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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】化学パルプの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 3/02 20060101AFI20240416BHJP
   D21C 3/00 20060101ALI20240416BHJP
   C09K 23/42 20220101ALI20240416BHJP
【FI】
D21C3/02
D21C3/00 Z
C09K23/42
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021190355
(22)【出願日】2021-11-24
(65)【公開番号】P2023077170
(43)【公開日】2023-06-05
【審査請求日】2023-06-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】榎本 幸典
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-064888(JP,A)
【文献】米国特許第04906331(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0121348(US,A1)
【文献】特開平06-299488(JP,A)
【文献】米国特許第03909345(US,A)
【文献】特開昭61-097492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21C 3/00- 3/28
C09K23/00-23/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学パルプの製造方法であって、
リグノセルロース材料を、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーであるプルロニック型非イオン界面活性剤を含む蒸解液を用いてアルカリ蒸解することを含み、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシエチレン基(EO)とオキシプロピレン基(PO)との比率(EO:PO)が、55:45~85:15(重量比)であり、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシプロピレン基の重量平均分子量が、200~900である、製造方法。
【請求項2】
前記リグノセルロース材料(絶乾重量)に対して0.01重量%~1重量%となるように、前記非イオン界面活性剤を前記蒸解液に添加することを含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記非イオン界面活性剤の重量平均分子量が、500~3000である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
リグノセルロース材料を、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーであるプルロニック型非イオン界面活性剤を含む蒸解液を用いてアルカリ蒸解することを含む、リグノセルロース材料の蒸解方法であって、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシエチレン基(EO)とオキシプロピレン基(PO)との比率(EO:PO)が、55:45~85:15(重量比)であり、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシプロピレン基の重量平均分子量が、200~900である、蒸解方法。
【請求項5】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーであるプルロニック型非イオン界面活性剤を含む、リグノセルロース材料のアルカリ蒸解用の蒸解助剤であって、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシエチレン基(EO)とオキシプロピレン基(PO)との比率(EO:PO)が、55:45~85:15(重量比)であり、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシプロピレン基の重量平均分子量が、200~900である、蒸解助剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化学パルプの製造方法、蒸解方法及びパルプ蒸解助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化学パルプ、すなわちリグノセルロース材料を化学的に処理してパルプを製造する方法としてはアルカリ蒸解法や亜硫酸蒸解法がある。本開示におけるアルカリ蒸解法としては、クラフト蒸解法、ソーダ蒸解法、サルファイト蒸解法、オルガノソルブ蒸解法など多種にわたる。また、本開示における亜硫酸蒸解法(亜硫酸法)は、アルカリ性亜硫酸法、中性亜硫酸法、酸性亜硫酸法、及び重亜硫酸法の各種亜硫酸法の総称である。
【0003】
蒸解助剤としてはアントラキノンが広く使用されてきた。しかしながら、近年、アントラキノンの発がん性が指摘され、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は、2013年に、食品包装用の紙に用いることが認められている物質のリストからアントラキノンを除外することを公表しておりアントラキノンの使用を控える方向にある。このため、アントラキノンに代わる新たな蒸解助剤の開発が行われている。
【0004】
特許文献1は、ノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤を添加した蒸解液を用いてリグノセルロース材料をアルカリ蒸解することを開示する。特許文献2は、R1-O-[(C24O)m/(A1O)n]-Hで表されるノニオン性界面活性剤を含有する蒸解助剤、及び該蒸解助剤を添加した蒸解液を用いてリグノセルロース材料をアルカリ蒸解することを開示する。特許文献3は、R[(C24O)n(C36mO]xHで表される化合物を含有する蒸解助剤を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-173241号公報
【文献】特開2001-064888号公報
【文献】米国特許第3909345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の界面活性剤を用いた蒸解では、蒸解助剤としてアントラキノンを使用した場合と比較して、収率が低く、カッパー価が高いという問題がある。
そこで、本開示は、一又は複数の実施形態において、従来の界面活性剤系蒸解助剤を使用した場合と比較して、収率の低下を抑制しつつ低カッパー価の化学パルプを製造可能な化学パルプの製造方法及び蒸解方法、並びにそれらに用いる蒸解助剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、リグノセルロース材料を、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーであるプルロニック型非イオン界面活性剤を含む蒸解液を用いてアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解することを含む化学パルプの製造方法であって、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシエチレン基(EO)とオキシプロピレン基(PO)との比率(EO:PO)が、55:45~85:15(重量比)であり、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシプロピレン基の重量平均分子量が、200~900である製造方法に関する。
【0008】
本開示は、その他の態様において、リグノセルロース材料を、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーであるプルロニック型非イオン界面活性剤を含む蒸解液を用いてアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解することを含む、リグノセルロース材料の蒸解方法であって、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシエチレン基(EO)とオキシプロピレン基(PO)との比率(EO:PO)が、55:45~85:15(重量比)であり、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシプロピレン基の重量平均分子量が、200~900である蒸解方法に関する。
【0009】
本開示は、その他の態様において、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーであるプルロニック型非イオン界面活性剤を含む、リグノセルロース材料の蒸解助剤であって、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシエチレン基(EO)とオキシプロピレン基(PO)との比率(EO:PO)が、55:45~85:15(重量比)であり、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシプロピレン基の重量平均分子量が、200~900である蒸解助剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、一又は複数の実施形態において、従来の界面活性剤系蒸解助剤を使用した場合と比較して、収率の低下を抑制しつつ、低カッパー価の化学パルプを製造可能な化学パルプの製造方法及び蒸解方法、並びにそれらに用いる蒸解助剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、化学パルプの製造系のフローの一例を示すブロック図である。
図2図2は、実施例及び比較例の結果(ΔKN:カッパー価、ΔYscreened:収率)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、EO:PO(重量比)が55:45~85:15であり、POの重量平均分子量が200~900であるプルロニック型非イオン界面活性剤(以下、単に「プルロニック型非イオン界面活性剤」ともいう)の存在下で蒸解を行うことにより、得られるパルプのカッパー価を低下させることができる、という知見に基づく。
本開示は、上記のプルロニック型非イオン界面活性剤の存在下で蒸解を行うことにより、従来の界面活性剤系蒸解助剤を使用した場合と比較してパルプ収率の低下を抑制しつつカッパー価の低下を実現できうる、という知見に基づく。
本開示は、上記のプルロニック型非イオン界面活性剤の存在下で蒸解を行うことにより、蒸解液に使用するアルカリの使用量を抑制しつつ、カッパー価の低下とパルプ収率の低下の抑制との双方を実現できうる、という知見に基づく。
【0013】
EO:PO(重量比)が55:45~85:15であり、POの重量平均分子量が200~900であるプルロニック型非イオン界面活性剤の存在下で蒸解を行うことにより、上記の効果が奏されるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
界面活性剤は、リグノセルロース材料への白液(蒸解液中のアルカリ性溶液や亜硫酸溶液等)の浸透性を向上させることが知られている一方で、リグノセルロース材料の細胞間隙への白液の浸入を阻害する場合があることも知られている。これに対し、本開示で使用する界面活性剤は、EO:PO(重量比)が55:45~85:15とEOの比率がPOよりも高いため、蒸解処理時の加熱条件下においても、リグノセルロース材料への白液の浸透性向上効果を維持することができる。また、POの重量平均分子量が200~900であるため、細胞間隙への白液の浸入に対して界面活性剤が及ぼしうる悪影響を抑制できる。さらに、プルロニック型非イオン界面活性剤であるため、蒸解処理時に生じうる泡立ち(起泡)を抑制できうる。これらの結果、得られるパルプのカッパー価を低下でき、さらには従来の界面活性剤系蒸解助剤を使用した場合と比較してパルプ収率の低下を抑制できると考えられる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0014】
本開示においてプルロニック型非イオン界面活性剤の重量平均分子量は、一又は複数の実施形態において、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。測定条件は、例えば、以下の通りである。
<測定条件>
装置:1260 Infinity II LC
検出器:ELSD
カラム:PLgel MIXED
測定(カラム)温度:40℃
溶離液:THF
流速:1.0mL/min
サンプル濃度:1%
サンプル注入量:10μL
換算標準:ポリエチレングリコール
【0015】
本開示においてプルロニック型非イオン界面活性剤のEO及びPOの比率(重量比)は、例えば、NMR(核磁気共鳴装置)又はFT-IR(フーリエ変換赤外分光法)により求めることができる。
【0016】
本開示においてプルロニック型非イオン界面活性剤のPOの重量平均分子量は、例えば、NMR又はFT-IRを用いて得られた付加モル数により求めることができる。
【0017】
本開示において「パルプ収率(精選収率)」とは、蒸解後の未晒パルプからノット粕等の未蒸解繊維を除去した後のパルプ(精選パルプ)の乾燥重量の、蒸解に用いた原料(リグノセルロース材料)全体の絶乾重量に対する百分率のことをいう。
本開示において「絶乾重量」とは、105℃で1日乾燥させた後の重量をいう。
本開示において「カッパー価」とは、上記の精選パルプを、JIS P 8211(パルプ-カッパー価試験方法)に準じて試験して得られたカッパー価をいう。
【0018】
本開示において「化学パルプ」とは、リグノセルロース材料を化学的に処理して脱リグニンして得られたパルプである。化学パルプとしては、一又は複数の実施形態において、亜硫酸パルプ、溶解亜硫酸パルプ、アルカリパルプ、クラフトパルプ、又は溶解クラフトパルプ等が挙げられる。
【0019】
本開示において「リグノセルロース材料」は、木材チップ等の各種木材であってもよいし、ワラ等の非木材であってもよい。木材としては、一又は複数の実施形態において、針葉樹(N材)チップ及び広葉樹(L材)チップが挙げられる。針葉樹としては、一又は複数の実施形態において、カラマツ、アカマツ及びスギ等が挙げられる。広葉樹としては、一又は複数の実施形態において、ユーカリ及びアカシア等が挙げられる。リグノセルロース材料は、一又は複数の実施形態において、単一種類のリグノセルロース材料であってもよいし、2種類以上のリグノセルロース材料が混合されたものであってもよい。本開示におけるリグノセルロース材料は、上記木材チップ等のみならず、蒸解釜(蒸解工程)で排出されるパルプスラリー(例えば、未晒し又は未漂白パルプ等)を含みうる。
【0020】
本開示において「蒸解」とは、木材や非木材のリグノセルロース材料を、薬品を用いて高温・高圧処理を行い、リグノセルロース材料からリグニン等の非繊維素物を溶解又は除去してセルロース等の繊維素を分離することをいう。本開示における蒸解としては、アルカリ蒸解法又は亜硫酸蒸解法がある。蒸解は、一又は複数の実施形態において、リグノセルロース材料と、蒸解液(アルカリ溶液)とを釜で加熱することにより行うことができる。本開示における高温処理としては、一又は複数の実施形態において、80℃以上に加熱することが挙げられる。本開示における蒸解は、一又は複数の実施形態において、蒸解液の温度が80℃~200℃となるように加熱することを含む。本開示における高圧処理としては、一又は複数の実施形態において、0.2MPa以上に加圧することが挙げられ、好ましくは0.3MPa以上若しくは1.0MPa以上である。本開示における高圧処理としては、一又は複数の実施形態において、3.0MPa以下であり、好ましくは2.0MPa以下である。
【0021】
[化学パルプの製造方法]
本開示は、一態様において、リグノセルロース材料を、EO:PO比(重量比)が55:45~85:15であり、POの分子量が200~900であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(プルロニック型非イオン界面活性剤)を含む蒸解液を用いてアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解することを含む化学パルプの製造方法に関する。本開示の化学パルプの製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、収率の低下を抑制しつつ低カッパー価の化学パルプを製造することができる。
【0022】
本開示において、プルロニック型非イオン界面活性剤のEO:PO比(重量比)は、55:45~85:15であり、カッパー価のさらなる低減及び/又は収率低下のさらなる抑制の点から、好ましくは60:40~80:20である。
【0023】
本開示において、プルロニック型非イオン界面活性剤のPOの重量平均分子量は、200~900である。プルロニック型非イオン界面活性剤のPOの重量平均分子量は、カッパー価のさらなる低減及び/又は収率低下のさらなる抑制の点から、好ましくは、300以上、350以上、400以上、450以上又は500以上である。同様の観点から、好ましくは、850以下、800以下、750以下又は700以下である。
【0024】
本開示において、プルロニック型非イオン界面活性剤のEOの重量平均分子量は、一又は複数の実施形態において、500~2550である。プルロニック型非イオン界面活性剤のEOの重量平均分子量は、一又は複数の実施形態において、600以上、700以上、800以上、900以上又は1000以上である。プルロニック型非イオン界面活性剤のEOの重量平均分子量は、一又は複数の実施形態において、2500以下、2400以下、2200以下、2100以下、1900以下、1700以下、1500以下、1300以下又は1100以下である。
【0025】
本開示において、プルロニック型非イオン界面活性剤の重量平均分子量は、一又は複数の実施形態において、500~3000である。カッパー価のさらなる低減及び/又は収率低下のさらなる抑制の点から、好ましくは600以上、700以上、800以上、900以上、1000以上、1100以上、1200以上、1250以上、1300以上、1500以上又は1700以上である。同様の観点から、好ましくは2900以下、2750以下、2550以下、2300以下、2000以下又は1800以下である。
【0026】
プルロニック型非イオン界面活性剤の曇点は、カッパー価のさらなる低減及び/又は収率低下のさらなる抑制の点から、好ましくは90℃を超え、90.4℃以上、94℃以上、95℃以上又は99℃以上が挙げられる。本開示における曇点は、1質量%の水溶液としたときの曇点をいう。
【0027】
本開示におけるプルロニック型非イオン界面活性剤としては、一又は複数の実施形態において、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とのトリブロック共重合体である非イオン界面活性剤が挙げられる。プルロニック型非イオン界面活性剤としては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン縮合型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーリバース型、エチンジアミンポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー型、及びエチレンジアミンポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーのリバース型等が挙げられる。
【0028】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン縮合型のプルロニック型非イオン界面活性剤は、一又は複数の実施形態において、HO(C24O)x1-(C36O)y1-(C24O)z1Hで表される。x1及びz1はEOの平均付加モル数を示し、それぞれ独立して1~57であって、x1+z1が7~58であり、好ましくは11~58であり、より好ましくは17~46である。y1はPOの平均付加モル数を示し、4~15であり、好ましくは8~15であり、より好ましくは8~13である。
【0029】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーリバース型のプルロニック型非イオン界面活性剤は、一又は複数の実施形態において、HO(C36O)x2-(C24O)y2-(C36O)z2Hで表される。x2及びz2はPOの平均付加モル数を示し、それぞれ独立して1~14であって、x2+z2が4~15であり、好ましくは8~15である。y2はEOの平均付加モル数を示し、7~58であり、好ましくは11~58である。
【0030】
本開示に用いるプルロニック型非イオン界面活性剤は、公知の方法により製造することができる。
【0031】
蒸解液は、プルロニック型非イオン界面活性剤を含む。蒸解液におけるプルロニック型非イオン界面活性剤の含有量は、一又は複数の実施形態において、リグノセルロース材料の絶乾重量に対して0.01重量%~1重量%である。プルロニック型イオン界面活性剤の含有量は、一又は複数の実施形態において、0.015重量%以上である。プルロニック型非イオン界面活性剤の含有量は、一又は複数の実施形態において、0.05重量%以下又は0.05重量%未満である。
本開示の化学パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、蒸解液におけるプルロニック型非イオン界面活性剤の含有量が上記範囲になるように、蒸解液にプルロニック型非イオン界面活性剤を添加することを含んでいてもよい。
【0032】
蒸解液は、一又は複数の実施形態において、アルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解に用いられる蒸解液を使用することができる。アルカリ蒸解法としては、一又は複数の実施形態において、クラフト蒸解法、ソーダ蒸解法、サルファイト蒸解法、又はオルガノソルブ蒸解法等の様々な方法が挙げられる。亜硫酸蒸解法としては、一又は複数の実施形態において、アルカリ性亜硫酸法、中性亜硫酸法、酸性亜硫酸法、又は重亜硫酸法の各種亜硫酸法が挙げられる。
【0033】
アルカリ蒸解に用いる蒸解液としては、一又は複数の実施形態において、一般的な蒸解工程に用いられるアルカリ溶液(アルカリ蒸解液)等が挙げられる。該アルカリ溶液は、一又は複数の実施形態において、硫化ナトリウム(Na2S)と、水酸化ナトリウム(NaOH)とを含み、好ましくは主成分として硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムとを含む。アルカリ溶液におけるリグノセルロース材料の絶乾重量当たりの硫化度は、一又は複数の実施形態において、10質量%~35質量%又は15質量%~30質量%である。硫化度は、(Na2S)/(NaOH+Na2S)×100で表される。リグノセルロース材料の絶乾重量当たりのアルカリ添加量(活性アルカリ添加率(AA))は、一又は複数の実施形態において、5質量%~35質量%又は12質量%~24質量%である。活性アルカリはNaOH濃度+Na2S濃度をNa2Oに換算して表され、活性アルカリ及び硫化度は、下記式から算出できる。
活性アルカリ=[NaOH量×61.979/(2×39.997]+[Na2S量×61.979/78.0452]
硫化度=[Na2S量×61.979/78.0452]÷活性アルカリ
61.979:Na2Oの分子量
39.997:NaOHの分子量
78.0452:Na2Sの分子量
蒸解液の活性アルカリ添加量が多いほど、カッパー価を低くすることができることが知られている。本開示の化学パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、プルロニック型非イオン界面活性剤を含む蒸解液で蒸解することから、プルロニック型非イオン界面活性剤非存在の蒸解液で蒸解した場合よりも低いアルカリ添加量であっても、カッパー価の低減を実現することができる。
【0034】
亜硫酸蒸解に用いる蒸解液としては、一又は複数の実施形態において、亜硫酸溶液、又は亜硫酸水素溶液(重亜硫酸溶液)等が挙げられる。
【0035】
リグノセルロース材料と蒸解液との液比(リグノセルロース材料1kg(絶乾重量)あたりの蒸解液の量)は、一又は複数の実施形態において、1.0L/kg~5.0L/kgであり、好ましくは0.5L/kg~4.5L/kg又は2.0L/kg~4.0L/kgである。
【0036】
蒸解時の加熱温度は、一又は複数の実施形態において、80℃~200℃であり、好ましくは140℃~180℃である。本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、リグノセルロース材料を、上記のプルロニック型非イオン界面活性剤を含有する蒸解液中で、80℃~200℃で加熱することを含む蒸解工程を含む。
【0037】
蒸解時の加熱時間は、一又は複数の実施形態において、30分~400分であり、好ましくは50分~300分である。
【0038】
プルロニック型非イオン界面活性剤の添加箇所は、プルロニック型非イオン界面活性剤を含む蒸解液中でリグノセルロース材料の蒸解が行われるように添加されれば、特に限定されない。プルロニック型非イオン界面活性剤の添加箇所としては、一又は複数の実施形態において、蒸解工程に先立つ原料チップ供給工程からリグノセルロース材料をアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解する蒸解工程までの少なくとも一カ所が挙げられる。プルロニック型非イオン面活性剤は、一又は複数の実施形態において、蒸解が行われる蒸解釜に添加してもよいし、カッパー価のさらなる低減及び/又は収率低下のさらなる抑制の点から、蒸解釜へ原料チップを供給する原料チップ供給工程のいずれかに添加することが好ましい。原料チップ供給工程における添加箇所としては、一又は複数の実施形態において、チップビン(図1の13)、スチーミングベッセル(図1の14)、メタルトラップ、チップシュート、及び高圧フィーダー等が挙げられる。よって、本開示の製造方法は、プルロニック型非イオン界面活性剤を原料チップと混合することを含んでいてもよい。また、蒸解液(白液及び黒液)の注入循環ラインにプルロニック型非イオン界面活性剤を添加してもよく、蒸解釜での蒸解後の脱リグニン工程の酸素蒸解装置に添加してもよい。プルロニック型非イオン界面活性剤は、一又は複数の実施形態において、一度に添加してもよいし、分割して添加してもよい。
【0039】
図1に、化学パルプの製造方法のフローの一例を示す。図1のフローには、リグノセルロース材料の原料チップ供給工程、蒸解工程、及び酸素脱リグニン工程が含まれる。
(原料チップ供給工程)
チッパー(図示せず)でチップ化されたリグノセルロース材料のチップ11は、チップサイロ12に保管される。チップサイロ12で保管されたチップは、チップスクリーン(図示せず)にて選定されてチップビン13に送られた後、スチーミングベッセル14においてチップ内部の気相が水蒸気に置換される。
(蒸解工程)
スチーミングベッセル14において浸透性が高められたチップは、浸透塔15においてチップ内部への蒸解液の浸透が促進される。その後、蒸解釜16において、パルプ材料である木材チップと、プルロニック型非イオン界面活性剤及び水酸化ナトリウム等を少なくとも含有する蒸解液とを混合し加圧蒸煮することで、非繊維成分が溶解した黒液とパルプとが混在するパルプスラリーが排出される。また、浸透塔15は場合によっては前加水分解釜(PHV)塔として酸を用いた前加水分解するために使用されることもある。
(酸素脱リグニン工程)
蒸解釜16から排出されたパルプスラリーは、黒液洗浄塔17で洗浄された後、スクリーン18、デッカー19及び未晒し高濃度ストレージタワー20を経た後、酸素蒸解装置21に導入される。酸素蒸解装置21において、さらなる脱リグニン化が行われた後、漂白工程(図示せず)に移送される。
【0040】
本開示の製造方法において、上記の蒸解に先立ち、リグノセルロース材料の前処理を行うことを含んでもよい。前処理としては、一又は複数の実施形態において、水熱処理(前加水分解処理)等が挙げられる。水熱処理は、一又は複数の実施形態において、チップ状のリグノセルロース材料を熱水又は水蒸気で処理することにより行うことができる。
【0041】
[蒸解方法]
本開示は、一態様において、EO:PO比(重量比)が55:45~85:15であり、POの重量平均分子量が200~900であるプルロニック型非イオン界面活性剤を含む蒸解液を用いて、リグノセルロース材料をアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解することを含む蒸解方法に関する。本開示の蒸解方法によれば、一又は複数の実施形態において、収率の低下を抑制しつつ低カッパー価のパルプを製造できる。本開示の蒸解方法におけるプルロニック型非イオン界面活性剤、その含有量及び蒸解条件等は、本開示の製造方法と同様である。
【0042】
[パルプ蒸解助剤]
本開示は、一態様において、EO:PO比(重量比)が55:45~85:15であり、POの重量平均分子量が200~900であるプルロニック型非イオン界面活性剤を含む蒸解助剤に関する。本開示のパルプ蒸解助剤によれば、一又は複数の実施形態において、収率の低下を抑制しつつ低カッパー価のパルプを製造することができる。本開示のパルプ蒸解助剤によれば、一又は複数の実施形態において、プルロニック型非イオン界面活性剤非存在の蒸解液で蒸解した場合よりも低いアルカリ添加量であっても、カッパー価の低減効果を実現することができる。本開示の蒸解助剤におけるプルロニック型非イオン界面活性剤は、本開示の製造方法と同様である。
【0043】
本開示の蒸解助剤におけるプルロニック型非イオン界面活性剤の含有量は、一又は複数の実施形態において、1重量%~50重量%であり、好ましくは5重量%~40重量%である。
【0044】
本開示の蒸解助剤は、一又は複数の実施形態において、水を含んでいてもよい。本開示の蒸解助剤における水の含有量は、一又は複数の実施形態において、プルロニック型非イオン界面活性剤の含有量に応じて決定することができる。プルロニック型非イオン界面活性剤(100重量部)に対する水の配合比率は、一又は複数の実施形態において、100重量部~2000重量部であり、好ましくは200重量部~1200重量部である。
【0045】
本開示の蒸解助剤は、一又は複数の実施形態において、消泡剤及びその他の添加剤等をさらに含んでいてもよい。
【0046】
本開示の蒸解助剤は、一又は複数の実施形態において、脱リグニンのための酸素蒸解(例えば、酸素脱リグニン工程における酸素蒸解装置(O2リアクター)で行われる蒸解)に使用してもよい。
【0047】
本開示のパルプ蒸解助剤は、一又は複数の実施形態において、本開示の製造方法及び蒸解方法に用いることができる。よって、本開示のパルプ蒸解助剤は、一又は複数の実施形態において、本開示の製造方法又は蒸解方法に使用するための蒸解助剤である。
【0048】
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
[1] 化学パルプの製造方法であって、
リグノセルロース材料を、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーであるプルロニック型非イオン界面活性剤を含む蒸解液を用いてアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解することを含み、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシエチレン基(EO)とオキシプロピレン基(PO)との比率(EO:PO)が、55:45~85:15(重量比)であり、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシプロピレン基の重量平均分子量が、200~900である、製造方法。
[2] 前記リグノセルロース材料(絶乾重量)に対して0.01重量%~1重量%となるように、前記非イオン界面活性剤を前記蒸解液に添加することを含む、[1]記載の製造方法。
[3] 前記非イオン界面活性剤の重量平均分子量が、500~3000である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] リグノセルロース材料を、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーであるプルロニック型非イオン界面活性剤を含む蒸解液を用いてアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解することを含む、リグノセルロース材料の蒸解方法であって、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシエチレン基(EO)とオキシプロピレン基(PO)との比率(EO:PO)が、55:45~85:15(重量比)であり、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシプロピレン基の重量平均分子量が、200~900である、蒸解方法。
[5] 前記リグノセルロース材料(絶乾重量)に対して0.01重量%~1重量%となるように、前記非イオン界面活性剤を前記蒸解液に添加することを含む、[4]記載の蒸解方法。
[6] 前記非イオン界面活性剤の重量平均分子量が、500~3000である、[4]又は[5]に記載の蒸解方法。
[7] ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーであるプルロニック型非イオン界面活性剤を含む、リグノセルロース材料の蒸解助剤であって、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシエチレン基(EO)とオキシプロピレン基(PO)との比率(EO:PO)が、55:45~85:15(重量比)であり、
前記非イオン界面活性剤におけるオキシプロピレン基の重量平均分子量が、200~900である、蒸解助剤。
[8] 前記非イオン界面活性剤の重量平均分子量が、500~3000である、[7]に記載の蒸解助剤。
【0049】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例
【0050】
[蒸解実験]
アカシア・マンギウム角材(40mmx20mmx5mm)60枚を用い、活性アルカリ添加率(AA)16%で蒸解試験を行なった。蒸解液は下記表1に示す蒸解助剤を含有する下記組成の蒸解液を使用し、液比(角材の絶乾重量に対する蒸解液重量の比:液/角材)は、2.8(L/kg)とした。蒸解条件は[40℃→100℃(40min)→163℃(50min)→163℃(90min)→100℃(15min,圧力開放)]とした。蒸解後チップは黒液と分離後、離解機(回転数は1500rpmからスタートし、2500rpmまで上げる)で1.5分間離解し、フラットスクリーン(10カット)にて精選を行なった。離解時の温度を一定にする為、黒液と分離後の蒸解チップはプラカップに回収して室温まで冷却後に順次離解した。精選されたパルプはフラットスクリーンの出口に接続した布袋に回収し、溜め水2Lで5回濯いだ後、洗濯機で脱水した。得られたパルプは、パルプ濃度(105℃一晩乾燥)、白色度、精選収率(yeild)及びカッパー価(KN)を下記方法により測定した。下記表1に示す蒸解助剤の添加濃度は対絶乾チップ当たり200ppm(0.02重量%)とした。下記表1において、プルロニック型(縮合型)はオキシエチレンポリオキシプロピレン縮合型のプルロニック型非イオン界面活性剤を意味し、C.P.は1質量%の水溶液としたときの曇点である。
<蒸解液>
組成:活性アルカリ16質量%(リグノセルロース材料の絶乾重量当たり)、硫化度28.3質量%(リグノセルロース材料の絶乾重量当たり)
活性アルカリ:NaOH濃度+Na2S濃度をNa2Oに換算した値
【0051】
[蒸解助剤]
蒸解助剤として、表1に示す薬剤を使用した。実施例1~3及び比較例1~3では、表1に示すEO/PO比及び重量平均分子量を有するオキシエチレンポリオキシプロピレン縮合型のプルロニック型非イオン界面活性剤(受注生産品)を使用した。表1に示すMwは重量平均分子量をいう。比較例4~6は及び参考例1の薬剤は市販のものを使用した。
【0052】
[各種分析]
・パルプ濃度
得られたパルプを105℃で一晩乾燥させ、その前後の重量を測定し、乾燥固形分濃度としてパルプ濃度を算出した。
・白色度
JIS P8222の方法に準じて坪量100g/m2の手抄き紙を作成し、Spectrophotometer(日本電色工業株式会社製、PF7000)を用いて測定した。
・精選収率(yield)
下記式の通り、得られた総絶乾パルプ量を使用した角材の絶乾量で割って算出した。
[精選収率(%)]=総絶乾パルプ量÷角材の絶乾パルプ量×100
・カッパー価(KN)
得られたパルプをサンプルとし、JIS P8211に準じて測定を実施した。
・蒸解促進効果
◎:「精選収率低下0.1未満 or 低下無しor上昇」かつ「カッパー価低減1.0以上」
〇:「精選収率低下0.1未満 or 低下無しor上昇」かつ「カッパー価低下1.0未満」
△:「精選収率低下」かつ「カッパー価低減1.0未満」
×:「精選収率低下」かつ「カッパー価悪化」
【0053】
結果を表1及び図2に示す。表1及び図2において、Δyield及びΔKNは、上記実験で得られた収率及びカッパー価と、蒸解助剤を含まない蒸解液を用いて上記の蒸解実験と同様に蒸解を行ったブランク(AA:16質量%)の結果との差([各測定結果]-[ブランク])を示す。つまり、Δyieldは+(プラス)側に数値が大きいほど(図2上側に位置するほど)収率が向上したことを示し、ΔKNは-(マイナス)側に数値が大きいほど(図2の左側に位置するほど)カッパー価がより低いことを示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1及び図2に示すとおり、実施例1~3は、比較例1~6と比較して、蒸解促進効果が優れ、低カッパー価のパルプを得ることができた。また収率の低下も抑制できた。つまり、EO:PO比が60:40~80:20(重量比)であり、オキシプロピレン基の重量平均分子量が500~700であるプルロニック型界面活性剤を含む蒸解液で蒸解することにより、蒸解を促進し、得られるパルプ品質を向上できた。
実施例2は、蒸解助剤としてアントラキノン(50ppm)を用いた場合(データ示さず)と同程度のカッパー価及び収率を実現できた。
参考例2及び3として、活性アルカリ添加量が16.5質量%又は17質量%であり、蒸解助剤を含有しない蒸解液を用いた以外は、上記の蒸解実験と同様に蒸解を行った。表1に示すとおり、実施例1~3は、活性アルカリ添加量が16.5質量%の参考例1よりもカッパー価を低くすることができ、活性アルカリ添加量が17質量%の参考例2と同程度のレベルのカッパー価を実現することができた。
よって、EO:PO比が55:45~85:15(重量比)であり、オキシプロピレン基の重量平均分子量が200~900であるプルロニック型界面活性剤を含む蒸解液で蒸解することにより、収率の低下を抑制しつつ低カッパー価の化学パルプを製造できるといえる。
図1
図2