IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イーセップ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-液組成調整システム 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】液組成調整システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20240416BHJP
   B01D 61/36 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C02F1/44 A
B01D61/36
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020081133
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021175563
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-12-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・ 産業技術総合開発機構、 新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業/(バイオマス)「バイオエタノール濃縮用脱エタノール膜及びその性能を発揮できる高効率システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514213202
【氏名又は名称】イーセップ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】澤村 健一
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-273636(JP,A)
【文献】特開2015-196151(JP,A)
【文献】特開2006-043564(JP,A)
【文献】特開2015-127026(JP,A)
【文献】特開昭63-197502(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0067074(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0187380(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00 - 71/82
11/00 - 12/00
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜モジュールに搭載した分離膜と、放熱部と熱部を持つペルチェ式熱交換器と、前記分離膜の二次側(膜透過側)を減圧するアスピレーターと、を備え、
前記分離膜は、複数の成分からなる処理液から特定の成分を膜透過成分として優先的に透過させ、
前記ペルチェ式熱交換器の前記放熱部は前記分離膜の一次側に供給する前記処理液を40から150℃に加熱し、
前記処理液の前記膜透過成分が蒸気として優先的に前記分離膜を透過することで前記処理液の組成を変化・調整し、
前記膜透過成分は、前記吸熱部から前記アスピレーター内を通過して前記吸熱部に戻るよう循環する液体と、前記アスピレーターで合流することにより凝縮・捕集させ、
前記膜透過成分の凝縮熱により加熱され前記アスピレーター内を通過する前記液体を、前記アスピレーターに流入する前に前記ペルチェ式熱交換器の前記吸熱部で0から40℃に冷却し、
前記分離膜の二次側(膜透過側)は、前記ペルチェ式熱交換器の前記吸熱部で0から40℃に冷却された前記液体が前記アスピレーターを通過して0.1から20kPaに減圧されることを特徴とする、膜分離による液組成調整システム。
【請求項2】
液組成調整後の前記処理液の液組成変化をモニタリングする屈折計を備え、
液組成調整後の前記処理液と前記ペルチェ式熱交換器へ導入前の前記処理液を熱交換し、前記屈折計によりモニタリングされる前記処理液の温度を調整することを特徴とする、請求項1記載の液組成調整システム。
【請求項3】
前記分離膜が脱水膜であり、前記吸熱部から前記アスピレーター内を通過して前記吸熱部に戻るよう循環する前記液体の主成分が水であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液組成調整システム。
【請求項4】
前記分離膜が脱アルコール膜であり、前記吸熱部から前記アスピレーター内を通過して前記吸熱部に戻るよう循環する前記液体の主成分がアルコールであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液組成調整システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離による液組成調整システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
膜分離は将来の化学プロセスを簡略化する技術として近年導入が期待されており、特に、化学プロセスにおいて最もエネルギー消費の大きい蒸留プロセスに膜分離を導入することで、大きな省エネルギー効果が見込まれている。
【0003】
例えば特許文献1には、蒸留とゼオライト分離膜を組み合わせたハイブリッドプロセスにより、エタノールなどの水溶性有機物の脱水において、従来の蒸留のみによる脱水に比べて省エネルギー化できる技術が開示されている。
【0004】
また特許文献2では、各種蒸留と膜分離を組み合わせたハイブリッドプロセスを検討し、用いる分離膜の最適条件を解析により示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4414922号
【文献】特許第6196807号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献に記載の方法はいずれも相応の設備投資を要する比較的大型の工業プロセスへの適用を想定している。そのためオンサイトでの小規模な分離ニーズではしばしばオーバースペックとなり、コストが釣り合わず不向きである。
【0007】
例えば低濃度エタノール(エタノール濃度5から40vol%)を新型コロナウィルス抑制に有効な消毒用エタノール(エタノール濃度70から83vol%)に転換・利用したい場合、オンサイトで所望のエタノール濃度にすぐに調整できる分離システムがあれば、非常に便利である。
【0008】
本発明の目的は、オンサイトにおける小規模な分離ニーズに対応するため、簡素で省スペース・省エネルギー化が可能な液組成調整システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、膜分離による液組成調整システムであって、膜モジュールに搭載した分離膜と、放熱部と熱部を持つペルチェ式熱交換器と、前記分離膜の二次側(膜透過側)を減圧するアスピレーターと、を備え、
前記分離膜は、複数の成分からなる処理液から特定の成分を膜透過成分として優先的に透過させ、
前記ペルチェ式熱交換器の前記放熱部は前記分離膜の一次側に供給する前記処理液を40から150℃に加熱し、
前記処理液前記膜透過成分が蒸気として優先的に前記分離膜を透過することで前記処理液の組成を変化・調整し、
前記膜透過成分は、前記吸熱部から前記アスピレーター内を通過して前記吸熱部に戻るよう循環する液体と、前記アスピレーターで合流することにより凝縮・捕集させ、
前記膜透過成分の凝縮熱により加熱され前記アスピレーター内を通過する前記液体を、前記アスピレーターに流入する前に前記ペルチェ式熱交換器の前記吸熱部で0から40℃に冷却し、
前記分離膜の二次側(膜透過側)は、前記ペルチェ式熱交換器の前記吸熱部で0から40℃に冷却された前記液体が前記アスピレーターを通過して0.1から20kPaに減圧されることを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、請求項目1記載の液組成調整システムであって、
液組成調整後の前記処理液の液組成変化をモニタリングする屈折計を備え、
液組成調整後の前記処理液と、前記ペルチェ式熱交換器へ導入前の前記処理液を熱交換し、前記屈折計によりモニタリングされる前記処理液の温度を調整することを特徴としている。
【0012】
請求項の発明は、請求項1又は2記載の液組成調整システムであって、
前記分離膜が脱水膜であり、前記吸熱部から前記アスピレーター内を通過して前記吸熱部に戻るよう循環する前記液体の主成分が水であることを特徴としている。
【0013】
請求項の発明は、請求項1又は2記載の液組成調整システムであって、
前記分離膜が脱アルコール膜であり、前記吸熱部から前記アスピレーター内を通過して前記吸熱部に戻るよう循環する前記液体の主成分がアルコールであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明は、膜分離による液組成調整システムであって、膜モジュールに搭載した分離膜と、放熱部と加熱部を持つペルチェ式熱交換器と、前記分離膜の二次側(膜透過側)を減圧するアスピレーターと、を備え、前記ペルチェ式熱交換器の放熱部は前記分離膜の一次側に供給する処理液を40から150℃に加熱し、前記分離膜の二次側(膜透過側)は前記アスピレーターにより0.1から20kPaに減圧され、処理液の特定の成分が蒸気として優先的に前記分離膜を透過することで処理液の組成を変化・調整し、蒸気として膜透過した成分は前記アスピレーター内を循環する0から40℃の液体と合流することにより凝縮・捕集させ、膜透過成分の凝縮熱により加熱される前記アスピレーター内を循環する液体を、前記ペルチェ式熱交換器の吸熱部で冷却することを特徴とするもので、請求項1の発明によれば、膜透過を促進する駆動力となる熱エネルギーをペルチェ式熱交換器の放熱部より供給すると同時に、ペルチェ式熱交換器の吸熱部によるアスピレーター内を循環する液体の除熱と、アスピレーター循環液による膜透過成分の高効率捕集を同時に達成するという効果を奏する。膜透過成分がアスピレーター循環液と混合して問題ない分離系に限られるが、一般的に用いられる真空ポンプ、外部ヒーター、チラー、コンプレッサー等を本発明では必要としないため、小型化・低コスト化が可能となる。
【0015】
請求項2の発明は、請求項目1記載の液組成調整システムであって、膜モジュールから排出される前記分離膜の保持側を流れる処理液と前記ペルチェ式熱交換器へ導入前の処理液を熱交換することにより、液組成調整後の温度を20から60℃に保持することを特徴としており、請求項2の発明によれば、熱により変質しやすい液体の劣化を抑制したり、高温に弱い後段の濃度測定器の故障を抑制するという効果を奏する。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1、2記載の液組成調整システムであって、屈折計による液組成変化をモニタリングすることを特徴としており、請求項3の発明によれば、溶液組成をリアルタイムでモニタリングできることにより、所望の液組成に到達した段階で分離操作を完了することができるという効果を奏する。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1から3記載の液組成調整システムであって、前記分離膜が脱水膜であり、アスピレーター内を循環する液体の主成分が水であることを特徴としており、請求項4の発明によれば、膜の保持側に水分濃度を任意の割合で除去する液組成調整を、省スペース・省エネルギー化することができるという効果を奏する。
【0018】
請求項5の発明は、請求項1から3記載の液組成調整システムであって、前記分離膜が脱アルコール膜であり、前記アスピレーター内を循環する液体の主成分がアルコールであることを特徴としており、請求項5の発明によれば、膜の保持側のアルコール濃度を任意の割合で除去・調整し、膜透過側へのアルコール成分の回収を、省スペース・省エネルギー化することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の液組成調整システムの実施形態を示すフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
図1を参照すると、本発明の液組成調整システムは、膜分離による液組成調整システムであって、膜モジュール1に搭載した分離膜2の一次側に供給する処理液11がペルチェ式熱交換器3の放熱部3aで40から150℃に加熱され、分離膜の二次側(膜透過側)はアスピレーター4により0.1から20kPaに減圧され、処理液の特定の成分が蒸気として優先的に分離膜を透過することで処理液の組成を変化・調整し、蒸気として膜透過した成分13はアスピレーター内を循環する0から40℃の液体15と合流することにより凝縮・捕集させ、膜透過成分の凝縮熱により加熱されるアスピレーター内を循環する液体14を、ペルチェ式熱交換器3の吸熱部3bで冷却することを特徴としている。ここで、一次側に供給する処理液11の温度は、40から150℃が望ましい。40℃未満だと膜透過の駆動力が小さすぎ、また150℃より大きいと高圧になり過ぎて危険である。分離膜の二次側(膜透過側)のアスピレーター4による減圧は、20kPa未満が望ましい。20 kPa以上になると膜透過側の駆動力が小さくなり過ぎて、必要な透過処理量を得ることが困難である。またアスピレーター内を循環する液体の温度は、0から40℃の範囲に保つのが望ましい。0℃未満だと液体が凍結する可能性があり、また40℃以上だと膜透過側の真空度が低下し、必要な膜透過処理量を得られなくなる場合がある。
ここで、処理液が熱により変質しやすい液体の場合や高温に弱い濃度測定器を設置する場合、膜モジュール1から排出される分離膜の保持側を流れる処理液12とペルチェ式熱交換器へ導入前の処理液10を熱交換器17により熱交換することにより、本発明では液組成調整後の温度を20から60℃に保持することを特徴としている。
加えて所望の液組成に到達した段階で分離操作を完了させるため、屈折計6による液組成変化をモニタリングすることを特徴としている。
【0022】
ここで、本発明の方法では、例えば膜の保持側の水分濃度を任意の割合で除去・調整する場合、分離膜2としては脱水膜を用い、アスピレーター内を循環する液体14から16の主成分を水とすることを特徴としている。本発明で用いる脱水膜としては、耐久性に優れるゼオライト膜あるいはシリカ系分離膜が望ましい。
【0023】
あるいは、膜の保持側のアルコール濃度を任意の割合で除去・調整し、膜透過側へのアルコール成分の回収を行う場合は、分離膜2としては脱アルコール膜を用い、アスピレーター内を循環する液体14から16の主成分はアルコールであることを特徴としている。
本発明で用いる脱エタノール膜としては、耐久性に優れ、疎水化処理を施したゼオライト膜あるいはシリカ系分離膜が望ましい。
【0024】
つぎに、本発明の実施例を比較例と共に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
本発明の液組成調整システムを、図1にフローシートを示すシステムにより、低濃度エタノール(エタノール濃度10から40vol%)を新型コロナウィルス抑制に有効な消毒用エタノール(エタノール濃度70から83vol%)に転換するプロセス解析を実施した。分離膜としては脱水膜とし、水とエタノールの分離性能である膜透過度[mol/(m2・s・Pa)]の比を、10から1,000の範囲で検討した。アスピレーター内を循環する液体としては、水を用いた。
【実施例2】
【0026】
本発明の液組成調整システムを、図1にフローシートを示すシステムにより、連続的に生成するエタノール(エタノール濃度5から15vol%)を回収し、新型コロナウィルス抑制に有効な消毒用エタノール(エタノール濃度70から83vol%)に転換するプロセス解析を実施した。分離膜としては脱エタノール膜とし、エタノールと水の分離性能である膜透過度の比を、5から50の範囲で検討した。アスピレーター内を循環する液体としては、エタノール水を用いた。
【0027】
(比較例1)
比較のため、実施例1の試験において、ペルチェ式熱交換器の吸熱部による除熱を行わない場合で検討した。
【0028】
(比較例2)
比較のため、実施例2の試験において、ペルチェ式熱交換器の吸熱部による除熱を行わない場合で検討した。
【0029】
上記実施試験結果を表1、2にまとめた。
【表1】


【表2】
実施した試験においては、実施例1においては、水/エタノールの透過度比200以上の脱水膜において、エタノール回収率95%以上で所定の濃度のエタノールの組成調整ができることを確認した。一方で、比較例1においては、目的の組成に調整することは困難であった。これは膜透過側の除熱が不十分であることにより、膜透過に必要な駆動力が失われてしまったことが原因だと考えられる。
実施例2については、供給側のエタノール濃度に応じて最適な透過度比の脱アルコール膜を選択することにより、所定の濃度のエタノールの組成調整ができることを確認した。一方で比較例2においては、目的の組成に調整することは困難であった。これは比較例1の場合と同様に、膜透過側の除熱が不十分であることにより、膜透過に必要な駆動力が失われてしまったことが原因だと考えられる。
以上から、本発明の液組成調整システムの実施形態の有用性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、例えば低濃度エタノールを新型コロナウィルス抑制に有効な消毒用エタノール(エタノール濃度70から83vol%)に転換するなど、オンサイトでの小規模・低コストな溶液組成調整手段として産業上利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 膜モジュール
2 分離膜
3 ペルチェ式熱交換器
3a ペルチェ式熱交換器の放熱部
3b ペルチェ式熱交換器の吸熱部
4 アスピレーター(減圧器)
5 処理液貯蔵タンク
6 屈折計(濃度測定器)
7 液貯蔵タンク
8 処理液送液ポンプ
9 アスピレーター用循環送液ポンプ
10 処理液
11 加熱後の処理液(40から150℃)
12 処理液(分離膜処理後)
13 膜透過成分
14 アスピレーター循環液
15 アスピレーター循環液(冷却後0から40℃)
16 アスピレーター循環液(膜透過成分捕集後)
17 熱交換器
18 処理液(処理後)
19 処理液(再循環)
20 処理液(組成調整完了後の系外排出)
21 排出ライン















図1