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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 33/22 20060101AFI20240416BHJP
   B41J 2/325 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B41J33/22
B41J2/325 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021155075
(22)【出願日】2021-09-24
(65)【公開番号】P2023046467
(43)【公開日】2023-04-05
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】徳田 裕亮
【審査官】山本 一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-116569(JP,A)
【文献】特開2020-151918(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0317162(US,A1)
【文献】特開2003-305910(JP,A)
【文献】特開平05-262000(JP,A)
【文献】特開2008-055692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 17/02
B41J 33/16-33/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーマルヘッドとの間に被印刷媒体とインクリボンとが介在するように押圧しながら回転することにより前記被印刷媒体と前記インクリボンとを正搬送方向と逆搬送方向とに搬送することが可能なプラテンローラと、
前記プラテンローラにより前記インクリボンが前記正搬送方向に搬送される際に、供給コアに巻き回されたロール体から引き出された前記インクリボンが巻き取られることによって再び巻き回される巻取りコアと、
回転動力を出力する駆動源と、
前記駆動源により出力される回転動力を前記プラテンローラの回転動力として前記プラテンローラに伝達する第1駆動機構と、
前記駆動源により出力される回転動力を、所定の係合部が前記供給コアと前記巻取りコアとのうち前記巻取りコアの方に挿通且つ係合される回転軸であって前記巻取りコアに前記インクリボンを巻き取らせる回転軸に、前記回転軸の回転動力として伝達する第2駆動機構と、
を備え、
前記第2駆動機構は、
前記駆動源が出力する回転動力を前記回転軸に伝達する経路の途中に、前記駆動源により出力される回転動力のうち、前記正搬送方向に対応させた方向の回転動力を伝達する一方で前記逆搬送方向に対応させた方向の回転動力を遮断するワンウェイギアが備えられることによって、前記インクリボンを前記逆搬送方向へ搬送する際前記インクリボンが前記駆動源により出力される回転動力のうち前記プラテンローラへと伝達された回転動力のみによって前記巻取りコアから引き出されるように構成され
且つ、
前記巻取りコアからの前記インクリボンの引き出しに伴い発生する前記回転軸での回転速度が、前記正搬送方向に対応させた方向の回転動力が前記第2駆動機構を介して前記駆動源から伝達された際の前記回転軸での回転速度よりも遅くなるように、構成されている
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記回転軸は、前記係合部へのトルクが閾値を超えた場合にフェルトをスリップさせることで前記係合部での回転を抑制させるフェルト式トルクリミッタを有している、
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記正搬送方向は、前記被印刷媒体を装置外へ排出する方向であり、
前記逆搬送方向は、前記被印刷媒体を装置内へ戻す方向である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクリボンのインクをテープ部材に印刷してラベルを制作する印刷装置として、例えば特許文献1が開示する熱転写方式の印刷装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-151918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示のテープ印刷装置のリボン送り機構では、送りモータの回転をワンウェイクラッチへと伝達し、送りモータの回転する方向に応じて、インクリボンの繰出しを行う繰出し回転子、及び巻取りを行う巻取り回転子への回転の伝達を許容又は制限する。しかし、このリボン送り機構ではインクリボンにテンションがかかりにくく、例えば送りモータによって巻取り回転子を回転させるとインクリボンがたるんでしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、インクリボンにたるみが発生しにくい印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の印刷装置は、サーマルヘッドとの間に被印刷媒体とインクリボンとが介在するように押圧しながら回転することにより前記被印刷媒体と前記インクリボンとを正搬送方向と逆搬送方向とに搬送することが可能なプラテンローラと、前記プラテンローラにより前記インクリボンが前記正搬送方向に搬送される際に、供給コアに巻き回されたロール体から引き出された前記インクリボンが巻き取られることによって再び巻き回される巻取りコアと、回転動力を出力する駆動源と、前記駆動源により出力される回転動力を前記プラテンローラの回転動力として前記プラテンローラに伝達する第1駆動機構と、前記駆動源により出力される回転動力を、所定の係合部が前記供給コアと前記巻取りコアとのうち前記巻取りコアの方に挿通且つ係合される回転軸であって前記巻取りコアに前記インクリボンを巻き取らせる回転軸に、前記回転軸の回転動力として伝達する第2駆動機構と、を備え、前記第2駆動機構は、前記駆動源が出力する回転動力を前記回転軸に伝達する経路の途中に、前記駆動源により出力される回転動力のうち、前記正搬送方向に対応させた方向の回転動力を伝達する一方で前記逆搬送方向に対応させた方向の回転動力を遮断するワンウェイギアが備えられることによって、前記インクリボンを前記逆搬送方向へ搬送する際前記インクリボンが前記駆動源により出力される回転動力のうち前記プラテンローラへと伝達された回転動力のみによって前記巻取りコアから引き出されるように構成され且つ、前記巻取りコアからの前記インクリボンの引き出しに伴い発生する前記回転軸での回転速度が、前記正搬送方向に対応させた方向の回転動力が前記第2駆動機構を介して前記駆動源から伝達された際の前記回転軸での回転速度よりも遅くなるように、構成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インクリボンにたるみが発生しにくい印刷装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態に係る印刷装置の斜視図。
図2図1に示す印刷装置の筐体に収容された内部構造の主要部と、この主要部に着脱可能なテープカートリッジとを示した斜視図。
図3】(a)は図1に示す印刷装置の筐体に収容された内部構造の主要部と、この主要部に取り付けられたテープカートリッジとを示した平面図、(b)は(a)中においてプラテンローラとサーマルヘッドとでテープ部材及びインクリボンを挟持した部分に着目した拡大図。
図4図3(a)に示すプラテンローラ及びリボン巻取り軸の駆動機構に着目した斜視図。
図5図4に示すワンウェイギアの断面図。
図6図4に示すリボン巻取り軸に着目した断面図。
図7】正搬送時の駆動機構の動作を説明するための説明図であり、(a)は駆動機構全体の動作を示す図、(b)はワンウェイギアの動作を示す図。
図8】逆搬送開始時の駆動機構の動作を説明するための説明図であり、(a)は駆動機構全体の動作を示す図、(b)はワンウェイギアの動作を示す図。
図9】逆搬送時の駆動機構の動作を説明するための説明図であり、(a)は駆動機構全体の動作を示す図、(b)はワンウェイギアの動作を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る印刷装置について、図面を参照しながら説明する。なお、印刷装置を説明するにあたり、図1に示すように、水平方向に延びるX軸及びY軸と、X軸及びY軸と直交するZ軸とが規定された直交座標系を適宜参照する。この直交座標系において、+X軸方向は被印刷媒体が排出される方向であり、+Z軸方向は印刷装置の上方側である。図1に示す印刷装置1は、ラベルプリンタであり、搬送部によって搬送された被印刷媒体であるテープ部材M(図2)に印刷を行う。印刷装置1は、図示しないパソコン、タブレット端末等の情報処理装置から受信した印刷データに基づいて印刷を行う。
【0010】
印刷装置1の筐体2は、図1に示すように、オーバル形状の底面を有する柱体状を有している。筐体2の表面のうち、柱体の側面に該当する部分は、底面と直交した2つの平面2aと、この2つの平面2aを接続する2つの曲面2bと、を有している。さらに、2つの曲面2bのうち+X軸方向側にある一方の曲面2bには、凹部2cが形成されている。
【0011】
凹部2cには、排出口2dが形成されている。印刷装置1内で印刷が行われたテープ部材M(図2)は、排出口2dから装置外へ排出される。排出口2dは、Y軸方向に平行な方向に延びるスリット状の開口である。
【0012】
筐体2の内部には、図2に示すように、各種の部品から構成された内部構造の主要部8が収容されている。この主要部8は、各種部品が取り付けられた平板部11aを有するベース部11と、ベース部11に設けられたカートリッジ保持部12とを有している。
【0013】
カートリッジ保持部12は、テープカートリッジ30を保持可能な保持部本体12aと、平板部11aに立設され平板部11aと保持部本体12aとをY軸方向に間隔をあける複数の脚部12bとを有している。脚部12bは例えば4本であり、図2においては、そのうちの2本を図示している。保持部本体12aには、テープカートリッジ30を収容するための空間を区画するカートリッジ収容部12cが形成されている。また、保持部本体12aには、突出したテープコア係合軸22が形成されている
【0014】
テープカートリッジ30は、カートリッジ収容部12cに着脱自在に収容される。ここで図3(a)は、テープカートリッジ30がカートリッジ収容部12cに収納された状態を示している。
【0015】
テープカートリッジ30には、図3(a)に示すように、サーマルヘッド10が挿入される凹部であるサーマルヘッド被挿入部36が形成されている。またテープカートリッジ30は、テープ部材M及びインクリボンRを収容するカートリッジケース31を有する。カートリッジケース31には、テープコア32とリボン供給コア34とリボン巻取りコア35が設けられている。
【0016】
テープ部材Mは、カートリッジケース31内部のテープコア32にロール状に巻かれている。テープ部材Mは、例えば、接着層を有する基材と、接着層を覆うように剥離可能に基材に貼付された剥離紙と、を有するテープである。熱転写用のインクリボンRは、その先端がリボン巻取りコア35に巻きつけられた状態で、カートリッジケース31内部のリボン供給コア34にロール状に巻かれている。テープ部材M及びインクリボンRは、重なり合って凹形状のサーマルヘッド被挿入部36を跨ぐように設けられている。
【0017】
また主要部8は、図2及び図3(a)に示すように、複数の発熱素子を有しテープ部材Mに印刷を行うサーマルヘッド10と、テープ部材M及びインクリボンRを搬送する搬送部としてのプラテンローラ21と、使用済みのインクリボンRを巻き取るリボン巻取り軸23とが設けられている。サーマルヘッド10及びプラテンローラ21は、サーマルヘッド被挿入部36を跨ぐテープ部材M及びインクリボンRを挟み込む位置に設けられている。リボン巻取り軸23は、保持部本体12aを貫通し、カートリッジ収容部12c内に突出した状態で設けられている。なお、後述するように本実施形態では、テープ部材M及びインクリボンRは、少なくともサーマルヘッド10及びプラテンローラ21に挟持されながら搬送されるため、サーマルヘッド10とプラテンローラ21との両方を含めた場合においても搬送部と表現することとする。
【0018】
主要部8はさらに、図3(a)に示すように、排出口2d(図1)の近傍に、フルカッター17及びハーフカッター16を備えている。フルカッター17は、テープ部材Mを切断してテープ片を作成するカッターである。一方、ハーフカッター16は、テープ部材Mの先端部分等に切り込みを入れるカッターである。
【0019】
テープカートリッジ30がカートリッジ収容部12cに収納される際、図3(a)に示すように、サーマルヘッド10がカートリッジケース31に形成されたサーマルヘッド被挿入部36に挿入される。また、図2に示すように、テープコア係合軸22には、テープカートリッジ30のテープコア32が係合し、さらに、リボン巻取り軸23には、リボン巻取りコア35が係合する。なお、テープコア係合軸22は設けられていなくても良く、テープカートリッジ30はリボン巻取りコア35やサーマルヘッド被挿入部36等によって位置決めされるとしても良い。
【0020】
プラテンローラ21は、図4に示すように円柱状の形状を有し、軸21aを中心に回転(回動ともいう)する。プラテンローラ21は、図3(b)に示すように、テープ部材M及びインクリボンRをサーマルヘッド10に押圧しながら矢印R1の方向に回転することにより、テープ部材M及びインクリボンRを正搬送する。このように正搬送しているときを正搬送時といい、このときテープ部材Mは矢印Y1の方向(第1方向)に搬送される。一方、図3(b)に示すようにプラテンローラ21が矢印R2の方向に回転することにより、テープ部材M及びインクリボンRは逆搬送される。このように逆搬送しているときを逆搬送時といい、このときテープ部材Mは矢印Y2の方向(第2方向)に搬送される。この矢印Y2の方向(第2方向)は、矢印Y1の方向(第1方向)とは反対の方向である。
【0021】
リボン巻取り軸23は、図4に示すように、軸部25を中心に矢印R3の方向あるいは矢印R4の方向に回転可能である。リボン巻取り軸23は、後述するように正搬送時には図3(a)に示すように矢印R3の方向に回転する。これにより、プラテンローラ21によって矢印Y1の方向に正搬送されたインクリボンRは、矢印Y5の方向に搬送されてリボン巻取りコア35に巻き取られていく。一方、リボン巻取り軸23は、後述するように逆搬送時にはリボン巻取りコア35を動作させることができない。プラテンローラ21によって矢印Y6の方向に逆搬送されるインクリボンRがリボン巻取りコア35から引き出されることで、リボン巻取り軸23は矢印R4の方向に回転する。
【0022】
プラテンローラ21及びリボン巻取り軸23は、図4に示すベース部11に取り付けられた駆動源としてのモータ24からの動力が伝達されて駆動される。モータ24は、例えばステッピングモータであり、ロータ、ステータ、エンコーダ等を有している。モータ24の回転運動は、出力軸に取り付けられた出力ギアG1から出力される。図4に示された各ギアは、平板部11aのカートリッジ保持部12(図2)と対向する面に設けられている。なお、図4図7図8及び図9において、各ギアの歯形は、図の理解を容易にするため適宜省略している。出力ギアG1から出力された回転運動は、ギアG2、ギアG3、ギアG4、ギアG5、ギアG6、ギアG7、及びギアG8に伝達されていき、これによりギアG8に接続されたプラテンローラ21が回転する。このように、モータ24からプラテンローラ21まで動力を伝達する出力ギアG1、ギアG2、ギアG3、ギアG4、ギアG5、ギアG6、ギアG7、及びギアG8を第1駆動機構という。また、出力ギアG1から出力された回転運動は、ギアG2、ギアG3、ギアG9、ギアG10、ギアG11、及びギアG12に伝達されていき、ギアG12にトルクリミッタを介して接続されたリボン巻取り軸23が回転する。このように、モータ24からリボン巻取り軸23まで動力を伝達する出力ギアG1、ギアG2、ギアG3、ギアG9、ギアG10、ギアG11、及びギアG12を第2駆動機構という。ここで、第2駆動機構の複数のギアのうち、ギアG10は一方向の回転のみを伝達する伝達部としてのワンウェイギアである。
【0023】
ギアG10は、図5に示すように、ギアG9と噛み合うギア本体部42bとギア本体部42bから回転軸41が延びる方向(Y軸方向)に突出した突出部42aを有する第1ギア部42と、第1ギア部42の突出部42aと内輪43が嵌合したワンウェイクラッチ45と、ワンウェイクラッチ45の外輪44と嵌合した第2ギア部46とを有している。この第2ギア部46は、ギアG11と噛み合っている。正搬送時、ギアG9と噛み合った第1ギア部42の回転力が、ワンウェイクラッチ45を介して第2ギア部46に伝達する。一方で、逆搬送時、ギアG9と噛み合った第1ギア部42の回転力は、ワンウェイクラッチ45の内輪43に伝達するものの、外輪44及び第2ギア部46に伝達しない。ワンウェイクラッチ45は、例えばカム式であるが、その他の種類のワンウェイクラッチを採用してもよい。
【0024】
リボン巻取り軸23は、図6に示すように、リボン巻取りコア35(図2)と係合する係合部26が外周に設けられた軸部25と、トルクリミッタ27との間に設けられたスプリング28とを有している。図2に示すテープカートリッジ30のリボン巻取りコア35と係合したリボン巻取り軸23は、リボン巻取りコア35とともに回転する。リボン巻取り軸23は、ギアG11と噛み合ったギアG12と、トルクリミッタ27を介して接続されている。ギアG12は、回転軸方向に突出した(Y軸方向に延びる)突出部29を有している。トルクリミッタ27は、突出部29の先端に設けられている。
【0025】
トルクリミッタ27は、フェルト式であり、ギアG12とともに回転する回転部27aと、回転部27aを挟み込むように設けられた2枚のフェルト27bを有している。回転部27aとギアG12の突出部29の間には、軸部25に設けられたフランジ部25aが収容されている。ギアG12の回転運動とリボン巻取り軸23の回転運動とに差が生じ、トルクリミッタ27に閾値以上のトルクが作用すると、フェルト27bが軸部25に対してスリップし、過度なトルクが発生するのを防止する。ここでいうスリップとは、フェルト27bが軸部25に対して滑る又は空回りするといった状態である。なお、トルクリミッタ27としては、フェルト式のものに限定されず、摩擦板を介在させたものなど公知のトルクリミッタのなかから採用することができる。
【0026】
図示しない情報処理装置から印刷装置1へ印刷データが入力されると、図7(a)に示すようにモータ24が正転し、テープ部材M及びインクリボンRを正搬送する。このとき、出力ギアG1は時計回り(本実施形態ではR2やR3と同様の向き)に回転し、この回転運動が各ギアに伝達される。このとき、ワンウェイギアであるギアG10において、図7(b)に示すように、第1ギア部42の図中時計回りの回転運動が、ワンウェイクラッチ45を介して第2ギア部46に伝達される。なお、図7(b)、図8(b)、及び図9(b)においては、ワンウェイクラッチ45を認識しやすくするためにハッチングを施しているが、このハッチングは断面を表しているものではない。
【0027】
正搬送時において、プラテンローラ21が接続されたギアG8は、図7(a)に示すように反時計回り(本実施形態ではR1やR4と同様の向き)に回転する。これに伴いプラテンローラ21は、重なりあったテープ部材M及びインクリボンRをサーマルヘッド10(図3(a))に押圧しながら軸21aを中心に矢印R1(反時計回り)に回転する。これにより、テープ部材Mは図3(a)に示すテープコア32から繰り出されるとともに、インクリボンRは図3(a)に示すリボン供給コア34から繰り出される。このようにして正搬送されるテープ部材M及びインクリボンRは、重なった状態で、図3(b)に示すようにサーマルヘッド10とプラテンローラ21の間を矢印Y1で示す方向に通過する。その際、インクリボンRがサーマルヘッド10によって加熱されることで、インクがテープ部材Mに熱転写される。そして印刷済みのテープ部材Mは、矢印Y3の方向に搬送され、フルカッター17(図3(a))で切断されて排出口2d(図1)から装置外へと排出される。
【0028】
一方、リボン巻取り軸23が接続されたギアG12は、図7(a)に示すように時計回りに回転する。これに伴いリボン巻取り軸23は、軸部25を中心に時計回り(矢印R3の方向)に回転する。これにより、インクリボンRは、矢印Y5の方向に搬送されて、リボン巻取りコア35により巻き取られていく。
【0029】
なお、モータ24の正転(本実施形態では時計回り)により回転するギアG12の回転速度は、プラテンローラ21により搬送されるインクリボンRの搬送速度(プラテンローラ21の回転速度)よりも速い。例えば、インクリボンRを搬送するプラテンローラ21の回転速度に対して、ギアG12の回転速度は1.1倍以上2.0倍以下にされ、本実施の形態では例えば1.129倍に設定されている。これはサーマルヘッド10とプラテンローラ21との間にインクリボンRが挟まれ、通過した直後に、インクリボンRに対して適切な張力がされないと、インクリボンRがたるんでしまうという現象を解消するためのものである。この回転速度は、第1駆動機構及び第2駆動機構の歯車比、プラテンローラ21の径、あるいはリボン巻取りコア35の径などの種々の要因が考慮され決定される。
【0030】
このように、ギアG12の回転速度は、プラテンローラ21の回転速度よりも速く設定されている。しかしながら、サーマルヘッド10とプラテンローラ21との間に挟まれたインクリボンRを、プラテンローラ21の搬送速度以上で引き出すことはできない。そのため、図6に示すように、速く回転するギアG12と、ゆっくり回転する軸部25との間に作用するトルクは、トルクリミッタ27のフェルト27bがスリップすることで抑制されている。このようにして、フェルト27bをスリップさせながらリボン巻取り軸23による巻取りを行うことで、インクリボンRに適切な張力を作用させ続けることができ、正搬送時にインクリボンRにたるみが発生するのを防止することができる。
【0031】
印刷装置1(図1)は、テープ部材Mの印刷、フルカッター17(図3(a))による切断、及び排出口2d(図1)からの排出という一連の動作を行った後、印刷物の先端の余白を短縮する動作を行う。図3(a)に示すように、テープ部材Mをフルカッター17で切断してからそのまま次の印刷を実行すると、フルカッター17とサーマルヘッド10との距離に相当する余白MAが印刷物の先端に形成される。この余白MAを短縮するため、次の印刷を行うまでに、図8(a)に示すモータ24を逆転させ、テープ部材M及びインクリボンRを逆搬送する。モータ24を逆転させることで、出力ギアG1は反時計回りに回転し、この回転運動を各ギアに伝達させる。このとき、図8(b)に示すように、ワンウェイギアであるギアG10の第1ギア部42は図中反時計回りに回転するが、ワンウェイクラッチ45によりこの回転運動が第2ギア部46に伝達されない。そのため、第2ギア部46に噛み合ったギアG11及びギアG11に噛み合ったギアG12にモータ24(図4)の逆転の運動が伝達されない。一方、プラテンローラ21が接続されたギアG8は、図8(a)に示すように矢印R2で示す時計回りに回転する。
【0032】
このギアG8の回転に伴い、プラテンローラ21は、テープ部材M及びインクリボンRをサーマルヘッド10(図3(b))に押圧しながら軸21aを中心に矢印R2で示す時計回りに回転する。これにより、テープ部材M及びインクリボンRは、プラテンローラ21とサーマルヘッド10とに挟持されながら図9(a)の矢印Y2で示す方向に逆搬送される。これにより、プラテンローラ21により既に送り出されたテープ部材Mの部分は、矢印Y4の方向に引き戻される。一方、インクリボンRは、矢印Y6で示すように、巻き取られていた部分がリボン巻取りコア35(リボン巻取り軸23)から引き出される。このようにして、テープ部材MとインクリボンRは等速(同等の速度)でプラテンローラ21により逆搬送される。仮に、ギアG10がワンウェイギアではなく時計回り及び反時計回りが可能な通常のギアとし、正搬送時のインクリボンRの搬送速度の1.1倍以上2.0倍以下の回転速度で、モータ24によってギアG12を反時計回りに回転できる構成としてしまうと、インクリボンRはテンションがかからず、サーマルヘッド10及びプラテンローラ21よりも下流の部分でたるんでしまう問題がある。本実施形態では、テープ部材MとインクリボンRは、プラテンローラ21とサーマルヘッド10とにより挟持されながら等速で搬送される(つまり第1駆動機構へと伝達されたモータ24からの動力によって、インクリボンRがリボン巻取り軸23から引き出される)ことから、逆搬送時にインクリボンRがたるむといった不具合が生じるのを防止することができ、インクリボンRがたるんだ状態で搬送することによって生じるしわや搬送詰まり等を防止することができる。
【0033】
なお、リボン巻取りコア35からインクリボンRが引き出されることから、リボン巻取り軸23に接続されたギアG12は、図9(a)の破線の矢印で示すように、反時計周りに回転する。このギアG12の回転運動は、モータ24の逆転運動が伝達されないギアG11及びギアG10の第2ギア部46に伝達される。これにより、ギアG11及び第2ギア部46は、破線の矢印で示す方向に回転する。
【0034】
このとき、ワンウェイギアであるギアG10において、図9(b)に示すように、モータ24の逆転の運動が伝達された第1ギア部42は、実線の矢印で示すように、図中反時計回りに回転する。一方、ギアG12の回転運動が伝達された第2ギア部46は、破線の矢印で示すように、図中反時計回りに回転する。上述のように、プラテンローラ21に回転運動を伝達する第1駆動機構よりも、リボン巻取り軸23に回転運動を伝達する第2駆動機構のほうが、より早い搬送速度となる運動を伝達する。そのため、プラテンローラ21によるインクリボンRの搬送により回転する第2ギア部46の回転は、モータ24からの運動が伝達されて回転する第1ギア部42の回転よりも遅い。すなわち、第1ギア部42は、第2ギア部46に対して反時計回りで回転している関係にあり、この関係は、図8(b)を参照しながら説明した第1ギア部42と第2ギア部46の関係と同様である。そのため、第1ギア部42の回転運動と第2ギア部46の回転運動は、その間に介在したワンウェイクラッチ45からなんら影響を受けることはない。
【0035】
上記実施の形態によれば、モータ24からリボン巻取り軸23まで動力を伝達する第2駆動機構のギアG10に、正搬送時の運動のみを伝達するワンウェイギアを組み込んでいる。これにより、逆搬送時に、インクリボンRは、テープ部材Mとともにサーマルヘッド10及びプラテンローラ21に挟持されながらで逆搬送される。このようにインクリボンRはテープ部材Mと等速で逆搬送されるため、インクリボンRをたるませることがない。
【0036】
また逆搬送時、インクリボンRは、リボン巻取りコア35から引き出されてリボン巻取り軸23を回転させる。このことから、逆搬送時のインクリボンRには、リボン巻取り軸23を回転させるだけの張力(テンション)が作用する。これにより、逆搬送時にインクリボンRに張力(テンション)が作用した状態を維持することができ、インクリボンRにたるみやしわが発生するのを抑制することができる。
【0037】
また、リボン巻取り軸23とギアG12とをトルクリミッタ27を介して接続し、ギアG12の回転速度を、インクリボンRを搬送するのに必要なプラテンローラ21の回転速度よりも速く設定している。これにより、正搬送時にトルクリミッタ27を作用させながらインクリボンRに適切な張力(テンション)を作用させ続けることができる。これにより、正搬送時にインクリボンRにたるみやしわが発生するのを抑制することができる。
【0038】
このように、正搬送時及び逆搬送時において、インクリボンRに適切な張力(テンション)を作用させ続けることができるので、インクリボンRに生じるたるみやしわを抑制することができる。これにより、印刷を実行する前段階でテープ部材及びインクリボンを逆搬送することで、印刷物の先端に形成される余白の短縮を図ることができる。
【0039】
この発明は、上記実施の形態に限定されず、様々な変形及び応用が可能である。上記の実施の形態では、コンピュータ、タブレットやスマートフォン等と有線或いは無線で接続することを前提とした印刷装置1について説明したが、キーボードおよびディスプレイを備えユーザが印刷内容を直接印刷装置に入力するものであってもよい。
【0040】
また、第2ギア部46と外輪44とを別部品のものとして説明したが、外輪44に相当する部分が組み込まれた第2ギア部を採用してもよい。同様に、第1ギア部42と内輪43とを別部品のものとして説明したが、内輪43に相当する部分が組み込まれた第1ギア部を採用してもよい。このように、ワンウェイクラッチが組み込まれたギアG10の構成は適宜変更することが可能である。
【0041】
また、正搬送時の動力のみを伝達する伝達部としてワンウェイクラッチ45を設けたが、他の伝達部を設けてよい。例えば、励磁作動形のクラッチを設け、正搬送時のときのみに通電して動力を伝える構成であってもよい。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲とが含まれる。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
【0043】
(付記)
(付記1)
被印刷媒体及びインクリボンを、第1方向及び第2方向に搬送することが可能な搬送部と、
前記搬送部によって前記インクリボンを前記第1方向へ搬送する際に、前記インクリボンを巻き取るリボン巻取り軸と、
前記搬送部及び前記リボン巻取り軸を動作させるための動力を出力する駆動源と、
前記駆動源が出力する動力を前記搬送部に伝達する第1駆動機構と、
前記インクリボンを前記第1方向へ搬送する際には、前記駆動源が出力する動力を前記リボン巻取り軸へと伝達し、前記インクリボンを前記第2方向へ搬送する際には、前記駆動源が出力する動力を前記リボン巻取り軸へと伝達しない伝達部を有する第2駆動機構と、を備え、
前記インクリボンを前記第2方向へ搬送する際、前記インクリボンは前記第1駆動機構へと伝達された動力によって前記リボン巻取り軸から引き出される、
ことを特徴とする印刷装置。
【0044】
(付記2)
前記伝達部は、ワンウェイクラッチである、
ことを特徴とする付記1に記載の印刷装置。
【0045】
(付記3)
前記第2駆動機構は、前記駆動源が出力した動力を伝達するための複数のギアを有し、
前記ワンウェイクラッチは、前記複数のギアに組み込まれている、
ことを特徴とする付記2に記載の印刷装置。
【0046】
(付記4)
前記リボン巻取り軸は、前記第2駆動機構とトルクリミッタを介して接続されており、
前記第2駆動機構は、前記インクリボンを前記第1方向へと搬送させる際の速度よりも速い回転運動を前記トルクリミッタに伝達する、
ことを特徴とする付記1から3のいずれか1つに記載の印刷装置。
【0047】
(付記5)
前記トルクリミッタはフェルト式であり、
前記リボン巻取り軸は、前記トルクリミッタへのトルクが閾値を超えた場合にフェルトをスリップさせながら前記インクリボンを巻き取る、
ことを特徴とする付記4に記載の印刷装置。
【0048】
(付記6)
前記被印刷媒体に印刷を実行する前段階において前記インクリボンを前記第2方向へと搬送することによって、印刷物の端部に形成される余白を短縮する、
ことを特徴とする付記1から5のいずれか1つに記載の印刷装置。
【0049】
(付記7)
前記第1方向は、前記被印刷媒体を装置外へと排出する方向であり、
前記第2方向は、前記第1方向とは反対の方向である、
ことを特徴とする付記1から6のいずれか1つに記載の印刷装置。
【0050】
(付記8)
前記搬送部は少なくとも、前記被印刷媒体に印刷を行うサーマルヘッドと、前記被印刷媒体及び前記インクリボンを搬送するために回転するプラテンローラと、からなり、
前記インクリボンは、前記サーマルヘッドと前記プラテンローラとに挟持されながら搬送される、
ことを特徴とする付記1から7のいずれか1つに記載の印刷装置。
【0051】
(付記9)
前記インクリボンを前記第1方向へと搬送する際の、前記プラテンローラの回転の速度は、前記リボン巻取り軸に接続されているギアの回転の速度よりも小さい、
ことを特徴とする付記8に記載の印刷装置。
【符号の説明】
【0052】
1・・・印刷装置、2・・・筐体、2a・・・平面、2b・・・曲面、2c・・・凹部、2d・・・排出口、8・・・主要部、10・・・サーマルヘッド、11・・・ベース部、11a・・・平板部、12・・・カートリッジ保持部、12a・・・保持部本体、12b・・・脚部、12c・・・カートリッジ収容部、16・・・ハーフカッター、17・・・フルカッター、21・・・プラテンローラ、21a・・・軸、22・・・テープコア係合軸、23・・・リボン巻取り軸、24・・・モータ、25・・・軸部、25a・・・フランジ部、26・・・係合部、27・・・トルクリミッタ、27a・・・回転部、27b・・・フェルト、28・・・スプリング、29・・・突出部、30・・・テープカートリッジ、31・・・カートリッジケース、32・・・テープコア、34・・・リボン供給コア、35・・・リボン巻取りコア、36・・・サーマルヘッド被挿入部、41・・・回転軸、42・・・第1ギア部、42a・・・突出部、42b・・・ギア本体部、43・・・内輪、44・・・外輪、45・・・ワンウェイクラッチ、46・・・第2ギア部、G1・・・出力ギア、G2~G12・・・ギア、M・・・テープ部材、R・・・インクリボン、MA・・・余白
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9