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特許7472910疑似3D印刷画像を有する印刷基体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】疑似3D印刷画像を有する印刷基体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/06 20060101AFI20240416BHJP
   B41M 1/26 20060101ALI20240416BHJP
   B41M 1/40 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B41M3/06 C
B41M1/26
B41M1/40 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021528119
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(86)【国際出願番号】 JP2020022711
(87)【国際公開番号】W WO2020255798
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019114029
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019196969
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】森川 久彰
(72)【発明者】
【氏名】山田 幸司
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-011505(JP,A)
【文献】特開2004-306593(JP,A)
【文献】特開2010-058399(JP,A)
【文献】特開2013-177571(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0211132(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/00 - 3/18
B41M 7/00 - 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、3Dスキャナによるスキャンデータに基づく疑似3D印刷画像が施されている印刷基体であって、前記疑似3D印刷画像が、線数が100lpi以上及び/又は解像度が300dpi以上の印刷画像であり、
前記3Dスキャナによるスキャンデータが、異形加工が施された3Dスキャン対象物をスキャンしたスキャンデータであり、
前記基材が円筒容器であり、該円筒容器の側面投影面積の10%以上の領域に前記疑似3D印刷画像が印刷されていることを特徴とする印刷基体。
【請求項2】
前記疑似3D印刷画像が、3Dスキャナによる複数のスキャンデータの組み合わせに基づく印刷画像である請求項1に記載の印刷基体。
【請求項3】
前記疑似3D印刷画像が、3Dスキャナによる一つ又は複数のスキャンデータと、3Dスキャナによらない一つ又は複数のデータとの組み合わせから成る請求項1記載の印刷基体。
【請求項4】
前記3Dスキャンによる複数のスキャンデータが、一つの3Dスキャン対象物に対してライティング角度を変えてスキャンした複数のスキャンデータの組み合わせである請求項2又は3記載の印刷基体。
【請求項5】
前記3Dスキャンによる複数のスキャンデータが、マット調の基材をスキャンしたスキャンデータの影部分と、光沢のある基材をスキャンしたスキャンデータの光の部分との組み合わせである請求項2又は3記載の印刷基体。
【請求項6】
前記基材に、前記疑似3D印刷画像に合せた異形加工が施されている請求項1~5の何れかに記載の印刷基体。
【請求項7】
前記基材が透明フィルムであり、該透明フィルムの前記疑似3D印刷画像が形成される部分に隠蔽層が形成されている請求項1~6の何れかに記載の印刷基体。
【請求項8】
3Dスキャン対象物を3Dスキャナでスキャンして得られたスキャンデータから印刷データを作成する工程、前記印刷データに基づき、線数が100lpi以上及び/又は解像度が300dpi以上の疑似3D印刷画像を基材上に印刷する工程、を有する印刷基体の製造方法であって、
前記3Dスキャン対象物が、異形加工が施された基材であり、
前記疑似3D印刷画像が印刷される基材が円筒容器であり、該円筒容器の側面投影面積の10%以上の領域に前記疑似3D印刷画像を印刷することを特徴とする印刷基体の製造方法。
【請求項9】
前記印刷データ作成工程で、複数の3Dスキャン対象物を3Dスキャンすることにより得られた複数のスキャンデータを組み合わせて印刷データを作成する請求項記載の印刷基体の製造方法。
【請求項10】
前記複数の3Dスキャン対象物が、マット調の基材と光沢のある基材である請求項8又は9記載の印刷基体の製造方法。
【請求項11】
前記印刷データ作成工程で、スキャンデータに補正処理を行うことにより更に立体感を強調した印刷データを作成する請求項8~10の何れかに記載の印刷基体の製造方法。
【請求項12】
前記補正処理が、シャープネス処理及び/又はコントラスト処理である請求項11記載の印刷基体の製造方法。
【請求項13】
前記シャープネス処理を、3Dスキャン対象物に応じたシャープネス設定値で行う請求項12記載の印刷基体の製造方法。
【請求項14】
前記スキャンデータについて、L*a*b*色空間で表現されるL*(明度)にシャープネス処理を行う請求項12又は13記載の印刷基体の製造方法。
【請求項15】
前記線数100lpi以上の疑似3D印刷画像を水なし平版印刷により印刷する請求項8~14の何れかに記載の印刷基体の製造方法。
【請求項16】
前記解像度300dpi以上の疑似3D印刷画像をインクジェット印刷により印刷する請求項8~15の何れかに記載の印刷基体の製造方法。
【請求項17】
前記疑似3D印刷画像が形成された基材に、疑似3D印刷画像に合せた異形加工を施す工程、を更に有する請求項8~16の何れかに記載の印刷基体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疑似3D印刷画像を有する印刷基体及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、立体感のある印刷画像がリアルに形成された印刷基体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属缶等の包装容器の外面には、商品名や内容物に関する説明等の各種印刷が施されており、特に装飾デザインのための印刷によって、他の商品との差別化を図り、消費者の購買意欲を高める等、商品価値を高めることも可能である。
包装容器においても、印刷によって立体的な装飾を施すことが提案されており、例えば、下記特許文献1には、容器などの被装着体に熱収縮により装着可能な熱収縮性筒状ラベルに於いて、3次元モデル表面の凹凸高さ及び色彩を実測したデータを立体化補正処理することにより、3次元モデルを平面上に立体的に表現してなる2次元画像データに基づいて、前記3次元モデル表面の凸状部に対応する部分を明るく且つ凹状部に対応する部分を暗く表してなる立体的意匠表示が筒状ラベル本体に印刷されていることを特徴とする熱収縮性筒状ラベルが提案されている。
【0003】
また下記特許文献2には、缶胴周壁に複数の筋状のセルが缶胴の周方向に連続して形成された縞模様が印刷され、セル内が缶胴の周方向において階調が変化するグラデーションで表示されると共に、隣接するセルの境界が明るさの不連続によって表示され、セル内はセルの周方向の一端が他端よりも暗く、かつ一端と他端の中間部に明るさの頂点となる明示が形成されて成る金属缶が提案されている。
【0004】
一方、真上からの通常の走査ではとらえることのできない表面粗さや平坦度等の微細な表面構造を精度よく再現可能なマルチアングルスキャナ(3Dスキャナ)を用いて、凹凸のある被写体(以下、「3Dスキャン対象物」ということがある)の表面の状態をリアルに再現した印刷物を作成することが行われている(特許文献3)。
本発明者等は、かかる3Dスキャナによるデータに基づいて得られた立体感のある印刷画像(以下、「疑似3D印刷画像」ということがある)を有する鮮明な印刷層を備えた印刷基体及びその製造方法を提案した(特願2018-244053号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-201534号公報
【文献】特開2016-94222号公報
【文献】特許第4373492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記3Dスキャナにより得られたデータに基づいて印刷された印刷画像を有する印刷基体において、立体感を有する印刷画像が鮮明に印刷されているとしても、実際の3Dスキャン対象物と比較すれば十分満足するものではなく、より再現性の高い疑似3D印刷画像を備えた印刷基体が望まれている。
また印刷基体の商品価値を高める観点からも、より装飾性の高い疑似3D印刷画像を備えた印刷基体も望まれている。
従って本発明の目的は、3Dスキャン対象物の再現性に優れ、立体感に優れた高い装飾性を有する疑似3D印刷画像が形成された印刷基体及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、立体感に優れた疑似3D印刷画像と共に、基体に凹凸を組み合わせることにより、視覚のみならず触覚にも訴求可能な印刷基体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、基材上に、3Dスキャナによるスキャンデータに基づく疑似3D印刷画像が施されている印刷基体であって、前記疑似3D印刷画像が、線数が100lpi以上及び/又は解像度が300dpi以上の印刷画像であることを特徴とする印刷基体が提供される。
【0008】
本発明の印刷基体においては、
1.前記疑似3D印刷画像が、3Dスキャナによる複数のスキャンデータの組み合わせに基づく印刷画像であること、
2.前記疑似3D印刷画像が、3Dスキャナによる一つ又は複数のスキャンデータと、3Dスキャナによらない一つ又は複数のデータとの組み合わせから成ること、
3.前記3Dスキャンによる複数のスキャンデータが一つの3Dスキャン対象物に対してライティング角度を変えてスキャンした複数のスキャンデータの組み合わせであること、
4.前記3Dスキャンによる複数のスキャンデータが、マット調の基材をスキャンしたスキャンデータの影部分と、光沢のある基材をスキャンしたスキャンデータの光の部分との組み合わせであること、
5.前記基材に、前記疑似3D印刷画像に合せた異形加工が施されていること、
6.前記基材が透明フィルムであり、該透明フィルムの前記疑似3D印刷画像が形成される部分に隠蔽層が形成されていること、
7.前記基材が円筒容器であり、該円筒容器の正面投影面積の10%以上の領域に前記疑似3D印刷画像が印刷されていること、
が好適である。
【0009】
本発明によればまた、3Dスキャン対象物を3Dスキャナでスキャンして得られたスキャンデータから印刷データを作成する工程、前記印刷データに基づき、線数が100lpi以上及び/又は解像度が300dpi以上の疑似3D印刷画像を基材上に印刷する工程、を有することを特徴とする印刷基体の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の印刷基体の製造方法においては、
1.前記3Dスキャン対象物が、異形加工が施された基材であること、
2.前記印刷データ作成工程で、複数の3Dスキャン対象物を3Dスキャンすることにより得られた複数のスキャンデータを組み合わせて印刷データを作成すること、
3.前記複数の3Dスキャン対象物が、マット調の基材と光沢のある基材であること、
4.前記印刷データ作成工程で、スキャンデータに補正処理を行うことにより更に立体感を強調した印刷データを作成すること、
5.前記補正処理が、シャープネス処理及び/又はコントラスト処理であること、
6.前記シャープネス処理を、3Dスキャン対象物に応じたシャープネス設定値で行うこと、
7.前記スキャンデータについて、L*a*b*色空間で表現されるL*(明度)にシャープネス処理を行うこと、
8.前記線数100lpi以上の疑似3D印刷画像を水なし平版印刷により印刷すること、
9.前記解像度300dpi以上の疑似3D印刷画像をインクジェット印刷により印刷すること、
10.前記疑似3D印刷画像が形成された基材に、疑似3D印刷画像に合せた異形加工を施す工程、を更に有すること、
が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の印刷基体は、スクリーン線数が100lpi以上及び/又は解像度が300dpi以上の疑似3D印刷画像を形成することにより、3Dスキャン対象物が本来有する立体感を微細且つ鮮明に精度よく再現することが可能であり、平面(曲面)上にリアルな立体感を有する装飾性の高い印刷画像を有する印刷基体を提供することができる。
またこの疑似3D印刷画像に合せて、異形加工等によって基体に凹凸を形成することによって、視覚のみならず触覚からも立体感を感じることができるため、実際の表面凹凸以上の立体感を看者に与えることができる。
【0012】
本発明の印刷基体の製造方法では、印刷データの作成に際して、3Dスキャナによるスキャンデータ同士、又は3Dスキャナによるスキャンデータと3Dスキャナによらないデータとの組み合わせ等、複数のデータを組み合わせて印刷データを作成することや、或いはスキャンデータに種々の補正処理を加えて印刷データを作成することにより、疑似3D印刷画像における3Dスキャン対象物の再現性を向上し、リアルな立体感を付与できるだけでなく、より強調された立体感や装飾性も付与することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】複数の3Dスキャンデータを組み合わせた印刷データに基づく印刷画像の一例を説明するための図であり、(A)が一つのスキャンデータに基づく印刷画像であり、(B)がスキャンデータを合成した印刷データに基づく印刷画像である。
図2】実施例で使用した印刷データであり、(A)は3Dスキャンにより得られたスキャンデータ画像であり、(B)は一眼レフカメラにより得られたデータ画像である。
図3図2(A)の画像を水なし平版印刷により、スクリーン線数を変えて印刷した印刷画像であり、(A)は80lp、(B)は100lpi、(C)は120lpi、(D)は150lpi、(E)は250lpi、(F)は300lpi、の印刷画像である。
図4図2(B)の画像を水なし平版印刷により、スクリーン線数を変えて印刷した印刷画像であり、(A)は80lp、(B)は100lpi、(C)は120lpi、(D)は150lpi、(E)は250lpi、(F)は300lpi、の印刷画像である。
図5図2(A)の画像を樹脂凸版印刷により、スクリーン線数を変えて印刷した印刷画像であり、(A)は80lp、(B)は100lpi、(C)は120lpi、(D)は150lpi、の印刷画像である。
図6図2(B)の画像を樹脂凸版印刷により、スクリーン線数を変えて印刷した印刷画像であり、(A)は80lp、(B)は100lpi、(C)は120lpi、(D)は150lpi、の印刷画像である。
図7図2(A)の画像をインクジェット印刷により、解像度を変えて印刷した印刷画像であり、(A)は250dpi、(B)は300dpi、(C)は600dpiの印刷画像である。
図8図2(B)の画像をインクジェット印刷により、解像度を変えて印刷した印刷画像であり、(A)は250dpi、(B)は300dpi、(C)は600dpiの印刷画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(印刷基体)
本発明の印刷基体においては、基材上に形成される印刷画像が、3Dスキャナによるスキャンデータに基づく疑似3D印刷画像であり、この疑似3D印刷画像が、線数が100lpi以上及び/又は解像度が300dpi以上の高精細な印刷画像から形成されていることが重要な特徴である。
【0015】
[印刷画像]
本発明の印刷基体において、疑似3D印刷画像は、3Dスキャン対象物から3Dスキャナを用いて取得されたデータに基づき印刷された、スクリーン線数が100lpi以上及び/又は解像度が300dpi以上であることが重要であり、スクリーン線数は好ましくは120lpi以上、より好ましくは150lpi以上であり、解像度は600dpi以上であることが好適である。上記範囲よりもスクリーン線数や解像度が小さい場合には、3Dスキャン対象物が有する立体感を充分に表現することが難しい。またスクリーン線数及び解像度は大きいほど、高精細な印刷画像を形成可能である。
尚、金属基材やプラスチック製基材等のように、インキ吸収性を有しない印刷基体に印刷する場合には、スクリーン線数及び解像度があまり大きいと、網点が潰れるおそれがあることから、300lpi以下、或いは1200dpi以下の範囲に設定することが望ましい。
【0016】
疑似3D印刷画像は、上述したスクリーン線数及び/又は解像度の印刷画像を形成できる限り、従来公知の印刷方式により印刷されたものでよいが、好適には、スクリーン線数が100lpi以上の印刷画像は水なし平版印刷により印刷されていることが望ましく、解像度が300dpi以上の印刷画像はインクジェット印刷により印刷されていることが望ましい。
疑似3D印刷画像は、複数の印刷方式により形成されていてもよく、その場合には、複数の印刷方式により印刷されたすべての印刷画像が上記範囲のスクリーン線数又は解像度を満足してもよいし、一部の印刷画像のみが上記範囲のスクリーン線数又は解像度を満足してもよい。疑似3D印刷画像は、基体の全面或いは部分的に形成されていてもよく、平面的な通常の印刷画像との組み合わせであってもよい。
【0017】
また疑似3D印刷画像は、後述するように、複数の3Dスキャン対象物から得られた複数のスキャンデータを組み合わせて形成された印刷データ、或いはこの1つ以上の3Dスキャンによるデータと、3Dスキャンによらない1つ以上のデータを組み合わせて形成されたデータに基づいて印刷された印刷画像であることが好適である。これにより素材や凹凸の程度の異なる疑似3D印刷画像が組み合わされ、意匠性に優れた印刷画像を形成することができる。
例えば、これに限定されないが、凹凸のあるマット調の基材をスキャンすることにより得られたデータから影の部分を使用し、凹凸のある光沢のある基材をスキャンすることにより得られたデータから光の部分を使用し、これらを組み合わせて印刷データとすることにより、疑似3D印刷画像に光の照射と陰影を際立たせることが可能になり、より立体感のある疑似3D印刷画像を得ることが可能になる。
また3Dスキャン対象物に対して光の照射方向を変化させて、異なるライティング角度からの複数のデータを組み合わせた印刷データにより疑似3D印刷画像を形成することもできる。例えば3Dスキャン対象物に対して相対する方向からそれぞれ光を照射した状態でスキャンして得た複数のデータから、最も明るい光の部分と最も暗い影の部分を抜き出して合成させることで、陰影が強調されたより立体感のある疑似3D印刷画像を得ることが可能になる。
【0018】
図1は、凹凸により形成された3Dの模様を、照明条件を変えることにより得られた2つのスキャンデータを組み合わせて成る印刷画像を説明するための図である。なお、図1(A)及び(B)において、右側の図は左側の図の部分拡大図である。図1(A)に示すスキャンデータは、照明の影響により画像の一部がのっぺりと白抜けしたようになり、全体としての立体感が損なわれている。図1(B)は、同一3Dスキャン対象物に対して照明条件を変えてスキャンすることにより得られたスキャンデータのうち、(A)の白抜けした部分に相当する部分を(A)の白抜けした部分に合成した印刷データにより印刷した画像である。図1(B)は、全体の凹凸が強調されて、図1(A)の画像に比して、立体感が顕著に向上していることが明らかである。
【0019】
更に印刷画像は、上述した疑似3D印刷画像以外に、商品説明や製造年月日、或いは二次元コード等の情報表示のための印刷画像と組み合わされていてもよいが、情報表示のための印刷画像は、疑似3D印刷画像の非印刷領域に形成されていることが疑似3D印刷画像の意匠性を損なわないことから望ましい。またかかる情報表示のための印刷画像は、疑似3D印刷画像と異なる印刷方式により印刷されていることによってそれぞれの特徴が際立つため望ましい。
【0020】
疑似3D印刷画像は、立体感のある画像を鮮明に再現する観点から使用色数として4色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)以上のインキから再現されていることが望ましく、必要に応じて特色を使用することで、より精細な印刷再現を表現することが出来る。
また通常の印刷インキを用いて印刷されていても、表面凹凸等が精度よく再現された立体感のある印刷画像を形成できるが、印刷インキ中に熱膨張性マイクロカプセルを含有する発泡インキを用いて印刷されるか、インクジェット印刷による厚盛り印刷や、タクタイル印刷により形成されていることにより、より立体感が強調された意匠性の高い印刷画像を有することができる。
【0021】
[基材]
本発明の印刷基体において、疑似3D印刷画像を形成する基材は、印刷可能な基材である限り、制限なく使用することができる。これに限定されないが、金属板や金属容器などの金属製基材、ボトル、シート、チューブ、ラベル、フィルム、パウチ等のプラスチック製基材、或いは紙やガラス等であってもよい。
具体的には、アルミニウム板、アルミニウム合金板、ティンフリースチールなどの表面処理鋼板、ブリキ板、クロムメッキ鋼板、アルミメッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板、スズニッケルメッキ鋼板、その各種の合金メッキ鋼板などの各種金属板を、絞り加工、絞りしごき加工、再絞り加工などによって成形したシームレス缶、及び溶接缶など、各種のタイプの金属缶や、ポリエチレンテレフタレート等から成るポリエステルボトル、ポリプロピレンやポリエチレン等から成るオレフィンボトル等を例示できる。また、上記金属缶の表面には、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロプレンフィルムなどの樹脂フィルムがラミネートされていてもよい。
なお、印刷が施される基材として金属缶等の円筒容器を用いる場合には、容器正面(側面)の投影面積の10%以上の領域に疑似3D印刷画像が形成されていることが好適である。正面(側面)から見たときに、10%未満の領域では、疑似3D印刷画像の優れた立体感を十分に視認できないおそれがある。
【0022】
また、包装袋(パウチ)や包装ラベル(印刷ラベル)では、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロピレン等の従来包装容器に使用されていた樹脂フィルムや、この樹脂フィルムとヒートシール性樹脂やアルミ箔等の金属フィルムからなる積層体、樹脂フィルムと紙の積層体、或いはポリエチレンテレフタレート等から成るプラスチックボトルに用いられる熱収縮性ラベル等を例示できる。
【0023】
[最表面層]
本発明の印刷基体においては、3Dスキャン対象物が有する表面形態の特徴をよりリアルに疑似3D印刷画像に再現するために、最表面層として光沢層もしくは乱反射層を形成することも可能である。
【0024】
光沢層は、通常ニス層或いはトップコート層とも呼ばれるものであり、印刷層の保護や艶出しのために形成される。
ニス層を形成するためのニスとしては、透明な熱硬化性樹脂が使用され、例えば、熱硬化性のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を熱硬化性樹脂成分として含み、更に、硬化剤成分としてフェノール樹脂やメラミン樹脂などのアミノ樹脂或いはイソシアネート樹脂等を、熱硬化性樹脂成分100重量部当り0.1~10重量部程度の量で含有して成るものを好適に用いることができ、これらの樹脂成分を有機溶剤に適宜溶解させることにより使用される。ニスには、パラフィン、シリコンオイル等の滑剤成分を配合することもできる。
【0025】
また乱反射層は、表面を微細な凹凸を形成する等、印刷基体の表面光沢を低減できる限り種々の材料のものを使用可能であるが、透明性を有する艶消しニス層又は艶消しフィルムから成ることが好ましい。
乱反射層が形成されていることにより、印刷画像を鮮明に視認できると共に、印刷画像に入射する光を乱反射して光沢を排除し、印刷画像が有する表面凹凸や質感のような立体感が損なわれることなく、視認されることが可能になる。特に金属製基材や樹脂フィルム等の表面光沢を有する基材を使用する場合には、乱反射層が形成されていることが好適である。
乱反射層は、印刷基体の最表面且つ少なくとも上述した印刷画像の上に形成されていることが望ましく、印刷画像上に直接、或いは透明フィルムを介して形成されていてもよい。また印刷画像が基材に部分的に形成されているような場合には、基材の全面を覆うように形成されていてもよいし、印刷画像が形成された部分にのみ形成されていてもよい。
乱反射層は、表面を微細な凹凸を形成する等、印刷基体の表面光沢を低減できる限り種々の材料のものを使用可能であるが、艶消しニス層又は艶消しフィルムから成ることが好ましい。艶消しニスとしては、従来透明トップコート層として使用されていた仕上げニスに、艶消し剤を配合して成るものであり、また艶消しフィルムは、透明樹脂フィルムに艶消し剤を配合して成るものである。
【0026】
艶消しニス層を構成する、仕上げニス(トップコート剤)としては、従来公知の透明な熱硬化性樹脂が使用され、例えば、熱硬化性のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などをベース樹脂として含み、フェノール樹脂やメラミン樹脂などのアミノ樹脂或いはイソシアネート樹脂等を硬化剤として含有している塗料組成物であり、適宜有機溶剤に溶解させたものから成る。
また艶消しフィルムを構成する透明樹脂フィルムとしては、従来公知の透明な熱可塑性樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン等のオレフィン系樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル系共重合体樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α-メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のビニル系樹脂;ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート;ポリフエニレンオキサイド;ポリ乳酸などの生分解性樹脂;などから形成されていてよい。一般的には、透明性に優れていると共に、耐熱性が良好であるという点で、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルを好適に使用できる。
【0027】
上記仕上げニス又は透明樹脂フィルムに配合される艶消し剤としては、シリカ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の無機粒子から成るもの、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンなどの有機材料のパウダー又はビーズから成るものを例示できる。これらの中でも特にシリカを好適に使用することができ、中でも平均粒径が1~10μmの範囲にあるものを好適に使用することができる。シリカの平均粒径が上記範囲にあることにより、入射光を効率よく乱反射させて表面光沢を低減させることができ、印刷画像が有する表面凹凸や質感等の立体感が損なわれることなく、視認可能になる。
艶消し剤は、仕上げニス又は透明樹脂フィルム中に、樹脂固形分の1重量%以上、特に10~20重量%の範囲で含有されていることが好適である。上記範囲よりも艶消し剤の量が少ない場合には、十分に艶消し効果を発現することができず、印刷画像の立体感を損なうおそれがある。また上記範囲よりも艶消し剤の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して塗工性に劣ると共に、耐疵付き性が低下するおそれがある。
【0028】
乱反射層の厚みは、印刷基体の用途などによって一概に規定できないが、一般に艶消しニス層の場合で1~20μmの範囲にあることが好ましく、艶消しフィルムの場合で8~50μmの範囲にあることが好ましい。
【0029】
[他の層]
本発明の印刷基体においては、基材上に印刷画像を直接形成することもできるが、従来より印刷層を形成する際に用いられる白ベタ印刷層及び/又はアンカーコート層等のベースコート層や、ベースフィルムを介して印刷画像を形成することもできる。
白ベタ印刷層を形成することにより、特に金属製容器の地色を補正して印刷画像への影響を低減することができ、鮮明な画像を形成することが可能になる。
また印刷基体として透明フィルムを用いる場合には、印刷画像が形成される部分に、白ベタ印刷層などのベタ印刷による隠ぺい層を形成することにより、鮮明な立体画像を形成することができる。
白ベタ印刷層は、ホワイトコート層としてそれ自体公知のものを使用することができ、例えば、酸化チタンや酸化亜鉛等の白色顔料を、熱硬化性、紫外線硬化性、或いは電子線硬化性の樹脂バインダーと共に溶剤中に分散して成る白色インクを塗布・乾燥し、次いで加熱、紫外線照射或いは電子線照射等により硬化することにより形成できる。
またアンカーコート層を形成することにより、印刷画像の基材への密着性を向上させることもできる。アンカーコート層は、アンカーコート剤としてそれ自体公知のものを使用することにより形成することができ、例えば、熱硬化性、紫外線硬化型或いは電子線硬化型のポリエステル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等が所定の溶剤に分散乃至溶解された塗布液を塗布・乾燥し、次いで加熱、紫外線照射或いは電子線照射等により硬化することにより形成される。
【0030】
更に、印刷基体が貼着ラベルである場合には、金属製容器等に貼着するための接着剤層が形成されている。接着剤としては、ラベルを貼着する基材の種類に応じて適宜のものを使用することができる。例えば、シームレス缶や溶接缶などの金属容器に貼着する場合には、加熱加圧により金属容器(或いは金属容器にラミネートされている樹脂フィルム)に容易に接着し得る公知の熱硬化型接着剤、例えば、ポリウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂などを熱硬化性樹脂成分として含み、イソシアネート或いはメラミン樹脂などを硬化剤成分として含む公知の熱硬化型の接着剤などが使用される。また、印刷基体がパウチ等の積層フィルムである場合には、最内層に、従来公知のヒートシール性に優れたポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルムから成るヒートシール性樹脂層を使用することもできる。
【0031】
[異形加工]
本発明の印刷基体においては、疑似3D印刷画像と共に、基材に異形加工が施されていてもよい。特に疑似3D印刷画像に合せて部分的に或いは画像を取り囲むように、後述する異形加工が施されていることにより、触覚によっても立体感を認識することが可能になり、一層疑似3D印刷画像の立体感が高められている。
【0032】
(印刷基体の製造方法)
本発明の印刷基体の製造方法は、3Dスキャン対象物を3Dスキャナでスキャンして印刷データを作成する工程、前記印刷データに基づき、線数が100lpi以上及び/又は解像度が300dpi以上の疑似3D印刷画像を基材上に印刷する工程、を少なくとも有している。
【0033】
[3Dスキャン対象物]
本発明の印刷基体の印刷画像の原画となる3Dスキャン対象物としては、表面に凹凸がある限り、この凹凸の段差量は特に限定されないが、凹凸の段差量が30mm以下であっても立体感を発現できる。
このような対象物としては、これに限定されないが、版画の版木や油絵、ステンドグラス、編み物や織物、パッチワーク等の素材そのもの、3Dプリンターによる光造形物や、インクジェット印刷による厚盛り印刷等の印刷物、或いはレーザ彫刻や機械加工、エンボス成形、型押し、発泡成形等による立体的な部分が形成された加工物等を例示することができ、これらの単独、或いは2種以上を組み合わせて3Dスキャン対象物を形成することもできる。
【0034】
本発明においては、3Dスキャン対象物として上記のような立体物以外に、疑似3D印刷画像における立体感が強調されるように複数の画像形成のための素材を組み合わせて3Dスキャン対象物を作成してもよい。
例えば、3Dスキャン対象物を平面画像に立体物を組み合わせて形成することにより、更に立体感のあるデザインや装飾性を付与することが可能になる。具体的には、平面印刷画像の上に、水滴や氷を載置することにより、従来の印刷では表現することが難しかった水滴等が有する清涼感や、瑞々しさのようなシズル感を疑似3D印刷画像に付与することが可能になる。或いは透明樹脂やガラス等から成る種々の形態の透明凹凸物体を載置した3Dスキャン対象物とすることにより、水滴や氷を使用した場合と同様の装飾効果を有する種々のデザインの疑似3D印刷画像を形成することが可能になる。このような透明凹凸物体としては、透明樹脂等から成る成形体の他、透明インクの盛り上げ印刷等によっても形成できる。
【0035】
また3Dスキャン対象物として、マット調の基材と光沢のある基材の組み合わせのように、質感の異なる2種以上の素材を組み合わせることにより、立体感が強調された3D対象物を形成することができる。
更にまた、3Dスキャン対象物として、金属シート又は紙、或いはこれらを組み合わせて成る積層体に、エンボス加工や折り曲げ加工等の異形加工が施された表面に凹凸を有する金属シート等を用いることにより、実際に物品に異形加工を施さなくても、同様の装飾効果を得ることができる。例えば金属製容器や紙製容器において異形加工を施すことが強度的に困難な場合にも、疑似3D印刷画像により異形加工が施されたような金属製容器や紙製容器を形成することが可能になる。
【0036】
[印刷データ作成工程]
上記のようにして作成された3Dスキャン対象物の表面を、3Dスキャナを用いてスキャンしデータ編集を行って印刷データを作成する。版式印刷により印刷を行う場合には、該データに基づき製版を行う。
3Dスキャン対象物から得られたデータは1種のみをそのまま使用してもよいし、複数の3Dスキャン対象物から得られた複数のデータを組み合わせてデータ編集してもよいし、或いは3Dスキャンによらないデータと組み合わせてデータ編集してもよい。これにより、印刷デザインの幅が広がり、より意匠性に優れた装飾的な疑似3D印刷画像を形成することが可能になる。
【0037】
またデータ編集に際して、従来公知の補正処理を行うことにより、更に立体感を強調した印刷データを作成することもできる。
補正処理としては、色や明るさの異なる境界部分を際立たせて立体感を制御するシャープネス処理や、データの各画素の輝度値のコントラストが高くなるように輝度変換を行うコントラスト処理を好適に使用できる。
シャープネス処理は、例えば、アドビシステムズ株式会社製PHOTOSHOP(登録商標)におけるシャープツール(アンシャープマスク)では、適用するシャープの量を設定する「量」と、シャープの影響を受ける輪郭周辺の幅を設定する「半径」、及びシャープを適用する基準の「閾値」を、3Dスキャン対象物に応じて適切な範囲に調整する。例えば、3Dスキャン対象物として実施例で用いたタオルの場合は、量:30~60、半径1~5ピクセル、閾値の使用なし、であることが好適である。
また3DスキャンデータについてL*a*b*色空間で表現されるL*(明度)にシャープネス処理を行うことにより、陰影を強調してより際立った立体感を付与することができる。
【0038】
[印刷工程]
印刷方式は、インクジェット印刷、水なし平版印刷、グラビア印刷、樹脂凸版印刷、フレキソ印刷、ダイレクト製版印刷、スクリーン印刷等、従来公知の方法によって印刷することができるが、本発明においては、スクリーン線数が100lpi以上及び/又は解像度が300dpi以上の印刷画像を形成するように印刷することが重要である。これにより表面凹凸を有する3Dスキャン対象物の立体感を精細且つ鮮明に再現することが可能になる。
本発明においては、特に上記印刷方式の中でも、水なし平版印刷又はインクジェット印刷によって上記スクリーン線数又は解像度を有する印刷画像を形成することが好ましい。
また後述する実施例で用いた樹脂凸版印刷では、網点の太り(マージナル)が生じやすいため、印刷物に応じて刷版上の網点サイズを小さくしたり、スクリーン線数を大きくしたり、或いは色調変更を行うことにより、元画像に近い印刷画像を形成することができる。
【0039】
疑似3D印刷画像を際立たせるために、必要により、印刷に先だって前述した白ベタ層或いはアンカーコート層等のベースコート層を形成することもできる。
また前述したとおり、印刷画像は、疑似3D印刷画像と共に情報表示のための印刷画像を形成することもでき、この場合には、疑似3D印刷画像形成後に、疑似3D印刷画像の装飾性を損なわないように、疑似3D印刷画像の非印刷領域にインクジェット印刷等によって形成することが望ましい。またこのように立体的な疑似3D印刷画像と組み合わせることにより、それぞれの特徴を際立たせることが可能になる。
【0040】
疑似3D印刷画像が表面光沢を有する金属製シートや樹脂フィルム等の基材上に印刷される場合には、形成された疑似3D印刷画像の上に、前述した乱反射層を印刷基体の最表面層となるように形成することが好ましい。乱反射層は、艶消しニス層或いは艶消し透明樹脂フィルムのいずれであってもよい。
【0041】
[異形加工工程]
疑似3D印刷画像が形成された印刷基体に、疑似3D印刷画像に合致するような異形加工を施すことにより、疑似3D印刷画像が表現する立体感を更に高めることが可能になる。すなわち、疑似3D印刷画像により視覚を通じて認識された立体感が、更に触覚によっても認識されるため、際立った立体感を感じさせることができる。
異形加工は、基材の種類、印刷基体の形態等によって一概に規定できないが、折り曲げ加工等の機械加工、エンボス加工、型押し等の従来公知の異形加工を採用でき、疑似3D印刷画像に合せて、部分的及び/又は画像の輪郭に沿って全周を取り囲むように、基材に凹凸を形成する。
【実施例
【0042】
本発明の作用効果を以下の実験例により立証するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0043】
(実験例1)
3Dスキャン対象物としてタオルを用い、タオルの表面を3Dスキャン装置(ニューリー社製商品名SCAMERA-Face)を用いて3Dスキャンデータを取得した。図2(A)に3Dスキャンデータ(600dpi)をシャープネス処理(量35、半径3ピクセル、閾値不使用)することにより得られた写真を示す。
得られた3Dスキャンデータを用いて、スクリーン線数を(A)80lpi,(B)100lip,(C)120lpi,(D)150pi,(E)250lpi,(F)300lpiに変えて水なし平版を作成し、アルミニウム板上に印刷した。アルミニウム板上の印刷画像を3倍に拡大した写真を、図3に示した。
図3から明らかなように、スクリーン線数が100dpi以上の場合は、タオルのループが鮮明であり、線数が多くなるほど立体感が際立っていると共に、図2(A)に示すデータ写真に近くなることがわかる。80lpiでは網点が認識され、100lpi以上のものに比して立体感が乏しいことがわかる。
【0044】
(実験例2)
対象物としてタオルを用い、タオルの表面を一眼レフカメラを用いて画像データを取得した。図2(B)にこの画像データから得られた写真を示す。
得られた画像データを用いた以外は実験例1と同様にして、スクリーン線数を80lpi,100lip,120lpi,150pi,250lpi,300lpiに変えた、水なし平版を作成し、アルミニウム板上に印刷した。印刷画像を3倍に拡大した写真を、図4に示した。
図4から明らかなように、図3と比較して立体感に乏しいと共に、スクリーン線数が少ないと鮮明さに欠けていることがわかる。
【0045】
(実験例3)
実験例1と同様の3Dスキャンデータを用いて、スクリーン線数を(A)80lpi,(B)100lip,(C)120lpi,(D)150piに変えた、樹脂凸版を作成し、アルミニウム板上に印刷した。印刷画像を3倍に拡大した写真を、図5に示した。
図5から明らかなように、スクリーン線数が多いほどタオルのループが鮮明で立体感に優れているが、同一画像データを水なし平版で印刷した図3と対比すると、樹脂凸版印刷特有の網点の太り(マージナル)が生じ、図2(A)に示すデータ写真よりも暗い画像になってしまい、水なし平版を用いた画像の方が明らかに、図2(A)に示すデータ写真に近いことがわかる。
【0046】
(実験例4)
実験例2と同様の画像データを用いて、スクリーン線数を(A)80lpi,(B)100lip,(C)120lpi,(D)150piに変えた、樹脂凸版を作成し、アルミニウム板上に印刷した。印刷画像を3倍に拡大した写真を、図6に示した。
図6から明らかなように、図5と比較して立体感に乏しいと共に、スクリーン線数が少ないと鮮明さに欠けていることがわかる。
【0047】
(実験例5)
実験例1と同様の3Dスキャンデータを用いて、解像度を(A)250dpi,(B)300dpi,(C)600dpiに変えて、アルミニウム板上にインクジェット印刷した。印刷画像を3倍に拡大した写真を、図7に示した。
図7から明らかなように、解像度が高いほどタオルのループが鮮明で立体感に優れ、図2(A)に示すデータ写真に近いことがわかる。
【0048】
(実験例6)
実験例2と同様の画像データを用いて、解像度を(A)250dpi,(B)300dpi,(C)600dpiに変え、アルミニウム板上にインクジェット印刷した。印刷画像を3倍に拡大した写真を、図8に示した。
図8から明らかなように、図7と比較して立体感に乏しいと共に、解像度が小さいと鮮明さに欠けていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の印刷基体は、立体感を有する装飾性に優れた疑似3D印刷画像を平面(曲面)状の基材形成することができることから、金属缶等の金属製容器や、ボトル、シート、ラベル、パウチ、チューブ等の樹脂製包装材のほか、意匠性が要求される製品の外面材として好適に使用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8