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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用の多孔質電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20240416BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240416BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240416BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240416BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240416BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240416BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240416BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20240416BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240416BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240416BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240416BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240416BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20240416BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20240416BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240416BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20240416BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20240416BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20240416BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20240416BHJP
   H01C 17/00 20060101ALI20240416BHJP
   H01F 41/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/48
H01M4/485
H01M4/587
H01M10/04 Z
H01M10/058
H01M10/0568
H01M10/052
H01M4/88 K
H01G11/86
H01G11/62
H01G11/06
H01G11/36
H01G11/46
H01G11/50
H01G9/00 290D
H01C17/00
H01F41/00 Z
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020561039
(86)(22)【出願日】2019-05-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 FR2019051028
(87)【国際公開番号】W WO2019215407
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】1853920
(32)【優先日】2018-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514110783
【氏名又は名称】アイ テン
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギャバン ファビアン
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-042790(JP,A)
【文献】特表2017-529645(JP,A)
【文献】米国特許第05561004(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0037660(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
H01M 4/48
H01M 4/485
H01M 4/587
H01M 10/04
H01M 10/058
H01M 10/0568
H01M 10/052
H01M 4/88
H01G 11/86
H01G 11/62
H01G 11/06
H01G 11/36
H01G 11/46
H01G 11/50
H01G 9/00
H01C 17/00
H01F 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質電極の製造方法であって、
前記電極は、基板に堆積された層を含み、
前記層は、バインダを含まず、多孔度が30体積%超え、平均直径が50nm未満の細孔を有し、
(a)平均一次直径D50が80nm以下の、少なくとも1つの材料Pのナノ粒子の凝集体又は塊であって、平均直径が80~300nmである凝集体又は塊を含む、コロイド懸濁液を準備し、
(b)基板を準備し、
(c)多孔質の、電極層を、電気泳動、インクジェット、ドクターブレード、ロールコーティング、カーテンコーティング又はディップコーティングによって、ステップ(a)で準備した前記コロイド懸濁液から、前記基板に堆積し;
(d)ステップ(c)で得た前記層を、乾燥し、
(e)任意で、プレス及び/又は加熱によって、ステップ(d)で得た多孔質の、電極層を固化する、
多孔質電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質電極の製造方法において、
(a1)一次直径D50が80nm以下の、少なくとも1つの材料Pのナノ粒子を含むコロイド懸濁液を準備し;
(a2)前記コロイド懸濁液に存在する前記ナノ粒子を、平均直径が80~300nmの、粒子の凝集体又は塊を形成するように不安定化し、;
(b)基板を準備し;
(c)メソポーラス電極層を、電気泳動、インクジェット、ドクターブレード、ロールコーティング、カーテンコーティング又はディップコーティングによって、ステップ(a2)で得たナノ粒子の凝集体又は塊を含む前記コロイド懸濁液から、前記基板に堆積し;
(d)前記層を、乾燥し;
(e)任意で、プレス及び/又は加熱によって、ステップ(d)で得た多孔質電極層を固化する、
多孔質電極の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多孔質電極の製造方法において、
ステップ(c)で得られる堆積物は、厚さが、10μm未満である、多孔質電極の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の多孔質電極の製造方法において、
前記ナノ粒子の直径は、10~50nmである、多孔質電極の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔質電極の製造方法において、
細孔の平均直径は、2nm以上50nm未満である、多孔質電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の多孔質電極の製造方法において、
前記多孔質電極の多孔度は、35~50体積%である、多孔質電極の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の多孔質電極の製造方法において、
前記電極がカソードであり、前記材料Pが以下によって形成される群から選択される、多孔質電極の製造方法:
・ 酸化物LiMn、Li1+xMn2-xであり0<x<0.15、LiCoO、LiNiO、LiMn1.5Ni0.5、LiMn1.5Ni0.5-xでありXはAl、Fe、Cr、Co、Rh、Nd、及び他の希土類から選択され0<x<0.1、LiMn2-xでありM=Er、Dy、Gd、Tb、Yb、Al、Y、Ni、Co、Ti、Sn、As、Mg又はこれらの化合物の混合物であり0<x<0.4、LiFeO、LiMn1/3Ni1/3Co1/3、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiAlMn2-xであり0≦x<0.15、LiNi1/xCo1/yMn1/zでありx+y+z=10;
・ リン酸塩LiFePO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPO、Li(PO;式LiMM'POのリン酸塩でありM及びM'(M≠M')がFe、Mn、Ni、Co、Vから選択され;
・ 以下のカルコゲニドのすべてのリチウム形態:V、V、TiS、オキシ硫化チタン(TiOでありz=2-y且つ0.3≦y≦1)、オキシ硫化タングステン(WOであり0.6<y<3且つ0.1<z<2)、CuS、CuS
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の多孔質電極の製造方法において、
前記電極がアノードであり、前記材料Pが以下によって形成される群から選択される、多孔質電極の製造方法:
・ カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト;
・ リン酸鉄リチウム(一般式LiFePOのもの);
・ ケイ素及びスズのオキシ窒化物(一般式SiSnでありa>0、b>0、a+b≦2、0<y≦4、0<z≦3)(SiTONとも呼ばれる);同様に、一般式SiSnの酸窒化物-炭化物でありa>0、b>0、a+b≦2、0<c<10、0<y<24、0<z<17;
・ 以下のタイプの窒化物:Si、Sn Zn、Li3-xN(M=Coの場合は0≦x≦0.5、M=Niの場合は0≦x≦0.6、M=Cuの場合は0≦x≦0.3);Si3-xでありM=Co又はFe且つ0≦x≦3,
・ 以下の酸化物:SnO、SnO、LiSnO、SnSiO、LiSiO(x>=0及び2>y>0)、LiTi12、TiNb、Co、SnB0.60.42.9及びTiO
・ 0~10重量%の炭素を含む複合酸化物TiNbであるもの。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の多孔質電極の製造方法において、
ステップ(d)又はステップ(e)の後に、ステップ(f)中に、電気絶縁材料の層を多孔質層の細孔に及び前記細孔内に、堆積する、多孔質電極の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の多孔質電極の製造方法において、
前記電気絶縁材料は、Al、SiO、ZrOから選択される、多孔質電極の製造方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の多孔質電極の製造方法において、
ステップ(d)の後又はステップ(e)の後に、ステップ(f)中に、LiPO、LiBO、リチウムランタンジルコニウム酸化物、から選択されるイオン伝導材料の層を、多孔質層の細孔に及び前記細孔内に、堆積する、多孔質電極の製造方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の多孔質電極の製造方法の使用であって、
電子的、電気的又は電気技術的デバイスにおける、多孔質電極の製造のための、使用。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか1項に記載の多孔質電極の製造方法を実施して、バッテリを製造するバッテリの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載のバッテリの製造方法であって、以下のステップを含む、バッテリの製造方法:
(1)平均一次直径D50が50nm以下である少なくとも1つのカソード材料のナノ粒子の凝集体又は塊を含むコロイド懸濁液を準備し;
(2)平均一次直径D50が50nm以下である少なくとも1つのアノード材料のナノ粒子の凝集体又は塊を含むコロイド懸濁液を準備し、
(3)少なくとも2つの、平坦な導電基板を準備し、該導電基板は、バッテリの集電体として使用でき、
(4)カソード、アノードの少なくとも1つの層を、ステップ(1)、ステップ(2)でそれぞれ準備した材料のナノ粒子の懸濁液から、ディップコーティング、インクジェット、ドクターブレード、ロールコーティング、カーテンコーティング又は電気泳動により、ステップ(3)で準備した前記基板に堆積し、
(5)ステップ(4)で得た層を乾燥し、
(6)任意で、電気絶縁材料の層を、ALDにより、ステップ(5)におけるカソード及び/又はアノードの前記層の細孔及び細孔内に堆積し、
(7)電気絶縁材料又はイオン伝導材料又は電気絶縁材料で且つイオン伝導材料でもあり得る、膜を、平均一次直径D50が50nm以下及び平均直径D50が約100nmの、この凝集体また塊のナノ粒子のコロイド懸濁液から、ステップ(5)及び/又はステップ(6)でそれぞれ得たカソード、アノードの層に、堆積し、
(8)ステップ(7)で得た層を乾燥し、
(9)カソード及びアノードの連続する交互の層を含む積層体を実現し、
(10)ステップ(8)で得た膜をアノード及びカソードの層に並置するように、且つ、組み立てられた積層体を得るように、ステップ(9)で得たアノード及びカソードの層をホットプレスし、
(11)ステップ(10)で得た構造を、リチウムイオン保持相により含浸し、含浸された構造を得る。
【請求項15】
請求項4に記載のバッテリの製造方法において、
ステップ10及び11の間に、以下を行う、バッテリの製造方法:
- 組み立てられた積層体に、連続して、交互に、一連の層によって、すなわち、以下を含むシーケンスによって、構成された封止システムを堆積する:
・ 組み立てられた積層体に堆積された、第1の被覆層、
・ 電気絶縁材料で構成され、前記第1の被覆層に原子層堆積によって堆積された、第2の被覆層、
・ このシーケンスは、z≧1でz回繰り返すことができ、
- 最後の被覆層は、エポキシ樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン、シリコーン、ゾルゲルシリカ又は有機シリカから選択される材料から構成され、この連続した層に堆積し、
- この封止された組み立てられた積層体を、前記封止システムが前記組み立てられた積層体の6つの面のうちの4つを、切断面に組み立てられた積層体のアノード及びカソード接続部のそれぞれが露出するように、2つの切断面に沿って切断し、
そして、ステップ11の後、
- これらのアノード及びカソード接続部及びその周囲に、連続して、以下を堆積する:
・ グラファイトを充填した材料の第1の層、
・ 前記第1の層に堆積する、銅のナノ粒子が充填されたインクから得られた金属銅を含む第2の層、
- 得られた層を、熱処理し、
- この金属銅の層に及びその周りに連続して、以下を堆積してもよい:
・ 堆積されるスズ-亜鉛合金の第1の層、及び、
・ 電着によって堆積された純粋なスズベースの第2の層、又はスズ-亜鉛合金の前記第1の層に堆積される銀、パラジウム及び銅ベースの合金を含む第2の層。
【請求項16】
請求項15に記載のバッテリの製造方法において、
前記アノード及びカソード接続部は、前記積層体の反対側にある、バッテリの製造方法。
【請求項17】
多孔度が30体積%超えであり、
平均直径が80nm未満の細孔を有し、
一次粒子直径が30nm未満である、多孔質電極であって、
厚さが100μm未満である、多孔質電極。
【請求項18】
請求項17に記載の多孔質電極であって、
前記細孔は、電解質によって、含浸された、多孔質電極。
【請求項19】
請求項18に記載の多孔質電極であって、
前記細孔が、少なくとも50重量%の少なくとも1つのイオン液体を含む、リチウムイオン保持相によって含浸されている、多孔質電極。
【請求項20】
請求項17~19のいずれか1項に記載の多孔質電極を少なくとも1つ備える、バッテリ。
【請求項21】
請求項20に記載のバッテリであって、
その電極のすべてが、請求項17~19のいずれか1項に記載の多孔質電極である、バッテリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学の分野に関し、特に電気化学システム、より具体的には薄層電気化学システムに関する。これは、より正確には、高出力バッテリ(特にリチウムイオンバッテリ)、スーパーキャパシタ、燃料電池及び太陽電池などの電気化学システムで使用できる電極に関する。これは、アノード及びカソードに利用される。本発明は、多孔質電極に関する;それらは液体電解質で含浸され得る。
【0002】
本発明はまた、電極材料のナノ粒子を実装する、好ましくは薄層としての、そのような多孔質電極を製造する方法、及びそうして得られた電極に関する。本発明はまた、これらの電極の少なくとも1つを備えた電気化学デバイスの製造方法、及びそのようにして得られたデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
電気エネルギーを貯蔵するための多くの技術がある;特定の利用では、選択はとりわけ電力要請(Wで表される)及びエネルギー要請(Whで表される)による。例えば、比較的短期間で高電力が求められる場合は、キャパシタ又はスーパーキャパシタが優れた解決策となり得る。それらは、絶縁膜によって分離された2つの多孔質電極(ほとんどの場合、良好な電子伝導性を確保するために活性炭で構成されている)で構成されている;電極は、電極の表面に電気エネルギーを貯蔵できる二重電気層を形成する、電解質に浸漬されている。これらのデバイスは、非常に速い充電時間及び放電時間を特徴とする。
【0004】
電気自動車、携帯電話又はコンピューターで使用される電気エネルギーの貯蔵は、かなり長期間にわたって提供される高電力など、さまざまなニーズを満たさなければならない。リチウムイオンバッテリがしばしば使用される。それらは、正極、電解質及び負極を備える。その動作中、リチウムのイオンは、電解質を介して電極の一方から他方に移動する。バッテリの充電中、ある量のリチウムが、電解質から正極の活物質と反応し、等量のリチウムイオンが、負極の活物質から電解質に挿入され、そのようにして、リチウムイオンの濃度は電解質中で一定に保たれる。電極を形成する材料へのリチウムの挿入は、外部回路を介した負極からの電子の供給によって相殺され、そのようにして、バッテリは電流を供給できる。充電中は、その逆の現象が起こる。
【0005】
リチウムイオンバッテリの電力密度は、活物質(電極、電解質)の厚さでのリチウムイオンの拡散がかなり遅いこと及び電解質内でリチウムイオンを輸送する時間のせいで、スーパーキャパシタの電力密度よりも全体的に小さい。リチウムイオンバッテリの貯蔵容量は、とりわけその電極、特に電極内に存在する活物質の量に依存し、より小さな程度でそれらの厚さ依存する:密度及び表面が同じである場合、電極が厚いほど、バッテリのエネルギー貯蔵容量は大きくなる。しかし、バッテリの内部抵抗(直列抵抗)は、層の厚さが大きくなると、大きくなる。
【0006】
従来のリチウムイオンバッテリの性能を超えるために、大きな貯蔵容量及び大きな充放電力を備えた材料が求められている。より正確には、高エネルギー密度、高電力密度及び長寿命(カレンダ期間並びに充電及び放電サイクルの数で表される)を備えたバッテリが望まれている;特定の用途では、低温でも良好に動作するバッテリが求められている(温度が下がるとバッテリ内部の直列抵抗が増加することを知られている)。さらに、バッテリは、貯蔵する可能性のある大量のエネルギーに照らして、誤動作の場合に安全上のリスクがあってはならない;例えば、発火してはならない。最後に、リチウムバッテリのさまざまな構成要素は、安定で且つ安価な方法で、低コストでバッテリを製造できるように選択する必要がある。
【0007】
有機バインダによって連結されたマイクロメートルサイズの活性電極材料の粒子を使用するリチウムイオンバッテリなどの電気化学セルが知られている。WO02/075826は、メソ構造の電極材料及び有機バインダから構成された、電気化学セル用の電極を開示している。有機バインダは電子絶縁体であるため、電子伝導体である炭素粒子が充填されている。これらの電極は、大きな比表面積での接合を形成するように、電解質で含浸できる三次元メソポーラス構造を有する。電極の三次元構造は、大きな活性表面積を有する従来の電極に固有の電解質中のイオン拡散の問題を克服し、相互接続性及び液体有機電解質の多孔質空間全体への接近を確保することを可能にする。構造の機械的安定性は、メソポーラス電極内の有機バインダによって実質的に与えられる。
【0008】
有機バインダの存在は、WO02/075826に記載されている電極の本質的な特徴であるが、いくつかの欠点がある。電子伝導性粒子で充填された有機バインダは、熱サイクル中に不具合を引き起こし得る:有機バインダによって互いに結合された電極材料の粒子は、局所的に電気的接触を失う場合があり、その結果、バッテリの直列抵抗が徐々に大きくなる。有機バインダの存在はまた、バッテリの動作温度を制限し、それでも火災の危険性がある。
【0009】
そして最後に、有機バインダの存在は、特定の製造方法と、特に真空堆積及び/又は高温での堆積をともなう方法と、両立できない場合があるからである。さらに、バインダの存在は、ALDによって生成したコーティングがコンフォーマルとなること、及び、その役割を果たすこと、すなわち、電極と電解質との間で発生し得るパラサイト反応を防ぐことを、妨げる場合がある。しかし、ALDによってこれらの堆積を行うと、これらの電極の寿命が長くなり、さらには、電極を含むバッテリの経時的な抵抗において都合がよい。バッテリ内に有機バインダが存在すると、最適な方法での封止が妨げられる。
【0010】
さらに、リチウムイオンバッテリなどのこれらの電気化学セルでは、通常、50重量%を超える溶媒を含む電解質を使用する。これには、誤動作の場合の安全上のリスクがある;これらのバッテリは発火する場合がある。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、前述の先行技術の短所の少なくとも一部を克服するためのものである。
【0012】
より正確には、本発明が解決しようとしている問題は、シンプル、安全、高速、実施が容易、安価であり、有機バインダ及び/又はグラファイトなどの電子導電材料の使用を克服できる、制御された細孔密度を有する多孔質電極を製造する方法を提供することである。
【0013】
本発明はまた、高いイオン伝導性、安定した機械的構造、良好な熱安定性及び長い寿命を有する安全な多孔質電極を提案することを目的とする。
【0014】
本発明の別の目的は、信頼性における問題がなく、そして火災の危険のない、高温で作動できるバッテリ用の電極を提案することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、前述の特徴に加え、小さな界面抵抗を有する多孔質電極を提案することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、前述の特徴に加え、イオン液体によって容易に濡らされ且つ含浸され得る多孔質電極を提案することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、パラサイト反応が最小限に抑えられた電解質で含浸させた多孔質電極を提案することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、本発明に係る多孔質電極を備える、バッテリ、キャパシタ、スーパーキャパシタ、太陽電池などの、電子的、電気的又は電気技術的デバイスの製造方法を提供することにある。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、高エネルギー密度を貯蔵でき、非常に大きな電力密度でこのエネルギーを回復でき(特にキャパシタ及びスーパーキャパシタ)、高温に耐性があり、長い寿命を有し、且つ、ALDによって高温下で堆積されたコーティングによって封止できる、バッテリ、リチウムイオンバッテリセル、キャパシタ、スーパーキャパシタ、太陽電池などのデバイスを提案することにある。
【0020】
本発明の対象
本発明によれば、この問題は、多孔度が30体積%を超えの多孔質構造を有する少なくとも1つの電極を使用することによって解決される。非常に好ましくは、この多孔性はメソ多孔性(mesoporosity)である。この電極は、電極材料のナノ粒子のコロイド懸濁液からの電気泳動によって堆積できる。好ましくは、それはバインダを含まない。本発明の本質的な特徴によれば、この懸濁液は、ナノ粒子の凝集体(aggregates)又は塊(agglomerates)を含む。
【0021】
本発明の第1の対象は、好ましくは薄層を含む、多孔質電極の製造方法であって、前記電極は、基板に堆積された層を含み、前記層は、バインダを含まず、多孔度が30体積%超えであり、平均直径が50nm未満の細孔を有し、
(a)平均一次直径D50が80nm以下の、好ましくは50nm以下の、少なくとも1つの材料Pのナノ粒子の凝集体又は塊であって、平均直径が80~300nm(好ましくは100~200nm)である凝集体又は塊を含む、コロイド懸濁液を準備し、
(b)基板を準備し、
(c)多孔質の、好ましくはメソポーラスの、電極層を、電気泳動、インクジェットプリント(以下、「インクジェット」という。)、スクレイピング(以下、「ドクターブレード」という。)、ロールコーティング、カーテンコーティング又はディップコーティングによって、ステップ(a)で準備した前記コロイド懸濁液から、前記基板に堆積し;
(d)ステップ(c)で得た前記層を、好ましくは空気流中で、乾燥する、
製造方法である。
【0022】
ステップ(a)及び(b)の順序は重要ではない。
【0023】
ステップ(d)の後に、ステップ(e)を加えてもよい。ステップ(e)は、プレス及び/又は熱処理(すなわち、加熱)によって、ステップ(d)で得た多孔質の、好ましくはメソポーラスの、電極層を固化する。得られる電極の性能を改善するために、ステップ(d)の後に、おそらくプレスステップの前に、熱処理ステップを追加するできる。使用する材料に応じて、この熱処理(すなわち加熱)は、層の質感(the texturing)を改善し、層の結晶状態を改善し、ナノ粒子の焼結を改善し又は層の基板への付着を改善し得る。凝集したナノ粒子のコロイド懸濁液から得られた多孔質電極層に行う熱処理は、ナノ粒子の塊、すなわちこれらのナノ粒子間の強い結合の生成に、有利にはたらく。熱処理は、圧力を加えると同時に行ってもよい。
【0024】
有利には、ステップ(c)で、電気泳動による堆積を定常定電流電着(stationary galvanostatic electrodeposition)により又はパルスモード定電流電着(pulsed-mode galvanostatic electrodeposition)により行う。有利には、多孔質電極の全体の多孔度は、50体積%を超えない。有利には、細孔の平均直径は2~80nm、好ましくは2~50nm、好ましくは6~30nm、より好ましくは8~20nmである。
【0025】
実施形態に係る方法では、以下のように行う:
(a1)一次直径D50が80nm以下の、好ましくは50nm以下の、少なくとも1つの材料Pの、好ましくは単分散の、ナノ粒子を含むコロイド懸濁液を準備し;
(a2)前記コロイド懸濁液に存在する、好ましくは単分散の、ナノ粒子を、平均直径が80~300nmの、好ましくは100~200nmの、粒子の凝集体又は塊を形成するように不安定化し、該不安定化は、好ましくは、塩などの、好ましくはLiOHなどの、不安定化剤を添加することによって行い;
(b)基板を準備し;
(c)多孔質電極層を、電気泳動、インクジェット、ドクターブレード、ロールコーティング、カーテンコーティング又はディップコーティングによって、ステップ(a2)で得たナノ粒子の凝集体又は塊を含む前記コロイド懸濁液から、前記基板に堆積し;
(d)前記層を、好ましくは空気流中で、乾燥し、
ステップ(d)の後に、プレス及び/又は熱処理(すなわち、加熱)によって、好ましくは、プレスステップに先行してもよい熱処理によって、得られる電極の性能を改善するために、ステップ(d)で得た多孔質電極層を固化するステップ(e)を加えてもよい。熱処理は、プレスと同時に行ってもよい。
【0026】
ステップ(a1)及び(b)の順序は重要ではない。
【0027】
有利には、ステップ(c)で、好ましくは電気泳動により得られる、堆積物は、厚さが、10μm未満、好ましくは8μm未満、より好ましくは1~6μmである。
【0028】
凝集体又は塊を形成する前記一次ナノ粒子は、好ましくは単分散したもの、すなわち、それらの一次直径の分布の幅が狭いものである。これは、より良好な多孔度の制御を可能にする。有利には、前記ナノ粒子の直径は、10~50nm、好ましくは10~30nmである。
【0029】
熱処理により、材料Pのナノ粒子の部分的な癒着(ネッキングと呼ばれる現象)が起き、これは、ナノ粒子間の電子の伝導を促進する。ナノ粒子は、この構造変化の駆動力である大きな表面エネルギーを有している;これは、材料の融点よりもはるかに低い温度で、且つ、かなり短い処理時間後に、発生する。このように、リチウムイオンが粒界又はバインダの層によって遅くならない移動度を有する、三次元多孔質構造が形成される。凝集したナノ粒子のこの部分的な癒着は、凝集体の塊への変形を可能にする。熱処理によって引き起こされる塊となったナノ粒子の部分的な癒着は、三次元メソポーラス構造の固化を可能にする。
【0030】
さらに、イオン伝導も、本発明に係る電極を含浸した電解質によって提供され得る。この構造はまた、層の機械的抵抗が良好である。
【0031】
懸濁液が十分に精製されていない場合、凝集体、塊は、それぞれ、水熱合成の直後に得ることもできる:懸濁液のイオン強度によって、一次ナノ粒子の凝集、塊ができ、サイズのより大きな粒子の凝集、塊が、それぞれ形成される。
【0032】
特定の実施形態では、ステップ(d)又はステップ(e)の後に、好ましくは原子層堆積ALDによって、ステップ(f)中に、電気絶縁材料の層を、多孔質、好ましくはメソポーラスの層の細孔に及び細孔内に、堆積する。この電気絶縁材料は、Al、SiO、ZrOから選択できる。この被覆コーティングは、通常、1~5nmの厚さを有する。これにより、多孔質電極層と電解質との間における界面ファラデー反応(the interfacial faradic reactions)を抑制することが可能になる。これらの層の堆積は、頭字語CSD(Chemical Solution Deposition)で知られている、化学溶液による堆積であってもよい。
【0033】
あるいはこれに代えて、ステップ(d)の後又はステップ(e)の後に、好ましくはALD又はCSDによって、ステップ(f)中に、LiPO、LiBO、リチウムランタンジルコニウム酸化物、好ましくはLiLaZr12、から選択されるイオン伝導材料の層を、多孔質の、好ましくはメソポーラスの、層の、細孔に及び前記細孔内に、堆積する。被覆コーティングの厚さは、典型的には、1~5nmである。
【0034】
本発明の別の対象は、リチウムイオンバッテリで使用できる多孔質の、好ましくはメソポーラスの、電極に関する。本発明の別の対象は、多孔度が30体積%を超え、細孔の平均直径が80nm未満、好ましくは50nm未満であり、一次粒子の直径が30nm未満であり、好ましくは、厚さが100μm未満、好ましくは50μm未満、より好ましくは10μm未満であり、バインダを含まないことを特徴とする、多孔質の、好ましくはメソポーラスの、電極に関する。
【0035】
有利には、前記の多孔質の、好ましくはメソポーラスの、電極の細孔は、電解質によって、好ましくは、有機溶媒で、若しくはイオン液体に溶解したものとは異なり得るリチウム塩を含む有機溶媒混合物で、希釈されていてもよい、リチウム塩を含むイオン液体などの、又は好ましくはリチウムイオン保持相全体の50重量%を超える少なくとも1つのイオン液体で希釈された溶媒などの、リチウムイオン保持相によって、含浸されている。
【0036】
有利には、前記の多孔性の、好ましくはメソポーラスの、電極の細孔は、少なくとも50重量%の少なくとも1つのイオン液体を含む、リチウムイオン保持相で含浸されている。
【0037】
本発明の別の対象は、本発明に係る多孔質電極の製造方法を実施して、バッテリを製造する製造方法に関する。
【0038】
本発明の別の対象は、本発明に係る方法によって得られる少なくとも1つの多孔質電極を備えるバッテリに関する。本発明の別の対象は、そのすべての電極が本発明に係る方法によって得られる多孔質電極である、バッテリに関する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1A】回折図を示す図である。
図1B】透過型電子顕微鏡法によって得られた、本発明に係る電極の、電気泳動による堆積に使用される一次ナノ粒子のスナップショットを示す図である。
図2A】熱処理前のナノ粒子を示し、ネッキング現象を示す図である。
図2B】熱処理後のナノ粒子を示し、ネッキング現象を示す図である。
図3】本発明に係る電極を備えるバッテリを引き出した正面図を概略的に示し、封止システムによって覆われた基本セルの組立物及び終端部を備えるバッテリの構造を示す図である。
図4】バッテリを引き出した正面図であり、集電体として使用される基板に分散した多孔質電極の詳細IVを拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1及び2は、本発明の実施形態の異なる態様を示すが、その範囲を限定するものではない。
【0041】
図面で使用されている符号のリスト:
【0042】
【表1】
【0043】
詳細な説明
1.定義
本明細書の文脈では、粒子サイズはその最大寸法によって定義される。「ナノ粒子」とは、その寸法の少なくとも1つが100nm以下であるナノメートルサイズのあらゆる粒子又は物体を指す。
【0044】
「イオン液体」とは、電気を輸送でき、100℃未満の溶融温度によってすべての溶融塩とは区別される、あらゆる液体の塩を指す。これらの塩のいくつかは、周辺温度で液体であり、非常に低い温度でも固体とならない。このような塩は「周辺温度でのイオン液体」という。
【0045】
「メソポーラス材料」とは、その構造内に、サイズがミクロ細孔(幅2nm未満)及びマクロ細孔(幅50nm超え)の中間である、つまり2~50nmの、「メソ細孔」と呼ばれる細孔がある、あらゆる固体を指す。この用語は、当業者のための参照としてのIUPAC(国際純正・応用化学連合)によって採用された用語に対応する。したがって、前記で定義されたようなメソ細孔は、ナノ粒子の定義に関してナノメートルの寸法を有するが、「ナノ細孔」という用語はここでは使用しない。メソ細孔のサイズよりも小さいサイズの細孔は、当業者によって「ミクロ細孔」と呼ばれることが知られている。
【0046】
多孔質の概念(及び前記で開示された用語)の提示は、「Techniques de l’Ingenieur」 traite Analyse et Caracterisation, fascicule P 1050に掲載された、F.Rouquerolらによる「Texture des materiaux pulverulents ou poreux」に記載されている;この記事には、多孔度を特定する技術、特にBET法についても記載されている。
【0047】
本発明に関して、「メソポーラス電極」又は「メソポーラス層」は、それぞれ、メソ細孔を有する電極又は層を指す。以下で説明するように、これらの電極又は層では、メソ細孔が総多孔質体積に大きく寄与する;この状態は、以下の説明において「メソポーラス多孔度がX体積%を超えるメソポーラス電極又は層」という表現を使用して言及される。
【0048】
「凝集体(Aggregate)」は、UPACの定義によれば、一次粒子が弱く結合した集合体を意味する。ここで、これらの一次粒子は、透過型電子顕微鏡で測定できる直径を有するナノ粒子である。当業者に知られた技術によれば、凝集した一次ナノ粒子の凝集体は、通常、超音波の影響下で、破壊され(すなわち、一次ナノ粒子となり)、液相に懸濁できる。
【0049】
UPACの定義によれば、「塊(Agglomerate)」とは、一次粒子又は凝集体が、強く結合した集合体を意味する。
【0050】
本発明によれば、多孔質の、好ましくはメソポーラスの、電極層は、電気泳動的によって、ディップコーティングによって、インクジェット又はドクターブレードによって、ロールコーティングによって、カーテンコーティングによって、そしてナノ粒子の凝集体又は塊の懸濁液から、好ましくは、ナノ粒子の塊を含む濃縮懸濁液から、堆積できる。
【0051】
2.ナノ粒子の懸濁液の調整
本発明の枠組みでは、乾燥ナノ粉末からナノ粒子のこれらの懸濁液を調製しないことが好ましい。それらは、液相で粉末又はナノ粉末の粉砕によって調製できる。本発明の別の実施形態では、ナノ粒子は、沈殿によって直接懸濁液中で調製される。沈殿によるナノ粒子の合成は、単峰性のサイズ分布、すなわち非常にタイトで単分散であり、良好な結晶性及び純度を備えた非常に均質なサイズの一次ナノ粒子を得ることを可能にする。非常に均質なサイズ及び狭い分布のこれらのナノ粒子を使用すると、堆積後に、制御され且つ開口した多孔性を備えた多孔質構造を得ることができる。これらのナノ粒子の堆積後に得られる多孔質構造は、閉じた細孔がほとんどなく、好ましくは全くない。
【0052】
本発明のより好ましい実施形態では、ナノ粒子は、水熱又はソルボサーマル合成によってそれらの一次サイズで直接調製される;この技術により、「単分散ナノ粒子」と呼ばれるサイズ分布が非常に狭いナノ粒子を得ることができる。これらの非凝集の又は塊でない(non-agglomerated)ナノ粉末/ナノ粒子のサイズは、一次サイズと呼ぶ。それは、有利には、10~50nm、好ましくは10~30nmである;これは、ネッキング現象により、この方法の後のステップ中で、電子伝導及びイオン伝導を伴う相互接続されたメソポーラスネットワークの形成に有利である。
【0053】
単分散ナノ粒子のこの懸濁液は、ナノ粒子の凝集や塊をも防ぐように、リガンド又は有機安定剤の存在下で生成できる。
【0054】
単分散ナノ粒子のこの懸濁液は、干渉する可能性のあるすべてのイオンを除去するために精製してもよい。次いで、精製の程度に応じて、特別に処理して、制御された寸法の凝集体又は塊を形成してもよい。より正確には、凝集体又は塊の形成は、特にイオンによって、懸濁液の乾燥抽出物の増加によって、懸濁液の溶媒の変更によって、不安定化剤の添加によって、引き起こされる懸濁液の不安定化から、生じさせてもよい。懸濁液が完全に精製されている場合、それは安定しており、それを不安定にするために、通常は塩の形でイオンを添加する;これらのイオンは、好ましくはリチウムイオン(好ましくはLiOHの形で添加される)である。
【0055】
懸濁液が完全に精製されていない場合、凝集体又は塊の形成は、自発的に又は経時変化によって進行し得る。この方法は、精製ステップが少ないためよりシンプルだが、凝集体又は塊のサイズを制御するのがより困難である。本発明に係る電極の製造のための本質的な態様の1つは、電極材料の一次粒子のサイズ及びそれらの凝集又は塊形成の程度を制御することからなる。
【0056】
ナノ粒子の懸濁液の安定化が塊の形成後に介入する場合、それは塊の形態のままとなる;得られる懸濁液は、メソポーラスの堆積物を生成するために使用できる。
【0057】
そして、本発明によれば、この凝集体又は塊の懸濁液は、多孔質の、好ましくはメソポーラスの、電極層の、電気泳動堆積、インクジェット、ドクターブレード、ロールコーティング、カーテンコーティング又はディップコーティングによる堆積に使用される。
【0058】
出願人の観察によれば、ナノ粒子の凝集体又は塊の平均直径は、方法の後のステップ中で80~300nm(好ましくは100~200nm)であれば、メソ細孔の平均直径が2~50nmである層が得られる。
【0059】
本発明によれば、多孔質電極層は、電気泳動によって、ディップコーティングによって、インクジェットによって、ロールコーティングによって、カーテンコーティングによって又はドクターブレードによって、ロールコーティングによって、カーテンコーティングによって、そしてこれをナノ粒子の凝集体若しくは塊を含む溶液から、好ましくはナノ粒子の塊を含む濃縮溶液の懸濁液から堆積できる。多孔質電極層は、有利には、ナノ粒子の塊を含む濃縮溶液からディップコーティング法によって堆積される。
【0060】
電気泳動、ディップコーティング、インクジェット、ロールコーティング、カーテンコーティング又はドクターブレードによるナノ粒子の凝集体又は塊の堆積方法は、シンプル、安全、実装が容易で、工業化が容易であり、これにより均質な最終多孔質層を得ることができる。電気泳動堆積は、大きな表面に速い堆積速度で均一に堆積することを可能にする技術である。特に浸漬、ロール、カーテン又はドクターブレードによるコーティング技術は、電気泳動堆積の技術に関して溶液槽の管理を単純化することを可能にする。インクジェット堆積は、局所的な堆積を可能にする。
【0061】
ロールコーティング、カーテンコーティング又はドクターブレードにより、厚い層の多孔質電極を、単一ステップの製造で、得ることができる。
【0062】
3.集電体の性質
本発明に係る多孔質電極を使用するバッテリ内の集電体として使用される基板は、金属であってもよく、例えば、金属箔又は金属化された(すなわち金属層でコーティングされた)ポリマー若しくは非金属箔であってもよい。基板は、チタン、銅、ニッケル又はステンレス鋼から構成された箔から選択されることが好ましい。
【0063】
金属箔は、特に金、白金、チタン若しくはこれらの金属の少なくとも1つ以上を主に含む合金から選択される、貴金属の層又はITOタイプの導電性材料の層(拡散バリアとしても機能する利点がある)によってコーティングされていてもよい。
【0064】
本発明に係る多孔質電極を使用するバッテリでは、多孔質電極を含浸する液体電解質は、集電体と直接接触している。しかしながら、これらの電解質が、カソードに対してまさにアノード電位であり、アノードに対してまさにカソード電位である金属及び分極基板と接触している場合、これらの電解質は、集電体の溶解を誘発し得る。これらのパラサイト反応は、バッテリの寿命を短くし、バッテリの自己放電を加速させ得る。これを防ぐために、すべてのリチウムイオンバッテリのカソードにアルミニウム集電体が使用されている。アルミニウムは、まさにアノード電位でアノード酸化するという特殊性を備えており、その表面に形成される酸化物の層がアルミニウムを溶解から保護する。しかしながら、アルミニウムは600℃に近い溶融温度を有し、本発明に係るバッテリの製造に使用できない。全固体電極の固化処理(the consolidation treatments)は、集電体の溶融につながる。したがって、バッテリの寿命を短くし、その自己放電を加速し得るパラサイト反応を防止するために、チタン製の箔を、カソードにおける集電体として有利に使用する。バッテリの動作中、チタン製の箔はアルミニウムのようにアノード酸化し、その酸化物の層は液体電解質と接触するチタンの溶解のパラサイト反応を防ぐ。さらに、チタンはアルミニウムよりもはるかに高い融点を有するので、本発明に係る全固体電極は、このタイプの箔上に直接作製できる。
【0065】
これらのしっかりした材料(massive materials)、特にチタン、銅又はニッケルで構成された箔を使用すると、バッテリの電極の切断端部を腐食現象から保護することもできる。
【0066】
ステンレス鋼も、特に合金元素としてチタン若しくはアルミニウムを含む場合、又は表面に保護酸化物の薄層を有する場合、集電体として使用できる。
【0067】
卑金属箔など、集電体として使用される他の基板を、保護コーティングで覆って使用してもよく、それらと接触する電解質の存在によって引き起こされるこれらの箔の溶解を防ぐことができる。
【0068】
これらの卑金属箔は、銅、ニッケル製の箔、又はステンレス鋼製の箔、Fe-Ni合金、Be-Ni-Cr合金、Ni-Cr合金若しくはNi-Ti合金などの金属合金の箔であってもよい。
【0069】
集電体として使用される基板を保護するために使用できるコーティングは、さまざまな性質のものであってもよい。それは以下のようなものであってもよい:
・ 電極と同じ材料の、ゾルゲル法で得られた薄層。この薄層には多孔性がないので、電解質と金属集電体との接触を防ぐことができる;
・ 電極と同じ材料の、真空蒸着、特に物理蒸着(PVD)又は化学蒸着(CVD)によって得られた、薄層、
・ 金、チタン、プラチナ、パラジウム、タングステン又はモリブデンの薄い金属層など、欠陥のない高密度の薄い金属層。これらの金属は、良好な伝導特性を有し、その後の電極製造方法での熱処理に耐性があるので、集電体を保護するために使用できる。この層は、特に電気化学、PVD、CVD、蒸着、ALDによって形成できる。
【0070】
・ ALD、PVD、CVDによって、又はゾルゲル溶液のインク付けによって堆積された、ダイヤモンドカーボン、グラフィック(graphic)などのカーボンの薄層。これらは、熱処理後にカーボンドープ無機相を得て導電性にできる。
【0071】
・ 酸化物は低電位に還元されるので、カソード基板にのみ堆積されたITO(インジウムスズ酸化物)の層などの導電性酸化物の層。
【0072】
・ 窒化物は低電位でリチウムを挿入するので、カソード基板にのみ堆積されたTiNの層などの導電性窒化物の層。
【0073】
集電体として使用される基板を保護するために使用できるコーティングは、抵抗が大きくなりすぎて、このコーティングに後で堆積される電極の動作を損なわないように、電子伝導性でなければならない。
【0074】
一般に、バッテリセルの動作に過度の影響を与えないために、電極の動作電位で、基板で測定されるμA/cmで表される最大溶解電流は、μAh/cmで表される電極の表面容量の1000分の1でなければならない。
【0075】
4.層の電気泳動堆積
本発明に係る方法は、多孔性の、好ましくはメソポーラスの、電極層の堆積技術として、ナノ粒子の懸濁液の電気泳動を有利に使用した。ナノ粒子の懸濁液から電極層を堆積する方法は、それ自体が知られている(例えば、EP2774194B1を参照)。この基板は、金属、例えば金属箔、又はポリマー箔若しくは金属化された非金属(すなわち、金属の層でコーティングされている)であってもよい。本発明に係る多孔質電極を使用するバッテリ内の集電体として使用される基板は、好ましくは、チタン、銅、ステンレス鋼又はニッケルの箔から選択される。
【0076】
例えば、厚さ5μmのステンレス鋼箔を使用してもよい。金属箔は、特に金、白金、チタン又はこれらの金属の少なくとも1つ以上を主に含む合金から選択される貴金属の層、又はITOタイプの導電性材料の層(拡散バリアとしても機能する利点がある)でコーティングされていてもよい。
【0077】
特定の実施形態では、金属層に、電極材料の層、好ましくは薄層を堆積する;この堆積物は、非常に薄くなければならない(通常は数十ナノメートル、より一般的には10~100nmである)。それはゾルゲル法によって行ってもよい。例えば、LiMnの多孔質カソードにLiMnOを使用してもよい。
【0078】
電気泳動を行うために、カウンタ電極を懸濁液中に配置し、導電性基板と前記カウンタ電極との間に電圧を印加する。
【0079】
有利な実施形態では、ナノ粒子の凝集体又は塊の電気泳動堆積は、パルスモード定電流電着によって行う;高周波電流パルスが印加され、これにより、電極の表面での気泡の形成及び堆積中の懸濁液中の電界の変動が防止される。電気泳動によって、好ましくはパルスモード定電流電着によって、そのように堆積された電極層の厚さは、有利には10μm未満、好ましくは8μm未満であり、より好ましくは1~6μmである。
【0080】
5.ディップコーティングによる多孔質電極層の堆積
使用するナノ粒子の化学的性質に関係なく、ディップコーティング法及びこれによりナノ粒子の凝集体又は塊を堆積できる。この堆積方法は、使用するナノ粒子がほとんど又はまったく帯電していない場合、好ましい。所望の厚さの層を得るために、ナノ粒子の凝集体又は塊をディップコーティングにより堆積するステップと、それに続く得られる層の乾燥のステップとが、必要なだけ繰り返される。
【0081】
浸漬/乾燥によるこの一連のコーティング工程は時間がかかるが、浸漬コーティングによる堆積方法は、シンプルで、安全で、実施が容易であり、工業化が容易な方法であり、均質でコンパクトな最終層を得ることを可能にする。
【0082】
6.堆積した層の処理及び特性
堆積した層は乾燥しなければならず、乾燥は亀裂の形成を引き起こしてはならない。このため、湿度及び温度を制御した状態で行うことが好ましい。
【0083】
乾燥した層は、プレス及び/又は加熱(熱処理)のステップによって固化できる。本発明の非常に有利な実施形態では、この処理は、凝集体又は塊中、及び隣接する凝集体又は塊の間で、一次ナノ粒子の部分的な癒着をもたらす;この現象は「ネッキング」又は「ネック形成」と呼ばれる。これは、接触している2つの粒子が部分的に癒着し、ネック(縮み(shrinkage))で接続されて分離されたままになっていることによって特徴づけられる;これは、図2に示す。リチウムイオン及び電子はこれらのネック内で移動可能であり、粒界に遭遇することなく1つの粒子から別の粒子に拡散できる。ある粒子から別の粒子への電子の伝導を確実にするために、ナノ粒子は一緒に接合される(welded)。このように、強力なイオン移動度及び電子伝導性を備えた相互接続された粒子の3次元ネットワークである;このネットワークには、細孔が、好ましくはメソ細孔が含まれる。
【0084】
「ネッキング」を得るのに必要な温度は、材料によって異なり;その処理の時間は、ネッキングを引き起こす現象の拡散性に照らして、その温度によって異なる。
【0085】
熱処理は、リガンド又は残留有機安定剤など、使用されるナノ粒子の懸濁液に存在する可能性のある有機添加剤を除去するためにも利用できる。使用されるナノ粒子の懸濁液がナノ粒子及び溶媒のみを含む場合、すなわち、それがリガンド又は残留有機安定剤を含まない場合、固化のための熱処理は必要ではない。
【0086】
有利には、乾燥された電極層は、好ましくは固化されて、バインダを含まないが、最大10重量%の炭素を、特にグラフェン、カーボンブラック又はカーボンナノチューブの形態で含んでいてもよい。
【0087】
本発明者らは、本発明に係る、多孔質の、好ましくはメソポーラスの、電極の比表面積が非常に大きいため、液体電解質との使用中に、電極と電解質との間でパラサイト反応が起こり得ることを観察した;これらの反応は、少なくとも部分的に不可逆的である。有利な実施形態では、電極の表面を不動態化し、パラサイトの電気化学反応を制限し、さらにはこれらのパラサイト反応をブロックするために、多孔質の、好ましくはメソポーラスの、電極層を覆う、好ましくは欠陥がない、非常に薄い誘電体層(すなわち、電子絶縁体)を設ける。この誘電体層は、有利には、10-8S/cm未満の電子伝導率を有する。有利には、この誘電体層は、多孔質電極層を乾燥させるステップ(d)後又は多孔質電極層の固化のステップ(e)後で且つステップ(f)中に、好ましくは、原子層堆積ALDの技術によって又は溶液中CSDで化学的に堆積された、多孔質電極層の細孔及び細孔内に堆積された電気絶縁材料の層であってもよい。有利には、この堆積は、電極と電解質との間の界面を形成する電極の少なくとも1つの面に行われる。この層は、例えば、アルミナAl、シリカSiO又はジルコニアZrOで構成されていてもよい。LiTi12は、カソード、又はLiTi12のように、カソードの動作電圧でリチウムを挿入せず、電子絶縁体として動作するという特性を有する別の材料で、使用し得る。
【0088】
あるいはこれに代えて、この誘電体層は、有利には10-8S/cm未満の電子伝導率を有するイオン伝導体であってもよい。この材料は、バッテリの動作電圧でリチウムを挿入せず、輸送するためだけに選択しなければならない。有利には、この誘電体層は、多孔質電極層を乾燥させるステップd)後又は多孔質電極層を固化するステップe)後のステップf)中に、好ましくは原子層堆積ALDの技術によって又は溶液中CSDで化学的に堆積された、多孔質電極層の細孔及び細孔内に堆積されたイオン伝導性材料の層であってもよい。これには、例えば、LiPO、LiBO、LiLaZr12などのリチウムランタンジルコニウム酸化物(LLZOと呼ばれる)を使用できる。これらは、幅広い動作電位を有する。一方、Li3xLa2/3-xTiOなどのリチウムランタンチタン酸化物(略称LLTO)、リン酸リチウムアルミニウムチタン(略称LATP)、リン酸リチウムアルミニウムゲルマニウム(略称LAGP)は、動作電位の範囲が限られているので、カソードとの接触でのみ使用できる;その範囲を超えると、リチウムを結晶構造に挿入できる。
【0089】
この堆積は、本発明に係る少なくとも1つの多孔質電極を含むリチウムイオンバッテリの性能をさらに改善する。観察された改善は、実質的に、電解質との界面ファラデー反応の抑制である。これらのパラサイト反応は、温度が高いときにさらに重大である;それらは、容量の可逆的及び/又は不可逆的な損失の原因となる。
【0090】
非常に有利には、この堆積は、被覆コーティング(コンフォーマル堆積とも呼ばれる)、すなわち、それが適用される基板の原子トポグラフィを忠実に再現する堆積を可能にする技術によって、行われる。そのようなものとして知られているALD(原子層堆積)又はCSD(化学溶液堆積)技術が適している可能性がある。それは、製造後、セパレータ粒子の堆積の前及び/又は後、並びにセルの組み立て前及び/又は後に、電極に行い得る。ALDによる堆積技術は、周期的な方法によって層ごとに行われ、基板のトポグラフィを真に再現する封止コーティングを行うことを可能にする;それは電極の表面全体に沿う。この被覆コーティングは、通常、1~5nmの厚さを有する。CSDによる堆積技術には、基板のトポグラフィを真に再現する封止コーティングを行うことを可能にする;それは電極の表面全体に沿う。この被覆コーティングは、典型的には5nm未満、好ましくは1~5nmの厚さを有する。
【0091】
誘電体ナノ層の、この代替の堆積では、誘電体層が電極層の開口した多孔性を塞ぐのを防ぐために、電極材料の粒子の一次直径D50は少なくとも10nmであることが好ましい。
【0092】
誘電体層は、いかなる有機バインダも含まない多孔質電極にのみ堆積しなければならない。実際、ALDによる堆積は、通常100~300℃の温度で行う。この温度では、バインダを形成する有機材料(例えば、インクのテープキャスティングによって生成される電極に含まれるポリマー)が分解するリスクがあり、ALD反応器を汚染する。さらに、活性電極材料の粒子と接触する残留ポリマーの存在は、ALDコーティングが粒子の表面全体を覆うことを妨げる可能性があり、これはその有効性にとって有害である。
【0093】
例えば、約1.6nmの厚さのアルミナの層が適切である可能性がある。
【0094】
一般に、電極材料(活物質)のナノ粒子の電気泳動による堆積のステップを利用する本発明による方法は、有機バインダなしで、ナノ粒子が互いに自然に「接合」して、多孔質で剛性のある三次元構造を生成することを可能にする;この多孔質の、好ましくはメソポーラスの、層は、その層の開口した多孔質構造の深さ方向に入るALDによる表面処理の利用に完全に適している。
【0095】
ALD又はCSDによって誘電体層でコーティングされているかどうかにかかわらず、多孔質の、好ましくはメソポーラスの、電極に、多孔質セパレータとして使用される誘電体材料のナノ粒子の、多孔質の、好ましくはメソポーラスの、層をさらに堆積できる。この材料は、特にシリカ、アルミナ、ジルコニアであってもよい。電極間で使用されるこの多孔質層は、バッテリセルを実施するために、液体電解質などのリチウムイオン保持相により毛細管現象によって含浸される。
【0096】
リチウムイオン伝導体及び電子絶縁体である固体電解質の層、例えば多孔質セパレータとしてのLiPOを、堆積させてもよい。一実施形態では、粒子サイズ20nmで20g/lに希釈された、シリカのナノ粒子のコロイド状の単分散懸濁液が使用される(例えば、Alfa Aesar社の製品)。そして、この懸濁液は、100nm程度のサイズの凝集体又は塊が得られるまで、LiOHを添加してそのイオン電荷を変更することにより不安定化する。ナノ粒子の凝集体又は塊のこのコロイド懸濁液から、それぞれ1.5μmの厚さの2つの層が、アノード及びカソードに電気泳動によってそれぞれ生成する。次いで、これらの層を乾燥する。
【0097】
1.カソードの準備の具体的な態様
本発明に係る電極がカソードである場合、それは、以下から選択されるカソード材料Pによって構成されていてもよい:
- 酸化物LiMn、Li1+xMn2-xであり0<x<0.15、LiCoO、LiNiO、LiMn1.5Ni0.5、LiMn1.5Ni0.5-xでありXはAl、Fe、Cr、Co、Rh、Nd、及びSc、Y、Lu、La、Ce、Pr、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybなどの他の希土類から選択され0<x<0.1、LiMn2-xでありM=Er、Dy、Gd、Tb、Yb、Al、Y、Ni、Co、Ti、Sn、As、Mg又はこれらの化合物の混合物であり0<x<0.4、LiFeO、LiMn1/3Ni1/3Co1/3O、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiAlMn2-xであり0≦x<0.15、LiNi1/xCo1/yMn1/zでありx+y+z=10;
- リン酸塩LiFePO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPO、Li(PO;式LiMM’POのリン酸塩でありM及びM’(M≠M’)がFe、Mn、Ni、Co、Vから選択され;
- 以下のカルコゲニドのすべてのリチウム形態:V、V、TiS、オキシ硫化チタン(TiOでありz=2-y且つ0.3≦y≦1)、オキシ硫化タングステン(WOであり0.6<y<3且つ0.1<z<2)、CuS、CuS、好ましくはLiであり0<x≦2、Liであり0<x≦1.7、LiTiSであり0<x≦1、オキシ硫化チタン及びオキシ硫化リチウムLiTiOでありz=2-y、0.3≦y≦1、LiWO、LiCuS、LiCuS
【0098】
2.アノードの準備の具体的な態様
本発明に係る電極がアノードである場合、それは、以下から選択されるアノード材料Pによって構成されていてもよい:
- カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト;
- リン酸鉄リチウム(一般式LiFePOのもの);
- ケイ素及びスズのオキシ窒化物(一般式SiSnでありa>0、b>0、a+b≦2、0<y≦4、0<z≦3)(SiTONとも呼ばれる)、特にSiSn0.871.21.72;同様に、一般式SiSnの酸窒化物-炭化物でありa>0、b>0、a+b≦2、0<c<10、0<y<24、0<z<17;
- 以下のタイプの窒化物:Si(特にx=3且つy=4)、Sn(特にx=3且つy=4)、Zn(特にx=3且つy=2)、Li3-xN(M=Coの場合は0≦x≦0.5、M=Niの場合は0≦x≦0.6、M=Cuの場合は0≦x≦0.3);Si3-xでありM=Co又はFe且つ0≦x≦3、
- 以下の酸化物:SnO、SnO、LiSnO、SnSiO、LiSiO(x>=0及び2>y>0)、LiTi12、TiNb、Co、SnB0.60.42.9及びTiO
- 0~10重量%の炭素を含む複合酸化物TiNbであり、好ましくは炭素はグラフェン及びカーボンナノチューブから選択されるもの。
【0099】
3.本発明に係る電極を使用するバッテリの製造
本発明に係る多孔質電極は、ALD又はCSDによって誘電体層でコーティングされていても、されていなくてもよい。
【0100】
そして、コーティングされているか又はされていないこれらの電極は、ALD又はCSDによって誘電体層によりコーティングされているかどうかにかかわらない各電極の間に、多孔質層が存在するように、セパレータの役割を果たす多孔質層で覆われてもよい。一実施形態では、セパレータの役割を果たすこの多孔質層の製造に使用される材料は、低融点で、電気絶縁性で且つホットプレスのステップ中に電極と接触して安定な、無機材料から選択される。材料が耐熱性であるほど、高温で加熱する必要性が高くなり、特に相互拡散によって電極材料との界面が改質するリスクがある。これは、パラサイト反応を発生させ、その電気化学的特性が界面からより深いところにある同じ材料に見られる特性とは異なる、枯渇層(depletion layers)を生成する。
【0101】
セパレータの役割を果たす多孔質層の製造に使用される材料は、好ましくは無機物である。特定の実施形態では、セパレータの役割を果たすこの多孔質層の製造に使用される材料は、電気絶縁材料である。それは、好ましくは、Al、SiO、ZrOから選択し得る。
【0102】
あるいはこれに代えて、セパレータの役割を果たすこの多孔質層の製造に使用される材料は、固体電解質などのイオン伝導性材料であってもよい。
【0103】
本発明によれば、セパレータの役割を果たす多孔質層の製造に使用される固体電解質材料は、特に、以下より選択してもよい:
・ 一般式Li (TOのガーネット、ここで、
・ Aは、酸化状態+IIのカチオン、好ましくはCa、Mg、Sr、Ba、Fe、Mn、Zn、Y、Gdを表し;そして、
・ Aは、酸化状態+IIIのカチオン、好ましくはAl、Fe、Cr、Ga、Ti、Laを表し;そして、
・ (TO)は、Tが酸化状態+IVの原子で、酸素原子によって形成される四面体の中心に位置する、アニオンを表し、TOは、有利には、ケイ酸又はジルコン酸のアニオンを表し、酸化状態+IVの元素Tは、その全部又は一部がAl、Fe、As、V、Nb、In、Taなどの酸化状態+III又は+Vの原子で置き換えることができる;
・ dは2~10、好ましくは3~9、より好ましくは4~8である;xは2.6~3.4(好ましくは2.8~3.2)である;yは1.7~2.3(好ましくは1.9~2.1)であり、zは2.9~3.1である;
・ ガーネット、好ましくは以下から選択されるもの:LiLaZr12;LiLaBaTa12;Li5.5LaNb1.75In0.2512;LiLa12であってM=Nb若しくはTa又はこれら2つの化合物の混合物;Li7-xBaLa3-x12であって0≦x≦1且つM=Nb若しくはTa又はこれら2つの化合物の混合物;Li7-xLaZr2-x12であって0≦x≦2、M=Al、Ga、Ta又はこれらの化合物の2つ若しくは3つの混合物;
・ リン酸リチウム、好ましくは以下から選択されるもの:NaSICONタイプのリン酸リチウム、LiPO;LiPO;「LASP」で表されるLiAl0.4Sc1.6(PO、Li1.2Zr1.9Ca0.1(PO;LiZr(PO;Li1+3xZr(P1-xSiであって1.8<x<2.3;Li1+6xZr(P1-xであって0≦x≦0.25;Li(Sc2-x)(PO、M=Al若しくはY且つ0≦x≦1;Li1+x(Sc)2-x(PO、M=Al、Y、Ga又はこれら3つの化合物の混合物であり且つ0≦x≦0.8;Li1+x(Ga1-ySc2-x(POであって0≦x≦0.8;0≦y≦1且つM=Al若しくはY、又はこれら2つの化合物の混合物;Li1+x(Ga)2-x(POであってM=Al、Y又は2つの化合物の混合物で且つ0≦x≦0.8;「LATP」で表されるLi1+xAlTi2-x(POであって0≦x≦1、又はLi1+xAlGe2-x(POであって0≦x≦1;又はLi1+x+z(Ge1-yTi2-xSi3-z12、0≦x≦0.8且つ0≦y≦1.0且つ0≦z≦0.6且つM=Al、Ga若しくはY又はこれら2つ若しくは3つの化合物の混合物;Li3+y(Sc2-x)Q3-y12であってM=Al及び/若しくはY且つQ=Si及び/若しくはSe、0≦x≦0.8且つ0≦y≦1;又はLi1+x+ySc2-x3-y12、M=Al、Y、Ga又はこれら3つの化合物の混合物、且つQ=Si及び/若しくはSe、且つ0≦x≦0.8且つ0≦y≦1;又はLi1+x+y+z(Ga1-ySc2-x3-z12であって0≦x≦0.8;0≦y≦1;0≦z≦0.6、M=Al若しくはY又はこれら2つの化合物の混合物、且つQ=Si及び/若しくはSe;又はLi1+xZr2-x(POであって0≦x≦0.25;又はLi1+xZr2-xCa(POであって0≦x≦0.25;又はLi1+x 2-x12であって0≦x≦1且つM=Cr、V、Ca、B、Mg、Bi及び/若しくはMo、M=Sc、Sn、Zr、Hf、Se若しくはSi又はこれらの化合物の混合物;
・ ホウ酸リチウムであって、好ましくは以下から選択されるもの:Li(Sc2-x)(BOであってM=Al若しくはY且つ0≦x≦1;Li1+x(Sc)2-x(BO、M=Al、Y、Ga又はこれら3つの化合物の混合物で且つ0≦x≦0.8;Li1+x(Ga1-ySc2-x(BOであって0≦x≦0.8;0≦y≦1且つM=Al若しくはY;Li1+x(Ga)2-x(BOであってM=Al、Y又はこれら2つの化合物の混合物で且つ0≦x≦0.8;LiBO、LiBO-LiSO、LiBO-LiSiO、LiBO-LiSiO-LiSO
・ 酸窒化物であって、好ましくはLiPO4-x2x/3、LiSiO4-x2x/3、LiGeO4-x2x/3であって0<x<4又はLiBO3-x2x/3であって0<x<3、から選択されるもの;
・ x~2.8且つ2y+3z~7.8且つ0.16≦z≦0.4であるLiPOで表されるリチウム酸窒化物及びリンに基づく、「LiPON」と呼ばれる、リチウム化合物、特にLi2.9PO3.30.46、また、化合物LiPOであって2x+3y+2z=5=w又はLiPOであって3.2≦x≦3.8、0.13≦y≦0.4、0≦z≦0.2、2.9≦w≦3.3の化合物、又はLiAlの形式の化合物であって、5x+3y=5、2u+3v+2w=5+t、2.9≦t≦3.3、0.84≦x≦0.94、0.094≦y≦0.26、3.2≦u≦3.8、0.13≦v≦0.46、0≦w≦0.2;
・ リチウムリン又はホウ素酸窒化物に基づく、それぞれ「LiPON」及び「LIBON」と呼ばれる材料であって、また、ケイ素、硫黄、ジルコニウム、アルミニウム、又はアルミニウム、ホウ素、硫黄及び/若しくはケイ素の組み合わせを、並びにリチウムリン酸窒化物に基づく材料の場合はホウ素を、含み得る材料、
・ 「LiSiPON」と呼ばれる、リチウム、リン及びケイ素の酸窒化物に基づくリチウム化合物、特にLi1.9Si0.281.01.11.0
・ LiBON、LiBSO、LiSiPON、LiSON、チオ(thio)-LiSiCON、LiPONBタイプのリチウム酸窒化物(B、P及びSはそれぞれホウ素、リン及び硫黄を表す);
・ (1-x)LiBO-xLiSOであって0.4≦x≦0.8である、LiBSOタイプのリチウム酸窒化物;
・ リチウム酸化物であって好ましくは以下より選択されるもの:LiLaZr12又はLi5+xLa(Zr、A2-x)O12であってA=Sc、Y、Al、Ga且つ1.4≦x≦2、又はLi0.35La0.55TiO又はLi3xLa2/3-xTiOであって0≦x≦0.16(LLTO);
・ ケイ酸塩、好ましくはLiSi、LiSiO、LiSi、LiAlSiO、LiSiO、LiAlSiから選択されるもの;
・ 以下より選択されるアンチペロブスカイトタイプの固体電解質:LiOAであって、Aはハロゲン原子又はハロゲン原子の混合物であって、好ましくはF、Cl、Br、Iから選択される元素の少なくとも1つ又はそれらの2つ若しくは3つ若しくは4つの混合物;Li(3-x)x/2OA、0<x≦3、Mは二価の金属、好ましくは元素Mg、Ca、Ba、Srの少なくとも1つ又はこれらの元素の2つ若しくは3つ若しくは4つの混合物、Aはハロゲン原子又はハロゲン原子の混合物であって、好ましくは元素F、Cl、Br、Iの少なくとも1つ又はこれらの元素のうちの2つ若しくは3つ若しくは4つの混合物;Li(3-x) x/3OAであって0≦x≦3、Mは三価の金属、Aはハロゲン原子又はハロゲン原子の混合物であって、好ましくは元素F、Cl、Br、Iの少なくとも1つ又はこれらの元素の2つ若しくは3つ若しくは4つの混合物;又はLiCOX(1-z)であって、X及びYはAに関して前述したようなハロゲン原子、且つ0≦z≦1、
・ 化合物La0.51Li0.34Ti2.94、Li3.40.4Ge0.6、LiO-Nb、LiAlGaSPO
・ LiCO、B、LiO、Al(POLiF、P、LiS、LiN、Li14Zn(GeO、Li3.6Ge0.60.4、LiTi(PO、Li3.25Ge0.250.25、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO、Li1+xAl2-x(PO(M=Ge、Ti及び/又はHf且つ0<x<1)、Li1+x+yAlTi2-xSi3-y12(0≦x≦1且つ0≦y≦1)に基づく配合物。
【0104】
有利には、セパレータの役割を果たす多孔質層は、それらの支持体上の電極層と同じ方法で、電気泳動によって、ディップコーティングによって、インクジェットによって又はドクターブレードによって、ロールコーティングによって、カーテンコーティングによって、ナノ粒子の懸濁液から堆積させ得る。
【0105】
好ましくは、本発明に係る電極は、セパレータの役割を果たす多孔質層で覆われ、次いで、これらの多孔質層が接触するように積層される。
【0106】
次いで、好ましくは多孔質層で覆われた薄層のカソード及びアノードが交互に連続して含まれるこの積層体は、真空ホットプレスされる。ここで、本発明に係る少なくとも1つのアノード又はカソードがこの積層体で使用されるものとする。組み立てを可能にする積層体のホットプレス中に適用される圧力及び温度は、特に、積層体を構成する材料の性質、並びに電極及びセパレータの役割を果たす多孔質層に使用される一次粒子のサイズに依存する。
【0107】
有利には、積層体は、0.5~3MPaの、好ましくは約1.5MPaの、圧力下に置き、次いで、吸引して乾燥する。これにより、乾燥中に積層体を維持することが可能になる。次いで、プレスプラテンを、好ましくは毎秒数℃の速度で450℃の設定温度まで、加熱する。次いで、450℃で、積層体の組み立てを可能にする圧力で、好ましくは45MPaで1分間、積層体を熱圧縮し、次いで、このシステムを周辺温度まで冷却する。
【0108】
組み立てが実行されると、1つ又は複数の組み立てられたセルから構成された剛性の多層システムが得られる。
【0109】
有利な実施形態では、非常に薄い誘電体層(すなわち、電子絶縁体)が、この熱圧縮された積層体に設けられ、積層体は、好ましくは欠陥がなく、被覆される。これにより、アノード12、カソード22及び/又は多孔質層13、23のすべての表面の、単一の処理による被覆が可能となり、この被覆は、非常に薄い誘電体層(すなわち、電子絶縁体)を備えたセパレータの役割を果たし、好ましくは欠陥がない。この処理は、電極の表面を不動態化することに加え、メソポーラス構造からなる近接可能な表面、すなわち、電解質と接触する層となる表面のみの被覆を可能にする。
【0110】
この堆積は、本発明に係る少なくとも1つの多孔質電極を含むリチウムイオンバッテリの性能を改善する。見られた改善は、実質的には、電解質及び電極間の界面でのファラデー反応の抑制である。
【0111】
非常に有利には、この堆積は、被覆コーティング(コンフォーマル堆積とも呼ばれる)、すなわち、それが適用される基板の原子トポグラフィを忠実に再現する堆積を可能にする技術によって行う。そのようなものとして知られているALD(原子層堆積)又はCSD(化学溶液堆積)技術が適切である可能性がある。ALD及びCSDによるこれらの堆積技術により、電極の表面全体に沿うコーティングが可能になる。この被覆コーティングは、典型的には5nm未満、好ましくは1~5nmの厚さを有する。
【0112】
本発明に係る電極を備えるバッテリの、有機材料を含まない全固体の構造は、高温に耐性があり、ALDによる堆積方法と相性がよい。
【0113】
この積層体の近接可能な表面を保護及び不動態化するための、熱圧縮された積層体に設けられる誘電体層は、例えば、シリカ、ジルコニア、アルミナAlであってもよい。この誘電体層はまた、有利には10-8S/cm未満の電子伝導率を有する、イオン伝導体であってもよい。この材料は、バッテリの動作電圧でリチウムを挿入せず、輸送のみ行うように選択しなければならない。これには、例えば、LiPO、LiBO、LiLaZr12などのリチウムランタンジルコニウム酸化物(LLZOと呼ばれる)を使用し得る。これらは、動作電位の範囲が広い。
【0114】
しかし、図4に示されるように、熱圧縮された積層体にALD又はCSDによって形成される誘電体層62,63は、多孔質堆積物の表面及び集電体の表面の一部のみを覆う。
【0115】
5nm未満の厚さの熱圧縮された積層体にALD又はCSDによって形成された誘電体層は、電子の通過を妨げない。電極が部分的に焼結されると、電子は電極材料の粒子間の接合部(ネッキング)を通過する。メソポーラス堆積物と基板との間の「接合」領域60は、誘電体層によって覆われていない。
【0116】
ALD又はCSDによって形成される誘電体層は、細孔61の自由表面(the free surfaces)、特に電極22及び基板21の近接可能な表面のみを覆う。
【0117】
この誘電体層を形成するために使用する材料は、溶解の電気化学反応を妨げるのに特に効果的である。さらに、ALD又はCSDによって形成される絶縁体の堆積は、腐食に対する保護が必要な場合に、特に効果的である。それらはもちろん、厚さが薄いが、欠陥なしで完全に覆う。
【0118】
誘電体層は、多層構造を構成する薄膜の積層体から形成され得る。これらの薄膜は、多層及び多材料構造を形成するために、異なる化学的性質のものであってもよい。さらに、誘電体層の腐食に対する性能は、それが薄膜の積層体から構成される場合、好ましくは、多層及び多材料構造を形成する薄膜の積層体から構成される場合、さらに良好である。例えば、2nmのAlの膜及び2nmのZrOの膜を含む誘電体層は、4nmのAlの単一の膜を含む誘電体層よりも効果的である。
【0119】
誘電体層は、それが厚く及び/又は多層構造であるかどうかにかかわらず、電子の通過を損なうことなく、液体電解質の使用によって引き起こされる腐食から基板を完全に保護することを可能にする。
【0120】
界面では、電子ではなくリチウムイオンのみが通過する必要がある。LiPOなどのイオン伝導性の絶縁体は、バッテリの動作に影響を与えることなく、より厚い、好ましくは1~5nmの誘電体層として使用できる。多層構造を有する誘電体層はまた、ALD又はCSDによって堆積でき、好ましくは1~5nmの厚さの固体電解質などのイオン伝導性の絶縁材料である、熱圧縮された積層体に堆積された第1の層と、この第1の層に堆積され、イオン及び電子絶縁材料の、厚さが、理想的には、バッテリの抵抗を過度に大きくしないように、1nm未満の非常に薄い、第2の層とを備える。
【0121】
次いで、誘電体層でコーティングされているかどうかにかかわらず、この組立物に、リチウムイオン保持相を、好ましくは電解液中で、含浸させてもよい。
【0122】
4.組み立てられたバッテリの含浸、より具体的には電極の層及びバッテリのセパレータの含浸
ホットプレスによってバッテリを構成する積層体の組み立てが完了すると、これはリチウムイオン保持相により含浸され得る。この相は、有機溶媒又は有機溶媒の混合物に溶解された、及び/又は少なくとも1つのリチウム塩を含むポリマーに溶解された、及び/又は少なくとも1つのリチウム塩を含むイオン液体(すなわち、溶融リチウム塩)に溶解された、リチウム塩によって構成された溶液であってもよい。この相は、これらの成分の混合物から構成された溶液でもあってもよい。本発明者らは、本発明に係る多孔質電極が、単純な毛細管現象によって液相を吸収することができることを見出した。この全く予想外の効果は、本発明に係る、多孔質の、好ましくはメソポーラスの、電極の堆積に特有である;細孔の平均直径D50が2~80nm、好ましくは2~50nm、好ましくは6~30nm、好ましくは8~20nmである場合に特に有利である。この組立物の細孔は、好ましくはそれがセラミック材料から構成されている場合、イオン液体、イオン液体の混合物又は有機溶媒で希釈された若しくは有機溶剤の混合物で希釈された少なくとも50重量%の少なくとも1つのイオン液体を含む溶液によって容易に濡らすことができる。その細孔は、リチウムイオン保持相によって、すなわち、有機溶媒又はイオン液体に溶解したものとは異なっていてもよいリチウム塩を含む有機溶媒の混合物で希釈されていてもよい、リチウム塩を含むイオン液体などの、電解質によって、含浸される。
【0123】
含浸は、アノード若しくはカソードのいずれか又は両方に対して同時に行ってもよい。
【0124】
本発明の有利な実施形態では、多孔質の、好ましくはメソポーラスの、電極の多孔度は、30体積%超えであり、細孔の平均直径D50は80nm未満、好ましくは50nm未満であり、粒子の一次直径は30nm未満である。その厚さは、有利には、100μm未満、50μm未満、10μm未満であり、バッテリの最終的な厚さを小さくするために、好ましくは2.5~4.5μmである。バインダは含まれない。
【0125】
有利には、多孔質電極は、好ましくは薄層であり、35~50体積%、より好ましくは40~50体積%の多孔度を有する;それは好ましくはメソポーラスである。
【0126】
本発明の有利な実施形態では、セパレータの役割を果たす多孔質層は、多孔度が30体積%超えであり、平均直径D50が50nm未満の細孔を有する。セパレータの役割を果たすこの多孔質層は、その細孔内の単純な毛細管現象によってリチウムイオン保持相などの液相を吸収できる。この効果は、メソ細孔の平均直径D50が2~50nm、好ましくは6~30nm、好ましくは8~20nmである場合に特に有利である。その厚さは有利には10nm未満である。これはバインダを含まない。有利には、セパレータの役割を果たす多孔質層の多孔度は、35~50体積%、より好ましくは40~50体積%である;それは好ましくはメソポーラスである。
【0127】
細孔に、好ましくはメソ細孔に、「ナノ制限(nanoconfined)」又は「ナノトラップ」された液体は、もはや出てくることができない。これは、ここで「メソポーラス構造での吸収」と呼ばれる現象(リチウムイオンバッテリの文脈では文献に記載されていないようである)と関連しており、セルを真空に置いても出てくることができない。その場合、バッテリは準固体(quasi-solid)と見なされる。
【0128】
リチウムイオン保持相は、リチウム塩を含むイオン液体であってもよく、有機溶媒又はイオン液体に溶解されたものとは異なっていてもよいリチウム塩を含む有機溶媒の混合物で希釈されていてもよい。
【0129】
イオン液体は、アニオンを伴うカチオンを含む;このアニオン及びこのカチオンは、イオン液体が蓄電池の動作温度範囲で液体状態になるように選択される。イオン液体は、熱安定性が高く、可燃性が低く、不揮発性であり、毒性が少なく且つ電極材料として使用できる材料であるセラミックの濡れ性が良い、という長所がある。驚くべきことに、リチウムイオン保持相に含まれるイオン液体の重量パーセントは、50%超え、好ましくは60%超え、より好ましくは70%超えであってもよく、これは、従来のリチウムイオンバッテリとは反対である。従来のものは、電解質中のイオン液体の重量パーセントは、バッテリが放電の際に大きな容量及び高い電圧を維持し、且つサイクルで良好な安定性を維持するために、50重量%未満でなければならない。出願US2010/209783A1に示されているように、50重量%を超えると、従来技術のバッテリの容量は小さくなる。これは、従来技術のバッテリの電解質内のポリマーバインダの存在によって説明できる。これらのバインダはイオン液体によってわずかに濡らされており、リチウムイオン保持相内のイオン伝導が不十分になり、バッテリの容量の低下を引き起こす。
【0130】
本発明に係る多孔質電極を使用するバッテリは、好ましくは、バインダを含まない。このため、これらのバッテリは、バッテリの最終容量を減少させることなく、少なくとも1つのイオン液体の50重量%を超えるリチウムイオン保持相を使用できる。
【0131】
リチウムイオン保持相は、いくつかのイオン液体の混合物を含んでいてもよい。
【0132】
有利には、イオン液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(EMI+とも呼ばれる)タイプ及び/又はn-プロピル-n-メチルピロリジニウム(PYR13 とも呼ばれる)及び/又はn-ブチル-n-メチルピロリジニウム(PYR14 とも呼ばれる)であってもよく、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)及び/又はビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)タイプのアニオンを伴っていてもよい。電解質を形成するために、LiTFSIなどのリチウム塩を、溶媒として使用されるイオン液体又はγ-ブチロラクトンなどの溶媒に溶解してもよい。γ-ブチロラクトンは、イオン液体の結晶化を防ぎ、イオン液体の温度での、特に低温での、動作範囲をより広くする。
【0133】
リチウムイオン保持相は、PYR14TFSI及びLiTFSIを含む電解液であってもよい;これらの略語は、以下で定義される。
【0134】
有利には、多孔質アノード又はカソードがリン酸リチウムを含む場合、リチウムイオン保持相は、LiBH、又は、LiBHとLiCl、LiI及びLiBrから選択される1つ以上の化合物との混合物などの固体電解質を含む。LiBHはリチウムの優れた導体であり、融点が低いため、特に浸漬することにより、多孔質電極の含浸が容易になる。LiBHは非常に還元力が強いため、電解質としてはほとんど使用されない。多孔質のリン酸リチウム電極の表面に保護膜を使用することで、LiBHによる、電極材料の、特にカソード材料の、還元を防ぎ、電極の劣化を防ぐ。
【0135】
有利には、リチウムイオン保持相は、少なくとも1つのイオン液体、好ましくは周辺温度での少なくとも1つのイオン液体、例えば、γ-ブチロラクトンなどの、少なくとも1つの溶媒で希釈されていてもよいPYR14TFSIなど、を含む。
【0136】
有利には、リチウムイオン保持相は、10~40重量%の溶媒、好ましくは30~40重量%の溶媒、より好ましくは30~40重量%のγ-ブチロラクトンを含む。
【0137】
有利には、リチウムイオン保持相は、50重量%超えの少なくとも1つのイオン液体及び50%未満の溶媒を含み、これは、リチウムイオンを保持するそのような相を含むバッテリの故障の場合における安全性及び発火のリスクを抑制する。
【0138】
有利には、リチウムイオン保持相は、以下を含む:
- 30~40重量%の溶媒、好ましくは30~40重量%のγ-ブチロラクトン、及び、
- 50重量%超えの少なくとも1つのイオン液体、好ましくは50重量%超えのPYR14TFSI。
【0139】
リチウムイオン保持相は、PYR14TFSI、LiTFSI及びγ-ブチロラクトンを含む電解液、好ましくは、約90重量%のPYR14TFSI、0.7MのLiTFSI及び10重量%のγ-ブチロラクトンを含む電解液であってもよい。
【0140】
リチウムイオンを保持する液相による含浸後、組立物を、好ましくは、Nカーテン(a curtain of N)によって乾燥し、これによって、少なくとも1つの、好ましくはいくつかの、各々が本発明に係る電極を有する電気化学セルを備える、リチウムイオンバッテリを得る。
【0141】
以下、LiAl0,4Sc1,6(POを主成分とした固体電解質ベースのセパレータを備えたバッテリの実施について説明する。LiAl0.4Sc1.6(POのメソポーラス層でコーティングされたメソポーラスカソード層(LiMn)、及び、同じくLiAl0,4Sc1,6(PO)のメソポーラス層でコーティングされたメソポーラスアノード層(LiTi12)が生成される。
【0142】
電解質材料のナノ粒子の懸濁液は、熱水的に調製され、これにより結晶性が良好なナノ粒子を直接得られる。電解質層は、電気泳動、インクジェット、ドクターブレード、ロールコーティング、カーテンコーティング又はディップコーティングにより、前述のカソード層及び/又はアノード層に、事前にALDによって堆積された誘電体層によってコーティングされているかどうかにかかわらず、堆積される。組み立ては、不活性雰囲気下で、300~500℃、好ましくは350~450℃、及び50~100MPaの圧力、例えば350℃及び100MPaでの、ホットプレスにより、行う。
【0143】
次いで、完全に固体で剛性があり、有機材料を含まないこのセルを、リチウムイオン伝導性の液体電解質に浸漬することによって含浸する。開口した多孔性及びサイズの小さな細孔(50nm未満)により、セル全体(メソポーラスのLiAl0.4Sc1.6(POで構成されたセパレータ及び電極)への含浸は、毛細管現象によって行う。液体電解質は、例えば、非プロトン性溶媒に溶解したLiPF若しくはLiBF又はリチウム塩を含むイオン液体であってもよい。イオン液体と有機電解質とを混合してもよい。例えば、EC/DMCに溶解された50重量%のLiPFを、LiTFSI:PYR14TFSIが1:9モルのタイプの、リチウム塩を含むイオン液体と混合してもよい。例えば、LiTFSI:PYR13FSI:PYR14TFSI(2:9:9のモル比)の混合物のように、低温ではたらくイオン液体の混合物を使用してもよい。
【0144】
ECは、炭酸エチレンの一般的な略語である(CAS番号:96-49-1)。DMCは、炭酸ジメチルの一般的な略語である(CAS番号:616-38-6)。LITFSIは、リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(CAS番号:90076-65-6)の一般的な略語である。PYR13FSIは、N-プロピル-N-メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの一般的な略語である。PYR14TFSIは、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの一般的な略語である。
【0145】
本発明に係るリチウムイオンバッテリの製造の他の例を示す。この方法は、以下のステップを含む:
(1)平均一次直径D50が50nm以下である少なくとも1つのカソード材料のナノ粒子の凝集体又は塊を含むコロイド懸濁液を準備し;
(2)平均一次直径D50が50nm以下である少なくとも1つのアノード材料のナノ粒子の凝集体又は塊を含むコロイド懸濁液を準備し、
(3)少なくとも2つの、好ましくは金属である、平坦な導電基板を準備し、該導電基板は、バッテリの集電体として使用でき、
(4)カソード、アノードの少なくとも1つの層を、ステップ(1)、ステップ(2)でそれぞれ準備した材料のナノ粒子の懸濁液から、ディップコーティング、インクジェット、ドクターブレード、ロールコーティング、カーテンコーティング又は電気泳動により、好ましくはパルス電流定電流電着により、ステップ(3)で準備した前記基板に堆積し、
(5)ステップ(4)で得た層を乾燥し、
(6)任意で、電気絶縁材料の層を、ALDにより、ステップ(5)におけるカソード及び/又はアノードの層の細孔及び細孔内に堆積し、
(7)電気絶縁材料又はイオン伝導材料又は電気絶縁材料でイオン伝導材料でもあり得る、好ましくは多孔質の、好ましくはメソポーラスの、膜を、平均一次直径D50が50nm以下及び平均直径D50が約100nmの、この凝集体また塊のナノ粒子のコロイド懸濁液から、ステップ(5)及び/又はステップ(6)でそれぞれ得たカソード、アノードの層に、堆積し、
(8)ステップ(7)で得た層を乾燥し、
(9)カソード及びアノードの連続する交互の層を含み、好ましくは横方向に(laterally)オフセットされた積層体を実現し、
(10)ステップ(8)で得た膜をアノード及びカソードの層に並置するように、且つ、組み立てられた積層体を得るように、ステップ(9)で得たアノード及びカソードの層をホットプレスし、
(11)任意で、ステップ(10)で得た熱圧縮された積層体に、電気絶縁材料の層をALDにより堆積し、
(12)ステップ(10)で得た構造を、リチウムイオン保持相により含浸し、含浸された構造を、好ましくはセルを、得る。
【0146】
ステップ(1)、(2)及び(3)の順序は重要ではない。
【0147】
このようにして、非常に高い電力密度を有するリチウムイオンバッテリセルが得られる。メソ細孔における「ナノ制限」又は「ナノラップ」された液体は、前述のように、もはや出てくることができない;その場合、バッテリは準固体と見なされる。
【0148】
ステップ(6)でこの堆積を実行するよりも、ステップ(10)で得られる熱圧縮された積層体(すなわち、熱で組み立てられた積層体(thermo-assembly stack))に電子絶縁材料の層をALDによって堆積することが好ましい;各電極を個別に堆積するよりも、熱圧縮された積層体に電子絶縁材料の層をALDで堆積する方が、簡単である。
【0149】
以下、低温での使用に適したリチウムイオンバッテリの製造について説明する。前述のように、バッテリの直列抵抗は温度が下がると大きくなる。全固体リチウムイオンバッテリ(例えば、特許出願WO2013/064781又はWO2013/064779に記載されているように)の場合、温度が7℃下がると、電解質のイオン伝導度は約半分に低下する。この問題を解決するために、本発明に係るバッテリでは、メソポーラス電極を使用し、多孔質の、好ましくはメソポーラスの、層が、好ましくはリチウムイオンを含むイオン液体である電解質によって含浸されており、セパレータの役割を果たす;イオン液体は、適切な有機溶媒を加えることで希釈できる。例えば、EC/DMC中のLiPFの50重量%の混合物をLiTFSI:PYR14TFSIが1:9molであるものと使用するか、又は90重量%のPYR14TFSI、0.7MのLiTFSI及び10重量%のγ-ブチロラクトンを含む電解液を使用してもよい。含浸は、ステップ(11)の後に、前述のように、セパレータの役割を果たす多孔質層で覆われたカソード及びアノードの層が交互に連続する積層体の組み立て後に行う。
【0150】
例えば、アノード若しくはカソードのいずれか又は好ましくは両方の、電極の堆積は、平均直径D50が50nm以下の一次ナノ粒子から得られた、平均直径D50が約100nmのナノ粒子の凝集体又は塊を用いて行い得る;各電極の厚さは約4μmである。
【0151】
本発明に係る方法は、多孔質の又はメソポーラスの電極の製造に、特に、厚さ約50μm又は100μmの薄層又はより厚い層として、電子的、電気的又は電気技術的デバイスにおいて、好ましくは以下によって形成される群から選択されるデバイスにおいて使用できる:バッテリ、キャパシタ、スーパーキャパシタ、キャパシタ、抵抗器、インダクタンス、トランジスタ、太陽電池。
【0152】
5.封止
誘電体層で覆われている又は覆われていない、リチウムイオン保持相で含浸されていてもよい、1つ又は複数の組み立てられたセルによって構成された、バッテリ又は組立物、、多層の剛体システムは、周辺空気から確実に保護するために適切な方法で封止しなければならない。封止システム30は、少なくとも1つの層を含み、好ましくは、いくつかの層の積層体である。封止システム30が単層で構成されている場合、それは、ALDによって堆積されるか、又はパリレン及び/若しくはポリイミドで構成されていなければならない。これらの封止層は、化学的に安定で、高温に耐性があり、周辺空気が不透過でなければならない(バリア層)。特許出願WO2017/115032、WO2016/001584、WO2016/001588又はWO2014/131997に記載されている方法の1つを利用してもよい。好ましくは、前記少なくとも1つの封止層が前記バッテリの6つの面のうちの4つを覆い、バッテリの他の2つの面は、終端部によって覆われる。
【0153】
有利には、バッテリ又は組立物は、いくつかの層の積層体、すなわち、以下を含む、シーケンス、好ましくはzシーケンス(z sequences)によって形成された、封止システム30で覆われていてもよい。
【0154】
- アノード及びカソードの箔の積層体に堆積された、好ましくはパリレン、F型のパリレン、ポリイミド、エポキシ樹脂、シリコーン、ポリアミド及び/又はこれらの混合物から選択される、第1の被覆層、
- 電気絶縁材料で構成され、前記第1の被覆層に原子層堆積によって堆積された、第2の被覆層、
このシーケンスは、z≧1でz回繰り返し得る。この多層シーケンスにはバリア効果がある。封止システムのシーケンスが繰り返されるほど、このバリア効果はより大きくなる。それは、堆積された薄層が多数あるのと同様に効果が大きい。
【0155】
有利には、第1の被覆層は、例えばシリコーン(例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)からの含浸又はプラズマアシスト化学気相堆積によって堆積される)、又はエポキシ樹脂、又はポリイミド、ポリアミド、又はポリパラキシリレン(より一般的にはパリレンとして知られている)、好ましくはポリイミド及び/又はパリレンベース、で構成されたポリマー層である。この第1の被覆層は、バッテリの、影響を受けやすい要素をその周辺環境から保護することを可能にする。前記第1の被覆層の厚さは、好ましくは、0.5~3μmである。
【0156】
有利には、第1の被覆層は、C型のパリレン、D型のパリレン、N型のパリレン(CAS 1633-22-3)、F型のパリレン又はC、D、N及び/若しくはF型のパリレンの混合物であってもよい。パリレン(ポリパラキシリレン又はポリ(p-キシリレン)とも呼ばれる)は、誘電性の透明な半結晶性材料であり、高い熱力学的安定性、溶剤に対する高い耐性及び非常に低い透過性を備えている。パリレンは、外部環境からバッテリを保護できるバリア特性も備えている。この第1の被覆層がF型のパリレンから構成されていると、バッテリの保護は強化される。化学蒸着技術(CVD)により真空蒸着してもよい。この第1の封止層は、有利には、化学蒸着技術(CVD)によって表面に堆積されたガス状モノマーの凝縮から得られ、それによって、積層体の近接可能なすべての表面の、コンフォーマルで薄く均一な被覆が可能となる。それによって、その動作中のバッテリの体積の変化を追跡することを可能にし、その弾性特性によってバッテリの特定の切断を容易にする。この第1の封止層の厚さは、2~10μm、好ましくは2~5μmであり、より好ましくは約3μmである。それは、積層体の近接可能なすべての表面を覆い、これらの近接可能な表面の細孔への近接をその表面でのみ閉じ、基板の化学的性質を均一にすることを可能にする。第1の被覆層は、堆積されたポリマーのサイズが大きすぎて積層体の細孔には入ることができないので、バッテリ又は組立物の細孔には入らない。
【0157】
この第1の被覆層は、有利には、剛性である;柔軟な表面と見なすことはできない。したがって、封止は積層体上で直接実行でき、コーティングは近接可能なすべての細孔に浸透できる。ここで、本発明に係る電極及び/又は電解質の細孔にバインダがないために、バッテリは真空処理を行うことができることに留意されたい。
【0158】
一実施形態では、パリレンCの層、パリレンDの層、パリレンNの層(CAS 1633-22-3)又はパリレンC、D及び/若しくはNの混合物を含む層などの、パリレンから構成された第1の層を堆積する。パリレン(ポリパラキシリレン又はポリ(p-キシリレン)とも呼ばれる)は、誘電性の透明な半結晶性材料であり、高い熱力学的安定性、溶剤に対する優れた耐性及び非常に低い透過性を備えている。
【0159】
パリレンのこの層は、バッテリの、影響を受けやすい要素を、その周辺環境から保護できる。この保護は、この第1の封止層がパリレンNから構成されていると、強化される。しかしながら、本発明者らは、この第1の層がパリレンベースである場合、酸素の存在下で十分な安定性がないことを観察した。この第1の層がポリイミドベースである場合、特に水の存在下では、シール性が十分でない。これらの理由により、第1の層をコーティングする第2の層を堆積する。
【0160】
有利には、電気絶縁材料、好ましくは無機物で構成される第2の被覆層は、この第1の層に原子層堆積(ALD)などのコンフォーマルな堆積技術によって堆積できる。したがって、第1の被覆層で、好ましくはパリレン及び/又はポリイミドの第1の層で、事前に被覆された、積層体の近接可能なすべての表面に、コンフォーマルな被覆が得られる;この第2の層は、好ましくは無機層である。
【0161】
ALDによって堆積された層の成長は、基板の性質に影響される。化学的性質の異なる様々な領域を有する基板上にALDによって堆積された層は、不均一な成長を示し、この第2の保護層の完全性が失われる可能性がある。
【0162】
ALDによる堆積技術は、非常に粗い表面を、全体的に隙間なく且つコンフォーマルに被覆するのに特に適している。それらは、例えば穴のない層(「ピンホールフリー」と呼ばれる層)などの、欠陥のない(defect-free)、非常に優れたバリア性を示す、コンフォーマルな層を実現することを可能にする。それらのWVTR係数は非常に小さい。WVTR係数(水蒸気透過率)により、封止システムの蒸気に対する浸透性を評価できる。WVTR係数が小さいほど、封止システムはより気密性が高くなる。例えば、ALDによって堆積された厚さ100nmのAlの層は、蒸気の透過性が0.00034g/mdである。第2の被覆層は、セラミック材料、ガラス質材料又は例えば、Alタイプの、窒化物の、リン酸塩の、酸窒化物の若しくはシロキサンの、酸化物の形態であるガラスセラミック材料で構成されていてもよい。この第2の被覆層は、200nm未満、好ましくは5~200nm、より好ましくは10~100nm、10~50nm、さらにより好ましくは約50nmの厚さを有する。原子層堆積(ALD)などの、コンフォーマルな堆積技術が好ましい。
【0163】
ALDによって第1のポリマー層に堆積されたこの第2の被覆層は、一方では構造の気密性を確保すること、すなわち構造内部の水の移動を防止すること、他方では第1の被覆層を、好ましくはパリレン及び/又はポリイミド、好ましくはF型のパリレンを、その劣化を防ぐために、周辺環境から、特に空気及び湿度から、熱への暴露から、保護することを可能にする。この第2の層は、封止されたバッテリの寿命を長くする。
【0164】
しかし、ALDによって堆積されたこれらの層は、機械的に非常に脆弱で、保護の役割を確実にするために剛性の支持面が必要である。柔軟な表面に脆弱な層が堆積すると、亀裂が形成され、この保護層の完全性が失われる。
【0165】
有利には、バッテリセルの外部環境からの保護を強化するために、第2の被覆層又は前述したようないくつかの層の積層体によって構成された封止システム30に、すなわち、封止システムのシーケンスに、好ましくはz≧1であるzシーケンスに、第3の被覆層を堆積する。典型的には、この第3の層は、ポリマーから、例えばシリコーン(例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)からの含浸又はプラズマアシスト化学蒸着によって堆積されたもの)、又はエポキシ樹脂、又はポリイミド、又はパリレンから構成されている。
【0166】
さらに、封止システムは、多層封止システムを形成するために、好ましくは厚さ約3μmの、パリレン及び/又はポリイミドと、前述のようにALDによってコンフォーマルに堆積された有機層などの電気絶縁材料から構成された層とが、交互に連続する層を、含んでいてもよい。封止の性能を向上させるために、封止システムは、好ましくは約3μmの厚さの、パリレン及び/又はポリイミドの第1の層と、第1層にALDによってコンフォーマルに堆積され、電気絶縁材料から、好ましくは無機層から、構成された、第2の層と、第2の層に堆積され、好ましくは厚さ約3μmの、パリレン及び/又はポリイミドの第3の層と、第3の層にALDによってコンフォーマルに堆積された電気絶縁材料から構成された第4の層とを含んでいてもよい。
【0167】
次いで、封止システムのこのシーケンスにより、好ましくはzシーケンスにより、このように封止されたバッテリ又は組立物は、このように封止された積層体を機械的に保護するために、そして任意で美的側面を提供するために、最後の被覆層で被覆してもよい。この最後の被覆層は、バッテリを保護し且つその寿命を長くする。有利には、この最後の被覆層はまた、高温に耐性があるように選択され、後の使用の際にバッテリを保護するのに十分な機械的耐性を有する。有利には、この最後の被覆層の厚さは、1~50μmである。理想的には、この最後の被覆層の厚さは約10~15μmであり、このような厚さの範囲により、バッテリを機械的損傷から保護できる。
【0168】
有利には、バッテリセルの外部環境からの保護を強化し、機械的損傷から保護するために、最後の被覆層は、前述したようないくつかの層の積層体によって構成された封止システムに、すなわち、封止システムのシーケンスに、好ましくはz≧1のzシーケンスに、好ましくは厚さ約3μmでありALDによってコンフォーマルに堆積された無機層の、好ましくはパリレン又はポリイミドのこの交互に連続した層に、堆積される。この最後の封止層は、好ましくは、約10~15μmの厚さを有する。
【0169】
この最後の被覆層は、好ましくは、エポキシ樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン、シリコーン、ゾルゲルシリカ又は有機シリカを主成分とする。有利には、この最後の被覆層は、浸漬によって堆積される。典型的には、この最後の層は、ポリマーから、例えばシリコーン(例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)からの浸漬又はプラズマアシスト化学蒸着によって堆積されたもの)、又はエポキシ樹脂、又はポリイミド、又はパリレンから、構成されている。例えば、バッテリを機械的損傷から保護するために、シリコーンの層(典型的には厚さ約15μm)を、インジェクションによって堆積してもよい。このような材料の選択は、それが高温に耐性があるため、ガラス転移を起こすことなく電子基板に溶接することでバッテリを簡単に組み立てることができるという事実による。有利には、バッテリの封止は、積層体の6つの面のうちの4つに行う。封止層は積層体の周囲を囲み、残りの部分の周辺空気からの保護は、終端部により得られる層によって与えられる。
【0170】
封止のステップの後、このように封止された積層体は、次いで、切断面で切断することで、バッテリのアノード及びカソード接続部50が切断面のそれぞれに露出した、ユニットバッテリコンポーネントが得られる。それによって、封止システム30は、前記バッテリの6つの面のうちの4つを、好ましくは連続的に、覆い、バッテリの他の2つの面は、後に終端部40によって覆われる。このシステムは溶接せずに組み立てることができる。
【0171】
有利な実施形態では、このように封止され及び切断された積層体は、無水雰囲気中で、有機溶媒、又は、本出願のパラグラフ10に示されているように、イオン液体に溶解されたものとは異なっていてもよいリチウム塩を含む有機溶媒混合物で希釈されていてもよい、リチウム塩を含むイオン液体などのリチウムイオン保持相によって含浸され得る。含浸は、有機溶媒又はイオン液体に溶解されたものとは異なっていてもよいリチウム塩を含む有機溶媒混合物で希釈されていてもよい、リチウム塩を含むイオン液体などの電解液に浸漬して行ってもよい。イオン液体は、毛細管現象によって細孔の即座に入る。
【0172】
バッテリの封止、切断及び場合によって含浸の、ステップ後、終端部40が加えられ、バッテリの適切な動作に必要な電気接点が設けられる。
【0173】
6.終端部
有利には、バッテリは、カソード、アノードのそれぞれにおいて、集電体が現れる終端部40を備える。好ましくは、アノード接続部及びカソード接続部は、積層体において反対側にある。
【0174】
これらの接続部50及びその周辺に、終端システム40(a termination system)を堆積する。接続部は、当業者に知られているプラズマ堆積技術を使用して、好ましくはALDによって並びに/又は銀が充填された導電性エポキシ樹脂及び/若しくはスズの溶融浴に浸漬することによって、金属化できる。好ましくは、終端部は、ALDによって堆積された、好ましくは金属の、第1の薄い導電性の被覆層と、この第1の層に堆積された銀が充填された第2のエポキシ樹脂層と、この第2の層に堆積されたスズベースの第3の層とを連続して含む、積層体から構成されている。ALDによって堆積された第1の導電層は、バッテリのその領域を湿気から保護するために使用される。ALDによって堆積されるこの第1の導電層は任意である。それは、終端部でのWVTRを小さくすることにより、バッテリのカレンダ寿命を長くできる。この第1の薄い被覆層は、特に金属又は金属窒化物ベースであってもよい。銀を充填したエポキシ樹脂から構成された第2の層は、電気回路が熱及び/又は振動のストレスにさらされたときに電気的接触を壊すことなく、接続部に「柔軟性」を与えることを可能にする。
【0175】
スズベースの第3の金属化された層は、そのコンポーネントの接合性を確保するために使用される。
【0176】
他の実施形態では、この第3の層は、異なる材料の2つの層から構成され得る。第1の層が銀を充填したエポキシ樹脂の層と接触する。この層はニッケルから、電解蒸着によって形成される。このニッケルの層は熱バリアとして使用され、再溶融することにより、コンポーネントの残りの部分を組み立てステップ中の拡散から保護する。このニッケルの層に堆積された最後の層もまた、金属化層であり、再溶融することにより界面を組立物との相性をよくするために、好ましくはスズから構成されている。このスズの層は、溶融スズ浴に浸漬するか又は電着することによって、堆積できる;これらの技術は、そのように知られている。
【0177】
マイクロ配線(micro-wiring)による銅トラック上の特定の組立物では、銅製の最後の金属化層が必要になる場合がある。このような層は、スズの代わりに電着によって実現できる。
【0178】
他の実施形態では、終端部40は、銀が充填されたエポキシ樹脂で構成された層と、第1の層に堆積されたスズ又はニッケルベースの第2の層とを連続して含む積層体から構成されていてもよい。
【0179】
他の実施形態では、終端部40は、銀が充填されたエポキシ樹脂の層などの導電性の層と、第1の層に堆積されたニッケルベースの第2の層と、スズ又は銅ベースの第3の層とを連続して含む積層体から構成されていてもよい。
【0180】
好ましい実施形態では、終端部40は、それぞれ、非限定的な方法による、銀が充填されたエポキシ樹脂などの導電性ポリマー層、ニッケル層及びスズ層の、異なる層から構成されていてもよい。
【0181】
他の好ましい実施形態では、終端部40は、カソード及びアノード接続部の端部において、グラファイトが充填された材料、好ましくはグラファイトが充填されたエポキシ樹脂、から構成された第1の層と、第1の層に堆積された銅のナノ粒子が充填されたインクから得られた金属銅を含む第2の層とを連続的に含む第1の積層体から、構成されている。そして、この終端部の第1の積層体は、金属銅の層によるカソード及びアノード接続部の被覆が得られるように、赤外線フラッシュランプによって焼結される。
【0182】
バッテリの最終的な用途によれば、終端部は、さらに、終端部の第1の積層体に配置された第2の積層体を含み得る。これは、最小のコストでバッテリの気密性を確保するための、好ましくは溶融スズ-亜鉛浴に浸漬することによって、堆積された、スズ-亜鉛合金の第1の層と、電着によって堆積された純粋なスズベースの第2の層又は第2の積層体のこの第1の層に堆積された、銀、パラジウム及び銅ベースの合金を含む第2の層とを連続して含む。
【0183】
終端部により、バッテリの端部の各々で、正及び負の電気接続部を交互に取ることができる。これらの終端部40は、バッテリの異なる要素間に並列の電気接続部を生成することを可能にする。このために、カソード接続部50のみが一方の端部に出て、アノード接続部50はもう一方の端部で利用可能である。有利には、アノード及びカソード接続部50は、積層体の反対側にある。
【0184】
有利には、本発明に係るリチウムイオンバッテリを製造する方法のステップ(11)の後、以下を行う:
- 以下を、含侵された構造に、交互に連続して堆積する:
・ 前記バッテリにおける、パリレン及び/又はポリイミドの少なくとも1つの第1の層、
・ パリレン及び/又はポリイミドの前記第1層における、ALD(原子層堆積)による電気絶縁材料で構成された少なくとも1つの第2の層、
・ そして、少なくとも1つの第1の層と少なくとも1つの第2の層との交互の連続に、好ましくはシリコーン、エポキシ樹脂又はポリイミド又はパリレンから構成された、バッテリを機械的損傷から保護することを可能にする層を堆積し、バッテリの封止システムを形成し、
- このように封止された含浸構造を、2つの切断面に沿って切断し、アノード及びカソード接続部をバッテリの切断面のそれぞれに露出させ、封止システムが前記バッテリの6つの面のうちの4つを、好ましくは連続的に、覆う、基本バッテリが得られ、
- 以下を、これらのアノード接続部及びカソード接続部とその周囲に連続して堆積する:
・ 任意で、好ましくはALDによって堆積される第1の導電層、
・ 第1の導電層に堆積される、銀が充填されたエポキシ樹脂ベースの第2の層、及び、
・ 第2層に堆積されるニッケルベースの第3の層、及び、
・ 第3層に堆積されるスズ又は銅ベースの第4の層。
【0185】
他の好ましい実施形態では、リチウムイオンバッテリは、以下のステップを含む方法によって本発明にしたがい製造される。
(1)a)平均一次直径D50が50nm以下である少なくとも1つのカソード材料のナノ粒子の凝集体又は塊を含むコロイド懸濁液を準備する;
b)平均一次直径D50が50nm以下である少なくとも1つのアノード材料のナノ粒子の凝集体又は塊を含むコロイド懸濁液を準備し;
c)少なくとも2つの平坦な、好ましくは金属の、導電性基板を準備し、該導電性基板は、バッテリの集電体として使用でき、
(2)ディップコーティング、インクジェット、ドクターブレード、ロールコーティング、カーテンコーティング又は電気泳動により、好ましくはパルス電流定電流電着により、ステップ(1)、ステップ(2)でそれぞれ準備した材料のナノ粒子の懸濁液から、ステップ(1)で準備した前記基板に、カソード、アノードそれぞれの少なくとも1つの層を堆積し、
(3)ステップ(2)で得られた層を乾燥し、
(4)任意で、ステップ(3)において、カソード及び/又はアノードの層の細孔及び細孔内に電気絶縁材料の層をALDにより堆積し、
(5)好ましくは電気泳動、インクジェット、ドクターブレード、ロールコーティング、カーテンコーティング又はディップコーティングにより、平均一次直径D50が50nm以下で平均直径D50が約100nmであるこの凝集体又は塊の材料のナノ粒子のコロイド懸濁液から、それぞれステップ(3)及び/又はステップ(4)で得られたカソード、アノードの層に、好ましくは多孔質の、より好ましくはメソポーラスの、電気絶縁材料又はイオン伝導性又は電気伝導性材料でありイオン伝導性であってもよい、膜を堆積し、
(6)ステップ(5)で得た層を乾燥し、
(7)好ましくは横方向にオフセットされた、カソード及びアノードの層が交互に連続した積層体を実現し、
(8)ステップ(6)で得られた膜をアノード及びカソードの層に並置するように、そして、組み立てられた積層体を得るように、ステップ(7)で得られたアノード及びカソードの層をホットプレスし、
(9)任意で、組み立てられた積層体の細孔及び細孔内に、電気絶縁材料の層をALDにより堆積する。
【0186】
ステップ(a1)、(1b)及び(1c)の順序は重要ではない。
【0187】
ステップ(4)でこの堆積を行うよりも、ステップ(8)で得られた組み立てられた積層体に電子絶縁材料の層をALDによって堆積する方が好ましい;各電極で個別に堆積するよりも、熱的に組み立てられた又は熱圧縮された積層体に電子絶縁材料の層をALDによって堆積する方が、よりシンプルである。
【0188】
本発明に係る、リチウムイオンバッテリの製造方法のステップ(8)の後又はステップ(9)の後、以下を行う:
- 組み立てられた積層体に、連続して、交互に、一連の層によって、すなわち、以下を含むシーケンスによって、好ましくはzシーケンスによって、構成された封止システムを堆積する:
・ 組み立てられた積層体に堆積された、好ましくはパリレン、F型のパリレン、ポリイミド、エポキシ樹脂、シリコーン、ポリアミド及び/又はこれらの混合物から選択される、第1の被覆層、
・ 電気絶縁材料で構成され、前記第1の被覆層に原子層堆積によって堆積された、第2の被覆層、
・ このシーケンスは、z≧1でz回繰り返すことができる、
- 最後の被覆層は、エポキシ樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン、シリコーン、ゾルゲルシリカ又は有機シリカから選択される材料から構成され、この連続した層に堆積し、
- この封止された組み立てられた積層体を、封止システムが前記組み立てられた積層体の6つの面のうちの4つを、好ましくは連続して、覆うように、基本バッテリを得るように、切断面に組み立てられた積層体のアノード及びカソード接続部のそれぞれが露出するように、2つの切断面に沿って切断する、
- 封止され及び切断された基本バッテリを、リチウムイオン保持相で含浸する、
- これらのアノード接続部及びカソード接続部並びにその周囲に、以下を連続して堆積する:
・ グラファイトを充填した材料の、好ましくはグラファイトを充填したエポキシ樹脂の、第1の層、
・ 第1の層に堆積する、銅のナノ粒子が充填されたインクから得られる金属銅を含む、第2の層、
- 得られた層を、好ましくは、金属銅の層によるカソード及びアノード接続部の被覆を得るように、赤外線フラッシュランプによって、熱処理し、
- この終端部の第1の積層体に及びその周りに、連続して、以下を含む第2の積層体を堆積してもよい:
・ 最小のコストでバッテリの気密性を確保するために、好ましくは溶融スズ-亜鉛浴に浸漬することによって堆積されるスズ-亜鉛合金の第1の層、及び、
・ 電着によって堆積された純粋なスズベースの第2の層、又は第2の積層体におけるこの第1の層に堆積された銀、パラジウム及び銅ベースの合金を含む第2の層。
【0189】
有利には、アノード及びカソード接続部は、積層体の反対側にある。
【0190】
セクション5に示した誘電体層の堆積、バッテリの組み立て、組み立てられたバッテリの含浸、封止システムの堆積及び前述した終端部に関連するすべての実施形態は、その組み合わせが当業者にとって現実的である場合、互いに独立して組み合わせてもよい。
【実施例
【0191】
例1:LiMnベースのメソポーラスカソードの実現:
LiMnのナノ粒子の懸濁液を、水熱合成によって調製した:14.85gのLiOH,HOを500mlの水に溶解した。この溶液に43.1gのKMnOを加え、この液相をオートクレーブに注いだ。撹拌しながら、総体積が3.54lに達するまで28mlのイソブチルアルデヒド及び水を加えた。次いで、オートクレーブを180℃に加熱し、この温度で6時間維持した。ゆっくりと冷却した後、溶媒中の懸濁液中に黒色の沈殿物を得た。この沈殿物を、導電率が約300μS/cm、ゼータ電位が-30mVである凝集体の懸濁液が得られるまで、一連の、遠心分離-再分散の水中でのステップを経た。一次粒子のサイズは非常に均一(単分散)で、約10~20nmであり、凝集体のサイズは100~200nmである。生成物は、X線回折及び電子顕微鏡により特定した。
【0192】
これらの凝集体を、水性媒体中で、ピーク時に0.6A、平均で0.2Aのパルス電流を流し、厚さ5μmのステンレス鋼の箔(316L)に、電気泳動によって堆積した。印加した電圧は400秒間で約4~6Vであった。このようにして、約4μmの厚さの堆積物を得た。乾燥時に亀裂が発生しないように、温度及び湿度を制御したオーブンで乾燥した。
【0193】
ナノ粒子を互いに接合させ、基板への付着を向上させ且つLiMnの再結晶のために、空気中で600℃で1時間固化した。この層は、約45体積%の開口した多孔性を有し、サイズが10~20nmの細孔を有する(後述の例5を参照)。
【0194】
この方法の代替として、粒子サイズが20~30nmである単分散コロイド懸濁液を得た。これは安定しており、ゼータ電位が約55mVであった。定義されたサイズの凝集体を得るために、約100nmのサイズの凝集体が得られるまで、LiOHの溶液を加えて懸濁液を不安定化した;この懸濁液のゼータ電位は35mVであり、その導電率は数百μS/cmを超えていた。このコロイド懸濁液を使用して、厚さ4μmの層を、厚さ5μmのステンレス鋼の箔(316L)に電気泳動によって堆積した。電極とカウンタ電極との間の距離は約1cmであり、電流密度は約6mA/cmであった。電流パルスの持続時間は5ミリ秒であり、パルス間の時間は1ミリ秒であった。乾燥及び固化は、前述したように行った。
【0195】
この例では、コロイド懸濁液には、残留イオン電荷のために、自然に凝集体が含まれる。遠心分離及び/又は限外ろ過技術のより多くのステップを通じて精製をさらに進めると、導電率が100μS/cm未満の安定した単分散懸濁液が得られる。この懸濁液には凝集体が含まれていないため、電気泳動のステップに使用できるように、LiOHを加えて不安定化する必要がある。
【0196】
例2:LiCoOベースのメソポーラスカソードの実現
LiCoOのナノ粒子結晶の懸濁液を、水熱合成によって調製した。懸濁液100mlのため、水酸化リチウム一水和物3Mの溶液20mlに、硝酸コバルト六水和物0.5Mの水溶液20mlを攪拌しながら加えた反応混合物に、50%のHを20ml、一滴ずつ加えた。反応混合物を200℃のオートクレーブに1時間置いた;オートクレーブ内の圧力は約15バールに達した。
【0197】
溶媒中の懸濁液中に黒色の沈殿物を得た。この沈殿物で、導電率が約200μS/cm、ゼータ電位が-30mVである懸濁液が得られるまで、一連の、遠心分離-再分散の、水中でのステップを経た。一次粒子のサイズは約10~20nmであり、凝集体のサイズは100~200nmであった。生成物は、X線回折及び電子顕微鏡によって特定した。
【0198】
これらの凝集体を、水性媒体中で、ピーク時に0.6A、平均で0.2Aのパルス電流を流すことにより、厚さ5μmのステンレス鋼の箔に電気泳動によって堆積した;印加電圧は400秒間で約4~6Vであった。このようにして、約4μmの厚さの堆積物を得た。ナノ粒子を互いに接合し、基板への付着を向上させ、LiCoOの再結晶のために、空気中で600℃で1時間固化した。
【0199】
例3:LiTi12ベースのメソポーラスアノードの実現:
LiTi12のナノ粒子の懸濁液を、グリコサーマル合成(glycothermal synthesis)により調製した:190mlの1,4-ブタンジオールをビーカーに注ぎ、4.25gの酢酸リチウムを撹拌しながら加えた。酢酸塩が完全に溶解するまで、溶液を撹拌し続けた。その酢酸塩溶液に、不活性雰囲気下で16.9gのチタンブトキシドを加えた。次いで、溶液を数分間撹拌した後、追加の60mlのブタンジオールで事前に満たしたオートクレーブに移した。次いで、オートクレーブを閉じて、少なくとも10分間窒素をパージした。次いで、オートクレーブを3℃/分の速度で300℃に加熱し、この温度で2時間撹拌した。最後に、攪拌を続けながら、放冷した。
【0200】
溶媒中の懸濁液中に白色の沈殿物が得られた。この沈殿物は、イオン伝導度の低い純粋なコロイド懸濁液を得るために、一連の遠心分離-再分散の、エタノール中のステップを行った。これには、10nmの一次粒子から形成された約150nmの凝集体が含まれていた。そのゼータ電位は約-45mVであった。生成物は、X線回折及び電子顕微鏡によって特定した。図1Aは回折図を示し、図1Bは一次ナノ粒子の透過型電子顕微鏡によって得られたスナップショットを示す。
【0201】
これらの凝集体は、水性媒体中で、ピーク時に0.6A、平均で0.2Aのパルス電流を流すことにより、厚さ5μmのステンレス鋼箔に電気泳動によって堆積した;印加電圧は500秒間で約3~5Vであった。このようにして、約4μmの厚さの堆積物を得た。ナノ粒子を接合し、基板への付着を改善し、LiTi12の再結晶のために、窒素中、40%の電力で、RTAアニーリングを1時間行って固化した。
【0202】
例4:ALDによるメソポーラスの電極の被覆の実現(カソードへのアルミナの堆積の場合)
アルミナの薄層を、ALD P300B反応器(Picosun社製)中で、180℃、2ミリバールのアルゴン圧力下で堆積した。ここで、アルゴンは、キャリアガスとして及びパージのための両方で使用される。各堆積の前に、3時間乾燥した。使用した前駆体は水及びTMA(トリメチルアルミニウム)であった。堆積のサイクルは、以下のステップであった:
- 200ミリ秒のTMAの注入する、
- Arによりチャンバを6秒間パージする、
- 50ミリ秒間、水を注入する、
- Arによりチャンバを6秒間パージする。
【0203】
14サイクル行って、コーティングの厚さを1.6nmにした。これらの様々なサイクルの後、120℃で12時間の真空乾燥を行って、表面の試薬の残留物を除去した。
【0204】
例5:比表面積及び多孔質体積の決定
例1に記載したものと同様の方法によって得たLiMn(ここでは「LMO」と略される)の層について、その比表面積を当業者に知られているBET技術(Brunauer-Emmett-Teller)によって決定した。サンプルは、ステンレス鋼箔(厚さ5μm)の2つの面の各々に堆積した厚さ2μmのLMOの堆積物をアニーリングしたものであり、坪量(a grammage)が1面あたり0.6mg/cm(又は2面あたり1.2mg/cm)であった。5×10cmの2つの箔をレーザーカットし、互いに巻き付けて、BETデバイスのガラスセルに挿入した。分析に使用した吸着ガスはNであった。結果は以下のとおりである:
サンプルの総質量(箔+堆積物):0.512g
堆積物の質量(m):0.120g
真空中で150℃での5時間後の堆積物の質量:0.117g
比表面積BET(S):43.80m/g
細孔体積(V):0.2016cm/g
細孔の直径(D=4V/A):20nm
BET法では、50m未満の直径の開口した多孔性を特定できるのみである(細孔の直径は、細孔が円筒形であるとみなして計算される)。50nmを超える寸法の開口した多孔性を計算するには、他の方法(水銀の侵入)を使用する必要がある。しかし、この限界直径は、水熱LMO(hydrothermal LMO)の堆積物について、FIBで測定した最大多孔度に対応することに留意したい。水熱合成によって得られたLMO粉末の比表面積は160m/gであった(他で決定)。
【0205】
直径18mmのディスク電極El-Cellにおいて、近接可能なすべての多孔性を、坪量が0.6mg/cmのLMOで含浸させることが望ましいという仮説では、体積が2.3μLの電解質が必要になる。LMOの理論密度dLMOは、4.29g/cmである。多孔度は、堆積物が占める総体積に対する空の体積に対応し、次の比率である:
【0206】
【数1】
【0207】
この計算によって得られる多孔度(46.4%)は、堆積物の質量及びその平均厚さ(40~50%)を測定することによって推定される多孔度に非常に近い。
【0208】
したがって、本発明に係る方法によって堆積したLMO層の多孔度は、ほとんどが開口した細孔の多孔度であると結論付けることができる。
【0209】
例6:本発明に係る電極を使用したバッテリの製造
薄層のいくつかのアノード、カソードは、それぞれ、例3、例2にしたがって実現された。これらの電極を、以下に示すように、LiPOのナノ粒子の懸濁液からの多孔質層で被覆した。
【0210】
a.LiPOのナノ粒子の懸濁液の実現
2つの溶液を調製した:
11.44gのCHCOOLi、2HOを112mlの水に溶解し、次いで、その媒体に56mlの水を激しく攪拌しながら加えて溶液Aを得た。
【0211】
4.0584gのHPOを105.6mlの水で希釈し、次いで、この溶液に45.6mlのエタノールを加えて、以下で溶液Bと呼ぶ第2の溶液を得た。
【0212】
次いで、溶液Bを、激しく攪拌しながら、溶液Aに加えた。
【0213】
得られた溶液は、混合中に形成された気泡の消失後に完全に透明になり、その媒体を均質化するために、これをUltraturraxTMタイプのホモジナイザーの作用下で1.2リットルのアセトンに加えた。液相懸濁液中の白色沈殿が直ちに観察された。
【0214】
反応媒体を5分間均質化し、次いでマグネチックスターラーで10分間攪拌した。1~2時間デカントした(decant)。上澄みを廃棄し、残りの懸濁液を6000rpmで10分間遠心分離した。次いで、300mlの水を加えて沈殿物を懸濁液に戻した(ソノトロード(a sonotrode)、マグネチックスターラーを使用)。このようにして得られたコロイド懸濁液に、激しく攪拌しながら、トリポリリン酸ナトリウム100g/lの溶液125mlを加えた。このようにして、懸濁液はより安定した。次いで、ソノトロードを使用して懸濁液を超音波処理した。次いで、懸濁液を8000rpmで15分間、再び遠心分離した。次いで、その主成分を150mlの水に再分散させた。次いで、得られた懸濁液を再び8000rpmで15分間遠心分離し、得られた主成分を300mlのエタノールに再分散させて、電気泳動堆積を行うための懸濁液を得た。
【0215】
このようにして、エタノールに懸濁した、10nmのLiPOの一次粒子から形成された、約100nmの塊が得られた。
【0216】
b.以前に生成したアノード及びカソード層における、前述のパートa)に記載のLiPOのナノ粒子の懸濁液からの多孔質層の実現
次いで、上記で得られたLiPOのナノ粒子の懸濁液に90秒間20V/cmの電界を印加することにより、以前に生成したアノード及びカソードの表面に、LiPOの薄い多孔質層を電気泳動によって堆積して、1.5μmの層を得た。次いで、この層を空気中120℃で乾燥し、次いで、微量の有機残留物を除去するために、事前に乾燥したこの層に対して350℃で60分間の焼成処理(a calcination treatment)を行った。
【0217】
c.電気化学セルの実現
例2にしたがって作製した電極LiCoO及び例3にしたがって作製した電極LiTi12に、1.5μmの多孔質LiPOを堆積した後、その2つのサブシステムを、LiPOの膜が接触するように積層した。次いで、この積層体に真空ホットプレスを行った。
【0218】
これを行うために、積層体を1.5MPaの圧力下に置き、10-3バールで30分間真空乾燥した。次いで、プレスプラテンを4℃/秒の速度で450℃に加熱した。次いで、450℃で、積層体を45MPaの圧力下で1分間熱圧縮し、その後、このシステムを周辺温度に冷却した。
【0219】
組み立てを行い、組み立てられたセルから構成された剛性の多層システムを得た。
【0220】
次いで、この組立物を、0.7MのPYR14TFSI及びLiTFSIを含む電解液に含浸させた。イオン液体は、毛細管現象によって細孔にすぐに入る。このシステムを1分間浸漬後、セルの積層体の表面をNカーテンで乾燥した。
【0221】
d.複数の電気化学セルで構成されるバッテリの実現
薄層のいくつかのアノード、カソードは、例3、例2にしたがってそれぞれ実現した。これらの電極は、以下に示すように、LiPOのナノ粒子の懸濁液からの多孔質層で覆った。
【0222】
事前に作製した電極(LiCoO及びLiTi12)の各々に、1.5μmの多孔質LiPOを堆積した後、LiPOの膜が接触するようにその2つのサブシステムを積層した。次いで、そのLiPOの膜が接触し、多孔質層で覆われた、薄層のカソード及びアノードの交互の連続を含むこの積層体に、真空ホットプレスを行った。
【0223】
これを行うために、積層体を1.5MPaの圧力下に置き、10-3バールで30分間真空乾燥した。次いで、プレスプラテンを4℃/秒の速度で450℃に加熱した。次いで、積層体を450℃で、45MPaの圧力下で1分間熱圧縮し、その後このシステムを周辺温度に冷却した。
【0224】
組み立てを行い、いくつかの組み立てられたセルから構成された剛性の多層システムを得た。
【0225】
次いで、この組立物を、0.7MのPYR14TFSI及びLiTFSIを含む電解液に含浸させた。イオン液体は、毛細管現象によって細孔にすぐに入る。このシステムを1分間浸漬後、セルの積層体の表面をNカーテンで乾燥した。
【0226】
このようにして、本発明に係る電極を有するいくつかの電気化学セルを備えるリチウムイオンバッテリを得た。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4