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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】耐火材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/14 20060101AFI20240416BHJP
   C09K 21/02 20060101ALI20240416BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240416BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240416BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C09K21/14
C09K21/02
C08L101/00
C08K3/34
E04B1/94 T
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019088678
(22)【出願日】2019-05-08
(65)【公開番号】P2019196484
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2018089675
(32)【優先日】2018-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018089677
(32)【優先日】2018-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305044143
【氏名又は名称】積水フーラー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】池内 拓人
(72)【発明者】
【氏名】戸野 正樹
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-067916(JP,A)
【文献】特開2002-265925(JP,A)
【文献】特開平10-324577(JP,A)
【文献】特開2010-215742(JP,A)
【文献】特開2013-049761(JP,A)
【文献】特開2006-199895(JP,A)
【文献】特開2005-139216(JP,A)
【文献】特開平10-297095(JP,A)
【文献】特開平10-095608(JP,A)
【文献】特開2019-044138(JP,A)
【文献】特開昭54-132643(JP,A)
【文献】特開昭62-096377(JP,A)
【文献】特開昭62-095353(JP,A)
【文献】特開2017-210378(JP,A)
【文献】特開2016-160145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 21/00- 21/14
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂100質量部と、長石類120~800質量部とを含有し、
上記長石類は、斜長石及び準長石のうち少なくとも一方を含み、
上記斜長石が、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、及び亜灰長石よりなる群から選択される少なくとも一種を含み、
上記準長石が、ネフェリン、ネフェリンサイアナイト、リューサイト、ソーダライト、ラズライト、ノゼアン、及びメリライトよりなる群から選択される少なくとも一種を含み、
800℃の雰囲気下で20分間燃焼させた後の燃焼残渣の強度が、1.0~15.0N/mm2であることを特徴とする耐火材料(但し、自動車用ボデーシーラーを除く)
【請求項2】
バインダー成分を更に含有していることを特徴とする請求項1に記載の耐火材料。
【請求項3】
長石類がネフェリンサイアナイトを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐火材料。
【請求項4】
バインダー成分が、ガラスフリット、及びホウ酸化合物のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項2に記載の耐火材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火材料に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物の壁部を装飾するために、壁部表面に合成樹脂組成物を用いてタイルなどの装飾品を貼着することが行なわれている。そして、建築建造物が火災となった時にあってもタイルの脱落を防止するために耐火材料が通常、用いられる。
【0003】
しかしながら、上記壁部構造において、耐火材料は有機物であるため、燃焼に対して弱く、火災時に耐火材料の硬化物が壁部から脱落し、タイルなどの装飾品が脱落するという問題点を有する。
【0004】
そこで、特許文献1には、(A)末端に加水分解によってシラノール基を形成しうるケイ素含有官能基をもつポリアルキレンエーテル、(B)マイクロカプセル化ポリリン酸アンモニウム粉末、(C)炭酸カルシウム粉末及び(D)シラノール縮合触媒からなる防火性シーリング材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3848379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記防火性シーリング材は、火災時の熱によって発泡した後、炭化層膜を形成するが、発泡により燃焼残渣が脆くなるため、装飾品が脱落する可能性が高く、避難時において危険を伴うという問題を有する。
【0007】
本発明は、燃焼により生成された燃焼残渣が強固である耐火材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の耐火材料は、合成樹脂と、長石類とを含有する。
【0009】
[合成樹脂]
耐火材料は、合成樹脂を含有している。合成樹脂としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム系樹脂などが挙げられ、熱硬化性樹脂が好ましい。なお、合成樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0010】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニルなどのポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体などが挙げられ、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましく、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましい。なお、熱可塑性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0011】
ポリエチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状中密度ポリエチレン、直鎖状高密度ポリエチレンなどが挙げられる。
【0012】
ポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体などが挙げられる。又、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体及びランダム共重合体の何れであってもよい。
【0013】
なお、プロピレンと共重合されるオレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンなどのα-オレフィンなどが挙げられる。
【0014】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられ、エポキシ樹脂が好ましい。
【0015】
ゴム系樹脂としては、室温でゴム弾性(rubber elasticity)を有するものであれば、特に限定されず、合成ゴム、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0016】
上記合成ゴムとしては、例えば、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ウレタンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、シリコーンゴムなどが挙げられ、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)及びブチルゴムが好ましい。
【0017】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0018】
合成樹脂は、耐火材料の貯蔵安定性が向上するので、加水分解性シリル基を有していないことが好ましい。加水分解性シリル基とは、珪素原子に1~3個の加水分解性基が結合してなる基である。
【0019】
加水分解性シリル基の加水分解性基としては、特に限定されず、例えば、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。
【0020】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、フェノキシ基などが挙げられる。
【0021】
[長石類]
耐火材料は、長石類を含有している。長石類は、長石及び準長石を含有しており、準長石が好ましい。なお、長石類は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0022】
長石としては、例えば、正長石、サニディン、微斜長石、アノーソクレースなどのアルカリ長石;曹長石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、亜灰長石、灰長石などの斜長石などが挙げられる。
【0023】
準長石としては、例えば、カリ霞石(カルシライト)、灰霞石(カンクリナイト)などの霞石(ネフェリン)、霞石閃長石(ネフェリンサイアナイト)、白榴石(リューサイト)、方ソーダ石(ソーダライト)、藍方石(アウイン)、青金石(ラズライト)、黝方石(ノゼアン)、黄長石(メリライト)などが挙げられ、霞石閃長石(ネフェリンサイアナイト)が好ましい。なお、霞石閃長石は、閃長石と記載されることもある。
【0024】
長石類の平均粒子径は、0.01~100μmであり、0.1~50μmが好ましく、1~25μmがより好ましく、2~15μmが特に好ましく、3~10μmが特に好ましい。長石類の平均粒子径が0.01μm以上であると、耐火材料の硬化物の燃焼残渣が優れた強度を有し好ましい。長石類の平均粒子径が100μm以下であると、耐火材料中に均一に分散させることができ、耐火材料の硬化物の燃焼残渣は優れた強度を有する。
【0025】
なお、長石類の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡による画像解析によって測定された値をいう。具体的には、長石類を透過型電子顕微鏡を用いて倍率100倍の拡大写真を撮影し、任意の50個の長石類を抽出し、各長石類の直径を測定し、各長石類の直径の相加平均値を長石類の平均粒子径とする。なお、長石類の直径は、長石類を包囲し得る最小径の真円の直径をいう。
【0026】
耐火材料中における長石類の含有量は、合成樹脂100質量部に対して1~800質量部が好ましく、30~600質量部が好ましく、50~450質量部がより好ましく、80~300質量部が特に好ましく、120~200質量部が最も好ましい。長石類の含有量が上記範囲内であると、耐火材料の硬化物の燃焼残渣が優れた強度を有する。従って、例えば、耐火材料を用いて壁部表面に貼着させたタイルなどの装飾品を火災時においても壁部表面に貼着させた状態に安定的に維持することができる。
【0027】
[バインダー成分]
耐火材料は、耐火材料の硬化物の燃焼残渣において、長石類同士を結合させるためにバインダー成分を含有していることが好ましい。
【0028】
バインダー成分としては、特に限定されないが、ガラスフリット(ガラス粉末)及びホウ酸化合物が好ましく、ガラスフリットがより好ましい。なお、バインダー成分は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0029】
[ガラスフリット]
ガラスフリットを構成しているガラスとしては、たとえば、リン酸系ガラス、ホウ酸系ガラス、酸化ビスマス系ガラス、珪酸系ガラス、酸化ナトリウム系ガラスなどが挙げられ、リン酸系ガラス、ホウ酸系ガラスが好ましく、リン酸系ガラスがより好ましい。これらのガラスフリットは、B23、P25、ZnO、SiO2、Bi23、Al23、BaO、CaO、MgO、MnO2、ZrO2、TiO2、CeO2、SrO、V25、SnO2、Li2O、Na2O、K2O、CuO、Fe23などを所定の成分割合で調整して得ることができる。なお、ガラスフリットは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0030】
ガラスフリットを構成しているガラスの軟化点は350~650℃が好ましく、360~560℃がより好ましく、370~540℃が特に好ましく、380~520℃が最も好ましい。なお、ガラスフリットを構成しているガラスの軟化点は、ガラスの粘度が107.6dPa・s(logη=7.6)となる温度である。
【0031】
[ホウ酸化合物]
ホウ酸化合物としては、特に限定されず、例えば、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウムなどが挙げられ、ホウ酸亜鉛が好ましい。
【0032】
耐火材料中におけるバインダー成分の含有量は、合成樹脂100質量部に対して2~120質量部が好ましく、5~100質量部がより好ましく、8~90質量部がより好ましく、25~70質量部が特に好ましく、30~60質量部が最も好ましい。バインダー成分の含有量が上記範囲内にあると、耐火材料の硬化物の燃焼残渣が優れた強度を有する。従って、例えば、耐火材料を用いて壁部表面に貼着させたタイルなどの装飾品を火災時においても壁部表面に貼着された状態に安定的に維持することができる。
【0033】
耐火材料中において、長石類の含有量とバインダー成分の含有量との比(長石類の含有量/バインダー成分の含有量)は、1~20が好ましく、2~15がより好ましく、2.5~12がより好ましく、3~10が特に好ましく、3.5~7が最も好ましい。長石類の含有量とバインダー成分の含有量との比(長石類の含有量/バインダー成分の含有量)が上記範囲内であると、耐火材料の硬化物の燃焼残渣が優れた強度を有する。従って、例えば、耐火材料を用いて壁部表面に貼着させたタイルなどの装飾品を火災時においても壁部表面に貼着させた状態に安定的に維持することができる。
【0034】
[膨張剤]
耐火材料は膨張剤を含有していてもよい。耐火材料は、例えば、壁部の表面にタイルなどの装飾品を貼着させるために用いられる。火災時において、装飾品が熱によって膨張することがあり、このような場合にあっても装飾品の膨張に円滑に追従して耐火材料の硬化物も膨張し、装飾品が壁部表面から脱落するのを安定的に防止する。
【0035】
膨張剤としては、特に限定されないが、炭酸カルシウム、珪酸マグネシウム、膨張黒鉛、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムが好ましく、耐火材料の硬化物の燃焼残渣の強度が高くなるので、炭酸カルシウム及び珪酸マグネシウムがより好ましい。なお、膨張剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0036】
[珪酸マグネシウム]
珪酸マグネシウムとしては、特に限定されず、珪酸マグネシウムを含む天然鉱物が挙げられ、例えば、セピオライト、アタパルジャイト、タルク、フォルステライト、ヒューマイト、エンスタタイト、クリノエンスタタイト、クリソタイル等の珪酸マグネシウム鉱物類、オルルマナイト、マグネシアアクシナイト、ディオプサイト、トレモライト等の珪酸マグネシウムカルシウム鉱物類が挙げられ、セピオライト、アタパルジャイト、及びタルクが、燃焼残渣の強度を向上できる点でより好ましく、セピオライトがより好ましい。
【0037】
[炭酸カルシウム]
炭酸カルシウムとしては、特に限定されず、例えば、コロイダル炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムなどが挙げられ、コロイダル炭酸カルシウム及び重質炭酸カルシウムが好ましく、コロイダル炭酸カルシウムがより好ましい。
【0038】
炭酸カルシウムの平均粒子径は、0.01~5μmが好ましく、0.05~2.5μmがより好ましい。このような平均粒子径を有している炭酸カルシウムによれば、耐火材料の硬化物の燃焼残渣が優れた強度を有する。従って、例えば、耐火材料を用いて壁部表面に貼着させたタイルなどの装飾品を火災時においても壁部表面に貼着された状態に安定的に維持させることができる。なお、炭酸カルシウムの平均粒子径は、SEMによる観察でスケール測定し10個の平均によって測定された値をいう。
【0039】
また、炭酸カルシウムは、脂肪酸や脂肪酸エステルなどにより表面処理されているのが好ましい。脂肪酸や脂肪酸エステルなどにより表面処理されている炭酸カルシウムによれば、耐火材料にチキソトロピー性を付与できると共に炭酸カルシウムが凝集することを抑制することができる。
【0040】
[膨張黒鉛]
膨張黒鉛とは、天然黒鉛又は合成黒鉛を酸、酸化体、ハロゲン化物などのインターカラント材で処理して、層間化合物を作り、その粉体を急速加熱(1000~1200℃)することによって黒鉛のc軸方向を約150~700倍に膨張させて製造されたものである。
【0041】
インターカラント材としては、硫酸、硝酸、クロム酸、ホウ酸、SO3、またはFeCl3、ZnCl2、およびSbCl5などのハロゲン化物が挙げられる。
【0042】
耐火材料中における膨張材の含有量は、合成樹脂100質量部に対して2~120質量部が好ましく、5~100質量部がより好ましく、8~90質量部がより好ましく、25~70質量部がより好ましく、30~60質量部が特に好ましい。膨張材の含有量が上記範囲内にあると、耐火材料の硬化物を燃焼時に膨張させることができる。従って、火災時において、装飾品が熱によって膨張することがあり、このような場合にあっても装飾品の膨張に円滑に追従して耐火材料の硬化物も膨張し、装飾品が壁部表面から脱落するのを安定的に防止することができる。膨張材として珪酸マグネシウムを含有する天然鉱物を用いる場合は、天然鉱物中の珪酸マグネシウムが上記範囲となるように調整すればよい。
【0043】
耐火材料中において、長石類の含有量と膨張剤の含有量との比(長石類の含有量/膨張剤の含有量)は、1~20が好ましく、2~15がより好ましく、2.5~12がより好ましく、3~10が特に好ましく、3.5~7が最も好ましい。長石類の含有量と膨張剤の含有量との比(長石類の含有量/膨張剤の含有量)が上記範囲内であると、耐火材料の硬化物を燃焼時に円滑に膨張させることができる。従って、火災時において、装飾品が熱によって膨張することがあり、このような場合にあっても装飾品の膨張に円滑に追従して耐火材料の硬化物も膨張し、装飾品が壁部表面から脱落するのを安定的に防止することができる。膨張材として珪酸マグネシウムを含有する天然鉱物を用いる場合は、天然鉱物中の珪酸マグネシウムが上記範囲となるように調整すればよい。
【0044】
[可塑剤]
耐火材料は可塑剤を含有していることが好ましい。可塑剤としては、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジノルマルヘキシル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジノルマルオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジイソウンデシル、及びフタル酸ビスブチルベンジルなどのフタル酸エステル;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールが挙げられる。なかでも、ポリアルキレングリコールが好ましく、ポリプロピレングリコールがより好ましい。
【0045】
ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、1000~10000が好ましく、2000~5000がより好ましい。ポリアルキレングリコールの数平均分子量が上記範囲内である場合、耐火材料の硬化物の燃焼残渣が建築構造物の壁部に貼着させた装飾品を安定的に保持することができる。
【0046】
なお、本発明において、ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって、ポリスチレン換算されて測定された値である。GPC法による測定においては、例えば、GPCカラムとして東ソー製Shodex KF800Dを用い、溶媒としてクロロホルムなどを用いることができる。
【0047】
耐火材料中における可塑剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して1~50質量部が好ましく、10~40質量部がより好ましい。
【0048】
[他の添加剤]
耐火材料は、チキソ性付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、沈降防止剤、アミノシランカップリング剤、揺変剤及び溶剤など他の添加剤を含んでいてもよい。なかでも、チキソ性付与剤、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤が好ましく挙げられる。
【0049】
チキソ性付与剤は、耐火材料にチキソトロピー性を発現せることができるものであればよい。チキソ性付与剤としては、水添ひまし油、脂肪酸ビスアマイド、ヒュームドシリカなどが好ましく挙げられる。
【0050】
耐火材料中におけるチキソ性付与剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して0.1~200質量部が好ましく、1~150質量部がより好ましい。耐火材料中におけるチキソ性付与剤の含有量が0.1質量部以上であると、耐火材料にチキソトロピー性を効果的に付与することができる。また、耐火材料中におけるチキソ性付与剤の含有量が200質量部以下であると、耐火材料が適度な粘度を有し、耐火材料の取扱性が向上する。
【0051】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤などが挙げられ、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。耐火材料中における紫外線吸収剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましい。
【0052】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、及びポリフェノール系酸化防止剤などが挙げられ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく挙げられる。耐火材料中における酸化防止剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、0.3~10質量部がより好ましい。
【0053】
[光安定剤]
耐火材料は、ヒンダードアミン系光安定剤を含んでいることが好ましい。ヒンダードアミン系光安定剤によれば、硬化後に優れたゴム弾性をより長期間に亘って維持することができる耐火材料を提供することができる。
【0054】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケートの混合物、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールとの重縮合物などが挙げられる。
【0055】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、NOR型ヒンダードアミン系光安定剤が好ましく挙げられる。NOR型ヒンダードアミン系光安定剤によれば、硬化後に経時的なゴム弾性の低下が抑制されている耐火材料を提供することができる。
【0056】
NOR型ヒンダードアミン系光安定剤は、ピペリジン環骨格に含まれている窒素原子(N)に酸素原子(O)を介してアルキル基(R)が結合しているNOR構造を有している。NOR構造におけるアルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~18がより好ましく、18が特に好ましい。アルキル基としては、直鎖状のアルキル基、分岐鎖状のアルキル基、及び、環状のアルキル基(飽和脂環式炭化水素基)が挙げられる。
【0057】
直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などが挙げられる。分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなどが挙げられる。環状のアルキル基(飽和脂環式炭化水素基)としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。また、アルキル基を構成している水素原子が、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)又はヒドロキシル基などで置換されていてもよい。
【0058】
NOR型ヒンダードアミン系光安定剤としては、下記式(I)で示されるヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。
【0059】
【化1】
【0060】
NOR型ヒンダードアミン系光安定剤を用いる場合、NOR型ヒンダードアミン系光安定剤と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤又はトリアジン系紫外線吸収剤とを組み合わせて用いることが好ましい。これにより、硬化後に経時的なゴム弾性の低下がより高く抑制されている耐火材料を提供することができる。
【0061】
耐火材料中におけるヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して0.01~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましい。
【0062】
上記耐火材料は、合成樹脂と、長石類と、必要に応じて添加される添加剤とを混合することによって製造することができる。
【0063】
耐火材料の燃焼残渣の強度は、1.0~15.0N/mm2が好ましく、2.0~13.0N/mm2がより好ましく、5.0~13.0N/mm2が特に好ましい。燃焼残渣の強度が1.0N/mm2以上であると、耐火材料の硬化物の燃焼残渣が崩壊するのを抑制することができる。更に、例えば、耐火材料を用いて壁部表面に貼着させたタイルなどの装飾品を火災時においても壁部表面に貼着させた状態に安定的に維持することができる。燃焼残渣の強度が15.0N/mm2以下であると、耐火材料の硬化物の燃焼残渣が硬くなり過ぎるのを防止して柔軟性を付与し、火災時において装飾品が膨張した場合にあっても、装飾品の膨張に追従することができ、装飾品を壁部表面に安定的に貼着させた状態に維持することができる。
【0064】
耐火材料において、800℃の雰囲気下にて20分間燃焼させた後の燃焼残渣の強度は下記の要領で測定された値をいう。
【0065】
耐火材料を溶融状態とした上で亜鉛鉱板上に厚さ10mm、幅10mm、長さ50mmとなるように塗布し、耐火材料を冷却固化させ又は硬化させて試験体を作製する。なお、耐火材料を冷却固化させる場合、耐火材料を23℃の環境下にて60間放置する。耐火材料を硬化させる場合、耐火材料を23℃及び相対湿度50%の環境下にて1カ月間養生する。
【0066】
試験体を800℃の恒温槽に20分間放置して燃焼させた後に恒温槽から取り出し、23℃及び相対湿度50%の雰囲気下にて3時間放置して燃焼残渣を生成する。
【0067】
万能試験機を用いて直径が1.5mmであるニードルによって燃焼残渣を50mm/分の圧縮スピードで圧縮することによって燃焼残渣の皮膜強度を測定し、皮膜強度を燃焼残渣の強度とする。
【0068】
耐火材料の使用要領の一例について説明する。具体的には、耐火材料を用いて装飾品であるタイルを壁部表面に貼着一体化させる要領を例に挙げて説明する。
【0069】
耐火材料を溶融状態とする。次に、溶融状態の耐火材料をタイルの裏面に塗工し、壁部表面の所定場所に耐火材料を介してタイルを貼着させた後、耐火材料を冷却固化させ又は硬化させて、壁面の所定位置に耐火材料によってタイルを貼着一体化する。なお、建築構造物の壁部としては、例えば、外壁、内壁、天井部などが挙げられる。
【0070】
そして、耐火材料の硬化物は、燃焼によって強固な燃焼残渣を生成し、この燃焼残渣は、火災時においても建築構造物の壁部表面に貼着一体化させたタイルなどの装飾品を強固に保持し、火災時において、装飾品が壁部表面から脱落することを防止する。
【発明の効果】
【0071】
本発明の耐火材料は、燃焼により生成された燃焼残渣が非常に強固である。従って、燃焼残渣は、例えば、火災時においても壁部表面に貼着一体化させたタイルなどの装飾品を確実に保持し、装飾品が壁部から脱落するのを効果的に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例
【0073】
実施例及び比較例の耐火材料の製造において下記の原料を使用した。
【0074】
[合成樹脂]
・ポリ塩化ビニル(徳山積水工業社製 商品名「TS1000R」)
・ポリエチレン系樹脂(直鎖状低密度ポリエチレン、日本ポリエチレン社製 商品名「UE320」)
・エチレン-酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル社製 商品名「エバフレックスEV360」)
・EPDM(三井化学社製 商品名「EPT3092M」)
・ブチルゴム(JSR社製 商品名「BUTYL065」)
・エポキシ樹脂[主剤(三菱化学社製 商品名「E807」)、アミン系硬化剤(三菱化学社製 商品名「EKFL052」)
【0075】
[長石類]
・長石(平均粒子径:5μm、ネフェリンサイアナイト 白石カルシウム社製 商品名「ネスパー」)
【0076】
[バインダー成分]
・ガラスフリット(リン酸系ガラス、日本フリット社製 「VY0144」、主成分:P25、AI23及びR2O、Rはアルカリ金属原子、軟化点:404℃)
【0077】
(実施例1~10及び比較例1~5)
合成樹脂、長石類及びバインダー成分を表1~3に示した配合量となるようにして、プラネタリーミキサーを用いて真空雰囲気下にて60分間に亘って均一になるまで混合することによって耐火材料を得た。
【0078】
(実施例11及び12、比較例6)
エポキシ樹脂の主剤、長石類及びバインダー成分を表2及び表3に示した配合量となるようにして、プラネタリーミキサーを用いて真空雰囲気下にて60分間に亘って均一になるまで混合することによって耐火材料の主剤を得た。
【0079】
耐火材料の主剤に、表2及び表3に示した所定量のアミン系硬化剤を添加して耐火材料として用いた。
【0080】
耐火材料について、800℃の雰囲気下にて20分間燃焼させた後の燃焼残渣の強度を上述した要領で測定し、その結果を表1~3に示した。
【0081】
耐火材料について、タイル保持性を下記の要領で測定し、その結果を表1~3に示した。
【0082】
(タイル保持性)
一辺が15cmの平面正方形状で且つ表面が平坦なタイルを4枚用意した。耐火材料を溶融状態とした上で、各タイルの裏面全面に耐火材料を100g/m2の塗布量で塗工した。
【0083】
次に、モルタル製の外壁材を用意し、この外壁材の表面に4枚のタイルを耐火材料が外壁材側となるように載置した後、耐火材料を冷却固化させ又は硬化させてタイルを外壁材の表面に貼着一体化させて試験体を作製した。互いに隣接するタイルの間隔を0.5cmとした。
【0084】
なお、耐火材料を冷却固化させる場合、耐火材料を23℃の環境下にて60間放置した。耐火材料を硬化させる場合、耐火材料を23℃及び相対湿度50%の環境下にて1カ月間養生した。
【0085】
得られた試験体を600℃の恒温槽に30分間放置して燃焼させた後、試験体を恒温槽から取り出し、23℃の雰囲気下にて3時間放置した後、外壁材を垂直に起立させた状態において、4枚のタイルの脱落の有無を観察した。
◎・・・4枚のタイルは脱落せず且つ非常に強固に接着している状態であった。
○・・・4枚のタイルは脱落していないが、手で触れると比較的容易に脱落する状態で
あった。
△・・・1~3枚のタイルが脱落した状態であった。
×・・・4枚のタイルの全てが脱落した状態であった。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】