(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
B23B27/14 A
(21)【出願番号】P 2023210351
(22)【出願日】2023-12-13
【審査請求日】2023-12-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】河村 侃
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/204141(WO,A1)
【文献】特開2015-182169(JP,A)
【文献】特開平08-158052(JP,A)
【文献】特開2015-188995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 1/00- 9/00
B23B 27/00-29/34
B23B 51/00-51/14
B23P 5/00-17/06
B23P 23/00-25/00
C23C 14/00-14/58
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に形成された被覆層とを含む被覆切削工具であって、
前記被覆層が、下部層と、中間層と、上部層とを、前記基材側からこの順序で含み、
前記下部層が、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を1層又は2層以上含み、
前記下部層の平均厚さが、1.5μm以上15.0μm以下であり、
前記中間層が、α型の酸化アルミニウムを含み、
前記中間層の平均厚さが、
2.0μm以上15.0μm以下であり、
前記上部層が、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を1層又は2層以上含み、
前記上部層の平均厚さが、0.5μm以上5.0μm以下であり、
前記下部層のクラック間隔の平均値Xが、0.5μm以上10.0μm未満であり、
前記中間層のクラック間隔の平均値Yが、
26.8μm以上100.0μm以下であり、
前記上部層のクラック間隔の平均値Zが、0.5μm以上10.0μm以下である、被覆切削工具。
【請求項2】
前記被覆層の平均厚さが、8.0μm以上30.0μm以下である、請求項1に記載の被覆切削工具。
【請求項3】
前記上部層が、少なくともTiCN層を含む、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。
【請求項4】
前記上部層の前記TiCN層の平均厚さが、0.5μm以上5.0μm以下である、請求項3に記載の被覆切削工具。
【請求項5】
前記クラック間隔の平均値Yと、前記クラック間隔の平均値Zとの差Y-Zが、20.0μm以上95.0μm以下である、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。
【請求項6】
前記クラック間隔の平均値Yと、前記クラック間隔の平均値Xとの差Y-Xが、25.0μm以上95.0μm以下である、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。
【請求項7】
前記基材が、超硬合金、サーメット、セラミックス又は立方晶窒化硼素焼結体である、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、炭化タングステン基超硬合金からなる基材の表面に、例えば、炭化チタン(以下、TiCとも示す)層、窒化チタン(以下、TiNともで示す)層、炭窒化チタン(以下、TiCNとも示す)層、炭酸化チタン(以下、TiCOとも示す)層、窒酸化チタン(以下、TiNOとも示す)層、及び炭窒酸化チタン(以下、TiCNOとも示す)層などのTi化合物層、並びにα型の酸化アルミニウム層の2種以上の複層からなる被覆層が、化学蒸着法により蒸着形成された被覆切削工具が、鋼や鋳鉄などの金属切削加工に用いられていることは良く知られている。
【0003】
通常、このような被覆切削工具では、成膜した被覆層に引張応力が残留しているために、被覆切削工具の破壊強度が低下して欠損し易くなることが知られている。被覆層を形成後、ショットピーニング等によりクラックを導入することにより、引張残留応力を開放する技術が提案されている。この技術は、例えば特許文献1及び2に記載されている。
【0004】
特許文献1には、基材と、該基材の表面に形成された被覆層とを含む被覆切削工具が記載されている。また、特許文献1には、被覆切削工具の被覆層が、上部層と下部層とを有すること、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、B及びOからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とで構成される化合物の1層又は2層上から構成される下部層のクラック間隔の平均値Xが10~80μmであること、上部層は下部層の表面に形成され、酸化アルミニウム層を含み、酸化アルミニウム層のクラック間隔の平均値Zが20~100μmであること、及び、0<Z-X<90の関係を満たすことが記載されている。
【0005】
特許文献2には、炭化タングステン基超硬合金又は炭窒化チタン基サーメトで構成された基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層が被覆形成された表面被覆切削工具が記載されている。また、特許文献2には、下部層を構成する少なくとも1層のTi炭窒化物層の内の平均層厚が最も厚く1.5μm以上の層厚を有すること、Ti炭窒化物層にはクラック起点層が形成されること、及び、クラック起点層から基体側の下部層には、基体表面に平行な方向に測定した場合、0.2本/μm以上2本/μm未満の平均密度でクラックが存在する応力緩和層が形成されていることが記載されている。また、特許文献2には、α型の酸化アルミニウム層からなる上部層においては、0.2本/μm未満の平均密度のクラックが形成される状態となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/005364号
【文献】特開2015-188995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の切削加工では高速化、高送り化及び深切込み化が顕著となり、従来よりも工具寿命が低下する傾向が見られるようになっている。工具寿命を改善するために、特許文献1及び2では、被覆層形成後、ショットピーニング等によりクラックを導入することにより、被覆層の引張残留応力を開放することが提案されている。
【0008】
特許文献1には、上部層及び下部層を有する被覆層を含む被覆切削工具が記載されている。特許文献1に記載の発明により、被覆切削工具の性能はある程度向上する。しかしながら、近年、更なる耐欠損性の向上が求められている。なお、特許文献1には、被覆切削工具の被覆層において、酸化アルミニウム層の基材とは反対側の表面に形成されるTi化合物層のクラック間隔の平均値が検討されていない。したがって、酸化アルミニウム層の基材とは反対側の表面に形成されるTi化合物層のクラック間隔の平均値が、0.5μm以上10.0μm以下であることは記載されていない。
【0009】
特許文献2に記載の表面被覆切削工具の被覆層において、基材とは反対側の最表面に形成されているα型の酸化アルミニウム層からなる層におけるクラックの平均密度が0.2本/μm未満(クラック間隔の平均値に換算すると5μm超)である。特許文献2に記載の表面被覆切削工具の被覆層は、クラック間隔の平均値が20μm以上である酸化アルミニウム層が基材とは反対側の最表面に露出している場合は、加工中に被覆層の表面で亀裂が発生しやすいため、耐チッピング性及び耐欠損性に改善の余地があるといえる。また、クラック間隔の平均値が5μm超20μm未満の酸化アルミニウム層が基材とは反対側の最表面に露出している場合は、酸化アルミニウム層と、その下部に形成されているTi炭窒化物層の強度が低下するため、耐摩耗性及び耐欠損性に改善の余地があるといえる。なお、特許文献2には、被覆切削工具の被覆層が、酸化アルミニウム層の基材とは反対側の表面に、更にTi化合物層を有することは記載されていない。したがって、特許文献2には、酸化アルミニウム層の基材とは反対側の表面側に形成されるTi化合物層のクラック間隔の平均値が、0.5μm以上10.0μm以下であることが記載されていない。
【0010】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、優れた耐チッピング性、耐欠損性及び耐摩耗性を有し、工具寿命の長い被覆切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0012】
(構成1)
構成1は、基材と、前記基材の表面に形成された被覆層とを含む被覆切削工具であって、
前記被覆層が、下部層と、中間層と、上部層とを、前記基材側からこの順序で含み、
前記下部層が、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を1層又は2層以上含み、
前記下部層の平均厚さが、1.5μm以上15.0μm以下であり、
前記中間層が、α型の酸化アルミニウムを含み、
前記中間層の平均厚さが、1.5μm以上15.0μm以下であり、
前記上部層が、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を1層又は2層以上含み、
前記上部層の平均厚さが、0.5μm以上5.0μm以下であり、
前記下部層のクラック間隔の平均値Xが、0.5μm以上10.0μm未満であり、
前記中間層のクラック間隔の平均値Yが、20.0μm以上100.0μm以下であり、
前記上部層のクラック間隔の平均値Zが、0.5μm以上10.0μm以下である、被覆切削工具である。
【0013】
(構成2)
構成2は、前記被覆層の平均厚さが、8.0μm以上30.0μm以下である、構成1の被覆切削工具である。
【0014】
(構成3)
構成3は、前記上部層が、少なくともTiCN層を含む、構成1又は2の被覆切削工具である。
【0015】
(構成4)
構成4は、前記上部層の前記TiCN層の平均厚さが、0.5μm以上5.0μm以下である、構成3の被覆切削工具である。
【0016】
(構成5)
構成5は、前記クラック間隔の平均値Yと、前記クラック間隔の平均値Zとの差Y-Zが、20.0μm以上95.0μm以下である、構成1~4のいずれかの被覆切削工具である。
【0017】
(構成6)
構成6は、前記クラック間隔の平均値Yと、前記クラック間隔の平均値Xとの差Y-Xが、25.0μm以上95.0μm以下である、構成1~5のいずれかの被覆切削工具である。
【0018】
(構成7)
構成7は、前記基材が、超硬合金、サーメット、セラミックス又は立方晶窒化硼素焼結体である、構成1~6のいずれかの被覆切削工具である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた耐チッピング性、耐欠損性及び耐摩耗性を有し、工具寿命の長い被覆切削工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態の被覆切削工具の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0022】
<被覆切削工具>
図1に示すように、本実施形態の被覆切削工具は、基材1とその基材の表面に形成された被覆層5とを含む。被覆切削工具の種類として、具体的には、フライス加工用又は旋削加工用刃先交換型切削インサート、ドリル及びエンドミルなどを挙げることができる。
【0023】
<基材>
本実施形態の被覆切削工具の基材としては、例えば、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体及び高速度鋼などを挙げることができる。本実施形態の被覆切削工具の基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス又は立方晶窒化硼素焼結体であることが好ましい。その中でも、基材が超硬合金又はサーメットであると、耐摩耗性及び耐欠損性に優れるので、より好ましい。
【0024】
なお、これらの基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。例えば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていてもよい。基材の表面が改質されていても、本実施形態の効果は示される。
【0025】
<被覆層>
図1に示すように、本実施形態の被覆層5は、下部層2と、中間層3と、上部層4とを、基材側からこの順序で含む。本実施形態の被覆層5は、下部層2、中間層3及び上部層4以外の層を含むことができる。ただし、優れた耐欠損性を有し、工具寿命の長い被覆切削工具を得るために、本実施形態の被覆層5は、下部層2、中間層3及び上部層4からなることが好ましい。
【0026】
本実施形態の被覆切削工具の被覆層の平均厚さは、8.0μm以上30.0μm以下であることが好ましく、8.4μm以上29.0μm以下であることがより好ましく、12.4μm以上25.3μm以下であることが更に好ましい。被覆層の平均厚さが上限値以下であることにより、基材と被覆層との密着性を向上することができる。そのため、本実施形態の被覆切削工具の耐チッピング性を向上することができ、耐欠損性に優れた被覆切削工具を得ることができる。また、被覆層の平均厚さが下限値以上であることにより、耐摩耗性に優れた被覆切削工具を得ることができる。
【0027】
本明細書において、「基材の上の下部層」とは、基材の表面に接して下部層が配置される構造、及び基材と、下部層との間に他の層が配置される構造の両方を含むこととする。「下部層の上の中間層」、及び「中間層の上の上部層」についても同様である。なお、「上」とは基材から遠い側であることを意味する。例えば、「下部層の上の中間層」とは、中間層は、下部層よりも基材から遠い側であることを意味する。
【0028】
<下部層>
本実施形態の被覆切削工具の下部層は、基材の上に配置される。本実施形態の下部層は基材の表面に形成されることが好ましい。本実施形態の下部層は、Tiと、C、N、B及びOからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を1層又は2層以上を含む。
【0029】
本実施形態の下部層は、Ti化合物からなるTi化合物層を1層又は2層以上含むことができる。具体的には、本実施形態の下部層に含まれるTi化合物層は、Tiと、C、N、B及びOからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とで構成されるTi化合物層であることが好ましい。下部層に含まれるTi化合物層としては、TiNからなるTiN層、TiCからなるTiC層、TiCNからなるTiCN層、TiCOからなるTiCO層、TiCNOからなるTiCNO層、TiB2からなるTiB2層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含むことが好ましく、TiN層、TiC層、TiCN層、TiCNO層、及びTiCO層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含むことがより好ましく、TiN層、TiCN層、TiCNO層、及びTiCO層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含むことが更に好ましく、TiN層、TiCN層、及びTiCNO層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含むことがより更に好ましい。本実施形態の下部層は、2層以上のTi化合物層からなることが好ましい。
【0030】
本実施形態の下部層は、基材と接する表面にTiN又はTiCからなる層(本明細書では、「A層」ともいう。)を備えることが好ましく、TiNからなる層を備えることがより好ましい。A層の平均厚さは、0.05μm以上1μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。下部層が所定のA層を備えることにより、優れた密着性の被覆層を得ることができ、被覆層の剥離が抑制されるため耐チッピング性に優れ、耐欠損性が一層向上する。
【0031】
本実施形態の下部層の少なくとも1層は、TiCNからなる層(本明細書では、「B層」ともいう。)であることが好ましい。B層の平均厚さは、1.0μm以上15.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以上13.5μm以下であることがより好ましく、2.0μm以上13.0μm以下であることが更に好ましい。下部層がTiCN層を含むことにより、耐摩耗性に一層優れた被覆層を得ることができる。B層は、A層の表面に形成することができる。
【0032】
本実施形態の下部層は、B層と中間層との間にTiCNO又はTiCOからなる層(本明細書では、「C層」ともいう。)を備えることが好ましく、TiCNOからなる層を備えることがより好ましい。C層は、下部層を構成する層のうち、最も基材から遠くに配置される層である。C層の平均厚さは、0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましく、0.2μm以上2.0μm以下であることがより好ましい。下部層が所定のC層を備えることにより、下部層と中間層との密着性が向上し、耐チッピング性に優れるため、耐欠損性が一層向上する。C層は、B層の表面に形成することができる。
【0033】
本実施形態の下部層は、所定のA層、所定のTiCN層(B層)及び所定のC層の3層からなることが好ましい。下部層が所定の3層からなることにより、優れた性能の被覆層を得ることができ、優れた耐チッピング性、耐欠損性及び耐摩耗性を有し、工具寿命の長い被覆切削工具を得ることができる。
【0034】
本実施形態の下部層全体の平均厚さは、1.5μm以上15.0μm以下であり、1.8μm以上14.7μm以下であることが好ましく、2.4μm以上13.5μm以下であることがより好ましい。下部層の平均厚さが上述の上限値以下であることにより、被覆層の密着性が向上するため耐チッピング性が向上し、耐欠損性に優れる。下部層の平均厚さが上述の下限値以上であることにより、耐摩耗性に優れる。
【0035】
<中間層>
本実施形態の被覆切削工の中間層は、下部層の上に配置される。本実施形態の中間層は、下部層の表面に形成されることが好ましい。
【0036】
本実施形態の中間層は、α型の酸化アルミニウム(α-Al2O3)を含むことが好ましい。本実施形態の中間層は、α型の酸化アルミニウムからなる酸化アルミニウム層(α-Al2O3層)であることができる。
【0037】
本実施形態の中間層の平均厚さは、1.5μm以上15.0μm以下であり、2.0μm以上14.8μm以下であることが好ましく、2.5μm以上13.5μm以下であることがより好ましい。中間層の平均厚さが上述の上限値以下であることにより、被覆層の密着性が向上するため耐チッピング性が向上し、耐欠損性に優れる。下部層の平均厚さが上述の下限値以上であることにより、耐摩耗性に優れる。
【0038】
<上部層>
本実施形態の被覆切削工の上部層は、中間層の上に配置される。本実施形態の上部層は、中間層の表面に形成されることが好ましい。本実施形態の上部層は、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を1層又は2層以上含む。
【0039】
本実施形態の上部層は、Ti化合物からなるTi化合物層を1層又は2層以上含むことができる。具体的には、本実施形態の上部層に含まれるTi化合物層は、Tiと、C、N、B及びOからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とで構成されるTi化合物層であることが好ましい。上部層に含まれるTi化合物層としては、TiNからなるTiN層、TiCからなるTiC層、TiCNからなるTiCN層、TiCOからなるTiCO層、TiCNOからなるTiCNO層、TiB2からなるTiB2層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含むことが好ましく、TiN層、TiC層、TiCN層、TiCNO層、及びTiCO層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含むことがより好ましく、TiN層、TiCN層、TiCNO層、及びTiCO層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含むことが更に好ましい。本実施形態の上部層は、2層以上のTi化合物層からなることが好ましい。
【0040】
本実施形態の上部層は、上部層を構成する層のうち最も基材に近い層としてL層を備えることができる。L層は、TiCNO層、TiCO層又はTiN層であることができる。L層の平均厚さは、0.05μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1.0μm以下であることがより好ましく、0.2μm以上0.5μm以下であることが更に好ましい。上部層が所定のL層を備えることにより、中間層と上部層の密着性が向上し、耐チッピング性に優れるため、耐欠損性が向上する。また、後述の上部層の平均厚さを所定値以上とすることによる効果を、有効かつ確実に奏する観点より好ましい。
【0041】
本実施形態の上部層は、少なくともTiCN層を含むことが好ましい。本実施形態の上部層の少なくとも1層は、TiCNからなる層(本明細書では、単に「TiCN層」ともいう。)であることが好ましい。上部層がTiCN層を含むことにより、後述の上部層の平均厚さを所定値以上とすることによる効果を有効かつ確実に奏することができ、耐摩耗性及び耐欠損性に優れた被覆層を得ることができる。上部層が上述のL層を有する場合には、TiCN層は、L層の表面に形成することができる。また、上部層がL層を有しない場合には、TiCN層は、上述の中間層の表面に形成することができる。
【0042】
上部層のTiCN層の平均厚さは、0.2μm以上5.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上4.8μm以下であることが更に好ましい。上部層のTiCN層の平均厚さが上述の上限値以下であることにより、被覆層の密着性を向上することができるので、被覆層の耐チッピング性が向上し、耐欠損性に優れた被覆切削工具を得ることができる。上部層のTiCN層の平均厚さが上述の下限値以上であることにより、耐摩耗性に優れた被覆層を得ることができる。また、後述の上部層の平均厚さを所定値以上とすることによる効果を有効かつ確実に奏することができ、耐摩耗性及び耐欠損性に優れた被覆層を得ることができる。
【0043】
本実施形態の上部層は、上部層を構成する層のうち最も基材から遠い層としてU層を備えることができる。U層は、TiNからなる層(TiN層)であることが好ましい。U層の平均厚さは、0.05μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1.8μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上0.5μm以下であることが更に好ましい。U層がTiN層であることにより、使用したコーナーを識別することが容易となる傾向にある。上部層のU層の平均厚さが上述の上限値以下であることにより、被覆層の密着性を向上することができるので、被覆層の耐チッピング性が向上し、耐欠損性に優れた被覆切削工具を得ることができる。上部層のU層の平均厚さが上述の下限値以上であることにより、使用したコーナーの識別が容易な被覆切削工具を得ることができる。U層は、上部層のTiCN層の表面に形成することができる。なお、上部層は、L層及びU層の2層からなることができる。この場合、上部層はTiCN層を有しないので、U層をL層の表面に形成することができる。また、上部層は、U層のみからなることができる。この場合、上部層はL層及びTiCN層を有しないので、U層を中間層の表面に形成することができる。
【0044】
本実施形態の上部層は、所定のL層、所定のTiCN層及び所定のU層の3層、又は所定のTiCN層及び所定のU層の2層からなることが好ましい。上部層が所定の複数層からなることにより、優れた性能の被覆層を得ることができ、優れた耐チッピング性、耐欠損性及び耐摩耗性を有し、工具寿命の長い被覆切削工具を得ることができる。なお、本実施形態の上部層は、所定のTiCN層のみからなることができる。
【0045】
本実施形態の上部層全体の平均厚さは、0.5μm以上5.0μm以下であり、0.6μm以上4.9μm以下であることが好ましく、1.0μm以上4.2μm以下であることがより好ましく、1.2μm以上3.6μm以下であることが更に好ましい。上部層の平均厚さが上述の上限値以下であることにより、被覆層の密着性が向上するため耐チッピング性が向上し、耐欠損性に優れる。上部層の平均厚さが上述の下限値以上であることにより、ブラスト処理による被覆層、特に上部層の剥離、及び中間層へのクラックの進展が抑制される傾向にある。また、上部層の平均厚さが上述の下限値以上であることにより、後述する上部層におけるクラック間隔の平均値を所定値以下とすることによる効果を有効かつ確実に奏することができる。更に、後述する上部層におけるクラック間隔の平均値を所定値以上とすることを有効かつ確実にすることができる。
【0046】
<クラック間隔>
次に、本実施形態の被覆切削工具の被覆層中のクラックの、クラック間隔について説明する。本実施形態の被覆切削工具の被覆層の下部層、中間層及び上層は、以下に述べるように、所定のクラック間隔の平均値を有する。本明細書では、下部層のクラック間隔の平均値を「平均値X」という。同様に、本明細書では、中間層及び上部層のクラック間隔の平均値を、それぞれ「平均値Y」及び「平均値Z」という。
【0047】
被覆層の下部層、中間層及び上層のクラック間隔の平均値X、Y及びZは、次のようにして測定することができる。
【0048】
まず、上部層、中間層及び下部層の厚さがそれぞれの平均厚さの60~95%の厚さとなるまで(例えば、それぞれの平均厚さの70%~80%の厚さとなるまで)、基材とは反対側の被覆層の表面から研磨し、基材表面に平行な断面を得る。次に、このようにして得られた断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて2000倍の倍率で観察し、複数の観察像を撮影し、複数の断面SEM写真を得る。次に、断面SEM写真を組み合わせることで縦200μm、横300μmの範囲の断面を含むSEM写真を得る。次に、得られたSEM写真において、SEM写真の縦方向に20μmの間隔で、SEM写真の横方向に平行な長さが300μm以上の直線(SEM写真の横方向の全体にわたる直線)を10本引く。10本の直線のそれぞれにおいて、直線とクラックとの交点を特定し、隣接する交点間の距離を測定する。10本の直線の隣接する交点間の距離のすべてを合計した値を、測定した交点間の数で除することで、上部層、中間層及び下部層のそれぞれにおけるクラックの、クラック間隔の平均値X、Y及びZを算出することができる。
【0049】
本実施形態の被覆切削工具の被覆層において、下部層のクラック間隔の平均値Xは、0.5μm以上10.0μm未満であり、好ましくは0.6μm以上9.8μm以下であり、より好ましくは0.7μm以上8.2μm以下であり、更に好ましくは0.8μm以上5.2μm以下である。下部層のクラック間隔の平均値Xが上述の上限値以下であることにより、下部層の引張残留応力が緩和されるため、靭性が向上し、耐欠損性が向上する。平均値Xが上述の下限値以上であることにより、下部層の強度が向上するため、耐摩耗性及び耐欠損性に優れる。
【0050】
本実施形態の被覆切削工具の被覆層において、中間層のクラック間隔の平均値Yは、20.0μm以上100.0μm以下であり、好ましくは26.8μm以上96.0μm以下であり、より好ましくは31.7μm以上86.4μm以下であり、更に好ましくは34.8μm以上85.3μm以下である。中間層のクラック間隔の平均値Yが上述の上限値以下であることにより、中間層の引張残留応力が緩和されるため、靭性が向上し、耐欠損性が向上する。平均値Yが上述の下限値以上であることにより、中間層の強度が向上するため、耐摩耗性及び耐欠損性に優れる。また、上部層及び下部層の強度低下が抑制されるため、耐摩耗性及び耐欠損性に優れる。
【0051】
本実施形態の被覆切削工具の被覆層において、上部層のクラック間隔の平均値Zは、0.5μm以上10.0μm以下であり、好ましくは0.6μm以上9.2μm以下であり、より好ましくは0.7μm以上8.6μm以下であり、更に好ましくは0.9μm以上5.4μm以下である。上部層のクラック間隔の平均値Zが上述の上限値以下であることにより、上部層の引張残留応力が緩和されるため、靭性が向上し、耐欠損性が向上する。また、平均値Zが上述の上限値以下であることにより、加工中の亀裂の発生が抑制されるため、下部層におけるクラック間隔の平均値を10μm未満としても耐チッピング性の低下が生じにくく、被覆層の靭性が一層向上するため耐欠損性に優れる。平均値Zが上述の下限値以上であることにより、上部層の強度が向上するため、耐摩耗性及び耐欠損性に優れる。
【0052】
本実施形態の被覆切削工具の被覆層において、中間層のクラック間隔の平均値Yと、上部層のクラック間隔の平均値Zとの差Y-Zが、20.0μm以上95.0μm以下であることが好ましく、23.9μm以上94.1μm以下であることがより好ましく、28.5μm以上84.7μm以下であることが更に好ましい。中間層のクラック間隔の平均値Yと、上部層のクラック間隔の平均値Zとの差Y-Zが、上述の上限値以下であることにより、上部層と中間層との残留応力の差が小さくなり、密着性が向上するため耐チッピング性が向上し、耐欠損性に優れる。差Y-Zが上述の下限値以上であることにより、クラックの導入による上部層の強度低下が低減される傾向にあるため、耐摩耗性及び耐欠損性に優れる。
【0053】
本実施形態の被覆切削工具の被覆層において、中間層のクラック間隔の平均値Yと、下部層のクラック間隔の平均値Xとの差Y-Xが、25.0μm以上95.0μm以下であることが好ましく、25.3μm以上93.8μm以下であることがより好ましく、26.0μm以上85.7μm以下であることがより好ましい。中間層のクラック間隔の平均値Yと、下部層のクラック間隔の平均値Xとの差Y-Xが、上述の上限値以下であることにより、中間層と下部層との残留応力の差が小さくなり、密着性が向上するため耐チッピング性が向上し、耐欠損性に優れる。差Y-Xが上述の下限値以上であることにより、下部層へのクラックの導入による強度低下が低減される傾向にあるため、耐摩耗性及び耐欠損性に優れる。
【0054】
<被覆層の形成方法>
本実施形態の被覆切削工具の被覆層(下部層、中間層及び上部層)の形成方法について説明する。
【0055】
本実施形態の被覆切削工具の被覆層は、下部層の形成工程(工程1)、冷却工程(工程2)、中間層及び上部層の形成工程(工程3)、第1ブラスト工程(工程4)及び第2ブラスト工程(工程5)を経て形成することができる。被覆層の形成の際の形成条件を適切に選択することにより、所定のクラック間隔になるように制御することができる。特に、工程2、4及び5の条件を適切に選択することにより、クラック間隔の平均値X、Y及びZを所定の範囲に制御することができる。
【0056】
以下の説明において、各層の形成のための原料ガスの組成は「mol%」を単位として示す。
【0057】
<<工程1:下部層の形成工程>>
本実施形態の被覆切削工具の被覆層の形成のために、まず、基材の表面に、下部層を形成する。本明細書では、下部層の形成工程のことを「工程1」という場合がある。
【0058】
本実施形態の被覆切削工具の下部層に含まれるTi化合物層としては、TiN層、TiC層、TiCN層、TiCNO層及びTiCO層を挙げることができる。下部層が、A層、TiCNからなる層(B層)及びC層の3層からなる場合には、基材の表面に、A層、TiCNからなる層(B層)及びC層の順序で、3層のTi化合物層を形成することができる。
【0059】
下部層に含まれるA層は、TiN層又はTiC層であることが好ましい。
【0060】
下部層のA層のTiN層は、TiCl4、N2及びH2を原料ガスとして、化学蒸着法で形成することができる。A層のTiN層の形成条件は、原料ガスの組成を、TiCl4:5~10mol%、N2:30.0~50.0mol%、残部をH2とし、温度800~1000℃、圧力300~400hPaであることが好ましい。
【0061】
下部層のA層のTiC層は、TiCl4、CH4及びH2を原料ガスとして、化学蒸着法で形成することができる。A層のTiC層の形成条件は、原料ガスの組成を、TiCl4:1.0~5.0mol%、CH4:3.0~7.0mol%、残部をH2とし、温度900~1100℃、圧力65~85hPaであることが好ましい。
【0062】
下部層のTiCN層(B層)は、TiCl4、CH3CN及びH2を原料ガスとして、化学蒸着法で形成することができる。TiCN層(B層)の形成条件は、原料ガスの組成を、TiCl4:4~8mol%、CH3CN:0.5~2.0mol%及び残部をH2とし、温度750~950℃、圧力60~80hPaであることが好ましい。
【0063】
下部層に含まれるC層は、TiCNO層又はTiCO層であることが好ましい。
【0064】
下部層のC層のTiCNO層は、TiCl4、CO、N2及びH2を原料ガスとして、化学蒸着法で形成することができる。C層のTiCNO層の形成条件は、原料ガスの組成を、TiCl4:2.0~6.0mol%、CO:0.3~2.0mol%、N2:20.0~50.0mol%及び残部をH2とし、温度900~1100℃、圧力90~110hPaであることが好ましい。
【0065】
下部層のC層のTiCO層は、TiCl4、CO及びH2を原料ガスとして、化学蒸着法で形成することができる。C層のTiCO層の形成条件は、原料ガスの組成を、TiCl4:0.5~2.5mol%、CO:1.0~5.0mol%、残部をH2とし、温度900~1100℃、圧力70~90hPaであることが好ましい。
【0066】
<<工程2:冷却工程>>
本実施形態の被覆切削工具の被覆層の形成方法では、下部層の形成後、冷却工程を実施する。本明細書では、冷却工程のことを「工程2」という場合がある。
【0067】
冷却工程では、下部層を形成した基材を、180~220℃の温度まで冷却し、50~70分間保持することが好ましい。このとき、圧力180~220hPaのH2ガス雰囲気で保持することが好ましい。冷却工程を実施することにより、下部層にクラックを導入することができる。また、冷却条件を適切に選択して冷却工程を実施することにより、下部層と基材との界面近傍においてクラックの起点となる領域を形成することができるので、後述の第1ブラスト工程により、下部層におけるクラック間隔の平均値Xを小さくすることができる。
【0068】
<<工程3:酸化処理、中間層及び上部層の形成工程>>
本実施形態の被覆切削工具の被覆層の形成方法では、冷却工程の後に、酸化処理を経て、中間層及び上部層を形成する。本明細書では、酸化処理、中間層及び上部層の形成工程のことを「工程3」という場合がある。
【0069】
酸化処理は、所定の温度でCO2ガス及びH2ガスを導入することにより、行うことができる。酸化処理条件としては、導入するガスの組成を、CO2:0.2~1.0mol%及び残部をH2とし、温度900~1100℃、圧力50~70hPaで行うことができる。また、酸化処理の時間は、1~10分間であることが好ましい。
【0070】
酸化処理を実施することにより、下部層の表面を酸化させることで、下部層と中間層との密着性に優れた被覆層を得ることができ、被覆層の剥離が抑制されるため耐チッピング性に優れ、耐欠損性が向上する。
【0071】
本実施形態の被覆切削工具の被覆層の形成方法では、酸化処理をした下部層の表面に、中間層を形成する。中間層の形成の際には、まず、中間層の核形成を行い、その後、中間層を形成することが好ましい。
【0072】
中間層の核形成は、AlCl3、CO、CO2、HCl及びH2を原料ガスとして、化学蒸着法で行うことができる。中間層の核形成条件は、原料ガスの組成を、AlCl3:1.0~5.0mol%、CO:0.5~2.0mol%、CO2:0.8~3.0mol%、HCl:1.5~5.0mol%及び残部をH2とし、温度900~1100℃、圧力60~80hPaであることが好ましい。
【0073】
中間層の核形成の後、Al2O3を材料とする中間層を成膜する。中間層のAl2O3層は、α型Al2O3層であることが好ましい。中間層のα型Al2O3層の成膜は、AlCl3、CO2、HCl、H2S及びH2を原料ガスとして、化学蒸着法で形成することができる。成膜条件としては、原料ガスの組成を、AlCl3:2.1~5.0mol%、CO2:2.5~4.0mol%、HCl:2.0~3.0mol%、H2S:0.1~0.45mol%及び残部をH2とし、温度850~1050℃、圧力60~80hPaであることが好ましい。
【0074】
本実施形態の被覆切削工具の被覆層の形成方法では、中間層の成膜の後、上部層を形成する。
【0075】
本実施形態の被覆切削工具の上部層に含まれるTi化合物層としては、TiN層、TiCN層、TiCNO層及びTiCO層を挙げることができる。上部層が、L層、TiCN層及びU層からなる場合には、中間層の表面に、L層、TiCN層及びU層の順序で、3層のTi化合物層を形成することができる。なお、上部層は、TiCN層及びU層のうち少なくとも1層からなることができる。
【0076】
上部層を構成する層のうち、最も基材に近い層であるL層は、TiCNO層、TiCO層又はTiN層であることができる。
【0077】
上部層のL層のTiCNO層は、TiCl4、CO、N2、H2を原料ガスとして、化学蒸着法で形成することができる。L層のTiCNO層の形成条件は、原料ガスの組成を、TiCl4:2.0~7.0mol%、CO:0.4~1.5mol%、N2:20.0~50.0mol%及び残部をH2とし、温度900~1100℃、圧力80~120hPaであることが好ましい。
【0078】
上部層のL層のTiCO層は、TiCl4、CO、H2を原料ガスとして、化学蒸着法で形成することができる。L層のTiCO層の形成条件は、原料ガスの組成を、TiCl4:0.8~2.5mol%、CO:1.5~3.5mol%及び残部をH2とし、温度900~1100℃、圧力70~90hPaであることが好ましい。
【0079】
上部層のL層のTiN層は、TiCl4、N2、H2を原料ガスとして、化学蒸着法で形成することができる。L層のTiN層の形成条件は、原料ガスの組成を、TiCl4:4.0~15.0mol%、N2:20.0~60.0mol%及び残部をH2とし、温度900~1100℃、圧力300~400hPaであることが好ましい。
【0080】
上部層を構成する層のうち、L層の上又は中間層の上に形成されるTiCNからなる層(TiCN層)は、TiCl4、CH3CN、H2を原料ガスとして、化学蒸着法で形成することができる。TiCN層の形成条件は、原料ガスの組成を、TiCl4:3.0~10.0mol%、CH3CN:0.5~2.0mol%及び残部をH2とし、温度900~1100℃、圧力60~80hPaであることが好ましい。
【0081】
上部層を構成する層のうち最も基材から遠い層であるU層は、TiNからなる層(TiN層)であることが好ましい。U層のTiN層の形成条件は、上述のL層のTiN層の形成条件と同様の条件で形成することができる。
【0082】
以上のようにして、下部層、中間層及び上部層を含む被覆層を形成することができる。
【0083】
<<工程4:第1ブラスト工程>>
本実施形態の被覆切削工具の被覆層の形成方法では、上述のように被覆層を形成した後、被覆層の被処理面に対して、第1ブラスト工程を実施することが好ましい。本明細書では、第1ブラスト工程のことを「工程4」という場合がある。
【0084】
第1ブラスト工程は、被覆層の被処理面に対して、所定の投射材を所定の投射条件で投射することにより、実施することができる。第1ブラスト工程は、乾式ブラスト処理であることが好ましい。乾式ブラスト処理とは、投射材を圧縮空気により加速させ、被処理物に投射する処理工程を示す。
【0085】
第1ブラスト工程に用いることができる投射材(メディア)としては、金属、セラミック等の剛性のある材質の投射材を用いることができる。なお、投射材の材質は、被覆層を構成する材料と比べて硬さが低く、かつ比重が大きい材質であることが好ましい。投射材の材質は、少なくともAl2O3よりも硬さの低い材質であることが好ましい。具体的には、第1ブラスト工程の投射材の材質として、鋼及びZrO2などを用いることが好ましい。投射材の形状は、任意の形状を用いることができる。被覆層に所定のクラックを生じさせるために、投射材の形状は、球形であることが好ましい。第1ブラスト工程の投射材の平均粒径は、100~150μmであることが好ましい。
【0086】
第1ブラスト工程の投射材の平均粒径は、全粒子の積算値50%の粒子寸法(平均粒径:D50)であることができる。本明細書に記載されている他の平均粒径についても同様である。なお、平均粒径(D50)は、マイクロトラック法(レーザー回折散乱法)によって粒度分布測定を行い、粒度分布測定の結果からD50値を得ることにより求めることができる。後述する第2ブラスト工程の投射材についても同様である。
【0087】
第1ブラスト工程のブラスト条件としては、投射圧力が0.1~0.2MPa、投射角度が70~90度、投射時間が20~120秒であることが好ましい。第1ブラスト工程において所定のブラスト条件を用いることにより、被覆層に所定のクラックを生じさせることができる。
【0088】
なお、第1ブラスト工程(及び後述する第2ブラスト工程)における投射角度とは、被処理面の表面に垂直に投射したときの角度を90度とした場合の角度を意味する。また、被覆層の被処理面に対して、所定の投射材を所定の投射条件で投射する際には、投射材が被処理面以外に衝突しないようにするために、被処理面以外の被覆層の表面をマスキングした状態で実施することが好ましい。第2ブラスト工程においても同様である。
【0089】
上述の冷却工程と組み合わせて第1ブラスト工程を実施することにより、中間層及び上部層に比して、下部層におけるクラック間隔の平均値を優先的に小さくすることができる。また、投射材の材質が、被覆層を構成する材料と比べて硬さが低く、かつ比重が大きい材質であることにより、被覆層の表面を起点としたクラックの発生を抑制することができる。
【0090】
<<工程5:第2ブラスト工程>>
本実施形態の被覆切削工具の被覆層の形成方法では、上述のように被覆層の被処理面に対して第1ブラスト工程を実施した後に、第2ブラスト工程を実施することが好ましい。本明細書では、第2ブラスト工程のことを「工程5」という場合がある。
【0091】
第2ブラスト工程は、被覆層の被処理面に対して、所定の投射材を所定の投射条件で投射することにより、実施することができる。第2ブラスト工程は、湿式ブラスト処理であることが好ましい。湿式ブラスト処理とは、水と投射材の混合液を圧縮空気により加速させ、被処理物に投射する処理工程を示す。
【0092】
第2ブラスト工程に用いることができる投射材(メディア)としては、金属、セラミック等の剛性のある材質の投射材を用いることができる。投射材の材質は、Al2O3と比べて比重が同等以下であり、Al2O3と同等以上の硬さの材質であることが好ましい。具体的には、第2ブラスト工程の投射材の材質として、Al2O3、SiC及びcBNなどを用いることが好ましい。
【0093】
第2ブラスト工程に用いる投射材の形状は、任意の形状を用いることができる。ただし、後述するように、第2ブラスト工程の投射角度は、第1ブラスト工程の投射角度よりも小さいことが好ましい。投射角度を小さくするほどブラスト工程による被覆層の除去が優先的に生じてしまう。そのため、第2ブラスト工程における被覆層の除去を抑制するために、投射材の形状は多角形状よりも、球形であることが好ましい。第2ブラスト工程の投射材の平均粒径(D50)は、30~50μmであることが好ましい。
【0094】
第2ブラスト工程のブラスト条件としては、投射圧力が0.1~0.2MPa、投射角度が5~50度、投射時間が10~260秒であることが好ましい。第2ブラスト工程の投射角度は、第1ブラスト工程の投射角度よりも小さいことが好ましい。第2ブラスト工程において所定のブラスト条件を用いることにより、被覆層に所定のクラックを生じさせることができる。
【0095】
第2ブラスト工程を実施することにより、被覆層の基材とは反対の表面側を起点としたクラックを優先的に導入することができる。また、第2ブラスト工程において、投射角度を小さくするほど、中間層におけるクラック間隔の平均値が小さくなることを抑制しつつ、上部層におけるクラック間隔の平均値を小さくすることができる。また、投射材として、少なくともAl2O3と同等以上の硬さ及び同等以下の比重の材質の投射材を用いることによっても、中間層におけるクラック間隔の平均値が小さくなることを抑制しつつ、上部層におけるクラック間隔の平均値を小さくすることができる。
【0096】
上述のように、冷却工程(工程2)、第1ブラスト工程(工程4)及び第2ブラスト工程(工程5)の条件を適切に制御することにより、クラック間隔の平均値X(下部層)、Y(中間層)及びZ(上部層)を所定の範囲に制御することができる。
【0097】
具体的には、下部層のクラック間隔の平均値Xは、第1ブラスト工程における投射時間、又は下部層全体の平均厚さを調節することにより、制御することができる。具体的には、第1ブラスト工程における投射時間を長くするか、又は下部層全体の平均厚さを薄くすることにより、クラック間隔の平均値Xを小さくすることができる。
【0098】
また、中間層のクラック間隔の平均値Yは、第2ブラスト工程における投射角度、上部層全体の平均厚さ、及び/又は上部層としてTiCN層を形成させた場合のその平均厚さを調節することにより、制御することができる。具体的には、第2ブラスト工程における投射角度を小さくすること、上部層全体の平均厚さを厚くすること、及び/又は上部層のTiCN層の平均厚さを厚くすることにより、クラック間隔の平均値Yを小さくすることができる。
【0099】
また、上部層のクラック間隔の平均値Zは、第2ブラスト工程における投射時間を調節することにより、制御することができる。具体的には、第2ブラスト工程における投射時間を長くすることにより、クラック間隔の平均値Zを小さくすることができる。
【0100】
また、中間層のクラック間隔の平均値Yと、下部層のクラック間隔の平均値Xとの差Y-Xは、クラック間隔の平均値X及びクラック間隔の平均値Yを調節することにより、制御することができる。具体的には、クラック間隔の平均値Xを小さくすること、及び/又はクラック間隔の平均値Yを大きくすることにより、クラック間隔の差Y-Xを大きくすることができる。
【0101】
また、中間層のクラック間隔の平均値Yと、上部層のクラック間隔の平均値Zとの差Y-Zは、クラック間隔の平均値Z及びクラック間隔の平均値Yを調節することにより、制御することができる。具体的には、クラック間隔の平均値Zを小さくすること、及び/又はクラック間隔の平均値Yを大きくすることにより、クラック間隔の差Y-Xを大きくすることができる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0103】
以下に説明するように、本実施形態の実施例として発明品1~37の被覆切削工具を製造した。また、比較例として比較品1~20の被覆切削工具を製造した。
【0104】
基材として、CNMG120408-TM(株式会社タンガロイ製)形状の89.2%WC-8.8%Co-2.0%NbC(以上質量%)組成の超硬合金製切削インサートを用意した。この基材の切れ刃稜線部にSiCブラシにより丸ホーニングを施した後、基材の表面を洗浄した。
【0105】
次に、発明品及び比較品の基材を外熱式化学蒸着装置に装入し、表1~4に示す被覆層(下部層、中間層及び上部層)の構成と平均厚さになるように基材表面に被覆層を形成した(工程1~3)。その後、所定のブラスト処理を行った(工程4及び5)。以下、各層の形成条件について説明する。
【0106】
<工程1:下部層の形成工程>
表1及び2に示す組成及び平均厚さの下部層を、発明品及び比較品の基材の表面に化学蒸着法で形成した(工程1)。表1及び2に示すように、すべての発明品及び比較品では、A層、B層及びC層の3層からなる下部層を形成した。表5に、下部層中の各組成ごとの層の形成条件を示す。
【0107】
<工程2:冷却工程>
下部層を形成した発明品1~37並びに比較品1~18及び20に対して、冷却工程(工程2)を実施した。なお、比較品19に対しては、冷却工程を実施しなかった。
【0108】
冷却工程では、比較品19以外の発明品及び比較品の下部層を形成した後に、30hPaになるまでチャンバを真空引きした。次に、チャンバ内の温度を200℃に下げ、200hPaのH2ガス雰囲気中で、60分間保持した。比較品19以外の発明品及び比較品の冷却工程の終了後、次の工程3を行った。
【0109】
<工程3:酸化処理、中間層及び上部層の形成工程>
冷却工程を実施した発明品及び比較品に対して、酸化処理、中間層及び上部層の形成工程(工程3)を実施した。比較品19の場合には、下部層を形成した後に、工程3を実施した。
【0110】
<<酸化処理>>
すべての発明品及び比較品に対して、酸化処理を実施した。酸化処理は、CO2ガス:0.5mol%及びH2ガス:99.5mol%の酸化処理ガスを導入し、温度1000℃、圧力60hPaの条件で、3分間保持することにより行った。
【0111】
<<中間層の形成>>
表1及び2に示す組成及び平均厚さの中間層を、発明品及び比較品の下部層の表面に化学蒸着法で形成した。表1及び2に示すように、すべての発明品及び比較品では、α型Al2O3からなる中間層を形成した。表6に、中間層の核形成及びα型Al2O3層の成膜条件を示す。
【0112】
<<上部層の形成>>
表3及び4に示す組成及び平均厚さの上部層を、中間層の表面に化学蒸着法で形成した。表3及び4に示すように、発明品22、23、26、27及び30~35並びに比較品18では、L層、TiCN層及びU層の3層からなる上部層を形成した。また、発明品18及び20では、TiCN層のみからなる上部層を形成した。また、発明品24では、U層のみからなる上部層を形成した。それら以外の発明品及び比較品では、TiCN層及びU層の2層からなる上部層を形成した。上部層は、L層、TiCN層及びU層の順に、中間層の上に形成した。表7に、上部層のL層、TiCN層及びU層の形成条件を示す。
【0113】
<工程4:第1ブラスト工程>
上述のようにして形成した被覆層(下部層、中間層及び上部層)を有する発明品及び比較品に対して、第1ブラスト工程(工程4)のブラスト処理を行った。ただし、比較品19に対しては、第1ブラスト工程のブラスト処理を行わなかった。
【0114】
第1ブラスト工程のブラスト処理は、被覆層の被処理面に対して、所定の投射材を所定の投射条件で投射することにより、実施した。なお、第1ブラスト工程のブラスト処理は、乾式ブラスト処理として実施した。
【0115】
第1ブラスト工程の投射材(メディア)としては、鋼を材質とする平均粒径120μmの球形の投射材を用いた。第1ブラスト工程のブラスト条件としては、投射圧力を0.15MPa、投射角度を90度とした。なお、投射角度とは、被処理面の表面に垂直に投射したときの角度を90度とした場合の角度を意味する。表8及び9に、各発明品及び比較品(比較品19を除く)の第1ブラスト工程の投射時間を示す。
【0116】
被覆層の被処理面に対して、所定の投射材を所定の投射条件で投射する際には、投射材が被処理面以外に衝突することを防止するために、被処理面以外の被覆層の表面をマスキングした。
【0117】
<工程5:第2ブラスト工程>
第1ブラスト工程の後、上述のようにして形成した被覆層(下部層、中間層及び上部層)を有する発明品及び比較品に対して、第2ブラスト工程(工程5)のブラスト処理を行った。ただし、比較品20に対しては、第2ブラスト工程のブラスト処理を行わなかった。
【0118】
第2ブラスト工程のブラスト処理は、被覆層の被処理面に対して、所定の投射材を所定の投射条件で投射することにより、実施した。なお、第2ブラスト工程のブラスト処理は、湿式ブラスト処理として実施した。
【0119】
第2ブラスト工程の投射材(メディア)としては、Al2O3を材質とする平均粒径40μmの球形の投射材を用いた。第2ブラスト工程のブラスト条件として、投射圧力を0.15MPaとした。表8及び9に、各発明品及び比較品(比較品20を除く)の第2ブラスト工程の投射角度及び投射時間を示す。なお、投射角度とは、被処理面の表面に垂直に投射したときの角度を90度とした場合の角度を意味する。
【0120】
被覆層の被処理面に対して、所定の投射材を所定の投射条件で投射する際には、投射材が被処理面以外に衝突することを防止するために、被処理面以外の被覆層の表面をマスキングした。
【0121】
以上の工程により、発明品及び比較品の被覆切削工具を製造した。
【0122】
<各層の平均厚さの測定>
各発明品及び比較品の被覆層の各層の平均厚さは、被覆切削工具の刃先からすくい面の中心部に向かって50μmの位置の近傍の断面を、SEMで3箇所測定し、3箇所の平均値を平均厚さとした。表1~4に、各発明品及び比較品の被覆層の各層の平均厚さを示す。
【0123】
<各層の組成の測定>
各発明品及び比較品の被覆層の各層の組成は、被覆切削工具の所定の層の断面を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて測定した。中間層の結晶系は、2θ/θ集中法光学系のX線回折測定により同定した。表1~4に、各発明品及び比較品の被覆層の各層の組成(各層に含まれる元素の種類)を示す。
【0124】
<クラック間隔の測定>
【0125】
発明品及び比較品の被覆切削工具の被覆層(下部層、中間層及び上部層)のクラック間隔の平均値X、Y及びZを測定した。被覆層のクラック間隔の平均値X、Y及びZの測定及び算出方法は、下記の通りである。
【0126】
被覆層の上部層のクラック間隔の平均値Zの測定は、次のようにして行った。まず、上部層の厚さが上部層の平均厚さの70%の厚さとなるまで、基材とは反対側の被覆層の表面側から研磨し、基材表面に平行な上部層の断面を得た。次に、得られた上部層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて2000倍の倍率で観察し、複数の観察像を撮影し、複数の断面SEM写真を得た。複数の断面SEM写真を組み合わせることにより、縦200μm、横300μmの範囲の断面を含むSEM写真を得た。得られたSEM写真において、SEM写真の縦方向に20μmの間隔で、SEM写真の横方向に平行な長さが300μm以上の直線(SEM写真の横方向の全体にわたる直線)を10本引いた。10本の直線のそれぞれにおいて、直線とクラックとの交点を特定し、隣接する交点間の距離を測定した。10本の直線の隣接する交点間の距離のすべてを合計した値を、測定したすべての交点間の数で除することで、上部層におけるクラックの、クラック間隔の平均値Zを算出した。
【0127】
被覆層の中間層のクラック間隔の平均値Yの測定は、次のようにして行った。まず、上部層のクラック間隔の測定と同様に、中間層の厚さが中間層の平均厚さの80%の厚さとなるまで、基材とは反対側の被覆層の表面側から研磨し、基材表面に平行な中間層の断面を得た。その後、上部層のクラック間隔の測定と同様に、中間層の断面のSEM写真から、中間層におけるクラックの、クラック間隔の平均値Yを測定し算出した。
【0128】
被覆層の下部層のクラック間隔の平均値Xの測定は、次のようにして行った。まず、上部層のクラック間隔の測定と同様に、下部層の厚さが下部層の平均厚さの70%の厚さとなるまで、基材とは反対側の被覆層の表面側から研磨し、基材表面に平行な下部層の断面を得た。その後、上部層のクラック間隔の測定と同様に、下部層の断面のSEM写真から、下部層におけるクラックの、クラック間隔の平均値Xを測定し算出した。
【0129】
表10及び11に、上述のようにして測定した発明品及び比較品の被覆切削工具の下部層、中間層及び上部層のクラック間隔の平均値X、Y及びZを示す。また、表10及び11に、クラック間隔の平均値X、Y及びZを用いて算出した、中間層のクラック間隔の平均値Yと、上部層のクラック間隔の平均値Zとの差Y-Z、及び中間層のクラック間隔の平均値Yと、下部層のクラック間隔の平均値Xとの差Y-Xを示す。
【0130】
<切削試験>
発明品及び比較品の被覆切削工具に対して切削試験を行い、耐欠損性(工具寿命)を評価した。発明品及び比較品の被覆切削工具を試料として、下記の切削試験1及び2の2種類の切削試験を行った。
【0131】
切削試験1の切削試験条件は下記の通りである。
[切削試験1の切削試験条件]
被削材:S45C、
被削材形状:外周面に、等間隔に4本の溝が入っている丸棒、
切削速度:90m/min、
切り込み深さ:1.0mm、
送り:0.2mm/rev、
クーラント:有り、
インサート形状:CNMG120408-TM(株式会社タンガロイ製)、
基材の組成:89.2%WC-8.8%Co-2.0%NbC(以上質量%)、
評価項目:試料が欠損に至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの衝撃回数を測定した。
【0132】
表12及び13に、切削試験1の工具寿命までの衝撃回数及び評価を示す。なお、切削試験1の評価は、工具寿命(衝撃回数)が12000回以上の場合の評価を評価A、8000回以上12000回未満の場合の評価をB、8000回未満の場合の評価をCとした。
【0133】
切削試験2の切削試験条件は下記の通りである。
[切削試験2の切削試験条件]
被削材:SCM440、
被削材形状:丸棒、
切削速度:250m/min、
切り込み深さ:2.0mm、
送り:0.25mm/rev、
クーラント:有り、
インサート形状:CNMG120408-TM(株式会社タンガロイ製)、
基材の組成:89.2%WC-8.8%Co-2.0%NbC(以上質量%)、
評価項目:試料が、欠損又は最大逃げ面摩耗幅が0.3mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの加工時間を測定した。
【0134】
表12及び13に、切削試験2の工具寿命までの加工時間及び評価を示す。なお、切削試験2の評価は、工具寿命(加工時間)が25分以上の場合の評価をA、20分以上25分未満の場合の評価をB、20分未満の場合の評価をCとした。
【0135】
<<切削試験の評価>>
すべての発明品は、切削試験1及び切削試験2の両方において評価がB以上となった。したがって、発明品は、優れた耐チッピング性及び耐欠損性を有し、工具寿命の長い被覆切削工具であるといえる。
【0136】
一方、比較品は、切削試験1及び切削試験2の少なくとも1つの評価がCとなった。したがって、発明品と比べて、比較品は、耐チッピング性及び耐欠損性が充分でないか、又は耐摩耗性が充分ではなく、工具寿命が短い被覆切削工具であることが明らかになった。また、比較品17及び18は、切削試験2において、チッピング損傷が発生し、これを起点とした欠損が生じた。
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【符号の説明】
【0150】
1 基材
2 下部層
3 中間層
4 上部層
5 被覆層
6 被覆切削工具
【要約】
【課題】 優れた耐チッピング性、耐欠損性及び耐摩耗性を有し、工具寿命の長い被覆切削工具を提供する。
【解決手段】 基材と、基材の表面に形成された下部層、中間層及び上部層をこの順序で含む被覆層とを含む被覆切削工具であって、前記下部層及び前記上部層が、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1つとを含み、前記下部層及び前記中間層の平均厚さが、1.5μm以上15.0μm以下であり、前記中間層が、α型の酸化アルミニウムを含み、前記上部層の平均厚さが、0.5μm以上5.0μm以下であり、前記下部層のクラック間隔の平均値Xが、0.5μm以上10.0μm未満であり、前記中間層のクラック間隔の平均値Yが、20.0μm以上100.0μm以下であり、前記上部層のクラック間隔の平均値Zが、0.5μm以上10.0μm以下である、被覆切削工具である。
【選択図】
図1