IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】塗料組成物および塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240416BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240416BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D133/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020014541
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021120444
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000230054
【氏名又は名称】日本ペイントホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515096952
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小▲高▼ 智子
(72)【発明者】
【氏名】井賀 充香
(72)【発明者】
【氏名】江端 公章
(72)【発明者】
【氏名】木野 良美
(72)【発明者】
【氏名】加茂 比呂毅
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-019285(JP,A)
【文献】特開平05-117548(JP,A)
【文献】特開2016-203146(JP,A)
【文献】特開2016-108373(JP,A)
【文献】特開2000-309727(JP,A)
【文献】特開平07-166091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 7/61
C09D 133/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料組成物を硬化して得られる塗膜であって、
前記塗料組成物は、
樹脂、無機顔料、および有機溶剤を含んでなる塗料組成物であって、
前記樹脂は、前記有機溶剤に分散した状態で存在している分散型樹脂成分と、前記有機溶剤に溶解した状態で存在している溶解樹脂成分とでなり、
前記分散型樹脂成分は、前記樹脂の全固形分に対して50体積%以上80体積%以下であり、
前記無機顔料の数平均粒子径は、1.2μm以上14μm以下であり、
前記無機顔料の含有量は、前記塗料組成物の全固形分に対して7体積%以上13体積%以下であり、
前記塗膜は、JIS K5600-4-7の規定に基づく60度鏡面光沢度が2以下である、塗膜。
【請求項2】
前記樹脂は、アクリル系樹脂である、請求項1に記載の塗膜
【請求項3】
前記無機顔料は、シリカである、請求項1または2に記載の塗膜
【請求項4】
前記有機溶剤は、弱溶剤である、請求項1から3いずれかに記載の塗膜
【請求項5】
前記塗膜は、上塗り塗膜である、請求項に記載の塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物および塗膜に関する。さらに詳しくは、上塗りとして用いられ、艶消し塗膜を得ることのできる塗料組成物、および当該塗料組成物から得られる艶消し塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の建築物には、艶消し外壁の要望が高まっている。そして、外壁と同様に、建築物の屋根に対しても、艶消しの要望が高くなっている。
【0003】
従来、艶消し塗膜を得る方法としては、塗料組成物に含まれる顔料の配合率を高くすることで、艶を低下させる方法が主として採用されている。しかしながら、顔料の含有量が高い塗膜は、割れやすくなるため強度が十分でなく、また、外力により塗膜の形状が変化する場合があった。
【0004】
これに対して、顔料の配合割合を低下させた艶消し塗料組成物が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1の塗料組成物によれば、有機顔料であるポリエチレン粒子が脂肪族系炭化水素溶剤に分散された分散体を用いて、この分散体の特定量を、弱溶剤系アクリル系樹脂に配合することにより、顔料重量濃度が10~50%と低い割合でありながら、十分な艶消し効果を有する塗膜を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-268297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、艶消し塗膜の強度への要求は、さらに高いレベルとなっており、顔料の配合率をより低くすることが望まれていた。
【0007】
また、艶消しの程度についてもさらに高いレベルが求められており、意匠の幅を広げ、より低光沢な艶消し塗膜が求められていた。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、より低光沢で、強度の高い艶消し塗膜を形成することのできる塗料組成物、および当該塗料組成物から得られる塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。一般的に、光沢を低下させる凹凸は、塗膜を形成する乾燥工程において溶媒の揮発により体積が減少する樹脂成分と、体積が変化しない顔料との体積比によって形成される。そして、低光沢とするためには顔料の配合比を高める必要が生じるが、顔料の増加は、上記の通り、塗膜強度を低下させてしまう。
【0010】
そこで、塗料組成物に含まれる樹脂の特定量を、塗料組成物を構成する有機溶剤に粒子として分散した状態とし、特定の粒径を有する無機物質を顔料として配合した塗料組成物として、塗料組成物から塗膜を形成する乾燥工程における塗料の流動を制御することで、少ない顔料配合量であっても、低光沢で強度の高い塗膜を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、樹脂、無機顔料、および有機溶剤を含んでなる塗料組成物であって、前記樹脂は、前記有機溶剤に分散した状態で存在している分散型樹脂成分と、前記有機溶剤に溶解した状態で存在している溶解樹脂成分とでなり、前記分散型樹脂成分は、前記樹脂の全固形分に対して50体積%以上80体積%以下であり、前記無機顔料の数平均粒子径は、1.2μm以上14μm以下であり、前記無機顔料の含有量は、前記塗料組成物の全固形分に対して7体積%以上13体積%以下である、塗料組成物である。
【0012】
前記樹脂は、アクリル系樹脂であってもよい。
【0013】
前記無機顔料は、シリカであってもよい。
【0014】
前記有機溶剤は、弱溶剤であってもよい。
【0015】
また別の本発明は、上記の塗料組成物を硬化して得られる塗膜であって、JIS K5600-4-7の規定に基づく60度鏡面光沢度が3以下である、塗膜である。
【0016】
前記塗膜は、上塗り塗膜であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の塗料組成物によれば、低光沢で、強度の高い艶消し塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<塗料組成物>
本発明の塗料組成物は、樹脂と、無機顔料と、有機溶剤と、を含む。そして、塗料組成物に含まれる樹脂の特定量が、塗料組成物を構成する有機溶剤に分散した状態となっており、顔料として、特定の粒径を有する無機物質が特定量配合されている。
【0020】
[樹脂]
本発明の塗料組成物を構成する樹脂は、塗料組成物を構成する有機溶剤に分散した状態で存在している分散型樹脂成分と、有機溶剤に溶解した状態で存在している溶解樹脂成分とで構成される。
【0021】
分散型樹脂成分は、前記樹脂の全固形分に対して50体積%以上80体積%以下であり、60体積%以上80体積%以下であることがより好ましい。
【0022】
分散型樹脂成分が、樹脂全体に対して50体積%未満の場合には、低い光沢値を有する塗膜を実現しにくくなる。一方で、樹脂全体に対して上80体積%を超える場合には、無機顔料を分散させることが困難となる。
【0023】
本発明の塗料組成物を構成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の方法で得られる非水ディスパージョン型樹脂(NAD樹脂)が挙げられる。
【0024】
〔非水ディスパージョン型樹脂の製造〕
本発明に用いうる非水ディスパージョン型樹脂は、直接、有機溶媒の中で溶液重合を行って製造する。本発明においては、溶液重合に用いた有機溶媒をそのまま、本発明の塗料組成物を構成する有機溶剤をして用いることができる。あるいは、他の有機溶媒中で溶液重合を行った後に、真空濃縮して溶媒置換を行って、本発明の塗料組成物を構成する有機溶剤に置き換えを行ってもよい。
【0025】
非水ディスパージョン型樹脂のうち、有機溶剤に溶解した状態で存在している溶解樹脂成分は、エチレン性不飽和単量体、および必要に応じてラジカル重合性不飽和単量体を、重合開始剤および必要に応じて用いられる連鎖移動剤を用いて、窒素気流中または有機溶媒の還流温度で攪拌しながら、数時間加熱反応させることによって製造することができる。
【0026】
この場合には、有機溶媒、単量体、重合開始剤、連鎖移動剤は、同時に添加しても、これらの少なくとも一部を逐次添加してもよい。重合温度としては、一般に30~180℃であり、好ましくは60~150℃の範囲が挙げられる。
【0027】
非水ディスパージョン型樹脂のうち、有機溶剤に分散した状態で存在している分散型樹脂成分は、別途製造しておいたものを用いてもよいが、上記の有機溶剤に溶解した状態で存在している溶解樹脂成分が存在している有機溶媒の中で、分散型樹脂成分を与える単量体を、重合開始剤および必要に応じて連鎖移動剤を用いて、窒素気流中または有機溶媒の還流温度で攪拌しながら、数時間加熱して共重合させることにより製造することができる。
【0028】
有機溶剤に溶解した状態で存在している溶解樹脂成分が存在している有機溶媒の中で、分散型樹脂成分を共重させる場合には、溶解樹脂成分の製造において使用した有機溶媒と同様の有機溶媒を使用することができる。
【0029】
分散型樹脂成分の重合にあたっては、有機溶媒、単量体、重合開始剤、連鎖移動剤は、同時に添加しても、これらの少なくとも一部を逐次添加してもよい。重合温度としては、一般に30~180℃であり、好ましくは60~150℃の範囲が挙げられる。
【0030】
また、本発明の塗料組成物を構成する無機顔料は、分散型樹脂成分の重合の後に添加することもできるが、分散型樹脂成分の重合の際に、有機溶剤中に添加していてもよい。
【0031】
溶解樹脂成分および分散型樹脂成分の重合に用いられる重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、カプロイルパーオキシド、ジ-i-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシピバレートなどの有機過酸化物;2,2’-アゾビス-i-ブチルニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。重合開始剤の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、単量体の合計100質量部に対して、一般に、0.01~5質量部、好ましくは0.02~2質量部の範囲である。
【0032】
また、連鎖移動剤としては、例えば、シアノ酢酸;アルキル基の炭素数が1~8のシアノ酢酸アルキルエステル類;ブロモ酢酸;アルキル基の炭素数が1~8のブロモ酢酸エステル類:アントラセン、フェナントレン、フルオレン、9-フェニルフルオレンなどの芳香族化合物類;p-ニトロアニリン、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、p-ニトロ安息香酸、p-ニトロフェノール、p-ニトロトルエンなどの芳香族ニトロ化合物類;ベンゾキノン、2,3,5,6-テトラメチル-p-ベンゾキノンなどのベンゾキノン誘導体類;トリブチルボランなどのボラン誘導体;四臭化炭素、四塩化炭素、1,1,2,2-テトラブロモエタン、トリブロモエチレン、トリクロロエチレン、ブロモトリクロロエタン、トリブロモメタン、3-クロロ-1-プロペンなどのハロゲン化炭化水素類;クロラール、フラルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数1~18のアルキルメルカプタン類;チオフェノール、トルエンメルカプタンなどの芳香族メルカプタン類;メルカプト酢酸;メルカプト酢酸の炭素数1~10のアルキルエステル類;炭素数1~12のヒドロキシアルキルメルカプタン類;ピネン、ターピノレンなどのテルペン類等を挙げることができる。連鎖移動剤を用いる場合には、その使用量としては、例えば、単量体の合計100質量部に対して、0.005~3質量部である。
【0033】
(樹脂の種類)
本発明の塗料組成物を構成する樹脂の種類としては、分散型樹脂成分と溶解樹脂成分とが、上記の組成で存在するものであれば、特に限定されるものではない。分散型樹脂成分と溶解樹脂成分とは、同一の種類の樹脂であっても、異なる種類の樹脂であってもよい。また、分散型樹脂成分となる樹脂は、1種単独でも、2種類以上の混合物であってもよい。さらに、分散型樹脂成分となる樹脂は、1種単独でも、2種類以上の混合物であってもよい。
【0034】
分散型樹脂成分および溶解樹脂成分となりうる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂、アルキド変性アクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、シリコン変性アクリル樹脂、アルキルシリケート樹脂、アクリル変性シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明の塗料組成物を構成する樹脂としては、塗膜の耐候性が良好であることから、アクリル樹脂または変性アクリル樹脂であることが好ましい。
【0036】
本発明の塗料組成物において、分散型樹脂成分と溶解樹脂成分とを合わせた樹脂成分全体の固形分は、塗料組成物の全固形分に対して、80体積%以上93体積%以下であることが好ましい。80体積%未満であると塗膜強度を確保することが難しく、93体積%を超えると低い光沢値を実現することが難しくなる。
【0037】
[無機顔料]
本発明の塗料組成物は、顔料として、特定の粒径を有する無機物質を用いることで、塗料組成物から塗膜を形成する乾燥工程において、無機顔料と樹脂成分との体積収縮差が発生し、低光沢の塗膜を実現することができる。さらに、塗料組成物を構成する有機溶剤に、塗料組成物を構成する樹脂の一部が分散した状態で存在していることで、少ない顔料配合量であっても、低光沢で強度の高い塗膜を実現することができる。
【0038】
(平均粒子径)
本発明の塗料組成物を構成する無機顔料の数平均粒子径は、1.2μm以上14μm以下である。
【0039】
無機顔料の数平均粒子径が1.2μm未満の場合には、低い光沢値を有する塗膜を実現することが困難となる。一方で、無機顔料の数平均粒子径が14μmを超える場合には、塗膜強度を確保することが困難となる。
【0040】
(配合組成)
本発明の塗料組成物を構成する無機顔料の配合組成は、塗料組成物の全固形分に対して7体積%以上13体積%以下である。
【0041】
無機顔料の配合組成が、塗料組成物の全固形分に対して7体積%未満の場合には、低い光沢値を有する塗膜を実現することが困難となる。一方で、無機顔料の配合組成が、全固形分に対して13体積%を超える場合には、塗膜強度を確保することが困難となる。
【0042】
本発明の塗料組成物を構成する無機顔料の種類としては、特に限定されるものではないが、例えば、シリカ、酸化チタン、亜鉛華、リトポン、硫化亜鉛、アンチモン白、鉛白、ジルコニア等の白色顔料;カーボンブラックや酸化鉄等の黒色顔料:カドミウムレッド、べんがら(酸化鉄)、モリブデンレッド、鉛丹等の赤色顔料:黄鉛(クロムイエロー)、チタンイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、タン、アンチモンイエロー、バナジウムスズイエロー、バナジウムジルコニウムイエロー等の黄色顔料:酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、コバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、ビクトリアグリーン等の緑色顔料:群青、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトシリカブルー、コバルト亜鉛シリカブルー等の青色顔料を例示することができる。本発明においては、所望の隠蔽力や色彩(明度、色度、彩度)に応じて、適宜選択して用いることができる。
【0043】
本発明において、塗料組成物を構成する無機顔料としては、吸油量50ml/100g以上(より好ましくは100ml/100g以上、さらに好ましくは150ml/100g以上)の無機顔料であることが好ましい。吸油量50ml/100g以上の無機顔料としては、例えば、シリカを挙げることができ、本発明塗料組成物を構成する無機顔料は、入手の容易性および汎用性から、シリカであることが好ましい。なお吸油量は、JISK5101-13-1(精製あまに油法)に準じて測定した値である。このような顔料は、溶剤との相溶性が良く、分散安定性に優れるため、艶消し用途に適している。
【0044】
なお、本発明塗料組成物は、必須成分となる、数平均粒子径1.2μm以上14μm以下である無機顔料が、塗料組成物の全固形分に対して7体積%以上13体積%以下含まれていれば、他の無機顔料や着色顔料等が含まれていてもよい。例えば、本発明塗料組成物は、数平均粒子径1.0μm以下の無機顔料や着色顔料を含んでいてよい。
【0045】
[有機溶剤]
本発明の塗料組成物を構成する有機溶剤は、特に限定されるものではない。塗料組成物に含まれる樹脂の特定量が、有機溶剤に分散した状態の分散型樹脂成分となり、残りの樹脂成分が、有機溶剤に溶解した状態の溶解樹脂成分なるものであればよい。
【0046】
本発明の塗料組成物を構成する有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ソルベッソ100、ソルベッソ150等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;ブタノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体等を挙げることができる。これらは、必要に応じて、単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
これらのなかでは、揮発性溶剤と比較して揮発性の成分(ガソリン・トルエン等)が除去されており、臭気が低減されているため、塗膜形成時のみならず塗膜形成の後も臭気を感じにくいことから、弱溶剤であることが好ましい。本発明において弱溶剤とは、弱極性溶剤を意味し、極性を有する溶質に対して貧溶媒となるものを意味する。具体的には、高引火点、高沸点、低有害性である脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられ、さらに具体的には、例えば、ミネラルスピリット、ホワイトスピリット、ミネラルターペン、イソパラフィン、ソルベント灯油、芳香族ナフサ、VM&Pナフサ、ソルベントナフサ等が挙げられる。
【0048】
弱溶剤の市販品としては、商品名で「ソルベッソ100」、「ソルベッソ150」、「ソルベッソ200」(いずれもエッソ石油社製)や、商品名で「スワゾール310」、「スワゾール1000」、「スワゾール1500」(いずれもコスモ石油社製)等が挙げられる。
【0049】
また、上記の他、単成分溶剤として、n-ブタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソノナン、n-デカン、n-ドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロブタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。
【0050】
[その他の成分]
本発明の塗料組成物には、必須成分となる樹脂、艶消しのための無機顔料、および有機溶剤以外に、任意に、機能性等を付与するための他の成分が配合されていてもよい。例えば、着色顔料、体質顔料、分散剤、乾燥剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤、安定剤、皮張り防止剤、かび防止剤、防腐剤、凍結防止剤、硬化剤等が挙げられる。
【0051】
<塗膜の形成方法>
本発明の塗料組成物を硬化して塗膜を形成する方法は、特に限定されるものではない。公知の方法を用いて、適宜条件を設定することで、塗膜を形成することができる。
【0052】
<塗膜>
本発明の塗膜は、上記した本発明の塗料組成物を硬化して得られる、低光沢で、強度の高い艶消し塗膜である。本発明の塗膜は、特に、最上層となる上塗り塗膜となることが好ましく、上塗り塗膜であることで、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0053】
[60度鏡面光沢度]
本発明の塗料組成物から形成される塗膜は、JIS K5600-4-7の規定に基づく60度鏡面光沢度は、3以下である。
【0054】
JIS K5600-4-7の規定に基づく60度鏡面光沢度が、3以下であれば、低光沢な質感の意匠が得られる。60度鏡面光沢度が、2以下であれば、さらに低光沢な意匠としてより好ましい。
【0055】
[膜厚]
本発明の塗料組成物から形成される塗膜の膜厚は、特に限定されるものではなく、用途によって適宜決定することができる。通常は5~300μm程度であり、より好ましくは10~200μm程度である。
【0056】
<用途>
本発明の塗料組成物から得られる塗膜は、低光沢で、強度の高い艶消し塗膜となる。このため、幅広い分野に好適に適用することができる。例えば、自動車、バス、鉄道車両等の輸送機、建築機械、農業機械等の機械、建築物の床や壁あるいは屋根等の外装、金属製品、モルタルやコンクリート製品、木工製品、プラスチック製品等、様々な対象物に適用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
本発明の塗料組成物は、なかでも、建築物の外装となる塗膜を形成する組成物として有用であり、例えば、建築物の外壁材の表面や、屋根の表面に塗膜を形成するために使用することができる。
【0058】
本発明の塗料組成物は、特に、建築物の外装となる塗膜のうち、最上層となる塗膜を形成するために使用することで、本発明の効果を遺憾なく発揮することができる。
【実施例
【0059】
以下に、実施例等に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。ただし、実施例3は、参考例である。
【0060】
<材料>
実施例および比較例で用いた材料を、以下に示す。
【0061】
[樹脂]
(分散型樹脂成分)
・非水ディスパージョンアクリル樹脂1:NAD1樹脂(製造例3:製造方法を後述する)
・非水ディスパージョンアクリル樹脂2:NAD2樹脂(製造例4:製造方法を後述する)
(溶解樹脂成分)
・溶解型樹脂:(製造例2:製造方法を後述する)
【0062】
[無機顔料]
・シリカ(東ソー社製、商品名:SS-178B、数平均粒子径:3μm、吸油量;237ml/100g)
【0063】
[有機樹脂粒子]
・有機樹脂粒子(岐阜セラック社製、商品名:ハイフラット9171、数平均粒子径;約10μm)
【0064】
[数平均粒子径1.0μm以下の顔料]
・カーボンブラック(COLUMBIAN CHEMICALS社製、商品名:ラーベン14パウダー、数平均粒子径:50nm)
・黄色酸化鉄(チタン工業社製、商品名:TAROXゴウセイサンカテツLL-100、粒子径:1μm以下)
・ベンガラ(戸田工業社製、商品名:トダカラー140ED、粒子径:100nm~1μm)
・酸化チタン(デュポン社製、商品名:IT-PURE R-706、粒子径200~300nm)
【0065】
[有機溶剤]
・ミネラルターペン(昭栄ケミカル社製、商品名:ミネラルターペン)
・芳香族系炭化水素溶剤(エクソン化学社製、商品名:ソルベッソ150)
【0066】
[製造例1:共重合体A溶液(NADのシェルワニス)の製造方法]
温度計、撹拌機、還流冷却器、および窒素ガス導入管を備えた反応器に、ミネラルターペン(昭栄ケミカル社製)250質量部を仕込んだ。別の容器に、2-エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)30質量%、t-ブチルメタクリレート(tBMA)61質量%、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノアクリレート(nの平均値2:CPCA)6質量%、およびグリシジルメタクリレートのオレイン酸付加物(ヨウ素価85:GFA-1)3質量%からなる単量体混合物600質量部を用意した。
【0067】
単量体混合物のうち200質量部を反応器に仕込み、反応器内を窒素置換した後100℃に昇温し、重合開始剤としてt-ブチル-パーオキシ-2-エチルヘキサノエート(tBPOO)を1.2質量部添加して、30分間同温度で保った。さらに、残りの単量体混合物400質量部およびtBPOOが7質量部からなる混合物を、2時間かけて逐次滴下し、滴下終了後同温度で30分保持した。次いで、tBPOOを2質量部添加し、さらに3時間同温度で保ってから、ミネラルターペン(昭栄ケミカル社製)を360質量部加えて冷却し、共重合体A溶液を得た。得られた共重合体の不揮発分NVは50%、酸価は10、重量平均分子量Mwは40000であった。
【0068】
[製造例2:共重合体B溶液(溶解型樹脂)の製造方法]
温度計、撹拌機、還流冷却器、および窒素ガス導入管を備えた反応器に、ミネラルターペン(昭栄ケミカル社製)235質量部を仕込んだ。別の容器に2-エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)15質量%、t-ブチルメタクリレート(tBMA)30質量%、スチレン(St)15質量%、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノアクリレート(nの平均値2:CPCA)10質量%、およびグリシジルメタクリレートの大豆油脂肪酸付加物(ヨウ素価98:GFA-2)30質量%からなる単量体混合物600質量部を用意した。
【0069】
単量体混合物のうち200質量部を反応器に仕込み、反応器内を窒素置換した後100℃に昇温し、重合開始剤として2,2’-アゾビス-i-ブチロニトリル(AIBN)を用い、かつ反応器内に該AIBNを最初に5質量部を添加し、次いで21質量部を逐次滴下し、逐次滴下終了後にさらにAIBN3質量部を添加した。その後、3時間同温度で保ってからミネラルターペン(昭栄ケミカル株式会社製)を150質量部加えて冷却した以外は、製造例1と同様にして、共重合体B溶液を得た。得られた共重合体の不揮発分NVは62%、酸価は19、重量平均分子量Mwは21000であった。
【0070】
[製造例3:非水ディスパージョン型樹脂C(NAD1)の製造方法]
製造例1で使用したものと同様の反応器に、ミネラルターペン(昭栄ケミカル社製)280質量部、および製造例1で得られた共重合体A溶液377質量部を仕込み、窒素置換した後100℃に昇温した。続いて、スチレン(St)15質量%、エチルアクリレート(EA)37.5質量%、メチルメタクリレート(MMA)28質量%、n-ブチルメタクリレート(nBMA)10質量%、CPCA2質量%、およびGFA-2が27.5質量%からなる単量体混合物370質量部を用意した。
【0071】
単量体混合物370質量部、ミネラルターペン150質量部、ならびにtBPOO3.5質量部を、2時間かけて反応器に逐次滴下し、滴下終了後同温度で30分間保持した後、tBPOO3質量部を添加し、さらに3時間同温度で保つことで、非水ディスパージョン型樹脂Cを得た。非水ディスパージョン型樹脂Cの不揮発分NVは47%、Tgは22℃、平均粒径は0.3μmであった。
【0072】
[製造例4:非水ディスパージョン型樹脂D(NAD2)の製造方法]
製造例1で使用したものと同様の反応器に、ミネラルターペン(昭栄ケミカル社製)280質量部、および製造例1で得られた共重合体A溶液377質量部を仕込み、窒素置換した後100℃に昇温した。続いて、スチレン(St)15質量%、エチルアクリレート(EA)43質量%、メチルメタクリレート(MMA)25質量%、メタクリル酸(MAA)2質量%、n-ブチルメタクリレート(nBMA)10質量%、およびGFA-2が5質量%からなる単量体混合物370質量部を用意した。
【0073】
単量体混合物370質量部、ミネラルターペン150質量部、ならびにtBPOO3.5質量部を、2時間かけて反応器に逐次滴下し、滴下終了後同温度で30分間保持した後、tBPOO3質量部を添加し、さらに3時間同温度で保つことで、非水ディスパージョン型樹脂Dを得た。非水ディスパージョン型樹脂Dのの不揮発分NVは47%、Tgは21℃、平均粒径0.4μmであった。
【0074】
<実施例1~5、比較例1~6>
[塗料組成物の調製]
表1~表2に示す成分を、表中に示す割合で混合して、実施例および比較例に用いる塗料組成物を調製した。
【0075】
塗料組成物の調製に先立って、以下の要領で、溶解樹脂成分(製造例2で得られた共重合体B溶液)と、数平均粒子径1.0μm以下の顔料、および有機溶媒を含む顔料分散ペーストを作製した。続いて、分散型樹脂成分(製造例3または4で得られた非水ディスパージョン型樹脂NAD1または2)に、得られた顔料分散ペーストと、無機顔料または有機顔料を添加し、充分に撹拌することで、塗組成物を得た。
【0076】
[顔料分散ペーストの製造]
製造例2で得られた共重合体B溶液15.7質量部、カーボンブラック(COLUMBIAN CHEMICALS社製、商品名:ラーベン14パウダー、数平均粒子径:50nm)2.4質量部、黄色酸化鉄(チタン工業社製、商品名:TAROXゴウセイサンカテツLL-100、粒子径:1μm以下)1.6質量部、ベンガラ(戸田工業社製、商品名:トダカラー140ED、粒子径:100nm~1μm)、酸化チタン(デュポン社製、商品名:IT-PURE R-706、粒子径200~300nm)、ミネラルターペン(昭栄ケミカル社製)2.8質量部、ソルベッソ150(エクソン化学社製)11.4質量部を混合し、サンドミルで十分に分散することによって、顔料分散ペーストを製造した。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
<評価>
得られた各塗料組成物について、以下の評価を実施した。評価結果を、表1または表2に示す。
【0080】
なお、比較例4については、分散型樹脂成分の含有量が高すぎて、無機顔料を分散することが困難であり、評価を実施することができなかった。
【0081】
[60度鏡面光沢度]
実施例および比較例で得られた塗料組成物を、ブリキ板上に、6ミルのドクターブレードを用いて、塗装直後のウェット塗膜厚が100~150μmとなるように塗布した。7日間室温乾燥した後、可変角光沢計(コニカミノルタ社製、型式:GM-268Plus)を用いて、JIS K5600-4-7の規定に基づいて、60度鏡面光沢度を測定した。
【0082】
[塗膜強度(温冷繰り返し)]
200mm×100mm×0.8mmの表面調整をした鋼板を準備し、予め、20℃、70%RHにて、7日間乾燥して得られたアルキッド樹脂系錆止め塗料を塗装し、実施例および比較例で得られた塗料組成物を刷毛にて湿時約1500g/mで二回塗布して塗り包むことで、試験面以外からの透水がないようにして、標準状態で7日間乾燥させた。
【0083】
試験方法は、JIS K5600-7-4に準じた。ただし、条件およびサイクル数は、次の通りとした。
【0084】
試験の条件は、JIS K5600-7-4の表1(サイクル試験条件)の条件2とした。具体的には、湿潤:23±2℃で18時間、低温:-20℃±2℃で3時間、高温:50℃±3℃で3時間とした。浸漬容器に水を入れ、試験片を23±2℃の水中に浸漬し、試験を開始した。
【0085】
サイクル数は、10回、30回の計2度の確認とした。ただし、サイクル試験の途中で中断する場合には、50±3℃で3時間加温した後とした。
【0086】
試験後、塗膜を目視によって観察し、膨れ、割れ、および剥がれの有無について、以下の評価基準で評価した。
◎:サイクル30回後に、試験片3枚のうち2枚以上に、割れ、膨れ、および剥がれがない
○:サイクル10回後に、試験片3枚のうち2枚以上に、割れ、膨れ、および剥がれがない
×:上記以外
【0087】
[塗膜強度(耐おもり落下性)]
JIS K5600-5-3に準じて、耐おもり落下性による塗膜強度の評価を行った
200mm×100mm×0.8mmの表面調整をした鋼板を準備し、予め、20℃、70%RHにて、7日間乾燥して得られたアルキッド樹脂系錆止め塗料を塗装し、実施例および比較例で得られた塗料組成物を刷毛にて湿時約1500g/mで二回塗布した。
【0088】
試験方法は、JIS K5600-5-3の6.(デュポン式)に準じた。ただし、おもりの質量は300g±1g、落下の高さは、試験片表面からおもりの下端までの距離が30cmになるように設置した。
【0089】
試験後、塗膜を目視によって、塗膜に衝撃的変形による割れまたは剥がれが発生していないか確認した。割れまたは剥がれを認めないときを○、それ以外を×とする。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の塗料組成物から得られる塗膜は、低光沢で、強度の高い艶消し塗膜となる。このため、幅広い分野に好適に適用することができる。例えば、自動車、バス、鉄道車両等の輸送機、建築機械、農業機械等の機械、建築物の床や壁あるいは屋根等の外装、金属製品、モルタルやコンクリート製品、木工製品、プラスチック製品等、様々な対象物に適用できる。
【0091】
本発明の塗料組成物から得られる塗膜は、なかでは、建築物の外装表面として有用であり、例えば、建築物の外壁材の表面や、屋根の表面に形成される塗膜として、大変有用である。本発明の塗料組成物から得られる塗膜は、とりわけ、建築物の外装となる塗膜のうち、最上層となる塗膜として、好適に使用することができる。