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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】電極、蓄電デバイス、電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/50 20130101AFI20240416BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240416BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20240416BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20240416BHJP
【FI】
H01G11/50
H01G11/06
H01G11/30
H01G11/86
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022038989
(22)【出願日】2022-03-14
(65)【公開番号】P2023133792
(43)【公開日】2023-09-27
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長廻 尚之
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 等
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正樹
(72)【発明者】
【氏名】駒形 将吾
【審査官】多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-128848(JP,A)
【文献】特開2020-047523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/50
H01G 11/06
H01G 11/30
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイス用の電極であって、
2種以上の芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を備える混合塩構造体を含み、
前記有機骨格層は、式(4)~(6)で表される3種の構造を含み、
ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトが250cm-1以上350cm-1以下の範囲における強度の平均値を基準強度Istdとし、ラマンシフトk[cm-1]付近のピークの強度Ikを前記基準強度Istdで規格化した値を規格化強度Skとし、規格化強度Skの逆数に1000を乗じた値を性能指数Rkとしたときに、下記(A)~(E)のうちの1以上を満たし、
アルカリ金属イオンを吸蔵、放出することで、電気エネルギーを貯蔵出力する、
電極。
(A)R785の値が20以上70以下
(B)R1118の値が100以上500以下
(C)R1400の値が20以上70以下
(D)R1485の値が50以上200以下
(E)R1633の値が20以上60以下
【化1】
【請求項2】
前記(A)~(E)の全てを満たす、
請求項1に記載の電極。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電極である負極と、
正極活物質を含む正極と、
前記負極と前記正極との間に介在し、キャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた、
蓄電デバイス。
【請求項4】
2種以上の芳香族ジカルボン酸アニオンと、アルカリ金属カチオンとを溶解した調製溶液を用い、前記2種以上の芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を備えた混合塩構造体を析出させる析出工程と、
前記混合塩構造体を用いて電極を作製する電極作製工程と、
を含み、
前記有機骨格層は、式(4)~(6)で表される3種の構造を含み、
ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトが250cm-1以上350cm-1以下の範囲における強度の平均値を基準強度Istdとし、ラマンシフトk[cm-1]付近のピークの強度Ikを前記基準強度Istdで規格化した値を規格化強度Skとし、規格化強度Skの逆数に1000を乗じた値を性能指数Rkとしたときに、下記(A)~(E)のうちの1以上を満たす電極を製造する、
電極の製造方法。
(A)R785の値が20以上70以下
(B)R1118の値が100以上500以下
(C)R1400の値が20以上70以下
(D)R1485の値が50以上200以下
(E)R1633の値が20以上60以下
【化1】
【請求項5】
前記析出工程では、噴霧乾燥装置を用いて前記調製溶液を噴霧乾燥する噴霧乾燥処理を行う、請求項に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、電極、蓄電デバイス、電極の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスとしては、芳香環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体を負極活物質に用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。負極活物質としての層状構造体は、導電性を有さないが、非水系電解液に溶けにくく、結晶構造を保つことにより充放電サイクル特性の安定性をより高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-221754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の蓄電デバイスでは、サイクル特性の安定性をより高めることができるものの、出力特性をより向上することが求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、出力特性をより向上することができる新規な電極、蓄電デバイス及び電極の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究した。そして、芳香族ジカルボン酸金属塩を複数種含む調製溶液を用いて混合塩構造体を作製し、それを用いて電極を作製し、所定のラマンスペクトルを示すものとすると、出力特性をより向上できる新規な電極、蓄電デバイス及び電極の製造方法を提供できることを見出し、本開示を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の電極は、
蓄電デバイス用の電極であって、
2種以上の芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を備える混合塩構造体を含み、
ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトが250cm-1以上350cm-1以下の範囲における強度の平均値を基準強度Istdとし、ラマンシフトk[cm-1]付近のピークの強度Ikを前記基準強度Istdで規格化した値を規格化強度Skとし、規格化強度Skの逆数に1000を乗じた値を性能指数Rkとしたときに、下記(A)~(E)のうちの1以上を満たし、
アルカリ金属イオンを吸蔵、放出することで、電気エネルギーを貯蔵出力する、
ものである。
(A)R785の値が20以上70以下
(B)R1118の値が100以上500以下
(C)R1400の値が20以上70以下
(D)R1485の値が50以上200以下
(E)R1633の値が20以上60以下
【0008】
本開示の蓄電デバイスは、
上述した電極である負極と、
正極活物質を含む正極と、
前記負極と前記正極との間に介在し、キャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた、
ものである。
【0009】
本開示の電極の製造方法は、
2種以上の芳香族ジカルボン酸アニオンと、アルカリ金属カチオンとを溶解した調製溶液を用い、前記2種以上の芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を備えた混合塩構造体を析出させる析出工程と、
前記混合塩構造体を用いて電極を作製する電極作製工程と、
を含み、
ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトが250cm-1以上350cm-1以下の範囲における強度の平均値を基準強度Istdとし、ラマンシフトk[cm-1]付近のピークの強度Ikを前記基準強度Istdで規格化した値を規格化強度Skとし、規格化強度Skの逆数に1000を乗じた値を性能指数Rkとしたときに、上述した(A)~(E)のうちの1以上を満たす電極を製造する、
ものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示では、出力特性をより向上することができる新規の電極、蓄電デバイス及び電極の製造方法を提供することができる。こうした効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、複数種の芳香族ジカルボン酸アニオンを適宜配合した調製溶液を用いることにより、新規な構造の混合塩構造体を調製することができる。また、混合塩構造体を、所定のラマンスペクトルを示すものとすることにより、キャリアイオンであるアルカリ金属イオンの拡散を促進するような構造を有するものとすることができる。こうした混合塩構造体を、電極や蓄電デバイスに用いることで、出力特性をより向上することができると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】各芳香族ジカルボン酸ジリチウムの層状構造体の化合物構造の説明図。
図2】蓄電デバイス20の一例を示す模式図。
図3】実験例1~4の電極のXRDスペクトル。
図4】層状構造体と混合塩構造体の構造一例を示す模式図。
図5】実験例1~4の電極のラマンスペクトル。
図6】実験例1~4の放電容量測定における充放電曲線。
図7】性能指数Rkと2C容量/0.1C容量との関係を示すグラフ。
図8】実験例1~4のサイクル性能測定における充放電曲線。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(電極)
本明細書で開示する電極は、蓄電デバイス用の電極である。電極は、キャリアであるアルカリ金属イオンを吸蔵、放出することで電気エネルギーを貯蔵出力する。キャリアであるアルカリ金属イオンとしては、例えば、LiイオンやNaイオン、Kイオンなどのうち1以上が挙げられる。この電極は、2種以上の芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える混合塩構造体を電極活物質として含む。芳香族ジカルボン酸アニオンは、芳香環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物である。
【0013】
この電極活物質は、1つの芳香環構造を含む有機骨格層を有するものとしてもよいし、2以上の芳香環構造が接続した有機骨格層を有するものとしてもよいし、2以上の芳香環構造が縮合した有機骨格層を有するものとしてもよい。この電極活物質は、芳香族化合物のπ電子相互作用により層状に形成されることが、構造的に安定であり、好ましい。この有機骨格層は、2以上の芳香環構造を有する場合、例えば、ビフェニルなど2以上の芳香環が結合した芳香族多環化合物としてもよいし、ナフタレンやアントラセン、ピレンなど2以上の芳香環が縮合した縮合多環化合物としてもよい。この芳香環は、五員環や六員環、八員環としてもよく、六員環が好ましい。また、芳香環は、2以上5以下とするのが好ましい。芳香環が2以上では層状構造を形成しやすく、芳香環が5以下ではエネルギー密度をより高めることができる。この有機骨格層は、芳香環に1又は2以上のカルボキシアニオンが結合した構造を有するものとしてもよい。有機骨格層は、ジカルボン酸アニオンのうちカルボン酸アニオンの一方と他方とが芳香環構造の対角位置に結合されている芳香族化合物を含むものとするのが好ましい。カルボン酸が結合されている対角位置とは、一方のカルボン酸の結合位置から他方のカルボン酸の結合位置までが最も遠い位置としてもよく、例えば芳香環構造がナフタレンであれば2,6位が挙げられる。
【0014】
この有機骨格層は、式(1)~(3)で表される構造のうち2種以上を有するものとしてもよい。但し、この式(1)~(3)において、aは2以上5以下の整数であり、bは0以上3以下の整数であり、これらの芳香族化合物は、この構造中に置換基、ヘテロ原子を有してもよい。具体的には、芳香族化合物の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、芳香族化合物の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。より具体的には、有機骨格層は、式(4)~(6)のうち1以上で表される構造のうち2種以上を有することが好ましい。即ち、式(4)のテレフタル酸アニオン(以下、Phとも称する)と式(5)の4,4’-ビフェニルジカルボン酸アニオン(以下、Bphとも称する)との組合せや、式(4)のPhと式(6)の2,6-ナフタレンジカルボン酸アニオン(以下、Naphとも称する)との組合せ、式(5)のBphと式(6)のNaphとの組合せ、式(4)のPhと式(5)のBphと式(6)のNaphとの組合せなどが挙げられる。有機骨格層は、式(1)~(3)の3種全ての構造の芳香族ジカルボン酸アニオンを含むことが好ましく、式(4)のPh、式(5)のBph、式(6)のNaphの3種全ての構造の芳香族ジカルボン酸アニオンを含むことがより好ましい。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム及びカリウムなどが挙げられ、このうちリチウムが好ましい。なお、蓄電デバイスのキャリアであり、充放電により電極活物質に吸蔵、放出される金属イオンは、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素と異なる種類のものとしてもよいし、同じ種類のものとしてもよく、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。また、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素は、混合塩構造体の骨格を形成することから、充放電に伴うイオン移動には関与しないもの、すなわち、充放電時に吸蔵放出されないものと推察される。エネルギー貯蔵メカニズムにおいては、混合塩構造体の有機骨格層はレドックス(e-)サイトとして機能する一方、アルカリ金属元素層はキャリアである金属イオンの吸蔵サイト(アルカリ金属イオン吸蔵サイト)として機能するものと考えられる。
【0018】
この混合塩構造体は、芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩であり、式(7)~(9)で表される層状構造体の構造のうち2種以上を含むものとしてもよく、3種全てを含むものとしてもよい。より具体的には、式(10)~(12)に示す層状構造体の構造のうちの2種以上を含むものとしてもよく、3種全てを含むものとしてもよい。なお、式(7)~(12)において、Aはアルカリ金属である。また、混合塩構造体は、異なるジカルボン酸アニオンの酸素4つとアルカリ金属元素とが4配位を形成する次式(13)の構造を備えているものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。但し、この式(13)において、Rは2種類以上の芳香環構造を含むものとする。また、Aはアルカリ金属である。このように、アルカリ金属元素によって有機骨格層が結合した構造を有することが好ましい。
【0019】
【化3】
【0020】
【化4】
【0021】
【化5】
【0022】
ここで、単一種の芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩からなる層状構造体の一例について説明する。図1は、各芳香族ジカルボン酸ジリチウムの化合物構造の説明図であり、図1Aがテレフタル酸ジリチウム、図1Bが4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウム、図1Cが2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムである。図1には、各層状構造体の格子定数、a-c面およびb-c面からの結晶構造を示した。テレフタル酸ジリチウム、4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウム及び2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムにおいて、それぞれの結晶の格子定数は、a-c面から確認できる芳香族骨格の長さに相当するa軸が変化するのに対して、b-c面の格子定数はほとんど同じである。よって、2種類以上の芳香族ジカルボン酸とアルカリ金属とを溶解した調製溶液から層状構造体の合成を行うことで、a-b面から観察される各化合物の有機-無機の積層構造を形成し、b-c面において各有機骨格のπスタッキング相互作用によりパッキングされた有機層を形成しながら、カルボン酸ジリチウムのLiO4四面体から構成される無機層部分を共有した結晶を形成することができるものと推察される。
【0023】
この電極活物質は、混合塩構造体に含まれる配合比において、Ph(式(10))、Bph(式(11))、Naph(式(12))の合計を100モル%とし、Phの割合をXpモル%、Bphの割合をXbモル%、Naphの割合をXnモル%としたときに、1≦Xp≦37、1≦Xb≦29、残部がXn(34≦Xn≦98)を満たすものとしてもよい。配合比がこのいずれの範囲も満たすものでは、3種の芳香族ジカルボン酸塩の相乗効果によって、充放電特性をより向上することができる。このとき、混合塩構造体は、2≦Xp≦23、5≦Xb≦24、残部がXn(53≦Xn≦93)を満たすことがより好ましい。あるいは、混合塩構造体は、1≦Xp≦10、15≦Xb≦25、残部がXn(65≦Xn≦84)を満たすものとしてもよく、75≦Xnがより好ましい。
【0024】
この電極活物質は、その形状が直径5μm以下の球状であるものとしてもよい。こうした電極活物質は、後述する噴霧乾燥法により作製することができる。なお、「球状」とは、表面に凹凸がある球形、断面が楕円状の球形など、真球のほかおおよそ球体であるものを含むものとする。この噴霧乾燥法による混合塩構造体の球状粒子は、直径が0.1μm以上5μm以下の範囲で得ることができる。
【0025】
電極は、電極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の電極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものとしてもよい。この電極において、上記電極活物質は、できるだけ多く含まれることが好ましく、例えば、電極合材中に60質量%以上95質量%以下の範囲で含まれるものとしてもよい。導電材は、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるポリビニルアルコール(PVA)や、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、これらの水分散体等を用いることもできる。溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤や、水などの水系溶剤を用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどを用いることができる。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0026】
この電極は、ラマン測定したときのラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトが250cm-1以上350cm-1以下の範囲における強度の平均値を基準強度Istdとし、ラマンシフトk[cm-1]付近のピークの強度Ikを前記基準強度Istdで規格化した値を規格化強度Skとし、規格化強度Skの逆数に1000を乗じた値を性能指数Rkとしたときに、(A)R785の値が20以上70以下、(B)R1118の値が100以上500以下、(C)R1400の値が20以上70以下、(D)R1485の値が50以上200以下、(E)R1633の値が20以上60以下、のうちの1以上を満たす。この電極は、(A)~(E)の全てを満たすことが好ましい。本明細書において「ラマンシフトk[cm-1]付近のピーク」は、k±20cm-1の範囲に現れるピークとしてもよく、ショルダーとして現れていてもよい。性能指数R785の値は、50以上70以下としてもよく、55以上65以下が好ましく、57以上62以下がより好ましい。性能指数R1118の値は、300以上500以下としてもよく、325以上475以下が好ましく、350以上450以下がより好ましい。性能指数R1400の値は、30以上70以下としてもよく、32以上50以下が好ましく、35以上50以下がより好ましい。性能指数R1485の値は、55以上190以下が好ましく、60以上180以下がより好ましい。性能指数R1633の値は、22以上59以下が好ましく、25以上58以下がより好ましい。ラマンシフト1633cm-1付近のピークは、ショルダーとして現れていることが好ましい。なお、ここでは、電極をラマン測定したときの性能指数Rkが(A)~(E)のうちの1以上を満たすものとしたが、電極活物質をラマン測定したときの性能指数Rkが(A)~(E)のうちの1以上を満たすものとしてもよい。上記(A)~(E)は、電極活物質に起因する特徴と推察されるからである。
【0027】
この電極は、CuKα線を用いてX線回折測定したときのXRDスペクトルにおいて、2θが8.18°以上8.49°以下の範囲に回折ピークを有するものとしてもよい。この回折ピークは、式(12)の層状構造体の100面に基づくものと考えられる。この回折ピークは、2θが8.26°以上8.49°以下の範囲に現れるものとしてもよく、8.34°以上8.44°以下の範囲に現れるものとしてもよい。また、このXRDスペクトルにおいて、2θが16.72°以上17.20°以下の範囲に回折ピークを有するものとしてもよい。この回折ピークは、式(12)の層状構造体の200面に基づくものと考えられる。なお、ここでは、電極のXRDスペクトルについて説明したが、電極活物質のXRDスペクトルが上記のいずれかを満たすものとしてもよい。上記の回折ピークは、電極活物質に起因する特徴と推察されるからである。電極のXRDスペクトルにおいて上記の回折ピークを有する場合には、電極活物質のXRDスペクトルにおいても上記の回折ピークを有することを確認済みである。
【0028】
(電極の製造方法)
本明細書で開示する電極の製造方法は、蓄電デバイス用の電極の製造方法である。この電極の製造方法で得られる電極は、電極の説明で示した電極の特徴を適宜備えていてもよい。この電極の製造方法は、溶液調製工程と、析出工程と、電極作製工程とを含むものとしてもよい。なお、調製溶液を別途調製するものとして、溶液調製工程を省略してもよい。
【0029】
溶液調製工程では、2種以上の芳香族ジカルボン酸アニオンと、アルカリ金属カチオンとを溶解した調製溶液を調製する。この調製溶液の溶媒は、特に限定されず、水系溶媒としてもよいし、有機系溶媒としてもよいが、水であることが好ましい。有機系溶媒としては、例えばメタノールやエタノールなどのアルコールなどが挙げられる。アルコールは、溶媒に含まれなくても混合塩構造体の構造に影響は与えないと考えられる。このため、この工程では、溶媒としてアルコールを用いなくてもよい。この工程では、芳香族ジカルボン酸アニオンの全体の濃度が0.05mol/L以上、好ましくは0.1mol/L以上、より好ましくは0.2mol/L以上である調製溶液を調製することが好ましい。また、この工程では、芳香族ジカルボン酸アニオンの濃度が5mol/L以下である調製溶液を調製することが好ましい。このような濃度範囲では、次工程の析出工程をより行いやすい。この工程では、式(1)~(3)のうち2種以上の芳香族ジカルボン酸アニオンを用いるものとしてもよい。より具体的には、式(4)~(6)のうち2種以上の芳香族ジカルボン酸アニオンを用いることが好ましい。さらに、この工程では、リチウム、ナトリウム及びカリウムのうち1以上のアルカリ金属カチオンを含む調製溶液を調製することが好ましい。この工程では、例えば、芳香族ジカルボン酸アニオンのモル数A(mol)に対するアルカリ金属カチオンのモル数B(mol)であるモル比B/Aが2.0を超える調製溶液を得ることが好ましく、B/Aが2.2以上である調製溶液を得ることがより好ましい。このように、アルカリ金属カチオンを過剰とすることにより、蓄電デバイス用電極の抵抗をより低減することができ、好ましい。このモル比B/Aは、2.5以上であるものとしてもよい。また、このモル比B/Aは、3.0以下であるものとしてもよい。
【0030】
また、この工程では、式(4)~(6)で表される3種の構造の芳香族ジカルボン酸(Ph、Bph、Naph)アニオンと、アルカリ金属カチオンとを溶解した調製溶液を調製するものとしてもよい。この場合、原料の配合比は、上述の電極活物質で示した配合比でPh、Naph、Bphとを配合するものとしてもよい。例えば、Ph、Bph、Naphの合計を100モル%とし、Phの割合をXpモル%、Bphの割合をXbモル%、Naphの割合をXnモル%としたときに、1≦Xp≦37、1≦Xb≦29、34≦Xn≦98を満たすものとしてもよい。また、原料の配合比は、2≦Xp≦23、5≦Xb≦24、53≦Xn≦93を満たすことがより好ましい。あるいは、原料の配合比は、1≦Xp≦10、15≦Xb≦25、65≦Xn≦84を満たすものとしてもよい。
【0031】
析出工程では、上記溶液調製工程で調製した調製溶液を用い、2種以上の芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える混合塩構造体を析出させる。こうして、混合塩構造体である電極活物質を製造する。
【0032】
この析出工程では、調製溶液を撹拌したのち溶媒を取り除く溶液混合法により混合塩構造体を析出させてもよい(溶液混合処理)。また、調製溶液を噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥する噴霧乾燥法により、混合塩構造体を析出させてもよい(噴霧乾燥処理)。噴霧乾燥法では、より短時間に混合塩構造体を析出させることができ、好ましい。噴霧乾燥は、スプレードライヤーにより行うものとしてもよい。噴霧乾燥条件は、例えば、装置の規模や作製する電極活物質の量によって適宜調整すればよい。噴霧乾燥処理において、乾燥温度は、例えば、室温以上、例えば、40℃以上に加熱するものとすればよいが、溶媒の沸点以上が好ましく、100℃以上330℃以下の範囲とすることが好ましい。100℃以上では、溶媒を十分に除去することができ、330℃以下では、消費エネルギーをより低減でき好ましい。乾燥温度は、150℃以上がより好ましく、180℃以上がより好ましく、200℃以上としてもよい。また、乾燥温度は300℃以下としてもよい。供給液量は、作製する規模にもよるが、例えば、0.1L/h以上2L/h以下の範囲としてもよい。また、調製溶液を噴霧するノズルサイズは、作製する規模にもよるが、例えば、直径0.5mm以上5mm以下の範囲としてもよい。このように噴霧乾燥処理を行うことによって混合塩構造体を作製すると、球状構造を有する電極活物質が得られる。析出工程では、溶液混合処理や噴霧乾燥処理などの析出処理により混合塩構造体の前駆体を析出させ、前駆体の結晶構造を調整する調整処理により所望の結晶構造を有する混合塩構造体を得るものとしてもよい。また、析出工程では、析出処理で結晶水を含む前駆体を析出させ、調整処理でこの結晶水を除去することで、所望の結晶構造を有する混合塩構造体を得るものとしてもよい。その場合、芳香族ジカルボン酸ユニット1分子に対して1分子以上1.8分子以下の水を除去してもよいし、1.2分子以上1.6分子以下の水を除去してもよい。調整処理としては、例えば、真空乾燥処理が挙げられる。真空乾燥処理は、-80kPa以上-100kPa以下の圧力範囲で行うことが好ましく、-90kPa以上-100kPa以下の圧力範囲(ゲージ圧)で行うことがより好ましい。また、真空乾燥処理は、100℃以上150℃以下の温度範囲で行うことが好ましく、100℃以上120℃以下の温度範囲で行うことがより好ましい。真空乾燥処理は、2時間以上8時間以下の範囲で行うことが好ましく、3時間以上6時間以下の範囲で行うことがより好ましい。
【0033】
電極作製工程では、上記析出工程で析出した混合塩構造体を用い、電極を作製する。この工程では、混合塩構造体である電極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の電極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して電極化してもよい。この工程では、電極合材の混練や圧縮によって、電極活物質の少なくとも一部が解砕されてもよい。導電材、結着材、溶剤、集電体としては、上述の電極の説明で例示したものを用いてもよい。
【0034】
この電極の製造方法では、ラマン測定したときのラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトが250cm-1以上350cm-1以下の範囲における強度の平均値を基準強度Istdとし、ラマンシフトk[cm-1]付近のピークの強度Ikを前記基準強度Istdで規格化した値を規格化強度Skとし、規格化強度Skの逆数に1000を乗じた値を性能指数Rkとしたときに、(A)R785の値が20以上70以下、(B)R1118の値が100以上500以下、(C)R1400の値が20以上70以下、(D)R1485の値が50以上200以下、(E)R1633の値が20以上60以下、のうちの1以上を満たす電極を製造する。この電極の製造方法では、析出工程で析出した混合塩構造体を用いて電極を作製することで、(A)~(E)のうちの1以上を満たす電極が得られる。
【0035】
(蓄電デバイス)
本明細書で開示する蓄電デバイスは、上述した電極である負極と、正極活物質を含む正極と、負極と正極との間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。この蓄電デバイスは、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムイオン二次電池などとしてもよい。正極は、キャリアイオンを吸蔵放出する正極活物質を含むものとしてもよい。負極は、キャリアであるアルカリ金属イオンを吸蔵放出する上述した電極活物質を含むものとしてもよい。また、イオン伝導媒体は、キャリアイオン(カチオン及びアニオンのいずれか)を伝導するものである。ここでは、負極のキャリアをリチウムイオンとする蓄電デバイスを主として説明する。
【0036】
負極は、上述した電極を含むものである。上述した電極の電極活物質は、その電位がリチウム金属基準で1.0~1.5V程度であるため、負極活物質とすることが好ましい。
【0037】
正極は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている公知の正極を用いてもよい。正極は、例えば、正極活物質として炭素材料を含むものとしてもよい。炭素材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、正極では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着、脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入、脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0038】
あるいは、正極は、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる正極としてもよい。この場合、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0≦x≦1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)やLi(1-x)NiaCobMnc4(a+b+c=2)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV25などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、正極活物質は、リン酸鉄リチウムなどとしてもよい。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiV23などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。
【0039】
正極は、例えば上述した正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極に用いる導電材、結着材、溶剤、集電体は、例えば、負極で例示したものなどを適宜用いることができる。
【0040】
この蓄電デバイスにおいて、イオン伝導媒体は、例えば、支持塩と有機溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。支持塩としては、例えば、キャリアをリチウムイオンとした場合、公知のリチウム塩を含むものとしてもよい。このリチウム塩としては、例えば、LiPF6,LiBF4、LiClO4,LiAsF6,Li(FSO22N,Li(CF3SO22N,LiN(C25SO22などが挙げられ、このうちLi(FSO22Nが好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルカーボネートとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水系電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質などを用いてもよい。
【0041】
この蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0042】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図2は、蓄電デバイス20の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この蓄電デバイス20は、正極22と負極23との間の空間にイオン伝導媒体27が満たされている。また、この負極23は、2種以上の構造の芳香族ジカルボン酸アニオンを含む混合塩構造体を負極活物質として有する。また、この負極23は、ラマン測定したときのラマンスペクトルが上述した(A)~(E)のうちの1以上を満たす。
【0043】
以上詳述した実施形態では、出力特性をより向上することができる新規の電極、蓄電デバイス及び電極の製造方法を提供することができる。こうした効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、複数種の芳香族ジカルボン酸アニオンを適宜配合した調製溶液を用いることにより、新規な構造の混合塩構造体を調製することができる。また、混合塩構造体を、所定のラマンスペクトルを示すものとすることにより、キャリアイオンであるアルカリ金属イオンの拡散を促進するような構造を有するものとすることができる。具体的には、例えば、ラマンシフトkが785nm-1や、1118nm-1、1400nm-1、1485nm-1、1633nm-1において、ラマン活性を起こす分子の運動が抑制されるような構造を有していることで、キャリアイオンの拡散が促進されると推察される。こうした混合塩構造体を、電極や蓄電デバイスに用いることで、出力特性をより向上することができると推察される。
【0044】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例
【0045】
以下には、電極活物質、電極及び蓄電デバイスを具体的に実施した例を実験例として説明する。なお、実験例1,2が本開示の実施例に相当し、実験例3,4が比較例に相当する。
【0046】
[実験例1]
(活物質の合成)
2,6-ナフタレンジカルボン酸(Naph)/4,4’-ビフェニルジカルボン酸(Bph)/テレフタル酸(Ph)=76/22/2(モル比)の混合粉末を水に溶かして0.20mol/Lにした水溶液と、0.44mol/Lの水酸化リチウム水溶液とを、1:1の体積比で混合して混合水溶液を準備した。この混合水溶液をスプレードライヤー(Mini Spray Dryer B-290、日本ビュッヒ製)を用いて噴霧乾燥させ、混合ジカルボン酸リチウムを析出させた。用いたスプレードライヤーのノズル直径は1.4mm、溶液の噴霧量は0.4L/時間、乾燥温度は200℃で行い、得られた粉末を、-90~-100kPa、120℃、8時間、真空乾燥し、活物質を得た。
【0047】
(電極の作製)
活物質/カーボンブラック(TB5500、東海カーボン製)/カルボキシメチルセルロース(CMC1120、ダイセル製)/ポリビニルアルコール(T-330、三菱化学製)=80/20/2/6(質量比)からなるスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に単位面積当たりの活物質が3mg/cm2となるように均一に塗布し、120℃で真空加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、10cm2の面積に打ち抜いて電極を準備した。
【0048】
(XRD測定)
上述のようにして得られた電極について、Ultima IV(リガク製)を用いて、CuKα(波長 1.54051Å)、印加電圧を40kV、電流30mA、サンプリング幅0.020°、スキャン速度5°/min.でXRD測定を実施した。
【0049】
(ラマン測定)
上述のようにして得られた電極について、ラマン分析測定装置(Nanophoton製、RAMANtouch)を用いて、ラマン測定を行った。励起レーザーは、波長532nmの緑レーザーとし、レーザーパワーは0.5mWとした。得られたラマンスペクトルのうち、ラマンシフトが250cm-1以上350cm-1以下の範囲での強度(実測値)の平均値を計算し、これを基準強度Istdとした。また、ラマンシフトk[cm-1](k=785,1118,1400,1495,1633)付近のピークの強度Ik(実測値)を求め、ピーク強度Ikを基準強度Istdで規格化して、つまり、ピーク強度Ikを基準強度Istdで除して、規格化強度Sk(=Ik/Istd)を求めた。そして、規格化強度Skの逆数に1000を乗じた値を性能指数Rk(=1000/Sk)として導出した。
【0050】
(電解液の作製)
エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート=30/40/30(体積比)の割合で混合した非水溶媒に、支持電解質のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を1.1mol/Lになるように添加して作製した。
【0051】
(セルの作製)
上記の手法にて作製した電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極として、両電極の間に上記電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0052】
(放電容量測定)
測定温度20℃、電圧範囲0.5V~1.5V(vs.Li/Li+)、活物質重量あたりの電流値20mA/g(0.1C相当)、40mA/g(0.2C相当)、100mA/g(0.5C相当)、200mA/g(1C相当)、300mA/g(1.5C相当)、400mA/g(2C相当)で各3サイクル試験を行い、各電流値での3サイクル目の活物質重量あたりの容量を調べた。また、2Cにおける充放電カーブの平均電圧から分極を計算した。
【0053】
(サイクル性能測定)
0.5Cにて、レート性能測定と同様の電圧範囲で100サイクル試験を行った。
【0054】
(リチウム拡散係数測定)
Li拡散係数は定電流間欠滴定法(Galvanostatic intermittent titration technique、GITT)から算出した。GITTは、以下のように行った。上下限電圧は1.5~0.5Vにて、電流密度は20mA/g(C/10相当)、電流印加時間は30分(2電子および2Li+を伴う電荷移動反応(=理論容量)に対して0.1Li+に相当する通電時間)とした。緩和時間は100時間放置、あるいは時間に対する電圧変化が4.5mVh-1以下となるまでの時間とした。測定温度は20℃とした。緩和後の電位を開回路電位(OCP)とした。
【0055】
リチウム拡散係数はGITTで得られる電流印加時の時間(t)に対する電位(E)の関係から、以下の数式(1)として表現することが報告されており(J. Electrochem. Soc., 1977, 124(10), 1569-1578参照)、ここからリチウム拡散係数DLiを算出することができる。ただし、数式(1)において、mBは活物質の重量、VMはモル体積、MBはモル
質量、Sは電極面積、△ESは電流印加前後の電圧差、ΔEtは電流印加時の電圧差である。ここでは各水準にて得られる値のうち、最も小さな値が律速段階となるため、その値をリチウム拡散係数とした。
【0056】
【数1】
【0057】
[実験例2]
Naph/Bph/Ph=75/7/18(モル比)とした以外は、実験例1と同じである。
【0058】
[実験例3]
Naph/Bph/Ph=75/0/25(モル比)とした以外は、実験例1と同じである。
【0059】
[実験例4]
Naph/Bph/Ph=100/0/0(モル比)とした以外は、実験例1と同じである。
【0060】
[検討結果]
図3に、実験例1~4の電極のXRDスペクトルを示した。実験例1~4では、Naph層状構造体の100面及び200面のピークが確認された。実験例4では、消滅則により、Naph層状構造体の100面ピークが非常に小さかった。一方、実験例1,2では、Naph構造の100面のピークが明確に確認された。このことから、Naphを単独で用いた実験例4では例えば図4AのようにNaph層状構造体が積層した構造を有するのに対し、NaphにBphやPhを組み合わせて用いた実験例1,2では例えば図4BのようにNaph層状構造体が単層で存在する構造を有すると推察された。また、実験例1,2では、実験例4よりもNaph層状構造体の100面及び200面のピークが低角側へシフトしており、100面や200面の面間距離が拡大したものと推察された(例えば図4B参照)。このようなピークシフトは、溶液混合法を用いた場合には見られなかったことから、本開示において、電極活物質の製造には噴霧乾燥法が適していると推察された。
【0061】
図5に、実験例1~4の電極のラマンスペクトルを示した。また、表1に、実験例1~4について、ラマンシフト250~350cm-1におけるラマン強度の平均値である基準強度Istd及び、ラマンシフトk(k=785cm-1、1118cm-1、1400cm-1、1485cm-1、1633cm-1)付近のピークの強度Ik、規格化強度Sk、性能指数Rkの値を示した。
【0062】
図6に、実験例1~4の放電容量測定における充放電曲線(各電流値、3サイクル目)を示した。この充放電曲線から求めた0.1C,1C,2Cでの容量及び2C容量/0.1C容量の値を表2にまとめた。表2には、各実験例の分極及びリチウム拡散係数も示した。
【0063】
図7に、実験例1~4に基づき、性能指数Rkと2C容量/0.1C容量との関係をまとめた。図7より、(A)R785の値が20以上70以下、(B)R1118の値が100以上500以下、(C)R1400の値が20以上70以下、(D)R1485の値が50以上200以下、(E)R1633の値が20以上60以下、などを満たす実験例1,2では、いずれも2C容量/0.1C容量の値が大きく、出力特性に優れていることがわかった。これは、表2に示すように、Naph単独では高レートでの分極が大きいのに対して、PhやBphを加えることで高いレートでの分極が抑制されるためと推察された。あるいは、表2に示すようにNaph単独ではリチウムの拡散性が低いのに対して、PhやBphを加えることでリチウムの拡散性が高まるためと推察された。
【0064】
図8に、各実験例のサイクル性能測定における充放電曲線を示した。図8に示すように、実験例1,2では、実験例3,4よりもサイクル特性も優れていることがわかった。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本開示は、電池産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
20 蓄電デバイス、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8