(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】スペアタイヤの固定構造および車両
(51)【国際特許分類】
B62D 43/04 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
B62D43/04 Z
(21)【出願番号】P 2023011172
(22)【出願日】2023-01-27
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞智 貞治
(72)【発明者】
【氏名】山梨 大貴
(72)【発明者】
【氏名】夏目 慶樹
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-079000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 43/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられたブラケットに吊り上げ機を設置し、前記吊り上げ機により吊り上げられたスペアタイヤを前記ブラケットに固定するスペアタイヤの固定構造であって、
前記ブラケットは、水平方向に沿って平面状に広がる座面部と、座面部の両側のそれぞれから下方向に延在する両脚部と有し、
前記吊り上げ機は前記座面部の上面側に設置され、
前記両脚部は、吊り上げられたスペアタイヤのホイールに当接し、
前記座面部の下面側には、前記スペアタイヤが吊り上げられた場合に前記座面部の撓みを抑えるための補強部材が配置され、
前記補強部材は、下方向に延在するフランジを有し、
前記フランジにおける下方向に延在する端部である下側縁部は、上方向に凹んでいる、
スペアタイヤの固定構造。
【請求項2】
前記下側縁部は、上方向に湾曲状に凹んでいる湾曲部を有している、
請求項1に記載のスペアタイヤの固定構造。
【請求項3】
前記下側縁部は、上方向に切り欠かれたように凹んでいる切り欠き部を有している、
請求項1に記載のスペアタイヤの固定構造。
【請求項4】
前記座面部は、上下方向に貫通する貫通穴を有し、
前記吊り上げ機は、前記貫通穴の上方向の位置に配置され、支持部材によって前記貫通穴の周縁部における所定位置に固定され、
前記補強部材は、前記所定位置に対応して配置される、
請求項1から3のいずれか一項に記載のスペアタイヤの固定構造。
【請求項5】
前記吊り上げ機は、前記貫通穴に通され、前記スペアタイヤを吊り上げるためのチェーンを有する、
請求項4に記載のスペアタイヤの固定構造。
【請求項6】
前記ホイールのハブ穴を横断するように延在し、延在する方向の両端に位置し、前記ハブ穴の周縁部に係止する両端部、および、前記延在する方向の中央部に位置し、前記チェーンの先端部が連結される中央部を有するフック部材をさらに備える、
請求項5に記載のスペアタイヤの固定構造。
【請求項7】
前記フック部材は、前記ホイールに対する前記フック部材の位置決めが可能なように前記ハブ穴に嵌合する爪部を有する、
請求項6に記載のスペアタイヤの固定構造。
【請求項8】
前記ブラケットは、一対のサイドメンバに掛け渡されるように配置される、
請求項
1に記載のスペアタイヤの固定構造。
【請求項9】
請求項
1に記載のスペアタイヤの固定構造を備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スペアタイヤの固定構造および車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、走行中にタイヤがパンクしたとき等に交換するためのスペアタイヤが搭載されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、左右のサイドメンバに渡って架設したクロスメンバにスペアタイヤを固定するスペアタイヤの搭載装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両のフレームの形状等の共通化や、スペアタイヤの搭載位置の制限によって、スペアタイヤを固定する固定用のブラケットと、スペアタイヤとのバランスが悪化し、ブラケットの強度が不十分になる場合がある。
また、ブラケットの強度を上げるために、補強部材を配置する場合、補強部材の配置位置や、補強部材の形状等によっては、スペアタイヤがブラケットに安定して固定されているか否かを作業者等が視認する場合、補強部材が邪魔して、視認性を確保することが困難になるという問題がある。
【0006】
本開示の目的は、ブラケットの強度を上げることが可能、かつ、視認性を確保することが可能なスペアタイヤの固定構造および車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本開示におけるスペアタイヤの固定構造は、
車両に設けられたブラケットに吊り上げ機を設置し、前記吊り上げ機により吊り上げられたスペアタイヤを前記ブラケットに固定するスペアタイヤの固定構造であって、
前記ブラケットは、水平方向に沿って平面状に広がる座面部と、座面部の両側のそれぞれから下方向に延在する両脚部と有し、
前記吊り上げ機は前記座面部の上面側に設置され、
前記両脚部は、吊り上げられたスペアタイヤのホイールに当接し、
前記座面部の下面側には、前記スペアタイヤが吊り上げられた場合に前記座面部の撓みを抑えるための補強部材が配置され、
前記補強部材は、下方向に延在するフランジを有し、
前記フランジにおける下方向に延在する端部である下側縁部は、上方向に凹んでいる。
【0008】
本開示における車両は、上記のスペアタイヤの固定構造を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ブラケットの強度を上げることができ、かつ、視認性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態における車両のフレームを部分的に示す部分平面図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施の形態における車両のフレームを部分的に示す部分斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1のA-A線におけるブラケット等の断面を示す部分拡大断面図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施の形態におけるスペアタイヤの固定作業を示す説明図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施の形態におけるスペアタイヤの固定構造のブラケットを示す斜視図である。
【
図7】
図7は、本開示の実施の形態におけるスペアタイヤの固定構造を示す説明図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施の形態における補強部材を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、貫通穴、フック部材および補強部材のそれぞれの位置関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本開示の実施の形態における車両のフレームを部分的に示す部分平面図である。
図1には、TL軸、BL軸およびWL軸が描かれている。
図1において左右方向を車両前後向又はTL方向といい、右方向を車両後方向、車両後側または「+TL方向」、左方向を車両前方向、車両前側または「-TL方向」という。また、
図1において、上下方向を車幅方向又はBL方向といい、上方向を車幅方向一側又は「+BL方向」、下方向を車幅方向他側又は「-BL方向という。」また、
図1の紙面において、奥行き方向を上下方向又はWL方向といい、手前方向を上方向、上側又は「+WL方向」、奥方向を下方向、下側又は「-WL方向」という。
【0012】
図2は、本開示の実施の形態における車両のフレームを部分的に示す部分斜視図である。
図1および
図2に示すように、車両1のフレーム2は、一対のサイドメンバ3,3aおよびクロスメンバ4,4aを有している。一対のサイドメンバ3,3aは、車幅方向(BL方向)で互いに所定の距離を離して配置されている。一対のサイドメンバ3,3aのそれぞれは、溝形断面を有し、溝形断面の溝口が車幅方向で互いに向き合うように配置され、車両前後方向(TL方向)に延在している。車幅方向一側(+BL方向)に配置されるサイドメンバ3は、溝底壁3b、および、溝両側壁(上側の溝側壁である上側側壁3c、下側の溝側壁である下側側壁3d)を有している。同様に、車幅方向他側(-BL方向)に配置されるサイドメンバ3aは、溝底壁3b、および、溝両側壁(上側の溝側壁である上側側壁3c、下側の溝側壁である下側側壁3d)を有している。
【0013】
クロスメンバ4は、車両前後方向(TL方向)の所定位置にあって、一対のサイドメンバ3,3aに架設されている。クロスメンバ4aは、クロスメンバ4よりも車両後方向(+TL方向)に配置され、一対のサイドメンバ3,3aに架設されている。
【0014】
本実施の形態においては、車幅方向一側に配置されたスペアタイヤ5を車両1に固定するためのスペアタイヤの固定構造100、および、車幅方向他側に配置されたスペアタイヤ5を車両1に固定するためのスペアタイヤの固定構造100Aが備えられている。スペアタイヤの固定構造100,100Aは、互いにほぼ同じ構成をしている。以下、スペアタイヤの固定構造100を代表して説明し、スペアタイヤの固定構造100Aについてはスペアタイヤの固定構造100と異なる構成を説明する。
【0015】
スペアタイヤの固定構造100は、ブラケット10、吊り上げ機20、支持部材30、チェーン40(
図3を参照)、フック部材50(
図3を参照)、爪部60(
図3を参照)および補強部材70(
図3を参照)を備えている。
【0016】
(スペアタイヤ5)
スペアタイヤ5は、金属製(スチール、アルミニウム、マグネシウムなど)のホイール6を有している。ホイール6の中央部にはハブ穴6a(
図3を参照)が配置されている。ハブ穴6aは、円形状の周縁部を有している。
【0017】
(ブラケット10)
ブラケット10は、クロスメンバ4よりも車両後側(+TL方向)であって、クロスメンバ4aよりも車両前側(-TL方向)に配置されている。ブラケット10は、車幅方向(BL方向)の中央部位置から車幅方向一側(+BL方向)に延在し、サイドメンバ3の下側側壁3dの位置からさらに車幅方向一側(+BL方向)に延在している。また、ブラケット10は、車幅方向の中央部位置から車幅方向他側(-BL方向)に延在し、サイドメンバ3aの下側側壁3dの位置からさらに車幅方向他側に延在している。
【0018】
図3は、
図1のA-A線におけるブラケット10等の断面を示す部分拡大断面図である。
図1、
図2および
図3に示すように、ブラケット10は、逆U字状断面に形成され、座面部11と、両脚部12とを有している。座面部11は、水平方向に沿って広がる平板部である。両脚部12の中の車両前側(-TL方向)に位置する脚部12は、座面部11における車両前側に位置する端部から下方向(-WL方向)に延在する。両脚部12の中の車両後側(+TL方向)に位置する脚部12は、座面部11における車両後側に位置する端部から下方向に延在する。車両前側の脚部12は、その下端部から車両前側(-TL方向)に延在する足底部13を有している。車両後側の脚部12は、その下端部から車両後側(+TL方向)に延在する足底部14を有している。座面部11における車幅方向(BL方向)の中央部位置から車幅方向一側(+BL方向)に延在する延在部は、サイドメンバ3における下方向に位置する下側側壁3dに締結されている。座面部11の車幅方向の中央部位置から車幅方向他側(-BL方向)に延在する延在部は、サイドメンバ3aにおける下方向に位置する下側側壁3dに締結されている。
【0019】
座面部11における車幅方向(BL方向)で中央に位置する中央部には貫通穴15が配置されている。また、座面部11における貫通穴15よりも車幅方向一側(+BL方向)には貫通穴16が配置されている。また、座面部11における貫通穴15よりも車幅方向他側(-BL方向)には貫通穴17が配置されている。貫通穴15,16,17のそれぞれは、車幅方向(BL方向)を長手方向とする長孔であって、上下方向(WL方向)に貫通している。
【0020】
(吊り上げ機20,20A)
図4は、本開示の実施の形態におけるスペアタイヤの固定作業を示す説明図である。
図5は、本開示の実施の形態におけるスペアタイヤの固定構造のブラケットを示す斜視図である。
図6は、吊り上げ機等を示す斜視図である。
図7は、本開示の実施の形態におけるスペアタイヤの固定構造を示す説明図である。なお、
図4に補強部材70を省略して示している。また、
図5は吊り上げ機20等を省略して示している。
【0021】
図4から
図7に示すように、貫通穴16に対応する位置には吊り上げ機20が配置されている。貫通穴17に対応する位置には吊り上げ機20Aが配置されている。吊り上げ機20,20Aのそれぞれは、互いに同じ構成を有している。以下、吊り上げ機20を代表して説明し、吊り上げ機20Aの説明を省略する。
【0022】
貫通穴16の周縁部は、車両前側(-TL方向)、車両後側(+TL方向)、車幅方向一側(+BL方向)、および、車幅方向他側(-BL方向)のそれぞれに位置する前側直線状縁部16a、後側直線状縁部16b、一側円弧状縁部16c、および、他側円弧状縁部16dを有している。
【0023】
貫通穴17の周縁部は、車両前側(-TL方向)、車両後側(+TL方向)、車幅方向一側(+BL方向)、および、車幅方向他側(-BL方向)のそれぞれに位置する前側直線状縁部17a、後側直線状縁部17b、一側円弧状縁部17c、および、他側円弧状縁部17dを有している。
【0024】
図3、
図6及び
図7に示すように、吊り上げ機20は、本体21、スプロケット(不図示)、支持部材30、チェーン40、フック部材50、および、爪部60を備えている。
【0025】
本体21は、座面部11の上面側に配置されている。本体21は、車両前側(-TL方向)に面する前側壁部21a、車両後側(+TL方向)に面する後側壁部21b、および、前側壁部21aの上端部と後側壁部21bの上端部とを連結する連結壁部21cを有している。スプロケットは回転軸(不図示)を有している。回転軸は、前側壁部21aと後側壁部21bとの間に架設されている。回転軸は、後側壁部21bから車両後側に突出し、スペアタイヤ着脱操作用ハンドル(
図3を参照)に連結して回転操作される突出部21dを有している。
【0026】
(支持部材30,30A)
一対の支持部材30,30Aのそれぞれは座面部11の上面側に配置されている。支持部材30は、本体21よりも車幅方向一側(+BL方向)に配置されている。支持部材30Aは、本体21よりも車幅方向他側(-BL方向)に配置されている。支持部材30,30Aは、互いにほぼ同じ構成を有している。
【0027】
支持部材30は一側円弧状縁部16cよりも上方向(+WL方向)であって、車両前後方向(TL方向)に延在している。支持部材30は、略L字形状断面に形成され、支持壁部31および支持脚部32,33を有している。支持壁部31における車両前後方向で中央に位置する中央部は、前側壁部21aおよび後側壁部21bに対して車幅方向一側(+BL方向)から固定されている。支持脚部32は、支持壁部31における車両前側(-TL方向)に位置する端部から車幅方向他側(-BL方向)に延在し、一側円弧状縁部16cにおける前側に位置する前端部に締結具(
図6に示すボルト等)で締結されている。支持脚部33は、支持壁部31における車両後側(+TL方向)に位置する端部から車幅方向他側に延在し、一側円弧状縁部16cにおける後側に位置する後側部に締結具で締結されている。
【0028】
支持部材30Aは貫通穴16を跨ぐように車両前後方向(TL方向)に延在している。支持部材30Aは、略L字形状断面に形成され、支持壁部31Aおよび支持脚部32A,33Aを有している。支持壁部31Aにおける車両前後方向で中央に位置する中央部は、前側壁部21aおよび後側壁部21bに対して車幅方向他側(-BL方向)から固定されている。支持脚部32Aは、支持壁部31Aにおける前側に位置する端部から車幅方向一側(+BL方向)に延在し、前側直線状縁部16aに締結具(
図6に示すボルト等)で締結されている。支持脚部33Aは、支持壁部31Aにおける車両後側(+TL方向)に位置する端部から車幅方向一側に延在し、後側直線状縁部16bに締結具で締結されている。
【0029】
以上の構成によって、吊り上げ機20の本体21は、支持部材30,30Aを介して座面部11における4箇所(貫通穴16の一側円弧状縁部16cの前端部、一側円弧状縁部16cの後側部、前側直線状縁部16a、および、後側直線状縁部16b)で支持されている。吊り上げ機20によってスペアタイヤ5を吊り上げて固定する場合、上記の4箇所において比較的大きな撓みが生じる。なお、上記の4箇所が本開示の「貫通穴の周縁部における所定位置」に対応する。座面部11の撓みを全体的に見ると、座面部11における車両前後方向(TL方向)に位置する中央部よりも車両前側(-TL方向)に位置する端部、および、中央部よりも車両後側(+TL方向)に位置する端部に比較的大きな撓みが生じる。
【0030】
一方、吊り上げ機20Aの本体21は、支持部材30,30Aを介して座面部11における4箇所(貫通穴17の他側円弧状縁部17dの前端部、他側円弧状縁部17dの後側部、前側直線状縁部17a、および、後側直線状縁部17b)で支持されている。吊り上げ機20Aによってスペアタイヤ5を吊り上げて固定する場合、上記の4箇所において比較的大きな撓みが生じる。なお、上記の4箇所が本開示の「貫通穴の周縁部における所定位置」に対応する。座面部11の撓みを全体的に見ると、座面部11における車両前後方向に位置する中央部よりも車両前側に位置する端部、および、中央部よりも車両後側に位置する端部に比較的大きな撓みが生じる。
【0031】
(チェーン40)
チェーン40は、スプロケットに巻き付けられている。チェーン40の先端部側は、貫通穴16を通って下方向(-WL方向)に延在している。チェーン40の先端部には連結部51が設けられている。
【0032】
(フック部材50)
フック部材50は、ハブ穴6aを横断するように車両前後方向(TL方向)に延在している。フック部材50の車両後側(+TL方向)に延在する端部は、ハブ穴6aの周縁部における後側縁部に下方向(-WL方向)から係止する。フック部材50の車両前側(-TL方向)に延在する端部は、ハブ穴6aの周縁部における前側縁部に下方向(-WL方向)から係止する。フック部材50の車両前後方向の中央部は、連結部51を介してチェーン40の先端部に連結されている。連結部51は、U字状部材52、プレート部材53およびコイルバネ54を有している。U字状部材52は、曲線状部55および2本の直線状部56を有している。曲線状部55は、フック部材50よりも上方向(+WL方向)に配置されている。2本の直線状部56のそれぞれは、曲線状部55の両端部のそれぞれからフック部材50よりも下方向(-WL方向)に延在している。プレート部材53は、両方の直線状部56の下端部に掛け渡され、固定されている。コイルバネ54は、フック部材50とプレート部材53との間に配置されている。
【0033】
次に、チェーン40について
図3を参照して説明する。なお、
図3にチェーン40を簡略化して「直線」で示す。フック部材50がハブ穴6aの周縁部における前側縁部および後側縁部に係止しているため、スプロケットがチェーン40を巻き上げることによって、ホイール6が吊り上げられる。ホイール6が吊り上げられた場合、車両前側の足底部13がハブ穴6aの周縁部における前側縁部に当接し、車両後側の足底部14がハブ穴6aの周縁部における後側縁部に当接する。これにより、スペアタイヤ5がブラケット10に固定される。
【0034】
(爪部60)
爪部60は、フック部材50の車両前後方向(TL方向)の両端部のそれぞれに配置され、フック部材50よりも上方向(+WL方向)に突設されている。車両前側に配置される爪部60は、ハブ穴6aの周縁部における前側縁部に当接可能に配置され、かつ、車両後側に配置される爪部60は、ハブ穴6aの周縁部における後側縁部に当接可能に配置される。爪部60は、ハブ穴6aの周縁部に当接可能に配置されることで、フック部材50の車両前後方向の移動を制限する。これにより、ホイール6に対するフック部材50の位置決めが可能となる。なお、説明を分かり易くするため、上記2つの爪部60がフック部材50の車両前後方向(TL方向)の両端部のそれぞれに配置され、ハブ穴6aの周縁部における前側縁部および後側延部に当接可能である態様を示したが、本開示はこれに限定されない。2つの爪部60がハブ穴6aの周縁部における任意の縁部および当該任意の縁部にハブ穴6aの中央部を間にして対向する縁部に当接可能であることは言うまでもない。
【0035】
以上の構成によって、吊り上げ機20がスペアタイヤ5を吊り上げてブラケット10に固定する場合、吊り上げ固定時の荷重は、上記の4箇所(一側円弧状縁部16cの前端部、一側円弧状縁部16cの後側部、前側直線状縁部16a、および、後側直線状縁部16b)にかかる。一方、吊り上げ機20Aがスペアタイヤ5を吊り上げてブラケット10に固定する場合、吊り上げ固定時の荷重は、上記の4箇所(貫通穴17の他側円弧状縁部17dの前端部、他側円弧状縁部17dの後側部、前側直線状縁部17a、および、後側直線状縁部17b)にかかる。
【0036】
吊り上げ機20がスペアタイヤ5を吊り上げてブラケット10に固定する場合の荷重がかかる箇所と、吊り上げ機20Aがスペアタイヤ5を吊り上げてブラケット10に固定する場合の荷重がかかる箇所とは、互いに異なるが、スペアタイヤ5を吊り上げてブラケット10に固定する場合に、荷重が貫通穴16,17の周縁部の4箇所にかかることは同じである。また、同じ荷重を受けた場合、座面部11における貫通穴16,17の周縁部は、貫通穴が穿設されていない他の箇所に比較して大きな撓みが生じる部位である。車両1のフレーム2の形状等の共通化や、スペアタイヤ5の搭載位置の制限によって、吊り上げ機20の本体21が支持される部位が、貫通穴16,17の周縁部などの比較的に大きな撓みが生じる部位である場合がある。この場合、本体21が支持される部位の強度を上げる必要がある。本実施の形態では、吊り上げ機20の本体21が支持される部位の強度を上げるための補強部材70が設けられている。
【0037】
また、吊り上げ機20,20Aがスペアタイヤ5を吊り上げてブラケット10に固定する場合において、車両前側の足底部13がハブ穴6aの周縁部における前側縁部に当接し、車両後側の足底部14がハブ穴6aの周縁部における後側縁部に当接する。これにより、スペアタイヤ5がブラケット10に所定の荷重で安定して固定される。ところで、例えば、足底部13(又は足底部14)と爪部60とが干渉する等の不具合で、足底部13がハブ穴6aの周縁部における前側縁部に当接しない場合や、足底部14がハブ穴6aの周縁部における後側縁部に当接しない場合、スペアタイヤ5がブラケット10に所定の荷重で固定されない場合や、スペアタイヤ5がブラケット10に安定して固定されない場合がある。したがって、作業者は、吊り上げ機20を用いてスペアタイヤ5を吊り上げてブラケット10に固定する場合、足底部13(又は足底部14)がハブ穴6aの周縁部における前側縁部(又は後側縁部)に当接していることを、貫通穴16(又は貫通穴17)を通して視認する必要がある。なお、本実施の形態では、貫通穴16(又は貫通穴17)の先に補強部材70が設けられるため、視認性を確保することが困難になる場合がある。本実施の形態では、後述するように、補強部材70に視認性を確保するための構造が設けられている。
【0038】
(補強部材70,70A)
図8は、本開示の実施の形態における補強部材を示す斜視図である。
図3、
図5、
図6および
図8に示すように、補強部材70は貫通穴16(
図5を参照)の周縁部の位置に対応して配置されている。また、補強部材70Aは貫通穴17(
図5を参照)の周縁部の位置に対応して配置されている。補強部材70は、吊り上げ機20の本体21が支持される部位の強度を上げるための部材である。また、補強部材70Aは、吊り上げ機20A(
図1を参照)の本体21が支持される部位の強度を上げるための部材である。なお、補強部材70,70Aは互いに同じ構成を有している。以下、補強部材70を代表して説明し、補強部材70Aの説明を省略する。
【0039】
補強部材70は、座面部11の下面側に配置されている。補強部材70は、矩形の枠体71を有している。枠体71は、枠体71によって囲まれる開口部78に対して車両前側(-TL方向)に位置する前側枠部72と、開口部78に対して車両後側(+TL方向)に位置する後側枠部73と、開口部78に対して車幅方向一側(+BL方向)に位置する一側枠部74と、開口部78に対して車幅方向他側(-BL方向)に位置する他側枠部75とを有している。前側枠部72は、一側枠部74の車両前側端部と他側枠部75の車両前側端部とを連結している。後側枠部73は、一側枠部74の車両後側端部と他側枠部75の車両後側端部とを連結している。
【0040】
前側枠部72における車幅方向(BL方向)で中央に位置する中央部は、貫通穴16の前側直線状縁部16a(
図3を参照)にスポット溶接(
図5を参照)で固定されている。前側枠部72における中央部よりも車幅方向一側(+BL方向)端部は、締結具(
図6に示すボルト等)によって座面部11および支持脚部32に共締めされる。前側枠部72における中央部よりも車幅方向他側(-BL方向)端部は、締結具によって座面部11および支持脚部32Aに共締めされている。前側枠部72には、締結具を通すための下穴79が配置されている。
【0041】
後側枠部73における車幅方向(BL方向)で中央に位置する中央部は、貫通穴16の後側直線状縁部16b(
図3を参照)にスポット溶接(
図5を参照)で固定されている。後側枠部73における中央部よりも車幅方向一側(+BL方向)端部は、締結具(
図6に示すボルト等)によって座面部11および支持脚部33に共締めされている。後側枠部73の中央部よりも車幅方向他側(-BL方向)の端部は、締結具によって座面部11および支持脚部33Aに共締めされている。後側枠部73には、締結具を通すための下穴79が配置されている。
【0042】
一側枠部74および他側枠部75のそれぞれは、フランジ76を有している。一側枠部74および他側枠部75のそれぞれが有するフランジ76は、車幅方向(BL方向)で対称的に構成されている。
【0043】
(フランジ76)
フランジ76は、座面部11が有する下面の位置から下方向(-WL方向)に延在している。前述するように、吊り上げ機20がスペアタイヤ5を吊り上げてブラケット10に固定する場合、作業者は、足底部13(又は足底部14)がハブ穴6aの周縁部における前側縁部(又は後側縁部)に当接しているか否かを示す当否状態を、貫通穴16(貫通穴17)を通して視認する必要がある。ところで、視認する方向で貫通穴16の先にフランジ76が位置し、視認する方向でフランジ76の先に足底部13(又は足底部14)が位置しているため、フランジ76が設けられる位置や、フランジ76の形状によっては、当否状態を視認しづらくなることで、視認性を確保することが困難になる場合がある。例えば、フランジ76の丈(上下方向の長さ)に応じて、視認性を確保することが困難になる。
【0044】
本実施の形態では、視認性を確保するため、フランジ76における下方向(-WL方向)に延在する端部である下側縁部は、上方向に湾曲状に凹入する湾曲部77を有している。フランジ76における車両前後方向(TL方向)で中央に位置する中央部が有する丈(上下方向の長さ)は、中央部よりも車両前側(-TL方向)に位置する端部が有する丈や、中央部よりも車両後側(+TL方向)に位置する端部が有する丈よりも短い。中央部の丈を短くすることにより、当接状態の見づらさが抑えられるため、視認性を確保することができる。換言すれば、フランジ76においては、中央部よりも車両前側(-TL方向)に位置する端部、および、中央部よりも車両後側(+TL方向)に位置する端部のそれぞれの丈は中央部の丈よりも長い。フランジ76における端部の丈、中央部の丈、湾曲部77の曲率半径等は、シミュレーションや実験の結果に基づいて、強度の確保および視認性の確保の観点から定められる。
【0045】
前述するように、吊り上げ機20によってスペアタイヤ5を吊り上げて固定する場合、座面部11の撓みを全体的に見ると、座面部11における車両前後方向(TL方向)に位置する中央部よりも車両前側(-TL方向)に位置する端部、および、中央部よりも車両後側(+TL方向)に位置する端部に比較的大きな撓みが生じる。
【0046】
また、前述するように、フランジ76においては、中央部よりも車両前側(-TL方向)に位置する端部、および、中央部よりも車両後側(+TL方向)に位置する端部のそれぞれの丈は中央部の丈よりも長い。つまり、座面部11において、比較的大きな撓みが生じる箇所(端部)と、丈が長い箇所(端部)とが対応しているため、座面部11に生じる撓みを抑えることができる。これにより、補強部材70が所定の強度を有することができる。
【0047】
図9は、貫通穴16、フック部材50および補強部材70のそれぞれの位置関係を示す説明図である。
図9に示すように、車両前後方向(TL方向)において、開口部78が有する長さは、貫通穴16が有する長さよりも長い。貫通穴16が有する長さは、フック部材50が有する長さよりも長い。
【0048】
また、車幅方向(BL方向)において、貫通穴16が有する長さは、開口部78が有する長さよりも長い。開口部78が有する長さは、フック部材50が有する長さよりも長い。以上の構成により、フック部材50を貫通穴16(開口部78)に通すことが可能となる。
【0049】
上記実施の形態におけるスペアタイヤの固定構造100は、車両1に設けられたブラケット10に吊り上げ機20を設置し、吊り上げ機20により吊り上げられたスペアタイヤ5をブラケット10に固定するスペアタイヤの固定構造であって、ブラケット10は、逆U字状断面に形成され、水平方向に沿って平面状に広がる座面部11と、座面部11の両側のそれぞれから下方向に延在する両脚部12と有し、吊り上げ機20は座面部11の上面側に設置され、両脚部12は、吊り上げられたスペアタイヤ5のホイール6に当接し、座面部11の下面側には、スペアタイヤ5が吊り上げられた場合に座面部11の撓みを抑えるための補強部材70が配置され、補強部材は、下方向に延在するフランジ76を有し、フランジ76における下方向に延在する端部である下側縁部は、上方向に凹入している。
【0050】
上記構成によれば、これにより、座面部11の下面側に補強部材70が配置され、補強部材70は下方向に延在するフランジ76を有しているため、ブラケット10の強度を上げることが可能となる。ところで、ブラケット10の両脚部12がホイール6に当接しているか否かを視認する必要があるが、フランジ76が下方向に延在しているため、フランジ76が設けられている位置や、フランジの丈(上下方向の長さ)によっては、両脚部12がホイール6に当接しているか否かを示す当否状態を視認しづらくなるが、フランジ76が上方向に湾曲状に凹入する湾曲部77を有しているため、当否状態の視認しづらさを抑えることができるため、視認性を確保することが可能となる。
【0051】
また、上記実施の形態におけるスペアタイヤの固定構造100では、座面部11は、上下方向に貫通する貫通穴16を有し、吊り上げ機20は、貫通穴16の上方向の位置に配置され、支持部材30,30Aによって貫通穴16の周縁部における所定位置に固定されている。上記のように、座面部11が貫通穴16を有する場合、座面部11の上側から貫通穴16を通して、座面部11の下方向に位置する両脚部12とホイール6との当否状態を視認する場合であって、視認する方向で貫通穴16の先にフランジ76が位置する場合、フランジ76が湾曲部77を有しているため、視認性を確保することが可能となる。
【0052】
また、上記実施の形態におけるスペアタイヤの固定構造100では、吊り上げ機20は、貫通穴16に通され、スペアタイヤ5を吊り上げるためのチェーン40を有する。これにより、貫通穴16は、チェーン40を通すための穴として、また、当否状態を視認するための穴として利用することが可能となる。
【0053】
また、上記実施の形態におけるスペアタイヤの固定構造100では、ホイール6のハブ穴6aを横断するように延在し、延在する方向の両端に位置し、ハブ穴6aの周縁部に係止する両端部、および、延在する方向の中央部に位置し、チェーン40の先端部が連結される中央部を有するフック部材50をさらに備える。これにより、スペアタイヤ5を装着操作する場合、フック部材50の両端部をハブ穴6aの周縁部に係止すれば、スペアタイヤ5が吊り上げ機20側に連結できるため、スペアタイヤ5を容易に吊り上げて固定することが可能となる。また、スペアタイヤ5の離脱操作する場合、フック部材50の両端部をハブ穴6aの周縁部から外せば、スペアタイヤ5が吊り上げ機20側から離脱できるため、スペアタイヤ5を容易に離脱させることが可能となる。
【0054】
また、上記実施の形態におけるスペアタイヤの固定構造100では、フック部材50は、ホイール6に対するフック部材50の位置決めが可能なようにハブ穴6aに嵌合する爪部60を有する。これにより、ホイール6に対するフック部材50のずれ防止になるため、スペアタイヤ5をさらに容易に吊り上げて固定することが可能となる。
【0055】
また、上記実施の形態におけるスペアタイヤの固定構造100では、ブラケット10は、一対のサイドメンバ3,3aに掛け渡されるように配置される。これにより、ブラケット10の両端部が車両1のフレーム2を構成するサイドメンバ3,3aに固定されるため、ブラケット10の強度を上げることが可能となる。
【0056】
なお、上記実施の形態では、一対のサイドメンバ3,3aに掛け渡されるクロスメンバ(例えば、クロスメンバ4や、クロスメンバ4aなど)をブラケットとして用いてもよい。
【0057】
なお、上記実施の形態では、フランジ76の下側縁部は上方向に切り欠かれたように凹入する切り欠き部を有してもよい。フランジ76を有していることで、両脚部12がホイールに当接しているか否かを示す当否状態を視認しづらくなるが、フランジ76が上方向に凹入する切り欠き部を有しているため、当否状態の視認しづらさを抑えることができる。これにより、視認性を確保することが可能となる。フランジ76が切り欠き部を有する場合においても、フランジ76における端部の丈、中央部の丈、切り欠き部の凹入する深さ等は、シミュレーションや実験の結果に基づいて、強度の確保および視認性の確保の観点から定められる。
【0058】
その他、上記実施の形態は、何れも本開示の実施をするにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本開示の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本開示はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本開示は、ブラケットの強度を上げることが可能、かつ、視認性を確保することが可能なスペアタイヤの固定構造を備えた車両に好適に利用される。
【符号の説明】
【0060】
1 車両
2 フレーム
3 サイドメンバ
3a サイドメンバ
3b 溝底壁
3c 上側側壁
3d 下側側壁
4 クロスメンバ
4a クロスメンバ
5 スペアタイヤ
6 ホイール
6a ハブ穴
10 ブラケット
11 座面部
12 両脚部
13 足底部
14 足底部
15 貫通穴
16 貫通穴
16a 前側直線状縁部
16b 後側直線状縁部
16c 一側円弧状縁部
16d 他側円弧状縁部
17 貫通穴
17a 前側直線状縁部
17b 後側直線状縁部
17c 一側円弧状縁部
17d 他側円弧状縁部
20 吊り上げ機
20A 吊り上げ機
21 本体
21a 前側壁部
21b 後側壁部
21c 連結壁部
21d 突出部
30 支持部材
30A 支持部材
31 支持壁部
31A 支持壁部
32 前側の支持脚部
32A 前側の支持脚部
33 後側の支持脚部
33A 後側の支持脚部
40 チェーン
50 フック部材
51 連結部
52 U字状部材
53 プレート部材
54 コイルバネ
55 曲線状部
56 直線状部
60 爪部
70 補強部材
71 枠体
72 前側枠部
73 後側枠部
74 一側枠部
75 他側枠部
76 フランジ
77 湾曲部
78 開口部
79 下穴
【要約】
【課題】ブラケットの強度を上げることが可能、かつ、視認性を確保することが可能なスペアタイヤの固定構造および車両を提供する。
【解決手段】固定構造は、車両に設けられたブラケットに吊り上げ機を設置し、吊り上げ機により吊り上げられたスペアタイヤをブラケットに固定するスペアタイヤの固定構造であって、ブラケットは、水平方向に沿って平面状に広がる座面部と、座面部の両側のそれぞれから下方向に延在する両脚部と有し、吊り上げ機は座面部の上面側に設置され、両脚部は、吊り上げられたスペアタイヤのホイールに当接し、座面部の下面側には、スペアタイヤが吊り上げられた場合に座面部の撓みを抑えるための補強部材が配置され、補強部材は、下方向に延在するフランジを有し、フランジにおける下方向に延在する端部である下側縁部は、上方向に凹んでいる。
【選択図】
図3