(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】圧電体薄膜、圧電体薄膜の製造装置、圧電体薄膜の製造方法、および、疲労推定システム
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20240416BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240416BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240416BHJP
H10N 30/076 20230101ALI20240416BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240416BHJP
【FI】
C23C14/06 L
C23C14/06 A
C23C14/34 A
H10N30/853
H10N30/076
H10N30/30
(21)【出願番号】P 2020190670
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517177729
【氏名又は名称】仙台スマートマシーンズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】桑野 博喜
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠
(72)【発明者】
【氏名】レ バン ミン
(72)【発明者】
【氏名】グエン ホアン フン
(72)【発明者】
【氏名】今野 理洋
(72)【発明者】
【氏名】高山 洋佑
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-169612(JP,A)
【文献】特開2015-054986(JP,A)
【文献】特開2015-233042(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0357555(US,A1)
【文献】国際公開第2013/114592(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/137254(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0055787(US,A1)
【文献】特開2019-007861(JP,A)
【文献】Combinatorial approach to MgHf co-doped AlN thin films for Vibrational Energy Harvesters,Journal of Physics,2016年
【文献】第一原理計算による M g X 共添加 AlN (X=V, Nb, の圧電特性 評価,2020年春季応用物理学会予稿,2020年03月12日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
C23C 14/34
H10N 30/853
H10N 30/076
H10N 30/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした(MgHf)
xAl
1-xNの薄膜から成り、xは0.3以上0.49以下であり、性能指数(FoM)が45GPa以上、圧電歪定数(d
33)が18pm/V以上であることを特徴とする圧電体薄膜。
【請求項2】
xが0.45以上0.49以下であり、性能指数(FoM)が65GPa以上、圧電歪定数(d
33)が23pm/V以上であることを特徴とする請求項1記載の圧電体薄膜。
【請求項3】
マグネトロンスパッタ法を利用して、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした圧電体薄膜を製造するための圧電体薄膜の製造装置であって、
AlNから成るターゲットと、
前記ターゲットの表面に配置されたMgから成る複数の第1の個片と、
前記ターゲットの表面に配置されたHfから成る複数の第2の個片とを有し、
前記ターゲットの表面積に対して、前記複数の第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、前記複数の第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下であることを
特徴とする圧電体薄膜の製造装置。
【請求項4】
AlNから成るターゲットの表面に、Mgから成る複数の第1の個片と、Hfから成る複数の第2の個片とを、前記ターゲットの表面積に対して、前記複数の第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、前記複数の第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下になるよう配置し、
マグネトロンスパッタ法により、基板上に、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした圧電体薄膜を成長させることを
特徴とする圧電体薄膜の製造方法。
【請求項5】
MgとHfとを合わせた原子数と、Alの原子数との比が、30:70乃至49:51になるよう、前記圧電体薄膜を成長させることを特徴とする請求項4記載の圧電体薄膜の製造方法。
【請求項6】
被測定物の累積疲労を推定するための疲労推定システムであって、
請求項1または2記載の圧電体薄膜から成る圧電体を有し、疲労により被測定物に生じたひずみにより前記圧電体に力が加わり、前記圧電体に電荷が発生するよう設けられたセンサ部と、
前記センサ部の前記圧電体に発生した電荷を蓄電する蓄電手段と、
前記蓄電手段に所定の電荷量が蓄電される度に、前記電荷量に関する電荷情報を無線で送信する送信手段と、
前記送信手段からの前記電荷情報を受信する度に、その受信時刻を記録すると共に、記録した前記受信時刻の回数に基づいて、前記被測定物の累積疲労を推定可能に設けられた疲労推定手段とを、
有することを特徴とする疲労推定システム。
【請求項7】
前記被測定物は、構造物または部材であることを特徴とする請求項6記載の疲労推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体薄膜、圧電体薄膜の製造装置、圧電体薄膜の製造方法、および、疲労推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、センサやアクチュエータ等で利用される圧電材料として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が広く使用されているが、有毒物質である鉛(Pb)を大量に含んでいることから、近年では、PZTに代わる圧電材料の開発が進められている。PZTに代わる圧電材料の一つとして、AlN(窒化アルミニウム)が知られているが、性能指数(FoM=e31
2/ε・εγ;ここで、e31は圧電応力定数、εは誘電率、εγは比誘電率)をより高めるために、Alサイトに、MgとHfとを共ドープしたものが開発されている(例えば、非特許文献1乃至4参照)。
【0003】
特に、AlサイトにMgとHfとを共ドープした、(MgHf)xAl1-xN薄膜において、xの増加に従ってFoMが増大し、x=0.12のとき、AlNの3倍のFoMが得られることが、本発明者等により確認されている(例えば、非特許文献5参照)。また、xの値をさらに大きくした圧電体薄膜も、本発明者等により開発されており、xが0.15以上0.5以下のとき、さらに優れたFoMが得られることが確認されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nguyen H H, Oguchi H, Minh L V and Kuwano H, “ High-Throughput Investigation of a Lead-Free AlN-Based Piezoelectric Material, (Mg,Hf)xAl1-xN”, ACS Comb. Sci., 2017, 19, p.365-369
【文献】Nguyen H H, Oguchi H and Kuwano H, “Combinatorial approach to MgHf co-doped AlN thin films for Vibrational Energy Harvesters”, J. Phys.: Conf. Ser., 2016, 773 012075
【文献】Y. Iwazaki, T. Yokoyama, T. Nishihara, and M. Ueda, “Highly enhanced piezoelectric property of co-doped AlN”, Appl. Phys. Express, 2015, 8, 061501
【文献】小形曜一郎、横山剛、岩崎誉志紀、西原時弘、「Mg/Hf同時ドープAlNの置換サイト解析」、立命館大学 総合科学技術研究機構、[平成30年3月8日検索]、インターネット〈URL: http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/src/report/platform/R1515.pdf〉
【文献】H. H. Nguyen, L. Van Minh, H. Oguchi and H. Kuwano, “High figure of merit (MgHf)xAl1-xN thin films for miniaturizing vibrational energy harvesters”, Proceedings of PowerMEMS 2017, 2017, W3A.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の圧電体薄膜は、反応性イオンビームスパッタにより、MgHfターゲットおよびAlNターゲットの2つのターゲットと、各ターゲットに対応する2つのスパッタガンとを用いて、基板上に成長させて製造されており、x=0.44のとき、FoMの最大値31.5GPa、圧電歪定数(d33)の最大値13.68pm/Vが得られているが、さらに優れたFoMや圧電歪定数を有する圧電体薄膜の開発が常に求められている。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、より優れたFoMおよび圧電歪定数を有する圧電体薄膜、その圧電体薄膜を製造することができる圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法、ならびに、その圧電体薄膜を利用可能な疲労推定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る圧電体薄膜は、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした(MgHf)xAl1-xNの薄膜から成り、xは0.3以上0.49以下であり、性能指数(FoM)が45GPa以上、圧電歪定数(d33)が18pm/V以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る圧電体薄膜の製造装置は、マグネトロンスパッタ法を利用して、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした圧電体薄膜を製造するための圧電体薄膜の製造装置であって、AlNから成るターゲットと、前記ターゲットの表面に配置されたMgから成る複数の第1の個片と、前記ターゲットの表面に配置されたHfから成る複数の第2の個片とを有し、前記ターゲットの表面積に対して、前記複数の第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、前記複数の第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る圧電体薄膜の製造方法は、AlNから成るターゲットの表面に、Mgから成る複数の第1の個片と、Hfから成る複数の第2の個片とを、前記ターゲットの表面積に対して、前記複数の第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、前記複数の第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下になるよう配置し、マグネトロンスパッタ法により、基板上に、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした圧電体薄膜を成長させることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る圧電体薄膜は、本発明に係る圧電体薄膜の製造装置および/または本発明に係る圧電体薄膜の製造方法により好適に製造することができる。また、本発明に係る圧電体薄膜の製造装置は、本発明に係る圧電体薄膜の製造方法を好適に実施することができる。本発明に係る圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法は、AlNから成るターゲットの表面に、Mgから成る複数の第1の個片と、Hfから成る複数の第2の個片とを配置したものに対して、1つのスパッタガンを使用してスパッタリングを行うため、2つのターゲットと2つのスパッタガンとを用いる従来の方法と比べて精度良く、(MgHf)xAl1-xNの圧電体薄膜を得ることができる。
【0012】
また、本発明に係る圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法は、ターゲットの表面積に対する、第1の個片の1個当たりが占める平均表面積と、第2の個片の1個当たりが占める平均表面積との比を制御することにより、MgとHfとの添加割合を容易に制御することができる。特に、第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下になるよう制御することにより、優れたFoMおよび圧電歪定数を有する、(MgHf)xAl1-xNの圧電体薄膜を得ることができる。また、本発明に係る圧電体薄膜の製造方法で、MgとHfとを合わせた原子数と、Alの原子数との比が、30:70乃至49:51になるよう、圧電体薄膜を成長させることにより、より優れたFoMおよび圧電歪定数を有する本発明に係る圧電体薄膜を得ることができる。
【0013】
本発明に係る圧電体薄膜の製造方法で、MgとHfとを合わせた原子数と、Alの原子数との比が、45:55乃至49:51になるよう、圧電体薄膜を成長させることが特に好ましい。この場合、xが0.45以上0.49以下で、性能指数(FoM)が65GPa以上、圧電歪定数(d33)が23pm/V以上の圧電体薄膜を得ることができる。
【0014】
本発明に係る疲労推定システムは、被測定物の累積疲労を推定するための疲労推定システムであって、本発明に係る圧電体薄膜から成る圧電体を有し、疲労により被測定物に生じたひずみにより前記圧電体に力が加わり、前記圧電体に電荷が発生するよう設けられたセンサ部と、前記センサ部の前記圧電体に発生した電荷を蓄電する蓄電手段と、前記蓄電手段に所定の電荷量が蓄電される度に、前記電荷量に関する電荷情報を無線で送信する送信手段と、前記送信手段からの前記電荷情報を受信する度に、その受信時刻を記録すると共に、記録した前記受信時刻の回数に基づいて、前記被測定物の累積疲労を推定可能に設けられた疲労推定手段とを、有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る疲労推定システムは、疲労により被測定物に生じたひずみを、圧電体で検出することができるため、検出にかかる電力を抑制することができる。また、蓄電手段に所定の電荷量が蓄電されたときにのみ電荷情報を送信するため、送信にかかる電力を抑制することができる。本発明に係る疲労推定システムは、電荷情報を受信した受信時刻の回数により、被測定物に生じたひずみの累積量を把握することができ、被測定物の累積疲労を容易に推定することができる。また、電荷情報の受信時刻から、疲労の経時的な蓄積状況を把握することもできる。
【0016】
本発明に係る疲労推定システムは、被測定物側の消費電力をさらに抑制するために、蓄電手段に蓄電された電荷を、送信手段等を稼働するための電力として利用してもよい。また、電荷情報は、所定の電荷量が蓄電されたことがわかる情報であれば、例えば電荷量を示す情報など、いかなるものであってもよい。
【0017】
本発明に係る疲労推定システムで、前記被測定物は、構造物または部材であることが好ましい。この場合、構造物や部材の累積疲労を推定することができ、構造物や部材の疲労蓄積による破壊を防ぐことができる。本発明に係る疲労推定システムで、前記圧電体は、本発明に係る圧電体薄膜から成るため、累積疲労を高精度で推定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より優れたFoMおよび圧電歪定数を有する圧電体薄膜、その圧電体薄膜を製造することができる圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法、ならびに、その圧電体薄膜を利用可能な疲労推定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態の圧電体薄膜の、圧電歪定数d
33を求めるための装置を示す側面図である。
【
図2】本発明の実施の形態の圧電体薄膜の、MgHfの濃度(Total concentration)と圧電歪定数d
33との関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施の形態の圧電体薄膜である(MgHf)
xAl
1-xN薄膜を有する片持ち梁状の測定試料の、x=0.2のときの(a)印加電圧(Applied voltage)と変位(Displacement)との関係、(b)印加電圧と圧電歪定数d
31との関係を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施の形態の圧電体薄膜である(MgHf)
xAl
1-xN薄膜を有する片持ち梁状の測定試料の、x=0.2のときの印加電圧の周波数と静電容量(Capacitance)との関係を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施の形態の圧電体薄膜の、MgHfの濃度(Total concentration)と性能指数(FoM)との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態の疲労推定システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施例等に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の圧電体薄膜は、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした(MgHf)xAl1-xNの薄膜から成り、xは0.3以上0.49以下である。
【0021】
本発明の実施の形態の圧電体薄膜は、本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法により製造することができる。すなわち、本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造装置は、AlNから成るターゲットと、ターゲットの表面に配置されたMgから成る複数の第1の個片と、ターゲットの表面に配置されたHfから成る複数の第2の個片とを有している。各第1の個片および各第2の個片は、ターゲットの表面積に対して、第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下になるよう配置されている。
【0022】
本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造方法では、第1の個片と第2の個片とが配置されたターゲットの表面に対し、マグネトロンスパッタ法により、スパッタガンからイオン化したArガスを衝突させてスパッタリングを行い、基板上に、AlNのAlサイトにMgとHfとを共ドープした圧電体薄膜を成長させる。こうして、(MgHf)xAl1-xNの薄膜から成る、本発明の実施の形態の圧電体薄膜を得ることができる。
【0023】
このように、本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法は、AlNから成るターゲットの表面に、Mgから成る複数の第1の個片と、Hfから成る複数の第2の個片とを配置したものに対して、1つのスパッタガンを使用してスパッタリングを行うため、2つのターゲットと2つのスパッタガンとを用いる従来の方法と比べて精度良く、(MgHf)xAl1-xNの圧電体薄膜を得ることができる。
【0024】
また、本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法は、ターゲットの表面積に対する、第1の個片の1個当たりが占める平均表面積と、第2の個片の1個当たりが占める平均表面積との比を制御することにより、MgとHfとの添加割合を容易に制御することができる。特に、第1の個片の1個当たりが占める平均表面積が、第2の個片の1個当たりが占める平均表面積の0.9倍以上1.1倍以下になるよう制御することにより、優れたFoMおよび圧電歪定数を有する、(MgHf)xAl1-xNの圧電体薄膜を得ることができる。また、本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造方法で、MgとHfとを合わせた原子数と、Alの原子数との比が、30:70乃至49:51になるよう、圧電体薄膜を成長させることにより、より優れたFoMおよび圧電歪定数を有する本発明に係る圧電体薄膜を得ることができる。
【実施例1】
【0025】
本発明の実施の形態の圧電体薄膜の製造装置および圧電体薄膜の製造方法を用いて、本発明の実施の形態の圧電体薄膜を製造した。マグネトロンスパッタ法は、20%Ar-80%N2雰囲気中で行い、Pt(100nm)/Ti(6nm)/SOIから成る基板(Substrate)のPt側の表面に、薄膜を成長させた。また、各第1の個片および各第2の個片を、ターゲットの表面積に対して、第1の個片の1個当たりが占める平均表面積と、第2の個片の1個当たりが占める平均表面積とがほぼ等しくなるよう配置した。
【0026】
スパッタでは、スパッタガンから、イオン化したArガスをターゲットに衝突させた。このとき、各ガス圧力を1.5mTorrとし、基板の温度を600℃とした。また、スパッタリングチャンバーのベース圧力を、1×10-7Torr未満とし、ターゲットに、140Wの高周波電力を印加した。また、スパッタガンから放出されたガスに、高周波イオンソース(RF-Neutralizer)から電子(e-)を供給した。
【0027】
スパッタでは、(MgHf)xAl1-xN薄膜の堆積速度を300nm/hとし、基板の一方から他方に向かって、xの値が増えるように薄膜を成長させた。こうして形成された(MgHf)xAl1-xN薄膜は、厚みが約700nmで、xの値が0~0.45であった。なお、(MgHf)xAl1-xN薄膜のxの値は、X線光電子分光法(XPS)や二次イオン質量分析法(SIMS)により求めることができる。また、製造中に、不可避不純物が混入してもよい。
【0028】
製造された(MgHf)
xAl
1-xN薄膜に対して、
図1に示す装置を用いて、さまざまなxの値でのd
33(圧電歪定数)を求めた。
図1に示すように、測定では、サンプルホルダー(Sample holder)1の上に、(MgHf)
xAl
1-xN薄膜から成る圧電体薄膜10を上にして基板2を置き、圧電体薄膜10の表面にカンチレバー(Cantilever)3の先端を近接させて配置した。この状態で、圧電体薄膜10とカンチレバー3との間に正弦波形の電圧を印加し、圧電体薄膜10の表面とカンチレバー3の先端との間の変位を、レーザードップラー振動計(小野測器社製「LV-1710」)4で測定した。カンチレバー3としては、表面にPtがコーティングされているものを用いた。また、印加電圧を0~±20V
ppとし、その周波数を1~10kHzとした。
【0029】
さまざまなxの値でのd
33の値を、
図2に示す。
図2の横軸は、xの値を原子百分率(at.%)で表したMgHfの濃度(Total concentration)である。
図2に示すように、d
33の値は、xの増加と共に大きくなっていき、x=0.3(30at.%)のとき約18pm/V以上、x=0.45(45at.%)のとき約23pm/V以上であり、x=0.5付近で飽和する様子が確認された。
【実施例2】
【0030】
次に、(MgHf)xAl1-xN薄膜に対して、さまざまなxの値での比誘電率(εγ)および圧電歪定数d31の測定を行い、性能指数(FoM)を求めた。まず、実施例1と同様にして、片持ち梁状の基板上に、(MgHf)xAl1-xN薄膜を形成した。基板のPt/Tiを下部電極とし、(MgHf)xAl1-xN薄膜の表面に、上部電極となるAu/Cr層を形成した。こうして、さまざまなxの値の(MgHf)xAl1-xN薄膜を形成して、測定試料を製造した。測定試料の片持ち梁の部分は、幅が1000μm、(MgHf)xAl1-xN薄膜の厚みが5μm、基板の厚みが50μmである。また、幾何学的誤差を避けるため、2000μm(Device S)、3000μm(Device M)、4000μm(Device L)の3種類の長さの片持ち梁を有する測定試料を製造した。
【0031】
様々なxの値について、3種類の測定試料の片持ち梁を振動させて、それぞれの共振周波数を求め、各共振周波数のズレの量からヤング率(Young’s modulus)を求め、その平均値を求めた。片持ち梁の振動には、振動制御装置(旭製作所社製「G-Master APD-200FCG」)を用い、片持ち梁の振動の測定には、レーザードップラー振動計(小野測器社製「LV-1710」)を用いた。その結果、例えば、(MgHf)xAl1-xN薄膜のx=0.45のとき、Device S, M, Lの測定試料の共振周波数はそれぞれ、13884 Hz, 6148 Hz, 3487 Hzであり、ヤング率はそれぞれ、253 GPa, 245 GPa, 249 GPaであった。また、ヤング率の平均値は、249±10 GPaであった。
【0032】
次に、各測定試料の下部電極と上部電極との間に、静的に0~±20V
ppの電圧を印加し、片持ち梁の先端の変位(Displacement)を測定した。x=0.2のときのDevice S, M, Lの測定試料で得られた印加電圧と変位との関係を、
図3(a)に示す。また、
図3(a)の変位から求められた印加電圧と圧電歪定数d
31との関係を、
図3(b)に示す。
図3(b)に示すように、d
31の値は、印加電圧にかかわらず、約9.8 pm/V で一定であることが確認された。また、圧電応力定数e
31は、d
31とヤング率との積で求められ、約2.43 C/m
2 であった。
【0033】
次に、各測定試料の下部電極と上部電極との間に、10kHzで0~±20V
ppの電圧を印加し、(MgHf)
xAl
1-xN薄膜の静電容量(Capacitance)を測定して、比誘電率(ε
γ)を求めた。x=0.2のときのDevice Mの測定試料で得られた周波数と静電容量との関係を、
図4に示す。
図4の結果から比誘電率(ε
γ)を求めると、16±0.4 であった。また、この比誘電率(ε
γ)、および、
図3で求められた圧電応力定数e
31から、このときのFoMは、41.7±1.0 GPaと求められる。
【0034】
同様にして求めた、さまざまなxの値とFoMとの関係を、
図5に示す。
図5の横軸は、xの値を原子百分率(at.%)で表したMgHfの濃度(Total concentration)である。
図5に示すように、FoMの値は、xの増加と共に大きくなっていき、x=0.3(30at.%)のとき約45GPa以上、x=0.45(45at.%)のとき約65GPa以上であり、x=0.5付近で飽和する様子が確認された。
【0035】
図6に示すように、本発明の実施の形態の圧電体薄膜を利用して、本発明の実施の形態の疲労推定システムを構成した。
図6に示すように、本発明の実施の形態の疲労推定システム20は、センサ部21と蓄電手段22と送信手段23と疲労推定手段24とを有している。
【0036】
センサ部21は、本発明の実施の形態の圧電体薄膜10である(MgHf)xAl1-xN薄膜を有し、構造物または部材から成る被測定物に取り付けられている。センサ部21は、疲労により被測定物に生じたひずみにより圧電体薄膜10に力が加わり、圧電体薄膜10に電荷が発生するよう設けられている。
【0037】
蓄電手段22は、電荷集積素子から成り、センサ部21に接続されて、センサ部21の圧電体薄膜10に発生した電荷を蓄電するよう構成されている。送信手段23は、蓄積手段に接続され、蓄電手段22に所定の電荷量が蓄電される度に、電荷量に関する電荷情報を無線で送信するよう構成されている。
図6に示す具体的な一例では、電荷情報は、電荷量の値である。
【0038】
疲労推定手段24は、コンピュータから成り、受信手段31と解析制御部32と記憶手段33とを有している。受信手段31は、送信手段23から送信された電荷情報を、無線で受信可能に構成されている。解析制御部32は、受信手段31と記憶手段33とに接続されている。解析制御部32は、受信手段31で電荷情報を受信する度に、その電荷情報と共に、その受信時刻をタイムスタンプとして記憶手段33に送るよう構成されている。また、解析制御部32は、その受信時刻の回数に基づいて、被測定物の累積疲労を推定可能に構成されている。また、解析制御部32は、その受信時刻から、疲労の経時的な蓄積状況を把握可能に構成されている。記憶手段33は、メモリから成り、解析制御部32から送られてきた電荷情報および受信時刻を記憶するよう構成されている。
【0039】
図6に示す具体的な一例では、疲労推定手段24は、構造物または部材から成る被測定物の累積疲労(ダメージ)が、マイナー則(Miner’s rule)に従うと仮定して、累積疲労を推定可能になっている。すなわち、マイナー則では、ダメージDは、D=Σ(n
i/N
i)と表される。ここで、n
iはある応力範囲Δσ
iでの応力の繰り返し負荷回数、N
iはΔσ
iに対する破断繰り返し回数(疲労寿命)である。疲労により被測定物に生じたひずみのエネルギーは、圧電体薄膜10の発電出力に比例するため、送信手段23から電荷情報を送信する際の所定の電荷量を、Δσ
iに対応する発電量に設定することにより、受信手段31での受信時刻の回数がn
iとなり、ダメージDを推定することができる。
【0040】
次に、作用について説明する。
疲労推定システム20は、疲労により被測定物に生じたひずみを、圧電体薄膜10で検出することができるため、検出にかかる電力を抑制することができる。また、蓄電手段22に所定の電荷量が蓄電されたときにのみ電荷情報を送信するため、送信にかかる電力を抑制することができる。疲労推定システム20は、電荷情報を受信した受信時刻の回数により、被測定物に生じたひずみの累積量を把握することができ、被測定物の累積疲労を容易に推定することができる。また、これにより、構造物や部材の疲労蓄積による破壊を防ぐことができる。
【0041】
なお、疲労推定システム20は、被測定物側の消費電力をさらに抑制するために、蓄電手段22に蓄電された電荷を、送信手段23等を稼働するための電力として利用してもよい。また、センサ部21には、本発明の実施の形態の圧電体薄膜10を利用しているが、他の圧電体を使用することもできる。
【符号の説明】
【0042】
1 サンプルホルダー
2 基板
3 カンチレバー
4 レーザードップラー振動計
10 圧電体薄膜
20 疲労推定システム
21 センサ部
22 蓄電手段
23 送信手段
24 疲労推定手段
31 受信手段
32 解析制御部
33 記憶手段