(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20240416BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240416BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240416BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240416BHJP
H01M 50/531 20210101ALI20240416BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/054
H01M50/531
(21)【出願番号】P 2022531886
(86)(22)【出願日】2021-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2021022925
(87)【国際公開番号】W WO2021256519
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2020104508
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187584
【氏名又は名称】村石 桂一
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 潔
(72)【発明者】
【氏名】中野 廣一
(72)【発明者】
【氏名】清水 圭輔
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-167117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 10/054
H01M 50/531
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層、負極層、および前記正極層と前記負極層との間に介在する固体電解質層からなる電池構成単位を積層方向に沿って複数備え、前記積層方向に直交する方向において相対する第1端面と第2端面とを有する積層体と、前記第1端面に設けられた第1外部電極と、前記第2端面に設けられた第2外部電極と、を有してなる固体電池であって、
前記正極層は、平面視で前記正極層より幅狭で、前記第1端面で前記第1外部電極と接触する複数の正極引出部を有し
、
前記正極引出部は、前記積層方向の上下面が前記固体電解質層と接しており、
前記第1端面において、前記複数の正極引出部のうち少なくとも2つの前記正極引出部は、前記積層方向における中心線が互いに重ならないように配置されている、固体電池。
【請求項2】
正極層、負極層、および前記正極層と前記負極層との間に介在する固体電解質層からなる電池構成単位を積層方向に沿って複数備え、前記積層方向に直交する方向において相対する第1端面と第2端面とを有する積層体と、前記第1端面に設けられた第1外部電極と、前記第2端面に設けられた第2外部電極と、を有してなる固体電池であって、
前記負極層は、平面視で前記負極層より幅狭で、前記第2端面で前記第2外部電極と接触する複数の負極引出部を有し
、
前記負極引出部は、前記積層方向の上下面が前記固体電解質層と接しており、
前記第2端面において、前記複数の負極引出部のうち少なくとも2つの前記負極引出部は、前記積層方向における中心線が互いに重ならないように配置されている、固体電池。
【請求項3】
正極層、負極層、および前記正極層と前記負極層との間に介在する固体電解質層からなる電池構成単位を積層方向に沿って複数備え、前記積層方向に直交する方向において相対する第1端面と第2端面とを有する積層体と、前記第1端面に設けられた第1外部電極と、前記第2端面に設けられた第2外部電極と、を有してなる固体電池であって、
前記正極層と前記負極層は、それぞれ、平面視で前記正極層より幅狭で、前記第1端面で前記第1外部電極と接触する複数の正極引出部と、平面視で前記負極層より幅狭で、前記第2端面で前記第2外部電極と接触する複数の負極引出部を有し
、
前記正極引出部および前記負極引出部は、前記積層方向の上下面が前記固体電解質層と接しており、
前記第1端面において、前記複数の正極引出部のうち少なくとも2つの前記正極引出部は、前記積層方向における中心線が互いに重ならないように配置され、
前記第2端面において、前記複数の負極引出部のうち少なくとも2つの前記負極引出部は、前記積層方向における中心線が互いに重ならないように配置されている、固体電池。
【請求項4】
前記第1端面において、複数の前記正極引出部は、前記積層方向、前記積層方向に直交する幅方向または前記積層方向と交差する交差方向の少なくとも一方向に列を形成するように配置されている、請求項1または3に記載の固体電池。
【請求項5】
前記第2端面において、複数の前記負極引出部は、前記積層方向、前記積層方向に直交する幅方向または前記積層方向と交差する交差方向の少なくとも一方向に列を形成するように配置されている、請求項2または3に記載の固体電池。
【請求項6】
前記第1端面において、少なくとも2つの前記正極引出部は、前記積層方向に直交する幅方向において隣り合うように配置されている、請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項7】
前記第2端面において、少なくとも2つの前記負極引出部は、前記積層方向に直交する幅方向において隣り合うように配置されている、請求項2、3及び5のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項8】
前記第1端面において、前記正極引出部が千鳥状に露出されている、請求項1,3,4及び6のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項9】
前記第2端面において、前記負極引出部が千鳥状に露出されている、請求項2,3,5及び7のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項10】
前記電池構成単位における一つの正極層の前記第1端面側には、複数の前記正極引出部が設けられている、請求項1,3,4,6及び8のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項11】
前記電池構成単位における一つの負極層の前記第2端面側には、複数の前記負極引出部が設けられている、請求項2,3,5,7及び9のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項12】
前記複数の正極引出部と前記複数の負極引出部は、概ね等間隔で配置されている、請求項3に記載の固体電池。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の固体電池を備えた、電子機器。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の固体電池を備えた、電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池に関する。より詳しくは、本発明は、電池構成単位を構成する各層が積層して成る積層型固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、繰り返しの充放電が可能な二次電池が様々な用途に用いられている。例えば、二次電池は、スマートフォンおよびノートパソコン等の電子機器の電源として用いられたりする。
【0003】
二次電池においてはイオンを移動させるための媒体として有機溶媒等の液体の電解質(電解液)が従来から使用されている。しかしながら、電解液を用いた二次電池においては、電解液の漏液等の問題がある。そのため、液体の電解質に代えて固体電解質を有して成る固体電池の開発が進められている。
【0004】
固体電池としては、例えば、電解質層を焼結して正極層や負極層と一体化したものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の固体電池100の構造の一例を、
図6、7に示す。固体電池100は、正極層104、負極層105、およびそれらの間に介在する固体電解質層106を有する積層体101と、積層体101の相対する端面に設けられた第1外部電極102と第2外部電極103と、を有している。平面視で正極層104よりは幅狭の正極引出部104Aは正極層104から引き出されて第1外部電極102(正極端子)に接触している。また、平面視で負極層105よりは幅狭の負極引出部105Aは負極層105から引き出されて第2外部電極103(負極端子)に接触している。さらに、正極引出部104Aは、引き出された端面において、固体電池100の厚さ方向に一列に配置されている。また、負極引出部105Aも、引き出された端面において、固体電池100の厚さ方向に一列に配置されている。
【0007】
固体電池の充放電反応に伴い、正極層や負極層の電極層の体積は変化するが、外部電極の体積は実質的に変化しない。そのため、充放電反応に伴い、電極層と外部電極との間に生じる応力に起因して、電極層の割れや外部電極の剥離が生じ易くなる。特に、正極引出部104Aや負極引出部105Aの電極引出部が、引き出された端面において、固体電池100の厚さ方向に一列に配置されていると、電極層の体積変化に伴う応力は、電極引出部が一列に配置されている領域に集中しやすくなる。そのため、電極層の割れや外部電極の剥離が一層生じ易くなることで、密閉性低下による水分の侵入や外部電極との接触不良が発生し、固体電池の性能低下をもたらし、信頼性が低下する可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するため、電極層の割れや外部電極の剥離を抑制して、信頼性に優れた固体電池を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る固体電池は、正極層、負極層、および前記正極層と前記負極層との間に介在する固体電解質層からなる電池構成単位を積層方向に沿って複数備え、前記積層方向に直交する方向において相対する第1端面と第2端面とを有する積層体と、前記第1端面に設けられた第1外部電極と、前記第2端面に設けられた第2外部電極と、を有してなる固体電池であって、前記正極層は、平面視で前記正極層より幅狭で、前記第1端面で前記第1外部電極と接触する複数の正極引出部を有しており、前記第1端面において、前記複数の正極引出部のうち少なくとも2つの前記正極引出部は、前記積層方向における中心線が互いに重ならないように配置されている、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の別の態様に係る固体電池は、正極層、負極層、および前記正極層と前記負極層との間に介在する固体電解質層からなる電池構成単位を積層方向に沿って複数備え、前記積層方向に直交する方向において相対する第1端面と第2端面とを有する積層体と、前記第1端面に設けられた第1外部電極と、前記第2端面に設けられた第2外部電極と、を有してなる固体電池であって、前記負極層は、平面視で前記負極層より幅狭で、前記第2端面で前記第2外部電極と接触する複数の負極引出部を有しており、前記第2端面において、前記複数の負極引出部のうち少なくとも2つの前記負極引出部は、前記積層方向における中心線が互いに重ならないように配置されている、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明のさらに別の態様に係る固体電池は、正極層、負極層、および前記正極層と前記負極層との間に介在する固体電解質層からなる電池構成単位を積層方向に沿って複数備え、前記積層方向に直交する方向において相対する第1端面と第2端面とを有する積層体と、前記第1端面に設けられた第1外部電極と、前記第2端面に設けられた第2外部電極と、を有してなる固体電池であって、前記正極層と前記負極層は、それぞれ、平面視で前記正極層より幅狭で、前記第1端面で前記第1外部電極と接触する複数の正極引出部と、平面視で前記負極層より幅狭で、前記第2端面で前記第2外部電極と接触する複数の負極引出部を有しており、前記第1端面において、前記複数の正極引出部のうち少なくとも2つの前記正極引出部は、前記積層方向における中心線が互いに重ならないように配置され、前記第2端面において、前記複数の負極引出部のうち少なくとも2つの前記負極引出部は、前記積層方向における中心線が互いに重ならないように配置されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極層の割れや外部電極の剥離を抑制して、信頼性に優れた固体電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の固体電池の構造の一例を示す模式上面図である。
【
図2】
図1のII-II’線に沿った模式断面図である。
【
図3】
図1のIII-III’線に沿った模式断面図である。
【
図4】本発明の固体電池の構造の別の例を示す模式断面図である。
【
図5】本発明の固体電池の構造の別の例を示す模式上面図である。
【
図6】従来の固体電池の構造の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の「固体電池」を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
【0015】
本発明でいう「固体電池」とは、広義にはその構成要素が固体から構成されている電池を指し、狭義にはその構成要素(特に好ましくは全ての構成要素)が固体から構成されている全固体電池を指す。ある好適な態様では、本発明における固体電池は、電池構成単位を成す各層が互いに積層するように構成された積層型固体電池であり、好ましくはそのような各層が焼成体から成っていてよい。なお、「固体電池」は、充電および放電の繰り返しが可能な、いわゆる「二次電池」のみならず、放電のみが可能な「一次電池」をも包含する。本発明のある好適な態様では「固体電池」は二次電池である。「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものではなく、例えば、蓄電デバイスなども包含し得る。なお、本発明でいう「焼結」は、少なくとも一部で焼結が達成されていればよい。
【0016】
本明細書でいう「平面視」とは、固体電池を構成する各層の積層方向に基づく厚み方向に沿って対象物を上側または下側から捉えた場合の形態に基づいている。又、本明細書でいう「断面視」とは、固体電池を構成する各層の積層方向に基づく厚み方向に対して略垂直な方向から捉えた場合の形態(端的にいえば、厚み方向に平行な面で切り取った場合の形態)に基づいている。
【0017】
図1は、本実施の形態に係る固体電池1の構造の一例を示す模式上面図、
図2は
図1のII-II’線に沿った模式断面図、
図3は
図1のIII-III’線に沿った模式断面図である。
【0018】
固体電池1は、正極層21、負極層22、および正極層21と負極層22との間に介在する固体電解質層23からなる電池構成単位を積層方向に沿って複数備え、積層方向に直交する方向において相対する第1端面2aと第2端面2bとを有する積層体2と、第1端面2aに設けられた第1外部電極3と、第2端面2bに設けられた第2外部電極4と、を有している。
【0019】
正極層21は、2つの正極活物質層21a,21aが正極集電体層21bを介して積層された構造を有する。また、負極層22は、2つの負極活物質層22a,22aが負極集電体層22bを介して積層された構造を有する。各正極層21からは、平面視で正極層21よりは幅狭の正極引出部211b,212b,213b,214b,215bが引き出されて、第1端面2aで第1外部電極3と接触することで、各正極層21と第1外部電極3との電気的接続が行われている。言い換えると、正極引出部211b,212b,213b,214b,215bは、第1端面2aで露出しており、当該露出された部分によって第1外部電極3と物理的に接触して電気的接続が行われている。また、各負極層22からは、平面視で負極層22よりは幅狭の負極引出部221b,222b,223b,224b,225bが引き出されて、第2端面2bで第2外部電極4と接触することで、各負極層22と第2外部電極4との電気的接続が行われている。言い換えると、負極引出部221b,222b,223b,224b,225bは、第2端面2bで露出しており、当該露出された部分によって第2外部電極4と物理的に接触して電気的接続が行われている。
【0020】
第1外部電極3と正極引出部211b,212b,213b,214b,215bとの電気的接続および第2外部電極4と負極引出部221b,222b,223b,224b,225bとの電気的接続について、例えば、
図2を参照しながらより詳述する。
図2は、
図1のII-II’線に沿った模式断面図、つまり、
図1の正極引出部213bと第1外部電極3とが電気的接続し、
図1の負極引出部223bと第2外部電極4とが電気的接続していることを示す模式断面図である。
図2において、上側の正極層21の正極集電体層21bは、正極引出部213b(
図1参照)を有しており、当該正極引出部が第1外部電極3と電気的接続している。同様に、上側の負極層22の負極集電体層22bは、負極引出部223b(
図1参照)を有しており、当該負極負極引出部が第2外部電極4と電気的接続している。一方で、
図2に示す下側の正極層21および負極層22は、正極引出部213bおよび負極引出部223b(
図1参照)を備えていない。つまり、
図2に示す下側の正極層21は、他の断面で示される正極引出部211b、212b、214b、215bによって電気的に接続され、下側の負極層22は、他の断面で示される負極引出部221b、222b、224b、225bによって電気的に接続されている。したがって、正極引出部213bは、正極引出部211b、212b、214b、215bと互いに重なっておらず、負極引出部223bは、負極引出部221b、222b、224b、225bと互いに重なっていない。なお、「重なり」については、後で詳述する。また、
図1~3では、正極引出部や負極引出部の電極引出部として、引き出した正極集電体層と負極集電体層の引出部分を正極引出部や負極引出部として用いた例を示したが、電極引出部はこの例に限定されるものではない。例えば、平面視で幅狭の正極層や負極層を電極引出部として用いることができる。なお、必ずしも正極/負極活物質層を2つ設ける必要はない。1つの正極/負極活物質層と正極/負極集電体層が積層された構造を有していればよい。
【0021】
ここで、第1端面2aでは、複数の正極引出部の少なくとも2つの正極引出部の、積層方向における中心線が互いに重ならないように、複数の正極引出部が積層方向に配置されている。ここで、積層方向と直交する幅方向において隣り合う2つの正極引出部の、積層方向における中心線が互いに重ならないように、複数の正極引出部が積層方向に配置されていることが好ましい。「幅方向において隣り合う」とは、積層方向の位置を問わずに、幅方向で隣の位置にあることを示している。例えば、正極引出部215bと正極引出部214bは、正極引出部215bの積層方向における中心線C1が、幅方向において隣り合う正極引出部214bの積層方向における中心線C2と重ならないように、積層方向に配置されている。隣り合う正極引出部213bと正極引出部214bについても同様にして、積層方向に配置されている。また、隣り合う正極引出部213bと正極引出部212bについても同様にして、積層方向に配置されている。また、隣り合う正極引出部212bと正極引出部211bについても同様にして、積層方向に配置されている。つまり、第1端面において、正極引出部211b,212b,213b,214b,215bは、千鳥状に露出されていてよい。本明細書でいう「千鳥状」とは、所定の方向(例えば、積層方向)に沿って設けられている正極引出部が、所定の方向と直交する方向(例えば、幅方向)に沿って隣り合うように複数並んで設けられている場合に、隣り合う列の正極引出部同士が所定の方向(積層方向)にずれて配置されている状態を意味する。また、第2端面2bでも同様に、複数の負極引出部の少なくとも2つの負極引出部の、積層方向における中心線が互いに重ならないように、複数の負極引出部が積層方向に配置されている。ここで、積層方向と直交する幅方向において隣り合う2つの負極引出部の、積層方向における中心線が互いに重ならないように、複数の負極引出部が積層方向に配置されていることが好ましい。つまり、第2端面において、負極引出部は、千鳥状に露出されていてよい。
【0022】
従来の固体電池では、複数の電極引出部の、積層方向における中心線が互いに重なっている、すなわち、電極引出部が積層方向に一列に配置されている。そのため、充放電反応により生じる電極層の体積変化に伴う応力は、電極引出部が一列に配置されている領域に集中しやすくなり、電極層の割れや外部電極の剥離が生じ易くなる。これに対し、本発明では、複数の電極引出部の少なくとも2つの電極引出部の、積層方向における中心線が互いに重ならないように、複数の電極引出部が積層方向に配置されているので、電極引出部が積層方向に一列に配置されておらず、幅方向にも位置するように配置されている。そのため、電極層の体積変化に伴う応力を積層方向だけでなく幅方向にも分散させることができるので、電極層の割れや外部電極の剥離を抑制することが可能となる。
【0023】
また、本発明では、電極引出部が、積層方向だけでなく、幅方向にも位置するように配置されているので、従来の固体電池に比べ、電極層における充放電反応の反応領域をより均一化する効果も有する。これにより、電極層の体積変化に伴う応力を積層方向だけでなく幅方向にもより一層分散させることが可能となる。
【0024】
また、第1端面において、複数の正極引出部は、積層方向、幅方向または斜めの方向(積層方向と交差する方向)の少なくとも一方向に列を形成するように配置されていてもよい。さらに、少なくとも2つの正極引出部が、幅方向に隣り合うように配置されていてもよい。例えば、複数の正極引出部が、積層方向と幅方向のそれぞれに複数の列を形成するように配置され、幅方向の隣り合う2つの列の正極引出部の、積層方向における中心線が互いに重ならないように、少なくとも2つの正極引出部が積層方向に配置されていてもよい。例えば、
図3では、積層方向(縦方向ともいう)には、正極引出部215bと正極引出部215b2を含む縦第1列、正極引出部214bと正極引出部214b2を含む縦第2列、正極引出部213bと正極引出部213b2と正極引出部213b3を含む縦第3列、正極引出部212bと正極引出部212b2を含む縦第4列、正極引出部211bと正極引出部211b2を含む縦第5列が形成されている。また、幅方向(横方向ともいう)には、正極引出部213bを含む横第1列、正極引出部215bを含む横第2列、正極引出部212bを含む横第3列、正極引出部214bを含む横第4列、正極引出部211bを含む横第5列、正極引出部213b2を含む横第6列、正極引出部215b2を含む横第7列、正極引出部212b2を含む横第8列、正極引出部214b2を含む横第9列、正極引出部211b2を含む横第10列、および正極引出部213b3を含む横第11列が形成されている。ここで、幅方向の隣り合う2つの列の正極引出部、例えば縦第1列と縦第2列では、縦第1列の積層方向における中心線C
1と、縦第2列の積層方向における中心線C
2とは互いに重なっていない。なお、縦列と横列の数は、2以上であれば特に限定されない。なお、
図2、3では、隣り合う2つの縦列を構成する正極引出部が平面視で重なり合うことのないように配置されているが、必ずしもこの態様に限定されるものではなく、積層方向における中心線が互いに重なっていなければ、隣り合う2つの縦列を構成する正極引出部の一部が平面視で重なっていてもよい。
【0025】
また、正極引出部の場合と同様に、負極引出部についても、第2端面において、複数の負極引出部は、積層方向、幅方向または斜めの方向(積層方向と交差する方向)の少なくとも一方向に列を形成するように配置されていてもよい。さらに、少なくとも2つの負極引出部が、幅方向に隣り合うように配置されていてもよい。例えば、積層方向と幅方向のそれぞれに複数の列を形成するように配置され、幅方向の隣り合う2つの列の負極引出部の、積層方向における中心線が互いに重ならないように、少なくとも2つの負極引出部が積層方向に配置されていてもよい。さらに、負極引出部についても、縦列と横列の数は、2以上であれば特に限定されない。また、隣り合う2つの縦列を構成する負極引出部の一部が平面視で重なっていてもよい。
【0026】
また、
図1~3では、各正極層が1つの正極引出部を有し、各負極層が1つの負極引出部を有する例を示したが、各正極層が複数の正極引出部を有し、各負極層が複数の負極引出部を有してもよい。
図4は、固体電池1とは別の固体電池51の第1端面の構造を示す模式断面図である。固体電池51は、電池構成単位における一つの正極層が複数の正極引出部を有し、各負極層が複数の負極引出部を有している以外は、固体電池1と同様の構成を有している。固体電池1では、第1端面と第2端面において、1つの横列に正極引出部または負極引出部が1つだけ配置されているが、固体電池51では、第1端面には1つの横列に複数の正極引出部が配置され、第2端面には1つの横列に複数の負極引出部が配置されている。
図4では、横第1列に正極引出部311bと正極引出部315bが配置されている。また、固体電池51の第2端面にも、同様に、横第1列に2つの負極引出部が配置されている。なお、
図4では、各正極層が2つの正極引出部を有する例を示したが、正極引出部の数は2に限定されるものではない。また、各正極層が異なる複数の正極引出部を有していてもよい。また、各負極層についても同様であり、負極引出部の数は2に限定されるものではない。また、各負極層が異なる複数の負極引出部を有していてもよい。
【0027】
また、正極引出部は平面視で正極層より幅狭であり、負極引出部は平面視で負極層より幅狭である。本発明では、電極引出部の幅は、平面視で電極層の幅よりも狭ければ特に限定されないが、例えば、平面視で正極引出部の幅は、正極層の幅の5%以上50%以下、好ましくは10%以上40%以下である。また、平面視で負極引出部の幅は、負極層の幅の5%以上50%以下、好ましくは10%以上40%以下である。ここで、電極引出部の幅には、1つの電極層に1つの電極引出部を設ける場合には、その1つの電極引出部の幅の値を用い、1つの電極層に複数の電極引出部を設ける場合には、複数の電極引出部の合計幅の値を用いている。なお、
図1では、平面視で電極引出部が隙間なく配置されている例を示したが、この例に限定されるものではなく、例えば、
図5に示すように、平面視で各電極引出部が概ね等間隔で配置されていてもよい。すなわち、固体電池52は、第1端面52aと第2端面52bとを有する積層体2と、第1端面52aに設けられた第1外部電極53と、第2端面52bに設けられた第2外部電極54と、を有している。4つの正極引出部611b,612b,613b,614bは、平面視で概ね等間隔となるように配置されている。また、4つの負極引出部621b,622b,623b,624bも、平面視で概ね等間隔となるように配置されている。ここで、概ね等間隔とは、各電極引出部間の間隔の平均値に対して、それぞれの間隔がその平均値の±50%以内に収まる範囲をいう。また、電極引出部の厚さは、電極層の厚さと同じでも、電極層の厚さより小さくてもよい。例えば、電極層の厚さよりも小さい場合、電極層の厚さの50%以下である。なお、電極層が、2つの電極活物質層が電極集電体層を介して積層された構成を有する場合には、そもそも、電極集電体層の厚さは電極層の厚さよりも小さくなり、電極引出部の厚さは電極集電体層の厚さと概ね等しい。
【0028】
以下、本発明の固体電池の構成要素について、さらに詳しく説明する。
固体電池は、正極層、負極層、およびそれらの間に介在する固体電解質層から成る電池構成単位を積層方向に沿って少なくとも1つ備える積層体(固体電池積層体ともいう)を有して成る。
【0029】
固体電池は、それを構成する各層が焼成によって形成されるところ、正極層、負極層および固体電解質層などが焼結層を成していてよい。好ましくは、正極層、負極層および固体電解質は、それぞれが互いに一体焼成されており、それゆえ電池構成単位が一体焼結体を成していてよい。
【0030】
正極層は、少なくとも正極活物質を含んで成る電極層であり、少なくとも正極活物質層を含む電極層である。正極層は、さらに固体電解質を含んでもよい。また、正極層は、正極活物質粒子と固体電解質粒子とを少なくとも含む焼結体から構成されていてもよい。また、正極層は、正極集電体層を含んでもよい。好ましい態様としては、正極活物質と固体電解質粒子を含む正極活物質層と、正極集電体層とを少なくとも含む焼結体から構成されているものを挙げることができる。また、別の好ましい態様としては、上記のように、2つの正極活物質層が正極集電体層を介して積層された焼結体から構成されているものを挙げることができる。一方、負極層は、少なくとも負極活物質を含んで成る電極層であり、少なくとも負極活物質層を含む電極層である。負極層は、さらに固体電解質を含んでもよい。また、負極層は、負極活物質粒子と固体電解質粒子とを少なくとも含む焼結体から構成されていてもよい。また、負極層は、負極集電体層を含んでもよい。好ましい態様としては、負極活物質と固体電解質粒子を含む負極活物質層と、負極集電体層とを少なくとも含む焼結体から構成されているものを挙げることができる。また、別の好ましい態様としては、上記のように、2つの負極活物質層が負極集電体層を介して積層された焼結体から構成されているものを挙げることができる。正極層または負極層の膜厚は、5μm以上60μm以下、好ましくは8μm以上50μm以下であってよい。また、5μm以上30μm以下であってもよい。
【0031】
正極活物質および負極活物質は、固体電池において電子の受け渡しに関与する物質である。固体電解質を介した正極層と負極層との間におけるイオンの移動(伝導)と、外部回路を介した正極層と負極層との間における電子の受け渡しが行われることで充放電がなされる。正極層および負極層はリチウムイオンまたはナトリウムイオンを吸蔵放出可能な層であることが好ましい。つまり、固体電解質を介してリチウムイオンまたはナトリウムイオンが正極層と負極層との間で移動して電池の充放電が行われる全固体型二次電池であることが好ましい。
【0032】
(正極活物質)
正極層に含まれる正極活物質としては、例えば、リチウム含有化合物またはナトリウム含有化合物である。リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、および、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li3V2(PO4)3等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、LiFePO4および/またはLiMnPO4等が挙げられる。リチウム含有層状酸化物の一例としては、LiCoO2および/またはLiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、LiMn2O4および/またはLiNi0.5Mn1.5O4等が挙げられる。リチウム化合物の種類は、特に限定されないが、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物およびリチウム遷移金属リン酸化合物である。リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムと1種類または2種類以上の遷移金属元素とを構成元素として含む酸化物の総称であると共に、リチウム遷移金属リン酸化合物は、リチウムと1種類または2種類以上の遷移金属元素とを構成元素として含むリン酸化合物の総称である。遷移金属元素の種類は、特に限定されないが、例えば、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)および鉄(Fe)などである。
【0033】
また、ナトリウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質としては、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、ナトリウム含有層状酸化物およびスピネル型構造を有するナトリウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。例えば、ナトリウム含有リン酸化合物の場合、Na3V2(PO4)3、NaCoFe2(PO4)3、Na2Ni2Fe(PO4)3、Na3Fe2(PO4)3、Na2FeP2O7、Na4Fe3(PO4)2(P2O7)、およびナトリウム含有層状酸化物としてNaFeO2から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0034】
この他、正極活物質は、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物または導電性高分子等でもよい。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムまたは二酸化マンガン等でもよい。二硫化物は、例えば、二硫化チタンまたは硫化モリブデン等である。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブ等でもよい。導電性高分子は、例えば、ジスルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラスチレン、ポリアセチレンまたはポリアセン等でもよい。
【0035】
(負極活物質)
負極層に含まれる負極活物質としては、例えば、炭素材料、金属系材料、リチウム合金およびリチウム含有化合物またはナトリウム合金およびナトリウム含有化合物などである。
【0036】
具体的には、炭素材料は、例えば、黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)および高配向性グラファイト(HOPG)などである。
【0037】
金属系材料は、リチウムと合金を形成可能である金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む材料の総称である。この金属系材料は、単体でもよいし、合金でもよいし、化合物でもよい。ここで説明する単体の純度は、必ずしも100%に限られないため、その単体は、微量の不純物を含んでいてもよい。
【0038】
金属元素および半金族元素は、例えば、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)および白金(Pt)などである。
【0039】
具体的には、金属系材料は、例えば、Si、Sn、SiB4、TiSi2、SiC、Si3N4、SiOv(0<v≦2)、LiSiO、SnOw(0<w≦2)、SnSiO3、LiSnOおよびMg2Snなどである。
【0040】
リチウム含有化合物は、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ならびに、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。リチウム合金の一例としては、Li-Al等が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li3V2(PO4)3、および/またはLiTi2(PO4)3等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li3Fe2(PO4)3、および/またはLiCuPO4等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、Li4Ti5O12等が挙げられる。
【0041】
ナトリウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質としては、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、およびスピネル型構造を有するナトリウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0042】
なお、正極層および/または負極層は、電子伝導性材料を含んでいてもよい。正極層および/または負極層に含まれる電子伝導性材料としては、例えば、炭素材料および金属材料などである。具体的には、炭素材料は、例えば、黒鉛およびカーボンナノチューブなどである。金属材料は、例えば、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)およびパラジウム(Pd)などであり、それらの2種類以上の合金でもよい。
【0043】
また、正極層および/または負極層は、結着剤を含んでいてもよい。結着剤としては、例えば、合成ゴムおよび高分子材料などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。具体的には、合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムおよびエチレンプロピレンジエンなどである。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミドおよびアクリル樹脂から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0044】
さらに、正極層および/または負極層は、導電性材料を含んでいてもよい。導電性材料としては、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化ビスマスおよび酸化リンから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0045】
正極層および負極層の厚みは特に限定されず、例えば、それぞれ独立して、2μm以上100μm以下、特に5μm以上50μm以下であってもよい。
【0046】
(固体電解質)
固体電解質は、ナトリウムイオンまたはリチウムイオンが伝導可能な材質である。特に固体電池で電池構成単位を成す固体電解質は、正極層と負極層との間においてナトリウムイオンまたはリチウムイオンが伝導可能な層を成している。なお、固体電解質は、正極層と負極層との間に少なくとも設けられていればよい。つまり、固体電解質は、正極層と負極層との間からはみ出すように当該正極層および/または負極層の周囲においても存在していてもよい。具体的な固体電解質としては、例えば、結晶性固体電解質およびガラスセラミックス系固体電解質などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0047】
結晶性固体電解質は、結晶性の電解質である。具体的には、結晶性固体電解質は、例えば、無機材料および高分子材料などであり、その無機材料は、例えば、硫化物および酸化物などである。硫化物は、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li7P3S11、Li3.25Ge0.25P0.75SおよびLi10GeP2S12などである。酸化物は、例えば、LixMy(PO4)3(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrから成る群より選ばれた少なくとも一種)、Li7La3Zr2O12、Li6.75La3Zr1.75Nb0.25O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3、La2/3-xLi3xTiO3、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO4)3、La0.55Li0.35TiO3およびLi7La3Zr2O12等である。高分子材料は、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)などである。
【0048】
ガラスセラミックス系固体電解質は、アモルファスと結晶とが混在した状態の電解質である。このガラスセラミックス系固体電解質は、例えば、リチウム(Li)、ケイ素(Si)およびホウ素(B)を構成元素として含む酸化物などであり、より具体的には、酸化リチウム(Li2O)、酸化ケイ素(SiO2)および酸化ホウ素(B2O3)などを含んでいる。酸化リチウム、酸化ケイ素および酸化ホウ素の総含有量に対する酸化リチウムの含有量の割合は、特に限定されないが、例えば、40mol%以上73mol%以下である。酸化リチウム、酸化ケイ素および酸化ホウ素の総含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合は、特に限定されないが、例えば、8mol%以上40mol%以下である。酸化リチウム、酸化ケイ素および酸化ホウ素の総含有量に対する酸化ホウ素の含有量の割合は、特に限定されないが、例えば、10mol%以上50mol%以下である。酸化リチウム、酸化ケイ素および酸化ホウ素のそれぞれの含有量を測定するためには、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)などを用いてガラスセラミックス系固体電解質を分析する。
【0049】
また、リチウムイオンが伝導可能な固体電解質として、例えば、ナシコン構造を有するリチウム含有ポリアニオン系化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物、酸化物ガラスセラミックス系リチウムイオン伝導体等としてよい。ナシコン構造を有するリチウム含有ポリアニオン系化合物としては、例えば、リチウム含有リン酸化合物である、LixMy(PO4)3(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrから成る群から選ばれた少なくとも一種)が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、例えば、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO4)3等が挙げられる。ペロブスカイト構造を有する酸化物の一例としては、La0.55Li0.35TiO3等が挙げられる。ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物の一例としては、Li7La3Zr2O12等が挙げられる。酸化物ガラスセラミックス系リチウムイオン伝導体としては、例えば、リチウム、アルミニウムおよびチタンを構成元素に含むリン酸化合物(LATP)、リチウム、アルミニウムおよびゲルマニウムを構成元素に含むリン酸化合物(LAGP)を用いることができる。
【0050】
また、ナトリウムイオンが伝導可能な固体電解質としては、例えば、ナシコン構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物等としてよい。ナシコン構造を有するナトリウム含有リン酸化合物としては、NaxMy(PO4)3(1≦x≦4、1≦y≦2、Mは、ZrとTi、Ge、Al、GaおよびFe等から成る群から選ばれた少なくとも一種、Pの一部はSiやS等で置換されても良い)が挙げられる。
【0051】
固体電解質層は、結着剤および/または導電性材料を含んでいてもよい。固体電解質層に含まれる結着剤および/または導電性材料は、例えば、正極層および/または負極層に含まれ得る結着剤および/または導電性材料と同様の材料から選択されてもよい。
【0052】
固体電解質層の厚みは特に限定されず、例えば、1μm以上15μm以下、特に1μm以上5μm以下であってもよい。
【0053】
(正極集電体層/負極集電体層)
正極集電体層を構成する正極集電材および負極集電体層を構成する負極集電材としては、導電率が大きい材料を用いるのが好ましく、例えば、炭素材料、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅およびニッケルから成る群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。正極集電体層および負極集電体層はそれぞれ、外部と電気的に接続するための電気的接続部を有し、端子と電気的に接続可能に構成されていてもよい。正極集電体層および負極集電体層はそれぞれ箔の形態を有していてもよいが、一体焼結による電子伝導性向上および製造コスト低減の観点から、一体焼結の形態を有することが好ましい。なお、正極集電体層および負極集電体層が焼結体の形態を有する場合、例えば、電子伝導性材料、結着剤および/または導電性材料を含む焼結体より構成されてもよい。正極集電体層および負極集電体層に含まれる電子伝導性材料は、例えば、正極層および/または負極層に含まれ得る電子伝導性材料と同様の材料から選択されてもよい。正極集電体層および負極集電体層に含まれる結着剤および/または導電性材料は、例えば、正極層および/または負極層に含まれ得る結着剤および/または導電性材料と同様の材料から選択されてもよい。
【0054】
正極集電体層および負極集電体層の厚みは特に限定されず、例えば、それぞれ独立して、1μm以上10μm以下、特に1μm以上5μm以下であってもよい。
【0055】
(保護層)
保護層は、一般に固体電池の最外側に形成され得るもので、電気的、物理的および/または化学的に保護するためのものである。保護層を構成する材料としては絶縁性、耐久性および/または耐湿性に優れ、環境的に安全であることが好ましい。例えば、ガラス、セラミックス、熱硬化性樹脂および/または光硬化性樹脂等を用いることが好ましい。
【0056】
(外部電極)
固体電池には、一般に外部電極が設けられている。特に、固体電池の側面に正負極の外部電極が対を成すように設けられている。より具体的には、正極層と接続された正極側の外部電極(以下、正極端子ともいう)と、負極層と接続された負極側の外部電極(以下、負極端子ともいう)とが対を成すように設けられている。そのような外部電極は、導電率が大きい材料を用いることが好ましい。外部電極の材質としては、特に制限するわけではないが、銀、金、プラチナ、アルミニウム、銅、スズおよびニッケルから成る群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0057】
[固体電池の製造方法]
本発明の固体電池は、スクリーン印刷法等の印刷法、グリーンシートを用いるグリーンシート法、またはそれらの複合法により製造することができる。以下、本発明の理解のために印刷法およびグリーンシート法を採用する場合について詳述するが、本発明は当該方法に限定されない。
【0058】
(固体電池積層前駆体の形成工程)
本工程では、正極層用ペースト、負極層用ペースト、固体電解質層用ペースト、集電体層用ペースト、電極分離部用ペーストおよび保護層用ペースト等の数種類のペーストをインクとして用いる。つまり、ペーストを印刷法で塗布することを通じて支持基体上に所定構造のペーストを形成する。
【0059】
印刷に際しては、所定の厚みおよびパターン形状で印刷層を順次、積層することによって、所定の固体電池の構造に対応する固体電池積層前駆体を基体上に形成することができる。パターン形成方法の種類は、所定のパターンを形成可能な方法であれば、特に限定されないが、例えば、スクリーン印刷法およびグラビア印刷法などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0060】
ペーストは、正極活物質、負極活物質、電子伝導性材料、固体電解質材料、集電体層材料、絶縁材、結着剤および導電性材料から成る群から適宜選択される各層の所定の構成材料と、有機材料を溶媒に溶解した有機ビヒクルとを湿式混合することによって作製することができる。正極層用ペーストは、例えば、正極活物質、電子伝導性材料、固体電解質材料、結着剤、導電性材料、有機材料および溶媒を含む。負極層用ペーストは、例えば、負極活物質、電子伝導性材料、固体電解質材料、結着剤、導電性材料、有機材料および溶媒を含む。固体電解質層用ペーストは、例えば、固体電解質材料、結着剤、導電性材料、有機材料および溶媒を含む。正極集電体層用ペーストおよび負極集電体層用ペーストは、電子伝導性材料、結着剤、導電性材料、有機材料および溶媒を含む。保護層用ペーストは、例えば、絶縁材、結着剤、有機材料および溶媒を含む。
【0061】
ペーストに含まれる有機材料は特に限定されないが、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂およびポリビニルアルコール樹脂などから成る群から選択される少なくとも1種の高分子材料を用いることができる。溶媒の種類は、特に限定されないが、例えば、酢酸ブチル、N-メチル-ピロリドン、トルエン、テルピネオールおよびN-メチル-ピロリドン等の有機溶媒のうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0062】
湿式混合ではメディアを用いることができ、具体的には、ボールミル法またはビスコミル法等を用いることができる。一方、メディアを用いない湿式混合方法を用いてもよく、サンドミル法、高圧ホモジナイザー法またはニーダー分散法等を用いることができる。
【0063】
支持基体は、各ペースト層を支持可能な支持体であれば、特に限定されないが、例えば、一面に離型処理が施された離型フィルムなどである。具体的には、ポリエチレンテレフタレート等の高分子材料から成る基体を用いることができる。各ペースト層を基体上に保持したまま焼成工程に供する場合には、基体は焼成温度に対して耐熱性を呈するものを使用してよい。
【0064】
塗布したペーストを、30℃以上50℃以下に加熱したホットプレート上で乾燥させることで、基体(例えばPETフィルム)上に所定の形状、厚みを有する正極層グリーンシート、負極層グリーンシート、固体電解質グリーンシート、絶縁層グリーンシートおよび/または保護層グリーンシート等をそれぞれ形成する。
【0065】
次に、各グリーンシートを基体から剥離する。剥離後、積層方向に沿って、一方の電池構成単位の各構成要素のグリーンシートを順に積層することで固体電池積層前駆体を形成する。積層後、電極グリーンシートの側部領域にスクリーン印刷により固体電解質層、絶縁層および/または保護層等を供してもよい。
【0066】
(焼成工程)
焼成工程では、固体電池積層前駆体を焼成に付す。あくまでも例示にすぎないが、焼成は、酸素ガスを含む窒素ガス雰囲気中または大気中で、例えば500℃にて有機材料を除去した後、窒素ガス雰囲気中または大気中で例えば550℃以上5000℃以下で加熱することで実施する。焼成は、積層方向(場合によっては積層方向および当該積層方向に対する垂直方向)で固体電池積層前駆体を加圧しながら行ってよい。
【0067】
そのような焼成を経ることによって、固体電池積層体が形成され、最終的には所望の固体電池が得られることになる。
【0068】
ここで、平面視で電極層よりも幅狭の電極引出部を形成する場合、および必要に応じて電極層よりも厚さの小さい電極引出部を形成する場合、例えば、以下に説明する、正極グリーンシートの形成工程、負極グリーンシートの形成工程、固体電池積層体の形成工程、ならびに正極端子および負極端子の形成工程を用いることができる。
【0069】
[正極グリーンシートの形成工程]
最初に、固体電解質と、溶媒と、必要に応じて電解質結着剤などとを混合することにより、固体電解質層用ペーストを調製する。続いて、基体の一面に固体電解質層用ペーストを塗布することにより、固体電解質層を形成する。
【0070】
続いて、正極活物質と、溶媒と、必要に応じて正極活物質結着剤などとを混合することにより、正極ペーストを調製する。続いて、パターン形成方法を用いて、固体電解質層の表面に正極ペーストを塗布する。この際、平面視で、正極層から引き出された正極引出部が正極層の本体(基部ともいう)よりも幅狭となるように正極ペーストを塗布する。なお、正極層が、2つの正極活物質層が正極集電体層を介して積層された構成を有する場合には、引き出された正極集電体層が正極層の基部よりも幅狭となるように正極集電体用ペーストを塗布する。
【0071】
最後に、正極層の上に、固体電解質層用ペーストを塗布する。これにより、平面視で、引き出された正極引出部が正極層の基部よりも幅狭である正極グリーンシートが得られる。
【0072】
[負極グリーンシートの形成工程]
上記のように、基体の一面に固体電解質層用ペーストを塗布することにより、固体電解質層を形成する。
【0073】
続いて、負極活物質と、溶媒と、必要に応じて負極活物質結着剤などとを混合することにより、負極ペーストを調製する。続いて、パターン形成方法を用いて、固体電解質層の表面に負極ペーストを塗布する。この際、平面視で、負極層から引き出された負極引出部が負極層の本体(基部ともいう)よりも幅狭となるように負極ペーストを塗布する。なお、負極層が、2つの負極活物質層が負極集電体層を介して積層された構成を有する場合には、引き出された負極集電体層が負極層の基部よりも幅狭となるように負極集電体用ペーストを塗布する。
【0074】
最後に、負極層の上に、固体電解質層用ペーストを塗布する。これにより、平面視で、引き出された負極引出部が負極層の基部よりも幅狭である負極グリーンシートが得られる。
【0075】
以上、正極および負極グリーンシートに関し、電極層の基部から引き出された電極引出部が、平面視で電極層の基部よりも幅狭となるように形成する方法について説明したが、電極引出部の厚さを電極層の厚さよりも小さくする場合は、例えば、以下の方法を用いることができる。
【0076】
基体の一面に固体電解質層用ペーストを塗布することにより、固体電解質層を形成する際、固体電解質層が凹型となるように、両端が厚くなるように塗布する。一方の端部はこの後に塗布する電極層と同一の高さとなるよう厚く塗布し、他方の端部は、一方の端部よりも薄く塗布する。続いて、パターン形成方法を用いて、固体電解質層の表面(すなわち、固体電解質層の凹み部分および薄く形成した部分)に正極ペーストを塗布する。この際、固体電解質層の薄く形成した部分の表面について、正極ペーストを薄く塗布することで端部が凹み部となるように正極層を形成する。最後に、正極層端部の表面の凹み部に、固体電解質層用ペーストを塗布する。これにより、正極層端部の正極ペーストを薄く塗布した部分は、正極層よりも厚さが小さい正極引出部となる。なお、正極層が、2つの正極活物質層が正極集電体層を介して積層された構成を有する場合には、そもそも、正極集電体層の厚さは正極層の厚さよりも小さくなる。また、負極層の場合も、正極層の場合と同様にして、負極層よりも厚さが小さい負極引出部を形成することができる。
【0077】
[固体電池積層体の形成工程]
最初に、保護固体電解質と、溶媒と、必要に応じて保護結着剤などとを混合することにより、保護ペーストを調製する。または、保護固体電解質と、溶媒と、絶縁材と、必要に応じて保護結着剤などとを混合することにより、保護ペーストを調製する。続いて、基体の一面に保護ペーストを塗布することにより、保護層を形成する。
【0078】
続いて、保護層の上に、基体から剥離された負極グリーンシートと、正極グリーンシートとをこの順に交互に積層させる。
【0079】
続いて、固体電解質層の形成手順と同様の手順により、基体から剥離された負極グリーンシートの上に固体電解質層を形成したのち、保護層の形成手順と同様の手順により、固体電解質層の上に保護層を形成する。次いで、最下層の基材を剥離させることで、固体電池積層前駆体が形成される。
【0080】
最後に、固体電池積層前駆体を加熱する。この場合には、固体電池積層前駆体を構成する一連の層が焼結されるように加熱温度を設定する。加熱時間などの他の条件は、任意に設定可能である。
【0081】
この加熱処理により、固体電池積層前駆体を構成する一連の層が焼結されるため、その一連の層が熱圧着される。よって、固体電池積層体が形成される。
【0082】
[正極端子および負極端子のそれぞれの形成工程]
例えば、導電性接着剤を用いて固体電池積層体に正極端子を接着させると共に、例えば、導電性接着剤を用いて固体電池積層体に負極端子を接着させる。これにより、正極端子および負極端子のそれぞれが固体電池積層体に取り付けられるため、固体電池が完成する。
【0083】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。例えば、上記の実施の形態では、正極引出部と負極引出部の両方が、積層方向における中心線が互いに重ならないように配置されている例について説明したが、正極引出部だけが、積層方向における中心線が互いに重ならないように配置されている態様も可能である。また、負極引出部だけが、積層方向における中心線が互いに重ならないように配置されている態様も可能である。これらの態様であっても、上記の実施の形態に係る固体電池を同様の効果を有する。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の固体電池は、電池使用または蓄電が想定される様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の固体電池は、モバイル機器などが使用される電気・情報・通信分野(例えば、携帯電話、スマートフォン、ノートパソコンおよびデジタルカメラ、活動量計、アームコンピューター、電子ペーパーなどや、RFIDタグ、カード型電子マネー、スマートウォッチなどの小型電子機などを含む電気・電子機器分野あるいはモバイル機器分野)、家庭・小型産業用途(例えば、電動工具、ゴルフカート、家庭用・介護用・産業用ロボットの分野)、大型産業用途(例えば、フォークリフト、エレベーター、湾港クレーンの分野)、交通システム分野(例えば、ハイブリッド車、電気自動車、バス、電車、電動アシスト自転車、電動二輪車などの電動車両の分野)、電力系統用途(例えば、各種発電、ロードコンディショナー、スマートグリッド、一般家庭設置型蓄電システムなどの分野)、医療用途(イヤホン補聴器などの医療用機器分野)、医薬用途(服用管理システムなどの分野)、ならびに、IoT分野、宇宙・深海用途(例えば、宇宙探査機、潜水調査船などの分野)などに利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1,51,52 固体電池
2 積層体
2a 第1端面
2b 第2端面
3 第1外部電極
4 第2外部電極
21 正極層
21a 正極活物質層
21b 正極集電体層
22 負極層
22a 負極活物質層
22b 負極集電体層
211b,212b,213b,214b,215b,211b2,212b2,213b2,214b2,215b2,311b,315b,311b2,611b.612b,613b,614b 正極引出部
221b,222b,223b,224b,225b,621b,622b,623b,624b 負極引出部