(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】異常検知装置
(51)【国際特許分類】
G01K 1/14 20210101AFI20240416BHJP
F16D 66/00 20060101ALI20240416BHJP
B60T 17/22 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G01K1/14 E
G01K1/14 L
F16D66/00 A
B60T17/22 Z
(21)【出願番号】P 2021064741
(22)【出願日】2021-04-06
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中川 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸直
(72)【発明者】
【氏名】奥村 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】鍋野 由幸
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-185004(JP,A)
【文献】特開平11-251375(JP,A)
【文献】特開昭56-162112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
F16D 49/00-71/04
B60T 15/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のブレーキ装置(5)に装着された温度センサ(7)からの信号に基づいて、前記ブレーキ装置の温度であるブレーキ温度を取得するように構成された温度取得部(81)と、
前記温度取得部によって取得された前記ブレーキ温度の傾きの所定期間における変動幅を算出するように構成された変動幅算出部(83)と、
前記変動幅算出部によって算出された前記変動幅が所定値を上回るか否かを判定し、前記変動幅が前記所定値を上回ると判定された場合には、前記温度センサの装着状態の異常が発生したと判断するように構成された異常検知部(85)と、
前記異常検知部によって前記異常が発生したと判断された場合に、前記異常の発生を報知するように構成された異常報知部(87)と、
を備えた異常検知装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の異常検知装置であって、
前記異常検知部は、所定の判定期間において、前記変動幅が前記所定値を上回るとの判定が継続された場合に、前記温度センサの装着状態の異常が発生と判断するように構成された、
異常検知装置。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の異常検知装置であって、
前記異常検知部は、前記ブレーキ装置において予め設定された装着位置から前記温度センサが外れたことを検知するように構成された、
異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブレーキの異常を検出するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラック、バス及びトレーラ等の車両で使用されるドラムブレーキのブレーキシューに温度センサを取り付け、この温度センサを用いてドラムブレーキの異常な温度上昇を検知する技術が知られている。この技術によって、タイヤバーストや車両火災等を抑制することができる。
【0003】
温度センサは、取付治具によって、ドラムブレーキのブレーキシューに取り付けることができる。例えば、特許文献1には、ブレーキシューに対して温度センサを着脱可能に取り付けることができる取付治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発明者の詳細な検討の結果、従来の技術について、下記のような課題が見出された。
ドラムブレーキ等のブレーキ装置は、車両振動、被水、ブレーキ装置の温度上昇(即ち、ブレーキ熱)などの過酷な環境にさらされるが、温度センサは、このブレーキ装置に例えば取付治具によって装着されるので、取付治具等が破損した場合には、正常にブレーキ装置の温度を測定できないことがある。
【0006】
つまり、温度センサがブレーキシューの表面から外れてしまった場合には、正常にブレーキシューの温度(従って、ブレーキ装置の温度)を測定できないことがある。
しかも、通常、温度センサは、例えばドラムブレーキ内においてバックプレート等に覆われているので、日常使用で温度センサが外れたことに気づくことが難しい。
【0007】
本開示の一局面は、温度センサの装着状態の異常を検知することができる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
a)本開示の一態様の異常検知装置(1)は、状態検知部(81)と異常検知部(83、85)と異常報知部(87)とを備える。
状態検知部は、車両のブレーキ装置(5)に装着されて当該ブレーキ装置の温度を検出する温度センサ(7)について、当該温度センサの装着状態を検知するように構成されている。
【0009】
異常検知部は、前記状態検知部からの情報に基づいて、前記温度センサの装着状態の異常を検知するように構成されている。
異常報知部は、前記異常検知部によって前記異常が検知された場合には、前記異常の発生を報知するように構成されている。
【0010】
このような構成によって、温度センサのブレーキ装置における装着状態の異常(例えば、センサ外れ)を検知することができる。
つまり、本開示では、状態検知部からの情報に基づいて、温度センサの装着状態の異常を検知した場合には、異常の発生を報知するので、目視等で温度センサの装着状態が分かりにくい場合でも、温度センサの装着状態を容易に把握することができる。
【0011】
b)本開示の他の一態様の異常検知装置(1)は、温度取得部(81)と変動幅算出部(83)と異常検知部(85)と異常報知部(87)とを備えている。
温度取得部は、車両のブレーキ装置(5)に装着された温度センサ(7)からの信号に基づいて、前記ブレーキ装置の温度であるブレーキ温度を取得するように構成されている。
【0012】
変動幅算出部は、前記温度取得部によって取得された前記ブレーキ温度の傾きの所定期間における変動幅を算出するように構成されている。
異常検知部は、前記変動幅算出部によって算出された前記変動幅が所定値を上回るか否かを判定し、前記変動幅が前記所定値を上回ると判定された場合には、前記温度センサの装着状態の異常が発生したと判断するように構成されている。
【0013】
異常報知部は、前記異常検知部によって前記異常が発生したと判断された場合に、前記異常の発生を報知するように構成されている。
このような構成によって、温度センサのブレーキ装置における装着状態の異常(例えば、センサ外れ)を検知することができる。
【0014】
つまり、本開示では、ブレーキ温度の傾きの所定期間における変動幅が、所定値(即ち、閾値)を上回ると判定された場合には、温度センサの装着状態の異常が発生したと判断して、異常の発生を報知するので、目視等で温度センサの装着状態が分かりにくい場合であっても、温度センサの装着状態を容易に把握することができる。
【0015】
なお、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態の異常検知装置が搭載された車両の構成を示す説明図である。
【
図3】ドラムブレーキに取付けられた状態の温度センサを示す説明図である。
【
図4】ドラムブレーキに取付けられた状態の温度センサを示す側面図である。
【
図5】車両システムの全体構成を示す説明図である。
【
図6】異常検知装置の演算部の構成を機能的に示すブロック図である。
【
図7】
図7Aはセンサ正常時におけるブレーキ温度の変化を示す説明図、
図7Bはセンサ正常時における温度傾きの変化の状態を示す説明図である。
【
図8】
図8Aはセンサ外れ時におけるブレーキ温度の変化を示す説明図、
図8Bはセンサ外れ時における温度傾きの変化の状態を示す説明図である。
【
図9】第1実施形態の異常検知処理を示すフローチャートである。
【
図10】実験例におけるブレーキ温度等の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.全体構成]
まず、本第1実施形態に係る異常検知装置1を搭載する車両の全体構成(即ち、車両システム3)について、
図1を参照して説明する。
【0018】
異常検知装置1は、例えば、トラック、バス等の自動車や、自動車に牽引されるトレーラ等の被牽引車両に搭載することができる。異常検知装置1は、車両が有する各車軸の両端に設けられたブレーキ装置であるドラムブレーキ5に関する異常を検知する。
【0019】
ここでは、ドラムブレーキ5に関する異常として、ドラムブレーキ5に取り付けられた温度センサ7が本来の装着位置から脱落した(即ち、センサ外れ)等のように、適切に装着されていない異常状態であるか否かを少なくとも判定する。以下、異常検知装置1をトレーラ9に搭載した例について説明する。
【0020】
図1に示すように、トレーラ9は、トラクタヘッド11の後方に連結して牽引されるものである。トレーラ9は、両端にタイヤが取り付けられた3本の車軸を有する。また、各車軸の両端には、それぞれドラムブレーキ5が設けられている。
【0021】
[1-2.ドラムブレーキ]
次に、ドラムブレーキ5について説明する。
図2に示すように、ドラムブレーキ5は、ブレーキドラム13、ブレーキシュー15、ブレーキライニング17、Sカム19、及びリターンスプリング21を備える。
【0022】
ブレーキドラム13は、底面が除去された円筒状の部材である。ブレーキドラム13は、車軸に連結され、タイヤと共に回転するように構成されている。
ブレーキシュー15は、円弧状に形成された部位を有する一対の部材である。一対のブレーキシュー15は、円弧状の部位が、ドラムの内周壁と一定の隙間を空けて対向する位置に配置されている。
【0023】
ブレーキライニング17は、各ブレーキシュー15のブレーキドラム13との対向面に、2枚ずつ取り付けられる。ブレーキライニング17は、ブレーキドラム13の内周壁に押し付けられることによって、制動力を発生させる。2つのブレーキライニング17は、両者の間にブレーキシュー15が露出するように、数mm~十数mm程度離れた間隙23をあけて配置される。
【0024】
Sカム19は、一対のブレーキシュー15の一方の端部にそれぞれ接触する回動自在に取り付けられたS字状の部材である。ブレーキペダルが踏み込まれると、アクチュエータ25が、一対のブレーキシュー15の端部の間を広げる方向、すなわち、ブレーキライニング17をブレーキドラム13に押し付ける方向に、Sカム19を回動させる。その結果、ブレーキライニング17とブレーキドラム13との間で発生する摩擦力によって制動が行われる。
【0025】
リターンスプリング21は、一対のブレーキシュー15の端部の間に接続される。ブレーキペダルの踏込が解除されると、アクチュエータ25が、一対のブレーキシュー15の端部の間を狭める方向に、Sカム19を回動させる。その結果、リターンスプリング21の付勢力により、ブレーキライニング17とブレーキドラム13との間に隙間ができ、制動が解除される。
【0026】
なお、ドラムブレーキ5では、例えば、ブレーキの引き摺り等の異常が発生することがある。このブレーキの引き摺りとは、トレーラ9のブレーキシステムの故障により、ブレーキライニング17がブレーキドラム13に押し付けられたままとなり、ドラムブレーキ5に制動力が発生し続ける状態のことである。このようなブレーキの引き摺りが発生すると、ドラムブレーキ5の温度が過度に上昇することがある。なお、温度が正常の範囲から逸脱して過度に上昇した場合には、その異常を報知することができる。
【0027】
[1-3.温度センサ]
次に、ドラムブレーキ5に取り付けられる温度センサ7について説明する。
図3及び
図4に示すように、温度センサ7は、取付治具31により、ブレーキシュー15のリム部33に取り付けられ、ドラムブレーキ5の温度(即ち、ブレーキ温度)を検出する。詳しくは、ブレーキシュー15の温度を、ブレーキ温度として検出する。
【0028】
以下では、温度センサ7及び取付治具31について説明するが、特開2019-1884420公報に開示されたものと同様であるので、簡単に説明する。
温度センサ7は、L字状の外形形状であり、直線状に延びる第1の棒状部35と、第1の棒状部35と垂直な方向に直線状に延びる第2の棒状部37と、を有する。温度センサ7は、金属製の円筒状部材に覆われ、その断面の外形形状が円形状である。第1の棒状部35は、感温部39を有する。感温部39は、温度センサ7における温度を検出するための部位である。
【0029】
取付治具31は、単一の金属板をS字状に加工した板状部材である。以下の説明では、
図3における縦方向を取付治具31の上下方向と表現し、一対のブレーキライニング17が配置される方向を左右方向と表現し、
図4における横方向(即ち、ブレーキシュー15の幅方向)を前後方向と表現する。なお、本第1実施形態の取付治具31は、左右対称形状である。
【0030】
取付治具31は、ブレーキシュー15のリム部33を上下方向から挟み込むU字状の部分であるセンサ固定部41と、センサ固定部41の前端から上方へ延びるL字状の部分である補助固定部43と、を備える。
【0031】
センサ固定部41は、リム部33を挟み込むための互いに対向する内面同士の間隔が、後端から前方へ向かって狭くなる、いわゆるクリップのような形状である。具体的には、後端部付近の間隔がリム部33の板厚よりも広く、前端部付近の間隔がリム部33の板厚よりも狭くなるように設計されている。このため、センサ固定部41は、リム部33を弾性力により挟み込むように装着可能である。
【0032】
つまり、センサ固定部41(従って、取付治具31)は、リム部33に対して着脱可能に取り付けられている。
詳しくは、
図4に示すように、センサ固定部41は、前後方向に延び、先端部が折れ曲がった弾性部材である第1の板部45と、前後方向に直線状に延びる第2の板部47と、第1の板部45と第2の板部47とを連結する連結板部49と、を有する。
【0033】
第1の板部45は、連結板部49の下端から前方へ延びている。具体的には、第1の板部45は、連結板部49の下端から第2の板部47へ近づくように延びている。第1の板部45の先端部は、第2の板部47側から離れる方向へ折れ曲がっている。
【0034】
第2の板部47は、左右方向の中央部に、第2の板部47の長手方向に延びるスリット51を有する。また、第2の板部47は、スリット51を挟む両側を連結するカバー部53を有する。カバー部53は、上方に突出するように湾曲した板部である。
【0035】
[1-4.温度センサの取付方法]
次に、温度センサ7を取付治具31によってリム部33に取り付ける取付方法について説明する。
【0036】
図3及び
図4に示すように、取付治具31は、温度センサ7を保持した状態で、即ち、第1の棒状部35の先端部分をカバー部53の下部に配置した状態で、リム部33を挟むようにしてリム部33に装着される。
【0037】
詳しくは、第1の板部45を左右のブレーキライニング17の間隙23に差し込むとともに、第1の板部45と第2の板部47とでリム部33を挟み、取付治具31を前方に押し込んで移動させる。
【0038】
これによって、取付治具31は、温度センサ7の第1の棒状部35がリム部33の内周面33aに当接した状態となるとともに、第1の板部45の弾性力によって、リム部33に装着される。
【0039】
この状態において、第1の板部45は、リム部33の外周面33bに沿って配置され、その先端部における折れ曲がった部分にて外周面33bに当接する。また、第2の板部47は、内周面33aに沿って配置される。なお、感温部39は、カバー部53の内面とリム部33の内周面33aとの間で保持される。
【0040】
[1-5.車両システムの電気的構成]
次に、車両システム3の電気的構成について説明する。
前記
図1に示すように、車両システム3は、複数の温度センサ7、異常検知装置1、警告装置61、及び車載機器群63を備えている。
【0041】
温度センサ7は、接触式の温度検出素子を備える周知の温度センサである。接触式の温度センサとしては、例えば、周囲の温度によって抵抗値が変化するサーミスタが挙げられる。温度センサ7は、トレーラ9が有する複数のドラムブレーキ5のそれぞれに設けられ、ドラムブレーキ5又はドラムブレーキ5の周辺の温度を、ブレーキ温度として検出する。
【0042】
詳しくは、温度センサ7は、前記
図4に示すように、前記間隙23に対応する部位のブレーキシュー15の露出部位に取り付けられ、ブレーキシュー15の温度をブレーキ温度として検出する。
【0043】
温度センサ7は、一つのドラムブレーキ5が有する一対のブレーキシュー15のうちの一方に取り付けられる。ただし、一対のブレーキシュー15の両方に取り付けられていてもよい。また、温度センサ7は、ブレーキライニング17に取り付けられ、ブレーキライニング17の温度をブレーキ温度として検出してもよいし、ブレーキドラム13の周辺に取り付けられ、周辺の温度をブレーキ温度として検出してもよい。
【0044】
なお、温度センサ7は、ブレーキシュー15のリム部33に装着されるが、リム部33のうち、バックプレート側(即ち、車体側)に装着してもよいし、バックプレート側と反対側に装着してもよい。
【0045】
警告装置61は、トレーラ9の前端、即ち、トラクタヘッド11との境界付近で、トラクタヘッド11に乗車中のドライバーが、サイドミラーを介して視認することが可能な位置に設置されている。
【0046】
この警告装置61は、異常検知装置1からの制御信号に基づいて、ドライバーに対して、光等によって異常を報知する。
車載機器群63は、車両の挙動を表す信号(以下、挙動信号)を検出または伝送する機器である。
図5に示すように、車載機器群63が提供する挙動信号には、ブレーキの制動状態を示すブレーキ信号および車速を示す車速信号が少なくとも含まれている。
【0047】
異常検知装置1は、AD変換部65、情報取得部67、演算部69等を備えた電子制御装置である。
AD変換部65は、複数の温度センサ7からの検出信号をデジタルデータに変換して演算部69に供給する。
【0048】
情報取得部67は、車載機器群63からブレーキ信号や車速信号を取得して演算部69に供給する。
演算部69は、CPU71と、RAM、ROM、フラッシュメモリ等の半導体メモリであるメモリ73と、を有する周知のマイクロコンピュータを中心に構成される。演算部69の各種機能は、CPU71が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。本第1実施形態では、メモリ73が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に相当する。また、このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。なお、演算部69を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。
【0049】
演算部69は、CPU71がプログラムを実行することにより、AD変換部65および情報取得部67から得られる情報に従ってブレーキに関する異常を判定し、判定結果を警告装置61を介して報知する異常検知処理を少なくとも実行する。
【0050】
なお、演算部69の機能を実現する手法はソフトウェアに限るものではなく、その一部又は全部の要素について、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現してもよい。例えば、上記機能がハードウェアである電子回路によって実現される場合、その電子回路は多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路、あるいはこれらの組合せによって実現してもよい。
【0051】
[1-6.演算部の機能]
次に、演算部69の構成を機能的に説明する。
図6に示すように、異常検知装置1の演算部69は、機能的な構成として、温度取得部81と変動幅算出部83と異常検知部85と異常報知部87とを備えている。
【0052】
温度取得部81は、車両のドラムブレーキ5に取り付けられた温度センサ7からの信号に基づいて、ドラムブレーキ5の温度であるブレーキ温度を取得するように構成されている。
【0053】
変動幅算出部83は、温度取得部81によって取得されたブレーキ温度の傾き(即ち、温度傾き)の所定期間における変動幅を算出するように構成されている。
ここで、変動幅とは、一定時間におけるブレーキ温度の変化(即ち、温度傾き)が、所定期間(即ち、一定時間よりも長い期間)において変動する場合に、その所定期間における温度傾きの変動幅(例えば、最大の変動幅)である。
【0054】
また、前記所定期間は、変動幅を算出するために設定されている期間であり、ここでは、一定時間毎の複数倍の期間に設定されている。なお、所定期間は、後述するように、温度センサ7の取り付けに関する異常(例えば、センサ外れ)の発生を検知することが可能な期間であり、実験等によって、予め設定されている。なお、一定時間としては、例えば、数十秒から数百秒の間の数値を採用でき、所定期間としては、例えば、数分から数十分の間の数値を採用できる。
【0055】
異常検知部85は、変動幅算出部83によって算出された変動幅が所定値を上回るか否かを判定し、変動幅が所定値を上回ると判定された場合には、温度センサ7の取り付けに関する異常が発生したと判断するように構成されている。
【0056】
詳しくは、異常検知部85では、所定の判定期間において、変動幅が所定値を上回るとの判定が継続された場合に、温度センサ7の装着状態の異常が発生したと判断するように構成されている。例えば、変動幅の判定を所定の判定期間において複数回実施し、当該複数回の判定に基づいて異常の判定を行うように構成されていてもよい。ここで、判定期間としては、前記一定時間や所定期間より長く、例えば、所定期間の複数倍以上の期間を採用できる。
【0057】
異常報知部87は、異常検知部85によって異常が発生したと判断された場合に、異常の発生を報知するように構成されている。
なお、異常の報知としては、ドライバー等に報知する場合に限らず、異常の発生をメモリ73に記憶することも含む。つまり、いわゆるダイアグ異常として記憶することも含む。
【0058】
[1-7.異常検知の原理]
図7Aに示すように、温度センサ7がドラムブレーキ5(詳しくは、ブレーキシュー15)に正常に装着されている場合(即ち、センサ正常時)には、ブレーキシュー15の温度(即ち、ブレーキ温度)は、例えば、ドラムブレーキ5の使用開始からの時間の経過とともに、徐々に増加してゆく。なお、ブレーキ温度としては、リアルタイムの温度以外に、例えば、所定期間等における移動平均の値を採用できる(以下、同様)。
【0059】
なお、ここでは、ドラムブレーキ5を、単にブレーキと記すことがある。
詳しくは、取付治具31がブレーキシュー15のリム部33の装着位置からずれたり脱落したり破損しておらず、従って、温度センサ7もリム部33の装着位置から外れておらず正常な状態で装着されている場合には、ブレーキ温度は、時間の経過とともに、滑らかなカーブで増加してゆく。
【0060】
これは、温度センサ7が、熱容量の大きなブレーキシュー15の温度(即ち、シュー温度)を測定するため、温度変化(即ち、温度傾き)はほぼ一定であると考えられるからである。
【0061】
このようなセンサ正常時では、
図7Bに示すように、一定時間ΔH毎におけるブレーキ温度の変化量(即ち、温度差)、従って温度傾きは、例えば、ブレーキの使用開始(時刻t1)から所定の時間(即ち、一定時間ΔHの複数倍の時間)が経過した場合(時刻t8)でも、それほど変動しない。
【0062】
例えば、ブレーキの使用開始(時刻t1)と一定時間ΔH経過後の時刻(時刻t2)との間のブレーキ温度の変化量(即ち、温度差)Δt1は、ブレーキの使用開始(時刻t1)から所定の時間経過した場合の時刻(時刻t7)とその時刻から一定時間ΔH経過後の時刻(時刻t8)との間のブレーキ温度の温度差Δt7と、それほど違わない。
【0063】
つまり、「Δt7ーΔt1」で示されるブレーキ温度の温度差の変動幅ΔXは、それほど大きくない。
言い換えれば、所定期間(例えば、一定時間ΔHの整数倍の時刻t1~時刻t8)でみた場合、一定時間ΔHにおけるブレーキ温度の温度差(従って、温度傾き)は、それほど変動しない。
【0064】
それに対して、
図8Aに示すように、温度センサ7が正常に装着されていない場合(即ち、センサ外れ時)には、ブレーキ温度は、ブレーキの使用開始からの時間の経過とともに、車両の振動により、小刻みに変化する。
【0065】
詳しくは、例えば、取付治具31がリム部33の装着位置からずれたり脱落したり破損したりして、温度センサ7もリム部33の装着位置から外れているような場合には、ブレーキ温度は、小刻みに増減を繰り返す。
【0066】
これは、温度センサ7がブレーキシュー15に接しているときには、ブレーキ温度(即ち、シュー温度)を測定するが、温度センサ7がブレーキシュー15に接していないときには、空気の温度を測定していると考えられるからである。
【0067】
このようなセンサ外れ時では、
図8Bに示すように、一定時間ΔH毎におけるブレーキ温度の温度差の変動幅ΔXは、センサ正常時に比べて大きくなる。
つまり、所定期間(例えば、一定時間ΔHの整数倍の時刻t1~時刻t8)でみた場合、一定時間ΔHにおけるブレーキ温度の温度差(即ち、温度傾き)は、センサ正常時に比べて大きく変動する。
【0068】
なお、温度傾きが温度上昇を示す場合を+、温度下降を示す場合を-で示す場合に、温度傾きの変動幅の大きさを見るときには、上述のように温度傾きの差をとって変動幅を算出し、その変動幅の絶対値から変動幅の大きさを判断する。
【0069】
例えば、時刻t2から時刻t3における温度傾きが-Δt2(即ち、温度差の最小値)であり、時刻t6から時刻t7における温度傾きが+Δt6(即ち、温度差の最大値)である場合、温度傾きの変動幅は、「(+Δt6)-(-Δt2)」の絶対値とすることができる。
【0070】
このように、センサ外れ時では、ブレーキ温度の温度傾きの変動幅ΔXは、センサ正常時に比べて大きくなる。
従って、ブレーキ温度の温度傾きの変動幅ΔXから、センサ外れ等の異常の発生を検知することができる。
【0071】
なお、
図7及び
図8のグラフは、ブレーキ自体は正常な場合のブレーキ温度の上昇等の変化を示している。また、ブレーキの引き摺り等によってブレーキ温度が過度に上昇する場合も、ブレーキの引き摺りがない場合に比べて温度上昇の程度は異なるものの、基本的に同様な特徴的な温度変化が現われるので、上述のように、ブレーキ温度の温度傾きの変動幅ΔXから、センサ外れ等の異常の発生を検知することができる。
【0072】
[1-8.異常検知処理]
次に、演算部69にて実施される異常検知処理について説明する。
なお、この異常検知処理は、温度センサ7が本来の正しい装着位置から外れたこと(即ち、センサ外れ)を検知する処理である。
【0073】
図9のフローチャートに示すように、まず、ステップ(以下、S)100では、ブレーキ温度を取得する。つまり、温度センサ7からの信号に基づいて、ドラムブレーキ5の温度を検出する。
【0074】
続くS110では、一定時間ΔHにおけるブレーキ温度の傾き(即ち、温度傾き)算出する。具体的には、一定時間ΔHにおけるブレーキ温度の温度差を求め、その温度差を一定時間ΔHで除することにより、ブレーキ温度の単位時間当たりの温度の変化である温度傾きを算出する。
【0075】
続くS120では、算出した値(即ち、温度傾き)を、リングバッファに追加する。なお、リングバッファの記憶領域の個数は、「前記所定期間/前記一定時間ΔH」の値に設定されている。
【0076】
続くS130では、リングバッファが埋まっているか否かを判定する。つまり、リングバッファの全ての記憶領域に、前記温度傾きのデータが記憶されているか否かを判定する。ここで肯定判断されるとS140に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。
【0077】
S140では、リングバッファから温度傾きの最小値を取得する。
続くS150では、リングバッファから温度傾きの最大値を取得する。
続くS160では、温度傾きの最大値から最小値を引いて変動幅を算出する。
【0078】
続くS170では、変動幅が閾値(即ち、所定値)を上回るか否かを判定する。ここで肯定判断されるとS180に進み、一方否定判断されるとS210に進み。
S210では、カウンタを初期化し、一旦本処理を終了する。
【0079】
一方、S180では、カウンタをアップする。
続くS190では、カウンタが所定時間(即ち、所定の判定期間)を示す値を上回るか否かを判定する。ここで肯定判断されるとS200に進み、一方否定判断されると、一旦本処理を終了する。
【0080】
S200では、変動幅が閾値(即ち、所定値)を上回っているので、センサ外れ等の温度センサ7の装着に関する異常が発生したと判定して、一旦本処理を終了する。
なお、センサ外れ等の異常が発生した場合には、警告装置61を駆動して、センサ外れ等の異常の発生を報知する処理や、異常の発生をメモリ73に記憶する処理を行う。
【0081】
[1-9.実験例]
次に、実験例について説明する。
本実験例では、第1実施形態と同様に、車両のドラムブレーキ5に取付治具31を用いて温度センサ7を装着した。そして、実際に車両を走行させて、センサ温度(即ち、ブレーキ温度)及びセンサ温度傾き変動幅(即ち、ブレーキ温度の温度傾きの変動幅)を調べた。なお、ブレーキ温度は、所定期間における移動平均の値である。
【0082】
その結果を、
図10に示す。
図10において、ブレーキ1温度~ブレーキ4温度、ブレーキ6温度が、温度センサ7が正常に装着されている場合(即ち、センサ正常時)の例である。一方、ブレーキ5温度は、温度センサが外れた場合(即ち、センサ外れ時)の例である。
【0083】
この
図10から明らかなように、センサ正常時の場合は、温度傾きの変動幅が小さいが、センサ外れ時の場合は、温度傾きの変動幅が大きいことが分かる。
また、センサ正常時の場合は、ある期間において、ブレーキ温度が高いが、センサ外れ時の場合は、ブレーキ温度が低いことが分かる。
【0084】
[1-10.効果]
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)本第1実施形態の異常検知装置1は、温度取得部81と変動幅算出部83と異常検知部85と異常報知部87とを備えている。
【0085】
このような構成によって、温度センサ7のドラムブレーキ5における装着状態の異常(例えば、センサ外れ)を検知することができる。
つまり、本第1実施形態では、ブレーキ温度の傾きの所定期間における変動幅が、所定値を上回ると判定された場合には、温度センサ7の装着状態の異常が発生したと判断して、異常の発生を報知する。従って、目視等で温度センサ7の装着状態が分かりにくい場合であっても、温度センサ7の装着状態を容易に把握することができる。
【0086】
これによって、早期に温度センサ7の交換が可能になるので 安全性が向上するという効果がある。
(1b)本第1実施形態では、異常検知部85によって、所定の判定期間において、前記変動幅が前記所定値を上回るとの判定が継続された場合に、温度センサ7の装着状態の異常が発生したと判断する。つまり、変動幅が所定値を上回ってから、長い期間継続して(即ち、判定期間にわたり)変動幅が所定値を上回るような場合に、異常が発生したと判断する。
【0087】
言い換えると、前記判定期間が終了する前に、変動幅が所定値以下であると判定された場合には、異常が発生したとの判断を行わないようにしている。
これによって、異常の判断(即ち、異常の検知)を精度良く行うことができる。
【0088】
[1-11.文言の対応関係]
本第1実施形態と本開示との関係において、ドラムブレーキ5がブレーキ装置に該当し、温度センサ7が温度センサに該当し、温度取得部81が温度取得部に該当し、変動幅算出部83が変動幅算出部に該当し、異常検知部85が異常検知部に該当し、異常報知部87が異常報知部に該当する。
【0089】
なお、温度取得部81が状態検知部に該当し、変動幅算出部83及び異常検知部85が異常検知部に該当すると考えてもよい。
[2.第2実施形態]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、以下では主として第1実施形態との相違点について説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0090】
本第2実施形態は、ブレーキ温度に基づいて、温度センサ7の装着状態の異常を検知する。
具体的には、上述した実験例から明らかなように、センサ正常時の場合は、ブレーキ温度が高いが、センサ外れ時の場合は、センサ正常時に比べて、ブレーキ温度が低い。
【0091】
つまり、センサ正常時は、熱容量の大きなブレーキシュー15の温度を測定しているため、ブレーキ温度の変化は少なく、通常は、徐々に温度が上昇する。例えば、ある温度にまで上昇すると、通常、その温度から大きく変動することはない。
【0092】
それに対して、センサ外れの場合には、温度センサ7は、ブレーキシュー15の温度や空気の温度を測定することになるので、通常は、センサ正常時より低くなる。
従って、例えば、ブレーキの使用開始から所定時間後のブレーキ温度を測定し、その温度が、センサ正常時の場合の予想の温度より所定の閾値を下回るような低い温度の場合に、温度センサ7の装着状態に異常(例えば、センサ外れ)が発生したと判断することができる。
【0093】
本第2実施形態は、第1実施形態と同様な効果を奏する。
[3.第3実施形態]
第3実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、以下では主として第1実施形態との相違点について説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0094】
本第3実施形態は、温度センサ7やブレーキシュー15の振動状態に基づいて、温度センサ7の装着状態の異常を検知する。
具体的には、温度センサ7とブレーキシュー15に振動センサを取り付け、各振動センサから得られた、温度センサ7とブレーキシュー15との振動状態の違いから、温度センサ7の装着状態の異常を検知する。
【0095】
つまり、温度センサ7がブレーキシュー15から外れていない場合には、温度センサ7とブレーキシュー15との振動状態は同様であるが、温度センサ7がブレーキシュー15から外れている場合には、温度センサ7とブレーキシュー15との振動状態が異なる。従って、温度センサ7とブレーキシュー15との振動状態が異なる場合には、温度センサ7の装着状態に異常(例えば、センサ外れ)が発生したと判断することができる。
【0096】
なお、振動状態の違いは、各振動センサから得られた振動波形の違いから判断することができる。例えば、各振動センサの振動波形のピークをつないだ包絡線の違いや、包絡線が形成する面積の違いから判断することができる。
【0097】
本第3実施形態は、第1実施形態と同様な効果を奏する。
[4.第4実施形態]
第4実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、以下では主として第1実施形態との相違点について説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0098】
本第4実施形態は、カメラで撮影した画像から、温度センサ7の装着状態の異常を検知する。
具体的には、温度センサ7をカメラで撮影し、温度センサ7の装着状態に異常があった場合に報知する。例えば、温度センサ7にマークをつけておき、そのマークが画像の所定範囲から逸脱した場合に、センサ外れが発生したと判断する。
【0099】
本第4実施形態は、第1実施形態と同様な効果を奏する。
[5.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0100】
(5a)例えば、ブレーキ温度の変化の変動幅の判定を所定の判定期間において複数回実施し、当該複数回の判定に基づいて異常の判断を行うようにできる。例えば、所定の判定期間において、変動幅が所定値を所定回数上回った場合に、センサ外れ等の異常が発生したと判断してもよい。
【0101】
なお、一回でも変動幅が所定値を上回った場合に、センサ外れ等の異常が発生したと判断してもよい。
(5b)本開示に記載の異常検知装置(詳しくは、その演算部)およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0102】
あるいは、本開示に記載の異常検知装置よびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0103】
もしくは、本開示に記載の異常検知装置およびその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0104】
(5c)また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体(即ち、非遷移的実体的記録媒体)に記憶されてもよい。演算部に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0105】
(5d)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0106】
(5e)なお、上述した異常検知装置の他、当該異常検知装置を構成要素とするシステム、当該異常検知装置のコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移有形記録媒体、制御方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0107】
1…温度検知装置、5…ドラムブレーキ、7…温度センサ、81…温度取得部、83…変動幅算出部、85…異常検知部、87…異常報知部