(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】集束荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20240416BHJP
G03F 1/74 20120101ALI20240416BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20240416BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240416BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20240416BHJP
H01J 37/18 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H01J37/20 A
G03F1/74
H01L21/30 541G
G03F7/20 506
H01J37/317 D
H01J37/18
(21)【出願番号】P 2020154036
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水村 通伸
(72)【発明者】
【氏名】新井 敏成
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】竹下 琢郎
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-071038(JP,A)
【文献】特開平01-128525(JP,A)
【文献】特開平09-022110(JP,A)
【文献】特開2010-040990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
G03F 1/74
H01L 21/027
G03F 7/20
H01J 37/317
H01J 37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板を支持する支持部と、
前記被処理基板の被処理面の任意領域に対応するように相対移動可能な、差動排気装置を備えた集束エネルギービームカラムと、
を備える集束荷電粒子ビーム装置であって、
前記支持部は、前記被処理基板を水平に配置した状態で周縁部のみを支持し、
前記支持部に支持された前記被処理基板の下方に、前記被処理基板の被処理領域全体に亘って陽圧を及ぼし、前記被処理基板の自重による撓みを阻止する陽圧チャンバが配置され、
前記陽圧チャンバ内に、前記被処理基板の下面に非接触な状態を維持して陰圧を及ぼして前記差動排気装置の吸引力を相殺し、当該被処理基板を挟んで前記差動排気装置と対向する状態を維持して前記差動排気装置に追従して前記被処理基板に相対移動可能な局所陰圧機構を備え
、
前記差動排気装置の外側を取り囲むように、前記被処理面にガスを吹き付ける第1浮上パッドが設けられ、
前記局所陰圧機構の外側を取り囲むように、前記被処理基板の下面にガスを吹き付ける第2浮上パッドが設けられていること
を特徴とする集束荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
前記差動排気装置は、前記被処理基板の前記被処理面に対向するヘッド部を備え、
前記ヘッド部における、前記被処理面と対向する対向面に、当該対向面の中心部を周回するように取り囲んで吸気部が設けられ、
前記ヘッド部における前記中心部に、前記被処理面に対する処理を可能にする処理用空間を形成する開口部が設けられ、
前記吸気部に真空ポンプが連結され、前記被処理面に前記対向面を対向させた状態で、前記吸気部からの吸気作用により、前記処理用空間を高真空にする
請求項1に記載の集束荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
集束エネルギービームカラムは、前記ヘッド部における前記対向面と反対側に配置され、前記開口部に連結して前記処理用空間に連通可能な鏡筒を備え、前記鏡筒内に集束エネルギービーム系を内蔵して集束エネルギービームが前記開口部内を通るように出射する
請求項
2に記載の集束荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
集束エネルギービーム系は、集束イオンビームを出射する集束イオンビーム系である
請求項
3に記載の集束荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
前記対向面における前記吸気部よりも前記中心部に近い位置に成膜用ガスを供給する成膜用ガス供給部が設けられている
請求項
3に記載の集束荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
集束エネルギービーム系は、集束イオンビームを出射する集束イオンビーム系である
請求項
5に記載の集束荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
被処理基板を支持する支持部と、
前記被処理基板の被処理面の任意領域に対応するように相対移動可能な、差動排気装置を備えた集束エネルギービームカラムと、
を備える集束荷電粒子ビーム装置であって、
前記支持部は、前記被処理基板を水平に配置した状態で周縁部のみを支持し、
前記支持部に支持された前記被処理基板の下方に、前記被処理基板の被処理領域全体に亘って陽圧を及ぼし、前記被処理基板の自重による撓みを阻止する陽圧チャンバが配置され、
前記陽圧チャンバ内に、前記被処理基板の下面に非接触な状態を維持して陰圧を及ぼして前記差動排気装置の吸引力を相殺し、当該被処理基板を挟んで前記差動排気装置と対向する状態を維持して前記差動排気装置に追従して前記被処理基板に相対移動可能な局所陰圧機構を備え、
前記差動排気装置は、前記被処理基板の前記被処理面に対向するヘッド部を備え、
前記ヘッド部における、前記被処理面と対向する対向面に、当該対向面の中心部を周回するように取り囲んで吸気部が設けられ、
前記ヘッド部における前記中心部に、前記被処理面に対する処理を可能にする処理用空間を形成する開口部が設けられ、
前記吸気部に真空ポンプが連結され、前記被処理面に前記対向面を対向させた状態で、前記吸気部からの吸気作用により、前記処理用空間を高真空にし、
前記対向面における前記吸気部よりも前記中心部に近い位置に成膜用ガスを供給する成膜用ガス供給部が設けられていること
を特徴とする集束荷電粒子ビーム装置。
【請求項8】
集束エネルギービームカラムは、前記ヘッド部における前記対向面と反対側に配置され、前記開口部に連結して前記処理用空間に連通可能な鏡筒を備え、前記鏡筒内に集束エネルギービーム系を内蔵して集束エネルギービームが前記開口部内を通るように出射する
請求項7に記載の集束荷電粒子ビーム装置。
【請求項9】
前記集束エネルギービーム系は、集束イオンビームを出射する集束イオンビーム系である
請求項8に記載の集束荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動排気装置を備える集束荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、有機ELディスプレイなどの薄型ディスプレイ(FPD:Flat Panel Display)の製造に用いられるフォトマスクにおけるパターンの修正や、FPDや半導体装置の配線基板における配線修正などの加工処理に際して、集束イオンビームを利用した加工装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この加工装置は、処理を施すフォトマスクや配線基板を載せるテーブル状の支持台と、局所排気装置を備える集束イオンビーム装置と、を備える。この加工装置では、局所排気装置で局所的に真空空間を作成し、集束イオンビームによりその真空空間内でパターンや配線の修正を行う。このような加工装置を用いれば、フォトマスクや配線基板、集束イオンビーム装置などを収容する、大型の真空チャンバを必要としない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の加工装置では、フォトマスクや配線基板などの被処理基板を、支持台の上に直に重ね置きするため、被処理基板の下面に支持台側から異物が付着したり、被処理基板の下面が支持台で損傷したりするという問題点がある。特にフォトマスクは、回路パターン等を被転写対象に転写する際の原版となるものであるため、下面に異物が付着したり、下面に傷が発生したりした場合、FPDの製造(フォトリソグラフィ工程)において、不具合が発生する。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、被処理基板の下面に異物が付着したり、被処理基板の下面を損傷させたりすることのない、集束荷電粒子ビーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の態様は、被処理基板を支持する支持部と、前記被処理基板の被処理面の任意領域に対応するように相対移動可能な、差動排気装置を備えた集束エネルギービームカラムと、を備える集束荷電粒子ビーム装置であって、前記支持部は、前記被処理基板を水平に配置した状態で周縁部のみを支持し、前記支持部に支持された前記被処理基板の下方に、前記被処理基板の被処理領域全体に亘って陽圧を及ぼし、前記被処理基板の自重による撓みを阻止する陽圧チャンバが配置され、前記陽圧チャンバ内に、前記被処理基板の下面に非接触な状態を維持して陰圧を及ぼして前記差動排気装置の吸引力を相殺し、当該被処理基板を挟んで前記差動排気装置と対向する状態を維持して前記差動排気装置に追従して前記被処理基板に相対移動可能な局所陰圧機構を備え、前記差動排気装置の外側を取り囲むように、前記被処理面にガスを吹き付ける第1浮上パッドが設けられ、前記局所陰圧機構の外側を取り囲むように、前記被処理基板の下面にガスを吹き付ける第2浮上パッドが設けられていることを特徴とする。
【0008】
上記態様としては、前記差動排気装置は、前記被処理基板の前記被処理面に対向するヘッド部を備え、前記ヘッド部における、前記被処理面と対向する対向面に、当該対向面の中心部を周回するように取り囲んで吸気部が設けられ、
前記ヘッド部における前記中心部に、前記被処理面に対する処理を可能にする処理用空間を形成する開口部が設けられ、前記吸気部に真空ポンプが連結され、前記被処理面に前記対向面を対向させた状態で、前記吸気部からの吸気作用により、前記処理用空間を高真空にすることが好ましい。
【0009】
上記態様としては、集束エネルギービームカラムは、前記ヘッド部における前記対向面と反対側に配置され、前記開口部に連結して前記処理用空間に連通可能な鏡筒を備え、前記鏡筒内に集束エネルギービーム系を内蔵して集束エネルギービームが前記開口部内を通るように出射することが好ましい。
【0010】
上記態様としては、集束エネルギービーム系は、集束イオンビームを出射する集束イオンビーム系であることが好ましい。
【0011】
上記態様としては、前記対向面における前記吸気部よりも前記中心部に近い位置に成膜用ガスを供給する成膜用ガス供給部が設けられていることが好ましい。
上記態様としては、集束エネルギービーム系は、集束イオンビームを出射する集束イオンビーム系であることが好ましい。
本発明の他の態様は、被処理基板を支持する支持部と、前記被処理基板の被処理面の任意領域に対応するように相対移動可能な、差動排気装置を備えた集束エネルギービームカラムと、を備える集束荷電粒子ビーム装置であって、前記支持部は、前記被処理基板を水平に配置した状態で周縁部のみを支持し、前記支持部に支持された前記被処理基板の下方に、前記被処理基板の被処理領域全体に亘って陽圧を及ぼし、前記被処理基板の自重による撓みを阻止する陽圧チャンバが配置され、前記陽圧チャンバ内に、前記被処理基板の下面に非接触な状態を維持して陰圧を及ぼして前記差動排気装置の吸引力を相殺し、当該被処理基板を挟んで前記差動排気装置と対向する状態を維持して前記差動排気装置に追従して前記被処理基板に相対移動可能な局所陰圧機構を備え、前記差動排気装置は、前記被処理基板の前記被処理面に対向するヘッド部を備え、前記ヘッド部における、前記被処理面と対向する対向面に、当該対向面の中心部を周回するように取り囲んで吸気部が設けられ、前記ヘッド部における前記中心部に、前記被処理面に対する処理を可能にする処理用空間を形成する開口部が設けられ、前記吸気部に真空ポンプが連結され、前記被処理面に前記対向面を対向させた状態で、前記吸気部からの吸気作用により、前記処理用空間を高真空にし、前記対向面における前記吸気部よりも前記中心部に近い位置に成膜用ガスを供給する成膜用ガス供給部が設けられていることを特徴とする。
上記態様としては、集束エネルギービームカラムは、前記ヘッド部における前記対向面と反対側に配置され、前記開口部に連結して前記処理用空間に連通可能な鏡筒を備え、前記鏡筒内に集束エネルギービーム系を内蔵して集束エネルギービームが前記開口部内を通るように出射することが好ましい。
上記態様としては、前記集束エネルギービーム系は、集束イオンビームを出射する集束イオンビーム系であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被処理基板の下面に異物が付着したり、被処理基板の下面が損傷したりすることのない、集束荷電粒子ビーム装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置の断面説明図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置の平面説明図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置における差動排気装置の底面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る集束イオンビーム装置の断面説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る集束イオンビーム装置における差動排気装置および第1浮上パッドを備える集束イオンビームカラムの平面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る集束イオンビーム装置における第2浮上パッドを備える局所陰圧機構の平面図である。
【
図7】
図7は、比較例1を示し、被処理基板の周縁部のみを支持部で保持した例を示す断面説明図である。
【
図8】
図8は、比較例2を示し、被処理基板の下方に陽圧チャンバを備える例を示す断面説明図である。
【
図9】
図9は、比較例2を示し、被処理基板の下方に陽圧チャンバを備え、陽圧チャンバ内には局所陰圧機構を備えない例を示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る集束荷電粒子ビーム装置は、出射するエネルギービームの種類や被処理基板への処理用途に応じて、リペア装置としての集束イオンビーム装置、被処理基板への直接描画機能を有する電子線描画装置、被処理基板の表面状態の観察を可能にする走査電子顕微鏡などに適用できる。
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る集束エネルギービーム装置の詳細を図面に基づいて説明する。本実施の形態は、本発明の集束荷電粒子ビーム装置を、集束イオンビームをエネルギービームとして用いる集束イオンビーム装置に適用した実施の形態である。なお、図面は模式的なものであり、各部材の寸法や寸法の比率や数、形状などは現実のものと異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率や形状が異なる部分が含まれている。
【0016】
[第1の実施の形態]
(集束イオンビーム装置の概略構成)
図1は、第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Aの概略構成を示している。集束イオンビーム装置1Aは、差動排気装置2と、集束エネルギービームカラムとしての集束イオンビームカラム(以下、FIBカラムともいう)3と、支持部4と、陽圧チャンバ5と、局所陰圧機構6と、を備える。
【0017】
(支持部)
図1に示すように、支持部4は、被処理基板10の周縁部を載せた状態で被処理基板10を支持する。
図2に示すように、支持部4は、額縁形状に形成されている。なお、支持部4は、被処理基板10の周縁部を支持する、図示しないチャック機構を備える。本実施の形態では、被処理基板10として大型のフォトマスクを適用する。本実施の形態では、支持部4は、位置固定されている。
【0018】
(差動排気装置)
次に、
図1および
図3を用いて差動排気装置2の構成を説明する。
図3は、差動排気装置2の底面図である。差動排気装置2は、ヘッド部20を備える。
【0019】
ヘッド部20は、被処理基板10の面積に比較してごく小さな面積の円盤形状の金属プレートによって構成されている。ヘッド部20は、X-Y方向に移動することにより、被処理基板10の任意領域に対向し得るようになっている。
【0020】
図3に示すように、ヘッド部20の対向面(下面)には、同心円状に配置された4つの環状溝21,22,23,24が形成されている。ヘッド部20における、これら複数の環状溝21,22,23,24のうち最も内側の環状溝21の内側領域に、被処理基板10の上面(被処理面)に対する処理(集束イオンビーム照射)を可能にする処理用空間を形成する開口部20Aが設けられている。この開口部20Aには、後述するFIBカラム3が連通するように連結される。なお、この説明では、ヘッド部20の中心を取り囲むように形成された溝を「環状溝」と称するが、円形のループ状の溝、方形のループ状の溝、またはループの一部が欠損した例えばC文字形状の溝、間欠的にループ状に並ぶ複数の溝なども含むものと定義する。
【0021】
図1に示すように、最も内側の環状溝21は成膜用ガス供給部を構成し、連結パイプ25を介してデポガス(堆積用ガス、CVD用ガス)を供給する図示しないデポガス供給源に接続されている。環状溝22,23,24は、吸気部として機能し、連結パイプ26を介して図示しない真空ポンプに接続されている。ヘッド部20は、下面を被処理基板10の上面(被処理面)に対向させた状態で、環状溝22,23,24からの空気吸引作用により、開口部20Aの下方の空間を高真空度にする機能を備える。なお、環状溝22,23,24は、連結パイプ26を介さずに、それぞれ異なる真空ポンプに接続されていてもよい。
【0022】
ヘッド部20は、このように高真空度に調整された開口部20Aの下方の空間へ、最も内側の環状溝21から堆積用ガスを供給して、開口部20Aに対向する被処理基板10の領域へCVD成膜を行うことを可能にしている。
【0023】
(集束イオンビームカラム:FIBカラム)
FIBカラム3は、ヘッド部20における被処理基板10と対向する面と反対側の面側(上面側)に配置され、ヘッド部20の開口部20Aに先端部が埋没するように嵌め込まれた状態で連結されている。
【0024】
FIBカラム3は、ヘッド部20の開口部20Aに連通する鏡筒31と、鏡筒31内に内蔵された集束イオンビーム光学系32と、を備える。鏡筒31の上部には、連結パイプ33を介して図示しない真空ポンプが連結されている。FIBカラム3の先端部からは、開口部20A内を通るようにイオンビームIbを被処理基板10に向けて出射するようになっている。
【0025】
集束イオンビーム光学系32は、イオンビームIbを発生させるイオン源、発生したイオンビームIbを集束させるコンデンサレンズ、イオンビームIbを走査する偏向器、イオンビームIbを集束させる対物静電レンズなどを備える。
【0026】
CVDのデポジション用ガスとしては、W(CO)6を用いることができる。基板近傍のW(CO)6に集束イオンビームが照射されると、WとCOに分解され、Wが基板上にデポジションされる。
【0027】
FIBカラム3の上端部には、図示しない昇降手段が設けられている。なお、この昇降手段は、図示しないX-Yガントリステージに連結されている。このため、FIBカラム3および差動排気装置2は、昇降手段による昇降動作や、X-YガントリステージによるX-Y方向への移動が可能である。したがって、本実施の形態では、支持部4に支持された被処理基板10に対して、差動排気装置2およびFIBカラム3が、移動するようになっている。なお、本実施の形態では、差動排気装置2およびFIBカラム3が移動する構成としたが、差動排気装置2およびFIBカラム3が位置固定され、被処理基板10が移動する構成としてもよい。
【0028】
(陽圧チャンバ)
図1および
図2に示すように、陽圧チャンバ5は、上部が開口する直方体の容器状の形状を有する。本実施の形態では、陽圧チャンバ5の底部に空気導入路5Aが設けられている。陽圧チャンバ5は、空気導入路5Aを介して図示しない吐出ポンプから空気が導入され、チャンバ内が陽圧を維持するように設定されている。陽圧チャンバ5の上端縁は、支持部4の内側に沿うように配置されている。したがって、陽圧チャンバ5の開口する上面は被処理基板10の周縁部を除いて被処理基板10の下面の略全面に陽圧を及ぼすように設定されている。なお、本実施の形態では、陽圧チャンバ5内の圧力が、被処理基板10の自重による撓みを阻止して平坦な状態を維持するように、設定されている。
【0029】
(局所陰圧機構)
図1に示すように、陽圧チャンバ5内には、局所陰圧機構6がX-Y方向に移動自在に設けられている。局所陰圧機構6は、上述の差動排気装置2におけるヘッド部20と同等の直径を有する円盤形状を有する。局所陰圧機構6の上面には、多数の吸気口(
図6に示す第2の実施の形態における局所陰圧機構6の吸気口6Aを参照)が均等に配置されている。局所陰圧機構6には、図示しない可撓性を有する配管が連結され、この配管を介して真空引きされるようになっている。この局所陰圧機構6の上面による被処理基板10に対する吸引力は、差動排気装置2およびFIBカラム3側からの吸引に起因する被処理基板10に対する吸引力と同等となるように設定されている。すなわち、局所陰圧機構6の被処理基板10に対する吸引力は、差動排気装置2側の被処理基板10に対する吸引力を相殺するように設定されている。
【0030】
陽圧チャンバ5内には、局所陰圧機構6をX-Y方向に自在に移動させることが可能な図示しない移動機構が設けられている。そして、局所陰圧機構6は、被処理基板10を挟んで差動排気装置2と対向する位置を維持するように、差動排気装置2およびFIBカラム3の移動に追従するように設定されている。なお、本実施の形態では、局所陰圧機構6を上下方向に移動させて位置合わせを可能にする図示しない昇降手段を備える。
【0031】
(第1の実施の形態の集束イオンビーム装置の作用・動作)
以下、本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Aにおける作用・動作について説明する。まず、被処理基板10を搬送し、被処理基板10の周縁部に位置するように位置合わせする。このとき、陽圧チャンバ5に空気導入路5Aから空気導入を行って、被処理基板10を陽圧チャンバ5の上端縁に配置させたときに、被処理基板10が撓まずに水平を維持できるように、陽圧チャンバ5への空気導入状態が適正となるように設定する。そして、被処理基板10を支持部4に載せて、被処理基板10の周縁部を支持部4に支持する。
【0032】
差動排気装置2およびFIBカラム3を被処理基板10における処理を施す領域に対向するように移動させる。このとき、局所陰圧機構6は、局所陰圧機構6の上面が、被処理基板10を挟んで差動排気装置2およびFIBカラム3と対向するように、図示しない移動機構により移動する。
【0033】
その後、差動排気装置2およびFIBカラム3を、被処理基板10との距離が適正になるように移動させる。これと同時に局所陰圧機構6を、被処理基板10との距離が適正になるように図示しない昇降手段により上昇させる。このとき、差動排気装置2およびFIBカラム3も局所陰圧機構6も、被処理基板10とは非接触な状態である。
【0034】
次に、差動排気装置2およびFIBカラム3側の吸引と、局所陰圧機構6側の吸引と、を同程度、または差動排気装置2および局所陰圧機構6の吸引によって生ずる被処理基板10の上方または下方への撓みを抑えることのできる吸引力で同時に行うことにより、被処理基板10が上方または下方へ撓むことを阻止する。
【0035】
そして、FIBカラム3からイオンビームIbを照射して、被処理基板10におけるFIBカラム3が対向する領域の表面観察、表面のパターン修正などの処理を行う。
【0036】
上記処理が終わったら、差動排気装置2およびFIBカラム3を図示しない昇降手段で上昇させて、被処理基板10から所定の距離だけ離間させる。同時に、局所陰圧機構6も図示しない昇降手段で下降させて、被処理基板10から所定の距離だけ離間させる。
【0037】
次に、差動排気装置2およびFIBカラム3を次に処理を行う領域へ、図示しないX-Yガントリステージにより移動させる。これに伴い、局所陰圧機構6を、差動排気装置2およびFIBカラム3と対向する位置まで追従するように移動させる。その後、上記の工程と同様の工程を繰り返すことにより、被処理基板10の周縁部を除く領域全体に、上記と同様の処理を施すことができる。
【0038】
このような修正処理が終了した被処理基板10は、図示しない搬送手段により、周縁部のみを支持した状態で回収される。
【0039】
(比較例1)
ここで、上記第1の実施の形態に対する比較例1について、
図7を用いて説明する。
図7に示すように、支持部4の上に被処理基板10を単に配置しただけでは、被処理基板10の自重で大きな撓みが発生する。半導体装置や比較的小型の表示面を有するFPDでは、撓みを考慮しなくてよい場合もある。しかしながら、近年では、FPDの大型化に伴って、フォトマスクも大型化しており、数メートルの縦横寸法を有する場合もあるため、この撓みの問題は無視することができない。
【0040】
(比較例2)
図8および
図9は、比較例2を示している。この比較例2においては、上記第1の実施の形態と同様の支持部4と、陽圧チャンバ5と、を備えている。
図8は、陽圧チャンバ5の作用により、被処理基板10の水平を保って平坦性を維持した状態である。このような状態においては、
図9に示すように、差動排気装置2およびFIBカラム3により処理(観察、修正など)を行った場合、差動排気装置2およびFIBカラム3側の吸引力により、被処理基板10が局所的に盛り上がった状態となってしまう。
【0041】
(第1の実施の形態の効果)
上述のように、第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Aによれば、被処理基板10をテーブル状のステージに配置することを回避できるため、被処理基板10における周縁部を除く有効な領域の下面にパーティクルなどの異物が付着したり、被処理基板10の下面をステージなどにより損傷したりすることを防止できる。
【0042】
[第2の実施の形態]
図4から
図6を用いて、本発明の第2の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Bについて説明する。
図4および
図5に示すように、この集束イオンビーム装置1Bでは、差動排気装置2の外側に、差動排気装置2を取り囲むように第1浮上パッド7が周回して一体に設けられている。この第1浮上パッド7は、不活性ガスとしての窒素ガス(N
2)を供給する吐出ポンプに図示しない連結パイプを介して接続されている。この第1浮上パッド7は、扁平な環状のパイプ形状であり、下面に複数のスリット状または円形状の開口が形成され、この開口から不活性ガスを吐出するようになっている。第1浮上パッド7から吐出される不活性ガスは、被処理基板10の上面を付勢する。
【0043】
図4および
図6に示すように、本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Bでは、局所陰圧機構6の外側に、局所陰圧機構6を取り囲むように第2浮上パッド8が周回して一体に設けられている。この第2浮上パッド8は、空気を供給する図示しない吐出ポンプに図示しない連結パイプを介して接続されている。この第2浮上パッド8も第1浮上パッド7と同様の大きさの扁平な環状のパイプ形状である。
図6に示すように、第2浮上パッド8の上面には、局所陰圧機構6の上面に形成された吸気口6Aと同様な排気口8Aが形成されている。この排気口8Aから吹き出す空気は、被処理基板10の下面を付勢する。本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Bの他の構成は、上記した第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Aと略同様である。
【0044】
第1浮上パッド7は、被処理基板10の上面へ向けて不活性ガスを吹き付けてガスカーテンを形成する。このため、第1浮上パッド7は、差動排気装置2およびFIBカラム3を被処理基板10から離れる方向へ付勢する。また、不活性ガスを使用することで、鏡筒31内を不活性ガスでパージ可能とし、環境改善となる。また、第1浮上パッド7は、不活性ガスの吹き付けにより、差動排気装置2およびFIBカラム3を被処理基板10から離れる方向へ付勢して差動排気装置2およびFIBカラム3を浮上させる効果がある。このため、本実施の形態では、差動排気による真空圧を相殺する効果がある。
【0045】
特に、第1浮上パッド7は、差動排気装置2およびFIBカラム3と被処理基板10との接触を阻止する作用を有する。同様に、第2浮上パッド8は、吐出させる空気により局所陰圧機構6とこの第2浮上パッド8とが、被処理基板10に対して接触すること阻止する作用を有する。これら第1浮上パッド7および第2浮上パッド8においては、被処理基板10に対して気体を吐出させているため、被処理基板10でこのような気体の吐出を阻止しようとしてもその反発力が非常に大きくなる。このため、これら第1浮上パッド7および第2浮上パッド8を備えることにより、差動排気装置2およびFIBカラム3と、局所陰圧機構6と、が被処理基板10への接触を回避する能力を高めることができる。
【0046】
[その他の実施の形態]
以上、本発明の第1および第2の実施の形態について説明したが、これら実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0047】
例えば、上記の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1A,1Bは、エネルギービームとして集束イオンビームを適用したが、本発明は、エネルギービームとしてレーザ光を用いるレーザCVDやレーザエッチングを行うリペア装置などに適用することも勿論可能である。
【0048】
上記の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1A,1Bは、リペア装置に適用して説明したが、この他に、被処理基板への直接描画機能を有する電子線描画装置、被処理基板の表面状態の観察を可能にする走査電子顕微鏡などに適用可能である。
【0049】
上記の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1A,1Bでは、ヘッド部20として、円盤形状の金属プレートを用いたが、差動排気機能を実現する構造であれば、これに限定されるものではない。
【0050】
上記の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1A,1Bでは、支持部4や陽圧チャンバ5を位置固定したが、逆に支持部4や陽圧チャンバ5を被処理基板10に対して移動させる構成としてもよい。
【0051】
上記の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1A,1Bおいて、差動排気装置2に形成する環状溝の数は、4本に限定されるものではなく、少なくとも排気と吹き出しを行う2本以上を備えればよく、環状溝ではなく多数の開口部を均一に配置する構造としてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1A,1B 集束イオンビーム装置
2 差動排気装置
3 集束イオンビームカラム(FIB)
4 支持部
5 陽圧チャンバ
5A 空気導入路
6 局所陰圧機構
6A 吸気口
7 第1浮上パッド
8 第2浮上パッド
8A 排気口
10 被処理基板
20 ヘッド部
20A 開口部
21,22,23,24 環状溝
25,26 連結パイプ
31 鏡筒
32 集束イオンビーム光学系
33 連結パイプ