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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】着物
(51)【国際特許分類】
   A41D 1/00 20180101AFI20240416BHJP
【FI】
A41D1/00 101C
A41D1/00 101A
A41D1/00 101Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020028121
(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2021130895
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】520062281
【氏名又は名称】株式会社花舞
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【弁理士】
【氏名又は名称】椿 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100124589
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 竜郎
(74)【代理人】
【識別番号】100219357
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 美保
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝司
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-023362(JP,A)
【文献】特開2000-290808(JP,A)
【文献】特開2013-159877(JP,A)
【文献】特開2011-168939(JP,A)
【文献】特開平11-350210(JP,A)
【文献】登録実用新案第3219756(JP,U)
【文献】登録実用新案第3150341(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上前と、下前と、左後身頃と、右後身頃と、衿と、前記左後身頃と前記右後身頃とを縫い合わせた部分である背縫い部とを含む着物本体と、
前記着物本体における前記衿を含む部分に設けられたお端折りであって、第1の縫い合わせ線と、前記第1の縫い合わせ線とは異なる第2の縫い合わせ線とを互いに縫い合わせることにより、前記背縫い部の延在方向に沿った長さが不変とされたお端折りと、
前記下前を着用者の身体に位置決めするための位置決め部とを備え、
前記着物本体は、
前記上前および前記左後身頃のうち少なくともいずれか一方の内側に設けられた第1の被固定部であって、前記位置決め部が固定される第1の被固定部と、
前記下前、および前記着用者にとって右側に位置する前記衿の部分である右衿のうち少なくとも一方に設けられた第2の被固定部であって、前記位置決め部が固定される第2の被固定部とをさらに含み、
前記位置決め部は、互いに連結および分離することが可能な第1および第2の位置決め部材の各々を含み、
前記第1の位置決め部材は、前記第1の被固定部に固定され、
前記第2の位置決め部材は、前記第2の被固定部に固定され、
前記第2の被固定部は、前記右衿の衿先から3cm以内の領域、および前記下前と前記右衿との縫い合わせ線と、前記右衿の衿先との交点から3cm以内の領域のうち少なくともいずれか一方の領域に設けられ、
前記背縫い部の延在方向に沿った前記第2の被固定部の位置は、前記背縫い部の延在方向に沿った前記お端折りの位置よりも肩山から離れた側に存在し、
前記着物本体に設けられ、互いに連結および分離することが可能な第1および第2の連結部の各々をさらに備え、
前記着物本体は、
前記着用者にとって左側に位置する前記衿の部分である左衿に設けられた第3の被固定部であって、前記第1の連結部が固定された第3の被固定部と、
前記お端折りとなる前記右衿の部分に設けられた第4の被固定部であって、前記第2の連結部が固定された第4の被固定部と、
前記上前および前記左後身頃のうち少なくともいずれか一方に設けられた挿入孔であって、前記第2の連結部を挿入可能な挿入孔をさらに含む、着物。
【請求項2】
前記第1の被固定部は、前記上前と前記左後身頃との縫い合わせ線から3cm以内の領域に設けられる、請求項に記載の着物。
【請求項3】
前記背縫い部の延在方向に沿った前記第1の被固定部の位置は、前記背縫い部の延在方向に沿った前記第2の被固定部の位置よりも肩山側に存在する、請求項1または2に記載の着物。
【請求項4】
前記位置決め部によって前記下前を位置決めした状態での前記第1の被固定部から前記第2の被固定部までの距離は、前記位置決め部により調節可能である、請求項1~のいずれかに記載の着物。
【請求項5】
前記位置決め部は紐よりなる、請求項に記載の着物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着物に関する。より特定的には、本発明は、着用者が動いた際に着崩れしにくい着物に関する。
【背景技術】
【0002】
着物は、日本の伝統的な民族衣装である。一般的に、着物を着る際に着用者は次の順序で動作を行う。着物を羽織る。上前を開いて下前を身体に巻き込み、上前を下前に重ねる。腰紐を結ぶ。お端折りを整える。伊達締めを締める。帯を結ぶ。
【0003】
着物を着る際の動作は煩雑であり、技能の習得が必要である。このため、煩雑な動作や技能の習得を必要とせずに、着物を気軽に着たいとうニーズがあった。近年のインバウンドの増加に伴い、訪日外国人の日本文化への興味が高まっている。このような中、着物を気軽に着たいというニーズは、特に訪日外国人の間で高まっている。
【0004】
従来の着物が下記特許文献1などに開示されている。下記特許文献1の着物は、左後身頃の略中央部の外側から、左後身頃と上前身頃との間に設けられたスリットを通して上前身頃の内側に出る伸縮性の左ベルトと、右衿下の表側に設けられ、左ベルトの釦穴と嵌め合わされる釦と、右後身頃の略中央部の内側から、右後身頃と下前身頃との間に設けられたスリットを通して下前身頃の外側に出る伸縮性の右ベルトと、左衿下の内側に設けられ、釦右ベルトの釦穴と嵌め合わされる釦とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実用新案登録第3223704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的な着物を着る際に、着用者は、上前を開いて下前を身体に巻き込み、上前を下前に重ねた後で、腰紐を結ぶ必要があった。腰紐を結ぶ際、着用者は、下前を身体近くに位置決めするために上前を介して下前を身体に向かって押さえつつ、裾の長さが適切になるように上前および下前を持ち上げる必要があった。しかし、下前を身体に向かって押さえて上前および下前を持ち上げつつ、次の動作(一般的には腰紐を結ぶこと)を行うことは難しかった。その結果、着物を着ることは難しかった。
【0007】
特許文献1の着物では、腰紐は不要であり、左ベルトにより下前が位置決めされる。しかし、左ベルトは、左後身頃の略中央部の外側と右衿下の表側に設けられた釦との間に延在しており、着用者の胴回りの約半周分もの距離だけ延在している。このため、左ベルトは上下方向にずれやすく、下前も上下方向にずれやすかった。その結果、特許文献1の着物を着には、着用者が動いた際に着崩れしやすいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その目的は、着用者が動いた際に着崩れしにくい着物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の局面に従う着物は、上前と、下前と、左後身頃と、右後身頃と、衿と、左後身頃と右後身頃とを縫い合わせた部分である背縫い部とを含む着物本体と、着物本体における衿を含む部分に設けられたお端折りであって、第1の縫い合わせ線と、第1の縫い合わせ線とは異なる第2の縫い合わせ線とを互いに縫い合わせることにより、背縫い部の延在方向に沿った長さが不変とされたお端折りと、下前を着用者の身体に位置決めするための位置決め部とを備え、着物本体は、上前および左後身頃のうち少なくともいずれか一方の内側に設けられた第1の被固定部であって、位置決め部が固定される第1の被固定部と、下前、および着用者にとって右側に位置する衿の部分である右衿のうち少なくとも一方に設けられた第2の被固定部であって、位置決め部が固定される第2の被固定部とをさらに含み、位置決め部は、互いに連結および分離することが可能な第1および第2の位置決め部材の各々を含み、第1の位置決め部材は、第1の被固定部に固定され、第2の位置決め部材は、第2の被固定部に固定され、第2の被固定部は、右衿の衿先から3cm以内の領域、および下前と右衿との縫い合わせ線と、右衿の衿先との交点から3cm以内の領域のうち少なくともいずれか一方の領域に設けられ、背縫い部の延在方向に沿った第2の被固定部の位置は、背縫い部の延在方向に沿ったお端折りの位置よりも肩山から離れた側に存在し、着物本体に設けられ、互いに連結および分離することが可能な第1および第2の連結部の各々をさらに備え、着物本体は、着用者にとって左側に位置する衿の部分である左衿に設けられた第3の被固定部であって、第1の連結部が固定された第3の被固定部と、お端折りとなる右衿の部分に設けられた第4の被固定部であって、第2の連結部が固定された第4の被固定部と、上前および左後身頃のうち少なくともいずれか一方に設けられた挿入孔であって、第2の連結部を挿入可能な挿入孔をさらに含む
【0011】
上記着物において好ましくは、第1の被固定部は、上前と左後身頃との縫い合わせ線から3cm以内の領域に設けられる。
【0013】
上記着物において好ましくは、背縫い部の延在方向に沿った第1の被固定部の位置は、背縫い部の延在方向に沿った第2の被固定部の位置よりも肩山側に存在する。
【0014】
上記着物において好ましくは、位置決め部によって下前を位置決めした状態での第1の被固定部から第2の被固定部までの距離は、位置決め部により調節可能である。
【0015】
上記着物において好ましくは、位置決め部は紐よりなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、着用者が動いた際に着崩れしにくい着物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施の形態における着物の構成を示す正面図であって、上前1を閉じた状態の正面図である。
図2】本発明の一実施の形態における着物の構成を示す背面図である。
図3】本発明の一実施の形態における着物の構成を示す正面図であって、上前1を開いた状態の正面図である。
図4】お端折り30を設けるための縫い合わせ線LN1およびLN2を示す図である。
図5図3の要部拡大図であって、着物本体20における被固定部41~44の位置を示す拡大図である。
図6】本発明の一実施の形態における着物を着る方法を説明する第1の図である。
図7】本発明の一実施の形態における着物を着る方法を説明する第2の図である。
図8】本発明の一実施の形態における着物を着る方法を説明する第3の図である。
図9】本発明の一実施の形態における着物を着る方法を説明する第4の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、以降の説明における右、左、下、および上は、それぞれ着物の着用者にとっての右、左、下、および上を意味している。
【0020】
[着物の構成]
【0021】
始めに、本実施の形態における着物の構成について説明する。
【0022】
図1図3は、本発明の一実施の形態における着物の構成を示す図である。図1は上前1を閉じた状態の正面図である。図2は背面図である。図3は、上前1を開いた状態の正面図である。
【0023】
図1図3を参照して、本実施の形態における着物は、着物本体20(着物本体の一例)と、お端折り30(お端折りの一例)とを備えている。
【0024】
着物本体20は、上前1(上前の一例)と、下前2(下前の一例)と、左後身頃3(左後身頃の一例)と、右後身頃4(右後身頃の一例)と、衿5(衿の一例)と、背縫い部6(背縫い部の一例)と、袖7とを含んでいる。上前1は、着用者の前面を覆う部分であって、着物の着用時に下前2よりも外側に位置する部分である。上前1は、着用者の前面左側に設けられている。上前1は、上前身頃1aと、上前衽1bとを含んでいる。上前衽1bは、上前身頃1aの右側に縫い付けられている。上前身頃1aと上前衽1bとの縫い合わせ線は、上下方向に延在している。
【0025】
下前2は、着用者の前面を覆う部分であって、着物の着用時に上前1よりも内側に位置する部分である。下前2は、着用者の前面右側に設けられている。下前2は、下前身頃2aと、下前衽2bとを含んでいる。下前衽2bは、下前身頃2aの左側に縫い付けられている。下前身頃2aと下前衽2bとの縫い合わせ線は、上下方向に延在している。
【0026】
左後身頃3は、着用者の背面左側を覆う部分である。左後身頃3は、その左端であって着用者の幅方向左側面に対応する位置で、上前身頃1aと縫い合わされている。左後身頃3と上前身頃1aとの縫い合わせ線は、上下方向に延在している。
【0027】
右後身頃4は、着用者の背面右側を覆う部分である。右後身頃4は、その右端であって着用者の幅方向右側面に対応する位置で、下前身頃2aと縫い合わされている。右後身頃4と下前身頃2aとの縫い合わせ線は、上下方向(図1中縦方向)に延在している。
【0028】
左後身頃3の右端と右後身頃4の左端とは、着用者の背骨に対応する位置で互いに縫い合わされている。左後身頃3と右後身頃4との縫い合わせた部分は、背縫い部6となっている。背縫い部6は上下方向に延在しており、着物本体20の肩山13から裾14に向かって延在している。
【0029】
衿5は、着用者の首を取り囲む部分である。衿5は、左衿5aと、奥衿5bと、右衿5cとを含んでいる。左衿5aは上前1に縫い付けられており、着用者の首の左後部に対応する位置から右下に向かって延在している。左衿5aは着用者にとって左側に位置する衿5の部分である。奥衿5bは、左後身頃3および右後身頃4に対して縫い付けられており、着用者の首の後部に位置する衿5の部分である。右衿5cは下前2に縫い付けられており、着用者の首の右後部に対応する位置から左下に向かって延在している。右衿5cは着用者にとって右側に位置する衿5の部分である。
【0030】
袖7は、着用者の腕を覆う部分である。袖7は、左袖7aと、右袖7bとを含んでいる。左袖7aは上前身頃1aおよび左後身頃3に縫い付けられている。左袖7aは、上前身頃1aおよび左後身頃3から外方に延在している。右袖7bは下前身頃2aおよび右後身頃4に縫い付けられている。右袖7bは、下前身頃2aおよび右後身頃4から外方に延在している。
【0031】
図4は、お端折り30を設けるための縫い合わせ線LN1およびLN2を示す図である。
【0032】
図1図4を参照して、お端折り30は、着物本体20における着用者の胴回りに対応する位置に設けられている。お端折り30は、着物本体20に設けられた縫い合わせ線LN2(第2の縫い合わせ線の一例)を縫い合わせ線LN1(第1の縫い合わせ線の一例)に重ねた状態で、縫い合わせLN1およびLN2に沿って着物本体20(具体的には、上前1、下前2、左後身頃3、右後身頃4、および衿5)を縫い合わせることにより形成される。縫い合わせ線LN1およびLN2は着用者の胴回りに対応する線である。縫い合わせ線LN1は縫い合わせ線LN2よりも上部に設けられている。縫い合わせ線LN1は、背縫い部6に対して直交していてもよいし、背縫い部6に対して傾斜していてもよい。
【0033】
縫い合わせLN1およびLN2に沿って着物本体20を縫い合わせることにより、背縫い部6の延在方向に沿ったお端折り20の長さは不変とされている。また、お端折り20は、縫い合わせ線LN1から着物本体20の外側において下方に垂れ下がる。さらに、奥衿5bから左衿5aおよび右衿5cの各々の衿先に向かう方向で見た場合に、衿5はお端折り20の下端部において上部に折れ曲がり、その後縫い合わせ線LN1において下方に折れ曲がる。
【0034】
図5は、図3の要部拡大図であって、着物本体20における被固定部41~44の位置を示す拡大図である。
【0035】
図1~3および図5を参照して、本実施の形態における着物は、位置決め部50(位置決め部の一例)と、連結部61および62(第1および第2の連結部の一例)とをさらに備えている。位置決め部50は、下前2を着用者の身体に位置決めするための部分である。位置決め部50は、着物本体20の被固定部41および42(第1および第2の被固定部の一例)に固定される。
【0036】
位置決め部50は、位置決め部材51および52(第1および第2の位置決め部材の一例)を含んでいる。位置決め部材51および52の各々は、互いに連結および分離することが可能である。位置決め部材51のたとえば左端は、被固定部41に固定されている。位置決め部材52のたとえば右端は、被固定部42に固定されている。
【0037】
被固定部41は、上前1および左後身頃3のうち少なくともいずれか一方の内側に設けられている。被固定部41は、領域R1(領域R1は点線で囲まれた領域)に設けられることが好ましい。領域R1は、上前1と左後身頃3との縫い合わせ線LN3から3cm以内の領域である。被固定部41は、位置決め部50から引張力を受けることがある。領域R1は上前1と左後身頃3とが互いに重ねられている。このため、領域R1の強度は、着物本体20における他の領域の強度よりも高い。領域R1に被固定部41を設けることで、位置決め部50から受ける引張力による着物本体20の破損を効果的に抑止することができる。
【0038】
被固定部42は、下前2および右衿5cのうち少なくとも一方に設けられている。被固定部42は、領域R2およびR3(領域R2およびR3はそれぞれ点線で囲まれた領域)のうち少なくともいずれか一方の領域に設けられることが好ましい。領域R2は、右衿5cの衿先(右衿5cの下端部)から3cm以内の領域である。領域R3は、下前2と右衿5cとの縫い合わせ線LN4と、右衿5cの衿先との交点Pから3cm以内の領域である。被固定部42は、位置決め部50から引張力を受けることがある。領域R2は生地が局所的に厚くなっており、領域R3は、下前2と右衿5cとが互いに重なっている。このため、領域R2およびR3の強度は、着物本体20における他の領域の強度よりも高い。領域R2およびR3のうち少なくともいずれか一方の領域に被固定部42を設けることで、位置決め部50から受ける引張力による着物本体20の破損を効果的に抑止することができる。
【0039】
背縫い部6の延在方向に沿った被固定部41の位置は、背縫い部6の延在方向に沿った被固定部42の位置よりも肩山13側(上側)に存在することが好ましい。これにより、被固定部42が斜め上方に引っ張られるため、下前2の裾14が、下前2と右後身頃4との境界から離れるに従って上方に向かう。その結果、着物本体20の裾14がきれいに見える。
【0040】
本実施の形態では、位置決め部50は紐よりなっている。紐は丸紐であってもよいし、平紐であってもよい。位置決め部材51および52は、位置決め部材51および52の各々の紐を結ぶことで、互いに連結することができ、位置決め部材51および52の各々の紐を解くことで、互いに分離することができる。位置決め部50が紐よりなる場合には、紐における結び目を形成する位置を調節することによって、位置決め部50によって下前2を位置決めした状態での被固定部41から被固定部42までの距離dが、位置決め部50によって調節可能となる。その結果、1つの着物を様々な体型の人が着ることができるようになる。
【0041】
位置決め部50は、紐よりなる場合の他、ウエストベルト、伸縮性を有する線状体の両端にクリップを設けたもの、または面ファスナーなどよりなっていてもよい。位置決め部50がこれらの材料よりなる場合にも、位置決め部50によって下前2を位置決めした状態での距離dが、位置決め部50によって調節可能となる。その結果、より多くの人が着物を着ることができるようになる。
【0042】
位置決め部50は、1つの部材よりなっていてもよい。位置決め部50が1つの部材よりなる場合、位置決め部50の一端側が被固定部41および42のうち一方に対して常に固定されており、位置決め部50の他端側が被固定部41および42のうち他方に対して着脱可能とされてもよい。また、位置決め部50が1つの部材よりなる場合、位置決め部50の一端側および他端側の両方が、被固定部41および42の各々に対して着脱可能とされてもよい。
【0043】
連結部61および62は、着物本体20に設けられている。連結部61および62は、互いに連結および分離することが可能である。連結部61は、左衿5aに設けられた被固定部43(第3の被固定部の一例)に固定されている。連結部62は、右衿5cに設けられた被固定部44(第4の被固定部の一例)に固定されている。
【0044】
本実施の形態では、連結部61および62はウエストベルトよりなっている。具体的には、連結部61は、長さ調節部材61aと、連結部本体61bとを含んでいる。長さ調節部材61aは、連結部本体61b上に設けられている。連結部本体61bは伸縮性を有している。連結部本体61bの基端は被固定部43に固定されている。長さ調節部材61aは連結部本体61bに沿って移動可能である。長さ調節部材61aの位置により連結部本体61bの長さを調節可能である。連結部62は、係合部材62aと、連結部本体62bとを含んでいる。係合部材62aは、鈎状であり、連結部本体62bの先端に設けられている。連結部本体62bは伸縮性を有している。連結部本体62bの基端は被固定部44に固定されている。
【0045】
背縫い部6の延在方向に沿った被固定部43の位置は、背縫い部6の延在方向に沿った被固定部41および42の位置よりも肩山13側に存在することが好ましい。背縫い部6の延在方向に沿った被固定部43の位置は、背縫い部6の延在方向に沿った被固定部41および42の位置よりも肩山13側に存在することが好ましい。
【0046】
連結部61および62は、係合部材62aと連結部本体61bとを係合させることで、互いに連結することができ、係合部材62aと連結部本体61bとの係合を解くことで、互いに分離することができる。位置決め部50がウエストベルトよりなる場合には、長さ調節部材61aの位置を調節することによって、連結部61および62の合計の長さが調節可能となる。その結果、様々な体型の人々が着物を着ることができるようになる。
【0047】
連結部61および62は、ウエストベルトよりなる場合の他、紐、伸縮性を有する線状体の両端にクリップを設けたもの、または面ファスナーなどよりなっていてもよい。連結部61および62がこれらの材料よりなる場合にも、連結部61および62による締め付けの度合いが調節可能となる。その結果、様々な体型の人々が着物を着ることができるようになる。
【0048】
上前1および左後身頃3のうち少なくともいずれか一方には、挿入孔11が設けられている。挿入孔11は、左袖7aの下部における上前1と左後身頃3との境界に設けられていることが好ましい。この場合、挿入孔11は身八ツ口に相当するものとなる。挿入孔11は連結部62を挿通可能な孔である。また、右袖7bの下部における下前2と右後身頃4との境界(挿入孔11に対応する位置)にも、挿入孔(身八ツ口)12が設けられている。挿入孔11および12の各々は、着物の内部と外部とを接続している。挿入孔11には連結部62を挿入可能である。
【0049】
[着物を着る方法]
【0050】
続いて、本実施の形態における着物を着る方法について説明する。
【0051】
図6図9は、本発明の一実施の形態における着物を着る方法を説明する図である。
【0052】
図6を参照して、始めに着用者Wは、着物を羽織る。次に着用者Wは、上前1を開いて下前2を身体に巻き込み、位置決め部50を用いて下前2を着用者Wの身体に位置決めする。具体的には、着用者Wは、着用者Wの胴回りに応じて被固定部41と被固定部42との距離dが適切な距離になる位置で、位置決め部材51と位置決め部材52とを互いに結ぶ(または連結する)。これにより、位置決め部50によって下前2が着用者Wの身体近くに位置決めされる。
【0053】
図7を参照して、次に着用者Wは、右衿5cに固定された連結部62を持ち、連結部62の先端に設けられた係合部材62aを、左脇に存在する挿入孔11に挿入する。これにより、係合部材62aは着物の内側から外側に出る。着用者Wは、挿入孔11から背面および右脇を経由して身体の前面に係合部材62aを引っ張り出す。連結部62の一連の取り扱い方法は矢印AR1で示されている。
【0054】
次に着用者Wは、上前1を下前2の外側に重ねる。着用者は、左衿5aに固定された連結部61を持ち、右脇、背面、および左脇を順に経由して身体の前面に連結部61の先端を引っ張り出す。身体の前面に連結部61の先端を引っ張り出す際に、連結部61は、長さ調節部材61aによって着用者Wの胴回りに応じて適切な長さに調節される。連結部61の長さによって、着物による身体の締め付け具合が調節可能である。連結部61の一連の取り扱い方法は矢印AR2で示されている。
【0055】
図8を参照して、次に着用者Wは、連結部61と連結部62とを身体の前面で互いに連結する。ここでは、長さ調節部材61aより先の連結部本体61bは環状になっており、環状の連結部本体61bに対して、鈎状の係合部材62aが係合される。これにより、着物が着用者Wの身体に固定される。なお、長さ調節部材61aを連結部61の先端側に移動させるほど、長さ調節部材61aより先の連結部本体61bの環状の部分は小さくなり、連結部本体61bの長さが増加する。
【0056】
図9を参照して、その後着用者Wは、連結部61および62に重ねるように帯70を巻く。これにより、お端折り30の上部、ならびに連結部61および62は帯70によって隠されて外部から見えなくなる。お端折り30の下部は帯70の下からはみ出て外部から見える。
【0057】
[実施の形態の効果]
【0058】
本実施の形態によれば、着用時に腰紐を締めない状態であっても、位置決め部50によって下前2を着用者Wの身体近くに位置決めすることができる。また、背縫い部6の延在方向に沿ったお端折り30の長さが不変であるため、裾14の長さが適切になるように上前1および下前2を持ち上げる必要がなくなる。その結果、下前を身体に向かって押さえて上前および下前を持ち上げつつ、次の動作を行う必要がなくなり、着物を容易に着ることができる。また、位置決め部50は、上前および左後身頃のうち少なくともいずれか一方の内側に設けられるため、左後身頃の略中央部の外側に設けられる特許文献1の左ベルトと比較して延在する距離が短い。その結果、下前がずれにくく、着用者が動いた際に着崩れしにくくなる。
【0059】
加えて、連結部61および62を互いに連結することにより、着物を着用者Wの身体に固定することができる。このため、腰紐や伊達締めを締める必要がなくなり、着物を容易に着ることができる。
【0060】
[その他]
【0061】
連結部61および62は省略されてもよい。この場合、上前1および下前2は腰紐や伊達締めにより固定されてもよい。
【0062】
位置決め部50は一の部材のみで構成されていてもよい。この場合、被固定部41および42のうち一方に設けられた位置決め部50が、被固定部41および42のうち他方に設けられた孔などの被係止部に対して係止されてもよい。
【0063】
上述の実施の形態および変形例は適宜組み合わせることが可能である。
【0064】
上述の実施の形態および変形例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
1 上前(上前の一例)
1a 上前身頃
1b 上前衽
2 下前(下前の一例)
2a 下前身頃
2b 下前衽
3 左後身頃(左後身頃の一例)
4 右後身頃(右後身頃の一例)
5 衿(衿の一例)
5a 左衿
5b 奥衿
5c 右衿
6 背縫い部(背縫い部の一例)
7 袖
7a 左袖
7b 右袖
11,12 挿入孔
13 肩山
14 裾
20 着物本体(着物本体の一例)
30 お端折り(お端折りの一例)
41,42,43,44 被固定部(第1、第2、第3、および第4の被固定部の一例)
50 位置決め部(位置決め部の一例)
51,52 位置決め部材(第1および第2の位置決め部材の一例)
61,62 連結部(第1および第2の連結部の一例)
61a 長さ調節部材
61b 連結部本体
62a 係合部材
62b 連結部本体
70 帯
LN1,LN2,LN3,LN4 縫い合わせ線(第1および第2の縫い合わせ線の一例)
P 下前と右衿との縫い合わせ線と、右衿の衿先との交点
R1,R2,R3 領域
W 着用者
d 位置決め部によって下前を位置決めした状態での被固定部41から被固定部42までの距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9