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特許7472787液晶ポリエステルマルチフィラメントおよびそれからなる高次加工製品
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  • 特許-液晶ポリエステルマルチフィラメントおよびそれからなる高次加工製品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】液晶ポリエステルマルチフィラメントおよびそれからなる高次加工製品
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/62 20060101AFI20240416BHJP
   D01F 6/84 20060101ALI20240416BHJP
   D01F 6/86 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
D01F6/62 308
D01F6/62 306U
D01F6/84 311
D01F6/86 302Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020521379
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2020002868
(87)【国際公開番号】W WO2020166316
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2019022584
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 久順
(72)【発明者】
【氏名】榮 亮介
(72)【発明者】
【氏名】的場 兵和
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-084301(JP,A)
【文献】特開2018-40076(JP,A)
【文献】特開昭60-38425(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第3629207(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/242385(US,A1)
【文献】国際公開第2019/225644(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F、D02G、D02J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の圧縮降伏応力が15~40mN/dtexであり、糸条柔軟指数が8.0以下である液晶ポリエステルマルチフィラメントであって、液晶ポリエステルが、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)の割合が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40~85mol%であり、構造単位(II)の割合が構造単位(II)および(III)の合計に対して60~90mol%であり、構造単位(IV)の割合が構造単位(IV)および(V)の合計に対して40~95mol%である液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【化1】
【請求項2】
初期弾性率が400cN/dtex以上である請求項1に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項3】
フィラメント数が10~600本である請求項1または2に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項4】
総繊度が100~3000dtexである請求項1~3のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項5】
液晶ポリエステルが、p-ヒドロキシ安息香酸構造単位および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸構造単位から構成される請求項1~のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項6】
p-ヒドロキシ安息香酸構造単位が全体の60~80mol%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸構造単位が全体の20~40mol%で構成される請求項1~5のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントからなる高次加工製品。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントからなるロープ、スリング、テンションメンバーまたはケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルマルチフィラメントに関する。詳しくは、ロープやスリング等の一般産業資材用途の高次加工製品に好適に用いることができる液晶ポリエステルマルチフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル繊維は、剛直な分子構造を有する液晶ポリエステルポリマーを原料とし、溶融紡糸においては、分子鎖を繊維軸方向に高度に配向させ、さらに高温長時間の熱処理を施すことで、溶融紡糸で得られる繊維の中では最も高い強度・弾性率が発現することが知られている。また、液晶ポリエステル繊維は、熱処理により分子量が増加するとともに、融点も上昇するため、耐熱性や寸法安定性が向上することも知られている。このような液晶ポリエステル繊維は、一般産業資材用途、例えば、ロープ、スリング、漁網、ネット、メッシュ、織物、布帛、シート状物、ベルト、テンションメンバー、各種補強用コード、樹脂強化用繊維等に好適に用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-107826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記液晶ポリエステル繊維は繊維軸方向には高い強度を示すが、繊維軸と垂直方向の力には弱く、繰り返しの屈曲に対して疲労しやすいため、ロープやスリング等の高次加工製品に用いた場合、繰り返し使用した際に強力が低下することが課題であった。
【0005】
このような課題を解決するため、特許文献1では、モース硬度4以下のケイ酸とマグネシウムを主成分とする、平均粒径0.01~15μmの無機微粒子0.03~5.0質量%を繊維表面に付着させてなるポリアリレート繊維が提案されている。しかしながら、特許文献1記載の方法では、圧縮降伏応力は6mN/dtex程度であり、耐屈曲疲労性は不十分であった。
【0006】
このように、従来技術では、高次加工製品とした場合に、高い耐屈曲疲労性を発現する液晶ポリエステルマルチフィラメントは得られていない。
【0007】
本発明は、上述したかかる事情を背景として、鋭意検討した結果得られたものであり、その目的は高次加工製品とした場合に、従来技術と比較して格段に高い耐屈曲疲労性を発現することができる液晶ポリエステルマルチフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は次の構成を有する。
【0009】
(1)繊維の圧縮降伏応力が15~40mN/dtexであり、糸条柔軟指数が8.0以下である液晶ポリエステルマルチフィラメントであって、液晶ポリエステルが、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)の割合が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40~85mol%であり、構造単位(II)の割合が構造単位(II)および(III)の合計に対して60~90mol%であり、構造単位(IV)の割合が構造単位(IV)および(V)の合計に対して40~95mol%である液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【化1】
【0011】
)初期弾性率が400cN/dtex以上である(1)記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【0012】
)フィラメント数が10~600本である(1)または(2)に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【0013】
)総繊度が100~3000dtexである(1)~()のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【0017】
)液晶ポリエステルが、p-ヒドロキシ安息香酸構造単位および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸構造単位から構成される(1)~()のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【0018】
)p-ヒドロキシ安息香酸構造単位が全体の60~80mol%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸構造単位が全体の20~40mol%で構成される(1)~(5)のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【0019】
)(1)~()のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントからなる高次加工製品。
【0020】
)(1)~()のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントからなるロープ、スリング、テンションメンバーまたはケーブル。
【発明の効果】
【0021】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、高次加工製品とした場合に高い耐屈曲疲労性を発現することができるため、ロープやスリング、テンションメンバー等の一般産業資材用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】耐屈曲疲労性を測定するための装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメント及びその製造方法を詳細に説明する。
【0024】
なお、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法は、本発明で規定する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる限り、何ら限定されないが、好ましい形態を以下に述べる。
【0025】
本発明に用いられる液晶ポリエステルとは、加熱して溶融した際に光学異方性(液晶性)を呈するポリエステルを指す。これは、試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、偏光顕微鏡で試料の透過光の有無を観察することにより認定できる。
【0026】
本発明に用いられる液晶ポリエステルとしては、例えば芳香族オキシカルボン酸の重合物(a)、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、脂肪族ジオールの重合物(b)、上記(a)と上記(b)の共重合物(c)等が挙げられ、中でも芳香族のみで構成された重合物が好ましい。芳香族のみで構成された重合物は、繊維にした際に優れた強度および弾性率を発現する。また、液晶ポリエステルの重合処方は従来公知の方法を用いることができる。
【0027】
ここで、芳香族オキシカルボン酸としては、例としてヒドロキシ安息香酸(p-ヒドロキシ安息香酸など)、ヒドロキシナフトエ酸(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸など)、またはこれらのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体等が挙げられる。
【0028】
また、芳香族ジカルボン酸としては、例としてテレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸等、またはこれらのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体等が挙げられる。
【0029】
更に、芳香族ジオールとしては、例としてヒドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール等、またはこれらのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体等が挙げられ、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
【0030】
本発明に用いる液晶ポリエステルは、上記モノマー以外に、液晶性を損なわない程度の範囲で更に他のモノマーを共重合させることができ、例としてアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、ポリエチレングリコール等のポリエーテル、ポリシロキサン、芳香族イミノカルボン酸、芳香族ジイミン、および芳香族ヒドロキシイミン等が挙げられる。
【0031】
本発明に用いる前記モノマー等を重合した液晶ポリエステルの好ましい例としては、p-ヒドロキシ安息香酸成分と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸成分が共重合された液晶ポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’-ジヒドロキシビフェニル成分とイソフタル酸成分および/またはテレフタル酸成分が共重合された液晶ポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’-ジヒドロキシビフェニル成分とイソフタル酸成分とテレフタル酸成分とヒドロキノン成分が共重合された液晶ポリエステルが挙げられる。
【0032】
本発明では特に、下記化学式に示す構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなる液晶ポリエステル、または、p-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる液晶ポリエステルであることが好ましい。なお、本発明において構造単位とはポリマーの主鎖における繰り返し構造を構成し得る単位を指す。
【0033】
【化1】
【0034】
この組み合わせにより、分子鎖は適切な結晶性と非直線性すなわち溶融紡糸可能な融点を有するようになる。したがって、ポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な製糸性を有するようになり、長手方向に比較的均一な繊維が得られ、かつ適度な結晶性を有するため繊維の強度、弾性率を高めることができる。
【0035】
(I)~(V)からなる液晶ポリエステルを用いる場合、構造単位(II)、(III)のような嵩高くなく、直線性の高いジオールからなる成分を組み合わせることが好ましい。この成分を組み合わせることにより繊維中で分子鎖は秩序だった乱れの少ない構造を取ると共に、結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できる。これにより高い強度、弾性率に加えて優れた耐摩耗性も得られる。
【0036】
上記した構造単位(I)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40~85mol%が好ましく、より好ましくは65~80mol%、さらに好ましくは68~75mol%である。このような範囲とすることで結晶性を適切な範囲とすることができ高い強度、弾性率が得られ、かつ融点も溶融紡糸可能な範囲となる。
【0037】
構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して60~90mol%が好ましく、より好ましくは60~80mol%、さらに好ましくは65~75mol%である。このような範囲とすることで結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できるため耐摩耗性を高めることができる。
【0038】
構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して40~95mol%が好ましく、より好ましくは50~90mol%、さらに好ましくは60~85mol%である。このような範囲とすることでポリマーの融点が適切な範囲となり、ポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な製糸性を有するようになり単繊維繊度が細く、長手方向に比較的均一な繊維が得られる。
【0039】
なお、構造単位(II)と(III)の合計と(IV)と(V)の合計とは実質的に等モルであることが好ましい。ここでいう実質的に等モルとは主鎖を構成するジオキシ単位とジカルボニル単位が等モル量存在することをいい、末端の構造単位は一方が偏在する場合などもあり必ずしも等モルにならなくてもよいことを意味する。
【0040】
本発明に用いる液晶ポリエステルの各構造単位の特に好ましい範囲は以下のとおりである。なお、各構造単位の好ましい範囲は、構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の合計を100mol%とした時の範囲である。この範囲の中で上記した条件を満たすよう組成を調整することで本発明の液晶ポリエステル繊維が好適に得られる。
【0041】
構造単位(I) 45~65mol%
構造単位(II) 12~18mol%
構造単位(III) 3~10mol%
構造単位(IV) 5~20mol%
構造単位(V) 2~15mol%
p-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる液晶ポリエステルを用いる場合、p-ヒドロキシ安息香酸の構造単位は全体に対し60~80mol%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸の構造単位は20~40mol%とするのが好ましく、p-ヒドロキシ安息香酸構造単位を65~75mol%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸構造単位を25~35mol%とするのがさらに好ましい。このような範囲とすることでポリマーの融点が適切な範囲となり、良好な製糸性を有するようになる。
【0042】
本発明に用いる液晶ポリエステルのポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、Mw)は3万以上が好ましく、5万以上がより好ましい。Mwを3万以上とすることで紡糸温度において適切な粘度を持ち製糸性を高めることができ、Mwが高いほど得られる繊維の強度、伸度、弾性率は高まる。また流動性を優れたものとする観点から、Mwは25万未満が好ましく、15万未満がより好ましい。なお、本発明で言うMwとは実施例の欄に記載の方法により求められた値とする。
【0043】
本発明に用いる液晶ポリエステルの融点は、溶融紡糸のし易さ、耐熱性の面から200~380℃の範囲のものが好ましく、より好ましくは250~350℃であり、更に好ましくは290~340℃である。なお本発明で言う融点とは実施例の欄に記載の方法により求められた値とする。
【0044】
また、本発明に用いる液晶ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で他のポリマーを添加・併用することができる。添加・併用とは、ポリマー同士を混合する場合や、2成分以上の複合紡糸において一方の成分、乃至は複数の成分に他のポリマーを部分的に混合使用すること、あるいは全面的に使用することをいう。他のポリマーとしては、例としてポリエステル、ポリオレフィンやポリスチレン等のビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリケトン、半芳香族ポリエステルアミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等のポリマーを添加しても良く、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、ポリエステル99M等が好適な例として挙げられる。なお、これらのポリマーを添加・併用する場合、その融点は液晶ポリエステルの融点±30℃以内にすることが製糸性を損なわないために好ましく、また、得られる繊維の強度、弾性率を向上させるためには添加・併用する量は液晶ポリエステルに対して50重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、実質的に他のポリマーを添加・併用しないことが最も好ましい。
【0045】
本発明に用いる液晶ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種金属酸化物、カオリン、シリカ等の無機物、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、相溶化剤等の添加剤を少量含有していても良い。
【0046】
次に、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの物性等について説明する。
【0047】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの圧縮降伏応力は、15~40mN/dtexであることが必須であり、20~40mN/dtexが好ましく、25~40mN/dtexがより好ましい。15~40mN/dtexとすることで、高次加工製品とした場合に、繰り返し屈曲されても原糸が強力を維持するため、製品としても耐屈曲疲労性が向上する。一方、15mN/dtex未満の場合には、高次加工製品としたときに、繰り返し屈曲されると原糸強力が低下しやすいため、製品としての十分な耐屈曲疲労性が得られない。圧縮降伏応力については、前述の製造方法により達し得る上限としては40mN/dtex程度である。なお、圧縮降伏応力は実施例の欄に記載した手法により求められる値を指す。
【0048】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの糸条柔軟指数(X)は8.0以下であることが好ましく、5.0以下がより好ましく、4.0以下がさらに好ましい。糸条柔軟性が高いと高次工程での取り扱い性が向上するとともに、繰り返し屈曲時の応力を糸条内で分散できるため、高い耐屈曲疲労性の発現にも有利である。糸条柔軟指数(X)を8.0以下とすることでパッケージ解舒時の解舒性は大幅に改善し、高次加工時の工程通過性を飛躍的に向上させることができる。また、本発明で達し得る下限としては0.1程度である。なお、マルチフィラメントの糸条柔軟指数(X)は実施例の欄に記載した手法により求められる値を指す。
【0049】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの初期弾性率は、400cN/dtex以上が好ましく、500cN/dtex以上がより好ましく、600cN/dtex以上が更に好ましい。初期弾性率が400cN/dtex以上あることで、応力を受けた際の寸法変化が小さく産業資材用途に好適である。初期弾性率の上限は特に限定されないが、本発明で達しえる上限としては初期弾性率1,000cN/dtex程度である。なお、本発明で言う初期弾性率とは実施例の欄に記載した手法により求められる値を指す。
【0050】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの単繊維繊度は、1~30dtexであることが好ましい。また、1~20dtexであることがより好ましい。1~30dtexと単繊維繊度を細くすることで、吐出後に単繊維内部まで均一な冷却が可能となり、製糸性が安定し、毛羽品位の良好な液晶ポリエステルマルチフィラメントが得やすくなるだけでなく、熱処理時に外気に触れる繊維表面積が増え、高強度・高弾性化に有利である。単繊維繊度が1~30dtexである本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの糸条は柔軟であるため、高次工程通過性に優れる上、織物などに用いた場合には、糸条の充填率が高く、高密度化および収納性向上が図れる。なお、本発明では総繊度を単繊維数で除した商を単繊維繊度(dtex)とした。
【0051】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの単繊維数(フィラメント数)は10~600本が好ましく、10~400本であることがより好ましく、10~300本であることがさらに好ましい。単繊維数を10~600本とすることで、マルチフィラメントの生産性向上が図れる上、熱処理時に外気に触れる繊維表面積が大きくなるため固相重合反応が促進されて、強度・弾性率のバラツキが低減し、均一な物性を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる。また、紡糸で得られたサンプルを分繊あるいは合糸して単繊維数が10~600本の液晶ポリエステルマルチフィラメントとすることも何等差し支えない。なお、単繊維数は実施例の欄に記載した手法により求められる値を指す。
【0052】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの総繊度(T)は、100~3000dtexが好ましく、150~2500dtexであることがより好ましく、200~2000dtexであることがさらに好ましい。100~3000dtexとすることで、工程通過性が高く、原糸使用量が極めて多い産業資材用途に好適である。また、紡糸で得られたサンプルを分繊あるいは合糸して総繊度が100~3000dtexの液晶ポリエステルマルチフィラメントとすることも何等差し支えない。なお、総繊度は実施例の欄に記載した手法により求められる値を指す。
【0053】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造にあたっては、前述の液晶ポリエステルを溶融紡糸する。液晶ポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸において、基本的な溶融押出法としては通常の手法を用いることができるが、重合時に生成する秩序構造をなくすためにエクストルーダー型の押出機を用いることが好ましい。押し出されたポリマーは配管を経由しギアーポンプ等公知の計量装置により計量され、異物除去のフィルターを通過した後、口金へと導かれる。このときポリマー配管から口金までの温度(紡糸温度)は液晶ポリエステルの融点以上、熱分解温度以下とすることが好ましく、液晶ポリエステルの融点+10℃以上、400℃以下とすることがより好ましく、液晶ポリエステルの融点+20℃以上、370℃以下とすることが更に好ましい。なお、ポリマー配管から口金までの温度をそれぞれ独立して調整することも可能である。この場合、口金に近い部位の温度をその上流側の温度より高くすることで吐出が安定する。
【0054】
また、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸では、通常、エネルギーコストの低減や生産性向上を目的に、1つの口金に多数の口金孔を穿孔するため、それぞれの口金孔の吐出、細化挙動を安定させることが好ましい。
【0055】
これを達成するためには口金孔の孔径を小さくするとともに、ランド長(口金孔の直管部の長さ)を長くすることが好ましい。ただし孔の詰まりを有効に防止する観点から孔径は0.03mm以上、1.00mm以下が好ましく、0.05mm以上、0.80mm以下がより好ましく、0.08mm以上、0.60mm以下がさらに好ましい。圧力損失が高くなるのを有効に防止する観点から、ランド長Lを孔径Dで除した商で定義されるL/Dは0.5以上、3.0以下が好ましく0.8以上、2.5以下がより好ましく、1.0以上、2.0以下が更に好ましい。
【0056】
また、マルチフィラメントの生産性を向上させるために1つの口金の孔数は10孔以上1000孔以下が好ましく、10孔以上800孔以下がより好ましく、10孔以上600孔以下が更に好ましい。なお、口金孔の直上に位置する導入孔は直径が口金孔径の5倍以上のストレート孔とすることが圧力損失を高めない点で好ましい。導入孔と口金孔の接続部分はテーパーとすることが異常滞留を抑制する上で好ましいが、テーパー部分の長さはランド長の2倍以下とすることが圧力損失を高めず、流線を安定させる上で好ましい。
【0057】
口金孔より吐出されたポリマーは保温領域、冷却領域を通過させ固化してフィラメントとした後、一定速度で回転するローラー(ゴデットローラー)により引き取られる。保温領域は過度に長いと製糸性が悪くなるため口金面から400mmまでとすることが好ましく、300mmまでとすることがより好ましく、保温領域を200mmまでとすることが更に好ましい。保温領域は加熱手段を用いて雰囲気温度を高めることも可能であり、その温度範囲は100℃以上、500℃以下が好ましく、200℃以上、400℃以下がより好ましい。冷却は不活性ガス、空気、水蒸気等を用いることができるが、平行あるいは環状の空気流を用いることが環境負荷を低くする点から好ましい。
【0058】
引き取り速度は生産性向上のため50m/分以上が好ましく、300m/分以上がより好ましく、500m/分以上が更に好ましい。本発明に用いる液晶ポリエステルは紡糸温度において好適な曳糸性を有することから引き取り速度を高速にできる。上限は特に制限されないが、本発明に用いる液晶ポリエステルにおいては曳糸性の点から3,000m/分程度となる。
【0059】
引き取り速度を吐出線速度で除した商で定義される紡糸ドラフトは1以上500以下とすることが好ましく、5以上200以下とすることがより好ましく、12以上100以下とすることが更に好ましい。本発明に用いる液晶ポリエステルは好適な曳糸性を有することから紡糸ドラフトを高くでき、生産性向上に有利である。なお、紡糸ドラフトの計算に用いた、吐出線速度(m/分)とは、単孔あたりの吐出量(m/分)を単孔断面積(m)で除した商で定義される値であり、引き取り速度(m/分)を吐出線速度で除するため、紡糸ドラフトは無次元数となる。
【0060】
本発明では製糸性および生産性向上の観点から、上記紡糸ドラフトを得るために紡糸パックあたりのポリマー吐出量を10~2,000g/分と設定することが好ましく、20~1,000g/分と設定することがより好ましく、30~500g/分と設定することが更に好ましい。10~2,000g/分と高吐出で紡糸することで、液晶ポリエステルの生産性が向上する。
【0061】
巻き取りは通常の巻き取り機を用い、チーズ、パーン、コーン等の形状のパッケージとすることができるが、巻量を高く設定できるチーズ巻きのパッケージとすることが好ましい。
液晶ポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸では、オイリングローラー等で吐出糸条に紡糸油剤を付与することでマルチフィラメントを集束させ、ローラー等で引き取った後、延伸することなく、ワインダーで巻き取ることが一般的である。このように、マルチフィラメント紡出糸条を集束させることで、巻き取り性が向上し、巻崩れのないパッケージが得られる。
【0062】
液晶ポリエステルマルチフィラメントにおいては、溶融紡糸してフィラメントとした後に固相重合を行うことが好ましい。
【0063】
パッケージ状で固相重合を行う場合、融着し易いので、これを防止するためには巻密度が0.30g/cm以上のパッケージとしてボビン上に形成し、これを固相重合することが好ましい。ここで巻密度とは、パッケージ外形寸法と心材となるボビンの寸法から求められるパッケージの占有体積Vf(cm)と繊維の重量Wf(g)からWf/Vf(g/cm)により計算される値である。巻密度は過度に小さいとパッケージにおける張力が不足するため繊維間の接点面積が大きくなり融着が増大するだけでなく、パッケージが巻き崩れるため0.30g/cm以上とすることが好ましく、0.40g/cm以上とすることがより好ましく、0.50g/cm以上とすることが更に好ましい。また、上限は特に制限されないが、巻密度が過度に大きいとパッケージの内層における繊維間の密着力が大きくなり接点での融着が増大するため、1.50g/cm以下とすることが好ましい。本発明においては、融着軽減および巻き崩れ防止の観点から、巻密度を0.30~1.00g/cmとすることがより好ましい。
【0064】
このような巻密度のパッケージは、工程通過性が良く、工程の簡略化が可能である。例えば、液晶ポリエステルの溶融紡糸後に直接巻き取って、上記巻密度を有するパッケージを形成することも可能であり、工程通過性の向上が図れる。また、固相重合時の糸重量を調整する際などに、溶融紡糸で一旦巻き取ったパッケージを巻き返して、上記巻密度を有するパッケージを形成することも可能である。パッケージ形状を整え巻密度制御するためには通常用いられるコンタクトロール等を用いず、パッケージ表面を非接触の状態で巻き取ることや、溶融紡出した原糸を調速ロールを介さず直接、速度制御された巻取機で巻き取ることも有効である。これらの場合、パッケージ形状を整えるためには、巻取速度を3000m/分以下、特に2000m/分以下とすることが好ましい。下限としては生産性の点から50m/分以上であることが好ましい。
【0065】
該パッケージを形成するために用いられるボビンは円筒形状のものであればいかなるものでも良く、パッケージとして巻き取る際に巻取機に取り付けこれを回転させることで繊維を巻き取り、パッケージを形成する。固相重合に際してはパッケージをボビンと一体で処理することもできるが、パッケージからボビンのみを抜き取って処理することもできる。ボビンに巻いたまま処理する場合、該ボビンは固相重合温度に耐える必要があり、アルミや真鍮、鉄、ステンレスなどの金属製であることが好ましい。またこの場合、ボビンには多数の穴が空いていることが固相重合を効率的に行えるため好ましい。またパッケージからボビンを抜き取って処理する場合には、ボビン外表面に外皮を装着しておくことが好ましい。また、いずれの場合にもボビンの外表面にはクッション材を巻き付け、その上に液晶ポリエステル溶融紡糸フィラメントを巻き取っていくことが好ましい。クッション材の材質は、アラミド繊維などの有機繊維または金属繊維からなるフェルトが好ましく、厚みは0.1mm以上、20mm以下が好ましい。前述の外皮を該クッション材で代用することもできる。
【0066】
該パッケージの繊維重量は巻密度が本発明の範囲内となるものであればいかなる重量でも良いが、生産性を考慮すると0.01kg以上、11kg以下が好ましい範囲である。なお、糸長としては1万m以上200万m以下が好ましい範囲である。
【0067】
固相重合時の融着を防ぐため、フィラメントの表面に油剤を付着させることが好ましい実施形態である。これら成分の付着は溶融紡糸から巻き取りまでの間に行っても良いが、付着効率を高めるためには巻き返しの際に行う、あるいは溶融紡糸の時点で少量を付着させ、巻き返しの際にさらに追加することが好ましい。
【0068】
融着防止のための油剤としては、固相重合処理後にも液状を保つ耐熱性の高い融着防止剤を付与することが好ましい。固相重合時の単繊維間のポリマー融着や油剤-糸間の固着を防止することで、固相重合後にも単繊維同士がタルミなく引き揃えられるため、伸長初期から高い弾性率を発揮することができるとともに、初期弾性率が高いと繰り返し屈曲時にクリープ変形しにくいため、高い耐屈曲疲労性の発現にも有利である。具体的には、下記化学式で示されるリン酸エステル化合物等の高耐熱の融着防止剤が好ましく用いられる。
【0069】
【化2】
【0070】
ここで、R1はベンゼン骨格を有する炭化水素、R2は炭素数が2以上である炭化水素、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニウム、mは平均値で0以上30以下であり、nは平均値で1以上2以下であることが好ましい。
【0071】
繊維への融着防止剤の付着量は融着抑制のためには多い方が好ましく、繊維全体を100重量%としたときに0.5重量%以上が好ましく、1.0重量%以上がより好ましい。一方、多すぎると繊維がべたつきハンドリングを悪化させる他、後工程で工程通過性を悪化させるため10.0重量%以下が好ましく、8.0重量%以下がより好ましく、6.0重量%以下が特に好ましい。なお、繊維への油剤(融着防止剤)付着量は実施例の欄に記載した方法により求められる値を指す。
【0072】
油剤付着方法はガイド給油でも良いが、繊維に均一に付着させるためには金属製あるいはセラミック製のキスロール(オイリングロール)による付着が好ましい。
【0073】
固相重合は窒素等の不活性ガス雰囲気中や、空気のような酸素含有の活性ガス雰囲気中または減圧下で行うことが可能であるが、設備の簡素化および繊維あるいは付着物の酸化防止のため窒素雰囲気下で行うことが好ましい。この際、固相重合の雰囲気は露点が-40℃以下の低湿気体が好ましい。
【0074】
固相重合温度は、固相重合に供する液晶ポリエステルフィラメントの融点(Tm1)に対し、最高到達温度が液晶ポリエステルフィラメントの融点(Tm1)-80℃以上であることが好ましい。このような融点近傍の高温とすることで固相重合が速やかに進行し、繊維の強度を向上させることができる。また最高到達温度はTm1未満とすることが融着防止のために好ましい。また固相重合の進行と共に液晶ポリエステルフィラメントの融点は上昇するため、固相重合温度を固相重合の進行状態に応じて固相重合に供する液晶ポリエステルフィラメントの融点(Tm1)+100℃程度まで高めることができる。
【0075】
固相重合後のパッケージは、運搬効率を高めるために再度巻き返して巻密度を高めることが好ましい。このとき、フィラメントを固相重合パッケージから解舒する際には解舒による固相重合パッケージの崩れを防ぎ、さらに軽微な融着を剥がす際のフィブリル化を抑制するために、固相重合パッケージを回転させながら回転軸と垂直方向(繊維周回方向)に糸を解舒する、いわゆる横取りにより解舒することが好ましい。さらに固相重合パッケージの回転は自由回転ではなく積極駆動により回転させることがパッケージからの糸離れ張力を低減させフィブリル化をより抑制できる点で好ましい。
【0076】
本発明は、繊維の圧縮降伏応力が15~40mN/dtexであることを特徴とする液晶ポリエステルマルチフィラメントである。ここで、繊維の圧縮降伏応力は実施例の欄に記載した方法により求められる値を指す。本発明者らは、液晶ポリエステルマルチフィラメントの耐屈曲疲労性の向上を鋭意検討した結果、圧縮降伏応力を制御することで、従来技術と比較して、耐屈曲疲労性が大幅に向上することを見出した。耐屈曲疲労性が向上する明確なメカニズムは定かではないが、屈曲疲労試験では繊維に繰り返し屈曲が付与されるが、その際に繊維内に生じる繊維構造破壊を防ぐことが耐屈曲疲労性の向上には重要と考えられる。ここで、繊維の圧縮降伏応力が高いほど屈曲部で生じる圧縮応力による塑性変形が発生しにくいため、耐屈曲疲労性が向上すると考えられる。
【0077】
圧縮降伏応力が15~40mN/dtexである液晶ポリエステルマルチフィラメントを得るための方法は何ら限定されないが、例えば、固相重合の昇温時間や固相重合時間を適切に制御する方法がある。本発明者らは、固相重合時の最高温度に到達させるまでの昇温を2段階に分け、それぞれの昇温にかかる時間を適切に制御することで、液晶ポリエステル繊維の圧縮降伏応力が向上することを見出した。圧縮降伏応力が向上する明確なメカニズムは定かではないが、固相重合の初期段階はある程度速く温度を上げることで繊維表面の結晶化を進めると共に、2段階目で緩やかに昇温することで結晶構造が緻密化し、圧縮降伏応力が向上すると考えられる。具体的には、1段階目は常温から開始して融点-160~融点-120℃までへの昇温であり、昇温時間は0.1~1.0時間とすることが好ましい。このような昇温時間とすることで昇温が速すぎることによる融着発生や昇温が遅すぎることによる表面以外の結晶化を抑制することができる。2段階目は1段目昇温温度から融点-50~融点+10℃までへの昇温であり、昇温時間は20~80時間とすることが好ましい。このような昇温時間とすることで、昇温が速すぎることによる結晶化不足や、昇温が遅すぎることによる繊維表面の熱劣化を抑制することができる。また、各昇温の後には、その温度で2~20時間の温度保持区間を設けることが好ましい。
【0078】
また、本発明は糸条柔軟性が高い方が好ましく、糸条柔軟指数Xが8.0以下であることが好ましい。糸条として柔軟なほど、屈曲時の曲げ応力が発生しにくく、繰り返し一定の方向で屈曲される際の繊維構造破壊が防げるためと考えられる。糸条柔軟性を向上させる方法としては、例えば、繊維表面を固相重合が完了したパッケージからフィラメントを解舒する際に、複数の方向に屈曲を与える方法がある。ここでいう方向とは、解舒後におけるマルチフィラメントの長手方向に対して垂直な面内において0~360°の範囲示される方向を指し、最初に屈曲した方向と以降に屈曲した方向とがなす角度を方位角と定義する(したがって、最初に屈曲した方向の方位角は0°である。)。
【0079】
マルチフィラメントの柔軟性を高めるために、屈曲を与える方向としては、4方向以上が好ましく、8方向以上とすることがさらに好ましい。また、上限は特に制限されないが、糸仕掛け時の作業性が悪化する点から36方向以下とすることが好ましい。本発明においては、糸掛けの作業性および設備簡易化の観点から、4~18方向が好ましい範囲である。
【0080】
複数の方向に屈曲を加える際の方位角は、マルチフィラメント中の各フィラメントを均一に柔軟にするために360°を屈曲させる回数で等分した角度とすることが好ましい。例えば、8方向に屈曲させる際の方位角は、解除後におけるマルチフィラメントの長手方向に対して垂直な面内において0~360°を8等分割した際の角度であり、0°、45°、90°、135°、180°、225°、270°、315°となる。また、上記角度において、方位角は0°(最初の屈曲)以外はいずれの順番で屈曲させても良い。
【0081】
ガイドとガイド間の距離(1つの屈曲から次の屈曲までの距離)は、屈曲を付与した後の糸ブレを抑え、ガイドからの糸外れ、ガイドへの糸条の引掛りを抑制するため、50cm以上とするのが良く、設備をコンパクトにするため100cm以下とするのが良い。
【0082】
屈曲を与える方法としては、バーガイド、ループガイド、アイレットガイド、スリットガイド、フックガイド、スネールガイド、ローラーガイド、ベアリングローラーガイド等の糸ガイドで屈曲させるのが好ましく、中でもマルチフィラメントの擦過を低減させるためにローラーガイド、ベアリングローラーガイドを使用することがさらに好ましい。
【0083】
上記ガイド通過後の屈曲角は、屈曲を効果的に付与し、糸条の柔軟性を高めるために30°以上が好ましく、60°以上がさらに好ましい。また上限は特に制限されないが、糸掛けの作業性の観点から90°以下とすることが好ましい。ここでいう屈曲角とは、ガイド通過前の走行糸条の長手方向に伸ばした延長線と、ガイド通って屈曲した後の走行糸条の長手方向のなす角度を指す。
【0084】
屈曲を与えた後で、再び液晶ポリエステルマルチフィラメントパッケージを形成する。本発明においては、パーン、ドラム、コーンなどの形態のパッケージとすることができるが、生産性の観点から巻量を多く確保することができるドラム巻取パッケージとすることが好ましい。
【0085】
また、本発明における液晶ポリエステルマルチフィラメントは、高次加工製品とした場合の工程通過性を高めるために、マルチフィラメントに集束性を付与した方が良く、目的に応じて各種仕上油剤を付与することが好ましい態様である。
【0086】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合後の強度は、15.0cN/dtex以上が好ましく、22.5cN/dtex以上がより好ましい。強度が15.0cN/dtex以上あることで、高強度かつ軽量化が求められる産業資材用途に好適である。強度の上限は特に限定されないが、本発明で達し得る上限としては30.0cN/dtex程度である。なお、本発明で言う強度は実施例の欄に記載した手法により求められる値を指す。
【0087】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合後の伸度は、5.0%以下が好ましく、4.5%以下がより好ましく、4.0%以下が更に好ましい。伸度が5.0%以下であるため、外部から応力を受けた際に伸びにくく、製品の寸法変化が少なく好適に使用できる。伸度の下限は特に限定されないが、本発明で達し得る下限としては1.0%程度である。なお、本発明で言う伸度は実施例の欄に記載した手法により求められる値を指す。
【0088】
かくして得られた本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、圧縮降伏応力が15~40mN/dtexであり、このような特性を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントは、高次加工製品とした場合に、従来技術と比較して格段に高い耐屈曲疲労性を発現できる。このような圧縮降伏応力に優れるとともに、高強度、高弾性、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、低吸湿特性を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントは、一般産業資材用途で好適に用いることができる。一般産業資材用途の例としては、ロープ、スリング、ケーブル、漁網、ネット、メッシュ、織物、布帛、シート状物、ベルト、テンションメンバー、土木・建築資材、スポーツ資材、防護資材、ゴム補強資材、各種補強用コード、樹脂強化用繊維材、電気材料、音響材料等が挙げられる。これらの中でも特に、高次加工製品として繰り返し屈曲が付与されるロープやスリング、ケーブル、テンションメンバー等の用途では、本発明の圧縮降伏応力に優れる液晶ポリエステルマルチフィラメントは好適に使用できる。
【実施例
【0089】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれにより何等限定されるものではない。なお、明細書本文および実施例に用いた特性の定義および各物性の測定、算出法を以下に示す。
【0090】
(1)融点
示差走査熱量計(TA Instruments社製DSC2920)で行う示差熱量測定において、50℃から20℃/分の昇温条件測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、およそTm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温速度で50℃まで冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点とした。同様の操作を2回行い、2回の平均値を液晶ポリエステルの融点Tm2(℃)とした。
【0091】
(2)液晶ポリエステルのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)
溶媒としてペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65(重量比)の混合溶媒を用い、120℃で20分攪拌しながら、液晶ポリエステルを混合溶媒に溶解させる。このとき、液晶ポリエステルの濃度が0.04重量%となるように調製し、GPC測定用試料とする。これをWaters社製GPC測定装置を用いて測定し、ポリスチレン換算によりMwを求めた。同様の操作を2回行い、2回の平均値を重量平均分子量(Mw)とした。
【0092】
カラム:ShodexK-G(1)
ShodexK-806M(2)
ShodexK-802(1)
検出器:示差屈折率検出器RI(2414型)
温度 :23±2℃
流速 :0.8mL/分
注入量:0.200mL。
【0093】
(3)水分率
平沼産業社製カールフィッシャー水分計(AQ-2100)を用いた電量滴定法で測定した。施行回数3回の平均値を用いた。
【0094】
(4)油剤濃度
油剤を分散させた溶液の重量をW0、油剤の重量をW1とした場合に、W1をW0で除した商に100を乗じた積を油剤濃度(重量%)とした。
【0095】
(5)油剤付着量
検尺機にて繊維を100mカセ取りして重量を測定した後、カセを100mlの水に浸して超音波洗浄機を用いて1時間洗浄を行った。超音波洗浄後のカセを60℃の温度で1時間乾燥させて重量を測定し、洗浄前重量と洗浄後重量の差を洗浄前重量で除した商に100を乗じた積を油剤付着量(重量%)とした。
【0096】
(6)総繊度
JIS L 1013(2010)8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定して総繊度(dtex)とした。
【0097】
(7)単繊維数
JIS L 1013(2010)8.4の方法で算出した。
【0098】
(8)単繊維繊度
総繊度を単繊維数で除した値を単繊維繊度(dtex)とした。
【0099】
(9)強度、伸度、初期弾性率
JIS L 1013(2010)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)RTM-100を用い、掴み間隔(測定試長)は250mm、引張速度は50mm/分で行った。強度・伸度は破断時の応力および伸びとし、初期弾性率は引張試験における応力と伸びのグラフにおいて、最小二乗法により伸度0.45%から0.55%の範囲の測定点の近似直線を描いたときの直線の傾きとした。
【0100】
(10)マルチフィラメントの曲げ抵抗値(A)
JIS K7171(2016)に示される定速たわみ条件を参考に測定した。すなわち、まずパッケージに巻き取ったフィラメントの曲げ、および撚りグセを解くため、フィラメントを長さ1000mmに切り出して、その一端に、金属製フックを結びつけ、他端に破断荷重の300gの錘を結びつけ、温度25℃、相対湿度40%に調節された環境下、空中に24時間吊してマルチフィラメントを鉛直にせしめ、測定試料を得た。得られた測定試料をさらに40mmの長さで切り出し、試料片とした。東洋ボールドウィン社製“テンシロン”(TENSILON) UTM-4-100を用い、5mmの間隔で設置した支持台に得られた試験片を対称的に乗せ、試験片の支点間中央に圧子で力を加えた。支持台は固定した状態で、圧子を20mm/分の一定速度で下降させ、試験片に力を付与した際の最大荷重を測定し、曲げ抵抗値(A)(cN)とした。支持台、および圧子の直径は1.0mmとした。施行回数5回の平均値を用いた。
【0101】
(11)マルチフィラメントの糸条柔軟指数(X)
マルチフィラメントの糸条柔軟指数(X)は、マルチフィラメントの曲げ抵抗値(A)(cN)とマルチフィラメントの総繊度T(dtex)を用いて次式により算出した。
糸条柔軟指数(X)=(A/T)×10
【0102】
(12)圧縮降伏応力
単繊維1本をガラス製のステージに静置し、その直径方向に圧子を用いて圧縮負荷を徐々に加え、そのときの荷重-変位曲線を取得する。得られた荷重-変位線図における初期領域および降伏後領域の各域で得られたデータを直線近似し、両直線の交点となる荷重を降伏荷重とした。得られた降伏荷重を単繊維の繊度で除した値を圧縮降伏応力とした。
【0103】
測定装置:島津製作所製 微小圧縮試験機 MCTW-500
使用圧子:ダイヤモンド製平面圧子(φ=500μm)
負荷速度:41.482mN/s(負荷速度一定方式)
測定温度:室温
測定雰囲気:大気中。
【0104】
(13)耐屈曲疲労性
撚糸機を用いて、マルチフィラメント2本を合糸しながら100T/mの撚り数で片撚りを加え合撚糸を作製した。その後、図1に示す通り、この合撚糸1をロール中心間の実距離が14mmである、自由に回転する外径が10mmの一対の鉄製(材質:SS400)鏡面ロール2にロール間の糸が鉛直になるようにS字状に掛けた後、0.5g/dtexの荷重3をかけ、金属ロール2をロール中心間距離が一定になるように8000回往復上下運動(往復距離:100mm)させて屈曲疲労させた。屈曲疲労前の合撚糸強力および屈曲疲労後の合撚糸強力を測定し、次式により強力保持率を算出した。
屈曲疲労後強力保持率(%)=屈曲疲労後の合撚糸強力/屈曲疲労前の合撚糸強力×100。
【0105】
この屈曲疲労後強力保持率が高いほど耐屈曲疲労性が優れていることを表し、屈曲疲労後強力保持率によって以下のように耐屈曲疲労性を区分した。
耐屈曲疲労性:
5:90%以上
4:80%以上90%未満
3:70%以上80%未満
2:60%以上70%未満
1:60%未満。
【0106】
<参考例1>
攪拌翼と留出管を備えた5Lの反応容器に、p-ヒドロキシ安息香酸870g(6.30モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル327g(1.890モル)、ハイドロキノン89g(0.810モル)、テレフタル酸292g(1.755モル)、イソフタル酸157g(0.945モル)および無水酢酸1460g(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら25℃から145℃の温度まで30分で昇温した後、145℃の温度で2時間反応させた。その後、335℃の温度まで4時間で昇温した。
【0107】
重合温度を335℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に40分間反応を続け、トルクが28kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に、反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。この液晶ポリエステルはp-ヒドロキシ安息香酸単位が全体の54mol%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル単位が16mol%、イソフタル酸単位が8mol%、テレフタル酸単位が15mol%、ヒドロキノン単位が7mol%からなり、融点(Tm2)は315℃であり、高化式フローテスターを用いて温度330℃、剪断速度1,000/secで測定した溶融粘度が30Pa・secであった。また、Mwは145,000であった。
【0108】
<参考例2>
攪拌翼と留出管を備えた5Lの反応容器に、p-ヒドロキシ安息香酸907g(6.57モル)、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸457g(2.42モル)および無水酢酸946g(フェノール性水酸基合計の1.03当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら25℃から145℃の温度まで30分で昇温した後、145℃の温度で2時間反応させた。その後、325℃の温度まで4時間で昇温した。
【0109】
重合温度を325℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に、反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。この液晶ポリエステルはp-ヒドロキシ安息香酸単位が全体の73mol%、6-ヒドロキ-2-シナフトエ酸単位が27mol%からなり、融点(Tm2)は285℃であり、高化式フローテスターを用いて温度293℃、剪断速度1,000/secで測定した溶融粘度が32Pa・secであった。また、Mwは125,000であった。
【0110】
[実施例1]
参考例1の液晶ポリエステルを用い、120℃で12時間真空乾燥を行い、水分・オリゴマーを除去した。このときの液晶ポリエステルの水分率は50ppmであった。この乾燥した液晶ポリエステルを、単軸のエクストルーダーにて(ヒーター温度290~340℃)溶融押出しし、ギアーポンプで計量しつつ紡糸パックにポリマーを供給した。このときのエクストルーダー出口から紡糸パックまでの紡糸温度は335℃とした。紡糸パックでは濾過精度が15μmの金属不織布フィルターを用いてポリマーを濾過し、孔径0.13mm、ランド長0.26mmの孔を300個有する口金より吐出量100g/分(単孔あたり0.33g/分)でポリマーを吐出した。
【0111】
吐出直後に室温で冷却固化させた液晶ポリエステルマルチフィラメントを、オイリングローラーを用いて常温で液体のリン酸エステル化合物A(融着防止剤)を2質量%含有する水溶液を付着させながら300フィラメントともに600m/分のネルソンローラーで引き取った。このときの紡糸ドラフトは29.3であった。また、油剤付着量は1.5重量%であった。ネルソンローラーで引き取ったマルチフィラメントは、そのままダンサーアームを介し羽トラバース型のワインダーを用いてチーズ形状に巻き取った。溶融紡糸での曳糸性は良好であり、総繊度1680dtex、単繊維繊度5.6dtexの液晶ポリエステルマルチフィラメントが、糸切れすることなく安定紡糸でき、4.0kg巻パッケージの紡糸原糸を得た。ここで、リン酸エステル化合物Aは、前記の化学式2で示されるリン酸エステル化合物であり、R1はアリール基、R2は炭素数が2~4の直鎖状飽和炭化水素、Mはカリウム、mの平均値は8、nの平均値は1であるリン酸エステル化合物である。
【0112】
この紡糸パッケージから繊維を縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に解舒し、速度を一定とした巻取機((株)神津製作所製SSP-WV8P型プレシジョンワインダー)にて400m/分で巻き返しを行った。なお、巻き返しの芯材にはステンレス製のボビンを用い、巻き返し時の張力は0.005cN/dtex、巻き密度を0.50g/cmとし、巻量は4.0kgとした。更にパッケージ形状はテーパー角65°のテーパーエンド巻きとした。
【0113】
得られた巻き返しサンプルを、密閉型オーブンを用いて固相重合を行った。固相重合の温度は、室温から165℃(融点-150℃)まで0.2時間で昇温し、165℃で3時間保持した後、165℃から275℃(融点-40)まで40時間で昇温した後、更に275℃で3時間保持する条件にて固相重合を行った。なお、固相重合における雰囲気は除湿窒素を流量100L/分にて供給し、庫内が加圧にならないよう排気口より排気させた。
【0114】
こうして得られた固相重合パッケージをインバーターモーターにより回転できる送り出し装置に取り付け、繊維を横方向(繊維周回方向)に200m/分で送り出しつつ解舒を行い、湯浅糸道工業製のベアリングローラーガイド(A312030)を糸長が50cmとなる位置に配置し、18方向(18等分割)に屈曲角60°で屈曲させた後、巻取機にて製品パッケージに巻き取った。なお、繊維物性は表1に記載の通りである。実施例1で得られた本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの糸条柔軟指数(X)は3.8、圧縮降伏応力は38mN/dtex、初期弾性率は687cN/dtexであり、製品耐屈曲疲労性(高次加工製品への適性)は「5」であった。
【0115】
[実施例2~7]
固相重合時の昇温時間や保持時間、温度を表1の通りとしたこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
【0116】
[実施例8~11]
口金の孔数および吐出量を変更することで総繊度、フィラメント数を表1の通りとしたこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
【0117】
[実施例12]
融着防止剤をポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング社製「SH200-350cSt」)を水に1質量%分散させた溶液に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
【0118】
[実施例13]
固相重合パッケージの解舒時に屈曲させないこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
【0119】
[実施例14、15]
参考例2の液晶ポリエステルを用いたこと、固相重合時の昇温時間や保持時間、温度を表1の通りとしたこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
【0120】
[比較例1~4]
固相重合時の昇温時間や保持時間、温度を表2の通りとしたこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
【0121】
[比較例5]
無機微粒子として平均粒径5~7μmのケイ酸およびマグネシウムを主成分とする合成無機微粒子(コープケミカル株式会社製「“ソマシフ”(登録商標)ME-100」、モース硬度=2.8)をポリエチレングリコールラウリレートを主成分とする紡糸油剤に濃度6重量%で分散させたものを紡糸原糸に付着させ、付着時に上記「ソマシフME-100」は膨潤してへき開し、平均粒径は0.02~7μmとなり、次にこの紡糸原糸を蒸留水中で3 時間超音波洗浄して微粒子を落とし、微粒子付着量を0.6重量%としたこと、固相重合時に融点-20℃で2時間、融点-0℃で12時間熱処理したこと、固相重合パッケージの解舒時に屈曲させないこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
【0122】
[比較例6]
参考例2の液晶ポリエステルを用いたこと、固相重合時の昇温時間や保持時間、温度を表2の通りとしたこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
表1の実施例1~15から明らかなように、固相重合条件を調整することで、圧縮降伏応力が15~40mN/dtexである液晶ポリエステルマルチフィラメントを得ることができ、高次加工後も高い耐屈曲疲労性を発現した。このように、圧縮降伏応力を15~40mN/dtexとすることで、高次加工製品とした場合に、高い耐屈曲疲労性を発現し、高次加工製品に好適であり、ロープやスリング等の一般産業資材用途に好適に使用できた。
【0126】
一方、表2の比較例1~7から明らかなように、固相重合条件が適切で無い場合には、圧縮降伏応力は15mN/dtex未満となり、十分な製品耐屈曲疲労性が得られなかった。以上のように、圧縮降伏応力が15mN/dtex未満の場合には、本発明が目的とする効果を奏することができない。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、圧縮降伏応力が15~40mN/dtexであるため、高次加工製品とした場合に、繰り返し屈曲されても高い強力を維持することができる。このような液晶ポリエステルマルチフィラメントは、従来技術と比較して格段に高い耐屈曲疲労性を発現できるため、ロープやスリング、テンションメンバー等の一般産業資材用途に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0128】
1 合撚糸
2 金属ロール
3 荷重
4 ロール中心間距離
図1