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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】インパクト工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/02 20060101AFI20240416BHJP
   B25D 16/00 20060101ALI20240416BHJP
   B25F 5/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B25B21/02 G
B25D16/00
B25F5/00 G
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022527599
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2021016543
(87)【国際公開番号】W WO2021241099
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020094019
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田村 健悟
(72)【発明者】
【氏名】東海林 潤一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 翔太
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-254374(JP,A)
【文献】特表2008-535675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/02
B25F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータによって回転軸を中心に回転方向に駆動されるスピンドルと、
前記スピンドルに対して所定の範囲内で回転軸方向及び回転方向に相対的に移動可能であってカム機構とスプリングによって前方に付勢されるハンマと、
前記ハンマの前方において回転可能に設けられ、前記ハンマが前方に移動しながら回転したときに前記ハンマによって打撃されるアンビルと、を備えたインパクト工具において、
前記ハンマは、前後方向及び径方向に延びる略円筒形状に構成された本体部と、前記本体部の前面に設けられた前面壁部と、前記本体部の前記前面壁部から前方に延びて前記本体部の径方向に沿った断面の形状が略扇形である爪部を有し、
前記本体部の前記前面壁部の内径側の端部である前側内径側端部は、前記本体部の前記前面壁部の外径側の端部である前側外径側端部よりも前方に位置し、
前記爪部は、前記爪部と前記前面壁部が接続される接続部から、前記爪部の前端部まで延び、前記接続部は、前記爪部の内径側に位置する内径側接続部と、前記爪部の外径側に位置する外径側接続部を有し、前記前端部は、前記爪部の内径側に位置する内径側前端部と、前記爪部の外径側に位置する外径側前端部を有し、
前記爪部の前記内径側前端部から前記内径側接続部までの前後方向における長さL1と、前記爪部の前記外径側前端部から前記外径側接続部までの前後方向における長さL2の関係がL1<L2となることを特徴とするインパクト工具。
【請求項2】
前記本体部の前記前面壁部には、回転軸線から離れるにつれて徐々に後退するようなテーパー面が形成されたことを特徴とする請求項1に記載のインパクト工具。
【請求項3】
前記爪部の前記前端部を前記本体部の前後方向と直交する直交面としつつ、前記爪部の一部又は全部は前記テーパー面から前記アンビル側に突出するように構成することにより前記L1<L2としたことを特徴とする請求項2に記載のインパクト工具。
【請求項4】
モータと、
前記モータによって回転軸を中心に回転方向に駆動されるスピンドルと、
前記スピンドルに対して所定の範囲内で軸方向及び回転方向に相対的に移動可能であってカム機構とスプリングによって前方に付勢されるハンマと、
前記ハンマの前方において回転可能に設けられ、前記ハンマが前方に移動しながら回転したときに前記ハンマによって打撃されるアンビルと、を備えたインパクト工具において、
前記ハンマは、本体部と、前記本体部の前面に設けられた前面壁部と、前記前面壁部から前方に延びる爪部を有し、
前記前面壁部には、回転軸線から離れるにつれて徐々に後退するようなテーパー面が形成され、
前記爪部の一部又は全部は前記テーパー面から前記アンビル側に突出するように構成されていることを特徴とするインパクト工具。
【請求項5】
前記本体部の前記前面壁部の内径側の端部である前側内径側端部は、前記本体部の前記前面壁部の外径側の端部である前側外径側端部よりも前方に位置し、
前記爪部は、前記爪部と前記前面壁部が接続される接続部から、前記爪部の前端部まで延び、前記接続部は、前記爪部の内径側に位置する内径側接続部と、前記爪部の外径側に位置する外径側接続部を有し、前記前端部は、前記爪部の内径側に位置する内径側前端部と、前記爪部の外径側に位置する外径側前端部を有し、
前記爪部の前記内径側前端部から前記内径側接続部までの前後方向における長さL1と、前記爪部の前記外径側前端部から前記外径側接続部までの前後方向における長さL2の関係をL1<L2としたことを特徴とする請求項4に記載のインパクト工具。
【請求項6】
前記本体部と前記爪部の周方向両側の接続角部に、所定の曲率半径Rを有する溝部を形成したことを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載のインパクト工具。
【請求項7】
前記本体部の前記前面壁部には、前記回転軸線と直交する直交面が形成され、前記ハンマの、前記直交面から前記ハンマの後端までの軸線方向の長さD1は、前記テーパー面から前記ハンマの後端までの軸線方向の長さD2よりも大きいことを特徴とする請求項3から5の何れか一項に記載のインパクト工具。
【請求項8】
前記前面壁部の外周側に、前記テーパー面を設けることで、D1>D2となるようにしたことを特徴とする請求項7に記載のインパクト工具。
【請求項9】
前記ハンマの前記本体部の反アンビル側には、前記スプリングを支持するためのスプリング支持部が形成され、
前記テーパー面は、前記スプリング支持部の径方向中心位置よりも径方向外側に設けられたことを特徴とする請求項8に記載のインパクト工具。
【請求項10】
前記カム機構は、前記スピンドルに設けられるスピンドルカム溝と、前記ハンマの内周側に形成されたハンマカム溝と、前記スピンドルカム溝及び前記ハンマカム溝の間に配置されるカムボールと、前記スピンドルの周囲に配置され前記ハンマを回転軸線方向の前記アンビル側に付勢するコイル状の前記スプリングを含むことを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載のインパクト工具。
【請求項11】
前記インパクト工具は、前記モータを収容するハウジングと、前記ハウジングに対して着脱可能な電池と、を有し、
前記モータは、前記電池を駆動電源として駆動されることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載のインパクト工具。
【請求項12】
前記アンビルの最外径部は、前記テーパー面と対向する位置に位置することを特徴とする請求項2から5の何れか一項に記載インパクト工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はネジやボルト等の締結具を締め付けるためのインパクト工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ネジ等を締め付けるための打撃工具として、モータにより回転打撃機構部を駆動し、アンビルに回転と打撃を与えることによって先端工具に回転打撃力を間欠的に伝達してネジ締め等の作業を行うインパクト工具が知られている。インパクト工具は、モータと、モータに接続された動力伝達機構と、動力伝達機構に接続された先端工具を備えている。作業者が、先端工具をネジなどの締結具に接続し、モータを回転させることによって、インパクト工具は、打撃を伴いながら締結具を締め付ける。このようなインパクト工具として、特許文献1の技術が知られている。特許文献1では、動力伝達機構として、回転力を回転方向の打撃力に変換する打撃機構を有し、打撃機構には、先端工具に回転力を出力するアンビルと,前記アンビルに打撃力を付与するハンマの衝突部(爪部)を3箇所ずつ設けた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/002539号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年のインパクト工具の高出力化に伴い、電池パック等の電源の強化や、モータの性能向上が図られているが、その結果、打撃機構等の機械的構成部品がモータの出力に耐え切れずに、破損する虞が高くなるので、その十分な対策が必要である。機械的構成部品の破損対策としては、ハンマやアンビル等の材質、形状の変更が考えられる。例えば、以前はハンマ爪部とアンビル羽根部は2組であったが、特許文献1の技術では3組に増やしている。ハンマ爪とアンビル羽根を3組に増やすことで,打撃時の接触箇所が周方向に3つに分散されるため、各接触箇所に加わる力を減少させることができるが、一方で、それら全ての接触箇所にて同時に衝突させることができない場合は、例えば3カ所で同時に接触でなく2カ所で接触して、わずかに遅れて残り1カ所が接触するような場合には,ハンマ爪根元の外径側端部付近に極端に大きな応力が発生する。この対策としてハンマ爪部根元に大きな曲率半径Rの溝をつけるとか,ハンマ爪の端部に面取りを行う等の対策を施しているが、これらの対策により製品全長の増加や,部品加工工数の増加が生じていた。
【0005】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、ハンマの本体部と打撃爪との接続部に発生する応力を軽減させたインパクト工具を提供することにある。本発明の他の目的は、全長の短縮化を図り、作業性を向上させたインパクト工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。本発明の一つの特徴によれば、モータと、モータによって回転方向に駆動されるスピンドルと、スピンドルに対して所定の範囲内で軸方向及び回転方向に相対的に移動可能であってカム機構とスプリングによって前方に付勢されるハンマと、ハンマの前方において回転可能に設けられ、ハンマが前方に移動しながら回転したときにハンマによって打撃されるアンビルと、を備えたインパクト工具において、ハンマは、本体部と、本体部の前面に設けられた前面壁部と、前面壁部から前方に延びる爪部を有し、前面壁部には、回転軸線から離れるにつれて徐々に後退するようなテーパー面が形成される。
【0007】
本発明の他の特徴によれば、ハンマの本体部に爪部とテーパー面を形成し、爪部の一部又は全部をテーパー面からアンビル側に突出するように構成する。ハンマは、前後方向及び径方向に延びる略円筒形状に構成された本体部と、本体部の前面に設けられた前面壁部と、本体部の前面壁部から前方に延びて本体部の径方向に沿った断面の形状が略扇形である爪部を有する。本体部の前面壁部の内径側の端部である前側内径側端部は、本体部の前面壁部の外径側の端部である前側外径側端部よりも前方に位置する。また、爪部は、爪部と前面壁部が接続される接続部から、爪部の前端部まで延び、接続部は、爪部の内径側に位置する内径側接続部と、爪部の外径側に位置する外径側接続部を有し、前端部は、爪部の内径側に位置する内径側前端部と、爪部の外径側に位置する外径側前端部を有する。以上のように構成することにより、爪部の内径側前端部から内径側接続部までの前後方向における長さL1と、爪部の外径側前端部から外径側接続部までの前後方向における長さL2の関係を、L1<L2となるように構成できた。また、ハンマの本体部と爪部の周方向両側の接続角部に、所定の曲率半径Rを有する溝部を形成した。
【0008】
本発明のさらに他の特徴によれば、ハンマの本体部の前面壁部には、回転軸線と直交する直交面が形成され、ハンマの、直交面から後端までの軸線方向の長さD1は、テーパー面から後端までの軸線方向の長さD2よりも大きいように構成した。ハンマのハンマ爪部を除いた前側面の外周側には、テーパー面を設けることで、D1>D2となる構成を実現した。
【0009】
本発明のさらに他の特徴によれば、ハンマの本体部の反アンビル側には、スプリングを支持するためのスプリング支持部が形成され、テーパー面はスプリングの支持部の径方向中心位置よりも径方向外側から始まるように構成した。カム機構は、スピンドルに設けられるスピンドルカム溝と、ハンマの内周側に形成されたハンマカム溝と、スピンドルカム溝及びハンマカム溝の間に配置されるカムボールと、スピンドルの周囲に配置されハンマを回転軸線方向のアンビル側に付勢するコイル状のスプリングを含んで構成される。尚、インパクト工具は、モータを収容するハウジングと、ハウジングに対して着脱可能な電池と、を有し、モータは、着脱可能な電動工具に使用可能な電池を駆動電源として駆動される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインパクト工具によれば、ハンマ爪の根元の外径側端部付近の応力集中が軽減できる。また、打撃機構のコンパクト化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施例のインパクト工具1の全体構造を示す縦断面図である。
図2図1のハンマ30とアンビル50の斜視図である。
図3図2のハンマ30の図であり、(A)は正面図であり、(B)は縦断面図である。
図4図2のアンビル50の図であり、(A)は正面図であり、(B)は縦断面図である。
図5図1のハンマ30とアンビル50の正常時の打撃状態を示す正面図である。
図6】本実施例のハンマ30及びアンビル50と、従来のハンマ330及びアンビル350の形状を比較するための縦断面であり、回転軸線A1より上半分は本実施例の形状を示し、下半分は従来の形状を示す。
図7】(A)ハンマ30とアンビル50の芯ずれ時の打撃状態を示す正面図であり、(B)はC-C部の断面図及びC-C部から回転軸線A1方向を見た図である。
図8図7(B)のD部の部分拡大図である。
図9】本発明の第2の実施例に係るハンマ130とアンビル150の斜視図である。
図10】本発明の第3の実施例に係るハンマ230とアンビル250の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。以下の説明において、前後左右、上下の方向は、図中に示した方向として説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施例に係るインパクト工具1の外観を示す側面図である。インパクト工具1は、充電可能なパック式のバッテリ90を電源とし、モータを駆動源として出力軸(アンビル50)に回転力と打撃力を与え、装着機構60にて装着孔53に保持されるドライバビット等の図示しない先端工具に回転打撃力を間欠的に伝達してねじ締めやボルト締め等の作業を行う。インパクト工具1のハウジング2は、モータや動力伝達機構を収容するための略円筒状の筒状の胴体部2aと、胴体部2aの略中央付近から回転軸線A1と略直交方向に延在するものであって、作業者が片手で把持するためのハンドル部2bを有する略T字状の形状を成す。ハンドル部2bの端部のうち、胴体部2aと反対側に位置する下方側端部(反胴体部側端部)には、バッテリ取付部2cが形成される。ハンドル部2b内の上部にはトリガレバー7aが前方側に突出するように配設され、トリガレバー7aの後方側には、モータ3の回転方向を正方向又は逆方向に切り換えるための正逆切替レバー8が設けられる。
【0014】
モータ3は筒状の胴体部2aの後方側に収容される。モータ3はブラシ(整流用刷子)の無いDC(直流)モータであり、4極6スロットのブラシレスDCモータである。モータ3は永久磁石を備えたロータ(回転子)3aと、3相巻線等の複数相の電機子巻線(固定子巻線)を備えたステータ(固定子)3bを含む。ロータ3aは、永久磁石によって形成される磁路を形成する。ステータ3bは、円環状の薄い鉄板の積層構造で製造され、内周側には6つのティース(図示せず)が形成され、各ティースにはエナメル線が巻かれてコイルが形成される。本実施例では、コイルをU、V、W相の3相を有するスター結線又はデルタ結線としている。モータ3は、ロータ3aの永久磁石の磁力を検出してロータ位置を検出する複数のホールICより構成された位置検出素子13の出力を用いて、バッテリ等から供給される直流電圧を複数の半導体スイッチング素子14によってスイッチングされることにより動作する。本実施例では、モータをブラシレスモータとしているが、ブラシ付きのモータであっても良い。
【0015】
モータ3の回転軸4は筒状の胴体部2aの回転軸線A1と同心に配置され、前側及び後側において2つの軸受16a、16bによってハウジング2に軸支される。ステータ3bの後方側には、3つの位置検出素子13や6つの半導体スイッチング素子14等を搭載するための略円環状のインバータ回路基板12が配置される。インバータ回路基板12はモータ3の外径とほぼ同径の略円環状の両面基板である。半導体スイッチング素子14は6つ設けられてインバータ回路を形成し、各相の固定子巻線への通電を切換える。半導体スイッチング素子14としてFET(電界効果トランジスタ)やIGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)等が用いられる。インバータ回路はマイクロコンピュータ(マイコン)により制御され、位置検出素子13によるロータ3aの位置検出信号に基づいて各相の電機子巻線の通電タイミングを設定するので、高度な回転制御が容易となる。
【0016】
ロータ3aと軸受16bの間には、冷却ファン15が回転軸4と同軸に取り付けられる。冷却ファン15は、例えばプラスチックのモールドにより一体成形されるものであり、胴体部2aのインバータ回路基板12の左右両側方付近に形成される図示しない空気取入口から空気を吸引し、モータ3の内部及び周囲を流れるように回転軸線A1方向後方側に空気を排出する。インバータ回路基板12を通過した冷却風は、インバータ回路基板12の後方側に位置するモータ3を冷却し、冷却ファン15の側方に形成された空気排出用のスリット(図示せず)から外部に排出される。
【0017】
ハウジング2の前方側にはカップ状に形成されたハンマケース5が設けられる。ハンマケース5は、内部に減速機構20とインパクト機構(打撃機構)25を収容するものであって、ハウジング2の胴体部2aの前方側に設けられる。ハンマケース5は金属の一体品にて製造され、カップ状の底部にあたる前方部分にはアンビル50を貫通させるための貫通穴5aが形成される。ハンマケース5の外側であって、アンビル50の先端部分に図示しない先端工具を装着又は取り外しできるための装着機構60が設けられる。
【0018】
装着機構60は、アンビル50の前側端部から軸方向後方に延びる断面形状が六角形の装着孔53と、周方向の2箇所に形成されスチールボール64を配置するための径方向に貫通する2つの穴部と、外周側に設けられるスリーブ61を含んで構成される。スリーブ61の内側には、スリーブ61を後方側に付勢するスプリング62が装着される。装着機構60の下側には、図示しない先端工具の先端付近を照射するための照明装置9が設けられる。照明装置9としては、1つ又は複数のLED(発光ダイオード)が用いられ、照明装置9の前方側は光を透過する照射窓が設けられる。
【0019】
ハウジング2の胴体部2aから略直角に一体に延びるハンドル部2b内の上部にはトリガレバー7aが前方側に突出するように配設され、トリガレバー7aの後方にはトリガスイッチ7が設けられる。使用者はハンドル部2bを片手で把持し、人差し指等によってトリガレバー7aを後方に引くことによって、トリガ押込量(操作量)を調整し、モータ3の回転数を調整できる。モータ3の回転方向は、正逆切替レバー8を操作することによって切り替えることができる。
【0020】
ハンドル部2b内の下部は、ハンドル部2bの軸線方向と略直交方向に拡径するバッテリ取付部2cが設けられる。バッテリ取付部2cには、モータ3の駆動電源となるバッテリ90が着脱可能に装着される。バッテリ90を取り外すには、ラッチ部91を押しながらバッテリ90をインパクト工具1の本体部から前方側に相対移動させる。バッテリ90の上部には、モータ3のインバータ回路基板12を制御するための制御回路基板70が設けられる。制御回路基板70は、前後左右方向に延びるように水平に配置され、モータ3の回転制御を行うマイクロコンピュータ(図示せず)が搭載される。制御回路基板70は、信号線を介してインバータ回路基板12と接続される。制御回路基板70の近傍であって、バッテリ取付部2cの上面には、バッテリ90の残量チェックスイッチと残量表示用のLED表示装置と、照明装置9の点灯スイッチを配置するためのスイッチパネル75が設けられる。
【0021】
ハウジング2の胴体部2aは、ハンドル部2b及びバッテリ取付部2cと共に合成樹脂材料の一体成形により製造され、モータ3の回転軸4を通る鉛直面で左右に2分割可能に形成される。組立の際にはハウジング2の左側部材と右側部材を準備し、予め、図1の断面図で示すような一方のハウジング2(例えば左側のハウジング)に、減速機構20、インパクト機構25を組み込んだハンマケース5とモータ3等の組込みを行い、しかる後、他方のハウジング2(例えば右側のハウジング)を重ねて、複数のネジで締め付ける方法が取られる。
【0022】
インパクト機構25は遊星歯車による減速機構20の出力側に設けられるもので、スピンドル26とハンマ30を備え、後端が軸受18b、前端が軸受18aにより回転可能に保持される。減速機構20は、モータ3の回転軸4の先端に固定されるサンギヤ21と、サンギヤ21の外周側に距離を隔てて取り囲むように設けたリングギヤ23と、サンギヤ21とリングギヤ23の間の空間に配置され、これら双方のギヤに噛み合わされる複数のプラネタリーギヤ22を含んで構成される。リングギヤ23は、アウターギヤとも呼ばれるもので、リング状部材の内周面にギヤが形成される。リングギヤ23はハウジング2によってその外周面が保持されるもので、リングギヤ23自体は回転しない。
【0023】
サンギヤ21は、減速機構20の入力部となる平歯車である。サンギヤ21の外周側ギヤ面と、リングギヤ23の内周側ギヤ面の間に、複数(ここでは3つ)のプラネタリーギヤ22が配置される。3つのプラネタリーギヤ22は、スピンドル26の後端部に形成された遊星キャリア部に軸支され、プラネタリーギヤ22が遊星キャリア部に軸支されるシャフト(図示せず)の回りを自転しながらサンギヤ21の回りを公転する。モータ3の回転軸4が回転すると、それに同期してサンギヤ21も回転する。サンギヤ21の回転力は、所定の比率で減速されてスピンドル26が回転する。
【0024】
インナカバー19は合成樹脂の一体成形で製造される部品であって、ハウジング2の胴体部2aによって、左右方向から挟持されるようにして保持される。この際、インナカバー19はハウジング2に対して相対回転しないように保持される。インナカバー19の上部には、複数設けられるネジボスのうちの一つが位置するので、インナカバー19はハウジング2によって安定して挟持される。インナカバー19の主な役割は、2つ設けられる軸受18bと軸受16aを保持すると共に、モータ3の回転軸4とスピンドル26の回転中心を同軸上に芯だしするためである。インナカバー19によって保持される軸受16aはモータ3の回転軸4を軸支するためであって、例えばボールベアリングが用いられる。インナカバー19によって保持される軸受18bは、スピンドル26の後端を軸支するためであって、例えばボールベアリングが用いられる。
【0025】
減速機構20とインパクト機構25が、モータ3によって先端工具を駆動するための動力伝達機構を構成する。トリガレバー7aが引かれてモータ3が起動されると、正逆切替レバー8で設定された方向にモータ3が回転を始め、その回転力は減速機構20によって減速されてスピンドル26に伝達され、スピンドル26が所定の速度で回転する。ここで、スピンドル26とハンマ30とはカム機構によって連結され、このカム機構は、スピンドル26の外周面に形成されたV字状のスピンドルカム溝26aと、ハンマ30の内周面に形成されたハンマカム溝39と、これらのカム溝26a、39に係合する2つのスチールボール27によって構成される。ハンマ30は、ハンマスプリング28によって常に前方に付勢される。ハンマ30とアンビル50の対向する回転平面上の3箇所には回転軸線A1方向に凸状に突出するハンマ爪(打撃爪)36~38(図では37は見えない)と、打撃爪によって打撃される羽根部(被打撃爪)56~58(図では56しか見えない)が回転対称に形成される。
【0026】
スピンドル26が回転駆動されると、その回転はカム機構を介してハンマ30に伝達され、ハンマ30が半回転しないうちにハンマ30の打撃爪がアンビル50の被打撃爪に係合してアンビル50を回転させる。回転時のハンマ30とアンビル50の係合反力によってスピンドル26とハンマ30との間に相対回転が生ずると、ハンマ30はカム機構のスピンドルカム溝26aに沿ってハンマスプリング28を圧縮しながらモータ3側へと後退を始める。そして、ハンマ30の後退動によってハンマ30の打撃爪がアンビル50の被打撃爪を乗り越えて両者の係合が解除されると、ハンマ30は、スピンドル26の回転力に加え、ハンマスプリング28に蓄積されていた弾性エネルギーとカム機構の作用によって回転方向及び前方に急速に加速されつつ、ハンマスプリング28の付勢力によって前方へ移動し、ハンマ30の打撃爪(36等)がアンビル50の被打撃爪(56等)に再び係合して一体に回転し始める。ハンマ30がアンビル50に対して相対的に1回転すると、打撃数(同時打撃)は3回となるか(低速打撃)、又は、1.5回となる(高速打撃)このように強力な回転打撃力がアンビル50に加えられるため、アンビル50と一体に形成された装着孔53に装着される図示しない先端工具に回転打撃力が伝達される。以後、同様の動作が繰り返されて先端工具に回転打撃力が間欠的に繰り返し伝達され、例えば、木ネジが木材等の図示しない被締め付け部材にねじ込まれる。
【0027】
図2は、本実施例に係るハンマ30とアンビル50の斜視図である。ハンマ30は、回転軸線A1に沿う方向の減速機構20とアンビル50との間に配置される。ハンマ30は、スピンドル26(図1参照)に対して相対回転可能であり、かつ回転軸線A1に沿う方向に相対移動可能に構成される。ハンマ30の径方向内側には、ハンマカム溝39a、39bが形成される。これらのハンマカム溝39a、39bの内部には、スチールボール27(図1参照)が配置される。ハンマ30は、スチールボール27(図1参照)を介してスピンドル26(図1参照)に保持されるため、スチールボール27が転動可能な範囲で回転軸線A1に沿う方向に移動可能であり、スピンドル26に対して、スチールボール27が転動可能な範囲で回転軸線A1を中心軸に円周方向に所定範囲で相対回転可能である。
【0028】
アンビル50の回転方向への負荷が大きくなると、ハンマ30のハンマ爪36~38とアンビル50の羽根部56~58とが、係合及び離脱を繰り返して、これにより出力軸たるアンビル50に回転打撃力が発生する。ここで、ハンマ30の重量はアンビル50の重量よりも大きく設定されており、ハンマ30は、スピンドル26の回転力を、アンビル50の回転力や回転方向の打撃力に変換する。
【0029】
ハンマ30は、略円筒形状に形成された本体部31と、本体部31から前方に延びるハンマ爪36~38により構成される。本明細書では、ハンマ30のうち、ハンマ爪36~38以外の部分を、「本体部31」と定義している。本体部31のアンビル50側には、回転軸線A1と直交する前方対向面32(直交面)が形成される。前方対向面32は、アンビル50と隣接及び対向する面であり、ハンマ30が通常位置(回転軸線A1に沿った前後移動範囲の前側位置)にあるときに、アンビル50の羽根部56~58とわずかな隙間で対向するか、又は、接触する。前方対向面32は、回転軸線A1に対して直交する略環状の面である。前方対向面32の外周側には、テーパー面34a~34cが形成される。テーパー面34a~34cは、径方向内周側から外周側に行くにつれて回転軸線A1方向後方側(反アンビル側)に傾斜するような傾斜面である。図2において、前方対向面32の外周縁部とテーパー面34a~34cの内周縁部との接続部が2重の線として図示されているが、これが接続部の回転軸線A1を含む断面形状に面取り加工をしたため、二重線の間の領域が小さい曲率半径の面として形成されるためである。前方対向面32の外周縁部とテーパー面34a~34cの内周縁部を角状にするか、二重線の間を平面で接続するか、又は、二重線の間を面方向内向きに窪むような溝とするかは任意である。
【0030】
ハンマ爪36~38は、本体部31から前方側に突出するように形成されるもので、本体部31と一体に形成される。ハンマ爪36~38の周方向中心位置は周方向に120度間隔(等間隔)で配置され、回転軸線A1と交差する方向に沿う断面形状が略扇形の形状である。ハンマ30の径方向外側でかつ周方向に沿う方向のハンマ爪36~38の幅寸法は、約10mmに設定される。これにより、ハンマ爪36~38の強度が十分に確保され、かつハンマ30の周方向に沿って隣り合うハンマ爪36~38の間に、アンビル50の羽根部56~58が余裕を持って入り込める。略扇形の中心角部分が回転軸線A1に近い側に位置し、円弧部分がハンマ30の本体部31の外縁位置とほぼ同じ位置、又は、やや内側に位置する。ハンマ爪36~38の断面形状のうち円弧部分は、回転軸線A1方向の後方から前方に行くにつれて同径としても良いし、わずかに径が小さくなるような形状としても良い。本実施例では、ハンマ爪36~38のそれぞれの外周面は、前方に行くにつれてわずかに径が小さくなるように、先端側の外径がわずかに絞り込まれたような形状とされる。また、それぞれのハンマ爪36~38の前端面は回転軸線A1と直交するように面取りされる。つまり、ハンマ爪36~38の前端面は前方対向面32と平行な面となる。
【0031】
テーパー面34a~34cは、周方向に見て3つのハンマ爪36~38によって周方向に断続されるように配置される。それぞれのテーパー面34a~34cの最内周位置は、略扇形のハンマ爪36~38の径方向最内位置から最外位置までの間に配置される。このテーパー面34a~34cと前方対向面32との境界位置33の設定により、本体部31に対するハンマ爪36~38の最内周位置における回転軸線A1前方への突出量(後述する図3においてL1で示す大きさ)と、最外周位置における突出量(後述する図3においてL2で示す大きさ)が異なるように形成できる。
【0032】
アンビル50は金属の一体成形にて製造され、主軸部51の後方側に円環状のフランジ部54から径方向外側に放射状に突出された3つの羽根部56~58が形成されたものである。主軸部51はニードルベアリングを用いた軸受18a(図1参照)により軸支される部分であり、軸受18aのニードルの転動面となる。主軸部51の前側には、図示しない先端工具の装着機構60を取り付けるためにやや細く形成された細径部52が形成される。細径部52の先端から回転軸線A1方向後方側に向けて、断面形状が六角形であって先端工具を装着するための装着孔53が形成される。細径部52の後端付近には、径方向に貫通する2つの貫通穴52aが形成され、装着機構60の構成要素となるスチールボール64(図1参照)が配置される。軸方向に見て貫通穴52aと羽根部56~58との間(矢印61cの部分)は外周面が円柱状に形成された主軸部51である。
【0033】
被打撃部となる3つの羽根部56~58は、それらの周方向中心位置が回転方向に見て120°ずつ隔てるように均等に配置された被打撃爪であり、径方向外側に伸びるように配置される。羽根部56~58の回転方向の側面は、ハンマ30の打撃爪によって締め付け方向の回転時に打撃される被打撃面56a、57a、58aと、その反対側に形成され緩め方向の回転時に打撃される被打撃面56b、57b、58bが形成される。羽根部56~58の後方側には、円柱状の軸部55が形成され、軸部55の外周面がスピンドル26の嵌合孔(図1参照)に係合することよって摺動可能な状態で軸支される。アンビル50の径方向外側でかつ周方向に沿う方向の羽根部56~58の幅寸法は、約5mmに設定される。つまり、ハンマ爪36~38よりも若干短い幅寸法に設定される。これにより、羽根部56~58の強度が十分に確保され、かつアンビル50の周方向に沿って隣り合う羽根部56~58の間の距離が比較的長い距離とされて、ハンマ30のハンマ爪36~38が余裕を持って入り込める。
【0034】
図3(A)はハンマ30の正面図であり、(B)の縦断面図は(A)のA-A部の断面図である。図3(B)では、鉛直断面図とすると3つのハンマ爪36~38のうち1つしか示されないので、A-A部の断面図としている(尚、図1図6でもハンマ30とアンビル50の断面位置をA-A部のような断面としている)。図3(A)においてハンマ30の本体部31の前側の壁面は、内周側に位置する前方対向面32と、その外周側に位置するテーパー面34a、34b、34cにより形成される。ここではそれらの領域の範囲が明確になるように、ハッチングを付している。ハンマ爪36、37、38は、正面から見た際の形状が扇形に形成されている。扇形の最内周位置の根元(本体部31との接続部分)は、前方対向面32の範囲内にあり、扇方の直線上の辺部の中間付近から外周側がテーパー面34a、34b、34cと接合される領域となる。つまり、テーパー面34a、34b、34cと、前方対向面32との境界位置33が、ハンマ爪36、37、38の扇形部分の最内位置から、最外位置までの位置の間に位置するように構成すると良い。
【0035】
図3(B)において、ハンマ30は外筒部31aと、内筒部31cの二重の筒状とされ、それらの前側において外筒部31aと内筒部31cが前面連結部31bにより接続される。前面連結部31bの前方側には、前方対向面32と、テーパー面34a~34cが形成される。前面連結部31bの後方側はハンマスプリング28が保持されるコイル状のスプリングの前側端部を支持するためのスプリング支持部31dが形成される。スプリング支持部31dの円環状の中心位置(最前端位置)は、回転軸線A1からの距離が、テーパー面34a~34cと直交面(前方対向面32)との境界位置33とほぼ同じような位置関係となる。以上のようにハンマ30を形成することにより、ハンマ爪36、37、38の回転軸線A1方向の長さが内周側でL1となり、外周側ではL2となり、L2>L1の関係となる。テーパー面34a、34bの後退角度αは、ここでは6°としているが、2°度~20°程度の範囲で適宜設定すれば良い。
【0036】
図4(A)はアンビル50の正面図である。アンビル50の形状は、従来のインパクト工具1で使われるアンビル50と同一である。アンビル50は回転軸線A1方向にみてハンマ30との間隔が、従来のインパクト工具に比較するとわずかに小さくなる位置に取り付けられる。アンビル50は、3つの羽根部56~58を有する。羽根部56~58の回転方向の一方側には被打撃面56a、57a、58aが形成され、他方側には被打撃面56b、57b、58bが形成されるが、アンビル50にはハンマ30からの強い打撃力が加わる関係から、主軸部51の外周側に円環状のフランジ部54を形成し、フランジ部54と羽根部56~58の前方視の形状が三角形に近い形状とすることにより強度を高めている。
【0037】
図4(B)は、図4(A)のB-B部の断面図である。アンビル50の装着孔53は、細径部52だけでなく、主軸部51の内側にまで回転軸線A1方向後方側まで延在するように構成される。この構成によりビット等の図示しない先端工具を軸方向に装着可能とした。貫通穴52aは、細径部52の内側の装着孔53から外側まで貫通する穴である、貫通穴52aの大きさはスチールボール64(図1参照)よりわずかに大きく形成されるが、最内位置の径だけスチールボール64よりわずかに小さく形成されることにより、貫通穴52aの外周側から挿入されるスチールボール64が、径方向内側の装着孔53の内部に通過できずに、装着孔53側に一定量の突出量で留まるように形成される。細径部52の回転軸線A1方向の先端付近には、スプリング62(図1参照)を保持させる止め輪63(図1参照)を固定するために、周方向に連続する周方向溝52bが形成される。主軸部51の後方側には、フランジ部54から径方向外側に向けて延在する羽根部56、57、58(図では57は見えない)が形成され、羽根部56、57、58よりも後方側には円柱状の軸部55が形成される。軸部55は中実で形成され、スピンドル26の嵌合孔(図1参照)に係合することよって摺動可能な状態で軸支される
【0038】
図5はハンマ30とアンビル50の正常時の打撃状態を示す正面図である。ハンマ30とアンビル50のそれぞれの回転中心は、正常時においてはモータ3の回転中心となる回転軸線A1と同軸となる。この同軸状態にある場合は、ハンマ爪36の打撃面36aとアンビル50の被打撃面56aが黒い太線で示す部位で示すように略全面にて良好に面接触する。同様にして、ハンマ爪37の打撃面37aとアンビル50の被打撃面57aが略全面にて良好に面接触し、ハンマ爪38の打撃面38aとアンビル50の被打撃面58aが略全面にて良好に面接触する。これら3カ所の面接触は、正常回転時にはハンマ30の回転時に同時に起こるため、ハンマ30からアンビル50に対しては、回転軸線A1に対して回転対称の打撃力が伝わることになる。
【0039】
図6はハンマ30とアンビル50の形状を比較するための縦断面であり、回転軸線A1より上半分は本発明のハンマ30とアンビル50の形状を示す図であり、下半分は従来のハンマ330と350の形状を示す図である。回転軸線A1の下側の図において、従来のハンマ330は、本体部331の前側の外側壁面(前方対向面332)は、回転軸線A1に対して直角な面となり、前方対向面332の径方向内側位置332aから径方向外側位置332bまで平坦な面であって、回転軸線A1方向の位置が同一である。一方、本実施例のハンマ30では、径方向内側位置32aから境界位置33(図までが、回転軸線A1と直交する平坦な平坦面32b(直交面)であり、境界位置33から外周側がテーパー面34a~34c(図では34c部分が見えている)となる。境界位置33は、アンビル50の最外径部分よりも内側に位置するため、アンビル50の最外径部分はテーパ面34a~34cと対向する位置となっている。この結果、本実施例のハンマ爪36による打撃点45と、ハンマ30の本体部31(根元位置46)との距離が、図で示すようにL4となる。一方、従来のハンマ330においては、ハンマ爪336による打撃点345と、ハンマ330の本体部331(根元位置346)との距離が、図で示すようにL3となり、L4>L3の関係となる。このようにL4>L3とすることによって、ハンマ爪36~38は外径側端部に近づくほど変形し易くなり、ハンマ爪36~38とアンビル50の羽根部56~58が外径側端部で局部的に接触した場合でも、ハンマ爪36~38の接触部の根元付近に大きな応力が発生する前に接触部が内径側へ拡大するので、根元付近が負担する荷重の位置による差が軽減される。この結果、ハンマ爪36~38の片当たりの際に生じる特定部位(爪根元の外径側端部付近)の応力集中が軽減される。
【0040】
本実施例ではハンマ30の本体部31の前側に、平坦面32b(直交面)とテーパー面34a~34cを有するので、ハンマ30の平坦面32b(直交面)から後端までの軸線方向の長さD1は、ハンマ30のテーパー面34a~34cから後端までの軸線方向の長さD2よりも大きくなるように構成できた。尚、ハンマ30の本体部31の前側壁面の外周側に、テーパー面34a~34cを形成したが、テーパー面34a~34cは図6のような断面形状で直線状でなくて、曲面状、円弧状、多角形状に形成しても良い。
【0041】
図7(A)はハンマ30とアンビル50の芯ずれ時の打撃状態を示す正面図である。図5で示した正常回転時(ハンマ30とアンビル50の回転中心が一致している時)は、打撃面36aと被打撃面56a、打撃面37aと被打撃面57a(図示省略)、打撃面38aと被打撃面58aの打撃が同時に発生する。しかしながら、ハンマ30の回転中心がA2のようにアンビル50の回転中心A3とずれてしまうと、ハンマ30とアンビル50の最初の打撃点が、面接触でなくて点接触(又は線接触)となってしまい、しかも、打撃のタイミングが3カ所同時でなくなってしまう。図7(A)は、その状態の説明の回転中心A2とA3のずれを極端に大きく示した図である。アンビル50の羽根部の一部は省略していることに注意されたい。
【0042】
図7(A)では、ハンマ30の回転中心A2のずれにより、最初の打撃点がハンマ爪36と羽根部56の特定箇所(図示の打撃点)になってしまった例である。ハンマ30が回転軸線A1に対して回転中心A2の位置にずれるだけでなく、アンビル50の回転中心A3が回転軸線A1に対して逆方向にずれることがある。このように回転中心A2とA3が反対方向にずれると、図7(A)のようになる(説明の便宜上、ずれを大きく誇張して図示した)。この際、ハンマ爪36と羽根部56、ハンマ爪38と羽根部58は打撃されているが、ハンマ爪37と図示しない羽根部57への打撃はまだ発生していない。ハンマ30の回転中心A2のずれが生じると、最初の打撃点がハンマ爪36の最外位置36cよりも内側に位置するのに対して、ハンマ爪38では最外位置38c付近が羽根部58への打撃点となる。この状態におけるC-C部の断面を示すのが図7(B)である。
【0043】
図7(B)はC-C部の断面図及びC-C部から回転軸線A1方向を見た図である。ここで、二点鎖線で示すのがアンビル50の羽根部56の位置である。この図において、ハンマ爪36の根元に形成される面取り溝41aよりも回転軸線A1方向に離れた前側でハンマ爪36がアンビル50の羽根部56と当接している。使用時の打撃動作において、ハンマ爪36の根元とアンビル50の羽根部56は、スピンドル26の回転速度や先端工具に作用する負荷等により、図1の状態よりも回転軸線A1方向に離れた状態になってしまっている。つまり図7(A)で示した打撃点(線)は、回転軸線A1方向でみると前方側にて生ずることになる。
【0044】
図8は、図7(B)のD部の拡大図である。ハンマ30がハンマスプリング28を圧縮させた後に、回転軸線A1方向に前進しながら黒矢印の方向に回転すると、ハンマ30の爪部(例えばハンマ爪36)が、アンビル50の羽根部(例えば羽根部56)を打撃する。図8は打撃直後の状態を示しており、ハンマ爪36の打撃面36a、一点鎖線で示す正常時の状態(回転軸線A1と平行)から、アンビル50の羽根部56と衝突することにより、その衝撃にて一点鎖線の位置から、実線で示す打撃面36a’に示すように歪む(わかりやすいように図8では歪を極端に大きく図示したが、実際の歪はきわめてわずかである)。この際、本実施例のインパクト工具1ではハンマ爪36のように、回転軸線A1方向に見たテーパー面34cから打撃点までの距離はL4となり、非打撃時の打撃面36aの位置から打撃点がdほど変位し、ハンマ爪36の打撃面36a’は打撃時に角度αほど変形することになる。打撃点がdほど変位すると、ハンマ爪36の打撃面36aとアンビル50の被打撃面57aが、図5のように略全面にて接触する状態となる。ところで、図6の下半分で示したような従来のハンマ330においては、ハンマにテーパー面が形成されないため、ハンマの本体部の前方対向面332の位置は、図8の点線で示した位置になる。すると、回転軸線A1方向に見た点線位置から打撃点までの距離はL3となる。この場合は、打撃時にハンマ爪336の打撃面は角度βほど変形することになり、α<βの関係となる。つまり、本発明を適用した形状の方がハンマ爪36~38のそれぞれに発生する応力が小さくなる。
【0045】
以上説明したように、本実施例のハンマ30を用いることによって、ハンマ爪とアンビル羽根が外径側端部で局部的に接触した場合でも、ハンマ爪の接触部根元に大きな応力が発生する前に接触部が内径側へ拡大し、ハンマ爪根元が負担する荷重の位置による差を軽減できる。この結果、ハンマ爪の片当たりの際に生じる爪根元の外径側端部付近の応力集中が軽減され、信頼性が高く耐久性に優れた打撃機構を実現できた。
【実施例2】
【0046】
図9は、本発明の第2の実施例に係るハンマ130とアンビル150の斜視図である。ハンマ130は本体部131と3つのハンマ爪136~138を含んで構成され、本体部131の径方向内側位置から境界位置133までが、回転軸線A1と直交する平坦な面(前方対向面132)であり、境界位置133から外周側がテーパー面134a~134cとなる。ハンマ130の形状は、6カ所の溝部141a、141b(図では見えない)、142a、142b、143a、143bが形成される。これらの溝部は、曲率半径rの形成されるが、本実施例のテーパー面134a、134b、134cと組み合わせることによって従来のハンマ330に形成する溝部に比べて曲率半径rを小さくすることができた。図9では説明の理解のために曲率半径rを大きめに誇張して書いているが、実際には、1mm程度のほんのわずかな半径である。これら溝部141a、141b(図では見えない)、142a、142b、143a、143bの曲率半径rを、従来の溝部を形成したハンマにおける曲率半径r(図示せず)よりも小さくすることにより、ハンマ130とアンビル150との回転軸線A1方向の間隔(図6のL3に相当する隙間)を従来よりも小さくできた。従来のように曲率半径rが大きい場合は、ハンマ130とアンビル150との接触部位が、溝の部分と重なってしまうため、ハンマ330のハンマ爪の回転軸線A1方向の長さを長く構成すると共に、ハンマ330とアンビル350の間隔を広めにしていた。本実施例のインパクト工具1では、ハンマ130とアンビル150の間隔を従来よりも小さくしたので、インパクト工具1の大きさを従来よりも小さくすることができた。
【実施例3】
【0047】
図10は、本発明の第3の実施例に係るハンマ230とアンビル250の斜視図である。上述した第1の実施例、第2の実施例では、ハンマ爪及び羽根部の数が3つのものを例示したが、本発明は図10のような、ハンマ230のハンマ爪の数が2つ、アンビル250の羽根部の数が2つのインパクト工具でも同様に実現できる。ハンマ230は本体部231と2つのハンマ爪236、237を含んで構成され、本体部231の径方向内側位置から境界位置233までが、回転軸線A1と直交する平坦な面(前方対向面232)であり、境界位置233から外周側がテーパー面234a、234bとなる。ハンマ230には、2つのハンマ爪236、237が周方向に180°離れるように配置される。ハンマ爪236は、回転軸線A1と直交する断面形状が略扇形であり、周方向の側面には正転時の打撃面236aと逆転時の打撃面236bが形成される。ハンマ230の本体部231と打撃面236aの接続部付近には、緩やかな曲面にて形成された接続部241a、241b(図では241bは見えない)が形成され、本体部231と打撃面237bの接続部付近には、緩やかな曲面にて形成された接続部242aが形成される。また、ハンマ爪236の外周面と前面との角部は面取り241cが施され、ハンマ爪237の外周面と前面との角部は面取り242cが施される。
【0048】
アンビル250には、2つの羽根部256、257が周方向に180°離れるように配置される。アンビル250の主軸部51、細径部52、装着孔53及び軸部55の形状は第一の実施例のアンビル50と同一である。羽根部256、257の径方向に見て外側半分の形状は、第1の実施例で示したアンビル50の羽根部56~58の外側形状と同じである。羽根部256の側面には正回転時の被打撃面256aと逆回転時の被打撃面256bが形成され、羽根部257の側面には正回転時の被打撃面257aと逆回転時の被打撃面257bが形成される。以上のように、ハンマ爪及び羽根部の数が2つのインパクト工具においても本発明を適用することができる。
【0049】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、ハンマのハンマ爪の形状や、アンビルの羽根部の形状は、上述した例に限られずにその他の形状で実現しても良い。その場合であってもハンマの本体部の前側に位置する面の外周部分をテーパー状に形成して、ハンマ爪が回転軸線方向の長さを内周側と外周側で異なるように構成しても良い。また、テーパー面は平面として形成するのではなく、外側に凸状の円弧面とし手も良いし、多面体形状にしても良い。
【符号の説明】
【0050】
、1…インパクト工具、2…ハウジング、2a…胴体部、2b…ハンドル部、2c…バッテリ取付部、3…モータ、3a…ロータ、3b…ステータ、4…回転軸、5…ハンマケース、5a…貫通穴、7…トリガスイッチ、7a…トリガレバー、8…正逆切替レバー、9…照明装置、12…インバータ回路基板、13…位置検出素子、14…半導体スイッチング素子、15…冷却ファン、16a,16b…軸受、18a,18b…軸受、19…インナカバー…、20…減速機構、21…サンギヤ、22…プラネタリーギヤ、23…リングギヤ、25…インパクト機構、26…スピンドル、26a…スピンドルカム溝、27…スチールボール、28…ハンマスプリング、30…ハンマ、31…本体部、31a…外筒部、31b…前面連結部、31c…内筒部、31d…スプリング支持部、32…前方対向面、32a…(前方対向面の)径方向内側位置、32b…平坦面(直交面)、33…境界位置、34a~34c…テーパー面、36,37,38…ハンマ爪、36a,37a,38a…打撃面(正回転時)、36b,37b,38b…打撃面(逆回転時)、36c,38c…(ハンマ爪の)最外位置、39a,39b…ハンマカム溝、41a,41b,42a,42b,43a,43b…面取り溝、45…打撃点、46…(打撃点の)根元位置、50…アンビル、51…主軸部、52…細径部、52a…貫通穴、52b…周方向溝、53…装着孔、54…フランジ部、55…軸部、56,57,58…羽根部、56a,57a,58a…被打撃面(正回転時)、56b,57b,58b…被打撃面(逆回転時)、60…装着機構、61…スリーブ、62…スプリング、63…止め輪、64…スチールボール、70…制御回路基板、75…スイッチパネル、90…バッテリ、91…ラッチボタン、130…ハンマ、131…本体部、132…前方対向面、133…境界位置、134a~134c…テーパー面、136~138…ハンマ爪、141a,141b,142a,142b,143a,143b…溝部、150…アンビル、230…ハンマ、231…本体部、232…前方対向面、233…境界位置、234a,234b…テーパー面、236,237…ハンマ爪、236a,236b,237a,237b…打撃面、241a,241b,242a,242b…接続部、241c,242c…面取り、250…アンビル、256,257…羽根部、256a,256b,257a,257b…被打撃面、330…ハンマ、331…本体部、332…前方対向面、332a…径方向内側位置、332b…径方向外側位置、336…ハンマ爪、345…打撃点、346…(打撃点の)根元位置、350…アンビル、A1…回転軸線、A2…(ハンマの)回転中心、A3…(アンビルの)回転中心
図1
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図10