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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】水素製造装置、及び、水素製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/08 20060101AFI20240416BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240416BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240416BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240416BHJP
   C25B 9/67 20210101ALI20240416BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20240416BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20240416BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20240416BHJP
   C25B 11/089 20210101ALI20240416BHJP
   C25B 15/021 20210101ALI20240416BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C25B13/08 301
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B9/67
C25B11/054
C25B11/065
C25B11/081
C25B11/089
C25B15/021
C25B15/08 302
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020008826
(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公開番号】P2021116439
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】金 済徳
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-503262(JP,A)
【文献】特表2018-511694(JP,A)
【文献】特開2005-133146(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157389(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/016367(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/029967(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 13/08
C25B 9/00
C25B 1/04
C25B 9/23
C25B 9/67
C25B 11/054
C25B 11/065
C25B 11/081
C25B 11/089
C25B 15/021
C25B 15/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素製造装置であって、
水電解部と、
セル加熱部と、
水供給部と、
前記水電解部、前記セル加熱部、及び前記水供給部を制御する制御部と、備え
前記水電解部は、水電解セルと、電源とを有し、
前記水電解セルは、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方側に配置されたアノード電極触媒層と、前記固体高分子電解質膜の他方側に配置されたカソード電極触媒層と、前記アノード電極触媒層及び前記カソード電極触媒層のそれぞれに電気的に接続された一対の給電体とを有し、
前記電源は、前記給電体の間に電流を印加できるよう前記水電解セルと接続され、
前記セル加熱部は、前記水電解セルの温度を制御するための第1のヒータを有し、
前記水供給部は、前記水電解セルのアノード側に水を供給するように構成され、且つ、前記水の温度を制御するための第2のヒータを有し、
前記制御部は、前記セル加熱部を制御して、前記水電解セルの温度を100℃を超えて180℃以下に保持するように構成され、
前記固体高分子電解質膜は、下記式4で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を含有する水素製造装置。
【化1】
(式4中、X 41 ~X 44 はそれぞれ独立にスルホン酸基含有基を表し、q1~q4はそれぞれ独立に0~4の整数を表し、q1~q4の和であるq1+q2+q3+q4は1以上である。)
【請求項2】
前記アノード電極触媒層が、金属イリジウム、金属ルテニウム、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、及び、これらの複合体からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項3】
前記カソード電極触媒層が、金属プラチナ、金属ルテニウム、プラチナ-コバルト合金、及び、ルテニウム-コバルト合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属触媒、又は、前記金属触媒が炭素材料に担持された、金属担持炭素触媒を含有する、請求項1又は2に記載の水素製造装置。
【請求項4】
前記制御部が、前記水電解セルの温度を120℃を超えて、180℃以下に保持する、請求項1~3のいずれか1項に記載の水素製造装置。
【請求項5】
前記高分子化合物が下記式Aで表される繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも1種の繰り返し単位を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の水素製造装置。
【化2】
【請求項6】
水素製造方法であって、
下記式4で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を含有する固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方側に配置されたアノード電極触媒層と、前記固体高分子電解質膜の他方側に配置されたカソード電極触媒層と、前記アノード電極触媒層及び前記カソード電極触媒層のそれぞれに電気的に接続された一対の給電体とを有する水電解セルの温度を100℃を超えて180℃以下に制御することと
前記水電解セルのアノード側に水を供給することと、
前記給電体の間に電流を印加して前記水を電気分解して水素を発生すること、とを含む水素製造方法。
【化3】

(式4中、X 41 ~X 44 はそれぞれ独立にスルホン酸基含有基を表し、q1~q4はそれぞれ独立に0~4の整数を表し、q1~q4の和であるq1+q2+q3+q4は1以上である。)
【請求項7】
前記水電解セルの温度を120℃を超えて180℃以下に制御する、請求項に記載の水素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造装置、及び、水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学的な反応を利用して水を電気分解し、水素を発生させる水素製造装置が知られている。なかでも、固体高分子電解質膜を用いるものは、アルカリ水溶液を電解質に用いる方法と比較して、より低コスト、高純度、及び/又は、より高効率が期待されている。
【0003】
このような水素製造装置として、特許文献1には、「分子電解質膜と、上記高分子電解質膜の一方の面に密着するように設けられた触媒電極及び給電体からなるアノード電極と、上記高分子電解質膜の他方の面に密着するように設けられた触媒電極及び給電体からなるカソード電極とからなる電解セルを備えた水電解装置において、上記アノード電極及びカソード電極のいずれか一方の電極は外気開放とし、他方の電極を気密に密閉して電極室を形成し、上記電極室にガス出口を設けたことを特徴とする水電解装置。」が記載され、高分子電解質膜として、パーフルオロスルホン酸系ポリマー膜が記載されている。
【0004】
また、固体電解質膜として、特許文献2には、「100℃を越える温度で安定なプロトン伝導性ポリマーを含有する固体ポリマー電解質膜。」であって、「前記プロトン伝導性ポリマーが、少なくとも200mol%の酸ドーピングレベルで強酸をドープした塩基性ポリマーである、請求項1に記載の固体ポリマー電解質膜。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開第2005-298938号公報
【文献】特表平11-503262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された水電解装置は、電解質膜として使用されるパーフルオロスルホン酸系ポリマーのガラス転移温度が低いことから、水電解セルを100℃を超える温度で動作させると、固体高分子電解質膜が熱劣化してプロトン伝導度が低下する問題があった。また、固体高分子電解質膜の耐熱性を向上するために膜厚を大きくすれば、膜抵抗が大きくなり、エネルギー効率が低下しやすかった。
【0007】
一方、特許文献2に記載された固体高分子電解質膜を水電解装置に適用した場合、高温下でも動作可能であるが、膜が水(液状)に触れると、プロトン伝導を担う酸が溶出して失われ、結果としてプロトン伝導度が低下する問題があった。
【0008】
100℃を超える高温下での水電解は、少なくとも一部は水蒸気を電解することになり、電解のエンタルピー変化が低減するため、高効率が期待される。また、高温下で稼働させることで、過電圧も低減するため、より高効率となりやすい。
【0009】
上記に鑑みて、本発明は、100℃を超える高温下でも安定して動作可能な水素製造装置を提供することを課題とする。また、本発明は、水素製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0011】
[1] 水電解部と、セル加熱部と、を有する水素製造装置であって、上記水電解部は、水電解セルと、電源とを有し、上記水電解セルは、固体高分子電解質膜と、上記固体高分子電解質膜の一方側に配置されたアノード電極触媒層と、上記固体高分子電解質膜の他方側に配置されたカソード電極触媒層と、上記アノード電極触媒層及び上記カソード電極触媒層のそれぞれに電気的に接続された一対の給電体とを有し、上記電源は、上記給電体の間に電流を印加できるよう上記水電解セルと接続され、上記セル加熱部は、上記水電解セルの温度を制御するためのヒータを有し、上記固体高分子電解質膜は、繰り返し単位1個あたり少なくとも1個以上のスルホン酸基含有基を有する高分子化合物を含有し、上記高分子化合物は、後述する式1で表される部分構造を有する水素製造装置。
[2] 上記アノード電極触媒層が、金属イリジウム、金属ルテニウム、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、及び、これらの複合体からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、[1]に記載の水素製造装置。
[3] 上記カソード電極触媒層が、金属プラチナ、金属ルテニウム、プラチナ-コバルト合金、及び、ルテニウム-コバルト合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属触媒、又は、上記金属触媒が炭素材料に担持された、金属担持炭素触媒を含有する、[1]又は[2]に記載の水素製造装置。
[4] 更に、制御部を有し、上記制御部は、上記セル加熱部を制御して、上記水電解セルの温度を100℃を超えて180℃以下に保持する、[1]~[3]のいずれかに記載の水素製造装置。
[5] 更に、アノード側に水を供給するための水供給部を有し、上記水供給部は、上記水の温度を制御するための第2のヒータを有する、[1]~[4]のいずれかに記載の水素製造装置。
[6] 上記制御部が、上記水電解セルの温度を120℃を超えて、180℃以下に保持する、[4]に記載の水素製造装置。
[7] 上記高分子化合物が上記部分構造を有する繰り返し単位を有する[1]~[6]のいずれかに記載の水素製造装置。
[8] 上記高分子化合物が後述する式2で表される繰り返し単位を有する[1]~[7]のいずれかに記載の水素製造装置。
[9] 上記高分子化合物が後述する式3で表される繰り返し単位を有する、[1]~[8]のいずれかに記載の水素製造装置。
[10] 上記高分子化合物が後述する式4で表される繰り返し単位を有する、[1]~[9]のいずれかに記載の水素製造装置。
[11] 上記高分子化合物が後述する式Aで表される繰り返し単位を有する、[1]~[10]のいずれかに記載の水素製造装置。
[12] 後述する式1で表され、繰り返し単位1個あたり少なくとも1個以上のスルホン酸基含有基を有する高分子化合物を含有する固体高分子電解質膜と、上記固体高分子電解質膜の一方側に配置されたアノード電極触媒層と、上記固体高分子電解質膜の他方側に配置されたカソード電極触媒層と、上記アノード電極触媒層及び上記カソード電極触媒層のそれぞれに電気的に接続された一対の給電体とを有する水電解セルの温度を100℃を超えて180℃以下に制御し、上記給電体の間に電流を印加して水を電気分解して水素を発生する水素製造方法。
[13]上記水電解セルの温度を120℃を超えて180℃以下に制御する、[12]に記載の水素製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、100℃を超える高温下でも安定して動作可能な水素製造装置を提供できる。また、本発明は、水素製造方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る水素製造装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図2】本発明に係る水素製造装置が有する水電解セル108の模式的な断面図である。
図3】本発明に係る水素製造装置の機能ブロック図である。
図4】電位差を1.4~1.8Vとした場合の電圧(縦軸)、及び、電流密度(横軸)の関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[用語の定義]
本明細書で使用される用語の定義を以下に示す。なお、下記のとおり本明細書で特別に定義される場合を除いて、使用される全ての技術的、及び、科学的用語は、本発明が属する分野の当業者が通常理解する意味と同一の意味を有するものとする。
【0016】
(スルホン酸基含有基)
本明細書においてスルホン酸基含有基とは、スルホン酸基をその構造中に有する原子団を意味する。ここでのスルホン酸基には、*-SOHに加えて、*-SO 、及び、*-SOM(Mは金属原子)も含まれるものとする。なお、「*」は結合位置を表し、以下、本明細書において同様である。
【0017】
スルホン酸基含有基の構造としては特に制限されないが、下記S1で表される基が好ましい。
【0018】
【化1】
【0019】
なお、上記式S1中、LS1は単結合、又は、m+n+1価の基であり、m及びnはそれぞれ独立して0以上の整数であり、LS1が単結合のとき、mは0でnは1であり、LS1がm+n+1価の基であるとき、nは1以上の整数、mは0以上の整数を表し、*は結合位置を表す。
式S1中、Rは水素原子、又は、1価の置換基を表し、水素原子が好ましい。
また、より優れた本発明の効果が得られる点で、mが0で、かつ、nが1であることが好ましい。
【0020】
S1のm+n+1価の基としては特に制限されないが、2価の基としては、例えば、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-SO-、-NR2-(R2は水素原子又は1価の有機基を表す)、ヘテロ原子を有していてもよい直鎖状、分岐鎖状、又は、環状の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい)、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0021】
なかでも、炭素数1~10個のアルキレン基、炭素数3~10個のシクロアルキレン基、又は、炭素数2~10個のアルケニレン基が好ましく、炭素数1~10個のアルキレン基がより好ましく、炭素数1~8個のアルキレン基が更に好ましい。
また、上記のアルキレン基の有する水素原子の少なくとも1つ以上がハロゲン原子(特にフッ素原子が好ましい)で置換された基であってもよい。
【0022】
S1の3価以上の基としては特に制限されないが、例えば、以下の式(1a)~(1d)で表される基が挙げられる。
【0023】
【化2】
【0024】
式(1a)中、Lは3価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、3個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
としては、窒素原子、3価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、窒素原子、グリセリン残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、及び、シクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
【0025】
式(1b)中、Lは4価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、4個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Lの好適形態としては、4価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、ペンタエリスリトール残基、及びジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
【0026】
式(1c)中、Lは5価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、5個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Lの好適形態としては、5価の炭化水素基(炭素数2~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及びシクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
【0027】
式(1d)中、Lは6価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、6個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Lの好適形態としては、6価の炭化水素基(炭素数2~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
【0028】
式(1a)~一般式(1d)中、T~Tで表される2価の基の具体例及び好適形態は、すでに説明したLS1の2価の基と同様であってよい。
【0029】
なかでも、スルホン酸基含有基としては、式S2で表される基が好ましい。
【0030】
【化3】
【0031】
式S2中、LS2は単結合、又は、2価の基を表し、LS2の2価の基は、LS1の2価の基として示した形態が挙げられ、好適形態も上記と同様である。
【0032】
なお、スルホン酸基含有基が、塩を形成する場合、対イオンとしては特に制限されないが、Na等が挙げられる。
【0033】
[水素製造装置]
次に、本発明に係る水素製造装置(以下、「本装置」ともいう。)について説明する。
図1は、本発明に係る水素製造装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
水素製造装置100は、プロセッサ101と、記憶デバイス102と、出力デバイス103と、入力デバイス104を、第1のヒータ105(図1中では、「ヒータ1」と表示した)と、電源106と、ポンプ107と、水電解セル108と、給水槽110と、第2のヒータ111(図1中では、「ヒータ2」と表示した)と、を有する。
プロセッサ101、記憶デバイス102、出力デバイス103、入力デバイス104、第1のヒータ105、電源106、及び、ポンプ107はバス109を介して互いにデータを交換可能に構成されている。
【0034】
プロセッサ101は、水素製造装置100を制御する。記憶デバイス102は、プロセッサ101の作業エリアとなる。また、記憶デバイス102は、各種プログラムやデータを記憶する非一時的な、又は、一時的な記録媒体である。
【0035】
プロセッサ101としては、例えば、プロセッサ(CPU)、マイクロプロセッサ、プロセッサコア、マルチプロセッサ、ASIC(application-specific integrated circuit)、FPGA(field programmable gate array)、及び、GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)等がある。
【0036】
記憶デバイス102としては、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、及び、SSD(Solid State Drive)等がある。
【0037】
出力デバイス103は、データを出力する。
出力デバイス103は、出力デバイス103としては、タッチパネル、ディスプレイ、及び、プリンタ等がある。
入力デバイス104は、データを入力する。
入力デバイス104としては、タッチパネル、キーボード、ボタン、マウス、テンキー、及び、スキャナ等がある。
【0038】
プロセッサ101、記憶デバイス102、出力デバイス103、及び、入力デバイス104は典型的にはコンピュータである。
【0039】
第1のヒータ105は、水電解セル108の温度を制御する。典型的には、オーブン、ヒートブロック、及び、オイルバス等がある。
電源106は後述する水電解セル108の給電体を介してアノード電極触媒層、及び、カソード電極触媒層に電流(典型的には直流電流)を印加する。
ポンプ107は、給水槽110に貯留された水、及び/又は、水蒸気(以下
「水等」ともいう。)を後述する水電解セル108の少なくともアノード側に供給する。
【0040】
給水槽110には、第2のヒータ111が設けられており、給水槽110から水電解セル108へと供給される水等の温度を制御することができる。
第2のヒータ111は、第1のヒータ105と同様のものが使用でき、プロセッサ101等とバスを介してデータを交換可能に構成されていてもよい。
また、給水槽110は水電解セル108との間で水等を循環可能に構成されていてもよい。
水素製造装置100は、給水槽110と第2のヒータ111とを有しているため、水電解セル108に導入される水等を十分に加熱することができるため、より効率的に水素製造できる。
【0041】
図2は、本装置が有する水電解セル108の模式的な断面図である。水電解セル108は、固体高分子電解質膜203と、その両面にアノード電極触媒層205とカソード電極触媒層204とを有する。更に、アノード電極触媒層205、及び、カソード電極触媒層204に給電させる給電体206をアノード電極触媒層205、及び、カソード電極触媒層204の外側に有する。更に、給電体206の外側には、セパレータ202が配置されており、これらを複数積層してセルスタックを構成できるようになっている。また、水電解セル108は耐熱性パッキン207を有している。
【0042】
本水電解セル108において、アノード電極触媒層205は、酸化イリジウムを含有する層であり、カソード電極触媒層204は、少なくとも白金を含有する層である。アノード電極触媒、及び、カソード電極触媒としては、上記以外にも、公知の触媒が使用できる。
【0043】
より優れた水素発生効率を有する水素製造装置が得られる点で、アノード電極触媒層としては、金属イリジウム(Ir)、金属ルテニウム(Ru)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化イリジウム(IrO)、及び、これらの複合体からなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
また、より優れた水素発生効率を有する水素製造装置が得られる点で、カソード電極触媒層としては、金属プラチナ(Pt)、金属ルテニウム(Ru)、プラチナ-コバルト合金、及び、ルテニウム-コバルト合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属触媒、又は、上記金属触媒が炭素材料に担持された金属担持炭素触媒を含有することが好ましい。
【0044】
給電体206は、材質としてチタン(Ti)が使用でき、表面にPtめっきしたチタンメッシュが使用できる。給電体206としてはこれに限定されるものではなく、例えばチタン金属繊維のウェブ焼結体からなる布であって、この布繊維間に多数の空隙を有するものなども使用できる。
【0045】
固体高分子電解質膜203は、繰り返し単位1個当たり少なくとも1個以上のスルホン酸基含有基を有する高分子化合物(以下、「特定高分子」ともいう。)を含有する膜であって、特定高分子は、下記式1で表される部分構造を有し、下記式1で表される部分構造を有する繰り返し単位(以下「単位A」ともいう。)を有することが好ましい。
【0046】
なお、本明細書において、特定高分子が有するスルホン酸基含有基の個数は、滴定法によって求められる繰り返し単位1つあたりのスルホン酸基含有基の個数の算術平均値を意味する。
すなわち、対象の特定高分子につき、所定の濃度のNaOH水溶液を用いて滴定を行い、pHが7になるまで中和したときのNaOH水溶液の量([A]ml)と、そのNaOH水溶液の濃度([B]g/ml)に基づき、計算式:イオン交換容量(IEC)(meq/g)=[A]×[B]/試料質量(g)によってイオン交換容量を求め、これを理論値と比較することで1つの繰り返し単位あたりのスルホン基の平均数(小数となる場合もある)を算出することができる。
【0047】
【化4】
【0048】
式1中、Lは単結合、又は、2価の基を表し、Arはアリーレン基又はヘテロアリーレン基であって、水素原子の少なくとも1つがスルホン酸基含有基で置換された基を表し、*は結合位置を表す。
【0049】
の2価の基としては特に制限されないが、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-SO-、-NR20-(R20は水素原子又は1価の有機基を表す)、ヘテロ原子を有していてもよい直鎖、分岐鎖、又は、環状の炭化水素基、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。
炭化水素基としては、特に制限されないが、炭素数1~20個のアルキレン基、炭素数3~20個のシクロアルキレン基、炭素数2~20個のアルケニレン基、及び、スルホン酸基含有基を有さないヘテロ原子を有していてもよいアリーレン基等が挙げられる。
【0050】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する装置が得られる点で、Lとしては、単結合、-C(O)-、-O-、-SO-、ヘテロ原子を有していてもよいアリーレン基(炭素数1~20個が好ましい)、アルキレン基(炭素数1~10個が好ましい)、及び、これらの組合せが好ましく、単結合、-C(O)-、-O-、-SO-、フェニレン基、下記の式AR1で表される基、及び、これらの組合せがより好ましく、単結合、-O-、-SO-、フェニレン基、及び、これらの組合せが更に好ましい。なお、式AR1中*は結合位置を表す。
【0051】
【化5】
【0052】
(単位Aの好適形態:特定単位)
より優れた本発明の効果を有する装置が得られる点で、特定高分子は単位Aとして、以下の式2で表される繰り返し単位(以下、「特定単位」ともいう。)を有することが好ましい。
【0053】
【化6】
【0054】
式2中、LA2、及び、Lはそれぞれ独立に単結合、又は、2価の基を表し、Arはアリーレン基又はヘテロアリーレン基であって、水素原子の少なくとも1つがスルホン酸基を有する基で置換された基を表し、pは1以上の整数を表す。
【0055】
式2中のLA2の2価の基、及び、Arのは式1中におけるLの2価の基、及び、Arの形態と同様であり、好適形態もすでに説明したとおりである。また、式中pは1以上の整数であり、特に制限されないが、6以下が好ましく、4以下がより好ましい。
なお、式中、複数あるLA2、及び、Arはそれぞれ同一でも異なってもよい。
また、式2中Lは、単結合、又は、2価の基を表し、Lの2価の基は、すでに説明した式1中のLの形態と同様であり、好適形態もすでに説明したとおりである。
【0056】
特定単位は以下の式3で表される単位がより好ましい。
【0057】
【化7】
【0058】
式3中、LA3、及び、LB2はそれぞれ独立に単結合、又は、2価の基であり、その形態、及び、好適形態は、式2中のLA2、及び、Lとしてすでに説明したとおりである。また、式3中、rは1~6の整数を表し、1~4の整数が好ましい。
また、式3中、Xはすでに説明したスルホン酸基含有基であり、その形態、及び、好適形態はすでに説明したとおりである。また、式3中、tは1~4の整数を表し、1~3が好ましく、2~3がより好ましい。また、式3中複数あるLA3、及び、Xは同一でも異なっていてもよい。
【0059】
特定単位としては、下記式4で表される単位が更に好ましい。
【0060】
【化8】
【0061】
式4中、X41~X44はそれぞれ独立にスルホン酸基含有基を表し、その形態、及び、好適形態はすでに説明したとおりである。また、式4中、q1~q4はそれぞれ独立に0~4の整数を表し、q1~q4の和(q1+q2+q3+q4)は1以上である。
式4で表される特定単位としては、特に制限されないが、例えば、以下の式Aで表される単位からなる群より選択される単位が好ましい。
【0062】
【化9】
【0063】
式4で表される特定単位としては、以下の式で表される単位からなる群より選択される単位がより好ましい。
【化10】
【0064】
特定単位の他の具体例としては、特に制限されないが、以下の式で表される単位が挙げられる。
【0065】
【化11】
【0066】
特定高分子は、単位A以外の単位を有していてもよい。このような単位としては例えば、以下の式NF1で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0067】
【化12】
【0068】
式NF1中、Xはすでに説明したスルホン酸基含有基を表し、特に制限されないが、例えば以下の式NF2で表される基が好ましい。
【0069】
【化13】
【0070】
式NF2中、Lは、酸素原子を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基であって、その水素原子の少なくとも1つ(好ましくはすべて)がハロゲン原子(好ましくはフッ素原子)で置換された基を表す。
特に制限されないが、Xの具体例としては、以下の式NF3-1~式NF3-4で表される基が挙げあれる。なお、下記式中*は結合位置を表す。
【0071】
【化14】
【0072】
特定高分子は、単位A(スルホン酸基含有基を有する単位)の1種を単独で有してもよく、2種以上を有していてもよい。2種以上の単位Aを有する場合(共重合体である場合)、それらの配列としては特に制限されず、ランダム、ブロック、及び、交互のいずれであってもよい。
【0073】
特定高分子中における単位Aの含有量としては特に制限されないが、単位Aは特定高分子の全繰り返し単位中、1~100モル%が好ましく、60~100モル%がより好ましい。特定高分子が、2種以上の単位Aを含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0074】
(スルホン酸基含有基を有しない繰り返し単位)
特定高分子はスルホン酸基含有基を有しない繰り返し単位(以下「単位B」ともいう。)を有していてもよい。単位Bとしては特に制限されないが、すでに説明した式2~式4で表される繰り返し単位において、スルホン酸基含有基を水素原子で置き換えた繰り返し単位、及び、フルオロオレフィンに基づく繰り返し単位等が挙げられる。
【0075】
フルオロオレフィンは、炭化水素系オレフィンの水素原子の1個以上がフッ素原子で置換された化合物であり、CH=CF、CF=CF、CF=CFCF、及び、CHF=CHCF等が挙げられ、CF=CFが好ましい。
【0076】
特定高分子が単位Aと単位Bとを有する場合、それらの配列としては特に制限されず、ランダム、ブロック、及び、交互のいずれであってもよい。
【0077】
特定高分子中における単位Bの含有量としては特に制限されないが、特定高分子の全繰り返し単位中、0~99モル%が好ましく、0~40モル%がより好ましい。特定高分子が、2種以上の単位Bを含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0078】
特定高分子の分子量としては特に制限されないが、一般に20000~1000000が好ましく、50000~500000がより好ましい。
【0079】
特定高分子の製造方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。特定高分子の製造方法としては、例えば、国際公開2016/072350号の0007~0029段落に記載されており、上記は本明細書に組み込まれる。
より具体的には、特定高分子は、芳香族ジハロゲン化合物と、芳香族ジヒドロキシ化合物とを用いて、非プロトン性極性溶媒中、炭酸カリウムの存在下で脱塩重縮合する方法が挙げられ、一例を以下のスキーム1に示した。
【0080】
【化15】
【0081】
上記スキーム1中、ビス(4-フルオロフェニル)スルホンのスルホン化、及び、再結晶は、例えば以下の方法で行うことができる。まず、ビス(4-フルオロフェニル)スルホンと30質量%発煙硫酸との混合物を加熱し(例えば120℃で12時間)、加熱後の混合物を食塩水に中に注いで生成物を沈殿させ、上記沈殿をろ過してから水に再度溶解し、NaOH水溶液により中和する。次に、食塩を添加して粗生成物の沈殿を得て、粗生成物を水-エタノール混合液で再結晶化すればよい。このようにしてスルホンジフェニルスルホン(上記スキーム中「SFPS」と記載した。)が得られる。
【0082】
次に、上記SFPSと4,4′-ビフェノール(上記スキーム中「BP」と記載した。)とを脱塩重縮合させることにより、2S-PPSU(1個の繰り返し単位につき、2つのスルホン酸基(上記スキーム1中では対イオンNaと塩を形成している)が導入された「2スルホン化ポリフェニルスルホン」)が得られる。なお、式中nは2以上の整数を表す。
【0083】
脱塩重縮合の方法としては、例えばSFPS、BP、KCO、DMSO(ジメチルスルホキシド)、及び、トルエンを混合し、この混合物を窒素ガス雰囲気下で加熱する方法(例えば、140℃で24時間)が使用できる。なお、重合後、硫酸中で重合物を沈殿させ、これをろ過して粗生成物を得た後、得られた粗生成物を水に再溶解し、透析し、脱水して乾燥させてもよい。さらに得られた重合体を硫酸で洗浄して、スルホン酸基を活性化(-SONaを-SOHに)させてもよい。
【0084】
特定高分子の製造方法としては、例えば、以下スキーム2に記載の方法も使用できる。
【化16】
【0085】
2S-PPSU、及び、濃硫酸を混合し、この混合物を60℃で2日間加熱し、加熱後の混合物を氷水中に注ぎ込み、透析し、脱水して真空オーブン中で80℃で2日間乾燥させることで、上記スキームに記載したとおり4S-PPSU(1個の繰り返し単位につき、4つのスルホン酸基が導入された「4スルホン化ポリフェニルスルホン」)が得られる。なお、スキーム2中n1、n2は2以上の整数を表す。
【0086】
また、同様に、PPSU(ポリフェニルスルホン)、及び、30wt%発煙硫酸を混合し、この混合物を50℃程度で3日間以上加熱してスルホン化することで、D6S-PPSU(1個の繰り返し単位につき、6つのスルホン酸基が導入された「6スルホン化ポリフェニルスルホン」)が得られる。この反応をスキーム3に示した。なお、スキーム3中、n1、n2は2以上の整数を表す。
【化17】
【0087】
特定高分子は、スルホン酸基を有するため、特定高分子が有する電子密度の高い炭素原子に結合した活性水素原子との間で脱水反応を起こさせることで、架橋構造を形成できる。電子密度の高い炭素原子としては特に制限されないが、芳香族環に結合した水素が挙げられる。
特に、特定高分子が式1で表される部分構造を有する場合、特定高分子の分子内、及び/又は、分子間において、架橋構造を容易に形成できる点で優れている。
このような特定高分子の架橋反応の例を以下のスキーム4に示す。なお、スキーム4中、nは2以上の整数を表す。
【0088】
【化18】
【0089】
上記架橋反応は、典型的には必要に応じて脱水剤の存在下で特定高分子を加熱することで進行できる。
脱水剤を用いる場合、公知の脱水剤を使用でき、特に制限されないが、五酸化リン、及び、ポリリン酸等が挙げられ、これらを溶媒に溶解して液状の脱水剤として使用してもよい。溶媒としては、メタンスルホン酸、及び、トリフルオロメタンスルホン酸等のアルキルスルホン酸;クロロベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸;等が挙げられる。
架橋反応の条件としては特に制限されないが、例えば、特開2007-70563号公報に記載の条件を適用可能である。
【0090】
図2に戻り、水電解セル108は、アノード電極触媒層205を有する。アノード側に水を供給し、給電体206に直流電流を印加すると、アノード側で水が分解され、酸素が発生し、水素イオンが固体高分子電解質膜203中を移動する(下記式参照)。
2HO→4H+4e+O
【0091】
そして、カソード電極触媒層204を有するカソード側で、固体高分子電解質膜203中を移動してきた水素イオンが電子を受け取り水素が発生する(下記式参照)。
4H+4e→2H
【0092】
水電解セル108においては、固体高分子電解質膜203が特定高分子を含有するため、従来の含フッ素系電解質膜と比較して耐熱性が高く、高温でも安定して駆動できる。また、含フッ素系電解質膜よりも耐熱性が高いために、より膜を薄くできるため、膜抵抗も低くなりやすく、結果的により低エネルギーコストで水素製造ができる。
【0093】
また、ナフィオン(登録商標)-PBI-リン酸系電解質膜を用いたものは、耐熱性が高いため、完全にガス状態の水(水蒸気)を用いることができる(駆動温度180℃~)が、逆に、系中に水が存在すると、リン酸が溶出して性能が劣化するため、水はガス状態で供給される必要があり、液状の水が存在しうる温度まで下げて駆動するのは難しかった。
一方、上記水電解セル108では特定高分子を用いるために系中に水が共存し得る温度(例えば、100~170℃)でも、安定して駆動できる。そのため、触媒活性が十分に高まる温度が100~170℃の範囲内にある場合には、上記ナフィオン-PBI-リン酸系電解質膜よりも低エネルギーコストで電気分解ができる。
【0094】
なお、水電解セル108においては、セパレータ202を両端に一組設けるようにしているが、セパレータ202を介して水電解セル108を二つ以上積層することもできる。
なお、セパレータ202と給電体206とは一体として構成されていてもよい。また、水電解セルはセパレータを有していなくてもよい。
【0095】
図3は、水素製造装置100の機能ブロック図である。
水素製造装置100は、制御部301と、記憶部302と、出力部303と、入力部304と、セル加熱部305と、水電解部306と、水供給部307とを有している。
【0096】
制御部301は、プロセッサ101を含んで構成され、以下の各部を制御して水素製造装置100の各機能を実現する。
【0097】
セル加熱部305は、第1のヒータ105を含んで構成され、記憶部302に記憶されたプログラムを制御部301が実行し、これにより制御された第1のヒータ105により実現される。セル加熱部305により、水電解セル108の温度が制御される。
水電解セル108の温度は、触媒活性等に鑑みて適宜選択されればよいが、100℃を超える場合、水蒸気を利用することにより、より低エネルギーコストでの水素製造が可能になる。
また、水電解セル108の温度が180℃以下である場合、加熱に必要なエネルギーに対する触媒活性がより高くなりやすく、より効率的に水素製造が可能である。
【0098】
上記の傾向はアノード電極触媒層が、酸化イリジウムを含有し、カソード電極触媒層が白金を含有する場合に特に顕著である。
このような場合、制御部301が、セル加熱部305を制御して、水電解セル108の温度を120℃を超えて、180℃以下に保持するように構成すると、より効率的に水素製造ができる。
【0099】
水素製造装置100の水電解セル108の温度を100℃を超えて180℃以下に保持すると、セルに導入された水等はその少なくとも一部が水蒸気となり、水と水蒸気との混合物となる。
このようにすると、固体高分子電解質膜の湿潤状態が保たれ、優れたイオン伝導性を保ちつつ、水蒸気の電解による低エネルギー化の効果も享受できる。
【0100】
水電解部306は、電源106、及び、水電解セル108を含んで構成され、記憶部302に記憶されたプログラムを制御部301が実行し、これにより制御された上記各部によって実現される機能である。
また、水供給部307は、ポンプ107、給水槽110、及び、第2のヒータ111を含んで構成され、記憶部302に記憶されたプログラムを制御部301が実行し、これにより制御されたポンプ107等によって実現される機能である。
【0101】
具体的には、ポンプ107を介して、水電解セル108のアノード側に水等が供給される。この水等は、第2のヒータ111によって加熱されていてもよい。
電源106が給電体206に電流を印加することで、水電解反応が起こり、水電解セル108のカソード側から水素が発生し、アノード側から酸素が発生する。
【0102】
次に、水素製造装置100の動作の具体例について説明する。
まず、入力部304を介してユーザーから動作開始の指示を受け付けると、記憶部302に記憶されたプログラムを制御部301が実行し、水供給部307から、水電解部306に水が供給される。この水は給水槽110に設けれれた第2のヒータ111によって加熱されている。このときの水の温度は例えば、10~100℃程度が好ましい。
【0103】
水供給部307から供給された水は水電解部306の水電解セル108のアノード側に供給される。このとき、制御部301に制御されたセル加熱部305によって水電解セル108ごと加熱される。このとき、より効率的に水素製造が行える点で、水電解セル108の温度は、100℃を超えて180℃に制御され、供給された水の少なくとも一部が水蒸気となることが好ましい。
【0104】
次に、水電解部306の電源106によって水電解セル108に直流電流が印加される。すると、すでに説明したとおり、アノード側で水が分解され、酸素が発生し、水素イオンが固体高分子電解質膜203中を移動する。
そして、カソード電極触媒層204を有するカソード側で、固体高分子電解質膜203中を移動してきた水素イオンが電子を受け取り水素が発生する。
【0105】
本水素製造装置は、特定高分子を含有する固体高分子電解質膜を用い、更に、水電解セルの温度を制御するセル加熱部を有しているため、100℃を超える温度で動作することができ、かつ、水電解セル内に水と水蒸気との混合物が存在する環境下でも、安定的に動作可能である。
【実施例
【0106】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0107】
[固体高分子電解質膜の作成]
まず、PPSU(ポリフェニルスルホン)ビーズ35gと2L硫酸を混合し、60℃で2日間保持してスルホン化した。その後、スルホン化したPPSUを冷却して析出させ、透析膜を用いてpH7まで洗い、水を除去することでSPPSUを得た。得られたSPPSU中のスルホン酸基の含有量を滴定法により求めたところ、全繰り返し単位当たりのスルホン酸基の数は平均2個であった。
合成したSPPSUの5g(IEC=3.4meq/g)をDMSO(ジメチルスルホキシド)の21mlに溶解して組成物を調製した。
次に、フィルムアプリケータを用いて、上記組成物をガラス板上に塗布し、24時間乾燥させて組成物膜を得た。このとき、コーター温度を40℃とし、ギャップを0.5mmとした。
【0108】
得られた組成物膜を120℃で1日間、160℃で1日間、180℃で1日間熱処理し、熱架橋されたSPPSU膜を得た。
更に上記熱架橋されたSPPSU膜を、0.5M水酸化ナトリウム水溶液に一晩浸漬させた。次に、上記膜を沸騰水中で2時間保持した後、80℃の1M硫酸中で2時間保持し、その後、沸騰水中で2時間保持した後、乾燥させて、固体高分子電解質膜を得た。
【0109】
[水素製造装置の作成]
アノード側給電体には、チタン多孔質シート(東邦チタニウム社製、商品名「WEBTi-S」)を用いた。このシートの固体高分子電解質膜と接する面に、酸化イリジウム(IV)(n水和物)の水性スラリーを塗布して焼成し、アノード電極触媒層を形成させ、アノード電極触媒層と給電体とが一体化したアノード電極を作成した。
【0110】
カソード側給電体には、黒鉛繊維不織布(SGL社製、商品名「SIGRACET」)を用いた。この不織布の固体高分子電解質膜と接する面に、白金担持炭素触媒をパーフルオロスルホン酸系ポリマー(商品名「Nafion」)溶液に分散させて得た組成物を塗布して、カソード電極触媒層を形成させ、カソード電極触媒層と給電体とが一体化したカソード電極を作成した。
【0111】
厚みが0.073mmの固体高分子電解質膜を、それぞれ4cmの大きさの正方形としたカソード電極とアノード電極とで挟み込み、ホットプレス(ヒータ温度130℃、プレス圧1t、時間20分間)することにより、膜電極接合体を作成した。
【0112】
上記膜電極接合体をカーボンセパレータで挟み込み、シール材等を用いてカソード室とアノード室を有する水電解セルとした。
次いで、カーボンセパレータを介してアノード電極、及び、カソード電極に電流を印加できるよう電源を接続した。これを温度制御が可能なオーブンの中に載置した。
【0113】
更に、アノード室には水を供給するための配管とタンクとを接続し上記配管には、ポンプを配置した。
カソード室からは、水と水素を取り出せるよう、配管を接続した。また、タンク中の水の温度を調整できるよう、オイルバスを設置した。
【0114】
[評価]
水電解セルの温度をそれぞれ、40、60、80、100、120、150、及び、180℃となるよう制御し、水分解セル中における水の温度がそれぞれ、40、60、80、99、101、104、及び、108℃となるよう調整した。
このとき、水電解セルの給電体間の電位差を1.4~1.8Vとした場合の電圧(縦軸)、及び、電流密度(横軸)の関係を図4に示した。
【0115】
図4の記載から、水電解セルの温度を100℃を超えて、180℃以下とすると、より高い電流密度が得られることが分かった。これは、より低い電圧でも水電解が可能であることを示しており、上記水素製造装置はより優れた効率を有していることがわかった。
また、図4の記載から、水電解セルの温度を120~180℃とすると更に高い電流密度が得られることが分かった。
また、図4の記載から水電解セルの温度を120℃を超えて、180℃以下とすると、特に高い電流密度が得られることが分かった。
また、図4の記載から水電解セルの温度を150~180℃とすると最も高い電流密度が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0116】
100 :水素製造装置
101 :プロセッサ
102 :記憶デバイス
103 :出力デバイス
104 :入力デバイス
105 :第1のヒータ
106 :電源
107 :ポンプ
108 :水電解セル
109 :バス
110 :給水槽
111 :第2のヒータ
202 :セパレータ
203 :固体高分子電解質膜
204 :カソード電極触媒層
205 :アノード電極触媒層
206 :給電体
207 :耐熱性パッキン
301 :制御部
302 :記憶部
303 :出力部
304 :入力部
305 :セル加熱部
306 :水電解部
307 :水供給部
図1
図2
図3
図4