IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-エンジン 図1
  • 特許-エンジン 図2
  • 特許-エンジン 図3
  • 特許-エンジン 図4
  • 特許-エンジン 図5
  • 特許-エンジン 図6
  • 特許-エンジン 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 67/06 20060101AFI20240416BHJP
   F02N 11/00 20060101ALI20240416BHJP
   F02N 15/02 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
F02B67/06 C
F02B67/06 D
F02B67/06 G
F02N11/00 V
F02N15/02 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020179471
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2022070417
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】尾関 久志
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-064081(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0007858(US,A1)
【文献】国際公開第2009/109774(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00-79/00
F02N 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトからカムシャフトにタイミングチェーンを介して動力が伝達されるエンジンであって、
前記クランクシャフトを始動回転させるスタータモータと、
前記スタータモータからの動力を受けて回転するアイドラーギアと、
前記アイドラーギアを回転可能に支持するアイドラーギアシャフトと、
前記タイミングチェーンに対して張力を付与するチェーンテンショナと、を備え、
前記チェーンテンショナは、前記タイミングチェーンをガイドするレバーガイドと、前記レバーガイドを前記タイミングチェーンに押し付けるテンショナ本体と、を有し、
前記アイドラーギアシャフトに前記レバーガイドが揺動可能に支持されていることを特徴とするエンジン。
【請求項2】
前記クランクシャフトを収容するクランクケースの側方にクラッチカバーが取り付けられ、前記クランクケースと前記クラッチカバーに前記アイドラーギアシャフトが両持ちで支持されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記クランクシャフトの動力を前記タイミングチェーンに伝える他のアイドラーギアを備え、
前記他のアイドラーギアが前記クランクシャフトの上方に配置され、前記アイドラーギアシャフトが前記クランクシャフトの上方かつ前記他のアイドラーギアの後方に配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記他のアイドラーギアには、前記クランクシャフトの動力を受ける大径ギアと、前記タイミングチェーンが掛けられる小径ギアと、が一体的に形成されており、
エンジン側面視にて前記アイドラーギアが前記大径ギアに重なることを特徴とする請求項3に記載のエンジン。
【請求項5】
エンジン幅方向にて前記レバーガイドの基端部が、前記大径ギアと前記アイドラーギアの間に挟まれることを特徴とする請求項4に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンには、スタータモータからクランクシャフトにギア列によって動力を伝達するエンジン始動装置が搭載されている。また、エンジンには、クランクシャフトから動弁装置のカムシャフトにタイミングチェーンによって動力を伝達する動力伝達機構が搭載されている。動力伝達機構にはタイミングチェーンに張力を付与するチェーンテンショナが配置されており、エンジンとしてチェーンテンショナの近くにエンジン始動装置のギア列を配置したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。チェーンテンショナとギア列が近づけて配置されることでエンジンのコンパクト化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4236656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のエンジンでは、チェーンテンショナのレバーガイドがピボットボルトによって取り付けられ、エンジン始動装置の各ギアはギアシャフトに取り付けられている。このため、部品点数が増えてコスト及び重量が増加する。また、チェーンテンショナとギア列が近づけられてエンジンのコンパクト化が図られているが、更なるエンジンのコンパクト化が望まれている。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、コスト及び重量を減少させると共に、更なるコンパクト化を実現することができるエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のエンジンは、クランクシャフトからカムシャフトにタイミングチェーンを介して動力が伝達されるエンジンであって、前記クランクシャフトを始動回転させるスタータモータと、前記スタータモータからの動力を受けて回転するアイドラーギアと、前記アイドラーギアを回転可能に支持するアイドラーギアシャフトと、前記タイミングチェーンに対して張力を付与するチェーンテンショナと、を備え、前記チェーンテンショナは、前記タイミングチェーンをガイドするレバーガイドと、前記レバーガイドを前記タイミングチェーンに押し付けるテンショナ本体と、を有し、前記アイドラーギアシャフトに前記レバーガイドが揺動可能に支持されていることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様のエンジンによれば、アイドラーギアシャフトがアイドラーギアだけでなく、チェーンテンショナのレバーガイドの支持に兼用されることで、部品点数を減らしてコスト及び重量を減少させることができる。また、レバーガイドとアイドラーギアが同軸で取り付けられることで、タイミングチェーンの周辺部品に、エンジン始動系のギア列を近づけて、エンジンのコンパクト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例のエンジンの右側面図である。
図2】本実施例のエンジンの左側面図である。
図3】比較例のギアレイアウトの模式図である。
図4】本実施例のエンジンの断面図である。
図5図4からエンジン始動装置の一部のギア列を取り外した図である。
図6図4をA-A線に沿って切断した断面図である。
図7図4をB-B線に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様のエンジンは、クランクシャフトからカムシャフトにタイミングチェーンを介して動力が伝達される。エンジンには、クランクシャフトを始動回転させるスタータモータが設けられている。スタータモータからの動力を受けて、アイドラーギアシャフトに支持されたアイドラーギアが回転される。チェーンテンショナのレバーガイドによってタイミングチェーンがガイドされ、テンショナ本体によってレバーガイドがタイミングチェーンに押し付けられて、タイミングチェーンに張力が付与されている。アイドラーギアシャフトにはアイドラーギアだけでなくチェーンテンショナのレバーガイドが揺動可能に支持されている。アイドラーギアシャフトがアイドラーギア及びレバーガイドの支持に兼用されることで、部品点数を減らしてコスト及び重量を減少させることができる。また、チェーンテンショナとレバーガイドが同軸で取り付けられることで、タイミングチェーンの周辺部品に、エンジン始動系のギア列を近づけて、エンジンのコンパクト化を実現することができる。
【実施例
【0010】
以下、添付図面を参照して、本実施例の動力伝達機構の潤滑構造が適用されたエンジンについて説明する。図1は、本実施例のエンジンの右側面図である。図2は、本実施例のエンジンの左側面図である。また、以下の図では、矢印FRは車両前方、矢印REは車両後方、矢印Lは車両左方、矢印Rは車両右方をそれぞれ示している。
【0011】
図1に示すように、エンジン10は、アッパケース12及びロアケース13から成る上下割構造のクランクケース11を有している。アッパケース12はシリンダと一体化しており、アッパケース12の上部にはシリンダヘッド14及びシリンダヘッドカバー15が取り付けられている。シリンダヘッド14及びシリンダヘッドカバー15の内側には吸排気バルブを作動させる動弁装置(不図示)が収容されている。ロアケース13の下部には潤滑及び冷却用のオイルを貯留するオイルパン16が取り付けられている。クランクケース11の右側面にはクラッチ(不図示)を側方から覆うクラッチカバー17が取り付けられている。
【0012】
図2に示すように、クランクケース11の左側面にはマグネト(不図示)を側方から覆うマグネトカバー18が取り付けられている。マグネトカバー18の後方には、後輪駆動用のドライブチェーン(不図示)の一部及びドライブスプロケット(不図示)を側方から覆うスプロケットカバー19が取り付けられている。マグネトカバー18の上方にはエンジン10を始動させるスタータモータ21が取り付けられ、スプロケットカバー19の上方にはエンジン10の油圧を制御するオイルコントロールバルブ22が取り付けられている。エンジン10の内側には各種動力伝達機構が収容されている。
【0013】
例えば、図3の比較例に示すように、エンジンの内側にはクランクシャフト81の動力を動弁装置に伝える動力伝達機構82の他に、スタータモータ94の動力をクランクシャフト81に動力を伝えるエンジン始動装置91が収容されている。動力伝達機構82のタイミングチェーン84の周辺部品に、エンジン始動装置91のギア列を近づけてコンパクトに配置することが難しい。例えば、タイミングチェーン84の周囲にはチェーンテンショナのレバーガイド93が配置されているため、レバーガイド93を避けるようにしてエンジン始動装置91のギア列を配置しなければならない。
【0014】
そこで、本実施例のエンジン10では、アイドラーギアシャフト49に第2のスタータアイドラーギア(アイドラーギア)45が回転可能に支持されると共に、このアイドラーギアシャフト49にチェーンテンショナ50のレバーガイド51が揺動可能に支持されている(図7参照)。第2のスタータアイドラーギア45とレバーガイド51が1つのアイドラーギアシャフト49に支持されることで、動力伝達機構30のタイミングチェーン34の周辺部品とエンジン始動装置40のギア列を近づけたコンパクトな配置が実現される。また、エンジン10の部品点数を低減することができる。
【0015】
図4及び図5を参照して、エンジン内の動力伝達機構及びエンジン始動装置について説明する。図4は、本実施例のエンジンの断面図である。図5は、図4からエンジン始動装置の一部のギア列を取り外した図である。
【0016】
図4及び図5に示すように、エンジン10の内側にはクランクシャフト25から動弁装置(不図示)の一対のカムシャフト36a、36bに動力を伝える動力伝達機構30が収容されている。動力伝達機構30は、ギア伝達とチェーン伝達を組み合わせたセミカムギアトレインであり、チェーンアイドラーギア(他のアイドラーギア)31と一対のカムスプロケット35a、35bをタイミングチェーン34で接続して一対のカムシャフト36a、36bを動かしている。クランクシャフト25には、スタータクラッチギア27よりもエンジン幅方向内側にチェーンドライブギア26(図5参照)が設けられ、チェーンドライブギア26からチェーンアイドラーギア31に動力が伝達される。
【0017】
チェーンアイドラーギア31には、エンジン幅方向内側に位置する大径ギア32とエンジン幅方向外側に位置する小径ギア33とが一体的に形成されている。大径ギア32にはチェーンドライブギア26が連結しており、チェーンドライブギア26からクランクシャフト25の動力を受けて大径ギア32が回転する。小径ギア33にはタイミングチェーン34の下部が掛けられ、一対のカムスプロケット35a、35bにはタイミングチェーン34の上部が掛けられている。大径ギア32と小径ギア33が一体回転してタイミングチェーン34が周回移動され、一対のカムスプロケット35a、35bに連結したカムシャフト36a、36bが回転される。
【0018】
タイミングチェーン34は、レバーガイド51とチェーンガイド52にガイドされている。小径ギア33からカムスプロケット35aに送り出されるタイミングチェーン34がレバーガイド51にガイドされ、カムスプロケット35bから小径ギア33に引き込まれるタイミングチェーン34がチェーンガイド52にガイドされている。小径ギア33からカムスプロケット35aに向かうタイミングチェーン34には弛みが生じるため、テンショナ本体53によってレバーガイド51がタイミングチェーン34に押し付けられて、タイミングチェーン34に対して張力が付与される。レバーガイド51とテンショナ本体53によってチェーンテンショナ50が形成されている。
【0019】
チェーンアイドラーギア31は、ベアリング38を介してアイドラーギアシャフト37に支持されている。アイドラーギアシャフト37は、アッパケース12とクラッチカバー17(図1参照)に支持されている。アイドラーギアシャフト37の一端部がアッパケース12の側壁を貫通してシリンダボア61(図6参照)内に突き出している。アイドラーギアシャフト37内には軸方向にオイル通路71が形成されており、オイル通路71によってシリンダボア61内からベアリング38にオイルが導かれる。なお、アイドラーギアシャフト37内のオイル通路71によるベアリング38の潤滑構造については後述する。
【0020】
また、エンジン10の内側には、スタータモータ21からクランクシャフト25に動力を伝達するエンジン始動装置40が収容されている。エンジン始動装置40は、スタータモータ21からギア列を介してクランクシャフト25に動力を伝達している。スタータモータ21は、エンジン10が自律運転可能になるまでクランクシャフト25を始動回転させている。スタータモータ21は、シリンダの後方位置でアッパケース12の左側面の上部に取り付けられている。スタータモータ21の出力軸にはピニオンギア42が形成され、ピニオンギア42には第1のスタータアイドラーギア43が連結している。
【0021】
第1のスタータアイドラーギア43のアイドラーギアシャフト48にはリミッターギア44が支持されている。リミッターギア44は第1のスタータアイドラーギア43からエンジン幅方向に離間しており、リミッターギア44から第2のスタータアイドラーギア45に動力が伝達される。第2のスタータアイドラーギア45には、エンジン幅方向外側に位置する大径ギア46と、エンジン幅方向内側に位置する小径ギア47(図7参照)とが一体的に形成されている。大径ギア46にはリミッターギア44が連結しており、小径ギア47にはクランクシャフト25と同軸のスタータクラッチギア27が連結している。
【0022】
スタータクラッチギア27にはスタータワンウェイクラッチ28が設けられており、スタータモータ21側からクランクシャフト25側への動力伝達だけが許容されている。スタータモータ21には、ピニオンギア42、第1のスタータアイドラーギア43、リミッターギア44を介して第2のスタータアイドラーギア45が連結し、スタータモータ21からの動力を受けて第2のスタータアイドラーギア45が回転する。第2のスタータアイドラーギア45と共にスタータクラッチギア27が回転して、スタータワンウェイクラッチ28を介してクランクシャフト25が始動回転する。
【0023】
第2のスタータアイドラーギア45は、アイドラーギアシャフト49に回転可能に支持されている。アイドラーギアシャフト49には、チェーンテンショナ50のレバーガイド51が揺動可能に支持されている。レバーガイド51の基端部(下部)にはピボット穴54(図5参照)が形成されており、このピボット穴54にアイドラーギアシャフト49が挿し込まれている。アイドラーギアシャフト49が第2のスタータアイドラーギア45とレバーガイド51の支持に兼用されるため、エンジン始動装置40がチェーンテンショナ50に近づけられてエンジン10のコンパクト化が実現されている。
【0024】
エンジン側面視にて、レバーガイド51の基端部は、上下方向でリミッターギア44とクランクシャフト25の間に配置されている。このとき、レバーガイド51の基端部が動力伝達機構30のアイドラーギアシャフト37よりも下方に配置され、レバーガイド51の基端部の一部がチェーンアイドラーギア31に重なっている(図5参照)。レバーガイド51はアイドラーギアシャフト49から上方に延びており、前後方向でチェーンアイドラーギア31とリミッターギア44の間にレバーガイド51が配置されている。このようなレイアウトによって、第2のスタータアイドラーギア45とレバーガイド51の基端部の同軸配置が実現される。
【0025】
さらに、エンジン始動装置40のアイドラーギアシャフト48、49は、動力伝達機構30のアイドラーギアシャフト37と同様にアッパケース12とクラッチカバー17(図1参照)に支持されている。エンジン側面視にて、ピニオンギア42、第1のスタータアイドラーギア43、チェーンアイドラーギア31が略同じ高さで前後方向に並んで配置されている。エンジン側面視にて、第2のスタータアイドラーギア45は、前後方向で第1のスタータアイドラーギア43とチェーンアイドラーギア31の間、上下方向でチェーンアイドラーギア31とスタータクラッチギア27の間に配置されている。
【0026】
すなわち、チェーンアイドラーギア31がクランクシャフト25の上方に配置され、第2のスタータアイドラーギア45がクランクシャフト25の上方かつチェーンアイドラーギア31の後方に配置されている。また、第2のスタータアイドラーギア45の一部がチェーンアイドラーギア31の大径ギア32に重なっている。これにより、セミカムギアトレインの動力伝達機構30を採用したエンジン10において、エンジン始動装置40の第2のスタータアイドラーギア45と動力伝達機構30のチェーンアイドラーギア31が近づけられてエンジン10のコンパクト化が実現される。
【0027】
図6を参照して、動力伝達機構の潤滑構造について説明する。図6は、図4をA-A線に沿って切断した断面図である。なお、図6では、ピストンが下死点に位置付けられた状態を示している。
【0028】
図6に示すように、シリンダボア61内にピストン62が配置され、ピストン62にはコネクティングロッド63を介してクランクシャフト25が連結されている。クランクシャフト25の真上には、クランクシャフト25と平行なアイドラーギアシャフト37が取り付けられている。アイドラーギアシャフト37はシリンダボア61の側方に配置されており、アイドラーギアシャフト37にはベアリング38を介してチェーンアイドラーギア31が回転可能に支持されている。アイドラーギアシャフト37の一端部は、アッパケース12の側壁を貫通してシリンダボア61内に突き出している。
【0029】
アイドラーギアシャフト37は中空円筒状であり、アイドラーギアシャフト37内には軸方向にオイル通路71が形成されている。アイドラーギアシャフト37の一端部の上半部が切り欠かれて、オイル通路71の入口となるオイルの受け皿72が形成されている。アイドラーギアシャフト37の中間部がベアリング38に重なっており、この中間部にはオイル通路71の出口となる給油穴73が形成されている。矢印に示すように、シリンダボア61内のオイルが受け皿72からオイル通路71に取り込まれ、オイル通路71内のオイルが給油穴73からベアリング38に供給されている。
【0030】
このとき、アイドラーギアシャフト37の受け皿72の上面が開放されているため、シリンダボア61内で上方から落ちてきたオイルが受け皿72によって受け止められる。受け皿72はアイドラーギアシャフト37の軸方向に直交する断面形状が半円状であり、受け皿72に受け止められたオイルが受け皿72から流れ落ち難くなっている。また、アイドラーギアシャフト37の受け皿72だけがシリンダボア61内に突き出している。このため、シリンダボア61の壁面を伝うオイルが受け皿72にスムーズに流れこんで、受け皿72によってシリンダボア61の壁面を伝うオイルが効率的に集められる。
【0031】
受け皿72はシリンダボア61の下側の壁面から突き出して、ピストン62の外周面よりもシリンダボア61の内側まで受け皿72が延びている。この場合、ピストンヘッド64よりもピストンボス65が小径に形成されており、ピストンヘッド64の下方に受け皿72が入り込んでピストンボス65に近づけられている。この場合、ピストンスカート66を避けた位置で、受け皿72がピストンボス65に近づけられている。シリンダボア61内でピストン62が下降する度に、シリンダボア61の壁面のオイルが下方に寄せられて受け皿72に向けてオイルが集められている。
【0032】
また、受け皿72の少なくとも一部が、下死点に位置したピストンヘッド64よりも下方かつピストンボス65の下端よりも上方に位置している。ピストン62が上死点と下死点の間で昇降しても、ピストン62と受け皿72が干渉することがない。ピストン62と受け皿72の干渉を抑えた状態で、ピストン62にアイドラーギアシャフト37が近づけられてエンジン10がコンパクトに形成されている。また、アイドラーギアシャフト37内のオイル通路71によって、シリンダボア61からベアリング38に最短距離でオイルが供給される。ベアリング38に対する給油量が増えることで、ベアリング38の耐久性が向上されている。
【0033】
図7を参照して、チェーンテンショナのレバーガイドの支持構造について説明する。図7は、図4をB-B線に沿って切断した断面図である。
【0034】
図7に示すように、クランクシャフト25の上方には、クランクシャフト25と平行なアイドラーギアシャフト49が取り付けられている。アイドラーギアシャフト49には、第2のスタータアイドラーギア45が回転可能に支持されると共に、チェーンテンショナ50のレバーガイド51が揺動可能に支持されている。アイドラーギアシャフト49はアッパケース12とクラッチカバー17によって両持ちで支持されており、エンジン幅方向内側からエンジン幅方向外側に向かってアッパケース12、レバーガイド51、第2のスタータアイドラーギア45、クラッチカバー17の順に並んでいる。
【0035】
アイドラーギアシャフト49が第2のスタータアイドラーギア45及びレバーガイド51の支持に兼用されてエンジン10の部品点数が削減されている。また、アイドラーギアシャフト49がアッパケース12とクラッチカバー17に挟み込まれているため、レバーガイド51と第2のスタータアイドラーギア45の取付にボルト等の締結部材が不要になっている。また、アイドラーギアシャフト49の代わりに締結部材を用いる場合のように、クラッチカバー17の外面から締結部材の頭部が突き出すことがないため、エンジン幅が狭められてエンジン10のコンパクト化が実現される。
【0036】
レバーガイド51とタイミングチェーン34が、チェーンアイドラーギア31の大径ギア32と第2のスタータアイドラーギア45の小径ギア47に挟まれている。すなわち、クランクシャフト25付近には、レバーガイド51とタイミングチェーン34よりもエンジン幅方向内側に、チェーンドライブギア26、チェーンアイドラーギア31の大径ギア32等のチェーン駆動用のギア列が配置されている。レバーガイド51とタイミングチェーン34よりもエンジン幅方向外側に、第2のスタータアイドラーギア45の小径ギア47、スタータクラッチギア27等のスタータ用のギア列が配置されている。
【0037】
チェーン駆動用のギア列とスタータ用のギア列が、タイミングチェーン34を基準にして、エンジン幅方向内側とエンジン幅方向外側に分かれて配置されている。これにより、チェーン駆動用のギア列とスタータ用のギア列の配置スペースとして、クランクシャフト25付近の配置スペースが有効活用されている。レバーガイド51の基端部がチェーンアイドラーギア31の大径ギア32と第2のスタータアイドラーギア45に挟まれて、大径ギア32、レバーガイド51の基端部、第2のスタータアイドラーギア45が詰めて配置されている。このため、エンジン幅が狭められてエンジン10のコンパクト化が実現されている。
【0038】
さらに、エンジン幅方向内側からエンジン幅方向外側に向かってチェーンアイドラーギア31、スタータクラッチギア27、第2のスタータアイドラーギア45の順に並んでいる。チェーンアイドラーギア31、スタータクラッチギア27、第2のスタータアイドラーギア45が側面視にて部分的に重なり(図4参照)、これらのギアがクランクシャフト25付近に集約されている。チェーンアイドラーギア31のアイドラーギアシャフト37、第2のスタータアイドラーギア45のアイドラーギアシャフト49、クランクシャフト25が近づけられて、エンジン前後長が狭められてエンジン10のコンパクト化が実現されている。
【0039】
以上、本実施例によれば、アイドラーギアシャフト49が第2のスタータアイドラーギア45だけでなく、チェーンテンショナ50のレバーガイド51の支持に兼用されることで、部品点数を減らしてコスト及び重量を減少させることができる。また、レバーガイド51と第2のスタータアイドラーギア45が同軸で取り付けられることで、タイミングチェーン34の周辺部品に、エンジン始動系のギア列を近づけて、エンジン10のコンパクト化を実現することができる。
【0040】
なお、本実施例では、動力伝達機構としてギア伝達とチェーン伝達を組み合わせたセミカムギアトレインを例示して説明したが、動力伝達機構はアイドラーギアを含まないチェーン伝達機構でもよい。
【0041】
また、本実施例では、第2のスタータアイドラーギアのアイドラーギアシャフトにレバーガイドが支持されているが、第1のスタータアイドラーギアのアイドラーギアシャフトにレバーガイドが支持されてもよい。
【0042】
また、本実施例では、スタータモータから2つのアイドラーギアを介してクランクシャフトに動力が伝達されているが、スタータモータから単一又は3つ以上のアイドラーギアを介してクランクシャフトに動力が伝達されもよい。
【0043】
また、本実施例では、エンジン始動装置及び動力伝達機構の各ギアのレイアウトは一例に過ぎず、少なくともアイドラーギアとレバーガイドが同一のアイドラーギアシャフトに支持されていればよい。
【0044】
また、エンジンは、鞍乗型車両のエンジンに限らず、他の乗り物、例えば、自動四輪車、バギータイプの自動三輪車の他に、水上バイク、芝刈り機、船外機等の特機等に適用されてもよい。なお、鞍乗型車両とは、ライダーがシートに跨った姿勢で乗車する車両全般に限定されず、ライダーがシートに跨らずに乗車する小型のスクータタイプの車両も含んでいる。
【0045】
以上の通り、本実施例のエンジン(10)は、クランクシャフト(25)からカムシャフト(36a、36b)にタイミングチェーン(34)を介して動力が伝達されるエンジンであって、クランクシャフトを始動回転させるスタータモータ(21)と、スタータモータからの動力を受けて回転するアイドラーギア(第2のスタータアイドラーギア45)と、アイドラーギアを回転可能に支持するアイドラーギアシャフト(49)と、タイミングチェーンに対して張力を付与するチェーンテンショナ(50)と、を備え、チェーンテンショナは、タイミングチェーンをガイドするレバーガイド(51)と、レバーガイドをタイミングチェーンに押し付けるテンショナ本体(53)と、を有し、アイドラーギアシャフトにレバーガイドが揺動可能に支持されている。
【0046】
この構成によれば、アイドラーギアシャフトがアイドラーギアだけでなく、チェーンテンショナのレバーガイドの支持に兼用されることで、部品点数を減らしてコスト及び重量を減少させることができる。また、レバーガイドとアイドラーギアが同軸で取り付けられることで、タイミングチェーンの周辺部品に、エンジン始動系のギア列を近づけて、エンジンのコンパクト化を実現することができる。
【0047】
本実施例のエンジンにおいて、クランクシャフトを収容するクランクケース(11)の側方にクラッチカバー(17)が取り付けられ、クランクケースとクラッチカバーにアイドラーギアシャフトが両持ちで支持されている。この構成によれば、チェーンテンショナ及びアイドラーギアの取付にボルト等の締結部材が不要になってエンジン幅を狭めてエンジンのコンパクト化を実現することができる。
【0048】
本実施例のエンジンにおいて、クランクシャフトの動力をタイミングチェーンに伝える他のアイドラーギア(チェーンアイドラーギア31)を備え、他のアイドラーギアがクランクシャフトの上方に配置され、アイドラーギアシャフトがクランクシャフトの上方かつ他のアイドラーギアの後方に配置されている。この構成によれば、セミカムギアトレインのエンジンにおいて、エンジン始動系のアイドラーギアとセミカムギアトレインの他のアイドラーギアを近づけてエンジンのコンパクト化を実現することができる。
【0049】
本実施例のエンジンにおいて、他のアイドラーギアには、クランクシャフトの動力を受ける大径ギア(32)と、タイミングチェーンが掛けられる小径ギア(33)と、が一体的に形成されており、エンジン側面視にてアイドラーギアが大径ギアに重なる。この構成によれば、エンジン始動系のアイドラーギアとセミカムギアトレインの他のアイドラーギアをさらに近づけてエンジンのコンパクト化を実現することができる。
【0050】
本実施例のエンジンにおいて、エンジン幅方向にてレバーガイドの基端部が、大径ギアとアイドラーギアの間に挟まれる。この構成によれば、エンジン幅を狭めてエンジンのコンパクト化を実現することができる。
【0051】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0052】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0053】
10 :エンジン
11 :クランクケース
17 :クラッチカバー
21 :スタータモータ
25 :クランクシャフト
31 :チェーンアイドラーギア(他のアイドラーギア)
32 :大径ギア
33 :小径ギア
34 :タイミングチェーン
36a:カムシャフト
36b:カムシャフト
40 :エンジン始動装置
45 :第2のスタータアイドラーギア(アイドラーギア)
49 :アイドラーギアシャフト
50 :チェーンテンショナ
51 :レバーガイド
53 :テンショナ本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7