ、用途に応じて適宜選択することができる。
より詳細には、プライマー層を形成する樹脂がカルボキシ基を有する場合は、エポキシ架橋剤を介して架橋を形成することができる。また、例えば、プライマー層用組成物に含まれる樹脂が水酸基を有する場合は、ポリイソシアネート架橋剤を介して架橋を形成することができる。また、例えば、プライマー層用組成物に含まれる樹脂がケトン基を有する場合、ヒドラジド架橋剤を介して架橋することができる。
架橋剤としては、上述のとおり、ケトン・ヒドラジド架橋を形成するために、ヒドラジド架橋剤を用いることが好ましい。ヒドラジド架橋剤としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、多官能のヒドラジド基が変性された水溶性樹脂が挙げられる。
【0047】
[コロイド結晶層]
本発明の積層体はコロイド結晶層を有し、該コロイド結晶層は規則的に配列した構造を有するためブラッグ反射由来の構造色を発現し発色機能を担う。本発明におけるコロイド結晶層は、コアシェル型樹脂微粒子及び無彩黒色微粒子を含み、且つ空隙を有する。
コアシェル型樹脂微粒子が規則配列構造を有することで、隣接したコアシェル型樹脂微粒子のシェル同士、及び、コアシェル型樹脂微粒子のシェルと該シェルに接する層とが容易に結着するため、積層体の基材追従性、耐摩擦性及び耐水摩擦性が良好となる。また、コロイド結晶層が空隙を有することで、粒子と粒子間隙の屈折率差が大きくなるため、積層体が優れた発色性を発現する。
【0048】
(コアシェル型樹脂微粒子)
上記コアシェル型樹脂微粒子は、コア及びシェルが水に不溶なポリマーであり、互いに相溶しないコア(内層)とシェル(外層)の構造を含む。コアは球状形状の維持、シェルは流動性を有して結着部位として機能する。コアシェル型樹脂微粒子を含む組成物は、基材等に塗布され水等の媒体が揮発するにつれて、粒子が移流集積して規則的に配列し、コロイド結晶層を形成する。そして、隣接したコアシェル型樹脂微粒子のシェル同士、コアシェル型樹脂微粒子のシェルとプライマー層、及びコアシェル型樹脂微粒子のシェルと後述するオーバーコート層とは、容易に結着することができるため、積層体は、優れた基材追従性、耐摩擦性及び耐水摩擦性を発揮する。
【0049】
上記コアシェル型樹脂微粒子は、コアの質量を基準としてシェルを、50質量%を超え150質量%以下の範囲で含有することが重要である。シェルの含有率が50%を超えることにより、基材を傷めない50℃以下の低温乾燥条件においても隣接するコアシェル型樹脂微粒子のシェル同士が融着して、優れた基材追従性及び耐水摩擦性を発揮する。また、シェルの含有率が150質量%以下であることにより、乾燥時にコアシェル型樹脂微粒子のシェルが過剰に融着してコロイド結晶層の空隙が埋まることを防ぎ、優れた発色性を発揮できる。シェルの含有率は、好ましくは55~120質量%の範囲である。
【0050】
コアシェル型樹脂微粒子のシェルのガラス転移点は、-60~40℃の範囲であることが重要である。上記の範囲であると、加熱乾燥時にコロイド結晶層の空隙部分がコアシェル型樹脂微粒子のシェルの融着で過剰に埋まることが抑制される。さらに、コアシェル型樹脂微粒子間やコアシェル型樹脂微粒子とプライマー層、コアシェル型樹脂微粒子と後述するオーバーコート層との間でシェルの融着が促進され、結着部分の強度が十分に発現する。これにより、優れた発色性、基材追従性、耐摩擦性及び耐水摩擦性を発揮できる。シェルのガラス転移点は、より好ましくは-50~20℃の範囲である
【0051】
また、コアシェル型樹脂微粒子のコアのガラス転移点は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは60℃~150℃の範囲である。ガラス転移点が50℃以上であると、コアの形状が、外部からの熱や力の影響で変形することが抑制される。これにより、加熱乾燥後もコアシェル型樹脂微粒子のコア由来の粒子形状が維持されるため、積層体の発色性が優れる。
【0052】
本発明におけるコアシェル型樹脂微粒子は特に制限されないが、好ましくはエチレン性不飽和単量体の重合体であり、より好ましくはアクリル樹脂であり、さらに好ましくはスチレンアクリル樹脂である。
【0053】
コアシェル型樹脂微粒子の製造方法は特に制限されず、乳化重合のように水性媒体中でエチレン性不飽和単量体を重合する方法や、非水系で重合を行った後に脱溶剤しながら水相に転相する転相乳化法等が挙げられるが、高分子量、低粘度、且つ高固形分濃度化が可能である点から、乳化重合を用いることが好ましい。また、乳化重合では、一段目と二段目とで単量体の組成を変えて滴下する二段重合、又は、三段以上の多段で単量体の組成を変えて滴下する多段重合のいずれを用いてもよい。
コアシェル型樹脂微粒子は、上記二段重合により、具体的には、下記に示す手順で調整できる。
(1)まず、反応槽に水性媒体と界面活性剤とを仕込み、昇温する。その後、窒素雰囲気下でコアを形成する一段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液を滴下しながら、ラジカル重合開始剤を添加する。反応開始後、滴下量にしたがって粒子は徐々に成長してコア粒子を形成する。
(2)次いで、一段目の滴下が完了し、発熱が落ちついたところで、シェルを形成する二段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液の滴下を開始する。その際、追加の開始剤を添加してもよい。滴下された二段目のエチレン性不飽和単量体は、一旦コア粒子に分配されるが、重合が進むにつれてコア粒子の外層に重合体として析出していき、シェル層を形成する。
【0054】
{エチレン性不飽和単量体}
コアシェル型樹脂微粒子の製造に使用できるエチレン性不飽和単量体としては、前述の[プライマー層]における{エチレン性不飽和単量体}の項の記載を援用できる。
コアシェル型樹脂微粒子のコアは、コアの質量を基準として、芳香族系エチレン性不飽和単量体(a)に由来する構成単位を、70~100質量%の範囲で含むことが好ましい。芳香族系エチレン性不飽和単量体(a)に由来する構成単位を上記範囲で含むことで、コア部の屈折率が高くなり、コロイド結晶層における粒子部分と空隙部分の屈折率差が拡大し、積層体の発色性がより向上する。
【0055】
上記の芳香族系エチレン性不飽和単量体(a)としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチル(メタ)アクリラート等が挙げられる。
【0056】
また、コアシェル型樹脂微粒子のシェルは、シェルの質量を基準として、オクタノール/水分配係数(以下、LogKow)が1~2.5の範囲であるエチレン性不飽和単量体(s-1)に由来する構成単位を70~99.5質量%、及び、LogKowが1未満であるエチレン性不飽和単量体(s-2)に由来する構成単位を0.5~15質量%、の範囲で含むことが好ましい。
エチレン性不飽和単量体(s-1)及び(s-2)に由来する構成単位の含有量が上記の範囲であることにより、二段目の滴下成分から生成されるポリマーが、芳香族系エチレン性不飽和単量体(a)に由来する構成単位を含むコアと相溶せず、コア粒子と水相の界面にポリマーが生成するため、コアとシェルのコントラストがより明確な粒子を形成できる。これにより、シェルの融着による粒子間の結着力が向上するだけでなく、シェルが過剰に親水化することが抑制され、積層体の基材追従性、耐水摩擦性が一層優れるものとなる。
【0057】
オクタノール/水分配係数は、下記の式1により表され、ある化合物Aが水相と油相(オクタノール)、どちらに分配されやすいかを表す指標として用いられる。樹脂微粒子の水分散体と、そこに滴下されるエチレン性不飽和単量体の関係においては、エチレン性不飽和単量体のオクタノール/水分配係数の値が高いほど粒子内部にエチレン性不飽和単量体が分配されやすく、値が低いほど水相に分配されやすい。各エチレン性不飽和単量体のオクタノール/水分配係数は、ハンセン溶解度パラメータソフトHSPiPのYMB法(物性推算機能)を用いて算出された、25℃における値である。
式1:オクタノール/水分配係数=Log(オクタノール相における化合物Aの濃度/水相における化合物Aの濃度)
【0058】
オクタノール/水分配係数が1~2.5の範囲であるエチレン性不飽和単量体(s-1)としては、例えば、メチルメタクリレート(LogKow=1.13)、エチルアクリレート(LogKow=1.08)、エチルメタクリレート(LogKow=1.63)、プロピル(アクリエート(LogKow=1.60)、プロピルメタクリレート(LogKow=2.16)、n-ブチルアクリレート(LogKow=2.23)、t-ブチルアクリレート(LogKow=1.99)、トリフルオロエチル(アクリレート(LogKow=1.41)、トリフルオロエチルメタリレート(LogKow=1.96)、エチレングリコールジメタクリレート(LogKow=2.07)が挙げられる。
【0059】
オクタノール/水分配係数が1未満であるとエチレン性不飽和単量体の水への溶解性が良好になる。オクタノール/水分配係数が1未満のエチレン性不飽和単量体(s-2)としては、例えば、メチルアクリレート(LogKow=0.59)、メトキシエチルアクリレート(LogKow=0.24)、メトキシエチルメタクリレート(LogKow=0.81)、ヒドロキシエチルアクリレート(LogKow=-0.22)、ヒドロキシエチルメタクリレート(LogKow=0.33)、4-ヒドロキシブチルアクリレート(LogKow=0.90)、アクリル酸(LogKow=0.14)、メタクリル酸(LogKow=0.67)、アクリルアミド(LogKow=-0.53)、メタクリルアミド(LogKow=0)、イソプロピルアクリルアミド(LogKow=0.96)、ジアセトンアクリルアミド(LogKow=0.82)、2-アセトアセトキシエチルメタクリレート(LogKow=0.59)、グリシジルメタクリレート(LogKow=0.59)が挙げられる。
【0060】
また、コアシェル型樹脂微粒子の形成に用いられるエチレン性不飽和単量体は、コロイド結晶層内、コロイド結晶層とプライマー層、及びコロイド結晶層と後述するオーバーコート層との間に架橋を形成する目的で反応性基を有していてもよい。コロイド結晶層内、コロイド結晶層とプライマー層及びコロイド結晶層とオーバーコート層との間に架橋を形成することで、積層体の耐摩擦性及び耐水摩擦性が向上する。
【0061】
コロイド結晶層内、コロイド結晶とプライマー層、コロイド結晶層とオーバーコート層との間の架橋は、コアシェル型樹脂微粒子の反応性基同士を反応させる方法、コアシェル型樹脂微粒子の反応性基とプライマー層が有する反応性基とを反応させる方法、コアシェル型樹脂微粒子の反応性基とオーバーコート層が有する反応性基とを反応させる方法、多官能の架橋剤を介してコアシェル型樹脂微粒子の反応性基同士を架橋させる方法、コアシェル型樹脂微粒子の反応性基とプライマー層が有する反応性基とを架橋させる方法、コアシェル型樹脂微粒子の反応性基とオーバーコート層とが有する反応性基とを架橋させる方法により導入することができる。
【0062】
エチレン性不飽和単量体が有していてもよい反応性基としては、上述の[プライマー層]における{エチレン性不飽和単量体}の項の記載を援用できる。コアシェル型樹脂微粒子がケトン基を有する場合、ケトン基の好ましい含有量は、コアシェル型樹脂微粒子の質量を基準として、0.05~0.3mmol/gの範囲である。0.05~0.3mmol/gの範囲で導入することにより、シェルの融着が阻害されない状態で架橋が形成されるため、コアシェル型樹脂微粒子間及びコアシェル型樹脂微粒子とプライマー層、コアシェル型樹脂微粒子とオーバーコート層間の結着がより強固になり、積層体の耐摩擦性、耐水摩擦性が良好となる。
コアシェル型樹脂微粒子に反応性基を導入する場合、高分子鎖の絡み合いによる熱融着と架橋形成の相乗効果をより効果的に発現できる点から、反応性基はシェル部に導入することが好ましい。
【0063】
{ラジカル重合開始剤}
コアシェル型樹脂微粒子の製造に用いられるラジカル重合開始剤としては、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができ、油溶性重合開始剤としては特に制限されず、[プライマー層]の{ラジカル重合開始剤}の項の記載を援用できる。乳化重合においては水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、水溶性重合開始剤としては、[プライマー層]の{ラジカル重合開始剤}の項の記載を援用できる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0064】
{界面活性剤}
コアシェル型樹脂微粒子の製造には一般的に界面活性剤が用いられ、界面活性剤を用いることで、コアシェル型樹脂微粒子の安定性や単分散性を向上させることができる。
界面活性剤としては、例えば、アニオン性反応性界面活性剤、アニオン性非反応性界面活性剤、ノニオン性反応性界面活性剤、ノニオン性非反応性界面活性剤が挙げられる。ここで反応性界面活性剤とは、上述のエチレン性不飽和単量体と重合可能な界面活性剤を指す。より詳細には、エチレン性不飽和結合と重合反応し得る反応性基を有する界面活性剤を意味する。反応性基としては、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基等のアルケニル基や(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。
反応性界面活性剤を使用することで、コロイド結晶層用組成物に含まれる遊離のイオン性界面活性剤成分が低減し、コロイド結晶の粒子配列への悪影響が抑えられるため、積層体の発色性及び耐水摩擦性が良好となり好ましい。また、コロイド結晶層を形成する際に、粒子同士の静電反発が大きく規則配列構造を形成し積層体の発色性が優れるという観点からアニオン性反応性界面活性剤を使用することがより好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0065】
本発明におけるコアシェル型樹脂微粒子は、アニオン性反応性界面活性剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸塩類を使用することで、コアシェル型樹脂微粒子の粒子径の均斉度が良化するため好ましい。これによりシェルが過剰に融着することが抑制され、積層体の発色性及び耐水摩擦性が一層良好となる。このようなアニオン性反応性界面活性剤としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンAR-10、AR-20が挙げられる。
【0066】
{その他成分}
コアシェル型樹脂微粒子の製造では、必要に応じて還元剤、緩衝材、連鎖移動剤、中和剤を使用することができる。
【0067】
(コアシェル型樹脂微粒子の性状)
コアシェル型樹脂微粒子の平均粒子径は、好ましくは180~330nmである。平均粒子径がこの範囲にあると、積層体の可視光領域での発色性がより明瞭になるため好ましい。また、平均粒子径が330nm以下であることにより、コロイド結晶層内で隣接するコアシェル型樹脂微粒子の接触面積が増大し、粒子同士の結着がより強固になることで積層体の耐摩擦性、耐水摩擦性が良好となる。
なお、本明細書における平均粒子径は、動的光散乱測定法(測定装置はナノトラックUPA(株)マイクロトラックベル社製)により測定して得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークである。
【0068】
(コロイド結晶層の形成)
コロイド結晶層の形成方法は特に制限されないが、例えば、コアシェル型樹脂微粒子と水とを含有するコロイド結晶層用組成物を、プライマー層を備える基材のプライマー層上に塗布することで形成することができる。コロイド結晶層用組成物は、粒子配列や積層体の諸物性に悪影響を及ぼさない範囲であれば、発色性や塗工性、塗膜耐性を向上させる目的で、無彩黒色微粒子や親水性溶剤、ノニオン性界面活性剤、架橋剤等を含有してもよい。
【0069】
{無彩黒色微粒子}
無彩黒色微粒子は、コロイド結晶層中の散乱光を吸収して発色をより明瞭にする働きをする。コロイド結晶層用組成物に添加可能な無彩黒色微粒子としては、上述の[プライマー層]における〈無彩黒色微粒子〉の項の記載を援用できる。
【0070】
無彩黒色微粒子の平均粒子径は、好ましくは30~300nmの範囲である。また、無彩黒色微粒子の含有率は、コアシェル型樹脂微粒子の質量を基準として、好ましくは0.3~3質量%の範囲である。無彩黒色微粒子の含有率が上記範囲であると、コロイド結晶中の余計な散乱光を適度に吸収しながら、コアシェル型樹脂微粒子の規則配列も阻害しない。また、コロイド結晶層からの過剰な無彩黒色微粒子の欠落を抑制できる。これにより、積層体の発色性及び耐水摩擦性がより向上する。
【0071】
{親水性溶剤}
コロイド結晶層用組成物に添加可能な親水性溶剤としては、上述の[プライマー層]における{親水性溶剤}の項の記載を援用できる。
【0072】
{ノニオン性界面活性剤}
コロイド結晶層用組成物がノニオン性界面活性剤を含むことで、コロイド結晶層の形成に悪影響を与えることなく印刷適性が向上するため、形成される積層体の発色性が良化する。
ノニオン性界面活性剤のHLB値は10.0~19.0であることが好ましい。このようなHLB値を有するノニオン性界面活性剤を用いることで、コロイド結晶層用組成物のレベリング性が向上し、積層体の発色が良化する。
HLB値は、材料の親水・親油性を数値で表したものであり、前記HLB値が小さいほど親油性が高いことを示す。本明細書においてHLB値は、下記式2で表されるグリフィン法の計算式よって算出される。
式2: HLB値=20×(親水性部の式量の総和)÷(材料の分子量)
【0073】
このようなノニオン性非反応性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類(市販品としては、第一工業製薬株式会社製ノイゲンTDS-120や花王株式会社製エマルゲン1108);ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル類(市販品としては、第一工業製薬株式会社製ノイゲンEA-87、EA-137、EA-157);ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等のポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類;が挙げられる。
【0074】
{架橋剤}
コロイド結晶層用組成物が含んでもよい架橋剤としては特に制限されず、上述の[プライマー層]における{架橋剤}の項の記載を援用できる。
架橋剤としては、ケトン・ヒドラジド架橋を形成するために、ヒドラジド架橋剤を用いることが好ましい。ヒドラジド架橋剤としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、多官能のヒドラジド基が変性された水溶性樹脂が挙げられる。
【0075】
[基材層]
本発明における基材層は特に制限されず、公知の基材から選択することができる。基材層としては、例えば、ポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、ナイロン(Ny)フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルムのような熱可塑性樹脂基材;アルミニウム箔のような金属基材;ガラス基材;コート紙基材;が挙げられる。
基材層は、表面が平滑であってもよく凹凸を有していてもよい。また、透明、半透明、不透明のいずれであってもよく、コロイド結晶の発色をより明瞭にするため予め黒色等に着色されたものであってもよい。また、基材層は、プライマー層用組成物の塗工性を改善する目的で、コロナ処理やプラズマ処理が施されていてもよく、プライマー層を有していてもよい。これら基材層は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を積層したものを用いてもよい。
【0076】
[オーバーコート層]
本発明の積層体は、膜耐性向上を目的として、コロイド結晶層上に、さらにオーバーコート層を有していてもよい。
【0077】
(オーバーコート層を形成する樹脂)
上記オーバーコート層を形成する樹脂は、特に制限されないが、コアシェル型樹脂微粒子との密着性に優れる点から、好ましくはアクリル樹脂であり、より好ましくはスチレンアクリル樹脂である。また、コロイド結晶層を構成するコアシェル型樹脂微粒子と親和性の高い有機溶剤等の含有率が低いことが好ましく、水性樹脂が好適に用いられる。ここで水性樹脂とは、水性媒体中に分散又は溶解し得る樹脂を表す。なお、水性媒体は、水性の分散媒又は水性の溶媒を表し、水の他に水と混和し得る分散剤又は溶媒も含む。また、コロイド結晶層への浸透が一層抑制されることから、より好ましくは、水性媒体中に分散している樹脂微粒子である。
【0078】
オーバーコート層を形成する樹脂の製造方法は特に制限されず、公知の方法から適宜選択できるが、高分子量、低粘度、且つ高固形分濃度化が可能である点から、乳化重合を用いて重合してなる樹脂であることが好ましい
オーバーコート層を形成する樹脂の製造に使用できるエチレン性不飽和単量体としては、上述の[プライマー層]における{エチレン性不飽和単量体}の項の記載を援用できる。上記エチレン性不飽和単量体は、オーバーコート層内及びオーバーコート層とコロイド結晶層との間に架橋を形成する目的で反応性基を有していてもよい。オーバーコート層内及びオーバーコート層とコロイド結晶層層との間に架橋を形成することで、積層体の耐摩擦性及び耐水摩擦性が向上する。
【0079】
オーバーコート層内、及びコロイド結晶層とオーバーコート層との間の架橋は、オーバーコート層を形成する樹脂の反応性基同士を反応させる方法、オーバーコート層を形成する樹脂とコアシェル型樹脂微粒子が有する反応性基とを反応させる方法、多官能の架橋剤を介してオーバーコート層を形成する樹脂が有する反応性基同士を架橋させる方法、オーバーコート層を形成する樹脂の反応性基とコアシェル型樹脂微粒子の反応性基とを架橋させる方法、により導入することができる。
【0080】
オーバーコート層を形成する樹脂の製造に使用できるラジカル重合開始剤、界面活性剤、その他成分については、上述の[コロイド結晶層]における{ラジカル重合開始剤}、{界面活性剤}、及び{その他成分}の項の記載を援用できる。
【0081】
(オーバーコート層を形成する樹脂の性状)
オーバーコート層を形成する樹脂が水性樹脂微粒子である場合、水性樹脂微粒子の平均粒子径は、好ましくは80~300nmの範囲であり、水性樹脂微粒子のガラス転移点は、好ましくは-30~30℃の範囲である。
平均粒子径が上記の範囲であると、造膜性に優れるため塗工ムラやクラックが無い均質なオーバーコート層を形成できるため、積層体の発色性、耐摩擦性、耐水摩擦性が良好となる。また、オーバーコート層を形成する樹脂がコロイド結晶層へ浸透してコロイド結晶層の空隙を埋めることを防ぎ、積層体の発色性が良好となる。
ガラス転移点が上記の範囲であると、水性樹脂微粒子がコロイド結晶層の表層で目止めされ、コロイド結晶層の空隙部分への樹脂成分の浸透が抑制される。これにより、コロイド結晶層の空隙が維持され、積層体の発色性が良好となる。また、ガラス転移点が上記の範囲であると造膜性に優れるため、塗工ムラやクラックが無い均質な層を形成でき、積層体の発色性、耐摩擦性、耐水摩擦性が向上する。
【0082】
(オーバーコート層の形成)
オーバーコート層の形成方法は特に制限されないが、例えば、オーバーコート層を形成する樹脂と水とを含有するオーバーコート層用組成物を、コロイド結晶層上に塗布することで形成することができる。オーバーコート層用組成物は、コロイド結晶層の粒子配列や積層体の諸物性に悪影響を及ぼさない範囲であれば、塗工性、塗膜耐性を向上させる目的で、親水性溶剤、架橋剤等を含有してもよい。
【0083】
{親水性溶剤}
オーバーコート層用組成物に添加可能な親水性溶剤としては、上述の[プライマー層]における{親水性溶剤}の項の記載を援用できる。
{架橋剤}
オーバーコート層用組成物が含んでもよい架橋剤としては特に制限されず、上述の[プライマー層]における{架橋剤}の項の記載を援用できる。
架橋剤としては、ケトン・ヒドラジド架橋を形成するために、ヒドラジド架橋剤を用いることが好ましい。ヒドラジド架橋剤としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、多官能のヒドラジド基が変性された水溶性樹脂が挙げられる。
【0084】
<積層体の製造>
本発明の積層体は、基材層と、プライマー層と、コロイド結晶層とをこの順に備える積層体であって、その製造方法は特に制限されないが、好ましくは、以下の工程1及び2を有するものである。各層を形成する際は、必要に応じて乾燥工程を有していてもよい。
工程1)基材層上に、プライマー層用組成物を塗布し、プライマー層を形成する工程。
工程2)工程1で形成されたプライマー層上に、コアシェル型樹脂微粒子を含むコロイド結晶層用組成物を塗布し、コロイド結晶層を形成する工程。
【0085】
プライマー層用組成物及びコロイド結晶層用組成物の塗布方法は特に制限されず、例えば、インクジェット法、スプレー法、ディッピング法、スピンコート法のような版を使用しない印刷方式;オフセットグラビアコーター、グラビアコーター、ドクターコーター、バーコーター、ブレードコーター、フレキソコーター、ロールコーターのような版を使用する印刷方式;が挙げられ、適宜選択することができる。
乾燥工程を有する場合、乾燥方法は特に制限されず、例えば、加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法といった公知の方法から適宜選択できる。乾燥方法は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、基材へのダメージを軽減し効率よく乾燥させる観点から、熱風乾燥法を用いることが好ましい。乾燥温度は、好ましくは25~60℃の範囲である。
【0086】
プライマー層の厚みは、特に制限されず、プライマー層の機能発現と生産性の観点から、好ましくは1.0~50μmであり、より好ましくは2.0~20μmであり、さらに好ましくは2.0~10μmである。
プライマー層の厚みが1.0μm以上であることにより、プライマー層と基材層及びプライマー層とコロイド結晶層との結着性が向上し、積層体の基材追従性、耐摩擦性及び耐水摩擦性が優れる。
コロイド結晶層の厚みは、特に制限されず、積層体の発色性と生産性との観点から、好ましくは3.0~30μmであり、より好ましくは5.0~20μmである。
コロイド結晶層の厚みが3.0μm以上であることにより、ブラッグ反射由来の反射光強度が向上し、積層体の発色が優れる。また、コロイド結晶層の厚みが30μm以下であることにより、積層体の基材追従性、耐摩擦性及び耐水摩擦性が向上する。
オーバーコート層の厚みは、特に制限されず、積層体の発色性と生産性との観点から、好ましくは3.0~30μmであり、より好ましくは3.0~20μmである。
オーバーコート層の厚みが3.0μm以上であることにより、オーバーコート層による積層体の保護機能が十分に発現し、積層体の耐摩擦性及び耐水摩擦性が向上する。
【実施例
【0087】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。実施例における「部」及び「%」は、特に指定がない限り、「質量部」及び「質量%」をそれぞれ意味する。
【0088】
[酸価]
酸価は、乾燥させた樹脂を用いて、JIS K2501に準拠して、水酸化カリウム・エタノール溶液で電位差滴定を行い、算出した。滴定には平沼産業社製:自動滴定装置COM-1600を使用した。
【0089】
[ガラス転移点(Tg)]
ガラス転移点は、DSC(示差走査熱量計TAインスツルメント社製)により測定した。具体的には、樹脂を乾固したサンプル約2mgをアルミニウムパン上で秤量し、該アルミニウムパンをDSC測定ホルダーにセットし、5℃/分の昇温条件にて得られるDSC曲線の吸熱側へのベースラインシフト(変曲点)を読み取りガラス転移点を得た。
【0090】
[平均粒子径]
コアシェル型樹脂微粒子の分散体を500倍に水希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はナノトラックUPA(株)マイクロトラックベル社製)により測定を行った。得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを平均粒子径とした。粒子径のばらつきを表す変動係数Cv値は、下記式より算出した。
Cv値%= 粒子径の標準偏差/平均粒子径×100
【0091】
<プライマー層を形成する樹脂の製造>
(製造例1)
撹拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水68.9部と反応性界面活性剤として、第一工業製薬製アニオン性反応性界面活性剤アクアロンKH-10(以下、KH-10)の20%水溶液を0.25部仕込み、別途、スチレン7.5部、ベンジルメタクリレート10.0部、メチルメタクリレート25.0部、2-エチルヘキシルアクリレート16.0部、n-ブチルアクリレート38.0部、メタクリル酸3.0部、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン0.5部、KH-10の20%水溶液4.8部、イオン交換水40.4部を予め混合、撹拌して調製したエチレン性不飽和単量体の乳化液のうちの3%を更に加えた。内温を80℃に昇温して十分に窒素置換した後、開始剤として過硫酸カリウムの5%水溶液2.0部を添加して乳化重合を開始した。内温を80℃に保ちながらエチレン性不飽和単量体の乳化液の残りと過硫酸カリウムの5%水溶液2.0部を3時間かけて滴下し、更に4時間反応させて、スチレンアクリル樹脂の水分散体を得た。反応完了後、25%のアンモニア水2.4部添加して中和し、イオン交換水で水分散体の固形分濃度を45.0%に調整した。得られた樹脂の酸価は19.5mgKOH/g、Tgは-8.8℃であった。
【0092】
(製造例2~6)
表1に示す配合組成に変更した以外は、製造例1と同様の方法でスチレンアクリル樹脂の水分散体を得た。反応完了後、樹脂中のカルボキシ基と当モルになるように25%アンモニア水を添加して中和し、イオン交換水で水分散体の固形分濃度を45.0%に調整した。得られた樹脂の酸価及びTgを表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
(製造例7)
撹拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水185.0部、高分子分散剤としてJONCRYL67(BASF社製スチレンアクリル樹脂 Mw12,500、酸価213mgKOH/g)42.9部、25%アンモニア水11.1部を仕込み、撹拌しながら昇温し、高分子分散剤を溶解させた。更に窒素還流下で温度80℃まで昇温した後、2つの滴下ロートの一方からは、スチレン14.0部、n-ブチルメタクリレート15.0部、2-エチルヘキシルアクリレート30.0部、シクロヘキシルアクリレート10.0部、n-ブチルアクリレート30.0部、グリシジルメタクリレート1.0部の混合液を2時間かけて滴下した。もう一方からは、過硫酸アンモニウム20%水溶液3.5部を2時間かけて滴下した。滴下完了後、更に5時間反応させてスチレンアクリル樹脂の水分散体を得た。反応完了後、イオン交換水で水分散体の固形分濃度を40.0%に調整した。得られた樹脂の酸価は63.9mgKOH/g、Tgは-1.3℃であった。
【0095】
(製造例8)
JONCRYL67の添加量を53.8部、25%アンモニア水を13.9部に変更した以外は、製造例7と同様の方法でスチレンアクリルの水分散体を得た。反応完了後、イオン交換水で水分散体の固形分を40.0%に調整した。得られた樹脂の酸価は74.6mgKOH/g、Tgは3.4℃であった。
【0096】
(製造例9)
撹拌器、温度計、還流器を備えた反応容器に、ポリオールとして、PTG-2000SN;保土谷化学製ポリテトラメチレングリコール(官能基数2、水酸基価57.0、分子量2,000)19.6部、P-2011;クラレ製3-メチル-1,5ペンタンジオール/アジピン酸/テレフタル酸系ポリエステルポリオール(官能基数2、水酸基価55.0、分子量2,000)20.3部、C-2090;クラレ製ポリカーボネートポリオール(官能基数2、水酸基価56.0、分子量2,000)91.6部、ジメチロールブタン酸19.7部、ポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート48.8部、溶媒としてメチルエチルケトン40.0部、ジプロピレングリコールジメチルエーテル10.0部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら78℃まで昇温させた。そこに、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)を触媒として0.02部添加し、6時間反応させ、両末端がイソシアネート基のウレタンプレポリマーを得た。中和剤としてトリエチルアミン13.5部を添加した後、イオン交換水を400部、鎖延長剤としてエチレンジアミンを2.4部添加して、減圧条件可下で脱溶剤しながら、水相へ転相を行った。水媒体中でイソシアネート基の鎖延長反応を促進させ、固形分濃度が30.0%のウレタン樹脂の水分散体を調製した。得られた樹脂の酸価は37.4mgKOH/g、Tgは94.0℃であった。
【0097】
(製造例10、11)
表2に示す配合組成に変更した以外は、製造例9と同様の方法でウレタン樹脂の水分散体を得、イオン交換水で、水分散体の固形分濃度を30.0%に調整した。得られた樹脂の酸価及びTgを表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2の略語を以下に示す。
PTG-2000SN:保土谷化学製ポリテトラメチレングリコール(官能基数2、水酸基価57.0、分子量2,000)
P-2011:クラレ製3-メチル-1,5ペンタンジオール/アジピン酸/テレフタル酸系ポリエステルポリオール(官能基数2、水酸基価55.0、分子量2,000)
C-2090:クラレ製ポリカーボネートポリオール(官能基数2、水酸基価56.0、分子量2,000)
【0100】
(製造例12)
撹拌器、温度計、還流器を備えた反応容器に、固形のオレフィン樹脂として、アウローレン350S(日本製紙製;無水マレイン酸変性ポリプロピレン-ポリエチレン共重合体)100部、トルエン100部、低分子界面活性剤としてノイゲンTDS-120(第一工業製薬製ポリオキシエチレントリドデシルエーテル HLB14.8)30.0部を加え、100℃まで昇温して樹脂を溶解させた。完全に溶解したのを確認後、中和剤として、ジメチルアミノエタノール5.0部、イオン交換水600.0部を添加した。その後、減圧条件可下で脱溶剤を行いながら、水相への転相を行い、固形分濃度が30.0%のオレフィン樹脂の水分散体を得た。得られた樹脂の酸価は24.0mgKOH/g、Tgは-20℃であった。
【0101】
<コアシェル型樹脂微粒子の製造>
(製造例13)
撹拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水104.6部と別途、スチレン97.0部、アクリル酸2.0部、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.0部、第一工業製薬製アニオン性反応性界面活性剤アクアロンAR-10(以下、AR-10)の20%水溶液を5.0部、イオン交換水39.3部を混合、撹拌して調製した一段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液のうちの2.2%を更に加えた。反応容器の内温を70℃に昇温して十分に窒素置換した後、開始剤として過硫酸カリウムの2.5%水溶液6.3部を添加して重合を開始した。内温を80℃に上げて温度を維持しながら一段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液の残りと過硫酸カリウムの2.5%水溶液4.0部を2時間かけて滴下しながら反応させ、コア粒子を合成した。一段目の滴下完了から30分後、別途、メチルメタクリレート25.0部、n-ブチルアクリレート30.0部、アクリル酸1.0部、AR-10の20%水溶液2.8部、イオン交換水22.1部を混合、撹拌して調製した二段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液の滴下を開始した。内温を80℃に保ちながら二段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液と過硫酸カリウムの2.5%水溶液2.3部を2時間かけて滴下しながら反応を更に進め、コアシェル型樹脂微粒子の水分散体を得た。得られた水分散体に水を添加して、固形分濃度を45.0%に調整した。
得られたコアシェル型樹脂微粒子の平均粒子径は249nm、Cv値は25.2%であった。また、コア部のTgは100.1℃、シェル部のTgは-0.8℃であった。
【0102】
(製造例14~38)
表3、4に示す配合組成に変更した以外は、製造例13と同様の方法で、コアシェル型樹脂微粒子の水分散体を得た。反応容器の水はエチレン性不飽和単量体の総量に対して67%になるように仕込み、エチレン性不飽和単量体の乳化液は、乳化液中のエチレン性不飽和単量体の濃度が69%、界面活性剤の濃度が0.69%になるよう、水を添加して調製した。過硫酸カリウム2.5%水溶液は、エチレン性不飽和単量体の総量に対して固形で0.2%に相当する量を添加し、反応開始時に添加する量と一段目乳化液の滴下時に添加する量、二段目乳化液の滴下時に添加する量の配分は、製造例13と同じ比率にした。
なお、製造例14、15、24、27、29、30、32、35、37、38は、反応槽に分割して仕込む一段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液量を2.2%から順に、3.5%、3.5%、1.5%、1.8%、4.1%、1.3%、1.5%、1.8%、4.3%、1.2%に変更した。
製造例33は、二段目のエチレン性不飽和単量体にチオグリコール酸オクチルを0.1部添加して乳化液を調製した。
製造例29、37は、反応開始前の反応容器にAR-10の20%水溶液を0.3部、更に追加で仕込んだ。
製造例21では、アニオン性反応性界面活性剤AR-10をアニオン性反応性界面活性剤KH-10に、製造例22では第一工業製薬製アニオン性非反応性界面活性剤ハイテノールNF-08に変更した。
得られたコアシェル型樹脂微粒子について、平均粒子径、Cv値、コア部のTg、シェル部のTgを測定した。
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
<オーバーコート層を形成する樹脂の製造>
(製造例39)
撹拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水68.9部を仕込み、別途、スチレン15.0部、メチルメタクリレート30.0部、2-エチルヘキシルアクリレート16.0部、n-ブチルアクリレート35.0部、メタクリル酸2.0部、アクリル酸1.0部、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン1.0部、アクアロンKH-10の20%水溶液5.0部、イオン交換水40.4部を予め混合、撹拌して調製したエチレン性不飽和単量体の乳化液のうちの3%を更に加えた。内温を70℃に昇温して十分に窒素置換した後、開始剤として過硫酸カリウムの5%水溶液2.0部を添加して乳化重合を開始した。内温を80℃に上げて温度を保ちながらエチレン性不飽和単量体の乳化液の残りと過硫酸カリウムの5%水溶液2.0部を3時間かけて滴下し、更に4時間反応させて、固形分濃度が45.0%のスチレンアクリル樹脂の水分散体を得た。得られた樹脂の平均粒子径は206nm、Tgは-2.4℃であった。
【0106】
(製造例40~47)
表5に示す配合組成に変更した以外は、製造例39と同様の方法でアクリル樹脂の水分散体を調製した。なお、製造例40、43、44、45は、反応槽に分割して仕込むエチレン性不飽和単量体の乳化液を、3%から其々1.5%、5%、5%、1.3%に変更した。また、製造例47は反応開始前の反応槽にKH-10を1.0部、製造例48は1.3部、追加で仕込んだ。得られた樹脂について、平均粒子径、Tgを測定した。
【0107】
【表5】
【0108】
<プライマー層用組成物の製造>
(製造例48)
製造例1で得たスチレンアクリル樹脂の水分散体100部に、イソプロピルアルコール2.0部を添加して撹拌し、プライマー層用組成物を調製した。
【0109】
(製造例49~59)
表6に示す配合組成に変更した以外は、製造例48と同様の方法によりプライマー層用組成物を調製した。
【0110】
【表6】
【0111】
<コロイド結晶層用組成物の調製>
(製造例60)
製造例13のコアシェル型樹脂微粒子の水分散体100部に、オリエント化学工業製BONJET BLACK CW-1(表面変性カーボンブラックの水分散体 平均粒子径62nm 固形分20.0%)2.3部と花王株式会社製ノニオン性非反応性界面活性剤エマルゲン1108 1.0部とを添加して撹拌し、コロイド結晶層用組成物を調製した。
【0112】
(製造例61~89)
表7に示す配合組成に変更した以外は、製造例60と同様の方法によりコロイド結晶層用組成物を調製した。
【0113】
【表7】
【0114】
表7中の略語を以下に示す。
CW-1:オリエント化学工業製 BONJET BLACK CW-1 表面変性カーボンブラックの水分散体 平均粒子径62nm 固形分20.0%
エマルゲン 1108:花王株式会社製ノニオン性非反応性界面活性剤
【0115】
<オーバーコート層用組成物の調製>
(製造例90)
製造例39で得た水性樹脂微粒子の水分散体100部に、イソプロピルアルコール0.2部を添加して撹拌し、オーバーコート層用組成物を調製した。
【0116】
(製造例91~98)
表8に示す配合組成に変更した以外は、製造例90と同様の方法によりオーバーコート層用組成物を調製した。
【0117】
【表8】
【0118】
<積層体の作製>
[実施例1]
二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(フタムラ製FOR、厚み20.0μm)のコロナ処理面に、製造例48のプライマー層用組成物を乾燥後の厚みが2.0μmになるようにバーコーター(OSP-05)で塗工した後、オーブンで80℃3分間乾燥して、プライマー層を形成した。
次いで、製造例70のコロイド結晶層用組成物を乾燥後の厚みが9.0μmになるように、バーコーター(OSP-20)を用いて、前記プライマー層上に塗工し、オーブンで50℃3分間乾燥して、コロイド結晶層を形成した。
次いで、製造例93のオーバーコート層用組成物を乾燥後の厚みが9.0μmになるようにバーコーター(OSP-20)を用いて、前記コロイド結晶層上に塗工し、オーブンで50℃3分間乾燥して、オーバーコート層を形成し、積層体を作製した。
【0119】
[実施例2~43、45~57、比較例1~5]
表9に示す組み合わせに変更した以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。なお、実施例47、48、49では、プライマー層用組成物を乾燥後の厚みが0.5、18.0、25.0μmになるように、それぞれバーコーターOSP-1.5、35、52を用いて塗工した。実施例50、51、52では、コロイド結晶層用組成物を乾燥後の厚みが3.0、18.0、35.0μmになるように、それぞれバーコーターOSP-06、35、80を用いて塗工した。実施例53、54、55では、オーバーコート層用組成物を乾燥後の厚みが2.0、25.0、35.0μmになるように、それぞれバーコーターOSP-05、52、80を用いて塗工した。
比較例5では、オーバーコート層用組成物としてポリビニルアルコールの水溶液(クラレ社製ポバール22-88;固形分20.0%)を使用し乾燥後の厚みが9.0μmになるようにバーコーター(OSP-52)を用いて塗工した。
【0120】
[実施例44]
二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(フタムラ製FOR、厚み20.0μm)のコロナ処理面に、製造例50のプライマー層用組成物を乾燥後の厚みが2.0μmになるようにバーコーター(OSP-05)で塗工した後、オーブンで80℃3分間乾燥して、プライマー層を形成した。
次いで、製造例70のコロイド結晶層用組成物を乾燥後の厚みが9.0μmになるように、バーコーター(OSP-20)を用いて、前記プライマー層上に塗工し、オーブンで50℃3分間乾燥して、コロイド結晶層を形成し、積層体を作製した。
【0121】
[比較例6]
二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(フタムラ製FOR、厚み20.0μm)のコロナ処理面に、製造例70のコロイド結晶層用組成物を乾燥後の厚みが9.0μmになるように、バーコーター(OSP-20)を用いて塗工した後、オーブンで50℃3分間乾燥して、コロイド結晶層を形成した。
次いで、製造例93のオーバーコート層用組成物を乾燥後の厚みが9.0μmになるようにバーコーター(OSP-20)を用いて、前記コロイド結晶層上に印刷し、オーブンで50℃3分間乾燥して、オーバーコート層を形成し、積層体を作製した。
【0122】
<積層体の評価>
得られた積層体について、以下の評価を行った、結果を表9に示す。
【0123】
(コロイド結晶層の空気の空隙の確認)
得られた積層体の断面を、走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7800F)で観察し、コロイド結晶層の空隙部を確認した。
有:コロイド結晶層の空隙が残っている。
無:コロイド結晶層の空隙が消失している。
【0124】
(発色性)
積層体について、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製V-770D、積分球ユニットISN-923)を用いて波長350~850nmの範囲で反射スペクトルを測定した。各波長における反射率は、反射率が既知の標準白板(ラブスフェア社製SRS-99-010)をリファレンスとして用いて測定した相対反射率である。得られた反射スペクトルについて、構造色に由来する反射率の最大値と構造色によらないベースラインの反射率の差分(△R)を算出した。△Rが大きいほど発色性に優れている。得られた△Rから、以下の基準で評価した。
S:ΔRが10%以上である(非常に良好)
A:ΔRが5%以上10%未満である(良好)
B:ΔRが2%以上5%未満である(使用可)
C:ΔRが2%未満、又は構造色に由来する反射率のピークが判別不能(使用不可)
【0125】
(基材追従性)
積層体を5cm×5cmの試験片に切り出し、180度・50回折り曲げにより基材追従性試験を行った。折り曲げ後の積層体の反射スペクトルを測定し、基材追従性試験を行った前後での反射スペクトルを比較して、反射率の最大値の変化率(低下率)を算出した。低下率が大きいほど、積層体の発色が悪化していることを表す。得られた変化率から、積層体の耐光性を以下の基準で評価した。
S:反射率の最大値の変化率が5%未満(非常に良好)
A:反射率の最大値の変化率が5%以上、20%未満(良好)
B:反射率の最大値の変化率が20%以上、50%未満(使用可)
C:反射率の最大値の変化率が50%以上(使用不可)
【0126】
(耐摩擦性)
積層体を1cm×1cmの試験片に切り出し、指の腹で100往復擦り、耐摩擦性試験を行った。折り曲げ後の積層体の反射スペクトルを測定し、耐摩擦性試験を行った前後での反射スペクトルを比較して、反射率の最大値の変化率(低下率)を算出した。低下率が大きいほど、積層体の発色が悪化していることを表す。得られた変化率から、積層体の耐光性を以下の基準で評価した。
S:反射率の最大値の変化率が5%未満(非常に良好)
A:反射率の最大値の変化率が5%以上、20%未満(良好)
B:反射率の最大値の変化率が20%以上、50%未満(使用可)
C:反射率の最大値の変化率が50%以上(使用不可)
【0127】
(耐水摩擦性)
積層体を1cm×1cmの試験片に切り出し、水に塗らした綿棒で50往復擦り、耐水摩擦性試験を行った。折り曲げ後の積層体の反射スペクトルを測定し、耐水摩擦性試験を行った前後での反射スペクトルを比較して、反射率の最大値の変化率(低下率)を算出した。低下率が大きいほど、積層体の発色が悪化していることを表す。得られた変化率から、積層体の耐光性を以下の基準で評価した。
S:反射率の最大値の変化率が5%未満(非常に良好)
A:反射率の最大値の変化率が5%以上、20%未満(良好)
B:反射率の最大値の変化率が20%以上、50%未満(使用可)
C:反射率の最大値の変化率が50%以上(使用不可)
【0128】
【表9】
【0129】
表9中の略語を以下に示す。
基材1:二軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ製FOR、厚み20.0μm)
基材2:ポリエステルフィルム(フタムラ製FE2001、厚み23μm)
基材3:アルミ蒸着ポリエステルフィルム(麗光製ダイアラスターH27、厚み12.0μm)
【0130】
表9によれば、基材層とプライマー層とコロイド結晶層とが順に積層されてなり、コロイド結晶層がコアシェル型樹脂微粒子及び無彩黒色微粒子を含有し且つ空隙を有し、コアシェル型樹脂微粒子がコアの質量を基準としてシェルを50質量%を超え150質量%以下の範囲で含有し、シェルのガラス転移点が-60~40℃の範囲である本発明の積層体は、いずれも空隙を有しており、良好な発色性を示した。また、50℃という比較的低温で乾燥した場合においても、基材追従性、耐摩擦性及び耐水摩擦性にも優れていた。
一方で、比較例の積層体は、発色性や基材追従性、耐摩擦性、又は、耐水摩擦性のいずれかが劣っていた。
【符号の説明】
【0131】
1 コロイド結晶層
2 プライマー層
3 基材
4 オーバーコート層
5 コアシェル型樹脂微粒子
6 無彩黒色微粒子
7 空隙
図1
図2