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特許7473071等速自在継手及び等速自在継手の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】等速自在継手及び等速自在継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/224 20110101AFI20240416BHJP
【FI】
F16D3/224
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023500219
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006121
(87)【国際公開番号】W WO2022176105
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野田 要
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 光輝
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-150549(JP,A)
【文献】特開2013-194895(JP,A)
【文献】特開2007-139095(JP,A)
【文献】特開2005-106233(JP,A)
【文献】独国特許発明第19514868(DE,C1)
【文献】特開2008-232293(JP,A)
【文献】実開昭62-39025(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/224
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一方に開口部及び軸方向の他方に底部を備える有底筒状に形成され、凹状内球面を有する内周において外側係止溝が周方向に沿って複数形成された外側ジョイント部材と、
前記外側ジョイント部材の内側に配置され、凸状外球面を有する外周において内側係止溝が周方向に沿って複数形成された内側ジョイント部材と、
それぞれの前記外側係止溝及び前記内側係止溝を転動し、前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材との間でトルクを伝達する複数の係止部材と、
環状に形成され、前記外側ジョイント部材の前記凹状内球面と前記内側ジョイント部材の前記凸状外球面との間に配置され、周方向に前記係止部材をそれぞれ収容する複数の窓部が形成された保持器と、を備える等速自在継手であって、
前記内側ジョイント部材は、
前記外側ジョイント部材の前記開口部側にて、前記開口部を覆うブーツを支持するスリーブが圧入される有底凹状の保持部と、
前記開口部側にて前記凸状外球面の一部に設けられて、前記保持部に前記スリーブが圧入される圧入範囲に対応して、前記凸状外球面の外径よりも小径となる逃がし部と、
を備えた、等速自在継手。
【請求項2】
前記逃がし部は、
前記保持部の前記圧入範囲に前記スリーブが圧入された状態で、前記凸状外球面の前記外径以下である、請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記保持器の内周は、前記内側ジョイント部材の前記凸状外球面に対応する凹状内球面を有しており、
前記内側ジョイント部材の前記凸状外球面と前記保持器の前記凹状内球面との間には所定の隙間が設定されており、
前記保持部に前記スリーブが圧入された状態で、前記内側ジョイント部材及び前記保持器が前記外側ジョイント部材の前記開口部側に移動した場合、拡径された前記逃がし部が前記保持器の前記凹状内球面に摺接する、請求項2に記載の等速自在継手。
【請求項4】
前記逃がし部は、
前記凸状外球面の面取りにより形成された、請求項1-3の何れか一項に記載の等速自在継手。
【請求項5】
請求項1-4の何れか一項に記載の前記等速自在継手の製造方法であって、
前記スリーブを前記内側ジョイント部材の前記保持部に圧入する圧入工程を有する、等速自在継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手及び等速自在継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許文献1に開示された等速自在継手が知られている。従来の等速自在継手は、内側ジョイント部材にスリーブが圧入固定されるようになっている。この場合、スリーブが圧入されると、内側ジョイント部材の凸状外球面が拡径し、保持器の凹状内球面と干渉する場合があり、等速自在継手の円滑な作動を阻害する可能性がある。そこで、従来の等速自在継手においては、保持器の凹状内球面の一部を円筒状に拡径することにより、拡径した内側ジョイント部材の凸状外球面との接触を避けるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-194895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の等速自在継手のように、保持器の凹状内球面を円筒状に拡径した場合、等速自在継手が作動した際に、内側ジョイント部材の凸状外球面と保持器の凹状内球面との接触面積が減少する。その結果、内側ジョイント部材の凸状外球面と保持器の凹状内球面との接触に伴う摩耗が増加し、摩耗粉の発生や、内側ジョイント部材の凸状外球面と保持器の凹状内球面との間の隙間の増大が生じ、等速自在継手の円滑な作動に支障を生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、簡素な構造により、スリーブが圧入される場合であっても円滑な作動が可能な等速自在継手及び等速自在継手の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
等速自在継手は、軸方向の一方に開口部及び軸方向の他方に底部を備える有底筒状に形成され、凹状内球面を有する内周において外側係止溝が周方向に沿って複数形成された外側ジョイント部材と、外側ジョイント部材の内側に配置され、凸状外球面を有する外周において内側係止溝が周方向に沿って複数形成された内側ジョイント部材と、それぞれの外側係止溝及び内側係止溝を転動し、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材との間でトルクを伝達する複数の係止部材と、環状に形成され、外側ジョイント部材の凹状内球面と内側ジョイント部材の凸状外球面との間に配置され、周方向に係止部材をそれぞれ収容する複数の窓部が形成された保持器と、を備える等速自在継手であって、内側ジョイント部材は、外側ジョイント部材の開口部側にて、開口部を覆うブーツを支持するスリーブが圧入される有底凹状の保持部と、開口部側にて凸状外球面の一部に設けられて、保持部のスリーブが圧入される圧入範囲に対応して、凸状外球面の外径よりも小径となる逃がし部と、を備える。
【0007】
これによれば、等速自在継手の内側ジョイント部材の凸状外球面の一部に、凸状外球面の外径よりも小径となる逃がし部を設けることができる。これにより、内側ジョイント部材の保持部に対して圧入範囲にスリーブが圧入される場合、凸状外球面よりも小径の逃がし部が拡径しても、ジョイント角がゼロ度以外の状態において内側ジョイント部材の凸状外球面及び逃がし部と保持器の凹状内球面とが干渉することを防止することができる。
【0008】
又、逃がし部が拡径することにより、内側ジョイント部材の凸状外球面と保持器の凹状内球面との接触面積が減少することを抑制することができる。これにより、内側ジョイント部材の凸状外球面と保持器の凹状内球面との接触に伴う摩耗を低減することができると共に、摩耗粉の発生や、内側ジョイント部材の凸状外球面と保持器の凹状内球面との間の隙間の増大を抑制し、等速自在継手の円滑な作動を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】プロペラシャフトを組み付けた状態の等速自在継手の断面図であり、ジョイント角がゼロ度である状態を示す。
図2】等速自在継手にプロペラシャフトを組み付ける状態を説明するための図である。
図3】等速自在継手の構成を説明するための断面図である。
図4】内側ジョイント部材の構成を説明するための断面図である。
図5図4の内側ジョイント部材の保持部及び逃がし部の構成を説明するための図である。
図6図4の保持部に圧入されるスリーブの構成を説明するための図である。
図7】ジョイント角がゼロ度以外の場合の等速自在継手の作動を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.等速自在継手100の構成)
本例の等速自在継手100は、図1に示すように、ジョイント中心固定式ボール型(所謂、チェッパ型)の等速自在継手である。本例の等速自在継手100は、図2に示すように、自動車のプロペラシャフトSが挿入されて組み付けられるものである。そして、本例の等速自在継手100は、プロペラシャフトSの回転(及びトルク)を、例えば、図示省略の車両のデファレンシャルに伝達するものである。
【0011】
等速自在継手100は、図3に示すように、外側ジョイント部材10と、内側ジョイント部材20と、係止部材としての複数のボール30と、保持器40と、スリーブ50とを主に備える。又、本例の等速自在継手100は、外側ジョイント部材10の内周とスリーブ50の外周との間に外側ジョイント部材10の開口部を覆うブーツBが組み付けられる(装着される)。
【0012】
本例の外側ジョイント部材10は、図3の左側(軸線O1の方向にて一方側)に開口部を備え、図3の右側(軸線O1の方向にて他方側)に底部を備える有底筒状(カップ状)に形成されている。外側ジョイント部材10の底部の外方(図3の右側)には、連結部11が軸線O1の方向に延びるように一体に形成されている。連結部11は、車両のデファレンシャル(図示省略)に対して、回転(及びトルク)を伝達するように連結される。
【0013】
外側ジョイント部材10の内周12は、往生内球面12a及び外側係止溝としての外側ボール溝12bを有する。凹状内球面12aは、外側ジョイント部材10の内周12のうち軸線O1の方向にて中央部の大部分に位置する。凹状内球面12aは、ジョイント中心Pを中心として描かれる球面の一部により形成されている。即ち、凹状内球面12aのうち外側ジョイント部材10の軸線O1から径方向に最も長い部位は、軸線O1の方向にて凹状内球面12aの中央部となる。つまり、凹状内球面12aは、軸線O1の方向の中央部から開口部側に行くに従って縮径し、且つ、軸線O1の方向の中央部から底部側に行くに従って縮径する。
【0014】
外側ボール溝12bは、外側ジョイント部材10の軸線O1の方向に延びるように形成されている。外側ボール溝12bは、外側ジョイント部材10の周方向に沿って等間隔に複数形成されている。尚、外側ジョイント部材10の軸線O1の方向即ち軸方向とは、外側ジョイント部材10の回転軸方向を意味する。
【0015】
外側ジョイント部材10の外周13は、開口部側に、ブーツBのブーツ本体B1を保持する支持部材B2を係止する係止部13aが形成されている。尚、係止部13aには、支持部材B2を液密的に係止するように、例えば、Oリング等のシール部材を収容する収容溝が形成されている。
【0016】
内側ジョイント部材20は、図3及び図4に示すように、環状に形成され、外側ジョイント部材10の内側に配置される。内側ジョイント部材20の外周には、軸線O2に沿って全体に亘って凸状外球面21が形成されている。具体的に、内側ジョイント部材20の凸状外球面21は、トルク伝達時においてジョイント中心Pを中心として描かれる球面の一部により形成されている。
【0017】
又、内側ジョイント部材20の外周には、内側係止溝としての複数の内側ボール溝22が、内側ジョイント部材20の軸線O2の方向に延びるように形成されている。複数の内側ボール溝22は、外側ボール溝12bと同数であり、周方向に等間隔に形成されている。又、内側ボール溝22は、略円弧凹状、具体的には、2つの円弧を繋ぎ合わせたゴシックアーク形状に形成されている。
【0018】
又、内側ジョイント部材20の内周面には、軸線O2の方向に延びる内歯スプライン23が形成されている。内歯スプライン23は、挿入により組み付けられるプロペラシャフトSの外歯スプラインS1(図1及び図2を参照)に嵌合(歯合)される。この場合、プロペラシャフトSは、内側ジョイント部材20の回転軸に対して中心軸が一致するように、内側ジョイント部材20に挿入されて連結される。ここで、内側ジョイント部材20の軸線O2の方向とは、内側ジョイント部材20の中心軸を通る方向、即ち、内側ジョイント部材20の回転軸方向を意味する。
【0019】
又、内側ジョイント部材20は、図4に示すように、スリーブ50が圧入されることにより、スリーブ50を保持する保持部24を有する。保持部24は、スリーブ50の外径よりも小径の開口を有すると共に、図5に示すように、所定の圧入範囲Hを有する有底凹状に形成されている。ここで、保持部24には、例えば、内側ジョイント部材20が保持器40に組み付けられる前に、スリーブ50が圧入される。
【0020】
更に、内側ジョイント部材20は、図4に示すように、凸状外球面21の開口部側の端部(図4の左側)にて周方向に逃がし部25が形成されている。逃がし部25は、保持部24にスリーブ50が圧入されることに起因する材料流動により、凸状外球面21に生じる径外方向への拡径、より詳しくは、凸状外球面21の外径よりも大径になることを抑制するために設けられる。逃がし部25は、図5に示すように、凸状外球面21のうち、軸線O2の方向に設けられた圧入範囲Hに対応する範囲に設けられる。逃がし部25は、凸状外球面21を開口部側まで延長した仮想面K(図5にて二点破線により示す)よりも小径になるように、例えば、面取りされて形成される。
【0021】
これにより、保持部24にスリーブ50が圧入された際に、逃がし部25は拡径しても凸状外球面21の外径以下までしか拡径しない。従って、小径の逃がし部25を設けることによってスリーブ50の圧入に伴って凸状外球面21の外径よりも突出した部分が存在しないため、後述するように、内側ジョイント部材20が保持器40に対して滑らかに相対的に回動することができる。
【0022】
本例の係止部材である複数のボール30は、図3に示すように、それぞれ、外側ジョイント部材10の外側ボール溝12bと、外側ボール溝12bに対向する内側ジョイント部材20の内側ボール溝22とに挟まれるように配置される。そして、各々のボール30は、それぞれの外側ボール溝12b及びそれぞれの内側ボール溝22に対して、転動自在で周方向(外側ジョイント部材10の軸線O1の回り又は内側ジョイント部材20の軸線O2の回り)に係合している。従って、ボール30は、外側ジョイント部材10と内側ジョイント部材20との間でトルクを伝達する。
【0023】
保持器40は、図3に示すように、環状に形成されている。保持器40の外周面は、外側ジョイント部材10の凹状内球面12aに対応する凸状外球面41である。一方、保持器40の内周面は、内側ジョイント部材20の凸状外球面21に対応する凹状内球面42である。保持器40は、外側ジョイント部材10の凹状内球面12aと内側ジョイント部材20の凸状外球面21との間に所定の隙間を有して配置されている。
【0024】
保持器40の軸線O1(又は軸線O2)の方向の長さ(幅)は、外側ジョイント部材10の凹状内球面12aよりも長く、且つ、内側ジョイント部材20の軸線O2の方向の長さ(幅)よりも長く形成されている。即ち、図1に示すように、ジョイント角がゼロ度の状態において、保持器40の凸状外球面41は、外側ジョイント部材10の凹状内球面12aの軸線O1の方向の全体に対して対向し、且つ、保持器40の凹状内球面42は、内側ジョイント部材20の凸状外球面21及び逃がし部25の軸線O2の方向の全体に対して対向している。これにより、保持器40の凹状内球面42は、ジョイント角がゼロ度以外を有する場合であっても、内側ジョイント部材20の凸状外球面21及び逃がし部25に対向することができる。
【0025】
又、保持器40は、複数の窓部43を有する。複数の窓部43は、周方向に等間隔に形成された矩形の貫通孔である。保持器40の窓部43は、ボール30と同数形成されている。そして、それぞれの窓部43には、ボール30が1つずつ収容される。
【0026】
スリーブ50は、図6に示すように、円筒状に形成されている。スリーブ50は、外周面において、内側ジョイント部材20の保持部24に圧入される圧入部51と、後述するブーツBのブーツ本体B1の内周部を保持する保持凹部52とを有する。又、スリーブ50は、内周において、プロペラシャフトSを挿通する。
【0027】
圧入部51は、保持部24の内径に比べて僅かに大きな外径を有している。又、圧入部51は、保持部24の深さに相当する圧入範囲Hよりも長く設けられる。これにより、スリーブ50の圧入部51が保持部24に圧入された場合、内側ジョイント部材20の凸状外球面21に設けられた逃がし部25が、上述したように、凸状外球面21の外径以下まで径外方向に拡径する(製造方法の圧入工程)。
【0028】
保持凹部52は、ブーツ本体B1の内径よりも僅かに大きな外径を有する。そして、保持凹部52は、図3に示すように、外側ジョイント部材10の外周面に組み付けられたブーツBの支持部材B2との間で挟持するように、ブーツ本体B1を支持する。これにより、保持凹部52は、ブーツ本体B1の内周面との間でシール代を有して液密的にブーツ本体B1を支持する。
【0029】
ブーツBは、図3に示すように、円盤状に形成されたブーツ本体B1と、ブーツ本体B1を支持する支持部材B2と、クランプB3とを有する。ブーツ本体B1は、合成樹脂やゴム等を用いて、ブロー成形、射出成形等の公知の成形方法により成形される。ブーツ本体B1は、プロペラシャフトSが組み付けられた状態で、外側ジョイント部材10の開口部側を液密に覆うことによって封止する。支持部材B2は、外側ジョイント部材10の外周13に形成された係止部13aに係止された状態で、ブーツ本体B1を離脱不能に支持する。クランプB3は、ブーツ本体B1をシール代を有するようにスリーブ50に固定する。
【0030】
外側ジョイント部材10とブーツB(より詳しくは、ブーツ本体B1)とによる閉塞空間には、内側ジョイント部材20、ボール30、保持器40が配置される。又、閉塞空間には、グリス等の潤滑剤が封入される。これにより、閉塞空間に封入されるグリス等の潤滑剤が外側ジョイント部材10の内部から開口部を介して外部に漏出すること、及び、外側ジョイント部材10の内部に開口部を介して外部から水や泥等が進入することを防止することができる。
【0031】
(2.等速自在継手100の作動)
次に、上述したように構成された等速自在継手100の作動について説明する。ジョイント角がゼロ度以外に設定された場合、図7にて矢印により示すように、プロペラシャフトSの回転に伴って内側ジョイント部材20及び保持器40が外側ジョイント部材10の開口部側に移動する。この場合、保持器40は外側ジョイント部材10の凹状内球面12aに沿って開口部側に移動し、内側ジョイント部材20の凸状外球面21及び逃がし部25は、図7に示すように、保持器40の凹状内球面42に沿って開口部側に移動する。
【0032】
ところで、逃がし部25は、上述したように、スリーブ50が保持部24に対して圧入範囲Hに圧入されることにより、凸状外球面21の外径以下で、ほぼ凸状外球面21の外径となるまで拡径される。この場合、内側ジョイント部材20においては、開口部側に移動した際、図7にて破線の丸で囲んで示すように、上述した移動に伴って凸状外球面21に加えて逃がし部25も保持器40の凹状内球面42に接触することができる。
【0033】
即ち、スリーブ50が圧入された状態においては、拡径した逃がし部25を凸状外球面21の一部としてみなすことができ、凸状外球面21に加えて逃がし部25も保持器40の凹状内球面42に摺接する。つまり、この場合には、凸状外球面21のみが保持器40の凹状内球面42に摩擦摺動することに比べて、逃がし部25も保持器40の凹状内球面42に対して摩擦摺動することができるため、凹状内球面42に対する接触面積を大きくすることができる。
【0034】
これにより、内側ジョイント部材20においては、逃がし部25を設けた場合であっても、保持器40の凹状内球面42に対する接触面積が減少することがなく、その結果、接触面積の減少に伴って発生する摩耗の増加を抑制することができる。従って、等速自在継手100においては、作動に伴う摩耗粉の発生を低減することができ、円滑な作動を長期間に渡り維持することができる。又、内側ジョイント部材20の凸状外球面21及び逃がし部25と、保持器40の凹状内球面42との間に設定された隙間が大きくなることが抑制されるため、作動に伴う異音(例えば、ガタツキ音等)の発生も抑制することができる。
【0035】
又、本例の等速自在継手100は、プロペラシャフトSが組み付けられる前に、予め、スリーブ50が保持部24に圧入され、且つ、スリーブ50にブーツBが組み付けられた状態になっている。これにより、プロペラシャフトSを等速自在継手100に組み付ける際には、プロペラシャフトSを等速自在継手100に挿入して組み付けるのみで良い。即ち、プロペラシャフトSを組み付けた後に、例えば、ブーツBを別途組み付ける必要がない。従って、本例の等速自在継手100は、プロペラシャフトSの組み付け作業を容易に完了することができる。
【0036】
以上の説明からも理解できるように、本例の等速自在継手100によれば、内側ジョイント部材20の凸状外球面21の一部に、凸状外球面21の外径よりも小径となる、より詳しくは、凸状外球面21を開口部に向けて延長した仮想面Kの外径よりも小径となる逃がし部25を設けることができる。これにより、内側ジョイント部材20の保持部24に対して圧入範囲Hにスリーブ50が圧入される場合、凸状外球面21よりも小径の逃がし部25が拡径しても、ジョイント角がゼロ度以外の状態において内側ジョイント部材20の凸状外球面21及び逃がし部25と保持器40の凹状内球面42とが干渉することを防止することができる。
【0037】
又、逃がし部25がほぼ凸状外球面21の外径まで拡径することにより、内側ジョイント部材20の凸状外球面21と保持器40の凹状内球面42との接触面積が減少することを抑制することができる。これにより、内側ジョイント部材20の凸状外球面21と保持器40の凹状内球面42との接触に伴う摩耗を低減することができると共に、摩耗粉の発生や、内側ジョイント部材20の凸状外球面21と保持器40の凹状内球面42との間の隙間の増大を抑制し、等速自在継手100の円滑な作動を長期間に亘り維持することができる。
【0038】
(3.その他)
上述した本例においては、内側ジョイント部材20の逃がし部25は、凸状外球面21の直線的な面取りにより形成される場合を例示した。しかし、逃がし部25は、凸状外球面21の直線的な面取りにより形成されることに限られず、例えば、凸状外球面21の円弧状の面取りによって形成することも可能である。又、逃がし部25は、凸状外球面21の面取りにより形成されることに限られず、圧入されたスリーブ50の抜け強度が十分確保できる場合、例えば、段状に形成することも可能である。
【0039】
更に、上述した本例においては、外側ジョイント部材10が内周12に軸線O1の方向に平行な外側係止溝として形成された外側ボール溝12bを有する場合を例示した。しかし、外側係止溝である外側ボール溝については、軸線O1の方向に平行に形成する必要はなく、外側ボール溝をクロスグルーブとして形成しても良い。尚、外側ボール溝をクロスグルーブとして形成する場合には、内側ジョイント部材の内側係止溝としての内側ボール溝もクロスグルーブとして形成される。この場合においても、上述した本例と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0040】
10…外側ジョイント部材、11…連結部、12…内周、12a…凹状内球面、12b…外側ボール溝(外側係止溝)、13…外周、13a…係止部、20…内側ジョイント部材、21…凸状外球面、22…内側ボール溝(内側係止溝)、23…内歯スプライン、24…保持部、25…逃がし部、30…ボール(係止部材)、40…保持器、41…凸状外球面、42…凹状内球面、43…窓部、100…等速自在継手、B…ブーツ、B1…シール本体、B2…支持部材、B3…クランプ、H…圧入範囲、K…仮想面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7