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特許7472775波形処理支援装置および波形処理支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】波形処理支援装置および波形処理支援方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
G01N30/86 B
G01N30/86 E
G01N30/86 D
G01N30/86 G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020211336
(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公開番号】P2022098024
(43)【公開日】2022-07-01
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】石川 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】小澤 弘明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 剛
(72)【発明者】
【氏名】勝山 祐治
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 年伸
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/070786(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/163276(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/082836(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析装置の分析結果を示す波形データのピークを波形処理パラメータの値に基づいて分離する波形処理を支援する波形処理支援装置であって、
試料の分析により得られた複数の波形データを取得する取得部と、
前記取得された複数の波形データの少なくとも1つを基準データとして選択する選択部と、
前記基準データから分離された複数のピークを複数の正解ピークとして抽出するとともに、前記複数の正解ピークの各々についての波形処理結果を複数の正解データとして抽出する抽出部と、
前記複数の正解ピークをそれぞれ含む複数の処理区間を決定するとともに、前記処理区間の各々で波形処理を行うパラメータ初期値決定する決定部と、
前記取得された前記複数の波形データについて前記決定された前記複数の処理区間の各々において前記パラメータ初期値に基づいて波形処理を行う波形処理部と、
前記複数の処理区間の各々において得られた波形処理結果が前記複数の正解データのうち対応する正解データと一致または近似するように、各処理区間に対応する前記パラメータ初期値を調整することによりパラメータ調整値を生成する調整部と、
前記複数の処理区間の各々において対応する前記パラメータ調整値を用いた波形処理の実行命令を含む波形処理実行プログラムを作成するプログラム作成部とを備える、波形処理支援装置。
【請求項2】
前記調整部は、前記複数の処理区間の各々において得られた波形処理結果が前記複数の正解データのうち対応する正解データと一致または近似するように、少なくとも1つの処理区間を調整し、
前記プログラム作成部は、前記調整された処理区間において前記パラメータ調整値を用いた波形処理の実行命令を含むように前記波形処理実行プログラムを作成する、請求項1記載の波形処理支援装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記複数の波形データの少なくとも1つとして、手動で修正された波形処理結果を有する波形データを取得可能に構成される、請求項1または2記載の波形処理支援装置。
【請求項4】
前記調整部は、前記パラメータ初期値および前記パラメータ調整値の調整の回数の上限値を設定可能に構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の波形処理支援装置。
【請求項5】
前記波形処理実行プログラムに従って前記複数の波形データとは異なる他の波形データについて波形処理を実行する実行部をさらに備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の波形処理支援装置。
【請求項6】
前記実行部の波形処理により得られた波形処理結果を手動で調整可能に構成された手動修正部をさらに備え、
前記調整部は、前記手動修正部により修正された波形処理結果を新たな正解データとして用いて前記パラメータ調整値をさらに調整する、請求項5記載の波形処理支援装置。
【請求項7】
前記決定部は、前記分析装置の分析条件に関連する補助データを用いて前記パラメータ初期値を決定する、請求項1~6のいずれか一項に記載の波形処理支援装置。
【請求項8】
前記取得部は、同じ試料の分析により得られた複数の波形データを取得する、請求項1~7のいずれか一項に記載の波形処理支援装置。
【請求項9】
分析装置の分析結果を示す波形データのピークを波形処理パラメータの値に基づいて分離する波形処理を支援する波形処理支援方法であって、
試料の分析により得られた複数の波形データを取得するステップと、
前記取得された複数の波形データの少なくとも1つを基準データとして選択するステップと、
前記基準データから分離された複数のピークを複数の正解ピークとして抽出するとともに、前記複数の正解ピークの各々についての波形処理結果を複数の正解データとして抽出するステップと、
前記複数の正解ピークをそれぞれ含む複数の処理区間を決定するとともに、前記処理区間の各々で波形処理を行うパラメータ初期値決定するステップと、
前記取得された前記複数の波形データについて前記決定された前記複数の処理区間の各々において前記パラメータ初期値に基づいて波形処理を行うステップと、
前記複数の処理区間の各々において得られた波形処理結果が前記複数の正解データのうち対応する正解データと一致または近似するように、各処理区間に対応する前記パラメータ初期値を調整することによりパラメータ調整値を生成するステップと、
前記複数の処理区間の各々において対応する前記パラメータ調整値を用いた波形処理の実行命令を含む波形処理実行プログラムを作成するステップとを含む、波形処理支援方法。
【請求項10】
分析装置の分析結果を示す波形データのピークを分離する波形処理支援装置であって、
試料の分析により得られた複数の波形データを取得する取得部と、
前記取得された複数の波形データの少なくとも1つを基準データとして選択する選択部と、
前記基準データに対して第1の波形処理を行うことにより、前記基準データから分離された複数のピークを示す複数の正解ピークの各々について、前記第1の波形処理の波形処理結果を正解データとして抽出する抽出部と、
前記複数の正解ピークのうち少なくとも1つの前記正解ピークを含む複数の処理区間を決定するとともに、前記複数の処理区間における第2の波形処理で用いられるピークを分離するためのパラメータの初期値を決定する決定部と、
前記取得された前記複数の波形データについて前記決定された複数の処理区間の各々において前記パラメータに基づいて前記第2の波形処理を行う波形処理部と、
前記複数の処理区間の各々において得られた前記第2の波形処理の波形処理結果が前記複数の正解データのうち対応する正解データと一致または近似するように、各処理区間に対応する前記パラメータを調整することによりパラメータ調整値を生成する調整部と、
前記複数の波形データとは異なる他の波形データに対する、前記複数の処理区間の各々において対応する前記パラメータ調整値を用いた前記第2の波形処理の実行命令を含む波形処理実行プログラムを作成するプログラム作成部とを備える、波形処理支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波形処理支援装置および波形処理支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の分析装置により分析結果として得られる波形データから、各ピークを分離するために波形処理が行われる。例えば、クロマトグラフ装置では、波形データとしてクロマトグラムが得られる。また、質量分析装置では、波形データとしてマススペクトルが得られる。波形データから各ピークを分離するためには、波形処理パラメータの値が設定される。波形処理パラメータとしては、最小の半値全幅(Width)、およびベースラインの傾き(Slope)が用いられる(例えば、特許文献1参照)。波形処理結果としては、ピークの区間、ピークの強度、およびピークの面積等が得られる。波形データから各ピークを分離するためには、波形処理パラメータの値が設定される。使用者は、少なくとも1種類の波形処理パラメータの値を設定することにより、波形データから各ピークを分離する。
【0003】
波形データの全体に波形処理パラメータの同一の値を用いて波形処理を行うと、各ピークの形状および大きさ等によっては一部のピークを分離することができないことがある。
【0004】
特許文献2には、波形処理用タイムテーブルが記載されている。使用者は、波形処理用タイムテーブルの複数の処理区間において互いに異なる波形処理用ベースライン描画法を指定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-59782号公報
【文献】特開2008-58156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、波形処理用タイムテーブルの複数の処理区間の各々において適切な波形処理パラメータの値を決定するためには、熟練を要する。また、波形処理パラメータの値は高い自由度を有するため、試行錯誤が必要である。さらに、分析装置の分離カラムの劣化または分析装置の精度によりピークの溶出時間または強度がずれることがある。時間および強度に対して頑健な波形処理パラメータの値を決定するためには、複数の波形データに波形処理を行う必要がある。それにより、各処理区間における波形処理パラメータの値の決定に手間がかかる。
【0007】
本発明の目的は、一または複数の波形データについての波形処理を適切かつ容易に行うことを可能にする波形処理支援装置および波形処理支援方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様に係る波形処理支援装置は、分析装置の分析結果を示す波形データのピークを波形処理パラメータの値に基づいて分離する波形処理を支援する波形処理支援装置であって、試料の分析により得られた複数の波形データを取得する取得部と、取得された複数の波形データの少なくとも1つを基準データとして選択する選択部と、基準データから分離された複数のピークを複数の正解ピークとして抽出するとともに、複数の正解ピークの各々についての波形処理結果を正解データとして抽出する抽出部と、複数の正解ピークをそれぞれ含む複数の処理区間を決定するとともに、複数の正解データを得るための波形処理パラメータの値をパラメータ初期値として決定する決定部と、取得された複数の波形データについて決定された複数の処理区間の各々においてパラメータ初期値に基づいて波形処理を行う波形処理部と、複数の処理区間の各々において得られた波形処理結果が複数の正解データのうち対応する正解データと一致または近似するように、各処理区間に対応するパラメータ初期値を調整することによりパラメータ調整値を生成する調整部と、複数の処理区間の各々において対応するパラメータ調整値を用いた波形処理の実行命令を含む波形処理実行プログラムを作成するプログラム作成部とを備える。
【0009】
他の態様に係る波形処理支援方法は、分析装置の分析結果を示す波形データのピークを波形処理パラメータの値に基づいて分離する波形処理を支援する波形処理支援方法であって、試料の分析により得られた複数の波形データを取得するステップと、取得された複数の波形データの少なくとも1つを基準データとして選択するステップと、基準データから分離された複数のピークを複数の正解ピークとして抽出するとともに、複数の正解ピークの各々についての波形処理結果を正解データとして抽出するステップと、複数の正解ピークをそれぞれ含む複数の処理区間を決定するとともに、複数の正解データを得るための波形処理パラメータの値をパラメータ初期値として決定するステップと、取得された複数の波形データについて決定された複数の処理区間の各々においてパラメータ初期値に基づいて波形処理を行うステップと、複数の処理区間の各々において得られた波形処理結果が複数の正解データのうち対応する正解データと一致または近似するように、各処理区間に対応するパラメータ初期値を調整することによりパラメータ調整値を生成するステップと、複数の処理区間の各々において対応するパラメータ調整値を用いた波形処理の実行命令を含む波形処理実行プログラムを作成するステップとを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一または複数の波形データについての波形処理を適切かつ容易に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る波形処理支援装置を含む分析システムの構成を示すブロック図である。
図2】波形処理パラメータおよび波形処理を説明するための図である。
図3】波形処理パラメータおよび波形処理を説明するための図である。
図4】波形処理パラメータおよび波形処理を説明するための図である。
図5】波形処理パラメータおよび波形処理を説明するための図である。
図6】波形処理支援装置によるタイムプログラムの自動作成動作を説明するための模式図である。
図7】波形処理支援装置によるタイムプログラムの自動作成動作を説明するための模式図である。
図8】波形処理支援装置によるタイムプログラムの自動作成動作を説明するための模式図である。
図9】波形処理支援装置によるタイムプログラムの自動作成動作を説明するための模式図である。
図10】波形処理支援装置によるタイムプログラムの自動作成動作を説明するための模式図である。
図11】波形処理支援装置の機能的な構成を示すブロック図である。
図12図11の波形処理支援装置の動作を示すフローチャートである。
図13図11の波形処理支援装置の動作を示すフローチャートである。
図14図11の波形処理支援装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る波形処理支援装置および波形処理支援方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
(1)分析システムの構成
図1は、本発明の一実施の形態に係る波形処理支援装置を含む分析システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、分析システム100は、制御装置1および分析装置2を含む。
【0014】
制御装置1は、CPU(中央演算処理装置)110、RAM(ランダムアクセスメモリ)120、ROM(リードオンリメモリ)130、記憶部30、操作部40、表示部50および入出力I/F(インターフェイス)60により構成される。CPU110、RAM120、ROM130、記憶部30、操作部40、表示部50および入出力I/F60はバス70に接続される。CPU110、RAM120およびROM130が波形処理支援装置10を構成する。波形処理支援装置10の詳細については、後述する。
【0015】
RAM120は、CPU110の作業領域として用いられる。ROM130にはシステムプログラムが記憶される。記憶部30は、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記憶媒体を含む。記憶部30には、波形処理支援プログラムが記憶されている。波形処理支援プログラムは、波形処理支援装置10が波形処理支援動作を行うためのコンピュータプログラムである。波形処理支援プログラムは、ROM130または外部の記憶装置に記憶されていてもよい。
【0016】
CPU110が記憶部30等に記憶された波形処理支援プログラムをRAM120上で実行することにより、波形処理支援動作が行われる。波形処理支援動作については、後述する。
【0017】
操作部40は、キーボード、マウスまたはタッチパネル等の入力デバイスであり、波形処理支援装置10に所定の指示を与えるために使用者により操作される。表示部50は、液晶表示装置等の表示デバイスである。入出力I/F60は、分析装置2に接続される。
【0018】
分析装置2は、液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフまたは超臨界流体クロマトグラフ等のクロマトグラフであってもよく、または質量分析装置等であってもよい。本実施の形態において、分析装置2は液体クロマトグラフである。分析装置2は、表示部2Aを有する。
【0019】
分析装置2は、分析結果を示す波形データを生成する。分析装置2がクロマトグラフである場合には、波形データはクロマトグラムである。クロマトグラムの横軸は溶出時間(保持時間)であり、縦軸は信号強度である。分析装置2が質量分析装置である場合には、波形データはマススペクトルである。マススペクトルの横軸は質量電荷比(m/z)であり、縦軸は信号強度である。波形データの横軸を位置と呼ぶ。波形データの縦軸を強度と呼ぶ。本実施の形態において、波形データはクロマトグラムである。
【0020】
(2)波形処理パラメータおよび波形処理結果
波形データには、1種類または複数種類の波形処理パラメータの値に基づいてピークを分離するために波形処理が行われる。ここで、波形処理パラメータおよび波形処理について説明する。
【0021】
図2図5は、波形処理パラメータおよび波形処理を説明するための図である。本実施の形態では、波形処理パラメータとして、“Slope”、“Width”および“Drift”が用いられる。波形処理パラメータとして、ピークの分離方法が用いられてもよい。ピーク分離方法には、垂直分割、完全分離(ベースライン分離)およびショルダピークの完全分離等がある。
【0022】
図2には“Slope”の値が異なる場合の波形処理結果が示される。“Slope”(単位:μV/min)は、ピーク開始点SPおよびピーク終了点EPを検出するための傾きのしきい値であり、ピークの検出感度を表す。図2の左側の例では“Slope”の値がθ1に設定され、図2の右側の例では“Slope”の値がθ1よりも大きいθ2に設定される。
【0023】
“Slope”の値に基づいて波形処理が行われると、左側のベースラインからピークに向かう波形の傾きが “Slope”の値になる位置がピーク開始点SPとして検出される。また、ピークから右側のベースラインに向かう波形の傾きが“Slope”の値になる位置がピーク終了点EPとして検出される。このように、“Slope”の値が異なると、検出されるピーク開始点SPおよびピーク終了点EPが異なる。
【0024】
図3には“Width”の値が異なる場合の波形処理結果が示される。“Width”(単位:sec)は、検出されるべきピークの半値幅の最小値である。図3の左側の例では、“Width”の値がw1に設定され、図の右側の例では、“Width”の値がw1よりも大きいw2に設定される。
【0025】
“Width”の値に基づいて波形処理が行われると、図の左側の例では、半値幅w1以上のピークがすべて検出される。例えば、ピークPaとピークPbとが分離される。一方、ノイズがピークPnとして検出される。図の右側の例では、半値幅w2以上のピークPcのみが検出される。例えば、部分的に重なり合った隣接する2つのピークが1つのピークとして検出される。一方、ノイズnはピークとして検出されない。
【0026】
このように、“Width”の値が大きく設定された場合には、ノイズがピークとして検出されることを防止することができる。一方、“Width”の値が大きすぎる場合には、部分的に重なり合った隣接するピークが1つのピークとして検出されることがある。
【0027】
図4には、“Drift”の値によるピーク分離方法の違いが示される。Drift(単位:μV/min)は、ベースラインの変動のしきい値である。図4には、複数のピークP1,P2,P3,P4および複数の極小点(ピーク間の谷)A,B,C,D,Eが示される。図4の例では、“Drift”の値がθ3に設定される。
【0028】
“Drift”の値に基づいて波形処理が行われると、各極小点を通る傾きθ3のDrift設定線Lが描かれる。例えば、極小点Bは、極小点Aを通るDrift設定線Lよりも上方に位置する。この場合、極小点A,Bを結ぶ直線は、ベースラインとみなされない。これに対して、極小点Cは、極小点Aを通るDrift設定線Lよりも下方に位置する。この場合、極小点A,Cを結ぶベースライン補正線BL1が設定される。これにより、ピークP1,P2は、極小点Bで垂直分割される。極小点Dは、極小点Cを通るDrift設定線Lよりも下方に位置する。この場合、極小点C,Dを結ぶベースライン補正線BL2が設定される。これにより、ピークP3は完全分離される。同様に、極小点Eは、極小点Dを通るDrift設定線(図示せず)よりも下方に位置する。この場合、極小点D,Eを結ぶベースライン補正線BL3が設定される。これにより、ピークP4は完全分離される。
【0029】
“Drift”の値が小さく設定された場合には、各ピークが垂直分割されやすい。一方、“Drift”の値が大きく設定された場合には、各ピークが完全分離されやすい。このように、“Drift”の値によりピーク分離方法を異ならせることができる。
【0030】
ここで、ピークの分離方法について説明する。ピーク分離方法(垂直分割/完全分離)は、波形処理パラメータとして設定される場合と、“Drift”の値により波形処理結果として得られる場合とがある。本実施の形態においては、ピークの分離方法は、垂直分割および完全分離を含む。図5の左側および右側の例では、部分的に重なり合った隣接するピークP5,P6が示される。
【0031】
図5の左側の例は、垂直分割を示す。垂直分割では、極小点A1,B1,C1からそれぞれ横軸に垂直な直線A1-A2、直線B1-B2および直線C1-C2が設定される。ピークP5,P6は、直線A1-A2、直線B1-B2および直線C1-C2によりそれぞれ分離される。ピークP5の面積は、極小点A1と極小点B1とを結ぶ曲線、直線A1-A2、直線B1-B2および横軸で囲まれた領域の面積である。ピークP6の面積は、極小点B1と極小点C1とを結ぶ曲線、直線B1-B2、直線C1-C2および横軸で囲まれた領域の面積である。
【0032】
図5の右側の例は、完全分離を示す。完全分離では、隣り合う極小点A1,B1を結ぶベースライン補助線BL5が設定され、隣り合う極小点B1,C1を結ぶベースライン補助線BL6が設定される。ピークP5,P6は、ベースライン補助線BL5,BL6によりそれぞれ分離される。ピークP5の面積は、極小点A1と極小点B1とを結ぶ曲線およびベースライン補助線BL5で囲まれた領域の面積である。ピークP6の面積は、極小点B1と極小点C1とを結ぶ曲線およびベースライン補助線BL6で囲まれた領域の面積である。
【0033】
このように、垂直分割により分離されたピークの面積は、完全分離により分離されたピークの面積よりも大きい。したがって、ピークに対応する成分を定量する場合には、同一成分のピークは同じ分離方法で分離されることが望ましい。
【0034】
なお、波形処理パラメータの値は、数値に限らず、ピーク分離方法が垂直分割であるか完全分離であるかを特定する識別情報をも含む。このような識別情報は、CPU110においては、デジタル値で表される。
【0035】
ここで、本実施の形態における波形処理により得られる波形処理結果について説明する。波形処理結果は、設定された1種類または複数種類の波形処理パラメータの値に基づいて波形データから各ピークを分離することにより得られる。波形処理結果は、ピークの開始点の位置、ピークの開始点の強度、ピークの終了点の位置、ピークの終了点の強度、ピークトップの位置、ピークトップの強度、ピークの面積、S/N(信号ノイズ比)、ピーク分離方法の種類(垂直分割/完全分離)等を含む。
【0036】
(3)タイムプログラムの自動作成動作
波形処理により得られた波形処理結果において、波形データからピークが分離されていない場合がある。この場合、使用者は、一または複数のピークを含む区間(以下、処理区間と呼ぶ。)を決定するとともに、各処理区間で所望のピークが分離されるように処理区間ごとに波形処理パラメータの値を決定する。
【0037】
波形処理実行プログラムは、処理区間ごとに設定された波形処理パラメータの値を用いた波形処理の実行命令を含む。波形処理実行プログラムによれば、複数の処理区間においてそれぞれ設定された波形処理パラメータの値を用いて波形データに対して順次波形処理が実行される。本実施の形態では、波形処理実行プログラムをタイムプログラムと呼ぶ。本実施の形態に係る波形処理支援装置10は、タイムプログラムを自動的に作成する機能を有する。以下、本実施の形態に係る波形処理支援装置10におけるタイムプログラム自動作成動作について説明する。
【0038】
図6図10は、波形処理支援装置10によるタイムプログラムの自動作成動作を説明するための模式図である。図1の記憶部30には、図6に示すように、同じ試料の分析により得られた複数の波形データa~jが記憶される。各波形データa~jの横軸は時間を表し、縦軸は信号強度を表す。また、図1の記憶部30には、同じ分析条件で試料を用いない分析により得られた波形データが記憶される。以下、試料を用いない分析により得られた波形データをバックグラウンドクロマトグラムと呼ぶ。
【0039】
波形データa~jには、1種類または複数種類の波形処理パラメータの値を用いて予め波形処理が行われている。それにより、波形データa~jは、それぞれ波形処理結果を有する。すなわち、波形データa~jから一または複数のピークが分離されている。
【0040】
波形データa~jは、同じ試料について異なる分析条件で得られた波形データであってもよい。波形データa~jは、既存の波形処理アルゴリズムにより波形処理された波形処理結果を有してもよい。波形データa~jは、既存のタイムプログラムにより得られた波形処理結果を有してもよい。
【0041】
また、使用者は、波形処理により得られた波形処理結果を図1の操作部40を用いて修正することができる。例えば、使用者は、波形処理により分離されたピークの開始点および終了点を修正することができる。波形データa~jの少なくとも1つが、手動で修正された波形処理結果を有する波形データであってもよい。
【0042】
波形処理支援装置10においては、波形データa~jの少なくとも一つが選択される。以下、選択された波形データを基準データと呼ぶ。本例では、基準データとして一つの波形データbが選択される。基準データとして複数の波形データが選択されてもよい。
【0043】
図6に示すように、波形データbからは、ピークNo.1~No.6が分離されている。以下、基準データから分離された各ピークを正解ピークと呼び、各正解ピークについての波形処理結果を正解データと呼ぶ。本例では、波形データbのピークNo.1~No.6を正解ピークNo.1~No.6と呼ぶ。
【0044】
次に、複数の初期処理区間が決定される。図7の上側には、波形データbが示され、図7の下側には、バックグラウンドクロマトグラムbkが示される。波形データbは、正解ピークNo.1~No.6を有する。正解ピークNo.1~No.6は、それぞれのピークトップ1T~6Tを有する。図7には、正解ピークNo.1~No.6の開始点1a~6aが示される。
【0045】
複数の初期処理区間は、複数の正解ピークNo.1~No.6をそれぞれ含むように決定される。本実施の形態では、隣り合う2つの正解ピークのピークトップの中間位置に隣り合う2つの初期処理区間の境界が決定される。左端の正解ピークNo.1を含む初期処理区間の開始位置は、波形データbの開始点と正解ピークNo.1の開始点1aとの間の任意の位置01Mに決定される。ピークトップ1T,2Tの中間位置に境界12Mが決定される。同様にして、正解ピークNo.2~No.6をそれぞれ含む初期処理区間の境界23M,34M,45M,56Mが決定される。右端の正解ピークNo.6を含む初期処理区間の終了位置は、波形データbの終了点と正解ピークの終了点との間の任意の位置60Mに決定される。このようにして、初期処理区間01M~12M,12M~23M,23M~34M,34M~45M,45M~56M,56M~60Mが決定される。
【0046】
続いて、各初期処理区間における波形処理に用いられる波形処理パラメータの初期値が決定される。以下、各初期処理区間における波形処理に用いられる波形処理パラメータの初期値をパラメータ初期値と呼ぶ。本例では、パラメータ初期値として、“Slope”、“Width”および“Drift”のパラメータ初期値が決定される。図8の上側には、波形データbの初期処理区間01M~12Mの部分が示され、図8の下側には、バックグラウンドクロマトグラムbkの初期処理区間01M~12Mの部分が示される。
【0047】
初期処理区間01M~12Mについてのパラメータ初期値については、例えば、次のように決定される。正解ピークNo.1の開始点1aの傾き1Sの値が“Slope”のパラメータ初期値として決定される。また、正解ピークNo.1の半値幅1Wの値が“Width”のパラメータ初期値として決定される。この場合、グラジエント比率等の分析条件を補助データとして用いて“Width”のパラメータ初期値が決定されてもよい。さらに、バックグラウンドクロマトグラムbkの開始点1aの傾き1Dの値が“Drift”のパラメータ初期値として決定される。この場合、バックグラウンドクロマトグラムbkがパラメータ初期値の決定のための補助データとして用いられる。あるいは、分析メソッドファイルに規定された分析条件を補助データとして用いて“Slope”、“Width”または “Drift”パラメータ初期値が決定されてもよい。同様にして、初期処理区間12M~23M,23M~34M,34M~45M,45M~56M,56M~60Mについてのパラメータ初期値が決定される。
【0048】
次に、各初期処理区間においてパラメータ初期値を用いて複数の波形データa~jに波形処理が行われる。それにより、各初期処理区間について、複数の波形データa~jに対応する複数の波形処理結果が得られる。複数の波形データa~jの各初期処理区間に対応する複数の波形処理結果は、対応する正解データと一致するとは限らない。
【0049】
そこで、複数の波形データa~jの各初期処理区間に対応する複数の波形処理結果と対応する正解データとが一致または近似するように各初期処理区間におけるパラメータ初期値が調整される。以下、各パラメータ初期値の調整により生成される波形処理パラメータの値をパラメータ調整値と呼ぶ。また、パラメータ初期値およびパラメータ調整値をパラメータ値と総称する。
【0050】
また、複数の波形データa~jの各初期処理区間に対応する複数の波形処理結果と対応する正解データとが一致または近似するように少なくとも1つの初期処理区間が調整されてもよい。具体的には、少なくとも1つの初期処理区間の長さまたは位置(開始点または終了点の位置)が調整されてもよい。以下、各初期処理区間の調整により生成される処理区間を調整処理区間と呼ぶ。
【0051】
図9に示すように、複数の波形データa~jの初期処理区間01M~12Mにおいてパラメータ初期値を用いて波形処理が行われる。続いて、複数の波形データa~jの波形処理により得られた複数の波形処理結果と正解ピークNo.1の正解データとが一致または近似しているか否かが近似度に基づいて判定される。以下、複数の波形処理結果と正解データとが一致または近似しているか否かを判定する動作を判定動作と呼ぶ。
【0052】
近似度は、例えば、各波形処理結果の値と正解データの値との差の絶対値で表される。波形処理結果がピークの面積である場合、近似度は、各波形処理結果の面積値と正解ピークの面積値との差の絶対値で表される。
【0053】
一の波形処理結果についての近似度の値が0の場合、当該波形処理結果と正解ピークNo.1の正解データとが一致していると判定される。また、一の波形処理結果についての近似度の値が予め定められたしきい値以下である場合、当該波形処理結果と正解ピークNo.1の正解データとが近似していると判定される。一方、一の波形処理結果についての近似度の値がしきい値よりも大きい場合、当該波形処理結果と正解ピークNo.1の正解データとが近似していないと判定される。
【0054】
複数の波形データa~jについての波形処理結果のうちいずれかの波形処理結果が正解ピークNo.1の正解データと近似していない場合、初期処理区間01M~12Mにおけるパラメータ初期値が調整される。それにより、初期処理区間01M~12Mにおけるパラメータ調整値が生成される。
【0055】
波形データa~jの初期処理区間01M~12Mにおいてパラメータ調整値を用いて波形処理が行われる。続いて、波形データa~jの波形処理により得られた複数の波形処理結果と正解ピークNo.1の正解データとが一致または近似しているか否かが近似度に基づいて判定される。近似度は、例えば、波形データa~jのピークと正解ピークNo.1との時間的な重なりの程度、または完全分離および垂直分割の一致率を基準として算出される。
【0056】
複数の波形データa~jについての複数の波形処理結果のうちいずれかが正解ピークNo.1の正解データと一致または近似しない場合には、パラメータ調整値がさらに調整される。複数の波形データa~jについての複数の波形処理結果が正解ピークNo.1の正解データと一致または近似するまで、パラメータ値の調整が繰り返される。パラメータ値の調整の回数の上限値は、予め設定されてもよい。あるいは、使用者が操作部40を用いてパラメータ値の調整の回数の上限値を設定可能であってもよい。
【0057】
また、複数の波形データa~jについての複数の波形処理結果が正解ピークNo.1の正解データと一致または近似するように初期処理区間01M~12Mが調整されてもよい。それにより、図9に示すように、調整処理区間01M’~12M’が生成される。以下、パラメータ値を調整する動作および処理区間を調整する動作を調整動作と呼ぶ。
【0058】
図9の例では、調整前には、初期処理区間01M~12Mにおけるパラメータ初期値として、“Slope”の値1S、“Width”の値1Wおよび“Drift”の値1Dが決定されている。調整後には、調整処理区間01M’~12M’におけるパラメータ調整値として、“Slope”の値1S’、“Width”の値1W’および“Drift”の値1D’が決定されている。以下、調整動作、波形処理および判定動作を含む一連の動作を探索動作と呼ぶ。
【0059】
上記の探索動作が、他の初期処理区間12M~23M,23M~34M,34M~45M,45M~56M,56M~60Mについて順次行われる。探索動作により決定された複数の処理区間に対応するパラメータ値は図1の記憶部30に順次記憶される。それにより、処理区間ごとに決定されたパラメータ値を用いた波形処理の実行命令を含むタイムプログラムが作成される。
【0060】
図10の例では、タイムプログラムは、複数の処理区間として調整処理区間01M’~12M’,12M’~23M、および初期処理区間23M~34M,34M~45M,45M~56M,56M~60Mを含み、各処理区間のパラメータ値として調整後の“Slope”の値、調整後の“Width”の値および調整後の“Drift”の値を含む。各処理区間のパラメータ値は、当該パラメータ値を用いた波形処理の実行命令に相当する。
【0061】
(4)波形処理支援装置10の機能的な構成
図11は、波形処理支援装置10の機能的な構成を示すブロック図である。波形処理支援装置10は、機能部として、取得部11、選択部12、抽出部13、決定部14、波形処理部15、調整部16、プログラム作成部17、実行部18および手動修正部19を含む。本実施の形態では、波形処理支援装置10の各構成要素(11~19)は、図1のCPU110がROM130または記憶部30に記憶される波形処理支援プログラムを実行することにより実現される。波形処理支援装置10の各構成要素(11~19)の一部または全てが電子回路等のハードウエアにより実現されてもよい。
【0062】
記憶部30には、図1の分析装置2により得られた複数の波形データが記憶される。複数の波形データは、同じ試料の分析により得られた複数の波形データを含む。また、記憶部30には、バックグラウンドクロマトグラムが記憶される。
【0063】
取得部11は、記憶部30に記憶される同じ試料の分析により得られた複数の波形データを取得する。取得部11により取得された複数の波形データは、表示部50に表示される。取得部11により取得される複数の波形データの少なくとも1つが手動で修正された波形処理結果を有する波形データであってもよい。選択部12は、使用者による操作部40の操作に基づいて、取得部11により取得された波形データのうち1つの波形データを基準データとして選択する。なお、選択部12は、予め定められた条件に従って基準データを選択してもよい。
【0064】
抽出部13は、基準データから複数の正解ピークに対応する複数の正解データを抽出する。決定部14は、正解ピークをそれぞれ含む複数の初期処理区間および複数のパラメータ初期値を決定する。この場合、決定部14は、分析装置2の分析条件を補助データとして用いて複数の初期処理区間および複数のパラメータ初期値を決定してもよい。ここで、分析条件は、例えば、分析メソッドファイル、グラジエント比率またはバックグラウンドクロマトを含む。波形処理部15は、取得部11により取得された複数の波形データの各処理区間においてパラメータ値を用いて波形処理を行う。
【0065】
調整部16は、波形処理部15により得られた波形処理結果と対応する正解データとが一致または近似するようパラメータ値および処理区間を調整する。使用者は、操作部40の操作により調整部16の調整動作の回数の上限値を設定することができる。調整部16の調整動作により得られたパラメータ値、処理区間および近似度は記憶部30に記憶される。
【0066】
プログラム作成部17は、記憶部30に記憶された複数の処理区間および複数のパラメータ値を含むタイムプログラムを作成する。また、プログラム作成部17は、作成されたタイムプログラムを表示部50に表示させるとともに記憶部30に記憶させる。
【0067】
実行部18は、記憶部30に記憶されたタイムプログラムに従って、図1の分析装置2により生成された任意の波形データについて波形処理を実行する。それにより、任意の波形データについて波形処理を容易に行うことができる。
【0068】
手動修正部19は、実行部18による波形処理により得られた波形処理結果を使用者による操作部40の操作に基づいて修正する。また、手動修正部19は、修正された波形処理結果を新たな基準データとして抽出部13に与えることができる。この場合、修正された波形処理結果が抽出部13により正解データとして抽出される。この場合、調整部16は、新たな正解データを用いてパラメータ調整値をさらに調整することができる。それにより、プログラム作成部17は使用者が望む波形処理結果を得ることが可能なタイムプログラムを作成することができる。
【0069】
(5)波形処理支援装置10の動作
図12図14は、図11の波形処理支援装置10の動作を示すフローチャートである。まず、図12を参照しながら波形処理支援装置10によるタイムプログラム自動作成動作について説明する。
【0070】
まず、取得部11は、同一の試料の分析により得られた複数の波形データを記憶部30から取得する(ステップS1)。選択部12は、使用者による操作部40の操作に基づいて、取得された複数の波形データのうち1つの波形データを基準データとして選択する(ステップS2)。なお、選択部12は、予め定められた条件に従って基準データを選択してもよい。抽出部13は、基準データから複数の正解ピークに対応する複数の正解データ(波形処理結果)を抽出する(ステップS3)。
【0071】
次に、決定部14は、正解ピークをそれぞれ含む複数の初期処理区間および複数のパラメータ初期値を決定する(ステップS4)。また、決定部14は、複数の初期処理区間の数Nを決定する(ステップS5)。
【0072】
調整部16は、変数nの値を1に設定する(ステップS6)。波形処理部15および調整部16は、後述する探索動作を行う(ステップS7)。調整部16は、探索動作により決定されたn番目の処理区間およびn番目のパラメータ値を記憶部30に記憶させる(ステップS8)。その後、調整部16は、変数nに1を加算する(ステップS9)。
【0073】
調整部16は、変数nの値がNよりも大きいか否かを判定する(ステップS10)。変数nの値がN以下である場合には、調整部16はステップS7に戻る。それにより、次の処理区間についてステップS7~S10の処理が行われる。変数nの値がNよりも大きくなるまで、ステップS7~S10の処理が繰り返される。その結果、1番目~N番目の処理区間およびパラメータ値が記憶部30に記憶される。
【0074】
変数nの値がN以下である場合には、プログラム作成部17は、記憶部30に記憶された1番目~N番目の処理区間およびパラメータ値を含むタイムプログラムを作成する(ステップS11)。
【0075】
次に、図13および図14を参照しながら図12の探索動作について説明する。まず、調整部16は、変数kの値を1に設定する(ステップS21)。波形処理部15は、複数の波形データのn番目の処理区間においてn番目のパラメータ値を用いた波形処理を行う(ステップS22)。それにより、複数の波形データのn番目の処理区間における複数の波形処理結果が得られる。
【0076】
調整部16は、複数の波形データのn番目の処理区間における複数の波形処理結果が正解データと一致または近似するか否かを判定する(ステップS23)。複数の波形処理結果のいずれかが正解データと一致も近似もしない場合には、調整部16は、n番目のパラメータ値を調整する(ステップS24)。調整後のパラメータ値(パラメータ調整値)および複数の波形データの近似度は記憶部30に記憶される。
【0077】
その後、調整部16は、変数kの値に1を加算する(ステップS25)。調整部16は、変数kの値が予め設定された調整回数の上限値Kよりも大きいか否かを判定する(ステップS26)。ここで、調整回数の上限値Kは、使用者による操作部40に基づいて設定されてもよく、上限値Kとして予め定められた値が用いられてもよい。
【0078】
変数kの値が予め設定された調整回数の上限値K以下である場合には、調整部16は、ステップS22に戻る。それにより、ステップS22~S26の処理が行われる。
【0079】
ステップS23において、複数の波形データのn番目の処理区間における複数の波形処理結果が正解データと一致または近似するか、または変数kの値がKより大きくなるまで、ステップS22~S26の処理が繰り返される。
【0080】
ステップS23において、複数の波形データのn番目の処理区間における複数の波形処理結果が正解データと一致または近似した場合には、調整部16は、n番目の初期処理区間およびその時点のパラメータ値(パラメータ初期値またはパラメータ調整値をn番目の処理区間およびパラメータ値として決定する(図14のステップS38)。
【0081】
ステップS26において変数kの値がKよりも大きくなった場合には、調整部16は、変数hの値を1に設定する(図14のステップS31)。調整部16は、n番目の処理区間を調整する(ステップS32)。この場合、n番目の処理区間の位置および長さの少なくとも一方が調整される。例えば、n番目の処理区間の終了点の位置が調整される。
【0082】
波形処理部15は、複数の波形データのn番目の調整された処理区間(調整処理区間)においてn番目のパラメータ値を用いた波形処理を行う(ステップS33)。この場合、パラメータ値としては、記憶部30に記憶されたK個のパラメータ値のうち、複数の波形データに対応する近似度が総合的に0により近くなる場合に用いられたパラメータ値が用いられる。それにより、複数の波形データのn番目の調整された処理区間における複数の波形処理結果が得られる。
【0083】
調整部16は、複数の波形データのn番目の調整された処理区間における複数の波形処理結果が正解データと一致または近似するか否かを判定する(ステップS34)。調整後の処理区間(調整処理区間)および複数の波形データの近似度は記憶部30に記憶される。
【0084】
その後、調整部16は、変数hの値に1を加算する(ステップS35)。調整部16は、変数hの値が予め設定された調整回数の上限値Hよりも大きいか否かを判定する(ステップS36)。ここで、調整回数の上限値Hは、使用者による操作部40に基づいて設定されてもよく、上限値Kとして予め定められた値が用いられてもよい。
【0085】
変数hの値が予め設定された調整回数の上限値H以下である場合には、調整部16は、ステップS32に戻る。それにより、ステップS32~S36の処理が行われる。
【0086】
ステップS34において、複数の波形データのn番目の処理区間における複数の波形処理結果が正解データと一致または近似するか、または変数hの値がHより大きくなるまで、ステップS32~S36の処理が繰り返される。
【0087】
ステップS34において、複数の波形データのn番目の調整後の処理区間における複数の波形処理結果が正解データと一致または近似した場合には、調整部16は、調整後の処理区間およびパラメータ値をn番目の処理区間およびパラメータ値として決定する(ステップS38)。その後、調整部16は、図12のステップS8に進む。
【0088】
ステップS35において変数kの値がKよりも大きくなった場合には、調整部16は、予め定められた方法でn番目の処理区間およびパラメータ値を決定する(ステップS37)。例えば、調整部16は、記憶部30に記憶されたH個の処理区間のうち、複数の波形データに対応する近似度が総合的に0により近くなる場合に用いられた処理区間およびパラメータ値がn番目の処理区間およびパラメータ値として決定される。その後、調整部16は、図12のステップS8に進む。
【0089】
ステップS11により作成されたタイムプログラムは、記憶部30に記憶されてもよい。また、実行部18は、図1の分析装置2により生成された任意の他の波形データに記憶部に記憶されたタイムプログラムを用いて波形処理を行ってもよい。それにより、適切な波形処理結果が得られる。また、手動修正部19は、使用者の操作により実行部18の波形処理により得られた波形処理結果を修正してもよい。また、手動修正部19により修正された波形処理結果は、正解データとして抽出部13に与えられてもよい。
【0090】
(6)実施の形態の効果
本実施の形態に係る波形処理支援装置によれば、複数の波形データおよび基準データを用いた探索動作により汎用的なタイムプログラムが自動的に作成される。このようにして作成されたタイムプログラムによれば、波形データの各処理区間においてピークの時間および強度に対して高い頑健性を有する適切なパラメータ調整値を用いた波形処理が実行される。したがって、使用者は、同一の試料の分析により得られた一または複数の波形データについての波形処理を適切かつ容易に行うことが可能になる。
【0091】
また、調整部16により各処理区間においてパラメータ調整値が得られるとともに少なくとも1つの処理区間が調整されるので、波形処理をより適切に行うことが可能なタイムプログラムが作成される。
【0092】
さらに、取得部11により取得された複数の波形データが手動で修正された波形処理結果を有する波形データを含む場合、より適切な波形処理結果を得ることが可能なタイムプログラムが作成される。
【0093】
また、パラメータ値の調整が繰り返し行われるので、各処理区間においてより適切なパラメータ調整値が得られる。また、パラメータ値の調整の回数の上限値Kまたは処理区間の調整の回数の上限値Hを設定することが可能であるので、波形処理に要する時間を制限することができる。それにより、適切な波形処理結果を得ることが可能なタイムプログラムを適切な時間で作成することができる。
【0094】
また、パラメータ初期値の決定の際にバックグラウンドクロマト等の分析条件を補助データとして用いることができるので、より適切な波形処理結果を得ることが可能なタイムプログラムを作成することができる。
【0095】
(7)他の実施の形態
上記実施の形態では、波形データとしてクロマトグラムに波形処理を行うタイムプログラムの自動作成動作について説明されているが、波形処理支援装置10は、波形データとしてマススペクトルに波形処理を行う波形処理実行プログラムの自動作成動作を行うこともできる。
【0096】
上記実施の形態では、1つの基準データを用いて探索動作が行われるが、複数の基準データを用いて探索動作が行われてもよい。
【0097】
上記実施の形態では、1種類または複数種類の波形処理パラメータについて複数の処理区間が共通に決定されるが、複数種類の波形処理パラメータについて複数の処理区間がそれぞれ別個に決定されてもよい。この場合、各種類の波形処理パラメータについて互いに独立に探索動作が行われる。
【0098】
上記実施の形態において、取得部11により取得された複数の波形データおよびプログラム作成部17により作成されたタイムプログラムが表示部50に表示されるが、複数の波形データおよびタイムプログラム等の各種情報が分析装置2の表示部2Aに表示されてもよい。
【0099】
(8)態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0100】
(第1項)一態様に係る波形処理支援装置は、分析装置の分析結果を示す波形データのピークを波形処理パラメータの値に基づいて分離する波形処理を支援する波形処理支援装置であって、
試料の分析により得られた複数の波形データを取得する取得部と、
取得された複数の波形データの少なくとも1つを基準データとして選択する選択部と、
基準データから分離された複数のピークを複数の正解ピークとして抽出するとともに、複数の正解ピークの各々についての波形処理結果を正解データとして抽出する抽出部と、
複数の正解ピークをそれぞれ含む複数の処理区間を決定するとともに、複数の正解データを得るための波形処理パラメータの値をパラメータ初期値として決定する決定部と、
取得された複数の波形データについて決定された複数の処理区間の各々においてパラメータ初期値に基づいて波形処理を行う波形処理部と、
複数の処理区間の各々において得られた波形処理結果が複数の正解データのうち対応する正解データと一致または近似するように、各処理区間に対応するパラメータ初期値を調整することによりパラメータ調整値を生成する調整部と、
複数の処理区間の各々において対応するパラメータ調整値を用いた波形処理の実行命令を含む波形処理実行プログラムを作成するプログラム作成部とを備えてもよい。
【0101】
一態様に係る波形処理支援装置によれば、試料の分析により得られた複数の波形データが取得され、取得された複数の波形データの少なくとも1つが基準データとして選択される。基準データから分離された複数のピークが複数の正解ピークとして抽出される。また、複数の正解ピークの各々についての波形処理結果が正解データとして抽出される。複数の正解ピークをそれぞれ含む複数の処理区間が決定されるとともに、複数の正解データを得るための波形処理パラメータの値がパラメータ初期値として決定される。複数の波形データについて、複数の処理区間の各々においてパラメータ初期値に基づいて波形処理が行われる。各処理区間において得られた波形処理結果が対応する正解データと一致または近似するように各処理区間についてパラメータ初期値が調整される。それにより、パラメータ調整値が生成される。各処理区間において対応するパラメータ調整値を用いた波形処理の実行命令を含む汎用的な波形処理実行プログラムが自動的に作成される。
【0102】
このようにして作成された波形処理実行プログラムによれば、波形データの各処理区間において適切なパラメータ調整値を用いた波形処理が実行される。したがって、使用者は、一または複数の波形データについての波形処理を適切かつ容易に行うことが可能になる。
【0103】
(第2項)第1項に記載の波形処理支援装置において、調整部は、複数の処理区間の各々において得られた波形処理結果が複数の正解データのうち対応する正解データと一致または近似するように、少なくとも1つの処理区間を調整し、
プログラム作成部は、調整された処理区間においてパラメータ調整値を用いた波形処理の実行命令を含むように波形処理実行プログラムを作成してもよい。
【0104】
第2項に記載の波形処理支援装置によれば、各処理区間においてパラメータ調整値が得られるとともに少なくとも1つの処理区間が調整されるので、波形処理をより適切に行うことが可能な波形処理実行プログラムが作成される。
【0105】
(第3項)第1項または第2項に記載の波形処理支援装置において、取得部は、複数の波形データの少なくとも1つとして、手動で修正された波形処理結果を有する波形データを取得可能に構成されてもよい。
【0106】
第3項に記載の波形処理支援装置によれば、複数の波形データは手動で修正された波形処理結果を有する波形データを含むので、より適切な波形処理結果を得ることが可能な波形処理実行プログラムが作成される。
【0107】
(第4項)第1項~第3項のいずれか一項に記載の波形処理支援装置において、調整部は、パラメータ初期値およびパラメータ調整値の調整の回数の上限値を設定可能に構成されてもよい。
【0108】
第4項に記載の波形処理支援装置によれば、パラメータ初期値およびパラメータ調整値の調整が繰り返し行われるので、各処理区間においてより適切なパラメータ調整値が得られる。また、パラメータ初期値およびパラメータ調整値の調整の回数の上限値を設定することが可能であるので、波形処理に要する時間を制限することができる。それにより、適切な波形処理結果を得ることが可能な波形処理実行プログラムを適切な時間で作成することができる。
【0109】
(第5項)第1項~第4項のいずれか一項に記載の波形処理支援装置は、波形処理実行プログラムに従って複数の波形データとは異なる他の波形データについて波形処理を実行する実行部をさらに備えてもよい。
【0110】
第5項に記載の波形処理支援装置によれば、作成された波形処理実行プログラムにより任意の波形データについて波形処理を容易に行うことができる。
【0111】
(第6項)第5項に記載の波形処理支援装置は、実行部の波形処理により得られた波形処理結果を手動で調整可能に構成された手動修正部をさらに備え、
調整部は、手動修正部により修正された波形処理結果を新たな正解データとして用いてパラメータ調整値をさらに調整してもよい。
【0112】
第6項に記載の波形処理支援装置によれば、使用者により修正された波形処理結果を正解データとして用いてパラメータ調整値がさらに調整されるので、使用者が望む波形処理結果を得ることが可能な波形処理実行プログラムが作成される。
【0113】
(第7項)第1項~第6項のいずれか一項に記載の波形処理支援装置において、決定部は、分析装置の分析条件に関連する補助データを用いてパラメータ初期値を決定してもよい。
【0114】
第7項に記載の波形処理支援装置によれば、分析条件を考慮してパラメータ初期値が決定されるので、より適切な波形処理結果を得ることが可能な波形処理実行プログラムを作成することができる。
【0115】
(第8項)第1項~第7項のいずれか一項に記載の波形処理支援装置において、取得部は、同じ試料の分析により得られた複数の波形データを取得してもよい。
【0116】
第8項に記載の波形処理支援装置によれば、取得部は、同じ試料の分析により得られた複数の波形データを取得するので、より適切な波形処理結果を得ることが可能な波形処理実行プログラムが作成される。
【0117】
(第9項)他の態様に係る波形処理支援方法は、分析装置の分析結果を示す波形データのピークを波形処理パラメータの値に基づいて分離する波形処理を支援する波形処理支援方法であって、
試料の分析により得られた複数の波形データを取得するステップと、
取得された複数の波形データの少なくとも1つを基準データとして選択するステップと、
基準データから分離された複数のピークを複数の正解ピークとして抽出するとともに、複数の正解ピークの各々についての波形処理結果を正解データとして抽出するステップと、
複数の正解ピークをそれぞれ含む複数の処理区間を決定するとともに、複数の正解データを得るための波形処理パラメータの値をパラメータ初期値として決定するステップと、
取得された複数の波形データについて決定された複数の処理区間の各々においてパラメータ初期値に基づいて波形処理を行うステップと、
複数の処理区間の各々において得られた波形処理結果が複数の正解データのうち対応する正解データと一致または近似するように、各処理区間に対応するパラメータ初期値を調整することによりパラメータ調整値を生成するステップと、
複数の処理区間の各々において対応するパラメータ調整値を用いた波形処理の実行命令を含む波形処理実行プログラムを作成するステップとを含んでもよい。
【0118】
他の態様に係る波形処理支援方法によれば、試料の分析により得られた複数の波形データが取得され、取得された複数の波形データの少なくとも1つが基準データとして選択される。基準データから分離された複数のピークが複数の正解ピークとして抽出される。また、複数の正解ピークの各々についての波形処理結果が正解データとして抽出される。複数の正解ピークをそれぞれ含む複数の処理区間が決定されるとともに、複数の正解データを得るための波形処理パラメータの値がパラメータ初期値として決定される。複数の波形データについて、複数の処理区間の各々においてパラメータ初期値に基づいて波形処理が行われる。各処理区間において得られた波形処理結果が対応する正解データと一致または近似するように各処理区間についてパラメータ初期値が調整される。それにより、パラメータ調整値が生成される。各処理区間において対応するパラメータ調整値を用いた波形処理の実行命令を含む汎用的な波形処理実行プログラムが自動的に作成される。
【0119】
このようにして作成された波形処理実行プログラムによれば、波形データの各処理区間において適切なパラメータ調整値を用いた波形処理が実行される。したがって、使用者は、一または複数の波形データについての波形処理を適切かつ容易に行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0120】
1…制御装置,2…分析装置,2A…表示部,10…波形処理支援装置,12…選択部,13…抽出部,14…決定部,15…波形処理部,16…調整部,17…プログラム作成部,18…実行部,19…手動修正部,30…記憶部,40…操作部,50…表示部,60…入出力I/F,70…バス,100…分析システム,110…CPU,120…RAM,130…ROM
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