IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アクアインテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-スカム移動装置 図1
  • 特許-スカム移動装置 図2
  • 特許-スカム移動装置 図3
  • 特許-スカム移動装置 図4
  • 特許-スカム移動装置 図5
  • 特許-スカム移動装置 図6
  • 特許-スカム移動装置 図7
  • 特許-スカム移動装置 図8
  • 特許-スカム移動装置 図9
  • 特許-スカム移動装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】スカム移動装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/40 20230101AFI20240416BHJP
【FI】
C02F1/40 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020058175
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2020175382
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2019080760
(32)【優先日】2019-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508165490
【氏名又は名称】アクアインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】米山 和彦
【審査官】▲高▼橋 明日香
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-051461(JP,A)
【文献】実公昭44-021009(JP,Y1)
【文献】特開2002-143843(JP,A)
【文献】特開2012-024703(JP,A)
【文献】特開2011-240229(JP,A)
【文献】特開平08-071551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00
B01D 21/00-21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面に浮かぶスカムを所定の移動方向に移動させるスカム移動装置であって、
前記移動方向に沿って延在した中空体と、
前記中空体の内周面によって画定された内部空間に流体を吐出する吐出口とを備え、
前記中空体は、円筒状であって、該中空体の側部に、前記移動方向に沿って延在する開口が該中空体の軸心と一致した高さに形成されたものであり、
前記吐出口は、前記内部空間内であって前記中空体の上流端に配置され、前記流体を該中空体の軸方向に向かって吐出するものであることを特徴とするスカム移動装置。
【請求項2】
前記中空体は、固定されたものであって、水位の変動に応じて、前記開口の少なくとも一部が大気中に露出した露出状態と該開口全体が水面よりも下に位置した水没状態とに状態変化するものであることを特徴とする請求項1記載のスカム移動装置。
【請求項3】
前記開口は、前記移動方向の上流側から見て前記中空体の右側部に形成された右開口と該中空体の左側部に形成された左開口とから構成され、
前記右開口と前記左開口は、前記移動方向に沿って交互に配置されたものであることを特徴とする請求項1または2記載のスカム移動装置。
【請求項4】
前記開口は、前記移動方向の上流側から見て前記中空体の右側部に形成された右開口と該中空体の左側部に形成された左開口とから構成され、
前記右開口と前記左開口は、前記移動方向において重なった位置に配置されたものであることを特徴とする請求項1または2記載のスカム移動装置。
【請求項5】
前記内部空間に気体を供給する供給口を備えたことを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項記載のスカム移動装置。
【請求項6】
前記吐出口は、前記側部に向かう方向はつぶれ高さ方向に拡がった扁平な形状のものであることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項記載のスカム移動装置。
【請求項7】
前記中空体は、前記移動方向に間隔をあけて複数設けられたものであり、
前記吐出口は、前記中空体それぞれにおける、前記移動方向の上流端部分に配置されたものであることを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1項記載のスカム移動装置。
【請求項8】
前記中空体は、前記移動方向に沿った長さが、前記間隔よりも短いものであることを特徴とする請求項7記載のスカム移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水面に浮かぶスカムを所定の移動方向に移動させるスカム移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汚水処理施設に設けられる沈殿池や、その沈殿池に汚水を分配する導水渠の水面には、浄化処理の妨げになるスカムが浮遊している。以下、沈殿池と導水渠を合わせて導水渠等と称する。導水渠等に浮遊したスカムを長期間放置すると汚水の水質の低下を招く。このため、スカムを移動させるスカム移動装置および移動させたスカムを除去するスカム除去装置が導水渠等に設けられる場合がある。このスカム移動装置として、複数のノズルを導水渠等の上方に配置し、ノズルから吐出する水の勢いによって、スカム除去装置側にスカムを移動させようとするものが提案されている。このようなスカム移動装置として、たとえば特許文献1および特許文献2に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-143843号公報
【文献】特開2004-136244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水面に浮遊しているスカムは、導水渠等の側壁間でブリッジを形成してしまうことがある。ブリッジとは、アーチングとも称されるものであり、導水渠等の側壁間にスカムが掛け渡された状態をいう。ブリッジが形成されると、スカムの移動が妨げられてしまう。ブリッジが形成された場合、特許文献1および特許文献2に示された複数のノズルから流体を吐出したとしても、ノズルから吐出された流体が直接当たったブリッジのところどころに小さな孔があくだけで、スカムをスカム除去装置側に移動可能にすることはできなかった。また、ノズルから吐出された流体によって、各ノズル近辺に局部的にある程度の水流が発生するものの、ブリッジにあいた孔から遠ざかるにつれて水流が弱まってしまい、スカムを長い距離移動させることは困難であった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、例えブリッジが形成されていてもスカムを移動可能なスカム移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を解決する本発明のスカム移動装置は、水面に浮かぶスカムを所定の移動方向に移動させるスカム移動装置であって、
前記移動方向に沿って延在した中空体と、
前記中空体の内周面によって画定された内部空間に流体を吐出する吐出口とを備え、
前記中空体は、円筒状であって、該中空体の側部に、前記移動方向に沿って延在する開口が該中空体の軸心と一致した高さに形成されたものであり、
前記吐出口は、前記内部空間内であって前記中空体の上流端に配置され、前記流体を該中空体の軸方向に向かって吐出するものであることを特徴とする。
また、水面に浮かぶスカムを所定の移動方向に移動させるスカム移動装置であって、
前記移動方向に沿って延在した中空体と、
前記中空体の内周面によって画定された内部空間に流体を吐出する吐出口とを備え、
前記中空体は、該中空体の側部に、前記移動方向に沿って延在する開口が形成されたものであることを特徴としてもよい
【0007】
ここで前記吐出口は、前記移動方向に向かって流体を吐出するものであってもよい。また、前記吐出口は、前記中空体における、前記移動方向の上流端部分に配置されたものであってもよい。加えて、前記内部空間は、上端および下端が閉塞した空間であってもよい。また、前記内部空間は、前記移動方向の上流端および下流端が開放された空間であってもよい。
【0008】
このスカム移動装置によれば、前記移動方向に沿った長い距離スカムを移動させることができる。
【0009】
このスカム移動装置において、前記中空体は、固定されたものであって、水位の変動に応じて、前記開口の少なくとも一部が大気中に露出した露出状態と該開口全体が水面よりも下に位置した水没状態とに状態変化するものであってもよい。
【0010】
前記露出状態は、前記開口全体が大気中に露出した全露出状態であってもよい。また、前記吐出口は、液体と気体が混合された混合流体を吐出するものであってもよい。
【0011】
導水渠等の水位は一定ではなく変動する。大気中に常時露出する位置に前記中空体を配置した場合、水位が低下した時には、前記開口は高さ方向において水面から大きく離間するので、放出された流体が水面に到達する前にスカム除去装置側に向かう流体の勢いが衰えてしまう。勢いが衰えた流体が水面に到達しても強い水流は形成できないため、スカムを移動方向に向かって移動させる効果が弱まってしまう。これに対し、前記露出状態と前記水没状態とに状態変化する位置に前記中空体を配置することで、該露出状態において前記開口が高さ方向において水面から大きく離間することがないので、該開口から放出された流体の勢いを残したまま流体を水面に到達させることができる。また、前記水没状態では、前記開口から水中に放出された流体によって、波を伴う強い水流を生じさせることができる。この波を伴う強い水流によってブリッジを破壊しつつ水流でスカムを移動方向下流側に移動させることができる。
【0012】
なお、水位変動における変動幅は一定幅に限られているので、前記露出状態が、前記開口全体が大気中に露出した全露出状態であっても、該全露出状態において該開口は高さ方向において水面から大きく離間することがない。従って、放出された流体の勢いが大きく衰えてしまう前に流体が水面に到達するので、強い水流を形成することができる。また、前記吐出口が前記混合流体を吐出するものである場合、前記水没状態において前記開口から放出される該混合流体は、該混合流体に含まれる気体によって水面に向かって上昇しやすくなる。このため、前記混合流体を吐出することで、前記水没状態ではより強い水流とより高い波を水面部分に発生させることができる。
【0013】
また、このスカム移動装置において、前記開口は、前記移動方向の上流側から見て前記中空体の右側部に形成された右開口と該中空体の左側部に形成された左開口とから構成され、
前記右開口と前記左開口は、前記移動方向に沿って交互に配置されたものであってもよい。
【0014】
前記中空体の左右両方から流体を吐出できるので、幅の広い導水渠等であってもスカムを移動させることができる。
【0015】
このスカム移動装置において、前記開口は、前記移動方向の上流側から見て前記中空体の右側部に形成された右開口と該中空体の左側部に形成された左開口とから構成され、
前記右開口と前記左開口は、前記移動方向において重なった位置に配置されたものであってもよい。
【0016】
前記中空体の左右両方から吐出される流体によって、左右の側壁両方から解放され移動が容易な島状のスカムが形成され、その島状のスカムが水流によって移動するので移動方向下流側のスカムをより移動させやすくなる。また、幅の広い導水渠等であってもスカムを移動させることができる。
【0017】
このスカム移動装置において、前記内部空間に気体を供給する供給口を備えていてもよい。
【0018】
前記開口全体が水面よりも下に位置した水没状態では、前記吐出口から吐出された流体と前記供給口から供給された気体とが前記内部空間内で混ざり合い、該開口から吐出される流体は、気体によって水面に向かって上昇しやすくなる。このため、前記中空体がある程度の深さに水没しても、水面部分に強い水流と高い波を発生させることができる。
【0019】
このスカム移動装置において、前記吐出口は、前記側部に向かう方向はつぶれ高さ方向に拡がった扁平な形状のものであってもよい。
【0020】
このような形状にすることで、吐出された汚水が吐出直後に側部に向かって拡がりすぎてしまうことが抑制されるので、前記開口から流出する流体の量が前記移動方向の下流側でも維持されやすくなる。これにより、移動方向に沿った長い範囲でスカムを側壁間に掛け渡された状態から解放することができる。
【0021】
また、このスカム移動装置において、前記中空体は、前記移動方向に間隔をあけて複数設けられたものであり、
前記吐出口は、前記中空体それぞれにおける、前記移動方向の上流端部分に配置されたものであってもよい。
【0022】
こうすることで、前記移動方向に長い距離スカムを移動させることができるので、前記移動方向の長さが長い導水渠等に対応することができる。
【0023】
このスカム移動装置において、前記中空体は、前記移動方向に沿った長さが、前記間隔よりも短い態様であってもよい。
【0024】
この態様によれば、前記中空体の製造が容易になり、このスカム移動装置を安価に構成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、例えブリッジが形成されていてもスカムを移動可能なスカム移動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に相当するスカム移動装置を備えた導水渠の平面図である。
図2図1に示した導水渠のA-A断面図である。
図3】(a)は、図1に示した中空体のB-B断面図であり、(b)は、図1に示した中空体のC-C断面図である。
図4】(a)は、図2のD部を拡大して示す拡大図であり、(b)は、図4(a)のE矢視図である。
図5】本実施形態のスカム移動装置における作用を示す平面図である。
図6】第2実施形態のスカム移動装置を備えた導水渠における図1と同様の平面図である。
図7】第3実施形態のスカム移動装置を備えた導水渠における図1と同様の平面図である。
図8図7に示した導水渠のF-F断面図である。
図9】(a)は、図8のG部を拡大して示す拡大図であり、(b)は、同図(a)のH-H断面図である。
図10】第3実施形態のスカム移動装置における作用を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。本発明の一実施形態であるスカム移動装置は、導水渠に配置され、導水渠の水面にあるスカムをスカム除去装置側に移動させるものである。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に相当するスカム移動装置を備えた導水渠の平面図である。この図1では、導水渠の天井よりも下の部分を示している。また、図1には沈殿池の一部も示されている。
【0029】
図1に示すように、本実施形態の導水渠1は、左側壁11と右側壁12と上流壁13と下流壁14によって囲まれた平面視で長方形をした設備である。導水渠1には、図示しない沈砂池等において処理された下水および雨水などの汚水が流入してくる。導水渠1は、流入してくる汚水を受け入れて、その汚水を複数の沈殿池9に分配して流入させるためのものである。導水渠1は、図1における左側から汚水を受け入れる(図1に示す白抜きの矢印参照)。導水渠1が受け入れた汚水は、左側壁11と右側壁12の間で図1における右側に向かって流れていく。以下、受け入れた汚水の流れにおける上流側を、単に上流側と称し、汚水の流れの下流側を、単に下流側と称し、上流側から下流側に向かう方向を移動方向と称する。また、上流側から見て左となる方向(図1における上方向)を左方向と称し、上流側から見て右となる方向(図1における下方向)を右方向と称する。加えて、左方向と右方向とを区別しないで左右方向を示す場合は、幅方向と称する。
【0030】
右側壁12の高さ方向の中間部分には、導水渠1内の汚水を各沈殿池9に流し込むための流入口121が沈殿池9ごとに形成されている。また、各流入口121には、流入扉122が設けられている。流入扉122は、右側壁12に沿って上下することで流入口121を開閉するものである。流入扉122を図示しない駆動機構により上下方向に移動させて流入口121における流入面積を変更することで、その流入口121に接続された沈殿池9に流入する汚水の量を調整することができる。
【0031】
導水渠1には、スカム除去装置3とスカム移動装置5が配置されている。スカム除去装置3は、導水渠1の下流側端部に設けられている。スカム除去装置3は、スカムピット31とスカムポンプ32とスカムピット堰33とゲート34を有する。スカムピット31はスカムピット堰33によって、導水渠1の他の部分と仕切られた部分である。スカムポンプ32は、スカムピット31内に配置されている。スカムピット堰33は、左側壁11および右側壁12と同一の高さを有する堰である。スカムピット堰33は、所定の高さ位置にスカム呑込口331が形成されている。また、スカム呑込口331の上流側には、スカムピット堰33の上流側面に沿って上下するゲート34が配置されている。このゲート34は可動堰の一例に相当する。スカム呑込口331およびゲート34については後述する。
【0032】
スカム移動装置5は、中空体51とノズル52とノズル用配管53とを有する。中空体51は、導水渠1の幅方向中央に配置されている。中空体51は、中空長尺状の部材であって、上流壁13近傍からスカムピット堰33の近傍まで移動方向に沿って延在している。本実施形態の中空体51は、2つの第1管体511と2つの第2管体512を、フランジ継手513によって移動方向に沿って交互に連結したものである。中空体51の上流端51uおよび下流端51dは開放されている。ただし、中空体51の上流端51uおよび下流端51dの一方または両方は閉塞されていてもよい。
【0033】
ノズル52の先端側は、中空体51によって形成された内部空間S(図4参照)内に配置されている。ノズル52の後端は、ノズル用配管53に接続されている。ノズル用配管53は、左側壁11に設置された不図示の固定具によって左側壁11に固定されている。このノズル用配管53には、沈殿池9から吸い上げられた汚水が供給される。ただし、この吐出される汚水は沈殿池9以外から吸い上げられたものであってもよい。また、汚水の代わりに他の池や水道等の水を用いてもよい。さらに、液体と気体が混合された混合流体を用いてもよい。混合流体を用いる場合、ノズル用配管53の途中に気泡発生装置を設けてもよい。ノズル用配管53に供給された汚水は、ノズル52から内部空間Sに向かって吐出される。
【0034】
図2は、図1に示した導水渠のA-A断面図である。
【0035】
図2に示すように、ノズル用配管53における汚水供給方向上流部分には、流量調整弁531および電動弁532が設置されている。電動弁532は、導水渠1のスカムを移動方向に移動させて導水渠1から除去する所定の時期に開放される。電動弁532が開放されると、流量調整弁531によって調整された流量の汚水が電動弁532を通過してノズル52に汚水が供給される。
【0036】
中空体51は、3つの支持部材161によって導水渠1における所定の位置に固定されている。3つの支持部材161それぞれは、導水渠1の天井16から吊り下げられている。この支持部材161は、ステンレス製の棒材で構成されている。各支持部材161の下端部分は、フランジ継手513に取り付けられている。なお、支持部材161の吊り下げ位置を移動方向にずらして、支持部材161の下端部分を第1管体511または第2管体512に取り付けてもよい。また、支持部材161の代わりに、中空体51を支持する脚体を導水渠1の底面に設置してもよい。
【0037】
図2に示すように、導水渠1の水位は、天候などの諸条件によって変動する。図2には、最も高い水位である高水位HWL、最も低い低水位LWL、および標準的な水位である標準水位SWLが示されている。高水位HWLと低水位LWLの差は500mmである。標準水位SWLは、高水位HWLと低水位LWLのちょうど中間の水位であり、導水渠1における平均的な水位でもある。
【0038】
スカムピット堰33に形成されているスカム呑込口331は、上端が高水位HWLよりも上にあり、下端が低水位LWLよりも下にある。導水渠1の地上部分には、ゲート駆動装置333が設置されている。ゲート34は、導水渠1を制御する制御装置からの指令に応じてゲート駆動装置333が駆動されることで上下動する。ゲート34は、通常はスカム呑込口331全体を閉塞する位置にある。ゲート34は、導水渠1のスカムを移動方向に移動させて導水渠1から除去する所定の時期に、導水渠1の水位に応じた位置まで下降する。その際、電動弁532を開放することで、導水渠1に浮遊するスカムをスカム除去装置3側に移動させてスカム呑込口331を通してスカムピット31内に流入させることができる。なお、本実施形態ではゲート34が上下する可動堰方式のスカム除去装置3を用いているが、転倒堰方式のスカム除去装置3や、スカムスキマ方式のスカム除去装置3を用いてもよい。スカムピット31内に流入したスカムは、スカムポンプ32によって吸い上げられて導水渠1の外部に送られる。
【0039】
図3(a)は、図1に示した中空体のB-B断面図であり、(b)は、図1に示した中空体のC-C断面図である。この図3(a)および図3(b)では、断面を示すハッチングおよび背景は図示省略している。
【0040】
図3(a)に示すように、中空体51を構成する第1管体511は、右方向の側部に第1右開口511Rを有する略5/6円の断面形状をしている。すなわち、第1管体511の断面形状はC字状をしている。この第1右開口511Rは、開口の一例に相当する。第1管体511は、板厚3mmのステンレス製の板材を、内径150mmの断面円弧状に成形したものである。第1管体511の上流端および下流端は開放されている。第1右開口511Rは、移動方向に沿って第1管体511の全長に渡って延在している。第1右開口511Rの開口高さは80mmである。第1右開口511Rの中心高さは、第1管体511の軸心511cの高さと一致している。つまり、第1右開口511Rは第1管体511の右真横に配置されている。ただし、第1右開口511Rの一部が第1管体511の軸心511cの高さと一致した高さ位置にあれば、第1管体511を軸心511cを中心として回転させて配置しても構わない。こうした場合には、第1右開口511Rは第1管体511の右斜め上あるいは右斜め下に配置されることになる。また、2つの第1管体511のうち中空体51の上流側に配置されている第1管体511と下流側に配置されている第1管体511とで、第1右開口511Rの位置が異なるように軸心511cを中心とした角度を相違させて配置してもよい。この第1右開口511Rは、吐出口521(図4参照)から内部空間Sに吐出された汚水を内部空間Sの外に放出する放出口として作用する。
【0041】
図3(b)に示すように、第2管体512は、左方向の側部に第1左開口512Lを有する略5/6円の断面形状をしている。すなわち、第2管体512の断面形状は左右を反転させたC字状をしている。この第1左開口512Lは、開口の一例に相当する。第2管体512は、板厚3mmのステンレス製の板材を、内径150mmの断面円弧状に成形したものである。第2管体512の上流端および下流端は開放されている。第1左開口512Lは、移動方向に沿って第2管体512の全長に渡って延在している。第1左開口512Lの開口高さは80mmである。第1左開口512Lの中心高さは、第2管体512の軸心512cの高さと一致している。つまり、第1左開口512Lは第2管体512の左真横に配置されている。ただし、第1左開口512Lの一部が第2管体512の軸心512cの高さと一致した位置にあれば、第2管体512を軸心512cを中心として回転させて配置しても構わない。こうした場合には、第1左開口512Lは第2管体512の左斜め上あるいは左斜め下に配置されることになる。また、2つの第2管体512のうち中空体51の上流側に配置されている第2管体512と下流側に配置されている第2管体512とで、第1左開口512Lの位置が異なるように軸心512cを中心とした角度を相違させて配置してもよい。この第1左開口512Lも、内部空間Sに吐出された汚水を放出する放出口として作用する。なお、第2管体512は、構造的には第1管体511と同一のものであり、第1管体511に対して軸心512cを中心にして180度回転して配置されている。
【0042】
図3(a)に示す第1管体511の軸心511cと図3(b)に示す第2管体512の軸心512cは一致している。従って、第1管体511の内周面511aと第2管体512の内周面512aは移動方向に連続している。以下、第1管体511の軸心511cと第2管体512の軸心512cを区別して示す必要がない時は、中空体51の軸心51cと称する。また、第1管体511の内周面511aと第2管体512の内周面512aを区別して示す必要がない時は、中空体51の内周面51aと称する。第1管体511および第2管体512にまたがって移動方向に連続した空間が内部空間Sになる。換言すれば、内部空間Sは、中空体51の内周面51aによって画定されている。したがって、内部空間Sは、上端および下端が閉塞し、左端または右端の一方が開放された空間である。
【0043】
第1右開口511Rの高さは、第1管体511内径の2/3以下、1/5以上であることが望ましい。同様に、第1左開口512Lの高さは、第2管体512内径の2/3以下、1/5以上であることが望ましい。第1右開口511Rまたは第1左開口512Lの高さが第1管体511内径または第2管体512内径の2/3を超えると、後述する吐出口521(図4参照)から内部空間Sに汚水が吐出されたときに、内部空間S上流側部分において内部空間Sの外に放出される汚水の量が多くなりすぎてしまう。このため、内部空間S下流側部分において第1右開口511Rまたは第1左開口512Lから内部空間Sの外に放出される汚水の量が少なくなりすぎてしまう場合がある。逆に、第1右開口511Rまたは第1左開口512Lの高さが第1管体511内径または第2管体512内径の1/5未満であると、第1右開口511Rまたは第1左開口512Lから内部空間Sの外に放出される汚水の量が少なくなりすぎてしまう場合がある。その場合、スカムを移動方向に移動させることができない虞が生じてしまう。
【0044】
図4(a)は、図2のD部を拡大して示す拡大図であり、図4(b)は、同図(a)のE矢視図である。なお、図4(b)では、断面を示すハッチングは図示省略している。
【0045】
図4(a)および図4(b)に示すように、ノズル52の先端部分は、中空体51の上流端51uから中空体51によって形成された内部空間S内に入り込んでいる。ノズル52の先端部分は、内径80mmのパイプを上下から扁平につぶした長孔形状をしている。ノズル52は、丸パイプの先端部分をつぶすだけなので簡単に作製できる。ノズル52の先端には吐出口521が形成されている。ノズル用配管53(図2参照)からノズル52に供給される汚水は、吐出口521から移動方向に向かって吐出される。この吐出口521から吐出される汚水は、流体の一例に相当する。吐出口521から吐出される汚水は、吐出流速に応じた速度の水流を内部空間S内に形成し、第1右開口511Rまたは第1左開口512Lから内部空間Sの外部に放出されていく。また、吐出口521から吐出された汚水の一部は、中空体51の下流端51d(図1参照)から下流側に向かって放出される。なお、ノズル52は、丸パイプのままのものを使用しても構わないが、扁平状につぶされた長孔形状に成形することで、ノズル52を通過して吐出口521から吐出される汚水の吐出圧を高めることができる。また、吐出口521は、縦方向や斜め方向に長い偏平状にしてもよいが、図4(b)に示すように横方向に長い偏平状に形成することで、吐出した汚水が上下方向に拡散しにくく、幅方向には拡散しやすくなる。これにより、第1右開口511Rおよび第1左開口512Lから内部空間Sの外部に汚水が放出されやすくなる。
【0046】
図4(a)に示すように、吐出口521は、内部空間S内であって中空体51の上流端51u部分に配置されている。この吐出口521は、移動方向に向かって汚水を吐出するものである。吐出口521が内部空間S内に配置されているので、吐出口521から吐出される汚水の全てを内部空間S内に吐出することができる。また、中空体51の上流端51uが開放されているので、第1右開口511Rおよび第1左開口512Lが後述する水没状態にあるときには、吐出口521から吐出した汚水の流れによって、内部空間S外の汚水が中空体51の上流端51uから内部空間S内に吸い込まれる。従って、吐出口521から吐出する水量以上の汚水を内部空間S内に供給することができる。ただし、吐出口521は、内部空間Sに汚水を吐出できる範囲であれば内部空間Sに入り込んでいなくてもよく、例えば中空体51の上流端51uで構成される面上、すなわち上流端51uと同じ位置に配置されていてもよい。なお、吐出口521を内部空間Sよりも上流側であって内部空間Sから遠く離れた位置に配置すると、内部空間Sに向かって吐出した汚水の一部が内部空間Sに流れ込まない虞があるので、内部空間Sよりも上流側に配置する場合は上流端51uに近接させて配置することが望ましい。
【0047】
図4(b)に示すように、吐出口521の中心521cは、中空体51の軸心51cと一致している。また、吐出口521から吐出される汚水の吐出方向は、中空体51の軸心51c方向に沿った方向である。なお、中空体51の軸心51cと吐出口521の中心521cとを異なる位置にしてもよく、また汚水の吐出方向を中空体51の軸心51c方向と多少異なる方向にしてもよい。しかし、中空体51の軸心51cと吐出口521の中心521cとを一致させ、吐出方向を軸心51c方向と一致させることで、吐出口521から吐出される汚水が中空体51の内周面51aに衝突して、吐出した汚水の流れが弱まってしまうことを最大限抑制することができる。吐出口521の、幅方向の最大開口長は117mmであり、最大高さは18mmである。吐出口521の最大高さは、第1右開口511Rの開口高さおよび第1左開口512Lの開口高さよりも低くすることが望ましい。また、吐出口521は、高さ方向において、第1右開口511Rおよび第1左開口512L(図3(b)参照)の上端と下端の間に配置されていることが望ましい。これにより、吐出口521から吐出された汚水が、吐出口521から吐出されたときの勢いを保ちつつ第1右開口511Rおよび第1左開口512Lから内部空間Sの外部に放出されやすくなる。
【0048】
図5は、本実施形態のスカム移動装置における作用を示す平面図である。図5では、主に第1管体から放出される汚水による作用を示している。また、沈殿池への流入口121と流入扉122は図示省略している。
【0049】
吐出口521から汚水を吐出させたときの作用について、図2図5等を用いて説明する。吐出口521から移動方向に向かって汚水を吐出させると、その汚水によって内部空間S(図4参照)内に移動方向に向かう流体の流れが発生する。吐出口521から内部空間S内に吐出された汚水のうちの一部は、図5において右斜め下に向かう複数の矢印に示されるように、第1管体511の第1右開口511Rから、移動方向に対して少し右方向に傾斜した角度で放出される。また、内部空間S内に吐出された汚水のうちの別の一部は、第2管体512の第1左開口512Lから、移動方向に向かって少し左方向に傾斜した角度で放出される。この第1左開口512Lから放出される汚水によって生じる作用は、中空体51の軸心51cを通る垂直面に関して面対称ではあるものの、第1右開口511Rから放出される汚水と同様であるため説明は省略する。なお、第1左開口512Lと第1右開口511Rから放出されなかった内部空間S内の汚水は、中空体51の下流端から移動方向に向かって放出される。
【0050】
導水渠1の左側壁11と右側壁12の間にスカムが掛け渡されてブリッジが形成されている場合、第1右開口511Rから放出された汚水によってブリッジが破壊される。また、破壊されたブリッジを構成していたスカムは、導水渠1の水面近傍に生じた水流により移動方向に移動する。このブリッジが破壊され、スカムが移動する様子は、導水渠1の水位によって多少異なるため、各水位におけるブリッジの破壊と移動の様子を順に説明する。
【0051】
図2に示すように、導水渠1の水位が低水位LWLにあるときは、中空体51は、第1右開口511R全体が大気中に露出した全露出状態になる。この全露出状態は、露出状態の一例に相当する。図5に示すように、第1右開口511Rから放出された汚水は、大気中を移動方向に向かって飛びつつ水面に向かって落下していく。そして、その汚水は、上流側にある第1管体511の近傍領域である第1近傍領域N1および下流側にある第1管体511の近傍領域である第2近傍領域N2に降り注ぐ。これにより、第1近傍領域N1および第2近傍領域N2でブリッジを構成していたスカムが崩れ、ブリッジは破壊される。第1近傍領域N1および第2近傍領域N2それぞれは、第1右開口511Rの移動方向の長さに対応して延在する長孔状の領域であり、図5ではクロスハッチングで示されている。第1近傍領域N1および第2近傍領域N2でブリッジを構成していたスカムは、水面に浮遊するスカムになる。また、放出された汚水が水面に達することで、水面近傍には移動方向に向かう水流と波が形成される。浮遊するスカムは、形成された水流によって移動方向に移動していく。そして、形成された波によって、第1近傍領域N1と第2近傍領域N2の周囲でブリッジを構成していたスカムの塊も徐々に破壊されていく。以下、ブリッジを構成していたスカムの塊を残留ブリッジと称する。特に、第1近傍領域N1および第2近傍領域N2よりも下流側にある残留ブリッジは、波を伴う水流が衝突するので破壊されやすい。また、第1近傍領域N1と第2近傍領域N2の幅方向両側にある残留ブリッジは、ブリッジが破壊されることで左側壁11と右側壁12の間に掛け渡された状態から解放されるので流下しやすくなっている。同様に、第1左開口512Lから放出される汚水によってもブリッジが破壊されるので、第1近傍領域N1と第2近傍領域N2の間の残留ブリッジも流下しやすくなっている。これらによって、移動方向に沿って残留ブリッジが破壊されていき、第1近傍領域N1と第2近傍領域N2が連なる。また、第2近傍領域N2の下流側もブリッジが破壊されていくことで浮遊するスカムをスカム除去装置3まで移動可能な流路が形成される。なお、形成された流路近傍のブリッジも形成された波によって徐々に破壊されて浮遊するスカムになり、流路側に引き込まれて水流によって移動方向に移動していく。
【0052】
導水渠1の水位が図2に示す高水位HWLにあるときは、中空体51は、図5に示す第1右開口511R全体が水面よりも下に位置した水没状態になる。第1右開口511Rから水中に放出された汚水は導水渠1内に水流を作り出し、この水流によって水面近傍に波を生じさせる。なお、上述したように想定される水位変動は500mmであるので、水没状態においても第1右開口511Rが水中深く水没して水面から大きく離間してしまうことはない。この実施形態では、第1右開口511Rの上端が、210mmを超えて水面から離間することはない。第1右開口511Rから放出された汚水によって生じた水流は、先に説明した、中空体51が全露出状態にあるときに生じる水流よりも強い流れである。また、全露出状態と比較して、波も高く形成される。この高い波を伴う強い水流がブリッジに衝突することで、ブリッジが破壊されていく。波を伴う水流は、第1右開口511Rの近傍から移動方向に対して少し右方向に傾斜した角度に進んでいくので、その水流によって吐出後の初期には第1近傍領域N1と第2近傍領域N2でブリッジが破壊されていく。そして、波を伴う水流によって全露出状態の場合と同様に、浮遊するスカムをスカム除去装置3まで移動可能な流路が移動方向に沿って形成されていく。破壊された残留ブリッジは、水面に浮遊するスカムになり、形成された流路において水流によって移動方向に移動していく。なお、全露出状態の場合と同様に、第1近傍領域N1と第2近傍領域N2の幅方向両側にある残留ブリッジは、ブリッジが破壊されることで左側壁11と右側壁12の間に掛け渡された状態から解放されるので流下しやすくなっている。また、第1左開口512Lから放出される汚水によってもブリッジが破壊されるので、第1近傍領域N1と第2近傍領域N2の間の残留ブリッジも流下しやすくなっている。吐出口521から液体と気体が混合した混合流体を吐出させた場合は、第1右開口511Rから混合流体が放出される。水没状態で混合流体を放出させると、その混合流体に含まれる気体によって放出された混合流体が水面に向かって上昇しやすくなるため、より強い水流とより高い波を水面部分に発生させることができる。
【0053】
導水渠1の水位が図2に示す標準水位SWLにあるときは、中空体51は、図5に示す第1右開口511Rの下側が水面よりも下に位置し、上側が大気中に露出した半露出状態になる。この半露出状態も、露出状態の一例に相当する。この半露出状態においては、第1右開口511Rの上側と第1右開口511Rの下側それぞれから汚水が放出される。そして、第1右開口511Rの上側から大気中に放出された汚水によって、全露出状態と同様の作用が生じる。また、第1右開口511Rの下側から水中に放出された汚水によって、水没状態にあるときと同様の作用が生じる。第1右開口511Rの上側から放出される汚水の量および第1右開口511Rの下側から放出される汚水の量それぞれは、水没状態および全露出状態において放出される量よりも少ない。このため、水没状態および全露出状態と比較して各作用それぞれ単独でみると作用は弱い。しかし、水没状態および全露出状態において放出される汚水による作用の両方を奏することで水没状態および全露出状態と同じくブリッジを破壊して、流路を形成し、水面に浮遊するスカムをスカム除去装置3まで移動させることができる。
【0054】
吐出口521から吐出される汚水の流量は、毎分300リットル以上3000リットル以下の範囲で開放頻度や導水渠1の大きさなどに応じて適宜設定される。流量が毎分300リットル未満であると、第1右開口511Rおよび第1左開口512Lから放出される汚水の量が少なすぎてスカムを十分移動できない場合がある。また、毎分3000リットルを超えると、沈殿池などの汚水を吸い上げて吐出口521まで送り出すためのポンプに大型のものを使用する必要が生じてスカム移動装置5が高価になってしまう。加えて、そのポンプを駆動するための消費電力量も多くなってしまう。さらに、毎分3000リットルを超える汚水を吐出した場合、導水渠1に放出される汚水が増えすぎてしまい、スカムピット31(図2参照)にスカムとともに大量の汚水が流れ込んでスカムの濃度が低下して後工程におけるスカム処理が煩雑になる。
【0055】
吐出口521から吐出される汚水吐出流速は8m/sec以上とすることが好ましい。8m/sec未満では、第1右開口511Rおよび第1左開口512Lから放出された流体によって形成される水流が弱くなり、第1近傍領域N1および第2近傍領域N2よりも下流側にある残留ブリッジを破壊できないか、破壊できたとしても時間がかかりすぎてしまう。また、吐出口521から吐出される汚水の吐出圧は、0.05MPa以上0.3MPa以下とすることが望ましい。0.05MPa未満では、水没状態において吐出口521に加わる水圧と吐出ノズルにおける圧力損失により、吐出口521から水を吐出できないことがある。0.3MPaよりも大きいと、第1右開口511Rおよび第1左開口512Lから放出されずに中空体51の下流端51dから放出される汚水の量が増えてしまい、第1近傍領域N1または第2近傍領域N2でブリッジを破壊できず、スカムを移動させる流路を形成できない場合がある。また、0.3MPaよりも大きな吐出圧を発生させるためには、吐出口521まで汚水を送り出すためのポンプに大型のものを使用する必要が生じるので、スカム移動装置5が高価になってしまう。加えて、そのポンプを駆動するための消費電力量も多くなってしまう。
【0056】
この実施形態によれば、吐出口521から吐出された汚水は、第1右開口511Rおよび第1左開口512Lから放出される。スカムによって形成されたブリッジは、放出された汚水によって、第1右開口511Rおよび第1左開口512Lの移動方向に沿った長さに応じた範囲が破壊される。また、放出された汚水によって、波を伴う水流が発生し、破壊されたブリッジの周囲に残留している残留ブリッジを破壊していく。特に水流が当たる移動方向下流側の残留ブリッジは破壊されやすい。これにより水面部分にスカムが移動可能な流路が形成される。流路が形成されることで、移動方向に沿った長い距離スカムを移動させることができる。すなわち、移動方向に延在する第1右開口511Rおよび第1左開口512Lから汚水を放出することで、波を伴う水流を発生させて、導水渠1に形成されたブリッジを破壊し、スカムを移動方向に移動させる流路を形成することができる。そして、その流路において、水流によってスカムを移動させてスカム除去装置3に到達させ、導水渠1からスカムを除去することができる。また、1本の中空体51が上流壁13近傍からスカムピット堰33の近傍まで延在し、その中空体51の上流端51u部分にノズル52を1つのみ配置しているので、複数のノズルを配置した従来のスカム移動装置と比較して、スカムがノズルに絡みついて、複数のノズルそれぞれが設けられた部分でスカムの移動が阻止されてしまうという不具合の発生を防止することができる。また、この実施形態では、第1右開口511Rと第1左開口512Lとを移動方向に沿って交互に配置しているので、中空体51の幅方向両側に、スカムを下流側に移動させる流路を形成することができる。これにより、ある程度広い幅を有する導水渠1であっても、中空体51の本数を増やすことなくスカムを移動方向に移動させることができる。なお、第1右開口511Rと第1左開口512Lから吐出された初期の残留ブリッジは、スカムの粘性によって左側壁11または右側壁12の一方に粘着していることがある。しかし、左側壁11と右側壁12の間に掛け渡された状態とは異なり、残留ブリッジは左側壁11または右側壁12の一方にのみ粘着しているので、左側壁11または右側壁12から容易に引き剥がすことができる。このため、上流側で吐出された流体による水流や上流側から流れてくるスカムに巻き込まれ、時間の経過とともに、左側壁11または右側壁12の一方に粘着した残留ブリッジも流下させることができる。この実施形態では、第1右開口511Rと第1左開口512Lとが交互に配置され移動方向に重なった位置には配置されていいなかったが、第1右開口511Rと第1左開口512Lとが移動方向の一部で重なって配置されていてもよい。
【0057】
次に、第2実施形態のスカム移動装置5について説明する。これより後の説明では、これまで説明した構成要素の名称と同じ名称の構成要素には、これまで用いた符号を付して説明し、重複する説明は省略することがある。
【0058】
図6は、第2実施形態のスカム移動装置を備えた導水渠における図1と同様の平面図である。
【0059】
図6に示す導水渠1は、先の実施形態に示した導水渠1とは、導水渠1の移動方向における長さが約2倍である点と、スカム移動装置5が移動方向に並んで2つ設けられている点とが異なる。図6に示すように、この導水渠1には4つの沈殿池9が接続されている。2つのスカム移動装置5は、同一の構成をしている。上流側にあるスカム移動装置5の中空体51は、上流壁13近傍から導水渠1における移動方向の中央まで移動方向に沿って延在している。下流側にあるスカム移動装置5の中空体51は、上流側にある中空体51とは少し間隔をあけて導水渠1における移動方向の中央からスカムピット堰33の近傍まで移動方向に沿って延在している。2つの中空体51それぞれの上流端51u部分には吐出口521(図4参照)が配置されている。
【0060】
この第2実施形態のスカム移動装置5を備えた導水渠1においては、上述した実施形態の効果に加え、スカム移動装置5を移動方向に並んで2つ設け、それぞれに設けられた吐出口521から汚水を吐出することで、導水渠1の移動方向における長さが長くても、移動方向に沿って上流側から下流側まで延在する流路を形成することができる。そして、先に示したスカム移動装置5と同様の作用によって、それぞれのスカム移動装置5がブリッジを破壊してスカムをスカム除去装置3に到達させ、導水渠1からスカムを除去することができる。なお、2つのスカム移動装置5を設ける代わりに、上流壁13近傍からスカムピット堰33の近傍まで延在する中空体51を設置し、移動方向に向かって汚水を吐出する第1のノズル52を上流壁13近傍に配置し、同じく移動方向に向かって汚水を吐出する第2のノズル52を中空体51の中間部分に配置してもよい。すなわち、複数のノズル52を中空体51の延在方向に離間して配置したスカム移動装置5を用いてもよい。この場合、中空体51の中間部分に孔をあけて第2のノズル52を挿入すればよい。また、さらに移動方向に長い導水渠1にスカム移動装置5を設ける場合、3つ以上のスカム移動装置5を移動方向に間隔をあけて設けてもよい。
【0061】
次に、第3実施形態のスカム移動装置5について説明する。
【0062】
図7は、第3実施形態のスカム移動装置を備えた導水渠における図1と同様の平面図である。
【0063】
図7に示す第3実施形態のスカム移動装置5は、図1に示したスカム移動装置5とは、スカム移動装置5が移動方向に間隔をあけて2つ設けられている点と、中空体51の形状と、ノズル52の形状と、気体供給装置7が設けられている点とが異なる。また、中空体51とノズル52が配置されている高さ位置が、図1に示したスカム移動装置5よりも下方である点も異なる。図7に示すように、第3実施形態のスカム移動装置5は、移動方向に間隔をあけて導水渠1に2つ配置されている。上流側に配置されたスカム移動装置5と下流側に配置されたスカム移動装置5は、同一形状をしている。以下、下流側に配置されたスカム移動装置5については、上流側に配置されたスカム移動装置5と重複する説明は省略することがある。
【0064】
上流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51は、上流壁13近傍から移動方向に沿って延在している。中空体51は、内径150mmで長さ2mの一本の管で構成されている。中空体51の上流端51uおよび下流端51dは開放されている。中空体51の側部には、上流側から見て中空体51の右側部に形成された第2右開口51Rと左側部に形成された第2左開口51Lとが形成されている。第2右開口51Rと左側部と第2左開口51Lとは、移動方向および高さ方向において同一位置に配置されている。これらの第2右開口51Rおよび第2左開口51Lは、開口の一例に相当する。第2右開口51Rと第2左開口51Lとは、移動方向において一致した位置に配置されていることが望ましいが、完全に一致していなくてもよく、一部が重なった位置に配置されていればよい。第2右開口51Rと第2左開口51Lについては後に詳述する。上流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51の移動方向に沿った長さは、上流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51と下流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51との間隔よりも短い。上流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51の上流端51uと、下流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51の上流端51uとの間隔は10mである。従って、上流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51と下流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51との間隔は8mである。また、下流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51の上流端51uと、スカム除去装置3のスカム呑込口331との間隔も10mである。なお、図7および図8では、上流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51と下流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51との間隔がやや短めに示されている。また、下流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51とスカム除去装置3のスカム呑込口331との間隔もやや短めに示されている。
【0065】
図8は、図7に示した導水渠のF-F断面図である。
【0066】
図8に示すように、上流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51は、導水渠1の天井16から吊り下げられた支持部材161によって導水渠1における所定の位置に固定されている。支持部材161の下端部分は、中空体51の移動方向中央部分に固定されている。導水渠1の水位が高水位HWLおよび標準水位SWLにあるときは、中空体51は、第2右開口51R全体と第2左開口51L(図7参照)全体が水没した水没状態になる。導水渠1の水位が高水位HWLにあるときは、中空体51の軸心51c(図9(b)参照)は、水面から400mm没した高さ位置にある。一方、導水渠1の水位が低水位LWLにあるときは、中空体51は、第2右開口51R全体と第2左開口51L全体が大気中に露出した全露出状態になる。この低水位LWLにあるときは、中空体51の軸心51cは、水面から上方に100mm離間した高さ位置にある。従って、低水位LWLと標準水位SWLの間の水位において、中空体51は第2右開口51Rと第2左開口51Lの下側が水面よりも下に位置し、上側が大気中に露出した半露出状態になる。
【0067】
上流側に配置されたスカム移動装置5のノズル用配管53における汚水供給方向上流端と、下流側に配置されたスカム移動装置5のノズル用配管53における汚水供給方向上流端は、一本の汚水供給管54に接続されている。汚水供給管54には、沈殿池9から吸い上げられた汚水が供給される。ただし、この吐出される汚水は沈殿池9以外から吸い上げられたものであってもよい。また、汚水の代わりに他の池や水道等の水を用いてもよい。ノズル用配管53には、流量調整弁531および電動弁532が設置されている。電動弁532が開放されると、流量調整弁531によって調整された流量の汚水が電動弁532を通過してノズル52に汚水が供給される。
【0068】
図9(a)は、図8のG部を拡大して示す拡大図であり、図9(b)は、同図(a)のH-H断面図である。図9(a)では、導水渠1を構成する部材は図示省略している。また、図9(b)では、吐出口521と供給口71以外の背景および断面を示すハッチングは図示省略している。
【0069】
図9(b)に示すように、中空体51は、右方向の側部(図9(b)では左側)に第2右開口51Rを有し、左方向の側部(図9(b)では右側)に第2左開口51Lを有する円形の断面形状をしている。中空体51によって内部空間Sが形成されている。内部空間Sは、中空体51の内周面51aによって画定されている。したがって、内部空間Sは、上端および下端が閉塞し、左端および右端が開放された空間である。第2右開口51Rと第2左開口51Lの開口高さは40mmである。第2右開口51Rと第2左開口51Lの中心高さは、中空体51の軸心51cの高さと一致している。つまり、第2右開口51Rと第2左開口51Lは中空体51の左右真横にそれぞれ配置されている。第2右開口51Rと第2左開口51Lとは、高さ方向において一致した位置に配置されていることが望ましいが、完全に一致していなくてもよい。加えて、第2右開口51Rと第2左開口51Lの中心高さは、中空体51の軸心51cの高さより高い位置にあってもよく、中空体51の軸心51cの高さより低い位置にあってもよい。第2右開口51Rと第2左開口51Lは、移動方向に沿った方向の長さの方が高さ方向の長さよりも長い、中空体51の側面から視て長方形をした開口である。第2右開口51Rと第2左開口51Lは、中空体51の上流端から350mm下流側から、中空体51の下流端から50mm上流側まで移動方向に沿って延在している。すなわち、第2右開口51Rと第2左開口51Lは、移動方向に沿って1600mm延在している。これらの第2右開口51Rと第2左開口51Lは、吐出口521から内部空間Sに吐出された汚水を内部空間Sの外に放出する放出口として作用する。なお、第2右開口51Rと第2左開口51Lを中空体51の側面全体に形成された態様にしてもよい。ただし、その態様では、中空体51が二つに分割されてしまい、分割された下側の中空体51を支持する支持部材161が追加で必要になるので第2右開口51Rまたは第2左開口51Lが形成されていない部分があることが好ましい。また、中空体51の下流端と上流端のうちの一方の端部まで第2右開口51Rと第2左開口51Lを延在させると、中空体51の強度が低下するため、両方の端部に第2右開口51Rと第2左開口51Lが形成されていない部分が設けることが望ましい。
【0070】
図9(a)に示すように、ノズル52の先端部分は、中空体51の上流端51uから中空体51によって形成された内部空間S内に入り込んでいる。ノズル52の先端部分は、内径80mmのパイプを左右から扁平につぶした長孔形状をしている。ノズル52の先端には中空体51の側部に向かう方向(幅方向)はつぶれ高さ方向に拡がった扁平な形状をした吐出口521が形成されている。吐出口521の最大高さは117mmであり、吐出口521の幅方向の最大開口長は18mmである。吐出口521は、第2右開口51Rと第2左開口51Lの上流端よりも上流側で、中空体51の上流端51uよりも下流側に配置されている。上述したように、吐出口521は、内部空間Sに汚水を吐出できる範囲であれば中空体51の上流端51uよりも上流側に配置されていてもよく、上流端51uと同じ位置に配置されていてもよい。すなわち、吐出口521は、中空体51の上流端51u部分に配置されていればよい。また、吐出口521は、第2右開口51Rと第2左開口51Lの上流端よりも下流側に配置されていてもよい。ただし、その配置では、吐出口521よりも上流側にある、第2右開口51Rと第2左開口51Lの上流端部分からは汚水が放出されず、逆にエジェクタ効果によって内部空間Sの外部の汚水を第2右開口51Rと第2左開口51Lから吸い込んでしまうことがある。ノズル用配管53からノズル52に供給される汚水は、吐出口521から移動方向に向かって吐出される。吐出口521から吐出される汚水は、吐出流速に応じた速度の水流を内部空間S内に形成し、中空体51の下流端51d、第2右開口51Rまたは第2左開口51Lから内部空間Sの外部に放出されていく。この第3実施形態では、吐出口521を幅方向につぶれ高さ方向に拡がった扁平な形状にしているので、吐出口521から吐出される汚水の吐出圧を高めるとともに吐出された汚水が側部に向かって拡がることが抑制されている。従って、吐出口521から吐出された汚水が第2右開口51Rまたは第2左開口51Lから内部空間Sの外部に一気に放出されることが抑制でき、第2右開口51Rまたは第2左開口51Lから放出される汚水の量が移動方向の下流側でも維持されやすくなる。また、中空体51の下流端51dからもある程度の汚水を放出させることができる。第2右開口51Rまたは第2左開口51L全体から汚水を放出することで、移動方向に沿った長い範囲でブリッジを破壊してスカムを側壁間に掛け渡された状態から解放することができる。
【0071】
気体供給装置7は、導水渠1よりも上方の大気中から中空体51まで延在する管で構成されている。気体供給装置7を構成する管の先端と後端は開放されている。気体供給装置7は、不図示の固定具によってノズル用配管53に固定されている。気体供給装置7の先端部分は、中空体51の上流端51uから内部空間S内に入り込んでいる。気体供給装置7の先端には、気体を供給する供給口71が形成されている。供給口71は、吐出口521の近傍に配置されている。図9(b)に示すように、この第3実施形態では、供給口71は、吐出口521の下端近傍で、高さ方向において一部が吐出口521と重複する位置に配置されている。吐出口521から内部空間Sに向かって汚水が吐出されると、エジェクタ効果により気体供給装置7から空気が引き込まれて汚水とともに内部空間S内に供給される。供給された気体は、吐出口521から吐出された汚水と混ざり合いながら移動方向に移動し、中空体51の下流端51d、第2右開口51Rまたは第2左開口51Lから内部空間Sの外部に放出されていく。この第3実施形態では、気体供給装置7として単なる管状あるいはホース状のものを用いるだけで気体を供給できるので、スカム移動装置5を安価に構成できる。なお、供給する空気量を増加させたい場合などには、空気を送るポンプを気体供給装置7の後端部分に設けてもよい。
【0072】
また、気体供給装置7に代えて、または気体供給装置7とともに、ファインバブル水を供給するファインバブル水供給装置を設けてもよい。この場合、ファインバブル水の供給口は、吐出口521の近傍に配置することが好ましい。ノズル52から汚水が吐出されると、ファインバブル水がエジェクタ効果により引き込まれるので、供給のためのポンプがなくてもファインバブル水を容易に内部空間S内に供給することができる。ただし、ファインバブル水を地上に配置した水槽に溜めておき水頭圧で供給してもよく、ポンプを用いて供給してもよい。なお、ファインバブル水とは、100μm以下の微細気泡を含有した微細気泡含有液である。ファインバブル水は、直径が1μmよりも大きく100μm以下の気泡であるマイクロバブルを含有した液体であってもよく、直径が1μm以下の気泡であるウルトラファインバブルを含有した液体であってもよい。さらに、ファインバブル水は、マイクロバブルとウルトラファインバブルの両方を含有した液体であってもよい。ファインバブル水を供給することで導水渠1にある汚水を洗浄しながら移動させることができる。
【0073】
図10は、第3実施形態のスカム移動装置における作用を示す平面図である。図10では、主に下流側に配置されたスカム移動装置5による作用が示されている。また、汚水供給管54、沈殿池への流入口121、および流入扉122は図示省略している。
【0074】
まず、導水渠1のスカムを導水渠1から除去する所定の時期に、ゲート34を導水渠1の水位に応じた位置まで下降させる。これにより、水面付近においてスカム呑込口331からスカムピット31に向かう汚水の流れが生じ、スカム呑込口331の周辺領域N3にあるスカムはスカムピット31へ流れ込む。図10では、スカムピット31へ流れ込むことでスカムが水面から除去された周辺領域N3が左下向きの線で描かれたハッチングで示されている。このゲート34を下降させて周辺領域N3のスカムをスカムピット31へ流れ込ませる工程は、流入工程の一例に相当する。
【0075】
次に下流側に配置されたスカム移動装置5の電動弁532を開放して下流側に配置されたスカム移動装置5の吐出口521から移動方向に向かって汚水を吐出する。吐出された汚水は内部空間S(図9(b)参照)内に移動方向に向かう流体の流れを発生させる。吐出口521から内部空間S吐出された汚水は、左第2右開口51Rと第2左開口51L、および中空体51の下流端51dから放出される。この下流側に配置されたスカム移動装置5の吐出口521から汚水を吐出させて中空体51から放出する工程は、下流側吐出工程の一例に相当する。導水渠1の左側壁11と右側壁12の間にスカムが掛け渡されてブリッジが形成されている場合、第2右開口51Rと第2左開口51L、および中空体51の下流端51dそれぞれから放出された汚水によってブリッジが破壊される。また、破壊されたブリッジを構成していたスカムは、導水渠1の水面近傍に生じた水流により移動方向に移動する。このブリッジが破壊されスカムが移動する様子を、各水位ごとに説明する。
【0076】
導水渠1の水位が図8に示す低水位LWLにあるときは、中空体51は、左第2右開口51R全体、第2左開口51L全体が大気中に露出した全露出状態になる。また、低水位LWLでは、中空体51の下流端51d全体も大気中に露出した状態になる。図10において右斜め下に向かう複数の実線の矢印に示されるように、内部空間Sに吐出された汚水のうちの一部は、第2右開口51Rから移動方向に対して少し右方向に傾斜した角度で放出され、大気中を飛びつつ水面に向かって落下していく。そして、その汚水は、中空体51の右側近傍領域である第4近傍領域N4に降り注ぐ。また、図10において右斜め上に向かう複数の実線の矢印に示されるように、内部空間S内に吐出された汚水のうちの別の一部は、第2左開口51Lから、移動方向に向かって少し左方向に傾斜した角度で放出され、大気中を飛びつつ水面に向かって落下していく。そして、その汚水は、中空体51の左側近傍領域である第5近傍領域N5に降り注ぐ。さらに、図10において右方向に向かう2本の実線の矢印に示されるように、内部空間S内に吐出された汚水のうち、左第2右開口51Rと第2左開口51Lから放出されなかった汚水は、中空体51の下流端51dから移動方向に向かって放出される。そして、その汚水は、中空体51の下流近傍領域である下流近傍領域N6に降り注ぐ。これらにより、第4近傍領域N4、第5近傍領域N5、および下流近傍領域N6でブリッジを構成していたスカムが崩れ、それらの領域のブリッジは破壊される。第4近傍領域N4および第5近傍領域N5それぞれは、左第2右開口51Rと第2左開口51Lの移動方向の長さに対応して延在する長孔状の領域であり、図10ではクロスハッチングで示されている。また、下流近傍領域N6は、下流端51dから放出された汚水の勢いに応じた長さの長孔状の領域であり、図10では右下向きの線で描かれたハッチングで示されている。
【0077】
第4近傍領域N4、第5近傍領域N5、および下流近傍領域N6でブリッジを構成していたスカムは、水面に浮遊するスカムになる。また、第4近傍領域N4および第5近傍領域N5に挟まれた領域には、島状のスカムが形成される。さらに、放出された汚水が水面に達することで、水面近傍には移動方向に向かう水流と波が形成される。浮遊するスカムおよび島状のスカムは、形成された水流によって移動方向に移動していく。これにより、第4近傍領域N4、第5近傍領域N5、および下流近傍領域N6の下流側にあるブリッジが移動方向に押されてスカムが無い周辺領域N3に移動してスカム呑込口331からスカムピット31へ流れ込んでいく。さらに、形成された波によって、第4近傍領域N4、第5近傍領域N5、および下流近傍領域N6の周囲でブリッジを構成していた残留ブリッジも徐々に破壊されて水流にのって移動方向に移動していく。電動弁532を所定時間開放したままにすることで、これらの作用により、中空体51の第2右開口51Rと第2左開口51Lの上流端近傍よりも下流側にあるスカムの殆どをスカムピット31へ移動させることができる。
【0078】
導水渠1の水位が図8に示す標準水位SWLまたは高水位HWLにあるときは、中空体51は、左第2右開口51R全体、第2左開口51L全体が全体が水面よりも下に位置した水没状態になる。また、標準水位SWLまたは高水位HWLでは、中空体51の下流端51d全体も水面よりも下に位置した水没状態になる。水没状態にある場合、吐出口521から内部空間S内に吐出された汚水によってエジェクタ効果が生じ、内部空間Sの外部にある汚水が中空体51の上流端51Uから内部空間Sに吸い込まれていく。図10には、エジェクタ効果で内部空間Sに吸い込まれる汚水の様子が破線の矢印で示されている。内部空間Sに吸い込まれた汚水および吐出口521から内部空間S吐出された汚水は、左第2右開口51Rと第2左開口51L、および中空体51の下流端51dから放出される。第2右開口51R、第2左開口51L、および中空体51の下流端51dから水中に放出された汚水は導水渠1内に水流を作り出し、この水流によって水面近傍に波を生じさせる。なお、上述したように想定される水位変動は500mmであるので、水没状態においても第1右開口511Rが水中深く水没して水面から大きく離間してしまうことはない。しかも、気体供給装置7の供給口71から空気が供給され、内部空間Sにおいて流れている汚水と混ざり合う。このため、中空体51から放出された汚水は、混ざり合った空気によって水面に向かって上昇しやすくなる。また、中空体51から放出された汚水によって生じた水流は、先に説明した、中空体51が全露出状態にあるときに生じる水流よりも強い流れである。加えて、全露出状態と比較して、波も高く形成される。この高い波を伴う強い水流がブリッジに衝突することで、ブリッジが破壊されていく。第2右開口51Rから放出された汚水によって生じた波を伴う水流は、第2右開口51Rから移動方向に対して少し右方向に傾斜した角度に進んでいく。その水流によって第4近傍領域N4のブリッジが破壊されていく。また、第2左開口51Lから放出された汚水によって生じた波を伴う水流は、第2左開口51Lから、移動方向に対して少し左方向に傾斜した角度に進んでいく。その水流によって第5近傍領域N5のブリッジが破壊されていく。さらに、中空体51の下流端51dから放出された汚水によって生じた波を伴う水流は、移動方向に向かって進んでいく。その水流によって下流近傍領域N6のブリッジが破壊されていく。
【0079】
そして、全露出状態の場合と同様に、浮遊するスカムと島状のスカムが形成され、それらのスカムは、形成された水流によって移動方向に移動していく。これにより、第4近傍領域N4、第5近傍領域N5、および下流近傍領域N6の下流側にあるブリッジが移動方向に押されてスカムが無くなっている周辺領域N3に移動してスカム呑込口331からスカムピット31へ流れ込んでいく。さらに、形成された波によって、第4近傍領域N4、第5近傍領域N5、および下流近傍領域N6の周囲でブリッジを構成していた残留ブリッジも徐々に破壊されて水流にのって移動方向に移動していく。加えて、中空体51の上流端51uでは、エジェクタ効果で付近の汚水が吸い込まれていくので、上流端51u近傍のブリッジも破壊されていく。なお、中空体51の第2右開口51Rと第2左開口51Lと、吐出口521との位置関係にもよるが、第2右開口51Rと第2左開口51Lの上流端近傍でもエジェクタ効果で付近の汚水が吸い込まれていくことがある。電動弁532を所定時間開放したままにすることで、これらの作用により、中空体51の上流端51u近傍よりも下流側にあるスカムの殆どをスカムピット31へ移動させることができる。
【0080】
導水渠1の水位が低水位LWLと標準水位SWLの間にあるとき、中空体51は、左第2右開口51R、第2左開口51L、および中空体51の下流端51dの下側が水面よりも下に位置し、上側が大気中に露出した半露出状態になることがある。この半露出状態においては、左第2右開口51R、第2左開口51L、および中空体51の下流端51dの上側とそれらの下側それぞれから汚水が放出される。そして、左第2右開口51R、第2左開口51L、および中空体51の下流端51dの上側から大気中に放出された汚水によって、全露出状態と同様の作用が生じる。また、左第2右開口51R、第2左開口51L、および中空体51の下流端51dの下側から水中に放出された汚水によって、水没状態にあるときと同様の作用が生じる。これらに作用により、水没状態および全露出状態と同じくブリッジを破壊して、水面に浮遊するスカムをスカム除去装置3まで移動させることができる。
【0081】
下流側に配置されたスカム移動装置5の電動弁532を閉塞した後、上流側に配置されたスカム移動装置5の電動弁532を開放して上流側に配置されたスカム移動装置5の吐出口521から移動方向に向かって汚水を吐出する。この上流側に配置されたスカム移動装置5の吐出口521から汚水を吐出させて中空体51から放出する工程は、上流側吐出工程の一例に相当する。これにより、上述した下流側に配置されたスカム移動装置5の吐出口521から移動方向に向かって汚水を吐出したときと同様に、上流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51の上流端51u近傍または第2右開口51Rと第2左開口51Lの上流端よりも下流側にあるスカムを移動させることができる。移動したスカムは、下流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51と移動方向において重なった位置にある水面か、下流側に配置されたスカム移動装置5よりも下流側の水面に漂う。
【0082】
上流側に配置されたスカム移動装置5の電動弁532を閉塞した後、下流側に配置されたスカム移動装置5の電動弁532を再度開放して下流側に配置されたスカム移動装置5の吐出口521から移動方向に向かって汚水を吐出する。これにより、下流側に配置されたスカム移動装置5の中空体51と移動方向において重なった位置にある水面か、下流側に配置されたスカム移動装置5よりも下流側の水面にに漂っていたスカムをスカムピット31へ移動させることができる。スカムがスカムピット31に移動するのに必要な所定時間が経過したら、ゲート34を上昇させてスカム呑込口331を閉塞し、下流側に配置されたスカム移動装置5の電動弁532も閉塞する。そして、スカムポンプ32を所定時間駆動してスカムを外部に送り出して処理を修了する。なお、上流側に配置されたスカム移動装置5の電動弁532と下流側に配置されたスカム移動装置5の電動弁532を同時に開放してもよい。すなわち、下流側吐出工程と上流側吐出工程とを同時に実行してもよい。また、ゲート34を導水渠1の水位に応じた位置まで下降させるのと同時に下流側に配置されたスカム移動装置5の電動弁532を開放してもよい。すなわち、流入工程と下流側吐出工程とを同時に実行してもよく、流入工程と下流側吐出工程と上流側吐出工程の3つを同時に実行してもよい。
【0083】
この第3実施形態によっても、波を伴う水流を発生させて、導水渠1に形成されたブリッジを破壊し、スカムを移動方向に移動させることができる。そして、水流によってスカムを移動させてスカム除去装置3に到達させることで、導水渠1からスカムを除去することができる。なお、この第3実施形態のスカム移動装置5を、導水渠1の移動方向に間隔をあけて3つ以上並べて設置してもよい。
【0084】
本発明は上述の実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形を行うことが出来る。たとえば、本実施形態では、導水渠1にスカム移動装置5を配置する例を用いて説明したが、沈殿池9にスカム移動装置5を配置してもよい。また、水面にスカムが発生する設備であれば、汚水処理施設に設けられた他の設備などにスカム移動装置5を配置してもよい。また、中空体51は、円弧状の断面形状をした中空体51で構成されていたが、側面に開口を有していれば断面が多角形状の中空体51としてもよい。また、中空体51は、全露出状態にも状態変化する高さに固定されていたが、半露出状態と、水没状態にのみ状態変化する高さに固定されたものであってもよい。また、中空体51を、導水渠1の幅方向中央に配置する例を示したが、中空体51を導水渠1の幅方向の一端部分に配置してもよい。幅方向の一端部分に配置する場合、他端側の側部のみに開口を設けることが望ましい。
【0085】
以上説明した各実施形態のスカム移動装置5によれば、例えブリッジが形成されていてもスカムをスカム除去装置3まで移動させることが可能になる。なお、ここではスカムを対象にしたスカム移動装置について説明したが、粘性を有するスカム以外の浮遊物を対象にしたとしても本実施形態と同様の効果を奏する。
【0086】
なお、以上説明した実施形態の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、他の実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0087】
5 スカム移動装置
51 中空体
51a 内周面
51R 第2右開口
51L 第2左開口
511R 第1右開口
512L 第1左開口
521 吐出口
S 内部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10