IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-燃料噴射制御装置 図1
  • 特許-燃料噴射制御装置 図2
  • 特許-燃料噴射制御装置 図3
  • 特許-燃料噴射制御装置 図4
  • 特許-燃料噴射制御装置 図5
  • 特許-燃料噴射制御装置 図6
  • 特許-燃料噴射制御装置 図7
  • 特許-燃料噴射制御装置 図8
  • 特許-燃料噴射制御装置 図9
  • 特許-燃料噴射制御装置 図10
  • 特許-燃料噴射制御装置 図11
  • 特許-燃料噴射制御装置 図12
  • 特許-燃料噴射制御装置 図13
  • 特許-燃料噴射制御装置 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】燃料噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 51/00 20060101AFI20240416BHJP
   F02M 61/16 20060101ALI20240416BHJP
   F02M 51/06 20060101ALI20240416BHJP
   F02D 41/20 20060101ALI20240416BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20240416BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240416BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
F02M51/00 A
F02M61/16 W
F02M51/06 M
F02D41/20
F02D41/22
F02D45/00 345
F16K31/06 310A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021030871
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131759
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 雅司
(72)【発明者】
【氏名】藤野 友基
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-074095(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0327301(US,A1)
【文献】特開2014-055570(JP,A)
【文献】特開2018-091303(JP,A)
【文献】米国特許第05937828(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00-71/04
F02D 41/20
F02D 41/22
F02D 45/00
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射弁(2)のコイル(2a)への通電を制御する燃料噴射制御装置(1)であって、
前記コイルに通電して前記燃料噴射弁を駆動させる駆動期間において通電経路に設けられた少なくとも1つの上流側スイッチ(T11,T12)のオン状態とオフ状態とを繰り返し切り替えることで定電流制御を行い、前記燃料噴射弁の開弁を制御する通電制御部(33)と、
前記コイルに流れるコイル電流を検出する電流検出部(R10)と、
前記定電流制御を行う定電流制御期間における前記コイル電流の少なくとも1つの周波数スペクトルの変化に基づいて、前記燃料噴射弁の開弁タイミングを検出する開弁検出部(35)と、
前記開弁検出部による検出結果に基づいて、前記燃料噴射弁による開弁を補正する開弁補正部(57)と
を備える燃料噴射制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記周波数スペクトルは、前記コイル電流の値であるコイル電流値に関連する電流関連パラメータを予め設定された第1所定時間毎に演算することにより作成され、
前記開弁検出部は、前記周波数スペクトルの時系列データに基づいて、前記開弁タイミングを検出する燃料噴射制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記演算はFFT演算である燃料噴射制御装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記電流関連パラメータは、前記コイル電流値を予め設定された第2所定時間毎に微分した時間微分値である燃料噴射制御装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記少なくとも1つの周波数スペクトルは、複数の周波数スペクトルであり、
前記開弁検出部は、前記定電流制御期間において前記複数の周波数スペクトルの変化が予め設定された開弁検出条件を満たした場合に、前記開弁タイミングを検出する燃料噴射制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記複数の周波数スペクトルは、前記定電流制御において前記少なくとも1つの上流側スイッチのオン状態とオフ状態とを繰り返し切り替えるスイッチング周波数の付近の第1周波数における前記周波数スペクトルである第1周波数スペクトルと、前記第1周波数の逓倍の周波数の付近の第2周波数における前記周波数スペクトルである第2周波数スペクトルとを含み、
前記開弁検出部は、前記定電流制御期間において前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルの変化が前記開弁検出条件を満たした場合に、前記開弁タイミングを検出する燃料噴射制御装置。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか1項に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記開弁検出部が前記開弁タイミングの検出を開始する場合に、前記定電流制御において前記少なくとも1つの上流側スイッチのオン状態とオフ状態とを繰り返し切り替えるスイッチング周波数を、前記開弁タイミングを検出するとき以外の前記スイッチング周波数である通常スイッチング周波数から、前記開弁タイミングを検出するときの前記スイッチング周波数である開弁検出スイッチング周波数に切り替えるように構成された周波数切替部(S120)を備える燃料噴射制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記開弁検出部が前記開弁タイミングを検出することができなかった場合に、前記開弁検出スイッチング周波数を補正するように構成されたスイッチング補正部(S230)を備える燃料噴射制御装置。
【請求項9】
請求項1~請求項8の何れか1項に記載の燃料噴射制御装置であって、
少なくとも前記開弁検出部を含む制御IC(27)と、
少なくとも前記開弁補正部を含むマイクロコンピュータ(25)とを備え、
前記制御ICは、前記開弁検出部による検出結果を示す開弁検出情報を前記マイクロコンピュータへ出力する燃料噴射制御装置。
【請求項10】
請求項1~請求項8の何れか1項に記載の燃料噴射制御装置であって、
少なくとも前記開弁検出部および前記開弁補正部を含むマイクロコンピュータを備える燃料噴射制御装置。
【請求項11】
請求項1~請求項10の何れか1項に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記開弁補正部は、前記燃料噴射弁の燃料噴射開始タイミングを指令する噴射指令信号の出力タイミングを変更することによって、前記開弁を補正する燃料噴射制御装置。
【請求項12】
請求項1~請求項10の何れか1項に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記開弁補正部は、前記燃料噴射弁の燃料噴射開始タイミングを指令する噴射指令信号の長さを変更することによって、前記開弁を補正する燃料噴射制御装置。
【請求項13】
請求項1~請求項10の何れか1項に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記開弁補正部は、ピーク電流の値を変更することによって、前記開弁を補正する燃料噴射制御装置。
【請求項14】
請求項1~請求項10の何れか1項に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記開弁補正部は、前記定電流制御における定電流の実効値を変更することによって、前記開弁を補正する燃料噴射制御装置。
【請求項15】
請求項1~請求項10の何れか1項に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記定電流制御は、前記定電流制御における定電流として第1定電流を前記コイルに流す第1定電流制御と、前記第1定電流より電流値が小さい第2定電流を前記定電流として前記コイルに流す第2定電流制御とを含み、
前記開弁補正部は、前記燃料噴射弁の燃料噴射開始タイミングを指令する噴射指令信号の長さに対して、前記第1定電流制御を行う第1定電流制御期間が占める割合と、前記第2定電流制御を行う第2定電流制御期間が占める割合とを変更することによって、前記開弁を補正する燃料噴射制御装置。
【請求項16】
請求項1~請求項10の何れか1項に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記開弁補正部は、前記通電制御部による制御において、前記定電流制御を行う前記定電流制御期間を追加したり削除したりすることによって、前記開弁を補正する燃料噴射制御装置。
【請求項17】
請求項1~請求項10の何れか1項に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記コイルへの通電するための通電用電圧は、車載バッテリのバッテリ電圧を昇圧することによって得られる昇圧電圧を含み、
前記開弁補正部は、前記昇圧電圧を変更することによって、前記開弁を補正する燃料噴射制御装置。
【請求項18】
請求項1~請求項17の何れか1項に記載の燃料噴射制御装置であって、
前記開弁検出部による検出結果に基づいて、前記燃料噴射弁に異常が発生したか否かを判断するように構成された異常判断部(S180)と、
前記燃料噴射弁に異常が発生したと前記異常判断部が判断した場合に、その旨を通知するように構成された異常通知部(S190)と
を備える燃料噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料噴射弁を制御する燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料噴射弁に流れる電流の時間変化を示す電流波形の変曲点を検出することにより開弁タイミングを特定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-55570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者の詳細な検討の結果、車載バッテリのバッテリ電圧を昇圧した昇圧電圧を用いて燃料噴射弁に大電流を流すことによって燃料噴射弁を制御する場合には、電流波形の変曲点を用いて開弁タイミングを特定することができないという課題が見出された。
【0005】
本開示は、大電流を流して燃料噴射弁を制御する場合において開弁タイミングを特定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、燃料噴射弁(2)のコイル(2a)への通電を制御する燃料噴射制御装置(1)であって、通電制御部(33)と、電流検出部(R10)と、開弁検出部(35)と、開弁補正部(57)とを備える。
【0007】
通電制御部は、コイルに通電して燃料噴射弁を駆動させる駆動期間において通電経路に設けられた少なくとも1つの上流側スイッチ(T11,T12)のオン状態とオフ状態とを繰り返し切り替えることで定電流制御を行い、燃料噴射弁の開弁を制御する。
【0008】
電流検出部は、コイルに流れるコイル電流を検出する。
開弁検出部(35)は、定電流制御を行う定電流制御期間におけるコイル電流の少なくとも1つの周波数スペクトルの変化に基づいて、燃料噴射弁の開弁タイミングを検出する。
【0009】
開弁補正部は、開弁検出部(35)による検出結果に基づいて、燃料噴射弁による開弁を補正する。
このように構成された本開示の燃料噴射制御装置は、車載バッテリのバッテリ電圧を昇圧した昇圧電圧を用いて定電流制御を行うことよって燃料噴射弁を開弁させる場合において、定電流制御期間中に発生する燃料噴射弁の開弁タイミングを検出することができる。このため、本開示の燃料噴射制御装置は、大電流を流して燃料噴射弁を制御する場合において開弁タイミングを特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】燃料噴射制御装置の構成を示すブロック図である。
図2】コイル電流の制御方法を説明するタイミングチャートである。
図3】開弁タイミング検出方法を説明するタイミングチャートである。
図4】第1実施形態の開弁時間差検出処理を示すフローチャートである。
図5】補正処理を示すフローチャートである。
図6】スイッチング周波数を変更する方法を示す図である。
図7】ピーク電流値が増加することにより開弁タイミングが早くなることを示す図である。
図8】ピック電流値が増加することにより開弁タイミングが早くなることを示す図である。
図9】ピック電流を流す期間を延長することにより開弁タイミングが早くなることを示す図である。
図10】電流制御期間の追加および削除を示す図である。
図11】昇圧電圧の低下により開弁タイミングが早くなることを示す図である。
図12】インジェクタの異常を説明する図である。
図13】開弁検出スイッチング周波数を補正する方法を示す図である。
図14】第2実施形態の開弁時間差検出処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
以下に本開示の第1実施形態を図面とともに説明する。
本実施形態の燃料噴射制御装置1(以下、ECU1)は、図1に示すように、車両に搭載された複数気筒エンジンの各気筒に燃料を噴射供給する複数の燃料噴射弁2(以下、インジェクタ2)を駆動する。ECUは、Electronic Control Unitの略である。
【0012】
ECU1は、各インジェクタ2のコイル2aへの通電開始タイミングおよび通電時間を制御することにより、各気筒への燃料噴射タイミングおよび燃料噴射量を制御する。
ECU1は、インジェクタ2のコイル2aの上流側端部が接続される上流側端子5と、コイル2aの下流側端部が接続される下流側端子7とを備える。
【0013】
ECU1は、トランジスタT10と、電流検出用抵抗R10とを備える。トランジスタT10は、NチャネルMOSFETであり、ドレインが下流側端子7に接続され、ソースが電流検出用抵抗R10の一端に接続される。電流検出用抵抗R10は、一端がトランジスタT10のソースに接続され、他端がグランドラインに接続される。
【0014】
インジェクタ2のコイル2aが通電すると、図示しない弁体(いわゆる、ノズルニードル)が開弁位置に移動し(つまり、開弁し)、インジェクタ2から燃料が噴射される。また、コイル2aへの通電が遮断されると、弁体が元の閉弁位置に戻り(つまり、閉弁し)、燃料噴射が停止される。
【0015】
なお、図1では、複数のインジェクタ2のうち、1つのインジェクタ2のみを示している。以下では、その1つのインジェクタ2の駆動に関して説明する。実際には、上流側端子5は、複数のインジェクタ2について共通の端子となっている。また、下流側端子7およびトランジスタT10は、各インジェクタ2について(すなわち、各気筒について)それぞれ備えられている。トランジスタT10は、駆動対象のインジェクタ2(すなわち、噴射対象の気筒)を選択するためのスイッチであり、気筒選択スイッチとも呼ばれる。
【0016】
ECU1は、トランジスタT11と、逆流防止用のダイオードD11と、電流還流用のダイオードD12と、コイル2aに放電するエネルギーが蓄積されるコンデンサC0と、車載バッテリのバッテリ電圧VBを昇圧してコンデンサC0を充電するDCDCコンバータ21とを備える。
【0017】
トランジスタT11は、NチャネルMOSFETであり、ドレインが、車載バッテリのバッテリ電圧VBが供給される電源ライン9に接続され、ソースが、ダイオードD11のアノードに接続される。なお、トランジスタT11にPチャネルMOSFETを適用してもよい。
【0018】
ダイオードD11のカソードは上流側端子5に接続される。ダイオードD12は、カソードが上流側端子5に接続され、アノードがグランドラインに接続される。
DCDCコンバータ21は、昇圧用のコイルL0と、トランジスタT0と、電流検出用の抵抗R0と、逆流防止用のダイオードD0とを備える。
【0019】
コイルL0は、一端が電源ライン9に接続され、他端がダイオードD0のアノードとトランジスタT0のドレインとに接続される。トランジスタT0のソースは、抵抗R0を介してグランドラインに接続される。コンデンサC0は、一端がダイオードD0のカソードに接続され、他端がグランドラインに接続される。
【0020】
DCDCコンバータ21は、トランジスタT0のオン状態とオフ状態との切り替えを繰り返すことによって、コイルL0とトランジスタT0との接続点に、バッテリ電圧VBよりも高いフライバック電圧を発生させる。このフライバック電圧によってコンデンサC0が充電される。このため、コンデンサC0はバッテリ電圧VBよりも高い電圧で充電される。
【0021】
ECU1は、トランジスタT12と、エネルギー回収用のダイオードD13とを備える。トランジスタT12は、NチャネルMOSFETであり、ドレインがコンデンサC0の正極に接続され、ソースが上流側端子5に接続される。なお、トランジスタT12にPチャネルMOSFETを適用してもよい。
【0022】
ダイオードD13は、アノードが下流側端子7に接続され、カソードがコンデンサC0の正極に接続される。
ECU1は、マイクロコンピュータ25(以下、マイコン25)と、制御IC27とを備える。ICは、Integrated Circuitの略である。
【0023】
マイコン25は、CPU51、ROM53およびRAM55等を備える。マイコン25の各種機能は、CPU51が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、ROM53が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。なお、CPU51が実行する機能の一部または全部を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。
【0024】
CPU51は、後述する補正処理を実行することにより開弁補正部57として機能する。
マイコン25には、エンジン回転数NEを示す信号、アクセル開度ACCを示す信号、および、エンジンの冷却水温THWを示す信号などが入力される。そしてマイコン25は、入力される各種信号により特定されるエンジン運転状態に基づいて、気筒毎に噴射指令信号を生成して制御IC27へ出力する。
【0025】
噴射指令信号は、その信号のレベルがアクティブレベル(本実施形態では例えばハイ)の間だけインジェクタ2を駆動する(つまり、インジェクタ2のコイル2aに通電する)ための信号である。このため、マイコン25は、エンジン運転状態に基づいて、気筒毎に、インジェクタ2の駆動期間(すなわち、コイル2aへの通電期間)を設定し、その駆動期間だけ、該当する気筒の噴射指令信号をハイに設定する。
【0026】
また、電流検出用抵抗R10の両端に生じる電圧を不図示の増幅回路で増幅した信号が、インジェクタ2のコイル2aに流す電流(以下、コイル電流)の値を示す電流モニタ信号Viとして制御IC27に入力される。
【0027】
制御IC27は、充電制御部31と、通電制御部33と、開弁タイミング検出部35とを備える。
充電制御部31は、トランジスタT0を制御することにより、DCDCコンバータ21による充電を制御する。
【0028】
通電制御部33は、トランジスタT10,T11,T12を制御することにより、コイル電流を制御する。
次に、通電制御部33の動作について説明する。
【0029】
図2に示すように、通電制御部33は、噴射対象気筒の噴射指令信号がハイになると、その噴射指令信号がハイになっている間、噴射対象気筒のインジェクタ2に対応するトランジスタT10をオン状態にする。
【0030】
また通電制御部33は、噴射指令信号がハイになると、トランジスタT12をオン状態にする。これにより、コンデンサC0の正極が上流側端子5に接続されて、コンデンサC0からコイル2aに放電される。この放電により、コイル2aへの通電が開始される。
【0031】
通電制御部33は、コイル電流の値(以下、コイル電流値)を上記の電流モニタ信号Viに基づいて検出する。そして通電制御部33は、トランジスタT12をオン状態にした後に、コイル電流値が目標ピーク値ia(例えば12A)に達したことを検出すると、トランジスタT12をオフ状態にする。
【0032】
このようにして、コイル2aへの通電開始時には、コンデンサC0に蓄積されていたエネルギーがコイル2aに放出される。この放電電流が、インジェクタ2の開弁速度を速めるための電流(以下、ピーク電流)である。
【0033】
そして通電制御部33は、トランジスタT12をオフ状態にした後に、コイル電流が上記の目標ピーク値iaよりも小さい一定の電流となるように、トランジスタT12またはトランジスタT11のオン状態とオフ状態とを繰り返し切り替える定電流制御を行う。
【0034】
具体的に説明すると、通電制御部33は、噴射指令信号がハイになったとき(すなわち、駆動期間の開始時)から一定の時間Tbが経過するまでの間は、下記の第1定電流制御を行う。第1定電流制御は、コイル電流値が第1下側閾値ibL以下であることを検出するとトランジスタT12をオン状態にし、コイル電流値が第1上側閾値ibH以上であることを検知するとトランジスタT12をオフ状態にする制御である。
【0035】
そして通電制御部33は、時間Tbが経過した時点から噴射指令信号がローになるまで(すなわち、駆動期間の終了時まで)の間は、下記の第2定電流制御を行う。第2定電流制御は、コイル電流値が第2下側閾値icL以下であることを検出するとトランジスタT11をオン状態にし、コイル電流値が第2上側閾値icH以上であることを検出するとトランジスタT11をオフ状態にする制御である。
【0036】
第1,2下側閾値ibL,icLと、第1,2上側閾値ibH,icHと、目標ピーク値iaとの大小関係は、ia≧ibH>ibL>icH>icLである。
よって、図2に示すように、コイル電流値が目標ピーク値iaから低下して第1下側閾値ibL以下になると、第1定電流制御によりトランジスタT12のオン状態とオフ状態との切り替えが繰り返されて、コイル電流の平均値が、ibHとibLとの間の電流値である第1の一定値ibに維持される。
【0037】
そして、駆動期間の開始時から時間Tbが経過すると、第1定電流制御から第2定電流制御に切り替わる。第1定電流制御から第2定電流制御に切り替えるタイミングのことを、電流値切替タイミングという。
【0038】
このため、電流値切替タイミングから駆動期間の終了時までは、第2定電流制御によりトランジスタT11のオン状態とオフ状態との切り替えが繰り返されて、コイル電流の平均値が、icHとicLとの間の電流値である第2の一定値icに維持される。
【0039】
このように、通電制御部33は、コンデンサC0からコイル2aへの放電が終了した後の駆動電流を、平均値が第1の一定値ibとなる電流と、平均値が第1の一定値ibよりも小さい第2の一定値icとなる電流とに、2段階に切り替えるようにしている。
【0040】
放電の終了時から電流値切替タイミングが到来するまでの期間において、コイル2aに流す電流(すなわち、平均値が第1の一定値ibとなる電流)は、インジェクタ2の開弁を完了させるためのピックアップ電流(以下、ピック電流)である。図2における最下段に示すように、インジェクタ2は、コイル2aにピック電流が流されている期間中に開弁する(すなわち、閉弁状態から開弁状態に遷移する)。
【0041】
そして、電流値切替タイミングから駆動期間が終了するまでの期間において、コイル2aに流す電流(すなわち、平均値が第2の一定値icとなる電流)は、インジェクタ2の開弁状態を保持するためのホールド電流である。ホールド電流は、インジェクタ2の開弁状態を保持するために必要な最小限の電流であるため、ピック電流よりも小さい。
【0042】
なお、トランジスタT11がオン状態であるときには、電源ライン9側からトランジスタT11とダイオードD11とを介してコイル2aへ電流が流れ、トランジスタT11がオフ状態であるときには、グランドライン側からダイオードD12を介して電流が還流する。
【0043】
通電制御部33は、マイコン25からの噴射指令信号がハイからローになると、トランジスタT10をオフ状態にするとともに、トランジスタT11のオン状態とオフ状態との切り替えを終了して、トランジスタT11もオフ状態に保持する。
【0044】
これにより、コイル2aへの通電が停止されてインジェクタ2が閉弁し、インジェクタ2による燃料噴射が終了する。また、噴射指令信号がローになって、トランジスタT10とトランジスタT11とが共にオフ状態にされると、コイル2aにフライバックエネルギーが発生するが、このフライバックエネルギーは、エネルギー回収経路をなすダイオードD13を通じてコンデンサC0へ、電流の形で回収される。
【0045】
また、図1に示すように、開弁タイミング検出部35は、微分演算部41と、FFT演算部43と、開弁時間差算出部45とを備える。FFTは、Fast Fourier Transformの略である。
【0046】
微分演算部41は、噴射指令信号がハイになってからローになるまでの期間(すなわち、駆動期間)におけるコイル電流値を、予め設定された微分演算時間(例えば、10μs)毎に時間微分した値(以下、時間微分値(di/dt))を算出する。
【0047】
FFT演算部43は、微分演算部41で算出された時間微分値(di/dt)に対して、予め設定されたFFT演算時間(例えば、200μs)毎にFFT演算を実行し、周波数スペクトルを作成する。
【0048】
開弁時間差算出部45は、噴射指令信号がハイになったタイミングから推定される開弁タイミング(以下、推定開弁タイミング)と、FFT演算部43により作成された周波数スペクトルの時間変化に基づいて検出される開弁タイミング(以下、検出開弁タイミング)との差(以下、開弁時間差)を算出する。そして開弁時間差算出部45は、算出した開弁時間差、または、開弁時間差を算出することができなかった旨を示す開弁検出情報をマイコン25へ出力する。
【0049】
図3のタイミングチャートTC1は、噴射指令信号の時間変化を示す。図3のタイミングチャートTC2は、コイル電流の時間変化を示す。図3のタイミングチャートTC3は、時間微分値(di/dt)の時間変化を示す。図3のタイミングチャートTC4は、時間微分値(di/dt)の周波数スペクトルの時間変化を示す。図3のタイミングチャートTC5は、インジェクタ2のノズルニードルのリフト量の時間変化を示す。
【0050】
図3に示すように、時刻t1で噴射指令信号がローからハイに切り替わると、電流値が急激に増加するピーク電流がインジェクタ2に流れる。
タイミングチャートTC2に示すように、時刻t2でコイル電流が目標ピーク値iaに達すると、第1定電流制御が開始されて、時刻t2から時間Tbが経過するまでの間、電流値が第1上側閾値ibHと第1下側閾値ibLとの間で振動するピック電流がインジェクタ2に流れる。
【0051】
タイミングチャートTC3に示すように、ピック電流値の振動に対応して、時間微分値(di/dt)も振動する。
そして、タイミングチャートTC5に示すように、ピック電流が流れている期間内の時刻t3に、インジェクタ2の開弁が開始し、時刻t4に、インジェクタ2の開弁が完了する。
【0052】
さらに、タイミングチャートTC2に示すように、時刻t1から時間Tbが経過した時刻t5になると、第1定電流制御から第2定電流制御に切り替わり、電流値が第2上側閾値icHと第2下側閾値icLとの間で振動するホールド電流がインジェクタ2に流れる。
【0053】
そして、時刻t6で噴射指令信号がハイからローに切り替わると、タイミングチャートTC2に示すように、コイル電流が0Aになる。これにより、タイミングチャートTC5に示すように、インジェクタ2は開弁状態から閉弁状態に遷移する。
【0054】
また、タイミングチャートTC4に示すように、時刻t2から時刻t3までの期間CP1では、周波数スペクトルSP1の強度と、周波数スペクトルSP2の強度とが大きい。
そして、時刻t3から時刻t4までの期間CP2では、周波数スペクトルSP1,SP2の強度が低下し、周波数スペクトルSP3の強度と、周波数スペクトルSP4の強度とが上昇する。なお、開弁タイミングを検出するときにトランジスタT11,T12のオン状態とオフ状態とを繰り返し切り替える周波数(本実施形態では、約25kHzを想定)が設定される。以下、上記の周波数を開弁検出スイッチング周波数という。
【0055】
さらに、時刻t4から時刻t5までの期間CP3では、周波数スペクトルSP1,SP2の強度が上昇し、周波数スペクトルSP3,SP4の強度が低下する。
なお、周波数スペクトルSP5は、期間CP1,CP2,CP3において強度の変化が小さい。
【0056】
そして、周波数スペクトルSP3の強度、および、周波数スペクトルSP4の強度は、期間CP1,CP3で小さく、期間CP2で大きい。
このため、開弁検出スイッチング周波数近傍の周波数スペクトルの強度と、開弁検出スイッチング周波数の2倍の周波数近傍の周波数スペクトルの強度とが上昇するタイミングを検出することによって、開弁タイミングを特定することが可能である。なお、周波数スペクトルSP3は、開弁検出スイッチング周波数近傍の周波数スペクトルであり、周波数スペクトルSP4は、開弁検出スイッチング周波数の2倍の周波数近傍の周波数スペクトルである。
【0057】
次に、制御IC27の開弁タイミング検出部35が開弁時間差を検出する開弁時間差検出処理の手順を説明する。
開弁時間差検出処理が実行されると、図4に示すように、開弁タイミング検出部35の微分演算部41は、まずS10にて、駆動期間におけるコイル電流値を微分演算時間が経過する毎に時間微分した時間微分値(di/dt)を算出する。
【0058】
また、開弁タイミング検出部35のFFT演算部43は、S20にて、算出された時間微分値(di/dt)に対してFFT演算時間毎にFFT演算を実行し、周波数スペクトルを作成する。
【0059】
そして、開弁タイミング検出部35の開弁時間差算出部45は、S30にて、開弁検出スイッチング周波数近傍の周波数スペクトルの強度が変化したか否かを判断する。具体的には、開弁時間差算出部45は、例えば、開弁検出スイッチング周波数近傍の周波数スペクトルにおいて極大値を有する変化があったか否かを判断する。図3において、開弁検出スイッチング周波数近傍の周波数スペクトルの極大値は、周波数スペクトルSP3の点P1である。
【0060】
ここで、開弁検出スイッチング周波数近傍の周波数スペクトルの強度が変化した場合には、開弁時間差算出部45は、S40にて、開弁検出スイッチング周波数の2倍の周波数近傍の周波数スペクトルの強度が変化したか否かを判断する。具体的には、開弁時間差算出部45は、例えば、開弁検出スイッチング周波数の2倍の周波数近傍の周波数スペクトルにおいて極大値を有する変化があったか否かを判断する。図3において、開弁検出スイッチング周波数の2倍の周波数近傍の周波数スペクトルの極大値は、周波数スペクトルSP4の点P2である。
【0061】
ここで、開弁検出スイッチング周波数の2倍の周波数近傍の周波数スペクトルの強度が変化した場合には、開弁時間差算出部45は、S50にて、開弁時間差ΔTvを算出する。具体的には、開弁時間差算出部45は、例えば、開弁検出スイッチング周波数近傍の周波数スペクトルにおいて、極大値を有する変化における強度の立ち上り開始の時点と、立ち下り終了の時点とに基づいて上記の検出開弁タイミングを検出する。図3において、開弁検出スイッチング周波数近傍の周波数スペクトルにおける立ち上り開始の時点は、周波数スペクトルSP3の点P3である。また、開弁検出スイッチング周波数近傍の周波数スペクトルにおける立ち下り終了の時点は、周波数スペクトルSP3の点P4である。
【0062】
そして開弁時間差算出部45は、上記の推定開弁タイミングから検出開弁タイミングを減算した減算値を、開弁時間差ΔTvとして算出する。さらに開弁時間差算出部45は、算出した開弁時間差ΔTvを示す開弁検出情報をマイコン25へ出力する。
【0063】
S50の処理が終了すると、開弁タイミング検出部35は、開弁時間差検出処理を終了する。
またS30にて、開弁検出スイッチング周波数近傍の周波数スペクトルの強度が変化していない場合には、開弁時間差算出部45は、S60に移行する。またS40にて開弁検出スイッチング周波数の2倍の周波数近傍の周波数スペクトルの強度が変化していない場合には、開弁時間差算出部45は、S60に移行する。
【0064】
そしてS60に移行すると、開弁時間差算出部45は、開弁時間差ΔTvを算出することができなかった旨を示す開弁検出情報をマイコン25へ出力し、開弁時間差検出処理を終了する。
【0065】
次に、マイコン25が実行する補正処理の手順を説明する。補正処理は、マイコン25の動作中において繰り返し実行される処理である。
補正処理が実行されると、マイコン25のCPU51は、図5に示すように、まずS110にて、予め設定された補正開始条件が成立したか否かを判断する。本実施形態の補正開始条件は、例えば、予め設定された補正実行周期が経過することである。
【0066】
ここで、補正開始条件が成立していない場合には、CPU51は、補正処理を終了する。一方、補正開始条件が成立した場合には、CPU51は、S120にて、第1,2定電流制御においてトランジスタT11,T12のオン状態とオフ状態とを繰り返し切り替えるスイッチング周波数を、通常スイッチング周波数から開弁検出スイッチング周波数に変更する。通常スイッチング周波数は、開弁タイミングを検出するとき以外の第1,2定電流制御においてトランジスタT11,T12のオン状態とオフ状態とを繰り返し切り替える周波数である。
【0067】
具体的には、CPU51は、図6に示すように、第1下側閾値ibLおよび第1上側閾値ibHを変更することによって、スイッチング周波数を変更する。
次にCPU51は、図5に示すように、S130にて、インジェクタ2への通電が開始されてからインジェクタ2への通電が終了するまで待機する。具体的には、CPU51は、噴射指令信号がローからハイになり、更に、ハイからローになるまで待機する。
【0068】
次にCPU51は、S140にて、スイッチング周波数を、開弁検出スイッチング周波数から通常スイッチング周波数に変更する。さらにCPU51は、S150にて、制御IC27から開弁検出情報を取得する。
【0069】
そしてCPU51は、S160にて、取得した開弁検出情報に基づいて、開弁時間差ΔTvを検出できたか否かを判断する。具体的には、CPU51は、開弁検出情報が開弁時間差ΔTvを示している場合には、開弁時間差ΔTvを検出できたと判断する。
【0070】
ここで、開弁時間差ΔTvを検出できた場合には、CPU51は、S170にて、開弁時間差ΔTvが0に等しいか否かを判断する。そして、開弁時間差ΔTvが0に等しい場合には、CPU51は、補正処理を終了する。
【0071】
一方、開弁時間差ΔTvが0に等しくない場合には、CPU51は、S180にて、開弁時間差ΔTvが予め設定された異常検出閾値Vthより大きいか否かを判断する。
ここで、開弁時間差ΔTvが異常検出閾値Vthより大きい場合には、CPU51は、S190にて、インジェクタ2に異常が発生した旨を示すインジェクタ異常通知を出力し、補正処理を終了する。
【0072】
一方、開弁時間差ΔTvが異常検出閾値Vth未満である場合には、CPU51は、S200にて、開弁時間差ΔTvが0より大きいか否かを判断する。ここで、開弁時間差ΔTvが0より大きい場合には、CPU51は、S210にて、開弁時間差ΔTvに応じて開弁タイミングを早くして、補正処理を終了する。なお、開弁タイミングを早くするための具体的方法は後述する。
【0073】
一方、開弁時間差ΔTvが0より大きくない場合には、CPU51は、開弁時間差ΔTvが0より小さいと判断し、S220にて、開弁時間差ΔTvに応じて開弁タイミングを遅くして、補正処理を終了する。なお、開弁タイミングを遅くするための具体的方法は後述する。
【0074】
またS160にて開弁時間差ΔTvを検出できなかった場合には、CPU51は、S230にて、開弁検出スイッチング周波数を補正して、補正処理を終了する。なお、開弁検出スイッチング周波数を補正するための具体的方法は後述する。
【0075】
次に、開弁タイミングを変更するための具体的方法を説明する。
まず、噴射指令信号をローからハイにするタイミングを早くすることにより、開弁タイミングを早くすることができる。換言すると、噴射指令信号をローからハイにするタイミングを遅くすることにより、開弁タイミングを遅くすることができる。
【0076】
また、図7に示すように、ピーク電流値を大きくすることにより、ノズルニードルへの吸引力が増加し、開弁タイミングを早くすることができる。換言すると、ピーク電流値を小さくすることにより、開弁タイミングを遅くすることができる。
【0077】
また、図8に示すように、ピック電流の第1の一定値ibを大きくすることによって、ノズルニードルへの吸引力が増加し、開弁タイミングを早くすることができる。換言すると、ピック電流の第1の一定値ibを小さくすることにより、開弁タイミングを遅くすることができる。
【0078】
また、図9に示すように、ピック電流を流す期間を延長することによって、ノズルニードルへの吸引力が増加し、開弁タイミングを早くすることができる。換言すると、ピック電流を流す期間を短縮することにより、開弁タイミングを遅くすることができる。但し、駆動期間は変更されない。すなわち、マイコン25は、噴射指令信号の長さに対して、第1定電流制御を行うピック電流制御期間が占める割合と、第2定電流制御を行うホールド電流制御期間が占める割合とを変更する。
【0079】
また、図10のタイミングチャートTC11に示すように、ピック電流を流すピック電流制御期間を削除して、削除したピック電流制御期間を、ホールド電流を流すホールド電流制御期間に変更することによって、開弁タイミングを遅くすることができる。
【0080】
また、図10のタイミングチャートTC12に示すように、図10のタイミングチャートTC11に対してピック電流制御期間を追加することによって、開弁タイミングを早くすることができる。
【0081】
また、図10のタイミングチャートTC13に示すように、ピーク電流を流すピーク電流制御期間を削除して、目標ピーク値ia付近でコイル電流値が振動して多くのピークが発生する多重ピーク電流を流す多重ピーク電流制御期間を追加することによって、開弁タイミングを早くすることができる。
【0082】
また、図10のタイミングチャートTC14に示すように、ピーク電流よりもピーク値が小さいプレピーク電流を流すプレピーク電流制御期間と、プレピーク電流のピーク値よりも小さい一定値付近でコイル電流値が振動するプレチャージ電流を流すプレチャージ電流制御期間とを多重ピーク電流制御期間の前に追加することによって、開弁タイミングを早くすることができる。
【0083】
ピーク電流およびピック電流の可変のみで開弁の補正に対応する場合には、ピーク電流およびピック電流を高い電流値に引き上がってしまうことで周辺電子部品(例えば、MOSFETおよびダイオード等)の大型化または高コスト化につながってしまう。しかし、図10に示すように、ピック電流制御期間、ホールド電流制御期間および多重ピーク電流制御期間を追加したり削除したりして開弁を補正することによって、周辺電子部品を変更することなく開弁タイミングを補正できる範囲を拡大することが可能となる。
【0084】
また、図11に示すように、昇圧電圧VCを下げることによって、ピーク電流の傾きを小さくしてピーク電流制御期間を長くすることができる。これにより、ノズルニードルへの吸引力が増加し、開弁タイミングを早くすることができる。換言すると、昇圧電圧VCを上げることにより、開弁タイミングを遅くすることができる。
【0085】
次に、インジェクタ2の異常について説明する。
図12は、正常時および異常時におけるノズルニードル位置(以下、ニードル位置)の時間変化をコイル電流の時間変化と対応付けて示す図である。線L1は、正常時におけるニードル位置の時間変化を示す。線L2は、異常時におけるニードル位置の時間変化を示す。
【0086】
図12に示すように、正常時には、閉弁時のニードル位置が0であり、開弁完了時のニードル位置が+NP1とする。
しかし、シート摩耗によってクリアランスが拡大すると、線L2で示すように、閉弁時のニードル位置が0から-NP2に変化する。これにより、矢印AL1で示すように、開弁開始時間が遅くなる。
【0087】
また、開弁側の突き当て部の摩耗によって、開弁完了時のニードル位置が+NP1から+NP3となり、開弁が完了するまでのリフト量が増加する。これにより、矢印AL2で示すように、開弁完了時間が遅くなる。
【0088】
このため、CPU51は、S180において、開弁時間差ΔTvが異常検出閾値Vthより大きいか否かによって、異常の発生を判断している。
次に、開弁検出スイッチング周波数の補正について説明する。
【0089】
図13に示すように、開弁タイミングを検出するときには、第1下側閾値ibLおよび第1上側閾値ibHを変更することによって、スイッチング周波数を通常スイッチング周波数から開弁検出スイッチング周波数に変更する。矢印AL11は、通常スイッチング周波数から開弁検出スイッチング周波数への変更を示す。
【0090】
そして、開弁時間差ΔTvを検出することができなかった場合には、第1下側閾値ibLおよび第1上側閾値ibHを更に変更することによって、開弁検出スイッチング周波数を補正する。矢印AL12は、開弁検出スイッチング周波数の補正を示す。
【0091】
このように構成されたECU1は、インジェクタ2のコイル2aへの通電を制御する燃料噴射制御装置であって、通電制御部33と、電流検出用抵抗R10と、開弁タイミング検出部35と、開弁補正部57とを備える。
【0092】
通電制御部33は、コイル2aに通電してインジェクタ2を駆動させる駆動期間において通電経路に設けられたトランジスタT12のオン状態とオフ状態とを繰り返し切り替えることで第1定電流制御を行い、インジェクタ2の開弁を制御する。
【0093】
電流検出用抵抗R10は、コイル2aに流れるコイル電流を検出する。
開弁タイミング検出部35は、第1定電流制御を行うピック電流制御期間におけるコイル電流の2つの周波数スペクトルの変化に基づいて、インジェクタ2の開弁タイミングを検出する。
【0094】
開弁補正部57は、開弁タイミング検出部35による検出結果に基づいて、インジェクタ2による開弁を補正する。
このようにECU1は、車載バッテリのバッテリ電圧VBを昇圧した昇圧電圧VCを用いて第1定電流制御を行うことよってインジェクタ2を開弁させる場合において、第1定電流制御中に発生するインジェクタ2の開弁タイミングを検出することができる。このため、ECU1は、大電流を流してインジェクタ2を制御する場合において開弁タイミングを特定することができる。またECU1は、インジェクタ個体間のばらつき(例えば、初期ばらつき、燃料温度などの外乱、長期使用に伴う劣化)を補正することができる。
【0095】
さらにECU1は、コイル電流の2つの周波数スペクトルの変化に基づいて開弁タイミングを検出するため、開弁タイミングの検出のためにインジェクタ2内部にセンサ回路を設ける必要が無くなり、インジェクタ2の構成を簡略化することができる。
【0096】
また開弁タイミング検出部35は、ピック電流制御期間において2つの周波数スペクトルの変化が予め設定された開弁検出条件を満たした場合に、開弁タイミングを検出する。
2つの周波数スペクトルは、ピック電流制御期間においてトランジスタT12のオン状態とオフ状態とを繰り返し切り替える開弁検出スイッチング周波数の付近の第1周波数における周波数スペクトル(以下、第1周波数スペクトル)と、第1周波数の2倍の周波数の付近の第2周波数における周波数スペクトル(以下、第2周波数スペクトル)である。第1,2周波数スペクトルは、コイル電流値を予め設定された微分演算時間毎に微分した時間微分値を予め設定されたFFT演算時間毎にFFT演算することにより作成される。これにより、ECU1は、定電流制御中に開弁タイミングを検出することが可能となる。
【0097】
本実施形態における上記の開弁検出条件は、第1,2周波数スペクトルの強度において極大値を有する変化をすることである。
またマイコン25は、開弁タイミング検出部35が開弁タイミングの検出を開始する場合に、スイッチング周波数を、通常スイッチング周波数から、開弁検出スイッチング周波数に切り替える。これにより、ECU1は、開弁タイミングを検出するとき以外の第1,2定電流制御においてスイッチング周波数を任意に設定することができる。このため、ECU1は、トランジスタT11,T12のスイッチング損失を低減して熱対策をしたり、エミッションノイズ周波数を変更してEMC性能を向上させたりすることができる。
【0098】
またマイコン25は、開弁タイミング検出部35が開弁タイミングを検出することができなかった場合に、開弁検出スイッチング周波数を補正する。これにより、ECU1は、開弁検出感度の高いスイッチング周波数が、インジェクタ2の温度特性、または、インジェクタ2の長期使用による劣化に伴って変化した場合に、スイッチング周波数を変更することで開弁検出感度を維持することができる。
【0099】
またマイコン25は、開弁タイミング検出部35による検出結果に基づいて、インジェクタ2に異常が発生したか否かを判断する。そしてマイコン25は、インジェクタ2に異常が発生したと判断した場合に、その旨を示すインジェクタ異常通知を出力する。これにより、ECU1は、適切なインジェクタ交換時期を通知することができ、インジェクタ2の製品寿命を使い切ることができるため、インジェクタ2の交換頻度を減らすことができる。
【0100】
以上説明した実施形態において、ECU1は燃料噴射制御装置に相当し、インジェクタ2は燃料噴射弁に相当し、電流検出用抵抗R10は電流検出部に相当し、開弁タイミング検出部35は開弁検出部に相当し、S170,S200~S220は開弁補正部としての処理に相当する。
【0101】
また、トランジスタT11,T12は上流側スイッチに相当し、第1定電流制御および第2定電流制御は定電流制御に相当する。
また、時間微分値(di/dt)は電流関連パラメータに相当し、FFT演算時間は第1所定時間に相当し、微分演算時間は第2所定時間に相当し、周波数スペクトルSP3は第1周波数スペクトルに相当し、周波数スペクトルSP4は第2周波数スペクトルに相当する。
【0102】
また、S120は周波数切替部としての処理に相当し、S230はスイッチング補正部としての処理に相当し、第1の一定値ibは定電流の実効値に相当する。
また、ピック電流およびホールド電流は定電流に相当し、バッテリ電圧VBおよび昇圧電圧VCは通電用電圧に相当し、S180は異常判断部としての処理に相当し、S190は異常通知部としての処理に相当する。
【0103】
[第2実施形態]
以下に本開示の第2実施形態を図面とともに説明する。なお第2実施形態では、第1実施形態と異なる部分を説明する。共通する構成については同一の符号を付す。
【0104】
第2実施形態のECU1は、開弁時間差検出処理が変更された点が第1実施形態と異なる。
第2実施形態の開弁時間差検出処理は、S45の処理が追加された点が第1実施形態と異なる。
【0105】
すなわち、図14に示すように、S40にて、開弁検出スイッチング周波数の2倍の周波数近傍の周波数スペクトルの強度が変化した場合には、開弁時間差算出部45は、S45にて、開弁検出スイッチング周波数の20倍の周波数近傍の周波数スペクトルの強度が変化したか否かを判断する。具体的には、開弁時間差算出部45は、例えば、開弁検出スイッチング周波数の20倍の周波数近傍の周波数スペクトルの強度が、開弁検出スイッチング周波数近傍の周波数スペクトルにおいて極大値となる時点の近傍の期間内に、開弁検出スイッチング周波数で大きく振動しているか否かを判断する。なお、S45の「開弁検出スイッチング周波数で大きく振動しているか否か」は、開弁タイミングを検出したか否かを判断するために使用してもしなくても何れでも有効である。
【0106】
そして、開弁検出スイッチング周波数の20倍の周波数近傍の周波数スペクトルの強度が変化した場合には、開弁時間差算出部45は、S50に移行する。一方、開弁検出スイッチング周波数の20倍の周波数近傍の周波数スペクトルの強度が変化していない場合には、開弁時間差算出部45は、S60に移行する。
【0107】
このように構成されたECU1は、通電制御部33と、電流検出用抵抗R10と、開弁タイミング検出部35と、開弁補正部57とを備える。そして開弁タイミング検出部35は、第1定電流制御を行うピック電流制御期間におけるコイル電流の3つの周波数スペクトルの変化に基づいて、インジェクタ2の開弁タイミングを検出する。
【0108】
このため、第2実施形態のECU1は、第1実施形態のECU1と同様に、大電流を流してインジェクタ2を制御する場合において開弁タイミングを特定することができる。
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
【0109】
[変形例1]
例えば上記実施形態では、インジェクタ2が、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンに対して液体燃料を噴射する形態を示したが、液体燃料に限定されるものではなく、水素などの気体燃料を噴射するインジェクタに本開示を適用してもよい。
【0110】
[変形例2]
上記実施形態では、コイル電流値の時間微分値に対してFFT演算を実行し、周波数スペクトルを作成する形態を示した。しかし、コイル電流値に対してFFT演算を実行して周波数スペクトルを作成するようにしてもよい。
【0111】
[変形例3]
上記第1実施形態では、開弁検出スイッチング周波数の付近の周波数スペクトルと、開弁検出スイッチング周波数の2倍の周波数の付近の周波数スペクトルとを用いて開弁タイミングを検出する形態を示した。しかし、開弁検出スイッチング周波数の逓倍の周波数の付近の周波数スペクトルを用いてもよい。コイル電流値の時間微分値の時間変化は、開弁検出スイッチング周波数の正弦波より急峻な変動を繰り返す波形を有しているからである。
【0112】
[変形例4]
上記実施形態では、開弁時間差ΔTvに応じて開弁タイミングを早くしたり遅くしたりする形態を示した。しかし、開弁時間差ΔTvに応じて噴射指令信号の長さを長くしたり短くしたりするようにしてもよい。具体的には、開弁時間差ΔTvが0より大きい場合には、開弁時間差ΔTvに応じて噴射指令信号の長さを長くし、開弁時間差ΔTvが0より小さい場合には、開弁時間差ΔTvに応じて噴射指令信号の長さを短くするようにしてもよい。これにより、開弁タイミングに関わらず燃料噴射量を一定に保持することができる。
【0113】
[変形例5]
上記実施形態では、制御IC27が開弁タイミング検出部35を含み、マイコン25が補正処理を実行する形態を示した。しかし、開弁タイミング検出部35により実現される処理をマイコン25が実行するようにしてもよいし、マイコン25により実行される補正処理を制御IC27を用いて実現するようにしてもよい。
【0114】
[変形例6]
上記実施形態では、第1定電流制御においてトランジスタT12のオン状態とオフ状態とを繰り返し切り替える形態を示したが、第1定電流制御においてトランジスタT11のオン状態とオフ状態とを繰り返し切り替えるようにしてもよい。
【0115】
本開示に記載のECU1およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載のECU1およびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載のECU1およびその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。ECU1に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0116】
上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。
【0117】
上述したECU1の他、当該ECU1を構成要素とするシステム、当該ECU1としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、燃料噴射制御方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0118】
1…ECU、2…インジェクタ、2a…コイル、25…マイコン、33…通電制御部、35…開弁タイミング検出部、57…開弁補正部、R10…電流検出用抵抗、T11,T12…トランジスタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14