(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】アルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/914 20170101AFI20240416BHJP
C01B 32/198 20170101ALI20240416BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20240416BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20240416BHJP
C22C 1/05 20230101ALI20240416BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240416BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240416BHJP
C22C 1/10 20230101ALI20240416BHJP
C22C 32/00 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
C01B32/914
C01B32/198
B22F3/14 D
B22F3/24 F
C22C1/05 C
B22F3/14 101B
B82Y30/00
B82Y40/00
C22C1/10 E
C22C1/10 K
C22C32/00 Q
(21)【出願番号】P 2020091141
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】川崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】野村 直之
(72)【発明者】
【氏名】周 偉偉
(72)【発明者】
【氏名】久保田 是史
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110408808(CN,A)
【文献】Zhou Weiwei、ほか5名,Interfacial reaction induced efficient load transfer in few-layer graphene reinforced Al matrix composites for high-performance conductor,Composites. Part B. Engineering,英国,2018年12月05日,Vol.167,Page.93-99
【文献】Jiang Yuanyuan,Reaction-free interface promoting strength-ductility balance in graphene nanosheet/Al composites,Carbon,英国,2019年11月05日,Vol.158,Page.449-455
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/914
C01B 32/198
B22F 3/14
B22F 3/24
C22C 1/05
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C22C 1/10
C22C 32/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体を製造する方法であって、
該製造方法は、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料とアルミニウム粒子とを600℃を超える温度で加圧する工程を含
み、
該アルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体は、ラマン分光測定によって得られるスペクトルチャートにおいて1250~1500cm
-1
の範囲内にDバンドのピークを示さず、1500~1650cm
-1
の範囲内にGバンドのピークを示さないことを特徴とするアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の製造方法。
【請求項2】
前記グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料は、酸化グラフェンであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム粒子は、アルミニウムの単体及び/又は合金から構成されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の製造方法。
【請求項4】
前記製造方法は、加圧工程で得られた成形体に圧力を加えて変形させる工程を更に含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の製造方法。
【請求項5】
グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料とアルミニウム粒子とを用いて得られるアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体であって、
該グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料
は、酸化グラフェンであり、その使用量が1質量%以下であ
り、
ラマン分光測定によって得られるスペクトルチャートにおいて1250~1500cm
-1
の範囲内にDバンドのピークを示さず、1500~1650cm
-1
の範囲内にGバンドのピークを示さないことを特徴とするアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体及びその製造方法に関する。より詳しくは、航空機や自動車の電子部品や電線等に好適に用いることができるアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な社会の実現のため、環境負荷の低減が求められている。そのような状況の中、軽金属材料が注目を集めており、例えば、導電材料としての軽金属材料の利用もその例外ではない。注目されている軽金属材料の1つとして、アルミニウムがある。しかしながら、純粋なアルミニウムの機械的信頼性は低く、改善が求められている。アルミニウムの強度向上の先行研究としては、合金化や強化材の添加が主な手法として行われてきた。
【0003】
ここで炭素材料は、軽量であるとともに強度、熱伝導性、電気伝導性等の優れた特性を有し、他の材料の強化材(複合材)として注目されている。なお、炭素材料としては、グラフェン骨格を有するものが、その特異な構造や物性のために数多くの研究がなされている。
【0004】
アルミニウムと炭素材料を複合化したものとしては、例えば、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料と金属粒子との炭素金属複合成形体であって、該成形体は、相対密度が90%以上であり、炭素を25体積%以下含有することを特徴とする炭素金属複合成形体が開示されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照。)。特許文献1の実施例では、アルミニウムと酸化グラフェンの複合成形体が開示されている。
【0005】
またアルミニウム母相と、アルミニウム母相の内部に分散する、ロッド状(棒状)または針状の炭化アルミニウムからなる分散体とを有するアルミニウム基複合材料が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。更に、アルミニウム母相と、アルミニウム母相の内部に分散し、かつ、一部又は全ての添加物がアルミニウム母相におけるアルミニウムと反応することにより形成された分散体とを有し、分散体の平均粒子径は20nm以下であり、分散体の含有量は、炭素量換算で0.25質量%以上0.72質量%以下であり、隣接する分散体の間隔は210nm以下であるアルミニウム基複合材料が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
上記の他、アルミニウムと酸化グラフェンの複合体が開示されている(例えば、特許文献4、非特許文献2参照。)。
【0007】
またアルミニウム粉末と、炭素パウダーを混合してAl4C3を合成し、熱処理を経て、アルミニウムマトリックスの補強に用いることが開示されている(例えば、非特許文献3参照。)。
【0008】
更に、数層のグラフェンで補強されたAlマトリックス複合体が開示されているが、323~573Kの温度範囲での繰返し熱荷重下での、当該複合体の膨張挙動のヒステリシスが報告されている(例えば、非特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2019-070186号公報
【文献】特開2015-227498号公報
【文献】特開2019-077901号公報
【文献】国際公開第2017/031403号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Weiwei Zhou et al., Composites Part A: Applied Science and Manufacturing, 112 (2018) 168-177
【文献】Yunya Zhang et al., Nano Lett, 2017, 17, 6907-6915
【文献】A. Santos-Beltran et al., Materials Characterization, 106 (2015) 368-374
【文献】Weiwei Zhou et al., Journal of Alloys and Compounds, 792 (2019) 988-993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、アルミニウムと炭素材料を複合化したものとして種々の報告があるが、このようにして得られた複合体には、電気伝導率を充分なものとしながら、機械的強度を非常に優れたものとするための工夫の余地があった。この理由としては、例えば、特許文献4、非特許文献2、4に記載の発明において、複合体中に酸化グラフェンやグラフェンが残存しているところ、酸化グラフェンやグラフェンとアルミニウムとの間の強い界面接着が達成されておらず、当該界面での負荷伝達が不充分であり、グラフェン固有の強度を充分に利用できていないためであると考えられる。
【0012】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、例えば航空機や自動車の電子部品や電線等として用いた場合に好適な、軽量でありながら、優れた電気伝導率と優れた機械的強度を両立する材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、航空機や自動車の電子部品や電線等として用いた場合に好適な、軽量でありながら、電気伝導率と機械的強度を両立する材料について種々検討し、軽量の炭素材料と軽金属であるアルミニウムの粒子とを600℃を超える温度で加圧すれば、当該材料を得ることができ、上記課題を見事に解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0014】
すなわち本発明は、アルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体を製造する方法であって、該製造方法は、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料とアルミニウム粒子とを600℃を超える温度で加圧する工程を含むことを特徴とするアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の製造方法である。
【0015】
なお、特許文献2、3は、実施例で成形時に600MPaの圧力を加え、圧粉体を調製しているが、その後の圧粉体の加熱時に加圧することについては何ら開示していない。また、特許文献4、非特許文献2は、50kNの荷重をかけた後に加熱したことが開示されており、やはり加圧状態で加熱することについて何ら開示していない。特許文献4、非特許文献2に記載の発明では、上述したように、複合体中に酸化グラフェンが残存している。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の製造方法は、軽量でありながら、優れた電気伝導率と優れた機械的強度を両立する成形体を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、原料酸化グラフェン(GO)のTEM画像を示す。
図1(b)は、原料GOのAFM分析結果を示す。
図1(c)は、シリカガラス上に置かれたGOのFESEM画像を示す。
図1(d)は、FESEM観測によるGOの横方向サイズ分布の統計的結果を示す。
【
図2】
図2(a)は、原料GO、GO/Al混合粉末、及び、913Kで焼結したPCPS複合体(焼結体又は成形体)のラマンスペクトルを示す。
図2(b)は、TGAにより測定した288Kから913KまでのGO粉末の重量損失を示す。
【
図3】
図3(a)及び
図3(b)は、それぞれ、0.2質量%GO/Al混合粉末を示すFESEM画像である。
図3(c)及び
図3(d)は、それぞれ、0.4質量%GO/Al混合粉末を示すFESEM画像である。
【
図4】
図4(a)~(d)は、PCPS処理した0.4質量%GO/Al複合体の横断面におけるTEM画像である。
【
図5】
図5(a)は、100枚のTEM画像から測定されたAl
4C
3ナノロッドの直径の統計的結果を示すグラフである。
図5(b)は、100枚のTEM画像から測定されたAl
4C
3ナノロッドの長さの統計的結果を示すグラフである。
【
図6】
図6(a)は、純粋なAlのEBSD-IPFマップである。
図6(b)は、0.32体積%Al
4C
3/Al複合体のEBSD-IPFマップである。
図6(c)は、0.64体積%Al
4C
3/Al複合体のEBSD-IPFマップである。
図6(d)は、純粋なAlの結晶粒度分布を示すグラフである。
図6(e)は、0.32体積%Al
4C
3/Al複合体の結晶粒度分布を示すグラフである。
図6(f)は、0.64体積%Al
4C
3/Al複合体の結晶粒度分布を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)~(c)は、熱間押出された0.64体積%Al
4C
3/Al複合体の縦断面のTEM画像である。
【
図8】
図8(a)は、純粋なAl、0.32体積%Al
4C
3/Al複合体、及び、0.64体積%Al
4C
3/Al複合体の公称引張応力-引張ひずみ曲線を示すグラフである。
図8(b)は、純粋なAl及びAl
4C
3/Al複合体の各強化メカニズムによる複合強度の理論計算結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、0.64体積%Al
4C
3/Al複合体の繰返し熱膨張挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0019】
<本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の製造方法>
本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の製造方法は、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料(以下、単に炭素材料とも言う。)とアルミニウム粒子とを600℃を超える温度で加圧する工程を含む。
これにより、原料のグラフェン骨格を有する薄片状炭素材料がアルミニウムカーバイドに変換され、成形体内においてアルミニウムカーバイドとアルミニウムマトリックスとの界面が非常に安定であるため、充分な電気伝導率を有しながら、機械的強度が非常に優れるアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体を得ることができる。
【0020】
上記加圧工程における圧力は、常圧(大気圧)を超える圧力であればよい。上記圧力は、好ましくは0.2MPa以上であり、より好ましくは0.5MPa以上であり、更に好ましくは1MPa以上であり、一層好ましくは5MPa以上であり、より一層好ましくは10MPa以上であり、更に一層好ましくは20MPa以上であり、特に好ましくは30MPa以上である。
上記圧力は、その上限値は特に限定されないが、好ましくは500MPa以下であり、より好ましくは300MPa以下であり、更に好ましくは200MPa以下であり、特に好ましくは100MPa以下である。
【0021】
上記加圧工程における温度は、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料とアルミニウム粒子との反応によるAl3C4の生成反応の観点から、610℃以上が好ましく、620℃以上がより好ましく、630℃以上が更に好ましく、640℃以上が特に好ましい。
上記温度は、その上限は特に限定されないが、670℃以下が好ましく、660℃以下がより好ましい。
すなわち、上記加圧工程における温度の特に好ましい範囲は、640~660℃である。
【0022】
また上記温度は、用いるアルミニウム粒子の融点(Tm)未満であることが好ましい。より好ましくは、用いるアルミニウム粒子の融点よりも10℃以上低い(〔Tm-10〕℃以下である)ことである。
【0023】
上記加圧工程は、パルス通電加圧焼結法(PCPS)で焼結する工程であることがより好ましい。
特にパルス通電加圧焼結により、材料全体に対して均一な焼結が可能となり、加圧工程が、炭素材料が移動しやすくなるような高温であっても、その凝集を充分に防止しつつ、より緻密な成形体を作製することができ、強度に優れる効果が顕著なものとなる。
【0024】
上記加圧工程をおこなう時間は、1分~1時間が好ましい。より好ましくは2分~30分であり、更に好ましくは3分~20分である。
上記加圧工程は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0025】
(グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料)
本発明の製造方法で用いる上記グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料は、sp2結合で結合した炭素(C)を有し、該炭素が薄片状に(平面的に)並んだものである層状構造を有する限り特に制限されない。具体的には、該炭素材料は、sp2結合で結合した炭素原子が平面的に並んだ層(単層)のみからなる構造を有するものであってもよく、該層が2層以上積層した構造を有するものであってもよい。該炭素材料は、例えば、1層のみからなる単層構造を有するか、又は、2~100層程度積層した構造を有するものが好ましい。
【0026】
上記炭素材料は、酸素(O)と結合した炭素を有するものであることが好ましい。例えば、上記炭素材料は、酸化黒鉛であることがより好ましい。更に好ましくは、グラフェンの炭素に酸素が結合した酸化グラフェン(本明細書中、GOともいう。)である。
すなわち、本発明の製造方法において、上記グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料は、酸化グラフェンであることが好ましい。
なお、一般的にグラフェンとは、sp2結合で結合した炭素原子が平面的に並んだ1層からなるシートをいい、グラフェンシートが多数積層されたものはグラファイトといわれるが、上記酸化グラフェンは、1層のみからなるシートのみではなく、2~100層程度積層した構造を有するものも含まれる。
【0027】
なお、上記炭素材料は、例えば、複合化の原料である酸化黒鉛が複合化の際に加熱等されて還元され、本発明の製造方法により得られるアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体中で還元型酸化黒鉛となっていることが好ましい。すなわち、本発明の製造方法により得られるアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体は、還元型酸化黒鉛を含むことが好ましい。より好ましくは、還元型酸化グラフェンを含むことである。
上記炭素材料は、更に、カルボキシル基、水酸基、硫黄含有基、脂環型エポキシ基等の官能基を有していてもよい。
【0028】
上記炭素材料は、中でも、2~50層程度積層した構造を有するものが好ましく、2~15層程度積層した構造を有するものがより好ましく、2~9層程度積層した構造を有するものが更に好ましい。2~9層程度積層した構造を有するものを、FLG(数層のグラフェン:a few layers of graphen)とも言う。なお、FLGは、数層のグラフェンであってもよく、数層の酸化グラフェンであってもよく、数層の還元型酸化グラフェンであってもよいが、数層の酸化グラフェン又は数層の還元型酸化グラフェンであることが好ましい。
なお、このようなsp2結合で結合した炭素原子が平面的に並んだシートの積層数は、TEM画像の断面図における、距離に対する強度のピーク数として表される。
【0029】
上記炭素材料は、比表面積が1m2/g以上であることが好ましく、10m2/g以上であることがより好ましい。このような比表面積の炭素材料は、アルミニウム粒子と複合化させた際に、より高い分散性を発揮することが可能となる。該比表面積は、その上限は特に限定されないが、例えば2000m2/g以下とすることができる。
上記比表面積は、窒素吸着BET法で比表面積測定装置により測定することができる。
【0030】
上記炭素材料は、平均粒子径が1000μm以下であるものが好ましい。また、該平均粒子径は、5nm以上であることが好ましい。
上記平均粒子径は、粒度分布測定装置により測定することができる。
なお、平均粒子径が上述のような範囲の粒子は、例えば、粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子を分散剤に分散させて所望の粒子径にした後に乾固する方法や、該粗粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法のほか、粒子を製造する段階で調製条件を最適化し、所望の粒子径の粒子を得る方法等により製造することが可能である。
【0031】
上記炭素材料は、薄片面(薄片主面)の平均径が0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることが更に好ましく、1.0μm以上であることが特に好ましい。
上記薄片面の平均径は、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、8μm以下であることが更に好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。
上記薄片面の平均径は、電解放出型走査電子顕微鏡(FESEM)の画像から算出できる。適当な倍率で20か所以上測定し、測定結果より求めた個数基準の平均値を採用することが好ましい。
【0032】
上記炭素材料は、グラファイトを公知の酸化剤で処理して得ることができ、例えば、改変されたハマーズ法(Modified Hummers Method)により過マンガン酸カリウムで処理し、必要に応じて溶媒中で超音波処理や、遠心分離処理等の固液分離処理を行うことで好適に得ることができる。
【0033】
本発明の製造方法において、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料の使用量(好ましくは、添加量)は、アルミニウム粒子100質量%に対して、10質量%以下であることが好ましい。当該炭素材料の使用量が10質量%を超えると、アルミニウムの結晶成長が抑制され、結晶粒界の影響で電気伝導性が非常に優れたものとならないおそれがある。また、本発明の製造方法で得られる成形体の機械的強度、伸び率も非常に優れたものとならないおそれがある。上記使用量は、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが一層好ましく、0.8質量%以下であることがより一層好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。これにより、本発明の製造方法で得られる成形体は、結晶粒界の影響が小さくなる点で、電気伝導性がより優れたものとなる。
上記使用量は、その下限は特に限定されないが、本発明の製造方法により得られた成形体において、炭素の存在、及び、その存在によりアルミニウムの結晶粒径を適度に小さくすることで機械的強度を発揮する観点や、成形時に還元された炭素材料により電気伝導性を優れたものとする点から、例えば、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることが更に好ましい。なお、炭素材料が有する潤滑性により成形体の摺動特性を優れたものとすることもできる。
【0034】
(アルミニウム粒子)
本発明の製造方法で用いるアルミニウム粒子は、アルミニウムの単体及び/又は合金を主成分(質量割合で最大の成分)とする粒子であればよい。
本発明の製造方法において、上記アルミニウム粒子は、アルミニウムの単体及び/又は合金から構成されるものであることが好ましい。
【0035】
上記アルミニウム粒子が合金である場合、アルミニウムとともに用いられる他の元素は特に限定されないが、例えば、マグネシウム、ケイ素、チタン、ニッケル、銅、鉄、ジルコニウム、銀、及び、スズからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、中でもマグネシウム、チタン、ニッケル、銅、鉄、銀、及び、スズからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましい。
なお、上記アルミニウム粒子は、添加剤としてケイ素やジルコニウムを更に含んでいても構わない。また、本発明に係る合金粒子を構成する他の元素は、結晶性であることが好ましい。
上記アルミニウム粒子は、より好ましくは、アルミニウムの単体から構成されるものである。
【0036】
上記アルミニウム粒子の融点は、不純物の種類や純度により異なるが、炭素材料との反応によるAl4C3の生成反応の観点から、630℃以上であることが好ましい。
上記アルミニウム粒子の融点は、より好ましくは640℃以上である。
上記アルミニウム粒子の融点は、その上限は特に限定されないが、通常は670℃以下である。
すなわち、上記アルミニウム粒子は、融点が640~670℃のアルミニウム粒子であることが特に好ましい。
【0037】
上記アルミニウム粒子は、平均粒子径が1.0μm以上であるものが好ましい。より好ましくは、3.0μm以上である。平均粒子径が1.0μm未満であると、比表面積が増加し、粒子表面のAl2O3量が増加し、本発明の効果を顕著なものとする観点からは望ましくない。
また、該平均粒子径は、その上限は特に限定されないが、通常は100μm以下であり、好ましくは20μm以下である。
本明細書中、アルミニウム粒子の平均粒子径は、体積基準の平均粒子径であり、レーザー回折散乱法にて測定されるものである。
【0038】
上記アルミニウム粒子は、上述したように、アルミニウム単体及び/またはアルミニウム合金以外の不純物を含んでいてもかまわない。
不純物としては、市販品のアルミニウム粒子に含まれる一般的なものが挙げられる。
不純物の含有割合は、粒子100質量%中、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0.3質量%以下であることが特に好ましい。
【0039】
本発明の製造方法は、炭素材料、アルミニウム粒子をそれぞれ1種ずつ用いて複合化されたものであってもよく、2種以上用いて複合化されたものであってもよい。また、炭素材料、アルミニウム粒子以外のその他の成分を含んでいてもよいが、その他の成分の含有量は、成形体の原料100質量%中、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましい。中でも、本発明の炭素金属複合成形体の原料がその他の成分を実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0040】
本発明の炭素金属複合成形体は、種々の用途への適用可能性があるが、材料の軽量化も達成できる観点からは、例えば航空機や自動車の電子部品や電線等として用いられることが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法は、加圧工程前に、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料とアルミニウム粒子とを混合する工程を更に含むことが好ましい。また、該混合工程により、該炭素材料とアルミニウム粒子との複合粉末を得ることがより好ましい。
上記混合工程は、例えば、アルミニウム粒子が分散した水中に、上記炭素材料の水分散体を滴下し、得られた該炭素材料とアルミニウム粒子との複合粉末をろ過し、乾燥することによって行うことができる。なお、アルミニウム粒子が分散した水は、アルミニウム粒子と水とを撹拌し、超音波処理を行うこと等によってより均一に混合して調製することが好ましい。
【0042】
上記混合工程によりアルミニウム粒子と上記炭素材料との複合粉末を調製する過程において、アルミニウム粒子と該炭素材料とを結合させる手法としては、ボールミル混合、表面修飾剤の使用、静電的相互作用の利用等が挙げられる。中でも、上記炭素材料へ与えるダメージ等を避けて電気伝導性をより優れたものとする観点からは、ボールミル混合以外の方法、例えば、静電的相互作用を利用する手法が特に好ましい。エーテル基やカルボニル基を有するために水中で負に帯電する炭素材料と静電的相互作用をする点から、例えば、水中で正に帯電する(25℃水溶液でのゼータ電位が0となる点(等電点)がpH>7)酸化物被膜を有するアルミニウム粒子を使用してもかまわない。
【0043】
本発明の製造方法は、加圧工程で得られた成形体に圧力を加えて変形させる工程を更に含むことが好ましい。本発明の製造方法により、成形体中のアルミニウム粒子が高アスペクト比となり、特定の方向の強度に非常に優れる成形体とすることができる。
本明細書中、圧力を加えて変形させる工程は、特に限定されないが、材料を加圧したうえで少なくとも一方向に伸ばす工程であることが好ましく、例えば、ローラーを用いて材料を膜状に伸ばす圧延工程、型枠等を用いる押出工程や、平板プレス等で膜状に成形する工程、射出成形工程、キャスト工程等が挙げられる。
【0044】
上記圧力を加えて変形させる工程における圧力は、特に限定されないが、0.1kN/mm2以上であることが好ましく、0.5kN/mm2以上であることがより好ましく、1kN/mm2以上であることが更に好ましい。
また上記圧力は、50kN/mm2以下であることが好ましく、10kN/mm2以下であることがより好ましい。
【0045】
上記圧力を加えて変形させる工程における温度は、200℃以上が好ましい。より好ましくは300℃以上であり、更に好ましくは400℃以上である。また、該温度は、2000℃以下であることが好ましく、1000℃以下であることがより好ましく、700℃以下であることが更に好ましい。
上記圧力を加えて変形させる工程は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0046】
上記圧力を加えて変形させる工程としては、上述した中でも、押出工程、圧延工程が好ましい。特に圧延工程が生産性に優れる点で好ましい。
【0047】
以下では、一例として、押出工程について詳しく説明する。
上記押出工程における押出荷重は、100kN以上であることが好ましく、200kN以上であることがより好ましく、300kN以上であることが更に好ましい。
また上記押出荷重は、1000kN以下であることが好ましく、800kN以下であることがより好ましい。
【0048】
上記押出工程における押出速度は、0.01m/h以上であることが好ましく、0.02m/h以上であることがより好ましく、0.04m/h以上であることが更に好ましい。
また上記押出速度は、1m/h以下であることが好ましく、0.5m/h以下であることがより好ましく、0.2m/h以下であることが更に好ましい。
【0049】
上記押出工程における押出比率は、1以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましい。
また上記押出比率は、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、40以下であることが更に好ましい。
なお、押出比率は、材料の押出方向と垂直な断面において、材料を押し付ける側の金型の断面積を材料が出てくる側の金型の断面積で割った値である。
【0050】
上記押出工程は、例えば、熱間押出する工程であることが好ましい。熱間押出する工程における好ましい温度範囲は、上記変形工程における好ましい温度範囲と同様である。
【0051】
本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の製造方法で得られるアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の好ましい形態は、後述する本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の好ましい形態と同様である。
【0052】
(本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体)
本発明は、本発明の製造方法を用いて得られることを特徴とするアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体でもある。
本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体は、成形体100質量%中、アルミニウムカーバイドを0.01体積%以上、5.0体積%以下含むことが好ましい。
アルミニウムカーバイドの含有量は、本発明の成形体の炭素・硫黄分析やCHN(Elemental analysis(Carbon,Hydrogen,Nitrogen))分析からC含有量を測定するとともに、後述するように、ラマン分光測定によって得られるスペクトルチャートにおいてDバンドのピークとGバンドのピークが示されないことを確認することで、原料の炭素材料が実質的に全てAl4C3に変化していることを確認したうえで、当該C含有量からAl4C3含有量を算出することができる。
本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体は、アルミニウムカーバイドを含むことで、電気伝導性が充分なものであると共に、機械的強度に非常に優れる。
更に、本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体におけるアルミニウムカーバイドの含有量は、0.1体積%以上であることがより好ましく、0.2体積%以上であることが更に好ましい。また、当該アルミニウムカーバイドの含有量は、2.0体積%以下であることがより好ましく、1.0体積%以下であることが更に好ましい。
【0053】
本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体は、成形体100質量%中、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料の含有量が0.1質量%以下であることが好ましい。当該炭素材料の含有量が0.1質量%を超えると、結晶粒界の影響で電気伝導性が非常に優れたものとならないおそれがある。また、本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の機械的強度、伸び率も非常に優れたものとならないおそれがある。
本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体は、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料を含まないことがより好ましい。
グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料を含まないことは、後述するように、ラマン分光測定によって得られるスペクトルチャートにおいてDバンドのピークとGバンドのピークが示されないことを確認することで確認できる。
【0054】
本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体は、ラマン分光測定によって得られるスペクトルチャートにおいて1250~1500cm-1の範囲内にDバンドのピークを示さず、1500~1650cm-1の範囲内にGバンドのピークを示さないことが好ましい。
「1250~1500cm-1の範囲内にDバンドのピークを示さず」とは、1250~1500cm-1の範囲内にピークトップがあるDバンドに帰するピークが、存在しないか、スペクトルチャートのノイズ高さの平均変動幅の3倍以上の高さを示していないことを言う。
「1500~1650cm-1の範囲内にGバンドのピークを示さない」についても同様である。
ラマン分光測定は、実施例に記載の条件で行うものである。
【0055】
本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体は、上記アルミニウム粒子の含有量が95~99.99体積%であることが好ましい。上記金属粒子の含有量は、より好ましくは、97~99.9体積%であり、更に好ましくは、98~99.8体積%であり、一層好ましくは、99~99.7体積%である。特に好ましくは、99.2体積%以上である。
【0056】
本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体中の上記アルミニウム粒子由来の金属の短軸径の平均グレインサイズ(例えば、加圧工程で得られた成形体に圧力を加えて変形させる工程を経て得られた成形体において、変形工程における加圧方向と垂直な面を観察した際のグレインサイズ)は、1.0μm以上、5.0μm以下が好ましく、1.5μm以上、4.0μm以下がより好ましい。
上記平均グレインサイズが1.0μm以上であることにより、強度に優れる効果をより顕著なものとすることができる。
上記平均グレインサイズは、実施例で後述するようにEBSDで測定することができる。
【0057】
本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体は、炭素材料がアルミニウム粒子に複合化したものであり、例えば炭素材料とアルミニウム粒子とを600℃を超える温度で加圧することにより得られるペレット状等の成形体や、これに圧力を加えて変形させたもの等が挙げられる。加圧により得られるペレット状等の成形体は、電気伝導率と機械的強度に優れるとともに、これに圧力を加えて変形させることができる。
本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体としては、形状や大きさは特に限定されず、たとえば、ペレット状の他、フィルム状、シート状、繊維状、柱状、立方体状、球状等が挙げられる。
【0058】
上述した本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の製造方法の好適な態様で得られるアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体もまた、本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体の好ましい形態である。例えば、本発明は、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料とアルミニウム粒子とを用いて得られるアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体であって、該グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料の使用量が1質量%以下であることを特徴とするアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体でもある。
【0059】
本発明のアルミニウム-炭化アルミニウム複合成形体は、軽量でありながら、優れた電気伝導率と優れた機械的強度を両立でき、例えば航空機や自動車の電子部品や電線等として用いた場合に好適である。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0061】
各種特性値は、以下の方法により測定した。
(TEM観察)
各実施例における成形体(PCPS焼結体)等のTEM観察は、電界放出型透過電子顕微鏡(HF-2000EDX、株式会社日立製作所製)を用いて測定した。
(電気伝導率測定)
熱電特性評価装置(ZEM-3、株式会社アルバック社製)を用いて測定した。
(成形体の最大引張強度〔UTS〕、引張伸び)
(株)島津製作所製の精密万能試験機(AUTOGRAPH AG-I 50KN)を用いて測定した。
【0062】
<実施例>
<酸化グラフェン(GO)コロイド溶液の調製例>
耐食性反応器に濃硫酸(試薬特級、和光純薬工業社製)28.75部と天然黒鉛(Z-5F、鱗片状黒鉛、伊藤黒鉛工業社製)1.00部を加えて混合液とした。混合液を撹拌しながら過マンガン酸カリウム(試薬特級、和光純薬工業社製)を15分間隔で混合液中へ20回投入した。過マンガン酸カリウムの一回の投入量は0.15部であり、投入量の合計は3.00部であった。過マンガン酸カリウムの投入終了後、混合液を35℃まで昇温し液温を維持したまま2時間熟成を行って反応スラリー(酸化黒鉛含有スラリー)を得た。続いて、75.58部のイオン交換水が入った別の容器に前記の反応スラリー20.00部を撹拌下に投入し、更に30%過酸化水素水(試薬特級、和光純薬工業社製)1.08部を投入した後、30分間撹拌を継続してから撹拌を停止した。撹拌停止後、1晩静置して沈殿層と上澄み層に分離してから、上澄みを抜出した。その後、沈殿を洗浄するために抜き出した上澄みと同容量のイオン交換水を容器に加え、30分間撹拌してから、撹拌を止めて5時間以上静置してから再度上澄みを抜き出した。前記のイオン交換水を加えての洗浄と上澄みの抜出しを、上澄みのpHが2以上になるまで繰り返した。得られた沈殿層にイオン交換水を適量加えた後、ホモジナイザー処理により酸化黒鉛を分散してGOコロイド溶液(酸化グラフェンコロイド溶液)を得た。得られたGOコロイド溶液中のGO濃度は1.0%であった。
【0063】
(1)原料及びGO/Al混合粉末の調製
1.0質量%濃度の原料GO水性コロイドは、上記方法で合成したものを用いた。ガスアトマイズ法で製造された平均粒径5.5μmの純度約99.85%のAl粉末(本明細書中、GO等の充填材と複合化されていないという意味で純粋なAl〔pure Al〕粉末ともいう。)は、Ecka Granules Japan社から提供された。
12gのAl粉末を200mLの脱イオン水を入れたビーカーに投入した。氷水浴中で2時間、攪拌しながら超音波処理を行いAlコロイドを得た。同時に、2.4gまたは4.8gのGOコロイドを希釈し、それぞれ100mlまたは200mlの脱イオン水中に超音波処理下で分散させGO懸濁液を得た。続いて、GO懸濁液をAlコロイド中に滴下して0.5時間撹拌した。ろ過後、真空下、343Kで乾燥させ、0.2質量%、0.4質量%のGO/Al混合粉末を得た。
【0064】
(2)Al4C3/Alマトリックス複合体の製造
GO/Al混合粉末をパルス通電加圧焼結(PCPS;Dr.Sinter S511、住友金属鉱山(株)製)により913Kの高温、印加圧力50MPaで、0.33時間焼結し、Al4C3/Al複合体を合成した。PCPSの加熱速度は1200K/hとした。その後、PCPS焼結複合体を、0.06m/hの押出速度と約20の押出比で、773Kでの熱間押出機(UH-500kN1、島津製作所(株)製)により処理した。円筒押出されたバーの平均直径は約3.4mmであった。比較のために、同じ粉末混合と焼結プロセスを用いて純粋なAl試験片も調製した。
【0065】
(3)特性
原料GOの層厚を原子間力顕微鏡(原子間力顕微鏡;日立製作所SIIナノキュート)で測定した。GOの結晶性無秩序をRaman分光装置(SOLAR TIIナノバインダー、(株)トーキョーインスツルメンツ製)により評価した。GOの熱安定性を、PCPSの同じ条件(例えば、加熱速度1200Kh-1、最高温度913K)を用いてAr雰囲気中で熱重量分析(TGA、SDT Q600、(株)日立製作所製)により確認した。バルク試料の見掛け密度はアルキメデスの原理を用いて決定した。粉末またはバルクの形態を電界放出形走査電子顕微鏡(FESEM;JSM-6500F、日本電子(株)製)、電子後方散乱回折(EBSD;OIM ver.6、(株)TSLソリューションズ製)及び電界放出型透過電子顕微鏡(TEM;HF-2000EDX、(株)日立製作所製)により調べた。周期的な熱膨張挙動を、アルゴンガス流下、240Kh-1の加熱速度で、318K-573Kの温度範囲、10回の熱サイクルで、熱機械分析(TMA;Q400、TAインスツルメント社製)により試験した。直径約3mm、長さ約10mmの円筒形試料を、押出されたバーから作製した。ビッカース硬度試験をマイクロ硬さ試験機(HM-200、(株)ミツトヨ製)で行った。複合体の引張性能を、ひずみ速度1.67×10-3s-1の一軸引張試験により、精密万能試験機(AUTOGRAPH AG-I 50KN)を用いて評価した。直径約2.5mm、ゲージ長約10mmのドッグボーン形状の引張試験片を、押出されたバーから機械加工した。押出方向に沿った熱間押出されたバーの電気伝導率を、室温で熱電特性評価装置(ZEM-3、株式会社アルバック社製)を用いて測定した。
【0066】
<結果と考察>
(1)GOとGO/Al混合粉末の特徴
図1(a)は、原料GOのTEM画像を示す。
図1(b)は、原料GOのAFM分析結果を示す。
図1(c)は、シリカガラス上に置かれたGOのFESEM画像を示す。
図1(d)は、FESEM観測によるGOの横方向サイズ分布の統計的結果を示す。
図1(b)の挿入図は、
図1(b)に示した白線に沿ったGOの高さプロファイルを示す。
【0067】
原料GOの形態的特徴を
図1に示す。GOプレートレット(薄片状GO)は透明であり、TEMで縁やしわの部分と区別することができる(
図1(a))。製造プロセスから生じた少量の炭素質ナノ粒子(
図1(a)の白い矢印を参照)が、フレキシブルなGOシート上に位置していた。AFM分析は数層(すなわち、<10層)のGOの特徴を示した。例えば、
図1(b)のGOは、0.7nmのGO層間距離を考慮すれば、4層のグラフェン層からなる約2.8nmの厚さを有した。FESEM観察より、GOプレートレットが不規則な形状(
図1(c))であることが分かった。GOの横方向サイズは0.5μmから2.8μmの範囲であり、その平均値は20のFESEM画像(
図1(d))から算出して約1.51μmである。
【0068】
図2(a)は、原料GO、GO/Al混合粉末、及び、PCPS複合体のラマンスペクトルを示す。ラマンスペクトルの測定条件は次の通りである。励起波長:532nm、対物レンズ:20倍、CCD取り込み時間:10s、積算回数:5回。
図2(b)は、TGAにより測定した288Kから913KまでのGO粉末の重量損失を示す。
図2(b)の挿入図は、熱還元前後のGOの概略図を示す。
【0069】
GOの構造上の乱れをラマン分光法で明らかにした。この乱れは、一般に、sp2ベースの炭素質材料についての二つの特徴的なピーク、例えば、約1350cm
-1での欠陥(D)バンド及び約1580cm
-1でのグラファイト(G)バンドに関与する。
図2(a)に示されるように、GOのI
D/I
G比値は約0.95と測定され、これは、六方晶C=Cネットワークにおけるエッジ、空位、ダングリングボンド、及び、原子欠陥等の豊富な固有の欠陥の存在に起因する。これらの乱れは、焼結(複合化)中においてAl
4C
3形成のためにAlマトリックスと優先的に反応することが期待される。913Kで作製したPCPS焼結体からは欠陥(D)バンドのピーク及びグラファイト(G)バンドのピークは確認されなかった。これは、複合体中のGOがAlと反応してAl
4C
3が形成され、GOが消失したためと推測される。GOの熱安定性はまた、
図2(b)のTGA分析によっても示された。GOが不安定であったことが注目される;表面基の熱分解は低温(約450K)で始まり、ガス状のH
2O、CO、又は、CO
2が放出され、還元型GO(
図2(b)の挿入図)に対応する残渣は913Kの焼結温度で約43.8%残った。
【0070】
図3(a)及び
図3(b)は、それぞれ、0.2質量%GO/Al混合粉末を示すFESEM画像である。
図3(c)及び
図3(d)は、それぞれ、0.4質量%GO/Al混合粉末を示すFESEM画像である。
図3(b)及び
図3(d)は、それぞれ、
図3(a)及び
図3(c)の白色・破線の長方形の拡大部分を示す。
【0071】
図3にGO/Al混合粉末の形態を示す。水溶液中の反対の表面電荷のために、GOシートは静電的自己集合によりAl粉末の表面に吸着し、均一分散(
図3(a))を実現した。GOで包まれた構造は、強いファンデルワールス力の結果として粉末乾燥後も保持されたことは注目に値する。薄く、柔軟で、高アスペクト比のGOは、もとの特性(例えば、粒子サイズまたは形状)(
図3(b))が変化することなく、容易に球状Al粉末にフィットする。GO含有量が0.4質量%まで増加した時、各Al粒子はGOでほとんど覆われていた(
図3(c))。時折、GOシートが二つの隣接するAl粉末を架橋した(
図3(d))。
【0072】
(2)焼結中のAl
4C
3界面の形成
図4(a)~(d)は、PCPS処理した0.4質量%GO/Al複合体の横断面におけるTEM画像である。
図4(b)の挿入図は、架橋したAl
4C
3の形成を示す模式図である。
図4(c)の挿入図は、
図4(c)の丸いスポット部から測定されたAl
4C
3の回折を示す。
図4(d)は、
図4(c)の破線の正方形から取得されている。
図4は、PCPS処理された0.4質量%のGO/Al複合体の微細構造を示す。複合体には多くのロッド状相(
図4(a)の黒矢印で指し示している。)が観察された。対応する制限視野電子回折(SAED)パターン(
図4(c)の挿入図)によって同定されるように、ナノロッドは、菱面体構造を有する単結晶Al
4C
3であった。原料GOがAl粉末の表面を取り囲んだので(
図3)、形成されたAl
4C
3ナノロッドは、固体状態PCPSの間、Al結晶粒(グレイン)の内部ではなく、結晶粒界(G.B.)に介在していた(
図4(a))。
図4(d)のHRTEM画像は、Al
4C
3の(003)原子面が連続的で、非常にまっすぐで互いに平行であり、約0.84nmの一定の面間間隔を有していて、高い結晶性が示唆されることを明らかにした。グラファイトプリズム面における表面自由エネルギーが基底面よりも高いため、(003)面に沿ったAl
4C
3の縦方向形成は横方向成長よりも速い。これに対応して、Al
4C
3は、<110>方向に沿ってロッド状に成長した(
図4(c))。更に、Al
4C
3結晶は、<110>方向にほぼ整列したいくつかの転位線(
図4(d)の矢印で指し示している。)を含む。これは、欠陥のあるGOとAl原子との間の急速な界面反応速度とAl
4C
3成長中の内部応力の不充分な解放に起因する。
カーボンナノチューブ(CNT)/Al複合体で十分に実証されているように、Al原子は、高温焼結またはアニーリング中にCNTのもとの形状に実質的な変化なしに、Al
4C
3を形成するためにCNT中に優先的に拡散する。対照的に、Al
4C
3はGO/Al複合体における原料GOとして明らかに異なる形状を有する。GOはオープンエッジ又は基底面に多くの炭素ダングリングボンドを含むので、C原子は容易にC=C共有結合の制限を破ることができる。したがって、Al
4C
3の核形成と成長は、C原子とAl原子の相互拡散に関係しているはずである。
【0073】
図5(a)は、100枚のTEM画像から測定されたAl
4C
3ナノロッドの直径の統計的結果を示すグラフである。
図5(b)は、100枚のTEM画像から測定されたAl
4C
3ナノロッドの長さの統計的結果を示すグラフである。
100枚のTEM画像の統計結果によると、Al
4C
3ナノロッドの平均直径と長さはそれぞれ約74.6nm(
図5(a))と約301.4nm(
図5(b))であり、アスペクト比は約4.0である。GOに4層のグラフェンが含まれると仮定すると(
図1)、1枚のGOシートは約5.4本のAl
4C
3ロッドを合成するのに充分な炭素源を提供できると計算される。
【0074】
図4(c)は、Al
4C
3がAlマトリックスに良好に結合し、明確な境界を示していることを示している。5つの小さなファセット面がAl
4C
3/Al界面で明瞭に検出された(
図4(d))。対応するSAEDパターン(
図4(c)の挿入図)は、ファセットAl
4C
3面が低い指数を持ち、従ってマトリックスとの比較的安定な界面を保持することを明らかにした。内部圧縮応力は、Al
4C
3(3.6×10
-6K
-1個)とAl(2.5×10
-5K
-1個)の間の熱膨張係数のミスマッチによって生じる残留応力であると推定され、クリーンで閉じたAl
4C
3/Al界面に寄与する。
【0075】
注意深いTEM観察により、著しい現象を見出した;Al
4C
3ナノロッド(
図4(b)の太い右向き矢印で指し示している。)が2つのAl粒子に垂直に埋め込まれ、架橋構造を形成している。これは、
図4(b)の挿入図によって概略的に理解することができる。PCPSの表面クリーニング効果のために、Al粉末の表面上の厚さ約5nmの非晶質Al
2O
3層が部分的に破壊された(
図4(c))。その結果、GOシートの特定部分をAl
4C
3結晶の核形成のためにフレッシュなAl表面と直接接触させた。その後、Al
4C
3は境界に沿って2つの反対方向から成長し、2つの隣接したAl結晶粒を横切るAl
4C
3架橋となった。高エネルギーPCPS緻密化による境界近くのAl原子の拡散の増加に加えて、このようなAl
4C
3架橋は機械的性質を強化したAl結晶粒間の結合条件をさらに改善することが期待される。
【0076】
複合体中の残留GOシートはHRTEMにより測定されなかった(
図4)。この結果は、
図2(a)のマイクロラマン分析によって支持される;2つの特徴的なGOピークは、PCPS後に完全に消失した。作製した複合体はAl
4C
3/Al複合体であると結論した。GOがAl
4C
3に完全に反応したと考えることにより、複合体中のAl
4C
3含有量は、それぞれ、原料の0.2質量%GO/Al及び0.4質量%GO/Alに対応して、約0.32体積%および約0.64体積%と計算される(表1参照)。
【0077】
表1は、PCPSおよび熱間押出によって製造した純粋なAlおよびAl4C3/Al複合体の相対密度、引張特性、ビッカース硬度、電気伝導率を示す。純粋なAl、還元GO、及び、Al4C3の見掛け密度をそれぞれ2.7g・cm-3、2.28g・cm-3、及び、2.93g・cm-3とした。ビッカース硬度値は、試験片の横断面で測定した。
【0078】
【0079】
図6(a)は、純粋なAlのEBSD-IPFマップである。
図6(b)は、0.32体積%Al
4C
3/Al複合体のEBSD-IPFマップである。
図6(c)は、0.64体積%Al
4C
3/Al複合体のEBSD-IPFマップである。
図6(d)は、純粋なAlの結晶粒度分布を示すグラフである。
図6(e)は、0.32体積%Al
4C
3/Al複合体の結晶粒度分布を示すグラフである。
図6(f)は、0.64体積%Al
4C
3/Al複合体の結晶粒度分布を示すグラフである。
図7(a)~(c)は、熱間押出された0.64体積%Al
4C
3/Al複合体の縦断面のTEM画像である。
図7(c)は、
図7(b)の正方形部分の拡大図である。
【0080】
PCPSと熱間押出の組合せによって、すべての純粋なAlとAl
4C
3/Al複合体は99.7%以上の高密度を示した(表1)。詳細な結晶学的情報は
図6(a)~(c)のEBSD逆極点図(IPF)マップによって収集した。熱間押出中のAlの塑性流動のために、マトリックスは押出方向に沿って<111>配向結晶粒を有する組織を形成するように回転した。また、熱間押出し方向と垂直な断面から測定した0.32体積%Al
4C
3/Al複合体及び0.64体積%Al
4C
3/Al複合体の平均結晶粒度(平均グレインサイズ)値はそれぞれ2.48μm(
図6(e))及び2.02μm(
図6(f))であり、純粋なAlの平均結晶粒度値(2.90μm;
図6(d))より小さかった。
【0081】
TEM観察にて熱間押出Al結晶粒の配列をさらに確認した(
図7(a))。個々のAl
4C
3ナノロッド(
図7(b)の矢印で指し示している。)は、ほとんど単一方向に整列していた。隣接するAl
4C
3間の平均距離は、およそ数百ナノメートルである。さらに、Al
4C
3はマトリックスとの密接でファセット化した界面を維持し、AMCに対する有効な補強剤として作用できるものである(
図7(c))。
【0082】
(3)Al
4C
3/Al複合体の機械的及び電気的性能
図8(a)は、純粋なAl、0.32体積%Al
4C
3/Al複合体、及び、0.64体積%Al
4C
3/Al複合体の公称引張応力-引張ひずみ曲線を示すグラフである。
図8(b)は、純粋なAl及びAl
4C
3/Al複合体の各強化メカニズムによる複合強度の理論計算結果を示すグラフである。
図8(a)は、Al
4C
3/Al複合体の公称引張応力-歪曲線を示し、同じ焼結条件で処理した純粋なAlと比較している。Alの引張強度はAl
4C
3形成の増加と共に徐々に増加し、破壊伸びは>16%の高レベルのままであった。0.32体積%Al
4C
3/Al複合体と0.64体積%Al
4C
3/Al複合体の最大引張強度(UTS)値はそれぞれ166.2MPaと183.1MPaであり、純粋なAlのそれ(133.8MPa)と比較して約24.2%と約36.8%の改善を示した。同様に、Alのビッカース硬度はAl
4C
3の導入により有意に改善された(表1)。その結果、合成したAl
4C
3ナノロッドはAMCにおいて際立って優れた強化効果を示した。
【0083】
Al4C3/Al複合体の強度改善を理解するために、主に(i)結晶粒微細化、(ii)Al4C3のOrowanループ強化、及び、(iii)マトリックスからAl4C3への荷重伝達を含む強化メカニズムの定量的解析を行った。結晶粒微細化からの強化効果はHall‐Petchの下記式(1)によって次のように予測される。
ΔσGR=k(dc
-0.5-dm
-0.5) (1)
ここで、kは、Alの定数0.07MPa・m0.5であり、dc及びdmは、それぞれ、複合体及び純粋なAlの平均グレインサイズである。
【0084】
Orowanループ強化による強度改善Δσ
ORは、下記式(2)で計算される。
【数1】
ここで、Mは、テイラー因子(面心立方金属についてはM=3.06)であり、Gは、マトリックスのせん断弾性率(G=25.4GPa)であり、bは、Alのバーガース・ベクトル(b=0.286nm)であり、Dは、Al
4C
3の直径(D=74.6nm)であり、SはAl
4C
3のアスペクト比(S=約4.0)であり、VはAl
4C
3の体積率である。
【0085】
一軸配向短繊維強化AMCにおいて、荷重伝達メカニズムにより引き起こされる強度の増加(Δσ
LT)は、下記式(3)に示したせん断遅れ理論から推定できる。
Δσ
LT=0.5VSσ
m (3)
ここでσ
mは、純粋なAlのUTSであり、133.8MPaである。式(1)~(3)によると、V=0.32体積%で、Δσ
GR=3.3MPa、Δσ
OR=27.1MPa、Δσ
LT=0.9MPa;V=0.64体積%で、Δσ
GR=8.2MPa、Δσ
OR=36.3MPa、Δσ
LT=1.7MPaである。Orowanループが本実施例で合成したAl
4C
3/Al複合体における支配的強化メカニズムであると結論した。
図8(b)は、Al
4C
3/Al複合材料の各強化メカニズムの寄与をまとめたものである。Al
4C
3の予測強化効果は実験値と良く一致した。
【0086】
電気的用途を考慮して、表1に示すように、純粋なAl及びAl
4C
3/Al複合体の電気伝導率を室温で評価した。クリーンなAl
4C
3-Al界面(
図7(c))の存在により、Alの電気伝導率は、それぞれ、0.32体積%又は0.64体積%Al
4C
3の導入により、約2.3%または約7.6%にわずかに減少した。一般に、AMCの引張強度と電気伝導率はトレードオフの傾向を示し、すなわち、強度の増加は電気伝導率を犠牲にし、逆も同様である。広く使用されている充填材(例えば、CNT、セラミック、GPL〔板状グラフェン:Graphene platelet〕、又は、耐熱性ナノ粒子)と比較して、Al
4C
3は優れた電気伝導度-強度の組合せを有する高性能AMCを製造するためにより効果的であることが証明された。例えば、0.64体積%Al
4C
3/Al複合体は、183.1MPaの高いUTSと57.4%IACS(表1)の電気伝導率を有した。
【0087】
図9は、0.64体積%Al
4C
3/Al複合体の繰返し熱膨張挙動を示すグラフである。
Zhouらは最近、Hummer法と粉末冶金技術を組み合わせて、UTSが約173MPaで電気伝導率が約59.1%IACSの0.4体積%少数層グラフェンGPL/Al複合体を作製した(非特許文献4参照。)。しかし、非特許文献4ではGPLが残存しているところ、GPLとAlマトリックス間の界面結合は機械的に結合しており、電線に適用した場合は高温での機械的性質の不安定性をもたらす可能性がある。本実施例のAl
4C
3/Al複合体の有効性をさらに確認するために、
図9に示すような繰返し熱荷重下での熱膨張挙動を評価したところ、GPL/Al複合体では熱膨張のヒステリシス現象が加熱と冷却の間で明確に観察され、界面が不安定であることがわかった。しかし、Al
4C
3/Al複合体の繰返し熱膨張挙動は318K~573Kの温度範囲で線形で可逆的であった(
図9)。この結果は、Al
4C
3-Al界面では界面滑りが実際には起こらないことを示唆している。従って、本実施例のAl
4C
3/Al複合体は非特許文献4に記載のGPL/Al複合体より優れた高温での機械的性能を示すと考えられる。
【0088】
高エネルギー焼結によるAl4C3/Al複合体を合成するために、少数層のGOを利用する戦略を提案した。GOシートはヘテロ凝集プロセスにより静電引力下でAl粉末の表面に均一に被覆した。高温PCPS中、GOはAl原子と反応し、約74.6nmの平均直径と約301.4nmの長さの単結晶Al4C3ナノロッドに完全に変化した。その後の熱間押出は、Al4C3ナノロッドを個別に一軸方向に再配列し、マトリックスとの密接でファセット化した界面を示した。
Alマトリックスの引張強度は、主にAl4C3のOrowanループ強化に起因して、Al4C3導入により顕著に強化された。さらに、Al4C3/Al複合体は、>57.4%IACS(純粋なAlの約92.4%)の高い電気伝導率を保持し、高温で安定な界面結合を示した。その結果、Al4C3/Al複合体は、例えば導電体等への応用において、大きな応用の展望を有している。