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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】磁気シートおよび磁気筆記システム
(51)【国際特許分類】
   B43L 1/00 20060101AFI20240416BHJP
   B43L 19/00 20060101ALI20240416BHJP
   B43K 8/22 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B43L1/00 C
B43L19/00 Z
B43K8/22
B43L19/00 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020138488
(22)【出願日】2020-08-19
(65)【公開番号】P2022034678
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504462711
【氏名又は名称】Zero Lab株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】古賀 律生
【審査官】稲荷 宗良
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-212808(JP,A)
【文献】特開平5-181424(JP,A)
【文献】特開2019-072908(JP,A)
【文献】特開平4-199086(JP,A)
【文献】特開2021-187005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43L 1/00
B43L 19/00
B43K 8/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ペンからの磁力線の作用により表示を行う磁気シートであって、
非磁性材料からなるシート状の第1の支持体と、
当該第1の支持体に対向する非磁性材料からなるシート状の第2の支持体と、
前記第1の支持体と前記第2の支持体との間に設けられた非磁性材料からなるシート状の中間支持体と、
前記第1の支持体と前記中間支持体との間に形成された複数の第1のマイクロカプセルと、
前記中間支持体と前記第2の支持体との間に形成された複数の第2のマイクロカプセルとを有し、
前記第1のマイクロカプセルの充填率は、第2のマイクロカプセルの充填率よりも小さい、磁気シート。
【請求項2】
前記第2のマイクロカプセルの平均外径は、第1のマイクロカプセルの平均外径よりも小さい、請求項1に記載の磁気シート。
【請求項3】
前記第1の支持体側から第1の強度の磁力線を印加したとき、前記第1のマイクロカプセルの磁性体が反応し、前記第2のマイクロカプセルの磁性体が反応せず、
前記第1の支持体側から第1の強度よりも大きい第2の強度の磁力線を印加したとき、前記第1および第2のマイクロカプセルのそれぞれの磁性体が反応する、請求項に記載の磁気シート。
【請求項4】
描画時、磁性体は、マイクロカプセルの前記第1の支持体側の内壁面に引き寄せられて静止し、
消去時、前記第1の支持体側または前記第2の支持体側から回転する磁力線を印加したとき、第1および第2のマイクロカプセルの磁性体は、回転する磁力線に応答してマイクロカプセルの中心部付近に回転移動して静止する、請求項に記載の磁気シート。
【請求項5】
前記第1のマイクロカプセルにおいて磁性体が白以外の第1の色を有し、非磁性体が第2の色を有し、前記第2のマイクロカプセルにおいて磁性体が白以外の第3の色を有し、非磁性体が第4の色を有する、請求項に記載の磁気シート。
【請求項6】
請求項1ないしいずれか1つに記載の磁気シートと、
第1の強度の磁力線または当該第1の強度よりも大きい第2の強度の磁力線を印加するための磁気ペンと、
回転する磁力線を印加するための磁気消去具と、
を有する磁気筆記システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界を作用させ任意の文字、図形、記号等を描画するための磁気シートまたは磁気パネルに関し、特に複数のマイクロカプセルを持つ磁気シートの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気シート上を移動させ、磁気シートに磁界を作用させて移動軌跡に応じた文字、図形、記号等を描画するための磁気ペン(特許文献1)、あるいは磁気シート上を移動させることで描画された文字、図形、記号を消去するための磁気消去具(特許文献2)などが開示されている。
【0003】
磁気シートに関し、特許文献3は、非磁性体基板と保護層との間にマイクロカプセル層を設け、マイクロカプセル層内に磁性粉と非磁性粉を含有する大粒径のマイクロカプセルと磁性粉も非磁性粉も含まない小粒径のマイクロカプセルとを配列させた磁気ディススプレイを開示している。大粒径のマイクロカプセル群の粒子間に生じる空隙部を小粒径のマイクロカプセル群によって充填されるため、マイクロカプセルの充填が高密度になり、ピンホールの発生が抑制される。また、特許文献4は、上消し可能なマイクロカプセル磁気泳動表示シートを開示している。マイクロカプセルは、分散液、白色顔料、添加剤及び磁性粒子を内包し、マイクロカプセルの平均粒径が50~650μmであり、磁性粒子が異なる磁性粒子を2種以上有することで、記録表面側から全面消去または部分消去を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6179788号公報
【文献】特許第6213886号公報
【文献】特許第2850056号公報
【文献】特許第4089808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気シートの利便性を向上させるため3色以上の表示色またはカラーでの表示色で描画することが求められている。しかしながら、従来の磁気シートは、白色と黒色との2色でしか描画することができないという課題がある。
【0006】
本発明は、少なくとも3色で表示可能な磁気シートおよび磁気筆記システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る磁気シートは、磁気ペンからの磁力線の作用により表示を行うものであって、非磁性材料からなるシート状の第1の支持体と、当該第1の支持体に対向する非磁性材料からなるシート状の第2の支持体と、前記第1の支持体と前記第2の支持体との間に設けられた非磁性材料からなるシート状の中間支持体と、前記第1の支持体と前記中間支持体との間に形成された複数の第1のマイクロカプセルと、前記中間支持体と前記第2の支持体との間に形成された複数の第2のマイクロカプセルとを有し、前記第1のマイクロカプセルの充填率は、第2のマイクロカプセルの充填率よりも小さい。
【0008】
ある実施態様では、前記第2のマイクロカプセルの平均外径は、第1のマイクロカプセルの平均外径よりも小さい。ある実施態様では、第1および第2のマイクロカプセルは、少なくとも磁性体、非磁性体、沈殿防止剤および溶剤を内部に含む。ある実施態様では、前記第1の支持体側から第1の強度の磁力線を印加したとき、前記第1のマイクロカプセルの磁性体が反応し、前記第2のマイクロカプセルの磁性体が反応せず、前記第1の支持体側から第1の強度よりも大きい第2の強度の磁力線を印加したとき、前記第1および第2のマイクロカプセルのそれぞれの磁性体が反応する。ある実施態様では、反応した磁性体は、マイクロカプセルの前記第1の支持体側の内壁面に引き寄せられて静止する。ある実施態様では、前記第1の支持体側または前記第2の支持体側から回転する磁力線を印加したとき、第1および第2のマイクロカプセルの磁性体は、回転する磁力線に応答してマイクロカプセルの中心部付近に回転移動して静止する。ある実施態様では、前記第1および第2のマイクロカプセルの磁性体は、白色以外の色を有し、非磁性体は白色を有する。ある実施態様では、前記第1のマイクロカプセルの磁性体の色は、前記第2のマイクロカプセルの磁性体の色と異なる。ある実施態様では、前記第1のマイクロカプセルの非磁性体の色は、前記第2のマイクロカプセルの非磁性体の色と異なる。ある実施態様では、前記第1のマイクロカプセルの数は、前記第2のマイクロカプセルの数よりも少ない。ある実施態様では、前記第1の支持体と前記中間支持体との間の第1の距離は、前記中間支持体と前記第2の支持体との間の第2の距離と等しい。ある実施態様では、前記第1の支持体と前記中間支持体との間の第1の距離は、前記中間支持体と前記第2の支持体との間の第2の距離よりも大きい。
【0009】
本発明に係る磁気筆記システムは、上記記載の磁気シートと、前記第1の強度の磁力線または前記第2の強度の磁力線を印加するための磁気ペンと、前記回転する磁力線を印加するための磁気消去具とを有する。ある実施態様では、前記磁気消去具は、ハウジング内に設けられた磁石を回転する機能を有する。ある実施態様では、前記磁気ペンは、ハウジング内に設けられた磁石の位置を可変する機能を有し、磁石の位置に応じて前記第1の強度の磁力線または前記第2の強度の磁力線を選択的に印加する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁気シートを第1のマイクロカプセルと第2のマイクロカプセルとを含む少なくとも2層構造から構成したので、第1および第2のマイクロカプセルを異なる強度の磁力線で駆動することが可能となり、これにより少なくとも3色での表示を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(A)は、本発明の実施例に係る磁気筆記システムの概略構成を示す断面図、図1(B)は、上部マイクロカプセル層の一部のエリアの平面図、図1(C)は、下部マイクロカプセル層の一部のエリアの平面図である。
図2】描画時のマイクロカプセルの磁性粒子の状態を模式的に示す上面図である。
図3】描画時のマイクロカプセルの磁性粒子の状態を模式的に示す断面図である。
図4】消去時に回転する磁力線をマイクロカプセルに印加したときの磁性粒子の挙動を説明する図である。
図5図5(A)は、回転消去時の磁気シートのマイクロカプセルの状態を示す概略断面図、図5(B)、(C)は、弱い磁力線で磁気シートに描画したときのマイクロカプセルの状態を示す概略断面図である。
図6図6(A)は、回転消去時の磁気シートのマイクロカプセルの状態を示す概略断面図、図6(B)、(C)は、強い磁力線で磁気シートに描画したときのマイクロカプセルの状態を示す概略断面図である。
図7図7(A)、(B)は、弱い磁力線で描画された表示を消去したときのマイクロカプセルの状態を示す概略断面図である。
図8図8(A)、(B)は、強い磁力線で描画された表示を消去したときのマイクロカプセルの状態を示す概略断面図である。
図9】本発明の第2の実施例に係る磁気筆記システムの概略構成を示す断面図である。
図10】本発明の実施例に係る3層構造の磁気シートの概略構成を示す断面図である。
図11】本発明の実施例に係る中間支持体の他の構成を示す図である。
図12】本発明の実施例に係る凹部が形成された中間支持体および凹部が形成された下部支持体を用いた磁気シートの概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係る磁気筆記システムは、磁気シートの描画面上で磁気筆記具(磁気ペン)を移動させたとき、磁気筆記具からの磁力線または磁界を磁気シートに作用させることで磁気筆記具の移動軌跡に応じた文字、図形、絵等の描画を可能にし、また、磁気消去具からの回転する磁力線または磁界を磁気シートの描画面または裏面に作用させることで描画された文字等の消去を可能にする。
なお、本発明の実施例で参照する図面は、発明を理解し易くするために各部を強調しており、実際の製品の大きさや形状とは必ずしも同一ではないことに留意すべきである。
【実施例
【0013】
次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1(A)は、本発明の実施例に係る磁気筆記システムの概略構成を示す断面図である。磁気筆記システム10は、複数のマイクロカプセルを保持する磁気シート100と、磁気シート100上に文字等を描画するための磁気ペン200A、200B(これらを総称するとき、磁気ペン200という)と、磁気消去具300とを含む。
【0014】
磁気シート100の平面形状は、特に限定されないが、例えば矩形状を有する。矩形状のサイズは、50インチ以上であることができ、オフィスや家庭における壁掛け用の磁気表示システムまたは磁気筆記システムとして使用することができる。このような磁気筆記システムの特徴は、磁気シート上に文字等を描画したり、描画した文字等を保持するための電力は事実上不要である。また、描画された文字等を消去する場合にも、電力は必ずしも不要であり、仮に必要としてもそれは磁気消去具300の磁力線を変化させるための極わずかな電力である。さらに消去の際に消去カスやごみを発生させることもない。それ故、磁気筆記システムは、電力を必要とする液晶パネルを用いた筆記システムやマーカーにより描画する電子黒板と比較すると、非常に経済的であり、かつ環境にも優れたデバイスである。
【0015】
文字等を描画するとき、磁気ペン200を磁気シート100上で移動させ、磁気ペン200の磁石から生じる磁力線を磁気シート100に印加する。磁気ペン200を任意の方向に移動させたとき、磁気シート100には、移動方向に応じた線等が描画される。また、描画された文字等を消去するとき、磁気消去具300を磁気シート100上で移動しつつ磁気消去具300からの回転する磁力線を磁気シート100に印加する。磁気消去具300は、軸Cを中心に磁石302を回転させる機能を備えている。
【0016】
磁気シート100は、透明の非磁性シート(例えば、樹脂製)から構成される上部支持体110、中間支持体115および下部支持体120を含む。上部支持体110および中間支持体115の間に形成された上部マイクロカプセル層130Aには複数の球状のマイクロカプセル140Aおよび透明のバインダーが保持され、中間支持体115および下部支持体120の間に形成された下部マイクロカプセル層130Bには複数の球状のマイクロカプセル140Bおよび透明のバインダーが保持される。
【0017】
上部マイクロカプセル層130Aには、マイクロカプセル140Aが疎の状態、つまり低い充填率で配置されるのに対し、下部マイクロカプセル層130Bには、マイクロカプセル140Bが、密の状態、つまり高い充填率で配置される。図1(B)は、上部マイクロカプセル層130Aの一部のエリアの平面図であり、図1(C)は、下部マイクロカプセル層の一部のエリアの平面図である。マイクロカプセル140Aは低い充填率で配置されるが、マイクロカプセル140Bは高い充填率で配置される。なお、マイクロカプセル140A、140Bを総称するとき、マイクロカプセル140という。
【0018】
上部支持体110および下部支持体120の厚さはそれぞれ50~150umであり、中間支持体115は、それよりも幾分薄い厚さである。上部支持体110と中間支持体115との間隔および中間支持体115と下部支持体120との間隔は、それぞれ概ね300~500umに調整される。マイクロカプセル140A、140Bは概ね球状であり、その外径は、50~500umであり、好ましくは、200~300umである。
【0019】
好ましい態様では、上部マイクロカプセル層130Aには、その層の厚さと同等かそれより幾分小さい外径のマイクロカプセル140Aが1層構造(または平面的)になるように、複数のマイクロカプセル140Aが配置される。但し、マイクロカプセル140Aと上部支持体110の裏面との間の隙間や、マイクロカプセル140Aと中間支持体115の表面との間の隙間などに、極めて外径の小さい透明な微小マイクロカプセルを充填させるようにしてもよい。
【0020】
下部マイクロカプセル層130Bには、その層の厚さと同等かそれより幾分小さい外径を持つマイクロカプセル140Bが1層構造(または平面的)になるように、複数のマイクロカプセル140Bが配置される。また、極めて外径の小さい透明な微小マイクロカプセルを、マイクロカプセル140Bと中間支持体115の裏面との間の隙間や、マイクロカプセル140Bと下部支持体120の上面との間の隙間を埋めるようにしてもよい。
【0021】
透明な微小マイクロカプセルは、例えば、マイクロカプセル140A、140Bの回りの隙間を埋めることでマイクロカプセル140A、140Bの平面的な凹凸を緩和することができる。勿論、このような透明な微小マイクロカプセルは必須ではない。また、このような微小マイクロカプセルに代わりに透明なバインダーによってマイクロカプセル140A、140Bの平面的な凹凸を緩和するようにしてもよい。
【0022】
上部支持体110は、磁気シート100の描画面または消去面を提供する。上部支持体110の表面から上部マイクロカプセル層130Aの中心の高さまでの距離をh1、上部支持体110の表面から下部マイクロカプセル層130Bの中心の高さまでの距離をh2としたとき、磁気ペン200Aの磁石から生じる磁力線は、距離h1まで作用し、磁気ペン200Bの磁石から生じる磁力線は、距離h2まで作用する。後述するように、磁気ペン200Aを磁気シート100上で摺動させるとき、上部マイクロカプセル層130Aのマイクロカプセル140Aを反応させて描画を可能にし、磁気ペン200Bを磁気シート100上で摺動させるとき、上部マイクロカプセル層130Aのマイクロカプセル140Aと下部マイクロカプセル層130Bのマイクロカプセル140Bのそれぞれを反応させて描画を可能にする。
【0023】
マイクロカプセル140Aは、カプセル内に磁性体(例えば、黒色の四酸化三鉄(Fe)の粒子)、非磁性体(例えは、白色の酸化チタン粒子)、高沸点溶剤、低沸点溶剤、消泡剤、沈殿防止剤(例えば、チキソトロピー特性を有する微粉珪酸アエロジル)、および分散剤を含む。チキソトロピー特性は、一度静止すると粘性が増加する特性を持つ。マイクロカプセル140Aに含まれる上記含有物の配合比率は、磁気ペンまたは磁気消去具からの磁力線に応答してマイクロカプセル内の磁性体の可動が正確に制御されるように決定される。マイクロカプセル140Bは、マイクロカプセル140Aと実質的に同一の構成を有する。
【0024】
次に、描画時および消去時のマイクロカプセルの挙動について説明する。描画時、磁気ペン200を磁気シート100上で摺動させる。このとき、マイクロカプセル140内の磁性粒子は、磁気ペン200からの磁力線に引き寄せられ、マイクロカプセル140内の上部に静止した状態にある。図2は、描画時のマイクロカプセル140を描画面側から見たときの模式的な平面図、図3は、描画時のマイクロカプセル140の模式的な断面図である。
【0025】
磁気ペン200は、磁性材料から構成されたハウジング204の端部に磁石202を収容し、ハウジング204の端部には、円形状の開口206が形成される。マイクロカプセル140には、開口206を介して磁石202からの制御された磁力線が作用する。磁性粒子142は、印加された磁力線に反応し、非磁性粒子(例えば、白色の酸化チタン粒子)144から分離し、マイクロカプセル140の上方の内壁面に吸引され、そこに静止する。磁性粒子142がマイクロカプセル140の上部に吸引されてそこに静止することで、磁気ペン200で描画した領域は黒色となり、それ以外の領域は、白色となる。
【0026】
消去時、磁気消去部300を磁気シート100上で摺動させる。このとき、マイクロカプセル140内の磁性粒子は、マイクロカプセル140の中心部付近に凝集してそこに静止する。図4(A)、(B)は、消去時のマイクロカプセルの模式的な断面図である。
【0027】
磁気消去具300は、ハウジング304内に磁石302を含み、磁石302を軸Cを中心に、例えば時計方向Raに回転させる。このような磁気消去具300を、図4(A)に示すように上部支持体110上を水平方向に移動させるとき、磁石302の回転する磁力線が強く作用するマイクロカプセル140Aでは、磁性粒子142が反時計方向Rbに回転移動を開始する。磁石302によって生じる回転する磁力線は、少なくとも距離h2(図1を参照)にまで作用する。磁性粒子142の回転移動によりマイクロカプセル140A内の流体に渦流が発生し、渦流の遠心力による内圧差でマイクロカプセル140Aの中心部付近に向かう回流が発生し、この回流により磁性粒子がマイクロカプセルの中心部付近に向かう。磁気消去具300の移動とともにマイクロカプセル140Aに作用する回転する磁力線が弱まると、回流も弱まり、磁性粒子142は、図4(B)に示すように、最終的にマイクロカプセル140Aの中心部近傍に集まる。磁性粒子142は、残留磁化およびチキソトロピー特性により凝集し、そこに停止する。磁性粒子142がマイクロカプセル140Aの中心部付近に凝集して静止し、その結果、非磁性粒子144がマイクロカプセル140の内壁の全周囲に静止し、消去状態の磁気消去具300は、白色を呈する。なお、図4(A)、(B)には、マイクロカプセル140Bを示していないが、磁気消去具300の回転する磁力線をマイクロカプセル140Bに印加したとき、マイクロカプセル140Bの磁性粒子142は、上記したマイクロカプセル140Aの磁性粒子142と同様に回転移動し、最終的にマイクロカプセル140Bの中心部近傍に凝集して停止し、内壁の全周囲に非磁性粒子144が静止する。
【0028】
次に、本実施例の磁気筆記システムにおける描画動作について図5を参照して説明する。磁気シート100が消去状態のとき、図5(A)に示すように、上部マイクロカプセル層130Aのマイクロカプセル140Aの磁性粒子142は、中心部近傍に静止した状態にあり、かつ、上部マイクロカプセル層130Bのマイクロカプセル140Bの磁性粒子142は、中心部近傍に静止した状態にある。磁気シート100が消去された状態にあるとき、磁気シート100の描画面は白色である。
【0029】
次に、弱い磁力性を生じさせる磁気ペン200Aを用いて描画を行うと、磁気ペン200Aの磁力線は、上部マイクロカプセル層130Aにのみ作用し、下部マイクロカプセル層130Bには作用しない。従って、上部マイクロカプセル層130Aのマイクロカプセル140Aの磁性粒子142が磁力線に反応し、マイクロカプセル140Aの上部内壁面に引き寄せられ、そこに凝集して停止する。他方、下部マイクロカプセル層130Bのマイクロカプセル140Bの磁性粒子142は、マイクロカプセル140Bの中心部近傍に静止したまま(つまり、消去状態のまま)である。下部マイクロカプセル層130Bのマイクロカプセル140Bは、上部マイクロカプセル層130Aのマイクロカプセル140Aよりも充填率が高いため、下部マイクロカプセル層130Bのマイクロカプセル140Bが優位色となる。それ故、磁気ペン200Aで描画した領域は、図5(B)、(C)に示すように、黒色の輝度が低下した灰色の表示色となる。灰色の輝度は、マイクロカプセル140Aの充填率および/またはマイクロカプセル140Bの充填率により適宜選択することができる。
【0030】
一方、強い磁力線を生じさせる磁気ペン200Bを用いて描画したときの様子を図6に示す。図6(A)は、磁気シートが消去状態であり、描画面は白色である。強い磁力線を生じさせる磁気ペン200Bを用いて描画を行うと、磁気ペン200Bの磁力線は、上部マイクロカプセル層130Aおよび下部マイクロカプセル層130Bの双方に作用し、上部マイクロカプセル層130Aのマイクロカプセル140Aおよび下部マイクロカプセル層130Bのマイクロカプセル140Bの磁性粒子142が磁力線に反応し、磁性粒子は、マイクロカプセル140A、140Bの上部内壁面に引き寄せられ、そこに凝集して停止する。その結果、磁気ペン200Bで描画した領域は、図6(B)、(C)に示すように、黒色の表示色となる。
【0031】
次に、消去動作について説明する。消去動作は、磁気消去具300を用いて行われる。図7(A)、(B)は、弱い磁力線で描画された表示を消去する例を示している。磁気消去具300を、磁気シート100の上部支持体110上で摺動させると、回転する磁力線が上部マイクロカプセル層130Aのマイクロカプセル140Aおよび下部マイクロカプセル層130Bのマクロカプセル140Bに作用する。マイクロカプセル140Aの磁性粒子は、図4で説明したように、磁気消去具300からの回転する磁力線に反応して回転移動を開始し、その後、回転移動した磁性粒子は、磁気消去具300からの回転する磁力線が徐々に低下することに応じて最終的にマイクロカプセル140Aの中心部近傍に凝集しそこに停止する。下部マイクロカプセル層130Bのマイクロカプセル140Bの磁性粒子は、中心部近傍に静止しているため、磁気筆記具300から回転する磁力線に反応して回転移動せず、その状態を保持する。なお、磁気シート100の下部支持体120側から磁気消去具300を摺動させることで磁気シートの裏面側からの消去も可能である。
【0032】
図8(A)、(B)は、強い磁力線で描画された表示を消去する例を示している。磁気消去具300を、磁気シート100上で摺動させると、回転する磁力線が上部マイクロカプセル層130Aのマイクロカプセル140Aおよび下部マイクロカプセル層130Bのマクロカプセル140Bに作用する。強い磁力線で描画されているため、マイクロカプセル140A、140Bの磁性粒子はカプセルの上部内壁面に静止した状態にある。回転する磁力性を作用させることで、マイクロカプセル140A、140Bの磁性粒子は、回転する磁力線に反応して回転移動を開始し、その後、回転移動した磁性粒子は、磁気消去具300からの回転する磁力線が徐々に低下することに応じて最終的にマイクロカプセル140A、140Bの中心部近傍に凝集しそこに停止する。
【0033】
このように本実施例によれば、磁性シートを上部マイクロカプセル層130Aと下部マイクロカプセル層130Bの積層構造にし、強度の異なる磁界または磁力線を磁気シートに作用させることで、少なくとも3色の表示色で磁気シート上に描画を行うことができる。
【0034】
上記実施例では、マイクロカプセル内の磁性粒子を黒色、非磁性粒子を白色としたが、これは一例であり、磁性粒子や非磁性粒子は、他の色であってもよい。着色磁性体は、例えば、黒色のマグタイト(Fe:四酸化鉄)、褐色のマグヘマイト(γ-Fe、:磁赤鉄鉱)などがある。また、着色磁性体は、着色磁気ガラスや磁性体を高分子でコーティングする方法等があり、磁化率は、磁性体のコーティングの膜厚や粒子の大きさ等により可変することができる。一般的に粒子が小さくなるほど、磁化率は下がる。また、同一の磁性体であっても磁化率を変えることができる。例えば、四酸化鉄の粒子のサイズが異ならせたり、シリコンコーティングの膜厚を変えることで、磁化率を変えることができる。サイズの大きな粒子は、クラスター化された粒子であってもよい。また、非磁性体は、着色されたポリスチレン、ポリエチレン等を用いることができる。
【0035】
上記実施例では、弱い磁力線を生成する磁気ペン200Aと、強い磁力線を生成する磁気ペン200Bを用いたが、これは一例であり、単一の磁気ペンが弱い磁力線または強い磁力線を選択的に磁気シートに印加するようにしてもよい。この場合、磁気ペンは、ハウジング内の磁石の位置を可変する機構を備え、磁石から生成された磁力線が磁気シートに作用する強さを可変する。このような磁気ペンは、例えば、本出願人により提出された特許第6179788号等に開示されている。
【0036】
上記実施例では、磁気消去具300は、磁石302を回転させる機能を備える構成を例示したが、必ずしも磁石の回転は必要ではない。磁気消去具300は、例えば、例えば、多極着磁(短冊状)の磁石を磁気シートの表面または裏面に密着させて消去させることも可能であるし、S極とN極とを交互に配置した複数の磁石を、磁気シートの表面または裏面に密着させた状態で移動させることで消去を行うことも可能である。
【0037】
さらにマイクロカプセルの磁性材料や非磁性材料を蛍光材料で着色することも可能であり、この場合、上部マイクロカプセル層130Aのマイクロカプセル140Aの磁性材料および非磁性材料と、下部マイクロカプセル層130Bのマイクロカプセル140Bの磁性材料および非磁性材料の色を異ならせるようにしてもよい。蛍光材料を用いた場合、磁気シートの表示色は、光の三原色による加法混色である。
【0038】
また、磁気シートの製造方法として、上部支持体110、中間支持体115およびマイクロカプセル140Aを含む上部シートを用意し、下部支持体120、中間支持体115およびマイクロカプセル140Bを含む下部シートを用意し、下部シートの中間支持体115に、上部シートの中間支持体115を貼り合わせることで、2層構造の磁気シートを製造することが可能である。この製造方法は歩留まりが良く、製造が容易である利点がある。
【0039】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。図9は、第2の実施例の磁気シートの概略断面図である。本実施例では、下部マイクロカプセル層130Bの高さを上部マイクロカプセル層130Aの高さよりも小さくし、下部マイクロカプセル層130Bに配置するマイクロカプセル140Bの外径をマイクロカプセル140Aの外径よりも小さくする。マイクロカプセル140Bの外径を小さくすることで、下部マイクロカプセル層130Bに配置されるマイクロカプセル140Bの充填効率を高めることが可能になり、強い磁力線で描画したときのコントラストを改善することができる。
【0040】
上記実施例では、磁気シートを2層構造にしたが、本発明は、必ずしも2層構造に限らず、磁気シートを3層以上に構成するものであってもよい。図10(A)に3層構造の磁気シート100Bの断面図を示す。上部支持体110と下部支持体120との間に第1の中間支持体115Aと第2の中間支持体115Bとが配置される。上部支持体110と第1の中間支持体115Aとの間の第1のマイクロカプセル層にマイクロカプセル140Aが配置され、第1の中間支持体115Aと第2の中間支持体115Bとの間の第2のマイクロカプセル層にマイクロカプセル140Bが配置され、第2の中間支持体115Bと下部支持体120との間の第3のマイクロカプセル層に第3のマイクロカプセル140Cが配置される。
【0041】
描画時、上部支持体110側から第1の強度の磁力線を印加したとき、図10(B)に示すようにマイクロカプセル140Aの磁性粒子142が第1の強度の磁力線に反応し、第1の強度よりも大きい第2の強度の磁力線を印加したとき、図10(C)に示すようにマイクロカプセル140A、140Bの磁性粒子142が第2の強度の磁力線に反応し、第2の強度よりも大きい第3の強度の磁力線を印加したとき、図10(D)に示すようにマイクロカプセル140A、140B、140Cの磁性粒子142が第3の磁力線に反応する。第1の強度の磁力線を印加したとき、薄い灰色での描画が可能になり、第2の強度の磁力線を印加したとき、濃い灰色での描画が可能になり、第3の強度の磁力線を印加したとき、黒色での描画が可能になる。
【0042】
磁気ペンは、第1、第2、第3の強度の磁力線を生成する3つの磁気ペンを用いても良いし、あるいは、1つの磁気ペンが磁石の位置を可変することで第1ないし第3の強度の磁力線のいずれかを選択的に生じさせるようにしてもよい。また、磁気消去具が生成する回転する磁力線は、第1のマイクロカプセル層から第3のマイクロカプセル層にまで及び大きさである。
【0043】
次に、マイクロカプセルの充填方法について説明する。第1および第2の実施例で説明したように、上部マイクロカプセル層130Aのマイクロカプセル140Aは、下部マイクロカプセル層130Bのマイクロカプセル140Bよりも低い充填率で配置される。1つの充填方法は、ディスペンサーを用いて中間支持体115上に分配するマイクロカプセル140Aの数を下部支持体120上に分配するマイクロカプセル140Bの数よりも少なくする。
【0044】
中間支持体115上にマイクロカプセルを均一に分配するため、例えば、図11(A)、(B)に示すように中間支持体115の表面に行列方向に複数の凹部116を形成するようにしてもよい。凹部116は、例えば、中間支持体115をエンボス加工またはプレス加工することにより形成される。凹部116の大きさまたは形状は任意であるが、図11(C)、(D)に示すように、中間支持体115上に分配されたマイクロカプセル140Aは、凹部116に入り込むように位置決めされる。図11(D)は、外径の小さいマイクロカプセル140Aを分配した例である。このように、中間支持体115上に複数の凹部116を均一に形成することで、マイクロカプセル140Aを均一に配置することができる。
【0045】
図12(A)は、第1の実施例の磁気シート100を、凹部が形成された中間支持体115を用いて構成したときの断面を示している。なお、下部支持体120の表面に凹部を形成し、マイクロボール140Aの位置決めを行うことも可能である。
【0046】
図12(B)は、第3の実施例の磁気シート100Bを、凹部が形成された第1の中間支持体115A、第2の中間支持体115Bおよび下部支持体120を用いて構成したときの断面を示している。ここでは、第1の中間支持体115Aに形成された凹部、第2の中間支持体115Bに形成された凹部、下部支持体120に形成された凹部が互いに垂直方向において完全に重複しないように水平方向にオフセットされている。このため、各層のマイクロカプセル140A、140B、140Cの描画状態または消去状態を描画面(上部支持体110)から見ることができる。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10:磁気筆記システム 100:磁気シート
110:上部支持体 115:中間支持体
120:下部支持体 130A:上部マイクロカプセル層
130B:下部マイクロカプセル層 140A、140B:マイクロカプセル
200A、200B:磁気ペン 202、302:磁石
300:磁気消去具
図1
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