(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】着用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
A41D 13/05 20060101AFI20240416BHJP
A41D 13/018 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
A41D13/05 125
A41D13/018
(21)【出願番号】P 2020216861
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 利仁
(72)【発明者】
【氏名】三浦 渉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 瞳
(72)【発明者】
【氏名】河村 祐亮
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110037367(CN,A)
【文献】国際公開第2019/207474(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-2050872(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/00-13/12
B60R21/23
B60R21/26
A62B99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の腰部を保護可能に構成される着用エアバッグ装置であって、
骨盤周囲において前記装着者に装着される構成とされて、内部に膨張用ガスを流入させて、前記装着者の大腿骨転子部付近の領域からなる保護対象部位の外側を覆うように、膨張可能とされるエアバッグを備え、
前記エアバッグが、膨張完了時に、前記保護対象部位の外側を覆う保護本体部を有するとともに、該保護本体部の内側面側に、先端を前記保護本体部の上側近傍部位よりも内方に位置させるように、前記大腿骨転子部側に向かって突出する突出膨張部を、配設させる構成とされ
、
前記突出膨張部が、前記保護本体部と別体の袋状とされて、連通孔部により、前記保護本体部と連通されて、配設されていることを特徴とする着用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記連通孔部が、前記保護本体部内に流入した膨張用ガスを、前記突出膨張部における前記大腿骨転子部側となる突出端側に向かって流出させるように、構成されていることを特徴とする
請求項1に記載の着用エアバッグ装置。
【請求項3】
装着者の腰部を保護可能に構成される着用エアバッグ装置であって、
骨盤周囲において前記装着者に装着される構成とされて、内部に膨張用ガスを流入させて、前記装着者の大腿骨転子部付近の領域からなる保護対象部位の外側を覆うように、膨張可能とされるエアバッグを備え、
前記エアバッグが、膨張完了時に、前記保護対象部位の外側を覆う保護本体部を有するとともに、該保護本体部の内側面側に、先端を前記保護本体部の上側近傍部位よりも内方に位置させるように、前記大腿骨転子部側に向かって突出する突出膨張部を、配設させる構成とされ
、
前記突出膨張部が、前記保護本体部の下縁側を前記装着者側に折り返して構成される折返部の先端側の領域から、構成されていることを特徴とする着用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着者の腰部を保護可能に構成される着用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転倒時等において、装着者(例えば高齢者)の腰部を保護可能に構成される着用エアバッグ装置としては、骨盤周囲に巻き付けるように装着して、作動時に、下方に向かって突出するように膨張したエアバッグにより腰部を覆って、保護する構成のものがあった(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の着用エアバッグ装置では、エアバッグを、腰部(大腿骨転子部周囲の部位)と比較してくびれている(小径とされている)骨盤周囲に巻き付けた状態から、骨盤付近よりも張り出している(大径とされている)腰部周囲となる下方を覆うように膨張させる構成であることから、膨張するエアバッグが、下端側を腰部から離隔させるように浮き上がってしまって、転倒時等に、腰部を迅速かつ的確に覆うことができない虞れが生じていた。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、装着者の腰部を安定して保護可能な着用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る着用エアバッグ装置は、装着者の腰部を保護可能に構成される着用エアバッグ装置であって、
骨盤周囲において装着者に装着される構成とされて、内部に膨張用ガスを流入させて、装着者の大腿骨転子部付近の領域からなる保護対象部位の外側を覆うように、膨張可能とされるエアバッグを備え、
エアバッグが、膨張完了時に、保護対象部位の外側を覆う保護本体部を有するとともに、保護本体部の内側面側に、先端を保護本体部の上端近傍部位よりも内方に位置させるように、大腿骨転子部側に向かって突出する突出膨張部を、配設させる構成とされていることを特徴とする。
【0007】
本発明の着用エアバッグ装置では、エアバッグの膨張完了時に、保護対象部位としての大腿骨転子部の外側に、保護本体部の内側面側から大腿骨転子部に向かって突出する突出膨張部が、近接して配設されることから、装着者の転倒時に、大腿骨転子部近傍の部位を、突出膨張部によって的確に覆い、迅速に保護することができる。
【0008】
したがって、本発明の着用エアバッグ装置では、装着者の腰部を安定して保護することができる。
【0009】
また、本発明の着用エアバッグ装置において、保護本体部に、突出膨張部よりも下方に延びる延設部を、配設させる構成すれば、この延設部によって、大腿骨の転子下の領域まで保護することが可能となって、好ましい。
【0010】
さらに、上記構成の着用エアバッグ装置において、突出膨張部を、保護本体部と別体の袋状とされて、連通孔部により、保護本体部と連通させて配置させるように構成してもよく、さらに、このような構成とする場合、連通孔部を、保護本体部内に流入した膨張用ガスを突出膨張部における大腿骨転子部側となる突出端側に向かって流出させるように、構成すれば、突出膨張部を、大腿骨転子部の外側を覆うように、迅速に膨張させることが可能となって、好ましい。
【0011】
さらにまた、突出膨張部は、保護本体部の下縁側を装着者側に折り返して構成される折返部の先端側の領域から、構成してもよく、このような構成とする場合、突出膨張部を保護本体部と別体の袋状とする場合と比較して、簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態である着用エアバッグ装置を、装着者に装着させた状態の概略図である。
【
図2】実施形態の着用エアバッグ装置を平らに展開した状態の平面図である。
【
図3】実施形態の着用エアバッグ装置において使用するエアバッグの展開した状態での底面図である。
【
図4】
図3のエアバッグを単体で膨張させた状態を示す概略斜視図である。
【
図5】
図3のエアバッグを単体で膨張させた状態を示す概略縦断面図である。
【
図6】
図3のエアバッグを構成する基材を並べた平面図である。
【
図7】実施形態の着用エアバッグ装置において、装着者に装着させた状態で、エアバッグが膨張を完了させた状態の概略図である。
【
図8】実施形態の着用エアバッグ装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態の前後方向に沿った概略部分横断面図(左側の概略横断面図)である。
【
図9】実施形態の着用エアバッグ装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態を示す装着状態での概略縦断面図である。
【
図10】本発明の他の実施形態であるエアバッグを示す部分拡大底面図である。
【
図12】
図10のエアバッグを膨張させた状態を示す装着状態での概略縦断面図である。
【
図13】本発明のさらに他の実施形態であるエアバッグを示す部分拡大底面図である。
【
図14】
図13のエアバッグを構成するバッグ構成体を示す部分拡大底面図である。
【
図15】
図13のエアバッグを膨張させた状態を示す装着状態での概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態では、
図1に示すように、装着者Mの腰部MWの周囲(詳細には、骨盤MPの上側の領域の周囲)に巻き付けるように装着するタイプの着用エアバッグ装置Sを例に採り、説明する。実施形態では、上下,前後,左右の方向は、特に断らない限り、装着者Mに装着させた状態での装着者Mの上下,前後,左右の方向と一致するものである。
【0014】
着用エアバッグ装置Sは、
図1,2に示すように、エアバッグ10と、エアバッグ10に膨張用ガスを供給するガス発生器5と、装着者Mの転倒を検知するセンサ部2を備えてガス発生器5を作動させる作動制御装置1と、エアバッグ10の外周側を覆うアウタカバー部22と、を備える構成とされている。実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エアバッグ10は、詳細な図示は省略するが、後述する突出膨張部18を圧縮させつつ、平らに展開させた状態で、アウタカバー部22内に配置されている。
【0015】
作動制御装置1は、上下前後左右の3軸回りの角速度を検知可能な角速度センサと、3軸方向の加速度を検知可能な加速度センサと、を有するセンサ部2を、備えるとともに、センサ部2からの信号によって、装着者Mの通常動作と異なる転倒動作を検知すると、ガス発生器5を作動させるように、構成されている。具体的には、装着者Mが通常動作と異なった転倒動作を開始していると、作動制御装置1は、種々の閾値から判定可能な判定手段を備えていることから、その判定手段の判定に基づいて装着者Mの転倒を検出し、ガス発生器5を作動させることとなる。この作動制御装置1には、センサ部2の作動用やガス発生器5の作動用信号の出力のために、図示しない電池等からなる電源が、内蔵されている。
【0016】
エアバッグ10は、可撓性を有したシート体から形成されるもので、実施形態の場合、ポリエステル糸やポリアミド糸等からなる織布から形成されている。このエアバッグ10は、
図1,7,9に示すように、アウタカバー部22における後述する巻付部位24を利用して、骨盤MPの周囲に巻き付けられるようにして、装着者Mに装着される構成である。エアバッグ10は、
図3,4に示すように、装着者Mの腰部MWの左右の側方(すなわち、左右の保護対象部位の側方)を覆う2つの保護本体部14(14L,14R)と、保護本体部14の上端15a側において保護本体部14(14L,14R)相互を連通させるガス供給路部12と、各保護本体部14の内側面側に配設される突出膨張部18と、を備えている。実施形態の場合、エアバッグ10は、左右対称形とされている。
【0017】
ガス供給路部12は、膨張完了形状を、左右方向に略沿った筒状として構成されるもので、装着時に内側(装着者M側)に配置される内壁部12aと、外側に配置される外壁部12bと、を有し、この内壁部12aと外壁部12bとの上縁相互、下縁相互を、それぞれ、結合させることにより、筒状とされている。このガス供給路部12は、アウタカバー部22における巻付部位24内に配置される部位であり(
図2参照)、詳細な図示は省略するが、エアバッグ10の膨張完了時に、装着者Mの骨盤MPの上側の領域の後方となる位置に、配置されることとなる。実施形態では、このガス供給路部12の部位に、ガス発生器5が、エアバッグ10の内部に膨張用ガスを供給可能に連結されている(
図2参照)。ガス発生器5は、詳細な図示を省略するが、ガス供給路部12の軸方向の中央付近に配置されるもので、内部に圧縮ガスを封入させて構成されて、作動時に、封入状態を解除されて、エアバッグ10内にコールドガス(膨張用ガス)を噴出可能な構成とされている。このガス発生器5は、上述した作動制御装置1と電気的に接続されており、装着者Mの転倒を検知した作動制御装置1からの作動信号を入力させて、作動される構成である。
【0018】
各保護本体部14(14L,14R)は、上縁(後述する上側部位15の上端15a)を、ガス供給路部12の上縁12cよりもわずかに下方に位置させるように、ガス供給路部12に対して段差を設けられるようにして、配置されている(
図3,4参照)。各保護本体部14(14L,14R)は、装着時に、保護対象部位としての大腿骨転子部TPの外側を上下,前後に広く覆い可能に、膨張完了時の外形形状を、上下方向側を僅かに幅広とした略長方形板状とされるもので、装着時に内側(装着者M側)に配置される内壁部14aと、外側に配置される外壁部14bと、を備えている(
図3,5参照)。詳細には、各保護本体部14(14L,14R)は、装着時に、骨盤MPの下側半分程度から大腿骨TBにおける転子下UPにかけての領域の外側(側方)を覆うように、構成されている(
図9参照)。
【0019】
突出膨張部18は、各保護本体部14(14L,14R)において、装着時の内側面側(内壁部14a側)に形成されるもので、実施形態の場合、保護本体部14における上下の略中央となる位置において、前後方向(保護本体部14における短手方向)に略沿うように、前後方向側で連続的に、形成されている。この突出膨張部18は、装着状態におけるエアバッグ10の膨張完了時に、大腿骨転子部TPに対応した位置に、配置されるもので(
図9参照)、実施形態の場合、
図3に示すように、保護本体部14の短手方向側の略全域(すなわち、装着時における装着者Mの腰回りに沿った周方向の略全域)にわたって、形成されている。さらに詳細には、実施形態の場合、突出膨張部18は、略板状の保護本体部14に対して略直交するように突出して形成されるもので、エアバッグ10を単体で膨張させた状態において、厚さ寸法を、保護本体部14の厚さ寸法よりも若干大きくして、かつ、保護本体部14からの突出量を、保護本体部14における突出膨張部18の上側となる上側部位15及び下側となる下側部位16の上下方向側の幅寸法と略同等とするように、構成されている(
図5参照)。すなわち、突出膨張部18は、先端18aを、保護本体部14において上側近傍に配置される上側部位15よりも内方に位置させるように構成されており、さらに換言すれば、先端18aを、保護本体部14の上側近傍部位よりも内方に位置させるように構成されている(
図9参照)。
【0020】
各保護本体部14(14L,14R)は、装着時における膨張完了状態においては、保護対象部位としての大腿骨転子部TPの外側を、前後,上下で広く覆うこととなり(
図8,9参照)、詳細には、上端15aを骨盤MPの側方となる位置において、腰部MWに近接させつつ、下端16a側にかけて拡開するように配置されることとなる。このとき、突出膨張部18は、大腿骨転子部TPの外側となる位置において、先端18a側の面をアウタカバー部22を介して装着者Mに接触させつつ、配置されることとなる(
図9参照)。また、保護本体部14において、突出膨張部18よりも下方に延びる下側部位16(延設部)は、膨張完了時に、大腿骨TBの転子下UPの部位の側方を覆うように配置される構成である(
図9参照)。
【0021】
実施形態では、エアバッグ10は、
図6に示すような複数の基材の周縁相互を結合させることにより、袋状とされている。詳細には、エアバッグ10は、各保護本体部14L,14Rとガス供給路部12との外壁部12b,14bを構成する外側パネル30と、各保護本体部14(14L,14R)における内壁部14aと突出膨張部18の周壁とを構成する2枚の内側パネル31L,31Rと、各保護本体部14(14L,14R)と突出膨張部18とにおける装着時の前端側を構成する2枚の端側パネル32L,32Rと、各保護本体部14(14L,14R)と突出膨張部18とにおける装着時の後端側を構成する2枚の端側パネル33L,33Rと、ガス供給路部12における内壁部12aを構成する内側パネル34と、から構成されている(
図3,4,6参照)。
【0022】
アウタカバー部22は、エアバッグ10を構成する基布よりも触感の良好な可撓性を有した織布から形成されるもので、エアバッグ10の外周面を全周にわたって覆う構成とされている。アウタカバー部22は、装着時に内側(装着者側)に配置される内側壁部22aと、装着時に外側に配置される外側壁部22bと、を有し、内側壁部22aと外側壁部22bとの外周縁相互を結合(縫着)させることにより、袋状とされている。アウタカバー部22は、
図1,2に示すように、装着者Mの骨盤MPの上側の領域の周囲に巻き付けられる略帯状の巻付部位24と、巻付部位24から下方に延びるように形成されてそれぞれ各保護本体部14L,14Rの外周側を覆う2つのメインカバー部27L,27Rと、を備える構成とされている。巻付部位24は、上述したごとく、中央側の領域の内部に、ガス供給路部12と、ガス発生器5と、を配置させる構成とされている。巻付部位24は、平らに展開した状態において、メインカバー部27L,27Rよりも左右の外方に突出するように構成されており、端部24a,24b側に、装着手段を有する構成とされている。装着手段としては、実施形態では、装着者Mの腰回りの寸法に応じて容易に微調整可能で、かつ、着脱を容易とするように、それぞれ、端部側に配置される鉤状部位25aとループ部側部25bとを有して、巻付部位24の端部24a,24b相互を連結可能な一対の面状ファスナー25が、用いられている。各保護本体部14L,14Rの外周側を覆うメインカバー部27L,27Rは、内部で保護本体部14を円滑に膨張可能なように、平らに展開した状態の外形形状を、保護本体部14よりも大きくするように、構成されている。
【0023】
実施形態の着用エアバッグ装置Sは、アウタカバー部22における巻付部位24の端部24a,24b相互を、装着手段としての面状ファスナー25を利用して連結させることにより、装着者Mの腰部MW(詳細には、骨盤MPの上側となるくびれた領域)の周囲に巻き付けられるようにして、装着者Mに装着されることとなる(
図1参照)。そして、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、装着者Mに装着させた状態で、センサ部2が装着者Mの転倒を検知すれば、作動制御装置1からガス発生器5に作動信号が出力されて、エアバッグ10の内部に膨張用ガスが流入することとなり、エアバッグ10が、
図7~9に示すように膨張を完了させることとなる。
【0024】
そして、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エアバッグ10の膨張完了時に、保護対象部位としての大腿骨転子部TPの外側に、保護本体部14の内側面側(内壁部14a側)から大腿骨転子部TPに向かって突出する突出膨張部18が、近接して配設されることから、装着者Mの転倒時に、大腿骨転子部TP近傍の部位を、突出膨張部18によって的確に覆い、迅速に保護することができる。特に、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、突出膨張部18は、先端18a側の面をアウタカバー部22を介して装着者Mに接触させつつ、配置される構成であり、大腿骨転子部TPの外側(側方)は、この突出膨張部18と、保護本体部14と、からなる厚肉の膨張領域によって、隙間を配置させずに覆われることとなる(
図8,9参照)。そのため、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、装着者Mの転倒時に、大腿骨転子部TP近傍の部位を、隙間なく近接して配置される厚肉の膨張領域(突出膨張部18及び保護本体部14)によって、クッション性よく的確に、床や地面等の転倒先の部位から保護することができる。
【0025】
したがって、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、装着者Mの腰部MWを安定して保護することができる。
【0026】
また、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、保護本体部14が、突出膨張部18よりも下方に延びる延設部としての下側部位16を有していることから、この下側部位16によって、大腿骨TBの転子下UPの領域まで、床や地面等の転倒先の部位から保護することができる。なお、このような点を考慮しなければ、エアバッグとして、延設部を備えない構成のものを使用してもよい。
【0027】
また、エアバッグ40として、
図10~12に示すような構成のものを使用してもよい。エアバッグ40は、詳細な図示は省略するが、上述したエアバッグ10と同様に、膨張完了時に装着者Mの腰部MWの左右の側方を覆う2つの保護本体部43と、保護本体部43の上端側において保護本体部43相互を連通させるガス供給路部42と、各保護本体部43の内側面側に配設される突出膨張部44と、を備えている。このエアバッグ40では、突出膨張部44は、保護本体部43と別体の袋状として構成されている。このエアバッグ40も、詳細な図示は省略するが、左右対称形とされている。
【0028】
保護本体部43は、外形形状を略同一として、装着時に装着者M側に配置される内壁部43aと、外側に配置される外壁部43bと、を有し、内壁部43aと外壁部43bとの周縁相互を、縫着(結合)させることにより、膨張完了時の外形形状を、上下方向側を僅かに幅広とした略長方形板状とされている。内壁部43aにおいて、上下方向の略中央となる位置には、突出膨張部44を連通させるための連通孔部45が、形成されている。連通孔部45は、略円形に開口して保護本体部43の短手方向側(前後方向側)で複数個(実施形態の場合、3個)並設されている穴本体43cから、形成されている。
【0029】
突出膨張部44は、保護本体部43と別体の袋状として、保護本体部43の内側面側(内壁部43a側)に配置されるもので、保護本体部43の上下の略中央となる位置に配置されて、膨張完了形状を、前後方向(保護本体部43の短手方向)に略沿った棒状として、構成されている。突出膨張部44は、保護本体部43の短手方向側の略全域(すなわち、装着時における装着者Mの腰回りに沿った周方向の略全域)にわたって、形成されている。突出膨張部44は、装着時に装着者M側に配置される内壁部44aと、外側に配置される外壁部44bと、を有して、内壁部44aと外壁部44bとの周縁相互を、縫着(結合)させて形成されるもので、保護本体部32側となる外壁部44bには、連通孔部45を構成する穴本体44cが、保護本体部43の内壁部43aに形成される穴本体43cに対応して、形成されている。そして、突出膨張部44は、連通孔部45の周縁の部位で、内壁部43a,外壁部44b相互を縫合糸を用いて縫着されるように形成される結合部位46により、保護本体部43と連結されている。すなわち、連通孔部45は、保護本体部43の上下方向の略中央となる位置において、保護本体部43の内壁部43aと突出膨張部44の外壁部44bとを切り抜くように、形成されており、保護本体部43内に流入する膨張用ガスは、一旦保護本体部43を膨張させた後、連通孔部45を経て、突出膨張部44の内壁部44a側(装着者M側、すなわち、大腿骨転子部TP側)に向かうように流入することとなる(
図12参照)。
【0030】
エアバッグ40をこのような構成とすれば、前述のエアバッグ10のごとく、突出膨張部18を保護本体部14と一体的に構成する場合と比較して、エアバッグ40の製造が容易であり、特に、このエアバッグ40では、突出膨張部44と保護本体部43とを、ともに、外形形状を同一とした外壁部43b,44bと内壁部43a,44aとの周縁相互を縫着(結合)させることにより、袋状としており、平面的な縫合(結合)作業によって製造することができることから、簡便に製造することができる。また、上記構成のエアバッグ40では、連通孔部45が、保護本体部43内に流入した膨張用ガスGを、突出膨張部44における大腿骨転子部TP側となる内壁部44a側、すなわち、突出端44aa側に向かって流出させるように、構成されていることから(
図12参照)、突出膨張部44を、大腿骨転子部TPの外側を覆うように、迅速に膨張させることができる。また、突出膨張部44の膨張完了前から膨張完了時に至るまで、突出端44aa側を大腿骨転子部TPの近傍において、配置させることができることから、突出膨張部44において、転倒時に大腿骨転子部TPを受け止める受止エリア(すなわち、突出端44aa)を、位置ずれせずに、大腿骨転子部TP近傍に近接して配置させることができる。なお、
図12では、アウタカバー部は省略されている。
【0031】
さらに、エアバッグ50として、
図13,15に示すような構成のものを使用してもよい。エアバッグ50は、詳細な図示は省略するが、上述したエアバッグ10と同様に、膨張完了時に装着者Mの腰部MWの左右の側方を覆う2つの保護本体部53と、保護本体部53の上端側において保護本体部53相互を連通させるガス供給路部52と、を備えている。このエアバッグ50も、詳細な図示は省略するが、左右対称形とされている。
【0032】
このエアバッグ50では、各保護本体部53の内側面側に配設される突出膨張部57は、保護本体部53の下縁側を装着者M側に折り返して構成される折返部56の先端側の領域(先端側部位56a)から、構成されている。詳細には、保護本体部53と突出膨張部57とは、外形形状を略同一として、装着時に装着者M側に配置される内壁部60aと、外側に配置される外壁部60bと、を有し、内壁部60aと外壁部60bとの周縁相互を、縫着(結合)させることにより、構成されるバッグ構成体60から、形成されるもので、このバッグ構成体60の下縁側を、内壁部60a相互を重ねるように折り返して、折返部56を形成することにより、構成されている(
図14参照)。このバッグ構成体60は、左右方向側(短手方向側)の幅寸法を上下の全域にわたって一定として、折返部56の分だけ、上下に幅広に、構成されている。実施形態の場合、折返部56は、前縁側と後縁側とを、それぞれ、保護本体部43の前縁側若しくは後縁側に縫着(結合)させて形成される結合部位58により、保護本体部53の内側面側を覆うような折り返し状態を維持されている。折返部56は、先端側の端末56bを、保護本体部53の上下の中央よりやや上方に位置させ(
図13参照)、装着状態において、大腿骨転子部TPよりも上側に位置させるように構成されている(
図15参照)。実施形態では、この折返部56の先端側の領域(先端側部位56a)が、膨張完了時に、大腿骨転子部TPのが外側(側方)を覆う突出膨張部57を、構成していることから、突出膨張部57は、大腿骨転子部TPの外側を上下で広く覆うこととなる。また、このエアバッグ50では、保護本体部53において、突出膨張部57よりも下側に配設される部位(下側部位55)は、突出膨張部57よりも下側に延びる延設部を構成することとなり、すなわち、この下側部位55は、突出膨張部57の突出量と厚みを略同等として、保護本体部53において突出膨張部57よりも上側に配設される上側部位54よりも、膨張完了形状を厚肉として、構成される(
図15参照)。
【0033】
このような構成のエアバッグ50では、保護本体部53と突出膨張部57とを、バッグ構成体60の下縁側の部位を内側に折り返すことにより、構成していることから、上述のエアバッグ40のごとく突出膨張部44を保護本体部43と別体の袋状とする場合と比較して、エアバッグ50を、一層簡便に製造することができる。また、このエアバッグ50では、突出膨張部57が、保護本体部53の下縁側から上方に延びるように形成される折返部56の先端側の領域(先端側部位56a)から構成されており、換言すれば、保護本体部53において、突出膨張部57よりも下方に延びる延設部としての下側部位55も、上下に広く厚肉に構成されていることから、大腿骨TBの転子下UPの領域も、一層的確に保護することができる。なお、
図15においても、アウタカバー部は省略されている。
【0034】
なお、エアバッグ50では、折返部56の前後両縁側を、保護本体部43に縫着させることにより、折返し状態を維持させて、保護本体部43の内側面側を覆った状態を維持させている構成であるが、この折返部の折り返し状態を維持するための手段は、実施形態に限定されるものではなく、例えば、折返部の先端側を、
図15の二点鎖線に示すように、テザー65等によって、保護本体部の上端側と連結させるようにして、折り返し状態を維持してもよく、さらには、図示を省略されているアウタカバー部内に、折り返した状態で収納させて、アウタカバー部によって折り返し状態を維持させる構成としてもよい。
【0035】
また、実施形態のエアバッグ10,40,50では、突出膨張部18,44,57は、保護本体部14,43,53の短手方向(幅方向)の略全域(すなわち、装着時における装着者Mの腰回りに沿った周方向の略全域)、にわたって形成されているが、突出膨張部は、大腿骨転子部の外側を覆うように、保護本体部の幅方向の中央付近の領域のみに、配設させる構成としてもよい。
【0036】
実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エアバッグ10,40,50の2つの保護本体部14,43,53によって、装着者Mの大腿骨TBの付け根付近(大腿骨転子部TP)を安定して保護することができることから、装着者Mが、転倒によって、治療が長引く大腿骨TBを骨折することを抑制することができ、高齢者に好適に使用することができる。
【0037】
また、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エアバッグ10,40,50として、ガス供給路部12,42,52によって連結される2つの保護本体部14,43,53を有し、各保護本体部14,43,53によって左右の保護対象部位(大腿骨転子部TP)を保護する構成のものを使用しているが、エアバッグの構成は実施形態に限られるものではなく、左右の保護対象部位をそれぞれ保護可能に、別体のエアバッグと、各エアバッグにそれぞれ膨張用ガスを供給可能な別体のガス発生器と、を配置させるように、構成してもよい。
【0038】
なお、実施形態では、着用エアバッグ装置Sとして、巻付部位24を有して、骨盤MPの周囲に巻き付けるようにして装着させるタイプのものを例に採り説明しているが、本発明を適用可能な着用エアバッグ装置は、実施形態に限定されるものではなく、例えば、ベストやジャケット等、装着者の胴部に着用させ、着用状態での下端側からエアバッグを突出させるように膨張させるタイプの着用エアバッグ装置に、本発明を適用してもよい。また、実施形態では、エアバッグ10が、アウタカバー部22の内部に平らに展開した状態で収納されているが、勿論、エアバッグは、折り畳まれた状態でアウタカバー部の内部に収納させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0039】
10…エアバッグ、14(14L,14R)…保護本体部、14a…内壁部、16…下側部位(延設部)、18…突出膨張部、18a…先端、40…エアバッグ、43…保護本体部、43a…内壁部、44…突出膨張部、45…連通孔部、50…エアバッグ、53…保護本体部、56…折返部、56a…先端側部位、57…突出膨張部、60…バッグ構成部、M…装着者、MW…腰部、MP…骨盤、TB…大腿骨、TP…大腿骨転子部、UP…転子下、S…着用エアバッグ装置。