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特許7473263表面処理炭酸カルシウム填料、ならびにそれを用いた樹脂組成物および成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】表面処理炭酸カルシウム填料、ならびにそれを用いた樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/02 20060101AFI20240416BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20240416BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20240416BHJP
   C01F 11/18 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C09C1/02
C08K3/26
C08L23/00
C01F11/18 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023131669
(22)【出願日】2023-08-10
【審査請求日】2023-08-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008442
【氏名又は名称】丸尾カルシウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】永松 誠
(72)【発明者】
【氏名】林 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】笠原 英充
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/088008(WO,A1)
【文献】特許第7338929(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00- 3/12
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(a)、(b)(c)、(e)、(f)および(g)を満足する表面処理炭酸カルシウム填料:
(a)2.0≦Sw≦20.0(m/g)
(b)300≦Pw≦5000(ppm)
(c)0.01≦Tw≦0.30(質量%)
(e)0.10≦D50≦2.00(μm)
(f)0.9≦(D90-D10)/D50≦2.0
(g)Da≦5.0(μm)
該Swは該表面処理炭酸カルシウム填料のBET比表面積(m/g)であり、
該Pwは該表面処理炭酸カルシウム填料における誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置で測定したリン元素の含有量(ppm)であり、
該Twは該表面処理炭酸カルシウム填料における示差熱天秤装置にて測定した140℃~220℃の減量値(質量%)であり、
該D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した該表面処理炭酸カルシウム填料の体積粒度分布において、小粒子側から累積した50%直径(μm)であり、
該D90は、該レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した該表面処理炭酸カルシウム填料の体積粒度分布において、小粒子側から累積した90%直径(μm)であり、
該D10は、該レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した該表面処理炭酸カルシウム填料の体積粒度分布において、小粒子側から累積した10%直径(μm)であり、
該Daは、該レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した該表面処理炭酸カルシウム填料の体積粒度分布においての最大粒子径(μm)である。
【請求項2】
さらに以下の式(d)を満足する、請求項1に記載の表面処理炭酸カルシウム填料:
(d)0.80≦bw≦1.50
該bwは、該表面処理炭酸カルシウム填料とフタル酸ジオクチル(DOP)とを3対7の質量比で混合したペーストについて、140℃で48時間連続して加熱した前後の分光式色差計で測定した黄色値(b値)を用いて以下の式により算出される色相変化率:
色相変化率(bw)=(加熱後のペーストのb値/加熱前のペーストのb値)
である。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂組成物を構成するために用いられる、請求項1に記載の表面処理炭酸カルシウム填料。
【請求項4】
樹脂と、請求項1または2に記載の表面処理炭酸カルシウム填料とからなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂がポリオレフィン系樹脂である、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項に記載の樹脂組成物から構成されている、成形品。
【請求項7】
フィルムの形態を有する、請求項に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理炭酸カルシウム填料、ならびにそれを用いた樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂は、剛性、耐衝撃性、耐熱性、成形性、透明性、耐薬品性等に優れるという特徴により、例えば、炭酸カルシウム無機顔料と組み合わせることにより、各種工業材料、自動車関連部品、医療向けや化粧品等の各種容器、日用品や産業用等の各種フィルムおよび繊維など、様々な用途に幅広く使用されている。また、比較的環境に優しい樹脂としても知られ、グリーンインフラ用途におけるポリオレフィン系樹脂を基材とする試みにも期待されている。その一方で、このような溶融混練されて製品となるポリオレフィン系樹脂を含む樹脂組成物には、耐候性、耐熱性、および強度をさらに向上させることも所望されている。
【0003】
また、従来からステアリン酸カルシウムのような金属石鹸や、フェノール系酸化防止剤およびリン系酸化防止剤を、溶融混練される樹脂に添加することにより樹脂組成物を安定化させる取り組みが行われている。あるいは、これらの樹脂に対して、ステアリン酸やステアリン酸石鹸等の脂肪酸を処理した炭酸カルシウムを添加することにより、炭酸カルシウムの機能に樹脂の安定性を高める役割を兼備させる取り組みも行われている(例えば特許文献1参照)。このようにして得られた樹脂組成物は、例えば、電池のセパレータ等に使用され得る多孔質フィルム(特許文献2~4)の材料として有用である。
【0004】
一方、こうした樹脂組成物を得るために、樹脂とフェノール系やリン系などの酸化防止剤とを、スーパーミキサー、タンブラーミキサーなどの混合機を用いて事前に混合してから溶融混練する方法、樹脂や添加剤を別々に同時投入し溶融混練する方法、樹脂が溶融したところに混練機の途中からサイドフィードする方法などが提案されている。
【0005】
しかし、得られる樹脂組成物の隅々まで酸化防止剤が行き届かないか、酸化防止剤の熱的劣化により十分に機能を発揮しないか、原因は定かでないが、これらの方法はいずれも、得られる樹脂組成物の隅々まで酸化防止剤が行き届かない、酸化防止剤の熱的劣化により十分に機能を発揮しない、成形した樹樹脂組成物の熱的な安定性が不十分となることがある。このことから、樹脂組成物の隅々までいきわたり、熱的劣化せず、十分に摺動性の機能を発揮して、樹脂組成物の安定化をさらに向上させ得る添加剤の開発が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-363443号公報
【文献】特開2006-169421号公報
【文献】国際公開第2007/088707号
【文献】特開2004-196917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、ポリオレフィン系樹脂などの樹脂と混練した際に得られる樹脂組成物の耐候性、耐熱性および強度のいずれもが改善し得る表面処理炭酸カルシウム填料、ならびにそれを用いた樹脂組成物および成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の式(a)、(b)および(c)を満足する表面処理炭酸カルシウム填料:
(a)2.0≦Sw≦20.0(m/g)
(b)300≦Pw≦5000(ppm)
(c)0.01≦Tw≦0.30(質量%)
(該Swは該表面処理炭酸カルシウム填料のBET比表面積(m/g)であり、
該Pwは該表面処理炭酸カルシウム填料における誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置で測定したリン元素の含有量(ppm)であり、
該Twは該表面処理炭酸カルシウム填料における示差熱天秤装置にて測定した140℃~220℃の減量値(質量%)である)である。
【0009】
1つの実施形態では、本発明の表面処理炭酸カルシウム填料はさらに以下の式(d)を満足する:
(d)0.80≦bw≦1.50
該bwは、該表面処理炭酸カルシウム填料とフタル酸ジオクチル(DOP)とを3対7の質量比で混合したペーストについて、140℃で48時間連続して加熱した前後の分光式色差計で測定した黄色値(b値)を用いて以下の式により算出される色相変化率:
色相変化率(bw)=(加熱後のペーストのb値/加熱前のペーストのb値)
である。
【0010】
1つの実施形態では、本発明の表面処理炭酸カルシウム填料はさらに以下の式(e)、(f)および(g)の式を満足する:
(e)0.10≦D50≦2.00(μm)
(f)0.9≦(D90-D10)/D50≦2.0
(g)Da≦5.0(μm)
該D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した該表面処理炭酸カルシウム填料の体積粒度分布において、小粒子側から累積した50%直径(μm)であり、
該D90は、該レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した該表面処理炭酸カルシウム填料の体積粒度分布において、小粒子側から累積した90%直径(μm)であり、
該D10は、該レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した該表面処理炭酸カルシウム填料の体積粒度分布において、小粒子側から累積した10%直径(μm)であり、
該Daは、該レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した該表面処理炭酸カルシウム填料の体積粒度分布においての最大粒子径(μm)である。
【0011】
1つの実施形態では、本発明の表面処理炭酸カルシウム填料はポリオレフィン系樹脂組成物を構成するために用いられる。
【0012】
本発明はまた、樹脂と、上記表面処理炭酸カルシウム填料とからなることを特徴とする樹脂組成物である。
【0013】
1つの実施形態では、上記樹脂はポリオレフィン系樹脂である。
【0014】
本発明はまた、上記樹脂組成物から構成されている、成形品である。
【0015】
1つの実施形態では、本発明の成形品はフィルムの形態を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐熱性に優れ、樹脂と容易に混合することのできる樹脂組成物を提供することができる。本発明の表面処理炭酸カルシウム填料はまた、樹脂中の分散性が良好であり、溶融混練の際の樹脂焼けや凝集物の発生や、ストレーナーの目詰まりなどの発生を低減することができ、操業安定性に優れた樹脂組成物を提供することができる。さらに、例えば、本発明の表面処理炭酸カルシウム填料とポリオレフィン系樹脂とを用いて得られたフィルムは、耐候性や耐熱性の面で強度劣化が起こり難いという特徴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.表面処理炭酸カルシウム填料
まず、本発明の表面処理炭酸カルシウム填料について説明する。
【0018】
本発明の表面処理炭酸カルシウム填料は以下の式(a)、(b)および(c)を満足するものである。
【0019】
(a)BET比表面積(Sw)
本発明の表面処理炭酸カルシウム填料は、窒素吸着法による所定のBET比表面積(Sw;m/g)を有する。本発明において、表面処理炭酸カルシウム填料のSwは2.0≦Sw≦20.0(m/g)であり、好ましくは3.0≦Sw≦15.0(m/g)であり、より好ましくは5.0≦Sw≦12.0(m/g)である。表面処理炭酸カルシウム填料のSwが2.0(m/g)を下回ると、その一次粒子が大き過ぎることになり、樹脂組成物中に配合された際に当該樹脂組成物の強度低下を引き起こす。また、一次粒子が大きいことにより、例えば得られる樹脂成形体の表面に所望でない突起物が形成され、当該樹脂成形体の摺動性が低下することがある。表面処理炭酸カルシウム填料のSwが20.0(m/g)を越えると、当該表面処理炭酸カルシウム填料を構成する炭酸カルシウムの結晶性が弱くなり、ポリオレフィン系樹脂等と混合して得られる樹脂組成物が十分な耐候性や耐熱性を有することができない。加えて、一次粒子が小さくなるにつれ粒子間の凝集力が大きくなることから、例えば、樹脂との混練した際に十分に分散することができず、樹脂成形体の表面には所望でない突起物が形成され、当該樹脂成形体の摺動性が低下することがある。
【0020】
(Swの測定方法)
表面処理炭酸カルシウム填料のSwは、例えば、株式会社マウンテック社製Macsorb HM model-1201を使用して以下のようにして測定され得る。
【0021】
具体的には、測定に供される表面処理炭酸カルシウム填料の約300mgを測定装置にセットし、前処理として窒素とヘリウムとの混合ガス雰囲気下で200℃にて10分間の加熱処理を行った後、液体窒素の環境下で低温低湿物理吸着を行うことによりSwが測定される。
【0022】
Swは、本発明の表面処理炭酸カルシウム填料を製造する際の種々の条件を変動させることにより制御することができる。Swを上記範囲に制御することができる条件としては、例えば、後述するような炭酸化反応で使用する石灰乳の濃度、炭酸化反応に採用される温度、使用する炭酸ガスの濃度、および炭酸化反応の際に使用する添加剤の種類、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。このような条件の設定が不十分であった場合は、上記Swの範囲を満たす表面処理炭酸カルシウム填料を得ることが困難となることがある。
【0023】
(b)誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置で測定したリン元素の含有量(Pw)
本発明の表面処理炭酸カルシウム填料は、ICP発光分光分析装置にて測定した所定のリン含有量(Pw;ppm)を有する。本発明において、表面処理炭酸カルシウム填料のPwは、300≦Pw≦5000(ppm)であり、好ましくは、400≦Pw≦3000(ppm)であり、より好ましくは、500≦Pw≦1500(ppm)である。Pwが300(ppm)を下回ると、当該填料それ自体は十分な耐熱性を有さないものとなる。Pwが5000(ppm)を上回ると、得られる表面処理炭酸カルシウム填料が凝集し易くなって樹脂中での分散性が低下し、さらに樹脂組成物中で満足すべき熱安定性を得ることができない。
【0024】
(Pwの測定方法)
Pwは、例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製ICP発光分光分析装置SPS3500を使用して以下のようにして測定され得る。
【0025】
(1)まず、るつぼに測定に供される表面処理炭酸カルシウム填料の約1000mgが仕込まれ、電気炉で300℃にて3時間焼成される。
(2)焼成後200mLのビーカーに少量(例えば約60mL)の蒸留水および1.38規定の硝酸(有害金属測定用硝酸(1.38)、富士フイルム和光純薬株式会社製)7.5mLが入れられ、この混合物を電気コンロで煮沸して徐冷される。
(3)100μLのイットリウム標準液(富士フイルム和光純薬株式会社製Y1000)を100mLのメスフラスコに入れ、上記徐冷後の混合物が添加され、さらに100mLまで蒸留水でメスアップされる。
(4)次いで、5Cの濾紙で濾過し、得られた濾液からICP測定用の試料が調製される。
(5)その後、この試料を用いて、上記ICP発光分光分析装置により当該試料に含まれるリン元素の含有量(ppm)が測定される。
【0026】
(c)減量値(Tw)
本発明の表面処理炭酸カルシウム填料は、示差熱天秤装置にて測定した140℃~220℃の所定の減量値(Tw;質量%)を有する。本発明において、表面処理炭酸カルシウム填料のTwは、0.01≦Tw≦0.30(質量%)であり、好ましくは、0.01≦Tw≦0.20(質量%)であり、より好ましくは、0.01≦Tw≦0.15(質量%)である。Twが0.01(質量%)を下回ると、当該填料の物性自体には大きな問題がないが、当該填料を構成する炭酸カルシウムの結晶度を高めるために多大な生産負荷を必要とする。Twが0.30(質量%)を上回ると、得られる表面処理炭酸カルシウム填料は十分な耐熱性を有しておらず、耐候性、耐熱性および強度のいずれにも優れた樹脂組成物を得ることが困難である。
【0027】
(Twの測定方法)
Twは、示差熱天秤装置(例えば、株式会社島津製作所製DTG-60A)を使用して以下のようにして測定され得る。
【0028】
(1)まず、白金製の試料パンに表面処理炭酸カルシウム填剤の約30mgが秤量され、測定機にセットされる。
(2)その後、昇温速度30℃/分で、測定器の温度を室温から550℃まで上昇させて測定を行い、表面処理炭酸カルシウム填剤1gあたりの140℃~220℃までの減量値(質量%)が算出される。
【0029】
さらに、本発明の表面処理炭酸カルシウム填料は、上記式(a)~(c)に加え、以下の式(d)を満足するものであることがより好ましい。
【0030】
(d)色相変化率(bw)
本発明の表面処理炭酸カルシウム填料は、表面処理炭酸カルシウム填料とフタル酸ジオクチル(DOP)とを3対7の質量比で混合したペースト(「DOPペースト」ともいう)について、JIS K 7368:1999(プラスチック-ポリプロピレン及びプロピレン共重合体-空気中での熱酸化安定性の測定法-オーブン法)を参照して、140℃で48時間連続して加熱した前後の分光式色差計で測定した黄色値(b値)から算出される色相変化率(bw)が所定の値を有することが好ましい。なお、この色相変化率(bw)は以下の式から算出される:
色相変化率(bw)=(加熱後のペーストのb値/加熱前のペーストのb値)
【0031】
本発明において、表面処理炭酸カルシウム填料のbwは、好ましくは0.80≦bw≦1.50であり、より好ましくは、1.00≦bw≦1.20である。bwが0.80を下回ると、当該填料の物性自体には大きな問題がないが、当該填料を構成する炭酸カルシウムの結晶度を高めるために多大な生産負荷を必要とする。bwが1.50を上回ると、得られる表面処理炭酸カルシウム填料は十分な耐熱性を有しておらず、耐候性、耐熱性および強度のいずれにも優れた樹脂組成物を得ることが困難である。
【0032】
(bwの測定方法)
bwは、例えば以下のようにして測定され得る。
【0033】
(1)まず、表面処理炭酸カルシウム填料とフタル酸ジオクチル(DOP)とが質量比3対7の割合で秤量され、脱泡撹拌機(例えば、倉敷紡績株式会社製Mazerustar)にて混合することによりDOPペーストが作製される。
(2)次いで、「加熱前のペーストのb値」として、このDOPペーストの色差が分光式色差計(例えば、日本電色株式会社製ZE-2000)により測定される。
(3)その後、DOPペーストをガラスシャーレに入れ、140℃に設定した強制通式オーブン内で48時間連続して加熱される(すなわち、耐熱試験が行われる)。
(4)オーブンから取り出して放冷した後、「加熱後のペーストのb値」としてDOPペーストの色差が分光式色差計(例えば、日本電色株式会社製ZE-2000)により測定される。
(5)上記にて得られた「加熱前のペーストのb値」および「加熱後のペーストのb値」から、加熱前後の色相変化率bwが算出される(bw=(加熱後のペーストのb値/加熱前のペーストのb値))。
【0034】
さらに、本発明の表面処理炭酸カルシウム填料は、上記式(a)~(c)に加え、以下の式(e)、(f)および(g)のうちの1つまたはそれ以上を満足するものであることが好ましく、式(e)、(f)および(g)のすべてを満足するものであることがより好ましい。
【0035】
(e)体積粒度分布における小粒子側から累積した50%直径(D50)
本発明の表面処理炭酸カルシウム填料は、好ましくはレーザー回折式粒度分布測定装置にて測定した体積粒度分布において、小粒子側から累積した50%直径(D50;μm)が所定の範囲内を満足する。本発明において、表面処理炭酸カルシウム填料のD50は好ましくは0.10≦D50≦2.00(μm)であり、より好ましくは0.30≦D50≦0.80(μm)である。表面処理炭酸カルシウム粒子のD50が0.10(μm)を下回るものは技術的に得ることは可能であるが、より高度かつ精密な技術を必要とすることから製造コストが増加するおそれがある。D50が2.00(μm)を上回ると、一次粒子の凝集体で構成される二次粒子の凝集力が大きくなり、樹脂との混練した際に十分に分散することができず、ストレーナーの目詰まりを起こし易くなることがある。
【0036】
(D50の測定方法)
D50は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製MT-3300EX II)を使用して、後述のD10、D90およびDaとともに以下のようにして測定され得る。
(1)まず100mLのビーカーに、表面処理炭酸カルシウム填料の試料約0.3gと媒体50mLとが合わされ、懸濁させられる。
(2)次いで、ビーカー内の内容物に対して、チップ式超音波分散機(例えば株式会社日本精機製作所製US-300T)を用いて300μAで1分間、超音波を照射して内容物の分散が行われる。
(3)その後、レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製MT-3300EX II)により試料中の表面処理炭酸カルシウム粒子の体積粒度分布が測定される。
【0037】
なお、上記測定において使用され得る媒体としては、メタノールおよびエタノール、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0038】
D50は、本発明の填料を構成する表面処理炭酸カルシウム粒子を製造する際の種々の条件を変動させることにより制御することができる。従来から、炭酸カルシウム粒子を分散させる種々の方法が知られており、例えば、ボールミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、ホモジナイザー、ダイノーミル等の機械的手法を用いることで粒子を細かく砕いてD50を小さくする方法がある。湿式合成の炭酸ガス化合法においては、炭酸カルシウム粒子の粒子径を制御する方法としては、一定の粒子径に成長させかつ分散させる、オストワルド熟成を用いることが好ましい。
【0039】
(f)体積粒度分布のシャープネス指数((D90-D10)/D50)
本発明の表面処理炭酸カルシウム填料は、好ましくはレーザー回折式粒度分布測定装置にて測定した体積粒度分布におけるシャープネス指数((D90-D10)/D50)が所定の範囲内を満足する。ここで、D50は上記の通りであり、D90は、当該レーザー回折式粒度分布測定装置にて測定した体積粒度分布において、小粒子側から累積した90%直径(μm)であり、D10は、当該レーザー回折式粒度分布測定装置にて測定した体積粒度分布において、小粒子側から累積した10%直径(μm)であり、Daは、当該レーザー回折式粒度分布測定装置にて測定した体積粒度分布における最大粒子径(μm)である。
【0040】
本発明において、表面処理炭酸カルシウム填料のシャープネス指数((D90-D10)/D50)は好ましくは0.9≦(D90-D10)/D50≦2.0であり、より好ましくは1.0≦(D90-D10)/D50≦1.5である。表面処理炭酸カルシウム填料のシャープネス指数が0.9を下回るものは技術的に得ることは可能であるが、より高度かつ精密な技術を必要とすることから製造コストが増加するおそれがある。表面処理炭酸カルシウム填料のシャープネス指数が2.0を上回ると、得られる表面処理炭酸カルシウム填料と樹脂とを混練して得られた成形品(例えばフィルム)中に形成される空隙の大きさのバラツキが大きくなり、面内の空隙の分布が一様な多孔質フィルムを得ることが困難になることがある。
【0041】
(シャープネス指数((D90-D10)/D50)の測定方法)
シャープネス指数を構成するD10、D90およびDaは、例えば、上記D50の測定のために記載したレーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製MT-3300EX II)を使用して、上記D50の測定と同様にして測定され得る。
【0042】
シャープネス指数は、本発明の表面処理炭酸カルシウム填料を製造する際の種々の条件を変動させることにより制御することができる。炭酸カルシウム粒子のシャープネス指数を低下させる(例えば、粗粒子と微粒子を少なくして粒度分布をシャープにする)方法は、前述の、ボールミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、ホモジナイザー、ダイノーミル、等の機械的手法や、水簸(スイヒ)のような粒径による水中の沈降速度の差を利用して微粒子と粗粒子を分離する方法を用いることでも可能ではあるが、炭酸カルシウム粒子の粒子径の均一性が向上することでシャープネス指数を低下させやすい観点からオストワルド熟成を用いることが好ましい。
【0043】
(g)体積粒度分布における最大粒子径(Da)
本発明の表面処理炭酸カルシウム填料は、好ましくはレーザー回折式粒度分布測定装置にて測定した体積粒度分布において、最大粒子径(Da)が所定の範囲内を満足する。本発明において、表面処理炭酸カルシウム填料のDaは好ましくはDa≦5.0(μm)(すなわち、0<Da≦5.0(μm))であり、より好ましくはDa≦3.0(μm)(すなわち、0<Da≦3.0(μm))である。Daが5.0μmを上回ると、例えば、得られる表面処理炭酸カルシウム填料と樹脂との樹脂組成物を製膜延伸する際に破断して表面処理炭酸カルシウム填料が脱落し易くなる、得られる樹脂成形体の表面には所望でない突起物が形成され、当該樹脂成形体の摺動性が低下する等の問題を生じることがある。
【0044】
(Daの測定方法)
Daは、例えば、上記D50の測定のために記載したレーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製MT-3300EX II)を使用して、上記D50の測定と同様にして測定され得る。
【0045】
Daは、本発明の表面処理炭酸カルシウム填料を製造する際の種々の条件を変動させることにより制御することができる。体積粒度分布における最大粒子径(Da)を低減させる方法としては、水スラリー形態の時点で、不純物および粗大粒子除去の目的から、デカンテーションといった重力や遠心力、浮力選鉱等を利用した分級、ならびに篩・フィルター等での除去を施したり、また、粉体形態の時点で、空気分級等の分級操作を行い、乾燥によって生じた凝集体を除去することが好ましい。
【0046】
(表面処理剤で表面処理されている表面処理炭酸カルシウム填料)
上記のように本発明の表面処理炭酸カルシウム填料は、式(a)、(b)および(c)のすべて、ならびに必要に応じて式(d)、(e)、(f)および(g)の少なくとも1つを満たすものである。このような表面処理炭酸カルシウム填料は、表面処理剤で表面処理されている表面処理炭酸カルシウム粒子を含み、好ましくは主成分として当該表面処理炭酸カルシウム粒子から構成されている。
【0047】
ここで、本明細書で用いられる用語「表面処理されている」とは、表面処理炭酸カルシウム填料および/または表面処理炭酸カルシウム粒子の表面の「状態」を表す意味で用いられる。一方、本明細書で用いられる用語「表面処理される/表面処理された」とは、表面処理が行われていない(すなわち、未処理の)炭酸カルシウム粒子が、その表面を改質(表面処理)するためのプロセスに供されたことを表す意味で用いられる。
【0048】
本発明における表面処理炭酸カルシウム粒子は、未改質(表面処理前)の炭酸カルシウム粒子が表面処理剤で表面処理されたものである。
【0049】
(未改質の炭酸カルシウム粒子)
ここで、未改質の炭酸カルシウム粒子は、樹脂との混練時の脱気性の観点から、微粉粒子を多く含有している天然の白色糖晶質石灰石(重質炭酸カルシウム)よりもむしろ、
天然の灰色緻密質石灰石を焼成した合成法により調製された合成炭酸カルシウム(例えば、軽質・コロイド炭酸カルシウム)の粒子である。合成炭酸カルシウムは粒子を均一に制御可能であり、比較的粗大粒子の素となる塩酸不溶性の鉱石が予め取り除かれたものである。合成炭酸カルシウムの結晶形態としては、水系や熱力学的に最も不安定なバテライト結晶、準安定なアラゴナイト結晶、および安定なカルサイト結晶の3結晶が挙げられる。良好な安定性を有するとの理由から、カルサイト結晶を主成分として含有するものが好ましい。
【0050】
このような未改質の炭酸カルシウム粒子は、公知の炭酸ガス法として、例えば、灰色緻密質石灰石を焼成して得た生石灰に水を加え、水酸化カルシウムとさせ、焼成時に出る炭酸ガスとを反応させることにより製造することができる。また、この炭酸ガス法で反応させた炭酸カルシウムスラリーを、オストワルド熟成により所望のBET比表面積を有するまで調整して、所望の炭酸カルシウム粒子を得ることができる。
【0051】
なお、本発明の主目的であるポリオレフィン系樹脂と配合した際の樹脂組成物の耐候性や耐熱性をより高める目的として、オストワルド熟成により所望の炭酸カルシウム粒子に調製する手法よりも、オストワルド熟成中の炭酸カルシウム粒子をシード粒子として使用し、それに炭酸化反応を行うシード化合法を併用する方がより結晶性の高められた炭酸カルシウム粒子を得ることができる点で好ましい。
【0052】
また、炭酸カルシウム粒子は、合成炭酸カルシウム粒子の均一性をより高める目的で、合成炭酸カルシウム粒子を得るために使用される水スラリー、あるいは合成炭酸カルシウム粒子を製造する前の水酸化カルシウムを含有する水スラリーに対して、液体サイクロン機等の分離装置を用いて、軽液(微粒側)と重液とを適切な比率で分離することにより得られたものであってもよい。
【0053】
(表面処理剤)
表面処理剤は、粉体の流動性改善、炭酸カルシウムの耐アルカリ性や耐活性、その他、炭酸カルシウム填料の特性を向上させる目的で、上記未改質の炭酸カルシウム粒子に対して使用されるものである。表面処理剤の例としては、リン系化合物が挙げられる。リン系化合物の例としては、無機リン酸類および有機リン酸類、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0054】
無機リン酸類の例としては、オルトリン酸、亜リン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、ポリリン酸(例えばトリポリリン酸)、および縮合リン酸、これらの塩類(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。無機リン酸類の塩の具体的な例としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アルミニウム、ポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、酸性トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ペンタポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、およびウルトラリン酸ナトリウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0055】
有機リン酸の例としては、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、エチレンジアミドテトラメチレンホスホン酸、およびフェニルホスホン酸;ならびにそれらの塩;リン酸トリメチルエステル、リン酸トリエチルエステル、リン酸トリプロピルエステル、リン酸モノもしくはジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、トリメチルフォスファイト(亜リン酸メチルエステル)、トリエチルフォスファイト(亜リン酸エチルエステル)、酸性リン酸エステルなどのエステル;ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0056】
上記表面処理剤は、得られる樹脂組成物の耐候性、耐熱性および強度のすべてを良好に向上させることができるという理由から、リン系化合物としてヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、およびウルトラリン酸ナトリウムのような無機リン酸類、およびニトリロトリスメチレンホスホン酸、およびリン酸トリメチルエステルのような有機リン酸類、ならびにそれらの組み合わせが好ましく使用できる。
【0057】
本発明において、表面処理剤は、上記リン系化合物に加えてその他の表面処理剤を含有してもよい。
【0058】
その他の表面処理剤の例としては、脂肪酸・脂肪酸石鹸系表面処理剤、カップリング剤系表面処理剤、および界面活性剤系表面処理剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。当該他の表面処理剤は市販品であってもよい。
【0059】
脂肪酸・脂肪酸石鹸系表面処理剤の例としては、脂肪酸、および脂肪酸塩、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0060】
脂肪酸としては、例えば、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、脂環族カルボン酸、および樹脂酸、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0061】
飽和脂肪酸の例としては、カプリン酸、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、およびイソステアリン酸、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。不飽和脂肪酸の例としては、オレイン酸、リノール酸、およびリノレン酸、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。脂環族カルボン酸の例としては、シクロペンタン環やシクロヘキサン環の末端にカルボキシル基を有するナフテン酸等が挙げられる。樹脂酸の例としては、アビエチン酸、ピマル酸、およびネオアビエチン酸、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0062】
脂肪酸塩には、上記脂肪酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩)、アンモニウム塩、およびアミン塩、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。水に対する溶解度が高く、 炭酸カルシウム表面を処理し易いとの理由から、脂肪酸のアルカリ金属塩を使用することが好ましい。
【0063】
脂肪酸塩の例としては、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸ナトリウム等の飽和脂肪酸塩、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム等の不飽和脂肪酸塩、およびナフテン酸ナトリウム、シクロヘキシル酪酸鉛等の脂環族カルボン酸塩、アビエチン酸カリウム、およびアビチエン酸ナトリウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0064】
上記脂肪酸・脂肪酸石鹸系表面処理剤は、例えば、動物または植物由来の変性または未変性の脂肪酸であってもよい。例えば、当該技術分野において汎用されている、牛脂脂肪酸、パーム油脂肪酸、パーム核油脂肪酸、大豆油脂肪酸等の混合脂肪酸;そのアルカリ金属塩;あるいはこれらの混合脂肪酸の不飽和度を低減させるために水素添化された、いわゆる水添混合脂肪酸やそのアルカリ金属塩であってもよい。
【0065】
なお、脂肪酸類として脂肪酸がそのまま使用される場合、未改質の炭酸カルシウム粒子へのより均一な表面処理を可能にするとの理由から、使用する脂肪酸の融点以上に加温された熱水に予め溶解させ、これにアニオン性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等の公知の乳化剤を適宜添加し、ホモミキサーやホモジナイザーなどの乳化分散機にて、脂肪酸を乳化させてから上記未改質の炭酸カルシウムに添加することが好ましい。
【0066】
また、上記脂肪酸類のうち、不飽和脂肪酸は、水に対する溶解度が高いだけでなく、融点が低いことから、未改質の炭酸カルシウム粒子の表面に対してより均一表面処理がなされ易い一方で、耐熱性の観点からは、不飽和脂肪酸は不飽和二重結合の存在により熱劣化を受け易いという特徴を有する。このため、本発明においては、上記不飽和脂肪酸のような熱劣化の懸念が予め払拭されているとの理由から、脂肪酸類は飽和脂肪酸および/または飽和脂肪酸塩であることが好ましい。あるいは、飽和脂肪酸および飽和脂肪酸塩の合計量が、脂肪酸類の全質量に対して90質量%以上であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0067】
カップリング剤系表面処理の例としては、ビニルシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、フェニルシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤、スチリルシランカップリング剤、アクリルシランカップリング剤、メタクリルシランカップリング剤、イソシアヌレートシランカップリング剤、ウレイドシランカップリング剤、メルカプトシランカップリング剤、およびイソシアネートシランカップリング剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。得られる樹脂組成物に対して良好な強度を付与することができるとの理由からビニルシランカップリング剤が好ましく、得られる樹脂組成物に対して良好な耐候性や耐熱性を付与することができるとの理由からフェニルシランカップリング剤が好ましい。
【0068】
界面活性剤系表面処理剤の例としては、芳香族スルホン酸および/または樹脂酸ならびにそれらの塩またはエステル;アルコール系界面活性剤;多価アルコール類;ソルビタン脂肪酸エステル類;アミド系界面活性剤;アミン系界面活性剤;ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル;αオレフィンスルホン酸ナトリウム;長鎖アルキルアミノ酸類;アミンオキサイド;アルキルアミン;および第4級アンモニウム塩;ならびにそれらの組み合わせ;が挙げられる。
【0069】
得られる表面処理炭酸カルシウム填料と樹脂との配合の際に当該樹脂との相容性および分散性が良好であることを考慮すると、その他の表面処理剤は脂肪酸・脂肪酸石鹸系表面処理剤であることが好ましく、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸、ならびにそれらの塩であることがより好ましく、飽和脂肪酸塩が最も好ましい。
【0070】
(未改質の炭酸カルシウム粒子の表面処理)
上記表面処理剤を用いた未改質の炭酸カルシウム粒子の表面処理は、例えば以下のようにして行われる。
【0071】
未改質の炭酸カルシウム粒子の表面処理には一般的な乾式処理または湿式処理のいずれが採用されてもよい。好ましくは、未改質の炭酸カルシウム粒子を含む水スラリーに、上記表面処理剤を添加する方法が採用され得る。このような方法は、一般に湿式処理と呼ばれるものであり、炭酸カルシウム粒子に対して表面処理の程度と製造効率とを適度に両立し得る点で好ましい。
【0072】
表面処理剤の使用量、特にリン系化合物の使用量は、未改質の炭酸カルシウム粒子のBET比表面積および/または量、リン酸類自体に含まれるリン元素の含有量、最終的に混錬する樹脂の種類や混練条件等によって変動するため特に限定されず、上記Pwの範囲を満足するように当業者によって適宜選択され得る。
【0073】
未改質の炭酸カルシウム粒子に対して、上記表面処理剤のうち特にリン系化合物とその他の表面処理剤の処理順序は特に限定されない。例えば、未改質の炭酸カルシウム粒子に対して、まずはその他の表面処理剤で処理した後にリン系化合物で処理を行ってもよい。あるいは、未改質の炭酸カルシウム粒子に対して、まずはリン系化合物で処理した後にその他の表面処理剤で処理を行ってもよい。あるいは、未改質の炭酸カルシウム粒子に対してリン系化合物およびその他の表面処理剤を用いて一緒に、すなわち同時に、処理を行ってもよい。
【0074】
表面処理のために採用される温度は特に限定されず、当業者によって適切な温度が選択される。
【0075】
上記表面処理の後、得られた粒子は、例えば常法に従って、脱水、乾燥、粉砕等の任意操作を経て粉末化されてもよい。
【0076】
なお、脱水は、表面処理炭酸カルシウム粒子を含むスラリーをフィルタープレスや遠心脱水機を用いて行うことができる。乾燥には、表面処理炭酸カルシウム粒子に高温の熱風を直接接触させることにより効率的に乾燥可能な、ミクロンドライヤー等の熱風式乾燥機が使用されてもよく、あるいは表面処理炭酸カルシウム粒子と加熱板とを接触させ、当該加熱板を通じて間接的に乾燥させる、CDドライヤー等の伝熱式乾燥機が使用されてもよい。
【0077】
このようにして、表面処理剤で表面処理されている表面処理炭酸カルシウム粒子を得ることができる。この表面処理炭酸カルシウム粒子は、上記式(a)、(b)および(c)のすべて、ならびに必要に応じて式(d)、(e)、(f)および(g)の少なくとも1つを満たす表面処理炭酸カルシウム填料としてそのまま使用され得る。
【0078】
2.樹脂組成物
次に、本発明の樹脂組成物について説明する。
【0079】
本発明の樹脂組成物は、樹脂と上記表面処理炭酸カルシウム填料とを含有する。
【0080】
樹脂組成物に含まれる樹脂は、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、およびポリビニルアルコール系樹脂、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。また、ポリオレフィン系樹脂の具体的な例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、超高分子ポリエチレン(UHMWPE)などのポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンまたはプロピレンと他のモノマーの共重合体等が挙げられる。当該樹脂は、石油由来、植物由来(例えばバイオプラスチック)、またはこれらの組み合わせのいずれであってもよい。本発明においては、エンジニアリングプラスチック等に比べて成形温度が比較的低く、上記表面処理炭酸カルシウム粒子が耐熱性を発揮し得る温度において十分耐え得る耐熱性を有しているとの理由から、当該樹脂はポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0081】
樹脂組成物に含まれる表面処理炭酸カルシウム填料の含有量は、併用する樹脂の種類、得られる樹脂組成物の用途および所望される物性等によって変動するため、必ずしも限定されないが、例えば樹脂100質量部に対して0.05質量部~100質量部であり、好ましくは50質量部~100質量部であり、より好ましくは70質量部~100質量部である。樹脂組成物に含まれる表面処理炭酸カルシウム填料の含有量が100質量部を超えると(すなわち樹脂の含有量を上回ると)、樹脂との混練性の低下や樹脂劣化により色相(白色度)の低下が起こり易くなることがある。樹脂組成物に含まれる表面処理炭酸カルシウム填料の含有量が0.05質量部を下回ると、得られる樹脂組成物が十分な耐熱性を有さないことがある。
【0082】
なお、本発明の樹脂組成物では、他の添加剤として、脂肪酸、脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、ソルビタン脂肪酸エステル等の滑剤;可塑剤;熱安定剤、光安定剤等の安定剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;中和剤;防曇剤;アンチブロッキング剤;帯電防止剤;スリップ剤;および着色剤;ならびにそれらの組み合わせ:等を含有していてもよい。他の添加剤の含有量は特に限定されず、上記表面処理炭酸カルシウム填料による効果を阻害しない範囲において、適切な量が当業者によって選択され得る。
【0083】
樹脂および表面処理炭酸カルシウム填料、ならびに必要に応じて含まれるその他の添加剤は、例えば、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、リボンブレンダー等の公知の混合機を用いて混合され得る。樹脂組成物は混合機で混合した後、一軸あるいは二軸押出機、ニーダーミキサー、バンバリーミキサー等で加熱混練し、一旦、マスターバッチとしてペレット状に加工され、Tダイ押出、あるいはインフレーション成形等の公知の成形機を用いて、溶融かつ製膜され得る。
【0084】
3.成形品
本発明の成形品は、上記樹脂組成物から構成されている。
【0085】
本発明の成形品は、好ましくはフィルムの形態を有する。
【0086】
例えば上記にして混錬された樹脂組成物を、Tダイ等でシートの形態に作製した後、に一軸または二軸延伸することにより表面に微細な孔を有する多孔質フィルムを得ることができる。あるいは上記混練後にTダイ押出またはインフレーション成形等の公知の成形機を用いて製膜し、それらを酸処理することにより、内部に存在する上記表面処理炭酸カルシウム填料を溶解させて、表面に微細な孔を有する多孔質フィルムを得ることもできる。さらに必要に応じて、上記工程中のTダイ押出機を複数個重ねたり、あるいは延伸後の張り合わせを通じて多層フィルムの形態に成形されてもよく、また上記フィルムに印刷適性を付与する目的で、フィルム表面にプラズマ放電等の表面処理を施しインク受理層をコーティングしてもよい。
【実施例
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載において、特に断りのない限り、%は質量%、部は質量部を意味する。
【0088】
各実施例および比較例に記載の材料、表面処理炭酸カルシウム填料、およびペレットの評価を以下のようにして行った。
【0089】
(1)未改質の炭酸カルシウムのBET比表面積
各実施例および比較例で使用した未改質の炭酸カルシウム粒子約300mgを測定装置(株式会社マウンテック社製Macsorb HM model-1201)に配置し、前処理として窒素とヘリウムとの混合ガス雰囲気下で200℃にて10分間の加熱処理を行った後、液体窒素の環境下で低温低湿物理吸着を行うことにより、当該未改質の炭酸カルシウム粒子のBET比表面積(m/g)を測定した。
【0090】
(2)表面処理炭酸カルシウム填料のBET比表面積(Sw)
各実施例および比較例で得られた表面処理炭酸カルシウム填料約300mgを測定装置(株式会社マウンテック社製Macsorb HM model-1201)に配置し、前処理として窒素とヘリウムとの混合ガス雰囲気下で200℃にて10分間の加熱処理を行った後、液体窒素の環境下で低温低湿物理吸着を行うことにより、当該填料を構成する表面処理炭酸カルシウム粒子のBET比表面積(m/g)を測定した。
【0091】
(3)表面処理炭酸カルシウム填料の誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置で測定したリン元素の含有量(Pw)
【0092】
るつぼに各実施例および比較例で得られた表面処理炭酸カルシウム填料約1000mgを仕込み、電気炉で300℃にて3時間焼成した。焼成後、その混合物を含む200mLのビーカーに少量の蒸留水および1.38規定の硝酸(有害金属測定用硝酸(1.38)、富士フイルム和光純薬株式会社製)7.5mLを入れ、電気コンロで煮沸して徐冷した。100μLのイットリウム標準液(富士フイルム和光純薬株式会社製Y1000)が入った100mLのメスフラスコに、上記徐冷後の混合物を添加し、さらに100mLまで蒸留水でメスアップした。次いで、5Cの濾紙で濾過し、得られた濾液からICP測定用の試料を調製した。その後、この試料を用いて、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製ICP発光分光分析装置SPS3500)により当該試料に含まれるリン元素の含有量(ppm)を測定した。
【0093】
(4)表面処理炭酸カルシウム填料の140℃~220℃の減量値(Tw)
白金製の試料パンに各実施例および比較例で得られた表面処理炭酸カルシウム填剤の約30mgを秤量し、示差熱天秤装置(株式会社島津製作所製DTG-60A)にセットした。その後、昇温速度30℃/分で、測定器の温度を室温から550℃まで上昇させて測定を行い、表面処理炭酸カルシウム填剤1gあたりの140℃~220℃までの減量値(質量%)を算出した。
【0094】
(5)表面処理炭酸カルシウム填料の色相変化率(bw)
各実施例および比較例で得られた表面処理炭酸カルシウム填料とフタル酸ジオクチル(DOP)とを質量比3対7の割合で秤量し、脱泡撹拌機(倉敷紡績株式会社製Mazerustar)にて混合することによりDOPペーストを作製した。次いで、「加熱前のペーストのb値」として、このDOPペーストの色差を分光式色差計(日本電色株式会社製ZE-2000)により測定した。その後、DOPペーストをガラスシャーレに入れ、140℃に設定した強制通式オーブン内で48時間連続して加熱した。オーブンから取り出して放冷した後、「加熱後のペーストのb値」としてDOPペーストの色差を上記分光式色差計により測定した。
【0095】
得られた「加熱前のペーストのb値」および「加熱後のペーストのb値」から、加熱前後の色相変化率bwを以下の式にしたがって算出した:
bw=(加熱後のペーストのb値/加熱前のペーストのb値)。
【0096】
(6)表面処理炭酸カルシウム填料のD50、シャープネス指数((D90-D10)/D50)およびDa
100mLのビーカーに、各実施例および比較例で得られた表面処理炭酸カルシウム填料約0.3gとメタノール50mLとを添加した。次いで、ビーカー内の内容物に対して、例えば株式会社日本精機製作所製超音波分散機US-300Tを用いて300μAで60秒間、超音波を照射して内容物を分散させて試料を得た。その後、レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製MT-3300EX II)を用いて試料中の表面処理炭酸カルシウム粒子の体積粒度分布を測定した。得られた体積粒度分布の結果から、D50、D10、D90およびDa、ならびにそれを用いて算出されたシャープネス指数((D90-D10)/D50)の各値を得た。
【0097】
(7)ペレットの熱酸化安定性
各実施例および比較例で得られたペレットから、200℃に調整した有限会社折原製作所製卓上型ホットプレスG-12を用いて50×50×1mmの試験片を作製した。この試験片を、日本工業規格JIS K7368(プラスチック-ポリプロピレン及びプロピレン共重合体-空気中での熱酸化安定性の測定方法-オーブン法)に基づいて、強制通風式オーブンを用い、設定温度140℃にて試験片を空気中で加熱することにより劣化を促進させ、試験開始から、局部的なひび割れ、崩れおよび/または変色を目視観察できるまでに要した日数を記録し、下記の基準により評価した。
◎:10日間が経過しても目立った変化がなかった。
○:10日間経過後に変色が認められた。
△:10日間経過後に、変色とひび割れが認められた。
×:5日間経過後に、すでに変色とひび割れが認められた。
【0098】
(8)ペレットの耐熱性評価
各実施例および比較例で得られたペレットについて、140℃の強制通風式オーブンを用いて、各ペレットを10日間空気中で加熱して劣化を促進させた。得られた加熱劣化したペレット、および(加熱劣化させていない)初期状態のペレットについて、東洋精機製作所株式会社製MELT INDEXER F-F01を用いて、日本工業規格JIS K7210(プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフトーレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法)に基づき、試験温度230℃、公称荷重21.6kgにてMFR値(g/10分)を測定した。さらに得られた結果から、以下の式にしたがってMFRの変化率(%)を算出し、耐熱性の有無を評価した。
【0099】
【数1】
【0100】
(7)ペレットの分散性評価
目開き100μm、60μm、および400μmを有する3枚構成のストレーナーを装着した二軸混練機(東洋精機株式会社製2D25W)に、各実施例および比較例で得られたペレットをシリンダー設定温度170℃にて、スクリュー回転数150rpmかつ6kg/時のフィード量で混練押出し、60分後の樹脂圧力の測定し、下記の基準により分散性の評価を行った。
◎:混練60分後の樹脂圧が、4MPa未満であった。
○:混練60分後の樹脂圧が、4MPa以上6MPa未満であった。
△:混練60分後の樹脂圧が、6MPa以上8MPa未満であった。
×:混練60分後の樹脂圧が8MPa以上であったか、または経過前にストレーナーの目詰まりによりベントアップが発生した。
【0101】
(8)引張強度評価
各実施例および比較例で得られたペレットについて、200℃に調整した有限会社折原製作所社製卓上型ホットプレスG-12にて200μm厚のフィルムを作製した。このフィルムを打抜刃を使用してダンベル型試験片を20個打ち抜いたのち、各試験片の厚みを測定し、20個の平均膜厚に対してプラスマイナス10%以内となる膜厚の試験片を5個選定した。選定した試験片を、日本工業規格JIS K7127(プラスチック-引張特性の試験方法-第3部)に基づき、株式会社島津製作所社製オートグラフAG-Iを用いて、試験力500N、試験速度5mm/分にて、引張強度評価行い、下記の基準により分散性の評価を行った。なお、ここでいう引張強度は、試験片が破断する際に計測される応力を示す。
◎:引張強度が、33MPa以上であった。
○:引張強度が、30MPa以上33MPa未満であった。
△:引張強度が、27MPa以上30MPa未満であった。
×:引張強度が、27MPa未満であった。
【0102】
(9)摺動性評価:静摩擦係数及び動摩擦係数の測定
各実施例および比較例で得られたペレットについて、200℃に調整した有限会社折原製作所社製卓上型ホットプレスG-12にて80×200×1mmの試験片を作製した。この試験片を、日本工業規格JIS K7125(プラスチック-フィルム及びシート-摩擦係数試験方法)基づき、株式会社東洋精機製作所社製摩擦係数測定機AN-S2を用いて、荷重200gおよび試験速度100mm/分にて、試験片の静摩擦係数と動摩擦係数を測定し、下記の基準により摺動性の評価を行った。なお、静摩擦係数と動摩擦係数の値がともに低い方が、高い摺動性を有することを示す。
(静摩擦係数の評価)
◎:静摩擦係数が0.60未満であった。
○:静摩擦係数が0.60以上0.70未満であった。
△:静摩擦係数が0.70以下0.80未満であった。
×:静摩擦係数が0.80以上であった。
(動静摩擦係数の評価)
◎:動摩擦係数が0.40未満であった。
○:動摩擦係数が0.40以上0.50未満であった。
△:動摩擦係数が0.50以下0.60未満であった。
×:動摩擦係数が0.60以上であった。
(摺動性の総合評価)
◎:摺動性が極めて良好であった。
○:摺動性が良好であった。
△:摺動性がやや良好であった。
×:摺動性が悪かった。
【0103】
(実施例1:表面処理炭酸カルシウム填料(E1)の作製)
天然ガスを熱源にして灰色緻密質石灰石を焼成炉で得られた生石灰を、水に溶解して比重1.050に調整した水酸化カルシウムスラリーを得た。この水酸化カルシウムスラリーと焼成炉から排出されたCOガスとを反応させることにより濃度8.0質量%の合成炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0104】
得られた合成炭酸カルシウムスラリーをオストワルド熟成によりBET比表面積10.0m/gまで粒子成長させた後、得られた炭酸カルシウムをシード(種)として、炭酸カルシウム固形に対して10質量%の水酸化カルシウムを添加し、焼成炉から排出されたCOガスとを反応させるシード化合を行って、BET比表面積8.0m/gの炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0105】
これに、炭酸カルシウム固形分に対し0.6質量%のウルトラリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製ウルトラポリン)を、温水に10質量%濃度になるよう調製したリン系化合物の水溶液を炭酸カルシウムスラリーに添加して、60℃で12時間撹拌し、フィルタープレスにて固形分65質量%まで脱水させ、熱風式乾燥機(ホソカワミクロン株式会社製乾燥機ドライマイスタDMR-1)で乾燥させ、衝撃解砕して、得られた粉体を空気分級機で分級し、実施例1のポリオレフィン樹脂用表面処理炭酸カルシウム填料(E1)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(E1)の各物性値を表1に示す。
【0106】
(実施例2:表面処理炭酸カルシウム填料(E2)の作製)
実施例1で調製したリン系化合物の水溶液の代わりに、炭酸カルシウム固形分に対し1.0質量%の第一リン酸アルミニウム(太平化学産業株式会社製第一リン酸アルミニウム50%液)を、温水に10質量%濃度になるよう調製したリン系化合物の水溶液を炭酸カルシウムスラリーに添加し、かつこれに炭酸カルシウム固形分に対し1.6質量%の飽和脂肪酸(日油株式会社製NAA-122(ラウリン酸:99%))を苛性ソーダで鹸化した脂肪酸塩を温水に10質量%濃度になるよう調製したものを添加したこと以外は実施例1と同様にして、表面処理炭酸カルシウム填料(E2)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(E2)の各物性値を表1に示す。
【0107】
(実施例3:表面処理炭酸カルシウム填料(E3)の作製)
実施例1で調製したリン系化合物の水溶液の代わりに、炭酸カルシウム固形分に対し0.3質量%のピロリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製ピロリン酸ナトリウム)を温水に10質量%濃度になるように調製したリン系化合物の水溶液を炭酸カルシウムスラリーに添加し、かつこれに炭酸カルシウム固形分に対し2.2質量%の飽和脂肪酸石鹸(日油株式会社製ノンサールSN-1(飽和脂肪酸率100%))を温水に10質量%濃度になるよう調製したものを使用したこと以外は実施例1と同様にして、表面処理炭酸カルシウム填料(E3)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(E3)の各物性値を表1に示す。
【0108】
なお、上記で使用した日油株式会社製ノンサールSN-1は、以下の成分組成を有するものであった(ミリスチン酸3質量%、パルミチン酸27質量%、ステアリン酸66質量%、およびその他4質量%)。
【0109】
(実施例4:表面処理炭酸カルシウム填料(E4)の作製)
実施例3で調製したリン系化合物の水溶液の代わりに、炭酸カルシウム固形分に対し1.5質量%のオルトリン酸(ラサ工業株式会社製オルトリン酸75%)を温水に10質量%濃度となるよう調製したリン化合物の水溶液を使用したこと以外は実施例3と同様にして、表面処理炭酸カルシウム填料(E4)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム(E4)の各物性値を表1に示す。
【0110】
(実施例5:表面処理炭酸カルシウム填料(E5)の作製)
実施例3で調製したリン系化合物の水溶液の代わりに、炭酸カルシウム固形分に対して0.6質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製ヘキサメタリン酸ナトリウム)を温水に10質量%濃度となるようリン化合物の水溶液を調製したこと以外は実施例3と同様にして、表面処理炭酸カルシウム填料(E5)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(E5)の各物性値を表1に示す。
【0111】
(実施例6:表面処理炭酸カルシウム填料(E6)の作製)
実施例1と同様にして、得られた合成炭酸カルシウムスラリーをオストワルド熟成によりBET比表面積13.0m/gまで粒子成長させた炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0112】
この炭酸カルシウムスラリーを用い、かつ実施例1で調製したリン系化合物の水溶液の代わりに、炭酸カルシウム固形分に対して0.3質量%のリニトリロトリスメチレンホスホン酸(城北化学株式会社製JPCN-300)を温水に10質量%濃度になるようリン化合物の水溶液を調製し、かつ伝熱式乾燥機として栗本鐵工所株式会社製CDドライヤーを用いて蒸気圧0.25MPaにて2時間乾燥させたこと以外は実施例2と同様にして、表面処理炭酸カルシウム填料(E6)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(E6)の各物性値を表1に示す。
【0113】
(実施例7:表面処理炭酸カルシウム填料(E7)の作製)
実施例1と同様にして、得られた合成炭酸カルシウムスラリーをオストワルド熟成によりBET比表面積10.0m/gまで粒子成長させた後、シード化合によりBET比表面積8.0m/gまで粒子成長させた炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0114】
この炭酸カルシウムスラリーに、炭酸カルシウム固形分に対し0.6質量%のウルトラリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製ウルトラポリン)を温水に10質量%濃度になるようリン系化合物の水溶液を調製し、60℃で12時間撹拌処理を行い、フィルタープレスにて固形分65質量%まで脱水させ、熱風式乾燥機(ホソカワミクロン株式会社製乾燥機ドライマイスタDMR-1)で乾燥させ、衝撃解砕することによち、リン系化合物処理炭酸カルシウム粉体を得た。
【0115】
得られたリン系化合物処理炭酸カルシウム粉体を株式会社カワタ社製スーパーミキサーSMV(G)-100に投入し、撹拌しながら表面処理剤として多価アルコールであるグリセリン(ミヨシ油脂株式会社製精製グリセリン)を炭酸カルシウム固形分に対し0.6質量%添加し、110℃で0.5時間乾式処理を行い、衝撃解砕し、得られた粉体を空気分級機で分級することにより表面処理炭酸カルシウム填料(E7)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(E7)の各物性値を表1に示す。
【0116】
(実施例8:表面処理炭酸カルシウム填料(E8)の作製)
実施例7で使用した表面処理剤の代わりに、表面処理剤としてカップリング剤であるビニルシランカップリング剤(信越化学株式会社製KBM-1003)を炭酸カルシウム固形分に対し1.0質量%を使用したこと以外は実施例7と同様にして、表面処理炭酸カルシウム填料(E8)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(E8)の各物性値を表1に示す。
【0117】
(実施例9:表面処理炭酸カルシウム填料(E9)の作製)
実施例1と同様にして、得られた合成炭酸カルシウムスラリーをオストワルド熟成によりBET比表面積4.0m/gまで粒子成長させた後、得られた炭酸カルシウムをシード(種)として、炭酸カルシウム固形に対して10質量%の水酸化カルシウムを添加し、焼成炉から排出されたCOガスとを反応させるシード化合を行い、BET比表面積2.8m/gの炭酸カルシウムスラリーを得たのち、実施例7と同様にリン系化合物処理炭酸カルシウム粉体を得た。
【0118】
実施例7で使用した表面処理剤の代わりに、炭酸カルシウム固形分に対し1.0質量%の飽和脂肪酸(日油株式会社製ビーズステアリン酸さくら)を使用したこと以外は実施例7と同様にして、表面処理炭酸カルシウム填料(E9)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(E9)の各物性値を表1に示す。
【0119】
なお、上記で使用した日油株式会社製ビーズステアリン酸さくらは、以下の成分組成を有するものであった(ミリスチン酸4質量%、パルミチン酸30質量%、ステアリン酸65質量%、およびその他1質量%)。
【0120】
(実施例10:表面処理炭酸カルシウム填料(E10)の作製)
実施例1と同様にして、得られた合成炭酸カルシウムスラリーをオストワルド熟成によりBET比表面積20.0m/gまで粒子成長させた後、得られた炭酸カルシウムをシード(種)として、炭酸カルシウム固形に対して10質量%の水酸化カルシウムを添加し、焼成炉から排出されたCOガスとを反応させるシード化合を行い、BET比表面積17.0m/gの炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0121】
この炭酸カルシウムスラリーに対して、炭酸カルシウム固形分に対し3.0質量%のウルトラリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製ウルトラポリン)を温水に10質量%濃度になるようリン系化合物の水溶液を調製し、かつこれに炭酸カルシウム固形分に対して2.7質量%の飽和脂肪酸(日油株式会社製NAA-122(ラウリン酸:99%))を苛性ソーダで鹸化した脂肪酸塩を、温水に10質量%濃度になるよう調製したものを添加したこと以外は実施例1と同様にして、表面処理炭酸カルシウム填料(E10)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(E10)の各物性値を表1に示す。
【0122】
(実施例11:表面処理炭酸カルシウム填料(E11)の作製)
実施例1と同様にして、得られた合成炭酸カルシウムスラリーをオストワルド熟成によりBET比表面積24.0m/gまで粒子成長させた後、得られた炭酸カルシウムをシード(種)として、炭酸カルシウム固形に対して10質量%の水酸化カルシウムを添加し、焼成炉から排出されたCOガスとを反応させるシード化合を行い、BET比表面積20.0m/gの炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0123】
この炭酸カルシウムスラリーに対して、炭酸カルシウム固形分に対し4.0質量%のウルトラリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製ウルトラポリン)を温水に10質量%濃度になるようリン系化合物の水溶液を調製し、かつこれに飽和脂肪酸(日油株式会社製NAA-122(ラウリン酸:99%))を苛性ソーダで鹸化した脂肪酸塩を、炭酸カルシウム固形分に対し3.4質量%を、温水に10質量%濃度になるよう調製したものを添加したこと以外は実施例11と同様にして、表面処理炭酸カルシウム填料(E11)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(E11)の各物性値を表1に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
(比較例1:表面処理炭酸カルシウム填料(C1)の作製)
BET比表面積1.9m/gの重質炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製スーパーS)を、株式会社カワタ社製スーパーミキサーSMV(G)-100で撹拌しながら、炭酸カルシウム固形分に対し0.3質量%のウルトラリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製ウルトラポリン)を、温水に10質量%濃度になるように調製したものを添加し、さらに表面処理剤として、炭酸カルシウム固形分に対し1.0質量%の飽和脂肪酸(日油株式会社製ビーズステアリン酸さくら(飽和脂肪酸率100%))を添加した後、110℃で0.5時間撹拌することにより表面処理炭酸カルシウム填料(C1)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(C1)の各物性値を表2に示す。
【0126】
(比較例2:表面処理炭酸カルシウム填料(C2)の作製)
実施例1と同様にして得られた合成炭酸カルシウムスラリーをオストワルド熟成によりBET比表面積30.0m/gまで粒子成長させた後、得られた炭酸カルシウムをシード(種)として、炭酸カルシウム固形に対し10質量%の水酸化カルシウムを添加し、焼成炉から排出されたCOガスとを反応させるシード化合を行い、BET比表面積25.0m/gの炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0127】
この炭酸カルシウムスラリーに対して、炭酸カルシウム固形分に対し1.2質量%ウルトラリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製ウルトラポリン)を温水に10質量%濃度になるようリン系化合物の水溶液を調製し、かつこれに炭酸カルシウム固形分に対して4.0質量%を飽和脂肪酸石鹸(日油株式会社製ノンサールSN-1(飽和脂肪酸率100%))を温水に10質量%濃度になるよう調製したものを添加したこと以外は実施例1と同様にして、表面処理炭酸カルシウム填料(C2)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(C2)の各物性値を表2に示す。
【0128】
(比較例3:表面処理炭酸カルシウム填料(C3)の作製)
リン系化合物を添加しなかったこと以外は、実施例3と同様にして表面処理炭酸カルシウム填料(C3)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(C3)の各物性値を表2に示す。
【0129】
(比較例4:表面処理炭酸カルシウム填料(C4)の作製)
実施例3で調製した水溶液の代わりに、炭酸カルシウム固形分に対し5.0質量%のウルトラリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製ウルトラポリン)を温水に10質量%濃度になるよう調製したリン系化合物の水溶液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、表面処理炭酸カルシウム填料(C4)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム点柳雄(C4)の各物性値を表2に示す。
【0130】
(比較例5:表面処理炭酸カルシウム填料(C5)の作製)
実施例1と同様にして得られた合成炭酸カルシウムスラリーをオストワルド熟成によりBET比表面積19.5m/gまで粒子成長させ、炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0131】
この炭酸カルシウムスラリーに、炭酸カルシウム固形分に対し1.0質量%のウルトラリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製ウルトラポリン)を温水に10質量%濃度になるようリン系化合物の水溶液を調製し、かつこれに炭酸カルシウム固形分に対し4.0質量%の飽和脂肪酸石鹸(日油株式会社製ノンサールSN-1)を温水に10質量%濃度になるよう調製したものを添加したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂用表面処理炭酸カルシウム填料(C5)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(C5)の各物性値を表2に示す。
得られた表面処理炭酸カルシウム点柳雄(C4)の各物性値を表2に示す。
【0132】
(比較例6:表面処理炭酸カルシウム填料(C6)の作製)
実施例1と同様にして得られた合成炭酸カルシウムスラリーをオストワルド熟成によりBET比表面積16.0m/gまで粒子成長させ、濃度10.0質量%の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0133】
この炭酸カルシウムスラリーに、炭酸カルシウム固形分に対し1.67質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製ヘキサメタリン酸ナトリウム)を温水に10質量%濃度になるようリン系化合物の水溶液を調製し、かつこれに炭酸カルシウム固形分に対し4.0質量%の飽和脂肪酸石鹸(日油株式会社製ノンサールSN-1)を温水に10質量%濃度になるよう調製したものを添加し、80℃で0.5時間撹拌したこと以外は実施例1と同様にして、表面処理炭酸カルシウム填料(C6)を得た。得られた表面処理炭酸カルシウム填料(C6)の各物性値を表2に示す。
【0134】
【表2】
【0135】
(実施例12~22および比較例7~12:ペレット(PE1)~(PE11)および(PC1)~(PC6)の作製)
実施例1~11および比較例1~6でそれぞれ作製した表面処理炭酸カルシウム(E1)~(E11)および(C1)~(C6)30質量部と、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製ノバテックPP FB3B:MFR 7.5g/10分)70質量部と、フェノール系酸化防止剤(BASFジャパン株式会社製イルガノックス1010)1.0重量部とを混合して得た樹脂混合物10kgを、目開き100μmのストレーナーを装着した、株式会社日本製鋼所(JSW)製二軸混練機TEX25αIIIにて、シリンダー設定温度170℃、スクリュー回転数250rpm、8kg/時間のフィード量で溶融混練した後、井上製作所社製コールドペレターザーにてカットすることによりペレット(PE1)~(PE11)および(PC1)~(PC6)を作製した。得られたペレット(PE1)~(PE11)および(PC1)~(PC6)の応用評価の結果を表3および4に示す。
【0136】
(比較例13:ペレット(PC7)の作製)
表面処理炭酸カルシウム填料とポリプロピレン樹脂とフェノール系酸化防止剤とを混合する際、さらにリン系酸化防止剤(BASFジャパン株式会社製イルガフォス168)1.0重量部を添加したこと以外は比較例9と同様にして、ペレット(PC7)を作製した。得られたペレット(PC7)の応用評価の結果を表4に示す。
【0137】
【表3】
【0138】
【表4】
【0139】
表3および4に示すように、実施例12~22で作製されたペレット(PE1)~(PE11)はいずれも、比較例7~13のペレット(PC1)~(PC7)と比較して優れた熱酸化安定性を有しており、MFR変化率も著しく低減されていた。また、分散性および最大応力(強度)においても両者の間には著しい差異を生じていた。
【0140】
このことから、実施例1~11で作製された表面処理炭酸カルシウム填料(PE1)~(PE11)はいずれも、比較例1~6の表面処理炭酸カルシウム填料(C1)~(C6)と比較して、得られる樹脂組成物の安定性、耐熱性、分散性、および強度のいずれについても向上させる能力を有していることがわかる。
【0141】
このように本発明の表面処理炭酸カルシウム填剤は、それを用いた樹脂組成物の溶融混練時における樹脂焼けや、凝集物の発生を少なくすることができ、ストレーナーの目詰まりを抑え、かつ優れた操業安定性を提供することができる。さらに、例えば強度劣化が起こり難いポリオレフィン樹脂組成物を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明によれば、例えば、樹脂成形分野、建築・住宅分野、塗料分野、ならびにこれらに関連する広範な技術分野において有用である。
【要約】
【課題】 ポリオレフィン系樹脂などの樹脂と混練した際に得られる樹脂組成物の耐候性、耐熱性および強度のいずれもが改善し得る表面処理炭酸カルシウム填料、ならびにそれを用いた樹脂組成物および成形品を提供すること。
【解決手段】 本発明の表面処理炭酸カルシウム填料は、以下の式(a)、(b)および(c)を満足する:(a)2.0≦Sw≦20.0(m/g)、(b)300≦Pw≦5000(ppm)、(c)0.01≦Tw≦0.30(質量%)。ここで、Swは表面処理炭酸カルシウム填料のBET比表面積(m/g)であり、Pwは表面処理炭酸カルシウム填料における誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置で測定したリン元素の含有量(ppm)であり、Twは該表面処理炭酸カルシウム填料における示差熱天秤装置にて測定した140℃~220℃の減量値(質量%)である。
【選択図】 なし