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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】車両用レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/931 20200101AFI20240416BHJP
   G01S 13/34 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G01S13/931
G01S13/34
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021141578
(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公開番号】P2023035011
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】黒野 泰寛
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 裕
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 卓也
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-200173(JP,A)
【文献】特開2020-197506(JP,A)
【文献】特開2017-096840(JP,A)
【文献】特開2015-105836(JP,A)
【文献】特開2020-107115(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0104027(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、自車両の周囲の物標を検出する車両用レーダ装置であって、
前記自車両の周囲にレーダ波を送信し、該レーダ波の反射波を受信して、送・受信信号の周波数解析を行うことで、前記物標の位置及び速度を検出するよう構成された物標検出部(84)と、
前記物標検出部にて検出された複数の物標の中から、他の物標に対する前記レーダ波の送受信を中継し得る移動体を、中継反射物標として選択するよう構成された中継反射物標選択部(87)と、
前記中継反射物標の位置及び速度と、前記自車両の速度とに基づき、前記レーダ波が前記中継反射物標にて中継された静止物により前記物標検出部にて誤検出される前記物標の位置及び速度を表すマルチパスゴースト条件を設定するよう構成されたマルチパスゴースト条件設定部(88)と、
前記物標検出部にて検出された複数の物標の中から、前記マルチパスゴースト条件に適合する物標を抽出し、該抽出した物標をマルチパスゴーストであると判定して、前記物標検出部から外部装置への検出結果の出力を制限するよう構成されたマルチパスゴースト判定部(89)と、
を備えている車両用レーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用レーダ装置であって、
前記物標検出部は、前記物標の検出動作を周期的に繰り返し実行するよう構成され
前記マルチパスゴースト判定部は、前記物標検出部にて検出された複数の物標の中から、前記マルチパスゴースト条件に適合する物標を複数回抽出すると、該複数回抽出された物標を前記マルチパスゴーストであると判定するよう構成されている、車両用レーダ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用レーダ装置であって、
前記マルチパスゴースト条件設定部は、前記中継反射物標の方位及び速度と前記自車両の速度とに基づき、前記マルチパスゴーストの速度を推定し、該推定したマルチパスゴースト速度と、前記中継反射物標の方位及び距離とに基づき、前記マルチパスゴースト条件を設定するよう構成されている、車両用レーダ装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の車両用レーダ装置であって、
前記マルチパスゴースト判定部は、前記物標検出部にて検出された複数の物標のうち、前記マルチパスゴーストであると判定した物標には、マルチパスゴーストであることを表す情報を付与して、前記物標検出部から外部装置へ前記物標の検出結果を出力させる、ように構成されている、車両用レーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ波を送受信することで自車両の周囲の物標を検出する車両用レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用レーダ装置においては、レーダ波の送受信により物標を検出した際、その物標にて反射した反射波が他の物標に当たって戻ってくることがある。このようなマルチパスが発生すると、実際には物標が存在しない位置に物標(以下、マルチパスゴースト)が存在するものとして誤検出される。
【0003】
特許文献1には、検出した物標がマルチパスゴーストであるか否かを判定することが記載されている。特許文献1に記載の車両用レーダ装置においては、第1物体を検出すると、車両周囲に、第1物体で反射したレーダ波を反射する反射点が存在するか否かを判定する。そして、反射点が存在する場合に、第1物体に続けて第2物体を検出すると、第1物体、反射点、及び第2物体と、自車両との相対速度に基づき、第2物体がマルチパスゴーストであるか否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-197506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車両用レーダ装置では、自車両の位置情報、地図情報、自車両周囲の画像情報、等に基づき、自車両周囲の看板、トンネルの壁面、自車両よりも車高の高い車両、等を、反射点として検出するようにされている。
【0006】
このため、車両周囲の静止物によりマルチパスゴーストが発生する場合であっても、地図情報等を利用して反射点が存在するか否かを判定する必要があり、マルチパスゴーストの判定に時間がかかるという問題があった。
【0007】
本開示の一つの局面は、車両用レーダ装置において、マルチパスゴーストの原因となる反射点を検出することなく、検出した物標が静止物によるマルチパスゴーストであることを判定できるようにすること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの態様による車両用レーダ装置は、車両に搭載されて自車両の周囲の物標を検出する装置であり、物標検出部(84)と、中継反射物標選択部(87)と、マルチパスゴースト条件設定部(88)と、マルチパスゴースト判定部(89)と、を備える。
【0009】
物標検出部は、自車両の周囲にレーダ波を送信し、そのレーダ波の反射波を受信して、送・受信信号の周波数解析を行うことで、物標の位置及び速度を検出する。中継反射物標選択部は、物標検出部にて検出された複数の物標の中から、他の物標に対するレーダ波の送受信を中継し得る移動体を、中継反射物標として選択する。
【0010】
マルチパスゴースト条件設定部は、中継反射物標の位置及び速度と、自車両の速度とに基づき、レーダ波が中継反射物標にて中継された静止物により物標検出部にて誤検出される物標の位置及び速度を表すマルチパスゴースト条件を設定する。
【0011】
マルチパスゴースト判定部は、物標検出部にて検出された複数の物標の中から、マルチパスゴースト条件に適合する物標を抽出し、その抽出した物標をマルチパスゴーストであると判定して、物標検出部から外部装置への検出結果の出力を制限する。
【0012】
従って、本開示の車両用レーダ装置によれば、マルチパスゴーストの原因となる反射点を特定して、その反射点と自車両との相対速度を検出することなく、物標検出部にて検出された物標が、静止物によるマルチパスゴーストであるか否かを判定できる。
【0013】
よって、本開示の車両用レーダ装置によれば、特許文献1に記載の装置に比べて、より簡単な判定動作で、マルチパスゴーストの判定を行うことができるようになる。このため、マルチパスゴーストの判定を短時間で行うことが要求される、車両の高速走行時等にも、マルチパスゴーストの判定を適正に行うことができるようになる。
【0014】
また、マルチパスゴースト判定部は、物標検出部にて検出された物標がマルチパスゴーストであると判定すると、その物標の検出結果が外部装置に出力されるのを制限することから、外部装置がマルチパスゴーストにより誤作動するのを抑制できる。例えば、外部装置が自車両の走行支援を行う装置である場合、実際には存在しないマルチパスゴーストを避けるために、不要な操舵が実施される、といったことを抑制できる。
【0015】
また、本開示の車両用レーダ装置においては、特に、静止物によるマルチパスゴーストを判定するように構成されることから、物標が移動体によるマルチパスゴーストであると誤判定されるのを抑制できる。よって、本開示の車両用レーダ装置によれば、自車両の走行支援に必要な、移動体の検出精度が低下するのを抑制し、外部装置に対し自車両の走行支援を良好に実施させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態のレーダ装置の構成を表すブロック図である。
図2】レーダ装置の車両への配置及び静止物により発生するマルチパスゴーストを表す説明図である。
図3】処理ユニットの機能構成を表すブロック図である。
図4】処理ユニットにて実行されるマルチパスゴースト判定処理を表すフローチャートである。
図5】他の実施形態のマルチパスゴースト判定処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[構成]
本実施形態のレーダ装置10は、図2に例示するように、車両2の前面中央部分、例えば、フロントバンパーの裏側、に配置される、車両用レーダ装置である。
【0018】
レーダ装置10は、レーダ装置10が搭載された車両(以下、自車両)2の前方にレーダ波を放射し、その反射波を受信することで、自車両2の前方に存在する他車両4等の物標を検出するのに利用される。
【0019】
なお、本実施形態では、レーダ装置10は自車両2の前方の物標を検出するものとして説明するが、レーダ装置10は、自車両2の後方、左側方、或いは、右側方に存在する物標を検出するよう、自車両2に取り付けられるものであってもよい。
【0020】
図1に示すように、レーダ装置10は、送信回路20と、分配器30と、送信アンテナ40と、受信アンテナ50と、受信回路60と、処理ユニット70と、入出力ユニット90とを備える。
【0021】
送信回路20は、送信アンテナ40に送信信号Ssを供給するための回路である。送信回路20は、ミリ波帯の高周波信号を、送信アンテナ40の上流に位置する分配器30に入力する。
【0022】
送信回路20は、例えば、高周波信号の周波数が、最も低いスタート周波数から最も高いエンド周波数まで漸増するように変調し、その変調をステップ的に繰り返すことで、FCW変調された高周波信号を生成し、分配器30に入力する。従って、本実施形態のレーダ装置10は、FCM方式のレーダ装置である。
【0023】
但し、レーダ装置10は、例えば、送信回路20が高周波信号の周波数を周期的に漸増・漸減させる、FM-CW方式のレーダ装置であってもよい。また、例えば、送信回路20が高周波信号の周波数を周期的に2段階に切り替える、2周波CW方式のレーダ装置であってもよい。
【0024】
分配器30は、送信回路20から入力される高周波信号を、送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する。送信アンテナ40は、分配器30から供給される送信信号Ssに基づいて、送信信号Ssに対応する周波数のレーダ波を放射する。
【0025】
受信アンテナ50は、物標にて反射されたレーダ波である反射波を受信するためのアンテナである。この受信アンテナ50は、複数のアンテナ素子51が一列に配置されたリニアアレーアンテナとして構成される。各アンテナ素子51による反射波の受信信号Srは、受信回路60に入力される。
【0026】
受信回路60は、受信アンテナ50を構成する各アンテナ素子51から入力される受信信号Srを処理して、アンテナ素子51毎のビート信号BTを生成し出力する。具体的には、受信回路60は、アンテナ素子51毎に、当該アンテナ素子51から入力される受信信号Srと分配器30から入力されるローカル信号Lとをミキサ61を用いて混合することにより、アンテナ素子51毎のビート信号BTを生成して出力する。
【0027】
但し、ビート信号BTを出力するまでの過程には、受信信号Srを増幅する過程、及び、ビート信号BTから不要な信号成分を除去する過程が含まれる。
このように、受信回路60にて生成されて出力される、アンテナ素子51毎のビート信号BTは、処理ユニット70に入力される。
【0028】
処理ユニット70は、CPU71と、例えば、RAM又はROM等の半導体メモリ(以下、メモリ72)と、を有するマイクロコンピュータを備える。また、処理ユニット70は、高速フーリエ変換(以下、FFT)処理等を実行するコプロセッサを備えてもよい。
【0029】
処理ユニット70は、アンテナ素子51毎のビート信号BTを周波数解析することにより、レーダ波を反射した物標毎に、物標までの距離R、物標の速度V、物標の方位θを算出する、検出動作(以下、物標検出処理)を周期的に繰り返し実行する。
【0030】
物標の速度Vは、自車両2との相対速度であり、レーダ波を反射した物標が静止物である場合には、概ね「-1×車速」となる。また、物標の方位θは、レーダ装置10からのレーダ波の放射方向中心軸を0度として算出される。
【0031】
処理ユニット70による物標の検出結果は、入出力ユニット90から、自車両2の運転支援ECU100に出力される。また、入出力ユニット90は、処理ユニット70が、運転支援ECU100等の外部装置から、自車両2の車速や操舵角など、自車両の運転状態を取得するのにも利用される。
【0032】
なお、ECUは、Electronic Control Unitの略である。運転支援ECU100は、レーダ装置10から入力される物標の検出結果に基づいて、運転者による自車両2の運転を支援するための各種処理を実行する。
【0033】
運転支援に関する処理には、例えば、接近物があることを運転者に警報を発する処理、接近物との衝突を回避するために自車両2のブレーキ装置やステアリング装置を制御する処理、が含まれてもよい。また、自車両2を先行車両に追従させるために、自車両2の駆動系、制動系、操作系を制御する処理が含まれてもよい。
【0034】
[処理ユニット70の機能]
次に、処理ユニット70は、機能構成として、図3に示すように、周波数分析部82、物標検出部84、物標情報出力部86、中継反射物標選択部87、マルチパスゴースト条件設定部88、及び、マルチパスゴースト判定部89、を備える。
【0035】
周波数分析部82は、ビート信号BTをA/D変換して取り込み、その取り込んだビート信号BTのデジタルデータを高速フーリエ変換(以下、FFT)することで、レーダ波の放射方向に存在する物標を探索する機能である。
【0036】
具体的には、周波数分析部82は、例えばFCM変調によってスタート周波数からエンド周波数まで周波数が漸増される送信信号のチャープ毎に、ビート信号BTをFFT処理することで距離周波数を分析する。また、周波数分析部82は、その距離周波数をチャープ方向にFFT処理することで速度周波数を分析する。
【0037】
この結果、周波数分析部82では、こうした2次元FFT処理により、距離及び速度の座標系でパワースペクトラムのピークが発生する分析結果が得られる。そして、物標検出部84は、その分析結果から、レーダ波の放射方向に存在する物標を特定し、その物標までの距離R及び物標の速度Vを求める。
【0038】
また、周波数分析部82は、各アンテナ素子51から得られるビート信号BTの位相差から各物標の方位θを求め、物標検出部84は、物標毎に求められた距離Rと方位θとから各物標の位置を特定し、物標の速度Vと共に、物標情報出力部86に出力する。なお、レーダ装置10における2次元FFTや位相差に基づく方位検出については、周知技術であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0039】
物標情報出力部86は、物標検出部84から出力される各物標の距離R、方位θ及び速度Vを表す物標情報を、運転支援ECU100に出力する。また、物標情報出力部84は、マルチパスゴースト判定部89からの指令に従い、マルチパスゴーストであると判定された物標に対し、物標情報の出力を制限する。
【0040】
なお、この制限は、物標情報の出力を停止するか、若しくは、マルチパスゴーストであることを表す情報を付与した物標情報を出力することにより行われる。この結果、マルチパスゴーストが実際に存在する物標であるものとして、運転支援ECU100が、退避走行等の運転支援を誤って実施するのを抑制できる。
【0041】
次に、中継反射物標選択部87、マルチパスゴースト条件設定部88、及びマルチパスゴースト判定部89は、物標検出部84にて検出された物標が、静止物によるマルチパスゴーストであるか否かを判定するためのものである。
【0042】
図2に例示するように、静止物によるマルチパスゴースト8は、レーダ波が自車両2の前方を走行する他車両4に当たって反射し、その反射波の一部が、ガードレール等の静止物6に当たり、他車両4を介して自車両2に戻ることにより誤検出される。
【0043】
この場合、自車両2の前方を走行する他車両4は、自車両2と静止物6との間で送受信されるレーダ波を中継する中継反射物標となる。そして、マルチパスゴースト8は、中継反射物標を経由するレーダ波の経路長により、中継反射物標よりも遠くに存在する物標として誤検出される。
【0044】
そこで、中継反射物標選択部87は、物標検出部84にて検出された複数の物標の中から、自車両2に近く、自車両2と静止物6との間でレーダ波を中継し得る他車両4等の移動体を、中継反射物標として選択する。
【0045】
なお、中継反射物標選択部87は、例えば、物標検出部84にて検出された全ての物標を、自車両2に近いものから順に選択するようにしてもよい。この場合、中継反射物標毎に、レーダ波の反射により発生するマルチパスゴースト8を判定し、マルチパスゴースト8と判定された物標を中継反射物標から除外するようにすれば、マルチパスゴースト8を順次判定することができる。
【0046】
しかし、このようにすると、物標検出部84にて検出された物標が多い場合に、マルチパスゴースト8の判定に用いる中継反射物標の数も増加し、マルチパスゴースト8の判定に時間がかかり、しかも、不要な判定を実施することになる。
【0047】
このため、本実施形態では、中継反射物標選択部87において、自車両2に近く、自車両2と静止物6との間でレーダ波を中継し得る移動体を、予め設定された数だけ選択することで、中継反射物標として選択される物標の数を制限している。
【0048】
次に、マルチパスゴースト条件設定部88は、中継反射物標選択部87にて中継反射物標として選択された物標の距離R、方位θ及び速度Vと、自車両2の速度と、に基づき、マルチパスゴースト条件を設定する。
【0049】
マルチパスゴースト条件は、マルチパスゴースト8の位置及び速度、つまり自車両2からマルチパスゴースト8までの距離Rg及び方位θgと、自車両2とマルチパスゴースト8との相対速度であるマルチパスゴースト速度Vgを規定するものである。
【0050】
このうち、マルチパスゴースト速度Vg[m/s] は、中継反射物標と自車両2との相対速度である中継反射物標速度Vr[m/s] と、中継反射物標の方位θr[deg] と、自車両2の速度である車速Vs[m/s] とに基づき、推定される。この推定には、例えば、次式が用いられる。
【0051】
Vg[m/s]=2×Vr[m/s]+Vs[m/s]×cosθr[deg]
これは、中継反射物標により中継されるレーダ波は、中継反射物標を2回通過し、そのレーダ波は、中継反射物標の方位θr[deg] と略同じ角度で自車両2に入射するからである。なお、上記演算式において、自車両2の車速Vs[m/s] は、運転支援ECU100等の外部装置から、入出力ユニット90を介して取得する。
【0052】
そして、マルチパスゴースト条件は、マルチパスゴースト8の判定対象となる物標を被判定物標として、下記の3つの条件1~3にて規定される。
条件1:被判定物標距離Rt[m]-中継反射物標距離Rr[m]>距離差閾値△R[m]
条件2:|被判定物標速度Vt[m/s]-マルチパスゴースト速度Vg[m/s]|<速度差閾値△V[m/s]
条件3:|被判定物標方位θt[deg]-中継反射物標方位θr[deg]|<方位差閾値[deg]
つまり、条件1は、自車両2から被判定物標までの距離である被判定物標距離Rt[m] が、中継反射物標までの距離Rr[m] に比べて、予め設定された距離差閾値△R[m] よりも長いことを表している。
【0053】
また、条件2は、自車両2と被判定物標との相対速度である被判定物標速度Vt[m/s] と上記演算式にて算出されるマルチパスゴースト速度Vg[m/s] との差の絶対値が、予め設定された速度差閾値△V[m/s] よりも小さいことを表している。換言すれば、条件2は、被判定物標速度Vt[m/s] とマルチパスゴースト速度Vg[m/s] が略同じであることを表している。
【0054】
また、条件3は、被判定物標の方位θt[deg] と中継反射物標の方位θr[deg] との差の絶対値が、予め設定された方位差閾値△θ[deg] よりも小さいことを表している。換言すれば、条件3は、被判定物標方位θt[deg] と中継反射物標方位θr[deg] が略同じであること、を表している。
【0055】
次に、マルチパスゴースト判定部89は、物標検出部84にて検出された複数の物標の中から、マルチパスゴースト条件設定部88にて設定されたマルチパスゴースト条件に適合する物標を抽出し、その抽出した物標をマルチパスゴースト8であると判定する。
【0056】
また、マルチパスゴースト判定部89は、マルチパスゴースト8であると判定した物標については、物標情報出力部86から運転支援ECU100へ検出結果を出力するのを制限する。
【0057】
なお、本実施形態では、マルチパスゴースト判定部89は、マルチパスゴースト8であると判定した物標については、物標情報にマルチパスゴースト8であることを表す情報を付与して、物標情報出力部86から運転支援ECU100へ出力させる。この結果、運転支援ECU100に対し、自車両2が現在走行中の領域でマルチパスゴースト8が発生し易いことを通知し、運転支援ECU100が無線通信等にて接続される上位サーバに、マルチパスゴースト8が発生し易い地域を学習させることができる。
【0058】
[マルチパスゴースト判定処理]
次に、処理ユニット70のCPU71において、中継反射物標選択部87、マルチパスゴースト条件設定部88、及び、マルチパスゴースト判定部89としての機能を実現するために実行される、マルチパスゴースト判定処理について説明する。
【0059】
マルチパスゴースト判定処理は、周波数分析部82及び物標検出部84の機能を実現するためにCPU71が周期的に実行する物標検出処理と同期して実行される処理であり、CPU71がメモリ72に記憶されたプログラムを実行することにより実施される。
【0060】
図4に示すように、マルチパスゴースト判定処理においては、まずS110にて、物標検出処理にて検出された複数の物標の中から、中継反射物標を選択する中継反射物標選択部87としての処理を実行し、S120に移行する。
【0061】
S120では、入出力ユニット90を介して、運転支援ECU100から自車両2の車速Vsを取得する。そして、その取得した車速Vsと、S110にて中継反射物標として選択された物標の距離R、方位θ及び速度Vと、に基づき、上述したマルチパスゴースト条件を算出する、マルチパスゴースト条件設定部88としての処理を実行する。
【0062】
次に、S130では、物標検出部84にて検出された複数の物標の中から、中継反射物標に比べて自車両2との間の距離が長い物標を、被判定物標として選択し、S140に移行する。
【0063】
なお、被判定物標の選択は、自車両2に近い物標から順に行われる。また、被判定物標の選択条件としては、自車両2との間の距離に加えて、中継反射物標の方位を中心に所定角度範囲内にある物標を選択するように設定されてもよい。
【0064】
S140では、S130にて被判定物標として選択された物標の距離R、方位θ及び速度Vを、それぞれ、上述した被判定物標距離Rt、被判定物標方位θt、被判定物標速度Vtとして取得する。
【0065】
そして、続くS150では、S140にて取得した被判定物標距離Rt、被判定物標方位θt、及び、被判定物標速度Vtが、それぞれ、上述した条件1~条件3に適合するか否かを判定する。
【0066】
S150においては、被判定物標距離Rt、被判定物標方位θt、及び、被判定物標速度Vtが、全て、条件1~条件3に適合している場合に、マルチパスゴースト条件が成立していると判定して、S160に移行する。
【0067】
そして、S160では、マルチパスゴースト条件が成立しているので、被判定物標はマルチパスゴースト8であると判定して、物標情報出力部86から被判定物標の物標情報の出力を制限し、S180に移行する。
【0068】
なお、S160での出力制限は、物標情報の出力を禁止するようにしてもよいが、上述したように、本実施形態では、被判定物標の物標情報にマルチパスゴースト8であることを表す情報を付与して、物標情報出力部86から出力させる。
【0069】
一方、S150において、マルチパスゴースト条件は成立していないと判定されると、被判定物標は実際に存在する物標であるので、S170に移行して、被判定物標の物標情報の出力を許可し、S180に移行する。
【0070】
S180では、S130において、選択条件に適合する全ての物標が被判定物標として選択されたか否を判定することにより、被判定物標の選択が終了したか否かを判定する。そして、S180にて、被判定物標の選択が終了したと判定されると、S190に移行し、S180にて、被判定物標の選択は終了していないと判定されると、S130に移行して、S130以降の処理を再度実行する。
【0071】
次に、S190では、S110にて、中継反射物標が所定数選択されたか否かを判定することで、中継反射物標の選択が終了したか否かを判定する。そして、S190にて、中継反射物標の選択が終了したと判定されると、当該マルチパスゴースト判定処理を終了し、S190にて、中継反射物標の選択は終了していないと判定されると、S110に移行して、S110以降の処理を再度実行する。
【0072】
なお、S130~S190の処理は、マルチパスゴースト判定部89として機能する。
[効果]
以上説明したように、本実施形態のレーダ装置10においては、レーダ波の送受信により検出した複数の物標の中から、中継反射物標を選択し、中継反射物標の位置及び速度と、自車両の速度とに基づき、マルチパスゴースト条件を設定する。
【0073】
そして、検出した複数の物標の中から、マルチパスゴースト条件に適合する物標を抽出し、その抽出した物標をマルチパスゴースト8であると判定して、その物標の検出結果が外部装置へ出力されるのを制限する。
【0074】
このため、本実施形態のレーダ装置10によれば、特許文献1に記載のように、マルチパスゴースト8の原因となる反射点を特定して、その反射点と自車両との相対速度を検出することなく、検出した物標がマルチパスゴースト8であるか否かを判定できる。
【0075】
よって、本実施形態のレーダ装置10によれば、特許文献1に記載の装置に比べて、より簡単な判定動作で、マルチパスゴースト8の判定を行うことができる。このため、マルチパスゴースト8の判定を短時間で行うことが要求される、自車両2の高速走行時等にも、マルチパスゴースト8の判定を適正に行うことができる。
【0076】
また、検出した物標がマルチパスゴースト8である場合には、その物標の検出結果が運転支援ECU100に出力されるのを制限することから、運転支援ECU100が実際には存在しないマルチパスゴースト8により誤作動するのを抑制できる。例えば、運転支援ECU100が、実際には存在しないマルチパスゴースト8を避けるために、自車両2を誤制御するのを抑制できる。
【0077】
また、本開示の車両用レーダ装置においては、マルチパスゴースト8の原因となる反射物がガードレール等の静止物6であるものとして、マルチパスゴースト条件が設定される。このため、検出した物標が、移動体によるマルチパスゴースト8であると誤判定されることはなく、自車両2の走行支援に必要な移動体の検出精度が低下するのを抑制し、運転支援ECU100に対し、自車両2の走行支援を良好に実施させることができる。
【0078】
[他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0079】
例えば、上記実施形態では、図4のマルチパスゴースト判定処理において、S150にて、マルチパスゴースト条件が成立したと判定されると、被判定物標がマルチパスゴースト8であると判定して、S160に移行し、物標情報の出力を制限するようにしている。
【0080】
しかし、マルチパスゴースト条件が1回成立しただけでは、被判定物標がマルチパスゴースト8であると誤判定することも考えられるので、マルチパスゴースト判定処理は、図5に示す手順で実行されるようにしてもよい。
【0081】
すなわち、図5に示すマルチパスゴースト判定処理では、S150にてマルチパスゴースト条件が成立したと判定されると、S152にて、現在選択されている被判定物標に対するゴーストカウンタをインクリメントし、S156に移行する。
【0082】
また、S150にてマルチパスゴースト条件は成立していないと判定されると、S154にて、現在選択されている被判定物標に対するゴーストカウンタをデクリメントし、S156に移行する。なお、ゴーストカウンタは最小値が0で、マルチパスゴースト条件が成立していないときに、ゴーストカウンタがデクリメントされることで、負の値に更新されないようにする。
【0083】
そして、S156では、ゴーストカウンタの値が予め設定された閾値を越えたか否かを判定し、ゴーストカウンタの値が閾値を超えていれば、被判定物標がマルチパスゴースト8であると判定して、S160に移行し、そうでなければ、S170に移行する。
【0084】
このようにマルチパスゴースト判定処理を実行するようにすれば、周期的に繰り返し実行される物標検出処理にて検出された物標がマルチパスゴースト8として抽出される度に、その物標に対するゴーストカウンタがカウントアップされることになる。そして、その物標がマルチパスゴースト8として複数回抽出されると、ゴーストカウンタが閾値に達し、その物標がマルチパスゴースト8であることが確定される。
【0085】
よって、S156では、被判定物標がマルチパスゴースト8であることを、より正確に判定することができるようになり、マルチパスゴースト8の判定精度を高めることができる。
【0086】
次に、処理ユニット70によるマルチパスゴースト判定の手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、処理ユニット70によるマルチパスゴースト判定の手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、処理ユニット70によるマルチパスゴースト判定の手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0087】
また、処理ユニット70において実行されるコンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。また、処理ユニット70に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0088】
上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0089】
上述した車両用レーダ装置の他、当該車両用レーダ装置を構成要素とするシステム、当該車両用レーダ装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、車両用レーダ装置におけるマルチパスゴースト判定方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0090】
10…レーダ装置、84…物標検出部、87…中継反射物標選択部、88…マルチパスゴースト条件設定部、89…マルチパスゴースト判定部。
図1
図2
図3
図4
図5