(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】水なし平版印刷版原版およびそれを用いた水なし平版印刷版の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41N 1/14 20060101AFI20240416BHJP
B41C 1/10 20060101ALI20240416BHJP
B41N 3/00 20060101ALI20240416BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B41N1/14
B41C1/10
B41N3/00
G03F7/00 503
(21)【出願番号】P 2020537561
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2020023935
(87)【国際公開番号】W WO2020256059
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2019114384
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】市川 成彦
(72)【発明者】
【氏名】久保 善彦
(72)【発明者】
【氏名】辻 旭弘
(72)【発明者】
【氏名】畑 貴久
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-263742(JP,A)
【文献】特開昭60-38194(JP,A)
【文献】特開平6-206305(JP,A)
【文献】特開平2-20875(JP,A)
【文献】特開昭48-5506(JP,A)
【文献】特開2018-58257(JP,A)
【文献】米国特許第6358667(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/00-3/08
B41C 1/00-3/08
G03F 7/00
G03F 7/09
G03F 7/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも感熱層およびシリコーンゴム層を有し、基板が強磁性体であり、前記強磁性体の基板のロックウェル硬さHR30TSmが60~80の範囲内であ
り、前記強磁性体の基板の降伏点Ypが300MPa~2.0GPaの範囲内であることを特徴とする水なし平版印刷版原版。
【請求項2】
前記強磁性体の基板の飽和磁化が0.3テスラ~10テスラの範囲内である、請求項1に記載の水なし平版印刷版原版。
【請求項3】
前記強磁性体の基板が、鉄、コバルト、ニッケル、これらの合金、およびこれらの酸化物から選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の水なし平版印刷版原版。
【請求項4】
2ピース缶印刷用またはチューブ印刷用に用いられる請求項1~
3のいずれかに記載の水なし平版印刷版原版。
【請求項5】
シリコーンゴム層の重量換算厚さが3.4~10.0g/m
2の範囲内である請求項1~
4のいずれかに記載の水なし平版印刷版原版。
【請求項6】
最大磁力が0.10~1.00テスラの常磁性体に磁力の作用で装着された、請求項1~
5のいずれかに記載の水なし平版印刷版原版。
【請求項7】
次の工程(1)および工程(2)を含むことを特徴とする、水なし平版印刷版の製造方法。
工程(1) 請求項1~
6のいずれかに記載の水なし平版印刷版原版にレーザーを照射する工程
工程(2) 工程(1)の後、レーザーが照射された部分のシリコーンゴム層を除去することにより画線部を形成する工程。
【請求項8】
さらに工程(i)および工程(ii)の少なくとも一方を有する、請求項
7に記載の水なし平版印刷版の製造方法。
工程(i) 前記工程(2)の前に、シリコーンゴム層のレーザー照射された部分を脆弱化させる前処理工程
工程(ii) 前記工程(2)の後に、シリコーンゴム層が除去された画線部を着色する後処理工程。
【請求項9】
最大磁力が0.10~1.00テスラの常磁性体に磁力の作用で装着された、請求項1~
6のいずれかに記載の水なし平版印刷版原版に画像部が形成された水なし平版印刷版。
【請求項10】
(a)請求項1~
6のいずれかに記載の水なし平版印刷版原版、および
(b)少なくとも常磁性体シートと強磁性体の基板を有する積層体
を重ね合わせた印刷版原版集合体。
【請求項11】
(a)請求項1~
6のいずれかに記載の水なし平版印刷版原版に画線部が形成された水なし平版印刷版、および
(b)少なくとも常磁性体シートと強磁性体の基板を有する積層体
を重ね合わせた印刷版集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水なし平版印刷版原版、およびその原版を用いた水なし平版印刷版の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料缶やエアロゾル缶などに用いられる2ピース缶やチューブのような円筒形状容器の胴部への曲面印刷には、刷版と、刷版からインキ層を受領してこれを缶体胴部に転写させるためのブランケットとの組み合わせが使用されており、刷版として樹脂凸版や水なし平版が使用されている。2ピース缶印刷では、樹脂凸版を用いる印刷方式、すなわち凸版ドライオフセット方式が主流であり、耐久性に優れる鉄基板上に、サブミリ~ミリ単位の凹凸レリーフを形成する感光層を備えた樹脂凸版を用いる事で、高速印刷での大量印刷が可能である。しかし、画線部や網点部の太りが大きいため、文字や網点画像の潰れが発生し、また網点のAMスクリーン線数が120線/インチ程度と低く、個々の網点が視認しやすくことから網点画像のざらつきや網点相互の干渉による縞模様或いはローゼット模様が目立ち、十分な印刷品質を得ることが難しかった。
【0003】
さらに近年、販促のために高精細・高加飾性の飲料缶が求められる市場環境もあり、アルミニウム基板とシリコーンゴム層の間に、レーザー感熱層を設けた2ピース缶印刷用水なし平版が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、従来の凸版ドライオフセット方式では、画線部や網点部の太りが大きいため、文字や網点画像の潰れが発生し、また網点のAMスクリーン線数が120線/インチ程度と低く、個々の網点が視認しやすいことから網点画像のざらつきや網点相互の干渉による縞模様或いはローゼット模様が目立ち、十分な印刷品質を得ることが難しかった。
【0006】
また、2ピース缶の印刷機は、高速大量印刷に適した樹脂凸版を使用する事を前提に開発された印刷機が大多数を占めている。樹脂凸版では耐久性の観点から高強度の鉄基板を有しており、印刷機の版を装着する版胴は、鉄基板を容易かつ強固に固定できるマグネット式版胴が多い。マグネット式版胴は機械的に版の両端を固定するクランプがないため、反磁性の金属であるアルミニウム基板の水なし平版は装着することができない。したがって、アルミニウム基板の水なし平版を用いて2ピース缶を印刷する場合は、クランプ式の版胴を印刷機1台あたり通常8色分を新調する必要があるという課題があった。
【0007】
さらに、平版に用いられるアルミニウム基板は印刷顧客での再利用性を高めるため、純度の高いアルミニウムを用いている。高純度のアルミニウムは柔らかく、削れやすいことから、高速印刷時に印刷版が変形、あるいは摩耗しやすく、印刷版の耐久性が不十分であるという課題もあった。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、マグネット式版胴に装着が可能で、耐久性に優れ、高精細な印刷が可能な水なし平版印刷版原版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明者らは、鋭意検討の結果、強磁性体の基板を有する水なし平版印刷版原版によって、マグネット式版胴で装着でき、耐久性に優れ、高精細な印刷が可能となることを見出した。
すなわち、本発明は、基板上に少なくとも感熱層およびシリコーンゴム層を有し、基板が強磁性体であり、前記強磁性体の基板のロックウェル硬さHR30TSmが60~80の範囲内であり、前記強磁性体の基板の降伏点Ypが300MPa~2.0GPaの範囲内であることを特徴とする水なし平版印刷版原版である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る水なし平版印刷版原版は、マグネット式版胴に装着が可能になり、耐久性および網点再現性が向上するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(水なし平版印刷版原版)
本発明に係る水なし平版印刷版原版は、強磁性体の基板上に、少なくとも感熱層およびシリコーンゴム層を有する。本発明に係る水なし平版印刷版原版は、この原版の画線部(インキ着肉部)を形成すべき部分にレーザーを照射することにより、感熱層を発熱させて、感熱層とシリコーンゴム層の界面を脆弱化させ、シリコーンゴム層を除去した部分を画線部としている。シリコーンゴム層の上に、シリコーンゴム層を保護するカバーフィルムを設置しても良いが、画線部を形成する現像工程以前に剥離除去すべきである。
【0012】
[シリコーンゴム層]
本発明に係る水なし平版印刷版原版に適用するシリコーンゴム層は、インキを反発する機能を有し、ポリオルガノシロキサンの架橋物であるシリコーンゴム層が好ましく使用できる。その中でも付加反応型シリコーンゴム層組成物もしくは縮合反応型シリコーンゴム層組成物を塗布して得られる層、またはこれらの組成物の溶液を塗布、乾燥して得られる層が挙げられる。
【0013】
シリコーンゴム層の厚さは1.0~20.0μmが好ましく、2.0~8.0μmがより好ましく、3.0~5.0μmが最も好ましい。厚さが1.0μm以上であれば、印刷に必要な耐刷力が得られ、厚さが20.0μm以下であれば、レーザー照射部のシリコーンゴム層が除去可能となる。2ピース缶印刷に用いるには、少なくとも20万缶の印刷に耐えうる耐久性と、高精細な絵柄を形成するために、シリコーンゴム層の重量換算厚さが3.4~10.0g/m2の範囲内であることが好ましく、3.6~8.0g/m2の範囲内である事がより好ましい。本明細書において、シリコーンゴム層の重量換算厚さとは、シリコーンゴム層1m2あたりの重量(g)をいう。
【0014】
付加反応型のシリコーンゴム層組成物は、少なくともビニル基含有オルガノポリシロキサン、複数のヒドロシリル基を有するSiH基含有化合物(以下、「付加反応型架橋剤」と称する。)および硬化触媒を含むことが好ましい。さらに、反応抑制剤を含有してもよい。
【0015】
ビニル基含有オルガノポリシロキサンは、下記一般式(I)で表される構造を主鎖として有し、主鎖末端もしくは主鎖中にビニル基を有するものである。ここで主鎖中にビニル基を有するとは、主鎖を形成するケイ素または炭素がビニル基を有することをいう。中でも主鎖末端にビニル基を有するものが好ましい。これらを2種以上含有してもよい。
-(SiR1R2-O-)n- (I)
一般式(I)中、nは2以上の整数を示す。R1およびR2は炭素数1~50の飽和または不飽和の炭化水素基を表す。炭化水素基は直鎖状でも枝分かれ状でも環状でもよく、芳香環を含んでいてもよい。R1およびR2は同じであっても異なっていてもよい。一般式(I)のポリシロキサンに複数存在するR1は相互に同じであっても異なっていてもよい。また一般式(I)のポリシロキサンに複数存在するR2は相互に同じであっても異なっていてもよい。上記一般式(I)中、R1およびR2は全体の50%以上がメチル基であることが、印刷版のインキ反発性の面で好ましい。また、取扱い性や印刷版のインキ反発性、耐傷性の観点から、ビニル基含有オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は1万~60万が好ましい。
【0016】
SiH基含有化合物としては、例えば、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、ジオルガノハイドロジェンシリル基を有する有機ポリマーが挙げられ、好ましくはオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。これらを2種以上含有してもよい。
【0017】
SiH基含有化合物の含有量は、シリコーンゴム層になるための硬化性の観点から、シリコーンゴム層組成物中0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。また、硬化速度の制御しやすさから、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0018】
反応抑制剤としては、含窒素化合物、リン系化合物、不飽和アルコールなどが挙げられ、アセチレン基含有アルコールが好ましく用いられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの反応抑制剤を含有することにより、シリコーンゴム層の硬化速度を調整することができる。反応抑制剤の含有量は、シリコーンゴム層組成物やその溶液の安定性の観点から、シリコーンゴム層組成物中0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。また、シリコーンゴム層の硬化性の観点から、シリコーンゴム層組成物中20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0019】
硬化触媒は公知のものから選ぶことができる。好ましくは白金系化合物であり、具体的には白金単体、塩化白金、塩化白金酸、オレフィン配位白金、白金のアルコール変性錯体、白金のメチルビニルポリシロキサン錯体などを挙げることができる。これらを2種以上含有してもよい。硬化触媒の含有量は、シリコーンゴム層の硬化性の観点から、シリコーンゴム層組成物中0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましい。また、シリコーンゴム層組成物やその溶液の安定性の観点から、シリコーンゴム層組成物中20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0020】
また、これらの成分の他に、水酸基含有オルガノポリシロキサンや加水分解性官能基含有シランもしくはこの官能基を含有するシロキサン、ゴム強度を向上させる目的でシリカなどの公知の充填剤、接着性を向上させる目的で公知のシランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤としては、アルコキシシラン類、アセトキシシラン類、ケトキシイミノシラン類などが好ましく、またビニル基やアリル基がケイ素原子に直結したものが好ましい。
【0021】
縮合反応型のシリコーンゴム層組成物は、少なくとも水酸基含有オルガノポリシロキサン、架橋剤および硬化触媒を原料とすることが好ましい。
【0022】
水酸基含有オルガノポリシロキサンは、前記一般式(I)で表される構造を有し、主鎖末端もしくは主鎖中に水酸基を有するものである。ここで主鎖中に水酸基を有するとは、主鎖を形成するケイ素または炭素が水酸基を有することをいう。中でも主鎖末端に水酸基を有するものが好ましい。これらを2種以上含有してもよい。
【0023】
縮合反応型のシリコーンゴム層組成物に含まれる架橋剤としては、下記一般式(II)で表される、脱酢酸型、脱オキシム型、脱アルコール型、脱アセトン型、脱アミド型、脱ヒドロキシルアミン型などのケイ素化合物を挙げることができる。
(R3)4-mSiXm (II)
式中、mは2~4の整数を示し、R3は同一でも異なってもよく、炭素数1以上の置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらの組み合わされた基を示す。Xは同一でも異なってもよく、加水分解性基を示す。加水分解性基としては、アセトキシ基などのアシロキシ基(脱酢酸型)、メチルエチルケトキシイミノ基などのケトキシイミノ基(脱オキシム型)、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基(脱アルコール型)、イソプロペノキシ基などのアルケニルオキシ基(脱アルコール型)、アセチルエチルアミノ基などのアシルアルキルアミノ基(脱アミド型)、ジメチルアミノキシ基などのアミノキシ基(脱ヒドロキシルアミン型)などが挙げられる。上記式において、加水分解性基の数mは3または4であることが好ましい。
【0024】
なかでもシリコーンゴム層の硬化速度、取扱い性などの観点から、アセトキシシラン類、ケトキシイミノシラン類が好ましく、具体的にはメチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、テトラアセトキシシラン、フェニルトリス(メチルエチルケトキシイミノ)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトキシイミノ)シラン、テトラキス(メチルエチルケトキシイミノ)シランが挙げられ、これらを2種以上含有してもよい。
【0025】
上記架橋剤は、水酸基含有オルガノポリシロキサンと混合することにより、架橋剤とシラノール基とが反応することにより、シラノール基に代わって架橋剤が結合したオルガノシロキサンとなることがある。したがって、縮合反応型のシリコーンゴム層組成物においては、架橋剤が結合したオルガノシロキサンはあるが、シラノール基を有するオルガノシロキサンはないという場合もある。
【0026】
縮合反応型のシリコーンゴム層組成物における架橋剤の添加量は、シリコーンゴム層組成物やその溶液の安定性の観点から、シリコーンゴム層組成物中0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。また、シリコーンゴム層の強度や印刷版の耐傷性の観点から、シリコーンゴム層組成物中20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0027】
縮合反応型のシリコーンゴム層組成物に含まれる硬化触媒としては、有機カルボン酸、酸類、アルカリ、アミン、金属アルコキシド、金属ジケテネート、錫、鉛、亜鉛、鉄、コバルト、カルシウム、マンガンなどの金属の有機酸塩などが挙げられる。具体的には、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジラウレート、オクチル酸亜鉛、オクチル酸鉄などを挙げることができる。これらを2種以上含有してもよい。
【0028】
縮合反応型のシリコーンゴム層組成物における硬化触媒の含有量は、シリコーンゴム層の硬化性、接着性の観点から、シリコーンゴム層組成物中0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましい。また、シリコーンゴム層組成物やその溶液の安定性の観点から、シリコーンゴム層組成物中15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0029】
シリコーンゴム層のインキ反発性を向上させる目的で、インキ反発性の液体(1気圧における沸点が150℃以上)を添加しても良い。印刷時に版面が加圧されたとき、インキ反発層表面にインキ反発性の液体が表出し、インキの剥離を助けることでインキ反発性を向上させる。沸点が150℃以上であれば、水なし平版印刷版原版を製造時に揮発することが少なく、この液体の添加によって得られるインキ反発性の効果を失うことがない。ここでいう沸点は、1気圧の環境下で1時間静置したのちの質量減少量が、0.5質量%以上になる温度で定義される。言い換えると、この液体は、150℃、1気圧環境下で1時間静置したのちの質量減少が0.5質量%未満である。そうであれば、この液体の添加によるインキ反発性の効果を失うことが少ない。
【0030】
インキ反発性の液体は、シリコーン化合物であることが好ましく、シリコーンオイルがより好ましい。本発明で言うシリコーンオイルとは、インキ反発層の架橋に携わらないフリーのポリシロキサン成分のことを指す。これらシリコーンオイルの分子量は、標品にポリスチレンを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができ、重量平均分子量Mwが1000~10万のものが好ましい。
【0031】
[感熱層]
本発明に係る水なし平版印刷版原版に適用する感熱層としては、従来の水なし平版印刷版原版に適用されていた感熱層をすべて使用することができる。具体的には、少なくとも(a)光熱変換物質と(b)金属キレート化合物と、(c)活性水素含有化合物、および(d)バインダー樹脂を含有する組成物から成る感熱層を例示できる。感熱層は、レーザー照射される前に予め金属キレート化合物(b)と活性水素含有化合物(c)により架橋構造が形成されていることが好ましく、これにより、レーザーが照射された部分の感熱層とシリコーンゴム層間の接着力が低下し、その後の処理によって、レーザー光を照射した部分のシリコーンゴム層が除去されて、ネガ型の水なし平版印刷版が得られる。
【0032】
<光熱変換物質(a)>
光熱変換物質(a)としては、レーザー光を吸収するものであれば特に限定されず使用できる。レーザー光の波長としては、紫外域、可視域、赤外域のどの領域の波長であってもよく、使用するレーザー光の波長に合わせた吸収域を有する光熱変換物質を適宜選択して使用することができるが、特に、カーボンブラックを好適に使用できる。また赤外線または近赤外線を吸収する染料も、光熱変換物質として使用することができ、最大吸収波長が700~1200nmの範囲にある染料を好適に使用することができる。最大吸収波長が700~900nmの範囲にある染料を用いることがより好ましい。これらの光熱変換物質の含有量は、感熱層を構成する組成物全体に対して0.1~40質量%が好ましく、より好ましくは0.5~25質量%である。
【0033】
<金属キレート化合物(b)>
金属キレート化合物(b)としては、金属ジケテネート、金属アルコキサイド、アルキル金属、金属カルボン酸塩類、酸化金属キレート化合物、金属錯体、ヘテロ金属キレート化合物等を例示することができる。金属キレート化合物のうち、特に好ましく用いられる化合物としては、アルミニウム、鉄(III)、チタンのアセチルアセトネート(ペンタンジオネート)、エチルアセトアセトネート(ヘキサンジオネート)、プロピルアセトアセトネート(ヘプタンジオネート)、テトラメチルヘプタンジオネート、ベンゾイルアセトネート類などを挙げることができ、これらは単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用することもできる。感熱層における金属キレート化合物の含有量は、後述する活性水素基含有組成物(C)100質量部に対して5~300質量部、特に10~150質量部の量であることが好ましい。
【0034】
<活性水素基含有化合物(c)>
活性水素基含有化合物(c)としては、水酸基含有化合物、アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、チオール基含有化合物などが挙げられるが、水酸基含有化合物が好ましい。水酸基含有化合物としては、フェノール性水酸基含有化合物又はアルコール性水酸基含有化合物の他、エポキシアクリレート、エポキシメタクリレート、ポリビニルブチラール樹脂、および公知の方法によって水酸基を導入したポリマーなどを例示することができる。活性水素基含有化合物(c)の含有量は、感熱層を構成する組成物全体に対して5~80質量%、特に20~60質量%の範囲にあることが好ましい。
【0035】
<バインダーポリマー(d)>
バインダーポリマー(d)は、有機溶剤に可溶でかつフィルム形成能のあるものであれば特に限定されない。有機溶剤に可溶でかつフィルム形成能があり、さらに形態保持の機能をも果たすバインダーポリマーの具体例としては、これに限定されないが、ビニルポリマー類、未加硫ゴム、ポリオキシド類(ポリエーテル類)、ポリエステル類、ポリウレタン類、ポリアミド類等を例示することができ、これらの一種又は数種を混合して使用することもできる。バインダーポリマーの含有量は、感熱層を構成する組成物全体に対して5~70質量%、特に10~50質量%の範囲にあることが好ましい。
【0036】
<その他>
感熱層には、レベリング剤、界面活性剤、分散剤、可塑剤、カップリング剤等を必要に応じて任意に添加することができる。特に基板又はプライマー層、或いはシリコーンゴム層との接着性を高めるために、シランカップリング剤などの各種カップリング剤や不飽和基含有化合物を添加することが好ましい。感熱層の厚さは、耐刷性や生産性等の点から、0.1~10μm、特に1~7μmの範囲にあることが好ましい。
【0037】
[基板]
本発明に係る水なし平版印刷版原版に使用する基板は、強磁性体であり、かつ寸法的に安定な板状物である。強磁性体の基板を用いることで、マグネットの作用で固定を行う版胴、すなわちマグネット式版胴を備える印刷機、例えば2ピース缶印刷機であるコンコルド機、ラザフォード機(いずれもストーレ・マーシナリー・カンパニー製)の印刷に用いることができる。
【0038】
強磁性体の基板材料として、飽和磁化が0.3テスラ以上の材料であればマグネット式版胴に強固に固定できるため好ましい。飽和磁化はJIS C 2501:2019の記載の方法で測定した磁化曲線から求められる。商業的な使用の観点から、飽和磁化が10テスラ以下であることが好ましい。具体的には、鉄(2.2テスラ)、コバルト(1.8テスラ)、ニッケル(0.6テスラ)、およびこれらの合金や酸化物が好ましい。なかでも、鉄、鉄酸化物、鉄の合金は安価かつ強靱であるのでより好ましく用いられる。基板の厚さは、特に制限はないが、版胴への取り付け性や強度、重量等の点から、0.1~0.5mmの範囲にあることが好ましく、0.15mm~0.32mmがより好ましい。また、ポリエステルフィルムなどのプラスチックフィルムに強磁性体の材料を蒸着あるいはメッキ処理などで積層した基板も使用する事ができる。
【0039】
強磁性体の基板材料として、ロックウェル硬さHR30TSmが50~99の範囲内である事が好ましく、53~80の範囲がより好ましい。ロックウェル硬さHR30TSmはJIS Z 2245:2016に記載の方法で測定できる。ロックウェル硬さHR30TSmが60以上であれば、常磁性体のマグネット式版胴から取り外す時に、基板材料に折れや凹みの発生を抑制できるので好ましい。ロックウェル硬さHR30TSmは一般的に基板シート製造時の熱間圧延の温度や回数、冷間圧延回数を増やすことや炭素の配合量を増やす事で硬くすることができる。商業的な使用の観点から、99以下が好ましく、80以下がより好ましい。
【0040】
強磁性体の基板材料として、降伏点Ypが300MPa~2.0GPaの範囲内である事が好ましく、400~1.0GPaの範囲である事がより好ましく、400~650MPaであることがさらに好ましい。降伏点YpはJIS Z 2241:2011に記載の方法で測定できる。2ピース缶印刷では、常磁性体であるマグネット式版胴で印刷版を装着する方式が主流で、版の装着が容易である事から日本以外の製缶メーカーのほとんどがマグネット式版胴を採用している。2ピース缶印刷の主流である6色~8色印刷では、各色に対応する印刷版の絵柄の見当を精度良く合わせる課題が存在するため、マグネット式版胴にピンを設け、印刷版に版胴のピン位置に対応したピン穴を設けることにより印刷している。印刷中の版胴回転力によって、ピン穴が広がり、印刷版の位置がずれることを抑制するため、降伏点Ypは300MPa以上が好ましい。降伏点Ypは基板シート製造時の熱間圧延や冷間圧延回数を増やすことや高温でエージングすることで大きくすることが可能である。降伏点Ypは、商業的な使用の観点から2.0GPa以下が好ましい。
【0041】
水なし平版と同じオフセット印刷版である、湿し水を使用するPS版では、砂目立てや陽極酸化で表面に多孔質を形成したアルミニウム基板に、インキを反発させる湿し水を保持させる。例えば、日本国特開昭60-38194号公報には、鉄基板を使用したPS版が提案されているが、ロングランの使用で湿し水により鉄基板に錆びが生じて、湿し水保持機能の低下や印刷物に錆びが転写するなどの問題があり、鉄基板を使用するPS版は実用的ではない。一方、シリコーンゴム層によりインキを反発する水なし平版では、湿し水を使用しないので鉄基板の錆び問題とは無縁であり、鉄基板の使用が可能で、実用上も問題ないことが分かった。
【0042】
本発明において、強磁性体の基板を有する水なし平版印刷版原版は、最大磁力が0.10~1.00テスラの常磁性体に磁力の作用で装着することができる。また、最大磁力が0.10~1.00テスラの常磁性体に磁力の作用で装着された水なし平版印刷版原版に、画像部を形成することによって水なし平版印刷版を得ることができる。また、強磁性体の基板を有し、画像部が形成された水なし平版印刷版は、最大磁力が0.10~1.00テスラの常磁性体に磁力の作用で装着することができる。マグネット式版胴に代表される常磁性体は、強磁性体の基板を磁力で強力に固定、装着できる。マグネット式版胴は、版胴に強磁力の磁石が埋め込まれた構造の常磁性体であり、その磁力は、磁石の埋め込まれた部分とそうでない部分とで差があるが、ガウスメーターで測定した最大となる部分の磁力は0.10~1.00テスラが好ましく、0.12~0.50テスラがより好ましく、0.14~0.30テスラが最も好ましい。ここで、最大となる部分の磁力とは、マグネット式版胴の全面をガウスメーターで測定し、最大となった部分の磁力をいう。最大磁力が0.10テスラ以上の常磁性体であれば、印刷中も本発明の強磁性体の基板を有する水なし平版印刷版を強固に固定できるため好ましい。最大磁力が1.00テスラ以下であれば、常磁性体から本発明の強磁性体の基板を有する水なし平版印刷版を、折れ曲がりなどの不具合なく取り外すことができるため好ましい。
【0043】
本発明の水なし平版印刷版原版は、強磁性体の基板上に少なくとも感熱層およびシリコーンゴム層を有しており、後述する露光工程を経て、印刷可能な水なし平版印刷版となる。オフセット印刷版(平版)および樹脂凸版ともに、外面ドラム式の版胴に印刷版原版を装着した上で画像状にレーザーを描画する場合が多い。露光装置の外面式ドラムの版胴が最大磁力0.10テスラ以上の常磁性体であれば、例えば真空吸着のような別方式での手段がなくても、本発明の強磁性体の基板を有する水なし平版印刷版原版を固定することができるため好ましい。
【0044】
[その他の層]
本発明に係る水なし平版印刷版原版は、基板と感熱層の接着性を向上させると共に、照射されたレーザーによる熱が基板に逃げることを防ぐために、基板とレーザー感熱層の間にプライマー層を設けることが好ましい。プライマー層としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノ-ル樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、尿素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等を含むものが挙げられる。これらの中では、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂等を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることが好ましい。またプライマー層中に、顔料、染料等の添加剤を含有させて検版性を向上させることもできる。プライマー層の厚さは、0.5~50μm、特に1~10μmの範囲にあることが好ましい。プライマー層の厚さが、上記範囲よりも薄い場合には、接着性および上述したプライマー層による断熱効果が充分に得られないおそれがある一方、上記範囲よりも厚くても更なる効果は望めず、経済性に劣るようになる。
【0045】
シリコーンゴム層の表面に、シリコーンゴム層を保護するためのカバーフィルムが設けてもよい。カバーフィルムとしては、レーザー光を良好に透過可能なフィルムであることが好ましく、これに限定されないが、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、また各種金属を蒸着したフィルム等を例示できる。
【0046】
本発明に係る水なし平版印刷版原版は、様々な被印刷体を印刷する印刷版として使用することができる。被印刷体としては、アート紙、コート紙、キャスト紙、合成紙、クロス紙、新聞用紙、アルミ蒸着紙、金属、プラスチックフィルムなどが挙げられる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタールなどのプラスチックフィルム、プラスチックフィルムが紙上にラミネートされたプラスチックフィルムラミネート紙、アルミニウム、亜鉛、銅などの金属がプラスチック上に蒸着された金属蒸着プラスチックフィルムが挙げられる。金属としては、2ピース缶や3ピース缶に用いられるアルミニウム、鉄等が挙げられる。被印刷体の形状としては、ウェブ状コイル(連続シート)、3ピース缶の様な枚葉シート、2ピース缶やチューブの様な筒状が挙げられる。2ピース缶は、主に飲料缶やエアロゾル缶に使用される。マグネット式版胴が多く導入されている点から、2ピース缶印刷用またはチューブ印刷用水なし平版印刷版原版として使用することが好ましく、2ピース缶印刷用水なし平版印刷版原版として使用することがより好ましい。
【0047】
[水なし平版印刷版原版の製造方法]
本発明に係る水なし平版印刷版原版は、従来公知の方法により製造することができ、これに限定されないが、基板上に、リバースロールコーター、エアーナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター等の通常のコーターや回転塗布装置を用い、必要に応じてプライマー層組成物を塗布し100~300℃で適当時間加熱あるいは活性光線照射により硬化させた後、感熱層組成物を塗布し50~180℃で適当時間加熱して硬化させる。次いで、シリコーンゴム層組成物を塗布し50~200℃の温度で適当時間加熱してシリコーンゴム層を形成し、その後、必要に応じてカバーフィルムをラミネートするか、保護層を形成することにより製造される。
【0048】
[水なし平版印刷版の製造方法]
本発明に係る水なし平版印刷版の製造方法は、次の工程(1)および工程(2)を含む。
工程(1) 本発明に係る2ピース缶印刷用水なし平版印刷版原版にレーザーを照射する工程。
工程(2) 工程(1)の後、レーザーが照射された部分のシリコーンゴム層を除去することにより画線部を形成する工程。
【0049】
強磁性の基板上に少なくとも感熱層およびシリコーンゴム層を有する原版の画線部(インキ着肉部)を形成すべき部分にレーザーを照射することにより、感熱層を発熱させて、感熱層とシリコーンゴム層の界面を脆弱化させることができる。また、本発明において、シリコーンゴム層を除去した部分を画線部としている。シリコーンゴム層の上に、シリコーンゴム層を保護するカバーフィルムが設置されている場合、レーザー露光時はカバーフィルム上から実施しても良いし、カバーフィルムを剥離した後に実施しても良いが、画線部を形成する現像工程以前に剥離除去すべきである。
【0050】
[露光工程]
本発明に係る水なし平版印刷版の製造方法において、原版へのレーザー照射は従来公知の方法により行うことができるが、通常のオフセット印刷版用の露光機はアルミニウム基板仕様に開発されたものが多く、使用可能な露光機を見極める必要がある。平面状の移動可能な露光台およびこの露光台の進行方向に対して直角方向に走査可能なレーザー照射装置を有する露光機であれば、基板の材質に関係なく使用が可能なので好適に使用できる。この様な露光機として、MultiDX!(Luescher社製平台式露光機)が挙げられる。
【0051】
強磁性の基板が鉄、鉄酸化物、あるいは鉄の合金であれば、オフセット印刷版・樹脂凸版兼用の露光機も使用可能である。例えば、FX870II((株)スクリーングラフィックソリューションズ製)が挙げられ、鉄基板をマグネット式外面ドラムで強固に固定できることが特徴である。
【0052】
レーザー照射に際して、原版がカバーフィルムを有する場合には、カバーフィルムを剥離してから、あるいはカバーフィルム上からレーザー光で画像状に露光する。レーザー光源としては、発信波長領域が300nm~1500nmの範囲にある、アルゴンイオン、クリプトンイオン、ヘリウム-ネオン、ヘリウム-カドミウム、ルビー、ガラス、YAG、チタンサファイア、色素、窒素、金属蒸気、エキシマ、自由電子、半導体などの各種レーザーを使用することができ、特に近赤外領域付近に発光波長領域が存在する半導体レーザーを好適に使用することができる。またこれに限定されないが、レーザー発振器の出力は1~200W、レーザービームのスポット径は5~20μmが好ましく、レーザービームの走査速度は、30~1,200m/分の範囲にあることが好ましく、30~800m/分の範囲にあることがより好ましい。
【0053】
[現像工程]
上記露光工程でレーザー照射した部分のシリコーンゴム層を除去することにより、画線部を現像する。現像は、水又は有機溶剤の存在もしくは非存在下での摩擦処理により行うことが好適であるが、これに限定されず、カバーフィルムを剥離することによって刷版上にパターンを形成する、いわゆる剥離現像によって行うことも可能である。現像処理を行う場合に使用される現像液としては、従来公知のものを使用することができ、これに限定されないが、例えば、水や、水に界面活性剤を添加したもの、さらには水にアルコールやケトン、エステル、カルボン酸等の極性溶媒を添加したものや、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、イソパラフィン系炭化水素など)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素類(トリクレンなど)などに極性溶媒を添加したものを挙げることができる。
【0054】
摩擦処理による現像は、現像液の存在下もしくは非存在下で、版面を摺擦することによって行う。具体的には、不織布、脱脂綿、布、スポンジ、ブラシ等で版面を擦ることによって、或いは現像液を含浸した不織布、脱脂綿、布、スポンジ等で版面を拭き取ることによって行うことができる。
【0055】
さらに本発明に係る平版印刷版の製造方法は、次の工程(i)および工程(ii)の少なくとも一方を有することが好ましい。
工程(i) 工程(2)の前に、シリコーンゴム層のレーザー照射された部分を脆弱化させる前処理工程。
工程(ii) 工程(2)の後に、シリコーンゴム層が除去された画線部を着色する後処理工程。
【0056】
シリコーンゴム層を除去する工程(2)の前に、シリコーンゴム層のレーザー照射された部分を脆弱化させるため、前処理液中に一定時間、印刷版を浸漬する前処理工程(i)を行ってもよい。このような前処理液としては、例えば、水や水にアルコールやケトン、エステル、カルボン酸などの極性溶媒を添加したもの、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類などの少なくとも1種を含有する溶媒に極性溶媒を添加したもの、あるいは極性溶媒が用いられる。また、上記の前処理液組成には、公知の界面活性剤を添加することもできる。界面活性剤としては、安全性、廃棄する際のコストなどの点から、水溶液にしたときにpHが5~8になるものが好ましい。界面活性剤の含有量は前処理液の10質量%以下であることが好ましい。このような前処理液は安全性が高く、廃棄コストなどの経済性の点でも好ましい。さらに、グリコール化合物あるいはグリコールエーテル化合物を主成分として用いることが好ましく、アミン化合物を共存させることがより好ましい。前処理液の具体例としては、CP-Y、CP-X、NP-1、DP-1(何れも東レ(株)製)などを挙げることができる。
【0057】
さらにまた、前処理液又は現像液に一定時間、印刷版を浸漬し、レーザー照射された部分を脆弱化させる前処理を行った後に、水道水等をシャワーしながら回転ブラシで摺擦することや、高圧の水や温水、または水蒸気を版面に噴射することによっても印刷版の現像を行うことができる。尚、現像液にクリスタルバイオレット、ビクトリアピュアブルー、アストラゾンレッド等の公知の染料を添加して現像と同時に画線部を着色してもよいし、或いは、現像後、後処理工程(ii)としてシリコーンゴム層が除去された画線部を着色して、画線部を目立たせる処理を行うこともできる。画線部を着色する後処理液の具体例としては、PA-1、NA-1(何れも東レ(株)製)などを挙げることができる。
【0058】
上記前処理工程(i)、シリコーンゴム層を除去する工程(2)および後処理工程(ii)の一部または全部は、自動現像機により自動的に行うこともできる。自動現像機としては以下の装置が使用できる。現像部のみの装置、前処理部および現像部がこの順に設けられた装置、前処理部、現像部、後処理部がこの順に設けられた装置、前処理部、現像部、後処理部、水洗部がこの順に設けられた装置など。このような自動現像機の具体例としては、TWL-650シリーズ、TWL-860シリーズ、TWL-1160シリーズ(共に東レ(株)製)などや、日本国特開平5-6000号公報に記載されるような版の裏面の傷発生を抑制するために受台を曲面状にへこませている自動現像機などが挙げられる。これらを組み合わせて使用してもよい。
【0059】
[少なくとも常磁性体シートと強磁性体の基板を有する積層体]
マグネット式版胴を備える印刷機、例えば2ピース缶印刷機であるコンコルド機、ラザフォード機(いずれもストーレ・マーシナリー・カンパニー製)の印刷には、通常0.83mm厚の樹脂凸版が使用される事が多い。樹脂凸版の原版の主な構成は、厚さ0.23~0.25mmのスチール基板上に、およそ厚さ0.6mmの感光層が形成されており、感光層に印刷画像のレリーフを形成して、印刷可能な刷版となる。これに対し、本発明の水なし平版印刷版原版の主な構成は、強磁性体の基板上に、機能層である感熱層やシリコーンゴム層が形成されており、機能層の厚さがμmオーダーであることから、原版に印刷画像を形成した刷版の厚さは、強磁性体の基板の厚さがほとんどを占め、版胴への取り付け性や強度、重量等の点から、強磁性体の基板の厚さは0.1~0.5mmの範囲にあることが好ましく、0.15mm~0.32mmがより好ましい。樹脂凸版の装着に用いているマグネット式版胴を、そのまま本発明の強磁性体の基板を有する水なし平版印刷版にも使用することができれば、製缶メーカーはマグネット式版胴を新調するコストを削減できる。しかし、水なし平版印刷版の版厚に比べ樹脂凸版印刷版の版厚が大きいため、水なし平版印刷版の版厚を補正するという課題がある。樹脂凸版の版厚まで嵩上げする、いわゆる版下シートを、本発明の水なし平版印刷版とマグネット式版胴の間に挿入することで、低コストで印刷版の版厚を補正することができる。しかし、商業印刷などで版下シートとして一般的に用いられる紙やフィルムは反磁性体であり、常磁性体であるマグネット式版胴の磁力を減衰させ、本発明の強磁性体の基板を有する水なし平版印刷版を強固に固定できないため、実用するのは困難である。この課題を解決するため、本発明では、少なくとも常磁性体シートと強磁性体の基板を有する積層体を、版下シートとして使用することにより、マグネット式版胴の磁力を減衰させることなく安価に印刷版の版厚を補正することができる。具体的には、(a)本発明に係る水なし平版印刷版原版、および(b)少なくとも常磁性体シートと強磁性体の基板を有する積層体を重ね合わせた印刷版原版集合体を用いることができる。さらに、(a)本発明に係る水なし平版印刷版原版に画像部が形成された水なし平版印刷版、および(b)少なくとも常磁性体シートと強磁性体の基板を有する積層体を重ね合わせた印刷版集合体を用いることができる。常磁性体シートは1枚で使用しても、複数枚で使用してもよいが、複数枚使用する場合は、重ねるのではなく、並列に並べるように使用する。強磁性体であるマグネット式版胴側に、積層体の強磁性体の基板が接し、本発明の水なし平版印刷版の強磁性体の基板側に、常磁性体シートの着磁面側が接するように、マグネット式版胴と本発明の水なし平版印刷版の間に、版下シートを挿入する。常磁性体シートは、磁力を有するシートであれば特に限定されないが、例えばネオジウムやフェライトで着磁した公知のマグネットシートを使用することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
[実施例1]
水なし平版印刷版原版1を以下の方法で作製した。厚さ0.30mmの脱脂した鉄基板“ハイトップ”T-4CA(東洋鋼鈑(株)製、JIS C 2501:2019に記載の方法で測定した飽和磁化:2.2テスラ、JIS Z 2245:2016に記載の方法で測定したロックウェル硬さHR30TSm:61、JIS Z 2241:2011に記載の方法で測定した降伏点Yp:468MPa)上に下記のプライマー層組成物溶液を塗布し、200℃で120秒間乾燥し、厚さ6.0μmのプライマー層を設けた。なお、プライマー層組成物溶液は、下記成分を室温にて撹拌混合することにより得た。
<プライマー層組成物溶液>
(a)エポキシ樹脂:"エピコート"(登録商標)1010(ジャパンエポキシレジン(株)製):35質量部
(b)ポリウレタン:"サンプレン"(登録商標)LQ-T1331D(三洋化成工業(株)製、固形分濃度:20質量%):375質量部
(c)アルミキレート:アルミキレートALCH-TR(川研ファインケミカル(株)製):10質量部
(d)レベリング剤:"ディスパロン"(登録商標)LC951(楠本化成(株)製、固形分:10質量%):1質量部
(e)酸化チタン:"タイペーク"(登録商標)CR-50(石原産業(株)製)のN,N-ジメチルホルムアミド分散液(酸化チタン50質量%):60質量部
(f)N,N-ジメチルホルムアミド:730質量部
(g)メチルエチルケトン:250質量部。
【0061】
次いで、下記の感熱層組成物溶液を前記プライマー層上に塗布し、140℃で120秒間加熱乾燥し、厚さ1.4μmの感熱層を設けた。なお、感熱層組成物溶液は、下記成分を室温にて撹拌混合することにより得た。
<感熱層組成物溶液>
(a)赤外線吸収染料:"PROJET"825LDI(Avecia社製):20質量部
(b)有機錯化合物:チタニウム-n-ブトキシドビス(アセチルアセトネート):"ナーセム"(登録商標)チタン(日本化学産業(株)製、濃度:73質量%、溶剤としてn-ブタノール:27質量%を含む):25質量部
(c)フェノールホルムアルデヒドノボラック樹脂:"スミライトレジン"(登録商標)PR53195(住友ベークライト(株)製):88質量部
(d)ポリウレタン:"サンプレン"(登録商標)LQ-T1331D(三洋化成工業(株)製、固形分濃度:20質量%):25質量部
(e)テトラヒドロフラン:480質量部
(f)ジエチレングリコールモノメチルエーテル:150質量部
(g)エタノール:180質量部。
【0062】
次いで、塗布直前に調製した下記のシリコーンゴム層組成物溶液を前記感熱層上に塗布し、140℃で110秒間加熱し、厚さ3.8μm(重量換算厚さ:3.7g/m2)のシリコーンゴム層を設けることで水なし平版印刷版原版を得た。なお、シリコーンゴム層組成物溶液は、下記成分を室温にて撹拌混合することにより得た。
<シリコーンゴム層組成物溶液>
(a)α,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサン:DMS-S51(重量平均分子量139,000、ゲレスト(株)製):100質量部
(b)テトラキス(メチルエチルケトキシイミノ)シラン:12質量部
(c)ビニルトリス(メチルエチルケトオキシイミノ)シラン:3.0質量部
(e)ジブチルスズジアセテート:0.030質量部
(f)イソパラフィン系炭化水素溶剤"アイソパー"(登録商標)E(エッソ化学(株)製):900質量部。
このようにして得られた積層板に、カバーフィルムとして、厚さ6.5μmのポリプロピレンフィルム“トレファン”(東レ(株)製)を、カレンダーローラーでラミネートし、水なし平版印刷版原版1を得た。
【0063】
[比較例1]
基板として、厚さ0.30mmの脱脂した鉄基板“ハイトップ”T-4CA(東洋鋼鈑(株)製)を、厚さ0.30mmの脱脂したアルミニウム基板(合金番号:1050、質別:H18、三菱アルミ(株)製、飽和磁化:0.1テスラ未満)に変更し、プライマー層の乾燥時間を90秒に、感熱層の乾燥時間を90秒に、シリコーンゴム層の乾燥時間を80秒に変更した以外は実施例1と同様にして、水なし平版印刷版原版2を得た。比較例1のアルミニウム基板には降伏現象が発生しないので、弾性領域から塑性領域に移る0.2%耐力で代用するが、この値は150MPaと、実施例1の鉄基板に比べて強度が弱いのは明らかである。そのロックウェル硬さも測定下限値以下で、測定できなかった。
【0064】
[実施例2]~[実施例4]、[参照例5]
基板として、厚さ0.30mmの脱脂した鉄基板“ハイトップ”T-4CA(東洋鋼鈑(株)製)を表1,2に記載の鉄基板に変更した以外は、実施例1と同様にして、水なし平版印刷版原版3~6を得た。これら鉄基板の飽和磁化は、2.2テスラである。
【0065】
<水なし平版印刷版の製版>
実施例1~4、参照例5および比較例1の水なし平版印刷版原版に対し、CTP用露光機"PlateRite"FX870II((株)SCREENグラフィックソリューションズ製)を用いて、照射エネルギー:178mJ/cm2(ドラム回転数:420rpm)の条件で露光を行った。露光画像は、AM150線/インチ、AM175線/インチ、AM200線/インチ、AM230線/インチ、AM280線/インチ、FM20の網点グラデーションを用いた。露光した原版から、カバーフィルムを剥離後、前処理液としてCP-X(東レ(株)製)を、現像液として水道水を、後処理液としてPA-1(東レ(株)製)を用い、自動現像機TWL-1160F(東レ(株)製)に速度30cm/分で通し、水なし平版印刷版1~6を得た。
【0066】
[比較例2]
<樹脂凸版印刷版の製版>
飽和磁化:2.1テスラの鉄基板(ロックウェル硬さHR30TSm:55、降伏点Yp:270MPa)を有する樹脂凸版原版として、“トレリーフ”WS83HK2(東レ(株)製)を準備し、カバーフィルム側から、ケミカル灯FL20SBL-360 20ワット(三菱電機オスラム(株)製)を備えた製版装置DX-A3(タカノ(株)製)で、大気下で全面露光(露光量:2400mJ/cm2)し、感光層を全面架橋した。次いで、カバーフィルムを剥離後、レーザー彫刻機Adflex Direct 250L((株)コムテックス製)で架橋した感光層にレーザーをパターン照射して、感光層を彫刻した。彫刻条件は、表面速度:1000cm/秒、レーザー走査幅:10μm、TOPパワー:10%、BOTTOMパワー:100%、レリーフショルダー幅:0.3mmとした。彫刻画像はAM133線/インチおよびAM150線/インチの網点グラデーションを用いた。
その後、製版装置DX-A3を用いて、25℃の水道水で30秒間リンスを行い、その後、60℃の熱風乾燥機で10分間乾燥した。再度ケミカル灯で、大気下で全面露光(露光量:2400mJ/cm2)して、樹脂凸版印刷版を得た。
【0067】
<版胴装着評価1>
版胴装着用に、マグネット式版胴(MMC8-ENOC MODULAR Magnetic Cylinder, T. D. Wight, Inc.製、ガウスメーターで測定した最大磁力:0.14テスラ)およびクランプ式版胴(C1-ENOC-CLSR Speed Clamp Cylinder, T.D. Wight, Inc.製、ガウスメーターで測定した最大磁力:0.01テスラ未満)を準備した。いずれの版胴も、直径:125mm、周長:394mm、胴長:17.8mmで揃えた。評価する版は前記製版済みの水なし平版印刷版1~6(実施例1~4、参照例5、比較例1)、“トレリーフ”WS83HK2(東レ(株)製)の樹脂凸版印刷版(比較例2)を175mm×356mmのサイズに断裁した原版からカバーフィルムを剥離したものを用いた。
【0068】
実施例1~4、参照例5と比較例2は、基板として強磁性体の鉄が用いられているので、マグネット式版胴に磁力で強固に固定されて装着することができたが、比較例1は反磁性体のアルミニウム基板が用いられているので、マグネット式版胴には装着することができなかった。なお、クランプ式版胴に対しては、クランプで印刷版を機械的に固定するため、いずれの印刷版も版胴に装着することができた。
【0069】
ただし、マグネット式版胴から参照例5の水なし平版印刷版6を脱着する際に、版折れが一部発生した。これは、鉄基板のロックウェル硬さHR30TSmが55と低く、折れに対する耐性が不足していたことが原因である。これに対し、比較例2の樹脂凸版印刷版は、ロックウェル硬さHR30TSmが55と参照例5の水なし平版印刷版6と同等の硬さを有するが、鉄基板上に積層された接着層およびおよそ厚さ0.5mmの樹脂層に保護され、版折れは発生しにくかった。
【0070】
<版胴装着評価2>
版胴装着用に、差込式版胴(APS、アイマー・プランニング(株)製)を準備した。実施例1~4、参照例5、および比較例1~2の原版から、カバーフィルムを剥離した後に、版の端部を折り曲げ加工し、専用のアタッチメントに折り曲げ部を差し込んで、印刷版原版を中空円筒状にした。中空円筒状にした印刷版原版を差込式版胴に装着するため、差込み試験を行ったところ、基板として鉄を使用している実施例1~4、参照例5、および比較例2の印刷版原版は、スムーズに差込み装着および脱着ができたが、基板としてアルミニウムを使用している比較例1の水なし平版印刷版原版2では、差込み時にアルミニウム基板と差込式版胴がこすれて、アルミニウムの微粉が発生し、この微粉が抵抗となって、装着と脱着が困難であった。
【0071】
<耐久性評価>
前記の通り印刷版を装着した版胴を印刷試験機に取り付け、ブランケットホイールに缶12個分のブランケットを取り付け、刷版とブランケットのニップ幅が6mmであるように配置し、版胴とブランケットホイールを600缶/分の速度で12時間回転させた。実施例1~4、参照例5と比較例2の水なし平版印刷版1,3~6および樹脂凸版印刷版をマグネット式版胴に装着し、比較例1の水なし平版印刷版2をクランプ式版胴に装着したが、いずれの印刷版も版胴から印刷版が外れることなく、印刷版に損傷もなく、少なくとも43万缶までの耐久性があることを確認できた。さらに、88時間(合計で100時間、360万缶印刷に相当)回転させた所、鉄基板が用いられた実施例1~4、参照例5の水なし平版印刷版1、3~6と比較例2の樹脂凸版印刷版は損傷がなかったが、アルミニウム基板が用いられた比較例1の水なし平版印刷版2は、クランプ固定部や版のエッジにアルミニウム基板の摩耗・削れが見られた。
【0072】
マグネット版胴に2mm四方のピンを、実施例1~4、参照例5および比較例2の印刷版に2mm四方のピン穴を設け、上記<耐久性評価>と同様の評価を行った。43万缶印刷時に版に設けたピン穴の状態を確認したところ、印刷版は強固に固定されて位置ズレなかったが、参照例5と比較例2の印刷版のみ、ピン穴にやや損傷が見られた。基板の強度を示す降伏点Ypが低いことが原因と推定する。実施例1~4の印刷版を、さらに、88時間(合計で100時間、360万缶印刷に相当)回転させた所、印刷版は強固に固定されて位置ズレなかったが、実施例2の印刷版のみ、ピン穴にやや損傷が見られた。
【0073】
<網点の印刷再現評価>
<耐久性評価>と同様にして、印刷版を装着した版胴を印刷試験機に取り付け、ブランケットホイールに缶12個分のブランケットを取り付け、マンドレルホイールにマンドレルを配置し、版胴、ブランケットホイール、マンドレルホイールを回転させて、マンドレルに配置した2ピース缶に墨インキで曲面印刷した。印刷缶の缶胴画面内の網点グラデーションを確認し、印刷再現ができる網点範囲を各解像度の絵柄について評価した。
【0074】
表1,2の通り、実施例1~4、参照例5および比較例1の水なし平版印刷版1~6は高解像度においても、印刷再現できる網点範囲が広い、特に小さい面積率の微細な絵柄が印刷できたのに対し、比較例2の樹脂凸版印刷版は、印刷再現できる画像の幅が狭く、写真絵柄のような高精細な印刷には不適との結果となった。
【0075】
[実施例6]
本発明では、版下シートとして、常磁性体シートと強磁性体の基板の積層体を、水なし平版印刷版に重ねることができる。常磁性体シートとして、厚さ0.45mmのマグネットシート(磁気タイプ:ネオジウム、着磁方法:異方性、マグテック(株)製、ガウスメーターで測定した最大磁力:0.12テスラ)と厚さ0.05mmのスチール(強磁性体、飽和磁化:2.2テスラ)を、マグネットシートの着磁面が接着面と逆になるよう、厚さ0.05mmの両面テープで貼り合わせた積層体(合計厚さ:0.55mm)を準備した。この積層体を、マグネット式版胴(MMC8-ENOC MODULAR Magnetic Cylinder, T. D. Wight, Inc.製、ガウスメーターで想定した最大磁力:0.14テスラ)の版胴表面にマグネットシートが外面になるように巻き付け、その上から実施例1~4、参照例5の印刷版を装着した結果、版下シートである積層体の表面で、ガウスメーターで測定した最大磁力が0.15テスラを維持しており、実施例1~4、参照例5の平版印刷版を強固に固定することができた。
【0076】
【0077】