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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】純銅材、絶縁基板、電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20240416BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20240416BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240416BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
C22C9/00
H01B1/02 A
C22F1/00 604
C22F1/00 605
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 627
C22F1/00 650A
C22F1/00 650F
C22F1/00 661A
C22F1/00 661Z
C22F1/00 681
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692Z
C22F1/00 693A
C22F1/00 693B
C22F1/00 694Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/08 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023120992
(22)【出願日】2023-07-25
(65)【公開番号】P2024019081
(43)【公開日】2024-02-08
【審査請求日】2024-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2022121434
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優樹
(72)【発明者】
【氏名】大平 拓実
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/177470(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/177469(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/177461(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/177460(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/060023(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00
H01B 1/02
C22F 1/00
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuの含有量が99.96mass%以上とされ、
Ca,Ba,Sr,Zr,Hf,Y,Sc,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luから選択される1種又は2種以上のA群元素、および、O,S,Se,Teから選択される1種又は2種以上のB群元素の両方を合計量で10massppm以上300massppm以下の範囲内で含有し、前記A群元素の合計含有量Amassppmと前記B群元素の合計含有量Bmassppmとの比A/Bが1.0超えであり、
圧延面における平均結晶粒径が15μm以上であり、
850℃における高温ビッカース硬度が4.0HV以上10.0HV以下であることを特徴とする純銅材
【請求項2】
前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物が存在することを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項3】
前記化合物の個数密度が1.0×10-4個/μm以上であることを特徴とする請求項2に記載の純銅材。
【請求項4】
前記高温ビッカース硬度の標準偏差の値が1.0HV以下であることを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項5】
Pの含有量が3.00massppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項6】
Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上を合計量で50.0massppm以下含むことを特徴とする請求項1に記載の純銅材。
【請求項7】
セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に接合された銅板と、を備え、前記銅板が請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の純銅材で構成されていることを特徴とする絶縁基板。
【請求項8】
請求項7に記載の絶縁基板と、前記絶縁基板に搭載された電子部品とを有することを特徴とする電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンクや厚銅回路等の電気・電子部品に適した純銅材であって、特にパワー半導体などが搭載される絶縁基板に用いられる純銅材、この純銅材を用いた絶縁基板、電子デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒートシンクや厚銅回路等の電気・電子部品には、導電性の高い純銅材が用いられている。
最近では、電気・電子機器用部品に用いられる電流量の増大にともない、抵抗発熱が問題となっている。
半導体装置等の電子デバイスにおいては、例えば、セラミックス基板に純銅材を接合し、上述のヒートシンクや厚銅回路を構成した絶縁基板等が用いられている。
【0003】
セラミックス基板と純銅材を接合する際には、高温雰囲気中で加圧処理を行うため、純銅材の結晶粒径の粗大化や不均一な成長によって、接合不良や外観不良、検査工程での不具合を起こすことがある。
この問題点を解決するために、純銅材には、熱処理後においても、結晶粒径の変化が少なく、かつその大きさが均一であることが求められている。
【0004】
そこで、例えば特許文献1,2には、純銅材において結晶粒の成長を抑制する技術が提案されている。
この特許文献1においては、Sを0.0006~0.0015wt%含有することにより、再結晶温度以上で熱処理しても、一定の大きさの結晶粒に調整可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平06-002058号公報
【文献】国際公開第2020/203071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1,2においては、組成を規定することによって結晶粒の粗大化を抑制する構成とされているが、熱処理条件等によっては、結晶粒の粗大化や結晶粒径のバラつきを十分に抑制することができないおそれがあった。
特に、セラミックス基板と銅板とを強固に接合する際には、セラミックス基板と銅板とを積層方向に一定の圧力で加圧した状態で高温の熱処理を行うことになる。このとき、純銅板においては、結晶粒が不均一に成長し易く、結晶粒の粗大化や不均一な成長によって、接合不良や外観不良、検査工程での不具合を起こすことがある。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、熱処理後においても結晶組織の変化が少なく、かつ、結晶粒径のバラつきが抑制されて均一な結晶組織を得ることができる純銅材、この純銅材を用いた絶縁基板、電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、接合の熱処理時の結晶粒の粗大化を抑制するためには、材料の高温硬度を一定の範囲に制御することが重要であることが明らかとなった。
通常、高温では銅材の材料強度は常温に比べて著しく低い状態となる。この高温での材料強度が低すぎると、セラミックスと銅材の間の線膨張係数の差によるひずみ導入が促進されてしまい、結晶粒の成長の駆動力となるひずみがより大きく導入されてしまうおそれがある。また、高温での強度が高すぎると、セラミックスに対して応力を付与してしまうため、絶縁基板の熱信頼性を低下させてしまう。そのため、高温での強度(硬度)を制御することが重要であることが明らかとなった。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の態様1の純銅材は、Cuの含有量が99.96mass%以上とされ、Ca,Ba,Sr,Zr,Hf,Y,Sc,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luから選択される1種又は2種以上のA群元素、および、O,S,Se,Teから選択される1種又は2種以上のB群元素の両方を合計量で10massppm以上300massppm以下の範囲内で含有し、前記A群元素の合計含有量Amassppmと前記B群元素の合計含有量Bmassppmとの比A/Bが1.0超えであり、圧延面における平均結晶粒径が15μm以上であり、850℃における高温ビッカース硬度が4.0HV以上10.0HV以下であることを特徴としている。
【0010】
本発明の態様1の純銅材によれば、Cuの含有量が99.96mass%以上とされ、Ca,Ba,Sr,Zr,Hf,Y,Sc,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luから選択される1種又は2種以上のA群元素、および、O,S,Se,Teから選択される1種又は2種以上のB群元素の両方を合計量で10massppm以上300massppm以下の範囲内で含有しているので、導電性及び放熱性に特に優れるとともに、高温での結晶粒の成長を抑制でき、大電流用途の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
また、圧延面における平均結晶粒径が15μm以上とされているので、熱処理時における再結晶の進行を抑制でき、結晶粒の粗大化や組織の不均一化を抑えることが可能となる。
さらに、850℃における高温ビッカース硬度が4.0HV以上10.0HV以下の範囲内とされていることから、セラミックスと銅材の間の線膨張係数の差によるひずみ導入を抑制し、結晶粒の成長の駆動力となるひずみの導入を抑制することができる。
また、前記A群元素の合計含有量Amassppmと前記B群元素の合計含有量Bmassppmとの比A/Bが1.0超えとされているので、A群元素とB群元素とが反応することを抑制でき、前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物を確実に形成することができ、化合物のピン止め効果によって、熱処理時における結晶粒の成長をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0011】
本発明の態様2は、態様1の純銅材において、前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物が存在することを特徴としている。
本発明の態様2の純銅材によれば、前記A群元素及び前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物が存在しているので、高温での結晶粒の成長を抑制でき、熱処理後においても結晶組織の変化がさらに少なく、かつ、さらに均一な結晶組織を得ることが可能となる。
【0012】
本発明の態様3は、態様2の純銅材において、前記化合物の個数密度が1.0×10-4個/μm以上であることを特徴としている。
本発明の態様3の純銅材によれば、前記化合物の個数密度が1.0×10-4個/μm以上とされているので、化合物のピン止め効果によって、熱処理時における結晶粒の成長をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0014】
本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれか一つの純銅材において、前記高温ビッカース硬度の標準偏差の値が1.0HV以下であることを特徴としている。
本発明の態様4の純銅材によれば、高温ビッカース硬度の標準偏差の値が1.0HV以下とされているので、高温硬度のばらつきが小さく、局所的な変形を抑制することができる。
【0015】
本発明の態様5は、態様1から態様4のいずれか一つの純銅材において、Pの含有量が3.00massppm以下であることを特徴としている。
本発明の態様5の純銅材によれば、Pの含有量が3.00massppm以下とされているので、不純物として含まれる酸素を無害化できるとともに、A群元素およびB群元素の結晶粒成長抑制効果(結晶粒の成長を抑制する効果)を十分に作用させることができる。Pの含有量が0massppm以上0.01massppm未満の場合、前記作用効果は乏しい。
【0016】
本発明の態様6は、態様1から態様5のいずれか一つの純銅材において、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上を合計量で50.0massppm以下含むことを特徴としている。
本発明の態様6の純銅材によれば、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上を合計量で50.0massppm以下含有しているので、銅の母相中にAg,Fe,Pbが固溶することにより、熱処理時における結晶粒の成長をさらに抑制することができる。Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上の合計量が0massppm以上5.0massppm未満の場合、前記作用効果は乏しい。
【0017】
本発明の態様7の絶縁基板は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に接合された銅板と、を備え、前記銅板が態様1から態様6のいずれか一つの純銅材で構成されていることを特徴としている。
本発明の態様7の絶縁基板によれば、セラミックス基板に接合される銅板が、態様1から態様6のいずれか一つの純銅材で構成されているので、接合時における結晶粒の成長が抑制され、均一な結晶組織を有しており、安定して使用することができる。
【0018】
本発明の態様8の電子デバイスは、態様7の絶縁基板と、前記絶縁基板に搭載された電子部品とを有することを特徴としている。
本発明の態様8の電子デバイスによれば、態様7の絶縁基板を備えているので、銅板が均一な結晶組織を有しており、安定して使用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熱処理後においても結晶組織の変化が少なく、かつ、結晶粒径のバラつきが抑制されて均一な結晶組織を得ることができる純銅材、この純銅材を用いた絶縁基板、電子デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態である絶縁基板および電子デバイスの概略説明図である。
図2】本実施形態である純銅材の製造方法のフロー図である。
図3A】本発明例2における化合物の観察結果であり、TEM像(透過電子像)である。
図3B】本発明例2における化合物の観察結果であり、電子線回折像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態である純銅材、絶縁基板、電子デバイスについて説明する。
本実施形態である純銅材は、ヒートシンクや厚銅回路等の電気・電子部品の素材として用いられるものであり、前述の電気・電子部品を成形する際に、純銅材は、例えばセラミックス基板に接合され、絶縁基板を構成するものである。
【0022】
図1に、本発明の実施形態である絶縁基板10及びこの絶縁基板10を用いた電子デバイス1を示す。
本実施形態である電子デバイス1は、本実施形態である絶縁基板10と、この絶縁基板10の一方側(図1において上側)に第1はんだ層2を介して接合された電子部品3と、絶縁基板10の他方側(図1において下側)に第2はんだ層8を介して接合されたヒートシンク51と、を備えている。
なお、本実施形態では、電子部品3がパワー半導体素子とされており、電子デバイス1はパワーモジュールとされている。
【0023】
絶縁基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものである。
【0024】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に銅板が接合されることにより形成されている。この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、電子部品3が搭載される搭載面されている。
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に銅板が接合されることにより形成されている。この金属層13は、電子部品3からの熱をヒートシンク51へと効率良く伝達させる作用効果を有するものである。
【0025】
なお、回路層12となる銅板とセラミックス基板11、および、金属層13となる銅板とセラミックス基板11は、例えば、DBC法、AMB法等の既存の接合方法によって接合されている。
ここで、接合時の温度は、例えば750℃以上の高温条件となり、回路層12および金属層13において結晶粒の粗大化が生じるおそれがある。
【0026】
そこで、本実施形態においては、回路層12となる銅板、および、金属層13となる銅板が、本実施形態である純銅材で構成されている。
【0027】
本実施形態である純銅材は、Cuの含有量が99.96mass%以上とされており、Ca,Ba,Sr,Zr,Hf,Y,Sc,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luから選択される1種又は2種以上のA群元素、および、O,S,Se,Teから選択される1種又は2種以上のB群元素のいずれか一方又は両方を合計量で10massppm以上300massppm以下の範囲内で含有する。
なお、本実施形態である純銅材においては、A群元素およびB群元素の両方を含有し、A群元素の合計含有量AmassppmとB群元素の合計含有量Bmassppmとの比A/Bが1.0超えであることが好ましい。
【0028】
また、本実施形態である純銅材においては、Pの含有量が3.00massppm以下とされていてもよい。
さらに、本実施形態である純銅材においては、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上を合計量で50.0massppm以下含んでいてもよい。
【0029】
そして、本実施形態である純銅材においては、圧延面における平均結晶粒径が15μm以上であり、850℃における高温ビッカース硬度が4.0HV以上10.0HV以下の範囲内とされている。
なお、本実施形態である純銅材においては、上述の高温ビッカース硬度の標準偏差の値が1.0HV以下であることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態である純銅材においては、前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物が存在していることが好ましい。さらに、この化合物の個数密度が1×10-4個/μm以上であることが好ましい。
【0031】
ここで、本実施形態である純銅材において、上述のようにCuの含有量、平均結晶粒径、高温ビッカース硬度、各種元素の含有量、化合物を規定した理由について、以下に説明する。
【0032】
(Cuの含有量:99.96mass%以上)
大電流用途の電気・電子部品においては、通電時の発熱を抑制するために、導電性及び放熱性に優れていることが要求されており、導電性及び放熱性に特に優れた純銅を用いることが好ましい。
そこで、本実施形態である純銅材においては、Cuの純度を99.96mass%以上に規定している。なお、Cuの純度は99.965mass%以上であることが好ましく、99.97mass%以上であることがさらに好ましい。また、Cuの純度の上限に特に制限はないが、99.999mass%を超える場合には、特別な精錬工程が必要となり、製造コストが大幅に増加するため、99.999mass%以下とすることが好ましい。
【0033】
(圧延面における平均結晶粒径:15μm以上)
本実施形態である純銅材において、圧延面における結晶粒の粒径が微細であると、この純銅材を例えば800℃以上に加熱した際に、再結晶が進行しやすく、結晶粒の成長、組織の不均一化が促進されてしまうおそれがある。
このため、本実施形態である純銅材においては、熱処理時における結晶粒の粗大化や組織の不均一化を抑制するために、圧延面における平均結晶粒径を15μm以上としている。
なお、熱処理時における結晶粒の粗大化をさらに抑制するためには、圧延面における平均結晶粒径は、30μm以上であることがさらに好ましく、35μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることがより一層好ましい。また、圧延面における平均結晶粒径は、300μm以下であることが好ましく、275μm以下であることがさらに好ましく、250μm以下であることがより好ましい。
【0034】
(850℃における高温ビッカース硬度:4.0HV以上10.0HV以下)
本実施形態である純銅材において、温度が上昇するにつれて機械的性質は顕著に低下する。高温状態では、外力により、容易に変形が局所的に集中してしまう。そのため、高温での硬度を高くすることにより、変形を分散させることができる。一方、高温での硬度が高すぎると、接合したセラミックス基板11に対して大きな応力が付与されるおそれがあり、絶縁基板10の信頼性が低下するおそれがある。
そこで、本実施形態では、850℃における高温ビッカース硬度を4.0HV以上10.0HV以下の範囲内としている。
なお、850℃における高温ビッカース硬度は、4.25HV以上であることが好ましく、4.5HV以上であることがより好ましい。また、850℃における高温ビッカース硬度は、9.9HV以下であることが好ましく、9.8HV以下であることがより好ましい。
【0035】
(850℃における高温ビッカース硬度の標準偏差の値:1.0HV以下)
本実施形態である純銅材において、高温ビッカース硬度のバラつきが大きいと、局所的な変形が起こりやすくなる。
そこで、本実施形態では、850℃における高温ビッカース硬度の標準偏差の値を1.0HV以下とすることが好ましい。
なお、850℃における高温ビッカース硬度の標準偏差の値は、0.90HV以下であることがより好ましく、0.80HV以下であることがさらに好ましく、0.70HVであることがより一層好ましい。また、850℃における高温ビッカース硬度の標準偏差の値は、0.05以上であることが好ましく、0.075以上であることがさらに好ましく、0.10以上であることがより好ましい。
【0036】
(A群元素及びB群元素のいずれか一方又は両方の合計含有量:10massppm以上300massppm以下)
A群元素(Ca,Ba,Sr,Zr,Hf,Y,Sc,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)およびB群元素(O,S,Se,Te)は、Cuに対する固溶限が非常に小さく、Cuとともに化合物を形成する。このため、A群元素およびB群元素のいずれか一方又は両方の添加により、高温でも安定な化合物が形成されることになる。また、この化合物はCuを含むため、熱伝導率を大きく下げるおそれがない。よって、A群元素およびB群元素のいずれか一方又は両方を添加することにより、高温で安定な化合物を生成し、高温での結晶粒界の移動を抑制し、結晶粒の成長を抑制することが可能となる。また、化合物が存在しているので、熱処理後においても結晶組織の変化がさらに少なく、かつ、さらに均一な結晶組織を得ることが可能となる。一方、A群元素およびB群元素のいずれか一方又は両方を多量に含有すると、製造性に悪影響を与えてしまうおそれがあった。
このため、本実施形態では、A群元素及びB群元素のいずれか一方又は両方の合計含有量を10massppm以上300massppm以下の範囲内に設定している。
なお、A群元素及びB群元素のいずれか一方又は両方の合計含有量は、15massppm以上であることが好ましく、20massppm以上であることがより好ましい。また、A群元素及びB群元素のいずれか一方又は両方の合計含有量は290massppm以下であることが好ましく、280massppm以下であることがより好ましい。
【0037】
(A群元素の合計含有量AとB群元素の合計含有量Bとの比A/B:1.0超え)
A群元素(Ca,Ba,Sr,Zr,Hf,Y,Sc,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)およびB群元素(O,S,Se,Te)は、互いに反応性が高いことから、A群元素とB群元素が互いの反応によって消費されてしまう。
そこで、前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物を十分に形成するためには、A群元素の合計含有量AとB群元素の合計含有量Bとの比A/Bを1.0超えとすることが好ましい。
なお、A群元素の合計含有量AとB群元素の合計含有量Bとの比A/Bは、1.5超えであることがより好ましく、2.0超えであることがさらに好ましい。また、比A/Bは、100以下であることが好ましく、75以下であることがさらに好ましく、50以下であることがより好ましい。
【0038】
(前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物の個数密度:1.0×10-4個/μm以上)
前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物は、上述のように、高温での安定性が高い。このため、熱処理時において、この化合物のピン止め効果により、結晶粒の成長を十分に抑制することが可能となる。
そこで、本実施形態においては、前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物の個数密度を1.0×10-4個/μm以上とすることが好ましい。なお、前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物の個数密度は、2.5×10-4個/μm以上とすることがより好ましく、5.0×10-4個/μm以上とすることがさらに好ましい。また、前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物の個数密度は、1000×10-4個/μm以下とすることが好ましく、900×10-4個/μm以下とすることがさらに好ましく、800×10-4個/μm以下とすることがより好ましい。
【0039】
(P:3.00massppm以下)
Pは、銅中の酸素を無効化する元素として広く用いられている。しかしながら、Pを一定以上含有する場合には、酸素だけではなく、結晶粒界に存在する結晶粒成長抑制元素(結晶粒の成長を抑制する元素)の作用を阻害する。このため、高温に加熱した際に、結晶粒の成長を抑制する元素が十分に作用せず、結晶粒の粗大化及び不均一化が発生するおそれがある。
そこで、本実施形態においては、Pの含有量を3.00massppm以下とすることが好ましい。
なお、Pの含有量の下限は、0.01massppm以上とすることが好ましい。Pの含有量の上限は、2.50massppm以下とすることが好ましく、2.00massppm以下とすることがさらに好ましい。
【0040】
(Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上の合計含有量:50.0massppm以下)
Ag,Fe,Pbは銅母相中への固溶によって結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する元素である。一方、Ag,Fe,Pbを多く含む場合には、製造コストの増加や導電率の低下が懸念される。
このため、本実施形態においては、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上の合計含有量を50.0massppm以下とすることが好ましい。
なお、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上の合計含有量の下限は、5.0massppm以上であることが好ましく、6.0massppm以上であることがさらに好ましく、7.0massppm以上であることがより好ましい。一方、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上の合計含有量は、40.0massppm以下であることがさらに好ましく、30.0massppm以下であることがより好ましい。
【0041】
(その他の不可避不純物)
上述した含有量が特定された元素以外のその他の残部に含まれる不可避的不純物としては、Al,As,B,Be,Bi,Cd,Cr,Sc,V,Nb,Ta,Mo,Mg,Ni,W,Mn,Re,Ru,Ti,Os,Co,Rh,Ir,Pd,Pt,Au,Zn,Hg,Ga,In,Ge,Tl,N,Sb,Si,Sn,Li等が挙げられる。これらの不可避不純物は、特性に影響を与えない範囲で含有されていてもよい。
ここで、これらの不可避不純物は、導電率を低下させるおそれがあることから、総量で0.04mass%以下とすることが好ましく、0.03mass%以下とすることがさらに好ましく、0.02mass%以下とすることがより好ましく、さらには0.01mass%以下とすることが好ましい。
また、これらの不可避不純物のそれぞれの含有量の上限は、30massppm以下とすることが好ましく、20massppm以下とすることがさらに好ましく、15massppm以下とすることがより好ましい。
【0042】
次に、このような構成とされた本実施形態である純銅材の製造方法について、図2に示すフロー図を参照して説明する。
【0043】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、無酸素銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述のA群元素およびB群元素のいずれか一方又は両方やその他の添加元素を添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。なお、各種元素の添加には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、上述の元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。ここで、銅溶湯は、純度が99.99mass%以上とされたいわゆる4NCu、あるいは99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuとすることが好ましい。
溶解工程では、水素濃度の低減のため、HOの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気で溶解を行い、溶解時の保持時間は最小限に留めることが好ましい。そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
ここで、鋳造時の冷却速度を0.1℃/sec以上とすることにより、凝固時に銅中に存在する微量不純物及び添加元素を均一に分散させることができる。
【0044】
(第1冷間加工工程S02)
得られた鋳塊に対して、形状を所定のサイズに変形させるために冷間加工を行う。ここでの加工率に特に指定はないが、50%以上とすることが好ましく、60%以上とすることがさらに好ましく、70%以上とすることがより好ましい。
加工方法は特に限定されないが、最終形状が板、条の場合は圧延を採用することが好ましい。最終形状が線や棒の場合には押出や溝圧延を採用することが好ましい。最終形状がバルク形状の場合には鍛造やプレスを採用することが好ましい。
【0045】
(第1熱処理工程S03)
次に、第1冷間加工工程S02後の銅素材に対して、再結晶による組織の均一化を目的として、熱処理を行う。
ここで、熱処理方法は特に限定しないが、非酸化性または還元性の雰囲気中で行うのがよい。熱処理温度を800℃×1分などの500℃以上の高温度にて短時間で行うことにより、組織の均一化を促進させることが可能となる。
冷却方法は、特に限定しないが、水焼入などの冷却速度が200℃/min以上となる方法が好ましい。
【0046】
(第2冷間加工工程S04)
次に、第1熱処理工程S03後の銅素材に対して、材料の表面温度が10℃以下の温度域で材料を保ちながら冷間加工を行う。
冷間加工時には、加工発熱によって加工中に材料温度が上昇してしまう。ここで、加工発熱による温度上昇によって材料の一部に再結晶が生じてしまうと、後の多段熱処理での組織制御に悪影響を与えてしまい、元素を均一に分散させることができないおそれがある。ここでの加工率は、特に指定はないが、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
加工方法は特に限定されないが、最終形状が板、条の場合は圧延を採用することが好ましい。最終形状が線や棒の場合には押出や溝圧延を採用することが好ましい。最終形状がバルク形状の場合には鍛造やプレスを採用することが好ましい。
【0047】
(多段熱処理工程S05)
次に、第2冷間加工工程S04を実施した銅素材に対して多段熱処理を行い、微量の添加元素を粒界に意図的に偏析させる。
多段熱処理工程S05においては、まず、銅素材を750℃以上の高温に保持することで、結晶粒径を一定の水準まで粗大化させる。そして、そのまま常温まで冷却することなく、60秒以内に400℃から750℃の中温域に銅素材の温度を変化させ、この温度で1分以上保持することにより、冷却による格子欠陥(原子空孔)を導入せずに、微量の添加元素を結晶粒界に意図的に偏析させることが可能となる。微量の添加元素を結晶粒界に偏析させることで、850℃における高温ビッカース硬度を4.0~10.0HVに制御することができる。熱処理温度を変える際には、それぞれの温度域で保持された炉の中に、大きく温度を下げないまま、銅素材を移動させることで実現することができる。
ここで、熱処理方法は特に限定しないが、非酸化性または還元性の雰囲気中で行うのがよい。また、熱処理時にソルトバスなどの様に高温で保持された液体間を移動させる事で熱処理することもできる。
多段熱処理後の冷却方法は、特に限定しないが、水焼入などの冷却速度が200℃/min以上となる方法が好ましい。
【0048】
(調質圧延工程S06)
多段熱処理工程S05後の銅素材に対して、材料強度を調整するために、調質圧延を行ってもよい。なお、低い材料強度を必要とする場合は、調質圧延を行わなくてもよい。
この調質圧延工程S06において、ひずみエネルギーが高くなってしまい、高温時の組織が不安定になるため、加工率は、30%%以下とすることが好ましく、25%以下とすることがさらに好ましく、20%以下とすることがより好ましい。
なお、最終の厚みは特に限定しないが、例えば0.5mm以上5mm以下の範囲内の厚みとすることが好適である。
【0049】
上述の各工程により、本実施形態である純銅材が製出されることになる。
【0050】
以上のような構成とされた本実施形態である純銅材によれば、Cuの含有量が99.96mass%以上とされ、Ca,Ba,Sr,Zr,Hf,Y,Sc,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,から選択される1種又は2種以上のA群元素、および、O,S,Se,Teから選択される1種又は2種以上のB群元素のいずれか一方又は両方を合計量で10massppm以上300massppm以下の範囲内で含有しているので、導電性及び放熱性に特に優れるとともに、高温での結晶粒の成長を抑制でき、大電流用途の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
また、圧延面における平均結晶粒径が15μm以上とされているので、熱処理時における再結晶の進行を抑制でき、結晶粒の粗大化や組織の不均一化を抑えることが可能となる。
そして、850℃における高温ビッカース硬度が4.0HV以上10.0HV以下の範囲内とされていることから、セラミックスと銅材の間の線膨張係数の差によるひずみ導入を抑制し、結晶粒の成長の駆動力となるひずみの導入を抑制することができる。
上記範囲内の850℃における高温ビッカース硬度を得るための手段は、特定の方法に制限されないが、例えば、第1熱処理工程と多段熱処理工程の温度、第2冷間加工工程の材料表面温度、及び調質圧延工程の圧延率を、上述するように制御することで可能となる。
【0051】
ここで、本実施形態である純銅材において、前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物が存在している場合には、高温で安定な化合物のピン止め効果により、高温での結晶粒の成長を抑制でき、熱処理後においても結晶組織の変化がさらに少なく、かつ、さらに均一な結晶組織を得ることが可能となる。
【0052】
また、本実施形態である純銅材において、前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物の個数密度が1.0×10-4個/μm以上である場合には、高温で安定な化合物によるピン止め効果を十分に奏功せしめることができ、熱処理時における結晶粒の成長をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0053】
さらに、本実施形態である純銅材において、A群元素の合計含有量AmassppmとB群元素の合計含有量Bmassppmとの比A/Bが1.0超えである場合には、A群元素とB群元素とが反応して消費されることを抑制でき、前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物を確実に形成することができ、この化合物のピン止め効果によって、熱処理時における結晶粒の成長をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態である純銅材において、高温ビッカース硬度の標準偏差の値が1.0HV以下である場合には、高温硬度のばらつきが小さく抑えられており、局所的な変形を抑制することができる。
【0055】
さらに、本実施形態である純銅材において、Pの含有量が3.00massppm以下である場合には、不純物として含まれる酸素を無害化できるとともに、A群元素およびB群元素の結晶粒成長抑制効果を十分に作用させることができる。
【0056】
また、本実施形態である純銅材において、Ag,Fe,Pbから選択される一種または二種以上を合計量で50.0massppm以下含む場合には、銅の母相中にAg,Fe,Pbが固溶することにより、熱処理時における結晶粒の成長をさらに抑制することができる。
【0057】
本実施形態である絶縁基板10においては、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面に接合された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に接合された金属層13と、を有しており、回路層12および金属層13となる銅板が本実施形態である純銅材で構成されているので、セラミックス基板11との接合時における結晶粒の成長が抑制され、かつ結晶粒径のバラつきが抑制されて均一な結晶組織を有しており、安定して使用することができる。
【0058】
本実施形態である電子デバイス1においては、上述の絶縁基板10と、この絶縁基板10の回路層12上に搭載された電子部品3とを有しているので、回路層12および金属層13となる銅板が均一な結晶組織を有しており、安定して使用することができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態である純銅材について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的要件を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、純銅材の製造方法の一例について説明したが、純銅材の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
また、製造方法が圧延工程を有している場合、本実施形態の純銅材は、純銅圧延材と言うこともできる。
【実施例
【0060】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0061】
帯溶融精製法により、P濃度を0.001massppm以下に精製して、純度99.999mass%以上の純銅を得た。この純銅からなる原料を高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波誘導加熱により溶解した。
6N(純度99.9999mass%以上)の高純度銅と2N(純度99mass%以上)の元素を用いて1mass%の各種元素を含む母合金を作製した。得られた銅溶湯内に母合金を添加して、表1~4に示す成分組成に調製し、銅合金溶湯を得た。得られた銅合金溶湯をグラファイト鋳型に注湯して、鋳塊を製出した。
なお、鋳塊の大きさは、厚さ約100mm×幅約100mm×長さ約150~200mmとした。ここでの冷却速度は、全てのサンプルにおいて、0.1℃/sec以上であった。
【0062】
得られた鋳塊に対して、第1冷間加工として、表5,6に記載の圧延率で冷間圧延を実施した。
次に、第1冷間加工後の銅素材に対して、Arガス雰囲気中において、表5,6に記載の条件で第1熱処理を行った。なお、熱処理で生成した酸化被膜を除去するために表面研削を実施し、所定の大きさに切断を行った。
【0063】
次に、第1熱処理後の銅素材に対して、第2冷間加工として、表5,6に記際の圧延率で冷間圧延を実施した。ここで、第2冷間加工では、圧延の各パスを行う前に、0℃以下の冷凍室に銅素材を保持し、銅素材を取り出した後に直ちに、圧延を行い、圧延直後の銅素材の表面温度を接触温度計で計測することで、表面温度が10℃以下で保持されていることを確認しながら圧延を行った。なお、比較例5においては、第2冷間加工における銅素材の表面温度は50℃であった。
【0064】
次に、第2冷間加工後の銅素材に対して多段熱処理を行った。なお、多段熱処理においては、表5,6に記載の温度で保持されたソルトバス間を、銅素材を移動させることによって実施した。なお、熱処理で生成した酸化被膜を除去するために表面研削を実施し、最終厚さを調整するために、所定の大きさに切断を行った。
最後に、表5,6に記載の条件で、調質圧延を行い、厚さが0.8mmで幅が60mmの条材(特性評価用条材)を製造した。
【0065】
そして、以下の項目について評価を実施した。
【0066】
(組成分析)
得られた鋳塊から測定試料を採取し、S、Oの含有量は赤外線吸収法で測定し、その他の元素の含有量はグロー放電質量分析装置(GD-MS)を用いて測定した。なお、測定は試料中央部と幅方向端部の二カ所で測定を行い、含有量の多い方をそのサンプルの含有量とした。
【0067】
(平均結晶粒径)
得られた特性評価用条材から20mm×20mmのサンプルを切り出し、SEM-EBSD(Electron Backscatter Diffraction Patterns)測定装置によって、平均結晶粒径を測定した。電子顕微鏡の条件及びEBSD検出器の条件を以下に示す。
(電子顕微鏡の条件)
観察倍率又は測定視野の面積:400μm×800μm
加速電圧:20kV
ワーキングディスタンス:20mm
試料傾斜角度:70°
(EBSD検出器の条件)
解析ソフト名:EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.8.6
CI値(信頼係数):0.1よりも大きな測定点を解析に用いた。
粒界角度差:5°以上を粒界とみなした。
ミニマムグレインサイズ:2step以上を結晶粒とみなした。
ステップサイズ:1μm
双晶の扱い:双晶を粒界とみなした。
圧延面を耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った。次いで、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。その後、走査型電子顕微鏡を用いて、試料表面の測定範囲内の個々の測定点(ピクセル)に電子線を照射し、電子線後方散乱回折法による方位解析により、隣接する測定点間の方位差が5°以上である測定点間の境界を結晶粒界とした。隣接する測定点間の方位差が5°以上15°未満である測定点間の境界を小角粒界とした。隣接する測定点間の方位差が15°以上である測定点間の境界を大角粒界とした。この際、双晶境界も大角粒界とした。また、各サンプルで100個以上の結晶粒が含まれるように測定範囲を調整した。得られた方位解析結果から大角粒界を用いて結晶粒界マップを作成し、JIS H 0501の切断法に準拠し、結晶粒界マップに対して、縦、横の方向に所定長さの線分を所定の間隔で5本ずつ引いた。完全に切られる結晶粒の数を数え、その切断長さの平均値を結晶粒径として算出した。
【0068】
(高温ビッカース硬度)
得られた特性評価用条材から10mm×10mmのサンプルを切り出し、圧延面を耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った。INTESCO(インテスコ)社製の高温マイクロビッカース硬度計(HTM-1200-III)を用いて高温ビッカース硬度を測定した。
1×10-3Paまで減圧してから、850℃まで20℃/minの昇温速度で加熱し、850℃で5分保持した。次いで、ダイヤモンド圧子を用いて0.98Nの試験力を用いて、圧子を打ち込み、圧子形状の跡の大きさを測定することでビッカース硬度を測定した。
1つのサンプルにつき、10点の箇所でビッカース硬度を測定し、10点の測定値を用いて平均値を算出し、平均値をサンプルの高温ビッカース硬度とした。また、その10点の測定値を用いて、高温ビッカース硬度の標準偏差の値を求めた。
【0069】
(化合物の個数密度)
特性評価用条材から測定試料を採取し、圧延面に対してCP研磨を行った。FE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)を用い、2000倍の視野(約2500μm/視野)で50領域の観察を行った。50領域での観察結果から化合物(前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる化合物)の個数密度を算出した。
【0070】
(化合物の同定)
特性評価用条材からFIB(Focused Ion Beam)法を用いて化合物を観察するためのサンプルを作製した。そのサンプルに対して、透過型電子顕微鏡(TEM:日本電子株式会社製、JEM-2010F)を用いて粒子観察を行い、EDX分析(エネルギー分散型X線分光法)を実施し、化合物が、前記A群元素および前記B群元素のいずれか一方または両方とCuとからなる粒子であるかどうかを確認した。
ここで、図3A図3Bに、本発明例2における化合物の観察結果を示す。観察された化合物がCuCaを含むことが確認された。
【0071】
(加圧熱処理後の結晶粒径dave
上述の特性評価用条材から40mm×40mmのサンプルを切り出した。セラミックス板(材質:Si、50mm×50mm×厚さ0.32mm)の両面にペースト状の活性銀ろう材(東京ブレイズ製TB-608T)を塗布した。上述のサンプル(純銅板)2枚の間にセラミックス板を挟み込み、加圧圧力0.59MPaの荷重をかけた状態で熱処理を行った。熱処理は以下の条件で行った。850℃の炉に、積層した純銅板およびセラミックス板を投入し、材温が850℃になったことを熱電対にて確認してから60分保持し、加熱が終わった後に常温になるまで炉冷(炉内で冷却)を行った。常温まで温度が低下した後に、純銅板の圧延面について平均結晶粒径daveを以下の方法で測定した。
【0072】
まず、圧延面(セラミックス板と接していない面)を耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った。次いで、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。その後、エッチングを行い、圧延面(観察面)を光学顕微鏡で観察した。JIS H 0501の切断法に準拠し、縦、横の方向に所定長さの線分を所定の間隔で5本ずつ引いた。完全に切られる結晶粒の数を数え、その切断長さの平均値を平均結晶粒径とした。平均結晶粒径が200μm以下の場合を「A」(excellent)とした。平均結晶粒径が200μmを超えて300μm以下の場合を「B」(good)とした。平均結晶粒径が300μmを超えて500μm以下の場合を「C」(fair)とした。平均結晶粒径が500μmを超える場合を「D」(poor)とした。
【0073】
(加圧熱処理後の粒径のばらつき)
上述のように、加圧熱処理を施した試験片40mm×40mmの範囲内において双晶を除き、最も粗大な結晶粒の長径と短径の平均値を最大結晶粒径dmaxとした。ここで、最も粗大な結晶粒に引いた線分のうち、粒界によって切断される線分の長さの最大値を長径とした。そして、長径に垂直な線分のうち、粒界によって切断される線分の長さの最大値を短径とした。この最大結晶粒径dmaxと上述の平均結晶粒径daveとの比dmax/daveが15以下の場合を「B」(good)と評価し、dmax/daveが15を超え20以下の場合を「C」(fair)と評価し、dmax/daveが20を超えた場合を「D」(poor)と評価した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
【表5】
【0079】
【表6】
【0080】
【表7】
【0081】
【表8】
【0082】
比較例1は、A群元素およびB群元素の合計含有量が5.3massppmとされ、高温ビッカース硬度が4.6HVと低く、加圧熱処理後に結晶粒が粗大化し、粒径のばらつきも大きくなった。
比較例2は、A群元素およびB群元素の合計含有量が537.1massppmとされ、高温ビッカース硬度が11.6HVと高く、粒径のばらつきも大きくなった。
【0083】
比較例3は、高温ビッカース硬度が3.9HVと低く、加圧熱処理後に結晶粒が粗大化し、粒径のばらつきも大きくなった。
比較例4は、圧延面における平均結晶粒径が14μmであり、加圧熱処理後に結晶粒が粗大化し、粒径のばらつきも大きくなった。
比較例5は、高温ビッカース硬度が3.8HVと低く、加圧熱処理後に結晶粒が粗大化し、粒径のばらつきも大きくなった。
【0084】
これに対して、本発明例1~26においては、A群元素およびB群元素の合計含有量が10massppm以上300massppm以下の範囲内とされ、高温ビッカース硬度が4.0Hv以上10.0Hv以下の範囲内とされ、平均結晶粒径が15μm以上とされており、加圧熱処理後の平均結晶粒径が小さく、かつ、粒径のばらつきの小さくなった。
【0085】
以上のことから、本発明例によれば、熱処理後においても結晶組織の変化が少なく、かつ、結晶粒径のバラつきが抑制されて均一な結晶組織を得ることができる純銅材を提供可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本実施形態の純銅材は、ヒートシンクや厚銅回路等の電気・電子部品に好適に適用される。
【符号の説明】
【0087】
1 電子デバイス
3 電子部品
10 絶縁基板
11 セラミックス基板
12 回路層
13 金属層
図1
図2
図3A
図3B