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特許7473282凝固第XII因子欠乏血液検体の血液凝固時間短縮剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】凝固第XII因子欠乏血液検体の血液凝固時間短縮剤
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/86 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
G01N33/86
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024503569
(86)(22)【出願日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2023037274
【審査請求日】2024-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2022165827
(32)【優先日】2022-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 光章
(72)【発明者】
【氏名】坂場 義正
(72)【発明者】
【氏名】堀内 良介
(72)【発明者】
【氏名】町田 聡
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/194165(WO,A1)
【文献】特開2021-181929(JP,A)
【文献】特開2020-056578(JP,A)
【文献】特開昭59-091899(JP,A)
【文献】特開2002-156379(JP,A)
【文献】特公平06-50999(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体を有効成分とする、活性化部分トロンボプラスチン時間測定における凝固第XII因子欠乏血液検体の血液凝固時間短縮剤。
【請求項2】
前記重合体が2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、疎水性基、アニオン性基、又はカチオン性基を有する他のモノマーとの共重合体である、請求項1記載の短縮剤。
【請求項3】
前記共重合体が、0.1重量%水溶液の25℃での表面張力が44~66×10-3N/mであり、かつ5重量%水溶液の25℃での動粘度が0.5~6m2/sであるか、又は、0.1重量%水溶液の25℃での表面張力が70~75×10-3N/mであり、かつ5重量%水溶液の25℃での動粘度が2~7.3m2/sである、請求項2記載の短縮剤。
【請求項4】
金属塩化合物及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種をさらに有効成分とする、請求項1記載の短縮剤。
【請求項5】
前記金属塩化合物が、塩化イットリウム、塩化鉄(III)、塩化アルミニウム、塩化インジウム(III)、塩化銅、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウム鉄(III)、硫酸銅、塩化亜鉛、塩化マンガン、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項4記載の短縮剤。
【請求項6】
前記アミノ酸が、α-アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、グリシルグリシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、バリン、及びトリシンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項4記載の短縮剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載の血液凝固時間短縮剤を含有する、活性化部分トロンボプラスチン時間測定用試薬。
【請求項8】
血液検体と、請求項1~6のいずれか1項記載の血液凝固時間短縮剤とを含有するサンプル溶液の血液凝固時間を測定することを含む、活性化部分トロンボプラスチン時間測定方法。
【請求項9】
血液検体と、請求項1~6のいずれか1項記載の血液凝固時間短縮剤とを含有するサンプル溶液の血液凝固時間を測定することを含む、活性化部分トロンボプラスチン時間測定における凝固第XII因子欠乏血液検体の血液凝固時間短縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)測定における凝固第XII因子欠乏血液検体の血液凝固時間短縮剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血液凝固検査は、患者の血液検体に所定の試薬を添加して血液凝固時間等を測定することにより、患者の血液凝固能を診断するための検査である。血液凝固時間の典型的な例としては、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、トロンビン時間などがある。血液凝固能の異常は、凝固時間の延長を引き起こす。凝固時間の延長が生じる原因としては、凝固阻害剤(ヘパリン等)、凝固関与成分の減少、先天的な血液凝固因子の欠乏(血友病等)、凝固反応を阻害する自己抗体(ループスアンチコアグラント;LA、抗凝固因子抗体等)などが挙げられる。
【0003】
血液凝固検査では、血液検体に試薬を添加してその後の血液凝固反応を計測し、該凝固反応から血液凝固時間を測定する。凝固時間の延長が認められた場合、血液凝固能に異常ありと判定する。血液凝固検査用試薬には、一定の条件下で血液凝固を進行させるための成分が含まれる。例えば、APTT測定用試薬には、エラグ酸等の凝固因子活性化剤、リン脂質、緩衝剤などが含まれる。一方、市販されているAPTT測定用試薬には様々な種類があり、それらの試薬間で各種の凝固異常に対する感度は異なる。
【0004】
特許文献1には、活性強化剤として塩化マンガン、及び懸濁補強手段としてグリシンを含有するAPTT測定用試薬が開示されている。特許文献2には、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、又は塩化マンガンとエラグ酸との混合物が試料の凝固を活性化させたが、ただし塩化第二鉄はエラグ酸の沈殿物を生成したことが記載されている。特許文献3には、グリシルグリシン、又はグリシルグリシルグリシンをAPTT測定において血液凝固因子安定化剤として使用すること、ただしこれらを高濃度で添加すると凝固時間が延長することが記載されている。特許文献4には、血液凝固能測定用検体希釈液としてHEPES、PIPES、POPSO、ACES、TAPSO、EPPS、Tricine、CHESなどのグッド緩衝液を使用できることが記載されている。特許文献5には、所定濃度のホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン及びホスファチジルエタノールアミンを含むAPTT測定用試薬がLAに対する感度が向上し、かつヘパリンに対して適切な感度を有することが記載されている。特許文献6には、ホスホリルセリン残基を有する(メタ)アクリル酸モノマーユニットを含有するポリマーにより、APTT測定用試薬の品質が安定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭59-91899号公報
【文献】特開2002-156379号公報
【文献】特公平6-50999号公報
【文献】特開2013-145238号公報
【文献】特開2020-56578号公報
【文献】特開2021-181929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血液凝固検査においては、凝固異常(凝固因子欠乏、LA陽性、凝固阻害剤陽性など)を有する検体を精度よく検出できることが望ましい。例えば、凝固異常を有する血液検体を血液凝固時間に基づいて正確に検出できるように、それらの血液検体の血液凝固時間を調節することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、APTT測定における凝固第XII因子(FXII)欠乏検体の血液凝固時間短縮剤、ならびにこれを用いたAPTT測定方法、及びAPTT測定におけるFXII欠乏検体の血液凝固時間の短縮方法を提供する。
【0008】
本発明の実施形態として、以下を提供する。
〔1〕2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体を有効成分とする、活性化部分トロンボプラスチン時間測定における凝固第XII因子欠乏血液検体の血液凝固時間短縮剤。
〔2〕前記重合体が2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、疎水性基、アニオン性基、又はカチオン性基を有する他のモノマーとの共重合体である、〔1〕記載の短縮剤。
〔3〕前記共重合体が、0.1重量%水溶液の25℃での表面張力が44~66×10-3N/mであり、かつ5重量%水溶液の25℃での動粘度が0.5~6m2/sであるか、又は、0.1重量%水溶液の25℃での表面張力が70~75×10-3N/mであり、かつ5重量%水溶液の25℃での動粘度が2~7.3m2/sである、〔2〕記載の短縮剤。
〔4〕金属塩化合物及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種をさらに有効成分とする、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の短縮剤。
〔5〕前記金属塩化合物が、塩化イットリウム、塩化鉄(III)、塩化アルミニウム、塩化インジウム(III)、塩化銅、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウム鉄(III)、硫酸銅、塩化亜鉛、塩化マンガン、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、〔4〕記載の短縮剤。
〔6〕前記アミノ酸が、α-アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、グリシルグリシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、バリン、及びトリシンからなる群より選択される少なくとも1種である、〔4〕又は〔5〕記載の短縮剤。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載の血液凝固時間短縮剤を含有する、活性化部分トロンボプラスチン時間測定用試薬。
〔8〕血液検体と、〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載の血液凝固時間短縮剤とを含有するサンプル溶液の血液凝固時間を測定することを含む、活性化部分トロンボプラスチン時間測定方法。
〔9〕血液検体と、〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載の血液凝固時間短縮剤とを含有するサンプル溶液の血液凝固時間を測定することを含む、活性化部分トロンボプラスチン時間測定における凝固第XII因子欠乏血液検体の血液凝固時間短縮方法。
〔10〕活性化部分トロンボプラスチン時間測定における凝固第XII因子欠乏血液検体の血液凝固時間短縮のための、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体の使用。
〔11〕前記重合体が2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、疎水性基、アニオン性基、又はカチオン性基を有する他のモノマーとの共重合体である、〔10〕記載の使用。
〔12〕前記共重合体が、0.1重量%水溶液の25℃での表面張力が44~66×10-3N/mであり、かつ5重量%水溶液の25℃での動粘度が0.5~6m2/sであるか、又は、0.1重量%水溶液の25℃での表面張力が70~75×10-3N/mであり、かつ5重量%水溶液の25℃での動粘度が2~7.3m2/sである、〔11〕記載の使用。
〔13〕前記重合体とともに、金属塩化合物及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種が使用される、〔10〕~〔12〕のいずれか1項記載の使用。
〔14〕前記金属塩化合物が、塩化イットリウム、塩化鉄(III)、塩化アルミニウム、塩化インジウム(III)、塩化銅、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウム鉄(III)、硫酸銅、塩化亜鉛、塩化マンガン、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、〔13〕記載の使用。
〔15〕前記アミノ酸が、α-アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、グリシルグリシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、バリン、及びトリシンからなる群より選択される少なくとも1種である、〔13〕又は〔14〕記載の使用。
〔16〕活性化部分トロンボプラスチン時間測定における凝固第XII因子欠乏血液検体の血液凝固時間短縮に使用するための、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体。
〔17〕2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、疎水性基、アニオン性基、又はカチオン性基を有する他のモノマーとの共重合体である、〔16〕記載の重合体。
〔18〕前記共重合体が、0.1重量%水溶液の25℃での表面張力が44~66×10-3N/mであり、かつ5重量%水溶液の25℃での動粘度が0.5~6m2/sであるか、又は、0.1重量%水溶液の25℃での表面張力が70~75×10-3N/mであり、かつ5重量%水溶液の25℃での動粘度が2~7.3m2/sである、〔17〕記載の重合体。
〔19〕金属塩化合物及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種と組み合わせて使用される、〔16〕~〔18〕のいずれか1項記載の重合体。
〔20〕前記金属塩化合物が、塩化イットリウム、塩化鉄(III)、塩化アルミニウム、塩化インジウム(III)、塩化銅、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウム鉄(III)、硫酸銅、塩化亜鉛、塩化マンガン、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、〔19〕記載の重合体。
〔21〕前記アミノ酸が、α-アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、グリシルグリシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、バリン、及びトリシンからなる群より選択される少なくとも1種である、〔19〕又は〔20〕記載の重合体。
〔22〕活性化部分トロンボプラスチン時間測定における凝固第XII因子欠乏血液検体の血液凝固時間短縮剤の製造における、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体の使用。
〔23〕前記重合体が2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、疎水性基、アニオン性基、又はカチオン性基を有する他のモノマーとの共重合体である、〔22〕記載の使用。
〔24〕前記共重合体が、0.1重量%水溶液の25℃での表面張力が44~66×10-3N/mであり、かつ5重量%水溶液の25℃での動粘度が0.5~6m2/sであるか、又は、0.1重量%水溶液の25℃での表面張力が70~75×10-3N/mであり、かつ5重量%水溶液の25℃での動粘度が2~7.3m2/sである、〔23〕記載の使用。
〔25〕前記重合体とともに、金属塩化合物及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種が使用される、〔22〕~〔24〕のいずれか1項記載の使用。
〔26〕前記金属塩化合物が、塩化イットリウム、塩化鉄(III)、塩化アルミニウム、塩化インジウム(III)、塩化銅、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウム鉄(III)、硫酸銅、塩化亜鉛、塩化マンガン、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、〔25〕記載の使用。
〔27〕前記アミノ酸が、α-アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、グリシルグリシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、バリン、及びトリシンからなる群より選択される少なくとも1種である、〔25〕又は〔26〕記載の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、APTT測定におけるFXII欠乏検体の血液凝固時間を短縮させることができ、それによって、それらの血液検体を血液凝固時間に基づいて正確に検出することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、APTT測定におけるFXII欠乏検体の血液凝固時間短縮剤(以下、「本発明の凝固時間短縮剤」ともいう)を提供する。また本発明は、該凝固時間短縮剤を含有するAPTT測定用試薬を提供する。さらに本発明は該凝固時間短縮剤を用いる、APTT測定方法及びAPTT測定におけるFXII欠乏検体の血液凝固時間の短縮方法を提供する。
【0011】
本明細書における「FXII欠乏検体」とは、凝固第XII因子(FXII)の欠乏している血液検体をいい、例えば、FXII欠乏症患者から採取された血液検体、及び市販のFXII欠乏血漿が挙げられる。
【0012】
以下の本明細書において、「血液検体」及び「血液凝固時間」を、それぞれ単に「検体」及び「凝固時間」と称する場合がある。したがって、以下の本明細書において、「血液凝固時間短縮」及び「血液凝固時間短縮剤」は、それぞれ、「凝固時間短縮」及び「凝固時間短縮剤」とも称される。
【0013】
APTT測定では、検体とAPTT測定用試薬を混合してサンプル溶液を調製し、該サンプル溶液の血液凝固反応を測定する。該検体としては、被検者の血漿が好ましく用いられる。該検体には、凝固検査に通常用いられる抗凝固剤が添加され得る。例えば、クエン酸ナトリウム入り採血管を用いて採血した後、遠心分離することで血漿が得られる。APTT測定用試薬は、一般に、活性化剤を含む第1試薬と、凝固開始剤を含む第2試薬からなる。検体は、必要に応じて、APTT測定用試薬と混合される前に希釈液で希釈される。該検体に第1試薬を添加し、所定時間インキュベートしたのち、第2試薬を添加して凝固反応を開始させる。第2試薬添加後のサンプル溶液の凝固時間を測定する。
【0014】
本発明は、APTT測定におけるFXII欠乏検体の血液凝固時間短縮剤を提供する。一実施形態において、本発明の凝固時間短縮剤は、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体を、FXII欠乏検体の血液凝固時間を短縮するための有効成分として含有する。
【0015】
前記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体(以下、単に重合体と称することがある)は、構成モノマーが2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを有する限り特に限定されない。2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単独の重合体であってもよく、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと他のモノマーとの共重合体であってもよい。当該他のモノマーは、疎水性基、アニオン性基、又はカチオン性基を有することができる。あるいは、該他のモノマーは疎水性基及び親水性基の両方を有していてもよい。好ましくは、当該他のモノマーは、2-メタクリロイルオキシ基に、疎水性基、アニオン性基、又はカチオン性基が結合したモノマーであり、該共重合体は、主鎖にメタクリロイル基、側鎖にホスホリルコリンと、疎水性基、アニオン性基、又はカチオン性基とを有する。
【0016】
前記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体は、例えば特開2004-189678号公報に示されるような公知の合成方法に準じて製造したものを用いてもよい。2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーは、例えば日油株式会社より販売されており、当業者は任意のモノマーと重合して、必要な性質を有する重合体を製造することができる。また、当該重合体には、市販品、例えば日油株式会社より販売されているLIPIDURE(登録商標)シリーズを用いることができる。当該重合体としては、診断薬分野製品として販売されているLIPIDURE(登録商標)-BLシリーズが好ましいが、これに限定されることはない。LIPIDURE-BLシリーズは、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーに対して、様々なモノマーを共重合させた共重合体である。例えば、疎水性基を有するモノマーを共重合させたLIPIDURE(登録商標)-BL200シリーズ、アニオン性基を有するモノマーを共重合させたLIPIDURE(登録商標)-BL400シリーズ、カチオン性基を有するモノマーを共重合させたLIPIDURE(登録商標)-BL500シリーズ、疎水性基を有するモノマーを共重合させたLIPIDURE(登録商標)-BL800シリーズ、LIPIDURE(登録商標)-BL1000シリーズ、LIPIDURE(登録商標)-BL1100シリーズ、LIPIDURE(登録商標)-BL1200シリーズ、及びLIPIDURE(登録商標)-BL1300シリーズが挙げられる。より具体的な例としては、LIPIDURE(登録商標)-BL403、BL405、BL503、BL504、BL802、BL1002、BL1003、BL1103、BL1201、BL1301、及びBL205が挙げられる。
【0017】
前記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体の重量平均分子量は、所望の性能が得られるならば、特に限定されるものではない。該重合体の重量平均分子量の下限は、例えば1000、好ましくは2000、より好ましくは5000、さらに好ましくは10000である。該重量平均分子量の上限は、例えば2000000、好ましくは1000000、より好ましくは700000、さらに好ましくは100000、さらに好ましくは70000である。該重量平均分子量は、上述したいずれかの下限からいずれかの上限までの範囲で任意に設定することができる。該重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー等の通常の方法により測定することができる。また当該重合体が共重合体である場合、該共重合体における2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと他のモノマーとの構成比は、使用するモノマーの構造等によって異なるが、通常、共重合体中、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの含量が5モル%以上であることが好ましい。該重合体の重量平均分子量及びモノマー構成比は、前述したLipidure(登録商標)-BLシリーズを参考に、当業者であれば目的に応じて選択可能である。
【0018】
前記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体は、好ましくは、0.1重量%水溶液の25℃での表面張力が44~66×10-3N/mであり、かつ5重量%水溶液の25℃での動粘度が0.5~6m2/sであるか、又は、0.1重量%水溶液の25℃での表面張力が70~75×10-3N/mであり、かつ5重量%水溶液の25℃での動粘度が2~7.3m2/sである。該重合体の表面張力及び動粘度は、前述したLipidure(登録商標)-BLシリーズを参考に、当業者であれば目的に応じて選択可能である。
【0019】
前記に挙げた2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体は、いずれか1種を単独で用いることもでき、又は任意の2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
前記重合体は、APTT測定において、FXII欠乏検体の凝固時間短縮のために使用される。APTT測定における該重合体の総使用量は、APTT測定におけるFXII欠乏検体の凝固時間短縮のための有効量であればよく、特に限定されない。例えば、APTT測定における該重合体の総使用量は、前記APTT測定用のサンプル溶液中における該重合体の濃度として、好ましくは0.0005~0.2質量%、より好ましくは0.001~0.1質量%、さらに好ましくは0.0075~0.075質量%、さらに好ましくは0.01~0.05質量%である。
【0021】
一実施形態において、本発明の凝固時間短縮剤は、以下に挙げる金属塩化合物及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種を、FXII欠乏検体の血液凝固時間を短縮するための有効成分として含有することができる。これらの金属塩化合物及びアミノ酸は、それら単独で該凝固時間短縮剤の有効成分として用いてもよく、又は、前記重合体と組み合わせて該凝固時間短縮剤の有効成分として用いてもよい。
【0022】
前記金属塩化合物の例としては、塩化イットリウム、塩化鉄(III)、塩化アルミニウム、塩化インジウム(III)、塩化銅、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウム鉄(III)、硫酸銅、塩化亜鉛、塩化マンガン、及びそれらの水和物が挙げられる。該水和物としては、塩化イットリウム6水和物、塩化鉄(III)6水和物、塩化インジウム(III)4水和物、塩化銅(II)2水和物、硫酸カリウムアルミニウム12水和物、硫酸アンモニウム鉄(III)12水和物、硫酸銅5水和物などが挙げられる。前記に挙げた金属塩化合物は、いずれか1種又はいずれか2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
前記金属塩化合物は、APTT測定において、FXII欠乏検体の凝固時間短縮のために使用される。APTT測定における該金属塩化合物の総使用量は、APTT測定におけるFXII欠乏検体の凝固時間短縮のための有効量であればよく、特に限定されない。例えば、APTT測定における該金属塩化合物の総使用量は、前記APTT測定用のサンプル溶液中における該金属塩化合物の濃度として、好ましくは0.0001~0.15mg/mL、より好ましくは0.001~0.05mg/mL、さらに好ましくは0.005~0.04mg/mL、さらに好ましくは0.0075~0.0225mg/mLである。
【0024】
前記アミノ酸としては、α-アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、グリシルグリシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、バリン、及びトリシンが挙げられる。これらのアミノ酸は、いずれか1種又はいずれか2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
前記アミノ酸は、APTT測定において、FXII欠乏検体の凝固時間短縮のために使用される。APTT測定における該アミノ酸の総使用量は、APTT測定におけるFXII欠乏検体の凝固時間短縮のための有効量であればよく、特に限定されない。例えば、APTT測定における該アミノ酸の総使用量は、前記APTT測定用のサンプル溶液中における該アミノ酸の濃度として、好ましくは10~500mM、より好ましくは20~300mM、さらに好ましくは25~140mM、さらに好ましくは30~135mMである。
【0026】
本発明の凝固時間短縮剤は、前述した重合体、金属塩化合物、又はアミノ酸に加えて、さらにバッファー又は多糖類又は包接化合物を、FXII欠乏検体の凝固時間調節のための有効成分として含有することができる。本発明の凝固時間短縮剤に加えて該バッファー又は多糖類又は包接化合物を使用することで、検体の血液凝固時間を適切に調節、例えば延長もしくは短縮させることが可能になる。
【0027】
前記バッファーとしては、PIPES、ACES、HEPES、TAPSO、POPSO、EPPS、及びCHESからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。APTT測定における該バッファーの総使用量は、前記サンプル溶液中の濃度として、好ましくは0.1~1000mM、より好ましくは0.5~500mM、さらに好ましくは1~200mM、さらに好ましくは10~100mMである。
【0028】
前記多糖類としては、デキストラン、シクロデキストリン、硫酸化多糖、及びそれらの塩、からなる群より選択される少なくとも1種の多糖類が挙げられる。硫酸化多糖としては、デキストラン硫酸、シクロデキストリン硫酸が挙げられる。硫酸化多糖の塩としては、デキストラン硫酸ナトリウム、シクロデキストリン硫酸ナトリウムが挙げられる。前記包接化合物としては、シクロデキストリン及びその修飾体、ならびにカリックスアーレン誘導体が挙げられる。シクロデキストリン及びその修飾体としては、α-シクロデキストリン硫酸、β-シクロデキストリン硫酸、γ-シクロデキストリン硫酸、及びそれらの塩が挙げられる。塩としてはナトリウム塩が挙げられる。カリックスアーレン誘導体としては、カリックスアーレン(6)ヘミ硫酸、カリックスアーレン(8)ヘミ硫酸が挙げられる。前記に挙げた多糖類又は包接化合物は、いずれか1種又はいずれか2種以上を組み合わせて使用することができる。APTT測定における該多糖類又は包接化合物の総使用量は、前記サンプル溶液中の濃度として、好ましくは0.0001~0.15mg/mL、より好ましくは0.001~0.05mg/mL、さらに好ましくは0.001~0.01mg/mLである。
【0029】
前記に挙げたバッファー及び多糖類又は包接化合物は、いずれか1種を単独で用いることもでき、又は任意の2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0030】
本発明の凝固時間短縮剤は、APTT測定において、FXII欠乏検体の凝固時間短縮のために使用される。本発明の凝固時間短縮剤は、それ単独でAPTT測定用の前記検体、希釈液又はサンプル溶液に添加されてもよく、又は、本発明の凝固時間短縮剤を含有するAPTT測定用試薬が、前記検体、希釈液又はサンプル溶液に添加されてもよい。
【0031】
したがって本発明は、本発明の凝固時間短縮剤を含有するAPTT測定用試薬を提供する。一実施形態において、本発明のAPTT測定用試薬は、前記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体、金属塩化合物、及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。好ましくは、本発明のAPTT測定用試薬は、前記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体を含有する。一実施形態において、本発明のAPTT測定用試薬は、前記重合体と、前記金属塩化合物及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する。一実施形態において、本発明のAPTT測定用試薬は、前記重合体と、前記金属塩化合物とを含有する。一実施形態において、本発明のAPTT測定用試薬は、前記重合体、金属塩化合物、及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種に加えて、前記バッファー、及び多糖類又は包接化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有することができる。本発明のAPTT測定用試薬は、FXII欠乏検体の凝固時間を短縮させることができる。
【0032】
好ましくは、本発明のAPTT測定用試薬は、活性化剤を含む第1試薬と、凝固開始剤を含む第2試薬を含む試薬キットである。該APTT測定用試薬において、本発明の凝固時間短縮剤は、該第1試薬に含有されていることが好ましいが、該第1試薬及び第2試薬とは別途に該試薬キットに含まれていてもよい。
【0033】
本発明のAPTT測定用試薬における本発明の凝固時間短縮剤の含有量は、該APTT測定用試薬と検体を混合して得られたサンプル溶液中に含まれる本発明の凝固時間短縮剤の有効成分の濃度(例えば前記重合体、金属塩化合物及びアミノ酸の総量)が、前述したAPTT測定におけるFXII欠乏検体の凝固時間短縮のための有効量の範囲になるように調整され得る。該APTT測定用試薬における前記バッファー、多糖類又は包接化合物の含有量についても同様である。
【0034】
本発明で提供されるAPTT測定用試薬は、本発明の凝固時間短縮剤に加えて、血液検体の活性化や凝固などに必要な各種成分を含有することができる。例えば、APTT測定用試薬において、第1試薬は、バッファー、活性化剤、リン脂質などを含有することができる。
【0035】
バッファーには、pH4~9、好ましくはpH6~8の範囲に緩衝能をもつ緩衝剤を適宜選択して用いることができる。該バッファーの例としては、前述したバッファー、又はアミノ酸、クエン酸、リン酸、酢酸、イミダゾール、バルビタール、GTAなどが挙げられる。前述した本発明の凝固時間短縮剤の有効成分であるアミノ酸を、バッファーとしても使用することができる。これらのバッファーは、いずれか1種又はいずれか2種以上の組み合わせで用いることができる。該バッファーの使用量は、緩衝能を発揮する量であれば特に限定されないが、該試薬中の濃度として、好ましくは0.1~1000mM、より好ましくは0.5~500mM、さらに好ましくは1~200mM、さらに好ましくは10~100mMである。
【0036】
前記活性化剤の例としては、エラグ酸、カオリン、セライト、コロイドシリカ、ポリフェノール化合物、無水ケイ酸、金属イオンなどが挙げられる。該金属イオンとしては、Zn2+、Mn2+、Cu2+、Fe2+、Al3+などが挙げられる。該金属イオンは、塩の形態で前記試薬に含有されていてもよい。前述した本発明の凝固時間短縮剤の有効成分である金属塩化合物を、活性化剤としても使用することができる。前記に挙げた活性化剤は、いずれか1種又はいずれか2種以上の組み合わせで用いることができる。該活性化剤の使用量は、特に限定されないが、該試薬中の濃度として、好ましくは0.001~2mg/mL、より好ましくは0.001~0.5mg/mL、さらに好ましくは0.001~0.1mg/mL、さらに好ましくは0.005~0.05mg/mLである。
【0037】
前記リン脂質の例としては、天然又は合成のリン脂質が挙げられる。該天然のリン脂質としては、天然物質、例えばウサギ脳、ウシ脳、ヒト胎盤、大豆、卵黄などに由来するリン脂質が挙げられる。該合成リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)、リゾホスファチジルコリン(LPC)、スフィンゴミエリン(SM)、カルジオリピンなどが挙げられる。これらのリン脂質は、いずれか1種又はいずれか2種以上の組み合わせで用いることができる。例えば、複数のリン脂質を混合してリポソームとして用いることができる。該リン脂質の使用量は、特に限定されないが、該試薬中の濃度として、好ましくは0.005~2mM、より好ましくは0.02~0.5mMである。APTT測定用試薬において、血小板代替物であるリン脂質は、凝固反応に必要な成分として添加される。内因系凝固反応において、リン脂質は、活性化IX因子及び第VIII因子との複合体を形成し、この複合体が第X因子以下の共通因子系(第V、第II及び第I因子)を活性化することでフィブリン形成に至る。
【0038】
APTT測定用試薬の第2試薬は、血液凝固を開始させる成分、例えばカルシウムイオンを含有することができる。カルシウムイオンとしては、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グルクロン酸カルシウム、酒石酸カルシウム等の水溶性のカルシウム化合物が用いられる。これらのカルシウム化合物は、いずれか1種又はいずれか2種以上の組み合わせで用いることができる。該カルシウム化合物の使用量は、特に限定されないが、該試薬中の濃度として、好ましくは5~100mM、より好ましくは10~50mMである。
【0039】
前記第1試薬及び第2試薬は、該試薬の保存性又は安定性を向上させるための添加剤をさらに含んでもよい。そのような添加剤の例としては、防腐剤、抗酸化剤、分散剤、安定化剤などが挙げられる。該防腐剤の例としては、シプロフロキサシン、プロピオン酸、安息香酸ナトリウム、アジ化ナトリウム、2-メチル-1,2-チアゾール-3(2H)-オンと5-クロロ-2-メチル-1,2-チアゾール-3(2H)-オンの混合物(例えばプロクリン300)などが挙げられる。該抗酸化剤の例としては、クエン酸、ブチルヒドロキシアニソールなどが挙げられる。該分散剤の例としては、フェノール、コラーゲンペプチドなどが挙げられる。該安定化剤の例としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストランやポリスクロース(例えばフィコール)等の高分子多糖、塩化ナトリウム等の塩、アミノ酸、糖、などが挙げられる。
【0040】
本発明の凝固時間短縮剤及びAPTT測定用試薬は、液状もしくはその凍結物の形態であってもよく、又は乾燥形態であってもよい。該乾燥形態の試薬は、使用時に水、緩衝液等に溶解されて液状の試薬へと調製される。前記の各種成分の濃度は、液状の試薬中での濃度を表す。
【0041】
本発明の凝固時間短縮剤又はAPTT測定用試薬を用いた血液凝固反応の測定(APTT測定)方法が提供される。本発明によるAPTT測定方法は、本発明の凝固時間短縮剤又はAPTT測定用試薬を用いることによって、FXII欠乏検体の凝固時間の短縮を可能にする。
【0042】
本発明によるAPTT測定方法は、本発明の凝固時間短縮剤又はAPTT測定用試薬を用いる以外は、常法に従って実施すればよい。好ましい実施形態においては、必要に応じて希釈した検体に、本発明の凝固時間短縮剤を含む第1試薬を混合し、得られた混合液を加温する。該加温の条件は、例えば30℃以上40℃以下、好ましくは35℃以上39℃以下である。その後、該混合液に第2試薬を添加し、凝固反応を開始させる。第2試薬添加後の混合液(サンプル溶液)の凝固反応が計測される。計測には、サンプル溶液の散乱光量、透過度もしくは吸光度を計測する光学的な方法、又は、サンプル溶液の粘度を計測する力学的な方法、などが用いられ得る。計測中のサンプル溶液の温度は、例えば30℃以上40℃以下であり、好ましくは35℃以上39℃以下である。該APTT測定用試薬は、正常血漿の凝固時間(APTT)が、15~80秒、好ましくは15~60秒、より好ましくは20~50秒の範囲に入るような濃度で検体に添加されることが好ましい。
【0043】
凝固反応の反応開始時点は、典型的には、検体に第2試薬を混合して凝固反応を開始させた時点として定義され得る。あるいは他のタイミングが反応開始時点として定義されてもよい。凝固反応の計測を継続する時間は、例えば、検体と第2試薬との混合の時点から数十秒~7分程度であり得る。この計測時間は、任意に定めた固定の値でもよいが、各検体の凝固反応の終了を検出した時点までとしてもよい。該計測時間の間、所定の間隔で凝固反応の進行状況の計測(例えば散乱光量の測光)が繰り返し行われ得る。例えば、0.1秒間隔で計測が行われればよい。計測した凝固反応から、公知の方法に従って凝固時間(APTT)を測定することができる。
【0044】
本発明のAPTT測定方法における一連の操作は、自動分析装置を用いて行うことができる。あるいは、一部の操作が手作業で行われてもよい。例えば、検体の調製を人間が行い、それ以降の操作は自動分析装置で行うことができる。
【実施例
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
試験1
1)検体
以下の検体を用いた。
FXII欠乏検体(FXII欠乏症患者由来の検体、N=6)
【0047】
2)APTT測定用試薬
2-1)基本処方
第1試薬(R1)
成分 濃度
エラグ酸 0.01 mg/mL
硫酸銅5水和物 0.015 mg/mL
HEPES(pH7.3) 50 mM
グリシン 133 mM
リポソーム*1 0.15 mM
クエン酸3Na 0.1 mM
プロクリン300 0.05 質量%
第2試薬(R2)
成分 濃度
塩化カルシウム 20 mM
アジ化ナトリウム 0.05 質量%
*1)国際公開第2003/015753号に記載の方法に従って調製した。
【0048】
2-2)試験試薬
・試験試薬1-1~1-22:基本処方のR1に、表1に記載の条件にて2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体(LIPIDURE(登録商標)-BLシリーズ;BL403、BL405、BL503、BL504、BL802、BL1002、BL1003、BL1103、BL1201又はBL1301)を添加した。
・試験試薬2-1~2-10:基本処方のR1において、0.015mg/mL硫酸銅5水和物の代わりに、表2に記載の条件にて塩化イットリウム6水和物、塩化マンガン(II)4水和物、塩化鉄(III)6水和物、塩化アルミニウム(無水物)、塩化インジウム(III)4水和物、塩化銅(II)2水和物、又は硫酸アンモニウム鉄(III)12水和物を添加するか、あるいは表2に記載の濃度の硫酸銅5水和物を用いた。対照として硫酸銅5水和物の代わりに塩化亜鉛を含むR1を準備した。
・試験試薬3-1~3-14:基本処方のR1に、グリシンの代わりに表3に記載の条件にてアミノ酸を添加した。対照としてグリシンの代わりにリシンを含むR1を準備した。
【0049】
2-3)R1及びR2の調製
前記の成分を所定濃度になるよう混合して、各試験試薬と対照のR1、及びR2を調製した。R1の混合は氷冷下で行った。
【0050】
3)凝固時間測定
検体50μLをキュベット内にて37℃で45秒間加温した後、第1試薬(R1)50μLを添加して171秒さらに加温した。加温後の混合物に第2試薬(R2)50μLを添加して凝固反応を開始させた。反応は37℃で行った。R2を添加した検体(サンプル溶液)に波長660nmの光を照射し、凝固反応による光学的変化量(散乱光強度変化量)を計測した。計測した凝固反応から凝固時間を求めた。凝固時間測定は、血液凝固自動分析装置CP3000(積水メディカル株式会社製)を用いて行った。対照(基本処方)での凝固時間(APTT)に対する試験試薬での凝固時間(APTT)の変動率(%)を求めた[変動率(%)=(試験試薬でのAPTT)/対照でのAPTT*100]。100%未満の変動率は、凝固時間が短縮したことを表す。
【0051】
結果(変動率の平均値;N=6)を表1~表3に示す。試験試薬によって、FXII欠乏検体の凝固時間が対照と比べて短縮した。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
試験2
1)検体 以下の検体を用いた。

FXII欠乏検体(FXII欠乏症患者由来の検体、N=3)
【0056】
2)APTT測定用試薬
2-1)基本処方
試験1と同じ処方、ただし第1試薬(R1)における硫酸銅5水和物を塩化亜鉛に変更。
【0057】
2-2)試験試薬
・試験試薬4-1:基本処方のR1に、表4に記載の条件にてLIPIDURE(登録商標)-BL205を添加した。LIPIDURE(登録商標)非添加を対照とした。
・試験試薬5-1~5-3:基本処方のR1における塩化亜鉛を表5に記載の金属塩化合物に変更し、さらにLIPIDURE(登録商標)-BL205を添加した。試験試薬4-1を対照とした。
【0058】
2-3)試薬調製及び凝固時間測定
試験1と同様の手順で、R1及びR2を調製、及び凝固時間(APTT)を測定し、対照に対する試験試薬でのAPTTの変動率(%)を求めた。
【0059】
結果(変動率の平均値;N=3)を表4~5に示す。重合体(LIPIDURE(登録商標))と塩化亜鉛の併用により、塩化亜鉛単独と比べて、FXII欠乏検体の凝固時間が対照と比べて短縮した。また塩化亜鉛の代わりに、塩化マンガン(II)4水和物、塩化イットリウム(六水和物)、又は塩化インジウム(III)四水和物を重合体と併用した場合、凝固時間はより短縮した。
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【要約】
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として有する重合体を有効成分とする、活性化部分トロンボプラスチン時間測定における凝固第XII因子欠乏血液検体の血液凝固時間短縮剤。