(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】多重ゲノム編集
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240416BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N15/09 110
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022076779
(22)【出願日】2022-05-06
(62)【分割の表示】P 2021034493の分割
【原出願日】2016-10-07
【審査請求日】2022-05-11
(32)【優先日】2015-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】チャーチ、 ジョージ エム.
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、 ルハン
(72)【発明者】
【氏名】グエル、 マーク
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】Semaan, M. et al.,PLoS One,2015年04月24日,Vol. 10; e0122059,pp. 1-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00ー15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタ内在性レトロウイルス(PERV)pol遺伝子のうちの37%以上が遺伝的に操作された変異を含む、遺伝的に操作された複数のブタ細胞からなる細胞集団であって、
前記遺伝的に操作された複数のブタ細胞からなる細胞集団はPERVの伝播性が10%以上低下しており、該低下は、第2の細胞を前記細胞集団と共培養した場合を、第2の細胞を野生型ブタ細胞集団と共培養した場合と比較することによって示される、細胞集団。
【請求項2】
前記第2の細胞がヒト細胞である、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項3】
前記遺伝的に操作された変異がインデルである、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項4】
前記遺伝的に操作された複数のブタ細胞が無傷のPERV gag及び/又はenv遺伝子を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項5】
前記遺伝的に操作された複数のブタ細胞が胚由来又は接合子由来である、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項6】
前記遺伝的に操作された複数のブタ細胞が生殖系列細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項7】
前記遺伝的に操作された複数のブタ細胞が体細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項8】
前記遺伝的に操作された複数のブタ細胞が幹細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項9】
前記PERV pol遺伝子の97%以上が遺伝的に操作されたインデルを含む、請求項3に記載の細胞集団。
【請求項10】
前記PERV pol遺伝子の100%が遺伝的に操作されたインデルを含む、請求項3に記載の細胞集団。
【請求項11】
請求項1に記載の細胞集団を含む単離されたブタ臓器。
【請求項12】
前記
PERV pol遺伝子の50%以上が遺伝的に操作された変異を含む、請求項11に記載の単離されたブタ臓器。
【請求項13】
前記
PERV pol遺伝子の70%以上が遺伝的に操作された変異を含む、請求項11に記載の単離されたブタ臓器。
【請求項14】
前記
PERV pol伝子の80%以上が遺伝的に操作された変異を含む、請求項11に記載の単離されたブタ臓器。
【請求項15】
前記
PERV pol遺伝子の85%以上が遺伝的に操作された変異を含む、請求項11に記載の単離されたブタ臓器。
【請求項16】
前記
PERV pol遺伝子の90%以上が遺伝的に操作された変異を含む、請求項11に記載の単離されたブタ臓器。
【請求項17】
前記
PERV pol遺伝子の95%以上が遺伝的に操作された変異を含む、請求項11に記載の単離されたブタ臓器。
【請求項18】
前記
PERV pol遺伝子の96%以上が遺伝的に操作された変異を含む、請求項11に記載の単離されたブタ臓器。
【請求項19】
前記
PERV pol遺伝子が5以上のレトロウイルス遺伝子を含む、請求項11~18のいずれか一項に記載の単離されたブタ臓器。
【請求項20】
前記遺伝的に操作された複数のブタ細胞が無傷のPERV gag及び/又はenv遺伝子を含む、請求項11~19のいずれか一項に記載の単離されたブタ臓器。
【請求項21】
前記PERV pol遺伝子の97%以上が遺伝的に操作されたインデルを含む、請求項11に記載の単離されたブタ臓器。
【請求項22】
前記PERV pol遺伝子の100%が遺伝的に操作されたインデルを含む、請求項11に記載の単離されたブタ臓器。
【請求項23】
前記第2の細胞がヒト細胞である、請求項11に記載の単離されたブタ臓器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願データ
本出願は、2015年10月8日に出願された米国仮特許出願第62/239,239号に対する優先権を主張するものであり、あらゆる目的のために、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
配列特異的ヌクレアーゼによるゲノム編集は公知である。ゲノムにおけるヌクレアーゼを介した二本鎖DNA(dsDNA)切断は、非特異的な挿入及び欠失(インデル)の導入を頻繁に生じる非相同末端結合(Non-Homologous End Joining)(NHEJ)、又は相同鎖を修復鋳型として組み込む相同組換え修復(homology directed repair)(HDR)の2つの主要な機構によって修復され得る。その全体が参照により本明細書に組み込まれる、参考文献4を参照されたい。配列特異的ヌクレアーゼが、所望の突然変異を含む相同ドナーDNAコンストラクトと共に送達された場合、遺伝子ターゲティング効率は、ドナーコンストラクト単独に比べて1000倍上昇する。
【0003】
1細胞胚に部位特異的ヌクレアーゼのDNA又はmRNAを直接注入し、様々な種の特定の遺伝子座でDNA二本鎖切断(DSB)を生じさせることにより、ゲノム改変工程を加速するための代替的な方法が開発されている。これらの部位特異的ヌクレアーゼによって誘導されたDSBは、その後、誤りがちな(error-prone)非相同末端結合(NHEJ)によって修復され、切断部位に欠失又は挿入を保有する突然変異マウス及びラットがもたらされ得る。DSBに隣接する末端に相同性を有するドナープラスミドを同時注入した場合、高忠実度の相同組換えにより、標的組込みを有する動物を産生することができる。これらの方法は、それぞれの標的遺伝子についてのジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZNF)又は転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)の複雑な設計を必要とし、ターゲティングの効率が実質的に異なり得るため、これまで多重遺伝子ターゲティングは報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、移植用臓器の潜在的な供給源のために、ブタなどの動物を産生する遺伝的に改変された細胞を作製するための改善された方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書には、細胞内の複数の核酸配列の高効率な同時ターゲティングを達成するための、クラスタ化された規則的な間隔の短い回文構造の繰り返し(CRISPR)及びCRISPR関連(Cas)タンパク質(CRISPR/Cas)システムの使用が記載される。
【0006】
本開示の態様は、ヌクレアーゼ活性を有するDNA結合タンパク質などの、細胞によって発現されるヌクレアーゼ活性を有する酵素をDNA(デオキシリボ核酸)上の標的位置へと導く1又は複数のガイドRNA(リボ核酸)を使用して、前記位置で酵素がDNAを切断し、相同組換えなどによって外来性ドナー核酸がDNAに挿入される、細胞(例えば、幹細胞、体細胞、生殖系列細胞、接合子)における、DNAの多重改変などのゲノムDNAの改変に関する。本開示の態様は、細胞内にDNAの複数の改変を有する細胞を作製するための、細胞におけるDNA改変をサイクリング又は反復する工程を含む。改変には、外来性ドナー核酸の挿入が含まれ得る。改変には、内因性核酸の欠失が含まれ得る。
【0007】
複数の核酸配列を、共形質転換などによって、酵素及び複数のRNAをコードする核酸を発現する細胞に導入する単一工程によって変化させる(modulate)(例えば、不活性化する)ことができ、この工程でRNAが発現され、複数のRNAの各々がDNAの特定部位に酵素をガイドし、酵素がDNAを切断する。この態様によれば、細胞内のDNAの多くの変化又は改変が単一サイクルで作製される。
【0008】
ある態様によれば、酵素を発現する細胞は、酵素をコードし且つ細胞によって発現され得る核酸を細胞に導入することなどにより、酵素を発現するように遺伝的に改変されている。このように、本開示の態様は、酵素を発現する細胞にRNAを導入する工程、細胞に外来性ドナー核酸を導入する工程、RNAを発現させる工程、RNA、酵素、及びDNAの共局在複合体を形成する工程、並びに酵素によってDNAを酵素的に切断する工程をサイクリングさせることを含む。ドナー核酸のDNAへの挿入も本明細書で提供される。上記工程をサイクリング又は反復することにより、複数の遺伝子座における細胞の多重遺伝子改変、すなわち複数の遺伝子改変を有する細胞がもたらされる。
【0009】
特定の態様によれば、本開示の範囲内のDNA結合タンパク質又は酵素には、ガイドRNAと複合体を形成するタンパク質が含まれ、ガイドRNAは複合体を二本鎖DNA配列にガイドし、ここで複合体はDNA配列に結合する。ある態様によれば、酵素は、DNAに結合し且つRNAによってガイドされる、II型CRISPRシステムのRNAガイドDNA結合タンパク質などの、RNAガイドDNA結合タンパク質であり得る。ある態様によれば、RNAガイドDNA結合タンパク質はCas9タンパク質である。
【0010】
本開示のこの態様は、RNA及びDNA結合タンパク質の二本鎖DNAへの共局在又は二本鎖DNAとの共局在と称され得る。このようにして、DNA結合タンパク質-ガイドRNA複合体を用いて二本鎖DNAの複数の部位を切断し、遺伝子の1又は複数(例えば、全部)のコピーの破壊などの複数の遺伝子改変を有する細胞が作製され得る。
【0011】
特定の態様によれば、標的DNAに相補的なRNAとの共局在複合体を形成し且つ標的DNAを部位特異的に切断する酵素を発現する細胞内の標的DNAに複数の変異を加える方法が提供され、この方法は、(a)標的DNAに相補的な1又は複数のRNAをコードし且つ酵素を標的DNAにガイドする第一外来核酸を細胞に導入する工程であって、前記1又は複数のRNA及び酵素は標的DNAの共局在複合体のメンバーであり、1又は複数のRNAと酵素が標的DNAに共局在し、酵素が標的DNAを切断して細胞内で変異DNAを生成する工程、並びに工程(a)を複数回反復して細胞内のDNAに複数の変異を生じさせることを含む。
【0012】
いくつかの態様では、細胞内の1又は複数の標的核酸配列の発現を不活性化する方法は、1又は複数の標的核酸配列の各々の全体又は一部に相補的な部分を含む1又は複数のリボ核酸(RNA)配列及びCasタンパク質をコードする核酸配列を細胞に導入すること;並びに細胞内でCasタンパク質が発現され、且つCasタンパク質が1又は複数の標的核酸配列に結合して不活性化する条件下で細胞を維持することを含む。
【0013】
他の態様では、細胞内の1又は複数の標的核酸配列を変化させる方法は、細胞内の標的核酸配列の全体又は一部に相補的なRNAをコードする核酸配列を細胞に導入すること;RNAと相互作用し且つ標的核酸配列を部位特異的に切断する酵素をコードする核酸配列を細胞に導入すること;及び複合体を形成する相補的標的核酸配列にRNAが結合する条件下で細胞を維持することを含み、酵素が複合体上の結合部位に結合して、1又は複数の標的核酸配列を変化させる。
【0014】
本明細書で述べる方法では、導入工程は、1又は複数のRNA配列及びCasタンパク質をコードする核酸配列を細胞にトランスフェクトすることを含み得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、1又は複数のRNA配列、Casタンパク質をコードする核酸配列、又はそれらの組合せが、細胞のゲノムに導入される。
【0016】
いくつかの実施形態では、Casタンパク質の発現が誘導される。
【0017】
本明細書で述べる方法では、細胞は胚由来である。細胞は、幹細胞、接合子、又は生殖系列細胞であり得る。細胞が幹細胞である実施形態では、幹細胞は、胚性幹細胞又は多能性幹細胞である。他の実施形態では、細胞は体細胞である。細胞が体細胞である実施形態では、体細胞は、真核細胞又は原核細胞である。真核細胞は、ブタ、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ウマ、ウシ、非ヒト霊長動物、ヒト由来などの動物細胞であり得る。
【0018】
1又は複数の標的核酸配列は、ブタ内在性レトロウイルス(PERV)遺伝子を含み得る。例えば、PERV遺伝子はpol遺伝子を含み得る。
【0019】
本明細書で述べる方法は、前記pol遺伝子の1又は複数のコピーを不活性化すること、変化させること、又は生じさせることができる。いくつかの実施形態では、細胞内の前記pol遺伝子のすべてのコピーが不活性化される。
【0020】
いくつかの実施形態では、Casタンパク質はCas9である。
【0021】
いくつかの実施形態では、1又は複数のRNA配列は、約10から約1000ヌクレオチドであり得る。例えば、1又は複数のRNA配列は、約15から約200ヌクレオチドであり得る。
【0022】
いくつかの態様では、遺伝子操作された細胞は、1又は複数の内在性ウイルス遺伝子、及び1又は複数の内在性ウイルス遺伝子の1又は複数の標的核酸配列の全体又は一部に相補的な部分を含む1又は複数の外来性核酸配列を含み、ここで、細胞の1又は複数の内在性ウイルス遺伝子の各々が変化される。
【0023】
別の態様では、遺伝子操作された細胞は、複数の内在性ウイルス遺伝子、及び複数の内在性ウイルス遺伝子の1又は複数の標的核酸配列の全体又は一部に相補的な部分を含む1又は複数の外来性核酸配列を含むことができ、ここで、細胞の複数の内在性ウイルス遺伝子の各々が変化される。
【0024】
本明細書で述べる遺伝子操作された細胞は、ブタ内在性レトロウイルス(PERV)遺伝子を含み得る。例えば、PERV遺伝子はpol遺伝子を含み得る。
【0025】
いくつかの態様では、前記pol遺伝子の変化により、前記pol遺伝子の1又は複数のコピーが不活性化される。例えば、細胞内の前記pol遺伝子の全部又は実質的に全部のコピーが不活性化される。
【0026】
ある態様によれば、RNAは約10から約1000ヌクレオチドである。ある態様によれば、RNAは約20から約100ヌクレオチドである。
【0027】
ある態様によれば、1又は複数のRNAはガイドRNAである。ある態様によれば、1又は複数のRNAはtracrRNA-crRNA融合体である。
【0028】
ある態様によれば、DNAは、ゲノムDNA、ミトコンドリアDNA、ウイルスDNA、又は外因性DNAである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】PK15細胞中の62コピーのPERV中のpol遺伝子を特異的に標的とするようにCRISPR-Cas9 gRNAを設計したことを示す図である。ブタゲノム中に存在する内在性レトロウイルスを表す系統樹。PERVは青色で強調される。
【
図1B】PK15細胞中の62コピーのPERV中のpol遺伝子を特異的に標的とするようにCRISPR-Cas9 gRNAを設計したことを示す図である。デジタル液滴PCR(digital droplet PCR)によるPK15細胞中のPERVのコピー数の測定。polエレメントのコピー数は、ACTB、GAPDH、及びEB2の3つの独立した参照遺伝子を用いて62と推定された。N=3、平均±SEM。
【
図1C】PK15細胞中の62コピーのPERV中のpol遺伝子を特異的に標的とするようにCRISPR-Cas9 gRNAを、設計したことを示す図である。2つのCRISPR-Cas9 gRNAを、PERV pol遺伝子の触媒領域を標的とするように設計した。2つのgRNAターゲティング配列をPERV遺伝子構造の模式図の下に示している。これらのPAM配列は赤色で強調される。(配列番号:27~28)
【
図2A】Cas9処理後にPREV pol遺伝子のすべてのコピーが不活性化されたクローンPK15細胞を示す図である。Cas9誘導の17日後に、単一細胞由来のPK15のクローン間でpolターゲティング効率の二峰性分布が観察された。45/50クローンは16%未満のターゲティング効率を示し、5/50クローンは93%を超えるターゲティング効率を示した。
【
図2B】Cas9処理後にPREV pol遺伝子のすべてのコピーが不活性化されたクローンPK15細胞を示す図である。CRISPR-Cas9処理後のPERV pol遺伝子座におけるPK15ハプロタイプ。PERV pol配列におけるインデル事象が赤色で示されている。紫色の陰影は内在性PERVを示す。
【
図3A】PK15細胞と5日間及び7日間共培養した後のHEK-293-GFP細胞(それぞれ293G5D及び393G7D)のゲノムにおけるPERV pol DNA、PERV gag DNA、及びPERV env DNAの検出を示す図である。ブタGGTA1プライマーセットを用いて、精製したヒト細胞におけるブタ細胞混入を検出した。
【
図3B】特定のプライマーセットを用いた、野生型PK15細胞と共培養した集団に由来する1000個の293G細胞におけるPERVエレメント数のqPCR定量を示す図である。(N=3、平均±SEM)
【
図3C】高レベルのPERV pol改変を有するPK15クローン15、20、29、及び38、並びに最小限に改変されたクローン40及び41におけるPERVエレメント数のqPCR定量を示す図である。(N= 3、平均±SEM)
【
図3D】高度に改変されたPK15クローン20及び最小限に改変されたクローン40と共にあらかじめ培養した集団から単離した様々な数のHEK293-GFP細胞(0.1個、1個、10個、及び100)由来のゲノムDNA上のPERV polに関するPCRの結果を示す図である。PCR反応の完全なパネルについては
図S18-21を参照のこと。
【
図4-1】
図4(
図S1)は、PERV polコンセンサス配列及びgRNA設計を示す図である。
【
図4-2】
図4(
図S1)は、PERV polコンセンサス配列及びgRNA設計を示す図である。
【
図5】
図5(
図S2)は、PERVを標的とするCRISPR/Cas9コンストラクトの模式図である。
【
図6】
図6(
図S3)は、Cas9-gRNA活性の測定を示す図である。
【
図7】
図7(
図S4)は、PERVターゲティングのためのCas9発現を誘導するDOX濃度の最適化を示す図である。
【
図8】
図8(
図S5)は、Piggybac-Cas9/gRNA PERVターゲティング効率の時系列測定を示す図である。
【
図9】
図9(
図S6)は、Lenti-Cas9/2gRNA PERVターゲティング効率の時系列測定を示す図である。
【
図10】
図10(
図S7)は、PERVターゲティング効率及びインデルパターン化のサンガー配列決定による検証を示す図である。(配列番号:29)
【
図21A】
図21A(
図S18)は、ブタGGTA1プライマーを用いたHEK293細胞におけるブタ細胞混入の検出を示す図である。
【
図21B】
図21B(
図S18)は、ブタGGTA1プライマーを用いたHEK293細胞におけるブタ細胞混入の検出を示す図である。
【
図21C】
図21C(
図S18)は、ブタGGTA1プライマーを用いたHEK293細胞におけるブタ細胞混入の検出を示す図である。
【
図21D】
図21D(
図S18)は、ブタGGTA1プライマーを用いたHEK293細胞におけるブタ細胞混入の検出を示す図である。
【
図22A】
図22A(
図S19)は、PERV polプライマーを用いたHEK293細胞におけるPERV DNAエレメントの検出を示す図である。
【
図22B】
図22B(
図S19)は、PERV polプライマーを用いたHEK293細胞におけるPERV DNAエレメントの検出を示す図である。
【
図22C】
図22C(
図S19)は、PERV polプライマーを用いたHEK293細胞におけるPERV DNAエレメントの検出を示す図である。
【
図22D】
図22D(
図S19)は、PERV polプライマーを用いたHEK293細胞におけるPERV DNAエレメントの検出を示す図である。
【
図23A】
図23A(
図S20)は、PERV envプライマーを用いたHEK293細胞におけるPERV DNAエレメントの検出を示す図である。
【
図23B】
図23B(
図S20)は、PERV envプライマーを用いたHEK293細胞におけるPERV DNAエレメントの検出を示す図である。
【
図23C】
図23C(
図S20)は、PERV envプライマーを用いたHEK293細胞におけるPERV DNAエレメントの検出を示す図である。
【
図23D】
図23D(
図S20)は、PERV envプライマーを用いたHEK293細胞におけるPERV DNAエレメントの検出を示す図である。
【
図24A】
図24A(
図S21)は、PERV gagプライマーを用いたHEK293細胞におけるPERV DNAエレメントの検出を示す図である。
【
図24B】
図24B(
図S21)は、PERV gagプライマーを用いたHEK293細胞におけるPERV DNAエレメントの検出を示す図である。
【
図24C】
図24C(
図S21)は、PERV gagプライマーを用いたHEK293細胞におけるPERV DNAエレメントの検出を示す図である。
【
図24D】
図24D(
図S21)は、PERV gagプライマーを用いたHEK293細胞におけるPERV DNAエレメントの検出を示す図である。
【
図25A】
図25A(
図S22)は、高改変クローン及び低改変クローンにおけるCas9/2gRNAの発現レベルを示す図である。
【
図25B】
図25B(
図S22)は、高改変クローン及び低改変クローンにおけるCas9/2gRNAの発現レベルを示す図である。
【
図26】
図26(
図S23)は、高改変PK15クローン及び低改変PK15クローンの主成分分析を示す図である。
【
図29A】
図29A(
図S26)は、活性PERVエレメントのCas9除去を引き起こすDNA修復過程のマルコフモデル解析を示す図である。
【
図29B】
図29B(
図S26)は、活性PERVエレメントのCas9除去を引き起こすDNA修復過程のマルコフモデル解析を示す図である。
【
図29C】
図29C(
図S26)は、活性PERVエレメントのCas9除去を引き起こすDNA修復過程のマルコフモデル解析を示す図である。
【
図29D】
図29D(
図S26)は、活性PERVエレメントのCas9除去を引き起こすDNA修復過程のマルコフモデル解析を示す図である。
【
図30-1】
図30(
図S27)は、全ゲノム配列解析(Whole Genome Sequencing)(WGS)を用いたオフターゲット解析を示す図である。
【
図30-2】
図30(
図S27)は、全ゲノム配列解析(Whole Genome Sequencing)(WGS)を用いたオフターゲット解析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の態様は、核酸工学のためのCRISPR/Cas9の使用を対象とする。本明細書には、複数の変異遺伝子を保有する動物(例えば、ブタ)の作製のための効率的な技術の開発が記載される。具体的には、本明細書ではCRISPR/Casシステムと称する、クラスタ化された規則的な間隔の短い回文構造の繰り返し(CRISPR)及びCRISPR関連遺伝子(Cas遺伝子)は、例えば多重ゲノム編集のための、効率的な遺伝子ターゲティング技術として適合している。本明細書では、CRISPR/Casを介した遺伝子編集により、ブタ腎上皮細胞株(例えば、PK15)中のブタ内在性レトロウイルス(PERV)pol遺伝子の62コピーの同時不活性化が高効率で可能になることが明らかにされる。Cas9 mRNAとPERVを標的とするガイドRNA(gRNA)との細胞への同時注入又はトランスフェクションにより、最大100%の効率で両方の遺伝子に両アリルの変異を有するヒト細胞へのPERV感染が1000分の1以下に低下した。本明細書では、CRISPR/Casシステムにより、PERVのすべてのコピーが不活性化された細胞の一段階作製が可能になることが示される。特定の実施形態では、本明細書に記載される方法により、20%~100%の効率で、例えば、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、またはそれ以上、例えば、最大96%、最大97%、最大98%、最大99%、またはそれ以上の効率で、1、2、3、4、5、またはそれ以上の遺伝子が不活性化された細胞及び動物、例えば、ブタが作製される。
【実施例】
【0031】
実施例1.ブタ内在性レトロウイルス(PERV)のゲノムワイド不活性化
移植のための臓器の不足は、臓器不全の治療に対する大きな障壁である。ブタの臓器は有望と考えられているが、ブタ内在性レトロウイルス(PERV)のヒトへの感染についての懸念によってその使用が阻止されている。本明細書では、ブタ腎上皮細胞株(PK15)中のすべてのPERVの根絶を実施した。最初に、PK15 PERVのコピー数は62と決定された。CRISPR-Cas9を使用してPERV pol遺伝子の62コピーのすべてを破壊し、本発明者らの遺伝子操作細胞を用いて、ヒト細胞へのPERV感染が1000分の1以下に低下することが実証された。この試験により、CRISPR-Cas9の多重性が62と高いと考えられることが示され、ブタからヒトへの異種移植への臨床適用のためにPERVが不活性化され得る可能性が実証される。
【0032】
ブタゲノムは、数コピーから数十コピーのPERVエレメントを含む。
他の人畜共通感染症病原体とは異なり、PERVはバイオセキュアな飼育(biosecure breeding)によって排除することはできない。ヒトへのPERV感染の危険性を低減するための従来の戦略には、低分子干渉RNA(RNAi)、ワクチン、並びにジンクフィンガーヌクレアーゼ及びTALエフェクターヌクレアーゼを用いたPERV除去が含まれるが、これらの成功は限られている。本明細書では、CRISPR-Cas9 RNAガイドヌクレアーゼ系の成功的使用は、PERV pol遺伝子のすべてのコピーを不活性化し、ヒト細胞のPERV感染性を1000分の1に低下させるのに用いることができる。
【0033】
PERVを特異的に標的とするCas9ガイドRNA(gRNA)を設計するために、ブタにおける公的に入手可能なPERV及び他の内在性レトロウイルスの配列(「方法」)を解析した。PERVエレメントの明確なクレード(
図1A)を同定し、液滴デジタルPCRを用いてPK15細胞中に62コピーのPERVが存在することを決定した(
図1B)。PERV上のpol遺伝子の高度に保存された触媒中心を標的とする2つのCas9ガイドRNA(gRNA)を設計した(
図1C、
図S1)。pol遺伝子産物は、逆転写酵素(RT)として機能し、したがってウイルスの複製及び感染に必須である。これらのgRNAは、すべてのPERVを標的とするが、他の内在性レトロウイルス又はブタゲノム中の他の配列は標的としないと判断された(「方法」)。
【0034】
最初の実験では、Cas9及びgRNAを一過性にトランスフェクトした場合、PERV編集が非効率的であることが示された(
図S2)。そこで、PiggyBacトランスポゾンシステムを用いてドキシサイクリン誘導性Cas9及び2つのgRNAをPK15細胞のゲノムに送達した(
図S2~3)。Cas9の持続的な誘導により、PERVのターゲティング頻度の上昇がもたらされ(
図S5)、17日目に37%(ゲノム当たり約23個のPERVコピー)の最大ターゲティング頻度が観察された(
図S5)。おそらくCRISPR-Cas9による非特異的DNA損傷の毒性のため、高濃度のドキシサイクリン又は長期インキュベーションのいずれによってもターゲティング効率は上昇しなかった(
図S4、5)。レンチウイルスコンストラクトを用いてCas9を送達した場合、同様の傾向が観察された(
図S6)。最大のPERVターゲティング効率を示した細胞株の遺伝子型を決定した。2つのgRNA標的部位を中心とする455の異なる挿入及び欠失(インデル)事象が認められた(
図2B)。インデルサイズは1bp~148bpの範囲であり、インデルの80%は小さな欠失(9bp未満)であった。最初のディープシーケンシングの結果をサンガー配列決定で検証した(
図S7)。
【0035】
PERVターゲティング効率が高いPK15細胞由来の単一細胞を、フローサイトメトリを用いて選別し、得られたクローンのpol遺伝子座をディープシーケンシングによって遺伝子型決定した。高レベルのPERV破壊(97%~100%)を示すクローンの約10%及び低レベルの編集(10%未満)を示す残りのクローンに関して再現可能な二峰性(
図2A、S8-9)分布を認めた。これらのクローンのゲノムにおいて個々のインデル事象を調べた(
図2B、
図S10~11)。高度に編集されたクローン(クローン20、100%;クローン15、100%;クローン29、100%;クローン38、97.37%)に関して、各クローンにおいて16~20の特有のインデルパターンのみが認められた(
図2B、S11)。さらに、各クローン内では、クローン全体よりもはるかに高い度合いのインデルの反復が存在し(
図S25)、すでに変異したPERVコピーを鋳型として用いてCas9により切断された野生型PERVを修復する、遺伝子変換の機構が示唆された(
図2B、
図S25)。PERV除去の間のDNA修復の数学的モデリング(
図S26)及び発現データの解析(
図S22~24)により、この仮説が支持され、高度に編集されたクローンがCas9及びgRNAが高発現された細胞に由来することが示唆された。
【0036】
次に、多重ゲノム編集の結果として予期せぬゲノム再編成が起こったかどうかを調べた。個々の改変クローンの核型分析(
図S12~S14)により、観察可能なゲノム再編成が存在しないことが示された。意図するgRNA標的の各々に最大で2bpのミスマッチを有する11個の独立したゲノム遺伝子座を調べ、非特異的変異は認められなかった(
図S27)。これにより、本発明者らのCas9に基づく多重ゲノム工学戦略が壊滅的なゲノム不安定性を引き起こさなかったことが示唆される。
【0037】
最後に、ブタゲノム中のPERV polの全コピーの破壊は、ブタからヒト細胞へのPERVのインビトロでの感染を排除することができるかどうかを調べた。高改変PK15クローンの細胞培養上清中のRT活性の検出は認められず(
図S15)、改変された細胞が最小限の量のPERV粒子しか産生しなかったことが示唆された。WT PK15細胞及び高改変PK15細胞とHEK293細胞との共培養物を、ヒト細胞へのPERV DNAの感染に関して直接試験した。PK15 WT及びHEK293細胞を5日間及び7日間共培養した後(
図S16~17)、HEK293細胞中のPERV pol配列、PERV gag配列、及びPERV env配列を検出した(
図3A)。PERV感染の推定頻度は、1000個のヒト細胞あたり約1000 PERVであった(
図3B)。しかしながら、97%超のPERV polターゲティングを有するPK15クローンでは、バックグラウンドレベルと同様の、PERV感染の最大1000分の1までの低下が示された(
図3C)。これらの結果は、PK15クローンとの接触履歴を有するHEK293細胞の連続希釈物のPCR増幅により検証された(
図3D、
図S18~21)。最小限に改変されたクローン40と共培養した集団から単離された単一HEK293細胞ではPERVが一貫して検出されたが、高改変クローン20と共培養した集団からの100個のヒト細胞ではPERVを明確に検出することはできなかった。したがって、遺伝子操作したPK15細胞のPERV感染性は最大1000分の1まで低下していた。
【0038】
要約すると、PK15細胞中の62コピーのPERV polのターゲティングに成功し、ヒト細胞へのPERVのインビトロ感染が大幅に減少されることが実証された。ヒトへのインビボPERV感染は実証されていないが、PERVは依然として危険と考えられており、本発明者らの戦略はこれを完全に排除し得る。ブタの胚性幹細胞は存在しないので、このシステムを初代ブタ細胞で反復し、体細胞核移植を用いて動物にクローニングする必要がある。さらに、顕著なゲノム再編成を伴わずに、単一ブタ細胞中の62遺伝子座の同時Cas9ターゲティングが達成された。本発明者らの知る限り、同時に編集されることがこれまでに報告されているゲノム部位の最大数は6であった。したがって、本発明者らの方法により、生物学的重要性のある他の反復領域を編集する可能性が開かれる。
【0039】
実施例2.方法
PERVコピー数の定量
Droplet Digital PCR(商標)PCR(ddPCR(商標))を使用して、製造業者の指示(Bio-Rad社)に従ってPERVのコピー数を定量した。簡単に述べると、培養細胞由来のゲノムDNA(DNeasy Blood&Tissue Kit、Qiagen社)を精製し、50ngのゲノムDNAをMseI(10U)で37℃にて1時間消化し、10μlの2×ddPCR Master mix、1μlの18μM標的プライマー及び5μM標的プローブ(VIC)、1μlの18μM参照プライマー及び5μM参照プローブ(FAM)、5ngの消化されたDNA、並びに20μLの総容量にするための水を用いてddPCR反応物を調製した。プライマーの配列及びプローブ情報は、「拡張データ」表1に示されている。
【0040】
方法
【0041】
【0042】
CRISPR-Cas9 gRNAの設計
MUSCLEを用いて、ブタゲノムに存在する245個の内在性レトロウイルスの多重配列アライメントを実施した。配列の系統樹を構築し、PERVを含むクレードを同定した(
図1a参照)。RライブラリDECIPHERを使用して、すべてのPERVを標的とするが他の内在性レトロウイルス配列は標的としない特異的gRNAを設計した。
【0043】
細胞培養
PK15を、10%ウシ胎仔血清(Invitrogen社)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Pen/Strep、Invitrogen社)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Invitrogen社)高グルコース中で維持した。すべての細胞を加湿インキュベータ内で37℃及び5%CO2で維持した。
【0044】
PiggyBac-Cas9/2gRNAの構築及び細胞株の樹立
PiggyBac-Cas9/2gRNAコンストラクトは、以前にWang et al(2)に報告されているプラスミドに由来する。簡単に述べると、U6-gRNA1-U6-gRNA2をコードするDNAフラグメントを合成し(Genewiz社)、これをPiggBac-Cas9コンストラクトに組み込んだ。PiggyBac-Cas9/2gRNAが組み込まれたPK15細胞株を樹立するために、5×105個のPK15細胞に、Lipofectamine 2000(Invitrogen社)を用いて4μgのPiggyBac-Cas9/2gRNAプラスミド及び1μgのSuper PiggyBac Transposaseプラスミド(System Biosciences社)をトランスフェクトした。コンストラクトが組み込まれた細胞を濃縮するために、トランスフェクションされた細胞に2μg/mLのピューロマイシンを添加した。陰性対照に基づき、ピューロマイシンを野生型PK15細胞に適用して、3日間で選択が完了したと判定した。以後、PK15-PiggyBac細胞株を2μg/mLのピューロマイシンで維持した。2μg/mlのドキシサイクリンを適用してCas9発現を誘導した。
【0045】
レンチウイルス-Cas9/2gRNAの構築及び細胞株の樹立
Lenti-Cas9/2gRNAコンストラクトは、以前に報告されたプラスミド(3)に由来した。U6-gRNA1-U6-gRNA2をコードするDNAフラグメントを合成し(Genewiz社)、これをLenti-Cas9-V2に組み込んだ。Lenti-Cas9/2gRNAを有するレンチウイルスを作製するために、Lipofectamine 2000を用いて、約5×106個の293FT HEK細胞に3μgのLenti-Cas9-gRNA及び12μgのViraPower Lentiviral Packaging Mix(Invitrogen社)をトランスフェクトした。レンチウイルス粒子をトランスフェクションの72時間後に回収し、Lenti-X GoStix(Takara Clonetech社)を用いてウイルス力価を測定した。約105個のレンチウイルス粒子を約1×106個のPK15細胞に形質導入し、形質導入の5日後に、形質導入細胞を濃縮するためにピューロマイシンによる選択を行った。その後PK15-Lenti細胞株を2μg/mLのピューロマイシンで維持した。
【0046】
コロニー形成した単一PK15細胞の遺伝子型決定
PK15培養物を、TrypLE(Invitrogen社)を用いて解離させ、生細胞識別色素ToPro-3(Invitrogen社)を含むPK15培地に1~2×105細胞/mlの濃度で再懸濁した。PK15生細胞を、無菌条件下で100mmノズルを有するBD FACSAria II SORP UV(BD Biosciences社)を用いて単細胞選別した。ウェルあたり一細胞のみが確実に選別されるように、SSC-H対SSC-W及びFSC-H対FSC-Wダブレット識別ゲート及びストリンジェントな「0/32/16単一細胞」選別マスクを使用した。各ウェルが100μlのPK15培地を含む96ウェルプレートに細胞を選別した。選別後、プレートを70gで3分間遠心分離した。選別の7日後にコロニー形成が見られ、FACSの2週間後に遺伝子型決定実験を実施した。
【0047】
クローン増殖を伴わない単一のPK15細胞を遺伝子型決定するために、以前に報告された単一細胞遺伝子型決定プロトコル(4)に従って、選別された単一細胞からPERV遺伝子座を直接増幅した。簡単に述べると、選別の前に、すべてのプラスチック及び非生物学的緩衝液をUV照射で30分間処理した。各ウェルが0.5μlの10×KAPA Express Extract緩衝液(KAPA Biosystems社)、0.1μlの1U/μlのKAPA Express Extract酵素、及び4.6μlの水を含む96ウェルPCRプレートに単一細胞を選別した。溶解反応物を75℃で15分間インキュベートし、95℃で5分間、反応物を不活性化した。次いで、すべての反応物を、12.5μlの2×KAPA 2G fast(KAPA Biosystems社)、100nMのPERV illuminaプライマー(「方法」表2)、及び7.5μlの水を含む、25μlのPCR反応物に添加した。反応物を95℃で3分間インキュベートし、続いて95℃、10秒;65℃、20秒;及び72℃、20秒の25サイクルに供した。Illumina配列アダプタを付加するために、12.5mlの2 KAPA HIFI Hotstart Readymix(KAPA Biosystems社)、Illumina配列アダプタを有する100nMプライマー、及び7μlの水を含む20μlのPCRミックスに、5μlの反応産物を添加した。反応物を95℃で5分間インキュベートし、続いて98℃、20秒;65℃、20秒;及び72℃、20秒の15~25サイクルに供した。PCR産物をEX 2%ゲル(Invitrogen社)上で検査し、続いてゲルから300~400bpの産物を回収した。次いで、これらの産物をほぼ同じ量で混合し、精製して(QIAquick Gel Extraction Kit)、MiSeq Personal Sequencer(Illumina社)で配列決定した。ディープシーケンシングデータを解析し、CRISPR-GA(5)を用いてPERV編集効率を決定した。
【0048】
【0049】
ターゲティング効率の推定
カスタムパイプラインを構築し、PERV不活性化の効率を推定した。簡単に述べると、pol遺伝子を増幅し、PE250又はPE300を使用してIllumina Next Generation Sequencingによって配列決定した。最初に、2つの重複するリードを、PEAR(6)を使用して組み合わせ、BLATを使用して参照領域にマッピングした。マッピング後、リードを、ハプロタイプとインデルタイプの特定の組合せを含むセットに分類した(「拡張データ」
図7参照)。マッピングされたリードの総数の0.5%未満の表示を有するリードセットは破棄した。最後に、Giiell et al(5)に記載されているようにマッピング出力を解析し、種々の挿入及び削除をコールした。
【0050】
RNA-seq解析
susScr3ブタゲノム及びEnsembl転写産物は、UCSC Genome Brower Databaseから入手した。RNA-Seqリードを、STARソフトウェア(7)を用いて参照ゲノムにマッピングし、BEDTools(8)を用いて転写産物のRPKMを定量した。発現差異解析を、DESeq2パッケージ(9)を用いてRで実施し、ソフトウェアのウェブサイトから入手した遺伝子セットの定義を用いてGSEAソフトウェア(10)により遺伝子セット濃縮解析を行った。
【0051】
逆転写酵素(RT)アッセイ
PK15細胞及び改変PK15クローン(4種の高改変クローン及び1種の低改変クローン)のRT活性を試験するために、5×105個の細胞をT75cm2フラスコに播種し、播種の4日後に上清を回収した。0.45μMのMillex-HV Syringe Filter(EMD Millipore Corporation社)を用いて培地をろ過し、ろ過した上清を、Amicon Ultra-15 Centrifugal Filter Unit(EMD Millipore Corporation社)を用いて4000gで30分間濃縮した。濃縮した上清を50,000rpmで60分間、超遠心分離した。上清を慎重に除去し、ウイルスペレットを回収して、20μlの10%NP40で37℃にて60分間溶解した。
【0052】
Omniscript RT Kit(Qiagen社)を用いてRT反応を実施した。反応物の総容量は20μlであり、1 RT緩衝液、0.5mM dNTP、0.5μMインフルエンザ逆方向プライマー(5′ CTGCATGACCAGGGTTTATG 3′)(配列番号:14)、100単位のRnaseOUT(Life Technology、Invitrogen社)、100単位のSuperRnase Inhibitor(Life Technologies社)、5μlの試料溶解産物、及び5′末端と3′末端の両方でリボヌクレアーゼ耐性であった40ngのIDT合成インフルエンザRNA鋳型を含んでいた。RNA鋳型配列は、5′ rA*rA*rC*rA*rU*rGrGrArArCrCrUrUrUrGrGrCrCrCrUrGrUrUrCrArUrUrUrUrArGrArAr ArUrCrArArGrUrCrArArGrArUrArCrGrCrArGrArArGrArGrUrArGrArCrArUrArArArCrCrCrUrGrGrUrCrArUrGrCrArGrArCrCrU*rC*rA*rG*rU*rG 3′(*ホスホジエステル結合)(配列番号:15)であった。RT反応の完了後、インフルエンザ順方向プライマー(5′ ACCTTTGGCCCTGTTCATTT 3′)(配列番号:16)及びインフルエンザ逆方向プライマー(上記に示す配列)を用いてPCRによってRT産物を調べた。像副産物の予想サイズは72bpであった。
【0053】
感染性アッセイ
HEK293-GFP細胞株の樹立
Lenti-GFPコンストラクトは、プラスミドpLVX-IRES-ZsGreen1(Clontech社、カタログ番号632187;PT4064-5)に由来した。Lenti-GFPを有するレンチウイルスを作製するために、Lipofectamine 2000(Invitrogen社)を用いて、約5×106個の293FT HEK細胞に3μgのpVX-ZsGreenプラスミド及び12μgのViraPower Lentiviral Packaging Mix(Invitrogen社)をトランスフェクトした。レンチウイルス粒子をトランスフェクションの72時間後に回収し、Lenti-X GoStix(Takara Clonetech社)を用いてウイルス力価を測定した。約105個のレンチウイルス粒子を約1×106個のHEK293細胞にトランスフェクトし、形質導入の5日後に、形質導入細胞を濃縮するためにピューロマイシンによる選択を実施した。その後、293-GFP-Lenti細胞株を0.5μg/mLのピューロマイシンで維持した。
【0054】
HEK293-GFPに対するPK15 WTの感染性試験
Lenti-GFP-293FT HEK細胞の1×105個の細胞及び1×105個のPK15 WT細胞を6ウェルプレートで共培養した。並行して、2×105個のPK15 WT細胞を対照として別のウェルで単独で培養した。5μg/mlの抗生物質を7日間添加することによってピューロマイシン選択実験を行った。対照ウェルに生存細胞がなく、実験ウェルに約100%のGFP陽性細胞が存在した時点を、lenti-GFP-293FTヒト細胞を精製するためのピューロマイシン選択が完了した時点であると決定した。293FT HEK/PK15 WT共培養物からの細胞を種々の時間間隔で収集した。293-GFP WT、PK15 WTの培養細胞及び共培養細胞から、(DNeasy Blood&Tissue Kit、Qiagen社)を用いてゲノムDNAを抽出した。Qubit 2.0 Fluorometer(Invitrogen社)を用いてゲノムDNA濃度を測定し、各試料から3ngをPCRのためのDNA鋳型として使用した。全体で、1μLのゲノムDNAを、12.5μLの2×KAPA Hifi Hotstart Readymix(KAPA Biosystems社)及び100μMの「方法」表3に列挙したプライマーを含む25μLのPCRミックスに添加した。反応物を95℃で5分間インキュベートし、続いて98℃、20秒;65℃、20秒;及び72℃、20秒の35サイクルに供した。PCR産物をEX 2%ゲル(Invitrogen社)上で可視化し、300~400塩基対のバンドを観察した。
【0055】
【0056】
HEK293-GFP細胞中の感染したPERVコピー数の定量
HEK293-GFP細胞中のPERVコピー数を定量するためにqPCRを実施した。種々の量のPK15 WT細胞のゲノムDNAをqPCR反応の鋳型として使用した。
反応は、KAPA SYBR FAST qPCR Master Mix Universal(KAPA Biosystems社)を用いて三連で実施した。PERV polプライマー、PERV envプライマー、PERV gagプライマー、ヒトACTBプライマー、及びブタGGTA1プライマー(「方法」表3)を最終濃度1μMになるように添加した。反応物を95℃で3分間(酵素活性化)インキュベートし、続いて95℃、5秒(変性);60℃、60秒(アニーリング/伸長)の50サイクルに供した。ゲノムDNA量の対数は定量サイクル(Cq)と直線的に相関する。polプライマー、gagプライマー、envプライマーを用いてPERVの存在を調べた。ブタGGTA1プライマーは、感染後のヒト細胞中の潜在的なブタゲノム混入物質を制御するのに役立った。すべての実験を三連で実施した。
【0057】
HEK293-GFPに対する改変PK15クローンの感染性アッセイ
HEK293-GFP細胞の1×105個の細胞と、高改変クローン(15、20、29、38)及び低改変クローン(40、41)の1×105個の細胞を6ウェルプレートで7日間共培養した。PERVエレメントを調べる目的でHEK293-GFP細胞を単離するため、GFP陽性細胞を二重選別してヒト細胞集団を精製した。
【0058】
HEK293-GFP細胞に対する種々のクローンのPERV感染性を定量するために、選別後に系列希釈したHEK293-GFP細胞についてqPCRアッセイ及びPCRアッセイの両方を実施した。qPCRアッセイのために、ゲノムDNA(DNeasy Blood&Tissue Kit、Qiagen社)を、二重選別したHEK293-GFP細胞から抽出した。Qubit 2.0蛍光光度計(Invitrogen社)を用いてゲノムDNA濃度を測定した。全体で、3ngのゲノムDNAを、PERV polプライマー、PERV envプライマー、PERV gagプライマー、及びブタGGTAプライマー(「拡張データ」表2)をそれぞれ用いて、20μLのKAPA SYBR FAST qPCR反応物(KAPA Biosystems)に添加した。qPCR手順は、上記のように実施した。系列希釈アッセイのために、精製したHEK293-GFP細胞を、直接ゲノムDNA抽出及びPCR反応のために96ウェルPCRプレートに選別した(1ウェルあたり1細胞、1ウェルあたり10細胞、1ウェルあたり100細胞、1ウェルあたり1000細胞)。簡単に述べると、細胞を、2μLの10X KAPA Express Extract緩衝液、0.4μLの1U/μL KAPA Express Extract酵素、及び17.6μLのPCRグレードの水(KAPA Biosystems社)を含む20μLの溶解反応物中に選別した。次いで、反応物を55℃で10分間(溶解)、続いて95℃で5分間(酵素不活性化)インキュベートした。次に、PCRマスターミックスを調製した。全体で、2μLのゲノムDNA溶解産物を、1μM PERV polプライマー、PERV envプライマー、PERV gagプライマー、又はブタGGTAプライマー(「拡張データ」表2)をそれぞれ用いて、4つの異なる25μLのKAPA Hifi Hotstart PCR反応物(KAPA Biosystems社)に添加した。反応物を95℃で3分間(初期変性)インキュベートし、続いて95℃、15秒(変性);60℃、15秒(アニーリング)、72℃、1kbあたり15秒、次いで75℃、1kbあたり1分(最終伸長)の35サイクルに供した。(KAPA Biosystems社)。PCR産物を、96ウェルE-Gel(登録商標)アガロースゲル、SYBR(登録商標)Safe DNAゲル(Invitrogen社)上で可視化した。
【0059】
CRISPR-Cas9オフターゲット解析
PK15(未処理細胞株)及びクローン20(高度に編集されたクローン)について全ゲノム配列決定(WGS)データを得た。Cas9/2gRNAの潜在的なオフターゲット効果を調べるために、参照配列(Sus Scrofa 10.2)を、2つのgRNAによって標的とされる20bp配列と1bp又は2bpだけ異なる部位に関して検索した。11箇所のそのような部位を同定し、それらの隣接領域の200bpと共に抽出した(
図S1)。BLATを使用して、抽出した参照配列にWGSリードをマッピングし、オフターゲット効果の結果としてクローン20に出現した潜在的なインデルパターンを検索した。遺伝子座あたり平均7~8倍の範囲を得た。参照配列とのマッチが50bp未満であるリードは除外した。インデルの存在を示し得る複数のアライメントブロックを有する参照配列にマッピングされたリードの場合、アライメントブロックが参照配列と20bp未満のマッチを含むリードは除外した。マッピングされた残りのリードを検査した後、クローン20におけるオフターゲットインデルパターンの存在は検出されなかった。ここでオフターゲットに対する包括的検索の別の課題は、Sus Scrofaゲノムが依然として完全でないか、又は完全にアセンブルされておらず、全ゲノム解析を行う能力が限られていることである。
【0060】
累積的PERV不活性化の間のDNA修復過程相互作用の数学的モデル
この試験では、Cas9によって生じたdsDNA切断に応答したDNA修復過程により生成された突然変異によって、PERVエレメントを不活性化した。dsDNA切断は非相同末端結合(NHEJ)又は相同修復(HR)のいずれかによって修復され得ること、並びにHRは適切な相同アームを有する鋳型が存在すると切断部位にDNA鋳型配列の正確なコピーを作製することができるが、NHEJは突然変異(特にインデル)を作製することができ、しばしば「誤りがち(error prone)」と見なされていることは、一般に理解されている。しかし、NHEJもdsDNA切断を高精度に修復できるという証拠があり(11、12)、NHEJによる変異を生じた修復に対する完全な修復の相対的な割合は、正確には測定されていない。特に、Cas9などの効率的なターゲティングヌクレアーゼが長期間発現される場合、NHEJ又はHRのいずれかによる切断部位の完全な修復により、再度切断され得る標的部位が再生成される。妥当な仮説は、完全な修復及び再切断の過程が、標的部位を認識するヌクレアーゼの能力を破壊する突然変異が生じるまで繰り返し起こるということである。これらの修復様式がPERV除去の過程で一体となって機能し得る方法を探るために、それらの相互作用をマルコフ過程としてモデル化した。具体的には、以下のように仮定した。
【0061】
・1細胞内にN個の同一コピーのヌクレアーゼ標的が存在する。
・野生型標的だけが認識されて切断され、一度に1つの標的だけが切断されて修復される。
・DNA修復は以下のいずれかである.
-NHEJによる標的部位の完全な修復(確率n)
-標的認識を消失させる突然変異の生成をもたらすNHEJ(確率m)
-細胞内の他のN-1個の標的配列のいずれか1つを用いたHRによる修復(確率h)
【0062】
したがって、n+m+h=1である。
【0063】
マルコフモデルにより、以下の確率分布が計算される。
【0064】
【0065】
ここでpi
(c)は、切断cにi個の標的を消失させる突然変異が存在する確率であり、ここでc=0、1、2...である。初期条件をP(0)=(1、0、・・・、0)、すなわちすべての標的が野生型として始まると仮定する。N+1個ごとの遷移行列Mは以下のように示される。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
最後に、c=0、1、2、・・・については、
【数5】
【0070】
Mに対する式は上記の命題iiを仮定しており、細胞内の突然変異した部位の数は、野生型の部位での切断がNHEJ又は野生型鋳型の別のコピーを用いたHRによって完全に修復される場合(M(i,i)の式)は常に不変であるが、切断が、突然変異誘発性NHEJ又は先に変異した部位を用いたHRによって修復された場合(M(i,i + 1)の式)は1つ増加することを数学的に述べている。
【0071】
このモデルにより、実際の生物学に、以下の2つの注目すべき単純化が組み込まれている。(i)標的認識はバイナリである、すなわちヌクレアーゼは標的を認識するか又は認識しないかのいずれかであると仮定する。これは、依然として標的認識を支持する小さな変異が野生型切断速度を実質的に変化させず、そのため効果的に野生型部位と一緒に扱うことができると仮定するのに等しい。(ii)変異鋳型を用いるHR修復に対して野生型鋳型を用いるHR修復は同等に効率的であると仮定する。これらの単純化に対処するためにモデルに変更を加えることはできるが、ここでは考慮しない。形式的に、上記の仮定iiを前提とすると、この時点では切断すべき野生型部位は残っていないので、cのある値について条件pN
(c)=1の場合、マルコフ処理は実際には停止するはずであるが、代わりに数学的に起こるのは、切断は継続するがモデルは固定された状態のままであるということであり、これも意味を為さない。最後に、このモデルは、時間の関数としてではなく、独立変数c(切断の数)の関数としての変異数分布を効果的に表す。DNA修復又はPERV部位除去の時間割合に関して予測は為されていないが、時間はcと共に単調に増加すると仮定することができる。
【0072】
マルコフモデルを介してPERV除去を解析するために、Nは常に62に設定した。しかし、完全なNHEJ修復に対する変異誘発性NHEJ修復の相対効率は(上記のように)未知であり、変異誘発性NHEJに対するHR修復の相対的割合は細胞の状態及び種類によって大きく異なり得るので、n、m、及びhのすべての可能なパラメータ値(全体で2500のパラメータの組合せ)の完全な2次元空間をカバーする離散グリッドについての変異数分布を計算した。このモデルを、MatLab(Mathworks,Waltham)スクリプトとして及びライブラリマルコフ連鎖を用いたRスクリプトとして(それぞれ「補足ファイル」のmodelMarkov.m、modelMarkov.Rとして利用可能)実行した。
【0073】
特定のパラメータ値についてマルコフモデルによって変異数分布を計算することに加えて、MatLabスクリプトは、一連のKカット全体にわたってNHEJ修復過程及びHR修復過程のランダムなシミュレーションを実施し、
図27B~Cに示されている、総変異数に対する個別NHEJ事象の二変量分布を推定することを可能にした。Rスクリプトを使用して、上記のn、m、及びhの組合せのグリッドにわたってシステムの最も可能性の高い状態を推定した。Kは計算によって異なった。
図S27に示すように、モデルの不変の結果は、平均がcと共にN個の突然変異の固定へと進む変異数の単峰性分布であり、
図S27B.Cでは、Kを、固定を実証するのに十分な高さの値に設定した。nグリッド、mグリッド、及びhグリッドにわたるシステムの最も可能性の高い状態の計算のために、Kを50、100、200、又は500に設定し、各パラメータの組合せについて100回のシミュレーションを行った。
【0074】
データの寄託
PERVs要素の遺伝子型解析データを含むIllumina Miseqのデータは、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute)(EBI)によって管理運営される欧州ヌクレオチドアーカイブ(European Nucleotide Archive)(ENA)に提出参照番号PRJEB 11222でアップロードされている。
【0075】
付属書Aは、本教示の様々な態様に関するさらなる情報を提供し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0076】
DNA配列表は、ブタゲノム配列及び公的配列データベースから抽出した複数の内在性レトロウイルスエレメントのゲノム配列をさらに含む。(配列番号:30~280)
【0077】
本明細書で引用したすべての特許、公開出願及び参考文献の教示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0078】
本発明を、その例示的な実施形態を参照して具体的に示し、説明したが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく形態及び詳細の様々な変更を行い得ることは当業者に理解される。
本開示に係る態様は以下の態様も含む。
<1>
細胞内の1又は複数の標的核酸配列の発現を不活性化する方法であって、
前記1又は複数の標的核酸配列の各々の全体又は一部に相補的な部分を含む1又は複数のリボ核酸(RNA)配列及びCasタンパク質をコードする核酸配列を細胞に導入すること;並びに
前記細胞内で前記Casタンパク質が発現され、且つ前記Casタンパク質が前記1又は複数の標的核酸配列に結合して不活性化する条件下で前記細胞を維持すること
を含む方法。
<2>
前記導入工程が、前記1又は複数のRNA配列及び前記Casタンパク質をコードする核酸配列を前記細胞にトランスフェクトすることを含む、<1>に記載の方法。
<3>
前記1又は複数のRNA配列、前記Casタンパク質をコードする核酸配列、又はそれらの組合せが前記細胞のゲノムに導入される、<1>に記載の方法。
<4>
前記Casタンパク質の発現が誘導される、<1>に記載の方法。
<5>
前記細胞が胚由来である、<1>に記載の方法。
<6>
前記細胞が、幹細胞、接合子、又は生殖系列細胞である、<1>に記載の方法。
<7>
前記幹細胞が、胚性幹細胞又は多能性幹細胞である、<6>に記載の方法。
<8>
前記細胞が体細胞である、<1>に記載の方法。
<9>
前記体細胞が真核細胞である、<8>に記載の方法。
<10>
前記真核細胞が動物細胞である、<9>に記載の方法。
<11>
前記動物細胞がブタ細胞である、<10>に記載の方法。
<12>
前記1又は複数の標的核酸配列がブタ内在性レトロウイルス(PERV)遺伝子を含む、<1>に記載の方法。
<13>
前記PERV遺伝子がpol遺伝子を含む、<12>に記載の方法。
<14>
前記pol遺伝子の1又は複数のコピーが不活性化される、<13>に記載の方法。
<15>
前記細胞内の前記pol遺伝子のすべてのコピーが不活性化される、<14>に記載の方法。
<16>
前記Casタンパク質がCas9である、<1>に記載の方法。
<17>
前記1又は複数のRNA配列が約10から約1000ヌクレオチドである、<1>に記載の方法。
<18>
前記1又は複数のRNA配列が約15から約200ヌクレオチドである、<1>に記載の方法。
<19>
細胞内の1又は複数の標的核酸配列を変化させる方法であって、
前記細胞内の標的核酸配列の全体又は一部に相補的なRNAをコードする核酸配列を前記細胞に導入すること;
前記RNAと相互作用し且つ前記標的核酸配列を部位特異的に切断する酵素をコードする核酸配列を前記細胞に導入すること;及び
複合体を形成する相補的標的核酸配列に前記RNAが結合する条件下で前記細胞を維持することを含み、
前記酵素が前記複合体上の結合部位に結合して、前記1又は複数の標的核酸配列を変化させる方法。
<20>
導入工程のそれぞれが、前記細胞に前記核酸配列をトランスフェクトすることを含む、<19>に記載の方法。
<21>
前記RNAをコードする核酸配列、前記Casタンパク質をコードする核酸配列、又はそれらの組合せが前記細胞のゲノムに導入される、<19>に記載の方法。
<22>
前記酵素をコードする核酸配列を誘導によって発現させる、<19>に記載の方法。
<23>
前記細胞が胚由来である、<19>に記載の方法。
<24>
前記細胞が、幹細胞、接合子、又は生殖系列細胞である、<19>に記載の方法。
<25>
前記幹細胞が胚性幹細胞又は多能性幹細胞である、<24>に記載の方法。
<26>
前記細胞が体細胞である、<19>に記載の方法。
<27>
前記体細胞が真核細胞である、<26>に記載の方法。
<28>
前記真核細胞が動物細胞である、<27>に記載の方法。
<29>
前記動物細胞がブタ細胞である、<28>に記載の方法。
<30>
前記1又は複数の標的核酸配列がブタ内在性レトロウイルス(PERV)遺伝子を含む、<19>に記載の方法。
<31>
前記PERV遺伝子がpol遺伝子を含む、<30>に記載の方法。
<32>
前記pol遺伝子の1又は複数のコピーが不活性化される、<19>に記載の方法。
<33>
前記細胞内の前記pol遺伝子のすべてのコピーが不活性化される、<32>に記載の方法。
<34>
前記酵素がCRISPR関連(Cas)タンパク質である、<19>に記載の方法。
<35>
前記Casタンパク質がCas9である、<34>に記載の方法。
<36>
前記RNAをコードする核酸配列が約10から約1000ヌクレオチドである、<19>に記載の方法。
<37>
前記RNAをコードする核酸配列が約15から約200ヌクレオチドである、<19>に記載の方法。
<38>
遺伝子操作された細胞であって、
1又は複数の内在性レトロウイルス遺伝子;及び
前記1又は複数の内在性ウイルス遺伝子の1又は複数の標的核酸配列の全体又は一部に相補的な部分を含む1又は複数の外来性核酸配列
を含み、
前記細胞の1又は複数の内在性ウイルス遺伝子の各々が変化されている、細胞。
<39>
遺伝子操作された細胞であって、
複数の内在性ウイルス遺伝子;及び
前記複数の内在性ウイルス遺伝子の1又は複数の標的核酸配列の全体又は一部に相補的な部分を含む1又は複数の外来性核酸配列
を含み、
前記細胞の複数の内在性ウイルス遺伝子の各々が変化されている、細胞。
<40>
前記レトロウイルス遺伝子がブタ内在性レトロウイルス(PERV)遺伝子を含む、<39>に記載の遺伝子操作された細胞。
<41>
前記PERV遺伝子がpol遺伝子を含む、<40>に記載の遺伝子操作された細胞。
<42>
前記pol遺伝子の変化により前記pol遺伝子の1又は複数のコピーが不活性化されている、<41>に記載の遺伝子操作された細胞。
<43>
前記細胞内の前記pol遺伝子のすべてのコピーが不活性化されている、<42>に記載の遺伝子操作された細胞。
【配列表】