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特許7473148水産生物用組成物、水産生物の育成方法、及びオリーブ採油粕発酵物の使用
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  • 特許-水産生物用組成物、水産生物の育成方法、及びオリーブ採油粕発酵物の使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】水産生物用組成物、水産生物の育成方法、及びオリーブ採油粕発酵物の使用
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/80 20160101AFI20240416BHJP
   A23K 10/37 20160101ALI20240416BHJP
【FI】
A23K50/80
A23K10/37
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019189568
(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公開番号】P2021061803
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】519372456
【氏名又は名称】角田 出
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】角田 出
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼瀬 清美
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-011994(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0166877(US,A1)
【文献】特開2019-106934(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159461(WO,A1)
【文献】特開平05-176688(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0366239(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103315133(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 - 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリーブ採油粕発酵物を含有し、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類及びオリーブ葉からなる群から選ばれた1種又は2種以上を併用して、水産生物に摂食させるためのものであることを特徴とする水産生物用組成物。
【請求項2】
前記水産生物の飼育域又は生息域に施与するように用いられるものである、請求項1記載の水産生物用組成物。
【請求項3】
水産生物用餌の形態である、請求項1又は2記載の水産生物用組成物。
【請求項4】
オリーブ採油粕発酵物と、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類及びオリーブ葉からなる群から選ばれた1種又は2種以上とを併用して、水産生物に摂食させることを特徴とする水産生物の育成方法。
【請求項5】
(1)前記オリーブ採油粕発酵物、及び(2)前記ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類及び前記オリーブ葉からなる群から選ばれた1種又は2種以上を、前記水産生物の飼育域又は生息域に施与することにより、前記水産生物に摂食させる、請求項4記載の水産生物の育成方法。
【請求項6】
水産生物に摂食させるためのものである水産生物用組成物の製造のための、オリーブ採油粕発酵物の使用であって、前期水産生物用組成物は、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類及びオリーブ葉からなる群から選ばれた1種又は2種以上を併用して、前記水産生物に摂取させるように用いられるものである、該オリーブ採油粕発酵物の使用。
【請求項7】
前記水産生物用組成物は、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類及びオリーブ葉からなる群から選ばれた1種又は2種以上とともに、前記水産生物の飼育域又は生息域に施与するように用いられるものである、請求項6記載のオリーブ採油粕発酵物の使用。
【請求項8】
前記水産生物用組成物は、水産生物用餌の形態である請求項又は記載のオリーブ採油粕発酵物の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖魚の育成等に適用することができる水産生物用組成物、水産生物の育成方法、及びこれに利用するオリーブ採油粕発酵物に関する。
【背景技術】
【0002】
オリーブオイルは料理等に広く利用される食用オイルであり、ヨーロッパなどが原産地として知られていたが、近年になって小豆島に代表されるように日本でも産地に広がりを見せている。オリーブオイルは、果実を破砕・摩砕し、搾って、液部を回収し、精製して得られる食用オイルであり、その製造工程から生じる搾りかす(以下、「オリーブ採油粕」又は単に「採油粕」という場合がある。)は、一定の基準のもと産業廃棄物として処分する必要があった。
【0003】
このオリーブ採油粕について、資源の有効利用の観点から、利活用の促進が望まれており、農作物の堆肥や、家畜を飼育するための飼料に利用することも提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-125210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは。オリーブ搾油粕を魚類の餌素材等として利活用することに着眼した。しかしながら、オリーブ搾油粕をそのまま用いても、あまり魅力的な実用性は得られないことが判明した。
【0006】
そこで、本発明の目的は、水産生物用として、より有効性の高められたオリーブ搾油粕素材を提供することにある。そして、これにより、オリーブ搾油粕の利用の促進を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意研究した結果、オリーブ搾油粕を発酵させたうえで水産生物に摂食させると、その摂食活動の活性化等に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、第1の観点として、オリーブ採油粕発酵物を含有し、水産生物に摂食させるためのものであることを特徴とする水産生物用組成物を提供するものである。
【0009】
上記水産生物用組成物においては、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類及びオリーブ葉からなる群から選ばれた1種又は2種以上を、更に併用して、前記水産生物に摂食させるように用いられるものであることが好ましい。
【0010】
また、上記水産生物用組成物においては、前記水産生物の飼育域又は生息域に施与するように用いられるものであることが好ましい。
【0011】
また、上記水産生物用組成物においては、水産生物用餌の形態であることが好ましい。
【0012】
本発明は、第2の観点として、オリーブ採油粕発酵物を水産生物に摂食させることを特徴とする水産生物の育成方法を提供するものである。
【0013】
上記水産生物の育成方法においては、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類及びオリーブ葉からなる群から選ばれた1種又は2種以上を、併用して摂食させることが好ましい。
【0014】
また、上記水産生物の育成方法においては、前記オリーブ採油粕発酵物を、前記水産生物の飼育域又は生息域に施与することにより、前記水産生物に摂食させることが好ましい。
【0015】
また、上記水産生物の育成方法においては、(1)前記オリーブ採油粕発酵物、及び(2)前記ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類及び前記オリーブ葉からなる群から選ばれた1種又は2種以上を、前記水産生物の飼育域又は生息域に施与することにより、前記水産生物に摂食させることが好ましい。
【0016】
本発明は、第3の観点として、水産生物に摂食させるためのものである水産生物用組成物の製造のための、オリーブ採油粕発酵物の使用を提供するものである。
【0017】
上記オリーブ採油粕発酵物の使用においては、前記水産生物用組成物は、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類及びオリーブ葉からなる群から選ばれた1種又は2種以上を、更に併用して、前記水産生物に摂取させるように用いられるものであることが好ましい。
【0018】
また、上記オリーブ採油粕発酵物の使用においては、前記水産生物用組成物は、水産生物の飼育域又は生息域に施与するように用いられるものであることが好ましい。
【0019】
また、上記オリーブ採油粕発酵物の使用においては、前記水産生物用組成物は、水産生物用餌の形態であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、オリーブ採油粕発酵物を利用して、水産生物の摂食活動の活性化等に優れる水産生物組成物を提供することができる。よって、これにより、オリーブ搾油粕の利用の促進を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】試験例7において実施された、対照餌又は3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)で飼育したギンザケの試食会におけるアンケート結果を示す図表である。
図2】試験例8において3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)の投与が海水飼育ギンザケの高温ストレス耐性に及ぼす影響について調べた結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に用いるオリーブ採油粕は、オリーブ果実からオイルを採油した後に残る採油粕であればよく、特に制限はないが、オリーブオイル製品の製造のための工場から排出される採油粕等であれば、コスト安く入手可能であるので好ましい。オリーブ採油粕は種有り、種無しのどちらでも使用可能である。
【0023】
本発明に用いるオリーブ採油粕は、発酵を経た発酵物である必要がある。発酵物であることにより、水産生物が摂食したとき、摂餌誘因効果や生体防御活性賦活効果等の作用効果が、より一層高められる。発酵は、湿潤状態もしくは適当な乾燥手段で乾燥状態にしたオリーブ採油粕を、そのまま室温で、例えば3~30日間程度放置することにより自然発酵させてもよく、あるいは、所定の発酵環境下に発酵させるようにしてもよい。発酵環境としては、例えば、ビニル袋等で覆い、空気との接触をやや制限した状態(酸素濃度~15%程度)で1~10日間程度(37℃)、任意に時折全体を混合しつつ発酵させるようにしてもよい。また、任意の限定されない態様においては、発酵用の微生物、例えば、Lactobacillus属、Enterococcus属等の乳酸菌からなる種菌や、事前に調製されたオリーブ採油粕の発酵物からなる発酵種を適宜添加して、発酵の効果を高めてもよい。乳酸菌は天然由来もものでもよく、生きた乳酸菌入り製品から分離して用いてもよい。あるいは市販のものを用いてもよい。なお、酸素濃度の高い場合や通常の空気中で発酵させる場合(好気条件下での発酵の場合、表面を除けば嫌気に近い発酵を維持しているので)は発酵期間をやや長めにとるとよい。
【0024】
発酵処理後の発酵物は、湿潤状態のものをそのまま凍結保存して、使用時には凍ったまま細切りにして市販の餌に混合して使用するようにしてもよく、あるいは、適当な乾燥手段で、乾燥したうえで、粉末化したり、冷凍ないし冷蔵ないし室温で保存したりするようにしてもよい。粉末化は、例えば、ミキサー等で破砕、篩(例えば孔サイズ2mm以下のもの)を用いて、篩を通過したもののみを選別して使用してもよい。また、場合により、更に乳鉢等を用いて細粉化してもよく、その微粉砕化後に、市販の餌を粉末化したものと混合して、結着材により再ペレット化してもよい。
【0025】
なお、乾燥操作に関しては、特に制限はなく、天日乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥、マイクロ波減圧乾燥、乾熱乾燥(通常の水分除去や水分量測定時に使用する条件下、例えば105℃での乾燥)等であってよい。ただし、天日乾燥は表面の酸化が進むため、できれば水分が大まかに抜けた後は日陰等での風乾が望ましい。なお、加熱乾燥を行うと、同操作により発酵物内の大部分の細菌類は死滅することになるが、細菌の細胞壁等の外皮が残っていれば、乳酸菌による免疫賦活の効果は維持されることも知られている。
【0026】
本発明に用いるナンノクロロプシスは、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類であればよく、特に制限はなく、例えば、市販の乾燥粉末品を使用してもよい。なお、稚魚用に濃縮・冷蔵されたナンノクロロプシス溶液を購入し、使用することも可能である。
【0027】
ナンノクロロプシスは、湿潤状態で用いてもよく、乾燥粉末化して用いてもよい。乾燥粉末化することにより、他の素材と混合することが容易になるので、好ましい。加熱処理や粉末化は、上記した発酵物と同様の手段、態様が例示され得る。ただし、加熱処理品(例えば、70℃で数時間や120℃で3時間以上など)では、場合によっては、その加熱処理により摂餌誘因効果や生体防御活性賦活効果等への寄与が低下する場合があるので、加熱処理を経ないもの用いることが好ましい。
【0028】
本発明に用いるオリーブ葉は、湿潤状態で用いてもよく、乾燥粉末化して用いてもよい。乾燥粉末化することにより、素材に含まれるオレウロペイン等の有効成分の減少が抑制されることに加え、他の素材と混合することが容易になるので、好ましい。加熱処理や粉末化は、上記した発酵物と同様の手段、態様が例示され得る。
【0029】
本発明にかかる水産生物用組成物は、オリーブ採油粕発酵物を少なくとも含有し、水産生物に摂食させるためのものである。例えば、乾燥して、粉末化もしくは微粉砕化したオリーブ採油粕発酵物に、カルボキシメチルセルロース(CMC)、小麦粉等の結着材と適宜水を加えて、必要に応じて任意に他の配合成分と共に混合してモイストペレットとして使用したり、ソフトタイプあるいはハードタイプの固形飼料としたりすることもできる。より典型的には、水産生物用餌の形態である。その場合、上記オリーブ採油粕発酵物を含有する水産生物用組成物は、それをそのまま餌とすればよいが、例えば、市販の餌に、上記オリーブ採油粕発酵物を所定量含有せしめたうえ、再ペレット化や再固形飼料化することにより、形態を調製することができる。あるいは、上記オリーブ採油粕発酵物の所定量を、市販の餌に、単に混合するだけでもよい。
【0030】
本発明にかかる水産生物用組成物は、上記した水産生物用餌の形態以外でもあり得る。例えば、餌配合用添加素材や、網やシート状,ブロック状、粒子状等であり得る水産用浮遊物、丸薬状、ワーム状等であり得る疑似餌等との共存のための、これらへの塗布体、結着体、浸体などの形態であり得る。また、オキアミ等のプランクトンや微細藻類等を含む小型生物、海藻や水生生物の摂餌対象となり得る大型動植物、それらのすり身等との共存のための、これらとの混合体、懸濁体、包接体、融合体、ないしはこれらへの塗布体、結着体、含浸体等状等の形態であり得る。更には、その他の加工・調理過程を経た形態であってもよい。この場合、当該組成物中のオリーブ採油粕発酵物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜設定することができる。その含有量の範囲としては、例えば、当該組成物中にオリーブ採油粕発酵物を0.01~100質量%含有する範囲を設定することができ、0.1~90質量%含有する範囲であってもよく、1~80質量%含有する範囲であってもよく、3~70質量%含有する範囲であってもよく、5~60質量%含有する範囲であってもよく、10~50質量%含有する範囲であってもよい。
【0031】
一方、本発明にかかる水産生物用組成物を餌の形態とする場合、当該水産生物用餌中のオリーブ採油粕発酵物の含有量としては、日間給餌量が体重の2%の場合は、乾燥物として0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~4.0質量%であることがより好ましい。すなわち、水産生物用餌中のオリーブ採油粕発酵物の日間投与量としては、魚体重1kgあたりに2~2000mgであることが好ましく、10~800mgであることがより好ましい。上記範囲未満であるとオリーブ採油粕発酵物による作用効果を十分に享受できない場合がある。また、上記範囲を超えても、例えば摂餌誘因効果や生体防御活性賦活効果等について、かえってその作用効果が妨げられる場合がある。
【0032】
一方、ナンノクロロプシスやオリーブ葉は、オリーブ採油粕発酵物と併用することにより、オリーブ採油粕発酵物による摂餌誘因効果や生体防御活性賦活効果等に対して、更により一層その効果を高めることができる。よって、オリーブ採油粕発酵物を含有する水産生物用組成物又は水産生物用餌には、更に、ナンノクロロプシス及び/又はオリーブ葉を含有せしめてもよい。これによれば、当該1剤を使用することにより、それに含有される成分の併用効果が得られる。オリーブ採油粕発酵物を含有する水産生物用組成物を餌の形態とする場合、当該水産生物用餌中に含有されるナンノクロロプシスの含有量としては、日間給餌量が体重の2%の場合は、乾燥物として0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~4.0質量%であることがより好ましい。すなわち、水産生物用餌中のナンノクロロプシスの日間投与量としては、魚体重1kgあたりに2~2000mgであることが好ましく、10~800mgであることがより好ましい。上記範囲未満であるとナンノクロロプシスによる作用効果を十分に享受できない場合がある。また、上記範囲を超えても、例えば摂餌誘因効果や生体防御活性賦活効果等について、かえってその作用効果が妨げられる場合がある。また、オリーブ採油粕発酵物(もしくはそれと共にナンノクロロプシス)を含有する水産生物用餌中に含有されるオリーブ葉の含有量としては、日間給餌量が体重の2%の場合は、乾燥物として0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~4.0質量%であることがより好ましい。すなわち、水産生物用餌中のオリーブ葉の日間投与量としては、魚体重1kgあたりに2~2000mgであることが好ましく、10~800mgであることがより好ましい。上記範囲未満であるとオリーブ葉による作用効果を十分に享受できない場合がある。また、上記範囲を超えても、例えば摂餌誘因効果や生体防御活性賦活効果等について、かえってその作用効果が妨げられる場合がある。また、なお、「併用」とは、複数成分を1個体に同時期に摂食させるようにすればよく、必ずしも同一剤に含有せしめることで併用する必要はなく、個別剤の形態で併用してもよいことは勿論である。
【0033】
本発明にかかる水産生物用組成物又は水産生物用餌には、必要に応じて任意に他の成分を配合してもよい。他の配合成分としては、乳酸菌、ユーグレナ、オリーブオイル、DHAやEPAのような高度不飽和脂肪酸、酒粕、麹、核酸,タウリン、イノシトールやカテキンやセサミン等のポリフェノール類、ホヤ殻、シクロデキストリンやα-リポ酸等の包摂体、米粉、ブロッコリースプラウト、クローバーやアルファルファ等のマメ科植物、ウメ、柑橘類、オウゴン等の生薬類、アスタキサンチン等のカロテノイド類等の他素材、あるいは、その乾燥物やエキス等が挙げられる。
【0034】
本発明にかかる水産生物用組成物又は水産生物用餌の使用態様は、適用する水産生物に摂食させるようにして用いればよく、特にその使用態様に制限はない。典型的に、例えば、水槽(陸上養殖施設、生簀等も含まれる)や水域(河川、沿岸域、池、湖沼、温泉、湧水地、遊水地等も含まれる)等、特定の飼育域又は生息域で育成している水産生物に対しては、その飼育域又は生息域に上記した組成物又は餌を施与することにより、その水産生物に摂取させることができる。この場合、施与量としては、水産生物の種類や年齢、大きさによっても異なり、更には、上記した組成物又は餌に含まれる上記した、オリーブ採油粕発酵物、ナンノクロロプシス、オリーブ葉の含有量によっても異なり、一概ではないが、例えば日間投与量として、魚体重1kgあたりに2~4000mgの施与量であれば通常許容され得、同10~2400mgの施与量であれば通常より許容され得る。
【0035】
本発明が適用され得る水産生物としては、とくに制限されないが、例を挙げるとすれば、例えば、ギンザケ、ベニザケ、ニジマス、マダイ、クロダイ、トラフグ、ヒラメ、マツカワ、ホシガレイ、マコガレイ、イシガレイ、アユ、コイ、ニシキゴイ、キンギョ、ニシキゴイ、メダカ、ウナギ、ブリ・ハマチ、カンパチ、ヒラマサ、マアジ、シマアジ、クロマグロ、イシダイ、カワハギ、メバル、カサゴ、クロソイ、マサバ、マハタ、クエ、マハゼ、チョウザメ類等の魚類や、スジエビ、クルマエビ、イセエビ、テナガエビ、ケガニ、タラバガニ、ノコギリガザミ、モクズガニ、ミネフジツボ、スナモグリ等の節足動物や、キタムラサキウニ、ムラサキウニ、エゾバフンウニ、バフンウニ、アカウニ、マナマコ等の棘皮動物や、エゾアワビ、クロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビ、トコブシ、サザエ、カキ類、ホタテ、アカガイ、アカザラガイ、ウバガイ(ホッキガイ)、アサリ、ハマグリ、シジミ、アコヤガイ、クロチョウガイ、マダコ等の軟体動物等や、マボヤ(原索動物)、ゴカイ等の環形動物、サンゴ、イソギンチャク等の刺胞動物等である。
【実施例
【0036】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0037】
(1)被検物質
・オリーブ採油粕:オリーブ採油粕(種有り)を凍結乾燥後、ミキサーで破砕、篩(孔サイズ2 mm)を用いて、篩を通過したもののみを選別して使用した。
・オリーブ採油粕発酵物:オリーブ採油粕(種有り)を、ビニル袋で覆い、空気との接触をやや制限した状態(酸素濃度~15%程度)で3~10日間程度、時折全体を混合しつつ発酵させた。凍結乾燥後、ミキサーで破砕、篩(孔サイズ2mm)を用いて、篩を通過したもののみを選別して使用した。
・オリーブ採油粕乳酸菌添加発酵物:上記のオリーブ採油粕発酵時に乳酸菌を加えて、発酵操作をおこなったものを使用した。
・ナンノクロロプシス: 市販の乾燥粉末品を使用した。
・オリーブ葉: 市販の無農薬栽培品を乾燥粉末化したものして使用した。
【0038】
(2)試験用餌の調製
各種の被検物質を配合した試験用餌を調製した。具体的には、市販餌を粉末化し、被検物質を添加して、結着剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)と水を加えてよく混合し、 再ペレット化してソフトタイプの固形飼料とした。対照餌としては、被験物質を添加しない以外は同様にして、市販餌を再ペレット化してソフトタイプの固形飼料としたものを用いた。餌は、原則として3日~1週間毎に必要分を調製して、-30℃あるいは-80℃で冷凍保存しおき、用時に解凍して給餌した。以下には、使用した市販餌を、対象魚種と飼育態様ごとに示す。
【0039】
・淡水飼育(アユ、ギンザケ):市販のマス用飼料(アスタキサンチン無添加)
・海水飼育(トラフグ):市販のマス用飼料(アスタキサンチン無添加)
・海水飼育(ギンザケ、マダイ):市販のアスタキサンチン含有ギンザケ用飼料
・海水飼育(ヒラメ):市販のヒラメ用飼料(アスタキサンチン無添加)
・淡水飼育(スジエビ):市販のマス用飼料(アスタキサンチン無添加)
・海水飼育(キタムラサキウニ、エゾアワビ):市販のマス用飼料(アスタキサンチン無添加)
【0040】
魚類の飼育試験については、日間給餌量が体重の2%になるように設定し、市販飼料への添加量・混合量は、各種被検物質の総量にして1.75~3.5質量%相当量(魚体重1kgあたりの摂取量は、各種被検物質の総量にして350~700mgとなるような条件下)で実施した。なお、原則として各種被検物質の2種以上を併用する場合、その配合割合は、オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシスでは、混合比は3:1とし、オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉では、混合比は3:1:3)とした。また、摂餌誘因試験については、市販飼料への各種試験物の添加量・混合量はオリーブ採油粕発酵物が1.5%、ナンノクロロプシスが0.5%、オリーブ葉は1.5%質量%相当量となるような条件下で実施した。
【0041】
[試験例1]
各種の魚類を飼育したときの摂餌行動について調べた。
【0042】
1.ギンザケ(Oncorhynchus kisutsh)
1-1.淡水飼育(水温14℃)
容量2トンの循環ろ過式水槽内に容量60Lの複数個の水槽を設置し、14℃に調整した淡水を巡らせた。各60L水槽に10尾のギンザケ(体重:約50g)を収容し、各種被検物質を配合した試験用餌(7種類、表1参照)を、1日当たり水槽毎に収容総魚体重の2質量%相当量(日間投与量が2%体重)になるように投与し、餌投与から投与した餌が完全に消失するまでの時間(摂餌所要時間)を計測した。
【0043】
1-2.海水飼育(水温15~18℃)
海水かけ流しの容量15トンの陸上養殖用コンクリート製水槽に、ギンザケ(体重:約800g)を30尾ずつ収容し、各種被検物質を配合した試験用餌(7種類、表1参照)を、1日当たり水槽毎に収容総魚体重の2質量%相当量(日間投与量が2%体重)になるように投与し、餌投与から投与した餌が完全に消失するまでの時間(摂餌所要時間)を計測した。実験水温は15~18℃であった。
【0044】
1-3.海水飼育(水温19~22℃)
【0045】
上記(1-2.)の海水飼育と同様にして、実験水温が19~22℃となる時期に試験を行った。
【0046】
2.マダイ(Pagrus major)
20℃に調整した海水を容量60Lの循環ろ過式水槽に満たし、各水槽に8尾のマダイ稚魚(体長:約80mm)を収容し、各種被検物質を配合した試験用餌(7種類、表1参照)を、1日当たり水槽毎に収容総魚体重の2質量%相当量(日間投与量が2%体重)になるように投与し、餌投与から投与した餌が完全に消失するまでの時間(摂餌所要時間)を計測した。
【0047】
3.トラフグ(Takifugu rubripes)
20℃に調整した海水を容量60Lの循環ろ過式水槽に満たし、各水槽に7尾のトラフグ稚魚(体長約:80mm)を収容し、各種被検物質を配合した試験用餌(7種類、表1参照)を、1日当たり水槽毎に収容総魚体重の2質量%相当量(日間投与量が2%体重)になるように投与し、餌投与から投与した餌が完全に消失するまでの時間(摂餌所要時間)を計測した。
【0048】
4.ヒラメ(Paralichthys olivaceus)
容量2トンの海水かけ流し式の陸上養殖水槽で飼育したヒラメを、同容量の循環ろ過式水槽内に設置した容量60Lの水槽に移入し、20℃に調整した海水を巡らせた状態で10日間飼育後に摂餌行動に係る試験を実施した。すなわち、各60L水槽に5尾のヒラメ(体重:約200g)を収容し、各種被検物質を配合した試験用餌(5種類、表1参照)を、1日当たり水槽毎に収容総魚体重の2質量%相当量(日間投与量が2%体重)になるように投与し、餌投与から投与した餌が完全に消失するまでの時間(摂餌所要時間)を計測した。実験水温は20℃であった。
【0049】
5.アユ(Plecoglossus altivelis)
容量2トンの循環ろ過式水槽内に容量60Lの複数個の水槽を設置し、20℃に調整した淡水を巡らせた。各60L水槽に10尾のアユ(体重:約50g)を収容し、各種被検物質を配合した試験用餌(4種類、表1参照)を、1日当たり水槽毎に収容総魚体重の2質量%相当量(日間投与量が2%体重)になるように投与し、餌投与から投与した餌が完全に消失するまでの時間(摂餌所要時間)を計測した。実験水温は20℃であった。
【0050】
表1には、餌投与から餌が完全に消失するまでの摂餌所要時間について、対照餌を投与したときの値を100としたときの相対値で示す。具体的には、5回の試験において算出された摂餌所要時間の平均相対値を、統計的有意差とともに示す。
【0051】
【表1】
【0052】
その結果、表1に示されるように、以下のことが明らかとなった。
(1)オリーブ採油粕の未発酵物を配合した餌では、試験した魚種において、対照餌と比較したときの摂餌活動の増加がほとんどみられなかった。
(2)オリーブ採油粕の発酵物を配合した餌では、いくつか魚種及び飼育態様、例えばギンザケの淡水飼育(水温14℃)、ギンザケの海水飼育(水温15~18℃)、ヒラメの海水飼育(水温20℃)の飼育態様において、対照餌に比べて、摂餌活動の増加傾向がみられた。
(3)ナンノクロロプシスを配合した餌では、いくつか魚種及び飼育態様、例えばギンザケの海水飼育(水温15~18℃)、ヒラメの海水飼育(水温20℃)の飼育態様において、対照餌に比べて、摂餌活動の増加傾向がみられた。
(4)オリーブ葉を配合した餌では、試験した魚種において、対照餌と比較したときの摂餌活動の増加がほとんど得られなかった。
(5)オリーブ採油粕の発酵物を配合し、更にナンノクロロプシスを配合した餌では、オリーブ採油粕発酵物を単独で配合した場合や、ナンノクロロプシスを単独で配合した場合に比べて、対照餌と比較したときの摂餌活動の増加効果がより顕著にみられた。
(6)オリーブ採油粕の発酵物を配合し、更にナンノクロロプシス及びオリーブ葉を配合した餌では、オリーブ採油粕発酵物を単独で配合した場合や、ナンノクロロプシスを単独で配合した場合や、オリーブ採油粕発酵物及びナンノクロロプシスの2種を配合した場合に比べて、対照餌と比較したときの摂餌活動の増加効果が更により顕著にみられた。
【0053】
[試験例2]
スジエビ(Palaemon paucidens)を飼育したときの摂餌行動について調べた。具体的には、20℃に調整した淡水を容量20Lの循環ろ過式水槽に満たし、各水槽に5尾のスジエビ(体長:約50mm)を収容し、各種被検物質を配合した試験用餌(7種類、表2参照)を、1日当たり水槽毎に収容総魚体重の2質量%相当量(日間投与量が2%体重)になるように投与し、餌投与から1分間以内に摂餌行動を起こした個体数を計数した。
【0054】
表2には、餌投与から1分間以内に摂餌行動を起こした個体数について、対照餌を投与したときの値を100としたときの相対値で示す。具体的には、6回の試験において算出された摂餌行動を起こした個体数の平均相対値を、統計的有意差とともに示す。
【0055】
【表2】
【0056】
その結果、表2に示されるように、以下のことが明らかとなった。
(1)オリーブ採油粕の未発酵物を配合した餌では、対照餌と比較したとき、摂食行動を起こした個体数の増加がみられず、むしろ阻害の傾向がみられた。
(2)オリーブ採油粕の発酵物を配合した餌では、対照餌に比べて、摂食行動を起こした個体数の増加傾向がみられた。
(3)ナンノクロロプシスを配合した餌では、対照餌と比較したとき、摂食行動を起こした個体数の増加がみられず、むしろ阻害の傾向がみられた。
(4)オリーブ葉を配合した餌では、対照餌と比較したとき、摂食行動を起こした個体数の増加がほとんどみられなかった。
(5)オリーブ採油粕の発酵物を配合し、更にナンノクロロプシスを配合した餌では、オリーブ採油粕発酵物を単独で配合した場合や、ナンノクロロプシスを単独で配合した場合に比べて、摂食行動を起こした個体数の増加がより顕著にみられた。
(6)オリーブ採油粕の発酵物を配合し、更にナンノクロロプシス及びオリーブ葉を配合した餌では、オリーブ採油粕発酵物を単独で配合した場合や、ナンノクロロプシスを単独で配合した場合や、オリーブ採油粕発酵物及びナンノクロロプシスの2種を配合した場合に比べて、摂食行動を起こした個体数の増加が更により顕著にみられた。
【0057】
[試験例3]
キタムラサキウニ(Strongylocentrotus nudus)を飼育したときの摂餌行動について調べた。具体的には、20℃に調整した人工海水を容量約14Lの容器(繊維強化プラスチックFRP製のバット:481×335×87H mm)に満たし、対照餌と3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)に加え、採油粕未発酵物混合餌、採油粕発酵物混合餌、ナンノクロロプシス混合餌、オリーブ葉混合餌、2種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス)の5種類のうちのいずれかを、試験動物であるキタムラサキウニの管足が届く距離にあり、試験動物を取り巻く円周上に等間隔に配置し(餌0.3~0.5gずつを三角形の頂点に当たる位置に配置し、試験動物1個体を餌の三角形の重心に配位し)、10分間に餌に向かっての管足を伸長する伸長本数を観察した。なお、試験は、通気を止めて容器内に外的な要因に伴う水流が発生しない状態で行った(試験時の溶存酸素濃度は6.0mg/L以上)。
【0058】
表3には、管足伸長本数の結果を、対照餌を投与したときの値を100としたときの相対値で示す。具体的には、各試験用餌の組合せにおいて試験動物3個体ないし7個体の試験によって得られた平均相対値を、統計的有意差とともに示す。
【0059】
【表3】
【0060】
その結果、表3に示されるように、以下のことが明らかとなった。
(1)オリーブ採油粕の未発酵物を配合した餌では、対照餌と比較したとき、餌に対する管足の伸長数の増加がみられず、むしろ阻害の傾向がみられた。
(2)オリーブ採油粕の発酵物を配合した餌では、対照餌に比べて、餌に対する管足の伸長数の増加傾向がみられた。
(3)ナンノクロロプシスを配合した餌では、対照餌に比べて、餌に対する管足の伸長数の増加傾向がみられた。
(4)オリーブ葉を配合した餌では、対照餌と比較したとき、餌に対する管足の伸長数の増加がみられず、むしろ阻害の傾向がみられた。
(5)オリーブ採油粕の発酵物を配合し、更にナンノクロロプシスを配合した餌では、オリーブ採油粕発酵物を単独で配合した場合や、ナンノクロロプシスを単独で配合した場合に比べて、餌に対する管足の伸長数の増加がより顕著にみられた。
(6)オリーブ採油粕の発酵物を配合し、更にナンノクロロプシス及びオリーブ葉を配合した餌では、オリーブ採油粕発酵物を単独で配合した場合や、ナンノクロロプシスを単独で配合した場合や、オリーブ採油粕発酵物及びナンノクロロプシスの2種を配合した場合に比べて、餌に対する管足の伸長数の増加が更により顕著にみられた。
【0061】
なお、キタムラサキウニが今回の餌を摂餌すること、及び、上記2種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス)、あるいは、上記3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)を投与した場合に、対照餌に比べてその摂餌活性が高まることは、全面ガラス張りの水槽内(海水温20℃)及び海水かけ流し式の陸上養殖水槽内(水温14~23℃)に収容したキタムラサキウニにより、別途確認した。
【0062】
[試験例4]
【0063】
エゾアワビ(Haliotis discus hannai)を飼育したときの摂餌行動について調べた。具体的には、20℃に調整した人工海水を容量約14Lの容器(繊維強化プラスチックFRP製のバット:481×335×87H mm)に満たし、対照餌と、他の2種類の試験用餌のそれぞれを一対ずつ組にして(表4参照)、その餌0.3~0.5gずつを試験動物の触角近くの左右に配置し、10分間、摂餌のための移動方向を観察した。なお、試験は、通気を止めて容器内に外的な要因に伴う水流が発生しない状態で行った(試験時の溶存酸素濃度は6.0mg/L以上)。
【0064】
結果を表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
その結果、表4に示されるように、オリーブ採油粕発酵物及びナンノクロロプシスを配合した餌(2種混合餌)と、オリーブ採油粕の発酵物を配合し、更にナンノクロロプシス及びオリーブ葉を配合した餌(3種混合餌)では、これらの餌が、エゾアワビの餌方向への移動行動の誘因とることが明らかとなった。
【0067】
なお、エゾアワビが今回の餌を摂餌すること、及び、上記2種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス)、あるいは、上記3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)を投与した場合に、対照餌に比べてその摂餌活性が高まることは、全面ガラス張りの水槽内(海水温20℃)及び海水かけ流し式の陸上養殖水槽内(水温14~24℃)に収容したエゾアワビにより、別途確認した。
【0068】
[試験例5]
各種被検物質を配合した試験用餌の投与が、ギンザケの生体防御活性に及ぼす影響について調べた。
【0069】
1.淡水飼育(水温14℃)
容量2トンの循環ろ過式水槽内に容量60Lの複数個の水槽を設置し、14℃に調整した淡水を巡らせた。各60L水槽に10尾のギンザケ(体重:約50g)を収容し、市販のマス用飼料(アスタキサンチン無添加)に各種被検物質を配合した試験用餌(7種類、表5参照)を、1日当たり水槽毎に収容魚体重の2%質量相当量(日間投与量が2%体重)になるように投与して4週間(週6日間の24日間給餌)飼育し、餌の違いが魚の生体防御活性に及ぼす影響を調べた(各被検物質の総量の日間給餌量は400mg/kg体重に調製して投与試験を実施)。
【0070】
2.海水飼育(水温6~12℃)
海水かけ流しの容量15トンの陸上養殖用コンクリート製水槽に、ギンザケ(体重:約200g)を60尾ずつ収容し、市販のアスタキサンチン含有ギンザケ用飼料に各種被検物質を配合した試験用餌(5種類、表6参照)を、1日当たり水槽毎に収容総魚体重の2質量%相当量になるように投与して4週間(週6日間の24日間給餌)飼育し、餌の違いが魚の生体防御活性に及ぼす影響を調べた(各被検物質の総量の日間給餌量は400 mg/kg体重に調製して投与試験を実施)。
【0071】
(測定項目)
4週間の飼育試験終了後、各群より5尾の魚を取り上げ、各種生体防御活性指標を調査した。各種生体防御活性指標の測定法は以下の通りである。
【0072】
・顆粒球の貪食活性:0.8%NaCl液中にザイモザン(シグマ社製)を0.5mg/mL となるよう懸濁させた後、超音波処理によって均一化した同液と全血を等量ずつ混合し、20℃で 40分間、振とう条件下で反応させた。反応終了後、均一化した反応液の一部をスライドグラスに滴下し、直ちに塗抹、風乾した後、メイグリュンワルド・ギムザ染色を施して検鏡した。貪食能は100個の顆粒球を観察し、貪食率(%)を(ザイモザンを食した顆粒球数/観察した顆粒球数)×100として求めた。
【0073】
・ポテンシャルキリング(PK)活性:全血50μLを毛細管に充填して, 一端をヘマトシール(粘土)で閉じた後、ヘマトクリット遠心機を用いて、1,000×gで5分間の遠心操作を行った後、毛細管にできた赤血球と白血球の間を赤血球層が入らないように注意しつつ切断し、白血球層を含む血漿分画をサンプルカップ等に流し出した。このサンプルカップに、50μLの生理食塩水を加えてよくピペッティングをした後、同懸濁液を15μLずつ2本の新しいサンプルカップに取り、その一方にはNBT溶液(ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)を2mg/mL の割合で生理食塩水に加えたもの)を15μL、他方にはNBT溶液にザイモザンを5mg/mLの割合で加えたもの(ザイモザン含有NBT溶液)を15μL加え、よく混和後、1時間室温下で静置した。その後、両方のサンプルカップに、ジメチルホルムアミド(原液)400μLを加え、よく混和してから、1,000×gで15分間遠心分離し、上清分画を分離・採取した。この上清250μLを石英マイクロセルに取り、540nmにて吸光度を測定し、下記式により、ポテンシャルキリング(PK)活性を算出した。
ポテンシャルキリング(PK)活性=(ジメチルホルムアミドを加えたザイモザン含有NBT溶液の吸光度)-(ジメチルホルムアミドを加えたNBT溶液の吸光度)
【0074】
・ACH50値(補体活性):10mM EGTA・Mg・GVB(pH 7.8)で希釈した試験魚の血清希釈・定容した液に、ウサギの赤血球浮遊液を加えて15℃で2時間反応させた後、10 mM EDTA・GVB液を加えて反応を止め、3,000rpmで5分間遠心後、上清の吸光度(OD414)から溶血率を求め、4×10個のウサギ赤血球の50%を溶血させうる数値を1単位(ACH50 unit)として算出した。
【0075】
・抗酸化活性 Antioxidant:ケイマンケミカル社製のAntioxidant Assay Kit を用いて、血漿試料の抗酸化能を調べた。具体的には、metmyoglobin によるABTS(2, 2'-azino-di-[3-ethylbenzthiazoline sulphonate])のABTS+への酸化反応を阻害する活性を指標に,抗酸化能を測定した。
【0076】
表5には、淡水飼育ギンザケを対象とした飼育試験(餌にアスタキサンチンを含まず)結果について、また表6には、海水飼育ギンザケを対象とした飼育試験(餌にアスタキサンチンを含む)結果を、各測定項目について、対照餌を投与したときの値を100として、各群から得られた魚の生体防御指標の平均相対値を、統計的有意差とともに示す。
【0077】
【表5】
【表6】
【0078】
その結果、表5に示されるように、採油粕発酵物混合餌、採油粕乳酸菌添加発酵物混合餌、ナンノクロロプシス混合餌、2種混合餌(採油粕発酵物+ナンノクロロプシス)、又は3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)を投与すると、対照餌に比べて、細胞性免疫(生体防御)の指標である顆粒球貪食活性とポテンシャルキリング(PK)活性が活性化されることに加えて、液性免疫機構に含まれる補体活性も、対照餌に比べて、有意に高い値を示すことが分かった。更に、少なくともナンノクロロプシス、2種混合餌(採油粕発酵物+ナンノクロロプシス)、又は3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)を投与した群では、血漿の抗酸化活性が有意に高まった。抗酸化活性の上昇は、鮮度保持(赤筋部分の酸化的褐色化反応や脂質酸化等による鮮度低下や味の劣化等を防ぐ)や魚類の抗病性に正の効果を付与することから、この結果は当該組成物の経口投与が魚類の生体防御活性を高めるのみでなく、取り上げ後の品質低下を抑制する作用を付与し得ること(酸化・変色しにくい肉質に改善されること)を示唆するものであった。
【0079】
また、表6に示されるように、表5に示された淡水飼育の結果同様に、海水飼育においても同様の結果が得られた。すなわち、採油粕発酵物混合餌、ナンノクロロプシス混合餌、オリーブ葉混合餌、2種混合餌(採油粕発酵物+ナンノクロロプシス)を投与すると、対照餌に比べて、細胞性免疫(生体防御)の指標である顆粒球貪食活性とポテンシャルキリング(PK)活性が活性化されること、又は3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)を投与すると、細胞性免疫に加えて液性免疫機構に含まれる補体活性も、対照餌に比べて、有意に高い値を示すことが分かった。なお、本飼育試験では、抗酸化物質であるアスタキサンチンが餌に含まれていたこともあり、血漿の抗酸化活性に有意な変化は認められなかった。
【0080】
[試験例6]
3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)の投与が、マダイ稚魚の生体防御活性に及ぼす影響について調べた。具体的には、20℃に調整した海水を容量60Lの循環ろ過式水槽に満たした水槽を2槽用意し、各水槽に8尾のマダイ稚魚(体長:約55mm)を収容した。対照餌又は3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)を、1日当たり水槽毎に収容総魚体重の2質量%相当量(日間投与量が2%体重)になるように投与し、4週間飼育した。4週間後、魚を取り上げて体重計測後、ヘパリン処理した注射器を用いて尾部血管より採血し、赤血球数、顆粒球貪食活性、及びNBT還元(殺菌)活性を測定した。
【0081】
(測定項目)
・体重
・赤血球数
・顆粒球の貪食活性:上記した方法による
・顆粒球のニトロブルーテトラゾリウム(NBT)還元活性:顆粒球のNBT還元活性、すなわち殺菌能は、NBT(和光純薬社製)を0.8%の塩化ナトリウムを含む1/15Mリン酸緩衝液(pH7.2)に溶解した液と血液試料を混合し、20℃で30分間反応させた後、スライドグラス上で 100個の顆粒球を観察し、ホルマザンを形成している顆粒球の出現率(陽性率)を調べることにより求めた。
【0082】
結果を表7に示す。なお、結果は、測定項目ごと、対照餌を投与したときの値を100として相対値で示した。
【0083】
【表7】
【0084】
その結果、表7に示されるように、3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)を投与すると、対照餌に比べて、顆粒球の貪食活性及びNBT還元(殺菌)活性ともに有意に高い値を示した。よって、3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)の投与は、マダイ稚魚の生体防御活性を有意に高めることが明らかとなった。なお、両群間において、体重及び赤血球数を含め、血球組成に有意な差は認められなかった。
【0085】
[試験例7]
3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)の投与が、海水飼育ギンザケの筋肉の色調や成分、および、味覚や嗅覚判定に及ぼす影響について調べた。具体的には、海水かけ流しの容量15トンの陸上養殖用コンクリート製水槽に、ギンザケ(体重:600~1000g)を50尾ずつ収容した。対照餌又は3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)を、1日当たり水槽毎に収容総魚体重の2質量%相当量(日間投与量が2%体重)になるように投与して4週間(週6日間の24日間給餌)飼育し、餌の違いが魚の生体防御活性に及ぼす影響を調べた(各被検物質の総量の日間給餌量は700mg/kg体重(採油粕発酵物:ナンノクロロプシス:オリーブ葉=3:1:3)に調製して投与試験を実施)なお、飼育水温は15~21℃であった。
【0086】
1.筋肉の色調
両群5個体の魚について、躯幹部体表背部を基準となる赤、緑、青(以下、R、G、Bとする)の色紙とともにデジタルカメラで撮影した。その後、背部白筋の画像中の各3点について、RGB取得ソフト(RGB Get)を用いて、RGB値を計測し、HSV値(H値;色相、S値;彩度、V値;明度)を算出した。
【0087】
2.筋肉中の遊離グリシン(アミノ酸)含有量
両群5個体の魚について、切り取った筋肉試料に4倍量のスルホサリチル酸を加え、ホモジナイズした後、1500×gで10分間遠心操作を行い、中間層を採取し、孔径0.2μmのセルロースフィルターでろ過し、その濾液をアミノ酸分析用の試料とした。同試料を超高速液体クロマトグラフ質量分析装置(Waters社製、UPLC:H-Class, PDAMS:SQD2)を用いて測定し、外部標準法にて、遊離のグリシン含量を求めた。
【0088】
表8には、筋肉の色調に係る数値としてS値(彩度)とV値(明度)、および、筋肉の遊離グリシン含有量について、対照餌を投与した時の値を100としたときの相対値で示す。
【0089】
【表8】
【0090】
その結果、表8に示されるように、3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)を投与すると、対照餌に比べて、彩度と明度の数値が高く、筋肉が鮮やかつ明るい色をしていることが分かった。また、筋肉中の遊離グリシン含有値が有意に高かった。他のアミノ酸組成等については、有意な差は認められなかった。
【0091】
3,試食会でのアンケート結果
対照餌又は3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)で飼育したギンザケの試食会を行い、参加者からアンケートを取った。料理は刺身、焼き物、蒸し物、汁物の4種とし、4種類の料理の試食後に、参加者14名に、外観、のど越し味、歯触り、匂いの5項目を十段階で評価してもらった。
【0092】
その結果、図1に示されるように、3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)の投与により、対照餌投与時に比べ、刺身では匂い、歯触り、味、のど越しが、焼き物では匂いと味が、蒸し物では匂い、歯触りと味が、汁物では歯触り、味、のど越しが、それぞれ高得点になった。なお、試食会参加者のほぼ全員が、3種混合餌で飼育した群の魚は、対照餌で飼育した魚に比べ、臭みがなく、さっぱりとした味わいがあるとコメントした。
【0093】
[試験例8]
3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)の投与が、海水飼育ギンザケの高温ストレス耐性に及ぼす影響について調べた。具体的には、海水かけ流しの容量15トンの陸上養殖用コンクリート製水槽に、ギンザケ(体重:約500~800g)を30尾ずつ収容し、収容総魚体重の2質量%相当量になるように、対照餌又は3種混合餌を投与し、飼育魚の生存が確認できなくなるまで試験を実施した。飼育試験は、5月下旬から7月中旬に行い、試験中の水温はおよそ16~24℃まで変化した。
【0094】
その結果、図2に示されるように、3種混合餌(オリーブ採油粕発酵物+ナンノクロロプシス+オリーブ葉)の投与により、飼育水温が20~22℃の高温期において、ギンザケの生残率が高められた。具体的には、当該高温期の生残率が、対照餌を投与した場合に比べて8~20%高かった。ただし、水温が22~25℃になると、魚の生残率は急激に低下し、10日以内に全滅した。
図1
図2