(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】風車のタワー撮像システム
(51)【国際特許分類】
F03D 17/00 20160101AFI20240416BHJP
G05D 1/46 20240101ALI20240416BHJP
B64U 10/14 20230101ALI20240416BHJP
B64U 20/87 20230101ALI20240416BHJP
B64C 13/18 20060101ALI20240416BHJP
B64U 101/26 20230101ALN20240416BHJP
【FI】
F03D17/00
G05D1/46
B64U10/14
B64U20/87
B64C13/18 Z
B64U101:26
(21)【出願番号】P 2023141773
(22)【出願日】2023-08-31
【審査請求日】2023-08-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(73)【特許権者】
【識別番号】518156358
【氏名又は名称】株式会社センシンロボティクス
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】白濱 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】小村 昭義
(72)【発明者】
【氏名】宮部 昇三
(72)【発明者】
【氏名】関 正明
(72)【発明者】
【氏名】正岡 克
(72)【発明者】
【氏名】小山 貴史
(72)【発明者】
【氏名】池口 翔太郎
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-021491(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0017866(US,A1)
【文献】特開2021-009508(JP,A)
【文献】特開2019-009919(JP,A)
【文献】特開2018-181235(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0136630(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0018291(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03109716(EP,A1)
【文献】国際公開第2022/096756(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0104762(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/00-80/80
G05D 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置を有する飛行体と制御装置を含む風車のタワー撮像システムであって、
前記制御装置は、
前記
飛行体が前記風車のタワーの所定の高さ位置において、固定された前記風車のブレードが前記タワーに重ならず
に前記タワーを全周方向から撮像する
ように、撮像開始位置から撮像終了位置まで撮像順に並べた全ての飛行目的位置と前記飛行体の姿勢制御情報を示す回転情報と、を含むデータを算出し、前記撮像装置を使用して前記タワーを撮像する前段階において前記飛行体に送信し、
前記飛行体は、前記
データを受信し、全ての前記飛行目的位置を撮像順に自動飛行して移動し、それぞれの前記飛行目的位置において
前記回転情報に基づいて姿勢制御を行って回転し、前記撮像装置により前記タワーを撮像することを特徴とする
風車のタワー撮像システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
入出力部から前記風車の立地場所を示すサイト情報と、前記風車の個体識別情報を示す号機情報と、前記タワーを撮像する際の撮像モード情報と、真北から前記風車のブレードの鉛直下方向に向いたブレードの中心線まで、時計回りに回転した角度を示すナセル方位角情報を取得して、
前記タワーを撮像した画像情報に、前記サイト情報と前記号機情報を含むタワー関連情報と、前記飛行目的位置と前記撮像モード情報と前記ナセル方位角情報を含む撮像条件と、を紐づけて記憶媒体に記憶することを特徴とする
請求項1に記載の風車のタワー撮像システム。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記サイト情報と前記号機情報と前記撮像モード情報に基づいて、前記高さ位置と、前記タワーの中心位置と、前記中心位置から水平方向への所定の離間距離と、前記撮像モード情報に対応する全ての水平方向角度を風車情報データベースから抽出し、
前記高さ位置における水平面において、前記タワーの中心位置から前記離間距離を半径とする円軌道を形成し、
前記タワーの中心位置において、基準線からそれぞれの前記水平方向角度分だけ時計回りに回転して形成する中心角の位置から、前記円軌道に延伸する直線と前記円軌道との交点を前記タワーの中心位置の相対位置として求め、前記タワーの中心位置の緯度情報と経度情報に基づき前記相対位置の緯度情報と経度情報を算出し、
前記高さ位置と前記相対位置の緯度情報と経度情報により前記飛行目的位置を構成することを特徴とする
請求項2に記載の風車のタワー撮像システム。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記タワーの中心位置において、前記真北から前記ナセル方位角情報分だけ時計回りに回転した中心角の位置で、前記タワーの中心位置から前記円軌道に延伸する線分を前記基準線として設定することを特徴とする
請求項3に記載の風車のタワー撮像システム。
【請求項5】
前記飛行体は、前記飛行目的位置に移動した後において、前記撮像装置が前記中心位置に向くように前記飛行体の姿勢制御を行うことを特徴とする
請求項3に記載の風車のタワー撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風車のタワー撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラを搭載したドローンを用いて構造物を点検するサービスが実用化されており、ドローンのカメラで撮影した画像に基づいて、構造物の破損や劣化の状態を診断することができる。特に足場の確保が困難な高所での点検作業にドローンを用いることにより、作業者の安全を確保しやすくなるとともに、点検に要する時間を短縮できるというメリットがある。
特許文献1には、カメラを備えた無人航空機を自動飛行させて構造物(鉄塔や送電線、排気塔などの地上に建てられた構造物)を撮影するための飛行経路を生成できる飛行経路生成装置が開示されている。
【0003】
特許文献1の飛行経路生成装置は、ユーザーの指示を入力する入力装置と、ディスプレイと、飛行経路を生成するための処理を行う処理部と、を有する。
まず、構造物の3次元画像と、構造物上の撮影対象領域と、撮影対象領域に向かう無人航空機のカメラの撮影方向と、がディスプレイに表示される。次に、入力装置に入力される指示に応じて、撮影対象領域及び撮影方向が変更される。
そして、撮影対象領域及び撮影方向を確定する指示が入力装置に入力されると、無人航空機の飛行経路上の撮影位置と、その撮影位置において構造物を撮影するカメラの姿勢とが、確定した撮影対象領域及び撮影方向に基づいて算出される。撮影位置は、構造物を鉛直方向に貫く仮想的な中心線から所定の距離にあるように算出される。
【0004】
さらに、特許文献1の構造物点検方法は、以下の工程を含む。
・第1工程(ST100)では、点検対象となる構造物の3次元形状データを取得する。3次元形状データを取得は、UAV(Unmanned Aerial Vehicle 無人飛行体)を構造物の周囲の比較的離れた場所で飛行させながら構造物の概ね全体を写した複数枚の画像撮影を行う、または、レーザースキャナなどの3次元計測装置を用いる等の方法による。
・第2工程(ST105)では、第1工程で取得した3次元形状データに基づいてUAVの飛行経路を作成する。
・第3工程(ST110)では、第2工程で作成した飛行経路を基にUAVを自動飛行させ構造物を撮影する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
なお、風車のブレード(羽)だけでなく、そのブレードを支える支柱(タワー)も、点検対象の箇所として重要である。
2023年3月17日に青森県の六ヶ所村風力発電所において発生した風車の倒壊事故を踏まえ、経済産業省は、倒壊した風車と同型式を有する風車設置者に対して、同様の事故発生の可能性を念頭に、緊急点検を要請した。当該風車設置者の調査によると、倒壊した風車は、タワーの溶接部において破断が生じており、破断面を観察した結果、広範囲にわたり内外面を貫通する疲労亀裂(推定)や外面の発錆、内面の塗装割れが確認されているとのことであった。
こうした亀裂や発錆、塗装割れは、タワー内外からの外観検査により発見できる可能性があるため、再発防止の観点から他の型式の風車設置者にも水平展開され、緊急の点検要請があることが想定される。
【0007】
当該風車設置者がHP上で公開している緊急点検事項は、以下に示す(事項1)~(事項3)となっている。
(事項1)タワーの外面溶接線部の点検。タワー外面を、望遠カメラ等を用いて点検を行い、周方向溶接線の発錆部を確認・記録する。
(事項2)タワーの内面溶接線部の点検。(事項1)にて確認された溶接線発錆部の内面部の溶接線部に塗装割れ・発錆がないか、確認、記録する。
(事項3)詳細調査。(事項2)にて内面の塗装割れ・発錆が認められた箇所については、詳細点検として非破壊検査を実行し、亀裂の有無、範囲を確認する。非破壊検査は、例えば、UT(Ultrasonic Testing)=超音波探傷検査や、MT(Magnetic Particle Testing)=磁粉探傷検査である。
【0008】
しかし、点検対象となるタワーの撮影に適した構造物点検方法は、提案されていない。例えば、特許文献1の方法では、第1工程において構造物の3次元形状データを取得しなければならず、その工程に時間を要する。
【0009】
そこで、本発明は、風車の型式に応じたタワー点検時における、飛行体に搭載した撮像装置の好適な飛行ルートを設定し、その飛行ルートに従いタワーを撮像するタワー撮像システムを提供することを、主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の風車のタワー撮像システムは、以下の特徴を有する。
本発明は、撮像装置を有する飛行体と制御装置を含む風車のタワー撮像システムであって、
前記制御装置が、
前記飛行体が前記風車のタワーの所定の高さ位置において、固定された前記風車のブレードが前記タワーに重ならずに前記タワーを全周方向から撮像するように、撮像開始位置から撮像終了位置まで撮像順に並べた全ての飛行目的位置と前記飛行体の姿勢制御情報を示す回転情報と、を含むデータを算出し、前記撮像装置を使用して前記タワーを撮像する前段階において前記飛行体に送信し、
前記飛行体が、前記データを受信し、全ての前記飛行目的位置を撮像順に自動飛行して移動し、それぞれの前記飛行目的位置において前記回転情報に基づいて姿勢制御を行って回転し、前記撮像装置により前記タワーを撮像することを特徴とする。
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、風車の型式に応じたタワー点検時における、飛行体に搭載した撮像装置の好適な飛行ルートを設定し、その飛行ルートに従いタワーを撮像するタワー撮像システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に関するタワー撮像システムの概略を表す全体構成図である。
【
図2】本実施形態に関する飛行体の構成を示す斜視図である。
【
図3】本実施形態に関する入力情報テーブルに関する説明図である。
【
図4】本実施形態に関する風車関連テーブルに関する説明図である。
【
図5】本実施形態に関するタワー全体を構成する分割構造体に関する説明図である。
【
図6】本実施形態に関するタワー全体構成に関する説明図である。
【
図7】本実施形態に関する
図6のセクションNo.6からセクションNo.8までを拡大したもので、分割構造体の溶接線位置に関する説明図である。
【
図8】本実施形態に関する風車の中心位置と水平方向の角度の考え方に関する説明図である。
【
図9】本実施形態に関する風車のオフセット量δに関する説明図である。
【
図10】本実施形態に関するナセル方位角βに関する説明図である。
【
図11】本実施形態に関する離間距離Lと撮像範囲に関する説明図である。
【
図12】本実施形態に関する円軌道Rに関する説明図である。
【
図13】本実施形態に関する第1撮像モードで飛行目的位置を設定する例を示す平面図である。
【
図14】本実施形態に関する第2撮像モードで飛行目的位置を設定する例を示す平面図である。
【
図15】本実施形態に関する飛行体の向きに関する説明図である。
【
図16】本実施形態に関する飛行体の回転情報θに関する説明図である。
【
図17】本実施形態に関するタワーの撮像時に固定されるブレードの配置例を示す正面図である。
【
図18】本実施形態に関するタワーの高さ位置に関する説明図である。
【
図19】本実施形態に関する第1撮像モードで設定される水平方向の飛行目的位置と、その飛行目的位置ごとの撮影方向を示す平面図である。
【
図20】本実施形態に関する第1撮像モードで設定される鉛直方向の飛行目的位置を示す側面図である。
【
図21】本実施形態に関する第2撮像モードで設定される水平方向の飛行目的位置と、その飛行目的位置ごとの撮影方向を示す平面図である。
【
図22】本実施形態に関する第2撮像モードで設定される鉛直方向の飛行目的位置を示す側面図である。
【
図23】本実施形態に関するナセル方位角の変更に関する説明図である。
【
図24】本実施形態に関する定期観察を行う際の注意点に関する説明図である。
【
図25】本実施形態に関する飛行ルート設定に関する説明図である。
【
図26】本実施形態に関するタワー撮像の処理前半を示すフローチャートである。
【
図27】本実施形態に関するタワー撮像の処理後半を示すフローチャートである。
【
図28】本実施形態に関する画像情報データベースの説明図である。
【
図29】本実施形態に関する風車を俯瞰視点で見た時の立体図である。
【
図30】本実施形態に関する風車を上空から真下に見下ろす平面視点で見た時の立体図である。
【
図31】本実施形態に関する風車を正面から見た時の立体図である。
【
図32】本実施形態に関する風車を側面から見た時の立体図である。
【
図33】本実施形態に関するタワー撮像システムの各装置のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、タワー撮像システム100の概略を表す全体構成図である。
また、タワー撮像システム100が撮像対象とする風車70のタワー72には、風力により回転するブレード71a~71cが備え付けてある。タワー72は、ナセル73と、ハブ先端部74aを有するハブ74とにより、ブレード71a~71cを支えている(
図9で後記)。
【0015】
タワー撮像システム100は、飛行体10と、制御装置30とを含んで構成されている。そして、飛行体10とコントローラ(図示せず)との間で各種情報の送受信が行われるとともに、コントローラ(図示せず)と制御装置30との間で各種情報の送受信が行われるようになっている。制御装置30は、入出力部31と処理部32と記憶部33を備える一般的な計算機システムである。
制御装置30は、タワー72を点検するために、ブレード71a~71cとの衝突を回避しつつ、飛行体10にタワー72を撮影させるための飛行ルートを作成する。飛行ルートは、撮像開始位置から撮像終了位置まで撮像順番に従って飛行目的位置を設定したものである。
【0016】
そのため、制御装置30は、以下の処理を行う。
(処理1)入出力部31から取得した入力情報に基づいて風車の型式を特定し、その風車の型式ごとに、風車のタワー72の高さに応じた撮像時の飛行目的位置を作成するための情報を風車情報データベース33aから抽出する。
(処理2)抽出した撮像時の飛行目的位置を作成するための情報から、タワー72を全周方向から撮像するための飛行体10の複数の飛行目的位置の集合体で構成する飛行ルートを作成する。
(処理3)飛行ルートを飛行体10に送信する。
【0017】
飛行体10は、飛行ルートに沿って自動飛行し、飛行ルートの各飛行目的位置において撮像装置14によりタワー72を撮像する
飛行体10と操縦者が操縦するコントローラ(図示せず)との間、および、飛行体10と制御装置30との間で各種情報の送受信が可能となっている。これら情報の送受信の形態としては、LTE(Long Term Evolution)や4G(第4世代移動通信システム)や5G(第5世代移動通信システム)の通信規格が適宜に用いられる。
【0018】
飛行体10は、風車70のタワー72を点検する際、タワー72の撮像順等を示す飛行目的位置情報に基づいて、点検対象のタワー72を撮像装置14で撮像する。なお、撮像結果である画像情報は、飛行体10の記憶部18、または、制御装置30の記憶部33の何れかの記憶媒体に保存する。
電波法の規制により、撮像結果である画像情報を飛行体10から制御装置30に直接送信できない場合は、画像情報は飛行体10の記憶部18に保存され、点検終了後にSDカード等を介してPCに保存された後、PCからネットワークを経由して制御装置30に送信される。電波法の規制が無い場合は、飛行体10から制御装置30に画像情報を直接送信し、制御装置30の記憶部33に保存する。
【0019】
図2は、飛行体10の構成を示す斜視図である。
飛行体10は、コントローラ(図示せず)からの飛行指令情報に基づいて飛行する無人航空機である。このような飛行体10として、例えば、ドローンが用いられる。飛行体10は、本体11と、アーム12a~12dと、プロペラ13a~13d(ロータや回転翼ともいう。)と、撮像装置14と、カメラ用アームM1と、スキッドK1,K2と、を備えている。
本体11は、制御基板(図示せず)や各種センサ(図示せず)を収容する他、アーム12a~12dやカメラ用アームM1を保持する機能を有している。アーム12a~12dは、その基端側が本体11に設置される棒状部材である。
図2の例では、本体11の側面の前部にアーム12a,12bが設置されている。また、本体11の側面の後部に別のアーム12c,12dが設置されている。これら4つのアーム12a~12dは、平面視において本体11から放射状に延びている。
【0020】
プロペラ13aは、アーム12aの先端付近に設置される回転翼である。なお、アーム12aの延在方向に対して垂直な方向を回転中心軸とするモータ15a(
図1参照)が設けられている。そして、モータ15a(
図1参照)の回転に伴って、プロペラ13aが所定に回転するようになっている。なお、残りのアーム12b~12dに一対一で設置されているプロペラ13b~13dについても同様である。
【0021】
周方向で隣り合っているプロペラ(例えば、プロペラ13a,13b)は、互いに逆向きに回転するようになっている。そして、モータ15a~15d(
図1参照)の駆動に伴ってプロペラ13a~13dが回転することで揚力が発生し、飛行体10が飛行するようになっている。また、モータ15a~15d(
図1参照)の回転速度が個別に制御されることで、飛行体10の鉛直方向での上昇・下降や、斜め方向での上昇・下降の他、ホバリング(空中停止)や前進・後退、左右の移動、左回り・右回りの回転等を行うようになっている。
【0022】
撮像装置14は、風車70(
図1参照)のブレード71a~71c(
図1参照)を撮像するためのカメラである。
図2の例では、本体11の下側にカメラ用アームM1を介して撮像装置14が設置されている。スキッドK1,K2は、飛行体10を地面に接地させるための一対の脚である。なお、飛行体10の構成は、
図2の例に限定されるものではない。
【0023】
図1に戻って、飛行体10の制御系の構成について説明する。
飛行体10は、さらに、位置・姿勢センサ16と、通信部17と、記憶部18と、制御部19と、を備えている。
位置・姿勢センサ16は、飛行体10の現在の位置(飛行位置)及び姿勢(飛行姿勢)の算出に用いられる情報を取得するためのセンサである。位置・姿勢センサ16は、図示はしないが、所定の航法衛星から送信される電波(航法信号)を受信する受信機の他、飛行体10の加速度を計測する加速度センサや、飛行体10の方位を計測する電子コンパス、飛行体10の角速度を計測するジャイロセンサを備えている。
なお、所定の航法衛星から送信される電波(航法信号)に関して、GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)が用いられるようにするとよい。これによって、飛行体10の時々刻々の緯度・経度を含む高精度測位情報を得ることができる。
図1に示すように、位置・姿勢センサ16の各計測値は、制御部19に出力される。
【0024】
通信部17は、コントローラ(図示せず)または制御装置30との間で通信を行う通信モジュールである。通信部17は、コントローラ(図示せず)を介して、または、制御装置30から飛行目的位置情報を受信して制御部19に出力する。
【0025】
記憶部18は、図示はしないが、ROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disk Drive)等の不揮発性メモリと、RAM(Random Access Memory)やレジスタ等の揮発性メモリと、を含んで構成されている。記憶部18には、各種プログラムや各種データが格納されている。各種プログラムには、タワー72の点検時における飛行体10の飛行ルートや飛行姿勢を規定するためのプログラムが含まれている。また、各種データには、飛行体10の位置・姿勢情報やルート情報が含まれる。なお、位置・姿勢情報やルート情報の詳細については後記する。
【0026】
制御部19は、例えば、CPU(Central Processing Unit)であり、記憶部18に格納された各種プログラムや各種データを読み出して展開し、所定の処理を実行する。制御部19は、プログラムによって実現される機能的な構成として、位置・姿勢算出部19aと、飛行制御部19bと、撮像指令部19cと、画像情報出力部19dと、を備えている。
【0027】
位置・姿勢算出部19aは、位置・姿勢センサ16の各計測値に基づいて、飛行体10の現在の飛行位置及び飛行姿勢を算出する。本実施形態では、飛行体10の現在の飛行位置の検出精度を高めるために、RTK(Real Time Kinematic)-GNSS測位に基づく高精度測位情報を飛行体10が取得するようにしている。なお、高精度測位情報の取得先は、例えば、電子基準点(図示せず)に基づくデータの配信システム(図示せず)であってもよく、また、RTKベースステーション(基準局:図示せず)であってもよい。
【0028】
また、位置・姿勢算出部19aは、位置・姿勢センサ16から入力される航法信号に基づいて、飛行体10の緯度・経度・高度を算出し、所定の変換規則に基づいて、飛行空間の座標系における飛行位置のデータに変換する。また、位置・姿勢算出部19aは、位置・姿勢センサ16から入力される電子コンパス(図示せず)の計測信号に基づいて、飛行空間の座標系における飛行体10の方位を算出する。また、位置・姿勢算出部19aは、位置・姿勢センサ16から入力される加速度センサ(図示せず)やジャイロセンサ(図示せず)の計測信号の他、飛行体10の方位に基づいて、飛行空間の座標系における現在の飛行体10の飛行姿勢を算出する。位置・姿勢算出部19aの算出結果である位置・姿勢情報は、記憶部18に格納される。
【0029】
飛行制御部19bは、飛行体10の時々刻々の位置・姿勢情報が所定のルート情報に従ったものとなるようにモータ15a~15dを制御する。所定のルート情報とは、タワー72の点検時における飛行体10の飛行ルートや飛行姿勢を規定した情報であり、制御装置30からコントローラ(図示せず)を介して、または、制御装置30から飛行体10に送信される。
飛行体10の飛行ルートは、点検対象のタワー72の撮像開始位置から撮像終了位置までの飛行目的位置情報を、撮像順に基づいて連続的に繋げたものになっている。なお、飛行目的位置間では飛行体10が所定の移動速度で移動し、飛行目的位置では飛行体10の移動速度が略ゼロ(ホバリングの状態)になるように設定されている。飛行制御部19bは、所定の飛行目的位置において飛行体10の姿勢等の設定が完了した場合、撮像指令部19cに撮像可能フラグを出力する。
【0030】
撮像指令部19cは、飛行制御部19bから撮像可能フラグが入力された場合、撮像装置14に対して撮像指令信号を出力する。これによって、点検対象のタワー72が撮像される。タワー72の撮像が終了した場合、撮像指令部19cは、飛行制御部19bに撮像終了フラグを出力する。飛行制御部19bは、撮像指令部19cから撮像終了フラグが入力された場合、所定の飛行ルートに基づいて、次の飛行目的位置に飛行体10を移動させる。
【0031】
画像情報出力部19dは、撮像装置14の撮像結果である画像情報が入力された場合、この画像情報に撮像対象のタワー72を特定するための「タワー関連情報」と飛行目的位置における「撮像条件」を対応付けて記憶部18に出力する。これによって、点検対象のタワー72の撮像結果である画像情報が記憶部18に保存される。保存された画像情報は記憶部18から記憶媒体を介してPCに保存され、PCからネットワークを経由して制御装置30に送信される。
【0032】
コントローラ(図示せず)は、制御装置30から送信されるルート情報や飛行体10の各センサの計測値に基づいて、飛行体10を所定に制御する。
なお、操縦者がコントローラ(図示せず)を操縦することも可能ではあるが、本実施形態では、操縦者が行う操作としては、コントローラ(図示せず)の電源を入れてデータの送受信が可能な状態にするといった程度である。したがって、飛行体10の位置や姿勢を操縦者の操作で変更するといったことを行う必要は特にない。
【0033】
制御装置30は、飛行体10の飛行ルートを作成したり、撮像装置14の撮像結果を管理したりする機能を有している。このような制御装置30として、図示はしないが、ROMやRAMの他、CPU、各種インタフェースを有するコンピュータが用いられる。
図1に示すように、制御装置30は、入出力部31と、処理部32と、記憶部33と、を備えている。
【0034】
入出力部31は、コントローラ(図示せず)、または、飛行体10との間で通信を行う他、ユーザーインタフェースとしての機能も有している。入出力部31は、ユーザーの操作に基づいて、風車情報データベース33aから所定の入力情報を取得する。ここで、「入力情報」とは、点検対象のタワー72を指定し、さらに、このタワー72を撮像する際の飛行体10の飛行目的位置を指定する際に用いられる情報である。
また、入出力部31は、処理部32で設定される飛行体制御情報及び姿勢制御情報を、コントローラ(図示せず)を介して飛行体10に送信する。
ここで、「飛行体制御情報」とは、タワー72を撮像する際の飛行体10の飛行目的位置である。
また、「姿勢制御情報」とは、それぞれの飛行目的位置において撮像装置14がタワーの中心位置に向くように設定された飛行体10の水平方向の回転角情報である。また、入出力部31は、点検対象のタワー72の撮像結果である画像情報を受信する機能も有している。
【0035】
処理部32は、飛行体10の飛行ルートの作成や、タワー72の画像情報の管理を行う。詳細については後記するが、処理部32は、少なくとも以下の(機能A)~(機能D)の機能を有している。
(機能A)処理部32は、入出力部31から入力情報であるサイト情報、号機情報、撮像モード情報、ナセル方位角情報を取得し、サイト情報と号機情報に基づき、点検対象のタワーの高さ位置、離間距離を風車情報データベース33aから抽出する。
(機能B)処理部32は、撮像モードに基づき、風車情報データベース33aから撮像モードに対応する全ての水平方向角度を抽出する。
【0036】
(機能C)処理部32は、風車情報データベース33aから抽出した高さ位置、離間距離、水平方向角度、ナセル方位角情報に基づき、飛行目的位置(X(緯度),Y(経度),Z(高度))を算出する。
(機能D)処理部32は、飛行目的位置を、撮像する順番に従って撮像開始位置から撮像終了位置まで設定して飛行ルートを作成し、飛行体10に送信する。
【0037】
記憶部33には、風車情報データベース33aが予め記憶されている他、画像情報データベース33bが適宜に更新される。風車情報データベース33aは、タワー72の撮像に用いられる情報を管理するためのデータベースである。画像情報データベース33bは、タワー72の撮像結果である画像情報を管理するためのデータベースである。風車情報データベース33aは、入力情報テーブル41(
図3参照)と、風車関連テーブル42(
図4参照)と、を含んで構成されている。
【0038】
図3は、入力情報テーブル41に関する説明図である。
入力情報テーブル41は、入出力部31(
図1参照)を介して入力される所定の入力情報が格納されるデータテーブルである。
・サイト列41aには、風車70(
図1参照)の立地位置を示すサイトの識別情報が格納される。なお、サイトの識別情報に基づいて、サイトの位置が特定される。
・号機列41bには、風車70の個体識別情報を示す所定の番号が格納される。
【0039】
・撮像モード列41cには、全ての風車に対して適用される、タワー72を全周方向から撮像するために予め設定された撮像装置14の複数の水平方向角度の撮像モード情報が格納される。撮像モード情報には「4方向」からの水平方向角度を示す第1撮像モードと「5方向」からの水平方向角度を示す第2撮像モードの2つがあり、何れかの撮像モード情報が選択されて格納される。
【0040】
・ナセル方位角列41dには、ナセル73の正面側に取り付けられているハブ先端部74aの向きで示される方位をナセル全体が示す方向とするナセル方位角が格納される。このナセル方位角は、0°から359°の範囲内の角度情報で指定される。本発明では、このナセル方位角で示す方向に、固定された所定のブレードを配置することが前提となっている。このブレード配置については後述する。
【0041】
図4は、風車関連テーブル42に関する説明図である。
風車関連テーブル42は、風車70(
図1参照)やタワー72(
図1参照)に関する情報が格納されたデータテーブルである。
・サイト列42aには、風車70の立地位置を示すサイトの識別情報が格納される。
・号機列42bには、風車70の号機情報を示す所定の番号が格納される。
・風車の型式列42cには、風車70の型式を示す情報が格納される。
・ハブ高さ列42dには、地盤面GL(Ground Line)から風車70のハブ中心までの高さ情報が格納される。
・セクション数列42eには、タワー72全体を構成する円錐台の形状を示す分割構造体の総数が格納される。
【0042】
・風車の中心位置(緯度)列42f及び風車の中心位置(経度)列42gには、風車70のタワー72の接地面の中心位置の緯度・経度が格納される。
・高さ位置列42hには、タワー72が接地されている地盤面を高さ位置の起点(Z=0)とした際の、起点からの高さ位置(Z座標)が格納される。
・離間距離列42kには、高さ位置ごとのタワー72の水平面において、タワー72の中心位置から水平方向への所定の離間距離が格納される。
・撮像モード列42mには、タワー72を周方向から撮像する際の水平方向位置を定めるための全ての水平方向角度に対応付けた撮像モード情報が格納される。
・水平方向角度1列42nから水平方向角度5列42sには、撮像モードに対応付けられた水平方向角度情報が格納される。
【0043】
風車関連テーブル42において、サイト列42a及び号機列42bの各情報は、入力情報テーブル41(
図3参照)のサイト列41a及び号機列42bの各情報に対応している。
そして、制御装置30は、入力情報テーブル41の「サイト列41a、号機列41b」の組み合わせと一致する風車関連テーブル42の「サイト列42a、号機列42b」の組み合わせから、対応する風車の型式列42cが求められる。つまり、サイト及び号機の情報は、入力情報テーブル41と風車関連テーブル42とを紐付ける際のキーである。
さらに、制御装置30は、求めた風車の型式列42cに対応する(テーブル内の同じレコードである)高さ位置、離間距離、水平方向角度を風車関連テーブル42から抽出する。
なお、ここまでは、水平方向角度を風車情報データベース33aの風車関連テーブル42で管理する方法を示したが、風車関連テーブル42で管理する情報を極力少なくする方法でも対応することが可能である。この場合、風車関連テーブル42の管理情報は風車の中心位置(経度)42gまでとなる。具体的には、ナセル方位角の基準角度と、前記基準角度における2つの撮像モード(「4方向」「5方向」)の各モードの水平方向角度、および、風車の型式に対応する高さ位置と離間距離を予め決めておき、入力情報である「サイト、号機、撮像モード、ナセル方位角(現在角度)」に基づいて、風車情報データベース33aから飛行目的位置を算出するために必要な情報である「高さ位置、離間距離、風車の中心位置(緯度、経度)、ナセル方位角の基準角度」を制御装置30の処理部32が抽出する。そして、処理部32は、ナセル方位角の角度変化量(基準角度から現在角度までの変化量)を算出し、前記角度変化量を水平方向角度に反映して補正し、補正後の水平方向角度における回転情報、および、飛行目的位置(緯度、経度)を算出する。さらに、処理部32は、高さ位置から飛行目的位置(高度)を算出する。そして、処理部32は、算出した全ての飛行目的位置(緯度、経度、高度)を撮像開始位置から撮像終了位置まで順番に並べた飛行ルートを作成し、前記飛行ルートとそれぞれの飛行目的位置に対応する回転情報と水平方向角度を、記憶部33に設けた一時記憶領域から飛行体10の記憶部18に送信する。この方法によれば、制御装置30の処理部32の計算機会が増えることになるが、風車情報データベース33aで管理する情報を極力少なくできる。この方法は、風車の型式の種類が少ない場合に有効である。
【0044】
次に、
図1の風車情報データベース33a(つまり、
図3、
図4の各テーブル)の情報についてさらに詳細に説明する。
図5は、タワー72全体を構成する分割構造体に関する説明図である。分割構造体は、円錐台の形状であり、分割構造体を複数積み上げる形でタワー72が構成されている。それぞれの分割構造体は高さ方向の寸法が不均等になっている。タワー72を構成する分割構造体の総数(セクション数)は、風車関連テーブル42のセクション数列42eで管理されている。
また、各分割構造体には個体識別番号としてセクションナンバー(例:セクションNo.P)が付与されており、分割構造体ごとに肉厚t、上底面外径DPa、下底面外径DPb、錐体高さHP、下底面から全周溶接が施されている溶接線までの高さ位置である溶接線位置HP-Q等が、管理対象の情報となる。
【0045】
図6は、タワー72全体構成に関する説明図である。タワー72は、各分割構造体をタワー下部から複数積み上げる形で構成されており、各分割構造体にはタワー上部から下部に向かって順番に個体識別番号であるセクションナンバー(
図6ではセクションNo.1~No.14)が付与されている。また、タワー72を3つのブロック〔上側(トップ)、中央(ミドル)、下側(ボトム)〕に分割し、各ブロックの境界部がタワー内面側において、周方向で複数のボルトにより締結されているフランジ部が存在する(図示せず)。
【0046】
図7は、
図6のセクションNo.6からセクションNo.8までを拡大したもので、分割構造体の溶接線位置に関する説明図である。全周溶接が施されている溶接線位置は、各セクションの境界部および錐体高さが大きい分割構造体の所定位置である。錐体高さが大きい分割構造体では、所定の錐体高さの円錐台が複数積み上げられて構成されているため、当該円錐台の繋ぎ部は外面側および内面側において全周溶接が施されている。全周溶接を施した後、防錆・防食を目的とした塗装が行われる。緊急点検実施事項のうちのタワー72の外面溶接線部の点検においては、タワー外面の点検を行い周方向溶接線の発錆部を確認・記録し、その場所を特定する。
【0047】
図8は、風車の中心位置と水平方向の角度の考え方に関する説明図である。風車の中心位置(平面視でのタワー72の中心位置)は、風車の立地位置のタワー接地面の中心位置を(緯度,経度)で表したものである。また、水平方向の角度については、方位角(真北を0°として時計回りに振った角度)の考え方が用いられ、東西方向をX軸方向、南北方向をY軸方向と定義する。
図12の例では、風車の中心位置をX座標・Y座標の各値を(X0,Y0)と表している。
【0048】
図9は、風車のオフセット量δに関する説明図である。オフセット量δは、風車の中心位置(平面視でのタワー72の中心位置)からブレード71a~71cの中央軸(回転軸)までの水平方向の離間距離である。
【0049】
図10は、ナセル方位角βに関する説明図である。
図10に示すWは平面視でのブレード71a、ナセル73及びハブ74の簡略図を示し、風車のハブ先端部74a(
図9参照)の向きで示される方位をナセル全体の向きとしてナセル方位角βで表している。
図10の例では、後述する水平方向角度を設定する際の基準とするために、ナセル方位角βの基準角度β
0を設定している。本事例では、方位角0°をナセル方位角βの基準角度(β
0=0°)として設定しているが、基準角度は方位角0°に限定されない。
【0050】
図11は、離間距離Lと撮像範囲に関する説明図である。
撮像装置14は、レンズ14aと、イメージセンサ14bとを備えている。レンズ14aは、光を屈折させてイメージセンサ14bに集束させる光学素子である。イメージセンサ14bは、レンズ14aを介して入射する光を光電変換し、画像情報を生成する。
撮像装置14の撮像範囲は、離間距離Lで定まる
図11のXとYで構成する撮像装置14で撮像可能な範囲である。離間距離Lは、撮像装置14の性能(レンズ14a、イメージセンサ14b、焦点距離、画角等)に基づき、タワー72を撮像する際にタワー72に対して撮像装置14の焦点が合う範囲内で予め設定されている。本実施形態では、風車関連テーブル42(
図4参照)において、風車の型式(風車の型式列42c)に応じて、Z座標(高さ位置列42h)ごとに所定の離間距離L(離間距離列42k)が対応付けられている。
【0051】
なお、風車70のタワー72の高さは、数十メートルに及ぶことが多い。したがって、タワー72を撮像装置14で撮像する際には、タワー72の下部から上部までを複数に分割して撮像するようにしている。また、タワー72の形状は円錐台となっているため、タワーの上部に向かうほど直径が小さくなる。したがって、タワー72の形状に合わせて、鉛直方向の所定の高さ位置において、撮像装置14の焦点が合う範囲内で離間距離Lが適宜に設定される。そして、鉛直方向の所定の高さ位置(Z座標)での離間距離Lが、風車関連テーブル42(
図4参照)に予め記憶されている。
【0052】
図12は、円軌道Rに関する説明図である。
図12に示す円軌道Rは、タワーの中心位置(X0,Y0)からの水平方向の距離が所定の離間距離Lとなる点の集合である。つまり、円軌道Rは、タワーの中心位置(X0,Y0)を中心とする、半径の長さが離間距離Lの仮想的な円である。
図11で説明したように、離間距離Lは、撮像装置14(
図18参照)の焦点が合う範囲内で設定される。タワー72を撮像する際の飛行目的位置(X座標、Y座標)は円軌道R上に形成される。鉛直方向の所定の高さ位置(Z座標)によって、離間距離Lが異なっている(
図4参照)。したがって、円軌道Rの半径(つまり、離間距離L)も所定の高さ位置によって異なる値になる。
【0053】
以下、
図12の円軌道R上に、飛行目的位置を設定する例を説明する。
(第1撮像モード)円軌道R上の4箇所に飛行目的位置を設定する例
(第2撮像モード)円軌道R上の5箇所に飛行目的位置を設定する例
【0054】
図13は、第1撮像モードで飛行目的位置を設定する例を示す平面図である。
図13では、円軌道Rにおいて水平方向角度α1からα4で定まる交点のX座標・Y座標を、水平方向位置である第1の点(X1,Y1)から第4の点(X4,Y4)とする例を示す。
水平方向角度αは、ある高さ位置(Z座標)のタワー72の水平面において、タワー72の中心(X0、Y0)と、円軌道R上の基準線との交点(
図10に示したナセル方位角βの基準角度β=0°)と、飛行目的位置(第1の点~第4の点)とで形成される角度である。つまり、基準線とは、タワー72の中心(X0、Y0)からナセル方位角βの基準角度β
0=0°の方向に向かって、円軌道R上まで延長した線である。
【0055】
例えば、タワー72の中心と、円軌道R上の第1の点(X1,Y1)とは、第1の線分で接続される。この第1の点(X1,Y1)を飛行目的位置とする場合、その水平方向角度=α1となる。同様に、第2の点(X2,Y2)の水平方向角度=α2と、第3の点(X3,Y3)の水平方向角度=α3と、第4の点(X4,Y4)の水平方向角度=α4とがそれぞれ定義される。
【0056】
図14は、第2撮像モードで飛行目的位置を設定する例を示す平面図である。
図14では、円軌道Rにおいて水平方向角度α1からα5で定まる交点のX座標・Y座標を水平方向位置である第1の点(X1,Y1)から第5の点(X5,Y5)とする例を示す。
図13と比較すると、第5の点(X5,Y5)の水平方向角度=α5が追加されている。
【0057】
以上、
図13、
図14で説明した水平方向角度αを検討する際には、ナセル方位角βが基準角度β
0に設定されているものとする。さらに、制御装置30は、以下に列挙する少なくとも1つの方針により、水平方向角度αを設定する。
・所定ブレードがタワーに重ならずにタワーを全周方向から撮像できるようにする。
・ナセル方位角から時計回りに所定角度ずらした撮像角度となるようにする。
・タワー72の周方向で撮像漏れが生じないようにする。
・所定のサイドラップ率(周方向で隣り合う画像との重複度)が小さくなるようにする。
【0058】
また、
図13、
図14においては、ナセル方位角βは、基準角度β
0=0°に設定されている。この水平方向角度αは、ナセル方位角βの現在値が基準角度β
0から変更されたとしても、変更後のナセル方位角に対して同じ水平方向角度を保持する必要があることから、ナセル方位角からの相対角度として設定されている。
図13、
図14において、水平方向角度αは「α(絶対角度)=ナセル方位角β+Δα(相対角度)」であり、ナセル方位角βの関数となっている。全ての水平方向角度は撮像モード情報に対応付けて風車関連テーブル42(
図4参照)に予め格納されている。
【0059】
具体的には、制御装置30は、以下の(手順1)~(手順5)により、飛行目的位置を設定する。なお、(手順5)は省略してもよい。
(手順1)高さ位置(Z座標)における水平面において、タワー72の中心位置(X0,Y0)から水平方向への所定の離間距離を半径とする円軌道Rを形成する。
(手順2)中心位置(X0,Y0)において、真北からナセル方位角β分だけ時計回りに回転した中心角の位置で、中心位置(X0,Y0)から円軌道に延伸する線分を基準線として設定する。
(手順3)中心位置(X0,Y0)において、基準線からそれぞれの水平方向角度分だけ時計回りに回転して形成する中心角の位置から、円軌道に延伸する直線と円軌道との交点を中心位置(X0,Y0)の相対位置として求める。
(手順4)中心位置(X0,Y0)の緯度情報と経度情報に基づき、相対位置の緯度情報と経度情報を算出し、高さ位置と相対位置の緯度情報と経度情報により、飛行目的位置を構成する。
(手順5)ナセル方位角βが基準角度β
0から変更されると、それに伴い、
図13の例では水平方向角度α1からα4も変更になり、変更後の水平方向角度α1
*からα4
*における水平方向位置である第1の点(X1
*,Y1
*)から第4の点(X4
*,Y4
*)が算出される。
【0060】
なお、飛行体10は、全ての風車70のタワー72に対して、所定の水平方向角度を定めた上でタワー72の撮像を行う。そのため、制御装置30は「4方向」の水平方向角度を示す「第1撮像モード」、または「5方向」の水平方向角度を示す「第2撮像モード」の2つを、タワー72を撮像する際の撮像モード情報として備えており、何れかの撮像モードを飛行体10に設定する。
そして、制御装置30は、撮像モード情報に対応する全ての水平方向角度を風車関連テーブル42から抽出し、ナセル方位角の現在値における飛行目的位置(X(緯度),Y(経度),Z(高度))を、飛行ルートとして飛行体10に設定する。
【0061】
以下、制御装置30が、飛行目的位置に到着した飛行体10に対して、撮像装置14の向きがタワーの中心となるように飛行体10の姿勢制御(回転制御)を行う処理を説明する。
図15は、飛行体10の向きに関する説明図である。以下、
図15に示すように、飛行体10の向きBと、撮像装置14の向きAとが同じ向きとなる場合を説明する。一方、飛行体10の向きと撮像装置14の向きとが異なる場合も想定される。いずれの場合でも、
図16で後記するように、回転情報を求めることができる。
【0062】
図16は、飛行体10の回転情報θに関する説明図である。
回転情報θは、飛行体10が飛行目的位置に移動した後において、撮像装置14がタワーの中心位置に向くように飛行体の姿勢制御を行うための情報である。回転情報θは、所定の方位を基準とする飛行体10の水平方向の回転角を示す情報である。
図16では、水平方向角度α1を用いて、第1の点(X1,Y1)での回転情報θ1を求める例が記載される。
回転情報θは水平方向角度αの関数「回転情報θ(絶対角度)=水平方向角度α+所定角度」により算出され、この回転情報θに基づいて撮像装置14の撮像範囲(
図11)がタワー72の中心を向くように、飛行体10の姿勢制御が行われる。この姿勢制御は、撮像装置14も含めた飛行体10の全体を回転させてもよいし、飛行体10は回転させずに撮像装置14だけを回転させてもよい。
これにより、飛行体10は、飛行目的位置に移動した後において、撮像装置14が中心位置に向くように飛行体10の姿勢制御を行う。
【0063】
ここで、タワー撮像システム100の撮影時には、3枚のブレード71a~71cは、飛行体10との衝突を考慮するために、回転させずに所定の位置で固定されていることが望ましい。
図17は、タワー72の撮像時に固定されるブレード71a~71cの配置例を示す正面図である。
図17では、3枚のブレード71a~71cは、ナセル方位角β=0°が示す方向に相対する正面方向から見て、Y字型に固定されている。この「Y字型」のブレード配置を「配置情報」と定義する。この配置情報を前提として、タワー撮像時の水平方向角度の設定および飛行目的位置の算出が行われる。この配置情報は、全ての風車のタワーに対して適用される。
【0064】
つまり、「Y字型」のブレード配置とは、ブレード71a(所定ブレード)は、鉛直下方向(Z軸のマイナス方向)に向いて固定される。他のブレード71b、71cは、
図6のタワー上部よりも上側で固定される。そのため、ブレード71b、71cは、タワー上部よりも下側の飛行ルートを通過する飛行体10との衝突を考慮する必要が無くなる。
「Y字型」のブレード配置とするための風車70への操作は、次の通りである。
・風車による発電停止後に風向に対して風車の正面側を向けるようにナセル方位角を変更する。
・風の力で遊転するブレードの回転を作業者が目視で確認しながら、所定ブレードが鉛直下向きとなるタイミングでブレーキスイッチを操作して停止させる。
・ブレードが回転しないように機械的にロックピンを入れる等の方法により、所定ブレードが固定される。
・固定配置後にナセル方位角を変更する場合、このブレード配置を保持した状態で行われる。
【0065】
なお、
図17で示した「Y字型」のブレード配置は、あくまで、飛行体10がブレード71a~71cに衝突せず、かつ、撮像装置14がブレード71a~71cに重ならず(遮蔽されず)タワー72を撮影可能な飛行ルートを作成するための一例であり、「Y字型」以外のブレード配置で固定してもよい。
【0066】
図18は、タワー72の高さ位置に関する説明図である。
飛行目的位置(撮影位置)の高さ位置は、タワー接地面である地盤面GL(Ground Line)の位置を高さ方向の起点(Z=0)とし、その起点からの高さ位置として設定される。なお、
図6のセクションNo.1に対応する高さZP、セクションNo.2に対応する高さZ9、…、セクションNo.14に対応する高さZ=0のように、セクション番号とは異なり高さZnの数値nが大きくなるほど高くなる。
風車関連テーブル42(
図4参照)には、風車の型式列42cに対応して定められたタワー72のハブ高さ(ハブ高さ列42d)が予め格納されている。さらに、風車関連テーブル42には、そのハブ高さからオーバーラップ率(鉛直方向で隣り合う画像の重複度)等を考慮して定められた、所定の撮像範囲を撮影するための高さ位置42h(Z座標)が予め格納されている。
【0067】
以下、高さ方向も含めた飛行目的位置を設定する例の詳細を説明する。
(第1撮像モード)円軌道R上の4箇所に飛行目的位置を設定する例(
図13で水平方向の飛行目的位置は説明済)
(第2撮像モード)円軌道R上の5箇所に飛行目的位置を設定する例(
図14で水平方向の飛行目的位置は説明済)
【0068】
図19は、第1撮像モードで設定される水平方向の飛行目的位置と、その飛行目的位置ごとの撮影方向を示す平面図である。
図13で説明したように、制御装置30は、4方向の水平方向角度(α1からα4)での飛行目的位置(第1の点から第4の点まで順番に撮影する位置)を、水平方向の飛行ルートとして設定する。
また、制御装置30は、
図16で説明したように、各飛行目的位置でタワー72を撮像範囲に収めるための回転制御を飛行体10に行う。
【0069】
ここで、撮像装置14の撮像範囲は、ブレード71aがタワー72に重ならずに撮像できるように(ブレード71aがタワー72よりも手前に位置して撮影の遮蔽物にならないように)、設定される必要がある。そこで、制御装置30は、そのような撮像装置14の撮像範囲になるように、飛行目的位置および回転情報θの少なくとも1つを設定する。例えば、
図19では、ブレード71aが手前でタワー72が奥になるような正面側(水平方向角度α4~α1の間)を避けて、飛行目的位置および回転情報θが設定される。
【0070】
図20は、第1撮像モードで設定される鉛直方向の飛行目的位置を示す側面図である。
例えば、
図20では、(X,Y)位置を固定したまま、撮影位置の最下部高さZ1から最上部高さZPまでの往路の高さ移動と、撮影位置の最上部高さZPから最下部高さZ1までの復路の高さ移動とを行う飛行ルートが設定される。この飛行ルートの高さの上限(=最上部高さZP)は、タワー72のハブ高さの最上部よりも所定分(例えば1m)だけ低い位置とする。
つまり、制御装置30は、水平方向の位置を固定させてタワー72の最上部よりも低い範囲で飛行体10の高さ方向を移動させるように配列した各飛行目的位置を含む飛行ルートを飛行体10に送信する。そして、飛行体10は、飛行ルートの各飛行目的位置を配列した順番に各飛行目的位置を通過するように、高さ方向を移動することを特徴とする
これにより、続けて撮影する画像は、タワー72の上下方向に連続する画像(
図6のセクション番号が隣同士になる画像)となる。よって、タワー72の上下方向の撮影写真のつなぎ目をスムーズに画像合成しやすくなり、タワー72の損傷を発見しやすくなる。
【0071】
一方、
図20とは別の飛行ルートとして、最下部高さZ1のα1→α2→α3→α4を撮影し、少し上昇した後に高さZ2のα4→α3→α2→α1を撮影し、少し上昇した後に高さZ3のα1→α2→α3→α4を撮影するようにしてもよい。
【0072】
なお、風車70の場合、点検時にブレード71a~71cを停止させたとしても、そのブレード71a~71cの停止位置によっては、飛行ルートを遮ってしまい、飛行体10との衝突が懸念される。そこで、制御装置30は、以下の(条件1)~(条件4)を満たす飛行ルートを作成することで、飛行体10との衝突を回避しつつ、タワー72の撮影漏れが無い画像を飛行体10に撮影させることができる。
(条件1)
図17で説明したように、3枚のブレード71a~71cが「Y字型」となるように、そのうちの1つ(ブレード71a)が鉛直下向きになる(タワー72と略平行になる)状態で、3枚のブレード71a~71cを固定させること。
(条件2)
図19で説明したように、撮像装置14の撮像範囲は、ブレード71aがタワー72に重ならずに撮像できるような飛行ルートの飛行目的位置を設定すること。
(条件3)
図20で説明したように、飛行ルートの高さの上限は、タワー72のハブ高さの最上部よりも低い位置とすること。
(条件4)地表から高さXmの範囲内には飛行目的位置を設定しないこと。(※高さXmの値は、風車の立地位置のタワー最下部周辺において最大となる障害物の高さとなる)。
風車のタワー点検においては、地表付近の障害物(電柱、電線、樹木など)の考慮が必須であり、前記の障害物はタワー個体固有の環境差異となるため、上記範囲内の飛行目的位置については、障害物との干渉を考慮してユーザーが個別に設定するため、本発明の飛行ルートの対象外とする。
【0073】
一方、比較例として、特許文献1の方法では、構造物を迂回する飛行経路を形成するために追加されるUAVの通過位置である「中継位置」は、飛行経路の第1円筒C1上に配置されることが示されている。そのため、飛行経路を遮る形でブレードが停止している場合、飛行体とブレードとの衝突を防止することができない。
つまり、特許文献1の方法では、ブレードの停止位置が設定された飛行経路と干渉する場合、構造物を迂回する目的で設定される中継位置が意味を成さず、飛行体とブレードとの衝突を防止することができない。
【0074】
以上説明した第1撮像モードでは、制御装置30は、以下の手順で飛行ルートの各飛行目的位置を計算する。
(手順1)タワーの中心位置(X0,Y0)と、所定の高さ位置に対応付けた離間距離Lと、撮像モード情報に対応付けた水平方向角度α1からα4に基づき、高さ位置のタワー72の水平面において、タワー72の中心位置(X0,Y0)を中心に離間距離Lを半径として円軌道を形成する。
(手順2)中心位置において、真北からナセル方位角情報分だけ時計回りに回転した中心角の位置で、中心位置から円軌道に延伸する線分を基準線として設定する。
(手順3)中心位置において、基準線からそれぞれの水平方向角度分だけ時計回りに回転して形成する中心角の位置から、円軌道に延伸する直線と円軌道との交点を飛行目的位置(X(緯度),Y(経度),Z(高度))として算出する。
【0075】
つまり、制御装置30は、同じ所定の高さであり水平方向の位置が互いに異なる複数の飛行目的位置を決定する。
この決定処理において、制御装置30は、撮像するタワー72の中心位置と、その中心位置からの離間距離とを風車情報データベース33aから抽出し、所定の高さの水平面における中心位置からの離間距離を半径とする円軌道を形成する。
そして、制御装置30は、中心位置から所定の方向に延びる基準線により形成される複数の水平方向角度を風車情報データベース33aから抽出し、中心位置から各水平方向角度の方向に延びる直線と円軌道との交点を、各飛行目的位置として決定する。制御装置30は、タワー72の中心(X0、Y0)である中心位置から、風車のブレード71を支えるナセル73に取り付けられているハブ先端部74aの位置に向かう方向を、基準線を設定するための所定の方向とする。
【0076】
そして、第1撮像モードの飛行ルートが設定された飛行体10は、以下の手順で飛行ルートに沿ってタワー72を撮影する。
(手順1)タワー近傍に設けた離着陸地点から撮像開始位置となる水平方向角度α1の最下部(X1,Y1,Z1)に移動する。
(手順2)最下部から最上部に向かうルートを往路として飛行移動しながら、最下部のZ1から最上部(X1,Y1,ZP)までに設定された各飛行目的位置においてタワー72の撮像を行う。
(手順3)水平方向角度α1での撮像が終了後、次の水平方向角度α2の位置(X2,Y2,ZP)に角度間移動する。
(手順4)最上部から最下部に向かうルートを復路として飛行移動しながら、最上部(X2,Y2,ZP)から最下部(X2,Y2,Z1)までに設定された各飛行目的位置においてタワー72の撮像を行う。
このように、飛行体10は、これらの角度間移動と、水平方向角度ごとの往路または復路の移動を交互に組み合わせることにより、撮像開始位置から撮像終了位置まで設定された全ての飛行目的位置を通過する。
【0077】
図21は、第2撮像モードで設定される水平方向の飛行目的位置と、その飛行目的位置ごとの撮影方向を示す平面図である。
図14で説明したように、制御装置30は、5方向の水平方向角度(α1からα5まで順番に通過する)での飛行目的位置(第1の点から第5の点まで順番に撮影する位置)を、水平方向の飛行ルートとして設定する。
【0078】
図22は、第2撮像モードで設定される鉛直方向の飛行目的位置を示す側面図である。
図22の第2撮像モードでも、
図20の第1撮像モードと同様に、制御装置30は、角度間移動と、水平方向角度ごとの往路または復路の移動を交互に組み合わせることにより、撮像開始位置から撮像終了位置まで設定された全ての飛行目的位置を通過する飛行体10の飛行ルートを設定する。
【0079】
図23は、ナセル方位角の変更に関する説明図である。
この
図23では、ナセル方位角を基準角度β
0=0°からβ=90°に変更した例を示す。ナセル方位角の変更に伴い、固定された風車のブレード配置の位置が変更され、ナセル方位角からの相対角度として設定されている水平方向角度αと、水平方向角度の関数である回転情報θが変更になる。
【0080】
図24は、定期観察を行う際の注意点に関する説明図である。
図24の例ではタワー72の初回撮像時(1回目)のナセル方位角βを90°に設定している。定期観察を行うためには同じ箇所(同じ面)を撮像し続けないと時系列変化を把握しづらいため、同じタワー72に対して定期観察により2回目以降のタワー撮像を行う際には、ナセル方位角βを初回撮像時と同じ角度に合わせる必要がある。(この例では初回撮像時のナセル方位角βが90°のため、2回目以降もβ=90°に設定する)また、同じ箇所(同じ面)を撮像し続けるという観点から、撮像モード情報についても同様に合わせる必要がある。
【0081】
図25は、飛行ルート設定に関する説明図である。
飛行ルートは、入力情報テーブル41のナセル方位角βの現在値に基づき、予め記憶された所定の規則により、水平方向角度の変更時(例:
図28の符号C)に、飛行目的位置Z(高度)の並び順が、往路と復路で互いに逆になるように撮像順番を形成する。これは、タワー撮像を効率的に行うために、水平方向角度の変更時に次に設定された水平方向角度の同一高さ位置に最短距離で角度間移動するためである。制御装置30は、飛行目的位置を撮像開始位置から撮像終了位置まで設定して飛行体10の「飛行ルート」とする。
【0082】
図26は、タワー撮像の処理前半を示すフローチャートである。
S300で、制御装置30の処理部32は、入出力部31から入力情報(サイト、号機、撮像モード、ナセル方位角の現在値)を取得する。
つまり、処理部32は、入出力部31から風車70の立地場所を示すサイト情報41a(
図3参照)と、風車70の個体識別情報を示す号機情報41bと、タワー72を撮像する際の撮像モード情報41cと、真北から風車70のブレード71の鉛直下方向に向いたブレード71の中心線まで、時計回りに回転した角度を示すナセル方位角情報41dを取得する。
さらに、制御装置30は、タワー72の中心位置において、真北からナセル方位角情報分だけ時計回りに回転した中心角の位置で、タワー72の中心位置から円軌道に延伸する線分を基準線として設定しておく。
【0083】
S310で、処理部32は、入力情報(サイト、号機、撮像モード)に基づき風車情報データベース33aから高さ位置、離間距離、水平方向角度を抽出する。そのため、まず、処理部32は、サイトおよび号機の指定により、風車関連テーブル42から風車の型式を特定する。そして、処理部32は、風車の型式ごとに規定される「風車の中心位置(緯度,経度)、高さ位置、離間距離」を、風車関連テーブル42から抽出する。また、処理部32は、入力情報の「撮像モード」により、撮像モードに対応する全ての「水平方向角度」を風車関連テーブル42から抽出する。
【0084】
つまり、制御装置30は、入出力部31から取得した入力情報(
図3のサイト情報41aと号機情報41bと撮像モード情報41c)に基づいて、風車の型式により定まるタワーの高さ(高さ位置42h)に応じたタワー撮像時の飛行目的位置を作成するための情報を風車情報データベース33aから抽出する。飛行目的位置を作成するための情報とは、例えば、タワー72の中心位置42f、42gと、中心位置から水平方向への所定の離間距離42kと、撮像モード情報42mに対応する全ての水平方向角度42n-42sとにより構成される。
【0085】
S320で、処理部32は、風車関連テーブル42には図示省略されているが、事前に設定されているナセル方位角の基準角度β
0と、風車関連テーブル42から撮像モードに対応する全ての水平方向角度αとを抽出する。
S330で、処理部32は、ナセル方位角の角度変化量(Δβ=β-β
0)を算出する。
S340で、処理部32は、角度変化量Δβに基づき、ナセル方位角β(現在値)の水平方向角度α
*、回転情報θ
*を算出する。角度変化量Δβを基準角度の水平方向角度αに反映してα
*を算出し、回転情報θ=水平方向角度α+所定角度の式により、水平方向角度α
*における回転情報θ
*を算出する。ここで、処理部32は、高さ位置における水平面において、タワー72の中心位置から離間距離を半径とする円軌道を形成する。
そして、
図26の端子Aから、
図27の端子Aに処理が移行する。
【0086】
図27は、タワー撮像の処理後半を示すフローチャートである。
S350で、処理部32は、ナセル方位角βの現在値における全ての飛行目的位置を算出する。そのため、処理部32は、タワー72の中心位置において、基準線からそれぞれの水平方向角度分だけ時計回りに回転して形成する中心角の位置から、円軌道に延伸する直線と円軌道との交点をタワー72の中心位置の相対位置として求め、タワー72の中心位置の緯度情報と経度情報に基づき相対位置の緯度情報と経度情報を算出する。そして、処理部32は、高さ位置と相対位置の緯度情報と経度情報とにより飛行目的位置を構成する。
【0087】
S360で、処理部32は、飛行ルートを作成する。つまり、処理部32は、タワー72の所定の高さ位置において、固定された風車70のブレード71がタワー72に重ならずに撮像するように、タワー72を全周方向から撮像するための飛行体10の複数の飛行目的位置の集合体で構成する飛行ルートを作成する。
S370で、処理部32は、作成した飛行ルートを飛行体10に送信する。送信された飛行ルートは飛行体10の記憶部18に格納される。
S380で、飛行体10の撮像装置14は、飛行ルートに沿って自動飛行し、飛行目的位置において撮像装置14によりタワー72を撮像する。ここで、飛行体10は、飛行目的位置を配列した順番に全ての飛行目的位置を通過するように自動飛行する。また、飛行体10は、飛行目的位置に移動した後において、撮像装置14がタワー72の中心に向くように飛行体10の姿勢制御を行う。
【0088】
S390で、処理部32は、飛行体10から画像情報を取得する。つまり、飛行体10の制御部19は、撮像したタワー72の画像情報(
図28の撮影日時339,画像名称340)と、撮像したタワー72を特定するための関連情報(サイト情報331と号機情報332)と、画像情報ごとの撮像位置および撮像向きを含む撮像条件(飛行目的位置336-338と撮像モード情報333とナセル方位角情報334)とを紐づけた情報を、制御装置30に送信する。
S400で、処理部32は、飛行体10から受信した画像情報および画像情報に紐づけた情報を、画像情報データベース33bに格納する。このS400の処理を撮像開始位置から撮像終了位置まで行うと処理が終了となる。
【0089】
図28は、画像情報データベース33bの説明図である。飛行体10から取得した画像情報は、以下に示す「タワー関連情報」と「撮像条件」を紐づけて記憶部33の画像情報データベース33bに格納される。
タワー関連情報とは撮像対象のタワー72を特定するための情報であり、サイト列331と、号機列332とを有する。
サイト列331は、風車の立地位置を示すサイト情報である。
号機列332は、風車の個体識別情報である。
【0090】
撮像条件とは各画像情報の撮像条件を特定するための情報であり、撮像モード列333と、ナセル方位角列334と、水平方向角度列335と、飛行目的位置(X:緯度列336、Y:経度列337、Z:高度列338)とを有する。
撮像モード列333は、タワー撮像時の撮像モードを示す情報である。
ナセル方位角列334は、タワー撮像時のナセル方位角βの角度情報である。
水平方向角度列335は、タワー撮像時の水平方向角度情報である。
飛行目的位置X(緯度列336)、Y(経度列337)、Z(高度列338)は、タワー撮像時の飛行目的位置の情報である。
【0091】
撮像日時列339は、撮像装置14がタワー72を撮像した際に付与される時刻情報である。
画像名称列340は、タワー72を撮像した際の画像情報に付与される画像名称を示す情報である。
【0092】
なお、飛行ルートを水平方向(X,Y)の説明(
図19、
図21)と、高さ方向(Z)の説明(
図20、
図22)とに分けて説明した。ここで、飛行ルートを直観的に理解しやすいように、
図29-
図32を参照して立体的に(X,Y,Z)説明する。
図29-
図32の立体図は、それぞれ同じタワー72を同じ飛行ルートで撮影する一例である。
【0093】
図29は、風車70を俯瞰視点で見た時の立体図である。
風車70は、
図17と同様に、ブレード71aが鉛直下向きに固定され、3枚のブレード71a~71cがY字型となる。そのタワー72の周囲の各飛行目的位置を点で示し、それらの点を線で接続した折れ線で示す飛行ルートも、
図29に図示されている。この飛行ルートは、
図20で説明したように、撮像開始位置901から上向きに移動し、その後は下向きの移動と上向きの移動とを交互に行い、撮像終了位置902まで、順に通過するように設定される。
【0094】
図30は、風車70を上空から真下に見下ろす平面視点で見た時の立体図である。
図19で説明したように、飛行ルートは、ハブ先端部74aのある正面側をなるべく回避するように設定される。
図31は、風車70を正面から見た時の立体図である。
図32は、風車70を側面から見た時の立体図である。
【0095】
図33は、タワー撮像システム100の各装置のハードウェア構成図である。
タワー撮像システム100の各装置(飛行体10、コントローラ(図示せず)、制御装置30)は、それぞれCPU901と、RAM902と、ROM903と、HDD904と、通信I/F905と、入出力I/F906と、メディアI/F907とを有するコンピュータ900として構成される。
通信I/F905は、外部の通信装置915と接続される。入出力I/F906は、入出力装置916と接続される。メディアI/F907は、記録媒体917からデータを読み書きする。さらに、CPU901は、RAM902に読み込んだプログラム(アプリケーションや、その略のアプリとも呼ばれる)を実行することにより、各処理部を改善制御する。そして、このプログラムは、通信回線を介して配布したり、CD-ROM等の記録媒体917に記録して配布したりすることも可能である。
【0096】
以上説明したタワー撮像システム100によれば、点検対象となるタワー72(構造物)の3次元形状データを取得する工程が、実際に飛行体10をタワー72の周囲に飛行させて下見する工程から、風車70の型式に応じた3次元形状データが事前に登録されている風車情報データベース33aからのデータ読み込み処理に置き換えることができる。
なお、同型式の風車が全国に点在しており、各風車はメーカが販売している風車の型式により寸法情報等が定められている。よって、風車の型式ごとに規定される情報を風車情報データベース33aに登録しておけば、その後には現物の風車70を下見しなくても、タワー72(構造物)の3次元形状データを風車情報データベース33aから取得できる。
よって、制御装置30は、風車の型式に応じたタワー点検時における、飛行体に搭載した撮像装置の好適な飛行ルートを設定し、飛行体10は、その飛行ルートに従いタワーを撮像できる。
【0097】
さらに、本発明は上述した各実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。例えば、上述した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するためにタワー撮像システム100の構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成要素に置き換えることが可能である。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成要素を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成要素の追加又は置換、削除をすることも可能である。
【0098】
また、上記の各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。ハードウェアとして、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの広義のプロセッサデバイスを用いてもよい。
また、上述した実施形態にかかるタワー撮像システム100の各構成要素は、それぞれのハードウェアがネットワークを介して互いに情報を送受信できるならば、いずれのハードウェアに実装されてもよい。また、ある処理部により実行される処理が、1つのハードウェアにより実現されてもよいし、複数のハードウェアによる分散処理により実現されてもよい。
【符号の説明】
【0099】
10 飛行体
11 本体
12 アーム
13 プロペラ
14 撮像装置
14a レンズ
14b イメージセンサ
15 モータ
16 位置・姿勢センサ
17 通信部
18 記憶部
19 制御部
19a 位置・姿勢算出部
19b 飛行制御部
19c 撮像指令部
19d 画像情報出力部
30 制御装置
31 入出力部
32 処理部
33 記憶部
33a 風車情報データベース
41 入力情報テーブル
42 風車関連テーブル
33b 画像情報データベース
70 風車
71 ブレード
72 タワー
73 ナセル
74 ハブ
74a ハブ先端部
100 タワー撮像システム
【要約】
【課題】風車の型式に応じたタワー点検時における、飛行体に搭載した撮像装置の好適な飛行ルートを設定し、その飛行ルートに従いタワーを撮像するタワー撮像システムを提供すること。
【解決手段】撮像装置14を有する飛行体10と制御装置30を含む風車70のタワー撮像システム100であって、制御装置30は、タワー72の所定の高さ位置において、固定された風車70のブレード71がタワー72に重ならずに撮像するように、タワー72を全周方向から撮像するための飛行体10の複数の飛行目的位置の集合体で構成する飛行ルートを作成して飛行ルートを飛行体10に送信し、飛行体10は、飛行ルートに沿って自動飛行し、飛行目的位置において撮像装置14によりタワー72を撮像する。
【選択図】
図1