(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置、チップおよびLIDARシステム用光源
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20240416BHJP
H01S 5/42 20060101ALI20240416BHJP
H01S 5/026 20060101ALI20240416BHJP
G01S 7/481 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/42
H01S5/026 610
G01S7/481 A
(21)【出願番号】P 2023510465
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 CN2022083263
(87)【国際公開番号】W WO2023050740
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-02-13
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】202111335318.1
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519028014
【氏名又は名称】常州縦慧芯光半導体科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】VERTILITE CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】NO.7 FengXiang Road, WuJin High-tech Industrial Zone, Changzhou, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 成
(72)【発明者】
【氏名】梁 棟
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0057888(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0057883(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0281049(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110429473(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0403376(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102255240(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102651536(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
G01S 7/481
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部ブラッグ反射層(20)と、
前記下部ブラッグ反射層(20)の一方側に位置する活性層(40)と、
前記活性層(40)の下部ブラッグ反射層(20)から離れる一方側に位置する上部ブラッグ反射層(60)と、を含む、小さい広がり角を有する垂直共振器面発光型(VCSEL)レーザー装置であって、
前記活性層(40)の内部または外部に、発光領域を定義するための開口を有する電流狭窄層(50)が設けられ、
前記下部ブラッグ反射層(20)と前記活性層(40)との間、および前記上部ブラッグ反射層(60)と前記活性層(40)との間の少なくとも一方に、キャビティ延長層(30)が設けられ、
前記キャビティ延長層(30)の内部には、前記キャビティ延長層(30)の内部のライトフィールド強度を向上させるための共振キャビティ(70)が少なくとも1つ含ま
れ、
前記小さい広がり角とは、20度よりも小さい広がり角であり、
前記キャビティ延長層(30)には、アルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層およびガリウム砒素材料層の2種の屈折率が異なる材料層から積層して形成されるか、或いは高アルミニウム成分のアルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層および低アルミニウム成分のアルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層の2種の屈折率が異なる材料層から積層して形成された中部ブラッグ反射層(31)が含まれ、各々の材料層の光学的厚さが1/4発振波長であり、又は、前記キャビティ延長層(30)には、2種の屈折率が異なる誘電体材料層から積層して形成された中部ブラッグ反射層(31)が含まれ、各々の材料層の光学的厚さが1/4発振波長であり、
前記共振キャビティ(70)のうちの少なくとも1つの共振キャビティ(70)は、前記キャビティ延長層(30)の内部でライトフィールド強度が最も強くなる、
小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項2】
前記キャビティ延長層(30)の内部に含まれる共振キャビティ(70)の数は、1つであり、
前記共振キャビティ(70)から前記活性層(40)に向かう方向において、前記共振キャビティ(70)から前記活性層(40)までのライトフィールド強度のピーク値が徐々に減少する、
請求項1に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項3】
前記キャビティ延長層(30)の内部に含まれる共振キャビティ(70)の数が複数であり、複数の共振キャビティ(70)のうちの少なくとも1つの共振キャビティ(70)の内部のライトフィールドの最大ピーク値が活性層(40)のライトフィールドの最大ピーク値よりも大きい、
請求項1に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項4】
各々の共振キャビティ(70)の光学的厚さが1/2発振波長の整数倍である、
請求項1に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項5】
前記電流狭窄層(50)には、酸化層が含まれ、
前記酸化層は、エピタキシャル成長する高Al成分のAlGaAsであり、前記酸化層における外側被酸化領域に絶縁したアルミナ膜層が形成され、前記酸化層における未酸化領域に電流注入が効果的である発光領域が形成されている、
請求項1に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項6】
前記電流狭窄層(50)の数が少なくとも1つであり、
前記電流狭窄層(50)と最も近い定在波ライトフィールドの節との光路距離が1/10発振波長よりも小さく、前記電流狭窄層(50)が前記活性層(40)の外側に位置する場合、前記活性層(40)に垂直な方向に沿って前記活性層(40)の一方側から2つの波長範囲内に位置し、
前記活性層(40)には、少なくとも1つの量子井戸が含まれ、各々の前記量子井戸と最も近い定在波ライトフィールドの腹との光路距離が1/5発振波長よりも小さく、
前記活性層(40)には、1つ以上の量子井戸が含まれる場合、1組の量子井戸全体の中心位置と最も近い定在波ライトフィールドの腹との光路距離が1/10発振波長よりも小さい、
請求項1に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項7】
前記電流狭窄層(50)が定在波ライトフィールドの腹に位置し、前記量子井戸が定在波ライトフィールドの節に位置する、
請求項6に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項8】
前記活性層(40)に垂直な方向において、前記電流狭窄層(50)から前記活性層(40)までの距離が、各々の共振キャビティ(70)から前記活性層(40)までの距離よりも小さい、
請求項1に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項9】
前記活性層(40)に垂直な方向において、各々の共振キャビティ(70)の前記活性層(40)からの長さが、前記キャビティ延長層(30)の厚さの1/2よりも大きい、
請求項8に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項10】
前記キャビティ延長層(30)には、中部ブラッグ反射層(31)が含まれ、
前記下部ブラッグ反射層(20)には、高低屈折率に応じて交互に設けられた、光学的厚さが1/4発振波長のリフレクタが複数含まれ、
前記上部ブラッグ反射層(60)には、高低屈折率に応じて交互に設けられた、光学的厚さが1/4発振波長のリフレクタが複数含まれ、
前記中部ブラッグ反射層(31)には、高低屈折率に応じて交互に設けられた、光学的厚さが1/4発振波長のリフレクタが複数含まれる、
請求項1に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項11】
前記中部ブラッグ反射層(31)は、半波長周期毎の高低屈折率コントラストが、下部ブラッグ反射層(20)の対応する半波長周期毎の高低屈折率コントラスト、および上部ブラッグ反射層(60)の対応する半波長周期毎の高低屈折率コントラストのうちの少なくとも一方よりも低い、
請求項10に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項12】
前記キャビティ延長層(30)には、1つの共振キャビティ(70)および2組の中部ブラッグ反射層(31)が含まれ、
2組の中部ブラッグ反射層(31)のうちの1組が共振キャビティ(70)と下部ブラッグ反射層(20)との間に位置し、2組の中部ブラッグ反射層(31)のうちの他の1組が共振キャビティ(70)と活性層(40)との間に位置する、
請求項10に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項13】
共振キャビティ(70)と下部ブラッグ反射層(20)との間に位置する中部ブラッグ反射層(31)の反射率が、共振キャビティ(70)と活性層(40)との間に位置する中部ブラッグ反射層(31)の反射率よりも小さい、
請求項12に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項14】
2組の中部ブラッグ反射層(31)には、同じ高低屈折率で交互に分布する材料が用いられ、共振キャビティ(70)と下部ブラッグ反射層(20)との間に位置する中部ブラッグ反射層(31)の周期数が共振キャビティ(70)と活性層(40)との間に位置する中部ブラッグ反射層(31)の周期数よりも少ない、
請求項13に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項15】
前記共振キャビティ(70)の屈折率が、中部ブラッグ反射層(31)における共振キャビティ(70)に接触する箇所の屈折率と異なる、
請求項10に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項16】
レーザーの光出射面は、前記下部ブラッグ反射層(20)の前記活性層(40)から離れる一方側に位置し、前記上部ブラッグ反射層(60)の反射率が下部ブラッグ反射層(20)の反射率よりも大きく、
或いは、レーザーの光出射面は、上部ブラッグ反射層(60)の前記活性層(40)から離れる一方側に位置し、前記下部ブラッグ反射層(20)の反射率が上部ブラッグ反射層(60)の反射率よりも大きい、
請求項10に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項17】
前記光出射面の一方側に集積され、ファーフィールドの広がり角を低下させるためのマイクロレンズをさらに含む、
請求項16に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項18】
前記中部ブラッグ反射層(31)の厚さと、前記中部ブラッグ反射層(31)の半波長周期毎の高低屈折率コントラストとが負の相関となる、
請求項10に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項19】
各々の共振キャビティ(70)には、材料が異なるサブ層が複数含まれる、
請求項1に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項20】
前記活性層(40)には、少なくとも2つのサブ活性層が含まれ、
各々の前記サブ活性層は、少なくとも1つの前記量子井戸を含み、隣り合う2つのサブ活性層同士がトンネル結合(80)で連結され、前記トンネル結合(80)と最も近い定在波ライトフィールドの節との光路距離が1/10発振波長よりも小さい、
請求項6に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項21】
各々の前記サブ活性層の少なくとも一方側に、前記キャビティ延長層(30)、およびキャビティ延長層(30)内に設けられた共振キャビティ(70)を有する、
請求項20に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項22】
各々のサブ活性層に、最も多く1つの電流狭窄層(50)が存在し、前記トンネル結合(80)が定在波ライトフィールドの節に位置する、
請求項20に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項23】
前記上部ブラッグ反射層(60)、下部ブラッグ反射層(20)およびキャビティ延長層(30)の少なくとも一方の材料が、誘電体材料である、
請求項1に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項24】
前記上部ブラッグ反射層(60)、下部ブラッグ反射層(20)およびキャビティ延長層(30)の少なくとも一方の材料が、半導体材料である、
請求項1に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項25】
前記下部ブラッグ反射層(20)がN型半導体層であり、前記上部ブラッグ反射層(60)がP型半導体層であり、
或いは、前記下部ブラッグ反射層(20)がP型半導体層であり、前記上部ブラッグ反射層(60)がN型半導体層である、
請求項24に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項26】
前記下部ブラッグ反射層(20)の活性層(40)から離れる一方側に位置する基板(10)をさらに含み、
前記基板(10)の材料は、GaAsまたはSiを含む、
請求項1に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項27】
前記上部ブラッグ反射層(60)の活性層(40)から離れる一方側に位置する透明頂板(10’)をさらに含み、
前記透明頂板(10’)の材料は、サファイア、石英、ガラスまたは透明重合体を含む、
請求項1に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置。
【請求項28】
複数の請求項1~27のいずれか一項に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置を含む小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置チップであって、
複数の前記小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置は、平面アレイ配列として構成され、
前記平面アレイ配列は、規則的な配列、またはランダムな配列、またはアドレッシングのための複数のサブアレイである、
小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置チップ。
【請求項29】
少なくとも1つの請求項1~27のいずれか一項に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置、または少なくとも1つの請求項28に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置チップを含む、
レーザーレーダLIDARシステム用光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年09月29日に提出された仮特許出願シリアル番号63/249,998の米国仮出願の優先権を主張し、2021年11月11日に中国特許局へ提出された出願番号202111335318.1の中国特許出願の優先権を主張し、上記出願のすべての内容は、援用により本願に組み込まれる。
相互援用および優先権説明
【0002】
本願は、2021年09月29日に提出された仮特許出願シリアル番号63/249,998の米国仮出願「Small divergence angle VCSEL with a middle DBR cavity」の優先権を主張し、上記米国仮出願のすべての内容は、援用により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本願の実施例は、レーザー装置の技術分野に関し、たとえば、小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置、チップおよびLIDARシステム用光源に関する。
【背景技術】
【0004】
面発光レーザー装置(vertical cavity surface emitting laser:VCSEL)は、発光ダイオード(light-emitting diode、LED)または他の非干渉性光源よりも、広がり角が小さいビームを生成することができるため、三次元センサー、レーザーレーダ、光通信および照明などの適用に広く用いられ、各種の適用に対して、小型、コンパクト、ハイパワーのレーザー光源を提供することができる。
【0005】
従来のVCSELにおける広がり角は、通常、約20~30度である。このような広がり角は、一部の従来の適用を満たすことはできるが、新たな適用シーンに対して依然として相対的に大きく、三次元センサーおよびレーザーレーダの探知距離、解像度および信号対雑音比を制限する可能性がある。VCSELにおけるビーム広がり角をさらに圧縮することは、実際の適用において非常に差し迫ったニーズがある。
【発明の概要】
【0006】
本願の実施例は、小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置、チップおよびLIDARシステム用光源を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様として、本願の実施例は、
下部ブラッグ反射層と、
前記下部ブラッグ反射層の一方側に位置する活性層と、
前記活性層の下部ブラッグ反射層から離れる一方側に位置する上部ブラッグ反射層と、を含む小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置であって、
前記活性層の内部または外部に、発光領域を定義するための開口を有する電流狭窄層が設けられ、
前記下部ブラッグ反射層と前記活性層との間、および前記上部ブラッグ反射層と前記活性層との間の少なくとも一方に、キャビティ延長層が設けられ、
前記キャビティ延長層の内部には、少なくとも1つの共振キャビティが含まれ、前記共振キャビティの少なくとも1つが前記キャビティ延長層の内部のライトフィールド強度を向上させるために用いられる、小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置を提供する。
【0008】
第2態様として、本願の実施例は、複数の第1態様のいずれかに記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置を含む小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置チップであって、複数の前記小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置により平面アレイ配列が構成され、前記平面アレイ配列は、規則的な配列、またはランダムな配列、またはアドレッシングのための複数のサブアレイである、小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置チップを提供する。
【0009】
第3態様として、本願の実施例は、少なくとも1つの第1態様のいずれかに記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置、または少なくとも1つの第2態様に記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置チップを含む、LIDARシステム用光源を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】関連技術に係るVCSELレーザー装置の構造模式図である。
【
図2】本願の実施例に係る小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
【
図3】本願の実施例に係る他の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
【
図4】本願の実施例に係る他の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
【
図5】本願の実施例に係る他の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
【
図6】本願の実施例に係る他の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
【
図7】本願の実施例に係る他の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
【
図8】本願の実施例に係るライトフィールド強度分布図および屈折率分布図である。
【
図9】本願の実施例に係る他のライトフィールド強度分布図および屈折率分布図である。
【
図10】本願の実施例に係る他の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
【
図11】本願の実施例に係るライトフィールド強度分布図および屈折率分布図である。
【
図12】本願の実施例に係る他のライトフィールド強度分布図および屈折率分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面及び実施例を結び付けて本願について更に詳細に説明する。ここで記載される具体的な実施例は、本願を説明するためのものに過ぎず、本願を限定するものではないことを理解すべきである。なお、説明を容易にするために、図面に示しているのは本発明に関連する一部だけであり、すべての構造ではない。
【0012】
背景技術のように、従来のVCSELにおける広がり角は、通常、約20~30度である。このような広がり角は、一部の従来の適用を満たすことができるが、新たな適用シーンに対して依然として相対的に大きく、三次元センサーおよびレーザーレーダの探知距離、解像度および信号対雑音比を制限する可能性がある。関連技術において、VCSELにおけるビーム広がり角を圧縮するために、慣用手段は、キャビティ長を向上させる方法により、VCSELの発光孔内外の有効屈折率の差分を低下させ、さらに高次モードの発生を抑制する。高次モードにおけるビームがより大きな広がり角を有するため、高次モードにおけるビームが抑制された後、残りの低次モードにおけるビームは、より小さな広がり角を実現することができる。
図1は、関連技術に係るVCSELレーザー装置の構造模式図である。
図1に示すように、基板1の同一側に、下部ブラッグ反射層3、活性層4および上部ブラッグ反射層6が設けられている。そのうち、上部ブラッグ反射層6には、上部ブラッグ反射層6におけるアルミニウム含有成分が高い材料、たとえばAlGaAsを酸化することにより形成された電流狭窄層5が含まれる。すなわち、AlGaAsを酸化されてアルミナを形成する。これにより、電流狭窄層5が所在する層における開口箇所のAlGaAsと開口箇所以外のアルミナとの屈折率は、異なる。開口箇所がレーザー装置の発光孔であるので、VCSELの発光孔内外の有効屈折率が差分を発生する。
【0013】
有効屈折率は、下記数式から決定される。
【数1】
ただし、n
effは、有効屈折率であり、n(z)は、z軸方向における屈折率であり、E
2(z)は、z軸方向におけるライトフィールド強度である。
【0014】
VCSELの発光孔内外の有効屈折率の差分は、下記数式から決定される。
【数2】
ただし、Δn
effは、発光孔内外の有効屈折率の差分であり、n
1_effは、発光孔の所在領域における有効屈折率であり、n
2_effは、発光孔外の有効屈折率であり、n
1は、アルミニウム含有成分が高い材料(たとえばAl
0.98Ga
0.02As)の屈折率であり、n
2は、アルミナの屈折率である。Γ
oxは、酸化層の光閉じ込め係数であり、下記数式から決定される。
【数3】
ただし、lは、z軸方向における電流狭窄層5の厚さであり、pは、z軸方向におけるライトフィールド全体の厚さであり、n
2(z)は、z軸方向におけるアルミナの屈折率であり、一定の値、たとえばn
2(z)は、n
2であると考えられてもよい。
【0015】
VCSELビーム広がり角を圧縮するために、中部ブラッグ反射層2を増設してキャビティ長を向上させることにより、pの値が大きくなり、Γoxの値が小さくなり、発光孔内外の有効屈折率の差分が低減し、さらに、高次モードの発生を抑制することができる。高次モードにおけるビームがより大きな広がり角を有するため、高次モードにおけるビームが抑制された後、残りの低次モードにおけるビームは、より小さな広がり角を実現することができる。しかしながら、キャビティ長を向上させる方法は、新たな問題を引き起こす恐れがある。キャビティ長が向上された後、レーザーの縦モードのピッチが低減し、VCSELの発光スペクトルにおいて複数の縦モード、すなわち複数のスペクトルピークが現れる。これらの複数のスペクトルピークのうち、設計された発振波長以外、他の意図しないスペクトルピークが設計された発振波長の一方側または両側に現れる。これらの意図しないスペクトルピークは、通常、縦モードと呼ばれる。縦モードの出現は、一部の潜在的な問題を引き起こす。たとえば、光源の温度ドリフト係数が向上し、温度安定性が低下する。また、たとえば、三次元センサーおよびレーザーレーダの受信端がこれらの縦モードによる効率の低下およびクロストークなどを識別することができない。
【0016】
これに鑑み、本願の実施例は、小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置を提供する。
図2は、本願の実施例に係る小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
図3は、本願の実施例に係る他の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
図4は、本願の実施例に係る他の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
図5は、本願の実施例に係る他の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
図6は、本願の実施例に係る他の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
図2~
図6に示すように、小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置は、
下部ブラッグ反射層20と、
下部ブラッグ反射層20の一方側に位置する活性層40と、
活性層40の下部ブラッグ反射層20から離れる一方側に位置する上部ブラッグ反射層60と、を含み、活性層40の内部または近傍に、発光領域を定義するための開口を有する電流狭窄層50が設けられ、
そのうち、下部ブラッグ反射層20と活性層40との間の、および上部ブラッグ反射層60と活性層40との間の少なくとも一方に、キャビティ延長層30が設けられ、
キャビティ延長層30の内部には、キャビティ延長層30の内部のライトフィールド強度を向上させるための共振キャビティ70が少なくとも1つ含まれる。
【0017】
たとえば、下部ブラッグ反射層20には、複数の光学的厚さが1/4発振波長のリフレクタが含まれ、複数のリフレクタが高低屈折率に応じて交互に設けられてもよい。上部ブラッグ反射層60には、複数の光学的厚さが1/4発振波長のリフレクタが含まれ、複数のリフレクタが高低屈折率に応じて交互に設けられてもよい。そのうち、上部ブラッグ反射層60および下部ブラッグ反射層20の材料は、誘電体材料であり、電気絶縁性を有し、たとえば、窒化ケイ素、酸化ケイ素、アルミナまたは酸化チタンなどを含んでもよい。上部ブラッグ反射層60および下部ブラッグ反射層20の材料は、半導体材料、たとえばGaAsおよびAlGaAsであってもよい。
図3、
図5または
図6に示すように、小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置には、基板10がさらに含まれてもよい。基板10は、下部ブラッグ反射層20の活性層40から離れる一方側に位置する。当該基板10は、レーザー装置を形成することに適するいずれかの材料である。基板の材料は、GaAsまたはSiなどの材料であってもよい。
図4に示すように、当該小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置には、透明頂板10’がさらに含まれてもよい。透明頂板10’は、上部ブラッグ反射層60の活性層40から離れる一方側に位置する。透明頂板10’の材料は、サファイア、石英、ガラスまたは透明重合体を含んでもよい。
【0018】
活性層40に近づく一方側における層の辺縁に、電流狭窄層50が含まれる。或いは、活性層40の内部に電流狭窄層50が設けられている。一定の温度条件下で、ハイアルミニウム(High aluminum)をウエット酸化することにより、電流狭窄層50が所在する半導体層(たとえば、材料がアルミニウムガリウムヒ素材料である)の側壁を酸化して酸化層を形成することで、電流狭窄層50を形成することができる。電流狭窄層50には、レーザー装置の発光領域を定義するための開口を有する。酸化されたアルミナの抵抗が高く、電流狭窄層50の開口箇所が依然としてハイアルミニウムのアルミニウムガリウムヒ素材料であるので、電流を流した後、電流が電流狭窄層50における開口を介して活性層40へ流れる。活性層40には、少なくとも1つの量子井戸が含まれている。それは、積層された量子井戸複合構造を含んでもよく、GaAsおよびAlGaAs、InGaAsおよびGaAsP、或いはInGaAsおよびAlGaAs材料から積層配列されるように構成され、電気エネルギーを光エネルギーに変換して、レーザーを生成するために用いられる。たとえば、量子井戸組には、2~5個の量子井戸があり、量子井戸間に障壁が存在し、量子井戸組の外側にも障壁が存在する。そのうち、各々の量子井戸の活性層40に垂直な方向における中心と最も近い定在波ライトフィールドの腹(antinode)との光路距離は、1/5発振波長よりも小さい。量子井戸が1以上である場合、1組の量子井戸全体の中心位置と、最も近い定在波ライトフィールドの腹との光路距離は、1/10発振波長よりも小さい。たとえば、量子井戸の中心位置と電界のピーク値とが整列している。その為、量子井戸は、レーザー利得増幅を発生するために用いられるので、量子井戸の中心位置と、ライトフィールドが最も強い位置とが整列することにより、より大きな増幅効果を達成することができる。
【0019】
そのうち、下部ブラッグ反射層20と活性層40との間、および上部ブラッグ反射層60と活性層40との間の少なくとも一方に、キャビティ延長層30が設けられている。
図2~
図4には、下部ブラッグ反射層20と活性層40との間に活性層40に平行なキャビティ延長層30が設けられていることが例示されている。
図5には、上部ブラッグ反射層60と活性層40との間に活性層40に平行なキャビティ延長層30が設けられていることが例示されている。
図6には、下部ブラッグ反射層20と活性層40との間、および上部ブラッグ反射層60と活性層40との間に、いずれも活性層40に平行なキャビティ延長層30が設けられていることが例示されている。キャビティ延長層30の内部に、所在するキャビティ延長層30の内部のライトフィールド強度を向上させるための共振キャビティ70が含まれる。キャビティ延長層30において共振キャビティ70が設けられることにより、キャビティ延長層30の内部のライトフィールド強度を向上させる。そのうち、キャビティ延長層30の材料は、誘電体材料であってもよいし、半導体材料であってもよい。
【0020】
上記数式から分かるように、係数Γoxの値を低減させることにより、VCSELの発光孔内外の有効屈折率の差分を低下させることができる。係数Γoxの値の低減は、分子の低減、および分母の向上の少なくとも1種の形態により実現することができる。電流狭窄層50の厚さが小さいので、分母におけるキャビティ長pの向上により縦モードを引き起こす。本願の実施例は、分母における電界強度E2を向上させる、すなわちキャビティ延長層30におけるライトフィールド強度を向上させることにより、VCSELの発光孔内外の有効屈折率の差分の低下を実現し、さらに高次モードの発生を抑制し、広がり角を低下させる。それと同時に、キャビティ延長層30の内部のライトフィールド強度を向上させることにより、関連技術に対して、キャビティ長の向上幅を低減させることができる。さらに、VCSELの発光スペクトルに複数の縦モードが現れるという問題を改善することができることで、広がり角を極めて大きく低下させながら、単一縦モード発振を実現し、多波長の出力を回避することができる。光源の温度ドリフト係数が向上し、温度安定性が低下し、三次元センサーおよびレーザーレーダの受信端が多波長による効率の降下およびクロストークを識別できないなどの問題を回避することができる。
【0021】
要するに、本願の実施例に係る小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置は、キャビティ延長層に共振キャビティが設けられることにより、キャビティ延長層の内部のライトフィールド強度を向上させ、VCSELの発光孔内外の有効屈折率の差分を低下させ、さらに高次モードの発生を抑制し、広がり角を低下させることができる。それと同時に、キャビティ延長層の内部のライトフィールド強度を向上させることにより、レーザー装置の有効キャビティ長を効果的に低減させることができることで、隣り合う縦モード間の波長差分を向上させ、単一縦モード発振を実現し、多波長の出力を回避することができる。そのため、広がり角を極めて大きく低下させながら、単一縦モード発振を実現し、多波長の出力を回避することができる。
【0022】
たとえば、小さい広がり角とは、広がり角が20度よりも小さいことを示す。
【0023】
一実施例において、下部ブラッグ反射層20および上部ブラッグ反射層60が半導体材料である場合、下部ブラッグ反射層20は、N型半導体層であり、上部ブラッグ反射層60は、P型半導体層であり、或いは、下部ブラッグ反射層20は、P型半導体層であってもよく、上部ブラッグ反射層60は、N型半導体層であってもよい。活性層40に近づく一方側における層の辺縁に電流狭窄層50が設けられたレーザー装置は、上部ブラッグ反射層60が活性層40に直接接触すると(
図2を参照)、電流狭窄層50が上部ブラッグ反射層60の内部に位置し、活性層40と上部ブラッグ反射層60とがキャビティ延長層30を介して隔てられると、電流狭窄層50が活性層40の内部に位置する(
図5~
図6を参照)。
図2~
図4には、いずれも、電流狭窄層50が活性層40の外側に位置することが例示されている。より良く発光領域を限定するために、電流狭窄層50は、活性層40に垂直な方向に沿って活性層40の一方側から2つの波長範囲内に位置する。
【0024】
電流狭窄層50は、さらに、活性層40の内部に位置してもよい。そのうち、電流狭窄層50は、活性層に垂直な方向における中心と最も近い定在波ライトフィールドの節(node)との光路距離が1/10発振波長よりも小さく、発光領域に対する限定効果を確保しながら、電流狭窄層50の所在位置におけるライトフィールド強度が小さいことを確保することができ、電流狭窄層50の光閉じ込め係数をさらに低下させることで、ファーフィールドの広がり角の低減を実現することができる。なお、電流狭窄層50の数は、少なくとも1つである。異なる電流狭窄層50の開口のサイズは、同一または異なってもよい。開口が最も小さい電流狭窄層50により限定された発光領域がレーザー装置の発光領域とされる。
【0025】
図5~6、および
図7には、いずれも、電流狭窄層50が活性層40の内部に位置することが例示されている。よりよく発光領域を限定するために、電流狭窄層50の活性層40に垂直な方向における中心と最も近い定在波ライトフィールドの節との光路距離は、1/10発振波長よりも小さい。
【0026】
一実施例において、
図7は、本願の実施例に係る他の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
図7に示すように、活性層40には、少なくとも2組のサブ活性層が含まれ(
図7には、それぞれ41、42、43の3組が例示され)、且つ各組のサブ活性層同士がトンネル結合80で連結されている。トンネル結合80と最も近い定在波ライトフィールドの節との光路距離は、1/10発振波長よりも小さい。一実施例において、トンネル結合80は、定在波ライトフィールド強度が0の位置に位置する。トンネル結合には、非常に多くの不純物がある。これらの不純物は、光吸収損失を引き起こし、発光効率を低下させるため、トンネル結合をライトフィールドが最も小さい箇所に置くことにより、光損失を最小化させることができる。
【0027】
各々のサブ活性層には、量子井戸(412/422/432)が設けられている。そして、サブ活性層において、量子井戸の両側にそれぞれN型半導体層(413/423/433)およびP型半導体層(411/421/431)が設けられている。発光領域を定義するための電流狭窄層50が活性層40に穿設されたレーザー装置は、電流狭窄層50がP型半導体層(411/421/431)に位置する。基板10の活性層40から離れる一方側に第1電極層90が設けられ、上部ブラッグ反射層60の活性層40から離れる一方側に第2電極層100が設けられている。第1電極層90および第2電極層100によい、外部からの電気信号を受信して電圧差を生成することで、活性層40に電流を提供することを実現することができる。電流狭窄層50の中心が定在波ライトフィールド強度が0の箇所に設けられることにより、係数Γoxの値を低減させ、さらに、VCSELの発光孔内外の有効屈折率の差分を低下させ、広がり角を低下させることができる。複数のサブ活性層の構造において、電流狭窄層50が1つのみ設けられてもよい。当該電流狭窄層50は、上部ブラッグ反射層60に最も近づくサブ活性層(41)に位置する。一実施例において、電流狭窄層50が1つのみ設けられることにより、発光領域を定義することを満たしながら、素子における電流狭窄層70の有効屈折率を低減させることができる。なお、各々のサブ活性層には、複数の量子井戸が含まれてもよい。
【0028】
一実施例において、キャビティ延長層30の内部に含まれる共振キャビティ70の数が1つである。共振キャビティ70から活性層40に向かう方向において、共振キャビティ70から活性層40までのライトフィールド強度ピーク値が徐々に減少する。
【0029】
たとえば、
図2に示す構造を例として、キャビティ延長層30は、下部ブラッグ反射層20と活性層40との間に位置し、キャビティ延長層30の一方側が下部ブラッグ反射層20に接触し、キャビティ延長層30の他方側が活性層40に接触する。
図8は、本願の実施例に係るライトフィールド強度分布図および屈折率分布図であり、
図9は、本願の実施例に係る他のライトフィールド強度分布図および屈折率分布図である。
図8~
図9に示すように、共振キャビティ70から活性層40に向かう方向において、共振キャビティ70から活性層40までのライトフィールド強度ピーク値が徐々に減少する。本願の実施例において、活性層40により光が提供されるが、光の増幅が、共振キャビティ70および共振キャビティ70の両側に位置するキャビティ延長層30により実現されると理解できる。キャビティ延長層30には、アルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層およびガリウム砒素材料層の2種の屈折率が異なる材料層から積層して形成されるか、或いは高アルミニウム成分のアルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層および低アルミニウム成分のアルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層の2種の屈折率が異なる材料層から積層して形成されたブラッグ反射層が含まれてもよい。2種の屈折率が異なる誘電体材料層から積層して形成されてもよい。共振キャビティ70の光学的厚さが1/2発振波長の整数倍とされることにより、両側におけるブラッグ反射層の反射方向が反対することで、共振キャビティ70の内部のライトフィールドが最も強くなるとともに、共振キャビティ70から活性層40に向かう方向において共振キャビティ70から活性層40までのライトフィールド強度が徐々に減少することを実現する。キャビティ延長層30に共振キャビティ70が設けられることにより、キャビティ延長層30の内部のライトフィールド強度を向上させ、VCSELの発光孔内外の有効屈折率の差分を低下させ、さらに高次モードの発生を抑制し、広がり角を低下させることができる。それと同時に、キャビティ延長層30の内部のライトフィールド強度を向上させることにより、キャビティ長の向上幅を低減させ、VCSELの発光スペクトルに複数の縦モードが現れるという問題を改善することができることで、広がり角を極めて大きく低下させながら、単一縦モード発振を実現し、多波長の出力を回避することができる。活性層40の両側にいずれもキャビティ延長層30が設けられたレーザー装置(
図6に示すレーザー装置の構造)は、活性層40の両側における共振キャビティ70から、それぞれ活性層40に向かう方向において、両側における共振キャビティ70から活性層40までのライトフィールド強度ピーク値が徐々に減少する。
【0030】
また、本願の実施例に係る小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置は、共振キャビティ70の内部のライトフィールドが最も強く、共振キャビティ70から活性層40に向かう方向において、共振キャビティ70から活性層40までのライトフィールド強度が徐々に減少する。キャビティ延長層30の活性層40に近づく辺縁箇所のライトフィールド強度と、活性層40のライトフィールド強度との差分が小さい。活性層40のライトフィールド強度が関連技術における活性層40のライトフィールド強度に対して小さいので、活性層40に近づく一方側に位置する、または活性層40の内部に位置する電流狭窄層50の電界強度を低下させ、係数Γoxの値をさらに低減させ、VCSELの発光孔内外の有効屈折率の差分を低下させ、レーザーの広がり角を低下させることができる。
【0031】
一実施例において、活性層40に垂直な方向において、電流狭窄層50から活性層40までの距離が共振キャビティ70から活性層40までの距離よりも小さい。
【0032】
たとえば、
図2に示すように、電流狭窄層50が活性層40に位置しない構造は、電流狭窄層50から活性層40までの距離が共振キャビティ70から活性層40までの距離よりも小さい。
図5に示すように、電流狭窄層50が活性層40の内部に位置する構造は、電流狭窄層50から活性層40までの距離が共振キャビティ70から活性層40までの距離よりも小さい。電流狭窄層50が活性層40の辺縁箇所に近づくように位置し、共振キャビティ70がキャビティ延長層30の中部に近づくように位置するか、或いはキャビティ延長層30の活性層40から離れる一方側に位置すると理解できる。電流狭窄層50が活性層40の辺縁箇所に近づくように位置することにより、電流狭窄層50の開口のサイズと電流が活性層40に進入する領域との差分を小さくすることができる。電流狭窄層50が活性層40の辺縁箇所に近づくように位置し、共振キャビティ70がキャビティ延長層30の中部に近づくように位置するか、或いはキャビティ延長層30の活性層40から離れる一方側に位置することにより、共振キャビティ70と活性層40とのライトフィールド強度の差分を向上させることができる。一実施例において、活性層40に垂直な方向において、共振キャビティ70から活性層40までの長さがキャビティ延長層30の厚さの1/2よりも大きい。そのため、酸化層のライトフィールド強度をさらに低減させ、係数Γ
oxの値をさらに低減させ、VCSELの発光孔内外の有効屈折率の差分を低下させ、レーザーの広がり角を低下させることができる。
【0033】
一実施例において、続いて
図2~
図6に示すように、キャビティ延長層30は、中部ブラッグ反射層31であり、
下部ブラッグ反射層20には、高低屈折率に応じて交互に設けられた、光学的厚さが1/4発振波長のリフレクタが複数含まれ、
上部ブラッグ反射層60には、高低屈折率に応じて交互に設けられた、光学的厚さが1/4発振波長のリフレクタが複数含まれ、
中部ブラッグ反射層31には、高低屈折率に応じて交互に設けられた、光学的厚さが1/4発振波長のリフレクタが複数含まれる。
【0034】
たとえば、下部ブラッグ反射層20には、アルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層およびガリウム砒素材料層の2種の屈折率が異なる材料層から積層して形成されるか、或いは高アルミニウム成分のアルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層および低アルミニウム成分のアルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層の2種の屈折率が異なる材料層から積層して形成された下部ブラッグ反射層20が含まれてもよく、各々の材料層の光学的厚さが1/4発振波長である。上部ブラッグ反射層60には、アルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層およびガリウム砒素材料層の2種の屈折率が異なる材料層から積層して形成されるか、或いは高アルミニウム成分のアルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層および低アルミニウム成分のアルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層の2種の屈折率が異なる材料層から積層して形成された上部ブラッグ反射層60が含まれてもよく、各々の材料層の光学的厚さが1/4発振波長である。キャビティ延長層30には、アルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層およびガリウム砒素材料層の2種の屈折率が異なる材料層から積層して形成されるか、或いは高アルミニウム成分のアルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層および低アルミニウム成分のアルミニウム・ガリウム・ヒ素材料層の2種の屈折率が異なる材料層から積層して形成された中部ブラッグ反射層31が含まれてもよく、各々の材料層の光学的厚さが1/4発振波長である。
【0035】
下部ブラッグ反射層20は、2種の屈折率が異なる誘電体材料層から積層して形成されてもよく、各々の材料層の光学的厚さが1/4発振波長である。上部ブラッグ反射層60は、2種の屈折率が異なる誘電体材料層から積層して形成されてもよく、各々の材料層の光学的厚さが1/4発振波長である。キャビティ延長層30には、2種の屈折率が異なる誘電体材料層から積層して形成された中部ブラッグ反射層31が含まれてもよく、各々の材料層の光学的厚さが1/4発振波長である。
【0036】
一実施例において、中部ブラッグ反射層31の半波長周期毎の高低屈折率コントラストは、下部ブラッグ反射層20および/または上部ブラッグ反射層60における対応する半波長周期毎の高低屈折率コントラストよりも低い。
【0037】
たとえば、
図8に示すように、中部ブラッグ反射層31における半波長周期ごとの屈折率コントラストは、上部・下部リフレクタにおける対応する半波長周期ごとの屈折率コントラストよりも低い。中部ブラッグ反射層31における半波長周期ごとの高屈折率と低屈折率との差または比は、下部(上部)リフレクタにおける半波長周期ごとの高屈折率と低屈折率との差または比よりも小さいと理解できる。中部ブラッグ反射層31における半波長周期ごとの屈折率コントラストが低いので、コントラストが高すぎることに起因して、対数が少ないリフレクタを使用すれば、共振キャビティ70の内部のライトフィールドを強くすることができるという問題を回避することができる。すなわち、中部ブラッグ反射層31における半波長周期ごとの屈折率コントラストが低いことにより、中部ブラッグ反射層31がより多くの対数のリフレクタを含むことができ、さらに、中部ブラッグ反射層31の厚さが単一縦モード発振を実現できることを満たし、多波長の出力を回避することができると同時に、広がり角を極めて大きく低下させる要求を実現することができる。
【0038】
要するに、中部ブラッグ反射層31の厚さと中部ブラッグ反射層31の半波長周期毎の高低屈折率コントラストとが負の相関となる。中部ブラッグ反射層31に含まれるリフレクタの対数と中部ブラッグ反射層31の半波長周期毎の高低屈折率コントラストとは、関係がある。コントラストが高いと(たとえば、Al0.1GaAs/Al0.9GaAs)、設定された対数を少なくし、中部ブラッグ反射層31の厚さを小さくすることができ、コントラストが高すぎることに起因して、少ない対数のリフレクタを使用すれば共振キャビティ70の内部のライトフィールドを強くすることができるという問題を回避することができる。逆に、コントラストが低いと(たとえばAl0.1GaAs/Al0.15GaAs)、設定された対数を多くし、中部ブラッグ反射層31の厚さを大きくすることができ、共振キャビティ70の内部のライトフィールドを強くする要求を満たすことができる。キャビティ延長層30の合計キャビティ長の厚さ範囲は、5~20umとされてもよい。角度の低減に対して、キャビティ長が長く、キャビティ延長層30の電界強度が大きいほど、効果がよくなる。一実施例において、キャビティ長が20umよりも大きいように設定してもよい。なお、キャビティ延長層30の厚さは、縦モードの発生を回避する要求を満たす必要がある。
【0039】
一実施例において、キャビティ延長層30には、1つの共振キャビティ70および2組の中部ブラッグ反射層が含まれる。2組の中部ブラッグ反射層31のうちの1組は、共振キャビティ70と下部ブラッグ反射層20との間に位置し、2組の中部ブラッグ反射層31のうちの他の1組が共振キャビティ70と活性層40との間に位置する。共振キャビティ70がキャビティ延長層30の内部に穿設されて、キャビティ延長層30を2部に区画すると理解できる。その2部のうちの一部は、共振キャビティ70と下部ブラッグ反射層20との間に位置し、2部のうちの他の一部は、共振キャビティ70と活性層40との間に位置する。そのうち、共振キャビティ70と下部ブラッグ反射層20との間に位置する中部ブラッグ反射層31の反射率は、共振キャビティ70と活性層40との間の中部ブラッグ反射層31の反射率よりも小さい。2組の中部ブラッグ反射層31には、同じ高低屈折率で交互に分布する材料が用いられれば、共振キャビティ70と下部ブラッグ反射層20との間に位置する中部ブラッグ反射層31の周期数が共振キャビティ70と活性層40との間に位置する中部ブラッグ反射層の周期数よりも少ないことで、共振キャビティ70と下部ブラッグ反射層20との間に位置する中部ブラッグ反射層31の反射率が共振キャビティ70と活性層40との間に位置する中部ブラッグ反射層の反射率よりも小さいと共に、活性層40に垂直な方向において、共振キャビティ70から活性層40までの長さがキャビティ延長層30の厚さの1/2よりも大きい。さらに、共振キャビティ70と活性層40とのライトフィールド強度の差分を向上させる。これにより、酸化層のライトフィールド強度をさらに低下させて、係数Γoxの値を更に低減させ、VCSELの発光孔内外の有効屈折率の差分を低下させ、レーザーの広がり角を低下させることができる。
【0040】
たとえば、中部ブラッグ反射層の周期的構造とは、屈折率が異なる2種の材料がz軸方向において周期的に配列して形成した周期的構造を指す。ブラッグ構造の周期毎に2つ、すなわち一対の層を有する。中部ブラッグ反射層の周期数とは、中部ブラッグ反射層の周期的構造の構造数を指す。
【0041】
一実施例において、共振キャビティ70の屈折率は、中部ブラッグ反射層31における共振キャビティ70に接触する箇所の屈折率と異なる。
【0042】
たとえば、
図8に示すように、共振キャビティ70の屈折率は、いずれも中部ブラッグ反射層31における共振キャビティ70に接触する箇所の屈折率よりも高い。その際に、共振キャビティ70の内部のライトフィールド強度の最大値は、共振キャビティ70と中部ブラッグ反射層31との境界面に位置する。依然として
図2に示す構造を例とする。
図9に示すように、共振キャビティ70の屈折率は、いずれも中部ブラッグ反射層31における共振キャビティ70に接触する箇所の屈折率よりも低い。その際に、共振キャビティ70の内部のライトフィールド強度の最大値は、共振キャビティ70の中間位置に位置する。一実施例において、共振キャビティ70には、材料が異なるサブ層が複数含まれる。材料は、AlGaAs、GaAsP、InGaAsおよびlGaNなどを含んでもよい。
【0043】
一実施例において、レーザーの光出射面または主光出射面は、下部ブラッグ反射層20の活性層40から離れる一方側に位置し、上部ブラッグ反射層60の反射率が下部ブラッグ反射層20の反射率よりも大きく、
或いは、レーザーの光出射面または主光出射面は、上部ブラッグ反射層60の活性層40から離れる一方側に位置し、下部ブラッグ反射層20の反射率が上部ブラッグ反射層60の反射率よりも大きい。
【0044】
たとえば、レーザーの光出射面または主光出射面が下部ブラッグ反射層20の活性層40から離れる一方側に位置すると、上部ブラッグ反射層60に含まれるリフレクタの合計反射率が下部ブラッグ反射層20に含まれるリフレクタの合計反射率よりも大きい。これにより、上部ブラッグ反射層60は、全反射を実現することができ、下部ブラッグ反射層20は、光を透過することができる。レーザー装置の光出射方向は、活性層40から下部ブラッグ反射層20に向かう方向であり、すなわちレーザー装置は、バックライトである。レーザーの光出射面または主光出射面が上部ブラッグ反射層60の活性層40から離れる一方側に位置すると、下部ブラッグ反射層20に含まれるリフレクタの合計反射率が上部ブラッグ反射層60に含まれるリフレクタの合計反射率よりも大きい。これにより、下部ブラッグ反射層20は、全反射を実現することができ、上部ブラッグ反射層60は、光を透過することができ、レーザー装置の光出射方向は、活性層40から上部ブラッグ反射層60に向かう方向であり、すなわちレーザー装置は、トップライトである。上部ブラッグ反射層60および下部ブラッグ反射層20のうち、各対のリフレクタ(たとえば、各対のリフレクタは、上部リフレクタおよび下部リフレクタを含む)の屈折率コントラスト(たとえば、屈折率コントラストは、上部リフレクタの屈折率と下部リフレクタの屈折率との差の絶対値であってもよい)が同様であると、レーザーの光出射面が下部ブラッグ反射層20の前記活性層40から離れる一方側に位置する場合、上部ブラッグ反射層60に含まれるリフレクタの対数が下部ブラッグ反射層20に含まれるリフレクタの対数よりも大きいように配置されており、レーザーの光出射面が上部ブラッグ反射層60の前記活性層40から離れる一方側に位置する場合、下部ブラッグ反射層20に含まれるリフレクタの対数が上部ブラッグ反射層60に含まれるリフレクタの対数よりも大きいように配置されている。一実施例において、前記光出射面の一方側に集積されたマイクロレンズがさらに配置されてもよく、ファーフィールドの広がり角を更に低減させるために用いられる。
【0045】
たとえば、
図10は、本願の実施例に係る他の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置の構造模式図である。
図10に示すように、キャビティ延長層30の内部に共振キャビティ70が含まれる数は、複数である。少なくとも1つの共振キャビティ70の内部のライトフィールドの最大ピーク値は、活性層のライトフィールドの最大ピーク値よりも大きい。
【0046】
一実施例において、キャビティ延長層30の内部には、光学的厚さが半波整数倍のキャビティが複数設けられている。たとえば、
図10には、3つの光学的厚さが半波整数倍のキャビティが例示されている。複数の共振キャビティ70を有するレーザー装置は、少なくとも1つの共振キャビティ70の内部のライトフィールド強度が活性層のライトフィールド強度よりも大きい。
図11は、本願の実施例に係るライトフィールド強度分布図および屈折率分布図である。
図11に示すように、光学的厚さが半波整数倍である3つのキャビティが備えられ、そのうちの1つは、本当なライトフィールドが強い共振キャビティを形成する。
図12は、本願の実施例に係る他のライトフィールド強度分布図および屈折率分布図である。
図12に示すように、光学的厚さが半波整数倍である5つのキャビティが備えられ、そのうちの2つは、本当なライトフィールドが強い共振キャビティを形成する。一実施例において、キャビティ延長層30の内部に単一の半波キャビティ(たとえば、
図2~
図7に示す構造)が設けられている。単一の半波キャビティが設けられる場合、キャビティの内部のライトフィールド強度と活性層のライトフィールド強度との差分が大きくなることで、広がり角の低減をさらに実現することができる。
【0047】
本願の実施例は、複数の上記実施例のいずれかに記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置を有する小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置チップであって、複数の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置は、アレイ配列或いはランダムな配列である、小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置チップをさらに提供する。それは、同様な技術効果を有するため、ここで繰り返し説明しない。
【0048】
一実施例において、複数の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置は、平面アレイ配列として構成されてもよい。
【0049】
一実施例において、平面アレイ配列は、アドレッシングのための複数のサブアレイであってもよい。アドレッシングとは、そのうちの1つまたは複数のサブアレイを独立して点灯させることができることを指す。
【0050】
たとえば、VCSELレーザー装置は、600個の発光点を有し、20×30の発光点アレイを形成してもよい。当該VCSELレーザー装置は、さらに、20×30の発光点アレイを、異なるサブアレイ、たとえば2×3のサブアレイに区画することができ、各々のサブアレイに10×10の発光点がある。各々のサブアレイは、独立して制御されてもよい。
【0051】
本願の実施例は、少なくとも1つの上記実施例のいずれかに記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置、または少なくとも1つの上記実施例のいずれかに記載の小さい広がり角を有するVCSELレーザー装置チップを含むLIDAR(Light Detection And Ranging:レーザーレーダ)システム用光源をさらに提供する。それは、同様な技術効果を有するため、ここで繰り返し説明しない。
【0052】
なお、上記説明は本願の好適な実施例及び使用された技術原理に過ぎない。当業者は、本願がここに記載された特定の実施例に限定されず、当業者として、本願の保護範囲を逸脱しない範囲で、各種の明らかな変更、再調整及び置換を行うことができるということを理解すべきである。従って、上記実施例により本願を詳細に説明したが、本願は上記実施例に限定されず、本願の構想を逸脱しない限り、他の均等な実施例をより多く含んでもよく、本願の保護範囲は添付された特許請求の範囲によって決定される。