(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】炭素繊維集合体
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20240416BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20240416BHJP
D06M 11/77 20060101ALI20240416BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CFC
D06M15/55
D06M11/77
D06M101:40
(21)【出願番号】P 2020094005
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2019103037
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511211036
【氏名又は名称】カーボンファイバーリサイクル工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519154508
【氏名又は名称】エコノロジーブレイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100190621
【氏名又は名称】崎間 伸洋
(72)【発明者】
【氏名】小林 久晃
(72)【発明者】
【氏名】古匠 保雄
(72)【発明者】
【氏名】越智 正宣
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-081146(JP,A)
【文献】特開2011-106665(JP,A)
【文献】特開2004-263359(JP,A)
【文献】特開2001-214334(JP,A)
【文献】国際公開第2013/054914(WO,A1)
【文献】特許第3452363(JP,B2)
【文献】特開2020-180421(JP,A)
【文献】特開2020-196882(JP,A)
【文献】特開平07-118979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28、99/00
C08J 5/04- 5/10、 5/24
B29B 11/16、15/08-15/14
D06M 10/00-16/00、19/00-23/18
D04H 1/00-18/04
D06M 101/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭素繊維及びエポキシ樹脂系サイジング剤0.1~5重量%からなり、
外径が0.1~10mm、母線の長さが平均1~20mm、嵩密度が0.04~0.30g/cm
3の円柱形状を有し、
前記炭素繊維の全長は、前記母線の長さよりも短い
ことを特徴とする炭素繊維集合体。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂系サイジング剤は、側鎖にグリシジル基を有するポリオレフィン系樹脂又はポリ(メタ)アクリレート系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維集合体。
【請求項3】
更に、ベントナイト、リグニンスルホン酸塩、糖蜜、カルボキシメチルセルロース、コンニャク飛粉、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、及び、でんぷんのうちの少なくともいずれかを0.1~5重量%併用することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維集合体。
【請求項4】
更に、ベントナイトを0.1~5重量%併用することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維集合体。
【請求項5】
更に、ポリエチレンオキシド系樹脂、ポリプロピレンオキシド系樹脂、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、高級脂肪酸、高級アルコール、脂肪族アミド類、及び、金属石鹸のうちの少なくともいずれかを0.1~5重量%併用することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維集合体。
【請求項6】
更に、ポリエチレンオキシド系樹脂又はポリプロピレンオキシド系樹脂を0.1~5重量%併用することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維集合体。
【請求項7】
前記炭素繊維は、リサイクル品又はリユース品であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の炭素繊維集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィーダーでの安定供給性や取扱性に優れ、PP樹脂などの樹脂コンパウンドの機械特性を向上させた炭素繊維集合体に係り、特に湿式押出造粒方法を用いて製造される炭素繊維集合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂組成物を製造する際に優れた作業性、フィーダーでの安定供給性を有し、かつマトリクス中における分散性に優れ、得られた樹脂組成物が良好な物性を示す炭素繊維集合体として、所定の平均粒径を有し、エポキシ化合物を主成分とするエマルジョン系サイジング剤で表面被覆された炭素繊維集合体や、所定のサイジング剤で集束されるとともに、所定の緻密度を有する、断面が円形あるいは楕円形の炭素繊維チョップドストランドが開示されている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0003】
上記の炭素繊維チョップドストランドは、炭素繊維原料として長繊維の単一方向に揃ったトウを使用しているため、定長カットすると繊維長が揃ったものとなるので、フィーダーでの安定供給性に問題はない。ところが、リサイクル又はリユースされた炭素繊維を原料とする場合には、多方向の炭素繊維プリプレグを貼り合わせた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などを原料として用いるのが一般的なため、1次焼成した炭素繊維を定長カットしても、繊維長がブロードとなるばかりでなく、極端に長いものも混入し、分級処理でも完全に取り除けず、供給時にブリッジを起こしたりして供給不良を起こしたりするという表面被覆処理する以前の問題があるので、上記の従来技術を適用することは難しい。
【0004】
一方、繊維長の揃っていないものを活用する方法としては、押出機等への定量的で安定したフィーダーでの供給が可能であり、さらに押出機等により炭素繊維を樹脂マトリクス中に容易に均一に分散させることを可能とするカーボンファイバーボールとして、短炭素繊維及び結着剤からなり、所定の嵩密度を有するカーボンファイバーボールが開示されている(例えば特許文献3参照)。また、保管、運搬に便利であり、取扱性がよく、ことに樹脂、ゴム等と混練する際に押出機等への喰込みが改善されると共に、樹脂、ゴム等に均一かつ容易に分散することのできる炭素繊維集合体として、所定の繊維の直径、繊維の長さ/繊維の直径、集合体の粒径、嵩密度、安息角や粒径分布を有する炭素繊維集合体が開示されている(例えば特許文献4及び5参照)。
【0005】
さらに、気流を利用した新しい連続プロセスによって、非常に脆弱な短繊維を原料としても、繊維の破損を少なくし高い収率で連続的に球状形態を有する小径の高嵩密度ファイバーボールを製造する方法として、原料短繊維をコイル状に巻回された管内に供給し、該原料繊維を気流と共に旋回させ、次いで、上記管の出口より排出されたブロック状繊維塊を、円筒状又は円錐状容器内部の壁面に沿って気流と共に旋回させ、発生する遠心力により成形、圧密化して球状化する繊維集合体のファイバーボールを製造する方法が開示されている(例えば特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-170435号公報
【文献】特開平2-12929号公報
【文献】特開平11-105030号公報
【文献】特開平3-14664号公報
【文献】特開平4-24259号公報
【文献】特開平4-34053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献3~6に開示された技術は、気相法を用いて炭素繊維を製造する技術であり、炭素繊維が綿状の繊維の塊として得られるため、このような炭素繊維を原料として用いる場合、結合剤などを大量に用いて固めるなどしないとフィーダーにより定量供給することが難しいといった問題を有していた。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたもので、気相法に代えて湿式押出造粒法を用いて製造される炭素繊維集合体において、繊維長分布が広いリサイクル炭素繊維に対しても、良好な円柱形状を保持しつつ、優れたフィーダーでの供給安定性や取扱性を有するとともに、PP樹脂などの樹脂コンパウンドの機械特性を向上させた炭素繊維集合体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、湿式押出造粒法を用いて製造される炭素繊維集合体について鋭意研究を行った結果、湿式押出造粒法に使用する繊維処理剤としてエポキシ樹脂系サイジング剤を用いることにより、繊維長分布が広いリサイクル炭素繊維に対しても、炭素繊維集合体を形成した際に、良好な形状保持能を発揮し、優れた取扱性が得られ、更には特にPP樹脂コンパウンドの機械特性が向上することを見出し、本発明の炭素繊維集合体を発明するに至った。
【0010】
したがって、本発明の炭素繊維集合体は、複数の炭素繊維及びエポキシ樹脂系サイジング剤0.1~5重量%からなり、
外径が0.1~10mm、母線の長さが平均1~20mm、嵩密度が0.04~0.30g/cm3の円柱形状を有し、
前記炭素繊維の全長は、前記母線の長さよりも短い
ことを特徴としている。
【0011】
なお、本発明における円柱形状とは、繊維を円柱状に固めた集合体であるので、繊維の有無などにより凹凸があったり、部分的に脱落したりしていても、目視により概ね円柱と判断できる形状も含まれる。また、本発明における円柱形状とは、幾何学的に厳密な円柱である必要はなく、楕円形、あるいは三角形、四角形、星形など角のあるスクリーンダイの孔を用いたとしても、押出後角が取れるなどにより目視上は概ね円柱状となるものも本発明における円柱形状に含まれる。
【0012】
また、本発明の炭素繊維集合体においては、前記エポキシ樹脂系サイジング剤は、側鎖にグリシジル基を有するポリオレフィン系樹脂又はポリ(メタ)アクリレート系樹脂であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の炭素繊維集合体においては、更に、ベントナイト、リグニンスルホン酸塩、糖蜜、カルボキシメチルセルロース、コンニャク飛粉、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、及び、でんぷんのうちの少なくともいずれかを0.1~5重量%併用することが好ましい。
【0014】
また、本発明の炭素繊維集合体においては、更にベントナイトを0.1~5重量%併用することが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の炭素繊維集合体においては、更に、ポリエチレンオキシド系樹脂、ポリプロピレンオキシド系樹脂、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、高級脂肪酸、高級アルコール、脂肪族アミド類、及び、金属石鹸のうちの少なくともいずれかを0.1~5重量%併用することが好ましい。
【0016】
また、本発明の炭素繊維集合体においては、更にポリエチレンオキシド系樹脂又はポリプロピレンオキシド系樹脂を0.1~5重量%併用することが好ましい。
【0017】
さらに、本発明の炭素繊維集合体においては、前記炭素繊維は、リサイクル品又はリユース品であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の炭素繊維集合体によれば、気相法に代えて湿式押出造粒法を用いて製造される炭素繊維集合体において、繊維長分布が広いリサイクル炭素繊維に対しても、良好な円柱形状を保持しつつ、優れたフィーダーでの供給安定性や取扱性を有するとともに、PP樹脂などの樹脂コンパウンドの機械特性を向上させた炭素繊維集合体を提供することを目的としている。また、狭い繊維長分布へ分級した除外品についても本発明により利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、湿式押出造粒方法を用いて製造される本発明の実施形態に係る炭素繊維集合体について具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
まず、本発明の炭素繊維集合体において使用される炭素繊維、エポキシ樹脂系サイジング剤及び溶媒について説明する。
【0021】
本発明に用いられる炭素繊維としては、ピッチ系、PAN系のいずれのものでもよく、また、リサイクル品やリユース品を使用することも可能である。リサイクル品としては、残留炭素量が10%前後と多い1次焼成品、それを大きく除去した2次焼成品、それらの解繊品などが使用できる。また、本発明に使用される炭素繊維の直径は、ピッチ系の場合7~10μm、PAN系の場合5~7μmの一般的なサイズである。さらに、本発明における炭素繊維の繊維長は、用途や目的に応じて、好適に選択することができる。
【0022】
本発明に使用されるエポキシ樹脂系サイジング剤は、エポキシ樹脂を溶媒、好ましくはイオン交換水または脱イオン水、純水などの水に可溶または乳化剤、分散剤、界面活性剤などを用いてエマルジョン分散あるいはディスパージョン分散させるなどして液状にした樹脂であり、多くの汎用的な樹脂、例えば需要の多いポリプロピレン(PP)、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂(変性樹脂併用が好ましい)、及びナイロン66、ナイロン6などのポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリオキシメチレン樹脂(POM)などとの反応性及び密着性を向上させ、その結果機械特性を向上させる効果を発揮することができる。
【0023】
本発明に用いられるエポキシ樹脂系サイジング剤としては、主鎖にエポキシ反応基のあるビスフェノールA型、ノボラック型、脂環族型、レゾール型、アミノ型、ビスフェノールF型のものが挙げられるが、主鎖でなく側鎖にエポキシ基であるグリシジル基を有することにより、樹脂と炭素繊維との界面において容易に反応して多官能で結合剤的な働きをしやすいため、本発明においては、エポキシ樹脂系サイジング剤は、側鎖にグリシジル基を有するポリオレフィン系樹脂又はポリ(メタ)アクリレート系樹脂であることがより好ましい。
【0024】
また、本発明に使用可能な側鎖にグリシジル基を有するポリオレフィン系樹脂又はポリ(メタ)アクリレート系樹脂としては、側鎖にグリシジル基を有するポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンのホモポリマー又はポリ(メタ)アクリル酸のホモポリマー、あるいは、エチレン、プロピレン、(メタ)アクリル酸エステルなどとの共重合体等が挙げられる。
【0025】
本発明においては、上記のエポキシ樹脂系サイジング剤は、固形分比率が0.1~5重量%であることが好ましく、0.3~5重量%であることがより好ましい。エポキシ樹脂系サイジング剤の固形分比率が0.1重量%未満であると、作製された炭素繊維集合体における炭素繊維がバラバラに解け、炭素線維集合体の形状を良好に保持することができない。一方、固形分比率が5重量%を超えると、この炭素線維集合体を材料として用いた場合に悪影響を及ぼす問題を有する。
【0026】
また、本発明においては、エポキシ樹脂系サイジング剤の反応性を抑制しない範囲内で他のサイジング剤を併用してもよい。本発明に使用可能な他のサイジング剤としては、炭素繊維との密着性を向上させるアミノ基、アミド基、ウレタン基、エステル基、ビニル基、(無水)カルボキシル基、水酸基などの官能基を有する樹脂、例えば、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、酸変性ポリオレフィン樹脂またはその塩化合物、ポリ(メタ)アクリル酸樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂など、またはこれらの共重合樹脂、変性樹脂、及び混合物などが挙げられ、溶媒に可溶または乳化剤、分散剤、界面活性剤などを用いてエマルジョン分散あるいはディスパージョン分散させるなどして液状にできる樹脂である。
【0027】
さらに、本発明の炭素繊維集合体においては、その形状を形成し保持させるべく、造粒促進剤(バインダーともいう)、集束剤(収束剤又は結束剤ともいう)などを併用してもよい。なお、造粒促進剤又は集束剤と呼ばれなくても同様な炭素繊維集合体を形成し保持する機能を持つものであれば本発明の範囲に含まれる。また、本発明における集束剤としては、造粒促進剤及びサイジング剤を含めた広義の繊維集合形成剤ともいうことができる。
【0028】
本発明に使用可能な造粒促進剤及び集束剤としては、ベントナイト、リグニンスルホン酸塩、糖蜜、カルボキシメチルセルロース、コンニャク飛粉、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、でんぷん等が挙げられるが、これらの中でもベントナイトが最も好ましく使用できる。
【0029】
本発明において使用可能なベントナイトは、モンモリロナイト天然品、その精製品、または合成スメクタイト、モイストナイト、4級アンモニウムやアニオン系ポリマー、アルキルトリアルコキシシランなどで表面や端面を修飾したり、カルボキシビニルポリマーと複合化したものであってもよい。また、本発明においては、合成スメクタイトを0.1~5重量%併用することが好ましい。
【0030】
また、本発明の炭素繊維集合体においては、流動性を向上させるとともに、粉塵発生を抑制するために、例えば、ポリエチレンオキシド系樹脂、ポリプロピレンオキシド系樹脂、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ステアリン酸などの高級脂肪酸、高級アルコール、脂肪族アミド類、金属石鹸などの滑剤を0.1~5重量%の範囲で用いることが好ましい。これらの中でも、本発明の炭素繊維集合体においては、特にポリエチレンオキシド系樹脂又はポリプロピレンオキシド系樹脂を0.1~5重量%併用することが好ましい。併用されるポリエチレンオキシド系樹脂又はポリプロピレンオキシド系樹脂としては、ポリエチレンオキシドホモポリマー、ポリプロピレンオキシドホモポリマー、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドのブロック・ランダム共重合体、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの何れか又は両者と、ブチレンオキシド、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ジスチレン化フェニルエーテル、トリベンジルフェニルエーテルなどとのブロック・ランダム共重合体などが挙げられ、これらを複数混合してもよく、またカルボン酸、アミンなどにて片末端又は両末端を封鎖したものでもよい。
【0031】
また、本発明においては、上記のエポキシ樹脂系サイジング剤などに加えて、シランカップリング剤、他フィラー(シリカ、マイカ、タルク、酸化チタン、ガラス繊維など)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、分散剤、核剤、透明化剤、重金属不活性化剤、難燃剤、水分散型安定剤、帯電防止剤、静電気防止剤等を添加することも可能である。
【0032】
本発明に使用される溶媒は、上記のエポキシ樹脂系サイジング剤とともに炭素繊維に凝集性を付与するために添加するものである。このような溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類などが挙げられる。
【0033】
次に、上記の炭素繊維、エポキシ樹脂系サイジング剤及び溶媒などを用いて本発明の炭素繊維集合体を製造する方法について説明する。
本発明の炭素繊維集合体は、炭素繊維、エポキシ樹脂系サイジング剤及び溶媒などを混合して混合物を調製し、この混合物を、圧縮しつつ、多数の孔を有するスクリーンダイを通過させることにより繊維配向を概ね保持しながら円柱形状に押出して押出物を形成し、この押出物を乾燥させて造粒することにより製造する。
【0034】
本発明の炭素繊維集合体を製造する第1工程は、炭素繊維、エポキシ樹脂系サイジング剤及び溶媒などを混合して混合物を調製する工程である。この工程では、上記のような炭素繊維、エポキシ樹脂系サイジング剤及び溶媒などを適切な配合比で混合し、次の工程における押出物の材料を調製する。この第1工程における混合は、上記したエポキシ樹脂系サイジング剤の混合量に加え、混合時間、混合温度を調整することにより、混合物の粘度を調整することができる。エポキシ樹脂系サイジング剤の添加量が多く、混合時間が長く、混合温度が高い程、混合物の粘度が高くなる。また、この第1工程における混合物中の炭素繊維は、配向に規則性はなく、全くランダムな方向を向いた状態である。
【0035】
次いで、本発明の炭素繊維集合体を製造する第2工程は、上記第1工程で調製された混合物を、圧縮しつつ、多数の孔を有するスクリーンダイを通過させることにより繊維配向を概ね保持しながら円柱形状に押出して押出物を形成する工程である。この工程においては、湿式押出造粒法を用いることにより好適に実施することができる。このような湿式押出造粒法を実施可能な装置としては、スクリュー押出機、プランジャー押出機、ローラー押出機、ディスクダイ造粒機等が挙げられる。
【0036】
また、第2工程においては、混合物を押出すスクリーンダイの孔の直径を所望の大きさとすることで、このスクリーンダイを通過した押出物の直径を制御することができる。すなわち、本発明の炭素繊維集合体の製造方法において使用するスクリーンダイの孔を直径0.1~10mm、好ましくは0.3~6mmの円形とするで、押出物の形状を直径0.1~10mm、好ましくは0.3~6mmの円柱形状とすることができる。
【0037】
続いて、本発明の炭素繊維集合体を製造する第3工程は、上記第2工程で形成された押出物を乾燥させて炭素繊維集合体を造粒する工程である。この第3工程では、押出物を乾燥させることにより、第2工程で形成された押出物に含まれている溶媒を除去し、炭素繊維集合体が完成する。押出物を乾燥させる手段としては、いずれのものでもよく、一般的な乾燥機等を使用することができる。
【0038】
このようにして製造された本発明の炭素繊維集合体は、溶媒の除去によっても、形状に大きな変化がなく、(繊維の凹凸があるので)概ね円柱形状であり(乾燥方法によっては、部分的に脱落などして一部変形物が多い場合もある)、その直径は0.1~10mm、好ましくは0.3~6mmであり、母線の長さは平均1~20mmである。この炭素繊維集合体の直径が0.1mm未満であると、この炭素繊維集合体の取扱性が悪くなってしまう。一方、直径が10mmを超えると、炭素繊維集合体内における炭素繊維の配向性が著しく低下してしまうため、好ましくない。また、この炭素繊維集合体の母線の長さが平均1mm未満であると、炭素繊維を長さ方向に配向させる効果が得られなくなる。一方、母線の長さが平均20mmを超えると、炭素繊維集合体の取扱性が悪化してしまう。また、本発明の炭素繊維集合体の嵩密度は0.04~0.30g/cm3であることが好ましい。嵩密度が0.04g/cm3未満であると、炭素繊維集合体の取扱性が悪くフィーダーでの安定供給性が不安定となり、嵩密度が0.30g/cm3を超えると、炭素繊維集合体が硬すぎて樹脂での分散性が悪化してしまう。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の炭素繊維集合体について、実施例を用いてさらに詳細に説明する。
<実施例1>
炭素繊維としては、ブロードな繊維長(平均繊維長約1.3mm)の解繊したリサイクル炭素繊維1次焼成品(残留炭素率約11%)を用いた。まず、この炭素繊維500gを、ビスフェノールA型エポキシ樹脂系サイジング剤(商品名:デリオンCRI-002、竹本油脂社製、固形分比率47%)11g(炭素繊維比1.0重量%)、及び、溶媒である水250gとともに混合機に投入し、3分間撹拌させて上記材料を十分に混合した。次いで、直径0.8mmのスクリーン径に設定された押出造粒装置(商品名:ペレッターダブルEXDS60(横押出型)、不二パウダル社製)により、上記で得られた混合物を押出して造粒した。この造粒物を130℃の恒温槽内で3時間乾燥させて、直径0.8mm弱、母線長さ平均約2mmの円柱形状の炭素繊維集合体(平均繊維長約0.3mm)を得た。
【0040】
このようにして得られた実施例1の炭素繊維集合体を、300mlメスシリンダーに20g入れた状態で20gの重りを上方端部から5回落としたのちに嵩密度を測定した。その結果、嵩密度は0.130g/cm3であった。また、実施例1の炭素繊維集合体をPP樹脂(商品名:VS200A、サンアロマー社製)と並列して、粉体用スクリューを用いたフィーダーにて30重量%となるように、二軸押出機(商品名:KZW15-30TGN、テクノベル社製、φ15、210℃)に供給して混練しペレット化した。そのペレットを射出成形機(商品名:SE18S、住友重機械工業社製、φ20、230℃)を用いてダンベル試験片(JIS K7162、附属書A 1BA形)を成形した。この試験片に対して、材料試験機(インストロン社製、3367)を用いて引張強度・弾性率を測定した結果、それぞれ63MPa、11.0GPa(n=5の平均値)であった。混練の際、やや粉塵が発生したが、取り扱い性に問題はなかった。
【0041】
<実施例2>
上記の実施例1の炭素繊維集合体の製造方法において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂系サイジング剤を、側鎖にグリシジル基を有するポリ(メタ)アクリレート系樹脂であるエチレングリシジルメタクリレート共重合体(商品名:セポルジョンG515、住友精化社製、固形分比率40%)19g(炭素繊維比1.5%)とした以外は実施例1と同様にして、直径0.8mm弱、母線長さ平均約3mmの円柱形状の炭素繊維集合体(平均繊維長約0.4mm)を得た。
【0042】
このようにして得られた実施例2の炭素繊維集合体に対して、実施例1と同様に測定した嵩密度、引張強度及び引張弾性率は、0.103g/cm3、73MPa及び11.0GPaであった。また、実施例2の炭素繊維集合体は、粉塵発生が少なく、取扱い性は良好であった。
【0043】
<実施例3>
上記の実施例2の炭素繊維集合体の製造方法において、炭素繊維を2次焼成品とし、PP樹脂中に変性PP(商品名:リケエイドMG441、理研ビタミン社製)11重量%含有させた以外は実施例1と同様にした。さらに、ベントナイト(商品名:スメクトンST、クニミネ工業社製)を2.5g(炭素繊維比0.5重量%)添加した以外は実施例2と同様にして、直径0.8mm弱、母線長さ平均約3mmの円柱形状の炭素繊維集合体(平均繊維長約0.4mm)を得た。
【0044】
このようにして得られた実施例3の炭素繊維集合体に対して、実施例1と同様に測定した嵩密度、引張強度及び引張弾性率は、0.111g/cm3、81MPa及び13.0GPaであった。また、実施例3の炭素繊維集合体は、粉塵発生が少なく、取扱い性は良好であった。
【0045】
<実施例4>
上記の実施例3の炭素繊維集合体の製造方法において、押出造粒装置を、直径3.5mmのスクリーン径に設定された商品名:ペレッターダブルEXFDS60(前押出型、不二パウダル社製)に変えた以外は実施例3と同様にして、直径3.5mm弱、母線長さ平均約15mmの円柱形状の炭素繊維集合体(平均繊維長約0.6m)を得た。
【0046】
このようにして得られた実施例4の炭素繊維集合体に対して、実施例1と同様に測定した嵩密度、引張強度及び引張弾性率は、0.086g/cm3、91MPa及び16.4GPaであった。また、実施例4の炭素繊維集合体は、粉塵発生が少なく、取扱い性は良好であった。
【0047】
<実施例5>
上記の実施例4の炭素繊維集合体の製造方法において、ベントナイトを、エチレンオキシドプロピレンオキシドフェニルグリシジルエーテル共重合体(商品名:アルコックスCP-B1、明成化学工業社製)5.0g(炭素繊維比1.0重量%)に変えた以外は実施例4と同様にして、直径3.5mm弱、母線長さ平均約18mmの円柱形状の炭素繊維集合体(平均繊維長約0.6mm)を得た。
【0048】
このようにして得られた実施例5の炭素繊維集合体に対して、実施例1と同様に測定した嵩密度、引張強度及び引張弾性率は、0.082g/cm3、92MPa及び16.1GPaであった。また、実施例5の炭素繊維集合体は、粉塵が殆ど発生せず、取扱い性は良好であった。
【0049】
<実施例6>
上記の実施例5の炭素繊維集合体の製造方法において、サイジング剤を、別のポリエチレンオキシド系樹脂(商品名:デリオンCRI-011、竹本油脂社製、固形分比率40%)12.5g(炭素繊維比1.0重量%)に変えた以外は実施例5と同様にして、直径3.5mm弱、母線長さ平均約16mmの円柱形状の炭素繊維集合体(平均繊維長約0.6mm)を得た。
【0050】
このようにして得られた実施例6の炭素繊維集合体に対して、実施例1と同様に測定した嵩密度、引張強度及び引張弾性率は、0.083g/cm3、93MPa及び16.0GPaであった。また、実施例6の炭素繊維集合体は、粉塵が殆ど発生せず、取扱い性は良好であった。
【0051】
<実施例7>
上記の実施例5の炭素繊維集合体の製造方法において、ポリエチレンオキシド系樹脂を1.5重量%に変更し、製造装置をディスクダイ造粒装置(商品名:ディスクペレッターF-5、不二パウダル社製、スクリーン径3.0mmΦ)を用いて、解繊していないリサイクル炭素繊維2次焼成品9mm長(残留炭素率約0.5%)とした以外は実施例5と同様にして、直径3.0mm弱、母線長さ平均約13mmの円柱形状の炭素繊維集合体(平均繊維長約0.7mm)を得た。
【0052】
このようにして得られた実施例7の炭素繊維集合体に対して、実施例1と同様に測定した嵩密度、引張強度及び引張弾性率は、0.210g/cm3、86MPa及び13.4GPaと、実施例5に比して機械特性はやや低下したが嵩密度は大幅に向上したため、粉塵が殆ど発生せず取扱い性は更に良好となり、フィード供給量が大幅に向上しかつ安定性も増した。
【0053】
<実施例8>
実施例7の炭素繊維集合体に対して、実施例1と同様にPBT樹脂(商品名:プラナックST-1000、東洋紡績社製)に混練して測定した引張強度及び引張弾性率は、114MPa及び15.4GPaと良好な機械特性を有した。
【0054】
<実施例9>
実施例7の炭素繊維集合体に対して、実施例1と同様にPPS樹脂(商品名:DIC.PPS FZ-2100、DIC社製)に混練して測定した引張強度及び引張弾性率は、159MPa及び19.2GPaと良好な機械特性を有した。
【0055】
<実施例10>
上記の実施例1の炭素繊維集合体の製造方法において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂系サイジング剤(商品名:EM-058、アデカ社製、13.6g(炭素繊維比1.5重量%))に変更した以外は実施例7と同様にして、直径3.0mm弱、母線長さ平均約14mmの円柱形状の炭素繊維集合体(平均繊維長約0.7mm)を得た。
【0056】
このようにして得られた実施例10の炭素繊維集合体に対して、実施例1と同様に測定した嵩密度は0.215g/cm3であり、取扱い性は実施例7と同様に更に良好となり、フィード供給量が高くかつ安定性した。またPOM樹脂(商品名:テナック4520、旭化成社製)に混練して測定した引張強度及び引張弾性率110MPa及び12.0GPaと良好な機械特性を得た。
【0057】
<比較例1>
上記の実施例1の炭素繊維集合体の製造方法において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂系サイジング剤を用いない以外は実施例1と同様にした結果、実施例1とは異なり、円柱形状を保持することができず、大部分が粉末状の粉塵となり、取扱性に問題があることが確認された。
【0058】
このようにして得られた比較例1の炭素繊維集合体に対して、実施例1と同様に測定した引張強度及び引張弾性率は、45MPa及び9.0GPaであった。
【0059】
<比較例2>
上記の実施例1の炭素繊維集合体の製造方法において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂系サイジング剤を、ウレタン系サイジング剤(商品名:デリオンCRI-005、竹本油脂社製、固形分比率45%)11g(炭素繊維比1%)とした以外は実施例1と同様にして、直径0.8mm、母線長さ平均約3mmの円柱形状の炭素繊維集合体(平均繊維長約0.3mm)を得た。
【0060】
このようにして得られた比較例2の炭素繊維集合体に対して、実施例1と同様に測定した嵩密度、引張強度及び引張弾性率は、0.132g/cm3、50MPa及び9.3GPaであった。また、比較例2の炭素繊維集合体は、サイジング剤の効果がほとんど得られなかった。
【0061】
<比較例3>
上記の実施例1の炭素繊維集合体の製造方法において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂系サイジング剤を、ベントナイト(商品名:スメクトンST、クニミネ工業社製)5g(炭素繊維比1重量%)とした以外は実施例1と同様にして、直径0.8mm弱、母線長さ平均約3mmの円柱形状の炭素繊維集合体(平均繊維長約0.3mm)を得た。
【0062】
このようにして得られた比較例3の炭素繊維集合体に対して、実施例1と同様に測定した嵩密度、引張強度及び引張弾性率は、0.093g/cm3、44MPa及び9.4GPaであった。また、比較例3は、添加剤のない比較例1に比して炭素繊維集合体は形成するがエポキシ樹脂系サイジング剤を含有しないので機械特性向上の効果が得られなかった。
【0063】
<比較例4>
上記の実施例6の炭素繊維集合体の製造方法において、サイジング剤をなくして、ポリエチレンオキシド系樹脂だけとした以外は実施例6と同様にした結果、実施例6とは異なり、円柱形状を保持することができず、大部分が粉末状の粉塵となり、比較例1ほどには粉塵は多くはなかったが、取扱性に問題があることが確認された。なお、引張強度及び引張弾性率は、53MPa及び10.2GPaであり、エポキシ樹脂系サイジング剤を含有しないので機械特性向上の効果が得られなかった。
【0064】
<比較例5>
上記の実施例6の炭素繊維集合体の製造方法において、サイジング剤を変性PP系サイジング剤(商品名:デリオンCRI-007、竹本油脂社製、固形分比率30%)25g(炭素繊維比1.5重量%)に変更した以外は、実施例6と同様にして、直径3.5mm弱、母線長さ平均約16mmの円柱形状の炭素繊維集合体(平均繊維長約0.6mm)を得た。
【0065】
このようにして得られた比較例5の炭素繊維集合体に対して、実施例1と同様に測定した嵩密度、引張強度及び引張弾性率は、0.085g/cm3、58MPa及び11.2GPaであり、サイジング剤がエポキシ樹脂系でないので比較例4と同様にして機械特性向上の効果が得られなかった。
【0066】
以上のように、実施例1~10の炭素繊維集合体では、円柱形状を良好に保持するので、フィーダーでの供給安定性を有することが確認された。これに対し、比較例1~5の炭素繊維集合体では、実施例とは異なり、粉塵が激しく発生したり、樹脂コンパウンドの機械特性向上の効果が得られないことが確認された。