(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】工具ホルダ
(51)【国際特許分類】
B23B 31/117 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
B23B31/117 610B
(21)【出願番号】P 2020027287
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2022-11-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591033755
【氏名又は名称】エヌティーツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高津 悠
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/160664(WO,A1)
【文献】特開2015-039753(JP,A)
【文献】特開平01-321103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/117
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を保持可能であるとともに、工作機械の主軸に装着可能な工具ホルダであって、
軸方向に沿って延在している筒状の本体部、
筒状のカバーおよび
筒状のスリーブを備え、
前記本体部は、前記本体部の先端側に開口している本体部通路を有し、
前記スリーブは、
スリーブ先端面と、スリーブ後端面と、スリーブ内周面と
、スリーブ外周面と
、把持部
と、を有し、
前記スリーブ内周面により、前記スリーブ先端面および前記スリーブ後端面に開口している工具挿入空間が形成されており、
前記スリーブ外周面は、前記スリーブ先端面側に形成されているスリーブ外周面部分と、前記スリーブ後端面側に形成されているスリーブ外周面部分と、前記スリーブ先端面側に形成されているスリーブ外周面部分と前記スリーブ後端面側に形成されているスリーブ外周面部分の間に形成され、径方向内側に段差状に窪んでいるスリーブ外周面部分と、を有し、
前記把持部は、前記スリーブ内周面と前記径方向内側に段差状に窪んでいるスリーブ外周面部分により形成され、径方向に沿って弾性変形可能であり、
前記カバーは、
カバー先端面と、カバー後端面と、カバー内周面と、カバー通路
と、を有し、
前記カバー内周面により、前記カバー先端面および前記カバー後端面に開口しているカバー内側空間が形成されており、
前記カバー内周面は、前記カバー内側空間の、前記カバー先端面側にスリーブ挿入空間を形成するカバー内周面部分を有しており、
前記スリーブは、前記スリーブ挿入空間内に挿入された状態で、
前記スリーブ先端面側に形成されているスリーブ外周面部分および前記スリーブ後端面側に形成されているスリーブ外周面部分が、前記スリーブ挿入空間を形成するカバー内周面部分に固着されており、
前記
径方向内側に段差状に窪んでいるスリーブ外周面部分と
前記スリーブ挿入空間を形成するカバー内周面部分の間に加圧空間が形成され、
前記カバー通路は、前記カバーの後端側と前記加圧空間に開口しており、
前記カバーは、前記カバー通路が前記本体部通路と連通するように、前記カバーの後端側が前記本体部の先端側に固着され、
前記本体部通路、前記カバー通路および前記加圧空間内には、加圧媒体が注入され、
前記加圧媒体の圧力が上昇することによって、前記スリーブの前記把持部が径方向内側に弾性変形するように構成されていることを特徴とする工具ホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の工具ホルダであって、
前記本体部は、先端側の中心部に、先端側に開口している凹部を有し、
前記カバーは、後端側の中心部に、後端側に飛び出ている突部を有し、
前記カバーは、前記カバーの前記突部が前記本体部の前記凹部に挿入された状態で、前記カバーの後端側が前記本体部の先端側に固着されていることを特徴とする工具ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具を保持する工具ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
工具を用いてワークを加工する工作機械では、工具を保持する工具ホルダが用いられる。例えば、特許文献1(特開平10-29106号公報)に開示されている工具ホルダが用いられている。特許文献1に開示されている工具ホルダは、本体部とスリーブにより構成されている。本体部は、後端側に、工作機械の主軸に装着されるシャンク部が形成され、先端側に筒部が形成されている。スリーブは、本体部の筒部内に挿入された状態で本体部に固着される。スリーブのスリーブ外周面と本体部の本体部内周面との間に、加圧空間が形成される。加圧空間内には、加圧媒体が注入される。また、スリーブ内周面と、スリーブ外周面の、加圧空間に対応する部分により把持部が形成される。加圧空間内の加圧媒体の圧力が上昇すると、把持部が径方向内側に弾性変形する。これにより、スリーブ内周面により形成される工具挿入空間内に挿入されている工具(具体的には、工具のシャンク部)が、把持部によって把持(あるいは挟持)される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている工具ホルダでは、把持部を有するスリーブが本体部に直接取り付けられているため、ワークの加工時に発生する熱や振動が工作機械の主軸に伝達されるおそれがある。加工時に発生する熱や振動が工作機械の主軸に伝達されると、加工精度が低下するおそれがある。また、本体部の筒部の長さが長くなると、本体部を制作するのが困難となる。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、加工時に発生する熱や振動が工作機械の主軸に伝達するのを抑制することができる工具ホルダを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、工具を保持可能であるとともに、工作機械の主軸に装着可能な工具ホルダに関する。工具の保持動作は、加圧媒体の圧力を調整することによって行われる。好適には、工具ホルダの後端側に、工作機械の主軸に装着されるシャンク部が設けられ、工具ホルダの先端側に、工具(具体的には、工具のシャンク部)が挿入される工具挿入空間が設けられる。
本発明は、軸方向に沿って延在している筒状の本体部、筒状のカバーおよび筒状のスリーブを備えている。
本体部は、本体部通路を有している。本体部通路は、本体部の先端側に開口している。すなわち、本体部通路は、本体部の先端側に開口部を有している。
スリーブは、スリーブ先端面、スリーブ後端面、スリーブ内周面、スリーブ外周面、把持部を有している。スリーブ内周面により、スリーブ先端面およびスリーブ後端面に開口している、工具が挿入可能な工具挿入空間が形成される。スリーブ外周面は、スリーブ先端面側に形成されているスリーブ外周面部分、スリーブ後端面側に形成されているスリーブ外周面部分、スリーブ先端面側に形成されているスリーブ外周面部分とスリーブ後端面側に形成されているスリーブ外周面部分の間に形成され、径方向内側に段差状に窪んでいるスリーブ外周面部分を有している。把持部は、スリーブ内周面と径方向内側に段差状に窪んでいるスリーブ外周面部分により形成され、径方向に沿って弾性変形可能である。径方向内側に段差状に窪んでいるスリーブ外周面部分(把持部)の数は、適宜設定可能である。
カバーは、カバー先端面、カバー後端面、カバー内周面、カバー通路を有している。カバー内周面により、カバー先端面およびカバー後端面に開口しているカバー内側空間が形成される。カバー内周面は、カバー内側空間のカバー先端面側に、スリーブが挿入可能なスリーブ挿入空間を形成するカバー内周面部分を有している。
スリーブは、スリーブ挿入空間内に挿入された状態で、スリーブ先端面側に形成されているスリーブ外周面部分およびスリーブ後端面側に形成されているスリーブ外周面部分が、スリーブ挿入空間を形成するカバー内周面部分に固着されている。固着方法としては、例えば、ロー付け方法や電子ビーム溶接方法等が用いられる。スリーブがカバーに固着されることによって、径方向内側に段差状に窪んでいるスリーブ外周面部分と、スリーブ挿入空間を形成するカバー内周面部分の間に加圧空間が形成される。
カバーのカバー通路は、カバーの後端側と加圧空間に開口している。すなわち、カバー通路は、カバーの後端側および加圧空間に開口部を有している。なお、カバー通路は、カバーの後端側と、カバー内周面の、加圧空間に対応する部分に開口していると言うこともできる。
カバーは、カバーのカバー通路が本体部の本体部通路と連通するように、カバーの後端側が本体部の先端側に固着されている。本体部通路とカバー通路を連通させる態様としては、直接に連通させる態様や連通路(例えば、径方向に沿って延在する連通路)を介して連通させる態様を用いることができる。
本体部通路、カバー通路および加圧空間内には、加圧媒体が注入される。加圧媒体としては、好適には、油等の液体が用いられる。
そして、加圧媒体の圧力が上昇することによって、スリーブの把持部が径方向内側に弾性変形するように構成されている。把持部が径方向内側に弾性変形することにより、工具挿入空間に挿入されている工具(工具のシャンク部)がスリーブ内周面によって把持(挟持)される。好適には、本体部に、加圧媒体の圧力を調整する圧力調整機構が設けられる。
本発明では、工具を把持する把持部を有するスリーブがカバーに固着され、カバーが本体部に固着されている。これにより、加工時に発生する熱や振動が、工具ホルダが装着される工作機械の主軸に伝達するのを抑制することができ、熱や振動による加工精度の低下を抑制することができる。また、スリーブが固着されるカバーを本体部と別体で形成することができるため、カバー通路を有するカバーの製造が容易であり、さらに、カバー通路の形状も容易に変更することができる。
本発明の異なる形態では、本体部は、先端側の中心部に、先端側に開口している凹部を有し、カバーは、後端側の中心部に、後端側に飛び出ている突部を有している。そして、カバーは、カバーの突部が本体部の凹部に挿入された状態で、カバーの後端側が本体部の先端側に固着されている。好適には、カバーの突部を形成している、軸方向および周方向に沿って延在するカバー外周面部分と、本体部の凹部を形成している、軸方向および周方向に沿って延在する本体部内周面部分が固着されるとともに、カバーの突部の根元側に形成されている、径方向および周方向に沿って延在するカバー外周面部分と本体部の凹部の開口部が形成されている、径方向および周方向に沿って延在する本体部先端面が固着される。
本形態では、カバーを本体部に確実に固着することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、加工時に発生する熱や振動が工作機械の主軸に伝達するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の工具ホルダの一実施形態の断面図である。
【
図3】カバーを本体部に取り付ける動作を示す図である。
【
図4】スリーブをカバーに取り付ける動作を説明する図である。
【
図5】工具非保持モードにおける、
図1を矢印Vで示されている方向から見た図である。
【
図6】工具保持モードにおける、
図1を矢印Vで示されている方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
本明細書では、本体部の中心線Pの延在方向(
図1では、左右方向)を「軸方向」といい、工具のシャンク部が工具挿入空間に挿入される側(
図1では、矢印Aで示される右側)を「軸方向に沿った一方側(軸方向一方側)」あるいは「先端側」といい、工具のシャンク部が工具挿入空間に挿入される側と反対側(
図1では、矢印Bで示される左側)を「軸方向に沿った他方側(軸方向他方側)」あるいは「後端側」という。勿論、各方向の定義は、適宜変更可能である。
また、軸方向に直角な
断面で見て、中心線Pを中心とする円に沿った方向を「周方向」といい、中心線Pを通る線の方向を「径方向」という。
【0009】
本発明の工具ホルダの一実施形態を
図1~
図4を参照して説明する。なお、
図1は、一実施形態の工具ホルダ100の断面図であり、
図2は、
図1の要部の拡大図である。
図3は、カバー120を本体部110に取り付ける動作を説明する図であり、
図4は、スリーブ130をカバー120に取り付ける動作を説明する図である。
本実施形態の工具ホルダ100は、軸方向に沿って延在している本体部110、カバー120およびスリーブ130により構成されている。
【0010】
本体部110は、筒状に形成され、本体部先端面110A、本体部後端面110B、本体部内周面111および本体部外周面112を有している。本体部先端面110Aおよび本体部後端面110Bは、径方向に沿って延在している。
本体部内周面111は、本体部内周面部分111a~111fを有している。本体部内周面部分111bは、径方向に沿って延在し、本体部内周面部分111aと111cを接続する段差面に形成されている。
本体部内周面111(本体部内周面部分111a、111c~111f)は、円形の断面を有している。
本体部内周面111によって、本体部先端面110A側および本体部後端面110B側に開口している本体部内側空間110aが形成される。また、本体部内周面部分111aと111bによって、本体部内側空間110aの先端側に本体部内側空間部分110a1が形成される。また、本体部内周面部分111c~111fによって本体部内側空間部分110a2~110a5が形成される。
本体部内側空間部分110a1には、カバー120の突部120C(後述する)が挿入される。
【0011】
本体部外周面112は、先端側に本体部外周面部分112aを有し、後端側に本体部外周面部分112bを有している。本体部外周面部分112bは、外径が、先端側から後端側に向かって小さくなるように延在するテーパー面に形成されている。本体部外周面部分112bによって、工具ホルダ100のシャンク部が形成される。
本体部外周面部分112bにより形成されるシャンク部は、工作機械の主軸に装着される。例えば、プルスタッドの先端側に形成されている雄ネジと本体部内周面部分111fに形成されている雌ネジをネジ結合させることによって、本体部内側空間110aの後端側に形成されている本体部内側空間部分110a5内にプルスタッドの先端側を挿入する。そして、工作機械側に設けられている引込部材によってプルスタッドを後端側(工作機械主軸側)に引き込み、テーパー面に形成されている工作機械主軸内周面部分と本体部外周面部分112bとをテーパー嵌合させる。
【0012】
また、
図1および
図1を矢印V方向から見た
図5に示されているように、本体部110には、シリンダ室113、116、連通孔114、117、本体部通路115、118が形成されている。
【0013】
シリンダ室113(116)内には、ピストン141(151)、ネジ143(153)が配置されている。
ピストン141(151)は、シリンダ室113(116)の延在方向に沿って移動可能に配置されている。ピストン141(151)とシリンダ室113(116)の内周面との間にはシール部材142(152)が配置されている。これにより、シリンダ室113(116)の、ピストン141(151)より奥側に加圧室113A(116A)が形成される。加圧室113A(116A)内には、加圧媒体が注入される。加圧媒体としては、例えば、油等の液体が用いられる。
ネジ143(153)は、ピストン141(151)より開口部側に配置されている。ネジ143(153)の外周面に形成されている雄ネジ143a(153a)は、シリンダ室113(116)の内周面に形成されている雌ネジ113a(116a)とネジ結合される。これにより、ネジ143(153)を回転させると、ネジ143(153)およびピストン141(151)が、シリンダ室113(116)の延在方向に沿って移動し、加圧室113A(116A)内に注入されている加圧媒体の圧力が変化する。
【0014】
連通孔114(117)内には、シール用の剛球144(154)、ネジ145(155)が配置されている。
ネジ145(155)は、剛球144(154)より開口部側に配置されている。ネジ145(155)の外周面に形成されている雄ネジが、連通孔114(117)の内周面に形成されている雌ネジとネジ結合される。ネジ145(155)を回転させることによって、剛球144(154)を、連通孔114(117)内の所定位置に配置することができる。これにより、連通孔114(117)の、剛球144(154)より奥側に連通室114A(117A)が形成される。連通室114A(117A)は、加圧室113A(116A)と連通している。
ネジ146は、ネジ143の、シリンダ室113の開口部側への移動を規制する。これにより、ネジ143の操作時に、ネジ143がシリンダ室113から抜けるのを防止することができる。
【0015】
本体部通路115(118)は、軸方向に沿って延在し、連通室114A(117A)側に開口部115b(118b)を有し、本体部先端面110A側に開口部115a(118a)を有している。
本実施形態では、軸方向に直角な断面で見て、シリンダ室113と116、連通孔114と117、開口部115bと118bが、本体部の中心線Pに対して点対称となるように形成されている。
本体部通路115、118が、本発明の「本体部通路」に対応する。また、本体部通路115、118のうちの一方および他方が、本発明の「第1の本体部通路」および「第2の本体部通路」に対応する。
【0016】
カバー120は、筒状に形成され、カバー先端面120A、カバー後端面120B、カバー内周面121およびカバー外周面122を有している。カバー先端面120Aおよびカバー後端面120Bは、径方向に沿って延在している。
カバー内周面121は、カバー内周面部分121a~121cを有している。カバー内周面部分121bは、径方向に沿って延在し、カバー内周面部分121aと121cを接続する段差面に形成されている。
カバー内周面121(カバー内周面部分121a、121c)は、円形の断面を有している。
カバー内周面121によって、カバー先端面120A側およびカバー後端面120B側に開口しているカバー内側空間120aが形成される。また、カバー内周面部分121aと121bによって、カバー内側空間120aの先端側にカバー内側空間部分120a1が形成される。また、カバー内周面部分121cによって、カバー内側空間120aの後端側にカバー内側空間部分120a2が形成される。
カバー内側空間部分120a1には、スリーブ130が挿入される。
カバー内側空間部分120a1が、本発明の「スリーブ挿入空間」に対応する。
【0017】
カバー外周面122は、カバー外周面部分122a~122cを有している。カバー外周面部分122cは、軸方向に沿って延在している。カバー外周面部分122bは、カバー外周面部分122cの先端側に配置され、径方向に沿って延在している。
カバー外周面部分122cは、円形の断面を有している。
カバー後端面120Bとカバー外周面部分122cによって、カバー120の後端側の中心部に、後端側に飛び出ている突部120Cが形成される。また、カバー外周面部分122bと122cによって、突部120Cの外周側に、ドーナツ状の切欠部が形成される。
カバー120の突部120Cは、本体部110の本体部内側空間部分110a1に挿入される。
【0018】
本体部内側空間部分110a1が、本発明の「本体部の先端側の中心部に設けられ、先端側に開口している凹部」あるいは「本体部の先端側の中心部に設けられ、本体部先端面に開口部を有する凹部」に対応する。
カバー120の突部120Cが、本発明の「カバーの後端側の中心部に設けられ、後端側に飛び出ている突部」に対応する。
【0019】
また、カバー120は、カバー通路123、124を有している。カバー通路123、124は、一端がカバー120の後端側に開口し、他端がスリーブ内周面部分121a側(詳しくは、後述する加圧空間136a側)に開口している。本実施形態では、カバー通路123、124の一端は、カバー外周面部分122bに開口している。すなわち、カバー通路123(124)は、カバー外周面部分122bに開口部123b(124b)を有しているとともに、カバー内周面部分121a(加圧空間136b)に開口部123a(124a)を有している。
カバー通路124、125が、本発明の「カバー通路」に対応する。また、カバー通路124、125のうちの一方および他方が、本発明の「第1のカバー通路」および「第2のカバー通路」に対応する。
【0020】
スリーブ130は、筒状に形成され、スリーブ先端面130A、スリーブ後端面130B、スリーブ内周面131およびスリーブ外周面132を有している。スリーブ先端面130Aおよびスリーブ後端面130Bは、径方向に沿って延在している。
スリーブ内周面131は、スリーブ内周面部分131a~131cを有している。スリーブ内周面部分131bは、径方向に沿って延在し、スリーブ内周面部分131aと131cを接続する段差面に形成されている。
スリーブ内周面131(スリーブ内周面部分131a、131c)は、円形の断面を有している。
スリーブ内周面部分131aによって、スリーブ内側空間130aの先端側にスリーブ内側空間部分130a1が形成され、スリーブ内周面部分131b、131cによって、スリーブ内側空間130aの後端側にスリーブ内側空間部分130a2が形成される。
スリーブ内側空間130a内には、工具200のシャンク部が挿入される。
スリーブ内周面131には、冷却媒体を工具200に供給するために、螺旋状の溝135が形成されている。冷却媒体は、本体部内側空間110aおよびカバー内側空間120aを介して供給される。
スリーブ内側空間130aが、本発明の「工具挿入空間」に対応する。
【0021】
スリーブ外周面132は、スリーブ外周面部分132a~132eを有している。
スリーブ外周面部分132b、132dは、スリーブ外周面部分132a、132c、132eから径方向内側に段差状に窪んでいる。スリーブ外周面部分132b、132dによって、径方向内側に段差状に窪んでいる凹部133a、133bが形成される。
なお、スリーブ外周面部分132cの外径(直径)は、スリーブ外周面部分132aおよび132eの外径より小さく、スリーブ外周面部分132b、132dの外径より大きく設定されている。
スリーブ外周面132(スリーブ外周面部分132a~132e)は、円形の断面を有している。
【0022】
次に、カバー120を本体部に取り付ける動作を、
図3を参照して説明する。
カバー120の突部120Cを、本体部110の本体部内側空間部分110a1内に、先端側(本体部先端面110A側)から挿入する。
突部120Cを本体部内側空間部分110a1内に挿入した後、カバー120の後端側を本体部110の先端側に固着する。本実施形態では、カバー120の突部120Cの外周面を形成している、軸方向および周方向に沿って延在するカバー外周面部分122cと、本体部110の本体部内側空間部分110a1の内周面を形成している、軸方向および周方向に沿って延在する本体部内周面部分111aを固着する。また、カバー120の突部120Cの根元部に形成されている、径方向および周方向に沿って延在するカバー外周面部分122bと、本体部110の本体部内側空間部分110a1の開口部が形成されている、径方向および周方向に沿って延在する本体部先端面110Aを固着する。
固着方法としては、種々の固着方法を用いることができる。本実施形態では、ロー付け方法あるいは電子ビーム溶接方法を用いている。
なお、カバー120の突部120Cを本体部110の本体部内側空間部分110a1内に挿入する際、本体部110の本体部通路115、118とカバー120のカバー通路123、124が連通するように挿入する。本実施形態では、本体部通路115(118)の開口部115a(118a)とカバー通路123、124の開口部123b(124b)が、少なくとも一部で重なるように、本体部通路115(118)およびカバー通路123、124が形成されている。
なお、本体部通路115(118)とカバー通路123(124)を連通させる態様としては、本体部通路115(118)の開口部115a(118a)が形成されている本体部先端面110Aと、カバー通路123(124)の開口部123b(124b)が形成されているカバー外周面部分122bとの間に、本体部通路115(118)とカバー通路123(124)を連通する、径方向に沿って延在する連通路を形成する態様を用いることもできる。
【0023】
次に、スリーブ130をカバー120に取り付ける動作を、
図4を参照して説明する。
スリーブ130を、カバー内側空間部分120a1内に、先端側(カバー先端面120A側)から挿入する。
スリーブ130をカバー内側空間部分120a1内に挿入した後、スリーブ130をカバー120に固着する。本実施形態では、ロー付け方法あるいは電子ビーム溶接方法を用いて、スリーブ外周面部分132a、132eをカバー内周面部分121aに固着している。
ここで、スリーブ外周面部分132b、132dによって凹部133a、133bが形成され、スリーブ外周面部分132cの外径は、スリーブ外周面部分132a、132eの外径より小さく設定されている。これにより、スリーブ130をカバー120に固着すると、スリーブ外周面部分132b、132dとカバー内周面部分121aとの間に、周方向に沿って延在する加圧空間136a、136bが形成される。また、スリーブ外周面部分132cとカバー内周面部分121aとの間に、加圧空間136aと136bを連通するように周方向および軸方向に沿って延在する連通路136cが形成される。
カバー120のカバー通路123、124は、他端が、カバー内周面121aの、加圧空間136a、136bに対応する箇所に開口するように形成される。本実施形態では、加圧空間136aと136bが連通路136cを介して連通されるため、カバー通路123(124)の他端が、カバー内周面121aの、加圧空間136bに対応する箇所に開口するように形成されている。すなわち、カバー通路123(124)は、カバー120の後端側(カバー外周面部分122b)に開口部123b(124b)を有し、加圧空間136b(カバー内周面部分121aの、加圧空間136bに対応する箇所)に開口部123a(124a)を有している。
【0024】
スリーブ130をカバー120に固着し、カバー120を本体部110に固着することによって、本体部110に形成されている加圧室113A、連通室114A、本体部通路115、カバー120に形成されているカバー通路123、スリーブ130とカバー120の間に形成されている加圧空間136a、136b、カバー120に形成されているカバー通路124、本体部110に形成されている本体部通路118、連通室117A、加圧室116Aにより密閉空間が形成される。この密閉空間内には、加圧媒体が注入される。なお、カバー120へのスリーブ130の固着と、本体部110へのカバー120の固着の順番は、適宜設定可能である。
【0025】
ワークの加工を行っていない(工具200のシャンク部を把持していない)被保持モードでは、シリンダ室113内のピストン141およびシリンダ室116内のピストン151は、
図5に示されている位置に配置されている。なお、本実施形態では、密閉空間内の加圧媒体の圧力調整は、ピストン141の位置を調整することによって行われる。このため、
図5に示されている被保持モードでは、ピストン141は、被保持位置に配置され、ピストン151は、所定位置に配置されている。
【0026】
ワークの加工を行う(工具200のシャンク部を把持する)保持モードでは、スリーブ内側空間130a内に、工具200のシャンク部を挿入した後、ネジ143を一方方向に回転させ、ピストン141を、
図6に示されている、加圧室113A側の加圧位置に移動させる。これにより、加圧空間136a、136bを含む密閉空間内に注入されている加圧媒体の圧力が上昇し、スリーブ130の、加圧空間136a、136bに対応する位置に形成されている把持部134a、134bが径方向内側に弾性変形する。把持部134a、134bが径方向内側に弾性変形することによって、工具200のシャンク部は、スリーブ内周面部分131aの、把持部134a、134bに対応する部分によって把持(挟持)される。
工具のシャンク部の把持を解除する場合には、ネジ143を他方方向に回転させ、ピストン141を
図5に示す待機機に移動させて、密閉空間内の加圧媒体の圧力を低下させる。
ネジ143が、本発明の「第1の加圧室と第2の加圧室の少なくとも一方の容積を調節可能な調節部材」に対応する。
【0027】
なお、本実施形態では、ピストン141が加圧位置に配置されている保持モード(
図6)では、軸方向に直角な断面で見て、加圧室113A(シリンダ室113の、ピストン141より奥側)と加圧室116A(シリンダ室116の、ピストン151より奥側)、連通室114A(連通孔114の、剛球144より奥側)と連通室117A(連通孔117の、剛球154より奥側)、開口部115b(連通室114Aに開口している、本体部通路115の開口部)と開口部118b(連通室117Aに開口している、本体部通路118の開口部)は、本体部110の中心線Pに対して点対称となるように構成されている。これにより、保持モードにおける、加圧媒体の圧力変動による本体部110やカバー120の変位が、本体部110の中心線Pを挟んで均等となり、本体部110やカバー120の変形による加工精度の低下を防止することができる。
【0028】
本実施形態では、本体部110にカバー120を固着し、工具200を把持する把持部134a、134bを有するスリーブ130をカバー120に固着しており、従来の工具ホルダのように、スリーブ130を本体部110に直接固着していない。すなわち、加工時にスリーブ130に発生する熱や振動は、スリーブ130とカバー120との固着部、カバー120、カバー120と本体部110との固着部、本体部110を介して工作機械の主軸に伝達されるため、スリーブ130とカバー120との固着部、カバー120、カバー120と本体部110との固着部等で減衰される。これにより、加工時に発生する熱や振動が、工具ホルダ100(本体部110)が装着される工作機械の主軸に伝達するのを抑制することができ、熱や振動に起因する加工精度の低下を防止することができる。
また、カバー120の後端側に形成されている突部120Cを本体部110の先端側に形成されている本体部内側空間部分110a1に挿入した状態で、カバー120の後端側を本体部110の先端側に固着している。特に、突部120Cの外周面を形成する、軸方向および周方向に沿って延在するカバー外周面部分122cと本体部内側空間部分110a1の内周面を形成する、軸方向および周方向に沿って延在する本体部内周面部分111aとを固着するとともに、突部120Cの根元側に形成されている、径方向および周方向に沿って延在するカバー外周面部分122bと本体部内側空間部分110a1の開口部が形成されている、径方向および周方向に沿って延在する本体部先端面110Aを固着していることにより、カバー120を本体部110に確実に固着することができる。
【0029】
なお、本発明は、以下のように構成することもできる。
(態様)
請求項1または2に記載の工具ホルダであって、
前記本体部通路は、第1の本体部通路と、第2の本体部通路を有し、
前記カバー通路は、第1のカバー通路と、第2のカバー通路を有し、
前記本体部は、圧力調整機構を有し、
前記圧力調整機構は、第1の加圧室、前記第1の加圧室と連通している第1の連通室、第2の加圧室、前記第2の加圧室と連通している第2の連通室、前記第1の加圧室と前記第2の加圧室の少なくとも一方の容積を調節可能な調節部材を有し、
前記第1の本体部通路は、前記本体部の先端側および前記第1の連通室に開口し、
前記第2の本体部通路は、前記本体部の先端側および前記第2の連通室に開口し、
前記カバーは、前記第1のカバー通路および前記第2のカバー通路が、それぞれ前記第1の本体部通路および前記第2の本体部通路と連通するように、前記カバーの後端側が前記本体部の先端側に固着され、
前記第1の加圧室、前記第2の加圧室、前記第1の連通室、前記第2の連通室、前記第1の本体部通路、前記第2の本体部通路、前記第1のカバー通路、前記第2のカバー通路および前記加圧空間内に加圧媒体が注入され、
前記スリーブの前記把持部が径方向内側に弾性変形するように、前記調節部材により前記第1の加圧室と前記第2の加圧室の少なくとも一方の容積を調節した際、前記第1の加圧室と前記第2の加圧室、前記第1の連通室と前記第2の連通室、前記第1の連通室に開口している、前記第1の本体部通路の開口部と前記第2の連通室に開口している、前記第2の本体部通路の開口部が、前記本体部の中心線に対して点対称となるように構成されていることを特徴とする工具ホルダ。
本態様では、スリーブの把持部を径方向内側に弾性変形させて工具のシャンク部を把持する保持モードにおける、加圧媒体の圧力変動による加工精度の低下を防止することができる。
【0030】
本発明は、実施形態で説明した構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。
実施形態では、カバーの後端側に形成されている突部を本体部の先端側に形成されている凹部に挿入した状態で、軸方向および周方向に沿って延在している、突部の外周面と凹部の内周面を固着するとともに、径方向および周方向に沿って延在している、カバー外周面部分と本体部先端面を固着したが、カバーの後端側を本体部の先端側に固着する態様はこれに限定されない。例えば、本体部の凹部へのカバーの突部の挿入は、省略することもできる。また、軸方向および周方向に沿って延在している、突部の外周面と凹部の内周面を固着する態様や径方向および周方向に沿って延在している、カバー外周面部分と本体部先端面を固着する態様以外の固着態様を用いることもできる。
実施形態では、カバーを本体部に固着する方法およびスリーブをカバーに固着する固着方法として、ロー付け方法あるいは電子ビーム溶接方法を用いたが、固着方法は、これに限定されない。
本体部、カバー、スリーブは、同じ材料で構成することもできるし、異なる材料で構成することもできる。本体部、カバー、スリーブの材料を適切に選択することによって、熱や振動の伝達を抑制することができる。
ロー付けに用いるロー材やロー付け箇所は、適宜選択可能である。ロー材やロー付け箇所を適切に選択することによって、熱や振動の発生を抑制することができる。
本体部、カバー、スリーブの形状あるいは構成は、実施形態で説明した形状あるいは構成に限定されない。
実施形態で説明した構成は、単独で用いることもできるし適宜選択した複数の構成を組み合わせて用いることもできる。
【符号の説明】
【0031】
100 工具ホルダ
110 本体部
110A 本体部先端面
110B 本体部後端面
110a 本体部内側空間
110a1~110a5 本体部内側空間部分
111 本体部内周面
111a~111f 本体部内周面部分
112 本体部外周面
112a、112b 本体部外周面部分
113、116 シリンダ室
113A、116A 加圧室
114、117 連通孔
114A、117A 連通室
115、118 本体部通路
115a、115b、118a、118b 開口部
120 カバー
120A カバー先端面
120B カバー後端面
120C 突部
120a カバー内側空間
120a1、120a2 カバー内側空間部分
122 カバー外周面
122a~122c カバー外周面部分
123、124 カバー通路
123a、123b、124a、124b 開口部
130 スリーブ
130A スリーブ先端面
130B スリーブ後端面
130a スリーブ内側空間
130a1、130a2 スリーブ内側空間部分
131 スリーブ内周面
131a~131c スリーブ内周面部分
132 スリーブ外周面
132a~132e スリーブ外周面部分
133a、133b 凹部
134a、134b 把持部
135 溝
136a、136b 加圧空間
136c 連通路
141、151 ピストン
142、152 シール部材
143、153 ネジ
144、154 剛球
145、155 ネジ
146 ネジ