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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】レーザ処理済みコンクリート表面
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/36 20140101AFI20240416BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20240416BHJP
【FI】
B23K26/36
B23K26/082
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020062130
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021159929
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506430026
【氏名又は名称】株式会社トヨコー
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】白根 勇二
(72)【発明者】
【氏名】三坂 岳広
(72)【発明者】
【氏名】丸山 憲治
(72)【発明者】
【氏名】小原 孝之
(72)【発明者】
【氏名】茂見 憲治郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和久
(72)【発明者】
【氏名】槍田 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】原口 学
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-077586(JP,A)
【文献】特開平11-270153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/36
B23K 26/082
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの表面においてビームスポットが所定の走査パターンに沿って走査された掘削痕が前記表面に沿って配列されたレーザ処理済みコンクリート表面であって、
少なくとも一部の範囲において、前記掘削痕が、隣接する他の掘削痕と、前記走査パターンの配列方向において、前記掘削痕の幅の90%以下の範囲にわたって重畳して配置されていること
を特徴とするレーザ処理済みコンクリート表面。
【請求項2】
前記表面においてガラス化が生じた面積が50%以下であること
を特徴とする請求項1に記載のレーザ処理済みコンクリート表面。
【請求項3】
前記掘削痕の幅が0.85mm以下であり、前記掘削痕の深さが1mm以下であること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ処理済みコンクリート表面。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの表面にレーザ光を照射して表面を掘削したレーザ処理済みコンクリート表面に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の建築物、構造物等において、内部構造の検査や補修材料(モルタル、塗料等)の塗布下地の生成などのメインテナンスを目的として、コンクリートの表面層を剥離する場合がある。
従来、このような剥離に利用可能な手法として、例えば、ノズルから高圧に加圧した水を噴射し、水圧でコンクリートの結合を破壊するウォータージェット工法が知られている。
また、補修工事などを目的として、構造物の一部を壊したり、形を整えるため、表面をピックやドリル、その他の機材や道具で機械的な力により掘削する斫り(はつり)作業が知られている。
【0003】
上述したウォータージェット工法による表面処理は、例えばサイズが20mm程度の比較的大きい粗骨材(砂利など)が露出するまで行われるが、近年このようなコンクリート表面の処理を、レーザ光の照射によって行うことが提案されている。
例えば、非特許文献1には、疑似的CWレーザ(QCW)を用い、パルス状のレーザをコンクリート表面に照射することが記載されている。
非特許文献2には、パルスレーザをコンクリート表面に照射して熱衝撃により微細な部分を剥離することが記載されている。
また、特許文献1には、コンクリートの表面処理に係るものではないが、連続波(CW)レーザ光を照射対象物に照射する照射ヘッドに、レーザ光を所定の偏角だけ偏向させるウェッジプリズムを設け、このウェッジプリズムを回転させながらレーザ光を照射することによって、照射箇所が照射対象物の表面を旋回しながら走査することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002- 89033号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「Experimental characterization of concrete removal by high-power quasicontinuous wave fiber laser irradiation」Nguyen Phi Long, Hiroyuki Daido, Tomonori Yamada, Akihiko Nishimura, Noboru Hasegawa, and Tetsuya Kawachi, JOURNAL OF LASER APPLICATIONS VOLUME 29, NUMBER 4, NOVEMBER 2017
【文献】「Efficiency of concrete removal with a pulsed Nd:YAG laser」Michael Savina, Zhiyue Xu, Yong Wang, Claude Reed, Michael Pellin, Journal of Laser Applications 12, 200 (2000) p.200-204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載された技術においては、コンクリート中の石英などの珪素系の成分が照射熱によって溶融、再凝固し、ガラス化することが問題となっている。
非特許文献2に記載された技術においては、高エネルギ密度のパルスレーザを短い照射時間だけ照射することにより、ガラス化の抑制を図っている。
しかし、レーザ光によるコンクリートの表面処理を工業的に行う場合、高速に処理を行うことが要望されている。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、高速処理をする場合であってもガラス化を抑制したレーザ処理済みコンクリート表面を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する
【0013】
請求項1に係る発明は、コンクリートの表面においてビームスポットが所定の走査パターンに沿って走査された掘削痕が前記表面に沿って配列されたレーザ処理済みコンクリート表面であって、少なくとも一部の範囲において、前記掘削痕が、隣接する他の掘削痕と、前記走査パターンの配列方向において、前記掘削痕の幅の90%以下の範囲にわたって重畳して配置されていることを特徴とするレーザ処理済みコンクリート表面である。
本発明の発明者は、コンクリート表面へのレーザ照射により表面層剥離等の掘削処理を行う際に、ビームスポットの照射範囲が走査パターンの一周期前の照射範囲と重複する範囲であるラップ率が、ガラス化の発生有無及び発生程度に支配的な因子であることを見出した。
本発明によれば、ラップ率が90%以下となるように、所定の走査パターンをコンクリートの表面を送りながらレーザ光を照射することにより、高速処理する場合であってもガラス化の発生を抑制し、良好な処理表面を得ることができる。
請求項2に係る発明は、前記表面においてガラス化が生じた面積が50%以下であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ処理済みコンクリート表面である。
請求項3に係る発明は、前記掘削痕の幅が0.85mm以下であり、前記掘削痕の深さが1mm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ処理済みコンクリート表面である。
これらの各発明においても、上述したコンクリートの表面処理方法に係る発明の効果と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、高速処理をする場合であってもガラス化を抑制したレーザ処理済みコンクリート表面を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明を適用したレーザ処理済みコンクリート表面を得るコンクリートの表面処理方法の第1実施形態において用いる照射ヘッドの断面図である。
図2】第1実施形態における照射後の表面の写真である。
図3】第1実施形態におけるビームスポットの軌跡の一例を示す図である。
図4】第1実施形態における照射時間の概念を示す模式図である。
図5】ラップ率とガラス化評価結果との相関を示す図である。
図6】ラップ率による表面温度履歴の違いを模式的に示す図である。
図7】ラップ率及びパワー密度とガラス化評価結果との相関を示す図である。
図8】本発明の第2実施形態におけるビームスポットの軌跡の一例を示す図である。
図9】本発明の第3実施形態におけるビームスポットの軌跡の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用したレーザ処理済みコンクリート表面の第1実施形態について説明する。
第1実施形態のレーザ処理済みコンクリート表面を得るコンクリートの表面処理方法等を実行するレーザ照射装置は、レーザ発振器からファイバを介して供給されるレーザ光Rのビームを、コンクリート製の照射対象物Oに照射し、照射箇所(ビームスポットBS)が照射対象物Oの表面を円弧上の走査パターンに沿って走査することによって、コンクリートの表面層の掘削、剥離処理を行う照射ヘッド1を備えている。
【0017】
この処理は、照射対象物Oの表面で照射箇所(ビームスポットBS)を、例えば直径10mm程度あるいはそれ以上の比較的大径の円弧に沿って旋回させて走査し、コンクリートの表面をビームスポットBSが通過するパスPに沿って掘削するものである。
このような照射をCWレーザによって連続的に行いつつ、走査パターンを照射対象物Oに対して所定の送り速度で相対移動させることにより、照射対象物Oの表面の全面にレーザ
光Rを照射して表面層の剥離を行うことができる。
レーザ処理済みのコンクリート表面には、例えば、亀裂などの機械的欠陥や化学的変性、物性劣化などの欠陥の検査や、モルタル、塗料等による表面部の再仕上が行われる。
図1は、第1実施形態のレーザ処理済みコンクリート表面を得るレーザ照射装置における照射ヘッドの断面図である。
【0018】
照射ヘッド1は、図示しないファイバを介し、図示しないレーザ発振器から伝達される連続波(CW)のレーザビームRを、照射対象物Oに照射するものである。
照射ヘッド1は、例えば、作業者が手持ちして作業を行うことが可能なハンディタイプのものであるが、所定のパスに沿って照射ヘッド1を移動可能なロボットに取り付けて用いることも可能である。
また、照射ヘッド1を固定した状態で、照射対象物Oを照射ヘッドに対して相対変位させるようにしてもよい。
【0019】
照射ヘッド1は、フォーカスレンズ10、ウェッジプリズム20、保護ガラス30、回転筒40、モータ50、モータホルダ60、保護ガラスホルダ70、ハウジング80、ダクト90等を備えている。
【0020】
フォーカスレンズ10は、図示しないレーザ発振器からファイバを経由して照射ヘッド1に伝達されたレーザビームRが、図示しないコリメートレンズを通過した後に入射される光学素子である。
コリメートレンズは、ファイバの端部から出射されたレーザ光を、実質的に平行なビームにする(コリメートする)光学素子である。
フォーカスレンズ10は、コリメートレンズが出射するレーザビームRを、所定の焦点位置において集光(合焦)させる光学素子である。
フォーカスレンズ10として、例えば、正のパワーを有する凸レンズを用いることができる。
【0021】
なお、レーザビームRによる照射対象物Oの表面における照射箇所であるビームスポットBSは、この焦点位置と一致あるいは焦点深度内に含まれる近接状態において(フォーカス状態)、あるいは、焦点位置から離間して(デフォーカス状態)配置される。
焦点深度とは、ビーム径が所定の許容錯乱円の径以下となる光軸方向の範囲を意味する。
【0022】
ウェッジプリズム20は、フォーカスレンズ10が出射するレーザビームRを、所定の偏角θ(図1参照)だけ偏向させ、入射側と出射側の光軸角度を異ならせる光学素子である。
ウェッジプリズム20は、入射側の光軸方向と直交する方向における一方の厚さが他方の厚さに対して大きくなるように、連続的に厚さが変化する板状に形成されている。
保護ガラス30は、ウェッジプリズム20に対して光軸方向に沿って焦点位置側(照射対象物O側、ビームスポットBS側)に隣接して配置された平板ガラス等からなる光学素子である。
【0023】
保護ガラス30は、照射対象物O側から飛散する剥離物、粉塵等の異物が、ウェッジプリズム20等の他の光学素子に付着することを防止する保護部材である。
保護ガラス30は、照射ヘッド1が有する光学系のうち、光軸方向に沿って最も焦点位置側に配置された光学素子であり、後述する空間部Aやダクト90の内部を介して、照射対象物O側に露出することになる。
フォーカスレンズ10、ウェッジプリズム20、保護ガラス30は、例えば光学ガラス等の透明な材料からなる部材の表面に、反射防止や表面保護等を目的としたコーティングを施して構成されている。
【0024】
回転筒40は、内径側にフォーカスレンズ10及びウェッジプリズム20を保持する円筒状の部材である。
回転筒40は、フォーカスレンズ10の光軸、及び、フォーカスレンズ10に入射するレーザビームRの光軸(コリメートレンズの光軸)と同心に形成されている。
回転筒40は、図示しないベアリングにより、ハウジング80に対して、フォーカスレンズ10の光軸と一致する回転中心軸回りに回転可能に指示されている。
回転筒40は、例えばアルミニウム系合金等の金属や、エンジニアリングプラスチック等により形成されている。
【0025】
モータ50は、回転筒40をハウジング80に対して回転中心軸回りに回転駆動する電動アクチュエータである。
モータ50は、例えば、回転筒40と同心に構成され、回転筒40の外径側に設けられた円環型モータとして構成される。
モータ50の図示しないステータは、後述するモータホルダ60を介してハウジング80に固定されている。
モータ50の図示しないロータは、回転筒40に固定されている。
モータ50は、図示しないモータ駆動装置によって、回転筒40の回転速度が所望の目標回転速度と実質的に一致するように制御される。
【0026】
回転筒40の回転中心軸が照射対象物Oの照射箇所付近の表面と直交するよう照射ヘッド1の姿勢を維持し、モータ50が回転筒40とともにウェッジプリズム20を回転させることにより、ビームスポットBSは、照射対象物Oの表面に沿って、回転筒40の回転中心軸回りに円弧状に旋回走査することになる。
この状態で照射ヘッド1を照射対象物Oの表面に沿って並進移動させると、ビームスポットBSは、円状(円弧状)に旋回しつつ照射対象物Oの表面を走査することになる。
これにより、照射対象物O上の任意の点に着目した場合には、短時間のみレーザビームRが間欠的に入射し、短時間のうちに急速加熱、急速冷却が順次行われる。
このとき、照射対象物Oの表面層は、破砕、掘削されて飛散する。
【0027】
モータホルダ60は、ハウジング80の内部において、モータ50のステータを所定の位置に保持する支持部材である。
モータホルダ60の本体部は、円筒状に形成され、ハウジング80の内径側に挿入された状態でハウジング80に固定されている。
モータホルダ60の内周面は、モータ50の外周面と対向して配置され、モータ50のステータに固定されている。
【0028】
モータホルダ60の外周面と内周面との間隔の一部には、パージガスPGが通流されるパージガス流路61が形成されている。
パージガスPGは、照射ヘッド1の使用時(照射時)に、後述するダクト90の内筒91の内部における保護ガラス30の照射対象物O側の面部が接する空間部Aから、照射対象物O側へ噴出される気体である。保護ガラス30の照射対象物O側の面部は、この空間部Aの内部に露出して配置されている。
パージガスPGは、照射対象物O側から飛散する掘削された表面層の破片などの塵埃や異物が、ハウジング80の内部に飛来して保護ガラス30に付着することを防止する機能を有する。
【0029】
パージガス流路61は、モータホルダ60の一部を、モータ50の軸方向に貫通して形成された開口である。
パージガス流路61から出たパージガスPGは、ハウジング80内に設けられた流路を経由して、ダクト90の内筒91の内径側に導入される。
【0030】
保護ガラスホルダ70は、保護ガラス30を保持した状態でハウジング80の内径側に固定される部材である。
保護ガラスホルダ70は、例えば、中央部に円形の開口が形成された円盤状に形成されている。
レーザビームRは、開口を介してウェッジプリズム20側から照射対象物O側へ通過する。
保護ガラスホルダ70の照射対象物O側の面部には、保護ガラス30がはめ込まれる凹部が形成されている。
保護ガラス30は、この凹部にはめ込まれた状態で、ハウジング80の内部において保持されている。
【0031】
保護ガラス30は、汚染や焼損が発生した場合には交換が可能なよう、保護ガラスホルダ70に着脱可能に取り付けられている。
保護ガラスホルダ70の照射対象物O側とは反対側の面部は、モータホルダ60の照射対象物O側の端面と間隔を隔てて対向して配置されている。
この間隔は、モータホルダ60のパージガス流路61から導入されるパージガスPGを保護ガラス30の照射対象物O側の空間部Aに導入する流路の一部(流体供給部の一部)を構成する。
【0032】
ハウジング80は、照射ヘッド1の本体部の筐体を構成する円筒状の部材である。
ハウジング80の内部には、上述したフォーカスレンズ10、ウェッジプリズム20、保護ガラス30、回転筒40、モータ50、モータホルダ60、保護ガラスホルダ70等のほか、図示しないファイバの照射ヘッド1側の端部や、コリメートレンズ等が収容されている。
【0033】
ダクト90は、ハウジング80の照射対象物O側の端部から突出して設けられた二重筒状の部材である。
ダクト90は、内筒91、外筒92、集塵装置接続筒93等を有する。
上述したモータホルダ60、保護ガラスホルダ70、ハウジング80は、例えばアルミニウム系合金等の金属や、エンジニアリングプラスチック等により形成されている。
【0034】
内筒91は、円筒状に形成されている。
レーザ光Rは、内筒91の内径側を通過して照射対象物O側に出射される。
内筒91のハウジング80側の端部には、他部に対して段状に小径に形成された小径部91aが形成されている。
小径部91aの内部の空間部Aには、ハウジング80の内部から、パージガスPGが導入される。
【0035】
内筒91の照射対象物O側の端部には、照射対象物O側が小径となるように先窄みとなったテーパ部91bが形成されている。
テーパ部91bは、レーザ光Rの通過を許容しつつ、パージガスPGの気流を絞って流速を増加させる機能を有する。
【0036】
外筒92は、内筒91と同心に配置された円筒状の部材であって、内筒91の外径側に設けられている。
外筒92の内周面と外筒91の外周面との間には、全周にわたって連続した隙間が形成されている。
外筒92のハウジング80側の端部には、他部に対して段状に小径に形成された小径部92aが形成されている。
小径部92aは、ハウジング80の照射対象物O側の端部に嵌め込まれた状態で固定される。
外筒92の照射対象物O側の端部92bの縁は、回転筒40の回転中心軸を水平として照射する際の通常使用時における上方が下方に対してハウジング80側となるように、回転筒40の回転中心軸に対して傾斜して形成されている。
【0037】
集塵装置接続筒93は、外筒92から外径側に突出し、外筒92の照射対象物O側の端部近傍において、外筒92の内径側と連通した状態で接続された円筒状の筒体である。
集塵装置接続筒93は、上述した通常使用時における外筒92の下方に設けられている。
集塵装置接続筒93は、照射対象物O側からハウジング80側に近づくとともに、外筒92から離間するように、外筒92に対して傾斜して配置されている。
集塵装置接続筒93の他方の端部は、図示しない集塵装置に接続され、内部が負圧となるように真空吸引されるようになっている。
【0038】
第1実施形態においては、レーザビームRを出射しながら、回転筒40及びウェッジプリズム20を回転させることにより、ビームスポットBSが照射対象物Oの表面に沿って所定の半径の円弧上に旋回する。
この状態で、照射ヘッド1を照射対象物Oの表面に沿って相対的に並進移動させることにより、走査パターン(第1実施形態の場合には円旋回)が所定の送り速度で表面上を移動する状態で、照射対象物Oの表面をビームスポットBSが走査する掘削処理を行うことが可能である。
【0039】
以下、上述したレーザ照射装置を用いて、コンクリートの表面にレーザ光を照射する実験を行った。
照射対象物Oは、例えば、100mm×100mm×50mmのコンクリートブロックである。
先ず、CWレーザ発振器の出力として、コンクリートの表面を掘削可能なパワー密度を連続的に発生可能であることが要求される。
この点、予備実験により、2kW以上の出力であれば、表面の掘削が可能であることが確認できた。
一方、ガラス化に関しては、レーザによって石英等の珪素系の成分が加熱されることによって生じるため、以下の実験においては、2kWよりもガラス化が起こりやすくシビアである最大出力3kW、波長1070nmのイッテルビウムファイバーレーザで実施することとした。
【0040】
レーザビームRの焦点位置における旋回円径は、焦点距離、ウェッジプリズム20の偏角などに依存し、例えば26mmであるが、後述するデフォーカス量を、照射ヘッド1と照射対象物Oとの距離を異ならせて調節している(ビームスポットBSの位置と焦点距離とは必ずしも一致しない)ため、デフォーカス量の変化に応じて旋回円径は変化する。
照射対象物Oの表面におけるビームスポットBSの径は、0.43mm、0.85mm、1.27mmの三段階に振っており、これは照射ヘッド1を照射対象物Oであるコンクリートブロックとの距離を変化させて調整している。
【0041】
照射ヘッド1をコンクリートブロックに対して並行移動する際の送り速度(円旋回の走査パターンが表面上を移動する速度)は、22mm/sec、11mm/secの二段階に振っている。
この送り速度は、この実験では例えばX-Yテーブルなどを有する自動ステージに、照射対象物Oであるコンクリートブロックを固定することにより実現しているが、コンクリートブロックを固定した状態で照射ヘッド1を移動させてもよい。
照射回数はいずれも2回とし、1回目の照射後、遅滞なく2回目に照射を実施した。
この照射回数に関しては、複数回照射することによってガラス化が発生することが事前の知見として得られていたため、2回目の照射でガラス化が生じるかを評価した。
【0042】
照射条件を変化させながらレーザ光Rを照射し、ガラス化の程度を評価した結果を表1に示す。
照射したサンプル表面を目視で観察し、ガラス化の程度を4段階で評価した。

〇(図5における(4)):ガラス化はほぼ見られなかった
△(図5における(3)):部分的なガラス化は見られるが、全面ではない
□(図5における(2)):ほぼ全面に薄くガラス化が見られた
■(図5における(1)):ほぼ全面に激しいガラス化(泡状の凸部が発生する)が見られた

図2は、第1実施形態における照射後の表面の写真である。
図2は、四段階評価における各段階を代表する表面の写真を示しており、具体的には、上段から順に、実施例1(〇)、比較例4(△)、比較例8(□)、比較例6(■)を示している。

【表1】
【0043】
以下、表1に示したラップ率及び照射時間の概念について説明する。
図3は、第1実施形態におけるビームスポットBSの軌跡(通過経路・パス)の一例を示す図である。
図3に示すように、ビームスポットBSは、ウェッジプリズム20の回転に応じて回転するとともに、照射ヘッド1の照射対象物Oに対する送り方向に移動する。
その結果、ウェッジプリズム20が一周(360°)回転したときに、従前に照射したパスP0(ビームスポットの軌跡)と今回照射するパスP1には、オフセットが生ずる。
そこで、本明細書、請求の範囲等においては、直前に照射したパスP0と最新のパスP1とが重複する幅wのビームスポットBSの直径dに対する比(w/d×100(%))をラップ率として定義する。
ラップ率とは、ビームスポットBSが走査パターンにおける所定の箇所を繰り返し通過する際に、表面でビームスポットBSの通過経路(パス)が直前の照射におけるビームスポットBSの通過経路と重複する割合を示す値である。
ここで、本実施形態のように走査パターンが円旋回である場合は、幅wは、ウェッジプリズム20が360°回転する期間(一周期中)の走査量(照射ヘッドの送り量)と定義することも可能である。
すなわち、ラップ率は、走査パターンの一周期における走査パターンの送り速度に対するビームスポットの直径の比であると定義することが可能であり、例えば図3における円旋回軌跡の左右の領域においては、この定義によるラップ率は上述した定義によるラップ率と実質的に一致する。
【0044】
図4は、実施形態における照射時間の概念を示す模式図である。
図4に示すように、ビームスポットBSの進路上に設定した任意の点(処理点)を、ビームスポットBSが通過する時間が照射時間であり、ビームスポットBSの直径をd、ビームスポットBSの照射面上における移動速度をVとすると、d/V(sec)として定義することができる。
【0045】
上記実験の結果、波長が例えば1μmのレーザを使用して表面掘削が生じる条件範囲では、ガラス化の発生の有無を決める支配的な因子として、ラップ率が重要であると考えられる。
図5は、ラップ率とガラス化評価結果との相関を示す図である。
図5において、横軸はラップ率を示し、縦軸は評価結果(数字が大きいほど良。4,3,2,1がそれぞれ表1の〇、△、□、■に相当)を示している。
図5に示すように、どのパワー密度、走査速度であっても、ラップ率が高くなるとガラス化の度合いが増し、特に90%を上回ると激しいガラス化が見られることがわかった。
このことから、ラップ率は90%以下にする必要があり、特に85%以下とすれば処理表面のほぼ全面にわたってガラス化を効果的に抑制することができ、より好ましいことがわかる。
【0046】
図6は、ラップ率による表面温度履歴の違いを模式的に示す図である。
図6において、横軸は時間を示し、縦軸はコンクリートの表面上のある一点の温度を示している。
ラップ率が比較的低い状態を実線、ラップ率が比較的高い状態を破線でそれぞれ模式的に示している。
一回の処理でレーザから与えられるエネルギ量を一定としてラップ率を変更した場合、ラップ率が高いということは、走査中に多数回にわけてレーザ光Rを照射していることとなる。
【0047】
コンクリートの表面を掘削するためには、コンクリートの表層に短時間で高いエネルギを与える必要があるが、ラップ率が高い場合には、1回の走査(円旋回)で与えられるエネルギが低いため、そのエネルギが掘削に効率よく使用されず、掘削に寄与しない余剰なエネルギが表面の加熱に費やされてしまう。
このため、表面の温度が高まり、石英等のコンクリートに含まれるSi系の成分の融点を上回ってしまうこととなる。
これに対し、ラップ率を低くした場合には、走査中にレーザ光Rが照射される回数が少なくなり、掘削を高効率化して温度上昇を抑制し、ガラス化を抑制することができる。
【0048】
図7は、ラップ率及びパワー密度とガラス化評価結果との相関を示す図である。
横軸はラップ率を示し、縦軸はパワー密度(単位照射面積あたりの照射エネルギ)を示している。
図7に示すように、パワー密度が高いほうがガラス化は抑制され、例えば0.53MW/cm以上であれば、ラップ率が90%を上回らない限り、ガラス化は十分な程度に抑制できることがわかる。
また、ビームスポットの表面上における移動速度は、毎秒6m以上とした場合にガラス化を効果的に抑制できることがわかった。
【0049】
次に、本実施形態におけるレーザ処理済みコンクリート表面について説明する。
第1実施形態のコンクリートの表面処理方法を行うことにより、ビームスポット径dと同等の幅を有する掘削痕が、ビームスポットBSの通過した箇所に形成される。
この掘削痕は、例えば、照射ヘッド1に対するウェッジプリズムの角度位置が同じ位置において、一周期前に形成された掘削痕と、円形の走査パターンの送り方向(図3における左右方向)において、ビームスポットBSの直径の90%以下の範囲にわたって重畳して配置されることになる。
このようなレーザ処理済みコンクリート表面においては、珪素が前記レーザ光の照射により溶融後再凝固したガラス化が生じた面積が50%以下となる。
本実施形態において、掘削痕の幅は、ビームスポットBSの径dに相当する。
レーザ発振器の出力P(W)、スポット径d(cm)とすると、d(cm)≦1.55×10-3×√Pとなる。
例えば、作業者が照射ヘッド1を保持してハンドリング可能な3kW程度の出力であれば、掘削痕の幅は、0.85mm以下となる。
また、掘削痕の深さ(表面形状における凸部の突端部と溝部の底部との落差)は、例えば1mm以下となり、これは既存のウォータージェット工法による表面の凹凸に対して小さいことが特徴である。
【0050】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ラップ率が90%以下となるように、ビームスポットBSが円旋回する走査パターンを、コンクリートブロックの表面を送りながらレーザ光Rを照射することにより、連続波(CW)レーザを用いて高速処理する場合であってもガラス化の発生を抑制し、良好な処理表面を得ることができる。
(2)ビームスポットは、コンクリートブロックの表面上において毎秒6m以上の速度で移動することにより、ある箇所が入熱を受けた後、直ちに冷却されるため、表面温度の向上を抑制してガラス化の発生を防止することができる。
(3)ビームスポットBSのパワー密度を、0.53MW/cm以上としたことにより、高いパワー密度によりコンクリート表面の剥離等に必要な熱量を短時間で与え、表面温度の上昇を抑制し、ガラス化の発生を防止することができる。
(4)コンクリートの表面を、0.53MW/cm以上のパワー密度のレーザ光で、一回の照射時間が0.12msec以下でありかつ所定のインターバルを隔てるよう繰り返し照射することにより、コンクリート表面を破砕しつつ表面温度の上昇を抑制し、ガラス化を防止することができる。
(5)表面の同一箇所における繰り返し照射の照射回数が10回以下であることにより、照射が過度に多くの回数繰り返されることによるガラス化の発生を防止することができる。
(6)レーザ発振器として3kWの高出力のものを用いたことにより、コンクリート表面を剥離するのに十分なエネルギ密度のビームスポットを適切に形成し、上述した効果を確実に得ることができる。
(7)レーザ光を出射する光学系に回転するウェッジプリズム20を偏向手段として設けることにより、簡単な構成によりビームスポットBSが円旋回する走査パターンを形成することができる。
【0051】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用したレーザ処理済みコンクリート表面の第2実施形態について説明する。
以下説明する各実施形態において、従前の実施形態と共通する箇所は説明を省略し、主に相違点について説明する。
第2実施形態においては、第1実施形態における旋回ウェッジプリズムを用いた円形の走査パターンに代えて、例えば所定の軸回りに揺動するガルバノミラーを有するガルバノスキャナにより、直進往復運動する走査パターンを形成している。
図8は、第2実施形態におけるビームスポットの軌跡の一例を示す図である。
第2実施形態においては、ビームスポットBSが通過するパスは、ジグザグ状に進行する。
例えば、ビームスポットBSは、パスP11,P12,P13を順次速度Vで進行する。
以上説明した第2実施形態においても、上述した第1実施形態の効果と同様の効果を得ることができる。
【0052】
<第3実施形態>
次に、本発明を適用したレーザ処理済みコンクリート表面の第3実施形態について説明する。
第3実施形態においては、走査パターンを、パスP20が円弧状の旋回に応じて径が変化するらせん状に設定している。
図9は、第3実施形態におけるビームスポットの軌跡の一例を示す図である。
このような走査パターンは、例えば、複数のウェッジプリズムをビームが順次通過するよう構成し、各ウェッジプリズムを回転中心軸回りに相対回動させること等によって実現することができる。
【0053】
このようならせん状の走査パターンの場合、ラップ率の定義として第1実施形態のものを適用することは困難であるが、照射対象物の表面におけるビームスポットBSの平均移動速度をV(mm/sec)、ビームスポットBSの直径をd(mm)、任意に設定した所定の照射時間(例えば1秒間)tでの照射面積S(mm)(図9におけるハッチングの範囲)としたときに、ラップ率を(1-(S/(V×d×t)))×100(%)と定義することが可能である。
このような定義は、例えば走査パターンの形状に起因して第1実施形態に記載したラップ率の定義の適用が困難である場合に有用である。
これはビームスポットBSがラップすることのない理論的な最大照射面積V×dに対して、実際の照射面積Sの減少分をラップ率として考えるものである。
ただし、この場合には、何度も同一箇所を繰り返し照射しなおした場合には、ラップ率が他の定義に対して高くなるため、上述した単位時間が過度に長くならないよう設定するよう考慮すべきである。
以上説明した第3実施形態においても、上述した各実施形態の効果と同様の効果を得ることができる。
【0054】
(変形例)
本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)コンクリートの表面処理方法、レーザ処理済みコンクリート表面の構成は、上述した各実施形態に限定されず。適宜変更することができる。
例えば、レーザ照射装置を構成する各部材の形状、構造、材質、製法、配置、個数などは、適宜変更することができる。
また、レーザの種類においても、ファイバレーザ、YAGレーザなど適宜選択することができる。
(2)各実施形態では、一例として走査パターンを円形、直進往復、らせん状に設定しているが、走査パターンはこれに限らず適宜変更することができる。
また、走査パターンを形成する手法も、旋回ウェッジプリズムやガルバノスキャナに限定されない。
例えば、ポリゴンミラーを用いて、ビームスポットが一方向に繰り返し直進する構成としてもよい。
また、例えば2軸のガルバノスキャナを用いて、走査パターンを多角形状やその他の形状としてもよい。
また、走査パターンは内サイクロイド、外サイクロイド、内トロコイド、外トロコイド等の各種曲線であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 照射ヘッド 10 フォーカスレンズ
20 ウェッジプリズム 30 保護ガラス
40 回転筒 50 モータ
60 モータホルダ 61 パージガス流路
70 保護ガラスホルダ 80 ハウジング
90 ダクト 91 内筒
91a 小径部 91b テーパ部
92 外筒 92a 小径部
92b 端部 93 集塵装置接続筒
BS ビームスポット P ビームスポットのパス
A 空間部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9