(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】排水部構造
(51)【国際特許分類】
E03C 1/22 20060101AFI20240416BHJP
E03C 1/126 20060101ALI20240416BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20240416BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240416BHJP
A01N 43/80 20060101ALI20240416BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20240416BHJP
A01N 43/40 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
E03C1/22 B
E03C1/126
A01N25/10
A01P3/00
A01N43/80 102
A01N59/16 A
A01N43/40 101L
(21)【出願番号】P 2023021053
(22)【出願日】2023-02-14
(62)【分割の表示】P 2018029896の分割
【原出願日】2018-02-22
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2017108015
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017036170
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野田 昇作
(72)【発明者】
【氏名】吉田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】古賀 遼
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 愛子
(72)【発明者】
【氏名】松行 淳一
(72)【発明者】
【氏名】香坂 幸史
(72)【発明者】
【氏名】古田 直也
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-030263(JP,A)
【文献】国際公開第2012/090764(WO,A1)
【文献】特開2002-102087(JP,A)
【文献】特開2009-185537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/12-1/298
A01N 25/10
A01P 3/00
A01N 43/80
A01N 59/16
A01N 43/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水口を有する受け水体と、
周方向へ延出した外側端部を有し、前記排水口の表面に前記外側端部の前記受け水体側の部位が当接している状態で用いられる部材と
を備えてなる排水部構造であって、
前記受け水体は、抗菌防カビ剤を含まず、
前記外側端部を有する部材は、抗菌防カビ剤を含んでなる樹脂により形成され、
前記排水口と前記部材の外側端部とで入隅を形成し、
前記入隅において、前記外側端部を有する部材は、前記樹脂を表面に露出させてなり、
前記抗菌防カビ剤は、前記樹脂表面から水中に所定の速度で溶出可能であり、前記入隅に溜まった水中に溶出した抗菌防カビ剤によって前記受け水体の水に接触する領域に抗菌作用を発揮させることを特徴とする、排水部構造。
【請求項2】
前記樹脂において、前記抗菌防カビ剤を0.2質量%以上5.6質量%含む、請求項1に記載の排水部構造。
【請求項3】
前記外側端部を有する部材が、前記排水口を排水管に接続する排水フランジである、請求項1または2に記載の排水部構造。
【請求項4】
前記外側端部を有する部材が、ヘアキャッチャーである、請求項1または2に記載の排水部構造。
【請求項5】
前記抗菌防カビ剤が、無機系抗菌剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の排水部構造。
【請求項6】
前記抗菌防カビ剤が、有機系抗菌防カビ剤であり、
前記有機系抗菌防カビ剤は、ピリジン系またはチアゾリン系である、請求項1~5のいずれか一項に記載の排水部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受け水体の排水口と、排水口の表面に当接して用いられる部材とで形成される入隅の周辺において、カビなどによる汚れが生じ難い排水部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水まわり機器の受け水体と排水管の接続は、一般的には、受け水体の底面に形成された筒状の排水口を、排水フランジなどの排水接続部材(部材)を介して排水管に接続することにより行われる。排水接続部材として、例えば、外側端部を有し、この外側端部が排水管の表面に当接してなる構成が知られている(例えば、特開2014-214518号公報(特許文献1))。また、排水管に髪の毛や大きな固形物が入り込むことを防止するために、ヘアキャッチャーと呼ばれる部材を、排水口の内周面に当接させて配置することも行われており、このような部材もまた外側端部を有し、この外側端部が排水口の表面に当接される。
【0003】
このような排水口の内周面に外側端部を当接させる部材にあっては、外側端部と、排水口の内周面との間の入隅に汚水が溜まりやすい。排水口の内周面との間の入隅に汚水が溜まると、この汚水によって、菌が発生・増殖する。菌が発生・増殖すると、バイオフィルムを生成し、このバイオフィルムによって、カビが成長・繁殖してしまう。その結果、入隅に黒カビによる黒ずみや悪臭が発生してしまう恐れがある。
【0004】
このような入隅における菌やカビが繁殖を抑制する方法として、部材の表面に抗菌作用を有する抗菌剤を付与すること提案されている(特開2011-72868号公報(特許文献2))。しかしながら、入隅における部材側(部材表面)の菌やカビの繁殖は抑制できるが、入隅における排水口側(排水口表面)における菌およびカビの繁殖を抑制するには十分でないことが観察された。
【0005】
入隅における部材側および排水口側における菌およびカビの繁殖を抑制するために、排水口の表面にも抗菌作用を有する抗菌剤を付与することも考えられる。しかし、受け水体全体の表面に抗菌作用を有する抗菌剤を付与することはコストアップに繋がり、また水まわり機器の見栄えを低下させずに受け水体全体の表面にムラなく塗布する等の配慮が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-214518号公報
【文献】特開2011-72868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、排水口の表面に外側端部を当接して設置される部材において、受け水体に抗菌作用を有する抗菌剤を付与する必要なく、外側端部と排水口の内周面との間の入隅に水が溜まった場合にも、入隅における部材側のみならず、入隅における排水口側における菌の繁殖を有効に防止できるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0008】
従って、本発明は、排水口を有する受け水体と、この排水口の表面に外側端部が当接している状態で用いられる部材とを少なくとも備えてなる排水部構造であって、この排水口と外側端部と形成される入隅周辺の排水口表面における菌およびカビの繁殖が有効に防止される排水部構造の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明による排水部構造は、
排水口を有する受け水体と、
周方向へ延出した外側端部を有し、前記排水口の表面に前記外側端部が当接している状態で用いられる部材と
を備えてなる排水部構造であって、
前記排水口と前記外側端部とで入隅を形成し、
前記外側端部を有する部材は、抗菌作用を有する物質を含んでなる樹脂により形成されてなり、前記抗菌作用を有する物質が樹脂表面に溶出することを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明による排水部構造の防汚性が発揮される作用の説明図であり受け水体に形成された排水口の表面と、外側端部を有する部材との接触箇所の拡大図である。
【
図2】
図1における、外側端部を有する部材と、受け水体に形成された排水口2の表面3とが作る入隅4の拡大図である。
【
図3】本発明による排水部構造を備えた洗面台100の模式図である。
【
図4】本発明による排水部構造の好ましい具体例の斜視図である。
【
図5】本発明による排水部構造の好ましい具体例の断面図である。
【
図6】本発明の実施形態における排水フランジの断面図である。
【
図7】
図3における排水フランジの近傍を示す拡大図である。
【
図8】防汚評価試験2の試験状況を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の1つの実施の形態による水まわり機器の防汚性の発揮
本発明の1つの実施の形態による水まわり機器は、排水口を有する、熱硬化性樹脂または陶器により構成された受け水体と、この排水口の表面に外側端部が当接している状態で用いられる部材とを少なくとも備えてなる。本発明の1つの実施の形態にあっては、外側端部より上流側に位置する排水口の表面は、外側端部に向かうにつれ下方へ傾斜する勾配を有し、そして少なくとも外側端部が、抗菌作用を有する物質を含んでなる樹脂により形成されてなる。
【0012】
図1は、本発明の1つの実施の形態による水まわり機器の防汚性が発揮される作用の説明図であり、その詳細を後記する本発明の1つの実施の形態による水まわり機器のうち、受け水体に形成された排水口の表面と、外側端部を有する部材との接触箇所の拡大図である。
図1において、外側端部(鍔部)1が、ボウルなどの受け水体2の排水口の表面3に接触している状態を示す。本発明の1つの実施の形態において、この二つの部材の間には入隅4が形成される。さらに、後記するように、鍔部1より上流側に位置する排水口の表面3が、外側端部1に向かうにつれ下方へ傾斜する勾配を有する。
【0013】
本発明の1つの実施の形態にあっては、外側端部1より上流側に位置する排水口の表面3が、外側端部1に向かうにつれ下方へ傾斜する勾配を有する構成とされた結果、入隅4には水が留まりにくい。さらに本発明の1つの実施の形態にあっては、入隅4に水が溜まっても、この溜まった水中に樹脂より抗菌作用を有する物質が溶出する。
図2は、この抗菌の作用の説明図である。
図2に示されるように場合により水5が入隅4に滞留したとしても、この溜まった水5中に樹脂より抗菌作用を有する物質が溶出する。この抗菌作用を有する物質は、外側端部1の表面のみならず、入隅3に溜まった水が接する、外側端部1周辺の排水口表面、すなわち
図2中の領域6として示される箇所においても菌およびカビの繁殖を有効に防止できることとなる。その結果、排水口の表面と、この排水口の表面に外側端部が当接している状態で用いられる部材の双方の効率のよい防汚が達成できる。この効果は長期間に及ぶものとすることができる。また、入隅を形成する鍔部1の外側端部は、入隅を形成する排水口から離れる方向に向かうにつれ下方へ傾斜している。言い換えると、入隅を形成する鍔部1の外側端部は、排水口の孔の中心に向かうにつれ下方へ傾斜している。したがって、入隅に溜まった水5がより広がり、鍔部1の外側端部との接触面積が大きくなる。このことより、入隅に溜まった水5に対して、鍔部1の外側端部の表面に溶出した抗菌作用を有する物質をより多く溶け出しやすくすることができる。その結果、排水口の表面と、この排水口の表面に外側端部が当接している状態で用いられる部材の双方のより効率のよい防汚が達成できる。
【0014】
本発明の1つの実施の形態において、排水口の表面に外側端部が当接している状態で用いられる部材とは、後記する排水フランジに加え、ヘアキャッチャーのような排水口の表面に外側端部が当接するよう置かれるにとどまり、強固に固定までされない部材も包含するものである。
【0015】
排水部構造の好ましい態様
図3は、本発明の1つの実施の形態による排水部構造を備えた洗面台100の模式図であり、図中、ボウル部である受け水体110と、ボウル部110に吐水を行う水栓装置120と、ボウル部110の底面111に形成された排水口130とを有する。本発明の1つの実施の形態による排水部構造1は、ボウル部110の排水口130と接続され一体となって、排水口130と排水管150とを繋ぐものである。ボウル部110は、熱硬化性樹脂または陶器により構成されており、後に詳述する「抗菌作用を有する物質」が含まれていないものである。なお、本発明においては、ボウル部110全体に対して「抗菌作用を有する物質」が0.001質量%以下の濃度で含有しているものも、「抗菌作用を有する物質が含まれないもの」に含まれるものと定義している。また、例えば、本発明のボウル部110の態様においては、少なくとも、排水口130の表面には、「抗菌作用を有する物質」が付与されていない。この態様も、本発明における「抗菌作用を有する物質が含まれない」ボウル部110である。
【0016】
図4は本発明の1つの実施の形態による排水部構造の好ましい具体例の斜視図であり、
図5は本発明の1つの実施の形態による排水部構造の好ましい具体例の断面図である。
図4に表されるように、排水口130は、ボウル部110の底面111の一部が下方に凹んだ筒状に形成されている。排水口130の内周面131は、上方から下方に向かい滑らかに傾斜し、徐々に絞られて形成されている。つまり、内周面131の上端よりも、内周面131の下端の半径のほうが狭くなっている。排水口130の上方には、排水栓140が設けられている。排水栓140は、排水口130の部分に常設され、上下方向に昇降することにより排水口130を開閉することができる。そして、排水口130には、ボウル部110と排水管150とを接続するための排水接続部材としての筒状の排水フランジ160が、ナット状の締結部材170によって、固定されている。
【0017】
排水接続部材としての排水フランジ160は、その上部から半径方向に拡大して形成された外側端部161と、フランジ部161の外周面であって排水口130の内周面と接触する先端面161aとを有する。なお、本明細書にあっては、外側端部とフランジ部とは同じ意味に用いる。さらに、本発明あっては必須ではないが、好ましくは、先端部161aから径方向内側に凹み周設された溝162を有し、この溝162には、排水口130と排水フランジ160との間を止水する環状パッキンとしてOリング180が取付けられている。なお、本実施形態においては、環状パッキンとして、断面が円形のOリングが用いられているが、これに限らず、Xリングなどの他の断面形状のものでもよい。
【0018】
排水フランジ160は、排水口130の上方から挿入され、排水口130に固定される。排水口130に固定された状態では、排水フランジ160のフランジ部161の先端面161aは、排水口130の内周面131と当接している。また、フランジ部161より下方の排水フランジ160の外周面160aには、締結部材170と螺合するためにネジ加工がされている。すなわち、締結部材170は、排水口130の表面に鍔部1が当接するようにフランジ部161に接続されている。
【0019】
排水フランジ160が排水口130に取付けられた状態において、フランジ部161の下面と排水口130の内周面131と排水フランジの外周面160aとで空間Sが形成されている。
【0020】
締結部材170は、円筒状のナットであり、排水フランジ160の上下方向の位置を固定するために設けられている。締結部材170は、その内周面がネジ加工されており、排水フランジ160の周面に形成されたネジ溝と螺合されている。また、締結部材170は、排水口130の下面と当接される位置まで、排水フランジ160と螺合されている。
締結部材170は、下方に垂下して形成された延在部171が設けられている。
延在部171の外周は、ネジ加工されており、排水管150に形成されたネジ溝を螺合させることで、排水管150をボウル部110の排水口130に固定することができる。
【0021】
また、排水管150は、排水管150の固定位置が常に同じである締結部材170と螺合することで、ボウル部110の排水口130と接続されるため、排水フランジ160の内周面131への固定位置が変わった場合でも、常に同じ位置に排水管150を固定することができる。排水管150は、例えば封水を形成するためのトラップ部(テールピース)である。
【0022】
次に、
図6および7を用いて、排水フランジ160を詳細に説明する。
図6に示すように、排水フランジ160のフランジ部161は、半径方向外側になるにつれ、フランジ部161の厚みが増すように形成されている。つまり、フランジ部161は、その先端161cのほうが、根元161dよりも肉厚に形成されているので、フランジ部の根元から徐々に弾性変形しやすい。そのため、フランジ部161は、フランジ部161の先端面161aに半径方向の外側から内側に荷重がかかった場合に、排水フランジ160の半径方向に縮径することができる。その結果、フランジ部161が局所的に変形することを抑制しつつ、フランジ部161の先端面161aを内周面131に隙間無く当接させることができる位置まで、排水フランジ160を挿入することができる。
【0023】
また、排水フランジ160の挿入時において、根元161dからフランジ部161を徐々に変形させて、排水口に当接させることができるので、先端161cの形状を大きく変形させることなく、内周面131に先端面161aを当接させることができ、排水口130とフランジ部161との間に隙間を形成しにくい。
【0024】
フランジ部161の先端面161aは、内周面131と当接するように排水フランジ160の径方向内側に向かって傾斜している形状とされることが好ましい。つまり、フランジ部161の先端面161aは、排水口130の内周面131の傾斜に合わせて、傾斜しているので、排水口130の寸法によらず、内周面131と先端面161aとの間を隙間なく当接させることができる。フランジ部161の上面161bは、半径方向中心に向かって下方に傾斜し、排水フランジ160の内周面160bと滑らかに繋がっている。そのため、排水がフランジ部161の上面161bに溜まらず、排水を排水フランジ160の内周面160bに導くことができる。そして、本発明の1つの実施の形態にあっては、フランジ部161の先端面161aと、内周面131との間の入隅に水が留まっても、フランジ部161を構成する樹脂から、抗菌防カビ作用を有する物質が溶出して、この付近、とりわけ内周面131における菌およびカビの繁殖を有効に防ぐことができる。
【0025】
この態様において、好ましくは、排水フランジ160が排水口130に取付けられてない状態におけるOリング180は、側面視において、溝162にOリング180の半分以上が入り、且つ、その一部が先端面161aより半径方向外側に突出している。言い換えると、Oリング180は、溝162からその一部がはみ出し、溝162内の上下方に隙間ができるように、取付けられている。
【0026】
排水フランジ160が排水口130に取付けられる際には、Oリング180は、Oリング180の先端面161aから突出している部分が排水口130の内周面131に当接して弾性変形し、潰されることで、排水口130と排水フランジ160との間における止水をより完全なものとする。また、この態様において、排水口130に排水フランジ160が取付けられる際、Oリング180には、排水フランジ160への挿入方向とは逆である方向、つまり、下方から上方に摩擦が働いているので、Oリング180は、溝162内で溝162内の上方の隙間が埋められるように弾性変形して潰される。そのため、排水フランジ160が排水口130に取付けられた際には、毛細管現象によって排水がフランジ部の先端面の上端より下方へ浸入し難く、より確実にカビが繁殖したり黒ずみや悪臭が発生したりすることを抑制することができる。また、Oリング180の弾性変形の反作用力により、排水フランジ160は、上方に移動しようとするが、締結部材170によって固定されているため、排水フランジ160が上方への移動するのを妨げ、止水状態を保つことができるとの利点も得られる。
【0027】
排水フランジ160を構成する「抗菌作用を有する物質を含んでなる樹脂」は、樹脂に抗菌作用を有する物質が混ざり込んでいるため、「抗菌作用を有する物質を含んでいない樹脂」と比べ、その強度(剛性)が低下してしまう。一方で、本発明の実施形態における排水部構造においては、排水管150は、締結部材170の少なくとも一部を下方から覆うように締結部材170に接続されている。このことにより、この強度の弱い「抗菌作用を有する物質を含んでなる樹脂により形成された部材(排水フランジ160)」の鍔部1が変形することを抑制できる。このように鍔部1が変形することを抑制できた結果、入隅を形成する排水口130から離れる方向に向かうにつれ下方へ傾斜させるように設計された入隅を、設計者の意図した形状に維持することができる。これにより、「入隅に溜まった水に対して、鍔部1の端部の表面に溶出した抗菌作用を有する物質をより多く溶け出しやすくすることができる」との効果が損なわれずに確実に維持されることができる。
【0028】
樹脂
本発明の1つの実施の形態において、排水口の表面に外側端部が当接している状態で用いられる部材、例えば図中の排水フランジ160またはヘアキャッチャー141は樹脂で形成されていてよく、樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれかを用いることができる。樹脂成形体が大きく、高い強度や耐熱性が求められる場合は、熱硬化性樹脂を用いることが好ましく、樹脂成形体が小さく複雑形状の場合は、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0029】
本発明において、熱硬化性樹脂としては、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂から選ばれる一種以上を用いることが可能である。
【0030】
また本発明において、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリスチレン樹脂(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリテトラフルオロエチレン 4フッ化エチレン樹脂(PTFE)から選ばれる一種以上を用いることが可能である。
【0031】
本発明のさらに好ましい態様によれば、熱可塑性樹脂として、PP、PE、POM、PBT、PVC、ABS、PPS、PET、PMMA、PA、PCから選ばれる一種以上を用いることがより好ましい。これらのうち更により好ましいのは、PP、POM、ABSから選ばれる一種以上である。
【0032】
抗菌作用を有する物質
本発明において用いられる抗菌作用を有する物質は、防菌防黴剤辞典-原体編-(日本防菌防黴学会誌,1998,Vol.26)に記載されている、細菌に対してMIC(最小発育阻止濃度)を有している薬剤を意味する。
【0033】
本発明の1つの実施の形態において、抗菌作用を有する物質は、樹脂において、0.2質量%以上5.6質量%以下含まれることが好ましい。これにより、樹脂に抗菌性を付与することが可能となる。更に好ましくは、抗菌作用を有する物質は、0.4質量%以上5.6質量%以下、さらにより好ましくは0.7質量%以上5.6質量%以下含まれる。また、抗菌作用を有する物質は、樹脂において、0.2質量%以上4.5質量%以下含まれることも好ましい。更に好ましくは、抗菌作用を有する物質は、0.4質量%以上4.5質量%以下、さらにより好ましくは0.7質量%以上4.5質量%以下含まれる。
【0034】
本発明の1つの実施の形態において、抗菌作用を有する物質は、樹脂において、0.03質量%以上0.7質量%以下含むことが好ましく、0.2質量%以上0.7質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0035】
これにより、加熱成形時の成形性が良好であり、かつ長期的に菌やカビの増殖を抑制することが可能となる。
【0036】
樹脂に含まれる抗菌作用を有する物質の量は、分析手法を用いて得ることができる。
【0037】
樹脂に含まれる抗菌作用を有する物質の量を得る分析手法としては、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)、高速液体クロマトグラフ(HPLC)、高速液体クロマトグラフ質量分析法(LC/MS)、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析法(LC/MS/MS)、誘導結合プラズマ発光分析法又は質量分析法(ICP-AES/OES,ICP-MS)などが挙げられ、無機系抗菌剤の種類に応じて適宜選択することができる。などが挙げられ、抗菌作用を有する物質の種類に応じて適宜選択することができる。
【0038】
本発明の1つの実施の形態において用いられる抗菌作用を有する物質としては、有機系抗菌防カビ剤、無機系抗菌剤のいずれも用いることができる。
【0039】
有機系抗菌防カビ剤
本発明において有機系抗菌防カビ剤とは、防菌防黴剤辞典-原体編-(日本防菌防黴学会誌,1998,Vol.26)に記載されている、細菌および真菌に対してMIC(最小発育阻止濃度)を有している有機系薬剤を意味する。
【0040】
本発明の1つの実施の形態において、有機系抗菌防カビ剤として、例えば、アルコール系抗菌防カビ剤、アルデヒド系抗菌防カビ剤、チアゾリン系抗菌防カビ剤、イミダゾール系抗菌防カビ剤、エステル系抗菌防カビ剤、塩素系抗菌防カビ剤、過酸化物系抗菌防カビ剤、カルボン酸系抗菌防カビ剤、カーバメイト系抗菌防カビ剤、スルファミド系抗菌防カビ剤、第四アンモニウム塩系抗菌防カビ剤、ビグアナイド系抗菌防カビ剤、ピリジン系抗菌防カビ剤、フェノール系抗菌防カビ剤、ヨウ素系抗菌防カビ剤、トリアゾール系抗菌防カビ剤から選ばれる一種以上を用いることが可能である。
【0041】
本発明において、有機系抗菌防カビ剤として、具体的には以下のようなものを用いることができる。
【0042】
アルコール系抗菌防カビ剤としては、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、トリスニトロ(トリスヒドロキシメチルニトロメタン)、クロロブタノール(1,1,1-トリクロロ-2-メチル-2-プロパノール)、ブロノポール(2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール)から選択される一種以上を用いることができる。
【0043】
アルデヒド系抗菌防カビ剤としては、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、BCA(α-ブロモシンナムアルデヒド)から選択される一種以上を用いることができる。
【0044】
チアゾリン系抗菌防カビ剤としては、OIT(2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン)、MIT(2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン)、CMI(5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン)、BIT(1,2-ベンゾイソチアゾロン)、n-ブチルBIT(N-n-ブチル-1,2-ベンゾイソチアゾロン-3)から選択される一種以上を用いることができる。
【0045】
OITの構造式を式1に示す。
【0046】
【0047】
MITの構造式を式2に示す。
【0048】
【0049】
CMIの構造式を式3に示す。
【0050】
【0051】
BITの構造式を式4に示す。
【0052】
【0053】
イミダゾール系抗菌防カビ剤としては、TBZ(2-(4-チアゾリル)-ベンツイミダゾール)、BCM(メチル-2-ベンツイミダゾールカルバメート)から選択される一種以上を用いることができる。
【0054】
エステル系抗菌防カビ剤としては、ラウリシジン(グリセロールラウレート)などを用いることができる。
【0055】
塩素系抗菌防カビ剤としては、トリクロカルバン(3,4,4’-トリクロロカルバニリド)、ハロカルバン(4,4-ジクロロ-3-(3-フルオロメチル)-カルバニリド)、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、次亜塩素酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸から選択される一種以上を用いることができる。
【0056】
過酸化物系抗菌防カビ剤としては、過酸化水素、二酸化塩素、過酢酸から選択される一種以上を用いることができる。
【0057】
カルボン酸系抗菌防カビ剤としては、安息香酸、ソルビン酸、カプリル酸、プロピオン酸、10-ウンデシレン酸、ソルビン酸カリウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸カルシウム、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、マグネシウム2水素ビスモノペルオキシフタラート、ウンデシレン酸亜鉛から選択される一種以上を用いることができる。
【0058】
カーバメイト系抗菌防カビ剤としては、N-メチルジチオカルバミン酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0059】
スルファミド系抗菌防カビ剤としては、ジクロフルアニド、トリフルアニドから選択される一種以上を用いることができる。
【0060】
第四アンモニウム塩系抗菌防カビ剤としては、4,4’-(テトラメチレンジカルボニルジアミノ)ビス(1-デシルピリジニウムボロミド)、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゾトニウム、臭化アセチルアンモニウム、N,N’-ヘキサメチレンビス(4-カルボニル-1-デシルピリジニウムブロミド)、セチルピリジニウムクロライドから選択される一種以上を用いることができる。
【0061】
ビグアナイド系抗菌防カビ剤としては、グルコン酸クロルヘキシジン、クロルヘキシジン塩酸塩、ポリピグアナイド塩酸塩、ポリヘキサメチレンピグアナイドから選択される一種以上を用いることができる。
【0062】
ピリジン系抗菌防カビ剤としては、ピリチオンナトリウム、ジンクピリチオン(ZPT:ビス(2-ピリジチオ-1-オキシド)亜鉛)、デンシル(2,3,5,6,-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン)、カッパーピリチオン(ビス(2-ピリジチオ-1-オキシド)銅)から選択される一種以上を用いることができる。
【0063】
ZPTの構造式を式5に示す。
【0064】
【0065】
フェノール系抗菌防カビ剤としては、チモール(2-イソプロピル-5-メチルフェノール)、ビオゾール(3-メチル-4-イソプロピルフェノール)、OPP(オルトフェニルフェノール)、フェノール、ブチルパラベン(ブチル-p-ヒドロキシベンゾエート)、エチルパラベン(エチル-p-ヒドロキシベンゾエート)、メチルパラベン(メチル-p-ヒドロキシベンゾエート)、プロピルパラベン(プロピル-p-ヒドロキシベンゾエート)、メタクレゾール、オルトクレゾール、パラクレゾール、オルトフェニルフェノールナトリウム、クロロフェン(2-ベンジル-4-クロロフェノール)、クロロクレゾール(2-メチル-3-クロロフェノール)から選択される一種以上を用いることができる。
【0066】
ヨウ素系抗菌防カビ剤としては、アミカル48ヨウ素(ジヨードメチル-p-トリル-スルフォン)、ポリビニルピロリドンヨード、p-クロロフェニル-3-ヨードプロパギルフォーマル、3-ブロモ-2,3-ジヨード-プロペニルエチルカーボネート、3-ヨード-2-プロピニルブチルーカーボネートから選択される一種以上を用いることができる。
【0067】
トリアゾール系抗菌防カビ剤としては、テブコナゾール((±)-α-[2-(4-クロロフェニル)エチル]-α-(1,1-ジメチルエチル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-エタノール)などを用いることができる。
【0068】
本発明において、有機系抗菌防カビ剤を二種以上用いることが可能である。これにより、菌やカビの増殖をより抑制することが可能である。
【0069】
本発明において、有機系抗菌防カビ剤として、溶出速度の異なる二種以上の有機系抗菌防カビ剤を用いることが可能である。これにより、さらに長期間において菌やカビの増殖を抑制することが可能となる。
【0070】
本発明において、有機系抗菌防カビ剤を二種用いる場合、樹脂は、第一の有機系抗菌防カビ剤と、第二の有機系抗菌防カビ剤とを含む。第一の有機系抗菌防カビ剤は、溶出速度が10-9g/cm2/h以上であることが好ましく、10-8g/cm2/h以上であることが更に好ましい。第二の有機系抗菌防カビ剤の溶出速度は、第一の有機系抗菌防カビ剤の溶出速度に対して5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることが更に好ましい。これにより、樹脂表面に第二の有機系抗菌防カビ剤が迅速に溶出するため、樹脂の使い始めにおいて、菌やカビの増殖を抑制することが可能となる。また、第一の有機系抗菌防カビ剤が第二の有機系抗菌防カビ剤よりも遅い速度で溶出するため、長期間にわたって菌やカビの増殖を抑制することが可能となる。
【0071】
本発明において、有機系抗菌防カビ剤として、チアゾリン系抗菌防カビ剤およびピリジン系抗菌防カビ剤から選択される一種以上を用いることが好ましい。これにより、水まわりにおいて、菌やカビの増殖を更に抑制することが可能となる。有機系抗菌防カビ剤として、チアゾリン系抗菌防カビ剤およびピリジン系抗菌防カビ剤を用いることがさらに好ましい。
【0072】
本発明において、有機系抗菌防カビ剤は、無機化合物に担持されているものを用いることができる。これにより、有機系抗菌防カビ剤の耐熱性が向上することができ、加熱成形時にガスが発生することを抑制することが可能となる。また、樹脂から有機系抗菌防カビ剤が溶出する速度を制御することができるため、長期的に菌やカビの増殖を抑制することが可能となる。
【0073】
無機化合物として、ゼオライト、ガラス、タルク、シリカゲル、ケイ酸塩、マイカ、セピオライトから選ばれる一種以上を用いることが可能である。これらのうち、ゼオライト、タルク、ガラスから選ばれる一種以上を用いるのが好ましい。
【0074】
本発明の1つの実施の形態において、有機系抗菌防カビ剤は、樹脂において、0.2質量%以上4.9質量%以下含まれることが好ましい。これにより、樹脂に抗菌性および防カビ性を付与することが可能となる。更に好ましくは、有機系抗菌防カビ剤は、樹脂において、0.4質量%以上4.9質量%以下、さらにより好ましくは0.6質量%以上4.9質量%以下含まれる。また、有機系抗菌防カビ剤は、樹脂において、0.2質量%以上3.9質量%以下含まれることも好ましい。更に好ましくは、有機系抗菌防カビ剤は、樹脂において、0.4質量%以上3.9質量%以下、さらにより好ましくは0.6質量%以上3.9質量%以下含まれる。
【0075】
本発明の1つの実施の形態において、有機系抗菌防カビ剤は、樹脂において、0.03質量%以上0.7質量%以下含むことが好ましく、0.2質量%以上0.7質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0076】
これにより、加熱成形時の成形性が良好であり、かつ長期的に菌やカビの増殖を抑制することが可能となる。
【0077】
樹脂に含まれる有機系抗菌防カビ剤の量を得る分析手法としては、前述のもののうち、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)、高速液体クロマトグラフ(HPLC)、高速液体クロマトグラフ質量分析法(LC/MS)、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析法(LC/MS/MS)などが挙げられ、抗菌防カビ剤の種類に応じて適宜選択することができる。
【0078】
無機系抗菌剤
本発明において無機系抗菌剤とは、防菌防黴剤辞典-原体編-(日本防菌防黴学会誌,1998,Vol.26)に記載されている、少なくとも細菌に対してMIC(最小発育阻止濃度)を有している無機系薬剤を意味する。
【0079】
本発明において、無機系抗菌剤は銀系抗菌剤、亜鉛系抗菌剤、銅系抗菌剤から選ばれる一種以上を用いることが可能である。これにより、幅広い種類の細菌類への抗菌効果を付与することができるため、細菌類の増殖により産生されるバイオフィルムの生成を抑制することが可能になる。よって、バイオフィルムを足場として付着するカビの増殖も抑制することができる。
【0080】
本発明において、無機系抗菌剤として、銀イオン、亜鉛イオンおよび銅イオンから選択される一種以上が無機化合物に担持されたものを用いることが可能である。無機化合物としては、ゼオライト、ガラス、タルク、シリカゲル、ケイ酸塩、マイカ、セピオライトから選ばれる一種以上を用いることが可能である。複数のイオン種を用いる場合は、各イオンが同じ無機化合物に担持されていても良い。具体的には、銀イオンと亜鉛イオンがガラスに担持された無機系抗菌剤を用いることが可能である。また、複数のイオン種を用いる場合、各イオンが異なる無機化合物に担持されていても良い。具体的には、銀イオンがガラスに担持された無機系抗菌剤と、亜鉛イオンがゼオライトに担持された無機系抗菌剤とを用いることが可能である。
【0081】
本発明において、銀系抗菌剤として、銀と銀以外の無機酸化物との複合体を用いることが好ましい。具体的には、銀-リン酸ジルコニウム(AgxHyNazZr2(PO)4)3)(x+y+z=1)、塩化銀-酸化チタン(AgCl/TiO2)、銀-リン酸亜鉛カルシウム(Ag-CaxZnyAlz(PO)4)6(x+y+z=10)、銀亜鉛アルミのケイ酸塩(混合物)M2/n・Na2O・2SiO2・xH2O(M:Ag,Zn,NH4))から選ばれる一種以上を用いることが可能である。
【0082】
本発明において、亜鉛系抗菌剤として、酸化亜鉛・銀/リン酸ジルコニウム(ZnO,AgxHyNazZr2(PO)4)3)などを用いることが可能である。
【0083】
本発明において、銅系抗菌剤として、N-ステアロリル-L-グラタミ酸AgCu塩などを用いることが可能である。
【0084】
本発明において、無機系抗菌剤として銀系抗菌剤を用いることが好ましい。さらに好ましくは、銀と銀以外の無機酸化物との複合体を用いることが好ましい。これにより、樹脂の表面に銀の過剰な溶出を抑制することができるため、長期にわたり菌の増殖を抑制することが可能となる。
【0085】
本発明の1つの実施の形態において、樹脂は、無機系抗菌剤を0.03質量%以上0.73質量%以下含むことが好ましく、0.06質量%以上0.73質量%以下含むことがより好ましく、0.09質量%以上0.73質量%以下含むことがより好ましい。また、樹脂は、無機系抗菌剤を0質量%以上0.59質量%以下含むことが好ましく、0.06質量%以上0.59質量%以下含むことがより好ましく、0.09質量%以上0.59質量%以下含むことがより好ましい。
【0086】
本発明の1つの実施の形態において、樹脂は、無機系抗菌剤を1.0×10-4質量%以上3.8×10ー3質量%以下含むことが好ましく、1.5×10-3質量%以上3.8×10ー3質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0087】
これにより、長期間にわたり菌の増殖を抑制し、バイオフィルムの生成を抑制することが可能となる。
【0088】
樹脂成形体に含まれる無機系抗菌剤の量を得る分析手法としては、前述のもののうち、誘導結合プラズマ発光分析法又は質量分析法(ICP-AES/OES,ICP-MS)などが挙げられ、無機系抗菌剤の種類に応じて適宜選択することができる。
【0089】
本発明において、樹脂における無機系抗菌剤の溶出速度は、第一の有機系抗菌防カビ剤の溶出速度に対して、5分の1以下であることが好ましく、10分の1以下であることがさらに好ましい。つまり、第一の有機系抗菌防カビ剤の溶出速度に対して、5倍以上遅いことが好ましく、10倍以上遅いことがさらに好ましい。これにより、第一および第二の有機系抗菌防カビ剤に対して溶出速度が遅いため、樹脂の表面に第一及び第二の有機系抗菌防カビ剤の溶出が進んだ後においても、無機系抗菌剤の溶出が継続する。これにより、長期にわたり菌やカビの増殖を抑制することが可能となる。
【0090】
樹脂およびその表面における無機系抗菌剤及び有機系抗菌防カビ剤の量は、下記に示す方法にて得ることができる。
【0091】
分析手法を用いて、樹脂およびその表面における無機系抗菌剤および有機系抗菌防カビ剤の量を得ることが可能である。分析手法としては、X線光電子分光法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)、電子線マイクロアナライザ(EPMA)、グロー放電発光分析装置(GD-OES)、グロー放電質量分析装置(GD-MS)、全反射型赤外吸収法(ATR-IR)などが挙げられる。無機系抗菌剤及び有機系抗菌防カビ剤の種類に応じて適宜選択することができる。
【0092】
分析手法により求めた樹脂に含まれる無機系抗菌剤および有機系抗菌防カビ剤の量を用いて、樹脂の表面における無機系抗菌剤および有機系抗菌防カビ剤の量を得ることが可能である。樹脂から無機系抗菌剤および有機系抗菌防カビ剤が溶出する速度を測定する。樹脂に含まれる無機系抗菌剤および有機系抗菌防カビ剤の量とそれぞれの溶出速度から、樹脂に表面における無機系抗菌剤および有機系抗菌防カビ剤の量を求めることができる。
【0093】
樹脂へのその他の成分の添加
本発明において樹脂は、任意に他の成分を含むことができ、その例としては、シリコーン化合物、タルク、ガラスファイバー、カーボンファイバー、セルロースファイバー、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤などの添加剤が挙げられる。意匠性を考慮する場合は、着色剤として、無機顔料や有機顔料を含むことができる。無機顔料としては、酸化チタン、タルク、シリカなどを用いることができる。有機顔料としては、Pigment Yellow 83、Pigment Red 48:2、Pigment Red 48:3、Pigment Violet 23、Pigment Blue 15、Pigment Blue 15:1、Pigment Blue 15:2、Pigment Blue 15:3、Pigment Green 7、Pigment Green 36等が挙げられる。以下、それら任意成分について説明する。
【0094】
シリコーン化合物
本発明において樹脂は、シリコーン化合物を含むことが可能である。これにより、樹脂表面の撥水性を向上させることができ、残水や汚れの付着を防止することが可能となる。
【0095】
本発明の1つの実施の形態において、樹脂は、シリコーン化合物を0.1質量%以上10質量%以下含むことが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下含むことがより好ましく、2質量%以上4質量%以下含むことがさらにより好ましい。これにより、樹脂の表面にシリコーンと共に有機系抗菌防カビ剤や無機系抗菌剤が留まりやすくなるため、長期的に菌やカビの増殖を抑制できる。
【0096】
反応性シリコーン
本発明の1つの実施の形態において、シリコーン化合物として、反応性シリコーンを用いることが可能である。反応性シリコーンとしては、分子鎖の片末端をジメチルビニルシロキサン基、アクリロイル基、メタクリロイル基から選択される一種で封鎖したシリコーン樹脂を用いることができる。具体的には、片末端変性アクリルシリコーン、片末端変性メタクリルシリコーンなどが挙げられる。
【0097】
本発明の1つの実施の形態において、反応性シリコーンは、反応性シリコーンを樹脂にグラフト重合させたシリコーングラフト樹脂として用いることが好ましい。これにより、反応性シリコーンを樹脂に固定化させることが可能となるため、長期的に撥水性を維持することが可能である。
【0098】
本発明の1つの実施の形態において、シリコーングラフト樹脂は、樹脂の主鎖に、例えば分子鎖の片末端をジメチルビニルシロキサン基、アクリロイル基、メタクリロイル基から選択される一種で封鎖したシリコーン樹脂を結合させることで得ることが出来る。具体的な製造方法等は公知であり、例えば特開平8-127660号公報の記載に準じて得ることが出来る。
【0099】
例えば、シリコーングラフト樹脂としてシリコーングラフトポリプロピレンを用いる場合、シリコーングラフトポリプロピレンは市販されており、これを本発明において用いることも可能である。市販されているシリコーングラフトポリプロピレンの例としては、X-22-2101(信越化学工業株式会社)、BY27-201(東レ・ダウコーニング株式会社)などが挙げられる。
【0100】
本発明の1つの実施の形態において、反応性シリコーンは、樹脂に0質量%以上10質量%以下含むことが好ましく、0質量%以上4質量%以下含むことがさらに好ましく、1質量%以上4質量%以下含むことがさらにより好ましい。
【0101】
非反応性シリコーンオイル
本発明の1つの実施の形態において、樹脂は、シリコーン化合物として、非反応性シリコーンオイルを含むことが可能である。非反応性シリコーンオイルは、一般式R3 SiO-(R2 SiO)n―SiR3 (ここで、Rは同一または異なっていてもよいアルキル基、好ましくはC1 -6 アルキル基を表す)で表される化合物であることが好ましい。
【0102】
非反応性シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、および脂肪酸エステル変性シリコーンオイルからなる群から選ばれる一種以上を用いることが可能である。またシリコーンオイルの粘性は一般的に0.5cSt~1,000,000cStのものが存在するが、本発明の1つの実施の形態においては、非反応性シリコーンのブリードを考慮して10~1,000cStのものが好ましい。これにより、非反応性シリコーンオイルが樹脂の表面にブリードしやすくなり、樹脂の表面を撥水性とすることが可能となる。
【0103】
本発明の1つの実施の形態において、非反応性シリコーンオイルは、樹脂において、0質量%以上5質量%以下含むことが好ましく、0質量%以上4質量%以下含むことが更に好ましく、0.2質量%以上2質量%以下含むことがさらにより好ましい。
【0104】
本発明の1つの実施の形態において、シリコーン化合物として、反応性シリコーンまたは非反応性シリコーンを用いても良く、両方を用いても良い。
【0105】
水まわり機器
本発明の1つの実施の形態にあっては、樹脂を所望の構造に加工し、外側端部を有する部材とし、この部材を水まわり機器において用いることができる。水まわり機器としては、トイレ空間などに設けられる手洗い器、洗面所などに設けられる洗面台、キッチン、浴室が挙げられる。
【0106】
本発明の1つの実施の形態において、上述の水まわり機器において用いることが可能な具体的な水まわり部材として、以下のような部材が挙げられる。
【0107】
手洗い器で用いられる部材として、手洗い器における排水フランジなどが挙げられる。
【0108】
洗面台で用いられる部材として、洗面器におけるヘアキャッチャー、排水フランジ、トラップなどが挙げられる。
【0109】
キッチンで用いられる部材として、シンクにおけるトラップ、排水フランジ、封水筒、排水口蓋、目皿などが挙げられる。
【0110】
浴室で用いられる部材として、浴槽の排水口に接続されるトラップ、排水フランジ、封水筒、排水口蓋、目皿などや、洗い場床に設置された排水口に接続されるトラップ、排水フランジ、封水筒、排水口蓋、目皿などが挙げられる。
【実施例】
【0111】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0112】
実施例1
ポリアセタール樹脂100gを200℃で加熱溶融した。これに、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(OIT)を含むチアゾリン系抗菌防カビ剤1.5gと、ジンクピリチオン(ZPT)を含むピリジン系抗菌防カビ剤0.5gとを混合し、ペレットを作製した。このペレットを200℃で射出成形し、外側端部を有する
図6に示される形状の排水フランジを得た。この際、OITとZPTは、樹脂において、0.25質量%含まれていた。
【0113】
実施例2
ポリアセタール樹脂100gを200℃で加熱溶融した。これに、OITを含むチアゾリン系抗菌防カビ剤1.5gと、ZPTを含むピリジン系抗菌防カビ剤0.5gと、シリコーン化合物2.0gとを混合し、ペレットを作製した。このペレットを200℃で射出成形し、外側端部を有する
図6に示される形状の排水フランジを得た。この際、OITとZPTは、樹脂において、0.25質量%含まれていた。また、この際、シリコーン化合物は、樹脂において、1.9質量%含まれていた。
【0114】
実施例3
ポリアセタール樹脂100gを200℃で加熱溶融した。これに、OITを含むチアゾリン系抗菌防カビ剤1.5gと、ZPTを含むピリジン系抗菌防カビ剤0.5gと、銀系抗菌剤0.3gと、シリコーン化合物2.0gとを混合し、ペレットを作製した。このペレットを200℃で射出成形し、外側端部を有する
図6に示される形状の排水フランジを得た。この際、OITとZPTは、樹脂において、0.25質量%含まれていた。また、この際、銀系抗菌剤(無機系抗菌剤)に含まれる銀イオンは、樹脂において、1.4×10-3質量%含まれていた。即ち、この際、有機系抗菌防カビ剤および銀系抗菌剤(無機系抗菌剤)で構成された抗菌作用を有する物質は、樹脂において、0.25質量%含まれていた。さらに、この際、シリコーン化合物は、樹脂において、1.9質量%含まれていた。
【0115】
比較例1
ポリアセタール樹脂100gを200℃で加熱溶融し、ペレットを作製した。このペレットを200℃で射出成形し、外側端部を有する
図6に示される形状の排水フランジを得た。
【0116】
防汚評価試験1
実施例1~3および比較例1の排水フランジを用いて、下記の試験を行った。
図3乃至5に示される洗面化粧台のボウルの排水口に排水フランジを取り付けた。排水口と排水フランジの外側端部とで入隅を形成していることを確認した。ボウルに、擬似汚水を定期的に定量流した。試験開始から3週間後の入隅の状態を、下記の基準で評価した。
【0117】
入隅の汚れの付着および黒カビの生成を目視により確認した。結果は表1に示されるとおりであった。
汚れの付着
○:付着が無い
×:付着している
黒カビの生成
○:生成が無い
×:生成している
【0118】
【0119】
実施例4~10
表2に示す量のポリプロピレン樹脂を180℃で加熱溶融した。これに、表2に示す量の2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(OIT)を含むチアゾリン系抗菌防カビ剤と、ジンクピリチオン(ZPT)を含むピリジン系抗菌防カビ剤と、銀系抗菌剤と、を混合し、ペレットを作製した。このペレットを200℃で射出成形し、板形状のプレートを得た。
【0120】
比較例2
表2に示す量のポリプロピレン樹脂を180℃で加熱溶融し、ペレットを作製した。このペレットを200℃で射出成形し、板形状のプレートを得た。
【0121】
【0122】
防汚評価試験2
実施例4~10および比較例2のプレートを用いて、下記の試験を行った。
図8に示すように、板形状である基礎プレート(ポリプロピレン樹脂製)に、実施例4~10および比較例2のプレートをそれぞれ取り付けた。基礎プレートとそれぞれのプレートは、水平に対して30度の傾斜角度で傾斜していた。基礎プレートとそれぞれのプレートの外側端部とで入隅を形成していることを確認した。基礎プレートとそれぞれのプレートの外側端部とで形成された入隅及び入隅近傍に、擬似汚水を定期的に定量流した。試験開始から2週間後の基礎プレートの表面における評価範囲Aを、下記の基準で評価した。
なお、評価範囲Aとは、基礎プレートの表面におけるそれぞれのプレートの外側端部から距離20mm以内の範囲であって、擬似汚水が入隅に流れた際に擬似汚水が滞留すると考えられる範囲である。
【0123】
評価範囲Aにおける汚れの付着具合を汚れ量の測定により確認した。汚れ量は、評価範囲Aを綿棒等でふき取り、ふき取った綿棒に付着した汚れのATP値をATP測定法によって測定した。結果は表3に示されるとおりであった。
汚れ量
◎:非常に低い(ふき取り面積60平方mm当たりのATP値:50,000以下)
○:低い(ふき取り面積60平方mm当たりのATP値:50,000以上70,000以下)
×:高い(ふき取り面積60平方mm当たりのATP値:11,000以上)
【0124】