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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】物体検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/526 20060101AFI20240416BHJP
   G01S 7/537 20060101ALI20240416BHJP
   G01S 15/34 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G01S7/526 M
G01S7/537
G01S15/34
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021022688
(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公開番号】P2022124824
(43)【公開日】2022-08-26
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 優
(72)【発明者】
【氏名】青山 哲也
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-520456(JP,A)
【文献】特開2021-004797(JP,A)
【文献】国際公開第2019/229896(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0339386(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52- 7/64
G01S 15/00-15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送受信により物体を検知する物体検知装置であって、
超音波を探査波として送信する送信部(40A)と、
前記送信部を駆動するための、周波数変調を含む駆動信号を生成する駆動信号生成部(5)と、
超音波を受信して、該受信した超音波に応じた受信信号を生成する受信部(40B)と、
前記受信信号と前記駆動信号に対応した第1参照信号との相関検出を行って相関信号を出力する第1相関フィルタ(62)と、
前記第1相関フィルタが出力した相関信号に基づいて、前記受信部によって受信された超音波が前記送信部から送信された探査波の反射波であるか否かを判定する第1判定部(8)と、
前記駆動信号の一部に対応した信号を第2参照信号として、前記受信信号と前記第2参照信号との相関検出を行って相関信号を出力する第2相関フィルタ(63)と、
前記駆動信号の一部に対応した信号であって、前記駆動信号のうち前記第2参照信号よりも周波数が高い部分を含む信号を第3参照信号として、前記受信信号と前記第3参照信号との相関検出を行って相関信号を出力する第3相関フィルタ(64)と、
前記第2相関フィルタが出力した相関信号と前記第3相関フィルタが出力した相関信号とに基づいて、物体が検知範囲内にあるか否かを判定する第2判定部(9)と、を備える物体検知装置。
【請求項2】
前記第2判定部が判定に用いる相関信号の範囲は、前記第1相関フィルタが出力した相関信号に基づいて設定される請求項1に記載の物体検知装置。
【請求項3】
前記第2判定部が判定に用いる相関信号の範囲は、前記第1相関フィルタが出力した相関信号がピークをとる時点を基準にして設定される請求項2に記載の物体検知装置。
【請求項4】
前記第1相関フィルタは、前記受信信号と前記第1参照信号との相関を算出する第1相関算出部(627)を備え、
前記第2相関フィルタは、前記受信信号と前記第2参照信号との相関を算出する第2相関算出部(637)を備え、
前記第3相関フィルタは、前記受信信号と前記第3参照信号との相関を算出する第3相関算出部(647)を備え、
前記第1相関算出部、前記第2相関算出部、前記第3相関算出部は、相関算出を行う演算回路を共有している請求項1ないし3のいずれか1つに記載の物体検知装置。
【請求項5】
前記駆動信号は、時間経過とともに周波数が単調増加するアップチャープ信号、または、時間経過とともに周波数が単調減少するダウンチャープ信号を含む請求項1ないし4のいずれか1つに記載の物体検知装置。
【請求項6】
前記第1参照信号の周波数は、前記送信部および前記受信部が搭載された車両の速度に応じて補正される請求項1ないし5のいずれか1つに記載の物体検知装置。
【請求項7】
前記受信信号の位相を回転させる第1位相回転部(66)と、
前記第1参照信号、前記第2参照信号、前記第3参照信号の位相を回転させる第2位相回転部(73)と、を備え、
前記第1相関フィルタ、前記第2相関フィルタ、前記第3相関フィルタは、それぞれ、前記第1位相回転部によって位相が回転された前記受信信号と、前記第2位相回転部によって位相が回転された前記第1参照信号、前記第2参照信号、前記第3参照信号との相関検出を行う請求項1ないし6のいずれか1つに記載の物体検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波の送受信により物体を検知する物体検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両における自動駐車システムでは、車両のバンパに取り付けられた複数の超音波センサにより障害物検知を行う。このような自動駐車システムの精度向上のために、障害物が検知範囲内にあるか否かを判定することが望まれている。この判定は、例えば車体に接触する可能性のある背の高い物体であるか否かの判定である。
【0003】
例えば特許文献1では、周波数による指向性の差を用いて物体の高さを判定する技術が提案されている。具体的には、高い周波数と低い周波数が含まれる超音波を探査波として送信し、バンドパスフィルタを用いて受信信号から2つの周波数の振幅成分を取り出す。高い周波数の超音波は、低い周波数の超音波よりも指向性が狭いため、2つの周波数の振幅を比較することにより、物体の高さを判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-98157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の物体検知装置は、センサ間の混信防止機能を有していない。そのため、探査波の送信頻度を上げたときや、他車両と対向または並走して他車両からの送信波を受信する状態になったときに、混信により、物体の高さを正しく判定できなくなるおそれがある。
【0006】
混信を防止する方法としては、例えば、探査波の周波数を変調させることで探査波を符号化し、送信信号と受信信号とで符号が一致するか否か、すなわち、周波数変調の特徴が一致するか否かを判定する方法が挙げられる。
【0007】
このように符号によって受信波を識別する場合に、符号識別用の信号と高さ判定用の信号とを別々に送信すると、1回の物体検知処理に要する探査波の送信回数が増えるため、物体検知処理の実行頻度が低下し、物体検知性能が低下する。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、1回の送受信で受信波の識別と物体が検知範囲内にあるか否かの判定を行うことができる物体検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、超音波の送受信により物体を検知する物体検知装置であって、超音波を探査波として送信する送信部(40A)と、送信部を駆動するための、周波数変調を含む駆動信号を生成する駆動信号生成部(5)と、超音波を受信して、該受信した超音波に応じた受信信号を生成する受信部(40B)と、受信信号と駆動信号に対応した第1参照信号との相関検出を行って相関信号を出力する第1相関フィルタ(62)と、第1相関フィルタが出力した相関信号に基づいて、受信部によって受信された超音波が送信部から送信された探査波の反射波であるか否かを判定する第1判定部(8)と、駆動信号の一部に対応した信号を第2参照信号として、受信信号と第2参照信号との相関検出を行って相関信号を出力する第2相関フィルタ(63)と、駆動信号の一部に対応した信号であって、駆動信号のうち第2参照信号よりも周波数が高い部分を含む信号を第3参照信号として、受信信号と第3参照信号との相関検出を行って相関信号を出力する第3相関フィルタ(64)と、第2相関フィルタが出力した相関信号と第3相関フィルタが出力した相関信号とに基づいて、物体が検知範囲内にあるか否かを判定する第2判定部(9)と、を備える。
【0010】
このように、駆動信号に対応した第1参照信号を用いた相関検出により、受信波を識別している。そして、駆動信号の一部に対応した第2参照信号と、駆動信号の一部に対応した信号であって駆動信号のうち第2参照信号よりも周波数の高い部分を含む第3参照信号とを用いた相関検出により、物体が検知範囲内にあるか否かの判定をしている。したがって、1回の送受信で、受信波の識別と物体が検知範囲内にあるか否かの判定を行うことができる。
【0011】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態にかかる物体検知装置のブロック図である。
図2】受信信号処理部が備える直交検波部のブロック図である。
図3】参照信号の周波数を示す図である。
図4】参照信号処理部が備える直交検波部のブロック図である。
図5】駆動信号に対応した参照信号を用いる相関フィルタのブロック図である。
図6】相関フィルタが備えるベクトル回転部および加算部のブロック図である。
図7】複素受信信号と複素参照信号との位相差を示す図である。
図8】複素受信信号Sのベクトル回転の様子を示す図である。
図9】ベクトル回転された信号ΔSの一例を示す図である。
図10】ベクトル回転された信号ΔSとΔSの加算結果の一例を示す図である。
図11】ベクトル回転された信号ΔSの一例を示す図である。
図12】ベクトル回転された信号ΔSとΔSの加算結果の一例を示す図である。
図13】参照信号の低周波成分を用いる相関フィルタのブロック図である。
図14】参照信号の高周波成分を用いる相関フィルタのブロック図である。
図15】物体検知処理のフローチャートである。
図16】相関出力の一例を示す図である。
図17】背の高い壁に向かって探査波を送信したときの相関出力を示す図である。
図18】高さ10cmの輪留めに向かって探査波を送信したときの相関出力を示す図である。
図19】背の高いポールに向かって探査波を送信したときの相関出力を示す図である。
図20】第2実施形態における3つの相関フィルタが備えるベクトル回転部のブロック図である。
図21】第3実施形態における参照信号の周波数を示す図である。
図22】第4実施形態にかかる物体検知装置のブロック図である。
図23】正規化および位相回転による周波数帯域の拡大を示す図である。
図24】第5実施形態における参照信号の周波数を示す図である。
図25】他の実施形態における参照信号の周波数を示す図である。
図26】他の実施形態における参照信号の周波数を示す図である。
図27】他の実施形態における参照信号の周波数を示す図である。
図28】他の実施形態における参照信号の周波数を示す図である。
図29】他の実施形態における参照信号の周波数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。図1に示す本実施形態の物体検知装置1は、不図示の車両に搭載されていて、当該車両の周囲の物体Bを検知するように構成されている。物体検知装置1を搭載する車両を、以下「自車両」と称する。不図示の車両は、例えば、自動車である。
【0015】
物体検知装置1は、超音波の送受信により物体を検知するものであり、超音波センサ2と、超音波センサ2の動作を制御する制御部3とを備えている。超音波センサ2は、超音波である探査波を送信するとともに探査波の物体Bによる反射波を受信することで、物体Bを検知するように構成されている。
【0016】
超音波センサ2は、送受信部4と、駆動信号生成部5と、受信信号処理部6と、参照信号処理部7と、符号判定部8と、高さ判定部9とを備えている。送受信部4は、送信部40Aと、受信部40Bとを有している。送信部40Aは、探査波を外部に向けて送信可能に設けられている。受信部40Bは、送信部40Aから送信された探査波の物体Bによる反射波を含む超音波を受信可能に設けられている。
【0017】
送受信部4は、トランスデューサ41と、送信回路42と、受信回路43とを備えている。送信部40Aは、トランスデューサ41と送信回路42とによって構成されている。受信部40Bは、トランスデューサ41と受信回路43とによって構成されている。
【0018】
トランスデューサ41は、探査波を外部に向けて送信する送信器としての機能と、反射波を受信する受信器としての機能とを有していて、送信回路42および受信回路43と電気接続されている。すなわち、超音波センサ2は、いわゆる送受信一体型の構成を有している。
【0019】
具体的には、トランスデューサ41は、圧電素子等の電気-機械エネルギー変換素子を内蔵した、超音波マイクロフォンとして構成されている。トランスデューサ41は、探査波を自車両の外部に送信可能および反射波を自車両の外部から受信可能なように、自車両の外表面に面する位置に配置されている。
【0020】
送信回路42は、入力された駆動信号に基づいてトランスデューサ41を駆動することで、トランスデューサ41にて探査波を発信させるように設けられている。具体的には、送信回路42は、デジタル/アナログ変換回路等を有している。すなわち、送信回路42は、駆動信号生成部5から出力された駆動信号に対してデジタル/アナログ変換等の信号処理を施すことで、素子入力信号を生成するように構成されている。素子入力信号は、トランスデューサ41を駆動するための交流電圧信号である。そして、送信回路42は、生成した素子入力信号をトランスデューサ41に印加してトランスデューサ41における電気-機械エネルギー変換素子を励振することで、探査波を発生させるように構成されている。
【0021】
受信回路43は、トランスデューサ41による超音波の受信結果に対応する受信信号を生成して受信信号処理部6に出力するように設けられている。具体的には、受信回路43は、増幅回路およびアナログ/デジタル変換回路等を有している。すなわち、受信回路43は、トランスデューサ41が出力した素子出力信号に対して、増幅およびアナログ/デジタル変換等の信号処理を施すことで、受信波の振幅および周波数に関する情報を含む受信信号を生成するように構成されている。素子出力信号は、超音波の受信により、トランスデューサ41に設けられた電気-機械エネルギー変換素子が発生する交流電圧信号である。
【0022】
後述するように、探査波には、周波数変調により符号化された超音波が含まれる。探査波の周波数変調帯域の中心周波数をfとして、受信回路43のサンプリング周波数はfの2倍以上とされる。なお、受信信号のサンプリング周波数は、駆動信号のサンプリング周波数と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0023】
駆動信号生成部5は、駆動信号を生成して送信回路42に出力するように設けられている。駆動信号は、トランスデューサ41を駆動してトランスデューサ41から探査波を発信させるための信号である。
【0024】
駆動信号生成部5は、所定の周波数変調状態を有する探査波における周波数変調状態に対応する駆動信号を生成するようになっている。駆動信号生成部5は、トランスデューサ41の共振周波数を含む範囲において探査波の周波数が掃引されるように駆動信号を生成する。
【0025】
本実施形態では、所定の周波数変調状態は、アップチャープまたはダウンチャープを含む。アップチャープは、時間経過とともに周波数が単調増加するような周波数変調状態である。ダウンチャープは、時間経過とともに周波数が単調減少するような周波数変調状態である。
【0026】
探査波は、駆動信号の周波数変調によって符号化される。例えば、アップチャープは符号「1」を示し、ダウンチャープは符号「0」を示す。この符号は、受信波の識別に用いられる。
【0027】
駆動信号生成部5、受信信号処理部6、参照信号処理部7、符号判定部8、高さ判定部9は、例えば、前述した駆動信号の生成や、後述する直交検波、相関算出、符号判定、高さ判定等の機能がプログラムされたDSP(Digital Signal Processor)で構成される。
【0028】
受信信号処理部6は、受信信号を処理し、受信信号と参照信号との相関検出を行うものである。受信信号処理部6は、直交検波部61と、相関フィルタ62と、相関フィルタ63と、相関フィルタ64とを備えている。
【0029】
直交検波部61は、受信回路43が出力した受信信号を直交検波して複素信号を生成するものである。図2に示すように、直交検波部61は、乗算部611と、LPF(ローパスフィルタ)612と、ダウンサンプリング部613とを備えている。
【0030】
乗算部611は、受信回路43の出力した受信信号にsin(2π・f・t)とcos(2π・f・t)を乗算して複素信号を生成するものである。ここで、tは時間である。sin(2π・f・t)とcos(2π・f・t)の信号は、駆動信号生成部5から乗算部611に入力されるようになっている。乗算部611は、生成した複素信号をLPF612に出力する。
【0031】
LPF612は、乗算部611が出力した複素信号から高周波数成分を除去するものである。LPF612のカットオフ周波数は、制御部3から入力されるようになっており、トランスデューサ41の帯域幅や駆動信号の掃引帯域に基づいて設定される。LPF612によって高周波数成分を除去された複素信号は、ダウンサンプリング部613に入力される。
【0032】
ダウンサンプリング部613は、LPF612の出力信号をダウンサンプリングするものである。ダウンサンプリング部613は、例えば、中心周波数fの2倍でサンプリングされた信号を中心周波数fの1倍にダウンサンプリングする。ダウンサンプリング後のサンプリング周波数は、LPF612のカットオフ周波数に応じて、中心周波数fの1倍よりも低く設定することができる。
【0033】
ダウンサンプリング部613の出力信号は、相関フィルタ62、63、64に入力される。ダウンサンプリング部613から出力される複素信号を、複素受信信号とする。複素受信信号は、ダウンサンプリング部613によってサンプリングされたN個の信号で構成されている。Nは2以上の整数である。複素受信信号を構成するN個の信号を、サンプリングされた順に信号S~Sとする。
【0034】
相関フィルタ62、63、64は、直交検波部61が生成した複素受信信号と、アップチャープおよびダウンチャープそれぞれに対応する参照信号との相関検出を行い、相関信号を出力するものである。相関フィルタ62、63、64が用いる参照信号を、それぞれ、第1参照信号、第2参照信号、第3参照信号とする。相関フィルタ62、相関フィルタ63、相関フィルタ64は、それぞれ、第1相関フィルタ、第2相関フィルタ、第3相関フィルタに相当する。
【0035】
第1参照信号は駆動信号に対応したものであり、駆動信号と同様の周波数変調が含まれる。第2、第3参照信号は、駆動信号の一部に対応した信号である。第2参照信号は、駆動信号のうち第3参照信号よりも周波数が低い部分を含み、第3参照信号は、駆動信号のうち第2参照信号よりも周波数が高い部分を含む。本実施形態では、第2、第3参照信号は、第1参照信号の一部とされている。
【0036】
相関フィルタ62から出力された相関信号は、符号判定部8に入力される。相関フィルタ63、64から出力された相関信号は、高さ判定部9に入力される。相関フィルタ62、63、64の詳細については後述する。
【0037】
図3は、参照信号の一例を示す図である。fRUはアップチャープに対応する第1参照信号の周波数であり、時間tの間に、中心周波数fより低い周波数fから高い周波数fへ掃引されている。fRDはダウンチャープに対応する第1参照信号の周波数であり、時間tの間に、fからfへ掃引されている。
【0038】
RLは第2参照信号の周波数であり、アップチャープに対応する第1参照信号から周波数がfよりも低い部分を抽出したものとなっている。fRHは第3参照信号の周波数であり、アップチャープに対応する第1参照信号から周波数がf以上の部分を抽出したものとなっている。fRL、fRHの図において、実線は第1参照信号のうち第2、第3参照信号として用いられる部分を示し、一点鎖線は第1参照信号のうち第2、第3参照信号から除かれる部分を示している。このように、第2、第3参照信号は、それぞれ、アップチャープに対応する第1参照信号の前半部分、後半部分とされている。
【0039】
本実施形態では、このような参照信号を用いる場合について説明する。なお、図3では、探査波にアップチャープが含まれる場合の第2、第3参照信号を示している。探査波にダウンチャープが含まれる場合には、第2、第3参照信号は、それぞれ、ダウンチャープに対応する第1参照信号の後半部分、前半部分となる。
【0040】
参照信号処理部7は、駆動信号生成部5から出力された信号を処理して受信信号処理部6に出力するものである。駆動信号生成部5から参照信号処理部7に出力される信号は、送受信部4に入力される駆動信号に用いられるアップチャープとダウンチャープとに対応するものであり、この信号が受信信号の符号を識別するための参照信号とされる。なお、駆動信号生成部5は、アップチャープに対応する参照信号と、ダウンチャープに対応する参照信号とを参照信号処理部7に出力する。受信信号処理部6では、参照信号処理部7によって処理された参照信号が相関検出に用いられる。図1に示すように、参照信号処理部7は、直交検波部71を備えている。
【0041】
直交検波部71は、駆動信号生成部5が出力した参照信号を直交検波して複素信号を生成するものである。図4に示すように、直交検波部71は、乗算部711と、LPF712と、ダウンサンプリング部713とを備えている。乗算部711、LPF712、ダウンサンプリング部713は、直交検波部61の乗算部611、LPF612、ダウンサンプリング部613と同様の構成とされている。
【0042】
すなわち、乗算部711は、参照信号にsin(2π・f・t)とcos(2π・f・t)を乗算して複素信号を生成し、LPF712は、乗算部711が出力した複素信号から高周波数成分を除去する。そして、ダウンサンプリング部713は、LPF712の出力信号をダウンサンプリングする。
【0043】
なお、ダウンサンプリング部713は、ダウンサンプリング後のサンプリング周波数が受信信号と参照信号とで同じになるようにダウンサンプリングを行う。例えば、ダウンサンプリング部613で入力信号が中心周波数fの1倍にダウンサンプリングされる場合には、ダウンサンプリング部713においても、入力信号が中心周波数fの1倍にダウンサンプリングされる。
【0044】
ダウンサンプリング部713の出力信号は、相関フィルタ62、63、64に入力される。ダウンサンプリング部713から出力される複素信号を、複素参照信号とする。複素参照信号は、複素受信信号と同様にN個の信号で構成されている。複素参照信号を構成するN個の信号を、サンプリングされた順に信号SR~SRとする。相関フィルタ62では、信号S~Sで構成される複素受信信号と、信号SR~SRで構成される複素参照信号との相関検出が行われる。
【0045】
前述したように、相関フィルタ63、64では、第1参照信号の一部が相関検出に用いられる。駆動信号にアップチャープが含まれる場合を想定する。この場合には、アップチャープに対応した第1参照信号を直交検波して生成された複素参照信号のうち、第2、第3参照信号に対応する部分、すなわち、周波数がfよりも低い部分と、周波数がf以上の部分とがそれぞれ相関フィルタ63、64に入力される。例えば、Nが偶数の場合には、信号SR~SRN/2が相関フィルタ63に入力され、信号SRN/2+1~SRが相関フィルタ64に入力される。
【0046】
そして、相関フィルタ63では、信号S~SN/2で構成される複素受信信号と、信号SR~SRN/2で構成される複素参照信号との相関検出が行われる。また、相関フィルタ64では、信号SN/2+1~Sで構成される複素受信信号と、信号SRN/2+1~SRで構成される複素参照信号との相関検出が行われる。
【0047】
駆動信号にダウンチャープが含まれる場合を想定する。この場合には、ダウンチャープに対応した第1参照信号を直交検波して生成された複素参照信号のうち、第2、第3参照信号に対応する部分、すなわち、周波数がfよりも低い部分と、周波数がf以上の部分とがそれぞれ相関フィルタ63、64に入力される。例えば、Nが偶数の場合には、信号SRN/2+1~SRが相関フィルタ63に入力され、信号SR~SRN/2が相関フィルタ64に入力される。
【0048】
そして、相関フィルタ63では、信号SN/2+1~Sで構成される複素受信信号と、信号SRN/2+1~SRで構成される複素参照信号との相関検出が行われる。また、相関フィルタ64では、信号S~SN/2で構成される複素受信信号と、信号SR~SRN/2で構成される複素参照信号との相関検出が行われる。
【0049】
相関フィルタ62の詳細について説明する。図5に示すように、相関フィルタ62は、アップチャープフィルタ620Aと、ダウンチャープフィルタ620Bとを備えている。アップチャープフィルタ620Aは、アップチャープ信号について複素受信信号と複素参照信号との相関算出を行うものである。ダウンチャープフィルタ620Bは、ダウンチャープ信号について複素受信信号と複素参照信号との相関算出を行うものである。
【0050】
相関算出を行う手法の1つとして、複素受信信号を参照信号に基づいてベクトル回転し、加算する手法がある。アップチャープフィルタ620Aは、参照信号保持部621と、ベクトル回転部622と、加算部623と、振幅変換部624とを備えている。
【0051】
アップチャープフィルタ620Aには、参照信号処理部7から、アップチャープに対応する参照信号の直交検波によって生成された複素参照信号が入力されるようになっている。参照信号保持部621は、参照信号処理部7から入力された複素参照信号を保持して出力するものであり、複素参照信号を構成する複数の信号を個別に出力する構成となっている。具体的には、参照信号保持部621は、ダウンサンプリング部713から出力された信号SR~SRを個別に出力する。
【0052】
ベクトル回転部622は、入力された信号のベクトル回転を行うものである。図6に示すように、ベクトル回転部622は、行列変換部625と、受信信号保持部626と、乗算部627とを備えている。
【0053】
行列変換部625は、参照信号保持部621から出力された信号SR~SRを回転行列R~Rに変換するものである。具体的には、信号SRの位相をθR1とすると、回転行列Rは、次式のように生成される。
【0054】
【数1】
回転行列R~Rについても、信号SR~SRの位相θR2~θRNを用いて同様に生成される。行列変換部625は、生成した回転行列R~Rに対応する信号を個別に乗算部627に出力する。
【0055】
受信信号保持部626は、複素受信信号を保持して乗算部627に出力するものである。受信信号保持部626には、直交検波部61から複素受信信号が入力されるようになっており、受信信号保持部626は、入力された信号S~Sを個別に乗算部627に出力する。
【0056】
乗算部627は、受信信号と第1参照信号との相関を算出するものであり、第1相関算出部に相当する。具体的には、乗算部627は、行列変換部625が生成した回転行列R~Rに信号S~Sのベクトルを乗算して、受信信号と参照信号との位相差を位相とする信号ΔS~ΔSを生成する。例えば、図7に示すように、信号Sと信号SRとの位相差をΔθとし、信号Sの振幅をrとすると、図8に示すように、信号ΔSの位相はΔθとなり、振幅はrとなる。なお、図7図8、および、後述する図9図12は、信号S等を複素平面上に示したものである。信号Sの実部をI、虚部をQとし、信号ΔSの実部をI’、虚部をQ’とすると、I’、Q’は次式で求められる。
【0057】
【数2】
同様に、信号S~Sと信号SR~SRとの位相差をΔθ~Δθとし、信号S~Sの振幅をr~rとすると、信号ΔS~ΔSの位相はΔθ~Δθとなり、振幅はr~rとなる。信号S~Sの実部I~I、虚部Q~Q、回転行列R~Rから、信号ΔS~ΔSの実部I’~I’、虚部Q’~Q’が算出される。乗算部627は、信号ΔS~ΔSを個別に加算部623に出力する。
【0058】
図6に示すように、加算部623は、加算信号生成部628と、平均化部629とを備えており、乗算部627から出力された信号ΔS~ΔSは、加算信号生成部628に入力される。加算信号生成部628は、入力された信号を加算するものであり、これによって受信信号と参照信号との相関検出が行われる。
【0059】
信号ΔS~ΔSを加算すると、受信信号と参照信号との相関が高い場合には振幅が増加し、相関が低い場合には振幅が減少する。例えば、図8図9に示すように、信号ΔS、ΔSの位相Δθ、Δθが揃っていれば、図10に示すように、信号ΔSに信号ΔSを加算することで振幅が増加する。一方、図11に示すように、信号ΔSの位相Δθが信号ΔSの位相Δθと大きく異なっていれば、図12に示すように、信号ΔSに信号ΔSを加算することで振幅が減少する。
【0060】
このように、信号ΔS~ΔSを加算すると、加算によって生成された複素信号の振幅は、受信信号と参照信号の相関の高さを表すようになる。加算信号生成部628は、信号ΔS~ΔSの加算によって生成された複素信号を平均化部629に出力する。
【0061】
なお、図7図12から分かるように、相関信号の振幅は、受信信号と参照信号の相関の高さだけでなく、受信信号の振幅によっても変化し、受信信号の振幅が大きいほど相関信号の振幅も大きくなる。
【0062】
平均化部629は、加算信号生成部628からの出力信号の振幅を、加算された信号の数、すなわちNで割って平均化するものである。平均化部629によって平均化された複素信号は、振幅変換部624に出力される。
【0063】
振幅変換部624は、平均化部629から入力された複素信号を振幅信号に変換するものである。具体的には、振幅変換部624は、この複素信号の実部と虚部から絶対値を算出し、この絶対値を振幅として出力する。振幅変換部624が生成した振幅信号は、相関信号として符号判定部8に出力される。
【0064】
図5に示すように、ダウンチャープフィルタ620Bは、アップチャープフィルタ620Aと同様に、参照信号保持部621と、ベクトル回転部622と、加算部623と、振幅変換部624とを備えている。ダウンチャープフィルタ620Bの参照信号保持部621~振幅変換部624は、アップチャープフィルタ620Aの参照信号保持部621~振幅変換部624と同様の構成とされている。
【0065】
ただし、ダウンチャープフィルタ620Bでは、参照信号処理部7から参照信号保持部621にダウンチャープに対応する参照信号の直交検波によって生成された複素参照信号が入力され、複素受信信号と、この複素参照信号との相関検出が行われる。そして、振幅変換部624が生成した振幅信号は、相関信号として符号判定部8に出力される。
【0066】
相関フィルタ63、64の詳細について説明する。図13に示すように、相関フィルタ63は、参照信号保持部631と、ベクトル回転部632と、加算部633と、振幅変換部634とを備えている。また、図14に示すように、相関フィルタ64は、参照信号保持部641と、ベクトル回転部642と、加算部643と、振幅変換部644とを備えている。
【0067】
相関フィルタ63の参照信号保持部631~振幅変換部634、および、相関フィルタ64の参照信号保持部641~振幅変換部644は、アップチャープフィルタ620Aの参照信号保持部621~振幅変換部624と同様の構成とされている。
【0068】
ただし、相関フィルタ63では、参照信号処理部7から第2参照信号に対応する複素参照信号が入力され、複素受信信号と、この複素参照信号との相関検出が行われる。また、相関フィルタ64では、参照信号処理部7から第3参照信号に対応する複素参照信号が入力され、複素受信信号と、この複素参照信号との相関検出が行われる。そして、振幅変換部634、644が生成した振幅信号は、相関信号として高さ判定部9に出力される。
【0069】
符号判定部8は、相関フィルタ62が出力した相関信号に基づいて、受信部40Bによって受信された超音波が送信部40Aから送信された探査波の反射波であるか否かを判定するものである。符号判定部8は、第1判定部に相当する。
【0070】
具体的には、符号判定部8は、駆動信号に含まれる符号と受信信号に含まれる符号とが一致するか否かを判定する。符号判定部8は、アップチャープフィルタ620A、ダウンチャープフィルタ620Bの相関出力に基づいて、アップチャープの相関信号のピークとダウンチャープの相関信号のピークとを算出する。そして、符号判定部8は、これらを比較して大きい方に対応する符号が受信信号に含まれると判定し、この判定結果に基づいて、駆動信号に含まれる符号と受信信号に含まれる符号とが一致するか否かを判定する。符号判定部8は、符号判定結果を制御部3に送信する。
【0071】
高さ判定部9は、相関フィルタ63が出力した相関信号と相関フィルタ64が出力した相関信号とに基づいて、物体が検知範囲内にあるか否かを判定するものである。高さ判定部9は、第2判定部に相当する。この検知範囲は、車外の物体と車体との接触の可能性等に基づいて設定される。例えば、地面に置かれた物体については、地面からの高さが所定値よりも大きければ検知範囲に入り、所定値以下であれば検知範囲から外れるように設定される。また、通路の天井から突出した物体については、突出の大きさによって検知範囲に入るように設定される。本実施形態では、地面に置かれた物体の地面からの高さを判定する場合について説明するが、検知範囲内にあるか否かを他の基準で判定してもよい。
【0072】
高さ判定部9は、超音波の指向性を利用して、物体の高さを判定する。超音波は、周波数が高いほど指向性が狭くなる。すなわち、探査波の指向性の中心軸に近い位置では、探査波の周波数が低い場合と高い場合との両方で、探査波の振幅が大きくなる。また、探査波の周波数が低い場合には、この中心軸から大きく離れた位置においても、探査波の振幅が大きくなり、この位置にある物体からの反射波の振幅が大きくなる。一方、探査波の周波数が高い場合には、この中心軸から大きく離れた位置では、探査波の振幅が小さくなり、この位置にある物体からの反射波の振幅が小さくなる。
【0073】
また、前述したように、受信信号の振幅が大きいほど相関信号の振幅が大きくなる。このことから、周波数の低い第2参照信号を用いる相関フィルタ63では、物体が探査波の指向性の中心軸付近にある場合と、中心軸から離れた位置にある場合との両方で、相関出力の振幅が大きくなる。一方、周波数の高い第3参照信号を用いる相関フィルタ64では、物体が探査波の指向性の中心軸付近にある場合には相関出力の振幅が大きくなるが、物体が中心軸から離れた位置にある場合には相関出力の振幅が小さくなる。
【0074】
したがって、相関フィルタ63の相関出力の振幅と相関フィルタ64の相関出力の振幅を比較することで、物体が探査波の指向性の中心軸に近いか否かを判定することができる。例えば、相関フィルタ63の相関信号の振幅をALとし、相関フィルタ64の相関信号の振幅をAHとして、高さ判定部9は、AH/ALが閾値よりも大きいときには、検知された物体が車体に接触する可能性のある背の高い物体であると判定する。一方、AH/ALが閾値以下のときには、高さ判定部9は、検知された物体が背の低い物体であると判定する。なお、高さ判定部9が他の方法でALとAHを比較してもよい。
【0075】
制御部3は、車載通信回線を介して超音波センサ2と情報通信可能に接続されており、超音波センサ2の送受信動作を制御するように構成されている。制御部3は、いわゆるソナーECUとして設けられていて、図示しないCPU、ROM、RAM、不揮発性リライタブルメモリ、等を有する車載マイクロコンピュータを備えている。ECUはElectronic Control Unitの略である。不揮発性リライタブルメモリは、例えば、EEPROM、フラッシュROM、等である。EEPROMはElectronically Erasable and Programmable Read Only Memoryの略である。
【0076】
前述したように、制御部3には、符号判定部8、高さ判定部9から符号判定結果、高さ判定結果が送信される。これらの判定結果は、障害物の報知や自動駐車等の処理に用いられる。
【0077】
物体検知装置1の動作について説明する。物体検知装置1は、図15に示す処理を含む物体検知処理を繰り返し実行する。物体検知処理では、まず、制御部3から駆動信号生成部5に送信指示が出され、駆動信号生成部5が生成した駆動信号に基づいてトランスデューサ41から探査波が送信される。そして、送受信部4による超音波信号の受信が検出されると、物体検知装置1は、図15に示す処理を実行する。
【0078】
まず、ステップS101にて、直交検波部61は、送受信部4から出力された受信信号を直交検波して複素受信信号を生成し、相関フィルタ62、63、64に出力する。また、直交検波部71は、駆動信号生成部5から出力されたアップチャープ、ダウンチャープに対応する参照信号をそれぞれ直交検波して複素参照信号を生成し、相関フィルタ62、63、64に出力する。このとき、相関フィルタ62、63、64には、それぞれ、第1、第2、第3参照信号に対応する複素参照信号が入力される。
【0079】
続くステップS102にて、相関フィルタ62は、直交検波部61から出力された複素受信信号と、アップチャープに対応する複素参照信号との相関検出を行い、相関信号を符号判定部8に出力する。また、相関フィルタ62は、複素受信信号とダウンチャープに対応する複素参照信号との相関検出を行い、相関信号を符号判定部8に出力する。
【0080】
また、相関フィルタ63は、複素受信信号と、第2参照信号に対応する複素参照信号との相関検出を行い、相関信号を高さ判定部9に出力する。また、相関フィルタ64は、複素受信信号と、第3参照信号に対応する複素参照信号との相関検出を行い、相関信号を高さ判定部9に出力する。
【0081】
続くステップS103にて、符号判定部8は、相関信号からピークを検出する。具体的には、符号判定部8は、相関フィルタ62から出力されたアップチャープの相関信号と、ダウンチャープの相関信号とからピークを検出する。例えば、符号判定部8は、相関信号の振幅を閾値と比較し、相関信号の中に振幅が閾値よりも大きい範囲があると、その範囲内での最大値をピークとする。また、この範囲の中心の時点における値をピークとしてもよい。
【0082】
続くステップS104にて、符号判定部8は、駆動信号と受信信号とで符号が一致するか否かを判定する。具体的には、符号判定部8は、アップチャープの相関信号のピークと、ダウンチャープの相関信号のピークとを比較する。そして、駆動信号にアップチャープが含まれており、かつ、アップチャープの相関信号のピークがダウンチャープの相関信号のピークよりも大きいとき、符号判定部8は、符号が一致すると判定する。また、駆動信号にダウンチャープが含まれており、かつ、ダウンチャープの相関信号のピークがアップチャープの相関信号のピークよりも大きいとき、符号判定部8は、符号が一致すると判定する。このように符号が一致することで、物体が検知される。
【0083】
一方、駆動信号にアップチャープが含まれており、かつ、アップチャープの相関信号のピークがダウンチャープの相関信号のピーク以下であるときには、符号判定部8は、符号が一致しないと判定する。また、駆動信号にダウンチャープが含まれており、かつ、ダウンチャープの相関信号のピークがアップチャープの相関信号のピーク以下であるときには、符号判定部8は、符号が一致しないと判定する。
【0084】
ステップS104にて符号が一致すると判定されると、処理はステップS105に移行し、符号が一致しないと判定されると、処理は終了する。
【0085】
ステップS105にて、高さ判定部9は、相関フィルタ63、64の相関出力に基づいて、物体の高さ判定を行う。具体的には、高さ判定部9は、振幅比AH/ALを所定の閾値と比較し、AH/ALが閾値よりも大きいときには、検知された物体が車体に接触する可能性のある背の高い物体であると判定する。一方、振幅比AH/ALが閾値以下のときには、高さ判定部9は、検知された物体が背の低い物体であると判定する。ステップS105の後、処理は終了する。
【0086】
ステップS105で高さ判定部9が判定に用いる相関信号の範囲は、相関フィルタ62が出力した相関信号に基づいて設定される。具体的には、高さ判定部9が判定に用いる振幅AL、AHの範囲は、相関フィルタ62の出力がピークをとる時点を基準にして設定される。
【0087】
例えば、アップチャープを含む探査波を送信する場合には、相関フィルタ63が用いる第2参照信号は、アップチャープフィルタ620Aが用いる第1参照信号の前半部分とされ、相関フィルタ64が用いる第3参照信号は、第1参照信号の後半部分とされる。そのため、反射波が受信されると、相関フィルタ63の出力は、アップチャープフィルタ620Aの出力よりも前の時点でピークをとり、相関フィルタ64の出力は、アップチャープフィルタ620Aの出力よりも後の時点でピークをとる。
【0088】
そこで、高さ判定部9は、アップチャープフィルタ620Aの出力がピークをとる時点を基準として、所定時間前までの範囲における相関フィルタ63の出力の振幅を振幅ALとして用いる。また、高さ判定部9は、この時点を基準として、所定時間後までの範囲における相関フィルタ64の出力の振幅を振幅AHとして用いる。
【0089】
ダウンチャープを含む探査波を送信する場合には、ダウンチャープフィルタ620Bの出力がピークをとる時点を基準として、所定時間前までの範囲における相関フィルタ63の出力の振幅を振幅ALとして用いればよい。また、この時点を基準として、所定時間後までの範囲における相関フィルタ64の出力の振幅を振幅AHとして用いればよい。
【0090】
図15の処理が終了すると、超音波センサ2による物体の検知結果が制御部3に送信される。この検知結果には、符号判定部8による符号判定結果、および、高さ判定部9による高さ判定結果が含まれる。また、この検知結果には、例えばTOF(Time of Flight)方式で測定された自車両と物体との距離が含まれる。この距離の算出は例えば符号判定部8で行われるが、図示しない演算部によって行われてもよい。
【0091】
アップチャープを含む探査波を送信した結果、時間を開けて2つの反射波が受信され、図16に示すような相関出力が得られた場合を想定する。アップチャープフィルタ620Aでは、2つの反射波に対応する範囲で、相関出力の振幅が閾値よりも大きくなっている。そして、それぞれの範囲での最大値がアップチャープフィルタ620Aの出力のピークとされる。
【0092】
一方、ダウンチャープフィルタ620Bでは、1番目の反射波に対応する範囲では、相関出力の振幅が閾値より小さくなっているため、ピークが検出されない。また、2番目の反射波に対応する範囲では、相関出力の振幅が閾値よりも大きくなっているが、その範囲のピークは、アップチャープフィルタ620Aの出力のピークよりも小さい。したがって、この場合には、2つの反射波それぞれについて、ステップS104で符号が一致すると判定され、物体が検知される。
【0093】
そして、図16では、1番目のピークに対応する範囲において、相関フィルタ63の出力の振幅ALと相関フィルタ64の出力の振幅AHとが、ほぼ等しくなっている。この振幅AL、AHを用いて算出された振幅比AH/ALは、閾値よりも大きくなっている。したがって、ステップS105にて、1番目の反射波で検知された物体が、車体に接触する可能性のある背の高い物体であると判定される。
【0094】
一方、2番目のピークに対応する範囲において、相関フィルタ63の出力の振幅ALは、相関フィルタ64の出力の振幅AHよりも大きくなっている。この振幅AL、AHを用いて算出された振幅比AH/ALは、閾値よりも小さくなっている。したがって、ステップS105にて、2番目の反射波で検知された物体が、背の低い物体であると判定される。
【0095】
なお、前述したように、アップチャープを含む探査波を送信する場合には、相関フィルタ63の出力は、アップチャープフィルタ620Aの出力のピークよりも前の時点でピークをとる。また、相関フィルタ64の出力は、アップチャープフィルタ620Aの出力のピークよりも後の時点でピークをとる。図16では、振幅の差を分かりやすくするために、相関フィルタ63の出力を実際よりも後の時刻で示し、相関フィルタ64の出力を実際よりも前の時刻で示している。
【0096】
図17図19は、本発明者らが行った実験の結果を示す図である。この実験では、超音波センサ2の前方に様々な物体を配置し、アップチャープを含む探査波を送信して物体検知を行った。図17図19の上図はアップチャープフィルタ620Aとダウンチャープフィルタ620Bの出力を示す図であり、実線がアップチャープフィルタ620Aの出力を示し、一点鎖線がダウンチャープフィルタ620Bの出力を示す。図17図19の下図は相関フィルタ63と相関フィルタ64の出力を示す図であり、実線が相関フィルタ63の出力を示し、一点鎖線が相関フィルタ64の出力を示す。
【0097】
図17は、超音波センサ2の前方に背の高い壁を配置したときの相関フィルタ62、63、64の出力を示す。図17に示すように、アップチャープフィルタ620Aの出力のピークがダウンチャープフィルタ620Bの出力のピークよりも大きくなっている。そのため、ステップS104で符号が一致すると正しく判定された。また、相関フィルタ63の出力の振幅が相関フィルタ64の出力の振幅よりも小さくなっている。そのため、振幅比AH/ALが所定の閾値よりも大きくなり、ステップS105で背の高い物体であると正しく判定された。
【0098】
図18は、超音波センサ2の前方に高さ10cmの輪留めを配置したときの相関フィルタ62、63、64の出力を示す。輪留めのような背の低い物体についても、アップチャープフィルタ620Aの出力のピークがダウンチャープフィルタ620Bの出力のピークよりも大きくなっており、同様に符号が正しく判定された。また、相関フィルタ63の出力の振幅が相関フィルタ64の出力の振幅よりも大きくなっている。そのため、振幅比AH/ALが所定の閾値以下となり、ステップS105で背の低い物体であると正しく判定された。
【0099】
図19は、超音波センサ2の前方に背の高いポールを配置したときの相関フィルタ62、63、64の出力を示す。ポールのような横幅の小さい物体についても、アップチャープフィルタ620Aの出力のピークがダウンチャープフィルタ620Bの出力のピークよりも大きくなっており、同様に符号が正しく判定された。また、相関フィルタ63の出力の振幅が相関フィルタ64の出力の振幅よりも小さくなっている。そのため、振幅比AH/ALが所定の閾値よりも大きくなり、ステップS105で背の高い物体であると正しく判定された。このように、様々な物体に対して、符号と高さを正しく判定することができた。
【0100】
以上説明したように、本実施形態では、駆動信号に対応した第1参照信号を用いた相関検出により、符号判定をしている。そして、第1参照信号から、周波数の低い第2参照信号と、周波数の高い第3参照信号とを抽出し、この第2、第3参照信号を用いた相関検出により、高さ判定をしている。したがって、符号判定用と高さ判定用に2つの信号を送信する必要がなく、1回の送受信で符号と高さの両方を判定することができる。
【0101】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0102】
(1)高さ判定部9が判定に用いる相関信号の範囲は、相関フィルタ62が出力した相関信号に基づいて設定される。相関フィルタ62の相関出力のパルス圧縮効果により、反射波の中心の検出精度が向上するため、このように相関信号の範囲を設定することで、高さの判定精度が向上する。
【0103】
(2)高さ判定部9が判定に用いる相関信号の範囲は、相関フィルタ62が出力した相関信号がピークをとる時点を基準にして設定される。相関フィルタ62の相関出力のパルス圧縮効果により、反射波の中心の検出精度が向上するため、このように相関信号の範囲を設定することで、高さの判定精度が向上する。
【0104】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して相関フィルタ62、63、64の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0105】
本実施形態では、相関フィルタ62、63、64が、一部の演算回路を共有している。具体的には、図20に示すように、相関フィルタ63のベクトル回転部632は、行列変換部635と、受信信号保持部636と、乗算部637とを備えており、加算部633は、加算信号生成部638と、図示しない平均化部とを備えている。また、相関フィルタ64のベクトル回転部642は、行列変換部645と、受信信号保持部646と、乗算部647とを備えており、加算部643は、加算信号生成部648と、図示しない平均化部とを備えている。乗算部637は、受信信号と第2参照信号との相関を算出するものであり、第2相関算出部に相当する。乗算部647は、受信信号と第3参照信号との相関を算出するものであり、第3相関算出部に相当する。
【0106】
そして、参照信号保持部631、641は、参照信号保持部621の一部で構成されている。参照信号保持部631は、参照信号保持部621のうち第2参照信号に対応する複素参照信号が入力、保持および出力される部分で構成されている。参照信号保持部641は、参照信号保持部621のうち第3参照信号に対応する複素参照信号が入力、保持および出力される部分で構成されている。
【0107】
例えば、Nが偶数であり、第1参照信号の前半部分が第2参照信号とされ、第1参照信号の後半部分が第3参照信号とされる場合を想定する。この場合には、参照信号保持部631は、参照信号保持部621のうち信号SR~SRN/2が保持および出力される部分で構成され、参照信号保持部641は、参照信号保持部621のうち信号SRN/2+1~SRが保持および出力される部分で構成される。
【0108】
同様に、行列変換部635、受信信号保持部636、乗算部637は、それぞれ、行列変換部625、受信信号保持部626、乗算部627の一部で構成されている。すなわち、行列変換部635は、行列変換部625のうち第2参照信号に対応する複素受信信号が回転行列に変換される部分で構成されている。また、受信信号保持部636は、受信信号保持部626のうち、複素受信信号のうち第2参照信号との相関検出に用いられる部分が入力、保持および出力される部分で構成されている。また、乗算部637は、乗算部627のうち受信信号保持部636から出力された複素受信信号と行列変換部635によって生成された回転行列とを乗算する部分で構成されている。
【0109】
例えば上記の場合には、行列変換部635は、行列変換部625のうち信号SR~SRN/2が入力され、回転行列R~RN/2に変換されて出力される部分で構成される。また、受信信号保持部636は、受信信号保持部626のうち信号S~SN/2が入力、保持および出力される部分で構成される。また、乗算部637は、乗算部627のうち 受信信号保持部636から出力された信号S~SN/2と行列変換部635によって生成された回転行列R~RN/2とを乗算する部分で構成される。
【0110】
また、行列変換部645、受信信号保持部646、乗算部647は、それぞれ、行列変換部625、受信信号保持部626、乗算部627の一部で構成されている。すなわち、行列変換部645は、行列変換部625のうち第3参照信号に対応する複素受信信号が回転行列に変換される部分で構成されている。また、受信信号保持部646は、受信信号保持部626のうち、受信信号のうち第3参照信号との相関検出に用いられる部分が入力、保持および出力される部分で構成されている。また、乗算部647は、乗算部627のうち受信信号保持部646から出力された複素受信信号と行列変換部645によって生成された回転行列とを乗算する部分で構成されている。
【0111】
例えば上記の場合には、行列変換部645は、行列変換部625のうち信号SRN/2+1~SRが入力され、回転行列RN/2+1~Rに変換されて出力される部分で構成される。また、受信信号保持部646は、受信信号保持部626のうち信号SN/2+1~Sが入力、保持および出力される部分で構成される。また、乗算部647は、乗算部627のうち 受信信号保持部646から出力された信号SN/2+1~Sと行列変換部645によって生成された回転行列RN/2+1~Rとを乗算する部分で構成される。
【0112】
このように、乗算部627、637、647は、相関算出を行う演算回路、具体的には、複素受信信号と第1、第2、第3参照信号との乗算を行う演算回路を共有している。
【0113】
乗算部627は、第1実施形態と同様に、乗算によって生成された信号ΔS~ΔSを個別に出力する。そして、例えば上記の場合には、信号ΔS~ΔSN/2が加算信号生成部628および加算信号生成部638に入力され、信号ΔSN/2+1~ΔSが加算信号生成部628および加算信号生成部648に入力される。
【0114】
加算信号生成部638は、入力された信号を加算し、これにより生成された複素信号を図示しない平均化部に出力する。この平均化部は、加算信号生成部638からの出力信号の振幅を、加算された信号の数で割って平均化する。例えば上記の場合には、平均化部は、この振幅をN/2で割る。平均化された複素信号は、振幅変換部634に出力される。振幅変換部634は、第1実施形態と同様に、入力された信号を振幅に変換し、相関信号として出力する。
【0115】
同様に、加算信号生成部648は、入力された信号を加算し、これにより生成された複素信号を図示しない平均化部に出力する。この平均化部は、加算信号生成部648からの出力信号の振幅を、加算された信号の数で割って平均化する。例えば上記の場合には、平均化部は、この振幅をN/2で割る。平均化された複素信号は、振幅変換部644に出力される。振幅変換部644は、第1実施形態と同様に、入力された信号を振幅に変換し、相関信号として出力する。
【0116】
なお、相関フィルタ63、64は、アップチャープフィルタ620A、ダウンチャープフィルタ620Bの両方と演算回路を共有している。アップチャープフィルタ620Aが備える乗算部627、および、ダウンチャープフィルタ620Bが備える乗算部627と、加算信号生成部638、648との間には、加算信号生成部638、648に入力される信号を選択する回路が設けられている。
【0117】
この回路により、駆動信号に応じて、加算信号生成部638、648に入力される信号が切り替えられる。すなわち、アップチャープを含む探査波を送信する場合には、アップチャープフィルタ620Aが備える乗算部627から出力された信号ΔS~ΔSの前半部分が加算信号生成部638に入力され、後半部分が加算信号生成部648に入力される。一方、ダウンチャープを含む探査波を送信する場合には、ダウンチャープフィルタ620Bが備える乗算部627から出力された信号ΔS~ΔSの前半部分が加算信号生成部648に入力され、後半部分が加算信号生成部638に入力される。
【0118】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0119】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0120】
(1)乗算部627、637、647は、乗算を行う演算回路を共有しており、信号を加算する範囲を変えることにより、3種類の相関フィルタが並行して処理されている。これによれば、相関検出の計算を行う回路、特に、回路規模の大きな乗算部が削減されるため、計算量および回路規模を低減することができる。
【0121】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して参照信号の周波数を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0122】
本実施形態では、図示しない車速センサによって計測された自車両の速度が超音波センサ2に入力されるようになっており、この速度に応じて参照信号の周波数が補正される。具体的には、図21に示すように、参照信号は駆動信号を高周波側にシフトしたものとなる。
【0123】
図21の実線は補正された参照信号であり、一点鎖線は駆動信号と同じ周波数の元の参照信号である。また、fRL、fRHのグラフにおいて、二点鎖線は、補正された第1参照信号のうち第2、第3参照信号から除かれる部分を示している。周波数のシフト量は車速に応じて設定され、車速が大きいほどシフト量が大きくなる。
【0124】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0125】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0126】
(1)車速に応じて参照信号の周波数を補正している。したがって、ドップラーシフトによる符号判定精度の低下、および、高さ判定精度の低下を抑制することができる。
【0127】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して複素信号を正規化および位相回転する構成を追加したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0128】
図22に示すように、本実施形態の受信信号処理部6は、直交検波部61、相関フィルタ62、相関フィルタ63、相関フィルタ64に加えて、正規化部65と、位相回転部66とを備えている。また、参照信号処理部7は、直交検波部71に加えて、正規化部72と、位相回転部73とを備えている。駆動信号生成部5、受信信号処理部6、参照信号処理部7、符号判定部8、高さ判定部9は、例えば、前述した駆動信号生成、直交検波、相関算出、符号判定、高さ判定や、後述する正規化、位相回転等の機能がプログラムされたDSPで構成される。
【0129】
正規化部65は、直交検波部61から出力された複素受信信号を振幅が一定となるように正規化するものである。図22に示すように、直交検波部61から出力された複素受信信号は、正規化部65に入力される。
【0130】
正規化部65は、直交検波部61から出力された複素受信信号を振幅に変換する。すなわち、正規化部65は、信号S~Sについて、実部I~I、虚部Q~Qから振幅r~rを算出する。例えば、振幅rは、r=√(I +Q )となる。振幅r~rについても同様に算出される。
【0131】
そして、正規化部65は、振幅r~rに基づいて、直交検波部61から入力された複素受信信号を、位相を保持したまま振幅を正規化して単位ベクトルに変換する。具体的には、正規化部65は、複素受信信号を元の振幅で除算する。すなわち、信号S~Sの実部I~IはI/r~I/rに変換され、虚部Q~QはQ/r~Q/rに変換される。
【0132】
位相回転部66は、複素受信信号の位相を回転させるものである。位相回転部66は、第1位相回転部に相当する。位相回転部66には、正規化部65によって正規化された複素受信信号が入力されるようになっており、位相回転部66によって位相が回転された複素受信信号は、相関フィルタ62、63、64に出力される。
【0133】
位相回転部66は、具体的には、入力された信号を例えば次のように処理する。すなわち、正規化された複素受信信号の実部をI’、虚部をQ’、位相をθとし、I’=cosθ、Q’=sinθ、cos2θ=1-2sinθ、sin2θ=2sinθcosθを用いて、I’とQ’からcos2θとsin2θを求める。そして、新しい複素受信信号の実部、虚部をそれぞれcos2θ、sin2θとして出力する。
【0134】
本実施形態では、このように正規化および位相回転された信号S~Sが相関フィルタ62、63、64に入力され、複素参照信号との相関検出が行われる。そして、ベクトル回転部622の乗算部627では、I~I、Q~Qの代わりにI/r~I/r、Q/r~Q/rが用いられて数式2に示すような演算が行われる。
【0135】
位相回転量は整数倍であり、例えば上記のように2倍とされるが、他の倍率で位相を回転させてもよい。例えば、位相回転部66において、2倍の位相回転を2回実行し、cos4θ=1-2sin2θ、sin4θ=2sin2θcos2θのように位相が4倍回転された信号を出力してもよい。
【0136】
正規化部72は、直交検波部71から出力された複素参照信号を振幅が一定となるように正規化するものである。正規化部72は、正規化部65と同様の方法で複素参照信号を正規化する。正規化部72によって正規化された複素参照信号は、位相回転部73に出力される。
【0137】
位相回転部73は、複素参照信号の位相を回転させるものである。位相回転部73は、第2位相回転部に相当する。位相回転部73には、正規化部72によって正規化された複素参照信号が入力されるようになっており、位相回転部73によって位相が回転された複素参照信号は、相関フィルタ62、63、64に出力される。位相回転部73においても、位相回転部66と同様に位相回転が行われる。位相回転部73によって第1参照信号に対応する複素参照信号の位相が回転されることにより、第2、第3参照信号に対応する複素参照信号の位相も回転される。
【0138】
相関フィルタ62は、位相が回転された複素受信信号と、位相が回転された複素参照信号との相関検出を行い、相関信号を出力する。詳細には、相関フィルタ62のアップチャープフィルタ620Aには、位相回転部73からアップチャープに対応する正規化および位相回転された信号SR~SRが入力される。また、ダウンチャープフィルタ620Bには、位相回転部73からダウンチャープに対応する正規化および位相回転された信号SR~SRが入力される。アップチャープフィルタ620A、ダウンチャープフィルタ620Bでは、正規化および位相回転された複素受信信号と、正規化および位相回転された複素参照信号との相関検出が行われ、相関信号が出力される。
【0139】
また、相関フィルタ63には、正規化および位相回転された信号SR~SRのうち、第2参照信号に対応する信号が入力される。そして、この信号と、正規化および位相回転された複素受信信号との相関検出が行われ、相関信号が出力される。また、相関フィルタ64には、正規化および位相回転された信号SR~SRのうち、第3参照信号に対応する信号が入力される。そして、この信号と、正規化および位相回転された複素受信信号との相関検出が行われ、相関信号が出力される。
【0140】
本実施形態の物体検知処理では、図15のステップS101にて、直交検波部61が受信信号を複素信号に変換し、正規化部65が複素受信信号を正規化した後、位相回転部66が正規化された複素受信信号の位相回転を行う。また、直交検波部71が参照信号を複素信号に変換し、正規化部72が複素参照信号を正規化した後、位相回転部73が正規化された複素参照信号の位相回転を行う。そして、ステップS102にて、相関フィルタ62、63、64は、位相回転された複素受信信号と位相回転された複素参照信号の相関検出を行う。ステップS104では、符号判定部8は、この相関検出の結果に基づいて符号判定を行い、ステップS105では、高さ判定部9は、この相関検出の結果に基づいて高さ判定を行う。
【0141】
図23は、正規化および位相回転による複素受信信号の周波数帯域の変化を示す図である。図23において、一点鎖線は直交検波部61によって生成された複素受信信号の振幅を示し、二点鎖線は正規化部65によって正規化された複素受信信号の振幅を示し、実線は位相回転部66によって位相回転された複素受信信号の振幅を示す。また、図23において、fLPFは、LPF612のカットオフ周波数である。
【0142】
車両やフェンス等の複雑な形状の障害物を検知するには、相関フィルタ62、63、64の出力の信号幅を短くして符号判定精度および高さ判定精度を向上させることが望ましい。受信信号の周波数帯域を広くすることにより、この信号幅を短くすることができる。
【0143】
車載センサでトランスデューサに用いられるマイクロフォンは、狭帯域の周波数特性を有する。すなわち、このような特性のマイクロフォンをトランスデューサ41に用いた場合、共振周波数付近では送受信感度が大きいが、共振周波数から離れた周波数では、送受信感度が小さくなる。
【0144】
したがって、共振周波数をfとして、例えばf=fとなるようにチャープ信号を送信すると、f付近の周波数成分は振幅が大きくなるものの、fから離れた周波数成分の振幅が小さくなり、帯域全体のうちf付近の成分しか十分に活用できない。そのため、図23の一点鎖線で示すように実質的な帯域幅が狭くなり、上記の信号幅が長くなる。これにより、複雑な形状の障害物の検知時に、符号判定を誤るおそれがある。また、信号S~Sの周波数による振幅の差が大きいと、相関検出の結果が共振周波数f付近の振幅に引っ張られ、符号の誤判定が生じるおそれがある。
【0145】
これに対して、相関検出の前に複素受信信号を正規化し、信号S~Sの振幅を揃えると、マイクロフォンの周波数特性の影響が低減され、図23の二点鎖線で示すように、受信信号の周波数帯域が広くなる。そして、正規化された複素受信信号を位相回転することで、実線で示すように、見かけ上の周波数帯域がさらに広くなる。これにより、相関出力の信号幅が短くなり、符号判定精度および高さ判定精度が向上する。
【0146】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0147】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0148】
(1)相関検出の前に、複素受信信号の位相を回転させている。これにより、相関出力の信号幅が短くなり、受信波の分解能が向上するため、符号判定精度および高さ判定精度が向上する。
【0149】
(第5実施形態)
第5実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して参照信号を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0150】
図24に示すように、本実施形態の第2参照信号は、第1参照信号のうち周波数がfよりも低い部分で構成されており、第3参照信号は、第1参照信号のうち周波数がfよりも高い部分で構成されている。すなわち、第1参照信号のうち、周波数がf付近の部分は、第2参照信号と第3参照信号の両方から除かれており、第2参照信号の最大周波数と第3参照信号の最小周波数とが離れている。
【0151】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0152】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0153】
(1)第2、第3参照信号の周波数の差を第1実施形態よりも大きくしている。周波数の差が大きいほど指向性の差が大きいので、このようにすることで、高さ判定精度が向上する。
【0154】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0155】
送信部40Aを構成するトランスデューサ41と、受信部40Bを構成するトランスデューサ41とが、別体として設けられていてもよい。
【0156】
第2参照信号と第3参照信号の周波数が一部で重なっていてもよい。
【0157】
第3~第5実施形態において、第2実施形態のように相関フィルタ62、63、64が乗算部を共有してもよい。第4実施形態において、第3のように参照信号の周波数を補正してもよい。図25に示すように、第5実施形態において、第3実施形態のように参照信号の周波数を補正してもよい。第5実施形態において、第4実施形態のように複素信号の正規化および位相回転を行ってもよい。
【0158】
図26に示すように、第1参照信号の帯域を駆動信号より狭くしてもよい。受信信号のうち周波数帯域の両端部の成分はS/Nが低いため、これに対応する部分を図26に示すように参照信号から除くことで、符号判定精度が向上する。
【0159】
第2、第3参照信号が、第1参照信号と部分的に帯域を共有してもよい。例えば、図26に示す第1参照信号と、図24に示す第2、第3参照信号を用いてもよい。この場合にも、第5実施形態と同様に高さ判定精度が向上する。
【0160】
図27に示すように、図26の参照信号の周波数を第3実施形態のように補正してもよい。
【0161】
図28に示すように、駆動信号および参照信号として、周波数fの信号と周波数fの信号とが交互に繰り返されるFSK(Frequency Shift Keying)信号を用いてもよい。図28のfは、第1参照信号の周波数である。第1実施形態では、相関フィルタ62はアップチャープ用とダウンチャープ用の2つのフィルタで構成されたが、このような駆動信号を用いる場合には、相関フィルタ62は、1つのフィルタで構成され、図28に示す第1参照信号と受信信号との相関検出を行う。そして、第2参照信号は第1参照信号のうち周波数がfの部分で構成され、第3参照信号は第1参照信号のうち周波数がfの部分で構成される。
【0162】
図29に示すように、駆動信号および参照信号として、4つの周波数で構成されたFSK信号を用いてもよい。図29では、周波数がfの信号と、周波数がfより大きくfより小さい信号と、周波数がfより大きくfより小さい信号と、周波数がfの信号とが順に並んでいる。この場合、例えば、第2参照信号はこれら4つの信号のうち2番目と4番目の信号で構成され、第3参照信号は1番目と3番目の信号で構成される。
【0163】
上記各実施形態では、駆動信号生成部5が出力した参照信号を用いたが、駆動信号生成部5の設定に対応した参照信号をあらかじめ算出し、記録しておいたものを用いてもよい。
【0164】
相関算出の手法は、複素受信信号を参照信号に基づいてベクトル回転し、加算する手法に限らない。例えば、複素受信信号をベクトルの振幅rと位相θに変換し、参照信号の位相との位相差Δθを算出する手法を用いてもよい。
【0165】
相関算出の手法は、直交検波により受信信号を複素信号に変換してから算出する手法に限らない。例えば、受信信号と参照信号との相関関数で算出してもよい。算出した相関信号を振幅に変換することにより、フィルタ出力を得ることができる。
【0166】
相関関数の計算は、FFTを用いて行ってもよい。FFTはFast Fourier Transformの略である。
【0167】
本開示に記載の駆動信号生成部、受信信号処理部、参照信号処理部、符号判定部、高さ判定部、制御部等及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の駆動信号生成部、受信信号処理部、参照信号処理部、符号判定部、高さ判定部、制御部等及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の駆動信号生成部、受信信号処理部、参照信号処理部、符号判定部、高さ判定部、制御部等及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0168】
40A 送信部
40B 受信部
5 駆動信号生成部
62 相関フィルタ
63 相関フィルタ
64 相関フィルタ
8 符号判定部
9 高さ判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
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